2021年6月2日水曜日

変異に関する総括

 (Short review and discussion with you)
新型コロナウィルスの流行が見られた時から
1年半が経とうとしています。
未だ収束の兆しが世界で見られませんが、
今後、新型コロナウィルスと国際社会が向き合っていく中で
避けては通れないのがウィルス系統の変異です。
その変異のうち、少なくとも社会的な脅威となる
変異の種類は2つあると思っています。
一つは細胞感染性が高まる事。
もう一つは抗体に対する逃避性が高まる事。
これらです。
この2つの種類の変異を少なくとも意識しながら
どうやって世界中の新型コロナウィルス株を減らし、
収束させる事ができるか考える必要があります。

William t. Harvey, alessandro M. Carabelli(敬称略)ら
イギリスの医療研究グループは、
新型コロナウィルスの変異についてテーマを絞って
経緯、種類、特徴、ワクチンの効果など包括されています(1)。
本日はその内容の一部を考察、内容追記しながら
読者の方と情報共有したいと思います。

今や世界的に広がっている変異であるD614Gは
最初にイギリスで流行が見られました。
それが2020年4月だといわれています。
今や南アフリカやブラジルなどで広がっている
変異系統も含めて多くの流行変異系統に
このD614Gの変異が含まれています。
従って、変異系統としては環境適合性が高いと
結果的にも考える事が出来ます。
この変異は冒頭で述べた2つの中では
ACE2受容体との結合親和性を高めるので
細胞感染性が高まる変異となります。
ゆえに自然選択説からしても
この変異が最終的に勢力を増すことは合理的です。

このACE2との結合親和性を高める変異はいくつかあります。
スコットランドで2020年3月に見られた
N439K変異もその一つで
その後、多くのヨーロッパの国で見られています(2)。
さらにデンマークではY453F変異が見つかり
これも細胞感染性を高める変異とされています(3)。

新型コロナウィルスに感染した時、
B細胞などを通じて産生される抗体はモノクローナル(1種類)ではなく
ポリクローナル(多種類)であることが知られています。
このモノクローナル性は一般的に
ワクチン接種によって得られた抗体の方が高い
ことが過去の研究で知られています。
従って、抗体は1種類ではないため
各抗体を分析する必要があります。
その抗体は下記のように大分類されています(4)。
-
(Class1)
オープン配座でのみACE2結合を阻害する抗体
(Class2)
オープン/クローズ配座両方でACE2結合を阻害する抗体
(Class3)
オープン/クローズ配座共にACE2結合を阻害しない抗体
(Class4)
オープン配座でのみACE2結合を阻害するが
結合部位はRBD以外の領域である抗体
(NTD)
NDTに特異的な抗体
※NDT抗体がどのようにACE2結合を阻害するか不明な点が多い
とされています。
-
従って、これらのクラスの異なる抗体を
うまく組み合わせることで交差性の高い、
変異に強い中和抗体系統を組める可能性があります。

冒頭で述べた免疫逃避性を高める変異残基は
E484が世界で最も広く流行が観られます。
DMS(Deep mutational scanning)によれば
このE484残基(E484K)変異が
抗体の中和能力を低下させるうえで
原理的に重要であることを示しています(5)。
その他の逃避変異としては
RBD面ではK444、K445残基が逃避変異を示すことが知られています(6,7)。
他にNTDではいくつかの逃避変異性を示す部位があります(6,7)。
(ΔF140, N148S, K150R, K150E, K150T, K150Q and S151P) 

今世界的に流行している変異系統である
B.1.1.7, B.1.351 and P.1 
これらはいずれも細胞感染性を高める変異(D614G)と
免疫逃避(E484K)を含む株が含まれています。
いずれの変異も変異箇所(残基)は1つではなく
複数含まれています。
この事は今後、新型コロナウィルスの流行が続く中で
脅威となる複数の変異が同時に入る可能性を示しています。
例えば、逃避変異であるE484K、K444R、K445E
さらにはNTDの複数の変異が全て入り
その上で細胞感染性を高める複数の変異が同時に入る
可能性も最終的には考えられます。
DMSによれば、E484Kは最も逃避変異性が高いと
されていますから、「単一」の変異では
それ以上の逃避性を示す変異箇所がなかったとしても、
組み合わせの中で抗体の効果がより下がる系統が
生じる事が想定されます。
従って、そのような変異系統が生じる前に
世界的なウィルス株を早期に減少させる事は
ワクチンの配布が遅れている中低所得の国だけではなく
高所得の国においても重要になります。

