2022年10月14日金曜日

脳転移性癌細胞由来の細胞外小胞内miRNAによる血液脳関門破壊と治療機会

miRNAというのはノンコーディングRNAで
今までの歴史ではあまり重要視されてきませんでした。
身体のなかのごみ、廃棄物のような
存在であるとも考えられてきたようです。
細胞外小胞も同様です。
そのごみ袋のような存在です。
しかし、エクソソームを初め、
細胞間の重要なコミュニケーション、
生体内のネットワークに関わっている事が
示されたことから、積極的に研究が行われています。
本日、メインに参照した
Naoomi Tominaga(敬称略)らの研究も
転移性を獲得した癌細胞由来の細胞外小胞内の
miRNAが転移において重要な役割を果たしている
可能性が高いという事が合理的に示されています(1)。
その内容の一部を参照し、
治療を含め、独自の視点を持って構成させました。
その内容を読者の方と情報共有したいと思います。

//要約//ーー
乳がんの患者さんが命を落とす主要因は脳への転移です。
その際、原発腫瘍である乳房にできた癌細胞は
上皮間葉転換などを通して移動性を高め、
血液脳関門(BBB)を通過して脳へ転移します。
しかしながら、
血液脳関門を通して脳へ転移する過程における
分子的な機序ははっきりとはわかっていません。
Naoomi Tominaga(敬称略)らは
タンパク質やmicroRNAs(miRNAs)の輸送を通した
細胞間のコミュニケーション媒体である
癌細胞由来の細胞外小胞は
血液脳関門の組織破壊を誘発する事を示しました(1)。
細胞外小胞が主に輸送するmiRNAsのうち
miR-181cはこの血液脳関門の破壊を促進します。
それはPDPK1の抑制を通したアクチンの
異常な局在化によって生じます。
PDPK1のmiR-181cによる劣化は
リン酸化したコフィリンの抑制と
アクチンダイナミクスにおける
活性化されたコフィリン誘発の改変を導きます。
また、脳の転移がん細胞由来の細胞外小胞の
全身への注入により
乳がん細胞株の脳への転移や
脳への効率的な取り込みが生体内で確認されました。

