//背景//ーー
結核は世界の感染症による死亡の第二位です。
年間で1000万人が罹患し、
そのうち120万人が命を落とすとされています(3-5)。
15歳以下の子供に限定すると
年間で100万人が罹患し、
23万人が結核関連で亡くなるとされています(6)。
これら23万人の死亡のうち96%は
診断のミスによって治療されなかった子供である
とされています(7,8)。
従って、Wenshu Zheng(敬称略)らが示すように
潜伏性の結核も含めて診断の精度、技術が確立すると
結核による死亡例を減らし、
お子さんを含め、多くの方の命を救う事に繋がります。
--
ほとんどの微生物学的な結核のアッセイでは
ヒト結核菌(Mycobacterium tuberculosis)。
これを検出するために培養や核酸の増幅を使います。
しかしながら、
若い子供は呼吸器のサンプリングを行う際に
侵襲的な手順を必要とします。
しかし、この場合
サンプリングの際に呼吸器以外に存在している
ヒト結核菌を含めて、取得し損ねてしまうことが
度々あります。
実際に診断まで時間がかかり(2週間-8週間)、
検出精度は30~62%に留まるとされています(9)。
PCRベースの場合は
数時間で結果が出ますが、
その精度は全ての子供の結核のケースに対して
20~40%に留まります。
--
この検出精度の低さを改善するために
細胞外小胞の免疫学的検定を使い、
暗視野顕微鏡で読み取ることが提案されています。
しかし、マニュアルの作業になるため
作業者エラーやバイアスが入り込む余地がありました(10)。
--
そこでWenshu Zheng(敬称略)らは
細胞外小胞の免疫学的検定において
その検出作業を自動化し、機械学習で情報処理することで
上述した作業者ごとのバラつきや
バイアスを取り除くことに成功しています(1)。
免疫学的検定の為に検出するマーカーは
〇Glycolipid lipoarabinomannan(LAM)
結核菌の細胞膜の15%を占める主要な物質
〇細胞膜タンパク質LprG(11-13)。
これらです。
これらのバイオマーカーは
ヒト結核菌に感染したマクロファージから
放出される細胞外小胞に発現している事が考えられ
その細胞外小胞は血中に蓄積する事が考えられるため
従来、多く行われてきた尿サンプルではなく
血液検査によって行われます(1)。
--
Wenshu Zheng(敬称略)らは
従来から課題があった子供の結核の診断を
機械学習を通じて労働力を削減した形式で
精度を高く行う方法を提示しています(1)。
その結果の概要と
背景、日本の現状、考察、治療について
独自の調査を含めて、
読者の方と共有したいと思います。
//日本の結核の現状(2)//ーー
結核菌が体内に入って生じる病気で
それを生まれて始めて吸い込んだ場合、
10~15%の人ではその後1,2年のうちに発病します。
一方、それ以外の人では菌は冬眠状態で
しぶとく体内に留まることになります。
結核菌が体内に潜んでいる人が
何らかの都合で身体の抵抗力が落ちると
免疫の低下から結核を発病してしまいます。
おおよそ10~15%程度と言われます。
従って、全ての人が発病するわけではありません。
結核菌は主に肺の内部で増える為
咳、痰、発熱、呼吸困難等、風邪のような
呼吸器に関連する症状が多いですが、
小児の場合は全身に及ぶ重篤な結核に繋がりやすい
と言われています。
--
結核は日本の主要な感染症の一つです。
毎年、1万8000人程度の人が罹患しており、
結核の低蔓延国ではありません。
結核の発生は人口の多い大都市部で多い傾向にあります。
BCG接種の影響もあり、日本では小児患者は少なく
高齢の方の発症が大部分を占めます。
--
今述べたBCGワクチンは
牛型結核菌を時間をかけて弱めたものです。
結核菌を予防するために接種するワクチンです。
乳幼児期にBCG接種する事によって
結核の発症を52~74%程度、
重篤な髄膜炎や全身性の結核は64~78%程度
予防する事ができると報告されています。
また、一度、BCGワクチンを接種すれば
その効果は10~15年程度続くと考えられます。
--
BCGワクチンは世界中で安全に使用されてきた
ワクチンです。
〇リンパ節の腫れ
〇局所、全身の皮膚症状
これらなど比較的軽度な副反応は一定の程度で見られます。
しかし、
〇骨炎
〇全身性のBCG感染症
〇アナフィラキシー
これらなどの重篤な副反応は非常に稀です。
平成25年度のデータでは
90万人中
〇リンパ節の腫れ(74件)
〇皮膚症状(40件)
〇炎炎(10件)
〇全身性のBCG感染症(2件)
となっています。
--
BCGワクチンの接種は平成25年度以降、
生後1歳に至るまでに接種する事と変更されました。
//結果//ーー
マクロファージ培養でヒト結核菌に感染した細胞から
分泌された細胞外小胞は
ヒト結核菌特異的に
〇Glycolipid lipoarabinomannan(LAM)
〇細胞膜タンパク質LprG
これら両方が検出されています。
細胞外小胞が細胞質、細胞膜に比べて
検出感度は高く、カットオフ設定に十分な
感染特異的な感度があります。
--
Auナノロッドを結合させて
暗視野顕微鏡で観察したところ、
患者さんの血液分析において感染有無の
顕著な差がありました。
