細胞表面や細胞質にあるタンパク質は多様多種ですが
同じ種類であっても構造の細部が異なるアイソフォームがあります。
それぞれのアイソフォームが及ぼす生理が異なる場合、
特定のアイソフォームに特異性を持って薬剤が作用するような
「選択性」が薬剤開発において重要です。
このような選択性は、細胞特異的輸送系統の装飾因子の設計にも貢献します。
ただ、細胞特異的輸送系統の場合は
ナノ粒子が結合すればよいという条件設定の場合もあるため
必ずしも生理作用に関与するエピトープを結合部位に使う必要がない
という普遍性があります。
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Bart Vanhaesebroeck, Matthew W. D. Perry, Jennifer R. Brown, Fabrice André & Klaus Okkenhaug(敬称略)
からなるイギリス、スウェーデン、アメリカ、フランスの
医療研究グループは薬剤として作用させる事が困難だった
主に癌の治療のための薬剤標的であるPI3Kタンパク質に対して
どのように薬剤がそのアイソフォーム選択性も含めて発展してきたか?
この事に関して総括されています(1)。
本日は、その内容の一部を追記しながら
読者の方と情報共有したいと思います。
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Class I phosphoinositide 3-kinases (PI3Ks)は
一つの生理として糖化に関わっているため
癌細胞においてこのたんぱく質に変異が入ると(PIK3CA mutation)
糖化のプロセスが活性化され、グルコースの需要が高まります(2,3)。
癌細胞で糖の消費が高くなる生理の中で
このたんぱく質の変異は一つの重要な因子となると考えられます。
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またPIK3CA変異によって
細胞外の間質にタンパク質が放出され(Secretome)
それによって癌幹細胞生成、血管生成、上皮間葉転換、
免疫機能改変などに関わるとされています(1)。
従って、腫瘍組織成長における複数の因子に関わります。
ー
これらのことからPI3Ksの活性を薬剤によって抑制する事は
癌の薬物治療において重要な役割を担うことが想定されます。
ー
このPI3Ksタンパク質は前述したように
複数のアイソフォームがあります。
PI3Kα, PI3Kβ, PI3Kγ and PI3Kδ。
このたんぱく質は細胞質(あるいは細胞膜)にあり、
細胞膜貫通タンパク質のTyrosine kinase受容体が
細胞外からの物質の結合によって活性化されたときに
細胞内の物質がPI3Ksに作用する事によって
代謝、細胞の増殖などに関わるとされています(4,5)。
ー
これらのアイソフォームに対して
その作用を抑制する
Ref(1) Table 2で示されるように
それぞれ複数の薬剤が開発されています。
また共通に作用する薬剤もあります。
ー
これらの薬剤はRef(1) Fig.2で示されるように
PI3Ksタンパク質の複数の残基に作用します。
その結合性の種類は、金属イオン結合、水素結合
共有結合(6)などがあるとされています。
これらのタンパク質にはATP binding pocketと呼ばれる
構造の中で生理信号を進める上で重要な箇所がありますが、
アイソフォーム特異的な選択性を上げるためには
Fig.2で示されるように複数の結合箇所があって、
このATP部位とは異なる部分において結合することが
重要であるとされています(1)。
ー
このPI3Ks抑制剤は癌細胞が関わる糖代謝の異常を是正する
可能性が薬理の一つとして期待されます。
このように代謝系に関わる薬剤の場合には
薬剤を投与するときの血糖値などの条件が
薬剤の取り込み効率に影響を与える可能性があります。
例えば、空腹で血糖値が下がっている時に
PI3Ks抑制剤を投与する場合と
血糖値が上がっている時に投与する場合でどう違うか?
このような観点があります。
(Reference)
(1)
Bart Vanhaesebroeck, Matthew W. D. Perry, Jennifer R. Brown, Fabrice André & Klaus Okkenhaug
PI3K inhibitors are finally coming of age
Nature Reviews Drug Discovery (2021)
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Author information
Affiliations
UCL Cancer Institute, University College London, London, UK
Bart Vanhaesebroeck
Medicinal Chemistry, Research and Early Development, Respiratory & Immunology BioPharmaceuticals R&D, AstraZeneca, Gothenburg, Sweden
Matthew W. D. Perry
CLL Center, Dana-Farber Cancer Institute, Department of Medicine, Harvard Medical School, Boston, MA, USA
Jennifer R. Brown
Institut Gustave Roussy, INSERM U981, Université Paris Saclay, Paris, France
Fabrice André
Department of Pathology, University of Cambridge, Cambridge, UK
Klaus Okkenhaug
ー
(2)
Hao, Y. et al.
Oncogenic PIK3CA mutations reprogram glutamine metabolism in colorectal cancer.
Nat. Commun. 7, 11971 (2016).
(3)
Elstrom, R. L. et al.
Akt stimulates aerobic glycolysis in cancer cells.
Cancer Res. 64, 3892–3899 (2004).
(4)
Fruman, D. A. et al.
The PI3K pathway in human disease.
Cell 170, 605–635 (2017).
(5)
Bilanges, B., Posor, Y. & Vanhaesebroeck, B.
PI3K isoforms in cell signalling and vesicle trafficking.
Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 20, 515–534 (2019).
(6)
Nacht, M. et al.
Discovery of a potent and isoform-selective targeted covalent inhibitor of the lipid kinase PI3Kalpha.
J. Med. Chem. 56, 712–721 (2013).
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