2022年11月2日水曜日

膵臓がん細胞由来の細胞外小胞による脂肪分解と悪液質、派生的考察

一番初めに医療の分野で学習を始めたのは
その当時、健康分野に関心があったので
日常生活で任意に介入できる
運動に関わる代謝や内分泌でした。
しかし、
医療系のブログ活動を始めた最初のきっかけは癌であり、
患者さんが痛みに苦しむことなく治療できる方法はないか?
そのような薬剤は開発できないか?
と考えました。
それは今でも時々思い出すようにしています。
従って、
癌というのはこの医療の部屋で重要な位置づけにあり、
特に小児がんは最重要となっています。
小児がんに罹った患児のうち
80%は命は救われるとされていますが、
命が助かっても
身体的、精神的な後遺症などがあるため、
より良いがん治療の為に
私の場合は特に良い薬剤を提供することに
貢献したいというのがあります。
--
臨床現場をほとんど知らないので
患児を含めて、
どの様なタイプ、進行度の癌で
患者さんがどのように苦しんでいるのか?
というのは実際にはわからないのですが、
悪液質(Cachexia)というのは
患児を含めた患者さんのがん治療の苦しみに直結する
という事は認識しています(2)。
--
がん悪液質の典型的な症状は
体重減少、骨格筋量減少、食欲不振で
それに付随して
倦怠感、疼痛、不安、抑うつなどが起こるとされています。
悪液質があると、
抗がん剤の効果が落ちたり、副作用が増えたりします。
生活の質や、予後不良などにも関わるとされています。
一般的に
がんに罹患すると太る人よりも
痩せる人のほうが圧倒的に多いです。
食欲不振になって食べられないわけですから、
筋肉量、脂肪量もそれに伴って落ちると考えられます。
体力も奪わえるので、
免疫機能にも影響を与える事も考えられます(3)。
--
このような悪液質は進行した癌ではしばしばみられますが、
膵臓がんではまだ病変が局所に留まっているうちから
体重減少を呈することが知られています(4)。
それがなぜなのかはよくわかっていませんでした。
そこで
Chikako Shibata(敬称略)らは
癌細胞からは通常細胞よりも
細胞外小胞が多く放出されることがわかっているので(5)
膵臓がん細胞から放出された細胞外小胞が
全身の脂肪細胞に働いて
脂肪分解や体重減少を起こすのではないか、
と仮説を立てて検討を行いました(6)。
その結果
細胞外小胞による脂肪分解は
従来から知られている
cAMP–PKA–HSL経路で起こっている事には
違いないのですが(13)、
その経路に関わる物質が
膵臓がん細胞から放出された細胞外小胞内において
通常細胞よりも特別多いわけではなく、
膵臓がん細胞から放出された細胞外小胞が
脂肪細胞に
「走化性を持って効率よく取り込まれることで」
全身の脂肪細胞分解が促されることが示されました(1)。
これらの細胞外小胞は
実際の患者さん(人)の細胞外小胞から
癌細胞由来のそれだけを抽出し、
通常細胞のそれと比較した結果によるものです。
では、なぜ
走化性を持って効率よく脂肪細胞に取り込まれたか?
それは、膵臓がん細胞から放出された細胞は
細胞接着性を持つ表面タンパク質である
インテグリンα6β1を含み
通常細胞はインテグリンβ1を含みませんでした。
この特異的なインテグリンα6β1は
「ラミニン特異的な」インテグリンであり、
このラミニンは
脂肪細胞と肺で発現されていることがわかっています(1)。
従って、
このインテグリンがラミニンに特異的に結合することで
膵臓がん細胞由来の細胞外小胞が
効率よく脂肪細胞に取り込まれる事が
強く疑われます。
そこで、インテグリンα6 or β1を
ノックアウトした細胞外小胞と
脂肪細胞の吸着状態を比較的に調べると
両方の構造ともに接着性に強く関わっていることが
示されています(Figure 3I)。
従って、
結論として
膵臓がん患者で初期から悪液質が起こる原因の一つは、
インテグリンα6β1依存的な
細胞外小胞による脂肪細胞分解である
ということです。