検出の為の抗体としては
CD81が一番、検出感度が高くなっています。
上述した二つのマーカーを組み合わせた
分析では結核の患児の細胞外小胞レベルにおいて
適性なカットオフを設定した結果、
P=0.0005の信頼性で
15人中14人の陽性判断(1人:偽陰性)と
なっています。
コントロール群の偽陽性はありません。
--
検出が難しいとされているHIV患児(年齢中央値:1.8歳)
に対して、
結核を発症した患児の74%を検出。
従来の微生物学的検出で検出から
漏れた患児のうち73%を検出。
研究の間、結核と診断されなかった
患児のうち80%を検出しています。
//考察//ーー
今回、マクロファージの培養液からの細胞外小胞が
〇Glycolipid lipoarabinomannan(LAM)
〇細胞膜タンパク質LprG
これらを特異的に発現していたとあります。
その細胞外小胞が「何を起源にしているか?」
という事は考察の余地があります。
結核菌は細菌です。
細菌は膜小胞を放出することができます(14)。
マクロファージや間葉系幹細胞(15)に感染した
細菌がどのような機序で細胞外小胞を放出するか?
細胞質内に存在する細菌内で産生されているかもしれないし、
あるいは細菌の膜情報から新たに
マクロファージ内で細胞外小胞がエンドソームを通じて
形成されているかもしれません。
ただ、重要な事実は
ヒト結核菌が細胞膜、細胞膜上に持っている
糖たんぱく質やタンパク質が
特異的に細胞外小胞に反映されている事です。
これは治療に生かすことができる可能性があります。
現在の結核の治療は
イソニアジド、リファンピシン、ピラジナミド、エタンブトール
これらなどが使われます。
半年以上にわたって薬を服用する必要があります。
上述した特異的タンパク質を標的として
細胞外小胞やナノ粒子で
これらの薬剤を輸送する事で
治療効率が上がる可能性があります。
あるいは、結核菌はマクロファージで増殖する
と言われているので
マクロファージまで輸送することも考えられます。
実際に新型コロナウィルスのmRNAワクチンで
血中の樹状細胞やマクロファージまで
輸送する事に成功している可能性が示唆されているので
mRNA、microRNA(16)をこれらの免疫細胞まで輸送し
細胞内で抗菌効果のあるタンパク質を生み出す、
あるいは免疫系統を正常化、それを高めることで
結核菌を細胞内で死滅させる方法も考えられます。
一方で、
結核は早期に発見して治療すれば
現状においてもほとんどが治る病気です。
従って、Wenshu Zheng(敬称略)らが示した
偽陰性の少ない精度の高い検査方法の開発は
非常に重要になります。
早期治療につながるからです。
上述した標的治療は
特に発見が遅れて重症化した患者さんを
対象に検討するという位置づけかもしれません。
あるいは、HIVなどの重症化リスクの高い
併存症を持つ患者さんにおいて有効かもしれません。
(参考文献)
(1)
Wenshu Zheng, Sylvia M. LaCourse, Bofan Song, Dhiraj Kumar Singh, Mayank Khanna, Juan Olivo, Joshua Stern, Jaclyn N. Escudero, Carlos Vergara, Fangfang Zhang, Shaobai Li, Shu Wang, Lisa M. Cranmer, Zhen Huang, Christine M. Bojanowski, Duran Bao, Irene Njuguna, Yating Xiao, Dalton C. Wamalwa, Duc T. Nguyen, Li Yang, Elizabeth Maleche-Obimbo, Nhung Nguyen, Lili Zhang, Ha Phan, Jia Fan, Bo Ning, Chenzhong Li, Christopher J. Lyon, Edward A. Graviss, Grace John-Stewart, Charles D. Mitchell, Alistair J. Ramsay, Deepak Kaushal, Rongguang Liang, Eddy Pérez-Then & Tony Y. Hu
Diagnosis of paediatric tuberculosis by optically detecting two virulence factors on extracellular vesicles in blood samples
Nature Biomedical Engineering volume 6, pages979–991 (2022)
(2)
厚生労働省
結核とBCGワクチンに関するQ&A
(3)
Lu, L. L. et al. IFN-γ-independent immune markers of Mycobacterium
tuberculosis exposure. Nat. Med. 25, 977–987 (2019).
(4)
Floyd, K., Glaziou, P., Zumla, A. & Raviglione, M. The global tuberculosis