//内容//ーー
乳がんの転移先としては
リンパ節、皮膚、骨、肺、肝臓、脳への転移が
比較的多くみられるとされています。
がんの死因のうち転移で亡くなる方は
全体のおおよそ90%という見積もりもあり、
転移の機序を理解し
その予防や治療を改善していく事は
がんによって命を落とす人を減らすことに
大きく貢献すると考えられます。
特に、転移がみられる状態では
全ての癌を外科的に取り除いていく事は
おそらく難しいと考えられるので、
分子レベルの微細性を持つ
内科的な処置の重要性が高まってくると考えられます。
標的治療によってどれくらい
選択的に複数の臓器や組織にある
あるいは周辺に播種した
腫瘍組織を小さくし、消滅させることができるか
といった挑戦的な課題があります。
進行性が高ければ、治療と進行のせめぎあいになるので
患者さんへの負担を考えると、
より効率的な治療が求められます。
ーー
上述した転移先のうち脳への転移は
とりわけ予後不良と関連があるとされています(1)。
通常、脳の組織内に循環器を通して進入する場合には
血液脳関門(BBB)を超える必要があります。
脳に転移がみられる場合には
この血液脳関門が組織学的に破壊されている
事が指摘されています(2)。
この血液脳関門が破壊されると
通常脳内に入らない物質を含めて流入することになり
脳内で生じる事のない組織が出来上がる
事も考えられます。
はっきりとした機序は上述したように明かではありませんが、
癌組織は、癌細胞だけで構成されるわけではなく
癌関連繊維芽細胞、癌幹細胞、
癌関連細胞外マトリックス、癌関連免疫細胞など
多くの構成要素が微小環境を形成します。
これらを脳内に形成するためには
血液脳関門が破壊されていて、リーキーになることが
1つの必要条件である可能性もあります。
従って、
血液脳関門がどのような機序で
破壊されるかを理解する事は
脳への転移を理解する上で重要な要素です。
上述したように
Naoomi Tominaga(敬称略)らは
細胞外小胞に含まれるmiR-181cが
血液脳関門の構成要素である
脳血管内皮細胞の骨格であるアクチンの
異常な局在化を導き、
それによって血液脳関門が破壊されたことを
示しています(1)。
miR-181cは脳へ転移性を持つ細胞から放出される
細胞外小胞で高まっている事が示されましたが、
重要なことに
それらの細胞内では高まっていない事が
示されました。
つまり、転移性癌細胞では
細胞外小胞を細胞質内で生成し、
「細胞外小胞内に物質を搭載する際に」
より多くのmiR-181cが含まれたということです。
言い換えると
細胞内で多くのmiR-181cがあれば、
自然なソート機序でも平均的にmiR-181cが
多く搭載すると考えられますが、
そうではなく、
何らかの特異的な機序によって
miR-181cが細胞内小胞に
癌細胞内でより多く搭載されるということです。
さらに
miR-181cは組織の連結に関わるたんぱく質の
発現量に影響を与えるわけではありません。
そうではなく、
それらの空間的な密度分布に影響を与えます。
異常な局在化を示す事に寄って
組織の連結にバラツキが生じ、
あるいはバランスが崩れ、
少なくとも所々、リーキーに(漏れやすく)
なっていると考えられます。
--
miRNAはmRNAに作用する事で
タンパク質の翻訳の制御に関わっているとされていますが、
それによって影響を受ける遺伝子が
PDPK1です。
この遺伝子が抑制されます。
このPDPK1はアクチンや細胞連結に関わるタンパク質の
の局在化、位置調整に関わっている
遺伝子であるため、
これが抑制されることで
上述した異常な局在化を導いているということです。
--
上述した参考文献(1)の要約でも記載されているように
脳の転移に関わる細胞の細胞外小胞を
全身にいれると、
乳がんの脳への転移が促進され
脳への効率的な取り込みが確認されました。
具体的にどのような機序で
乳がん細胞の脳への転移が促されたのか?
細胞外小胞の効率的な脳への輸送、走化性は
どのような機序によって生じるのか?
このような考察が重要です。
転移においては
細胞外小胞が発現しているインテグリンの型によって
その行き先の傾向が出るという報告もあります(3)。
例えば、脳であれば
β3のインテグリンが脳への走化性を持つ
というデータがあります(3)。
これだけではない可能性がありますが、
このβ3は膠芽細胞種の小さな血管に
発現されているという報告もあります(4)。
従って、この点から一定の合理性を得る事ができます。
一方で
脳の転移に関わる細胞は具体的に何か?
例えば、
乳がんから上皮様の細胞から間葉系の細胞に変わることで
高い移動性を得た細胞のうち、
脳へ転移性を持つ細胞なのか?
少なくとも脳へ転移性を持つ癌細胞と異なり、
乳がん細胞由来の細胞外小胞ははmiR-181cを
多く含まないという重要な結果があります。
この事は
転移性の形質を十分に獲得し後に生じる
miR-181cの細胞外小胞への効率的搭載が重要である
ということを示唆します。
もし、そうであれば、
転移性のためのバイオマーカーは
実際に転移形質を獲得してからでないと
得られない事を示しています。
--
脳へ転移性を持つ癌細胞から放出される
細胞外小胞がmiR-181cを多く含むという事が
アクチンや組織連結のタンパク質の
位置調整を狂わせるという現象は
脳の血管だけに起こる事なのか?
という疑問もあります。
全身の血管に対して、内皮組織を破壊することには
つながらないのか?
その様な視点もあります。
但し、毛細血管を含めた
全身の血管の合計の内壁の表面積と
脳血管の血液脳関門に当たる表面積の比と
(圧倒的に全身が大きい)
細胞外小胞が持つ走化性を合わせて考えると、
全身の血管への影響は小さい
ということは考えられるかもしれません。
ただし、
このmiR-181cは乳がんとは異なる他の癌。
肝細胞がん、基底細胞がん。
これらの悪性度に関連すると報告されています(5,6)。
従って、血管壁を破壊する機序というのは
がんの悪性度と関連があるかもしれません。
その時に乳がんと同様に
細胞外小胞が関連しているのであれば、
その細胞外小胞のインテグリンなどの表面リガンド
の違いによって転移先は異なるということです。
脳の転移だけではない、悪性度の増加であれば、
血管壁をリーキーにさせることは
血液脳関門だけではなく、
転移を促進する一般的な要因である
と考える事も出来ます。
--
血液脳関門の破壊は
脳卒中、トラウマ、アルツハイマー病でも生じるので、
同じような組織の連結性、運動性に関わる
タンパク質の形成位置制御の欠失によって
生じているかというのは検討項目になります。
また、
脳への転移がこれらの脳疾患を誘発する
原因にもなるかもしれません。

