//背景//ー
間葉系幹細胞は広範な自己免疫疾患や炎症疾患の
治療のための利用可能性が示されています。
この間葉系幹細胞は
免疫調整の機序があり、
慢性的に炎症を負った免疫機能が高まっている
病変部位に対して、強い免疫抑制的、
それによる抗炎症的効果があるからです(2)。
これは間葉系幹細胞が放出する
サイトカインを含む下記、可溶性因子によります。
〇Transforming growth factor-β (TGF-β),
〇IL-10,
〇Prostaglandin E2 (PGE2),
〇Indoleamine 2,3-dioxygenase (IDO),
〇Tumor necrosis factor α (TNFα)-stimulated gene protein-6
これらが関与します(3,4)。
間葉系幹細胞由来の細胞外小胞は
細胞フリーな治療として注目を浴びています。
この細胞外小胞は細胞間のコミュニケーションに関わり、
上述したサイトカイン、成長因子の他に
遺伝子発現を調整するmiRNAなどを輸送する
媒体であることが分かっています(5)。
-
間葉系幹細胞は免疫調整の機能を
自然、獲得免疫系を標的として発揮します。
これは炎症性の環境に置かれたときに起こるとされています。
⇒
(考察1)
従って、
下述するYukari Watanabe(敬称略)らの研究のように(1)
間葉系幹細胞を炎症性サイトカインTNF-αとIFN-αで刺激し、
そこからどのように免疫細胞に働きかけるか?
ということを調べる事には論理的根拠があります。
特に、細胞外小胞は
間葉系幹細胞が他の細胞と連携する際に
サイトカインやmiRNAの輸送などを含めて
重要な役割を果たしているので
間葉系幹細胞が細胞外小胞が
どのように炎症性サイトカインの刺激によって変化するか?
というのを調べる(1)のは大きな科学的意義があります。
-
特に免疫系のうちマクロファージは重要な役割を果たします。
このマクロファージは極性が2つあり、
M1タイプとM2タイプがあります。
M2極性になれば、創傷治癒など抗炎症性の働きがある
と知られています(6)。
従来の研究で、間葉系幹細胞由来の細胞外小胞は
このM2極性のマクロファージを誘導することが
知られています(7)。
従って、間葉系幹細胞由来の細胞外小胞は
様々な疾患に対する治療として期待されています(8)。
例えば、歯周炎など歯の疾患も含まれます(9)。
-
Yukari Watanabe(敬称略)ら医療研究グループは
この間葉系幹細胞由来の細胞外小胞の機能について着目し
その細胞外小胞がどのような機序で
創傷治癒の機能があるM2極性のマクロファージを
誘導するかを調べました(1)。
その誘導条件として、病変部位を部分的に再現するために
炎症系のストレスであるTNF‑αとINF‑α を
細胞外小胞の資源である間葉系幹細胞に加えました。
この間葉系幹細胞は
様々な組織から取得する事が可能ですが、
歯肉から取得しました(1)。
その理由は
〇容易に取得できる事
〇再生機能が優れている事
〇免疫調整の機能が優れている事
〇増殖機能が高い事
これらが挙げられています(10,11)。
本日はYukari Watanabe(敬称略)ら医療研究グループによる
上述した研究の結果の概略と
その考察をできるだけ広範に掲載しています。
間葉系幹細胞を含む幹細胞治療は
上述したように幅広い治療の可能性があります(12)。
〇その派生的効果を解明する事
〇代替的、付加的な治療選択肢を与える事
〇その機能性を高める事
これらに少なくとも貢献できると考えられる
間葉系幹細胞の細胞外小胞の治療可能性につながり、
科学的、医療的な意義は大きいと考えらます(1)。
従って、世界の読者の方と
その研究内容と広範な考察を共有し
議論のソースを提供する事は
同様に意義深いことであると自負しています。
//結果概要(1)//ー
①TNF‑α, INF‑αで間葉系幹細胞を刺激することで
そこから分泌される細胞外小胞のCD73の発現は促進されました。
そのCD73の発現なmTOR-HIF-1α軸によります。
②TNF‑α, INF‑αで間葉系幹細胞を刺激することで
そこから分泌される細胞外小胞のCD5Lの発現が誘導されました。
①、②は共にM2極性マクロファージを誘導しました。
CL5LによるM2極性マクロファージの誘導は
新たに確かめられた機能であるとされています(13)。
//考察2//ー
Yukari Watanabe(敬称略)らがFig.9で総括するように
HIF-1α, HRE依存的に細胞核内でCD73タンパク質の発現高まり
それが、細胞外小胞のCD73の発現量増加に関わった
とされています。
それが「どのような経路、機序で?」生じたのか?
