2022年8月24日水曜日

RNA結合性小分子を含めたRNA治療の展望

細胞の老化という定義を広範にとれば、
高齢の方だけではなく、
青年、小児、
さらには胎児、受精前の卵母細胞の
様々な不全、疾患は
細胞の老化が関与していると捉える事ができるかもしれません。
その老化に関して、
デビッド・A・シンクレア、マシュー・D・ラプラント
からなる医療研究グループは
エピジェネティックの重要性について述べています(2)。
その中で、
DNAがピアノの鍵盤ならば、
メチル化、アセチル化、ユビキチン化などの装飾因子や
RNAsなどのエピジェネティックス因子は
そのピアノから曲を奏でるピアニストである
と例えています(2)。
従って、ピアノの性能が良くても
ピアニストの実力が低ければ、
聞き手にとって心地の良い曲は生まれません。
逆にピアノの鍵盤に一部異常があっても、
ピアニストが優れていれば、その故障を補って
良い曲を奏でる事ができるかもしれません。
--
細胞種特異的輸送系統(Cell-type-specific delivery system)。
これを実現するための一つのツールの大きな候補として
エクソソームを含む細胞外小胞があります。
この細胞外小胞はRNAsを含めた
多くのエピジェネティック因子を輸送するので、
それをうまく選択、制御する事によって
様々な疾患の治療に利用できる可能性を秘めています。
また、そのRNAsに結合し、RNAsネットワークに作用する
低分子量の物質の輸送媒体としても利用できる可能性があります。
--
このような背景から
細胞種特異的輸送系統の目指す応用の一つとして
RNAsの改変がありますので、
複雑で、多種多様なRNAsとそのネットワークの理解、
RNAsに作用する物質の理解が
つながりとして重要になります。
--
Jessica L. Childs- Disney(敬称略)ら
医療研究グループは
RNAs構造を標的とする小分子について総括されています(1)。
その序論の部分の一部を参照し、
調査、考察を加えて
下の項目に整理いたしました。
その内容を読者の方と共有いたします。

//リボ酵素について//ーー
RNAsはタンパク質を生みだしたり、
RNAs同士の相互作用によってたんぱく質の
転写、翻訳に関わるmRNAsのコード化を外すだけではなく
RNAsの化学的な機能にも関わります。
この化学的な機能を持つRNAsを
Catalytic RNAsと呼びます(3,4)。
このCatalytic RNAsは化学反応を推し進める
酵素の機能を持つRNA分子です。
これは別名「リボザイム(リボ酵素)」と呼ばれます。
生体反応はタンパク質やその反応性を決める酵素が
制御していると考えられていましたが、
一部の反応はRNAsが制御している事が見出されました。
--
現時点でタンパク質をそのまま分解する
次世代抗がん剤において最終治験に進んでいます。
その中で多くの投資がされています。
リボ酵素はタンパク質の反応性に関わりますが、
それによって分解できる可能性もあります。
RNAsはタンパク質を生み出す
上流側の機序として主に考えられますが、
生成されたタンパク質を分解、改変する
下流側の機序においての役割を有しています。
それを細胞外小胞の特異的輸送特性を用いて利用することができます。

//ノンコードRNAsの影響//ーー
RNAsの想定されるタンパク質コード領域である
(Canonical)オープンリードフレーム(ORFs)は
想定されているよりも(RNAs全体を基準とすると)
小さいことが見出されています。
細胞からなる生物の複雑性は
オープンリードフレームの数と関連するのではなく
microRNA, lncRNAを含むノンコードRNAs(5)の数や
その多様性と関連していると考えられています(1)。
そのノンコードRNAsは
細胞の老化などにおいて重要と考えられている(2)
エピジェネティック制御(6)、
遺伝子発現の制御(7)。
これらと関わりがあります。

//RNAs標的化候補//ーー
RNAsを標的とする治療戦略として
〇Antisense oligonucleotides (ASOs)
〇CRISPR gene editing 
〇RNA構造に結合する低分子量物質(RNA結合性小分子)
これらが挙げられます。
ASOsやCRISPR遺伝子編集は
化学生物学にとって非常に有益です。
しかし、
輸送や重篤な副反応の問題のため
この技術を臨床応用するのは高い困難性がある
とされています(8,9)。
一方で
3つ目のRNA結合性小分子の場合は
〇経口投与が可能である。
〇血液脳関門も通過するため脳神経の疾患治療にも応用できる。
〇ナノ粒子や細胞外小胞に内包できる。
これらなどの利点が考えられます。
このような物質はもともと生体内にある(?)
かもしれません。
そうであれば、細胞外小胞が輸送する物質の
1つである可能性も生まれます。
このような低分子量物質は
身体全体への投与(経口投与、静脈注射など)においても
薬剤動力学、その有効性を向上させるための
最適化ができるとされています(1)。

