合成ナノ粒子、ジェル、細胞外小胞など
どんな媒体でもいいので、
病変部位近くまで薬剤を保護した状態で送達し、
病変部位での薬剤濃度の偏り、集中を実現する事が
少なくとも内科による薬剤治療の
フェーズを変えると考えられます。
今まで試験管で結果が出ていたものも、
臨床の安全性の段階で問題が出て
多くの開発した薬剤が適用不可になっています。
その薬剤をもし、
病変部位まで特異的に送達できれば、
試験管で得られた良好な結果が
臨床でも反映されるかもしれません。
ナノ粒子でも結局は共通的な結合部位を
標的のためのアンカーに使うと
病変部位近くに集中させる事はできません。
特異性がないからです。
あるいは、様々なデブリが血中にもあり、
結合部位を守る事にも課題があります。
従って、
特異的送達は難しいのですが、
薬剤標的のように特定の結合部位に限られる
わけではないので、
送達の為の標的の選択性が高い
というのが大きなメリットです。
例えば、
固形の癌の治療で有れば、
その腫瘍組織の微小環境のどの要素でも
特異的に結合できる部位があれば
選択可能になります。
遊離薬剤を直接的に作用させる場合には
標的となる部位は1か所に決まってしまいます。
従って、
その一か所の薬効を発揮する
結合部位を生かすために
その病変がある細胞近くで薬剤を放出させる仕組みを
実現する事のほうが、
より容易である可能性があります。
小児がんにおいて癌種にもよるのですが
TP53の変異の影響は大人の癌と同様に大きい
という結果もあります(1,2)。
少なくともTP53の変異を正常化する
薬剤があれば、一部のお子さんは
より良い形での治療が可能になることが示唆されます。
TP53の変異に対する薬剤は
TP53が代表的な癌抑制遺伝子であるために
以前から高く注目されてきましたが、
まだFDAでも承認されていません。
試験管の結果では
p53の転写活性を復活させる薬や
構造的に通常状態を保持しやすいように
ユビキチン化を抑制する薬もあります(3)。
しかしながら、
このような薬は臨床試験を通過することができていません。
その理由は、非特異的な毒性に依ります。
このような経路は
p53以外の生理経路にも影響を与えてしまうのか?
非特異的なので、
通常細胞に悪影響があるかもしれません。
従って、
薬剤を開発する際には
標的となる病変細胞だけではなく
送達が予想される通常細胞の影響も見る必要性がある
ということは想定されます。
一方で上述したように
もし、TP53に異常がある癌細胞だけに
上述したようなTP53の通常性を促進する
薬剤が送達されれば、
その毒性、副作用も下がり、
逆に薬効が相対的に一気に高まる可能性もあります。
遊離薬剤で
TP53「だけに」作用する経路を見つけて
その経路を抑える薬剤を見つけるよりも、
TP53の通常性に作用するいくつかの経路で
他にも作用する可能性があるけど、
TP53に異常がある病変部位「だけに」
届けるシステムを考えるほうが
その後の様々な適用性を考えると
メリットは大きい可能性が高いです。
なぜなら、
冒頭で述べた様に
細胞種特異的輸送系統
(Cell-type-specific delivery system)
あるいは
微小環境特異的輸送系統
(Microenvironment-specific delivery system)
はTP53標的薬だけではなく
他の今まで適用不可になった薬剤の多くを
再度、臨床で試して許容可能な副作用の範囲で
薬効を得ることができる可能性があるからです。
非特異性であり、
通常細胞に影響を与える事によって
その毒性から適用不可になった有望な薬剤は
多くある可能性があります。
細胞外小胞が良い場合もあるし
合成ナノ粒子が適している場合もあります。
あるいは、
組織の間質を形成するような
ジェルが適している可能性もあります。
それぞれの選択肢を排除することなく、
ナノ技術によって薬剤を選択的に届けるという事は
非常に難しい事であるには変わりないですが、
実現した時の利点は
計り知れないほど大きなものになる
といっても言い過ぎではないと考えられます。
Xiaotu ma, Susanne N. Gröbner(敬称略)らによって
大規模に行われた小児がんの遺伝子分析(1,2)も
実際の臨床現場に生きて、
結果として多くのお子さんの命を救うだけではなく
その後の生活の質をより改善された治療によって
高める事に繋がる事も想定されます。
薬剤の送達効率を高める事は
避けられない重要な課題であると
Ori Hassin、Moshe Oren(敬称略)らの
報告(3)を読み、再認識しました。
近年注目されているタンパク質分解薬剤があります。ユビキチン化を誘発して標的となるたんぱく質を分解させるという報告もあります(4)。また、TP53変異で誘発された細胞突起などを介した細胞の移動を抑える機序についても報告されています(5)。これらの薬は今まで承認されなかったTP53変異に対する治療薬のための開発に貢献する可能性はもちろんありますが、本当に標的タンパク質、その中のTP53だけに作用するかどうかを調べるのは非常に広範な試験が必要になるためその証明が難しいものだと思います。こういった通常細胞を含めた、正常なあらゆる生理経路に対する影響を評価する事は非常に難しく、これは遊離薬剤開発の少なくとも一部で言える事だと思います。細胞外小胞、ジェル、ナノ粒子などの輸送媒体では、通常細胞の影響は、実際に通常細胞にどれくらい輸送されたかで評価することができます。免疫細胞に対する影響の評価も途方もない労力がかかることでは少なくともありません。上述した有効になる可能性のある薬剤を確実に病変部位に届ける技術を洗練させていく方が、副作用の予測、原因掌握ができやすいため、最終的に高い確率で臨床試験に合格する薬剤を生み出しやすくなる可能性があります。通常細胞に対する影響がわかりにくい生理経路を利用する薬剤においては、特異性に極端にこだわらず、細胞の異常形質に対してストレートにそれを正す遊離薬剤を開発する事と、それを確実に標的細胞まで輸送する技術の両輪を回すことで薬剤開発は大きく発展する可能性があります。
(参考文献)
(1)
