2021年10月12日火曜日 0 コメント

マウス小脳の領域別細胞種分析

小脳は運動記憶、認知、自律神経系制御など
様々な機能を有しており、人の場合は脳幹の後ろ側に
外観がカリフラワー状として存在します。
小脳は大脳の1/10の大きさにも関わらず、
大脳よりもはるかに多くの神経細胞があるとされています。
従って、今まで活発に研究されてきました。
---
その神経信号においては精緻につながっている
神経束は顆粒細胞、プルキンエ細胞を順に活性化して
小脳皮質に出力します(1)。
下オリーブ核から伸びたClimbing fibreは
GABA作動性神経細胞であるプルキンエ細胞を活性化して
神経細胞を繋ぐシナプスの可塑性を制御します(1)。
---
脳神経回路においては
運動系、感覚系の神経系を連携に関わる
抑制系介在神経細胞があります(以下)。
・Molecular layer interneurons (MLIs), 
・Purkinje layer interneurons (PLIs), 
・Golgi cells, 
・Excitatory unipolar brush cells (UBCs) 
・Supportive Bergmann glia. 
---
Velina Kozareva, Caroline Martin(敬称略)らは
マウスの小脳において組織的に15区分し、
それぞれにおいて小脳の神経回路に関わる
細胞種の特徴を細胞レベルの高い処理能力の
転写プロファイリング(snRNA-seq)によって明らかにしています(1)。
それによれば
プルキンエ神経細胞は小脳の領域ごとに異なり、
小脳後部の小葉(部位)では高い多様性を持っている
とされています(1) 15,16。
小葉の介在ニューロンの亜型は離散的であるよりも
遺伝子的特徴が連続的であるとされています
(Ref.(1) Fig.3a)。
その介在ニューロンの一つである刷子細胞も同様であり、
このように遺伝子的特徴が連続である事によって
シナプスを介した電気信号による神経回路の調整が
より連続的であることを示しています。
また介在ニューロンには
2つの遺伝子的に異なるタイプ(MLI1,MLI2)があります
(Ref.(1) Fig.4a)。
神経発火、活性化、電気カップリングなどの
電気生理学的な特徴において大きく異なるとされています
(Ref.(1) Fig.4g,h)。

//Cell-type-specific delivery system//ーー
今回の小脳の小葉ごとの分析によって
今までよりも領域ごとの異種性が高いことが示されました。
脳の様々な領域の細胞種が明らかになる事によって
その細胞種特異的な表面タンパク質を見つけることで
脳内の領域ごとの効率的な輸送が可能になる可能性があります。
異種性が高いことは特異的輸送の可能性を高めます。
脳全体の領域ごとの細胞レベルの分析が進むことによって
脳の生理や病理などの理解だけではなく、
薬理、薬剤輸送においても貢献されると考えられます。
ーー

(Reference)
(1)
Velina Kozareva, Caroline Martin, Tomas Osorno, Stephanie Rudolph, Chong Guo, Charles Vanderburg, Naeem Nadaf, Aviv Regev, Wade G. Regehr & Evan Macosko 
A transcriptomic atlas of mouse cerebellar cortex comprehensively defines cell types
Nature volume 598, pages214–219 (2021)
---
Author information
Author notes
These authors contributed equally: Velina Kozareva, Caroline Martin
Affiliations
Broad Institute of Harvard and MIT, Stanley Center for Psychiatric Research, Cambridge, MA, USA
Velina Kozareva, Caroline Martin, Charles Vanderburg, Naeem Nadaf, Aviv Regev & Evan Macosko
Department of Neurobiology, Harvard Medical School, Boston, MA, USA
Tomas Osorno, Stephanie Rudolph, Chong Guo & Wade G. Regehr
Department of Psychiatry, Massachusetts General Hospital, Boston, MA, USA
Evan Macosko
(2)
Witter, L. & De Zeeuw, C. I. 
Regional functionality of the cerebellum. 
Curr. Opin. Neurobiol. 33, 150–155 (2015).
(3)
Guo, C. et al. 
Purkinje cells directly inhibit granule cells in specialized regions of the cerebellar cortex. 
Neuron 91, 1330–1341 (2016).

2021年10月11日月曜日 0 コメント

mRNAワクチン(BNT162b2)の長期的な効果

日本では12月から新型コロナウィルスワクチンの
3回目の接種が検討されています。
条件としては2回目からおおむね8カ月以上経過した人です。
日本ではこれから抗体価、中和能と共に
想定される次の波も含め、
ワクチンの効果の経時変化が明らかになってくると思います。
しかしながら、世界で先行して接種が進められた国による
これらのデータが明らかになっているので
それを参照し、共有する事は重要になっています。
---
Einav G. Levin, Yaniv Lustig(敬称略)らが
イスラエルの2回目接種から6か月迄の
抗体価と中和能の統計データを示しています(1)。
数千人規模のデータです。
一方、
Hiam Chemaitelly, Patrick Tang(敬称略)らは
クウェートの2回目接種から7カ月までの疫学データを
示しています(2)。
数十万人規模のデータです。
共に日本で接種の対象となっている
ファイザー/ビオンテック社のBNT162b2ワクチンです。

---
本日はその公開データの一部、考察を
読者の方と共有したいと思います。

//抗体価(1)//---
-
(経時変化)
IgGの抗体価は2回目接種から時間の経過とともに
指数関数的に下がっていきます。
6か月の時点では接種後20日後の最大の量から
1/10以下に低下しています。
-
(年齢)
高齢になるほど低いですが、
全ての時期で低く、低下のスピードは大きく変わりません。
45歳以下の人と比べると
65歳以上では60%程度となります。
-
(性別)
IgG抗体量に関しては性差はほとんどありません。

//中和抗体能//---
-
(経時変化)
2回目接種から80日前後までは指数関数的に低下しますが、
その後、6か月まで低下のスピードは極めて小さくなります。
-
(年齢)
高齢になるほど低いですが、
全ての時期で低く、低下のスピードは大きく変わりません。
45歳以下の人と比べると
65歳以上では60%程度となります。
-
(性別)
中和抗体能はIgGとは異なり、
女性が男性に比べて全期間で高くなっています。
経時変化の程度は大きく変わりません。
男性は女性の65%程度です。

//疫学データ(2)//---
ワクチンの効果
-
(感染全体:PCR陽性)
1か月: 77.5% 2か月: 73.2%
3か月: 69.6% 4か月: 51.7%
5か月: 22.5% 6か月: 17.3%
7か月以上: 22.3%
-
(急性期治療、重症、死亡)
1か月: 96.0% 2か月: 96.8%
3か月: 94.3% 4か月: 83.7%
5か月: 100% 6か月: 88.9%
7か月以上: 55.6%

//考察(1)(2)//---
抗体価よりも中和抗体能はウィルスの低下能力に
直接的に関わるので、予防と関連が深いと考えられています(3,4)。
中和抗体能は3か月以上は大きく変わらないので
このデータからは予防効果が追随する可能性がありますが、
世界では3回目の接種が疫学データに基づいて進められており、
さらに3回目の接種の安全性や抗体の質の高さも示されています。
--
クウェートの疫学データで重要なのは2点あります。
1つは感染全体では「無症状も含まれている事」です。
PCR検査は症状に関わらず行っているので
PCR陽性者の中にはワクチン量が少なく
無症状の人も含まれています。
従って、ワクチンの効果が実際の発表よりも
低くなっているということが考えられます。
-
一方、中等症以上のデータにおいては
5か月後以上は対象となる人は10人以下と少ないため
1人の違いがデータに大きな影響を与える状況となっています。
従って、見積もりの誤差が大きな状態での評価となっています。
統計データとして信頼性を得るためには
数千万人規模でのデータが必要になると思います。
なぜなら中等症以上になる人はもともと少ないからです。
-
ただ相対的には重症化する人が少なく
その効果は数か月以上持続する事がおおよそ示された
と評価する事もできます。

(Reference)
(1)
Dror Mevorach, M.D., Emilia Anis, M.D., M.P.H., Noa Cedar, M.P.H., Michal Bromberg, M.D., M.P.H., Eric J. Haas, M.D., M.S.C.E., Eyal Nadir, M.D., Sharon Olsha-Castell, M.D., Dana Arad, R.N., M.S.N., Tal Hasin, M.D., Nir Levi, M.D., Rabea Asleh, M.D., Ph.D., Offer Amir, M.D., Karen Meir, M.D., Dotan Cohen, M.D., Rita Dichtiar, M.P.H., Deborah Novick, M.Sc., Yael Hershkovitz, M.Sc., Ron Dagan, M.D., Iris Leitersdorf, M.D., M.H.A., Ronen Ben-Ami, M.D., Ian Miskin, M.D., Walid Saliba, M.D., M.P.H., Khitam Muhsen, Ph.D., Yehezkel Levi, M.D., Manfred S. Green, M.B., Ch.B., Ph.D., Lital Keinan-Boker, M.D., Ph.D., and Sharon Alroy-Preis, M.D., M.P.H.
Myocarditis after BNT162b2 mRNA Vaccine against Covid-19 in Israel
The New England Journal of Medicine October 6, 2021
Author Affiliations
From the Department of Internal Medicine B, Division of Immunology–Rheumatology, and Wohl Institute for Translational Medicine (D.M.) and the Departments of Cardiology (R.A., O.A.), Pathology (K. Meir), and Radiology (D.C.), Hadassah Medical Center, Braun School of Public Health (E.A.), Jesselson Integrated Heart Center, Shaare Zedek Medical Center (T.H., N.L.), and the Department of Family Medicine (I.M.), Faculty of Medicine, Hebrew University of Jerusalem, the Divisions of Epidemiology (E.A., N.C., E.J.H., E.N.), Patient Safety (S.O.-C., D.A.), and Medicine (I.L.), Israeli Ministry of Health (M.B., R. Dichtiar, D.N., Y.H., Y.L., L.K.-B., S.A.-P.), and Clalit Health Services (E.N., I.M.), Jerusalem, Israel Center for Disease Control, and Azrieli Faculty of Medicine, Bar-Ilan University (O.A.), Ramat Gan, the Department of Epidemiology and Preventive Medicine, School of Public Health (M.B., K. Muhsen), and Tel Aviv Sourasky Medical Center (R.B.-A.), Tel Aviv University, Tel Aviv, Ben Gurion University of the Negev, Beer Sheva (E.J.H., R. Dagan), and the Department of Community Medicine and Epidemiology, Lady Davis Carmel Medical Center, Technion–Israel Institute of Technology (W.S.), and the School of Public Health, University of Haifa (M.S.G., L.K.-B.), Haifa — all in Israel.
(2)
Hiam Chemaitelly, M.Sc., Patrick Tang, M.D., Ph.D., Mohammad R. Hasan, Ph.D., Sawsan AlMukdad, M.Sc., Hadi M. Yassine, Ph.D., Fatiha M. Benslimane, Ph.D., Hebah A. Al Khatib, Ph.D., Peter Coyle, M.D., Houssein H. Ayoub, Ph.D., Zaina Al Kanaani, Ph.D., Einas Al Kuwari, M.D., Andrew Jeremijenko, M.D., Anvar H. Kaleeckal, M.Sc., Ali N. Latif, M.D., Riyazuddin M. Shaik, M.Sc., Hanan F. Abdul Rahim, Ph.D., Gheyath K. Nasrallah, Ph.D., Mohamed G. Al Kuwari, M.D., Hamad E. Al Romaihi, M.D., Adeel A. Butt, M.B., B.S., Mohamed H. Al-Thani, M.D., Abdullatif Al Khal, M.D., Roberto Bertollini, M.D., M.P.H., and Laith J. Abu-Raddad, Ph.D.
Waning of BNT162b2 Vaccine Protection against SARS-CoV-2 Infection in Qatar
The New England Journal of Medicine October 6, 2021
Author Affiliations
From the Infectious Disease Epidemiology Group (H.C., S.A., L.J.A.-R.) and the World Health Organization Collaborating Center for Disease Epidemiology Analytics on HIV/AIDS, Sexually Transmitted Infections, and Viral Hepatitis (H.C., S.A., L.J.A.-R.), Weill Cornell Medicine–Qatar, Cornell University, Qatar Foundation–Education City, the Department of Pathology, Sidra Medicine (P.T., M.R.H.), the Biomedical Research Center, Member of QU Health (H.M.Y., F.M.B., H.A.A.K., P.C., G.K.N.), the Departments of Biomedical Science (H.M.Y., F.M.B., H.A.A.K., G.K.N.) and Public Health (H.F.A.R., L.J.A.-R.), College of Health Sciences, and the Mathematics Program, Department of Mathematics, Statistics, and Physics, College of Arts and Sciences (H.H.A.), Qatar University, Hamad Medical Corporation (P.C., Z.A.K., E.A.K., A.J., A.H.K., A.N.L., R.M.S., A.A.B., A.A.K.), Primary Health Care Corporation (M.G.A.K.), and the Ministry of Public Health (H.E.A.R., M.H.A.-T., R.B.) — all in Doha, Qatar; Wellcome–Wolfson Institute for Experimental Medicine, Queens University, Belfast, United Kingdom (P.C.); and the Department of Population Health Sciences, Weill Cornell Medicine, Cornell University, New York (A.A.B., L.J.A.-R.).
(3)
Bergwerk M, Gonen T, Lustig Y, et al. 
Covid-19 breakthrough infections in vaccinated health care workers. 
N Engl J Med. DOI:  10.1056/NEJMoa2109072.
(4)
Khoury  DS,  Cromer  D,  Reynaldi  A,  et al. 
Neutralizing antibody levels are highly predictive of immune protection from symptomatic SARS-CoV-2 infection. 
Nat Med 2021; 27: 1205-11.


2021年10月10日日曜日 0 コメント

Ⅰ型糖尿病経口投与薬実現のためのナノ粒子特異的輸送

現在、Ⅰ型糖尿病ではインスリン皮下注射によって
インスリン、血糖値をコントロールしています。
1日1回~2回の頻度と言われており、
慣れると言っても、毎日注射する事は
様々な意味で負担になります。
もし、経口の投与薬でインスリンの量を制御出来たら
Ⅰ型糖尿病の管理は特に患者さんにおいては
楽になると考えられます。
---
しかし、Ⅰ型糖尿病の経口投与薬の実現には
下記のような難しさがあると考えられています。
-
〇胃腸などの環境による薬の分解、劣化(2)
〇腸の上皮障壁を超える必要性(3)
〇日常生活の中での細かい調整の困難性(4)
〇長期服用の安全性(代謝機能、免疫機能)
などが挙げられています(1)。
---
Jung Seok Lee, Patrick Han(敬称略)ら医療研究グループは
膵臓と親和性の高いポリマー化した胆汁酸を
ナノ粒子の周りに装飾し、ナノ粒子の中にインスリンを入れる事で
上述した課題を解決し、Ⅰ型糖尿病のインスリン
血糖値の制御を「マウスのケース」で実現しています(1)。
---
胆汁酸が適している理由は
そのpHの特徴から胃のダメージを減らし、
膵臓で発現されているTGR5との結合親和性があるからです。
インスリンは膵臓のβ細胞で分泌されることから
その機能が欠落しているⅠ型糖尿病の人に対しては
膵臓に代替としてインスリンを運ぶ必要性があります。
---
またこのTGR5に結合する事によって
抗炎症性免疫機能や脂肪細胞の代謝機能を高めることが
知られています(5)。
従って、この受容体に結合する事は
インスリンの直接的な調整以外にも生理的な意義があります。
---
Jung Seok Lee氏らが
モノマーではなくポリマーの胆汁酸を選んだ理由は
ポリマーのほうが安定で、多価であるため
膵臓迄届きやすく、TGR5との結合親和性が高いからです。
Polymeric Ursodeoxycholic acid (pUDCA) を選択しています。
---
ナノ粒子と装飾形成は
Water-in-oil-in-water double emulsion
の乳化プロセスを使ってナノ粒子形成させています
(Ref,(1) Fig.1bより)。
---
ナノ粒子装飾することで
他の臓器(肝臓、肺、脾臓、腎臓、心臓)に対して
膵臓へ3倍以上の薬剤走化性を実現しています。
(Ref,(1) Fig.2aより)
装飾しなければ、輸送される量も5倍以下と少なく
膵臓への走化性も他の臓器と比較して少なくなっています。
従って、ポリマー胆汁酸で装飾する事は
膵臓へのナノ粒子薬剤輸送効率を高めるだけではなく
特異的輸送も実現しています。
---
また、インスリンの投与で重要な
インスリン量、血糖値の制御性は
薬剤の投与量依存的に変わっている事から、
最適な量を設定できる可能性を示しています。
---
輸送の経路のメカニズムとしては
腸から吸収されて血中を流れる際には
免疫細胞(単球、マクロファージ)
と結合した形で運ばれるモデルと
単独で運ばれるモデルが考えられています。

//Cell-type-specific delivery system//ーー
細胞特異的輸送系統で考えているモデルは
生細胞を含むナノ粒子の周りに標的組織(病変部位など)の
細胞種に特異的に発現している受容体をアンカーとするため
ナノ粒子の表面に多くタンパク質を発現させる事です。
生細胞の場合は遺伝回路を使って、
細胞膜表面に任意のタンパク質を合成生物学のアプローチで
形成できる可能性があります。
一方、ナノ粒子の場合は、異なる形成プロセスを考える必要があります。
今回Jung Seok Lee氏らが採用されている乳化プロセスは
自発的なナノ粒子合成ができるプロセスなので、
安価にできる可能性があります。
それで形成したTLR5アゴニストであるポリマー胆汁酸を
ナノ粒子の周りに形成して、
膵臓に対する高い輸送効率と特異性両方を達成したことは
細胞特異的輸送系統のコンセプトが成功する例がある
という事が示されたことを意味します。
なぜなら、今回のJung Seok Lee氏らの研究は
細胞得的輸送系統のコンセプトの中の1つの具体例であるからです。
ーー