//RNA結合性小分子の機能//ーー
RNA構造に結合するいくつかの小分子は
結合する場合と
物質を誘引するためにへき開する場合があります。
その中で多様な生物学的経路に関わっています。
例えば
〇細菌、ウィルスの翻訳抑制(10,11)
〇mRNA翻訳の抑制(12)
〇(Alternative)mRNA前駆体スプライシングの強化(13,14)
〇miRNA生合成の抑制(15)。
--
細胞外小胞によるmiRNAの調整において
miRNAが不足している場合は
そのままmiRNAを標的細胞まで輸送する事を考えますが、
それが過剰の場合には、代わりの抑える物質を
標的細胞まで輸送する必要があります。
RNA結合性小分子はその候補の一つとなる
ということです。

(参考文献)
(1)
Jessica L. Childs-Disney, Xueyi Yang, Quentin M. R. Gibaut, Yuquan Tong, Robert T. Batey & Matthew D. Disney 
Targeting RNA structures with small molecules
Nature Reviews Drug Discovery (2022)
(2)
デビッド・A・シンクレア (著), マシュー・D・ラプラント (著), 梶山 あゆみ (翻訳)
LIFESPAN(ライフスパン): 老いなき世界
(3)
Zaug, A. J. & Cech, T. R. The intervening sequence 
RNA of Tetrahymena is an enzyme. Science 231, 
470–475 (1986).
(4)
Stark, B. C., Kole, R., Bowman, E. J., Altman, S.  
& Altman, S. Ribonuclease P: an enzyme with an 
essential RNA component. Proc. Natl Acad. Sci. USA 
75, 3717–3721 (1978).
(5)
Encode Project Consortium. An integrated 
encyclopedia of DNA elements in the human genome. 
Nature 489, 57–74 (2012).
(6)
Tsai, M. C. et al. Long noncoding RNA as modular 
scaffold of histone modification complexes. Science 
329, 689–693 (2010).
(7)
He, L. & Hannon, G. J. MicroRNAs: small RNAs with  
a big role in gene regulation. Nat. Rev. Genet. 5,  
522–531 (2004).
(8)
Bennett, C. F. Therapeutic antisense oligonucleotides 
are coming of age. Annu. Rev. Med. 70, 307–321 
(2019).
(9)
Luther, D. C., Lee, Y. W., Nagaraj, H., Scaletti, F. & 
Rotello, V. M. Delivery approaches for CRISPR/Cas9 
therapeutics in vivo: advances and challenges.  
Expert Opin. Drug Deliv. 15, 905–913 (2018).
(10)
Howe, J. A. et al. Selective small- molecule inhibition  
of an RNA structural element. Nature 526, 672–677 
(2015). 
(11)
Dibrov, S. M. et al. Hepatitis C virus translation 
inhibitors targeting the internal ribosomal entry site. 
J. Med. Chem. 57, 1694–1707 (2014).
(12)
Zhang, P. et al. Translation of the intrinsically 
disordered protein alpha- synuclein is inhibited  
by a small molecule targeting its structured mRNA. 
Proc. Natl Acad. Sci. USA 117, 1457–1467 (2020).  
(13)
Ratni, H. et al. Discovery of risdiplam, a selective 
survival of motor neuron-2 (SMN2) gene splicing 
modifier for the treatment of spinal muscular atrophy 
(SMA). J. Med. Chem. 61, 6501–6517 (2018).  
(14)
Palacino, J. et al. SMN2 splice modulators enhance 
U1-pre- mRNA association and rescue SMA mice.  
Nat. Chem. Biol. 12, 304–304 (2016).  
(15)
Becquart, C. et al. Exploring heterocycle- spermine 
conjugates as modulators of oncogenic microRNAs 
biogenesis. ACS Omega 3, 16500–16508 (2018).  

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