2022年12月18日日曜日

iPS細胞技術を使った固形癌に有効なCAR-T細胞シグナル条件と付加的考察

iPS細胞を使った研究、
その先にある医療、臨床応用において
いくつかの魅力的なポイントがあると同時に
潜在的に抱えている課題もあると認識しています。
実際にiPS細胞を扱った事がないので
仮説の域はでないですが、
iPS細胞で初期化して
任意の細胞に分化させる際の培養環境において
生体内の条件を完全には再現できないことが
潜在的な課題を生む一つの原因ではないか?
このように考えました。
患者さんのT細胞からiPS細胞技術によって
初期化して、再度2次的なiPS-T細胞を生み出した場合
予期しない表現型を持つとされています(1)。
この表現型は一般的に
HIV感染やウィスコット・アルドリッチ症候群などの
免疫不全で多く生じるとされているCD8αα(2)。
これを一部に含み、
健康な人に多く含まれるCD8αβ(2)。
これを含まないとされています(1)。
このCD8ααは免疫不全の場合に多く現れる表現型で
抗原特異的な細胞傷害性が弱いことが示されています(3)。
従って、血液性、固形癌に関わらず
本来のT細胞の細胞傷害性を獲得するために
通常のCD8αβの表現型を生み出す条件が探索されてきました(3)。
その結果
抗CD3抗原を含みiPS細胞由来CD4/CD8ダブル陽性細胞の条件で
純化され、それにより刺激されると
このCD8αβの表現型を獲得する事がわかっています(3)。
--
癌細胞に特異的に働き、
それに対する持続的な細胞傷害性を得るためには
いくつかの工夫(表現型の獲得)が必要です。
特に血液性ではなく
組織常在型の固形癌の場合には
より高度な表現型の獲得が必要になります。
これは、iPS細胞由来のCAR免疫細胞だけではなく
一般的なCAR免疫細胞にも言えることです。
また、CAR免疫細胞そのものの表現型だけではなく、
周辺のシグナルも重要であるとされています。
例えば、
インターフェロンγ受容体(IFNγR)信号経路
(IFNGR1, JAK1 or JAK2)。
これが欠損すると
固形癌に対するCAR免疫細胞の結合親和性が
低下する事が報告されています(4)。
--
Tatsuki Ueda(敬称略)らは
固形癌に対する持続的な細胞傷害性を
iPS細胞で得るための
3つの条件(シグナル)、
それらの機能を明らかにし,
それらを有効に働かせることを実現しています(1)。
--
(第一のシグナル)
T細胞を活性化させるためのCD3ζ仲介シグナル。
このシグナルを増強するための補完因子は
ジアシルグリセロールリン酸化酵素(DGK)の阻害。
それにより
iCAR-T細胞のマウスによる腫瘍局所での
増殖と生存が改善されました(1)。
-
(第二のシグナル)
第一のシグナルを強化するための共刺激シグナル。
例えば、CD28と4-1BB。
これらの導入は
iPS細胞からT細胞への分化誘導に適している
事が示されています。
CAR-T細胞の機能低下させるシグナル伝達は
確認されなかったとされています。
-
(第三のシグナル)
サイトカイン刺激によるシグナルで
T細胞活性化のためには必要です。
例えば、
JAK/STAT, IL-2, IL-7 IL-15, IL-21です(1)。
これまで
膜結合型IL-15/IL-15Rα(mbIL15)遺伝子の導入によって
CAR-T細胞の体内残存が改善し、
血液がん治療効果が改善されることが報告されています(6).
同様にTatsuki Ueda(敬称略)らは
mbIL15遺伝子導入によってiCAR-T細胞は
腫瘍における増殖性と持続性が向上したことを
マウスのケースで確認しています。
--
これらの第一から第三のシグナル条件を組み合わせることで
より長期的な腫瘍傷害性に対する相乗効果が得られた
とされています(1)。