//派生的考察1//ーー
このように脂肪分解性を持つ
ラミニンをリガンドとするインテグリンは
α1β1(many), 
α2β1(many), 
α3β1(many)
α6β1(widespread), 
α7β1(muscle, glioma), 
α6β4(Epithelial cells)
これらなどが挙げられていて
身体の中の細胞に広く見られるとされています。
もし、それぞれの細胞から放出された
細胞外小胞が同じインテグリンを持っていて
脂肪吸着性があり、取り込まれるなら
同じような脂肪分解性を持っている
という可能性もあります。
これは、脂肪を貯蔵する、分解するという
健康状態における脂肪の恒常性に関わる
重要な生理機序の
細胞間ネットワークかもしれません。
そうなると
なぜ、膵臓がんだけなのか?
という疑問が生じますが、
1つの本質は膵臓がんから放出される
「細胞外小胞の量の異常な(?)多さ」
が挙げられるかもしれません。
そうなると治療としては
膵臓がんから細胞外小胞の放出の量を抑えるような
薬を膵臓がん組織に送達させることが挙げられます。
また、進行がんによる悪液質も
同じような機序で脂肪分解が生じているかもしれません。
ここはがん治療中の患者さんの
悪液質改善に関わる事なので特に知りたい部分です。
もし、
通常細胞の「少なくとも一部の細胞(?)」で
同じインテグリンが発現されていて、
(但し、Capan-2には違いがある)
脂肪細胞との接着性が変わらないとすると
癌組織で異常な脂肪分解が起こる原因は
「細胞外小胞分泌の多さ」が
本質的な原因の可能性もあります。
但し、脂肪細胞に結合するだけではなく
細胞外小胞内に脂肪を分解する機序
cAMP–PKA–HSL pathwayを誘発する
物質を含んでいる必要があります。
もう一つの可能性は
膵臓がんの細胞内で作られる細胞外小胞が
細胞内の「何らかの機序」によって
細胞外小胞に多くインテグリンを発現させている
ということです。
つまり、細胞外小胞1つ当たりの
インテグリンの発現量が
膵臓がん細胞と通常細胞で異なる可能性です。
もしくは、もともと膵臓がんには
多くα6β1が発現されているため(11)、
細胞外小胞のα6β1の密度が高いという
可能性もあります。
膵臓がんだけ
臨床現場で転移がない局所の状態で
悪液質になる人が多いという事実があるので
膵臓がんは
〇膵臓、膵臓癌由来細胞外小胞は脂肪分解機序に
 関わる物質を多く含んでいるか?
〇細胞外小胞の分泌量が異常に多いか?
〇細胞外小胞のインテグリン密度が高いか?
あるいは
〇その他の走化性機序があるか?
といったことが検証の余地として考えられます。

//派生的考察2//ーー
膵臓癌細胞は
インテグリンβ1(7,8)
インテグリンαv(9)
インテグリンα6(10)
インテグリンα6β1(11)
これらが成長や転移に関わっているとされています。
従って、
Chikako Shibata(敬称略)らによって
膵臓がん由来の細胞外小胞によって
検出されたインテグリンα6, β1, αvは
もともと膵臓がん細胞表面の受容体として
含まれていたと推測されます。
これはつまり、
ドナー細胞の表面受容体の一部が
細胞外小胞に引き継がれることを示しています。

//派生的考察3//ーー
今回、細胞外小胞で示された
インテグリンα6β1は膵臓がんでは
過剰発現されており、転移に関わっている
という報告もあります(11)。
癌のエクソソームのインテグリンが
転移の臓器走化性、つまりどの臓器に転移するか
を決めているという報告もあります(12)。
上述したα6β1の相手となる受容体は
ラミニンα5,α4であり、
それは脂肪細胞以外の肺にも発現されているので
膵臓がんの肺への転移において
膵臓癌そのものの上皮間葉転換による転移に加えて
細胞外小胞依存的な肺への転移にも
関わっているかもしれません。
膵臓がんの転移先は肝臓が最も多いとされていますが、
肺への転移も一定割合見られるとされています。
従って、
少なくとも上述した可能性は
現時点では除外はできないと考えます。

//派生的考察4//ーー
細胞外小胞の作製の際において
表面リガンドの決定において
ドナー細胞の表面リガンドが引き継がれる可能性が
示されました。
細胞外小胞内に抗がん剤、分子標的薬などの
薬剤を入れる際にはエンジニアリングが必要ですが、
表面リガンドの作製においては
ドナー細胞を適切に選択する事によって
自発的な自然形成が可能である事が示唆されます。
また、
受容体同士の異種複合体化やダイマーの形成
あるいは結合部位の構造変異など
より複雑な設計においても
ドナー細胞の形質を生かして
細胞外小胞に装飾する事が可能かもしれません。

//派生的考察5//ーー
もし、膵臓がんを初め、
全身の脂肪分解が細胞外小胞によって促されるなら
それは細胞外小胞による全身性の治療に
逆に生かすことができる可能性を示唆します。
もし、インテグリンα6β1の
相手はラミニンα4,α5であり、
それが脂肪細胞や肺で多く発現されており
特異性があり、全身の脂肪減少に関わっているなら
細胞外小胞によるインテグリンを介した
全身への特異的輸送が可能であることを
示唆するものであるかもしれません。
--
インテグリンは細胞の接着に関わる受容体であり
その型によって輸送特性の制御が可能であるとするならば、
同様に原発腫瘍と同じ形質を持つと考えられる
全身に転移した複数の腫瘍組織に対して
組織走化性をもって輸送する事が
その腫瘍組織に特異的なインテグリン接着性を持つ
表面リガンドが共通にあれば
インテグリン装飾の細胞外小胞によってできる
という視点が生まれます。
この時には癌細胞だけではなく
癌関連線維芽細胞、細胞外マトリックス
血管壁、癌関連免疫細胞など
全体で送達について考える事が重要です。
但し、その際にはインテグリンは
強い細胞接着があると考えられるため、
同じ型のインテグリンに結合性を持つ
表面リガンドが他の組織で発現されていないか?
といった検証は必要になります。

