2022年10月11日火曜日

細胞外小胞のバイオマーカーとしての可能性

細胞外小胞は現時点では
治療への応用よりも先にバイオマーカーとして
利用する事が想定されています。
細胞外小胞をバイオマーカーの媒体として
利用する事で従来よりも感度が上がったり、
場合によっては、
その病気の遺伝子的な詳しいサブタイプまで
診断できる可能性があります。
様々な疾患の治療において
その疾患の遺伝子的な形質は一定ではおそらくありません。
例えば、
有効な抗がん剤や免疫治療を行って
癌治療をした際、
初めの15カ月くらいで一定の奏功が診られたとしても
そこからまた再発する事があります。
その再発した癌は
初発の癌と遺伝子的な形質が同じとは限りません。
なぜなら、癌は複雑な進化を遂げる可能性があるからです。
そうした時に非侵襲で、癌の詳細な検査を
細胞外小胞を使って分析することができれば、
変化にとんだ複雑な進行の中においても
適切にトレースしながら
最適の治療をその都度選んでいく事ができる可能性があります。
細胞外小胞をバイオマーカーとして使うのであれば、
細胞外小胞が有している情報を
最大限活用することが重要です。
それは内容物である核酸、タンパク質、脂質だけではなく
膜貫通タンパク質(表面リガンド)や
リン脂質2重層の構成、形状、大きさなども含みます。
それによって上述したように
継続的な精密医療に貢献する可能性があると想定しています。
そういった観点も含めると
細胞外小胞をバイオマーカーに利用するという
現在の流れは非常に適したものであると考えられます。
--
Nobuyoshi Kosaka(敬称略)ら医療研究グループは
細胞外小胞の臨床応用の中で
バイオマーカーを含めた診断への利用可能性について
総括しています(1)。
本日は要約、背景、定義について参照し、
適宜、追記、考察を加えました。
その内容を読者の方と情報共有したいと思います。

//要約//ーー
液体生検は現在の医療的な問題の解決のためには
欠かすことができません。
新しい薬剤を発展させるコストや
薬剤に対する患者さんの反応の予測のためには
それが当てはまります。
液体生検の為の技術だけではなく、
バイオマーカーのための標的分子を発見する必要があります。
細胞外小胞は、
被膜結合タンパク質(表面リガンド)を含め
小胞内外に様々なタンパク質を含みます。
また、
mRNAやlong/shortノンコードRNAを含め
様々なRNAを含みます。
これらは液体生検による標的分子として
理想的であるとみなされています。
これらの複雑な生体分子は脂質2重層によって被覆され
それらを劣化から守っています。

//背景//ーー
初期ステージで癌を検出するために
臨床医は患者さんの病歴、検査データ、外科手術歴、痕など
様々なデータを取得して、診断に役立てています。
癌の早期発見は癌の患者さんの治療に伴う
身体への負担を減らすために重要です。
早期発見は患者さんの生存率を高めます。
理想的な診断方法は
正確に、かつ非侵襲で癌を検出する事です。
血液、尿、脳脊髄液、涙、唾液などの
生体液サンプルは癌の検出において
上述した非侵襲性を満たすため
標的分子を正確に検出できれば、
理想的な検出媒体であると考えることができます。
〇腺がんのためのがん胎児性抗原
〇様々な扁平上皮がんのためのその抗原
〇肝細胞がんのためのビタミンKアンタゴニスト2の欠乏のために
 誘発されたタンパク質
〇卵黄嚢腫瘍と肝細胞がんのためのαフェトプロテイン
〇卵巣がんのための癌抗原125
〇前立腺がんのための特異的な抗原
これらは今列挙した特定の癌のバイオマーカーです。
しかしながら、
これらのマーカーの特異性は低く
偽陽性、偽陰性が診断の際に生じる事があります(2-6)。
これらのバイオマーカーは特定の患者さんには
有効ですが、特に早期診断において
一般的には有効ではないと考えられています。
これらの理由から
新手の有効な診断方法を開発する必要があります。
新しい診断方法を発達させるために
近年の研究では細胞外小胞に焦点を当てています(7-11)。
細胞外小胞の鍵となる特徴は
様々な体液の中で見つける事ができます。
細胞外小胞は膜貫通タンパク質、表面リガンドを含む
(リン)脂質2重層があり、
バイオマーカーとなり得るRNA,タンパク質、脂質などの
生体物質はそれらに覆われています。

