今年も残すところ少なくなりました。
読者の皆様、良い年末年始を迎えてください。
今後、様々な疾患において、患者さんの命を救うという側面だけではなく
その後の生活の質(QOL)の向上を含めた、サバイバーシップを考える
医療が一つの潮流になるのではないか?と私は予測しています。
その中で、運動、食事、福祉、教育、就労など社会生活的な側面も
考えられるようになると思いますが、
一方で、急性期の治療において如何に患者さんの身体、心の負担を小さくできるか?
それについても改善させる余地があります。
その際に、内科的に薬剤によって治療するのであれば、
病変部位だけに薬剤を届けるといった標的治療が一つの観点となります。
例えば、脳腫瘍がある患児に対しては
血液脳関門を超えて、できるだけ脳腫瘍部だけに薬剤を届けて
その局所部位で有効な治療を行う事です。
もし、それによってその介入による余分な損傷を減らす事ができたら
そのお子さんのその後の成長を含め、予後の質が向上する可能性もあります。
従って、
標的治療は追究、追求する価値のある医療技術です。
その標的治療を可能にする技術の一つはナノ医療です。
ナノ医療に含まれる薬剤送達媒体は様々な種類があります。
現在、実績の上で最も先行している脂質ナノ粒子もあります。
ここでは、そのうちの一つである細胞外小胞について触れます。
まず初めに細胞外小胞の課題の一部を挙げます。
細胞外小胞は生体内にある自然な内分泌系の物質なので
材料構成、大きさ、形、表面状態(糖、タンパク質など)の
不均一性があります。
また、どの細胞種から放出されるかによって大きく形質が異なります。
その異種性から薬剤送達媒体や再生医療に利用する際においては
一定の特性を再現性良く生産する事の難しさがあります。
また、大量に精製する困難性もあります。
しかし、これらの課題の一部は解決されつつあります。
もう一つの問題は、それを医薬品として使う際の
スタンダードガイドラインがまだないということです。
従って、
モノができたとしてもすぐには臨床適用という事には
なりにくいという事が考えられます。
しかし、
細胞外小胞であるエクソソームの治験は
すでにいくつか進んでいるものもあります。
今後、どのように細胞外小胞の医療応用において舗装整備するか?というのは
国際的な議論が必要なところであると考えられます。
一方で、
上述した細胞外小胞の課題は、裏を返せば独自の魅力でもあります。
細胞外小胞は植物、人以外の動物(例えば牛など)からも抜き取ることができます。
人の中でも様々な細胞種から分泌させ取得することができます。
これは潜在的な研究の余地、すそ野の広さを意味します。
世の中に存在する様々な疾患に対して、
その疾患に合った細胞外小胞のドナー細胞種を選択できる可能性があります。
膨大な選択肢の中からそれを探すことも
研究者、開発者にとって興味深いところではないか?と想定します。
その選択肢を増やすためには
1つとしては下述する初期化技術を含めた幹細胞が重要になります。
先ほど、脳腫瘍のケースを例に挙げましたが
脳腫瘍の標的性のためには神経幹細胞由来の細胞外小胞が
薬剤送達媒体として適しているかもしれません。
細胞外小胞は細胞的な性質を持ちながらも、
独自の代謝機能、増殖能がなく、
元々、体内での細胞間のコミュニケーションに特化した形質を持っているので
薬物送達媒体としてそれを巧みに利用することができます。
再生医療にも利用できる可能性も示唆されています。
細胞外小胞は血液脳関門も超える事ができるので
脳への送達が可能です。
この特性から、脳の疾患に対しての標的治療の送達媒体として
数あるナノ粒子の種類から研究対象として細胞外小胞を選択している
研究機関、企業もあると思います。
また、細胞外小胞はES細胞、iPS細胞技術、ミューズ細胞技術など
多能性幹細胞、その初期化技術と高い技術的親和性を持ちます。
例えば、脳の幹細胞の(大量)取得は通常難しいですが、
iPS細胞によって、特定の人たちから得た細胞を初期化して
神経幹細胞に分化させ、それを増殖し、細胞外小胞を分泌させることで
通常得られにくいiPSC技術を使った神経幹細胞由来の細胞外小胞を得ることができます。
すでに近年、iPS細胞由来の細胞外小胞を利用した報告も上梓されています。
iPS細胞の生産技術を洗練させる事は、
iPS細胞そのものから得られる再生医療、創薬だけではなく、
iPS細胞由来の細胞外小胞を使った再生医療、創薬へもつなげることができます。
iPS細胞技術の場合は、
特定の疾患を持った患者さんから細胞を得て、
それを初期化して分化させたときには
その疾患特有の形質の少なくとも一部が残ると認識しています。
すでにそれを利用して創薬のためのスクリーニングが行われています。
その細胞を分析するだけではなく、細胞外小胞の小胞内外をくまなく分析する事で
病理の理解だけではなく、送達媒体としての可能性も見出す事もできます。
場合によれば、ドナー細胞の形質導入による分泌細胞外小胞の
エンジニアリングの必要がない状態で
細胞種特異的な標的性を得られる可能性もあります。
また、
CAR免疫療法などですでに一つの懸案事項となっている
免疫拒絶、移植片対宿主病、Fratricideのいずれかがありますが、
細胞外小胞の場合は機能が輸送機能にある程度限定されるため
細胞製剤に比べて、免疫的な感受性が低い可能性もあります。
細胞にできて、細胞外小胞に出来ない事ももちろん存在しますが、
細胞外小胞の選択肢を考慮に入れておくと
様々な問題に対しての医療工学の対応力の幅が高まります。
iPS細胞の技術があれば、その細胞から細胞外小胞が分泌されるわけですから
並列して研究を進めていくことができるのではないか?と考えられます。
細胞外小胞は、以前の記事でも上梓したように
製造技術が非常に重要になるという事は
その生産に関わる企業からもすでに公表されています。
研究の質、再現性にも関わるので、
質のよい細胞外小胞をどのように安定的に、精製し、量産するかというのは
量産までは考えが及ばなくても基礎研究する段階から考え
手に入れる必要があります。
その点で、国際性、産学連携、分野横断性いずれかが必要になる
と考えられます。
Comment: 予後を見据えた医療における細胞外小胞の可能性とiPS細胞技術との技術的親和性
妊娠中の女性の健康を守る事は
お母さんとなるご自身と共に
そのお子さんの命、健康を守る上で
当然重要とされますが、
妊娠中というのは
女性にとって過渡的で重要な人生のイベントであり
大きな体の変化を伴い、さらに負担が伴う期間であるであるため
通常よりも健康状態を維持するのが難しいとも想定されます。
従って、特別な管理が必要です。
それはすでに周知されていることです。
より今までよりも
多くの妊娠女性とその子どもの健康を実現するためには
基礎的、臨床的な研究も必要ですが、
特に臨床研究においては
子どもの臨床研究と共に
倫理的、経済的な問題を含め
様々な複雑な状況が存在するため
思うように研究が進まない事も推定されます。
そうした状況の中で疫学的な研究は
1つの重要なコアとなる部分であると考えられます。
--
子癇は
妊娠女性または出産直後の女性(褥婦)が
異常な高血圧と共に
痙攣または意識喪失、視野障害を起こした状態。
これであるとされています。
この子癇は前症があり
この子癇前症を治療せず放置した場合に
結果としててんかん発作、子癇となるとされています。
従って、
子癇を予防するためには
子癇前症を予防、診断、治療する事が大切になります。
子癇前症は妊娠後期に発症し
時間が経つにつれて悪化するとされています(3)。
しかし、
妊娠前期でも生じることがあります(1)。
妊娠前期で生じた場合には
胎児の健康は著しく悪化する可能性があるため
妊娠前期と妊娠後期に生じる
子癇前症を分類する事は重要であると考えられます。
別の観点では
妊娠前期の子癇前症を見逃さないようにし
かつ、
妊娠後期の子癇前症もしっかり診断する
ということが求められます。
そうした中で
Keiichi Kumasawa(敬称略)は
妊娠期間と子癇前症の発生率がどのような軌跡を描くか?
Akihide Ohkuchi(敬称略)らが示した
疫学的な研究を元に
日本のこれまでの上述した子癇前症の
発生時期
(“late onset (LO)”and“ early onset ”(EO))。
これの分類を見直すべきかどうかについてコメントされています(1)。
なぜ、見直す必要があるか?
今までは子癇前症の発生件数と妊娠時期のグラフにおいて
2つの山(ピーク)があるとされていました。
それを元に妊娠時期32週を境界としていました。
しかしながら、
Akihide Ohkuchi(敬称略)らが示した疫学研究では
そのような二つの山はなく、
子癇前症の発生件数は妊娠期間の増加に対して
指数関数的に増加している事が示されています(1)。
つまり、2つのピークはなかったとされています。
国際的な分類では
専門家の意見の一致(コンセンサス)によって
34週が
初期発症、後期発症の境界とされていました。
(※)
The International Society for the Study of Hypertension in Pregnancy (ISSHP)
これを視野に入れたうえで
日本においてどこに境界を置くか?
民族性の疫学的な違いもある可能性があるので
そうした変化要因も考慮に入れた上で
改変される可能性はあります。
--
ここからは子癇前症について
不十分な調査、仮説の域を含むながらも、
私の視点、考察があるので
それについて丁寧に述べていきたいと思います。
--
子癇前症のリスク因子は
Keiichi Kumasawa(敬称略)らの報告(1)でも触れられていますが、
多くの項目があります。
〇初めての妊娠
〇糖尿病
〇腎臓病
〇慢性高血圧
〇子癇前症の経験がある
〇家族が子癇前症の経験がある
〇妊娠年齢が35歳以上
〇肥満
〇抗リン脂質抗体症候群
〇多胎妊娠(双子など)
〇ドナーから提供された腎臓を持つ
〇甲状腺機能低下、甲状腺抗体を持つ
〇胎盤局所貧血などの胎盤の異常性
これらが挙げられています(4-7)。
⇒
ここから総合的に考えると浮かびあがることがあります。
胎児は母親の血液から栄養を受け取って成長します。
当たり前ですが、
外界にいる新生児、小児のように
口腔、食道から(十分な)栄養を摂取することはできません。
従って、血液が成長において非常に重要です。
故に、血液に関わる疾患が胎児に成長において
リスクになると自然には考えられます。
それがなぜ子癇前症とつながるか?
ここが一つわからないところです。
しかし、
〇母親と胎児の栄養交換は血液が主
〇母親の血液の状態が不良である
〇母親の身体に変化が起き、高血圧、タンパク尿になる
こういったことが
何らかの形でリンクしている可能性があります。
1つの視点としては
妊娠女性の身体には「二人の命」があるわけですから
血液系の負担が大きくなります。
二人の生命を繋いでいるのが血管中の血液なので
それが重要になります。
そこに不全が生じると、
妊娠していない時期に比べて、
母親にも、胎児にも悪影響があり、
それによって全体としてさらに悪化する可能性です。
多胎妊娠がリスクを上げるのも
二人が三人になることが潜在的に挙げられます。
従って、この仮説はある程度
合理性があるのではないか?と判断しました。
例えば、
血管生成因子が一つ胎児の成長において重要だと考えられます。
その理由は、
sFlt-1/PlGF比が大きくなると
少なくとも初期の胎児の成長が阻害されるとされているからです(8)。
PIGFは血管生成因子で
Soluble fms-like tyrosine kinase-1 (sFlt-1)は
血管生成抑制因子(Antiangiogenic properties)です。
これが適正に制御されているところが
そのバランスの変化によって
血管生成が上手く働かなくなっていると想定されます。
例えば、
sFlt-1は糖尿病で多く発現されるという報告が
マウスのケースであります(9)。
循環sFit-1は慢性腎臓病で尿毒症を通じて
上昇するという報告もあります(10)。
従って、
腎臓系の疾患や糖尿病
そのリスクを上げる肥満などは
胎児に提供される血液のsFlt-1/PlGF比を
上昇させるリスクがあると考えて自然であります。
このsFlt-1/PlGF比と子癇前症と関係については
Keiichi Kumasawa(敬称略)の報告でもコメントされています(1)。
循環器の健康というのは
特に出産を考えている妊娠前の女性のおいて
予防的に重要になると考えられます。
上述したリスクの他に
新型コロナウィルスやインフルエンザなどの
感染症も循環器と関わりの深い
免疫機能を乱す働きがあるので注意が必要です。
妊娠女性やそのお子さんを守る事は
そのパートナーを守ることにもつながります。
そのためには
医療の世界を超えた集合知が必要になると考えられます。
(参考文献)
(1)
Keiichi Kumasawa
Evaluation of the relationship between gestational week and the incidence of preeclampsia
Hypertension Research (2022)
(2)
Akihide Ohkuchi, Hirotada Suzuki, Keiichi Matsubara, Kazushi Watanabe, Takuya Saitou, Hideyuki Oda, Soichiro Obata, Shinya Kondo, Kiyoshi Noda, Junya Miyoshi, Satoru Ikenoue, Makoto Nomiyama, Hiroyuki Seki, Sachi Sukegawa, Satoshi Ichigo, Hirofumi Ando, Chiho Fuseya, Takuya Shimomura, Rika Suzuki, Kazuya Mimura, Ichiro Yasuhi, Masashi Fukuda, Sumiko Hara, Ryuhei Kurashina, Arihiro Shiozaki, Shigeki Matsubara & Shigeru Saito
Exponential increase of the gestational-age-specific incidence of preeclampsia onset (COPE study): a multicenter retrospective cohort study in women with maternal check-ups at <20 weeks of gestation in Japan
Hypertension Research volume 45, pages1679–1689 (2022)
(3)
Al-Jameil, N; Aziz Khan, F; Fareed Khan, M; Tabassum, H (February 2014).
(4)
Bartsch E, Medcalf KE, Park AL, Ray JG (April 2016). "Clinical risk factors for pre-eclampsia determined in early pregnancy: systematic review and meta-analysis of large cohort studies". BMJ. 353: i1753.
(5)
Amit X. Garg, M.D., Ph.D., Immaculate F. Nevis, Ph.D., Eric McArthur, M.Sc., Jessica M. Sontrop, Ph.D., John J. Koval, Ph.D., Ngan N. Lam, M.D., Ainslie M. Hildebrand, M.D., Peter P. Reese, M.D., Leroy Storsley, M.D., John S. Gill, M.D., Dorry L. Segev, M.D., Ph.D., Steven Habbous, M.Sc., Ann Bugeja, M.D., Greg A. Knoll, M.D., Christine Dipchand, M.D., Mauricio Monroy-Cuadros, M.D., and Krista L. Lentine, M.D., Ph.D. for the DONOR Network
Gestational Hypertension and Preeclampsia in Living Kidney Donors
The New England Journal of Medicine 2015; 372:124-133
(6)
van den Boogaard E, Vissenberg R, Land JA, van Wely M, van der Post JA, Goddijn M, Bisschop PH (2011). "Significance of (sub)clinical thyroid dysfunction and thyroid autoimmunity before conception and in early pregnancy: a systematic review". Human Reproduction Update (Review). 17 (5): 605–19.
