2024年8月3日土曜日

ラミニンの構造、機能

ラミニンはほとんどの動物の組織にある
結合組織の基盤構造である基底において、
細胞との結合し、土台となる重要な物質です(1)。
物質構成は糖とタンパク質から成る糖たんぱく質です。
ラミニンはα、β、γからなる異種3量体からなり、
生体内で自己組織化することができます。
基底膜として細胞との接合に関わり、
結合する細胞接着分子は基底と結合性を持つ
インテグリン、ジストログリカン(複合体構造)などです。
ジストログリカンからなる複合体構造は
インテグリンのような細胞内シグナルの活性は弱く、
どちらかというと強度の高い節として機能するため、
高い機械的ストレスがかかる骨格筋、平滑筋、心筋などの
筋系組織における連結に関わり、
この場合においてもラミニンは接合部として重要な働きをします。
上述したようにインテグリンと結合した時には
インテグリンは多くのアダプタータンパク質をplaque(斑)として
引き付けるため、結合を通じて多様な細胞内信号経路を誘導します。
従って、インテグリンと結合できるラミニンは
インテグリンとの結合を通じて、メカノトランスダクションを行うほか、
細胞の分化、形、移動、組織の表現型調整など
細胞の基本的な機能と関連があります(1)。
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ラミニンはα鎖、β鎖、γ鎖があって、
直線状に延びるα鎖の周りに螺旋を描くように絡み合いながら
β鎖、γ鎖が形成され、十字架のような構造を形成します。
従って、これらの3量体構造が基本となっています。
(参考文献(2) 図1)
α鎖の末端にC末端構造(Gドメイン)が結合します。
ラミニンのサブタイプは以下のように
5種類α鎖(1-5)、4種類β鎖(1-4)、Ⅲ種類γ鎖(1-3)
これらのそれぞれの鎖のサブタイプの組み合わせによって定義されます。
実際には45種類のサブタイプが存在しえますが、
組み立ての制限によってそれよりも少ない数しか存在しません。
 Laminin-1(EHS laminin    α1β1γ1 Laminin-111)
  Laminin-2(Merosin α2β1γ1 Laminin-211)
  Laminin-3(S-laminin α1β2γ1    Laminin-121)
  Laminin-4(S-merosin α2β2γ1    Laminin-221)
  Laminin-5/Laminin-5A(Kalinin, epiligrin, nicein, ladsin α3Aβ3γ2    Laminin-332 / Laminin-3A32)
  Laminin-5B(α3Bβ3γ2    Laminin-3B32)
  Laminin-6/Laminin-6A(K-laminin α3Aβ1γ1 Laminin-311/Laminin-3A11)
  Laminin-7/Laminin-7A(KS-laminin α3Aβ2γ1 Laminin-321/Laminin-3A21)
  Laminin-8(α4β1γ1 Laminin-411)
  Laminin-9(α4β2γ1 Laminin-421)
  Laminin-10(Drosophila-like laminin α5β1γ1 Laminin-511)
  Laminin-11(α5β2γ1 Laminin-521)
  Laminin-12(α2β1γ3 Laminin-213)
  Laminin-14(α4β2γ3 Laminin-423)
  Laminin-?(α5β2γ2 Laminin-522)※番号の割り当て未
  Laminin-15(α5β2γ3 Laminin-523)
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ラミニンのα鎖、β鎖、γ鎖のサブタイプごとの構造の中で
共通的に形成されるドメインはCoiled-coil(CC)ドメインです。
また、rod-like epidermal growth factor (EGF) repeatsの
繰り返し構造が3-11繰り返しでドメインとして組み込まれ、
それが一つのサブタイプで2-3複数あることがあります。
C末端からN末端にかけてGドメインから
あとはⅠ~Ⅵまでドメインに番号が与えられています。
それぞれのサブタイプで分子量は異なります。