//治療//ーー
治療としては、脳への転移性を獲得した癌細胞の
細胞外小胞の分泌を抑えることが一つの方法です。
また、
細胞内で効率的にmiR-181cを
細胞外小胞の前駆体に搭載する機序があるはずなので
それを掴んで、その機能を停止させる治療も考えられます。
あるいは、
脳への転移性を獲得した癌細胞由来の
細胞外小胞の脳への走化性を
失わせる手法も考えられます。
具体的にはインテグリンβ3をアンタゴナイズ、
蓋することで、脳への走化性を失わせ、
その影響を全身性へ薄めるということです。
それ以外の細胞外小胞の表面リガンドがあれば
同じような手法が考えられます。
一方で、
miR-181c inhibitorを
脳への転移性を獲得した癌細胞由来の細胞外小胞
転移性の癌細胞
転移性を獲得した乳癌細胞。
これらに送る事も考えられます。
別の機序で
組織修復を促す機序を持つ物質を
血液脳関門に特異的に送る事も考えられます。
--
薬剤送達に関わる事に関しては
すでに身体の自然な機序で
脳へ転移性を持つ癌細胞や
そこから放出される細胞外小胞は
血液脳関門への走化性を有している可能性があるので
その設計から指針を得て
リスクを減らしながら、最大限生かすことで
血液脳関門への特異的輸送が可能になる
という事も考えられます。
特異的薬剤送達手法が確立すれば、
すでに成長してしまった
乳がん原発腫瘍の脳腫瘍の治療に対しても
いくつかの治療選択が与えられます。

(参考文献)
(1)
Naoomi Tominaga, Nobuyoshi Kosaka, Makiko Ono, Takeshi Katsuda, Yusuke Yoshioka, Kenji Tamura, Jan Lötvall, Hitoshi Nakagama & Takahiro Ochiya 
Brain metastatic cancer cells release microRNA-181c-containing extracellular vesicles capable of destructing blood–brain barrier
Nature Communications volume 6, Article number: 6716 (2015)
(2)
Lee, T. H., Avraham, H. K., Jiang, S. & Avraham, S. Vascular endothelial
growth factor modulates the transendothelial migration of MDA-MB-231
breast cancer cells through regulation of brain microvascular endothelial cell
permeability. J. Biol. Chem. 278, 5277–5284 (2003).
(3)
Ayuko Hoshino, Bruno Costa-Silva, Tang-Long Shen, Goncalo Rodrigues, Ayako Hashimoto, Milica Tesic Mark, Henrik Molina, Shinji Kohsaka, Angela Di Giannatale, Sophia Ceder, Swarnima Singh, Caitlin Williams, Nadine Soplop, Kunihiro Uryu, Lindsay Pharmer, Tari King, Linda Bojmar, Alexander E. Davies, Yonathan Ararso, Tuo Zhang, Haiying Zhang, Jonathan Hernandez, Joshua M. Weiss, Vanessa D. Dumont-Cole, Kimberly Kramer, Leonard H. Wexler, Aru Narendran, Gary K. Schwartz, John H. Healey, Per Sandstrom, Knut Jørgen Labori, Elin H. Kure, Paul M. Grandgenett, Michael A. Hollingsworth, Maria de Sousa, Sukhwinder Kaur, Maneesh Jain, Kavita Mallya, Surinder K. Batra, William R. Jarnagin, Mary S. Brady, Oystein Fodstad, Volkmar Muller, Klaus Pantel, Andy J. Minn, Mina J. Bissell, Benjamin A. Garcia, Yibin Kang, Vinagolu K. Rajasekhar, Cyrus M. Ghajar, Irina Matei, Hector Peinado, Jacqueline Bromberg & David Lyden 
Tumour exosome integrins determine organotropic metastasis
Nature volume 527, pages329–335 (2015)
(4)
C L Gladson 
Expression of integrin alpha v beta 3 in small blood vessels of glioblastoma tumors
J Neuropathol Exp Neurol. 1996 Nov;55(11):1143-9
(5)
Ji, J. et al. Identification of microRNA-181 by genome-wide screening as a
critical player in EpCAM-positive hepatic cancer stem cells. Hepatology 50,
472–480 (2009).
(6)
Sand, M. et al. Expression of microRNAs in basal cell carcinoma. Br. J.
Dermatol. 167, 847–855 (2012).
(7)
Brown, H. et al. Evidence of blood-brain barrier dysfunction in human cerebral
malaria. Neuropathol. Appl. Neurobiol. 25, 331–340 (1999).


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