これらの核酸(DNAs,RNAs)、タンパク質、脂質は
病変部位で明らかに正常から逸脱した
特異的な物質が含まれています。
例えば、
癌細胞で特定のmiRNAsが非常に多くなっている
ケースがあります。
そうした場合、全身性の血液であっても
それらの量が反映した情報が
細胞外小胞より得られることがあります。
それを正常な人と比較し、カットオフを設けることで
特定の疾患を診断する事ができる可能性があります。
この時に、例えば、肝細胞がんであれば、
肝細胞由来の細胞外小胞だけを
ソート、仕分けて、
その細胞外小胞だけで分析すれば、
その感受性、感度は上がる可能性がります。
また肝細胞がん由来の細胞外小胞を仕分けできれば、
それそのものによる診断だけではなく、
その癌の形質、サブタイプまで診断できる可能性があります。
そうした場合、コホート研究における
標準群との比較において
その規模を小さくしても、
診断の正確性が一定以上得られる可能性があります。
もし、こういったことが当てはまるのであれば、
高齢の人が多く罹患する病気ではなく
新生児、小児、青年など若い人が罹る疾患や
非常に稀に生じる希少疾患においても
細胞外小胞を使ったバイオマーカーによる
診断ができる可能性があります。
また、アルツハイマー病、パーキンソン病など
非常に長い期間かけて進行していく疾患においても
まだ症状がほとんど現れていない初期から
その兆候を見つけ出すことができる可能性があります。
脳の疾患は生理学的に進行を抑え、
原因を取り除いたとしても
おそらくリハビリテーションが必要であり、
現時点で進行した状態から健康な状態に戻すのが
非常に難しい疾患群の一つです。
もし、10年、20年前からその兆候がわかれば、
そこから対処できる選択肢も多くあると考えられます。
このような観点で考えると
癌の早期発見だけではなく、
神経変性疾患、脳疾患における
高感度なバイオマーカー診断技術の確立は
人々の健康な生活に貢献できる可能性があります。
但し、一方で考えないといけないのが
非常に診断感度があがると、
身体を守る免疫系などとのバランスの中で、
そのまま病気が進行しない状態のものも
陽性として拾ってしまう可能性もあります。
あるいは
10年、20年先の事でも
リスクがあると診断されることで余計な
精神的ストレス、不安につながる事も考えられます。
高感度なバイオマーカーにおいては
診断に伴う心のケアも考える必要が
少なくともあると認識しています。

//細胞外小胞の定義//ーー
生体を資源とする小胞は非常に複雑です。
細胞外小胞は
〇エクソソーム
〇マイクロベシクル
〇アポトーシス小体
〇オンコサムなど他の小胞
これらなど複数のサブタイプを持ち、
現在の利用可能な技術によって
小さな小胞を区別することは難しいとされます。
一般的には仕分けの際は
超高速遠心分離機などが使われることがあります。
これらの小胞のサブタイプを
識別する一致したバイオマーカーは存在しません。
例えば、エクソソームで有れば、
インテグリンやテトラスパニンなどが
マーカーとして使われることがありますが、
これらは同様に他のサブタイプの小胞にも
含まれている可能性があります。
つまり、排他的、特異的なバイオマーカーは
存在しないという事です。
そういった中で、小胞の大きさが一つ
判断基準になる可能性がありますが、
マイクロベシクルとエクソソームが
大きさの面で重複する領域もあります。
--
The International Society for Extracellular Vesicles(ISEV)は
〇エクソソーム(Exosome)
〇マイクロベシクル(Microvesicles)
〇エクトサム(Ectosomes)
〇オンコサム(Oncosomes)
〇トレロサム(tolerosomes)
〇プロスタサム(Prostasomes)
(参考文献(1) Fig.1参照)
これらを含む細胞外空間に存在する
全てのタイプの小胞に対して
細胞外小胞という概念を割り当てています(12-17)。
ISEVは研究者に
小胞の収集方法を明瞭に公開する事を推奨しています。
実際に
細胞外小胞は
〇網状赤血球
〇B and Tリンパ球
〇樹状細胞
〇肥満細胞
〇血小板
〇腸上皮細胞
〇星状膠細胞
〇神経細胞
これらを含む様々なタイプの細胞から放出されます(18-25)。
実際には、細胞を持つ全ての生物から放出されると
言われているので
生物を構成するほとんどの細胞種において
細胞外小胞を内包、放出する機序は備わっている
と想定されます。
これら通常細胞に加えて、
癌細胞などの病的な細胞は細胞外小胞を放出します。

実際に癌細胞は通常細胞に比べて
細胞外小胞を多く放出すると言われています。
また、転移機序にもいても
細胞外小胞が関与しているとも考えられてます。
従って、
細胞外小胞をバイオマーカーとして利用する際には
内容物に含まれる核酸、タンパク質、脂質などもありますが、
表面リガンド、形状、大きさの分布などによって
細胞外小胞そのもので診断できる可能性もあります。
核酸やタンパク質などと並列して
診断すれば、偽陽性や偽陰性などのリスクを
減らすことができる可能性もあります。
しかしながら、
こうした細胞外小胞の仕分けにおける
手順が煩雑で有れば、コストの問題が生じます。
従って、容易に仕分け、分析できる
自動装置の開発が待たれます。

(参考文献)
(1)
Nobuyoshi Kosaka, Akiko Kogure, Tomofumi Yamamoto, Fumihiko Urabe, Wataru Usuba, Marta Prieto-Vila & Takahiro Ochiya 
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