(参考文献(1) Fig.2)
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ラミニンはそれぞれの臓器で異なるサブタイプを持ちます。
特にα鎖に関してサブタイプによって特異的な臓器が存在します。
以下にまとめます。
α鎖のサブタイプと発現臓器
α1
発現臓器: 初期胚、胎児腎臓、神経網膜と脳、腎臓、新生児腎臓
α2
発現臓器: 骨格筋と心筋、末梢神経、毛細血管、胎盤、脳、その他の組織
α3
発現臓器: 皮膚およびその他の上皮
α4
発現臓器: 主に間葉系細胞(成人の筋肉、肺、神経、血管、その他の組織)
α5
発現臓器: 多様な上皮、腎臓、発達中の筋肉と神経、シナプスの基底膜
β鎖のサブタイプと発現臓器
β1
発現臓器: 多くの組織
β2
発現臓器: 神経筋接合部(NMJ)、糸球体
β3
発現臓器: 皮膚およびその他の上皮
γ鎖のサブタイプと発現臓器
γ1
発現臓器: 多くの組織
γ2
発現臓器: 皮膚およびその他の上皮
γ3
発現臓器: 非基底膜分布(神経、上皮、脳)
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α鎖、β鎖、γ鎖のアミノ酸数と分子量です(参考文献(5) Table 1)
(α鎖)
LAMA1(α1鎖)
アミノ酸数: 3,075
分子量: 337,084
LAMA2(α2鎖)
アミノ酸数: 3,122
分子量: 343,905
LAMA3(α3鎖)
α3A
アミノ酸数: 1,713
分子量: 189,335
α3B
アミノ酸数: 3,333
分子量: 366,649
LAMA4(α4鎖)
アミノ酸数: 1,823
分子量: 202,524
LAMA5(α5鎖)
アミノ酸数: 3,695
分子量: 399,737
(β鎖)
LAMB1(β1鎖)
アミノ酸数: 1,786
分子量: 198,038
LAMB2(β2鎖)
アミノ酸数: 1,798
分子量: 195,981
LAMB3(β3鎖)
アミノ酸数: 1,172
分子量: 129,572
LAMB4(β4鎖)
アミノ酸数: 1,161
分子量: 193,540
(γ鎖)
LAMC1(γ1鎖)
アミノ酸数: 1,609
分子量: 177,603
LAMC2(γ2鎖)
アミノ酸数: 1,193
分子量: 130,976
LAMC3(γ3鎖)
アミノ酸数: 1,575
分子量: 171,227
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ラミニンと結合できるタンパク質とインテグリン型と
インテグリンの型の発現が見られる細胞種をまとめました。
Laminin-1 (α1β1γ1)
結合タンパク質: インテグリンα1β1, α2β1, α6β1, α6β4, α7β1; ジストログリカン; LAR受容体ホスファターゼ; ヘパラン硫酸; スルファチド
インテグリンα1β1: 線維芽細胞、平滑筋細胞、上皮細胞
インテグリンα2β1: 骨芽細胞、平滑筋細胞、神経細胞
インテグリンα6β1: 神経細胞、上皮細胞、筋細胞
インテグリンα6β4: 上皮細胞、基底膜
インテグリンα7β1: 筋細胞、骨格筋
Laminin-2 (α2β1γ1)
結合タンパク質: インテグリンα1β1, α2β1, α3β1, α6β1, α6β4, α7β1; ジストログリカン; ヘパラン硫酸
インテグリンα1β1: 線維芽細胞、平滑筋細胞、上皮細胞
インテグリンα2β1: 骨芽細胞、平滑筋細胞、神経細胞
インテグリンα3β1: 上皮細胞、ケラチノサイト、線維芽細胞
インテグリンα6β1: 神経細胞、上皮細胞、筋細胞
インテグリンα6β4: 上皮細胞、基底膜
インテグリンα7β1: 筋細胞、骨格筋
Laminin-3 (α1β2γ1)
結合タンパク質: 不明
インテグリン: 不明
Laminin-4 (α2β2γ1)
結合タンパク質: Laminin-2と同様と推定
インテグリン: Laminin-2と同様と推定
Laminin-5 (α3Aβ3γ2)
結合タンパク質: インテグリンα3β1, α6β4, α6β1
インテグリンα3β1: 上皮細胞、ケラチノサイト、線維芽細胞
インテグリンα6β4: 上皮細胞、基底膜
インテグリンα6β1: 神経細胞、上皮細胞、筋細胞
Laminin-6 (α3Aβ1γ1)
結合タンパク質: 不明
インテグリン: 不明
