2022年10月28日金曜日

転移性乳がん細胞の骨芽細胞に対する異常な細胞突起と細胞生物学、治療機会

身体の中で癌細胞、微小環境が成長し、
腫瘍組織を形成した時に、
それが一か所に固まって存在すると
外科における切除や
その他、光による治療など
様々な治療戦略を取ることができると考えられます。
しかし、癌細胞が移動して、つまり転移して、
原発腫瘍から離れた組織で散在するようになると
治療が大幅に難しくなると理解しています。
実際に固形がんで亡くなる人のうち
転移性のがんは66.7%、
つまり3人に2人は転移によって
命を落としていることになります(2)*。
従って、
転移の機序を理解する事は
癌治療を大幅に改善させる上で必須項目です。
--
ある任意の場所に成長した癌細胞は
十分な基底形質を持ち組織として形成しています。
例えば、
上皮組織の一部として、常在性の
腫瘍組織が形成されています。
そこから転移するためには
組織常在型の表現型から
移動性の高い表現型へ改変する必要があります。
それが、
「上皮間葉転換」と呼ばれます。
癌細胞が間葉様となると基底の形質の多くを失い、
(但し、一部は残る)、
アスペクト比の大きな点対称性から大きく逸脱した
形状になります(3)。
いわば、細長くなることで、
間質や血管壁などを巧みにすり抜ける形質を獲得し、
循環器を通して、臓器走化性をもって
その特定の臓器の組織に転移します。
しかしながら、
少なくとも乳がんのケースにおいて
癌細胞の集合体の組織が表現型改変を生じ、
転移性を獲得する際には、
上述したような基底様、
つまり、細胞接着性を完全に失うことなく
集合体として移動することがあります(3)。
("Collective migraiton")。
これは癌細胞がEカドヘリンと呼ばれる
接着性の表面リガンドを残していることに関係します(4)。
おそらく、
原発腫瘍などで組織常在型の癌細胞は
このような接着性の表面リガンドの分布に
大きな偏りがないと考えられますが、
転移性を獲得し、アスペクト比が大きく
形状の柔軟性の高い間葉様の癌細胞は
上述したような
カドヘリン、インテグリンのような
吸着性のある表面リガンドや
下述するようなギャップ接合に関わる
表面リガンドを
局在化させているのではないか?
と推定しました。
その局在化している部分は
転移性癌細胞の突起部の頂点ではないか?
それによって、
Aaron M. Muscarella(敬称略)らが
提唱している"migration-by-tethering"(1)、
つまり、細長い突起部が足のように
組織に結合し、その足で歩くように
癌細胞が移動していくイメージです。
従って、例えば、
腫瘍組織の微小環境である
癌関連線維芽細胞(CAFs)が
転移性癌細胞の移動を誘発しています(4)。
この時に、癌関連繊維芽細胞では
その癌細胞の突起部(足)の着地点として
Nカドヘリンが発現されています(4)。
その時に
癌細胞は細胞突起を作りますが、
Aaron M. Muscarella(敬称略)らは
乳がん細胞が骨へ転移する際に
骨芽細胞に対して、
「異常に高いアスペクト比(長い足)」の突起、
言い換えれば、
神経細胞のような
「樹状枝構造(dendritic spine-like structure)」
を作り、乳がん細胞が
骨へ転移するために骨芽細胞に結合する
ことを示しています。
(参考文献(1) Fig.2参照)
では、なぜ、このような事が起こるのか?
血管周囲では基本的に
循環している播種性癌細胞(DTCs)は
機能が眠っている(Dormancy)と言われています(5,6)。
しかし、骨形成ニッチでは
増殖や初期のコロニー形成を促す
とされています(7-9)。
このきっかけとなるのがカドヘリンなどの
接着性の表面リガントです(7)。
おそらく、一般的に
間葉性の癌細胞は基底形質が下がっているので
カドヘリンを集める必要があると考えています。
その時にどこに集まるか?
というとおそらく細胞突起部です。
骨に対しては異常なアスペクト比で
細胞突起が形成する事が
乳がんが骨へ転移しやすいきっかけとなる機序ではないか?
このように考えました。
そうすると
そのような突起を形成するために
細胞膜を動かすのはどういった機序によるのか?
という疑問が萌芽します。
今のところ確かな証拠はありませんが、
1つ関心があるのが、細胞外小胞です。
神経細胞のスパイン形成が一つヒントになると思いますが、
その発展の制御が
エクソソームのような小さな
細胞外小胞によって行われている
という報告もあります(10)。
また、
細胞突起から細胞外小胞の放出が
行われるという証拠についても示されています(11)。
アスペクト比は異なりますが、
骨芽細胞と乳がん細胞の結合の中で
乳がん細胞は非常に長い樹状突起を形成している
一方で、
骨芽細胞も突出しています。
従って、両者の
突起由来の細胞外小胞の交換はあるかもしれません。
その情報交換を元に、
乳がん細胞は特異的な突起を形成している
可能性があります。