(参考文献)
(1)
Chikako Shibata, Motoyuki Otsuka, Takahiro Seimiya, Takahiro Kishikawa, Kazunaga Ishigaki, Mitsuhiro Fujishiro
Lipolysis by pancreatic cancer-derived extracellular vesicles in cancer-associated cachexia via specific integrins
Clinical and Translational Medicine Volume12, Issue11 November 2022 e1089
(2)
Daniel V.Runco, Teresa A.Zimmers, AndreaBonetto
The urgent need to improve childhood cancer cachexia
Trends in Cancer 3 August 2022
(3)
Hatoon Baazim, Laura Antonio-Herrera & Andreas Bergthaler
The interplay of immunology and cachexia in infection and cancer
Nature Reviews Immunology volume 22, pages309–321 (2022)
(4)
Sah RP, Sharma A, Nagpal S, et al. Phases of metabolic and soft
tissue changes in months preceding a diagnosis of pancreatic
ductal adenocarcinoma. Gastroenterology. 2019;156:1742-1752.
(5)
Sagar G, Sah RP, Javeed N, et al. Pathogenesis of pancre-
atic cancer exosome-induced lipolysis in adipose tissue. Gut.
2016;65:1165-1174.
(6)
がんになるとなぜ痩せるのか
~膵がん由来の細胞外小胞が脂肪分解を引き起こすメカニズムを解明~
(7)
Arthur Brannon III, Donovan Drouillard, Nina Steele, Shadae Schoettle, Ethan V. Abel, Howard C. Crawford & Marina Pasca di Magliano
Beta 1 integrin signaling mediates pancreatic ductal adenocarcinoma resistance to MEK inhibition
Scientific Reports volume 10, Article number: 11133 (2020) 
(8)
Md Saimon Mia,1 Yagna Jarajapu,1 Reena Rao,2 and Sijo Mathew
Integrin β1 Promotes Pancreatic Tumor Growth by Upregulating Kidlin-2 and TGF-β Receptor-2
Int J Mol Sci. 2021 Oct; 22(19): 10599
(9)
Marius Kemper, Alina Schiecke, Hanna Maar, Sergey Nikulin, Andrey Poloznikov, Vladimir Galatenko, Michael Tachezy, Florian Gebauer, Tobias Lange, Kristoffer Riecken, Alexander Tonevitsky, Achim Aigner, Jakob Izbicki, Udo Schumacher & Daniel Wicklein 
Integrin alpha-V is an important driver in pancreatic adenocarcinoma progression
Journal of Experimental & Clinical Cancer Research volume 40, Article number: 214 (2021) 
(10)
Rolf J. Weinel, Annette Rosendahl, Elisabeth Pinschmidt, Oliver Kisker, Babette Simonm Sentot Santoso
The α6-integrin receptor in pancreatic carcinoma
Gastroenterology VOLUME 108, ISSUE 2, P523-532,
(11)
Roger Vogelmann,Ernst D. Kreuser,Guido Adler,Manfred P. Lutz
Integrin α6β1 role in metastatic behavior of human pancreatic carcinoma cells
International Journal of cancer Volume80, Issue5 1 March 1999 Pages 791-795
(12)
Ayuko Hoshino, Bruno Costa-Silva, Tang-Long Shen, Goncalo Rodrigues, Ayako Hashimoto, Milica Tesic Mark, Henrik Molina, Shinji Kohsaka, Angela Di Giannatale, Sophia Ceder, Swarnima Singh, Caitlin Williams, Nadine Soplop, Kunihiro Uryu, Lindsay Pharmer, Tari King, Linda Bojmar, Alexander E. Davies, Yonathan Ararso, Tuo Zhang, Haiying Zhang, Jonathan Hernandez, Joshua M. Weiss, Vanessa D. Dumont-Cole, Kimberly Kramer, Leonard H. Wexler, Aru Narendran, Gary K. Schwartz, John H. Healey, Per Sandstrom, Knut Jørgen Labori, Elin H. Kure, Paul M. Grandgenett, Michael A. Hollingsworth, Maria de Sousa, Sukhwinder Kaur, Maneesh Jain, Kavita Mallya, Surinder K. Batra, William R. Jarnagin, Mary S. Brady, Oystein Fodstad, Volkmar Muller, Klaus Pantel, Andy J. Minn, Mina J. Bissell, Benjamin A. Garcia, Yibin Kang, Vinagolu K. Rajasekhar, Cyrus M. Ghajar, Irina Matei, Hector Peinado, Jacqueline Bromberg & David Lyden
Tumour exosome integrins determine organotropic metastasis
Nature volume 527, pages329–335 (2015)
(13)
Hoshino A, Kim HS, Bojmar L, et al. Extracellular vesicle
and particle biomarkers define multiple human cancers. Cell.
2020;182:1044-1061.


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