Laminin-7 (α3Aβ2γ1)
結合タンパク質: 不明
インテグリン: 不明
Laminin-8 (α4β1γ1)
結合タンパク質: インテグリンα6β1
インテグリンα6β1: 神経細胞、上皮細胞、筋細胞
Laminin-9 (α4β2γ1)
結合タンパク質: 不明
インテグリン: 不明
Laminin-10 (α5β1γ1)
結合タンパク質: インテグリンα3β1, α6β1
インテグリンα3β1: 上皮細胞、ケラチノサイト、線維芽細胞
インテグリンα6β1: 神経細胞、上皮細胞、筋細胞
Laminin-11 (α5β2γ1)
結合タンパク質: インテグリンα3β1, α6β1
インテグリンα3β1: 上皮細胞、ケラチノサイト、線維芽細胞
インテグリンα6β1: 神経細胞、上皮細胞、筋細胞
Laminin-12 (α2β1γ3)
結合タンパク質: 不明
インテグリン: 不明
(参考文献(1) Table 2)
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ラミニンのサブタイプに対して分泌する細胞種を挙げます。
Laminin-1 (α1β1γ1)
分泌細胞種:
線維芽細胞(Fibroblasts)
神経細胞(Neurons)
腎臓のメサンギウム細胞(Mesangial cells of the kidney)
Laminin-2 (α2β1γ1)
分泌細胞種:
線維芽細胞(Fibroblasts)
筋細胞(Muscle cells)
Schwann細胞(Schwann cells)
神経細胞(Neurons)
星状細胞(Astrocytes)
膀胱の平滑筋細胞(Smooth muscle cells of the bladder)
Laminin-3 (α1β2γ1)
分泌細胞種:
不明
Laminin-4 (α2β2γ1)
分泌細胞種:
筋細胞(Muscle cells)
膀胱の平滑筋細胞(Smooth muscle cells of the bladder)
Laminin-5 (α3Aβ3γ2)
分泌細胞種:
上皮細胞(Epithelial cells)
Laminin-6 (α3Aβ1γ1)
分泌細胞種:
不明
Laminin-7 (α3Aβ2γ1)
分泌細胞種:
不明
Laminin-8 (α4β1γ1)
分泌細胞種:
内皮細胞(Endothelial cells)
Laminin-9 (α4β2γ1)
分泌細胞種:
不明
Laminin-10 (α5β1γ1)
分泌細胞種:
上皮細胞(Epithelial cells)
内皮細胞(Endothelial cells)
星状細胞(Astrocytes)
Laminin-11 (α5β2γ1)
分泌細胞種:
Schwann細胞(Schwann cells)
腎臓のメサンギウム細胞(Mesangial cells of the kidney)
Laminin-12 (α2β1γ3)
分泌細胞種:
不明
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ラミニンは基質と結合できるインテグリンを代表とした
細胞接着分子と結合性を持ちます。
ジストログリカン複合体とも結合し、
筋系細胞と細胞外マトリックスをつなぎ、
機械的特性の伝達、連携の為重要な役割を担います。
Hakan Tarakci(敬称略)らがFigure 1に示すように(3)
その時に関与するドメインはC末端のGドメインです。
インテグリンと結合する際にも
このドメインが結合に関与します。
(参考文献(4) Fig.6)
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ラミニンは細胞外マトリックスの基質に発現され、
主にインテグリンを通した細胞との接着に関与します。
従って、繊維構造の中でも細胞との接着を担う
フィブロネクチンと結合性を持ちます。
一方で、弾性を担うエラスチン、フィブリリン弾性繊維との
結合に関するエビデンスは多くなく、関与しない可能性があります。
従って、エラスチン、フィブリリン弾性繊維を
基底組織の中で細胞と馴染ませるためには
別途、細胞との接合に関わるフィブロネクチンなどの繊維構造や
その結合に直接的に関わるラミニンを合成して構造の中に入れ込む
必要があるかもしれません。
ラミニンと結合性をもつ細胞外マトリックスは
コラーゲン、エンタクチン、ヘパラン硫酸プロテオグリカンなどです。