(7)
Vissenberg R, van den Boogaard E, van Wely M, van der Post JA, Fliers E, Bisschop PH, Goddijn M (July 2012). "Treatment of thyroid disorders before conception and in early pregnancy: a systematic review". Human Reproduction Update (Review). 18 (4): 360–73.
(8)
I. HERRAIZ , M. S. QUEZADA, J. RODRIGUEZ-CALVO, E. GOMEZ-MONTES, ´C. VILLALA´IN and A. GALINDO
Longitudinal change of sFlt-1/PlGF ratio in singleton pregnancy with early-onset fetal growth restriction
Ultrasound Obstet Gynecol 2018; 52: 631–638
(9)
Ching-Hsin Ku 1, Kathryn E White, Alessandra Dei Cas, Anthea Hayward, Zoe Webster, Rudy Bilous, Sally Marshall, Giancarlo Viberti, Luigi Gnudi
Inducible overexpression of sFlt-1 in podocytes ameliorates glomerulopathy in diabetic mice
Diabetes. 2008 Oct;57(10):2824-33
(10)
Masaru Matsui, Kenji Onoue, Yoshihiko Saito
sFlt-1 in Chronic Kidney Disease: Friend or Foe?
Int J Mol Sci. 2022 Nov 16;23(22):14187
疾患を持つお子さんに
効果のある薬剤を届けるには
様々な難しさがあり、
その壁を乗り越えるのは
その問題が
(少なくとも一部の国、地域で)
認知されてる現在においても
容易ではないと考えられます。
分かりやすい状況では
新型コロナウィルスのワクチンにおいて
子どもの治験が終わった時には
すでに何百万という接種回数が
大人に対して実施された後であったとされています(1)。
子どもに対する臨床試験というのは
大人に対して慎重であり、
大人で安全が確かめられてから
年長のお子さんから段階的に承認されていきます。
一般の薬では
子どもに利用可能になるまでには
大人で承認されてから
少なくとも7年はかかると言われています。
製薬企業も一般的には慎重になると思います。
市場規模がなく、リスクも高いため、
営利団体としては参入しづらいということが
当てはまると思います。
そういう事があるので
2002年にアメリカ、2007年EUで
小児医療の研究を促し、
報償を与える法律が成立しています。
しかし、
これでもまだ不十分であるかもしれません。
臨床試験を早く承認するような
システムを組み込んだ法律が必要であるともされています。
金銭と時間の問題、
両方が存在するといわれています。
また、倫理的な問題も存在します。
例えば、
検査のための血液を採るにしても
大人の場合には比較的容易ですが、
子どもの場合は、特に年少の場合には
強い理由が必要であるとされています(1)。
子どもの臨床試験では
参加数が少なくなるため、
十分なフェーズⅢ試験が行えない懸念があります。
また、子どもの病気は異種性も強く
過渡期であるため成長に伴って
身体の大きさも変わります。
年齢など特質ごとの細分化が必要な上に
臨床試験の人数も集まらないので、
高いエビデンス性を有した
大規模臨床試験プログラムを組むことに難しさがあります。
臨床試験の参加を促すために
金銭的な報奨を親に与える事も人道的であるか?
という疑問もあります(1)。
金銭のために臨床試験に子供を参加させる事には
倫理的に一定の懐疑性が残ります。
上述したような明らかになっている
潜在的な事も含めた子どもの薬剤開発、承認の困難性を
どのように乗り越えればいいか?
まずは現状認識が必要であると考えられます。
(参考文献)
(1)
Dalmeet Singh Chawla
Why children have to wait years for new drugs
Nature 612, S54-S55 (2022)
感染症由来の心臓血管疾患に対するナノ医療技術
冬になると心筋梗塞や脳卒中のリスクは
一般的には高まるとされていますが、
それに加えて、今であれば、
新型コロナウィルス(2.3)やインフルエンザ(4)などの
感染症によっても
その後遺症、合併症として
肺塞栓、虚血性脳卒中、心筋梗塞などの
リスクが高まるとされています。
従って、よりリスクの高い人は注意が必要です。
特に集中治療が必要で、
感染症が重症であると
上述した心臓血管系の疾患の原因となる
血栓症のリスクが高まるとされています(2-4)。
新型コロナウィルスでは
入院が必要でなくても
罹患後、12カ月間のコホート研究によると
1.5~2倍程度、
血栓症に関わる心臓血管系の罹患のリスクが
高まるとされています(3)。
インフルエンザも上述したように
同様にリスクがあるので、
それを想定した効果的な治療、管理は
医療、社会的に求められると考えられます。
--
新型コロナウィルス、インフルエンザなど
ウィルス性の感染症の場合は
ウィルスそのものが血管壁に損傷を与えるだけではなく
Neutrophil extracellular traps
(好中球細胞外トラップ)の働きを亢進させ
血管壁に同様に損傷を与えます(5,6)。
さらに血小板も活性化させることから
赤血球との相互作用が高まり、
血栓の形成を促します。
--
この治療の為には
血液の凝固を防ぐ低分子量のヘパリンや
血栓溶解剤として
〇ストレプトキナーゼ
〇ウロキナーゼ
〇アルテプラーゼ
これらが使われますが、
血液がさらさらになるため
(血管壁もダメージを受けている事が考えられる事から?)
出血のリスクが高まります。
従って、
これらの投与は病院内のみで行われ、
注意深い長期間の管理が必要な事から
医療資源の負荷やコストの増加を招きます。
この出血のリスクを下げるためには
1つとしては
血管壁のダメージを回復させる事が
(おそらく)考えられますが、
もう1つの視点としては
Peije Russell(敬称略)らが総括されているように
病変部位特異的な効率的な薬剤輸送が挙げられます(1)。
そのために
エンジニアリングしたナノ粒子を使った
「Nanomedicine(ナノ医療)」が利用できます。
--
Peije Russell(敬称略)らは
〇ナノ粒子の種類と特徴(長所と短所)
〇ナノ粒子の病変部位標的化
〇ナノ粒子からの薬剤放出制御の技術
〇ナノ粒子自身を機能化
これらについて総括されています(1)。
その内容の概略、追記、考察について
読者の方と情報共有したいと思います。
//ナノ粒子の種類と特徴//
--
(リポソーム)
〇合成が用意
〇大量生産性が高い
〇薬剤搭載用量が大きい
〇商用化が進み、実績がある
△生体内で劣化する
⇒非特異的な薬剤放出(標的化が難しい)
△循環時間が短い(生体内寿命が短い)
これらが挙げられます。
リポソームに含まれる脂質ナノ粒子は
mRNAワクチンの輸送媒体として利用されています。
すでに、ワクチン接種において
重度の副反応がない患者さんに対しては
同じように脂質ナノ粒子を輸送媒体として利用できる
可能性があります。
しかし、
・下述する標的化のための機能化
・エンベロープ膜が異なる事
・ナノ粒子投入量が多くなる事
・薬剤を投入する事
これらによって状況が変わってくる可能性は高いです。
従って、
投入する事による免疫原性を含めて
慎重に臨床試験につなげていく必要があると考えられます。
--
(ポリマーナノ粒子)
〇合成が用意
〇大量生産性が高い
〇安定性が高い
〇材料の任意性、選択性が高い
⇒従って、特性を細かく制御できる可能性がある。
〇薬剤放出を制御しやすい
△潜在的に懸念される毒性
△表面に薬剤を複合体化させる必要がある
(Solid coreの種類のみ)
⇒薬剤が表面に出る事によって
病変部位までの生体内経路(主に血管内)に存在する
酵素による劣化が生じやすい。
--
(無機ナノ粒子)
〇合成が用意
〇大量生産性が高い
〇安定性が高い
〇多機能性を持たせる事が出来る
⇒例えば、生体外からの磁気刺激によって
蓄積場所を制御する事ができる。
血栓が生じている所に磁気でガイダンスすれば
そのサイトに蓄積できる可能性がある(7)。
△潜在的に懸念される毒性
△表面に薬剤を複合体化させる必要がある
(Solid coreの種類のみ)
--
(細胞由来のナノ粒子)
〇生体互換性が高い。
⇒(適正に選定すれば)低い免疫原性。
〇長い循環時間、生体内寿命。
⇒局所投与の必要性を下げる事ができる可能性。
〇(適正に選定すれば)自然に持つ標的性。
〇高い積載容量。
△低い量産性。
⇒価格が高くなる可能性もある。
しかし、赤血球などを輸送媒体として利用すれば
ナノ粒子が蓄積しやすい肝臓や脾臓への
特異的輸送を小さくすることができます。
この赤血球の製造価格は
iPS細胞技術を使えば安くなる可能性があります。
現在では輸血などの目的で
iPS人工血液が作られています(8)。
その量産化プロセスに(一部)重複させる形で
(機能化)赤血球を配分してもらえれば、
量産性の問題が緩和し、価格もそれに応じて
抑えられる可能性があります。
このように細胞由来のナノ粒子を輸送媒体として
利用する場合には、
iPS細胞技術を含めた幹細胞初期化技術を
利用できる可能性があります。
△複雑な合成性
⇒細胞外小胞も含めて、細胞由来のナノ粒子を利用する場合は
自然なプロセスを利用する事によって、
細胞内、細胞膜、細胞外の機能、構造が複雑になります。
その中で、一定の機能を得るための合成性は
高い生産管理が必要になる可能性があります。
製品の正確な評価や再現性など
実際に製品レベルで作製する事の壁は高いと考えられます。
-
<追記>
細胞はミトコンドリアがあり、代謝機能があります。
従って、薬剤輸送媒体機能として冗長である可能性もあります。
その場合には、細胞から放出される細胞外小胞を検討する事ができます。
例えば、血小板や赤血球由来の細胞外小胞を利用する事で
同じような生体互換性、標的性を引き継いでいる可能性もあります。
特に活性化した血小板から生み出される細胞外小胞の
表面リガンドの構成を分析する事は
標的性を評価する上で参考になるかもしれません。
--
ナノ粒子を利用する場合において
感染症などで生じた血栓症に対して、
ある程度共通的に存在するリスクは
好中球細胞外トラップの形成を促してしまう可能性がある事です。
特に
〇無機ナノ粒子
〇脂質ナノ粒子
〇ポリマーナノ粒子
これらなどを利用する場合には注意が必要です。
一方、細胞由来のナノ粒子の場合は
生体互換性が高いためにややリスクは低いかもしれません。
従って、
上述したナノ粒子でも生体互換性の高い機能化物質を
表面に装飾させる事によって
好中球細胞外トラップ過形成のリスクを下げる事が
できるかもしれないとされています(10)。
//ナノ粒子の病変部位標的化//
新型コロナウィルス感染症(1)やインフルエンザなどの
呼吸器感染症で併発した血栓症に対する
ナノ粒子の標的化が考えられています(1)。
--
ナノ粒子は肝臓や脾臓でクリアランスされる傾向にあります。
血漿内のアポリポタンパク質Eは
肝臓組織、その中の細胞種と結合親和性が高く
肝臓への蓄積を高めてしまいます。
従って、血流の中に存在するApoEの
ナノ粒子の取り込み、複合体化を防ぐ必要があります。
一方で、
サイズや形も関係します。
サイズでは1μm~10μm程度の大きさの粒子の場合は
肺の微小血管に蓄積される傾向にあります。
肺は心臓などと近く、
血流における重要部位であるので
この大きさのナノ粒子を選択する事は好ましい可能性があります。
但し、大きすぎると肺の微小血管を閉塞させてしまいます。
一方で
形状は、赤血球のような円盤状の形が好ましいとされています。
循環器内での寿命や毛細血管などを含めたアクセス性が
高まる可能性があります
--
ナノ粒子の病変部位標的化の一つの方略は
病変部位に特異的に存在する組織、細胞、物質に
親和性の高い装飾物質をナノ粒子に豊富に装飾する事です。
そのリストが
Peije Russell(敬称略)らによって示されています。
(参考文献(1) Table.1)
上述したように病変部位に特異的な標的である
必要があります。
リストに示されている
血小板や赤血球を標的とする場合には
場所非特異的に存在するそれらを考慮する必要があります。
血小板は確かに病変部位で活性化しますが、
全身の血液内で存在するため、
特異的輸送において非効率性の要因となります。
凝血塊と関連のある線維状のタンパク質である
フェブリンは病変部位特異性が高い可能性があるため
標的としてはより適しているかもしれません。
その他には
活性化されている好中球のみで発現されている
エラスターゼは
Short peptide sequence (CGEAIPMSIPPEVK)
これと高い親和性をもちます(1)。
それを装飾する戦略もあります。
活性化した血小板と好中球に高い親和性で結合する
platelet-targeting peptide (DAEWVDVS)は
その他の装飾因子として考えられています(11)。
//ナノ粒子からの薬剤放出制御の技術//
上述した無機ナノ粒子に対する磁気や
超音波などの外的因子によってナノ粒子を誘導、
ガイダンスする事は高い専門性、熟練度が必要なため
生体内因子でナノ粒子から薬剤を放出させる
刺激を与える事が賢明であると考えられています(1)。
--
感染症由来の血栓症で亢進されている酵素
sPLA2やトロンビン。
これらによって刺激を受ける機能をナノ粒子に搭載する
事を考えます。
例えば、
ストレプトキナーゼ搭載のリポソームです(13)。
よりオフターゲットが少ないのは
トロンビンであると考えられています。
例えば
Conjugated recombinant tissue plasminogen activator (rtPA)
to the surface of their platelet membrane nanovesicles。
これはトロンビンによって薬剤放出が
促されることが示されています(12)。
//ナノ粒子自身を機能化//
もう一つの考える方向性としては
ナノ粒子を薬剤輸送媒体として考えるのではなく、
ナノ粒子そのものに治療効果のある機能を持たせる事です。
例えば、以下です。
--
①抗ウィルス性ナノ粒子
• Silver
• Polylysine
• Glycyrrhizic acid
--
②ウィルスをトラップするナノ粒子
新型コロナウィルスの場合はACE2受容体に結合するタンパク質
を装飾させます。
インフルエンザの場合にはヘマグルチニンなどが考えられます。
--
③免疫抑制性を持つナノ粒子
好中球細胞外トラップを抑制するrhDNaseをナノ粒子に輸送させます。
活性酸素は血小板の活性化や炎症性を高めます。
活性酸素を活性化させる過酸化水素を除去するMnO2粒子などを使い
炎症性を抑える機能を持たせます。
//考察//
血液の血管壁の損傷部やそれによる血栓生成などの病変部位は
主に循環器内、その近傍にあります。
従って、標的化したナノ粒子が比較的働きやすいと
考える事も出来ます。
別の見方をすれば、
特定の臓器内の組織に輸送する場合に比べて
血管からの安定的な浸出機序、間質すり抜けを考える
必要性が小さいということです。
Peije Russell(敬称略)らがコメントしている様に
感染症由来も含めた心臓血管系疾患のナノ医療の
臨床応用の障壁は高いですが(1)、
組織常在型の疾患に比べると
免疫惹起などを回避する事ができれば
比較的良好な結果が生まれやすい可能性もあります。
(参考文献)
(1)
Peije Russell, Lars Esser, Christoph E. Hagemeyer & Nicolas H. Voelcker
The potential impact of nanomedicine on COVID-19-induced thrombosis
Nature Nanotechnology (2022)
(2)
Wichmann, D. et al. Autopsy findings and venous
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cohort study. Ann. Intern. Med. 173, 268–277 (2020).