(Reference)
(1)
Jung Seok Lee, Patrick Han, Rabib Chaudhury, Shihan Khan, Sean Bickerton, Michael D. McHugh, Hyun Bong Park, Alyssa L. Siefert, Gerald Rea, José M. Carballido, David A. Horwitz, Jason Criscione, Karlo Perica, Robert Samstein, Ragy Rageb, Dongin Kim & Tarek M. Fahmy 
Metabolic and immunomodulatory control of type 1 diabetes via orally delivered bile-acid-polymer nanocarriers of insulin or rapamycin
Nature Biomedical Engineering volume 5, pages983–997 (2021)
---
Author information
Affiliations
Department of Biomedical Engineering, Yale University, New Haven, CT, USA
Jung Seok Lee, Shihan Khan, Sean Bickerton, Michael D. McHugh, Alyssa L. Siefert, Jason Criscione, Karlo Perica, Robert Samstein, Ragy Rageb, Dongin Kim & Tarek M. Fahmy
Chemical and Environmental Engineering, School of Engineering and Applied Sciences, Yale University, New Haven, CT, USA
Patrick Han, Rabib Chaudhury & Tarek M. Fahmy
Department of Chemistry, School of Engineering and Applied Sciences, Yale University, New Haven, CT, USA
Hyun Bong Park
Toralgen Inc., Indianapolis, IN, USA
Gerald Rea
Novartis Institutes for BioMedical Research, Basel, Switzerland
José M. Carballido
Medicine and Molecular Immunology, Keck School of Medicine, University of Southern California, Los Angeles, CA, USA
David A. Horwitz
Department of Pharmaceutical Sciences, College of Pharmacy, University of Oklahoma Health Sciences Center, Oklahoma City, OK, USA
Dongin Kim
Department of Immunobiology, School of Medicine, Yale University, New Haven, CT, USA
Tarek M. Fahmy
(2)
Lowman, A. M., Morishita, M., Kajita, M., Nagai, T. & Peppas, N. A. 
Oral delivery of insulin using pH-responsive complexation gels. 
J. Pharm. Sci. 88, 933–937 (1999).
(3)
Miron, N. & Cristea, V. 
Enterocytes: active cells in tolerance to  food and microbial antigens in the gut. 
Clin. Exp. Immunol. 167,  405–412 (2012).
(4)
Riddle, M. C. 
Evening insulin strategy. 
Diabetes Care 13, 676–686 (1990).
(5)
Katsuma, S., Hirasawa, A. & Tsujimoto, G. 
Bile acids promote glucagon-like peptide-1 secretion through TGR5 in a murine enteroendocrine cell line STC-1. 
Biochem. Biophys. Res. Commun. 329, 386–390 (2005).


2021年10月8日金曜日 0 コメント

脳内の単一細胞レベル解析がもたらす恩恵

細胞特異的輸送系統(Cell-type-specific delivery system)では
単一細胞レベルの分析は欠かせません。
単一細胞レベルの分析が著しく向上したことで、
細かい細胞種、遺伝子情報、タンパク質などが明らかになることで
細胞特異的輸送系統の実現可能性も同様に著しく高まっています。
ーー
アメリカ国立衛生研究所が4年前から進めている
人、サル、マウスの脳に関する大規模なプロジェクトによって
これらの脳に関する細胞レベルの基礎的なデータが
積み重ねられています。
そのプロジェクトの中でRyan S. Ziffra, Chang N. Kim(敬称略)らは
人の皮質発達の単一細胞レベルのエピジェネティックなメカニズム
について明らかにしています(1)。
その中で神経変性の疾患についても触れられています。
ーー
10代後半から20代前半にかけて
鬱、統合失調症、自閉症などの疾患、
あるいは高齢になって罹る
アルツハイマー病、パーキンソン病、認知症など
様々な脳の疾患があります。
胎内にいる時から遺伝子的に決まっている部分は
ある可能性がありますが、
その後の環境要因によって決まる可能性もあります。
その両方である可能性もあります。
脳は可塑性に富む器官なので
後天的に遺伝子の活性、不活性が決まる
エピジェネティクスが重要である可能性があります。
ーー
上述した病気に発症した時には
動的、(個人ごと)異種性はありながらも
ある任意の瞬間では
遺伝子の活性を決めるクロマチンアクセシビリティーを含めて
脳内の各細胞の細胞ごとの特徴があります。
例えば、
鬱の人のこれらの脳の状態を詳しく調べた時
鬱病特有の脳の細胞レベル、遺伝子レベルの状態がある可能性があります。
その時にRyan S. Ziffra氏らの研究のベクトルの延長線上では
細胞種ごとの遺伝子の特徴が定義されていますから
どの細胞にどのような遺伝子に働きかけたらいいか?
というのが明らかになります。
その時には健康な人の情報と比較する事になります。
将来的には個別に異常な部分を見つけて、
そこを正確に狙って治療するような方式が生まれるかもしれません。
ーー
細胞特異的輸送系統では細胞種特異的に薬剤を輸送する事を
コンセプトとしていますから、
異常がある細胞種まで薬剤を運び、
その薬剤によってその細胞種の問題がある遺伝子に働きかける
ことができれば、健康な人の状態に近づけられる可能性があります。
細胞特異的輸送系統(Cell-specific-delivery system)は
このプロジェクトと非常に研究開発の親和性が高いと考えられます。
ーー
この薬剤による正確な治療によって
必ずしも完治するかどうかはわかりませんが、
各細胞種の細胞レベルの遺伝子の情報は
治療の方針を立てるための一つの理想的な情報となります。
ーー
今まで脳の薬剤はブラックボックスの部分が多かったと思いますが、
Ryan S. Ziffra, Chang N. Kim(敬称略)らを始め、
アメリカ国立衛生研究所を中心に行われている
大規模な脳に関するプロジェクトによって
生物学的な根拠のある薬剤開発、治療の実現の可能性があります。
細胞特異的輸送系統以外にも
基本的な情報がわかる事によって
その下位の例えば、神経伝達物質の働きなどの
脳内のプロセスの異常などの理解につながる事も考えられます。
あるいは脳に磁気信号などを当てる治療などにおいても
今までよりも精度が上がる可能性があります。

(Reference)
(1)
Ryan S. Ziffra, Chang N. Kim, Jayden M. Ross, Amy Wilfert, Tychele N. Turner, Maximilian Haeussler, Alex M. Casella, Pawel F. Przytycki, Kathleen C. Keough, David Shin, Derek Bogdanoff, Anat Kreimer, Katherine S. Pollard, Seth A. Ament, Evan E. Eichler, Nadav Ahituv & Tomasz J. Nowakowski 
Single-cell epigenomics reveals mechanisms of human cortical development
Nature volume 598, pages205–213 (2021)
---
Author information
Affiliations
Department of Anatomy, University of California, San Francisco, San Francisco, CA, USA
Ryan S. Ziffra, Chang N. Kim, Jayden M. Ross, David Shin, Derek Bogdanoff & Tomasz J. Nowakowski
Department of Psychiatry, University of California, San Francisco, San Francisco, CA, USA
Ryan S. Ziffra, Chang N. Kim, Jayden M. Ross, David Shin, Derek Bogdanoff & Tomasz J. Nowakowski
Eli and Edythe Broad Center for Regeneration Medicine and Stem Cell Research, University of California, San Francisco, San Francisco, CA, USA
Ryan S. Ziffra, Chang N. Kim, Jayden M. Ross, David Shin, Derek Bogdanoff & Tomasz J. Nowakowski
Department of Bioengineering and Therapeutic Sciences, University of California, San Francisco, San Francisco, CA, USA
Ryan S. Ziffra, Anat Kreimer & Nadav Ahituv
Institute for Human Genetics, University of California, San Francisco, San Francisco, CA, USA
Ryan S. Ziffra, Anat Kreimer & Nadav Ahituv
Department of Genome Sciences, University of Washington School of Medicine, Seattle, WA, USA
Amy Wilfert & Evan E. Eichler
Department of Genetics, Washington University School of Medicine, St. Louis, MO, USA
Tychele N. Turner
Genomics Institute, University of California, Santa Cruz, Santa Cruz, CA, USA
Maximilian Haeussler
Institute for Genome Sciences, University of Maryland School of Medicine, Baltimore, MD, USA
Alex M. Casella & Seth A. Ament
Medical Scientist Training Program, University of Maryland School of Medicine, Baltimore, MD, USA
Alex M. Casella
Gladstone Institutes, San Francisco, CA, USA
Pawel F. Przytycki & Katherine S. Pollard
Institute for Computational Health Sciences, University of California, San Francisco, San Francisco, CA, USA
Kathleen C. Keough & Katherine S. Pollard
University of California, San Francisco, San Francisco, CA, USA
Kathleen C. Keough
Department of Electrical Engineering and Computer Sciences, University of California, Berkeley, Berkeley, CA, USA
Anat Kreimer
Center for Computational Biology, University of California, Berkeley, Berkeley, CA, USA
Anat Kreimer
Department of Epidemiology and Biostatistics, University of California, San Francisco, San Francisco, CA, USA
Katherine S. Pollard
Quantitative Biology Institute, University of California, San Francisco, San Francisco, CA, USA
Katherine S. Pollard
Chan Zuckerberg Biohub, San Francisco, San Francisco, CA, USA
Katherine S. Pollard & Tomasz J. Nowakowski
Department of Psychiatry, University of Maryland School of Medicine, Baltimore, MD, USA
Seth A. Ament
Howard Hughes Medical Institute, University of Washington, Seattle, WA, USA
Evan E. Eichler

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mRNAワクチンBNT162b2の心筋炎を含めたベネフィット-リスク評価

mRNAワクチンにおいては心筋炎のリスクが指摘されています。
但し、これについては様々な軸でよく考える必要があります。
先に結果から申し上げますが
ファイザー製のmRNAワクチンの心筋炎の発症リスクは
10万人あたり2回目接種後は男性3.83人、女性0.46人となっています。
もっともリスクが高い若い世代男性16-19歳で15.07人です。
これをどう評価するか?です。
心筋炎はウィルス感染が一つの主な原因となっています。
風邪ウィルス、インフルエンザウィルスでもかかるとされており
その予防の為、手洗い、うがいなどの衛生面、
予防接種(ワクチン)などが推奨されています。
当然、新型コロナウィルスに罹患しても心筋炎に罹る事もあります。
その心筋炎の年間発症率はコロナ禍以外でも
10万人あたり22人(0.02%)とされており、
男性、新生児、小児、20~40歳前後に有病率が高いとされています(3)。
従って、ファイザー製のmRNAワクチン接種によって心筋炎に罹るリスクは
普通に過ごしていて罹る心筋炎のリスクよりも顕著に低い
ということがデータから読み取ることができます。
今はコロナ禍ですからウィルス感染のリスクも高まっています。
従って、感染によって生じる心筋炎のリスクは高いと想定されます。

また新型コロナウィルスに感染した場合は他のリスクもあります。
例えば、10代であれば後遺症のリスクもあります。
中等症、重症化のリスクもあります。
もちろん若い人では少ないですが死亡するリスクもあります。

中にはワクチン接種に対して
「しばらく様子をみよう。」と考えている人もいると思います。
特に若い人の中には多いかもしれません。
運よく新型コロナウィルスに感染することなく数年が過ぎ、
落ち着いたとしても新型コロナウィルスに対する
免疫が形成されないまま過ごすことになります。
インフルエンザのように再流行があれば、
いずれどこかで感染のリスクにさらされることになります。
その時には様々なリスクがあります。
この場合の考えられるメリットは、
数年間でよりワクチンの理解が進んでいるかもしれない
ということです。
但し、感染リスクなどデメリットも大きいです。
また、もう一つ大切な情報として
「今、新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)の免疫を獲得する」
ということは後の事を考えると大きなメリットがあります。
以前、2003年にSARS-CoV-1が流行しましたが、
この免疫を持っている人は
新型コロナウィルスSARS-CoV-2の免疫を獲得した時の
反応性、ユニバーサル性が高いという事が示されています(4)。
つまり、中和抗体能も高い傾向にあるし、
デルタ株など変異に強い多種、多様な抗体も
生み出されるということです。
従って、今、SARS-CoV-2の高い免疫を有する事は
後に流行するかもしれない異なるコロナウィルスに対する
リスクを下げる事にもつながる可能性があります。

ただし、重要なのは男性が多いという事と若い人が多い
というデータが示された(1)ということです。
ワクチン接種、3日後をピークに
ほとんどのケースで一週間以内、
全体で1か月以内となっています。
従って、ワクチン接種の場合は接種日が明らかになっていますから
非常に稀に発生する心筋炎に対して
どのような対策を取ることができるか?
という事だと思います。
但し、95%のケースで症状は軽いとされています(1)。
今回、対象となったのが500万人規模なので
日本の場合はその約20倍の規模、
世界で言えば約160倍の規模なので
非常に稀なケースで症状が重いケースも出てくると考えられます。
但し、ワクチン忌避に繋がらないために強調したい事は
このような心筋炎のリスクは
ワクチンを接種しなくても常に存在するということです。
またワクチンによって感染のリスク、重症化のリスクが下がる
という大きなメリットもあります。
またワクチンパスポートなど
日常生活、社会的な行動の制限にも影響します。

D. Mevorach, E. Anis(敬称略)ら(1)
Guy Witberg(敬称略)ら(2)はイスラエルにおける
ファイザー/ビオンテック社製mRNAワクチンBNT162b2における
心筋炎の大規模調査を行っています(1,2)。
上の記述を踏まえ、示されたデータの一部を
読者の方と情報共有したいと思います。
Ref.(1)からは疫学データ、
Ref.(2)からは心筋炎の症状に関するデータを参照します。

//心筋炎の発症リスク(10万人あたり)//---
(Ref.(1) Table 3より)

(ワクチン1回目接種)
全年齢:0.64人(男性)/0.07人(女性)
16-19歳:1.34人(男性)/0人(女性)
20-24歳:1.91人(男性)/0人(女性)
25-29歳:1.22人(男性)/0人(女性)
30-39歳:0.41人(男性)/0人(女性)
40-49歳:0.65人(男性)/0.21人(女性)
50歳以上:0.10人(男性)/0.09人(女性)

(ワクチン2回目接種)
全年齢:3.83人(男性)/0.46人(女性)
16-19歳:15.07人(男性)/1.00人(女性)
20-24歳:10.86人(男性)/2.16人(女性)
25-29歳:6.99人(男性)/0人(女性)
30-39歳:3.69人(男性)/0.22人(女性)
40-49歳:1.15人(男性)/0.45人(女性)
50歳以上:0.21人(男性)/0.19人(女性)

このことから一般的な心筋炎と同様に
男性、若い人のリスクが相対的に高くなっています。
またワクチン接種2回目接種後のリスクが高くなっています。

//心筋炎が現れるタイミング//---
(Ref.(1) Figure.1より)

1回目接種後の心筋炎のタイミングは
1日目から20日目迄分散していて傾向はありません。
しかし、2回目接種の場合は
全症例の約82%が接種から1週間以内です。
ピークは3日目で約38%となります。
最も多い2~4日目の合計で約69%です。

上述したように95%において症状は軽いとされていますから
最も多い2回目接種から1週間(特に2~4日目)に
仮に有効な対策を打つことができれば、
ワクチン接種の心筋炎のリスクは大きく下げる事ができます。

//接種後心筋炎の臨床症状(54人)//---
(Ref.(2) Table.3より)
括弧内:割合

(*)Chest pain 44/54 (81)
Palpitations 1/54 (2)
Dyspnea 3/54 (6)
Fever 5/54 (9)
Pericardial effusion 10/49 (20)

Temperature — 37.4±1.0℃
Blood pressure — mmHg
 Systolic 122.7±16.8
 Diastolic   72.2±11.0

Heart rate — 81.3±17.3(beat/min)
Shock — no./total no. (%) 1/47 (2)

Electrocardiographic findings — no./total no. (%)
Normal   8/38 (21)
ST-segment elevation
 Diffuse 18/38 (47)
 Nondiffuse 2/38 (5)
T-wave change   7/38 (18)
Atrial fibrillation 1/38 (3)
Nonsustained ventricular tachycardia 2/38 (5)

Laboratory values
Elevated troponin T — no./total no. (%)   41/41 (100)
Median creatine kinase (IQR) — 487 (230–1193)(U/liter)

Clinical course during index hospitalization  
— no./total no. (%)
Need for inotropes or vasopressors 1/49 (2)
Need for mechanical circulatory support 1/49 (2)
Arrhythmias 1/49 (2)

心筋炎の一般的な症状は、
胸痛、呼吸困難、動機があります。
胸痛はデータより頻度の高い臨床症状です。
データより心電図の異常もあります。
またトロポニンレベル上昇、心エコー、心臓MRIで
異常がみられるケースもあります。
また37度台の微熱もあります。
しかし、一般的な副作用と重複するため、
分かりやすい症状としては胸痛があるかどうか?
というのが指標となる可能性があります。
治療としては対症療法や免疫調整などが多く、
特効性のある治療法はないとされています。