その中間経路について議論の余地があると思います。
①細胞外小胞にそのまま輸送され、発現される。
②エンドソームを介してエクソソームに発現される。
③間葉系幹細胞の表面に発現され、そこから細胞外小胞に転写される。
しかし、③に関しては
Figure.1cの結果から間葉系幹細胞表面では
CD73のカウント数が大きく変わらなかったとされています。
しかし、重要なのは
Yukari Watanabe(敬称略)らが確認した
表面タンパク質CD73, CD5Lは
共に間葉系幹細胞表面で確認されているという事です。
ひょっとすると①、②、③は
どれか一つではなく、
合成的に全て起こり得るということかもしれません。
一方で、
今回、細胞外小胞の大きさ(Ref.(1) Figure.1)を見ると
一般的なエクソソームの大きさ(50-150nm)よりも
若干大きなサイズとなっています(平均で170-190nm)。
しかし、大きなサイズの細胞外小胞は
遠心分離によって除外したとあります(1)。
従って、歯肉間葉系幹細胞由来のエクソソームは
通常のエクソソームよりも大きいという事かもしれません。
エクソソームであれば、
エンドソーム内に腔内膜小胞として存在するときに
影響を受けて表面タンパク質CD73, CD5Lが
発現したと考えられるので、
上述したようにその詳しい経路、機序について
調べる事は少なくとも一定の科学的意義があると考えられます。
//考察3//ー
間葉系幹細胞を炎症性サイトカインで刺激することで
自然免疫系、獲得免疫系それぞれに効果がある可能性があるので、
Yukari Watanabe(敬称略)らが調べた
創傷回復において重要なマクロファージの他の
自然免疫細胞やT細胞、B細胞、NK細胞など
様々な獲得系免疫細胞にに対して
細胞外小胞を通してどのような影響があるのか?
これについて調べる事も科学的意義があるかもしれません。
間葉系幹細胞ではなく、
それ由来の細胞外小胞を使って治療する事を想定した場合、
それが持つ、免疫調整の機序を使いたい場合には
Yukari Watanabe(敬称略)らが行ったように
生体外で一度、炎症性の環境にさらした後、
細胞外小胞を分泌させ、それを収集して
体内に投与する事が有効である可能性があります。
また、
このような炎症性サイトカインを使った
生体外での細胞外小胞のリソース細胞の刺激による
その分泌細胞外小胞の分析は
免疫逃避など逆の効果が考えられる
癌細胞に対して行う事もプロトコルとして
利用できるかもしれません。
//細胞種特異的輸送系統(*1)//ー
(*1)Cell-type-specific delivery system
細胞外小胞の形質(表面タンパク質)を
人為的に変えられたことは
細胞外小胞を使った治療を開発していく際の
1つの重要なマイルストーンになります。
核内で発現されたタンパク質が
どのように細胞外小胞に反映されるか?
その機序を調べる事によって
細胞外小胞のエンジニアリングを
ある程度普遍化することができます。
細胞腫特異的輸送系統では細胞外小胞の表面に
病変部位に高い輸送向性を示すような
狙いのタンパク質を表面に実装することを想定しています。
上述したように
細胞外小胞の表面に任意のタンパク質を発現させる際において
細胞外小胞のリソースとなる細胞表面に
その任意のタンパク質が
(事前である事も含めて)発現されていることが
「必要条件」となるのか?