(3)
Yan Xie, Evan Xu, Benjamin Bowe & Ziyad Al-Aly
Long-term cardiovascular outcomes of COVID-19
Nature Medicine volume 28, pages583–590 (2022)
(4)
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Association between influenza vaccination and risk of stroke in Alberta, Canada: a population-based study
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(5)
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mechanism involving endothelial cells: a review. Aging Dis. 13,
144–156 (2022).
(6)
Teluguakula Narasaraju 1, Edwin Yang, Ramar Perumal Samy, Huey Hian Ng, Wee Peng Poh, Audrey-Ann Liew, Meng Chee Phoon, Nico van Rooijen, Vincent T Chow
Excessive neutrophils and neutrophil extracellular traps contribute to acute lung injury of influenza pneumonitis
Am J Pathol. 2011 Jul;179(1):199-210
(7)
Wang, S. et al. Accelerating thrombolysis using a precision and
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microbubbles. Sci. Adv. 6, eaaz8204 (2020).
(8)
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(12)
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clot-responsive nanomedicine for targeted fibrinolysis.
Biomaterials 128, 94–108 (2017).
Correction:SARS-CoV-2感染による子供の扁桃腺特異的な免疫機能評価とその応用
小児の呼吸器感染症は一般的には風邪と呼ばれています。
のど、気管、気管支、肺などの呼吸系に
病原体が侵入し、増殖し、免疫系を刺激する事で
くしゃみ、鼻水、のどの痛み、痰、せき、発熱などの
症状を現す疾患です。
原因の多くはウィルスで多くの種類があります(2)。
共通的なウィルスは
新型コロナウィルス、インフルエンザウィルスの他に
RSウィルスやアデノウィルスが挙げられます(3)。
新型コロナウィルスは
子どもの場合は重症化するケースは極めて稀ですが、
インフルエンザは気管支炎、肺炎など
非常に重い症状を引き起こす可能性の高い感染症である
といわれています(2)。
1歳未満の乳児ではRSウィルスの感染が問題になります。
--
Qin Xu(敬称略)らの研究では
咽頭扁桃(アデノイド)と口蓋扁桃を外科的に切除した
子どもの組織の中のリンパ節にある胚中心を分析して、
その組織で系統的に生じる液性免疫を丁寧に調べています(1)
それを主にアルファー株が流行した時に
感染を経験したお子さんの扁桃腺切除で得た組織に対して
調べています。
その中で私が最も重要だと考えた結果は以下です。
扁桃腺は
〇咽頭扁桃
〇耳管扁桃
〇口蓋扁桃
〇舌扁桃
これらの4つの種類があるのですが、
少なくともそのうち咽頭扁桃、口蓋扁桃の比較において
鼻腔の奥、上部にある咽頭扁桃の
B細胞の
〇クラススイッチ(S1+)
〇親和性成熟(RBD+)-(※)-
-(※)-
新型コロナウィルス受容体結合面に対する
親和性向上によって、このB細胞から生み出される
抗体は新型コロナウィルスに高い親和性を持つようになる。
--
これらの頻度が高い場合には
ベータ株、デルタ株、オミクロン株など
様々な新型コロナウィルスに対する
中和抗体量が高かったことが示されています。
つまり、
咽頭扁桃の液性免疫の機能が非常に重要になります。
子どもの場合は
扁桃腺切除の外科手術の頻度が高いので
その組織を手に入れることができます。
Qin Xu(敬称略)らはそれを利用して、
2次リンパ節のある扁桃腺の胚中心から
液性免疫、細胞性免疫機能を独立的に調べています(1)。
これは非常に重要なデータで
新型コロナウィルスだけではなく
より子どもにとって
脅威なインフルエンザにおいても考慮に値します。
もし、
お子さんを新型コロナウィルスや
インフルエンザウィルスから守る際に
咽頭扁桃のB細胞の機能が重要であるとするならば、
咽頭扁桃の組織依存的に
事前に液性免疫を手に入れるように
効率的にワクチン接種する事の意義が生じます。
実際に
インフルエンザでは
弱毒性ウィルスの生ワクチンにおいて
点鼻性のものが
日本においては2歳以上から対象となっている
病院もあります。
今回のQin Xu(敬称略)らの結果から
お子さんをより広範なウィルス性呼吸器感染症から
ワクチン接種によって守る事を考えましたが、
それと架橋させるためには
いくつかの現段階における仮定があります。
確かに
新型コロナウィルスにおいて
子どもの咽頭扁桃の
「B細胞の液性免疫の機能」が
高い中和抗体量を示すうえで重要である
ことが示されました。
しかし、
この事は咽頭扁桃に対して
事前に弱毒性ワクチンによって
液性免疫を獲得する事が
感染の予防、軽症化に貢献する事実を示すものでは
現時点ではありません。
また、新型コロナウィルスの場合は
mRNAワクチンが主流なので
特に子供のケースにおいて
点鼻投与の弱毒性ワクチンの大規模な
臨床試験は現時点では(私は)知りません。
問題は
インフルエンザのケースです。
上述したように重症化するリスクが子どもの場合でも
あることから、
この咽頭扁桃の
「B細胞の液性免疫の機能」が
インフルエンザにおいても同様に
予防、軽症化のために重要かどうか?
そこがまず仮説、仮定になります。
しかし、
弱毒性生ワクチンをインフルエンザ予防において
経鼻投与することは
新型インフルエンザを含め
広域の中和抗体が産生されたことが
マウスのケースで確かめられています(4)。
この結果は
ひょっとすると咽頭扁桃のリンパ節の
液性免疫を事前に軽度に刺激する事によって
中和能力、交差性の高い抗体が産生されることを
示唆するものであるかもしれません。
これは、上述した
Qin Xu(敬称略)らの研究と
一定のつながりを見出すことができます。
もし、このつながりが(ある程度)真であれば、
お子さんを守るだけではなく
将来の新型インフルエンザのリスクを低減したり
高齢の方、疾患を持つ方を含めた
重症化リスクの高い人々を
守ることにもつながるかもしれません。
液性免疫は
Qin Xu(敬称略)らの研究からも
数か月以上持続する事が示されていますし、
他の報告においても
12カ月以上、反応性を示したことが
報告されています(5)。
これは新型コロナウィルスのケースです。
--
Qin Xu(敬称略)らの研究では
液性免疫に関わる
クラススイッチ、ハイパー成熟、
親和性成熟、抗体生成、メモリーB細胞生成などが
一つ一つ、取り出された
事前に感染を経験した子どもの扁桃腺組織で
確認されています(1)。
また、エフェクター機能を持つ
細胞性免疫であるT細胞の生成も確認されています。
今までは
末梢の血液で免疫機能について調べられてきましたが、
今回は「組織特異的に」独立して調べられました。
特に鼻咽頭はウィルスの侵入経路の入り口なので
免疫機能において重要な位置を占めます。
その閉じた系において
液性免疫、細胞性免疫が
子どもにおいて持続的に機能していたことが
確かめられました(1)。
--
今後、インフルエンザにおいても同様に当てはまるか?
また、咽頭扁桃が重要であるならば、
弱毒性ワクチンを事前に経鼻投与する事で
より有効に抗体を生み出すことができるか?
そのような方向で事実を得る事は
特にお子さんの呼吸器感染症を予防、軽症化するために
重要ではないかと考えられます。重要なポイントは不活化ワクチンではなく増殖能力が弱くともある程度ある弱毒性の生ワクチンを入れないといけない可能性があることです。今回調べられた新型コロナウィルスでもmRNAワクチン接種ではなくウィルス感染を経験した子供の扁桃腺です。ここを間違えると結果は変わるかもしれません。両方するのも比較としては価値があると考えられます。
現状、開発が進められているmRNAワクチンと並んで
1つの選択肢を示すものになるかもしれません。
(参考文献)
(1)
Qin Xu, Pedro Milanez-Almeida, Andrew J. Martins, Andrea J. Radtke, Kenneth B. Hoehn, Cihan Oguz, Jinguo Chen, Can Liu, Juanjie Tang, Gabrielle Grubbs, Sydney Stein, Sabrina Ramelli, Juraj Kabat, Hengameh Behzadpour, Maria Karkanitsa, Jacquelyn Spathies, Heather Kalish, Lela Kardava, Martha Kirby, Foo Cheung, Silvia Preite, Patrick C. Duncker, Moses M. Kitakule, Nahir Romero, Diego Preciado, Lyuba Gitman, Galina Koroleva, Grace Smith, Arthur Shaffer, Ian T. McBain, Peter J. McGuire, Stefania Pittaluga, Ronald N. Germain, Richard Apps, Daniella M. Schwartz, Kaitlyn Sadtler, Susan Moir, Daniel S. Chertow, Steven H. Kleinstein, Surender Khurana, John S. Tsang, Pamela Mudd, Pamela L. Schwartzberg & Kalpana Manthiram
Adaptive immune responses to SARS-CoV-2 persist in the pharyngeal lymphoid tissue of children
Nature Immunology (2022)
(2)
三島市医師会
桜ヶ丘こどもクリニック
兵藤 寿美
(3)
South Dakota Department of Health
COMMON VIRAL RESPIRATORY DISEASES
(4)
多様なウイルスを防御、弱毒生ワクチンの経鼻感染の有効性を確認
(5)
Kei Miyakawa, Sousuke Kubo, Sundararaj Stanleyraj Jeremiah, Hirofumi Go, Yutaro Yamaoka, Norihisa Ohtake, Hideaki Kato, Satoshi Ikeda, Takahiro Mihara, Ikuro Matsuba, Naoko Sanno, Masaaki Miyakawa, Masaharu Shinkai, Tomoyuki Miyazaki, Takashi Ogura, Shuichi Ito, Takeshi Kaneko, Kouji Yamamoto, Atsushi Goto, Akihide Ryo
Persistence of robust humoral immune response in COVID-19 convalescent individuals over 12 months after infection
medRχiv https://doi.org/10.1101/2021.09.27.21264013
日本では特にすでに顕著ですが、
今後世界的に高齢化率が高まっていきます。
医療が発達すると
高齢まで生きられる人が増える為、
高齢の方をどのように感染症から守るか?
というのは日本だけではなく
世界のこれからの重要な問題であると考えられます。
新型コロナウィルス、インフルエンザにおいても
特に重要なのが、
重症化をどのように防ぐか?
ということです。
重症化はその患者さんやご家族はもちろんですが、
医療スタッフや社会にも影響を与えます。
言い換えれば、
重症化の治療が高度化して、
重症化率を小さくすることができれば、
感染症における医療や経済への負担を
小さくすることができます。
その点を考えても
新型コロナウィルス、インフルエンザともに
重症化の生理機序を理解する事は
非常に重要な問題になります。
--
Hideki Ogura(敬称略)らは
新型コロナウィルスの重症化した患者さんの
回復後の血液から、
重症化に関わると考えられる
免疫的な痕跡を明らかにしています(1)。
新型コロナウィルスの重症化を決める要因は
1つではないと考えられますが、
特に感染初期の急性期においては
Ⅰ型インターフェロンが十分に分泌して
働くことが重要であると考えられています。
逆に言えば
不十分なⅠ型インターフェロンは
重症化のリスクを高めると考えられています(2)。
このⅠ型インターフェロンは
T細胞から放出されることが考えられますが、
Hideki Ogura(敬称略)らは
そのT細胞を特定しました。
それは新型コロナウィルスの
エンベロープ膜のタンパク質である
Mタンパク質に特異的に働く
CD8+T細胞が関わっていることが示されています。
(Fig.1b)
重症化した患者さんでは
このMタンパク質に働くCD8+T細胞が疲弊していて
その機能が低下している事が確認されています。
免疫チェックポイントのPD1が
高まっていることが示されています。
(Fig.4d)
これによりⅠ型インターフェロンが
十分に機能しなかったことが示唆されます。
さらに中等症の患者さんでは
このMタンパク質特異的CD8+T細胞は
エフェクター表現型に偏っていましたが、
重症の患者さんでは
その偏りが崩れていたことが確認されています。
(Fig.4c)
PD-1の発現が本当にインターフェロンの産生を抑えるか?
これについては議論の余地があるとされています(4,5)。
しかし、
Hideki Ogura(敬称略)らは
「Severely exhausted PD-1」の発現は
Ⅰ型インターフェロンの産生を抑えるかもしれない
と議論されています(1)。
もし、PD-1の発現がⅠ型インターフェロンの産生を
抑えるのであれば、
免疫チェックポイント阻害薬は
重症の患者さんにおいて検討される余地がある
かもしれません。
実際にPD1抑制剤は
急性期を過ぎた状態での
免疫異常性が調整されたという報告もあります(3)。
(参考文献)
(1)
Hideki Ogura, Jin Gohda, Xiuyuan Lu, Mizuki Yamamoto, Yoshio Takesue, Aoi Son, Sadayuki Doi, Kazuyuki Matsushita, Fumitaka Isobe, Yoshihiro Fukuda, Tai-Ping Huang, Takamasa Ueno, Naomi Mambo, Hiromoto Murakami, Yasushi Kawaguchi, Jun-ichiro Inoue, Kunihiro Shirai, Sho Yamasaki, Jun-Ichi Hirata & Satoshi Ishido
Dysfunctional Sars-CoV-2-M protein-specific cytotoxic T lymphocytes in patients recovering from severe COVID-19
Nature Communications volume 13, Article number: 7063 (2022)
(2)
Hadjadj, J. et al. Impaired type I interferon activity and inflammatory
responses in severe COVID-19 patients. Science 369,
718–724 (2020).
