新型コロナウィルスの後遺症で顕在化したように
特定の疾患に罹って、状態が落ち着き、
急性期を抜けて、退院が可能になったとしても
症状が完全には抜けなくて
定期的に診察を含めた治療を受ける必要がある場合があります。
重い疾患の場合には、
現在の医療では完治が難しく、
若い頃に罹患したのであれば、
その後、何十年もその病気と付き合っていく必要があります。
そのような急性期を抜けて、
慢性期の患者さんの治療、生活を含めて
サポートしていこうというのが
「サバイバーシップ」です。
このサバイバーシップは
がんに罹患した人に対しては
他の疾患に比べて進んでいると理解しています。
その中でがんサバイバーシップの指針は
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がんの診断を受けた人々がその後の生活で抱える
身体的、心理的、社会的な課題を
「社会全体が協力して」乗り越えていく
という概念です。
言い換えれば、課題が
身体的、心理的、社会的な側面があるため
様々な方面からサポートしていく必要がある
ということです。
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身体的というのは
罹患時、治療したい際に負ったダメージを管理していく
ことが一つだと考えられます。
社会的というのは
同じように病を持つ人との交流であったり、
小児がんであれば、
治療薬の普及を推進している団体との
交流もあるかもしれません。
このような積極的な活動は
心理的にも良い意味で波及する可能性があります。
そのような人との関係性だけではなく、
就労を通じた収入、経済的な面もあります。
他の障がいも含めて
包摂的、インクルーシブな社会形成もあります。
誰しも、その病気になりたくてなったわけではないですから、
社会の中で生かせる個性というのを
様々な支援者と共に探していくという事は
経済的な面でも大切になると思います。
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この新型コロナウィルスのデルタ株の流行時に
軽傷ですが、罹患してしまった
高校生の日本女性がいました。
その女性はバレーボールをしていましたが、
症状が完全に抜けず、重い後遺症に罹ってしまいました。
結局、上手で才能のあるバレーボールを諦めて
家でも授業が受けられる通信制の高校に通うことになりました。
その時にお世話になった神奈川県川崎市の大学病院の
後遺症外来の先生だけではなく、終わった後、
看護師さんがいつも話をしながらケアしてくれました。
手紙をもらう事もあったそうです。
その女性は良かったことに1年で後遺症が
ほとんどなくなり、また日常生活を取り戻しました。
その時に親切にしてもらったこともあり
人の話を聞くような
医療カウンセラーの仕事に就きたいと思ったそうです。
このような事は他の人でもあると思います。
つまり、病気に罹ったからこそわかる感覚です。
小児がんに罹患してしまったら、
あるいは
若いうちに精神疾患に罹ってしまったら、
逆に同じような病気に罹った人に対して
相談があった時の対応は実感があるだけに
変わったものになると思います。
その様な事があるので、
運悪く病気に罹っても、
社会で活躍できる場はあると思います。
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また、そのように社会の中に
自分の居場所があることで心理的な充実も
生まれてくると思います。
上述した心理的というのは
身体的、社会的の一つの土台となるものです。
実際に小児がんの治療が終わった後の
0.5年から9.5年の追跡調査で
おおよそ68%の人が積極的なライフスタイルの
改善を行っているといわれています(2)。
この中には
サプリメントや食事の改変、
(適度な)運動なども含まれます。
このような食と運動の好ましい介入は
その人の身体を強くするものですが、
心理的に健康でないと継続的な実施が難しいものです。
従って、
新型コロナウィルスの後遺症外来で
継続的に行われている様に
患者さんの心理的なサポートを行っていく事が
後遺症のある疾患に罹患してしまった場合においては
必要になると考えられます。
医療、薬学が発展して、