(Reference)
(1)
Dror Mevorach, M.D., Emilia Anis, M.D., M.P.H., Noa Cedar, M.P.H., Michal Bromberg, M.D., M.P.H., Eric J. Haas, M.D., M.S.C.E., Eyal Nadir, M.D., Sharon Olsha-Castell, M.D., Dana Arad, R.N., M.S.N., Tal Hasin, M.D., Nir Levi, M.D., Rabea Asleh, M.D., Ph.D., Offer Amir, M.D., Karen Meir, M.D., Dotan Cohen, M.D., Rita Dichtiar, M.P.H., Deborah Novick, M.Sc., Yael Hershkovitz, M.Sc., Ron Dagan, M.D., Iris Leitersdorf, M.D., M.H.A., Ronen Ben-Ami, M.D., Ian Miskin, M.D., Walid Saliba, M.D., M.P.H., Khitam Muhsen, Ph.D., Yehezkel Levi, M.D., Manfred S. Green, M.B., Ch.B., Ph.D., Lital Keinan-Boker, M.D., Ph.D., and Sharon Alroy-Preis, M.D., M.P.H.
Myocarditis after BNT162b2 mRNA Vaccine against Covid-19 in Israel
The New England Journal of Medicine October 6, 2021
---
Author Affiliations
From the Department of Internal Medicine B, Division of Immunology–Rheumatology, and Wohl Institute for Translational Medicine (D.M.) and the Departments of Cardiology (R.A., O.A.), Pathology (K. Meir), and Radiology (D.C.), Hadassah Medical Center, Braun School of Public Health (E.A.), Jesselson Integrated Heart Center, Shaare Zedek Medical Center (T.H., N.L.), and the Department of Family Medicine (I.M.), Faculty of Medicine, Hebrew University of Jerusalem, the Divisions of Epidemiology (E.A., N.C., E.J.H., E.N.), Patient Safety (S.O.-C., D.A.), and Medicine (I.L.), Israeli Ministry of Health (M.B., R. Dichtiar, D.N., Y.H., Y.L., L.K.-B., S.A.-P.), and Clalit Health Services (E.N., I.M.), Jerusalem, Israel Center for Disease Control, and Azrieli Faculty of Medicine, Bar-Ilan University (O.A.), Ramat Gan, the Department of Epidemiology and Preventive Medicine, School of Public Health (M.B., K. Muhsen), and Tel Aviv Sourasky Medical Center (R.B.-A.), Tel Aviv University, Tel Aviv, Ben Gurion University of the Negev, Beer Sheva (E.J.H., R. Dagan), and the Department of Community Medicine and Epidemiology, Lady Davis Carmel Medical Center, Technion–Israel Institute of Technology (W.S.), and the School of Public Health, University of Haifa (M.S.G., L.K.-B.), Haifa — all in Israel.
(2)
Guy Witberg, M.D., Noam Barda, M.D., Ph.D., Sara Hoss, M.D., Ilan Richter, M.D., M.P.H., Maya Wiessman, M.D., Yaron Aviv, M.D., Tzlil Grinberg, M.D., Oren Auster, M.Sc., Noa Dagan, M.D., Ph.D., M.P.H., Ran D. Balicer, M.D., Ph.D., M.P.H., and Ran Kornowski, M.D.
Myocarditis after Covid-19 Vaccination in a Large Health Care Organization
The New England Journal of Medicine October 6, 2021
---
Author Affiliations
From the Cardiology Department, Rabin Medical Center, Beilinson Hospital, Petah Tikva (G.W., S.H., I.R., M.W., Y.A., T.G., R.K.), the Faculty of Medicine, Tel Aviv University (G.W., S.H., I.R., M.W., Y.A., T.G., R.K.), and the Innovation Division, Clalit Research Institute, Clalit Health Services (N.B., O.A., N.D., R.D.B.), Tel Aviv, and the Department of Software and Information Systems Engineering (N.B., N.D.) and the School of Public Health, Faculty of Health Sciences (R.D.B.), Ben Gurion University, Be’er Sheva — all in Israel; and the Department of Biomedical Informatics, Harvard Medical School (N.B., N.D.), and the Ivan and Francesca Berkowitz Family Living Laboratory Collaboration at Harvard Medical School and Clalit Research Institute (N.B., N.D., R.D.B.) — both in Boston.
(3)
榎木内科・循環器科医院 
心筋炎
(4)
Chee-Wah Tan, Ph.D., Wan-Ni Chia, Ph.D., Barnaby E. Young, M.R.C.P., Feng Zhu, Ph.D., Beng-Lee Lim, M.Sc., Wan-Rong Sia, B.S., Tun-Linn Thein, M.P.H., Mark I.-C. Chen, Ph.D., Yee-Sin Leo, F.R.C.P., David C. Lye, F.R.C.P., and Lin-Fa Wang, Ph.D.
Pan-Sarbecovirus Neutralizing Antibodies in BNT162b2-Immunized SARS-CoV-1 Survivors
The New England Journal of Medicine 2021; 385:1401-1406
---
Author Affiliations
From the Programme in Emerging Infectious Diseases, Duke–NUS (National University of Singapore) Medical School (C.-W.T., W.-N.C., F.Z., B.-L.L., W.-R.S., L.-F.W.), the National Centre for Infectious Diseases (B.E.Y., T.-L.T., M.I.-C.C., Y.-S.L., D.C.L.), Tan Tock Seng Hospital (B.E.Y., M.I.-C.C., Y.-S.L., D.C.L.), Lee Kong Chian School of Medicine, Nanyang Technological University (B.E.Y., Y.-S.L., D.C.L.), Yong Loo Lin School of Medicine (Y.-S.L., D.C.L.) and Saw Swee Hock School of Public Health (Y.-S.L.), National University of Singapore, and SingHealth Duke–NUS Global Health Institute (L.-F.W.) — all in Singapore.
(5)
矢野邦夫(浜松市感染症対策調整監)
mRNA COVID-19ワクチンと心筋炎 

2021年10月7日木曜日 0 コメント

合成生物学を基礎とした生細胞治療への道(2)

//背景//---
生細胞治療の実現のためには段階があると思っています。
総括論文では年表、マイルストーンが図示されることが
頻繁にあります。
下述するCAR-T療法やmRNAワクチンなどの実現は
生細胞治療を含む細胞特異的輸送系統のマイルストーンの
1つになります。このような実績、基礎、臨床結果
あるいは課題、弊害、有害事象などを掴み
より困難である生細胞治療や細胞特異的輸送系統に
適用していく必要があります。

Andres Cubillos-Ruiz, Tingxi Guo, Anna Sokolovska, Paul F. Miller, James J. Collins, Timothy K. Lu & Jose M. Lora 
(敬称略)からなる医療研究グループは
生きた細胞に対して合成生物学に基づいて
狙いの特性を持つようにエンジニアリングする事を目的として
現在まで理解されている事を総括しています(1)。
細胞特異的輸送系統(Cell-type-specific delivery system)の観点を
含めながら独自の視点、考察を加えながら
読者の方と情報共有したいと思います。

//次世代のCAR-T免疫療法//---
癌の免役療法の中にキメラ抗原によって
表面装飾したT細胞を患者さんの中に入れて
その表面装飾されたタンパク質によって
標的となる癌細胞だけを認識して
その抗原認識によって免疫細胞が活性化されるように
プログラムされた免疫療法をCAR-T療法といいます。
CAR-T療法は血液性の癌への適用が主要となっています(2)。
しかしながら、副作用、制御性、柔軟性(適応性)、特異性において
課題があるのが現状です。
その課題を解決するためにロジックゲートでいう
AND, ORなどの複数の抗原認識受容体のパターンによって
適応性や特異性を上げようとする研究もあります(3,4)。
その他にはAndres Cubillos-Ruiz氏らがRef.(1)Fig.4で示しているように
外因性の要因である物質(リガンド)が
〇活性(ON)/不活性(OFF)のスイッチの機能を有する方式、
癌細胞が放出する抗原や、その抗原に対する抗体が
それぞれ存在、結合した時のみにT細胞が活性化される方式、
一方、通常細胞が放出する抗原やそれに対する抗体において
NOTゲート(不活性)になるような方式などが考えられています。

病変部位特異的な表面タンパク質(複合体)を如何に作製できるか?
これが生細胞を使った治療においては重要になります。
例えば、インテグリンはα鎖、β鎖の異種接合(ヘテロダイマー)から
なる表面タンパク質です。
癌治療において転移性癌にだけ見られる型も存在しますが、
血管壁など周辺に同じ型のインテグリンが存在すると
オフターゲットの原因となります。
CAR免疫療法でも明らかになっているように
単一の結合だけをアンカー、スイッチする輸送系統は
おそらく制御性、環境順応性、特異性の低さに直面すると考えられます。
上述したように癌組織などの病変部位に現れる
癌特異的な抗原などによって輸送細胞が遺伝回路で
トリガーされる信号がANDゲートとして
病変部位の近接領域で働くような系統とすることで
オフターゲットを防ぐことができる可能性があります。

//バクテリア単細胞//---
菌の中には乳酸菌やビフィズス菌などのように善玉菌があります。
それが含まれる飲料を積極的にとることは
プロバイオティクスと呼ばれますが、
このような消化器によいとされる善玉菌に対して
合成生物学に基づいて細胞をエンジニアリングする事は
より制御性、環境適応性、特異性を上げられる可能性があります。
これを薬剤などを運ぶ輸送媒体として使う事も考えられます。
もともと乳酸菌にはLpp20という受容体があり
マウスの腸においては病原体のコロニー形成を防ぐ
役割があるということが示されています(5)。
こういった機能をより高めるというエンジニアリングも考えられます。

(癌治療への応用)
1800年代からバクテリアは癌に効くということが知られていました。
想定されている一つの作用はバクテリアによって
免疫機能が高められて、その免疫によって癌が退行するということです。
よって、バクテリアを利用した癌治療が考えられますが、
有毒性、副作用もあり、効果とトレードオフになっています(6)。
しかし、大腸菌の中で毒性の少ない系統を使って
癌組織に吸着因子(結合親和性を持つ表面タンパク質など)を
作製し、癌組織への走化性(向性)を高めたうえで
治療する事などが検討されています(1)。
また、ウィルスを介して、バランスが崩れている癌組織周辺の
免疫機能、代謝機能をサイトカインや抗体などを通して
整えることが挙げられています(1)。
但し、微生物の単細胞をキャリアとして使う場合には
腸や肺などもともと微生物が多い臓器、組織と
そうではない臓器、組織の癌に対する効果と弊害のバランス関係は
異なると考えられます。

//製造上の問題//---
(Ref.(1) Box.3参照)

生細胞ベース治療はまだ黎明期なので、
細胞培養、発酵などを含めた細胞の増殖などの製造においては
産業界のノウハウなどを取り入れる必要があるとされています(1)。
しかし、遺伝子操作を任意に行った状態で
量産性、再現性を維持できるか?といった課題もあります(7,8)。

//臨床応用の課題//---
(Ref.(1) Box.4参照)

元々、生物学と工学などを融合させる合成生物学においては
倫理的な問題が指摘されています。
どのような副作用を引き起こすか生物学の複雑性の中で
未知の部分があるからです。
そのような社会的なためらいがあるため
臨床試験、承認を管理するFDAを中心に
医療提供を受ける患者の利益とリスクの天秤の中で
慎重かつ十分なエビデンスベースの議論が必要になります。

細胞治療においてはすでに承認されているCAR-T療法などの
データを参考にすることができると思います。
一方、細胞特異的輸送系統では
輸送媒体、表面タンパク質、積載物質の
少なくとも3つのコンポーネントがあり
想定される組み合わせは膨大であるため
どのように臨床試験プログラムを設定するか?
という根本的な議論も必要です。
カプセルの中に入れる薬のようにカプセル承認が短縮されると
予期しない有害事象が生じる可能性もあります。
多くのデータの積み上げが必要で、
安全性を十分に担保した状態で進めるためには
効率的に進めたとしても数十年はかかる可能性があります。
提案した筆者としては、技術が独り歩きしないように
医療倫理、安全性の領域の立ち位置にいる必要性がある
と考えています。

(My message for the important readers)
 When I was a corporate technician, I came up with the new technology and experience the innovative development. This technology is entirely new, but there are many hurdles like the cell-type-specific delivery system. Unfortunately, I and my team could not accomplish this project due to time-resource issue. However, one person said, “Your technology and knowledge could be applied to the other technologies, so it is worth trying even if your challenge is failed.” for me during our project. In order to bring the new technology to practical use, we need to overjump “Death valley”, so we need absolute determination for success. However, natural science is iron-hearted, and is based on natural providence, so we may face many unexpected results, but these unexpected results are not always negative one. We may get many by-products during the challenge for the cell-type-specific delivery system, in which innovative discovery may be included. The challenge always entails huge risk on financial, human and time resource, but this risk could be significantly reduced if many by-products during the R & D are included. This by-product is surely meaningful more and more if there are many challenging and hurdles for accomplishment. 

(Reference)
(1)
Andres Cubillos-Ruiz, Tingxi Guo, Anna Sokolovska, Paul F. Miller, James J. Collins, Timothy K. Lu & Jose M. Lora 
Engineering living therapeutics with synthetic biology
Nature Reviews Drug Discovery (2021)
---
Author information
Affiliations
Department of Biological Engineering, Synthetic Biology Center, Institute for Medical Engineering and Science, Massachusetts Institute of Technology, Cambridge, MA, USA
Andres Cubillos-Ruiz & James J. Collins
Wyss Institute for Biologically Inspired Engineering, Harvard University, Boston, MA, USA
Andres Cubillos-Ruiz & James J. Collins
MIT Synthetic Biology Center, Massachusetts Institute of Technology, Cambridge, MA, USA
Tingxi Guo & Timothy K. Lu
Department of Electrical Engineering and Computer Science, Research Laboratory of Electronics, Massachusetts Institute of Technology, Cambridge, MA, USA
Tingxi Guo & Timothy K. Lu
Synlogic, Inc., Cambridge, MA, USA
Anna Sokolovska
Artizan Biosciences, New Haven, CT, USA
Paul F. Miller
Intergalactic Therapeutics, Boston, MA, USA
Jose M. Lora
(2)
Frigault, M. J. & Maus, M. V. 
State of the art in CAR T cell therapy for CD19 +  B cell malignancies. 
J. Clin. Invest. 130, 1586–1594 (2020).
(3)
Hegde, M. et al. 
Combinational targeting offsets antigen escape and enhances effector functions  of adoptively transferred T cells in glioblastoma.  
Mol. Ther. 21, 2087–2101 (2013).
(4)
Kloss, C. C., Condomines, M., Cartellieri, M., Bachmann, M. & Sadelain, M. 
Combinatorial antigen recognition with balanced signaling promotes selective tumor eradication by engineered T cells.  
Nat. Biotechnol. 31, 71–75 (2013).
(5)
Zhang, R. et al. 
An engineered Lactococcus lactis strain exerts significant immune responses through efficient expression and delivery of Helicobacter pylori Lpp20 antigen. 
Biotechnol. Lett. 38, 2169–2175 (2016).
(6)
Forbes, N. S. 
Engineering the perfect (bacterial) cancer therapy. 
Nat. Rev. Cancer 10, 785–794 (2010).
(7)
Wu, G. et al. 
Metabolic burden: cornerstones in synthetic biology and metabolic engineering applications. 
Trends Biotechnol. 34, 652–664 (2016).
(8)
Rugbjerg, P. & Sommer, M. O. A. 
Overcoming genetic heterogeneity in industrial fermentations. 
Nat. Biotechnol. 37, 869–876 (2019).

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合成生物学を基礎とした生細胞治療への道(1)

//背景//---
私が提案している細胞特異的輸送系統は、
1つのモデルとして生きた細胞に対して遺伝子工学的な介入を行って
細胞表面に狙いのタンパク質(その複合体)を作製することです。
この狙いとは薬剤、他の作用させたい物質を輸送する目標の
組織、細胞に高い結合親和性を持つたんぱく質を作製することです。
このような細胞の分野の生物学と
遺伝子工学の工学を融合する学際的な分野は
合成生物学(Synthetic biology)と呼ばれます。

Andres Cubillos-Ruiz, Tingxi Guo, Anna Sokolovska, Paul F. Miller, James J. Collins, Timothy K. Lu & Jose M. Lora 
(敬称略)からなる医療研究グループは
生きた細胞に対して合成生物学に基づいて
狙いの特性を持つようにエンジニアリングする事を目的として
現在まで理解されている事を総括しています(1)。
細胞特異的輸送系統(Cell-type-specific delivery system)の観点を
含めながら独自の視点、考察を加えながら
読者の方と情報共有したいと思います。

//従来の標的療法と今後//---
(Ref.(1) Fig.1参考)

新型コロナウィルスワクチンで使用されているmRNAは
脂質ナノ粒子に包まれて免疫細胞まで輸送されています。
このような免疫細胞を標的としたナノ粒子や
抗体が薬物の輸送媒体として使われています。

今後はそのまま組織に埋め込むことができる細胞や
免疫細胞などの循環細胞、組織常在型の細胞、
神経細胞、グリア細胞、単細胞(微生物)など
多くの種類の細胞を輸送媒体として使うことができます。
また、ES細胞、iPS細胞、ミューズ細胞など
多能性のある細胞から任意の細胞を選ぶことができます。
また初期化する前の細胞の選択性も有します。
例えば、患者さんから取り出した細胞を初期化して
あるいは持っている多能性細胞を取り出して
そこから任意の細胞に分化させることで
体内に入った時の移植片対宿主病(拒絶反応)を減らすことが
できる可能性があります。
またNK細胞など拒絶反応が起こりにくい細胞や
免疫細胞を活性化させにくい特徴を有する細胞を
作製する事も出来る可能性があります。

一方、薬剤を輸送する媒体は細胞だけではなく
ウィルスを使う事も出来ます。
すでにアデノウィルスを使った新型コロナウィルスワクチンが
承認、実用化されていますが、
このようなウィルスのエンベロープ膜上に
任意のタンパク質(その複合体)を作ることができるか?
という方向性もあります。

こういった細胞に合成生物学のアプローチで
任意の物質を放出させたり、微小環境を認識したり、
バイオマーカーを認識したりすることで
薬剤としての機能や、標的性を上げる事ができます。