ラミニンは細胞と結合するときには
HOLLY COLOGNATO(敬称略)らがFig.1に示すように(1)
β鎖、γ鎖のNターミナルドメインがヘテロ結合して
複合体化して、細胞接着分子と細胞外マトリックスの連結性を高めています。
この複合体化は皮質の細胞骨格との連携性を高めますが、
複合体化するためには膜上で受容体が集まる必要があります。
こうした動きはラミニンとインテグリンの結合によって
誘導されるメカニズムもあります(1)。
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ラミニンは細胞種、組織特異的な分布を取ります。
具体的にどのように結合特異性を持っているかは不明ですが、
α鎖のC末端が結合に関わっている事は証明されています(1)。
しかし、α鎖は5種類しかサブタイプがないため、
このバリエーションでは組織特異性を実現する事は難しいため、
β鎖、γ鎖も結合特性に関わっている可能性もあるし、
結合ドメインであるGドメインの構造も柔軟に変わるかもしれません。
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基底膜を構成するコラーゲン(Ⅳ)、ベルミカン、ヘパラン硫酸、
あるいはラミニンは半減期は最大で数か月程度と
比較的頻繁に代謝回転されます。
皮膚の結合組織の細胞は入れ替わる、
基底膜と結合するインテグリンも頻繁に代謝回転される、
損傷による創傷治癒や炎症ストレスなどへの変化の対応から、
長い間固定的ではなく、入れ替わる特質があります。
一方で、何十年も分解されない
エラスチン、フィブリリンの弾性繊維は
大動脈、肺、心臓、骨格筋など激しく動く組織の
機械的な恒常性を支えるために長く存在する必要があります。
心臓血管、呼吸器は数分の機能不全でも命に関わるからです。
従って、頻繁に分解が起こって機械的性質が揺らぐと
生命維持に関わるため、構造が安定していると考えられます。
この弾性繊維は組織内に「分散して」存在するとされています。
従って、この弾性繊維を主成分とする連続した膜である
シート状の組織を外科的に貼りつける場合には
そういった状態が体の中に自然に存在しないため、
どういった副作用があるかは
少なくとも動物などで実験してみないとわかりません。
人のケースでもどういったことが生じるかも未知です。
例えば、シート状の組織を貼り付けるにしても、
ヒアルロン酸など比較的すぐに分解され、
組織と馴染みやすい材料をベースとして形成し、
弾性繊維はある程度斑に含ませておいて、
分散した様式で、臓器になじむようにしておくという事も考えられます。
こうしたヒドロゲルをベースとして、
局在化、分散化したある程度断片化された弾性組織は
トポロジカルな機械的特性を得るためにも重要かもしれません。


(参考文献)
(1)
HOLLY COLOGNATO AND PETER D. YURCHENCO
Form and Function: The Laminin Family of Heterotrimers
DEVELOPMENTAL DYNAMICS 218:213–234 (2000)
(2)
ラミニン:Wikipedia
(3)
Hakan Tarakci, Joachim Berger
The sarcoglycan complex in skeletal muscle
Frontiers in Bioscience, Landmark, 21, 744-756, January 1, 2016
(4)
Takao Arimori, Naoyuki Miyazaki, Emiko Mihara, Mamoru Takizawa, Yukimasa Taniguchi, Carlos Cabañas, Kiyotoshi Sekiguchi & Junichi Takagi
Structural mechanism of laminin recognition by integrin
Nature Communications volume 12, Article number: 4012 (2021) 
(5)
Monique Aumailley
The laminin family
Cell Adh Migr. 2013 Jan 1; 7(1): 48–55.

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