(3)
Cristian Loretelli et al.
PD-1 blockade counteracts post-COVID-19 immune abnormalities and stimulates the anti-SARS-CoV-2 immune response
JCI Insight. 2021 Dec 22;6(24):e146701
(4)
Rha, M. S. et al. PD-1-expressing SARS-CoV-2-specific CD8(+) T cells
are not exhausted, but functional in patients with COVID-19.
Immunity 54, 44–52.e43 (2021).
(5)
Rha, M. S. & Shin, E. C. Activation or exhaustion of CD8(+) T cells in
patients with COVID-19. Cell Mol. Immunol. 18, 2325–2333 (2021).
がんで命を落とす人のうち
転移性のがんである場合が
一番のその原因であるとされています。
つまり、
転移をなくす、抑える、
あるいは転移を示しているがんの
有効な治療が見つかれば、
がんで亡くなる人の多くを救うことができる
と想定されます。
しかし、転移性の癌を識別したり
事前に予測して予防的に治療したりすることは
現時点では難しいとされています。
その理由の一つは
癌の転移性は「大卵少産」戦略であるからである
と仮説を立てています。
その根拠は
癌細胞が転移をする際の主なルートは血管内ですが
原発腫瘍から血管内に滲出する癌細胞は
一グラムあたり10^6個の癌細胞という
報告もありますが、
第二の微小環境に到達して、生着する確率は
0.01%であるというデータもあります(2,3)。
腫瘍組織から一定割合の癌細胞は
転移形質を獲得しますが、
そこでの(ひょっとすると少ない)割合があり、
その一部の滲出した循環癌細胞の中の
少ない割合が転移サイトで生着します。
それを原発腫瘍組織から予測する事は困難であり、
循環器内で生着に成功する傾向のある
癌細胞を識別する事もまた難しいと考えられます。
--
Alexander Ring(敬称略)らが示すように
腫瘍組織から癌が抜けだし、
血中に滲出するまでの間に
多くの遺伝子的な変化があります。
(参考文献(1) Figure.1a)
また、転移するためには
細胞の形を柔軟に変えたり、
あるいはせん断応力に耐えるために
堅牢になることもあります。
形を変える際には
間葉形質を獲得することもあります。
(上皮間葉転換)。
そのような変化を経て、
第二の微小環境に到着した際に
生着するためには
もし、原発腫瘍と似た形質を持つ必要がある
のであれば、可逆的に
今までの経路で得た変化を戻す必要があります。
あるいは
原発腫瘍と異なる性質を持つのであれば、
転移サイトに固形がんとして生着しやすい
核形成しやすいための遺伝子的な事も含めた
形質は何でしょうか?
という疑問も生まれます。
その経路については下述しますが、
転移サイトでは少なくとも
ニッチ環境に合うように適応する事、
核として成長に関与できる事、
宿主組織を置き換える能力がある事、
これらが挙げられています(11)。
その生着しやすい形質を
循環器にある循環型癌細胞から
検出する事は可能でしょうか?
例えば、幹細胞様の形質を持つことが、
転移性を高めるということがあるので
WntやNotchの信号経路は一つの評価基準となります(32,33)。
免疫細胞などの異種細胞や
癌クラスターなどの同種細胞との
複合体化はよりその識別を複雑にします。
また、癌の転移には
細胞外小胞も大きく関わっている可能性もあります。
そのような
始点から終点までの時系列の変化の中で
偶発的な要素も含めて
細胞の運命が決まるのであれば、
社会の未来が予測できないように
原発腫瘍組織そのものから将来の転移の予測も
原理的にできない可能性も考えられます。
少なくとも正確な予測は難しいかもしれません。
--
癌が原発腫瘍から離れて循環器を通して
移動、転移する際には
それを阻む様々な障害があります。
血流、間質材料(細胞外マトリックスなど)、障壁組織など
との接触によるせんん断応力もあります。
細胞が足場を失う事によって細胞死する
アノイキス(Anoikis)があります(4)。
また免疫細胞による癌細胞傷害性もあります
せん断応力に耐えるためには
上述したように癌細胞自体の堅牢性が上がることが挙げられ、
アノイキスに関しては
インテグリンによる細胞外マトリックスとの接着や
上皮間葉転換による間葉形質の獲得などが
考えられます(5)。
免疫細胞からは免疫チェックポイント(PD1)の発現によって
それによる除去、クリアランスから逃れる形質を
獲得します。
また好中球は循環癌細胞の増殖、生存を
助ける働きがあります(6)。
--
循環型癌細胞が血中から滲出して
転移サイトに生着する間においては
血管壁を超えて滲出する必要があります。
その際には
血管壁との結合性を上げる受容体などの
様々な接着因子が関わるとともに
細胞自身がすり抜けられるように形を変える必要もあります(7)。
この点については細胞の堅牢性(硬くなる)が上がる事と
相容れない部分があるのではないか?
という疑問も生まれます。
また、循環型癌細胞は
血管から滲出する際に内皮細胞に損傷を与え
血管からすり抜けられやすいようになることも
示唆されています(8)。
一般的に腫瘍組織の周辺の血管が
通常よりもリーキーであることと
形質として一致する部分があるかもしれません。
このような形質は
癌細胞以外の好中球などによっても
生じることが示唆されています(9,10)。
このように腫瘍環境で血管がリーキーになる事は
間質液などの排出圧などによっても
癌細胞が排出されやすくなります(14,15)。
--
転移ニッチでは、循環癌細胞に対して
休眠性(dormancy)を与える事が示唆されています(12)。
実際に、転移が治療数年後、10年後に見つかる
ことがありますが、
再発も含めて、この休眠性が関わっている
ことが推定されています(13)。
--
栄養素の中では脂質(系栄養素)が
癌の転移性を高めるとされています(1)。
癌細胞の転移を含めた運動性と脂質代謝の関係は
明かではありませんが、
脂肪酸も含めて転移性を高める事は
知られています(16,17)。
--
上述したように
循環した癌細胞が転移ニッチで成長するためには
それを元に核成長する能力(Seeding capacity)が
必要であると想定されています。
その能力のためには幹細胞様の形質が必要かという事が
提起されています(1)。
また、足場を失って細胞死するアノイキスを防ぐためには
1つとして細胞が間葉形質を手に入れる必要があります。
従って、転移のためには
上皮間葉転換が必要かどうか?
これについても議論されています(1)。
一般的に
転移の過程で必要な血管への侵入は
上皮間葉転換が必要であるかもしれない
ということが示されています(18,19)。
しかし、
乳がんから肺への転移において
上皮間葉転換は化学療法の抵抗性には関係するが
転移のための必要条件ではない
ことが示されています(20)。
上皮間葉転換は足場を必要としないように
形質転換するので、
原発腫瘍を離れた後、
循環器を通り、一部が転移ニッチに到着した際には
転移サイトで播種、生着しにくいかもしれない
と考えられています(1).
従って、逆に間葉形質から上皮形質に戻る事があるか?
という視点が生まれます。
実際に流動的で、一時的であるとされており、
可塑性があるとされています(21,22)。
そうした事実の中、
上皮間葉転換は転移に影響は与えるが
転移の発生原因となるドライバー因子ではない
かもしれないとされています(1)。
--
転移性の要因は単一細胞を調べるだけでは
わからない可能性もあります。
癌細胞は転移ルートでクラスター化すると言われています。
クラスター化した場合には
単独の循環型癌細胞に比べて
転移の能力は100倍上昇するという報告もあります(23,24)。
また、同種の癌細胞同士がクラスター化すると
(homotypic clustering)
幹細胞様の形質が亢進すると言われています。
上述した仮説を考慮すると
幹細胞的な表現型を得る事に寄って
転移ニッチで核形成、成長しやすい特質を獲得する
事が想定されます(25)。
このようなクラスター化はホモ接合だけではなく
血小板、骨髄系免疫細胞、癌関連線維芽細胞
などとも
生じるとされています(26-31)。
好中球が異種クラスター化に関与すると
癌組織に対して走化性を獲得するために
あるいは受容体連結を通じて
増殖、転移能力が向上する事も示されています(6)。
また、血管の内皮組織との結合性においては
癌関連線維芽細胞によって高まり、
転移ニッチへの滲出を促す結果になる
可能性があります(30,31)。
--
癌細胞が血中へ滲出するタイミングがあるとされています。
単一の循環癌細胞は循環時間(寿命)が25~30min
クラスターになると6-10min。
このような見積もりがあります。
従って、1日に対する時間分解能が細かいため
1日のリズムの中で
どのように循環癌細胞が変動するか?
これを考えるのは重要です。
サーカディアンリズムの中で
メラトニンが変化しますが、
このホルモンの影響などから
睡眠中に循環癌細胞が多くなる
という報告もあります(34)。
これは薬剤投与のタイミングや
循環型癌細胞の検出のタイミングなど
臨床応用において重要な事実です。
//検出、診断//
循環型癌細胞を検出して、診断する事は
従来の組織生検や循環型腫瘍DNAを分析するよりも
実態に合った検出、分析ができ
より正確な診断ができる可能性が示唆されています(1)。
細胞そのものを分析するので
抗原などを含めた表面受容体の分析や
それを含めたマルチオミックス解析
(ゲノム、エピゲノム、トランスクリプト、プロテインなど)。
これが検出された単一細胞ごとに
原理的にはできるとされています。
しかし、課題はあります。
1人の患者さんに対して1回限りではなく
経時的に分析できるように臨床応用しようとしたときには
いくつかの乗り越えないといけない課題があります。
例えば
〇エピトープ発現の理解、可塑性(構造を変える)
〇細胞サイズの異種性
〇細胞形状の変化、劣化
〇循環型細胞の純度
〇分析デバイスの詰まり
〇分析のために必要な大量の血液(低効率の取得細胞量)
〇分析時間の長さ
〇自動化の困難性
〇分子分析の妥当性
〇機能分析の改善
これらが挙げられています(1)。
--
循環型癌細胞の量の分析、クラスター量の分析は
その患者さんの癌の状態、予後を推定する事において
有効であるとされています(44-46)。
--
循環型癌細胞の分子的な特徴に基づいて
どの治療を選択するか?の判断に役立ちます(44,45)。
--
血液から分析する事においては
他の方法を排除することなく
多元的な分析が重要になるかもしれません。
エクソソームや循環型核酸(DNA, RNA)などと
連携する形で分析し、
それらを比較することで
分析の信頼性が上がる可能性があります。
//治療//
すでに転移がみられる場合には
当然、原発腫瘍サイトと同時に治療が必要になりますが、
まだ、転移の様相がない状態において
手術や薬物療法などで原発腫瘍を取り除くことに
成功したとしても
転移は見えにくい形で
すでに起こって、それに応じた播種が
生じている可能性があります(35-38)。
現在では転移に標的を絞った薬物療法の不足によって
転移性のがんの臨床試験を難しくしていますが、
将来の臨床試験のデザインとして考えられています(39,40)。
Alexander Ring(敬称略)らが
総括している転移の生物学(1)を考慮して
有効な臨床前試験を行うことで
転移の有効な臨床試験につなげられる可能性があります。
しかしながら、
下述するように転移の原因は多岐にわたり
どのモデルから標的性を得るかというのは
選択が難しいところだと思います。
Alexander Ring(敬称略)らは
転移カスケード(転移の流れ)の様々なステップでの
循環型癌細胞を標的とすることを提案しています(1)。
示されているFig.4と独自の調査、考察を加えて
考えられる標的を列挙してみます。
-
①脈管内、脈管外への浸入、滲出を抑える
これらの移動性においては
接着因子であるインテグリンやカドヘリンが関わっているため
これらの機能を抑える(アンタゴナイズ)する薬剤が
考えられます。
-
②免疫チェックポイント阻害薬
循環型癌細胞は血中で免疫細胞によってクリアランスされますが、
免疫チェックポイントの発現によって
その除去能力を阻害する働きを有することがあります。
従って、その免疫機能を復活させるために
免疫チェックポイント阻害薬を使います。
-
③クラスターの分解
循環型癌細胞のクラスター化は
転移性を100倍高めるという事を上述しました。
従って、クラスターを分解する機能のある薬剤を投与する
ことによって転移性を下げる試みをします。
-
④循環型癌細胞のエンジニアリング
治療効果のある薬剤を複合体化させた
循環型癌細胞を投与し、
循環型癌細胞がクラスター化する性質を利用して
多数の循環型癌細胞を細胞死させます。
-
⑤代謝的なアプローチ
循環型癌細胞は脂質系の栄養素によって活性化するので
それに関わる受容体をブロックする事や
脂質分解を促す、あるいは接種量を減らす、
睡眠中など循環が多い時の量を激減させるなど
工夫して代謝的なアプローチで不活性化させます。
-
⑥時間的なアプローチ
循環型癌細胞は睡眠中に多く分泌します。
従って、睡眠中に薬剤が効くように
薬剤の投与のタイミングを考えます。
-
⑦上皮間葉転換標的
上皮間葉転換が転移そのものに関わっているかは
議論の余地がありますが、
間葉形質を手に入れる事で薬剤抵抗性を獲得するという
報告があります。
従って、その薬剤抵抗性を抑えるために
上皮間葉転換に関わる信号経路を抑えます(41)
-
⑧癌幹細胞を標的化(42)
幹細胞の表現型を持つ細胞は播種性が高いため
転移ニッチに到着した際に
それを核として成長しやすいというのがあります。
従って、循環型癌細胞の血中にある間に
幹細胞形質を持つ癌細胞をできるだけ
選択的に抑える薬を投与します。
-
⑨休眠している癌細胞を標的とするか?
癌が治療から数年以上経って再発や
違う転移サイトで見つかることがある一つの理由は
上述したように癌の休眠による
その再活性化によると想定されます。
従って、
それを選択的に除去する事がいいかどうか?
という議論があります。
(1)害はないのでそのままにする
(2)薬が効くように積極的に再活性化させる
(3)休眠状態で除去する
これらの3つの視点で総括されています(43)。
-
⑩多卵少産の性質をどう考えるか?
上述したように循環型癌細胞が全て
転移サイトに到着して転移がんを形成するわけではありません。
その割合は0.01%と言われています。
従って、循環型癌細胞の中でも
より転移に成功しやすい形質を持った細胞や細胞群がある
と考える事も出来ます。
例えば、上述したクラスター化は確率を大きく高めるため
まずはクラスター化を抑える事を考えよう。
このような戦略もあります。
幹細胞化を防ぐことも同様です。
-
⑪循環型癌細胞の寿命をどう考えるか?