//入力と出力//---
(Ref.(1) Box.1参考)

細胞特異的輸送系統では薬剤、あるいはその機能を持たせた
ナノ粒子を運ぶ際の選択肢の一つとして生物の生きた細胞があります。
生きた細胞内ではミトコンドリア、核、小胞体、リソソームなどを
初め様々な細胞内小器官があって、生物学的なプロセス循環があります。
バイオエンジニアリングを始めとした生物工学を融合させる
合成生物学ではその生物学的なプロセスを理解して
それを任意に制御する必要があります。
そのプロセスはコンピューター工学の概念で言えば、
「入力(Input)」と「出力(Output)」です。
そのようなプロセスは必ずしも単一、一対一ではなく
複合的な要因も絡んでいます。
逆にそうした複雑性を利用して、特異的に狙いの結果(出力)を
得る事ができる可能性があります。
この狙いの結果とは細胞特異的輸送系統の観点で言えば、
細胞表面に標的細胞に特異的かつ高い親和性を持って結合する
ことができるタンパク質(その複合体)を得る事です。
そのためのロジックゲート(ブール論理)として
YES, NOT, AND, OR, NAND, NORなどが考えられます。

このような経路を合成生物学的に
Andres Cubillos-Ruiz氏らは「Genetic circuit(遺伝回路)」
と定義しています。
この遺伝回路は3つの要素があります。
〇遺伝回路伝達信号に生命があるかないか?
〇上述したプール論理(ロジックゲート)
〇制御された信号において狙いの結果が得られるか?
もう2つは考えられる要素は
〇その信号は自発的か、誘発的か?
〇そのプロセスが進む確率
このような遺伝回路による出力と入力、因果関係が
複数の要因によって複雑に決まる事は、
制御してタンパク質(その複合体)を作ることなどの
好ましい結果を得るための大きな壁、ハードルとなりますが、
逆に、単純に決まらないからこそ、
「特異的な」回路を形成できる可能性があります。
つまり、「ほぼこの複合条件でしかこの結果は生まれない」
ということが可能性としてあるということです。

Andres Cubillos-Ruiz氏, Tingxi Guo氏ら示す
Ref.(1) Fig.2, Fig.3から興味深い新たな視点が想起されます。
細胞特異的輸送系統は体外で狙いのタンパク質(その複合体)を
形成する事を想定していましたが、
生体内で、生体内の特異的な信号からそのたんぱく質を
生み出すように事前に細胞内に遺伝子を埋め込んでおくということです。
Fig.2では病気のバイオマーカーを入力信号としています。
その種類として、
• microRNAs
• Proteins/peptides(surface/soluble)
• Metabolites
• Small molecules(host/bacterial)
• Hypoxia
• Temperature
これらがあります。
これらを細胞が検知して、任意に設計した遺伝回路によって
狙いのアウトプットを「その場で(in-situ)」で生み出すということです。
このメリットは、病変部位近くで「最終形が出来上がるため」
薬剤輸送経路(循環器など)で標的となる大切なたんぱく質(その複合体)が
損傷、喪失、変性する機会が減るということです。
ただし、生体内で本当に狙いのタンパク質ができるかどうか?
の確認は生体外で事前に設計するようにできません。
そうした弊害もあります。
あるいは生体外と生体内のハイブリッドの考え方もあります。
例えば、病変部位特異的な輸送が成功して
そこの組織に細胞が固定されて、
細胞質内にある薬剤などの物質を放出させるための信号として
生体内の上述したインプット信号を使うということです。
その時にインプットを受けた細胞は
細胞ないで事前に設計された遺伝回路を使うことで
細胞膜が破れ、細胞死し、細胞内の薬剤が放出される仕組みです。
細胞特異的輸送系統のコンセプトの一つとしては
〇細胞などのナノ粒子を固定する
〇中の薬剤を放出させる
という2つの要素が必要です。
後者のスイッチを細胞内のバイオマーカー、
遺伝回路を使ってその場(in-situ)で行うという事です。

このような精緻な遺伝子のデザインによって
細胞を改変して、治療に応用としようという取り組みは
ここ10年間で行われてきています(4,5)。

//合成生物学で突破できる制限//---
(Ref.(1) Box.2参考)

〇柔軟性、任意性
遺伝子回路を使った合成生物学は条件によっては非常に複雑になりますが、
電子回路を組むように設計する事ができれば、
従来の薬剤にはない様々な機能を入れる事ができます。
また生きた細胞の場合はタイミングの任意性もあります。
すなわち生体外、生体内両方で
この遺伝回路を駆動させる事ができます。
上述したように生体外、生体内、両方で
遺伝回路を駆動させることもできます。
合成生物学を使った個別療法については以前から
研究されています(6,7)。

〇特異性(Specificity)
例えば、従来の薬剤として抗体薬物複合体(Antibody-drug-conjugate)
があります。これは前立腺癌で応用されることがあります。
前立腺癌で多く発現している受容体に結合親和性が高い
抗体を選び出し、その抗体と抗がん剤をへき開可能な物質によって
結合させる複合薬剤です。
しかし、受容体の発現量と薬効が必ずしもリンクしない(2)
という課題もあります。
合成生物学を使ったアプローチでは
複数の病変部位の情報(分泌物質)を入力することができる
可能性があるため、それにANDで反応する遺伝子構造を組めば
出力の特異性を上げる事ができます。
このようなAND遺伝回路ゲートは以下すでに考えられています。
・mRNA(8)
・転写因子(9)
・細胞表面抗原(10,11)

〇予測可能性と制御性
生体内の環境は常に変わっていることと、
患者さんごと、病気のタイプごと、患部組織内での異種性などから
予測できない結果が出ることが多くあります。
また薬剤系統を持続的に制御する事にもハードルがあります。
ここで合成生物学によって
フィードバックを制御した形の遺伝子回路、ネットワークを組む
ことができれば、出力から入力に戻されるときに
入力をまた任意に再構築できるので、
遺伝ネットワークが制御不能な状態へと変化していく事を
防ぐことができます。
このようなフィードバック制御ネットワークは
以下ですでに検討されています。
・Metabolite levels(12-15)
・Innflammation-driven production of immunomodulatory cytokines(16)
・Small-molecule controlled CAR activity(17) 
量子コンピューターのアルゴリズムでは誤り補正のシステムが
入れられることがありますが、
遺伝子回路でも信号の伝達の時に誤りを補正するような
システムをいれられるか?
そういった概念も検討する事ができる可能性があります。

//まとめ//---
生細胞を使った治療の大元で乗り越えないといけない壁は
「理解、制御可能な遺伝回路の形成」があります。
つまり
入力(物質、光、電場、磁場、温度、、、)と出力の因果において
遺伝子を使ってどうやって高い任意性を実現するか?
ということです。
これを最終的には生体内、生体外のあらゆるタイミングで
低コストで行うことが求められます。

(Reference)
(1)
Andres Cubillos-Ruiz, Tingxi Guo, Anna Sokolovska, Paul F. Miller, James J. Collins, Timothy K. Lu & Jose M. Lora 
Engineering living therapeutics with synthetic biology
Nature Reviews Drug Discovery (2021)
---
Author information
Affiliations
Department of Biological Engineering, Synthetic Biology Center, Institute for Medical Engineering and Science, Massachusetts Institute of Technology, Cambridge, MA, USA
Andres Cubillos-Ruiz & James J. Collins
Wyss Institute for Biologically Inspired Engineering, Harvard University, Boston, MA, USA
Andres Cubillos-Ruiz & James J. Collins
MIT Synthetic Biology Center, Massachusetts Institute of Technology, Cambridge, MA, USA
Tingxi Guo & Timothy K. Lu
Department of Electrical Engineering and Computer Science, Research Laboratory of Electronics, Massachusetts Institute of Technology, Cambridge, MA, USA
Tingxi Guo & Timothy K. Lu
Synlogic, Inc., Cambridge, MA, USA
Anna Sokolovska
Artizan Biosciences, New Haven, CT, USA
Paul F. Miller
Intergalactic Therapeutics, Boston, MA, USA
Jose M. Lora
(2)
Bob T. Li, M.D., Ph.D., M.P.H., Egbert F. Smit, M.D., Ph.D., Yasushi Goto, M.D., Ph.D., Kazuhiko Nakagawa, M.D., Hibiki Udagawa, M.D., Julien Mazières, M.D., Misako Nagasaka, M.D., Ph.D., Lyudmila Bazhenova, M.D., Andreas N. Saltos, M.D., Enriqueta Felip, M.D., Ph.D., Jose M. Pacheco, M.D., Maurice Pérol, M.D., Luis Paz-Ares, M.D., Kapil Saxena, M.D., Ryota Shiga, B.Sc., Yingkai Cheng, M.D., Ph.D., Suddhasatta Acharyya, Ph.D., Patrik Vitazka, M.D., Ph.D., Javad Shahidi, M.D., David Planchard, M.D., Ph.D., and Pasi A. Jänne, M.D., Ph.D. for the DESTINY-Lung01 Trial Investigators*
Trastuzumab Deruxtecan in HER2-Mutant Non–Small-Cell Lung Cancer
The New England Journal of Medicine September 18, 2021
(3)
Laird Egan, Dripto M. Debroy, Crystal Noel, Andrew Risinger, Daiwei Zhu, Debopriyo Biswas, Michael Newman, Muyuan Li, Kenneth R. Brown, Marko Cetina & Christopher Monroe 
Fault-tolerant control of an error-corrected qubit
Nature (2021)
(4)
Kitada, T., DiAndreth, B., Teague, B. & Weiss, R. 
Programming gene and engineered-cell therapies  with synthetic biology. 
Science 359, eaad1067 (2018).
(5)
Xie, M. & Fussenegger, M. 
Designing cell function: assembly of synthetic gene circuits for cell biology applications. 
Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 19, 507–525 (2018).
(6)
Xie, M. et al. 
β-cell-mimetic designer cells provide closed-loop glycemic control. 
Science 354,  1296–1301 (2016). 
(7)
Bai, P. et al. 
A synthetic biology-based device prevents liver injury in mice. 
J. Hepatol. 65, 84–94 (2016).
(8)
Xie, Z., Wroblewska, L., Prochazka, L., Weiss, R. & Benenson, Y. 
Multi-input RNAi-based logic circuit for identification of specific cancer cells. 
Science 333, 1307–1311 (2011).  
(9)
Nissim, L. et al. 
Synthetic RNA-based immunomodulatory gene circuits for cancer immunotherapy. 
Cell 171, 1138–1150.e15 (2017).  
(10)
Kloss, C. C., Condomines, M., Cartellieri, M., Bachmann, M. & Sadelain, M. 
Combinatorial antigen recognition with balanced signaling promotes selective tumor eradication by engineered T cells.  
Nat. Biotechnol. 31, 71–75 (2013).
(11)
Roybal, K. T. et al. 
Precision tumor recognition by T cells with combinatorial antigen-sensing circuits.  
Cell 164, 770–779 (2016).  
(12)
Kemmer, C. et al. 
Self-sufficient control of urate homeostasis in mice by a synthetic circuit. 
Nat. Biotechnol. 28, 355–360 (2010).
(13)
Saxena, P., Charpin-El Hamri, G., Folcher, M., Zulewski, H. & Fussenegger, M. 
Synthetic gene network restoring endogenous pituitary–thyroid feedback control in experimental Graves’ disease. 
Proc. Natl Acad. Sci. USA 113, 1244–1249 (2016).
(14)
Xie, M. et al. 
β-cell-mimetic designer cells provide closed-loop glycemic control. 
Science 354,  1296–1301 (2016).  
(15)
Bai, P. et al. 
A synthetic biology-based device prevents liver injury in mice. 
J. Hepatol. 65, 84–94 (2016).
(16)
Schukur, L., Geering, B., Charpin-El Hamri, G. & Fussenegger, M. 
Implantable synthetic cytokine converter cells with AND-gate logic treat experimental psoriasis. 
Sci. Transl Med. 7, 318ra201 (2015).
(17)
Wu, C. Y., Roybal, K. T., Puchner, E. M., Onuffer, J.  & Lim, W. A. 
Remote control of therapeutic T cells through a small molecule-gated chimeric receptor. 
Science 350, aab4077 (2015).


2021年10月6日水曜日 0 コメント

新型コロナウィルス感染の子供重症化の免疫的特徴と予後診断

新型コロナウィルスで重症化する子供は
極めてまれであるとされていますが、
重症化した子供は世界で報告されています(1)。
一番好ましい方法としては
重症化しやすい子供の特徴を掴み
感染前に選び出して、優先的にワクチン接種や
罹患した時の速やかな治療体制を整えるということです。
そういった予防的な処置が理想的です。
それに準ずる好ましい医療としては、
罹患した時の免疫反応から、予後を診断するということです。
すなわち過去、重症化した子供の免疫の細かいデータから
重症化に関連が深いパラメータを明らかにして
その免疫信号を罹患後、速やかに調べる事によって
重症化しやすい子供を見つけ、
重症化する前に治療を行うということです。

Supriya Ravichandran, Juanjie Tang, Gabrielle Grubbs, Youri Lee, Sara Pourhashemi
(敬称略)ら医療研究グループは
軽症と重症の子供、それぞれ20人、15人の
免疫反応、抗体を詳しく分析して、
それらの違いを明らかにしています(1)。

重症化するという事は大人の例かもわかるように
炎症性サイトカインの反応や
抗体の量などは多くなります。

一方、抗体の構造を分析すると
初期の放出されるIgM抗体の
NSPs, S protein, ORFなどの各エピトープに対する
「Clone frequency(遺伝子整合性頻度)」が異なります
(Ref.(1) Fig.3)。
このIgM抗体はIgG抗体よりも初期に発現されるので
子供が罹患した後、早い段階で調べるのには適しています。
IgG抗体よりも遺伝子多様性においてNSPsエピドープ
においては軽症と重症で差がIgMの方が大きいので
その点においてもスクリーニングを掛けるのには適しています。

また構造、膜融合する前のSタンパク質(Prefusion S)における
IgG抗体の親和性は重症の子供は低くなっています。
Supriya Ravichandran氏らはこの特徴を
予後診療において注目されています。

(Reference)
(1)
Supriya Ravichandran, Juanjie Tang, Gabrielle Grubbs, Youri Lee, Sara Pourhashemi, Laila Hussaini, Stacey A. Lapp, Robert C. Jerris, Vidisha Singh, Ann Chahroudi, Evan J. Anderson, Christina A. Rostad & Surender Khurana 
SARS-CoV-2 immune repertoire in MIS-C and pediatric COVID-19
Nature Immunology (2021)
---
Author information
Author notes
These authors contributed equally: Supriya Ravichandran, Juanjie Tang, Gabrielle Grubbs, Youri Lee, Sara Pourhashemi.
Affiliations
Division of Viral Products, Center for Biologics Evaluation and Research, FDA, Silver Spring, MD, USA
Supriya Ravichandran, Juanjie Tang, Gabrielle Grubbs, Youri Lee, Sara Pourhashemi & Surender Khurana
Department of Pediatrics, Emory University School of Medicine, Atlanta, GA, USA
Laila Hussaini, Stacey A. Lapp, Vidisha Singh, Ann Chahroudi, Evan J. Anderson & Christina A. Rostad
Center for Childhood Infections and Vaccines of Children’s Healthcare of Atlanta and Emory University, Atlanta, GA, USA
Laila Hussaini, Stacey A. Lapp, Ann Chahroudi, Evan J. Anderson & Christina A. Rostad
Department of Pathology and Laboratory Medicine, Children’s Healthcare of Atlanta and Emory University School of Medicine, Atlanta, GA, USA
Robert C. Jerris
Department of Medicine, Emory University School of Medicine, Atlanta, GA, USA
Evan J. Anderson


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新型コロナウィルスとインフルエンザ両方の感染リスク評価

北半球ではそろそろインフルエンザワクチンの接種が
開始される頃です。
今年は多くの人が夏に新型コロナウィルスのワクチンを
接種している中で、この秋、冬に
インフルエンザワクチンの接種をどうするか?
迷っている方もいると思います。
それに対する公式な声明は日本でも、世界でもないと
私が知る限りにおいては認識しています。
ワクチン同士、干渉、影響がないと考えるか?
それとも相乗効果があるか、あるいはその逆か?
現時点では抗体価、中和能などの情報はない
と認識しています。
あるいは副作用の情報も重要です。
この冬から医療従事者を始めとして、
新型コロナウィルスのワクチンの3回目のブースター接種が
行われる予定ですが、
そうした中でインフルエンザのワクチン接種をどうしたらいいか?
というのは重要な議題です。
---
Hagit Achdout, Einat. B. Vitner, Boaz Politi, Sharon Melamed
(敬称略)ら医療研究グループは
インフルエンザと新型コロナウィルスの両方に罹患した場合
重症化しやすいことを「マウスのケース」で示しています。
示されたデータによると
先にインフルエンザウィルスに感染させて
その後、2日後、5日後、8日後それぞれにおいて
新型コロナウィルスに感染させた場合
インターバルが短いほど、
重症化、死亡のリスクが高くなっています(Ref.(1) Fig.1)。
---
また事前にインフルエンザもしくは新型コロナウィルスの
ワクチンを30日前に接種した後、
インフルエンザ、新型コロナウィルス、
あるいはその両方を感染させたときの
生存率、体重の変化をマウスで調べています。
ワクチンと感染が交差した場合には
生存率をやや高めます。
新型コロナウィルスワクチンを接種した状態で
インフルエンザと新型コロナウィルス両方に感染した場合には
死亡率は接種しない場合と比べて同等となっています。
一方、インフルエンザワクチンを接種した状態で
インフルエンザと新型コロナウィルス両方に感染した場合には
マウスの死亡率が顕著に下がっています。
従って、Hagit Achdout氏らは
仮に両方に感染した時のリスクを考えると
インフルエンザワクチンの必要性を謳っています。
---
ただし、重要な条件として
事前に免疫を付けた場合、同時感染させた手順がどうであったか?
つまり同じタイミングで両方のウィルスを感染させたのか
違うタイミングならば、どちらが先だったのか?
その場合、間隔はどれくらい空いていたのか?
ということがあります。
上の結果から感覚が空くと
両方の感染のリスクが相対的に下がるからです。

