2022年11月5日土曜日

インテグリン装飾の細胞外小胞による薬剤送達システム

トランスレーショナル医療は
基礎から臨床応用へつなぐ医療を考える事ですが、
基礎から臨床というベクトルだけではなく、
臨床から基礎という方向性で考えていく事も
重要であると考えられます。
Chikako Shibata(敬称略)らは
がん患者で多く診られる悪液質が
膵臓がん患者では、
まだ病変が局所に留まっているうちから
体重減少を呈する事を臨床現場から認知しています(2)。
日本癌治療学会学術集会による
コホート研究によると
悪液質(5%以上の体重減少)と診断された割合は
膵臓がんの患者さんにおいて
1次治療化学療法前で50%であり
そこから治療を始めて
最終的に70%まで上昇したと報告されています。
実際にこの報告でも
膵臓がん患者で高頻度に見られるとされています。
このような人による
臨床的な事実から
Chikako Shibata(敬称略)らは
癌細胞から多く放出される細胞外小胞に焦点を当て
それが全身の脂肪分解に関与しているのではないか?
と仮説を立てて検証しました(2)。
それによって
膵臓がんから特異的に放出される
細胞外小胞は脂肪分解物質を含み、
表面にインテグリンα6β1を装飾している事で
脂肪細胞との吸着性が高まっている
という事を示しました。
このインテグリンα6β1は
肺や脂肪組織特異的に発現されている
ラミニンα4, α5に
特異的な強い接着機能があることが
確認されたため、
膵臓がんに罹患している患者さんの
がん細胞から放出された細胞外小胞は
インテグリン依存的な機序で
脂肪分解が促されていると推測できます。
実際には悪液質はサイトカインなど
免疫的な作用もある(3)とされていますし、
点滴をするかもしれないですが、
癌の代謝のエネルギーの高さから
エネルギー不足に陥りやすいということも
挙げられるかもしれません。
その様な事は
悪液質を改善する上で逐次考えていく必要はある
と認識していますが、
このインテグリン依存的な
細胞外小胞の輸送機序を「逆用」することで
細胞種特異的な薬剤送達システムに
活かすことができないか?
という視点を強く持っています。
もし、
臨床現場で今回調べられた膵臓がんで
悪液質に罹った多くの患者さんの
脂肪の減少が全身に及んで起こるとするならば、
逆に考えると
そのような特異的送達が
全身の組織に対しても行える可能性があるのではないか?
と想定することができます。
それは人の臨床の結果から得たヒントなので
基礎から臨床応用を考える際において
非常に重要で、有効な事です。
科学技術一般的には
「自然からその機能について学ぶ」
という考え方がありますが、
人の身体も自然の一部ですから
人の身体で生じた結果からヒントを得る考え方は
いくつかの難しい壁を乗り越える
アイデアを与えてくれるものかもしれません。
従って、
脂肪の分解がどのように、どのような箇所で起こっているのか?
男性と比較して脂肪の多い女性の患者さんではどうか?
といった臨床現場の情報が非常に重要になります。
--
このインテグリンは
Eun Jeong Park(敬称略)らの総括(1)から
免疫細胞を含め、細胞の移動性を決める
非常に重要な因子であることが知られています。
インテグリンを活性化させれば
固着して移動性を失い、
それを不活性化させれば、移動性を獲得します。
従って、
移動性を決める「スイッチ」のような役割を
果たしていると考えられます。
細胞種特異的輸送系統
(Cell-type-specific delivery system)では
主に薬剤の「輸送」について考え、
ナノ小胞の一つとして
細胞外小胞を重要な選択肢としています。
インテグリンは細胞の移動性を決める
1つの重要な表面リガンドですから
細胞と似た形質を持つ細胞外小胞においても
特異的輸送の鍵となる表面リガンドである
と推定する事ができます。
実際にChikako Shibata(敬称略)らの研究においても
インテグリンが脂肪細胞への輸送において重要であり
それは人にも当てはまる可能性が強く示唆されました(2)。
しかしながら、
細胞外小胞を含む
ジェルやナノ小胞などの技術においては
肝臓の代謝、コロナの付着、免疫のクリアランス
免疫機能惹起(サイトカインストーム)など
輸送においての大きな壁があります。
コロナの付着においては
分析も難しいという困難な課題もあります(4)。
一つ一つ、ボトムアップで積み上げていくことも
大事ですが、特に細胞外小胞の場合は
その複雑性、異種性、難再現性に圧倒され、
研究開発の断念を検討する結果に陥る
可能性も否定できません。
そうした時に助け船を出してくれるのが
上述したように
「人の身体で起こっている事からヒントを得る。」
ということです。
細胞外小胞は人の身体の中に自然に備わった機能ですから
複雑性はありますが、
人の身体の現象から学ぶことができる事が
1つの大きな利点です。
それによって想定していない解決策が
生まれる可能性もあります。
従って、人を診る機関である
病院との連携は非常に重要になります。
--
Eun Jeong Park(敬称略)らの総括によると
インテグリンは非常に精巧な機序を持っています。
不活性状態と活性状態で
構造を大きく変えます。
「稲穂が垂れさがったような」不活性状態と
「稲穂が立ったような」活性状態があります。
この構造上の活性度を決めているのは
タリンと呼ばれる物質です。
この物質が細胞質側から
インテグリンのβ鎖の根の部分に結合することで
インテグリンは活性状態になります。
また、さらに
キンドリン(kindlin)という物質が
