細胞の表面の構造は非常に複雑です。
Ton J. Rabelink(敬称略)らが示すように(2)
膜表面に「海藻」のような枝状の構造が形成され
それが横方向にもつながる事によって
「森のような」構造体を形成しています。
この構造はオリゴ糖からなり、
グリカンと呼ばれ、
森のような全体的な構造をグリコカリックス
と呼びます(1,2)。
従って、
少なくとも細胞の表面の様々な受容体、リガンドは
全て暴露された状態ではなく、
少なくとも一部はグリカンに覆われた形になっている
と想定できます。
細胞表面の構造体は細胞外からの外的因子と関連します。
従って、グ
リカンが結合した糖たんぱく質は
細胞接着、受容体仲介信号、免疫認識
病原体細胞感染など細胞外因子との相互作用に
密接に関わります(3)。
特にグリカンの集合体であるグリカリックスは
レクチンと相互作用(結合)する事が知られています。
このレクチンは免疫細胞に多く発現されています。
免疫細胞はグリコカリックスの型によって
特異性を持ち、その密度(豊富さ)と
それぞれの型に対するレクチン受容体の
結合親和性によって識別強度を変化させます。
言い換えれば、
ある閾値を超えると免疫細胞はその他の細胞と
相互作用するようになります(4-6)。
このようなグリコカリックスのパターン特異性は
細胞から放出されるエクソソームでも確認されています。
特に癌のケースでは臓器走化性に
関連すると想定されています(7)。
--
Michiru Otaki(敬称略)らは
今まで遺伝子的テンプレートや構造の複雑性から
N-グリカンのN-グリコミックの地図帳を作成する事は
難しいとされていましたが、
Solid‑phase glycoblotting platformという方法で
早く、簡単に、高いスループットで
それを実現する事を可能にしました(1)。
16個体のマウスにおいて
身体全身の臓器、血液、血液由来のエクソソームにおいて
どのタイプのN-グリカンが多いかについて
包括的に調べています(1)。
104種類のグリカンを確認し、
それぞれの臓器、血液、エクソソームで
どのタイプがどれくらいの量で含まれているか
マッピングしています(Ref.(1) Figure.4)。
特定の部位にしか見られないグリカンや
共通性の高いグリカンがあります。
1つの部位に一種類のグリカンが
1対1で対応しているわけではなく、
他の部位と重複するし、
1つの部位に複数のグリカンがあります。
しかし、
全体的な割合が高次元で構成されているので
このデータを使って機械学習で特定する場合には
信頼性が高いものになっています(74.5-83.8%)。
今回は健康なマウスによって調べられましたが、
機械学習なども合わせて評価すれば
病気の診断にも使える可能性があります。
あるいは治療の為の標的として
使える可能性も想定されています。
//考察//ーー
治療の為の標的として考える場合には
このようなグリコフォームが少なくとも全体で見れば
細胞種特異的であることを想定します。
しかしながら、
豊富に含まれていて、かつ
細胞種特異的な(その細胞種にしかない)グリカンが
存在する事はMichiru Otaki(敬称略)らの結果からは
大きな期待はできません。
標的性を考える前段階として
手順としては難しいかもしれないですが、
グリカンがどのようにレクチンなどの
受容体と結合しているか?
どういった部分を結合部位として認識しているか?
そのデータをある程度の規模で見たいというのがあります。
そうした結果が、
治療のための標的の戦略、指針につながる
可能性があると考えられます。
最先端のグリカンが必ずしも暴露していない事や
様々な向きでそれが形成されていることが
森のような構造体であるグリコカリックスで
想定されるからです。
従って、結合の様子を
ある程度の規模で統計的に知りたいというのがあります。
一方で
グリカンに結合性を示すレクチンは
免疫細胞に多く発現されているという報告がありますが、
免疫細胞由来の細胞外小胞はどうか?
という視点があります。
もし、免疫細胞由来の細胞外小胞にも
同様にレクチンが発現されていれば、
グリカン依存的な標的治療が
細胞外小胞を送達媒体としてできる可能性があります。
また、
病気のバイオマーカーとしてグリコフォームを
利用する事は標的治療にも応用することができます。
例えば、
癌由来の特異的なグリコフォームを調べて
健康状態との偏差から、特異性を見出します。
それは診断のためのバイオマーカーにもなりますが、
標的治療の為の大切な情報になります。
従って、
バイオマーカーへの可能性を見出すことは
同時に標的治療のそれを追究する事にもつながります。
(参考文献)
(1)
Michiru Otaki, Nozomi Hirane, Yayoi Natsume-Kitatani, Mari Nogami Itoh, Masanori Shindo, Yoichi Kurebayashi & Shin-Ichiro Nishimura
Mouse tissue glycome atlas 2022 highlights inter-organ variation in major N-glycan profiles
Scientific Reports volume 12, Article number: 17804 (2022)
(2)
Ton J. Rabelink & Dick de Zeeuw
The glycocalyx—linking albuminuria with renal and cardiovascular disease
Nature Reviews Nephrology volume 11, pages667–676 (2015)
(3)
Varki, A. Biological roles of glycans. Glycobiology 27, 3–49 (2017).
(4)
Garcia-Vallejo, J. J. & van Kooyk, Y. The physiological role of DC-SIGN: A tale of mice and men. Trends Immunol. 34, 482–486
(2013).
(5)
Davies, L. C., Jenkins, S. J., Allen, J. E. & Taylor, P. R. Tissue-resident macrophages. Nat. Immunol. 14, 986–995 (2013).
(6)
Macauley, M. S., Crocker, P. R. & Paulson, J. C. Siglec-mediated regulation of immune cell function in disease. Nat. Rev. Immunol.
14, 653–666 (2014).
(7)
Koide, R. et al. Antiadhesive nanosome elicits role of glycocalyx of tumor cell-derived exosomes in the organotropic cancer
metastasis. Biomaterials 280, 121314 (2022).
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