単一の循環癌細胞は循環時間(寿命)が25~30min
クラスターになると6-10min。
このようなデータがあります。
固形癌や血液性のがんの場合は
治療しない限り恒久的に存在しますが、
循環型癌細胞の場合は
供給源によって小刻みに変動するという事です。
何が言いたいか?というと
仮に有効な薬を投与して
循環型癌細胞を有効に減らしたとしても
それは「一時的」です。
供給源の原発腫瘍がそのままの大きさである限りにおいては
また、薬効が切れたら
循環型癌細胞は復活すると考えられます。
恒久的に癌細胞を壊滅させるという事を考える場合には
原発腫瘍、循環癌細胞、転移腫瘍
これらの癌細胞、微小環境を全体的に治療する必要があります。
循環型をフォローするとなると
ずっと薬剤を飲み続ける必要があるのではないか?
と思います。
そうすると体に負担のない薬剤を開発する
必要性が出てきます。
-
⑫循環型癌細胞を標的にする一つの利点
血中にある循環型癌細胞を標的にする場合
標的化が適切であると
CAR-T, CAR-NK細胞による血液性がんの臨床実績から考えて
薬剤が有効に働く可能性も考えられます。
また、液体生検の分析で
すでに存在する循環型癌細胞の量がわかれば、
その量依存的に治療の可否を判断できる可能性もあります。
//考察//
癌の転移を考える際
〇⇒⇒⇒⇒⇒●
〇:癌微小環境、腫瘍組織
●:転移微小環境、転移腫瘍組織
⇒:転移へのステップ、循環型癌細胞
このように簡略的に図示することができますが、
腫瘍組織そのものは
分析により見える大きさで有れば
治療によって小さく、あるいはなくすことができます。
それは「一時的」ではありません。
しかし、
⇒が示す循環型癌細胞は
常に腫瘍組織間を移動しています。
そこには短い寿命があり、低い確率があります。
常に腫瘍組織は多くの癌細胞と
癌関連細胞外小胞を送り続けています。
従って、
循環型癌細胞を標的にする場合には
「連続的」「継続的」な治療が必要です。
薬を飲み続けるとなると
副作用の強い薬であると身体の負担の方が心配になります。
従って、
循環型癌細胞を標的として治療する場合には
副作用の少ない、継続可能な薬物を開発する必要があります。
あるいは、血液分析を頻繁に行い、
その量に応じて治療の強度をこまめに調整する事が必要ではないか?
このように考えます。
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(44-46)233,234,235。
iPS細胞を使った研究、
その先にある医療、臨床応用において
いくつかの魅力的なポイントがあると同時に
潜在的に抱えている課題もあると認識しています。
実際にiPS細胞を扱った事がないので
仮説の域はでないですが、
iPS細胞で初期化して
任意の細胞に分化させる際の培養環境において
生体内の条件を完全には再現できないことが
潜在的な課題を生む一つの原因ではないか?
このように考えました。
患者さんのT細胞からiPS細胞技術によって
初期化して、再度2次的なiPS-T細胞を生み出した場合
予期しない表現型を持つとされています(1)。
この表現型は一般的に
HIV感染やウィスコット・アルドリッチ症候群などの
免疫不全で多く生じるとされているCD8αα(2)。
これを一部に含み、
健康な人に多く含まれるCD8αβ(2)。
これを含まないとされています(1)。
このCD8ααは免疫不全の場合に多く現れる表現型で
抗原特異的な細胞傷害性が弱いことが示されています(3)。
従って、血液性、固形癌に関わらず
本来のT細胞の細胞傷害性を獲得するために
通常のCD8αβの表現型を生み出す条件が探索されてきました(3)。
その結果
抗CD3抗原を含みiPS細胞由来CD4/CD8ダブル陽性細胞の条件で
純化され、それにより刺激されると
このCD8αβの表現型を獲得する事がわかっています(3)。
--
癌細胞に特異的に働き、
それに対する持続的な細胞傷害性を得るためには
いくつかの工夫(表現型の獲得)が必要です。
特に血液性ではなく
組織常在型の固形癌の場合には
より高度な表現型の獲得が必要になります。
これは、iPS細胞由来のCAR免疫細胞だけではなく
一般的なCAR免疫細胞にも言えることです。
また、CAR免疫細胞そのものの表現型だけではなく、
周辺のシグナルも重要であるとされています。
例えば、
インターフェロンγ受容体(IFNγR)信号経路
(IFNGR1, JAK1 or JAK2)。
これが欠損すると
固形癌に対するCAR免疫細胞の結合親和性が
低下する事が報告されています(4)。
--
Tatsuki Ueda(敬称略)らは
固形癌に対する持続的な細胞傷害性を
iPS細胞で得るための
3つの条件(シグナル)、
それらの機能を明らかにし,
それらを有効に働かせることを実現しています(1)。
--
(第一のシグナル)
T細胞を活性化させるためのCD3ζ仲介シグナル。
このシグナルを増強するための補完因子は
ジアシルグリセロールリン酸化酵素(DGK)の阻害。
それにより
iCAR-T細胞のマウスによる腫瘍局所での
増殖と生存が改善されました(1)。
-
(第二のシグナル)
第一のシグナルを強化するための共刺激シグナル。
例えば、CD28と4-1BB。
これらの導入は
iPS細胞からT細胞への分化誘導に適している
事が示されています。
CAR-T細胞の機能低下させるシグナル伝達は
確認されなかったとされています。
-
(第三のシグナル)
サイトカイン刺激によるシグナルで
T細胞活性化のためには必要です。
例えば、
JAK/STAT, IL-2, IL-7 IL-15, IL-21です(1)。
これまで
膜結合型IL-15/IL-15Rα(mbIL15)遺伝子の導入によって
CAR-T細胞の体内残存が改善し、
血液がん治療効果が改善されることが報告されています(6).
同様にTatsuki Ueda(敬称略)らは
mbIL15遺伝子導入によってiCAR-T細胞は
腫瘍における増殖性と持続性が向上したことを
マウスのケースで確認しています。
--
これらの第一から第三のシグナル条件を組み合わせることで
より長期的な腫瘍傷害性に対する相乗効果が得られた
とされています(1)。
//付加的考察//
iPS細胞でCAR免疫細胞技術をすることの
意義はどこにあるでしょうか?
1つはiPS細胞ストックのように
免疫原性(拒絶反応、サイトカインストーム)が生じにくい
希少な白血球血液型の人から
血液を頂いて、それをiPS細胞技術によって
初期化する事で、
「いつでもどこでも取り出せる(off-the-shelf)」
CAR免疫細胞治療ができるということです。
これはT細胞だけではなく、NK細胞でも同様かもしれません。
言い換えれば、
自分以外の貯蔵された細胞を使う事ができるため
治療までの時間ロスや価格を抑えられることが期待できます。
このような免疫原性を抑える事は
iPS細胞に任意の遺伝子導入することによって
可能かもしれない事も示されています(5)。
例えば、CAR-T細胞の場合には
CD4+CD7-表現型を持たせる事によって
CAR-T同士の作用による細胞死(Fractricide)を
防ぐ効果があるとされています(7,8)
もう1つはNK細胞からの認識を防ぐために
NK細胞抑制受容体が必要であるとされています。
これはEカドヘリンを発現させることよって可能になります。
一方で、
CD7を欠損させると、これが
T細胞の増殖やエフェクター機能に関連する
IL-2の産生に関わっているため(9)、
これを補う必要があります。
従って、
IL-2 receptor subunit gamma (CD132 or γc) intracellular domain (CAR-g)。
これを補完的に導入します(7)。
免疫原性は一般的に
免疫拒絶、移植片対宿主病、Fratricide
これらに分けられています。
(参考文献(7) Fig.1)
iPS細胞で享受されるメリットである
血液型はMHC依存的な免疫原性であると考えると
免疫拒絶の一部、移植片対宿主病に関わります。
上述したCD7抑制とNK細胞認識抑制を加える事は
免疫原性の低いiPS細胞ストックであっても
付加的に必要である可能性があります。
加えて
マクロファージなどの骨髄系細胞との相互作用も
考える必要があります。
CAR-T細胞治療において
マクロファージ依存的なサイトカインストームによって
発熱、低血圧、呼吸不全が懸念され、
過剰なIL-6, IL-1, NOを抑える必要があるのではないか
と示唆されています(10)。
CAR免疫細胞において人為的に免疫系を操作する
という医療介入は
免疫原性が低いことは必要条件である可能性がありますが、
骨髄系、リンパ系あらゆる免疫細胞に対する影響、
それとの相互作用を慎重に検証していく
必要があるのではないかと考えました。
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Akihiro Konno, Kanae Okada, Kazunori Mizuno, Mika Nishida, Shuya Nagaoki, Tomoko Toma, Takahiro Uehara, Kazuhide Ohta, Yoshihito Kasahara, Hidetoshi Seki, Akihiro Yachie, Shoichi Koizumi
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BLOOD, 1 DECEMBER 2002 VOLUME 100, NUMBER 12 4090-4097
(3)
Takuya Maeda 1 2, Seiji Nagano 1 2, Hiroshi Ichise 1, Keisuke Kataoka 3, Daisuke Yamada 4, Seishi Ogawa 3, Haruhiko Koseki 4, Toshio Kitawaki 2, Norimitsu Kadowaki 5, Akifumi Takaori-Kondo 2, Kyoko Masuda 1, Hiroshi Kawamoto 6
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幼児期の水頭症は世界で年間に約40万ケース
あるとされています(2)。
日本における先天性水頭症は
10000人あたり3人前後といわれています。
現在では出生数が80万人くらいなので
おおよそ年間240人程度と考えられます。
--
水頭症の影響を最も受けた患児に対して
その治療は適切ではない可能性が指摘されています(1)。
その理由は治療の制限的な評価にあります。
治療しないままにしていると
幼少期の水頭症は神経発達において
著しい悪影響が懸念されます。
結果、命を落とす事も考えられます。
治療をする際には
条件として、
生涯を通じたモニタリングを必要とします。
また、急性の悪化に対する
神経外科治療の為の迅速な評価が必要です。
通常、その管理において
患児(お子さん)や家族にとって
負担となり得る多数の手続きがあります。
--
William E. Whitehead, and Howard L. Weiner(敬称略)は
この水頭症の現在の理解と管理を総括しています(1)。
その内容について参照し、
可能な限り仮説を含めた考察を生み出し、
読者の方を情報共有したいと思います。
//病態生理学と原因//
水頭症では脳脊髄液の流れがせきどめられ
その水圧によって脳室が拡張します。
従って、頭蓋内の圧力が高まり、
それによる副作用があります。
従来の見方では、
脳の深部に存在するうろこ状の脈絡叢が
脳脊髄液を生み出し、脳室からくも膜下腔へ流れ出し
くも膜顆粒を通して静脈系へ吸収されるとされています。
1900年初頭に考えられた
脳脊髄液の循環のこのモデルは
十分な理解がない状態での荒くて単純なものに基づきます。
脳脊髄液の生成は頭蓋内の他の部位でも生じ、
その流れは多方向性を持ち、
心臓の拍動性によって影響を受けます。
また、脳脊髄液の吸収は多数の部位で起こります。
これらの事が現在では明らかになっています(3)。
⇒
従って、脳脊髄液の水圧が脳室内で高まる原因は
その経路や吸収部位の閉塞だけではなく
心臓の不全も疑う必要があると考えられます(27)。
--
上述した心臓の事も含めて、
様々な障がい、先天的要素、後天的要素が
脳脊髄液の流れを乱し、水頭症を導くと考えられています。
その中で共通的な先天的な原因は
〇脊髄髄膜瘤
〇中脳水道狭窄、
〇後方窩先天性異常
(とりわけChiari and Dandy–Walker malformations)
これらであると考えられています。
水頭症を引き起こす共通的な後天的な原因を生み出す疾患は
〇脳腫瘍
〇脳出血
〇感染症
これらです。
全世界での水頭症の最も共通する原因は
感染症によるもであるとされています(1)。
⇒
感染症による水頭症の病理の一つは
感染症によって過剰に高まった免疫システムによる
脳組織、脊髄液流路組織の炎症反応によって
生じている可能性があります。
実際にトール様受容体4制御サイトカインや
免疫細胞、その信号経路によって
水頭症が生じているかもしれないとされています(28)。
従って、それが原因の場合には
免疫反応を調整する事と
炎症によって腫れあがった組織を回復させる
処置が必要になると考えられます。
--
このようにウィルスなどを含めた
病原体によって引き起こされた水頭症は
度々、新生児敗血症を引き起こします(2,4)。
//診断//
胎児の脳室拡大は側脳室の異常な拡大によって
定義します。(10mm径以上)。
妊娠中期の間における超音波検査によって
検出できます(5)。
これが検出されれば水頭症かもしれませんが、
それは異常な脳発達と原因となるかもしれません。
とりわけ脳室の拡大に加えて
全体的な脳の萎縮がみられる場合には
なおさらその注意が必要になります。
胎児期の画像診断だけに基づいて
正確な診断をすることの難しさは
胎児の水頭症の初期的な治療の為の決定を同様に難しくします。
胎児の脳室拡大のための医療介入は
〇出産を早める事
〇子宮内で脳脊髄液を排出させる事
これらが考えられます。
しかし、
高い合併症のリスクがあり、
かつ
お子さんの臨床的な利益は明確にはなく
それゆえに推奨できないとされています(5)。
--
新生児は水頭症による苦痛を滅多に示しません。
なぜなら、泉門が開いていること
頭蓋骨の縫合線が拡大された脳室の
付加的な体積にかかる圧力を分散するからです。
新生児の水頭症の臨床的な特徴は
〇頭の外周が大きい事
〇泉門膨隆がみられる事
〇頭蓋骨の縫合線が大きく分離している事
これらが挙げられています。
従って、
頭蓋部のふくらみや皮膚の隆起、
つなぎ目の分離などを見て
異常がみられる場合には
新生児に苦痛がみられない場合においても
水頭症の可能性を疑う必要性があると考えられます。
脳室の拡大の進行は
〇下方向への逸脱した凝視、
〇易刺激性、興奮性
〇無気力、昏睡状態
〇無呼吸、徐脈
〇発達不全(developmental regression)
これらを導くかもしれません。
--
水頭症を持つ幼児は頭の外周が
異常な割合で拡大している事が典型的に見られます。
これは脳や頭蓋骨を拡大させる
様々な疾患によって引き起こされる
大頭蓋症と水頭症を区別するものです。
大頭蓋症の良性の形質を持つ子供の頭の外周は
生まれてから1年間は通常よりも速く大きくなりますが、
2年目からはその速度はゆっくりになります。
これらの患児は頭蓋内圧力の増加を示す
他のサインがなく、
治療をする必要はありません。
--
年長の子供は泉門がすでに閉じているため
頭蓋内の内容物の圧力を分散させる事ができません。
従って、
水頭症はお子さん自身が知覚できる症状を伴います。
〇頭痛
〇吐き気、嘔吐
〇複視
〇昏睡状態
〇(まれに)てんかん発作
これらが挙げられています。
進行した症例では、患児は
〇徐脈
〇乳頭浮腫
〇sixth-nerve palsies
(sixth-nerve is damaged)
これらを持つことがあります。
これまでの知見からは
発達のマイルストーンの退行
つまり発達軌跡に遅れが生じ、
通学する事も難しくなるかもしれない
とされています。
//治療//
脳脊髄液シャント(CSF shunt)は
水頭症の治療の中心です。
しかしながら、
この主に腹腔への短絡処置は高い失敗率であり、
それによる副作用が懸念されるため、
代替となる治療法が
お子さんの生活の質(QOL)を向上させるために
提案されてきました。
このより高い安全性が期待できる治療は
〇予防的な方法
〇一時的な方法
〇長期的な治療
これらに分類する事ができます。
--
<予防的な方法>
早産に対するリスクがある妊娠女性では
出産前のグルココルチコイド(免疫調整剤)や
硫酸マグネシウムの投与は
胎児の脳室内出血。
(Germinal matrix hemorrhage also known as periventricular-intraventricular hemorrhages)
これらの発生を減らす事ができます。
この脳室内出血は胎児の水頭症の最も多い原因です(6)。
脊髄髄膜瘤の発生は
水頭症と度々同時に現れますが、
上述した薬剤の投与によって
発生確率を下げる事ができます(7)。
脊髄髄膜瘤に対する胎児の外科的医療介入(手術)は
条件のあう患者さん(Selected patients)に対して
施されます。その際には
水頭症のリスクは約50%低減すると報告されています(8)。
脳室内出血を持つ未熟な幼児への
脳脊髄液シャント手術を避けるための
他の革新的な臨床試験は
現在のところ成功していません。
これらの(未成功の)革新的なアプローチは
①針を尾骶骨上部に背骨に沿って縦に連続的に刺す
Serial lumbar puncture(9)。
(Serial 腰椎穿刺)
②血栓溶解剤の脳室内の投与(10)。
③脳室拡張の開始時に利尿剤を投与(11)
④脳室から針によって脳脊髄液を排出(12)
これらを含みます。
--
<一時的な方法>
水頭症を持つ新生児では
いくつかの因子が脳脊髄液短絡施術のタイミングに
影響を与えます。例えば、
〇脳室のサイズ
〇脳室内の血栓
〇感染症の有無
〇皮膚の不完全性
〇呼吸機能不全や腸管障がいなどの併存する臨床状態
これらです。
単純には
低いリスクの一時的な介入手段が
水頭症を管理するために選択されてきました。
それは新生児の臨床状態が改善するまで行われます。
いくつかの臨床ケースでは
脳脊髄液シャント手術は安全に行うことができます。
脳脊髄液の流れに影響する障害が弱まり
水頭症が寛解するまで行われます(13)。
側脳室から開放された泉門や腰椎穿刺を
通して針を刺す事は
臨床で実施することが可能であり
それは
〇脳脊髄液の排出
〇脳室内圧力の低下
〇脊髄液経路短絡や一時的なデバイス装着の前の
感染症の評価
これらのために利用されます。
一時的なデバイスは
〇小さな、埋め込みができる脳室リザーバー
〇Subgalealシャント(※)
(※)
側脳室内に一つの末端があり、
もう一つの末端は頭皮の帽状腱膜下腔に差し込まれます。
A subgaleal shunt consists of a shunt tube with one end in the lateral ventricles while the other end is inserted into the subgaleal space of the scalp(29)。
つまり、内側にある側脳室から
表皮近くの外側の帽状腱膜下腔にシャントによって
脳脊髄液の短絡経路を確保するということです。
-
これらを含み
数週間から数か月間維持する事ができる
処置を提供することができます。
--
(疑問)
シャントによるバイパス施術は
失敗する可能性が高いという記述がありますが、
安全に、成功率を高めるためには
どのような改善が必要でしょうか?