タリンと複合的に結合すれば、
インテグリンは束を形成します。
(integrin clustering)
それによってさらに活性度は上がります。
(参考文献(1) Fig.2)
このような
不活性な状態と活性な状態をうまく制御する事で
病変部位に行くまでの循環器の途中過程では
インテグリンは周辺の組織と結合しにくいけど
病変部位に行った時には
インテグリンを活性化させて
結合活性を場所特異的に向上させることが
できる可能性があります。
「吸着スイッチを体内で病変部位近くで入れる」
ということです。
こういう事は
すでに体内で自然に起こっているかもしれません。
(ここは大切なところなので検証が必要です。)
癌が転移するときなどは
癌細胞や癌由来の細胞外小胞では
インテグリンの活性度が変わって、
転移サイトの微小環境近くで
タリン、キンドリン依存的に高まっている
可能性も考えられます。
この時には
それらの物質を直接取り込んだり、
あるいは
癌微小環境からタリン発現の高めるmiRNAや
発現を抑制するmiRNAの抑制因子(5)を細胞外小胞を介して
受け取っているかもしれません。
タリンは前立腺がんなど癌環境では
発現が高まっている事が知られています(6)。
従って、
それに応じて細胞や細胞外小胞の
インテグリン依存的な接着性が高まっている
ことが推測されます
--
具体的な狙いとしては
自然にそうなっている
あるいはそうなる可能性がありますが、
全身に転移した腫瘍組織、
送達、外科的アクセスが難しい腫瘍組織、
癒着性の高い腫瘍組織、
悪性度、進行性が高い腫瘍組織など
治療の難しい腫瘍組織に対して
それに効果のある薬剤を
細胞外小胞に詰め込んで、
その腫瘍組織に多く発現している
インテグリン
あるいは多く発現している
インテグリンの相手方に結合するインテグリン
高密度で装飾させます。
その時に、
今までは他の組織にないインテグリンである
必要性を謳ってきましたが、
インテグリンにはダイナミックな構造変化があり
その活性度を変える事によって
大きく結合親和性、接着度が変わるので
その接着の為のスイッチを
腫瘍組織付近で入れる事を考えます。
おそらく、
腫瘍組織付近は癒着性、吸着性が高まっているため
インテグリンの活性度が上がりやすい環境になっている
と仮説を立てています。
(もちろん検証は必要です。)
タリンやキンドリン依存的に
インテグリンの活性度を選択的に高めます。
エクソソームなどの細胞外小胞は
周辺のタリン、キンドリンを取り込んで
細胞と同様にインテグリンの活性度を変える事ができる
機序があるかもしれません。
(ここは重要なところなので
慎重かつ詳しい検証が必要です(7)。)
また、細胞外小胞は融合することもあります(8)。
その時に細胞外小胞の表面リガンドの状態は変わり
腫瘍組織の周りにある
インテグリンの活性度が高い細胞外小胞の形質が
薬剤が詰め込まれた細胞外小胞に転写される
可能性があります。
細胞外小胞には人の体内で移動性を決めている事が
一般的に知られている(1)インテグリンを
固着の為の足として使用したいというのがあります。
その時の足場(scaffold)としては
もちろんインテグリンに結合性を持つ
ラミニン、フェブロネクチンなどの受容体で
あることが必須ですが、
癌細胞自身を調べた時にそれが必ずある必要はありません。
例えば、
治療が難しい膵臓がんには
α6β1のインテグリンが癌細胞にあるとします。
その膵臓がんに治療効果のある薬剤を詰めこんだ
細胞外小胞の表面リガンドを
同じインテグリンα6β1とすると
「鍵と鍵穴の関係が成り立たない」となります。
しかし、同じインテグリンがあるならば
必ず強く固着しているわけですから
その周辺の微小環境に
それに強い結合性を持つラミニンα4,α5などの
受容体があるはずです。
その受容体を標的として
細胞外小胞を固着させ、
そこで細胞外小胞が寿命を迎え
小胞内の薬剤を放出させるようなシステムを組みます。
そうすると微小環境内の薬剤の濃度を
特異的に上げられるので
癌微小環境全体の治療に貢献します。
--
ナノ小胞で問題となるコロナや
免疫クリアランス、肝臓での代謝はどうか?
といった課題はありますが、
それもボトムアップで詳しく調べていく必要は
もちろんありますが、
すでに繰り返し述べた様に
身体の中で輸送特異性があるのであれば、
こういった問題の影響を超えて
それを利用することもできます。
例えば、
コロナであれば、
インテグリンが不活性な時には
接着性が下がっているわけですから
コロナ形成しにくいというのはあるかもしれません。
もっと予想外な機序としては
コロナが構造上折れている時に付着していたものが
タリンによって立ち上がった時の
動力、機械的な力によって
コロナが剥がれるという事もあるかもしれません。
キンドリンによる
インテグリン多量体形成
(インテグリンクラスタリング)は
免疫シナプスのような強い接着性があって
表面の多少のデブリは大きな
影響はないかもしれません。
--
細胞外小胞による精密医療の実現は
合成ナノ粒子と共に難しい可能性がありますが、
ボトムアップとトップダウンの両輪を回すことで
その実現性に貢献する可能性があります。
ボトムアップとは
試験管や動物実験で基礎実験をしたり
その根拠となる構造を含む
物理的、化学的特性を解析により明らかにしていく
あるいは、マルチオミックス解析などを
していくことです。
トップダウンとは
ゴールである臨床現場の結果からヒントを得たり、
人の身体の中の自然な生理を分析したりすることから
薬剤開発のヒントを得る事です。
それをボトムアップとつなげて考えていきます。