ワクチンの効果については
細胞感染性を高めるD614Gの変異系統に関しては
中和能が下がらないことが示されていますが、
E484K逃避変異の場合にはmRNAワクチンにおいて
著しく中和能が低下する事が確かめられています
(19.2倍~42倍)(1)。
しかし、このことが定量的に
ワクチンの効果に単一要因として反映されるわけではありません。
実際の疫学調査では
NVX- CoV2373(Novavax)は60%の予防効果(8)。
JNJ-78436735(Johnson & Johnson/Janssen)
これについは57%の予防効果(9)。
これらがB.1.351変異系統で確認されています。
また効果が小さかった
ChAdOx1 nCoV-19 vaccine (AstraZeneca)  
においてもブレークスルー感染事例の症状は
軽症、中等症に抑えられています(10)。

ファイザー、ビオンテックのmRNAワクチンBNT162b2 
これにおいてSタンパク質特異的なT細胞の産生が
数十人規模の健常者を対象とした分析で明らかにされています(11)。
極性、表現型の評価から
これらの細胞は細胞性免疫に関連すると考えられます。
従って、B細胞による抗体の中和能だけではなく
今述べたような細胞性免疫や
ウィルスに暴露した時のB細胞の反応性など
いくつかの要因が予防や軽症化に関わっていると考えられます。

変異はある任意の確率で常に生じ
その数が多ければ多いほど変異が生じやすくなります。
従って、組み合わせも含めた脅威性の高い
ウィルス系統が生じる前にウィルスの数を
国際的に低下させる事が重要になります。
そのためには多面的な効果が期待できる
ワクチンの国際的十分な生産、配布の早期実現が重要になります。
しかし、
現状ではワクチンを生産できる企業は限られており
技術供与を受けたとしても
早期に対応する事にも課題があるため
十分な生産性に課題があるとされています。
このような避けがたい課題を考慮すると
少なくとも世界的な変異系統の継続的な監視体制は
今と同様に必要になります。
もし、脅威性が高い系統が生じたのであれば
国際的な体制の中で拡散を防ぐような措置が必要になります。

(Reference)
(1)
William T. Harvey, Alessandro M. Carabelli, Ben Jackson, Ravindra K. Gupta, Emma C. Thomson, Ewan M. Harrison, Catherine Ludden, Richard Reeve, Andrew Rambaut, COVID-19 Genomics UK (COG-UK) Consortium, Sharon J. Peacock & David L. Robertson
SARS-CoV-2 variants, spike mutations and immune escape
Nature Reviews Microbiology (2021)

Author information
Author notes
These authors contributed equally: William T. Harvey, Alessandro M. Carabelli.
A list of members and their affiliations appears in Supplementary information.
Affiliations
Institute of Biodiversity, Animal Health and Comparative Medicine, College of Medical, Veterinary and Life Sciences, University of Glasgow, Glasgow, UK
William T. Harvey & Richard Reeve
MRC–University of Glasgow Centre for Virus Research, Glasgow, UK
William T. Harvey & David L. Robertson
Department of Medicine, University of Cambridge, Cambridge, UK
Alessandro M. Carabelli, Ewan M. Harrison, Catherine Ludden & Sharon J. Peacock
Institute of Evolutionary Biology, University of Edinburgh, Edinburgh, UK
Ben Jackson & Andrew Rambaut
Cambridge Institute of Therapeutic Immunology and Infectious Disease, University of Cambridge, Cambridge, UK
Ravindra K. Gupta
Department of Clinical Research, London School of Hygiene and Tropical Medicine, London, UK
Emma C. Thomson
Wellcome Sanger Institute, Hinxton, UK
Emma C. Thomson & Ewan M. Harrison
Consortia
COVID-19 Genomics UK (COG-UK) Consortium