それが一つの視点としてあります。
少し視点を変えれば
Yukari Watanabe(敬称略)らの研究で確認された
間葉系幹細胞由来の細胞外小胞に発現された
CD73, CD5Lは、同じ分類の細胞外小胞であっても
そのリソースとなる細胞が異なれば、
原理的に実装不可能であるかどうか?ということです。
もし、そうであるとするならば、
細胞種特異的輸送系統で目指す
任意のタンパク質を実装する際には
それぞれのタンパク質が細胞外小胞表面に
発現されるための細胞腫特有の条件がある
ということを示唆します。
(参考文献)
(1)
Yukari Watanabe, Takao Fukuda, Chikako Hayashi, Yuki Nakao, Masaaki Toyoda, Kentaro Kawakami, Takanori Shinjo, Misaki Iwashita, Hiroaki Yamato, Karen Yotsumoto, Takaharu Taketomi, Takeshi Uchiumi, Terukazu Sanui & Fusanori Nishimura
Extracellular vesicles derived from GMSCs stimulated with TNF-α and IFN-α promote M2 macrophage polarization via enhanced CD73 and CD5L expression
Scientific Reports volume 12, Article number: 13344 (2022)
(2)
Shi, Y. et al. Immunoregulatory mechanisms of mesenchymal stem and stromal cells in inflammatory diseases. Nat. Rev. Nephrol.
14, 493–507 (2018).
(3)
Uccelli, A., Moretta, L. & Pistoia, V. Mesenchymal stem cells in health and disease. Nat. Rev. Immunol. 8, 726–736 (2008).
(4)
Fan, X. L., Zhang, Y., Li, X. & Fu, Q. L. Mechanisms underlying the protective effects of mesenchymal stem cell-based therapy.
Cell. Mol. Life Sci. 77, 2771–2794 (2020).
(5)
Phinney, D. G. et al. Mesenchymal stem cells use extracellular vesicles to outsource mitophagy and shuttle microRNAs. Nat. Com-
mun. 6, 8472 (2015).
(6)
Mills, C. D., Kincaid, K., Alt, J. M., Heilman, M. J. & Hill, A. M. M-1/M-2 macrophages and the Th1/Th2 paradigm. J. Immunol.
164, 6166–6173 (2000).
(7)
Stevens, H. Y., Bowles, A. C., Yeago, C. & Roy, K. Molecular crosstalk between macrophages and mesenchymal stromal cells. Front.
Cell Dev. Biol. 8, 600160 (2020).
(8)
Wang, J. et al. Mesenchymal stem cell-derived extracellular vesicles alter disease outcomes via endorsement of macrophage polari-
zation. Stem Cell Res. Ther. 11, 424 (2020).
(9)
Nakao, Y. et al. Exosomes from TNF-α-treated human gingiva-derived MSCs enhance M2 macrophage polarization and inhibit
periodontal bone loss. Acta Biomater. 122, 306–324 (2021).
(10)
El Moshy, S. et al. Dental stem cell-derived secretome/conditioned medium: The future for regenerative therapeutic applications.
Stem Cells Int. 2020, 7593402 (2020).
(11)
Kim, D., Lee, A. E., Xu, Q., Zhang, Q. & Le, A. D. Gingiva-derived mesenchymal stem cells: Potential application in tissue engineer-
ing and regenerative medicine—A comprehensive review. Front. Immunol. 12, 667221 (2021).
(12)
Duc M. Hoang, Phuong T. Pham, Trung Q. Bach, Anh T. L. Ngo, Quyen T. Nguyen, Trang T. K. Phan, Giang H. Nguyen, Phuong T. T. Le, Van T. Hoang, Nicholas R. Forsyth, Michael Heke & Liem Thanh Nguyen
Stem cell-based therapy for human diseases
Signal Transduction and Targeted Therapy volume 7, Article number: 272 (2022)
(13)
Sanjurjo, L. et al. CD5L promotes M2 macrophage polarization through autophagy-mediated upregulation of ID3. Front. Immunol.
9, 480 (2018).
2022年8月7日日曜日
Cell-type-specific delivery system,
細胞生物学,
免疫学
サイトカイン刺激後の歯肉間葉系幹細胞由来細胞外小胞によるM2極性マクロファージ誘導
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