あるいは
成功率に大きく左右する病因などの
患児の適切な選別法があるでしょうか?
--
<長期的な治療>
脳脊髄液短絡施術の代替の長期的処置は
内視鏡下第3脳室底開窓術
(Endoscopic third ventriculostomy(ETV))。
これです。
この方法では内視鏡を
前頭部頭皮を切開し、第3脳室へ通し、
脳室底をオープンにします。
この方法により
第三脳室とくも膜下腔の間に流路を作り、
脳脊髄液が流通することができます。
この方法が成功すると
水頭症の症状は一般的に回復します。
また、脳室のサイズの中程度の減少が期待でき、
MRIで穿孔を通した脳脊髄液の流れの
臨床的証拠を得る事もできます。
一方、
水頭症の症状が再発した時、あるいは
脳室の体積の変化が不安定で有る場合、
上述した内視鏡下第3脳室底開窓術が
失敗に終わっていることを示します。
ほとんどの
内視鏡下第3脳室底開窓術の失敗は
手術後6か月以内に生じます。
失敗の確率は5%以下であるとされています(14)。
しかしながら、
新生児や幼児など年少であると
内視鏡下第3脳室底開窓術の失敗の比率があがります。
出生後6か月未満の赤ちゃんの場合
成功率は50%を下回ります。
この成功率は水頭症が生じている
原因に依存して変動します。
多くの神経外科医は
6か月未満の子供に対しては
この手術を試みないとされています(14)。
--
幼児への内視鏡下第3脳室底開窓術の
成功の確率を上昇させるために
脈絡叢焼灼は付加的な手続きとして
採用する事ができます。
⇒
脳脊髄液の分泌に関わる脈絡叢をアブレーション
することによって脳脊髄液の分泌量を
減らす事が一つの狙い(?)である
と考えました。
-
サブサハラ地域の患児は十分な治療への
アクセスが制限されていますが、
そこでのこの融合的な手術の有望な結果は
先進国での採用を促してきました(15)。
しかし、
脈絡叢焼灼させ内視鏡下第3脳室底開窓術
を行う事はいくつかのリスクがあります。
最も多い副作用は
手術前後のてんかん発作です。
おおよそ5.1%のケースで生じると報告されています(15)。
内視鏡を入れる際に生じる(?)外傷、開口部から
脳脊髄液が漏れる、リークする副作用が
3.4%のケースで生じると報告されています(15)。
このETVと脈絡叢焼灼の融合的な手術は
脳室をバイパスさせるときと比べて
脳室は拡大したままの傾向がありますが、
発育の遅れや水頭症の進行を防ぐうえで
適切かもしれないとされています。
しかしながら、
ウガンダによる感染症後の水頭症の幼児に対する
脳脊髄液バイパス手術と
内視鏡下第3脳室底開窓術と脈絡叢焼灼の組み合わせ
のランダム比較治験の結果では
お子さんの認知機能において
顕著な差は見られなかったとされています(16)。
一方、脳脊髄液バイパス手術
Ventriculoperitoneal shunt
(脳室腹腔シャント:腹腔への脊髄液の排出を促す)は
視鏡下第3脳室底開窓術と脈絡叢焼灼の組み合わせに比べて、
生存率は14カ月までのフォローアップにおいて
高いことが示されています
(参考文献(16) Figure.2)。
-
持続的な脳室の拡大に関わらず
視鏡下第3脳室底開窓術と脈絡叢焼灼の組み合わせの
手術を受けた患児の脳全体の容積は
腹腔へのシャントのみを受けた子供と
同程度であったとされています。
神経発達の結果に焦点を当てた
長期的フォローアップを含む付加的な研究が
今後の治療の決断を先導するために
必要であると考えられます。
北アメリカのランダム治験が
ウガンダとの同様の手術比較において
現在行われています。
(ClinicalTrials.gov number NCT04177914).
//脳脊髄液シャント//
側脳室のシャントは初期の水頭症を持つ
異種性、複雑性を有する患児に対する
融通が利く手術であると考えられています。
手術は通常、1時間以内で終わり
低いリスクであるとされていますが、
全身麻酔が必要です。
シンプル脳脊髄液シャントは
脳室カテーテル、逆流防止バルブを含み
体腔へ排出する遠位カテーテルは
シャントされた脳脊髄液を吸収する能力を持ちます。
ほとんどの遠位カテーテルは
腹膜腔に設置されます。
そこは外科的にアクセスするのが
比較的容易であるとされています。
大容量の脳脊髄液を吸収することができ、
子供の成長を可能にするように
チューブの延長能力を有しています。
もし、腹膜炎の外傷などによって
腹膜が使用できなければ、
代替となる場所を考えます。
例えば、
〇右房(right atrium)
経静脈や鎖骨下静脈を通してアクセス
〇胸膜腔
これらが考えられます。
--
しかしながら、
幼児に対するシャントの30-40%は
初めの一年で失敗します。
二年間では40-50%の失敗率になり、
10年になると80-90%となります。
患児は平均的には
2.5回のシャントを子供の時期に経験し
5%の子供は10回以上経験します(17)。
⇒
脳室造瘻術サイトのKeen's pointでシャントを
行うことで良好な結果が得られたという
報告もあります(30)。
このようにアクセスするポイントによって
失敗率なども変わってくるでしょうか?
-
シャントの失敗は様々な理由があります。
最も共通的な理由は
システム内のいくつかのポイントの閉塞です。
その閉塞によって
カテーテルでの脳室へのアクセスが妨害されます。
それはアストロサイトやマクロファージなどが挙げられます(18)。
従って、脳特異的な細胞も含めた
免疫機能が関わっています。
⇒
感染症や脳腫瘍などによる
過剰な免疫惹起によって組織が腫れあがっていると
それによる閉塞箇所の増加が懸念されます。
それがカテーテルアクセスを
難しくする原因となるのではないか?
と仮説を立てました。
-
今述べた感染症は
シャントの失敗の二つ目の共通的な理由です。
細菌の死骸、コンタミネーションによって
妨害が生じることも通常考えられます。
過剰に脳脊髄液を輩出してしまうことは
大脳の縮小、硬膜下水腫を引き起こします。
これは頻繁ではありませんが、
生じる可能性があります。
診断する事が困難であり、
難しい問題であると考えられます。
--
多くの研究はシャントの失敗を減らすための
修正となり得るリスク因子を見つけ出すための
努力を行ってきました。
しかしながら、
改善は思うようには進んでいません(19)。
このような取り組みは
The American Association of Neurological Surgeons and the Congress of Neurological Surgeons.
これによって2020年に改訂されています。
このガイドラインでは
シャントの失敗の発生を減らすために
高度な確実性を持ついくつかの介入のみ
(level I or II evidence)を承認しています(20)。
シャント手術前の予防的な抗菌や
抗菌仕様のシャントカテーテルのみ
シャントベースの感染のリスクを減らすために
強く推奨しています(21)。
シャント結果を改善する
他の思慮深いイノベーションは
実際の医療現場ではまだ生まれていません。
--
⇒
失敗の主な理由から失敗率を下げる事ができるかもしれません。
例えば、上述したカテーテル経路の閉塞が原因で
その上流の原因が免疫的惹起によるのであれば、
免疫機能を十分に調整してから
組織の回復を確認してカテーテル挿入を行う
ということが考えられます。
他の原因であれば、
補助的にそれを取り除く処置を行い
カテーテル挿入を容易にする方略を考える事が
1つとして考えられないでしょうか?
カテーテルの径や材質などの
器具そのものの改善も考慮する余地がある
かもしれません。
--
実際に考えられているのは
〇手術中にイメージングをしながらカテーテルの
位置を正確に確認すること、
〇プログラムにより調整できるバルブを使う事
〇アンチサイフォンデバイス
これらが考えられています。
現在のエビデンスに基づけば
これらのアプローチは
治療の選択としてのみ考慮されています(19,22)21。
従って、
主流となりうる明らかに革新的なものである
という臨床的な証拠は不足しています。
//今後の方向性//
神経内視鏡洗浄は血液の産生物からの
2次的なダメージや
脳室の出血、脳室炎後の炎症を防ぐための
新しいアプローチです。
--
⇒
薬剤による体内への異物の流入、
手術による侵襲的な処置は
共通的に免疫的な事も含めた炎症の原因となります。
手術では侵襲性を最小限にすること
体内において適合性のある器具を使う事は
手術後のダメージを減らすうえで
1つの中心的な考え方であるかもしれません。
-
この洗浄により
脳室から刺激物を
低刺激の内視鏡の使用によって
取り除くことができます。
非制御下の研究では
神経内視鏡洗浄は脳室内の被包化発生を減らし
神経発達の結果を改善すると報告されています(23,24)。
10-year results of the Drainage, Irrigation,
and Fibrinolytic Therapy (DRIFT) trial
これでは、
神経内視鏡洗浄の有効性を支持しています、
シャントの必要性や
安全性の理由で中断する件数を
減らすものではありませんが、
洗浄や血栓除去は
脳脊髄液のみの排出に比べて
優れた神経発達結果を導く可能性がある
かもしれないことが示唆されています(25)。
神経内視鏡洗浄は
抗血栓薬剤の投与をすることなしに
目的を果たすことができる可能性があります。
国際的にその効果について決定するための
データを集めているところです(26)。
--
水頭症は特徴を詳細に記述されているものの
幼児、子供における水頭症は
(その原因を含め)完全には理解されていない疾患です。
管理の方略は
失敗率の高くまだ課題のある脳脊髄液シャントの
代替として現在進行形で改善されているところですが、
その代替戦略は統一的には効果的ではなく
場合によれば有害事象も伴います。
お子さんの予後も含めた
水頭症治療の改善のためには
持続的な努力が必要です。
その努力により
遺伝子学も含めた生体病理学の理解度を改善し
厳正かつ有効な臨床試験が求められます。
⇒
上述した
10-year results of the Drainage, Irrigation,
and Fibrinolytic Therapy (DRIFT) trialなどの
10年のフォローアップ研究においても
有効な急性期の臨床試験と有効につなげる形で
行うことが求められると考えられました。
それは、お子さんに対する
水頭症のサバイバーシップを考える事にもつながります。
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近年、遺伝子治療を含む標的治療が
日進月歩で進んでいます。
様々な疾患を抱える人が
今後、その恩恵を受ける事になると思います。
その中で最も改善される可能性があるのが
小児医療であると考えられます。
例えば、
小児がんなどは
遺伝子特異性が強く、
癌種、患者さんごとの異種性が高い中で
今までは十分にマッチングしない形で
治療が行われることもありましたが、
それは今後、標的治療、コンピューター、
人工知能などの導入によって
個別化され改善される可能性があります。
それは他の小児希少疾患などでも同じです。
iPS細胞技術などで
希少疾患の細胞モデルを人で作製できるようになるため
従来の安全性が確かめられた膨大な薬を
スクリーニングして
有効性の高い薬剤を抽出できる可能性もあります。
そうすると産業界で懸念される
コストの問題や
臨床応用までの長期化の問題の
両方を解決できる可能性もあります。
もし、そのように
今後、5年、10年、20年で変わるとすると
その次に問題として現れるのが
治療後のお子さんのケアになると考えられます。
すでに
がんサバイバーシップについては
小児においても考えられていますが、
そのようなケースは今後、がん以外でも
増えてくると思います。
Elena Fuentes-Affick(敬称略)らは
アメリカの労働多様性について
従事する民族性の変化に加えて、
教育、家族、コミュニティーなど
医療環境を外側から取り囲む
環境要因について考慮しています(1)。
その中での労働多様性への問題について
議論しています。
--
そのような小児医療において
長期的なケアの格差が問題になることもあります。
その背景にはアクセス性や労働力不足などもあります。
もちろんコストの問題もあります。
従って、
ウェアラブルなデジタル技術を使った
寛解後のお子さんの生活管理も挙げられます。
モバイルヘルス(mHealth)
e-ヘルス(eHealth)
このように呼ばれることもあります。
それによって上述した課題を合理的に
解決しようという動きもあります。
生活習慣の中で重要な
運動量や食事などの管理や
心拍数などの管理もできると思います。
それを医療と連携する形で
外側の組織に委託することもできるかもしれません。
このような
予後の管理の質を上げていくという事は
今までも活発に考えられています。
一方で
現在の医療が改善して、
同じ助かる場合においても
より身体の負担が少ない場合には
お子さんの予後が改善する可能性があるか?