//治療に向けた考察//ーー
もし、突起が播種性癌細胞、間葉様癌細胞の
移動性の一つの重要な機序となっているとしたら、
その突起のカドヘリンのような吸着リガンドを
抑制する、アンタゴナイズする薬剤が
転移を抑制する上で重要かもしれません。
その時に一つのアイデアとして
細胞外小胞、合成ナノ粒子、ジェルなど
薬剤を送達できる媒体において、
表面リガンドを
カドヘリンなど吸着性リガンドに対して
抑制性を持つもので装飾し、
それで特異的輸送を実現し、
同時にナノ粒子内に抗癌性のある薬剤を送達させ
癌細胞や周辺の腫瘍組織を死滅、無機能化させます。
それによって並列的な治療を行うことができます。
カドヘリンというのは
一般的に広く分布している
吸着型の表面リガンドなので、
転移性、播種性の癌細胞の突起部に特徴的に見られる
構造がもしあれば、そこに大きな治療機会が与えられます。
しかしながら、
本当に転移性の癌細胞が
突起を足のように移動に使っているかは
その仮説の元、検証が必要です。
一方で、
転移性乳がん細胞においては骨芽細胞に対して
異常な細胞突起を形成していることは
少なくとも示されています(1)。
--
あるいは突起形成を抑えるような薬剤も
対象となります。
そのためには上述した細胞外小胞の機能も含めて
どの様な機序で突起形成が生じているか?
ということを掌握する必要があります。

(参考文献)
(1)
Aaron M. Muscarella, Wei Dai, Patrick G. Mitchell, Weijie Zhang, Hai Wang, Luyu Jia, Fabio Stossi, Michael A. Mancini, Wah Chiu & Xiang H.-F. Zhang
Unique cellular protrusions mediate breast cancer cell migration by tethering to osteogenic cells
npj Breast Cancer volume 6, Article number: 42 (2020) 
(2)
Hanna Dillekås, Michael S. Rogers, and Oddbjørn Straume
Are 90% of deaths from cancer caused by metastases?
Cancer Med. 2019 Sep; 8(12): 5574–5576.
(3)
Cheung, K. J., Gabrielson, E., Werb, Z. & Ewald, A. J. Collective invasion in breast
cancer requires a conserved basal epithelial program. Cell. https://doi.org/
10.1016/j.cell.2013.11.029 (2013).
(4)
Labernadie, A. et al. A mechanically active heterotypic E-cadherin/N-cadherin
adhesion enables fi broblasts to drive cancer cell invasion. Nat. Cell Biol. https://
doi.org/10.1038/ncb3478 (2017).
(5)
Ghajar, C. M. et al. The perivascular niche regulates breast tumour dormancy. Nat.
Cell Biol. https://doi.org/10.1038/ncb2767 (2013).
(6)
Price, T. T. et al. Dormant breast cancer micrometastases reside in speci fi c bone
marrow niches that regulate their transit to and from bone. Sci. Transl. Med. 8,
340ra73 (2016).
(7)
Wang, H. et al. The osteogenic niche promotes early-stage bone colonization of
disseminated breast cancer cells. Cancer Cell. 27, 193 – 210 (2015).
(8)
Wang, H. et al. The osteogenic niche is a calcium reservoir of bone micro-
metastases and confers unexpected therapeutic vulnerability. Cancer Cell 34,
1 – 17 (2018).
(9)
Zheng, H. et al. Therapeutic antibody targeting tumor- and osteoblastic niche-
derived jagged1 sensitizes bone metastasis to chemotherapy. Cancer Cell 32,
731 – 747.e6 (2017).
(10)
Longbo Zhang, Tiffany V. Lin, Qianying Yuan, Remy Sadoul, TuKiet T. Lam and Angélique Bordey
Small Extracellular Vesicles Control Dendritic Spine Development through Regulation of HDAC2 Signaling
Journal of Neuroscience 28 April 2021, 41 (17) 3799-3807;
(11)
Gisela D’Angelo, Graça Raposo, Tamako Nishimura & Shiro Suetsugu
Protrusion-derived vesicles: new subtype of EVs?
Nature Reviews Molecular Cell Biology (2022)

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