mRNA治療の潜在性を十分に得るためには
生体内での技術的に進んだ送達システムを
確立する必要があります。
心臓、腎臓、脳、肺などの
固形の臓器に対しては特にあてはまります。
肝臓は標的化しやすい臓器です。
窓構造がある脈管構造は
大きな粒子の効率的かつ均一な輸送を促進します。
単純な血管内の投与は
mRNA積載物の肝臓での効率的は発現を可能にします。
しかしながら、
肝臓以外の他の臓器に関しては
カテーテルを通して直接的に投与するか
任意の臓器に対して走化性を持つように
パッケージシステムをエンジニアリングするか
によって送達システムを改善する必要があります。
それぞれの臓器は
適した送達システムがあるとされています。
--
Eduarde Rohner(敬称略)らは
腎臓、肺、脳への注入投与、
カテーテル投与について総括しています。
細胞種特異的な送達システムに関連する内容も
総括しています(1)。
独自の観点を入れながら内容を参照しました。
その内容を読者の方と情報共有したいと思います。
//腎臓への薬剤注入投与//ーー
腎臓は肝臓とは異なり、
大きな分子はろ過して取り除き
小さな分子のみ通過することができます。
糸球体は50kDa以上のタンパク質は活発に除去します。
有足細胞は10nmの系を持つスリットを作り
循環器から腎臓へ輸送する際の障害になります(2)。
腎臓の髄質、皮質への直接的な被膜下の注入は
ニードルやカテーテルの差し込み深さを変える
ことによって達成することができます。
腎臓への異なる区画への効率的な局所的輸送は
いくつかのルートの投与によって可能です(3)。
①腎動脈、糸球体、尿細管上皮標的
②逆行性腎静脈、尿細管標的
局所的な脈管の圧力の上昇は
一時的な細孔を細胞被膜に作り出し
核酸の滲出を促します(4)。
③逆行性尿管、尿細管上皮標的
④実質内
いくつかの報告では遺伝子治療による
腎疾患の治療の為のルートとして
適していることが示されています(5,6)。
それぞれの疾患に対応する特異的な病理は
異なる腎臓区画、細胞種に関連するので
薬剤送達を考える際には
その特異性に整合した細胞種を標的とするように
システムを組む必要があります。
--
腎臓疾患に対するmRNA治療は
まだ臨床応用には達していません。
しかし、臨床研究においては2つが検討されています。
Alport腎症のために
miR21を標的とした薬剤の一つが
現在フェーズ2の臨床試験に進んでいます。
(NCT02855268).
常染色体優性多発性嚢胞腎症に対しては
Antagomir-inhibiting miR17を使ったmiRNA治療において
現在フェーズ1の臨床試験が実施されています
(NCT04536688)。
//肺への薬剤吸入投与//ーー
肺は吸入を通してすぐに到達し、
少ない薬剤用量で済むと考えられています。
従って、全身性の副作用のリスクを下げる事ができます。
肺輸送の魅力的なシステムは
直接的、急速、非侵襲での
肺胞、肺柔組織へのアクセスです。
肺ルートにおける空気層は
核酸活性が血液中に比べて低いために
RNAの安定性が向上し、
送達の為の環境が優れているとされています(7)。
しかしながら、
吸入による薬剤送達は特有の課題があるとされています。
mRNAはエアロゾル化の間に生じる強いせん断応力
に対して耐える堅牢性が必要になります(8)。
肺上皮表面の表面積、粘膜構造は
効率的なmRNA輸送の障害となります。
嚢胞性線維症に関するフェーズ1/2の臨床試験では
嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)を
エンコードしたmRNA治療が
吸入投与によって試みられました。
安全性は高かったものの、
肺機能の顕著な改善は見られなかった
とされています(9-11)。
//脳への薬剤投与//ーー
脳は身体の中で最も遺伝子的に複雑な臓器で
治療が最も難しいとされています。
髄膜や頭蓋骨の中に閉じ込められ、
輸送の際には血液脳関門によってフィルターされます(12)。
この血液脳関門は薬剤輸送において
1つの障害となります。
その障害を乗り越えるための方略は
脳の柔組織に対する直接的な投与や
脳脊髄液への直接的な投与です。
用量は投与方法によって最適値が異なります。
また、脳脊髄液への投与では
脳室と大脳皮質の間のサイズや距離によって
均一的な標的化が難しいとされています(13)。
一方で
直接的な脳サイトへのアクセスの場合は
注入サイトの近くの領域への輸送に限られます。
この方式は当然、侵襲的なので
外科的なスキルも必要でリスクがあります。
従って、広範な適用性においては制限的です。
--
一方で、代替となるルートとしては
鼻腔の粘膜と脳の神経経路が繋がっているので
その経路を使うことができます。
これは中枢神経系に対する非侵襲的なルート
投与方法となります(14,15)。
このルートでは迅速な送達が可能で
数分で中枢神経系に薬剤を届ける事が可能です。
薬剤は低分子量(<1kDa)で高い親油性が
好ましいとされています。
しかし、異なる領域に対する
薬剤の濃度管理は難しいとされています(16,17)。
透過促進剤を使えば、鼻腔の高分子量薬剤の生体利用効率は
高まります。それなしでは
低分子量(<1kDa)以上の鼻腔の吸収は
顕著に減少します(18,19)。
ラットによる臨床前試験では
鼻腔内投与による中枢神経系への
VEGF(38.2 kDa)の直接的輸送において
30分以内で直接的な輸送を示しました(20)。
もう一つのマウスによる臨床前試験では
陽イオン性のリポソームに封止されたmRNAの
鼻腔内投与において
線条体、皮質、中脳などの特定の脳領域への
効果的な輸送が確認されました(21)。
--
脳への薬剤送達は難しいとされているため
特定の細胞種に対して走化性を持つ
メカニズムを組み込むことが求められます(22)。
ASOsやRNA治療に関しては
脊髄性筋萎縮症の治療において
初めてFDAに承認されました(23)。
しかし、
筋萎縮性側索硬化症においては
ASO治療においてはフェーズ3治験で
近年、中止されています。
(NCT02623699).