Xiaotu Ma, Yu Liu, Yanling Liu, Ludmil B. Alexandrov, Michael N. Edmonson, Charles Gawad, Xin Zhou, Yongjin Li, Michael C. Rusch, John Easton, Robert Huether, Veronica Gonzalez-Pena, Mark R. Wilkinson, Leandro C. Hermida, Sean Davis, Edgar Sioson, Stanley Pounds, Xueyuan Cao, Rhonda E. Ries, Zhaoming Wang, Xiang Chen, Li Dong, Sharon J. Diskin, Malcolm A. Smith, Jaime M. Guidry Auvil, Paul S. Meltzer, Ching C. Lau, Elizabeth J. Perlman, John M. Maris, Soheil Meshinchi, Stephen P. Hunger, Daniela S. Gerhard & Jinghui Zhang
Pan-cancer genome and transcriptome analyses of 1,699 paediatric leukaemias and solid tumours
Nature volume 555, pages371–376 (2018)
(2)
Susanne N. Gröbner, Barbara C. Worst, Joachim Weischenfeldt, Ivo Buchhalter, Kortine Kleinheinz, Vasilisa A. Rudneva, Pascal D. Johann, Gnana Prakash Balasubramanian, Maia Segura-Wang, Sebastian Brabetz, Sebastian Bender, Barbara Hutter, Dominik Sturm, Elke Pfaff, Daniel Hübschmann, Gideon Zipprich, Michael Heinold, Jürgen Eils, Christian Lawerenz, Serap Erkek, Sander Lambo, Sebastian Waszak, Claudia Blattmann, Arndt Borkhardt, Michaela Kuhlen, Angelika Eggert, Simone Fulda, Manfred Gessler, Jenny Wegert, Roland Kappler, Daniel Baumhoer, Stefan Burdach, Renate Kirschner-Schwabe, Udo Kontny, Andreas E. Kulozik, Dietmar Lohmann, Simone Hettmer, Cornelia Eckert, Stefan Bielack, Michaela Nathrath, Charlotte Niemeyer, Günther H. Richter, Johannes Schulte, Reiner Siebert, Frank Westermann, Jan J. Molenaar, Gilles Vassal, Hendrik Witt, ICGC PedBrain-Seq Project, ICGC MMML-Seq Project, Birgit Burkhardt, Christian P. Kratz, Olaf Witt, Cornelis M. van Tilburg, Christof M. Kramm, Gudrun Fleischhack, Uta Dirksen, Stefan Rutkowski, Michael Frühwald, Katja von Hoff, Stephan Wolf, Thomas Klingebiel, Ewa Koscielniak, Pablo Landgraf, Jan Koster, Adam C. Resnick, Jinghui Zhang, Yanling Liu, Xin Zhou, Angela J. Waanders, Danny A. Zwijnenburg, Pichai Raman, Benedikt Brors, Ursula D. Weber, Paul A. Northcott, Kristian W. Pajtler, Marcel Kool, Rosario M. Piro, Jan O. Korbel, Matthias Schlesner, Roland Eils, David T. W. Jones, Peter Lichter, Lukas Chavez, Marc Zapatka & Stefan M. Pfister
The landscape of genomic alterations across childhood cancers
Nature volume 555, pages321–327 (2018)
(3)
Ori Hassin & Moshe Oren
Drugging p53 in cancer: one protein, many targets
Nature Reviews Drug Discovery (2022)
(4)
Yoshino Akizuki, Mai Morita, Yuki Mori, Ai Kaiho-Soma, Shivani Dixit, Akinori Endo, Marie Shimogawa, Gosuke Hayashi, Mikihiko Naito, Akimitsu Okamoto, Keiji Tanaka, Yasushi Saeki & Fumiaki Ohtake
cIAP1-based degraders induce degradation via branched ubiquitin architectures
Nature Chemical Biology (2022)
(5)
Shigeto Nishikawa, Atsushi Kaida, Alejandro Parrales, Atul Ranjan, Mohamed Alalem, Hongyi Ren, Frank J. Schoenen, David K. Johnson & Tomoo Iwakuma
DNAJA1- and conformational mutant p53-dependent inhibition of cancer cell migration by a novel compound identified through a virtual screen
Cell Death Discovery volume 8, Article number: 437 (2022)

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