様々な疾患が今よりも治せるようになったら
同時に後遺症のケアについても考える必要性が
今までよりも多く出てくると思います。
--
小児がんのサバイバーは
診断から治療まで大きなストレスに直面することになります。
〇治療に対する嫌悪感
〇痛みを伴う治療((抗がん剤の副作用など)
〇不確かな予後
〇助かるかどうかの不安
〇見た目の変化
これらなどが挙げられています(3,4)。
小児は体と心の成長期であるため
その時期にがんに罹患すると
急性期、慢性期にかかる長期的なストレス
による心理的な影響や
身体や心(感情)の発達にも影響を与える可能性があります(5)。
実際に癌ではない兄弟に比べて、
心的外傷後ストレス障がい(PTSD)に発展するリスクが
高まり、治療後の数年間で20%になる
という統計もあります(6,7)。
それは物理的な治療も関係しています。
4歳以下の若い時期に放射線治療を受けると
治療に関連するPTSDのリスクが
高まるという報告もあります(8)。
--
Donghao Lu(敬称略)ら医療研究グループは
PDSDに関する臨床的な特徴の一覧を示しています(1)。
その他の研究では
小児がん治療後において
女性、未婚、社会経済的地位が低い事が
PTSDに罹りやすい要因となっているとされています(8,9)。
一方で
Donghao Lu(敬称略)らは
1970年から1999年の間に
アメリカとカナダ、31か所で行われた
Childhood Cancer Survivor Study (CCSS)で
3984人の小児がんサバイバーに対しての
PTSDのコホート分析(10)と
1962年から2012年の間に
St.Jude Children's Research Hospitalで行われた
St. Jude Lifetime Cohort Study (SJLIFE)での
1467人の小児がんサバイバーに対しての
PTSDのコホート分析(11)を
それぞれ紹介しています(1)。
(インタビューは30歳±8歳程度)
それらを俯瞰的に評価すると
確かに今までの傾向通り女性がやや高い
割合となっています(17.9 vs 15.7 / 12.4 vs 9.8%)。
他の癌のタイプ、化学療法、放射線療法に関しては
両者のコホート分析の結果が一致せず、
結論付けるのが難しい結果となっています。
それよりも
教育(中高卒、大学、大学院)になるにつれて
PTSDに罹患している割合が減っています。
これは両コホート共に一致した傾向になっています。
就業しているかどうかも重要です。
それと関係しますが、年収も関連します。
年間2万ドルを下回ると
平均よりもPTSDの割合が増えます。
最も注目に値すると考えられるのが
結婚の関係です。
単身か結婚かというのは
両コホートで異なる結果になっていますが、
パートナーと死別、離婚、別居の人は
単身、結婚よりもPTSDの割合が高くなっています。
運動も関係があります。
活発に身体活動している方が
PTSDの割合が少なくなっています。
--
この結果から考察してみます。
PTSDは
死の危険に直面した後、
その体験の記憶が自分の意志とは関係なく
フラッシュバックのように思い出されたり、
悪夢に見たりすることが続き、
不安や緊張が高まったり、辛さのあまり
現実感がなくなったりする状態といわれています。
このPTSDの発症がいつからかに依りますが、
おそらく小児がんの治療後、
PTSDに罹患してしまうと、
学業、就業、運動において
少なくとも多少の障がいはあると思います。
そうした中で、
割合として傾向が現れていると考えることもできます。
より重要なのは
結婚相手と死別、離婚、別居した場合で
顕著に高くなっていることです。
PTSDに罹った状態とPTSDに事象の後生じた
場合では大きくとらえ方が変わるのですが、
もし、死別、離婚、別居などの後
PTSDに罹っているケースがあるとするならば、
最愛であったり、身近で心の支えになってくれた人を
失った事が発症や病気を悪化させている
原因になっている可能性があります。
あるいは、病気の理解が十分ではなく、
上手く関係を築けなかったことも関係しているかもしれません。
この点に関しては
結婚前後でどうだったのか?
事象が発生した後、PTSDの重症度は変わっているのか?