(Reference)
(1)
Hagit Achdout, Einat. B. Vitner, Boaz Politi, Sharon Melamed, Yfat Yahalom-Ronen, Hadas Tamir, Noam Erez, Roy Avraham, Shay Weiss, Lilach Cherry, Erez Bar-Haim, Efi Makdasi, David Gur, Moshe Aftalion, Theodor Chitlaru, Yaron Vagima, Nir Paran & Tomer Israely 
Increased lethality in influenza and SARS-CoV-2 coinfection is prevented by influenza immunity but not SARS-CoV-2 immunity
Nature Communications volume 12, Article number: 5819 (2021) 
---
Author information
Author notes
These authors contributed equally: Hagit Achdout, Einat. B. Vitner, Boaz Politi, Sharon Melamed.
Affiliations
Departments of Infectious Diseases, Israel Institute for Biological Research, Ness-Ziona, 7410001, Israel
Hagit Achdout, Einat. B. Vitner, Boaz Politi, Sharon Melamed, Yfat Yahalom-Ronen, Hadas Tamir, Noam Erez, Roy Avraham, Shay Weiss, Lilach Cherry, Efi Makdasi, Nir Paran & Tomer Israely
Department of Biochemistry and Molecular Genetics, Israel Institute for Biological Research, Ness-Ziona, 7410001, Israel
Erez Bar-Haim, David Gur, Moshe Aftalion, Theodor Chitlaru & Yaron Vagima

2021年10月4日月曜日 0 コメント

癌の痛みケアの微視的な機序

//筆者の着想//---
癌治療における痛みを最小化するというのは
この道を選択したきっかけでもあるので、
その目標は失わずに進んでいきたいと思っています。
例えば、腰痛において「キーン」と走る
独特の痛みが走ることがあります。
これは主に脊髄に走る神経が圧迫されたからであると考えられます。
従って、整形外科では神経を圧迫しないように
姿勢の矯正を行う処置をすることがあります。
そうすることで神経への圧迫がなくなれば、
痛みも和らぐということです。
ここから神経細胞の変形と痛みの関係が浮かび上がります。
--
このように痛みが軽減することがあるということは、
癌治療においてもオピオイドのような鎮静剤を使わなくても
もっと自然な形で痛みを軽減できるかもしれない
と考えました。
その時に頭に浮かんだのが、癌組織と末梢神経の関係です。
癌組織が固着して成長した時に
その組織内に神経が形成されることがあるか?
もしそうであれば、癌組織を抗がん剤で退縮させたときに
そこにつながる神経の状態が変わることで
様々な痛みに繋がっているのか?という疑問を持ちました。
繋がる神経をできるだけ刺激しないように
癌組織を退行させる事ができるか?
あるいは信号が一切伝わらないように切断するのがいいのか?
そういったことを考えました。
このような着想から
癌組織中の神経系の形成が現在調査対象となっています。
しかし、調べてみると事はもっと複雑である事がわかります。
一方、癌治療の痛みには悪液質と呼ばれる筋組織を含めた
極度の栄養不足によって生じるものがあります。
これに対する対策としては、細胞種特異的輸送系統などを利用して
如何に癌組織だけ栄養不足にして、臓器の筋組織や骨格筋など運動に関わる
器官を含めた正常な細胞に栄養を十分に届けるか?
そのような栄養の極性を実現する事が考えられます。
--
Patrick W. Mantyh, Denis R. Clohisy, Martin Koltzenburg & Steve P. Hunt 
(敬称略)は癌における痛みの分子的メカニズムについて
総括されています(1)。
本日はその内容の一部を読者の方と情報共有したいと思います。

//概要//---
#1:癌が存在する周辺の感覚神経が環境中の刺激因子を
受容体によって認識して、電気信号に変えて
中枢神経系に運ばれます。
--
#2:上述した脊髄に繋がる求心性感覚神経にある
受容体は多様であり、多くの因子を検知することができます。
--
#3:固形癌、その周辺が酸性に傾くことで
感覚神経が活性化され、痛みにつながります。
--
#4:癌組織の成長によって神経を傷つけ、
神経傷害性の痛みを伴います。
--
#5:脊髄や前脳は慢性的な痛みによって
神経化学的、構造的な変化を伴います。
このような痛みは感作を引き起こし、
侵害受容体からの痛みの信号を脊髄と前脳に
より運びやすくさせます。
--
#6:癌の痛みは病気の進行とともに大きく、深刻になります。
従って、進行度の高い癌の痛みのケアのためには
異なるタイプの鎮痛が必要であるとされています。
あるいはステージによって痛みのメカニズムが異なる
可能性があります。
--
#7:癌の痛みの深刻度は患者さん、癌種、部位ごとに
全ての項目で異なります。

//侵害受容体(Nociceptors)//---
感覚求心性神経には参考文献(1)Figure1で示されるように
いくつかの膜貫通受容体があります。
/EP/TrKA/P2X3/Na+/DRASIC/ETaR/VR1
これらは受容体の構造を変える事に寄って
不活性モードと活性モードが存在します(2)。
組織が損傷を受けるとこれらの受容体の活性が高まり
感覚神経線維から痛みの信号が脊髄に運ばれます。

//考察//---
参考文献(1)Table 2を見ると
骨の癌の痛みのケアの種類についてまとめられています。
これを見ると痛みの原因となる神経線維の受容体の
働きを弱める薬などが提案されています。
このような事は重要なのですが、
慢性化して痛みの信号が高まっている時に
同様に慢性的に受容体の機能を弱め続ける事が
果たして長期的にいいかどうか?という疑問があります。
--
また、なぜ抗がん剤の治療は強い吐き気や倦怠感などの
痛みを伴うのか?という事についても調べる必要があります。
抗がん剤が効いていれば、腫瘍組織は小さくなっている
わけですから癌細胞から痛みの原因となる
物質が放出されているのであるとするならば、
その量は少なくなるはずです。
そうすると治療により吐き気などの痛みが出ているのは
癌組織に浸潤した神経組織が
癌組織の変形によって損傷を受けるからでしょうか?
あるいは組織が変わることで
通常の求心性感覚神経が傷つけられるからでしょうか?
もし、そうであるとするならば、
抹消で傷つけられた神経線維が回復するまで
「一時的に」痛みに関わる信号を抑制することが
痛みのケアとして考えられるでしょうか?
--
#5で慢性的な痛みがあると脊髄や前脳の
化学物質(神経伝達物質)や構造が変化するとされています。
この状態にはできれば移行させたくないというのがあります。
脊髄よりもより末端側の求心性感覚神経の可塑性の中で
どうやって収束させたらトータルの痛みを最小化できるか?
ということを明らかにできるか?という事だと思います。
これは「できるかどうか?」というのは
とりあえず脇に置いています。
例えば、癌が抗がん剤によって消えた後、
繋がった神経線維をそのまま放置していれば、
自発的にその神経線維は活性を失って退縮するのか?
ということです。
--
一方で、参考文献(1) Fig.2で示されている
• ATP
• Bradykinin
• H+
• Mechanical distention
• Nerve growth factor
• Prostaglandins
• VEGF
これらは癌組織がなくなることで少なくなるので
「連結性ではない要素」は取り除かれるかもしれません。

//考察(痛み緩和の戦略)//---
慢性の痛みを如何に回避して、
急性の痛みを適度に薬によって抑えるか?
ということです。
従って、痛みの原因が慢性化しないように
短期で原因から取り除く必要があります。
癌組織を短期間で小さくするという事は
基本的な事だと思います。

//細胞特異的輸送系統//---
癌組織周辺の感覚神経線維の受容体のアンタゴニスト
受容体不活性物質(COX1など)を
鎮痛剤として使用する事が挙げられていますが、
これらの薬剤の他に
感覚神経の周辺の電気信号伝導性を制御するミエリン鞘
に作用する薬を癌組織周辺特異的に輸送することができないか?
という視点があります。
ミエリンに作用するのがいい理由は、
標的となる場所が「点ではなく」「線だから」です。
つまり標的断面積が大きいために
より楽にアクセスできる可能性があります。
しかし、ミエリン鞘の特異性がなく、共通性が強ければ
オフターゲットが無いように確実に癌組織まで運ぶ必要があります。
このような組織特異的な鎮痛薬の使用は
より副作用が少ない形で痛みを取り除ける可能性があるか?
という事が提起されます。
--
ただし、有害な信号を運ぶ神経はC-fibreesと
A-δfibresであり、前者はミエリンがない
後者は薄いミエリンとなっています(1)。
ミエリンは電気伝導性を上げるものなので、
それがない、薄いという事はやや反応が遅いということです。
熱いものを触った時に身体が反射的に動く速度と
それを熱いと知覚する速度に差があるのは
ミエリンの有無、厚さによるものかもしれません。
従って、C-fibrees/A-δfibresに対する
ミエリンをターゲットした神経信号制御は
基本的な薬理機序から一工夫が必要であると考えられます。

//考察(新型コロナウィルス後遺症)//
新型コロナウィルスの後遺症の特徴として
症状があるときに無理に動くと悪化する
ケースがあるということです。
これは実際に後遺症外来をされている
日本の医師の方からの情報です。
気になるのは「運動をすることによって何が変わるのか?」
ということです。
しかも、その後重篤な状態が続くという事です。
このような特性から考えて、
症状としては運動によって分子的な分泌が閾値的に
変わったというよりも、
筋肉、骨、関節などの組織を動かす事によって
求心性感覚神経、脊髄、脳の回路が損傷を受けた
あるいは一部切断されたという事は考えられないでしょうか?

(Reference)
(1)
Patrick W. Mantyh, Denis R. Clohisy, Martin Koltzenburg & Steve P. Hunt 
Molecular mechanisms of cancer pain
Nature Reviews Cancer volume 2, pages201–209 (2002)
---
Author information
Affiliations
Departments of Preventive Sciences, Psychiatry and Neuroscience, University of Minnesota, 18-208 Moos Tower, 515 Delaware Street SE, Minneapolis, 55455, Minnesota, USA
Patrick W. Mantyh
Department of Orthopaedic Surgery, Medical School and Cancer Center, University of Minnesota, 420 Delaware Street SE, Minneapolis, 55455, Minnesota, USA
Denis R. Clohisy
Institute of Child Health and Institute of Neurology, University College London and National Hospital for Neurology and Neurosurgery, 30 Guilford Street, London, WC1N 1EH, UK
Martin Koltzenburg
Department of Anatomy and Developmental Biology, Medawar Building, University College London, Gower Street, London, WC1E 6BT, UK
Steve P. Hunt
(2)
Schmidt, R. et al. 
Novel classes of responsive and unresponsive C nociceptors in human skin. 
J. Neurosci. 15,333–341 (1995).


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データサイエンスと医療について考える

量子コンピューターの一つの魅力は
「省エネ」ということです。
今、IT企業の多くは大きな倉庫の中に
膨大な量のコンピューターを相互接続させて、
その上で大量のデータを収集、分析し、
そこから収益につなげています。
量子コンピューターがどういうアルゴリズムを組めるか
というのは現時点では明らかではありませんが、
現在想定されているメリットの一つは
「省エネである」ということです。
それは、今後データサイエンスを発達させていく上で
重要な要素だと思います。
もし、今、膨大に並べているコンピューターの計算が
テーブルの上の一つのコンピューターでできるようになると
比較的小さな団体でも適正なアルゴリズムを組めば
大きな事ができる可能性があります。
(但し、データ収集能力という問題はあります。)
言い換えれば、データサイエンスも
ある程度コモディティー化する可能性があるということです。
しかし、これは光と影の部分があると推測されます。
光の部分は見えやすいですが、
影の部分を良く考える必要性が出てきます。
---
機械学習などによってある「目標、目的」を定めたとします。
例えば、近年、不漁である
「サンマの漁獲量をAトンに安定させたい。」
という目標を定めたとします。
本当はできるだけ多く漁獲したいですが、
サンマ漁の持続可能性の為に任意、適正に定めます。
例えば、10年前の水準でもいいかもしれません。
機械学習させるためには
サンマの漁獲量と環境の様々な要因の因果を
入力する必要があります。
この要因は幾何数学でいうxyzt軸のようなものです。
その評価関数で示される関数空間をどう設定するか?
ということになります。
目的の結果と要因の中に数字で示される因果があり
それが教師データ、評価の根源となります。
データを集めるときに
それに紐づく多くの要因があればあるほど
データの質が向上し、
その量が多ければ、機械学習の精度も上がってきます。
従って、目的が明確であり、
データの質、データの量、適切な軸設計(関数空間)があれば
おそらく精度の高い結果が得られると思います。
逆に言えば、重要な要因の見落としがあると
結果は一気に悪くなってしまいます。
先日、北海道の東で赤潮が発生しました。
それでサケやウニが大量に死亡しました。
こういうことは今までになかったようです。
こういう明らかに漁獲量と相関の高い要因が
突発的にでも発生してしまうとデータサイエンスの精度は
一気に崩れてしまいます。
それが北海道の赤潮のように初めて、稀であれば、
そこに難しさが生じます。
---
Brendan Reardon, Nathanael D. Moore(敬称略)ら
医療研究グループは
癌において患者さんのDNA, RNAの遺伝子情報から
治療モデル、薬剤、分子生物学の特徴などを
高精度に示すモデルを提案しています(1)。
このアルゴリズムを見ると
癌と遺伝子において重要な要因と
分子生物学的な特徴との関連付けが示されています。
癌と遺伝子において重要な要因は
1次的な評価だけではなく、2次的な評価を行っています。
つまり、今までの評価軸をさらに拡張しています。
そしてデータはいくつかのデータベースを参照し
最終的に「出力、目的達成」のため、
上述した要因とFDAなどで蓄積されている
臨床結果のデータベースを参照しています。
従って、うまく機能すれば、
当然、患者さんの遺伝子情報を入れれば、
FDAなどで示されている承認済みの効果のある臨床情報を
出力する事に成功します。
それが、前述した薬剤、治療戦略、分子的な特徴です。
(Ref.(1) Fig.6c)
その確からしさがFig.6bに示されています。
---
コンピューターを使った治療方針の決定は
今後、さらに進んでいくと思われます。
これはコストメリットもあるからです。
例えば、医療スタッフの時間的な負担も減ります。
コンピューターが考えてくれることで時間短縮になり、
多くの患者さんに適正な治療を行うことができれば、
当然、病院の経営も楽になります。
また、余分な検査を減らすことは
医療費削減にもなりますし、
患者さんの身体への負担も減らすことができます。
しかし、重要なのは
海の「赤潮」のようなケースです。
例えば、肺癌においてごく稀にみられるけど
非常に重要な隠れた要因があるとします。
その要因をアルゴリズムの中にパラメータとして
反映できていない場合には、
その要因を持つ患者さんにおいては
評価の誤差が非常に大きくなってしまいます。
医療は人の命に係わる事なので、
99%の成功し、1%大きなミスをすると
その1%が大きな問題となります。
昔の医療をお存知のある先生が
「最近は目の前の患者さんを診なくなった。」
と言われていました。
つまり、パソコンの数字ばかりを見るようになった
ということです。
データサイエンスが取り入れられれば、
その傾向が強まるのではないか?と考える部分があります。
データサイエンスが重要な事は言うまでもありませんが、
一方で、医師の方が直接診るということは
よりアルゴリズムを組めたとしても重要ではないか?
と考えられます。
もし、自分が患者として病院に行った時、
コンピューターで表示された数字だけ見せられて、
その結果を示されて、治療が決定されると
心理的な不安もあります。
大きな病気であればなおさらそうです。
そのような心理的な面も治療には影響すると考えられます。
---
光だけ取って、影を生まないという事は
不可能な事かもしれませんが、
それらの結果へのプロセスを多様にすることで
リスクを分散させる事ができると考えられます。