という視点もあります。
例えば、
血液性のがんの治療において
より標的性の高い、副作用の少ない
CAR-TやCAR-NK細胞治療で寛解した場合において
従来の治療と比較して
その予後の質がどのように変わるか?
といったようなフォローアップ研究です。
すでに小児がんのケースでは
過去数十年で飛躍的に改善し、
現在では
80%程度のお子さんの命が救われると言われますが、
それによって
サバイバーシップを考慮しなければならない
件数が大きく増えている事も指摘されています。
今後、注目すべきところは
その数字を80%から100%にするだけではなく
あるいは
予後管理の質を高めるだけではなく
急性期の治療中における
身体のダメージを減らす事を考える必要があります。
同じように助かるのであれば、
急性期の臨床報告では差が表れにくいかもしれないですが、
その後のフォローアップ研究において
差が出るかもしれません。
心的外傷後ストレス障害を含む心の問題や
再発、後遺症、成長異常などの問題が
改善する可能性があります。
例えば、
現在では小児がんで寛解した人が
身体、精神の何らかの疾患に罹るリスクは
そうではない人に比べて
10倍程度高いという統計もあります。
それが改善するとなれば大きな意義があります。
少なくとも
今の世界の医療の方向は
個別化、精密化、標的化の方向に向かっています。
遺伝子の解析技術やコンピューター
人工知能の性能が飛躍的に向上したことも
その背景にあります。
その恩恵を小児医療は
おそらく大きく受ける事になると思います。
そうした場合、
従来の治療に対する
予後の質が変わってくるか?
そのフォローアップ研究の重要性が顕在化します。
--
小児医療は
大人の医療に比べて細分化されておらず
診療科をまたぐことが多いことや
家族など周りのフォローを多く必要とすること
などに加えて、
脳神経や身体が成長し、
過渡期であるため
より予後管理が重要になります。
そうした中で
Elena Fuentes-Affick(敬称略)らが指摘するように
労働資源の多様化が重要になると考えられます(1)。
包摂的、インクルーシブな
医療環境が小児医療ではより重要になると
同様に考えられます。
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人の身体は主に細胞の働き、
それらの高次の相互作用によって
動的平衡、恒常性が保たれていると考えられます。
その準平衡状態(quasi-equilibrium state)や
恒常性の中には時間的な流れがあり、
そのダイナミクスには進化が
細胞レベルのような微視にも存在すると考えられます。
進化は自然選択や中立選択がありますが、
その選択性を決める大きな一つの要因には
自然淘汰に関わる細胞同士の生態競争があります(2)。
例えば、
通常細胞と癌細胞の間でも
どちらがその微小環境で主要となるか?
この競争があると考えられます。
細胞の融合、細胞外小胞、免疫細胞(3)なども
関わっていると想定されます。
また遺伝子レベルで
その細胞の競争は考えられます。
特定の環境で細胞が成長する事に関わる
遺伝子はドライバー遺伝子と呼ばれ、
とりわけ癌細胞の成長に関わる遺伝子は
癌ドライバー遺伝子と呼ばれます。
一般的に癌は歴史的に見ると
多細胞生物が生じた時から存在すると言われています。
一般的には
レトロウィルスなども含め
ウィルスなどによって生じる可能性は示唆されます(4)が
癌は直接的にはウィルスなどによる
間接的な伝染を除けば、
非伝染性であると考えられます。
従って、常に個体内の閉じたコミュニティーの中で
長い歴史を通じて生物と共存してきた
という風にも考えられます。
その様な中で、
癌と共存していくという考え方もあります。
特に高齢の方の場合には
診断されていない癌が多く存在するかもしれない
という指摘もあります。
そのような癌との共存を考える中で
より重要になるのが、
通常細胞と癌細胞の生態競争であります。
言い換えれば、
癌細胞を特定の環境内で成長させない、
あるいは周辺環境との相互作用の中で
制御下に置くことが大切になります。
そのような視点に立つと
癌の成長に関わるドライバー遺伝子を調べる事は
大きな意義を生みます。
ドライバー遺伝子の働きを抑えることができれば、
癌の成長を相応に抑えることができる
かもしれないからです。
そのドライバー遺伝子を
遺伝子治療によって無効にさせたり
ドライバー遺伝子に関わるたんぱく質を
消滅させたりすることで
癌の成長を有効に抑えることができるかもしれません。
--
Shimin Shuai(敬称略)らは
DriverPowerというソフトウェアを使って
38種類、2658癌細胞数の
ゲノムシーケンスデータを取得しています(1)。
このソフトウェアは
〇Mutation burden
〇Functioal impact evidence
これらを使っています。
それによって
従来難しかった(5,6)
ノンコード領域を含む
ドライバー遺伝子変異を明らかにしています。
その数は
コード領域で217種類
ノンコード領域で95種類となっています。
元々、体細胞変異の中で
ドライバー遺伝子変異は
少ない割合となっているため(7)、
この多くの種類の遺伝子を明らかにしたことは
大きな意義を生むと考えられます。
(参考文献)
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mRNA治療の潜在性を十分に得るためには
生体内での技術的に進んだ送達システムを
確立する必要があります。
心臓、腎臓、脳、肺などの
固形の臓器に対しては特にあてはまります。
肝臓は標的化しやすい臓器です。
窓構造がある脈管構造は
大きな粒子の効率的かつ均一な輸送を促進します。
単純な血管内の投与は
mRNA積載物の肝臓での効率的は発現を可能にします。
しかしながら、
肝臓以外の他の臓器に関しては
カテーテルを通して直接的に投与するか
任意の臓器に対して走化性を持つように
パッケージシステムをエンジニアリングするか
によって送達システムを改善する必要があります。
それぞれの臓器は
適した送達システムがあるとされています。
--
Eduarde Rohner(敬称略)らは
腎臓、肺、脳への注入投与、
カテーテル投与について総括しています。
細胞種特異的な送達システムに関連する内容も
総括しています(1)。
独自の観点を入れながら内容を参照しました。
その内容を読者の方と情報共有したいと思います。
//腎臓への薬剤注入投与//ーー
腎臓は肝臓とは異なり、
大きな分子はろ過して取り除き
小さな分子のみ通過することができます。
糸球体は50kDa以上のタンパク質は活発に除去します。
有足細胞は10nmの系を持つスリットを作り
循環器から腎臓へ輸送する際の障害になります(2)。
腎臓の髄質、皮質への直接的な被膜下の注入は
ニードルやカテーテルの差し込み深さを変える
ことによって達成することができます。
腎臓への異なる区画への効率的な局所的輸送は
いくつかのルートの投与によって可能です(3)。
①腎動脈、糸球体、尿細管上皮標的
②逆行性腎静脈、尿細管標的
局所的な脈管の圧力の上昇は
一時的な細孔を細胞被膜に作り出し
核酸の滲出を促します(4)。
③逆行性尿管、尿細管上皮標的
④実質内
いくつかの報告では遺伝子治療による
腎疾患の治療の為のルートとして
適していることが示されています(5,6)。
それぞれの疾患に対応する特異的な病理は
異なる腎臓区画、細胞種に関連するので
薬剤送達を考える際には
その特異性に整合した細胞種を標的とするように
システムを組む必要があります。
--
腎臓疾患に対するmRNA治療は
まだ臨床応用には達していません。
しかし、臨床研究においては2つが検討されています。
Alport腎症のために
miR21を標的とした薬剤の一つが
現在フェーズ2の臨床試験に進んでいます。
(NCT02855268).
常染色体優性多発性嚢胞腎症に対しては
Antagomir-inhibiting miR17を使ったmiRNA治療において
現在フェーズ1の臨床試験が実施されています
(NCT04536688)。
//肺への薬剤吸入投与//ーー
肺は吸入を通してすぐに到達し、
少ない薬剤用量で済むと考えられています。
従って、全身性の副作用のリスクを下げる事ができます。
肺輸送の魅力的なシステムは
直接的、急速、非侵襲での
肺胞、肺柔組織へのアクセスです。
肺ルートにおける空気層は
核酸活性が血液中に比べて低いために
RNAの安定性が向上し、
送達の為の環境が優れているとされています(7)。
しかしながら、
吸入による薬剤送達は特有の課題があるとされています。
mRNAはエアロゾル化の間に生じる強いせん断応力
に対して耐える堅牢性が必要になります(8)。
肺上皮表面の表面積、粘膜構造は
効率的なmRNA輸送の障害となります。
嚢胞性線維症に関するフェーズ1/2の臨床試験では
嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)を
エンコードしたmRNA治療が
吸入投与によって試みられました。
安全性は高かったものの、
肺機能の顕著な改善は見られなかった
とされています(9-11)。
//脳への薬剤投与//ーー
脳は身体の中で最も遺伝子的に複雑な臓器で
治療が最も難しいとされています。
髄膜や頭蓋骨の中に閉じ込められ、
輸送の際には血液脳関門によってフィルターされます(12)。
この血液脳関門は薬剤輸送において
1つの障害となります。
その障害を乗り越えるための方略は
脳の柔組織に対する直接的な投与や
脳脊髄液への直接的な投与です。
用量は投与方法によって最適値が異なります。
また、脳脊髄液への投与では
脳室と大脳皮質の間のサイズや距離によって
均一的な標的化が難しいとされています(13)。
一方で
直接的な脳サイトへのアクセスの場合は
注入サイトの近くの領域への輸送に限られます。
この方式は当然、侵襲的なので
外科的なスキルも必要でリスクがあります。
従って、広範な適用性においては制限的です。
--
一方で、代替となるルートとしては
鼻腔の粘膜と脳の神経経路が繋がっているので
その経路を使うことができます。
これは中枢神経系に対する非侵襲的なルート
投与方法となります(14,15)。
このルートでは迅速な送達が可能で
数分で中枢神経系に薬剤を届ける事が可能です。
薬剤は低分子量(<1kDa)で高い親油性が
好ましいとされています。
しかし、異なる領域に対する
薬剤の濃度管理は難しいとされています(16,17)。
透過促進剤を使えば、鼻腔の高分子量薬剤の生体利用効率は
高まります。それなしでは
低分子量(<1kDa)以上の鼻腔の吸収は
顕著に減少します(18,19)。
ラットによる臨床前試験では
鼻腔内投与による中枢神経系への
VEGF(38.2 kDa)の直接的輸送において
30分以内で直接的な輸送を示しました(20)。
もう一つのマウスによる臨床前試験では
陽イオン性のリポソームに封止されたmRNAの
鼻腔内投与において
線条体、皮質、中脳などの特定の脳領域への
効果的な輸送が確認されました(21)。
--
脳への薬剤送達は難しいとされているため
特定の細胞種に対して走化性を持つ
メカニズムを組み込むことが求められます(22)。
ASOsやRNA治療に関しては
脊髄性筋萎縮症の治療において
初めてFDAに承認されました(23)。
しかし、
筋萎縮性側索硬化症においては
ASO治療においてはフェーズ3治験で
近年、中止されています。
(NCT02623699).