epidemic and progress in care, prevention, and research: an overview in year
3 of the End TB era. Lancet Respir. Med. 6, 299–314 (2018).
(5)
Garrido-Cardenas, J., de Lamo-Sevilla, C., Cabezas-Fernández, M.,
Manzano-Agugliaro, F. & Martínez-Lirola, M. Global tuberculosis research
and its future prospects. Tuberculosis 121, 101917 (2020).
(6)
Harding, E. WHO global progress report on tuberculosis elimination. Lancet
Respir. Med. 8, 19 (2020).
(7)
Dodd, P. J., Yuen, C. M., Sismanidis, C., Seddon, J. A. & Jenkins, H. E. The
global burden of tuberculosis mortality in children: a mathematical modelling
study. Lancet Glob. Health 5, e898–e906 (2017).
(8)
Kamariza, M. et al. Rapid detection of Mycobacterium tuberculosis in
sputum with a solvatochromic trehalose probe. Sci. Transl. Med. 10,
eaam6310 (2018).
(9)
Connell, T. G., Zar, H. J. & Nicol, M. P. Advances in the diagnosis of
pulmonary tuberculosis in HIV-infected and HIV-uninfected children.
J. Infect. Dis. 204, S1151–S1158 (2011).
(10)
Liang, K. et al. Nanoplasmonic quantification of tumour-derived extracellular
vesicles in plasma microsamples for diagnosis and treatment monitoring. Nat.
Biomed. Eng. 1, 0021 (2017).
(11)
Shukla, S. et al. Mycobacterium tuberculosis lipoprotein LprG binds
lipoarabinomannan and determines its cell envelope localization to control
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(12)
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vesicles in the context of Mycobacterium tuberculosis infection. Mol. Immunol.
133, 175–181 (2021).
(13)
Gaur, R. L. et al. LprG-mediated surface expression of lipoarabinomannan is
essential for virulence of Mycobacterium tuberculosis. PLoS Pathog. 10,
e1004376 (2014).
(14)
渡部邦彦
細菌が放出する膜小胞(Membrane Vesicle)の機能と生合成機構そして応用に向けた研究動向
化学と生物 Vol. 54, No. 10, 2016
(15)
Min Liu et al.
Exosomes derived from mycobacterium tuberculosis-infected MSCs induce a pro-inflammatory response of macrophages
Aging (Albany NY). 2021 Apr 30; 13(8): 11595–11609.
(16)
Prabha Desikan and Aseem Rangnekar
Host-targeted therapy for tuberculosis: Time to revisit the concept
Indian J Med Res. 2018 Mar; 147(3): 233–238.
2022年8月24日水曜日
Cell-type-specific delivery system,
医療工学,
検査,
周産期/新生児/小児医療,
微生物学
細胞外小胞による小児結核の高精度検査と治療
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