(Reference)
(1)
Brendan Reardon, Nathanael D. Moore, Nicholas S. Moore, Eric Kofman, Saud H. AlDubayan, Alexander T. M. Cheung, Jake Conway, Haitham Elmarakeby, Alma Imamovic, Sophia C. Kamran, Tanya Keenan, Daniel Keliher, David J. Konieczkowski, David Liu, Kent W. Mouw, Jihye Park, Natalie I. Vokes, Felix Dietlein & Eliezer M. Van Allen 
Integrating molecular profiles into clinical frameworks through the Molecular Oncology Almanac to prospectively guide precision oncology
Nature Cancer (2021)
---
Author information
Affiliations
Department of Medical Oncology, Dana-Farber Cancer Institute, Boston, MA, USA
Brendan Reardon, Nathanael D. Moore, Nicholas S. Moore, Eric Kofman, Saud H. AlDubayan, Alexander T. M. Cheung, Jake Conway, Haitham Elmarakeby, Tanya Keenan, Daniel Keliher, David Liu, Jihye Park, Natalie I. Vokes, Felix Dietlein & Eliezer M. Van Allen
Broad Institute of MIT and Harvard, Cambridge, MA, USA
Brendan Reardon, Nathanael D. Moore, Nicholas S. Moore, Eric Kofman, Saud H. AlDubayan, Alexander T. M. Cheung, Jake Conway, Haitham Elmarakeby, Alma Imamovic, Sophia C. Kamran, Tanya Keenan, Daniel Keliher, David J. Konieczkowski, David Liu, Kent W. Mouw, Jihye Park, Natalie I. Vokes, Felix Dietlein & Eliezer M. Van Allen
Indiana University School of Medicine, Indianapolis, IN, USA
Nathanael D. Moore
Howard Hughes Medical Institute, Chevy Chase, MD, USA
Nathanael D. Moore
Department of Internal Medicine, University of Cincinnati, Cincinnati, OH, USA
Nathanael D. Moore
Harvard Medical School, Harvard University, Boston, MA, USA
Nicholas S. Moore & Kent W. Mouw
Department of Cellular and Molecular Medicine, University of California, San Diego, La Jolla, CA, USA
Eric Kofman
Institute for Genomic Medicine, University of California, San Diego, La Jolla, CA, USA
Eric Kofman
Division of Genetics, Brigham and Women’s Hospital, Boston, MA, USA
Saud H. AlDubayan
College of Medicine, King Saud bin Abdulaziz University for Health Sciences, Riyadh, Saudi Arabia
Saud H. AlDubayan
Grossman School of Medicine, New York University, New York, NY, USA
Alexander T. M. Cheung
Division of Medical Sciences, Harvard University, Boston, MA, USA
Jake Conway
Department of System and Computer Engineering, Al-Azhar University, Cairo, Egypt
Haitham Elmarakeby
Department of Pediatric Oncology, Dana-Farber Cancer Institute, Harvard Medical School, Boston, MA, USA
Alma Imamovic
Department of Radiation Oncology, Massachusetts General Hospital, Harvard Medical School, Boston, MA, USA
Sophia C. Kamran
Department of Mathematics, Tufts University, Medford, MA, USA
Daniel Keliher
Department of Radiation Oncology, Dana-Farber Cancer Institute & Brigham and Women’s Hospital, Boston, MA, USA
David J. Konieczkowski & Kent W. Mouw
Harvard Radiation Oncology Program, Massachusetts General Hospital, Boston, MA, USA
David J. Konieczkowski
Department of Radiation Oncology, the Ohio State University Comprehensive Cancer Center—Arthur G. James Cancer Hospital and Richard J. Solove Research Institute, Columbus, OH, USA
David J. Konieczkowski
Department of Thoracic/Head and Neck Oncology, MD Anderson Cancer Center, Houston, TX, USA
Natalie I. Vokes

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ウガンダ北部のアルテミシニン(薬剤)耐性マラリアの評価

//背景//---
マラリアは熱帯から亜熱帯の低緯度地域に広く分布しています。
日本では確認されていませんが、
北端としては日本列島に入る地域もあるので、
今後、注意が必要です。
ただ、先進国では世界的に
感染が抑え込まれている傾向にあります。
例えば、南米のチリは周辺国に対して北側の地域でも
リスクは高くない状況となっています。
-
このマラリアは2019年には世界で2億2900万の関連例が報告され
おおよそ40万9千人の人がなくなっています(2)。
このマラリアに対してはアルテミシニンをベースとした
治療が第一選択候補とされていますが、
それに対して耐性を持つマラリア系統が
東南アジアやアフリカで確認されています(3-9)。
-
このアルテミシニン薬剤耐性を持つマラリアの
関連遺伝子変異箇所は明らかになっています。
kelchタンパク質の
M476I, P553L, R561H, P574L, A675V, C469Yを
含め10種類の変異が明らかになっています。
-
Betty Balikagala, Naoyuki Fukuda(敬称略)ら
医療研究グループはアフリカのウガンダ北部における
アルテミシニン耐性を持つマラリアの広がりと
薬剤の効果について評価しています(1)。
本日はその結果の一部について
読者の方と情報共有いたします。

//条件//---
時期:2015~2019年
場所:St. Mary's Hospital Lacor in Gulu, Northern  Uganda
人数:240人
研究年:2017, 2018, 2019年
変異:A675V(11%), C469Y(2%), WT(84%)

//結果//---
*Parasite clearance half-lives
(Geometric mean)
A675変異: 3.95時間
C469Y変異: 3.30時間
WT: 1.78時間
-
kelch13変異(薬剤耐性)の推移
2015年: 3.9% → 2019年: 19.8%
主にA675V、C469Y
東南アジアと異なる変異が広がっています。
-
生体外の生存率の調査では
A675V変異が高く、上の半減期の結果と合わせると
A675Vの脅威がより高いと評価できます。
2017年くらいから一気に
薬剤耐性を持つ変異系統が広がりを見せています。
従って、ウガンダにおけるマラリア変異系統の広がりにおいては
継続的な監視が必要であると考えられます。

(Reference)
(1)
Betty Balikagala, M.D., Ph.D., Naoyuki Fukuda, M.D., D.T.M.H., Ph.D., Mie Ikeda, Ph.D., Osbert T. Katuro, B.Sc., Shin-Ichiro Tachibana, Ph.D., Masato Yamauchi, M.P.H., Ph.D., Walter Opio, M.D., Sakurako Emoto, M.D., Denis A. Anywar, M.Sc., Eisaku Kimura, M.D., Ph.D., Nirianne M.Q. Palacpac, Ph.D., Emmanuel I. Odongo-Aginya, Ph.D., Martin Ogwang, M.D., M.M.E.D., Toshihiro Horii, Ph.D., and Toshihiro Mita, M.D., Ph.D.
Evidence of Artemisinin-Resistant Malaria in Africa
The New England Journal of Medicine 2021; 385:1163-1171
---
Author Affiliations
From the Department of Tropical Medicine and Parasitology, School of Medicine (B.B., N.F., M.I., S.-I.T., M.Y., S.E., T.M.), and the Atopy Research Center, Graduate School of Medicine (B.B.), Juntendo University, Tokyo, the School of Tropical Medicine and Global Health, Nagasaki University, Nagasaki (E.K.), and the Department of Malaria Vaccine Development, Research Institute for Microbial Diseases, Osaka University, Osaka (N.M.Q.P., T.H.) — all in Japan; and Mildmay Uganda, Nazibwa Hill, Kampala (O.T.K.), and St. Mary’s Hospital Lacor (W.O., M.O.) and the Faculty of Medicine, Gulu University (D.A.A., E.I.O.-A.), Gulu — all in Uganda.
(2)
World  malaria  report  2020.  Geneva:  World Health Organization, 2020.
(3)
Ashley EA, Dhorda M, Fairhurst RM, et al. 
Spread of artemisinin resistance in Plasmodium falciparum  malaria.  
N  Engl  J Med 2014; 371: 411-23.
(4)
Noedl H, Socheat D, Satimai W. 
Artemisinin-resistant malaria in Asia. 
N Engl J Med 2009; 361: 540-1.
(5)
Dondorp AM, Nosten F, Yi P, et al. 
Artemisinin  resistance  in  Plasmodium  falciparum malaria. 
N Engl J Med 2009; 361: 455-67.
(6)
WWARN  K13  Genotype-Phenotype Study Group. 
Association of mutations in the  Plasmodium  falciparum  Kelch13  gene (Pf3D7_1343700) with parasite clearance rates after artemisinin-based treatments — a WWARN individual patient data meta-analysis. 
BMC Med 2019; 17: 1.
(7)
Amaratunga C, Sreng S, Suon S, et al. 
Artemisinin-resistant  Plasmodium  falciparum in Pursat province, western Cambodia:  a  parasite  clearance  rate  study. 
Lancet Infect Dis 2012; 12: 851-8.
(8)
Report on antimalarial drug efficacy, resistance and response: 10 years of surveillance  (2010–2019).  
Geneva:   World Health Organization, November 2020.
(9)
Kayiba  NK,  Yobi  DM,  Tshibangu-Kabamba E, et al. 
Spatial and molecular mapping of Pfkelch13 gene polymorphism in Africa in the era of emerging Plasmodium falciparum resistance to artemisinin: a  systematic  review.  
Lancet  Infect  Dis 2021; 21(4): e82-e92.


2021年10月3日日曜日 0 コメント

片頭痛とホルモン、SARS-CoV-2後遺症に関して

先日、19歳の男性の学生さんの後遺症の状態が
日本のメディアで報道されていました。
軽傷でしたが、若干後遺症がある状態で
散歩したところ、症状が一気に悪くなりました。
今は、母親の看病の元、ベットで寝て過ごし、
トイレに行くときには壁に寄り掛からないといけないくらい
症状が悪いとされています。
大学受験を控えていますが、
今は受験勉強はできる状態ではないということです。
もちろん快方に向かう可能性はありますが、
より良い治療というのは求められていると思います。
間違った治療をすれば、逆効果
ということもあるので慎重になる必要がありますが、
特に私が脳神経学の科学論文を読むときは
一見遠い内容だと思われても、関連性を見つける努力をします。
おそらく新型コロナウィルスの後遺症は
神経系以外の体細胞組織の特定の場所に炎症がみられる
ということがない可能性が高く、
神経系の異常によって生じている事を
現時点では疑っているからです。
従って、脳神経学の様々な研究は
新型コロナウィルスの後遺症の理解、治療につながる
と考えています。

//概要//---
日本では「頭痛持ち」という言葉が使われる事があります。
このような片頭痛は15歳~49歳の女性において
統計的に最も多い疾患となっています。
おおよそ17%の女性が程度の差はあれ片頭痛を経験し、
性別構成比ではおおよそ全体の75%が女性である
とされています(7-9)。
--
片頭痛の痛みの種類は
〇片側/〇拍動(ズキズキ)であり、
男性によりも吐き気、光、音声過敏などが
生じやすいとされています(8,10)。
1度の片頭痛は4時間から72時間まで継続すると言われています。
--
Diana N. Krause, Karin Warfvinge, Kristian Agmund Haanes & Lars Edvinsson 
(敬称略)からなる医療研究グループは
片頭痛の女性ホルモンの関わりについて
痛みに関わるCGRPや痛みの神経経路なども含めて
総括されています(1)。
本日は、その一部を参照して
独自の調査、視点を加えながら
読者の方と情報共有したいと思います。
より重要な現在の治療についても紹介いたします。

//片頭痛の原因と時期//---
Ref.(1)のFig.1からわかるように
エストロゲン、オキシトシン、プロゲステロンなどの
女性ホルモンが3つとも最小となる時期に
片頭痛が起こりやすいと考えられています。
月経周期ののなかの月経期(1-4日)となります。
従って、このような時期に頭の片側がズキズキ痛む
傾向にある場合は片頭痛に罹患していることを疑う
必要性があります。
片頭痛は前兆がなく突然生じることが多いとされています(1)。
--
経口避妊薬(低用量ピル)はプロエストロゲンとエストロゲンの
2種類の女性ホルモンからなりますが、
これを止めたときに頭痛が生じる場合には
これらのホルモンが下がったことによって生じている
可能性があり片頭痛を疑う必要があります。
「Oestrogen withdrawal theory」と呼ばれています(1)。
--
男性の前立腺癌や女性の乳がんの治療の中で
ホルモン療法があります。
それによって上述したようなホルモンに変化が出ると
治療後に副作用として片頭痛が生じる事があります(3)。

//新型コロナウィルス後遺症との関連//---
新型コロナウィルスの感染によって
片頭痛に似た頭痛が多くの患者さんで生じたとされています(4)。
吐き気、光や音に過敏になっていることは
自己免疫的な異常の他に
片頭痛の原因として挙げられているホルモンバランスが
崩れていることによって生じている可能性も考えられます。
従って、後遺症など症状が長引いている人に対しては
オキシトシン、プロエストロゲン、エストロゲン、
テステステロンなどの性ホルモンの量を調べる事に
一定の価値がある可能性があります。
後遺症は女性のほうが多いとされているので
上述した性ホルモンの変化を疑う事も重要です。
その時には女性に問診を行う際、月経周期の中で
症状の変化があるか?という事を問うことが重要です。
実際に月経周期との関連が指摘されているニュースもあります(5)。
このような原因から治療につながる可能性があります。

//痛みの機序//---
治療の所で述べているようにCGRPと呼ばれるペプチドが
過剰放出することによって起こるとされています。
女性ホルモンとどのように関わっているか?
という議論もありますが、
光、音、匂いといった外部からの刺激によっても
CGRPが三叉神経と呼ばれる頭蓋内の中央部(脳幹)の中にある
脳神経から放出され、CGRP受容体に結合し
血管が拡張して片頭痛が起こるとされています。
この三叉神経は解剖図をみればわかりますが、
目、鼻、舌、耳(?)と多く神経細胞が繋がっています。
従って、光、音、匂い、味などによって
痛みが惹起されることがあると考えられます。
--
また上述した痛みの周期でも述べた通り
三叉神経における
エストロゲンとオキシトシンとCGRPのバランスによっても
変わります。エストロゲンとオキシトシンが少なくなると
三叉神経におけるCGRP信号が亢進され、
それによって片頭痛が生じやすくなります。
(Ref.(1) Fig.5より)
--
痛みに関わる神経回路は脊髄を通じて双方向性を持ちますが、
オキシトシンはその痛みに関わる神経回路の
神経細胞の受容体に結合することが示されています。
男性の片頭痛においても
オキシトシンの量によって片頭痛の確率が変わる可能性も
考えられます。
(Ref.(1) Fig.4より)
--
三叉神経においてCGRPの生成、受容体結合は
隣り合う神経細胞で行われます。
Small C線維神経細胞で生成され、
Medium Aδ線維神経細胞の受容体で認識されます。
その間にグリア細胞があり、
そこにもCGRP受容体は存在します。
(Ref.(1) Fig.3より)

//治療//---
片頭痛の治療は症状が軽い場合は鎮痛作用がある
アセトアミノフェンや非ステロイド抗炎症薬が用いられ、
治療の中心はトリプタンです。
CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)が過剰放出
されることが片頭痛の病理の一つであるとされています(11,12)。
上述したトリプタンはこのCGRPを抑制する作用があり
服用すると約30分で効果が現れます。
吐き気が強く、内服できない場合は
点鼻薬や自己注射薬が用いられます。
トリプタンは使われ始めて20年以上が経過しましたが
重篤な副作用はほとんどなく安全性が高い薬である
とされています(2)。
従って、科学的な裏付けに基づいて薬が選択されている
ということが言えます。
---
経口避妊薬などのエストロゲン製剤は
心臓血管疾患(血栓閉塞症、脳卒中)、乳がんのリスク
が向上するという報告もあります(13-16)。
一方、片頭痛がある人は
乳癌のリスクが26%少ないという報告もあります(6)。
従って、ある程度の女性ホルモンが変動する事は
女性の健康において重要な意味がある可能性があります。
従って、そのホルモンを長期的、慢性的に
補正するような処置は好ましくない可能性があります。
このことから頭痛がない人において
経口避妊薬を頻繁に使用する事に対しては
一考の余地があると考えられます。

(Reference)
(1)
Diana N. Krause, Karin Warfvinge, Kristian Agmund Haanes & Lars Edvinsson 
Hormonal influences in migraine — interactions of oestrogen, oxytocin and CGRP
Nature Reviews Neurology volume 17, pages621–633 (2021)
---
Author information
Affiliations
Department of Medicine, Institute of Clinical Sciences Lund, Lund University, Lund, Sweden
Diana N. Krause, Karin Warfvinge & Lars Edvinsson
Department of Pharmaceutical Sciences, School of Pharmacy & Pharmaceutical Sciences, University of California at Irvine, Irvine, CA, USA
Diana N. Krause
Department of Clinical Experimental Research, Glostrup Research Institute, Rigshospitalet, Glostrup, Denmark
Karin Warfvinge, Kristian Agmund Haanes & Lars Edvinsson
(2)
トリプタンの副作用と問題点(こばやし小児科・脳神経外科クリニック)
(3)
BY SARAH ZIZINIA
Migraine headaches in cancer patients: How to prevent and treat them
The University of Texas MD Anderson Cancer Center
(4)
Fedele Dono et al.
New daily persistent headache after SARS-CoV-2 infection: a report of two cases
Neurol Sci. 2021 Jul 15 : 1–4.
(5)
Long COVID and periods: The unspoken impact on female well-being
Medical News Today
(6)
Christopher I. Li et al.
Relationship between Migraine History and Breast Cancer Risk among Premenopausal and Postmenopausal Women
Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2009 Jul; 18(7): 2030–2034.
(7)
GBD. 2015 Disease and Injury Incidence and Prevalence Collaborators. Global, regional, and national incidence, prevalence, and years lived with disability for 310 diseases and injuries, 1990–2015: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2015. 
Lancet 388, 1545–1602 (2016).
(8)
Vetvik, K. G. & MacGregor, E. A. 
Sex differences in the epidemiology, clinical features, and pathophysiology  of migraine. 
Lancet Neurol. 16, 76–87 (2017).
(9)
Lipton, R. B. et al. 
Migraine prevalence, disease burden, and the need for preventive therapy. 
Neurology 68, 343–349 (2007).
(10)
Bolay, H. et al. 
Gender influences headache characteristics with increasing age in migraine patients. 
Cephalalgia 35, 792–800 (2015).
(11)
Edvinsson, L., Haanes, K. A., Warfvinge, K. &  Krause, D. N. 
CGRP as the target of new migraine therapies — successful translation from bench to clinic. 
Nat. Rev. Neurol. 14, 338–350 (2018).  
(12)
Haanes, K. A. & Edvinsson, L. 
Pathophysiological mechanisms in migraine and the identification of new therapeutic targets. 
CNS Drugs 33, 525–537 (2019).
(13)
Gartlehner, G. et al. 
Hormone therapy for the primary prevention of chronic conditions in postmenopausal women: evidence report and systematic review for  the US Preventive services task force. 
JAMA 318, 2234–2249 (2017).
(14)
Middeldorp, S. 
Oral contraceptives and the risk of venous thromboembolism. 
Gend. Med. 2 (Suppl. A), S3–9 (2005).
(15)
Collaborative Group on Hormonal Factors in  Breast Cancer. 
Type and timing of menopausal hormone therapy and breast cancer risk: individual participant meta- analysis of the worldwide epidemiological evidence. 
Lancet 394, 1159–1168 (2019).
(16)
Beaber, E. F. et al. 
Recent oral contraceptive use  by formulation and breast cancer risk among women 20 to 49 years of age. 
Cancer Res. 74, 4078–4089 (2014).