(2)
Thomson, E. C. et al. 
Circulating SARS- CoV-2 spike N439K variants maintain fitness while evading antibody- mediated immunity. 
Cell 184, 1171–1187 e1120 (2021).
(3)
Starr, T. N. et al. 
Deep mutational scanning of  SARS- CoV-2 receptor binding domain reveals constraints on folding and ACE2 binding. 
Cell 182, 1295–1310.e1220 (2020).
(4)
Barnes, C. O. et al. 
SARS- CoV-2 neutralizing antibody structures inform therapeutic strategies. 
Nature 588, 682–687 (2020).
(5)
Greaney, A. J. et al. 
Comprehensive mapping of mutations in the SARS- CoV-2 receptor- binding domain that affect recognition by polyclonal human plasma antibodies. 
Cell Host Microbe 29, 463–476 e466 (2021).
(6)
Weisblum, Y. et al. 
Escape from neutralizing antibodies by SARS- CoV-2 spike protein variants. 
eLife https://doi.org/10.7554/eLife.61312 (2020).
(7)
Andreano, E. et al. 
SARS- CoV-2 escape in vitro from  a highly neutralizing COVID-19 convalescent plasma. 
Preprint at bioRxiv https://doi.org/10.1101/ 2020.12.28.424451 (2020).
(8)
Mahase, E. 
Covid-19: Novavax vaccine efficacy is 86% against UK variant and 60% against South African variant. 
Br. Med. J. 372, n296 (2021).
(9)
Mahase, 
E. Covid-19: Where are we on vaccines and variants? 
Br. Med. J. 372, n597 (2021).
(10)
Madhi SA, Baillie V, Cutland CL, et al. 
Efficacy of the ChAdOx1 nCoV-19 Covid-19 vaccine against the B.1.351 variant. 
N Engl J Med 2021; 384:
(11)
Ugur Sahin, Alexander Muik, Isabel Vogler, Evelyna Derhovanessian, Lena M. Kranz, Mathias Vormehr, Jasmin Quandt, Nicole Bidmon, Alexander Ulges, Alina Baum, Kristen E. Pascal, Daniel Maurus, Sebastian Brachtendorf, Verena Lörks, Julian Sikorski, Peter Koch, Rolf Hilker, Dirk Becker, Ann-Kathrin Eller, Jan Grützner, Manuel Tonigold, Carsten Boesler, Corinna Rosenbaum, Ludwig Heesen, Marie-Cristine Kühnle, Asaf Poran, Jesse Z. Dong, Ulrich Luxemburger, Alexandra Kemmer-Brück, David Langer, Martin Bexon, Stefanie Bolte, Tania Palanche, Armin Schultz, Sybille Baumann, Azita J. Mahiny, Gábor Boros, Jonas Reinholz, Gábor T. Szabó, Katalin Karikó, Pei-Yong Shi, Camila Fontes-Garfias, John L. Perez, Mark Cutler, David Cooper, Christos A. Kyratsous, Philip R. Dormitzer, Kathrin U. Jansen & Özlem Türeci 
BNT162b2 vaccine induces neutralizing antibodies and poly-specific T cells in humans
Nature (2021)

Author information
Affiliations
BioNTech, An der Goldgrube 12, 55131, Mainz, Germany
Ugur Sahin, Alexander Muik, Isabel Vogler, Evelyna Derhovanessian, Lena M. Kranz, Mathias Vormehr, Jasmin Quandt, Nicole Bidmon, Alexander Ulges, Daniel Maurus, Sebastian Brachtendorf, Verena Lörks, Julian Sikorski, Peter Koch, Rolf Hilker, Dirk Becker, Ann-Kathrin Eller, Jan Grützner, Manuel Tonigold, Carsten Boesler, Corinna Rosenbaum, Ludwig Heesen, Marie-Cristine Kühnle, Ulrich Luxemburger, Alexandra Kemmer-Brück, David Langer, Stefanie Bolte, Tania Palanche, Azita J. Mahiny, Gábor Boros, Jonas Reinholz, Gábor T. Szabó, Katalin Karikó & Özlem Türeci
TRON gGmbH – Translational Oncology at the University Medical Center of the Johannes Gutenberg, University Freiligrathstraße 12, 55131, Mainz, Germany
Ugur Sahin
BioNTech US, 40 Erie Street, Suite 110, Cambridge, MA, 02139, USA
Asaf Poran & Jesse Z. Dong
Pfizer, 401 N Middletown Rd., Pearl River, NY, 10960, USA
John L. Perez, Mark Cutler, David Cooper, Philip R. Dormitzer & Kathrin U. Jansen
Regeneron Pharmaceuticals, Inc., 777 Old Saw Mill River Rd, Tarrytown, NY, 10591, USA
Alina Baum, Kristen E. Pascal & Christos A. Kyratsous
University of Texas Medical Branch, Galveston, TX, 77555, USA
Pei-Yong Shi & Camila Fontes-Garfias
CRS Clinical Research Services Mannheim GmbH, Grenadierstrasse 1, 68167, Mannheim, Germany
Armin Schultz
CRS Clinical Research Services Berlin GmbH, Sellerstraße 31, Gebäude P300, 13353, Berlin, Germany
Sybille Baumann
Bexon Clinical Consulting LLC, Upper Montclair, NJ, 07043, USA
Martin Bexon


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