//カテーテル輸送//ーー
Werner Fossmann(敬称略)により
1929年に心臓へのカテーテル挿入が成功して以来
心臓カテーテルベース療法は
現代の心臓病の不可欠な部分となっています。
カテーテル療法が一般化した事により
冠動脈疾患、弁膜症、構造的奇形の
効果的な治療が可能になりました。
加えて
心臓のカテーテルベース送達法は
遺伝子ベース、細胞ベースの治療応用に対して
詳しくその可能性が探索されています(24,25)。
心臓は心臓血管の中枢となる臓器なので、
血管内からアプローチする方法はいくつかあります。
ここ数十年でこの技術は
顕著な改善がみられています。
Trans-vessel-wall microcathetersは
細胞や他の治療仲介物質を直接的に
組織に注入することができます。
効率的に、かつ副作用のリスクも減らすことができます(26)。
血管内のデバイスを使用した臨床前試験では
心臓、腎臓、膵臓のような臓器に
穿刺部位のシールの必要性なしに
直接的にアクセスする事が可能でした(27)。
再循環デバイスは
対象となる部位に複数回
治療媒体を通過させることができ
大きな動物モデルで導入効率が向上しています(28)。
Selective pressure-regulated retroinfusion
with blockage of the antegrade flow
は安全にアプローチすることができ
cDNA, miRNA抑制剤、遺伝子治療媒体などを
効率的に輸送することができます(29)。
--
侵襲性を最小化するために
チューブ径を減らす事を通じて
さらなるカテーテル設計の改善が考えられています。
また分布量を最大化させるための
注入パラメータの最適化
逆流を防ぐためのシステムなども
改善の余地として挙げられています(30-32)。
また、マイクロ電子デバイスによって
ポジショニングやナビゲーションシステムを
導入する事によって(33)、
人の熟練度に依存しないカテーテル導入システムを
構築できル可能性があります。
これらのシステムは
細胞種特異的な送達システムのための
細胞向性をプログラムしたパッケージと合わせて
適用することができます。
つまり、大きなスケールでの局在性は
カテーテルシステムに依存して、
そこからより細かい分布に関しては
細胞種特異的な送達システムに任せる
ということです。
//細胞種特異的輸送系統(*)//ーー
(*)Cell-type-specific delivery system
細胞種特異的な送達システムのための
パッケージシステムの医療工学、エンジニアリングについて
考えられています。
RNAパッケージ応用については
高い輸送効率、低い免疫原性、細胞毒性について
今まで詳しく考えられ、設計されてきましたが、
細胞種まで特異性を絞った設計については
今まであまり焦点が当てられませんでした。
細胞種特異的輸送系統では
各細胞種が発現している特有の表面受容体、リガンドに
着目して、それと特異的結合性を持つ表面装飾を
パッケージに施すという構想です。
実際にApoEという物質は
循環器でコロナとしてパッケージに結合する事が知られ
このApoEが肝臓の細胞と結合親和性が高いことから
肝臓に取り込まれやすいという事があります。
実際にPEGコートすれば、
ApoEと肝臓の結合親和性を下げる事が出来
それに伴って、肝臓への向性を下げる事ができます。
Eduarde Rohner(敬称略)らが示すように
パッケージの電荷の状態によって
どの臓器に走化性を持つかというのは変わってくる
ということもありますが、
パッケージの表面装飾によって
それと結合性の高い表面受容体、リガンドがあれば
それに対して走化性を持つという事が
今までの研究でもわかっています。
例えば、anti-Ly6c抗体でコートした
脂質ナノ粒子はLy6c発現白血球に
RNA積載物を特異的に輸送する事が知られています(34)。
このように抗体を複合体として形成した
脂質ナノ粒子は今まで活発に研究されています(35-38)。
細胞ベースのパッケージでは
標的としたい受容体に結合親和性のある表面装飾を
遺伝子導入などを行う事によって
過剰発現させ走化性を高める事も提案されます(39)。
細胞外小胞でも同様のエンジニアリングを行う
ことができます(40)。
マクロファージなどでコートした
脂質ナノ粒子はマクロファージが持つ受容体を利用して
癌細胞を標的とすることができます(41)。
//まとめ//ーー
薬剤送達においては
1つの技術ですべてに対応しようとせず、
複数の技術の組み合わせの中で
よりより選択肢を見つけていく事が賢明かもしれません。
カテーテル技術が使えるのであれば、
患部近くまでアクセスした状態で
細胞種特異的な送達プログラムを持つ
パッケージシステムを注入するということです。
あるいはカテーテルではなく
直接的な注入もあてはまりますし、
輸送方式、ルートを変えるという事も考えられます。
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