2021年10月2日土曜日 0 コメント

表現型とリンクした大規模遺伝子マップの価値

子供が先天性に抱える疾患の中には、
単一遺伝子の異常が深く関係しているものもありますが、
生活を初めて、時間が経過して
環境要因も多数受ける中で生じた疾患に対しては
それにおいて何か身体に異常が生じた時に、
その因果関係を掴むのは容易ではありません。
例えば、血液検査をして、
血圧、血糖値などに異常があって、
それを単純に元に戻す事が十分条件ではない事があります。
昔は医師は聴診により心音や呼吸状態を確認し
患者さんに対して問診する事で病状を判断していました。
そうした場合において、
治療が必要な身体の異常が隠れていて、
見逃されるケースもあるかもしれません。
また、入院などの中程度以上の医療介入が
必要な疾患を抱える場合、病名がつきますが、
その病名を付けるのが難しい場合もあると思います。
合併症、併存症の場合もあります。
病気の分類には
International Classification of Diseases
というガイドラインがあります(2)。
そうした分類に依拠して病名をつけて、
そのガイドラインに則した治療が進められると考えられます。
--
経験が長い医師の方は、今までの経験、症例から
どんな検査、治療が必要か当たりを付けると考えます。
それはデータサイエンスからすると
統計的なデータを活用するということです。
人の知識はデジタル化はできず、
コンピューターとはアナログ/デジタルの違いはありますが、
過去の経験は脳にメモリーされたデータと言えます。
--
一方、多面的なつながりのあるデータがもしあって、
いろんな条件を当てはめる事によって
確率的にどんな検査、治療が有効かというのが
データとして示されると経験と共に
非常に重要な判断材料となると考えられます。
--
Saori Sakaue, Masahiro Kanai(敬称略)ら
医療研究グループは、
日本、イギリス、フィンランドの数十万人規模のバイオバンクから
血液型(赤血球、白血球)、病気、バイオマーカー
これらと遺伝子の情報の関連を明らかにしています(1)。
--
これをすることの(私が考える)価値は
先ほど述べた様にこれらの情報を順番に埋めていく事で
仮説を必要としない次の手を打つことができるということです。
例えば、血液型、病気、異常遺伝子群がわかっていれば
おそらく「この(特定の)」バイオマーカーに異常が出ているはずである
ということが事前に統計的にわかるということです。
そしてその候補となるバイオマーカー群に異常があれば、
決定してきた要因の確からしさが得られるということです。
例えば、病気を決めるのに不確定性があれば、
他の要因の一致が見られれば、
おおよそ確定的になるということです。
実際には人種ごとに異なることもありますから
日本の場合は、日本人だけのデータ群を持っていることが意味を持ちます。
従って、上述した日本人のバイオバンクを持ち
それを調べる事に意義を見出すことができます。
--
また参考文献(1)でも述べられていますが、
病気、異常遺伝子群、血液型、バイオマーカーの関連がわかれば
それに対して効果的な薬剤の発見にもつながります。
それは創薬だけではなく、
すでに存在する薬剤を使うリパーポスにおいても有効です。
またどういう組み合わせで薬剤を使えば、
効果が得られるかということを予測することもできます。
なぜなら関連遺伝子、バイオマーカー、白血球(免疫細胞)の
情報などは薬剤の標的となるからです。
--
こういったことが機械学習などと合わせて
コンピューター上でソフトフェアで動かすことができると
例えば、医師の方が必要な項目をパソコンに入力すると
様々な統計的な結果が出力されて
診断や治療方針のアドバイスが得られる
ということも考えられます。
それによって必要のない検査を
防ぐことができる可能性もあります。
もちろん目の前には患者さんがいますから
従来の聴診に基づく判断で有ったり、
患者さんの症状を聴いたり、診て判断する余地は
残しておく必要があると思いますが、
エビデンスに基づいた
より多面的に診療できる可能性があります。

(参考文献)
(1)
Saori Sakaue, Masahiro Kanai, Yosuke Tanigawa, Juha Karjalainen, Mitja Kurki, Seizo Koshiba, Akira Narita, Takahiro Konuma, Kenichi Yamamoto, Masato Akiyama, Kazuyoshi Ishigaki, Akari Suzuki, Ken Suzuki, Wataru Obara, Ken Yamaji, Kazuhisa Takahashi, Satoshi Asai, Yasuo Takahashi, Takao Suzuki, Nobuaki Shinozaki, Hiroki Yamaguchi, Shiro Minami, Shigeo Murayama, Kozo Yoshimori, Satoshi Nagayama, Daisuke Obata, Masahiko Higashiyama, Akihide Masumoto, Yukihiro Koretsune, FinnGen, Kaoru Ito, Chikashi Terao, Toshimasa Yamauchi, Issei Komuro, Takashi Kadowaki, Gen Tamiya, Masayuki Yamamoto, Yusuke Nakamura, Michiaki Kubo, Yoshinori Murakami, Kazuhiko Yamamoto, Yoichiro Kamatani, Aarno Palotie, Manuel A. Rivas, Mark J. Daly, Koichi Matsuda & Yukinori Okada 
A cross-population atlas of genetic associations for 220 human phenotypes
Nature Genetics (2021)
---
Author information
Author notes
These authors contributed equally: Saori Sakaue, Masahiro Kanai.
Affiliations
Department of Statistical Genetics, Osaka University Graduate School of Medicine, Suita, Japan
Saori Sakaue, Masahiro Kanai, Takahiro Konuma, Kenichi Yamamoto, Ken Suzuki & Yukinori Okada
Laboratory for Statistical and Translational Genetics, RIKEN Center for Integrative Medical Sciences, Yokohama, Japan
Saori Sakaue, Masato Akiyama, Kazuyoshi Ishigaki, Chikashi Terao, Yoichiro Kamatani & Yukinori Okada
Center for Data Sciences, Harvard Medical School, Boston, MA, USA
Saori Sakaue & Kazuyoshi Ishigaki
Divisions of Genetics and Rheumatology, Department of Medicine, Brigham and Women’s Hospital, Harvard Medical School, Boston, MA, USA
Saori Sakaue & Kazuyoshi Ishigaki
Program in Medical and Population Genetics, Broad Institute of Harvard and MIT, Cambridge, MA, USA
Saori Sakaue, Masahiro Kanai, Juha Karjalainen, Mitja Kurki, Kazuyoshi Ishigaki, Aarno Palotie & Mark J. Daly
Analytic and Translational Genetics Unit, Massachusetts General Hospital, Boston, MA, USA
Masahiro Kanai, Juha Karjalainen, Mitja Kurki & Mark J. Daly
Stanley Center for Psychiatric Research, Broad Institute of Harvard and MIT, Cambridge, MA, USA
Masahiro Kanai, Juha Karjalainen, Mitja Kurki & Mark J. Daly
Department of Biomedical Informatics, Harvard Medical School, Boston, MA, USA
Masahiro Kanai
Institute for Molecular Medicine Finland (FIMM), University of Helsinki, Helsinki, Finland
Masahiro Kanai, Juha Karjalainen, Mitja Kurki, Aarno Palotie & Mark J. Daly
Department of Biomedical Data Science, School of Medicine, Stanford University, Stanford, CA, USA
Yosuke Tanigawa & Manuel A. Rivas
Tohoku Medical Megabank Organization, Tohoku University, Sendai, Japan
Seizo Koshiba, Akira Narita, Gen Tamiya & Masayuki Yamamoto
Advanced Research Center for Innovations in Next-Generation Medicine (INGEM), Sendai, Japan
Seizo Koshiba, Gen Tamiya & Masayuki Yamamoto
Department of Pediatrics, Osaka University Graduate School of Medicine, Suita, Japan
Kenichi Yamamoto
Laboratory of Statistical Immunology, Immunology Frontier Research Center (WPI-IFReC), Osaka University, Suita, Japan
Kenichi Yamamoto & Yukinori Okada
Department of Ocular Pathology and Imaging Science, Graduate School of Medical Sciences, Kyushu University, Fukuoka, Japan
Masato Akiyama
Laboratory for Autoimmune Diseases, RIKEN Center for Integrative Medical Sciences, Yokohama, Japan
Akari Suzuki & Kazuhiko Yamamoto
Department of Urology, Iwate Medical University, Iwate, Japan
Wataru Obara
Department of Internal Medicine and Rheumatology, Juntendo University Graduate School of Medicine, Tokyo, Japan
Ken Yamaji
Department of Respiratory Medicine, Juntendo University Graduate School of Medicine, Tokyo, Japan
Kazuhisa Takahashi
Division of Pharmacology, Department of Biomedical Science, Nihon University School of Medicine, Tokyo, Japan
Satoshi Asai
Division of Genomic Epidemiology and Clinical Trials, Clinical Trials Research Center, Nihon University School of Medicine, Tokyo, Japan
Satoshi Asai & Yasuo Takahashi
Tokushukai Group, Tokyo, Japan
Takao Suzuki & Nobuaki Shinozaki
Department of Hematology, Nippon Medical School, Tokyo, Japan
Hiroki Yamaguchi
Department of Bioregulation, Nippon Medical School, Kawasaki, Japan
Shiro Minami
Tokyo Metropolitan Geriatric Hospital and Institute of Gerontology, Tokyo, Japan
Shigeo Murayama
Fukujuji Hospital, Japan Anti-Tuberculosis Association, Tokyo, Japan
Kozo Yoshimori
The Cancer Institute Hospital of the Japanese Foundation for Cancer Research, Tokyo, Japan
Satoshi Nagayama
Center for Clinical Research and Advanced Medicine, Shiga University of Medical Science, Otsu, Japan
Daisuke Obata
Department of General Thoracic Surgery, Osaka International Cancer Institute, Osaka, Japan
Masahiko Higashiyama
Aso Iizuka Hospital, Fukuoka, Japan
Akihide Masumoto
National Hospital Organization Osaka National Hospital, Osaka, Japan
Yukihiro Koretsune
Laboratory for Cardiovascular Genomics and Informatics, RIKEN Center for Integrative Medical Sciences, Yokohama, Japan
Kaoru Ito
Department of Diabetes and Metabolic Diseases, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo, Tokyo, Japan
Toshimasa Yamauchi & Takashi Kadowaki
Department of Cardiovascular Medicine, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo, Tokyo, Japan
Issei Komuro
Toranomon Hospital, Tokyo, Japan
Takashi Kadowaki
Graduate School of Medicine, Tohoku University, Sendai, Japan
Gen Tamiya & Masayuki Yamamoto
Center for Advanced Intelligence Project, RIKEN, Tokyo, Japan
Gen Tamiya
Human Genome Center, Institute of Medical Science, The University of Tokyo, Tokyo, Japan
Yusuke Nakamura
Cancer Precision Medicine Center, Japanese Foundation for Cancer Research, Tokyo, Japan
Yusuke Nakamura
RIKEN Center for Integrative Medical Sciences, Yokohama, Japan
Michiaki Kubo
Division of Molecular Pathology, Institute of Medical Science, The University of Tokyo, Tokyo, Japan
Yoshinori Murakami
Laboratory of Complex Trait Genomics, Department of Computational Biology and Medical Sciences, Graduate School of Frontier Sciences, The University of Tokyo, Tokyo, Japan
Yoichiro Kamatani
Psychiatric & Neurodevelopmental Genetics Unit, Department of Psychiatry, Analytic and Translational Genetics Unit, Department of Medicine, and the Department of Neurology, Massachusetts General Hospital, Boston, MA, USA
Aarno Palotie & Yukinori Okada
Department of Computational Biology and Medical Sciences, Graduate school of Frontier Sciences, The University of Tokyo, Tokyo, Japan
Koichi Matsuda
Integrated Frontier Research for Medical Science Division, Institute for Open and Transdisciplinary Research Initiatives, Osaka University, Suita, Japan
Yukinori Okada
(2)
Organización Mundial de la Salud. International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems, 10th revision (ICD-10) 
(World Health Organization, 2016).

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Wnt信号低下による先天性多臓器異常と治療展望

//背景//---
人の身体的な成長は10代後半くらいまで続きます。
その過程の中で、飲食物、住まい、家族構成などの
環境要因や何らかの疾患の既往歴などによって
身体の臓器、骨、筋肉、脂肪組織、脳に至るまで
あらゆるところが影響を受けると考えられます。
一方で、何らかの先天性の異常がある場合
生まれる前から身体の組織形成異常が出ることがあります。
そうした場合、その異常を引き継いだまま
臓器は成長するため、根本的な治療は難しくなります。
こうした胎内で生じている先天性の疾患に対しては
できるだけ初期、生前から原因を取り除くことで
その後のお子さんの軌跡、運命を変える事ができる可能性があります。
--
疫学的には上述したような構造的な欠陥を抱えた子供は
約3%(33人に1人)と言われています。
幼児期に亡くなるケースの20.6%を占めています(2,3)。
決して、稀なケースではないという事です。
また構造的な欠陥は
神経系、腎臓、心臓、顔、手足などを含み
20~30%の構造的欠陥を抱える子供は複数の部位に
見られるとされています(4)。
--
これらの因果関係は多面的であるとされていますが、
成長や組織の維持(恒常性)両方に関わる重要な信号として
Wnt信号があります(5-9)。
このWnt信号が働くためには結合因子として
膜貫通タンパク質受容体であるWLSが必要である
とされています(10-12)。
--
Guoliang Chai, Emmanuelle Szenker‑Ravi(敬称略)ら
医療研究グループは出生時において
構造的に欠陥があり、多面的状況が類似した
親子5組の遺伝子分析により、
WLSの機能欠陥を引き起こす変異が見つけました。
さらに同一の変異をマウスに導入した結果
組織や細胞に異常が見られたことが示されました。
さらに初めの段階として
WLS関連遺伝子に異常がみられる胎内マウスに対して
Wnt信号を促す、アゴニストを投与することを行い、
出産前に複数の臓器異常がみられる
Zaki症候群の治療、予防の可能性について評価しています(1)。

//幼児のWLSタンパク質異常位置//---
p.Y392, p.Y478C, p.1531T, p.R536C
これらのいずれか一か所
(Figure 1)

//幼児に共通に見られた症状//---
顔の異形症、小頭症、脱毛症、
足の合指症、腎無形性、虹彩欠損
心臓欠損

//試験管のモデル//---
p.Y392C, p.Y478C, p.1531T, p.R536Cでは
Wnt信号がいずれもWTに比べて半分程度となっています。
(Figure.2C)

//Wnt信号の発現マップ//---
蛍光発光評価でY478Cに異常を与えたマウスと
通常のマウスでWnt信号のマップを
子宮内にいる(胚形成12.5日)
マウスにおいて確認。
身体、全体的にWnt信号が少ないと評価できます。
(Figure.2D)

//胎内成長の異常(マウス)//---
Y392C、Y478C異常いずれにおいても
骨、腎臓、足の指、脳、神経細胞の数
これらに異常が見られています。
(Figure.3)

//Wntアゴニスト治療(iPS細胞)//---
Y478C異常で弱まったWnt信号を補償するために
WntアゴニストCHIR99021を使用。
Y478C異常がある細胞をiPS技術によって
人胚細胞を形成し、Wntアゴニストによる
評価を細胞培養環境内で評価。
Y478C異常がある細胞は胚細胞の形成に異常が
見られました。
WntアゴニストCHIR99021を使えば
細胞の形状にやや異常がみられるものの
通常と同様の大きさの胚細胞の成長がみられています。
(Figure 4a)

//Wntアゴニスト治療(マウス)//---
胎内のマウスに一定期間WntアゴニストCHIR99021を使用。
骨、脳、腎臓、神経細胞
これらにおいて完全ではないものの
正常に近い組織形成が確認されています。
(Figure 4)

//治療の評価//---
これらの結果から、Wnt信号が弱くなっている胎児に対して
Wnt信号アゴニストであるCHIR99021は
細胞浸透性のある効果的な薬剤の一つであると
考えられます。

//考察//---
Wnt信号アゴニストCHIR99021を使用したケースでは
正常には近づいているものの
胚細胞や骨において形状に異常出ています。
Wnt信号は形状を制御するモフォゲンの一つですが、
モフォゲンはSHH, TGF-βなど
いくつか確認されています。
冒頭でも述べられているように
胎児から組織成長異常がみられる因果は
多面的であるとされています。
モフォゲン以外の因子もあるかもしれません。
従って、不足要因は何か?ということを掴むことも
より良い治療において大事であると考えられます。