//まとめ//ーー
今までインテグリンを介した特異的輸送は
インテグリンの各型の特異性が低いため
難しいと考えていました。
しかし、インテグリンの活性度を変えるための
構造がある事実から、特異的輸送に関しては
別次元の考え方があります。
もちろん特異的なインテグリンを探し、
輸送経路を考えて選択する事は大事だと思いますが、
インテグリンの結合活性が人の体内で
変わっている可能性を調べることも
特異的薬剤送達のため重要です。
インテグリンは細胞の移動性を決める重要な
リガンドであり、
同じような機能を持つリガンドを探すことの
重要性があります。
インテグリンの動的な事も含めた
特に移動性に関わる機能について調べていく事は
細胞や細胞外小胞を使った
送達システムに貢献する可能性があります。

(参考文献)
(1)
Eun Jeong Park, Yoshikazu Yuki, Hiroshi Kiyono & Motomu Shimaoka
Structural basis of blocking integrin activation and deactivation for anti-inflammation
Journal of Biomedical Science volume 22, Article number: 51 (2015)
(2)
Chikako Shibata, Motoyuki Otsuka, Takahiro Seimiya, Takahiro Kishikawa, Kazunaga Ishigaki, Mitsuhiro Fujishiro
Lipolysis by pancreatic cancer-derived extracellular vesicles in cancer-associated cachexia via specific integrins
Clinical and Translational Medicine Volume12, Issue11 November 2022 e1089
(3)
Hatoon Baazim, Laura Antonio-Herrera & Andreas Bergthaler
The interplay of immunology and cachexia in infection and cancer
Nature Reviews Immunology volume 22, pages309–321 (2022)
(4)
Ali Akbar Ashkarran, Hassan Gharibi, Elizabeth Voke, Markita P. Landry, Amir Ata Saei & Morteza Mahmoudi
Measurements of heterogeneity in proteomics analysis of the nanoparticle protein corona across core facilities
Nature Communications volume 13, Article number: 6610 (2022)
(5)
Gideon Obeng, Eun Jeong Park, Michael G. Appiah, Eiji Kawamoto, Arong Gaowa & Motomu Shimaoka
miRNA-200c-3p targets talin-1 to regulate integrin-mediated cell adhesion
Scientific Reports volume 11, Article number: 21597 (2021) 
(6)
Andreas Desiniotis* and Natasha Kyprianou
Significance of Talin in Cancer Progression and Metastasis
Int Rev Cell Mol Biol. 2011; 289: 117–147.
(7)
Zay Yar Soe 1, Onmanee Prajuabjinda 1, Phyoe Kyawe Myint 1, Arong Gaowa 1, Eiji Kawamoto 2, Eun Jeong Park 3, Motomu Shimaoka 
Talin-2 regulates integrin functions in exosomes
Biochem Biophys Res Commun. 2019 May 7;512(3):429-434
(8)
Ilaria Prada1 and Jacopo Meldolesi2
Binding and Fusion of Extracellular Vesicles to the Plasma Membrane of Their Cell Targets
Int J Mol Sci. 2016 Aug; 17(8): 1296.

0 コメント:

コメントを投稿

 
;