そうしたデータを見る事で
よりこの問題が明らかになると思います。
--
一方、
Donghao Lu(敬称略)らは
ゲノムワイド関連解析(GWAS)で
小児がんサバイバーの中でPTSDに関連が深い
2つ遺伝子を抽出しています。
それについて簡潔に触れます。
-
Locus ECHS1 rs34713356 ECHS OR 1.57 P=1.36e-8
この遺伝子は
ミトコンドリア脂肪酸β酸化に関与し、
多くの代謝経路に関わります。
この遺伝子が乱されることで
精神運動性に関わるリー脳症や
他の精神疾患とリンクすると言われています(12-14)。
このようなミトコンドリアの不全は
異常な恐怖学習や脳の結合の活性化
ステロイド産生、炎症に関わるかもしれません(15)。
-
Locus 6q24.3-q25.1 rs9390543 SASH1 OR 0.75 P=3.56e-6
これはPTSDと向炎症性状態と免疫不均衡に
関わっている可能性があります(16)。
↓
このような関連遺伝子の統計的な分析は
小児がんサバイバーのPTSDの治療、予防に
つながるかもしれません。
//考察//ーー
小児がんの治療において、
治療の痛みであったり、
症例が十分でない事による不確定性であったり、
治療、もしくは治療後に生じうる見た目の変化であったり
様々な課題があります。
小児がんは遺伝子的に異種性があり(16)、
それに合わせた個別の治療において
カバーできるかどうかの課題はありますが
分子標的の薬剤に加えて
標的化技術が向上してくれば、
1つフェーズが変わってくると考えられます。
細胞外小胞、合成ナノ粒子、ウィルスベクター、
ジェル、細胞などの輸送媒体で
脳を含めた人への送達が安全かつ特異的に
できるようになると
治療戦略の幅も変わってくると考えられます。
標的化と病態に合わせた薬剤の両輪が
回るようになると、
患児(お子さん)の身体の負担も変わってくると思います。
その中で、治療中、治療後に生じる
心的外傷後ストレス障がい(PTSD)などを含めた
様々な心の病(精神疾患)、
身体的な健康状態、社会的な能力も
改善、向上する可能性があります。
(参考文献)
(1)
Donghao Lu, Yadav Sapkota, Unnur A. Valdimarsdóttir, Karestan C. Koenen, Nan Li, Wendy M. Leisenring, Todd Gibson, Carmen L. Wilson, Leslie L. Robison, Melissa M. Hudson, Gregory T. Armstrong, Kevin R. Krull, Yutaka Yasui, Smita Bhatia & Christopher J. Recklitis
Genome-wide association study of posttraumatic stress disorder among childhood cancer survivors: results from the Childhood Cancer Survivor Study and the St. Jude Lifetime Cohort
Translational Psychiatry volume 12, Article number: 342 (2022)
(2)
J Karlik, Y Bao, B Cheng, S Lees, D Ndao, E Ladas & K Kelly
P04.40. Lifestyle therapy use in pediatric cancer survivors
BMC Complementary and Alternative Medicine volume 12, Article number: P310 (2012)
(3)
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Stark DP, House A. Anxiety in cancer patients. Br J Cancer. 2000;83:1261 – 7.
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(6)
Michel G, François C, Harju E, Dehler S, Roser K. The long-term impact of cancer:
evaluating psychological distress in adolescent and young adult cancer survivors
in Switzerland. Psychooncology. 2019;28:577 – 85.
(7)
Zeltzer LK, Recklitis C, Buchbinder D, Zebrack B, Casillas J, Tsao JC, et al. Psy-
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Cancer Survivor Study. J Clin Oncol. 2009;27:2396 – 404.
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childhood cancer. Pediatrics. 2010;125:e1124 – 34.
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Robison LL, Armstrong GT, Boice JD, Chow EJ, Davies SM, Donaldson SS, et al. The
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Satogami K, Takahashi S, Kose A, Shinosaki K. Schizophrenia-like symptoms in a
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Mnif L, Sellami R, Masmoudi J. Schizophrenia and Leigh syndrome, a simple
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2018;41:585 – 96.
(16)
E. Alejandro Sweet-Cordero, and Jaclyn A. Biegel
The genomic landscape of pediatric cancers: Implications for diagnosis and treatment
Science. 2019 Mar 15; 363(6432): 1170–1175.
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