(Reference)
(1)
Guoliang Chai, Ph.D., Emmanuelle Szenker-Ravi, Ph.D., Changuk Chung, Ph.D., Zhen Li, Ph.D., Lu Wang, Ph.D., Muznah Khatoo, B.S., Trevor Marshall, B.S., Nan Jiang, Ph.D., Xiaoxu Yang, Ph.D., Jennifer McEvoy-Venneri, B.S., Valentina Stanley, B.S., Paula Anzenberg, B.S., Nhi Lang, B.S., Vanessa Wazny, B.S., Jia Yu, Ph.D., David M. Virshup, M.D., Rie Nygaard, Ph.D., Filippo Mancia, Ph.D., Rijad Merdzanic, M.D., Maria B.P. Toralles, M.D., Paula M.L. Pitanga, M.Sc., Ratna D. Puri, M.D., Rebecca Hernan, M.Sc., Wendy K. Chung, M.D., Ph.D., Aida M. Bertoli-Avella, M.D., Ph.D., Nouriya Al-Sannaa, M.D., Maha S. Zaki, M.D., Ph.D., Karl Willert, Ph.D., Bruno Reversade, Ph.D., and Joseph G. Gleeson, M.D.
A Human Pleiotropic Multiorgan Condition Caused by Deficient Wnt Secretion
The New England Journal of Medicine 2021; 385:1292-1301
---
Author Affiliations
From the Rady Children’s Institute for Genomic Medicine, San Diego (G.C., C.C., Z.L., L.W., T.M., N.J., X.Y., J.M.-V., V.S., P.A., N.L., J.G.G.), and the University of California, San Diego, La Jolla (G.C., C.C., Z.L., L.W., T.M., N.J., X.Y., J.M.-V., V.S., P.A., N.L., K.W., J.G.G.) — both in California; Xuanwu Hospital, Capital Medical University, Beijing (G.C.); the Genome Institute of Singapore (E.S.-R., M.K., V.W., B.R.) and the Institute of Molecular and Cellular Biology (B.R.), Agency for Science, Technology, and Research, and the Program in Cancer and Stem Cell Biology, Duke–NUS (National University of Singapore) Medical School (J.Y., D.M.V.) — all in Singapore; the Medical Genetics Department, Koç University School of Medicine, Istanbul, Turkey (B.R.); the Department of Pediatrics, Duke University, Durham, NC (D.M.V.); the Department of Physiology and Cellular Biophysics, Columbia University Irving Medical Center (R.N., F.M.), and the Departments of Pediatrics and Medicine, Columbia University (R.H., W.K.C.) — both in New York; Centogene, Rostock, Germany (R.M., A.M.B.-A.); DNA Laboratório e Genética Médica, Salvador, Brazil (M.B.P.T., P.M.L.P.); the Institute of Medical Genetics and Genomics, Sir Ganga Ram Hospital, New Delhi, India (R.D.P.); Johns Hopkins Aramco Healthcare, Dhahran, Saudi Arabia (N.A.-S.); and the Clinical Genetics Department, National Research Center, Cairo (M.S.Z.).
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2021年10月1日金曜日 0 コメント

ワクチンの免疫反応系統と改善策

//背景//---
新型コロナウィルスで生じた世界的なパンデミックは
SARS, MARSなどの流行の後、
COVID-19の前に繰り返し警鐘が鳴らされてきた
とされています。
しかし、気候変動などの環境問題も同じですが、
世界が一致団結して動くためには
きっかけとなる大きな事象が必要だと考えます。
新型コロナウィルスは2020年の初旬に
世界的に一気に広がる事は見えていましたから、
世界は本気で動きました。
ワクチンの開発は様々なリスクがありますが、
1年程度で実用化、大規模接種を実現することができました。
しかしながら、新型コロナウィルスが生じていないと
このような著しく迅速な動きは当然ながらありません。
10年程度の承認までの期間と
採択率10%程度のワクチン開発において
将来のリスクに備えて本気で動くことはなかった
と考えられます。
今回、新型コロナウィルスのパンデミックが起こったことで
ワクチン、治療薬を始め、感染症に対する危機感は
世界的に高まったと考えられます。
従って、特にワクチンの技術レベルの向上が
今後見込まれると考えられます。
一方、今述べた感染症のリスクと
冒頭で触れた気候変動は切り離せないものである
と考えられます。
例えば、気候変動によって生物の生息域が変われば
それによって生態系あるいは人との関わりが変わるため
今まで生じなかったような感染経路が生まれる可能性もあります。
あるいは熱帯地域でしか見られなかった感染症が
中緯度でも見られるようになることも考えられます。
さらには永久凍土が融解することで
そこに眠っている未知のウィルスが
動的な生態系に入る脅威もあります。
温度上昇により衛生状態が悪化することで
感染症のリスクが高まるかもしれません。
このようなリスクを考えると今回のパンデミックによって
将来の感染症のリスクを考えるようになりますから
気候変動の問題を考えるきっかけになる可能性もあります。
さらには
国際的に移動が盛んになる事(国際化)、
発展途上国を中心に人口が増加する事などから
今後、そういった事が感染の起点となる可能性もあります。
新型コロナウィルスでは世界で初めて
mRNAのワクチンが実用化されました。
このmRNAワクチンは脂質ナノ粒子が使われています。
その点でも最先端の技術が使われています。
今後はこの技術をより広範に発展させていく事が
将来の感染症に対する危機管理に繋がります。
--
Gillie A. Roth, Vittoria C. T. M. Picece, Ben S. Ou, Wei Luo, Bali Pulendran and Eric A. Appel
(敬称略)ら医療研究グループは
ワクチンが身体の中でどのように働くか?
空間と時間軸の中で考えています。
その中で効果をより高めるためのアイデアが提示されています(1)。
本日は、Ref.(1)で示されている図を起点に内容を参照しながら
独自の視点、考察を加えて読者の方と情報共有したいと思います。

//ワクチンと免疫反応のタイムライン//---
ワクチンは注入箇所から数時間から数日で
樹状細胞やマクロファージなどのワクチンの成分を検出する
パターン認識受容体などに結合、認識されると考えられています。
mRNAワクチンの場合は、これらの細胞の中に取り込まれて
コード化された遺伝子情報に基づいて
ウィルスのタンパク質を細胞内で作り出し細胞外に放出します。
そして再度樹状細胞やマクロファージ等と結合して
あるいはその抗原情報を有した状態で
身体中に存在する2次リンパ節である胚中心まで運ばれます。
胚中心に入る前、入った後で
CD4, CD8T細胞、B細胞と結合(抗原提示)を通じて
B細胞、T細胞の親和性成熟が起こります。
樹状細胞やマクロファージは胚中心常在型の細胞も存在します。
それらも胚中心の中の抗原提示、親和性成熟に関わります。
これらは胚中心のライトゾーンと呼ばれる領域で起こります。
逆に胚中心のダークゾーンでは
成熟されたB細胞などの増殖が生じます。
しかし、胚中心でのプロセスの詳細については
まだ研究の余地が大きいとされています(2,3)。
そうして2次リンパ節から設計された抗原に合った
抗体を放出できる成熟したB細胞、プラズマ細胞
それに特異的に反応するT細胞が放出されます。
B細胞、プラズマ細胞から放出される抗体は
IgMからIgG抗体へとクラススイッチが起こります。
mRNAワクチンではIgG抗体価が上がるまでに数週間かかりましたが、
ここまでのプロセスに同じ程度の期間がかかると考えられています。
そして、抗原特異的に成熟したB細胞、T細胞、プラズマ細胞は
それぞれその一部は長期間記憶されて体内にの残ります。
癌ワクチンでは主にこの記憶化したT細胞を
癌退縮のために利用します。
長い見積もりでは数年以上残ると考えられています。
特にIgM発現メモリー細胞は長期記憶に重要な役割を
担っているとされています(4)。
このように免疫細胞が記憶された状態では
似た抗原が体内に入ってくると
このメモリー細胞が早く反応し、
より多くの質の良い抗体を放出する事ができます。
これを「Original antigenic sin effect」と呼びます(5,6)。
実際に、mRNAワクチンの3回目のブースター接種では
抗体価、中和能力が向上している事が確認されていました。
--
胚中心の親和性成熟のプロセスに関わる濾胞性ヘルバーT細胞は
サイトカインIL-2, IL-6, IL-21などによって分化が
促されるとされています。
これらは炎症に反応するサイトカインです。
それにより親和性成熟やメモリー化を強化する
とされています(7,8)。

//アドジュバント//---
ワクチン接種後、抗原の認識能力を上げるためには
アドジュバントが必要です。
このアドジュバントは病原体関連分子パターンを模した
ものであると言われています(1)。
このアドジュバントはプロセスの初期に関わる
樹状細胞やマクロファージに発現されている
〇パターン認識受容体、
〇Toll様受容体、〇NOD様受容体と結合する必要があります。
そのためのアドジュバントとしては
負に帯電した高分子が以下、挙げられています。
〇CpG /〇CDNs /〇plC
その他、
〇MPL /〇Pam2CSK4 /〇脂質
〇MDP /〇Resiquimod
これらがあります。
mRNAワクチンではアドジュバントに関しては明示されていませんが、
おそらく脂質ナノ粒子自体がマクロファージや樹状細胞などの
抗原提示細胞の取り込み効率が高く、
アドジュバントと同様の役割を果たしているのではないか?
と考えています。
このような事はリポソームナノ粒子でも確認されています(9,10)。
--
アドジュバントは細胞の走化性に影響を与えると言われています。
例えば、MF59アドジュバントは、ワクチン接種後
3時間以内にリンパ節に細胞に向性を持たせると言われています。
そのリンパ節に対する細胞の引き寄せ効果は11日間程度
継続すると言われています(11)。
下述するようにアドジュバントは自然免疫系を活性化させる
役割があると考えられますが、それ以外に
細胞を液性免疫に関わる適切な部位(リンパ節)まで
効率的に輸送する事に関わっていると示されています。
これはアドジュバントの一部が少なくとも
リンパ節に対して走化性を持つ特性の特徴である
負の電荷を持っている事と関係している可能性があります
(Ref,(1) Fig.5a)。

//自然免疫細胞の活性化//---
上述したアドジュバントの機能も含めて、
2次リンパ節での成熟プロセスの前に
自然免疫細胞を活性化させる必要があります。
それに関わる受容体として
〇Toll様受容体(アドジュバント認識)
〇NOD様受容体
〇パターン認識受容体(ワクチン成分認識)
〇MHCクラス1,2(抗原提示)
これらが挙げられています。
--
自然免疫を活性化させる方法はいくつかあります。
〇静電気力相互作用
〇疎水性相互作用
〇リポソーム(親水-疎水カーゴ)
〇吸着、結合
〇タンパク質の合成(抗原とペプチド)

//ナノ粒子の働き//---
mRNAワクチンでは脂質ナノ粒子がmRNAの輸送体として
使われています。このナノ粒子にいくつかの機能性を持たせる
ことができます。
--
①ナノ粒子のサイズや荷電によって
自然免疫細胞内の取り込み効率などが変わると考えられます。
なぜならアドジュバントの一つの種類として
負に帯電した材料が挙げられており、
細胞膜に膜電位が存在するからであると考えられます。
--
②ナノ粒子はパターン関連分子パターンと抗原の
両方をワクチンの取り込みが挙げるために運ぶことができます。
上述したパターン認識受容体に認識させるための
分子パターンをナノ粒子に作製するということです。
--
③ナノ粒子の価数は親和性や放出される抗体の多様性(breadth)
に影響を与えます。
--
④ナノ粒子はアドジュバントを運ぶこともできます。
例えば、ノババッククス社の新型コロナウィルスのワクチンは
独自のアドジュバントをナノ粒子に搭載しています。
またナノ粒子は上述したようにその材料自体が
アドジュバント機能を有していることもあります。

//ワクチン輸送媒体//---
ナノ粒子よりももう少し構造的に複雑で大きな
ヒドロゲルや基台(scaffold)を輸送媒体にすることができます。
それらは構造内に抗原やアドジュバント
あるいは免疫細胞を引き付けるケモカインなどが
含んでいます。
これらの材料の利点はいくつか考えられます。
-
①構造によって物理的に引き付けることができます。
構造の凹凸や電気的、水性、結合性相互作用など
物理的性質の制御の幅が広がります。
自然免疫細胞を固着させることで
より抗原認識の効率を上げる事ができる可能性があります。
-
②ケモカインを使うことで「特定の、狙いの」
免疫細胞を引き付けることができます。
ケモカインの種類によって免疫細胞の走化性が
変わるからです。
-
③ケモカインもしくはサイトカイン自身を
免疫系に働きかける事ができます。
-
④構造によって物質の放出を制御できます。
例えば、粘性を上げて
アドジュバントとワクチンをゆっくり放出するような
仕組みにすれば、長く働かせる事が出来
ブースター接種の必要性は亡くなる可能性があります。
あるいはワクチンの成分だけを放出できるように
構造の穴の大きさを制御することで可能になります。
抗原をゆっくり放出させることは
体細胞超変異のサイクルを増やし
親和性成熟を強化します(12-14)。
それによって中和抗体価や変異に強い抗体群(high breadth)
が生じやすくなります。
--
一方、大きくなることで免疫機能を過剰に高めたり
大きさ、重量、形状によって
通常細胞を傷つけたりする可能性もあります。
例えば、グラフェンナノシートでは
端部の尖りが細胞を傷つけるという報告もあります。
従って、安全性にはより慎重になる必要があります。

//リンパ節の輸送効率向上//---
ワクチンによる抗体の産生のためには
2次リンパ節にある胚中心での細胞の成熟が必要です。
従って、自然免疫系を活性化させた状態で
その2次リンパ節まで輸送する必要があります。
例えば、ワクチンの成分自体が
2次リンパ節に届きやすい構造になっていれば、
その部位と近い自然免疫細胞に働きかけることが
できると考えられます。
そうすると免疫細胞の成熟化が起こりやすくなると
考えられます。
そのためのいくつかの戦略が考えられます(以下)。
--
①最適なナノ粒子のサイズ(20-200nm)
-
②ナノ粒子の荷電(負に荷電)
-
③ナノ粒子の装飾(PEGylation)
(※細胞特異的輸送系統の部分で追加説明)
-
④ナノ粒子の複合体化(抗体を結合させる)
-
⑤リンパ系免疫細胞(濾胞性T, B, NK細胞など)にも
働きかける

//安全性をどう考えるか//---
今回、mRNAワクチンは最終的には数十億人の人に
接種する事になると思いますが、
万能薬(パナシーア)はありません。
但し、ワクチンは健康な人に予防的に接種するので
普通の薬よりも高い安全性が求められます。
今回、明らかになることがあると思いますので、
そういった中で次のナノ粒子を使った
mRNAワクチンの開発、あるいはナノ粒子を使った薬剤の開発に
今回の大規模接種の経験、
結果を生かすことができると考えられます。
基本的に食べ物でもごく一部の人には
強いアレルギー反応はありますから
異物が多く入る消化器系、呼吸器系以外の
血液系に直接注入する限りにおいては
リスクをゼロにすることは難しいと考えられます。
例えば、消化器系や呼吸器系は
常に環境にさらされていますから、
そこからより安全性の高いワクチンを入れるほうが
最終的なリスクは低くなる可能性は考えられます。
例えば、鼻から噴霧するタイプです(15-17)。
しかし、鼻腔は脳の視床下部に近いことから
ウィルスと同じように神経症状が出やすいかもしれません。
ワクチンの生理としての安全性以外の視点では
重篤な副作用が出やすい人を
事前にどうやってスクリーニングするか?
という手続き的な事も重要です。
他には用量の最適化の問題もあります。
より少ない量で期間を空けて複数回接種したほうが
リスクが少ないかどうか?ということです。

//細胞特異的輸送系統//---
今回の脂質ナノ粒子を使ったmRNAワクチンの実現、
大規模接種の経験、製造技術、コスト優位性、結果は
細胞特異的輸送系統の実現の
マイルストーンとして欠かせないものです。
ナノ粒子の中に目的の成分を入れるという構想は
細胞特異的輸送系統と同じだからです。
この細胞特異的輸送系統の場合は
ナノ粒子に標的性を上げるための物質を結合、固着させます。
ナノ粒子が細胞の場合はウィルスベクターによって
特定の細胞貫通タンパク質を設計することができます。
脂質ナノ粒子は経済性に優れているので
もしこのナノ粒子に大規模生産に耐えうる
易製造性を有する方法でうまく標的を形成できれば、
感染症などのワクチンに限らず、
多くの薬剤にカプセルのように適用できる可能性があります。

//まとめ//---
今回、新型コロナウィルスのワクチンは
mRNAも、アデノウィルスワクチンも事前の長い技術開発が
礎としてあったから短期の導入が可能になりました。
液性免疫を含めたワクチンの生理の理解、
それを利用した効果的かつ安全なワクチンの技術を
これからも継続的に積み上げていく事によって
将来生じるかもしれない感染症に対して
さらに短い時間で対処できる体制を世界で作れる可能性があります。
今回のパンデミックは1年程度で承認となりましたが、
世界にいきわたる迄には時間がかかっています。
今後は、感染症が生じたらすぐに
発展途上国も含めてすぐに供給できるような体制を
整える事が大切になるのではないかと考えられます。

(Reference)
(1)
Gillie A. Roth, Vittoria C. T. M. Picece, Ben S. Ou, Wei Luo, Bali Pulendran & Eric A. Appel 
Designing spatial and temporal control of vaccine responses
Nature Reviews Materials (2021)
---
Author information
Affiliations
Department of Bioengineering, Stanford University, Stanford, CA, USA
Gillie A. Roth, Ben S. Ou & Eric A. Appel
Department of Materials Science & Engineering, Stanford University, Stanford, CA, USA
Vittoria C. T. M. Picece & Eric A. Appel
Department of Chemistry and Applied Biosciences, ETH Zürich, Zürich, Switzerland
Vittoria C. T. M. Picece
Institute for Immunity, Transplantation & Infection, Stanford University School of Medicine, Stanford, CA, USA
Wei Luo & Bali Pulendran
ChEM-H Institute, Stanford University, Stanford, CA, USA
Bali Pulendran & Eric A. Appel
Department of Microbiology & Immunology, Stanford University School of Medicine, Stanford, CA, USA
Bali Pulendran
Program in Immunology, Stanford University School of Medicine, Stanford, CA, USA
Bali Pulendran
Department of Pathology, Stanford University School of Medicine, Stanford, CA, USA
Bali Pulendran
Department of Paediatrics — Endocrinology, Stanford University School of Medicine, Stanford, CA, USA
Eric A. Appel
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