//カテーテル輸送//ーー
Werner Fossmann(敬称略)により
1929年に心臓へのカテーテル挿入が成功して以来
心臓カテーテルベース療法は
現代の心臓病の不可欠な部分となっています。
カテーテル療法が一般化した事により
冠動脈疾患、弁膜症、構造的奇形の
効果的な治療が可能になりました。
加えて
心臓のカテーテルベース送達法は
遺伝子ベース、細胞ベースの治療応用に対して
詳しくその可能性が探索されています(24,25)。
心臓は心臓血管の中枢となる臓器なので、
血管内からアプローチする方法はいくつかあります。
ここ数十年でこの技術は
顕著な改善がみられています。
Trans-vessel-wall microcathetersは
細胞や他の治療仲介物質を直接的に
組織に注入することができます。
効率的に、かつ副作用のリスクも減らすことができます(26)。
血管内のデバイスを使用した臨床前試験では
心臓、腎臓、膵臓のような臓器に
穿刺部位のシールの必要性なしに
直接的にアクセスする事が可能でした(27)。
再循環デバイスは
対象となる部位に複数回
治療媒体を通過させることができ
大きな動物モデルで導入効率が向上しています(28)。
Selective pressure-regulated retroinfusion
with blockage of the antegrade flow
は安全にアプローチすることができ
cDNA, miRNA抑制剤、遺伝子治療媒体などを
効率的に輸送することができます(29)。
--
侵襲性を最小化するために
チューブ径を減らす事を通じて
さらなるカテーテル設計の改善が考えられています。
また分布量を最大化させるための
注入パラメータの最適化
逆流を防ぐためのシステムなども
改善の余地として挙げられています(30-32)。
また、マイクロ電子デバイスによって
ポジショニングやナビゲーションシステムを
導入する事によって(33)、
人の熟練度に依存しないカテーテル導入システムを
構築できル可能性があります。
これらのシステムは
細胞種特異的な送達システムのための
細胞向性をプログラムしたパッケージと合わせて
適用することができます。
つまり、大きなスケールでの局在性は
カテーテルシステムに依存して、
そこからより細かい分布に関しては
細胞種特異的な送達システムに任せる
ということです。
//細胞種特異的輸送系統(*)//ーー
(*)Cell-type-specific delivery system
細胞種特異的な送達システムのための
パッケージシステムの医療工学、エンジニアリングについて
考えられています。
RNAパッケージ応用については
高い輸送効率、低い免疫原性、細胞毒性について
今まで詳しく考えられ、設計されてきましたが、
細胞種まで特異性を絞った設計については
今まであまり焦点が当てられませんでした。
細胞種特異的輸送系統では
各細胞種が発現している特有の表面受容体、リガンドに
着目して、それと特異的結合性を持つ表面装飾を
パッケージに施すという構想です。
実際にApoEという物質は
循環器でコロナとしてパッケージに結合する事が知られ
このApoEが肝臓の細胞と結合親和性が高いことから
肝臓に取り込まれやすいという事があります。
実際にPEGコートすれば、
ApoEと肝臓の結合親和性を下げる事が出来
それに伴って、肝臓への向性を下げる事ができます。
Eduarde Rohner(敬称略)らが示すように
パッケージの電荷の状態によって
どの臓器に走化性を持つかというのは変わってくる
ということもありますが、
パッケージの表面装飾によって
それと結合性の高い表面受容体、リガンドがあれば
それに対して走化性を持つという事が
今までの研究でもわかっています。
例えば、anti-Ly6c抗体でコートした
脂質ナノ粒子はLy6c発現白血球に
RNA積載物を特異的に輸送する事が知られています(34)。
このように抗体を複合体として形成した
脂質ナノ粒子は今まで活発に研究されています(35-38)。
細胞ベースのパッケージでは
標的としたい受容体に結合親和性のある表面装飾を
遺伝子導入などを行う事によって
過剰発現させ走化性を高める事も提案されます(39)。
細胞外小胞でも同様のエンジニアリングを行う
ことができます(40)。
マクロファージなどでコートした
脂質ナノ粒子はマクロファージが持つ受容体を利用して
癌細胞を標的とすることができます(41)。
//まとめ//ーー
薬剤送達においては
1つの技術ですべてに対応しようとせず、
複数の技術の組み合わせの中で
よりより選択肢を見つけていく事が賢明かもしれません。
カテーテル技術が使えるのであれば、
患部近くまでアクセスした状態で
細胞種特異的な送達プログラムを持つ
パッケージシステムを注入するということです。
あるいはカテーテルではなく
直接的な注入もあてはまりますし、
輸送方式、ルートを変えるという事も考えられます。
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mRNAは不安定で分解されやすいので
分解酵素から構造を守るための
パッケージ、送達システムを必要とします。
また、そのことは
効率的な細胞取り込み、
効率的な細胞内での放出、
効率的なタンパク質への転写を可能にします。
そのパッケージ技術のほとんどは現状では
脂質ナノ粒子であり、
それが最初に発表されたのは60年前です(2)。
脂質ナノ粒子は今まで
様々な改変や発展を経験し、
その軌跡の中で
small interfering RNA(siRNA)の送達における
最初の臨床的使用を可能にしました(3,4)。
一方で、
細胞、細胞外小胞、生体模倣小胞(biomimetic vesicles)に
基づくパッケージ技術は現在進行形で発展しており、
脂質ナノ粒子の代替のアプローチとして
臨床前の研究で効果が確かめられています(1)。
--
Eduarde Rohner(敬称略)らは
mRNA治療実現の一つの鍵である
送達媒体パッケージについて総括しています(1)。
その内容と意見について
読者の方と情報共有したいと思います。
//脂質ベースパッケージ//
RNAが積載されている脂質ナノ粒子の現在の型は
1960年代に生まれたリン脂質ベースリポソームの
派生型です(2)。
脂質ナノ粒子は4つの鍵となる要素からなります。
構造的脂質(Structural lipids)、コレステロール、
陽イオン性脂質、ステルス脂質です。
構造的脂質は脂質ナノ粒子の
基礎的な足場(scaffold)で
主に中性のリン脂質です。
任意の比率でコレステロールを加える事は
脂質ナノ粒子を安定化させます。
それによって
被膜の流動性、弾性、浸透性のような
物理的な特性を変化させることができます(5-7)。
陽イオン性の脂質は
脂質ナノ粒子内に静電引力によって
陰イオン性を持つRNAなどの核酸を積載する際に
必要とされます(8,9)。
しかしながら、
陽イオン性の脂質を加える事は欠点があります。
陽イオン性の脂質は
細胞毒性、細胞膜タンパク質のオプソニン化
低いトランスフェクション効率を誘発します。
それにより、
副作用に繋がる受け細胞へのダメージや
食細胞による取り込み、
脾臓、肝臓などによるクリアランスなどが生じます(10-13)。
それゆえに
集中的な努力が生理化学的性質を修正するために
行われてきました。
その結果として
脂質ナノ粒子の免疫原性を顕著に減らす事ができる
pH感受性のある陽イオン脂質。
(pH-sensitive ionizable cationic lipids)
これが発見されました。
つまり、pHによってイオン性が変わる
脂質のことです。
Ionizable陽イオン性脂質は
循環器の中で電荷中性なので、
細胞や分子の認識から逃れることができます。
エンドソーム経路によって細胞内に取り込まれた後
それらはイオン化され、
エンドソーム被膜と融合します。
そして、内容物である
mRNAが細胞質中へ放出され、
その後、タンパク質に翻訳されます(14,15)。
様々なionizable脂質が今まで開発されました。
2012年に報告されたものは
DLin-MC3-DMA(MC3)脂質です(16-19)。
MC3からなる脂質ナノ粒子の
Median effective dose(ED50)は
マウスや猿で
従来の王道として使われていたionizable脂質KC2に対して
20倍低いとされていました。
つまり、効果が確認されるために必要な
注入ナノ粒子は20倍少なくともよく、
それによって
免疫原性も含め様々な副作用のリスクを
潜在的に下げる事ができることを意味します。
実際にこの顕著な改善は
2018年のsiRNA Onpattroの
最初の臨床の送達システムの実現、
それの承認に貢献しました(3,4)。
現在、普及しているCOVID-19 mRNAワクチンの
脂質ナノ粒子は上述したMC3類似物を使用しています。
これは脂質の毒性や生物分解性において
改善がみられたものです(19,20)。
--
ステルス脂質はPEGポリマー複合体脂質であり、
免疫原性を減らすために脂質ナノ粒子の
構成要素として加えられました。
PEGsは液体内のナノ粒子のコロイド安定性を
高めるために使われます(21-24)。
これは生理学的に不活性で
様々な受容体の結合部位を避けることができます。
凝集やオプソニン化を減らすこれらの特性は
免疫原性を減らし、生体内での保持時間を向上させます。
それにより安全で効果的な投与が可能になります(21,25,26)。
さらに興味深いことに
PEGylated脂質ナノ粒子は
小さく、かつ均一な脂質ナノ粒子の製造を促進します。
その直径は50~100nmです。
この大きさのナノ粒子は
免疫システムの活性化から逃れられる可能性があります(25,26)。
他方で、
PEG過感受性に関する問題が
治療の為の慢性的な投与に対する
PEGylated脂質ナノ粒子の利用性を制限します(21,27,28)。
現在の研究では
PEGylated脂質ナノ粒子の最適化
異なるステルス脂質の発展に焦点が当てられています。
例えば、
Polysarcosine複合体脂質です(29)。
//細胞ベースパッケージ//ーー
脂質ナノ粒子の代替として
細胞のような生物送達小胞の利用があります。
標的細胞へmRNA積載物を送達させるよりも
このアプローチは
生体外で細胞内でRNAから生産された
タンパク質を細胞が持つ傍分泌の機序を
利用するものです。
合成脂質ナノ粒子と比較した時の利点としては
生物互換性が高い、
循環器での寿命が長い
内的な細胞内、細胞外信号を利用できる
ということが挙げられています(30,31)。
細胞は酵素、薬剤、脂質ナノ粒子の送達媒体として
使用する事ができます。
カスタマイズ化は
mRNAを様々な細胞種の中に入れることによって
広範な範囲で出来る可能性があります。
例えば、免疫細胞、血液細胞、間葉系細胞です。
また、それらの細胞を
遺伝子的にエンジニアリングする事も可能です(30-34)。
このアプローチは
望ましい治療、薬理効果を際立たせるための
細胞治療と組み合わせることができます。
しかしながら、
mRNA治療の細胞ベース輸送は
一般的な細胞治療適用と同様の注意点によって
制限されます。
ドナーハロタイプ互換性
均一的な生産
質の制御
細胞内への輸送効率。
これらの4つの課題によって制限されるかもしれません(35)。
また、細胞自身が癌化する可能性もあります。
--
2019年、Eduarde Rohner(敬称略)らは
修正されたmRNAコーディングVEGFを生体外で積載した
皮膚線維芽細胞を注入する事で
筋肉内のVEGFの輸送に成功したことを
マウスのケースで報告しています(36)。
虚血肢の血管密度が上昇することで
組織の壊死を顕著に減らす事に成功しています。
そのフォローアップ研究として同じように、
今度は間葉系幹細胞で
VEGFやBMP-2を輸送する研究をしています(34)。
治療を受けたマウスは
骨形成や血管形成が改善したことが
示されています(34)。
間葉系幹細胞、好中球、単球、赤血球を使った
mRNAやタンパク質積載物の輸送についても
他の研究で示されています(30-33,35)。
//細胞外小胞ベースパッケージ//ーー
もう一つの新手のアプローチとしては
輸送媒体として細胞外小胞を使う事です。
細胞外小胞はいくつかの亜型を含みますが、
ほぼすべての細胞種から放出されます(37)。
今述べた様に
細胞外小胞は亜型を含み
そのサイズ、細胞内の生成過程によって分類されます。
エクソソームは、50-150nmの直径を典型的にもつ
細胞外小胞で、エンドソームから放出されます。
ドナー細胞から放出された
エクソソームは脂質ナノ粒子と同様に
エンドソームを通じて受け細胞で取り込まれますが
内容物の全てが細胞質に放出されるわけではなく
他の細胞へそのまま放出されることもあります(1)。
微小胞は50-500nmの大きさで
細胞膜からそのまま萌芽して放出されます。
アポトーシス小体は1μm以上で
細胞がアポトーシスした際に放出されます。
--
細胞外小胞は細胞間のコミュニケーションの役割を
果たしますが、その一部の機能として
様々な内容物の送達を行います。
細胞の代謝生成物、単鎖の核酸、
フル長さのmRNAやタンパク質などです(37-39)。
細胞外小胞を輸送媒体として利用する際には
高い生体互換性、低免疫原性などがあります(40)。
バイオマーカーとしての診断における応用も含めて
癌治療や心臓血管疾患治療に対して
細胞外小胞の免疫修正や
積載物輸送能力について詳しく調べられています(41.42)。
--
細胞外小胞はドナー細胞、親細胞の性質を引き継ぐ
という性質があります。
例えば、血液細胞由来の細胞外小胞は
全身性の投与をしたときには
血液脳関門を通過できる能力を有しています(43,44)。
間葉系幹細胞由来の細胞外小胞は
間葉系幹細胞が持つ機能と同様に
向炎症性作用や傍分泌特性を持っています(45,46)。
臨床前研究では
様々な細胞種からの細胞外小胞は
毒性を誘発せず、
繰り返しの投与に対する副作用も許容できる
とされています(47)。
細胞外小胞は特異的送達の為に
エンジニアリングできる潜在性を持っています(48,49)。
基本的な課題は
純度の高い性質の揃った細胞外小胞を得るための
分析、分離、純化プロセスにあります。
異なる分離方法が包括的に実験されています(50-52)。
また、付加的な課題としては
効率的な内容物の積載にあります。
積載方法としては
電気穿孔法、
超音波処理、
Extrusion、
統計融解サイクル
これらなどが挙げられています(1)。
近年、いくつかのアプローチが
前段階の積載の特異性を上げるために報告されています。
mRNAとタンパク質を認識するタンパク質
ARRDC1を使用する事に寄って
AARDC1仲介の微小胞の特異的かつ効果的な
積載を促進しています(53)。
ウィルス様の粒子のような非典型の細胞外小胞によって
特定のモチーフ含むmRNAの好意的な取り込みを
可能にする技術があるとされています(1)。
//生体模倣小胞パッケージ//ーー
生体模倣小胞とは合成ナノ粒子と生物学的なそれを
組み合わせたものです。
細胞膜でコートされ、
金、シリカ、脂質ナノ粒子、ポリマーなどの
ナノ粒子が内包されます(54)。
コートをすることで
合成ナノ粒子の免疫原性を緩和することができます。
そのコートは
赤血球、血小板、
免疫細胞、幹細胞、
癌細胞、間葉系幹細胞。
これらなどが挙げられています(55-62)。
この生体模倣小胞は
製造の制御性が高く、
脂質ナノ粒子の安定的な貯蔵能力を持っています。
一方で、生体互換性や標的特異性もあります(63,64)。
現状では有望な選択肢の一つですが、
また研究段階としては黎明期で、
詳細な物理、機械的な見識についてはまだわかっていません。
エクソソームとポリマーの配合は
循環器での安定性は高く
高い貯蔵能力と薬理特性を持っていた
という報告もあります(65)。
合成ナノ粒子や細胞外小胞が持つ欠点を
補う事ができる選択肢の一つになるかもしれません。
//意見//ーー
合成ナノ粒子は60年の歴史があり、
実際に臨床試験で認可された実績もあります。
現在、普及している新型コロナウィルスワクチンで
使われた脂質ナノ粒子も
今までの研究の成果が大きく貢献している
ということです。
安定性した製造性や
新型コロナウィルスの世界的流行による
急速な需要に対して製造ラインを大幅に増強したことで
コスト競争力が高くなっていると考えられます。
一方で
細胞はCAR免疫療法などの細胞医療などと
技術的なつながりはあると考えられますが、
価格が非常高いというデメリットもあります。
細胞外小胞は
本当に安定的な製造ができるか?
そもそもそれを評価する基準がまだ定まっていない
ということから
これから様々な実績が積み上げられていく中で
その利点が生かされるものであると考えられます。
生体模倣の小胞と合わせて、
合成ナノ粒子や細胞医療では
解決しきれない領域において、
あるいは改善の余地が残されている領域において
適用の可否が市場の原理も含めて
決まっていくと考えられます。
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