//付加的考察//
iPS細胞でCAR免疫細胞技術をすることの
意義はどこにあるでしょうか?
1つはiPS細胞ストックのように
免疫原性(拒絶反応、サイトカインストーム)が生じにくい
希少な白血球血液型の人から
血液を頂いて、それをiPS細胞技術によって
初期化する事で、
「いつでもどこでも取り出せる(off-the-shelf)」
CAR免疫細胞治療ができるということです。
これはT細胞だけではなく、NK細胞でも同様かもしれません。
言い換えれば、
自分以外の貯蔵された細胞を使う事ができるため
治療までの時間ロスや価格を抑えられることが期待できます。
このような免疫原性を抑える事は
iPS細胞に任意の遺伝子導入することによって
可能かもしれない事も示されています(5)。
例えば、CAR-T細胞の場合には
CD4+CD7-表現型を持たせる事によって
CAR-T同士の作用による細胞死(Fractricide)を
防ぐ効果があるとされています(7,8)
もう1つはNK細胞からの認識を防ぐために
NK細胞抑制受容体が必要であるとされています。
これはEカドヘリンを発現させることよって可能になります。
一方で、
CD7を欠損させると、これが
T細胞の増殖やエフェクター機能に関連する
IL-2の産生に関わっているため(9)、
これを補う必要があります。
従って、
IL-2 receptor subunit gamma (CD132 or γc) intracellular domain (CAR-g)。
これを補完的に導入します(7)。
免疫原性は一般的に
免疫拒絶、移植片対宿主病、Fratricide
これらに分けられています。
(参考文献(7) Fig.1)
iPS細胞で享受されるメリットである
血液型はMHC依存的な免疫原性であると考えると
免疫拒絶の一部、移植片対宿主病に関わります。
上述したCD7抑制とNK細胞認識抑制を加える事は
免疫原性の低いiPS細胞ストックであっても
付加的に必要である可能性があります。
加えて
マクロファージなどの骨髄系細胞との相互作用も
考える必要があります。
CAR-T細胞治療において
マクロファージ依存的なサイトカインストームによって
発熱、低血圧、呼吸不全が懸念され、
過剰なIL-6, IL-1, NOを抑える必要があるのではないか
と示唆されています(10)。
CAR免疫細胞において人為的に免疫系を操作する
という医療介入は
免疫原性が低いことは必要条件である可能性がありますが、
骨髄系、リンパ系あらゆる免疫細胞に対する影響、
それとの相互作用を慎重に検証していく
必要があるのではないかと考えました。

(参考文献)
(1)
Tatsuki Ueda, Sara Shiina, Shoichi Iriguchi, Seitaro Terakura, Yohei Kawai, Ryotaro Kabai, Satoko Sakamoto, Akira Watanabe, Kohei Ohara, Bo Wang, Huaigeng Xu, Atsutaka Minagawa, Akitsu Hotta, Knut Woltjen, Yasushi Uemura, Yuzo Kodama, Hiroshi Seno, Tetsuya Nakatsura, Koji Tamada & Shin Kaneko
Optimization of the proliferation and persistency of CAR T cells derived from human induced pluripotent stem cells
Nature Biomedical Engineering (2022)
(2)
Akihiro Konno, Kanae Okada, Kazunori Mizuno, Mika Nishida, Shuya Nagaoki, Tomoko Toma, Takahiro Uehara, Kazuhide Ohta, Yoshihito Kasahara, Hidetoshi Seki, Akihiro Yachie, Shoichi Koizumi
CD8αα memory effector T cells descend directly from clonally expanded CD8α+βhigh TCRαβ T cells in vivo
BLOOD, 1 DECEMBER 2002  VOLUME 100, NUMBER 12 4090-4097
(3)
Takuya Maeda 1 2, Seiji Nagano 1 2, Hiroshi Ichise 1, Keisuke Kataoka 3, Daisuke Yamada 4, Seishi Ogawa 3, Haruhiko Koseki 4, Toshio Kitawaki 2, Norimitsu Kadowaki 5, Akifumi Takaori-Kondo 2, Kyoko Masuda 1, Hiroshi Kawamoto 6
Regeneration of CD8αβ T Cells from T-cell-Derived iPSC Imparts Potent Tumor Antigen-Specific Cytotoxicity
Cancer Res. 2016 Dec 1;76(23):6839-6850
(4)
Rebecca C. Larson, Michael C. Kann, Stefanie R. Bailey, Nicholas J. Haradhvala, Paula Montero Llopis, Amanda A. Bouffard, Irene Scarfó, Mark B. Leick, Korneel Grauwet, Trisha R. Berger, Kai Stewart, Praju Vikas Anekal, Max Jan, Julia Joung, Andrea Schmidts, Tamara Ouspenskaia, Travis Law, Aviv Regev, Gad Getz & Marcela V. Maus
CAR T cell killing requires the IFNγR pathway in solid but not liquid tumours
Nature volume 604, pages563–570 (2022)
(5)
Cira
CARシグナルを補完する遺伝子改変により *iCAR-T細胞の固形がん治療効果が改善される
(6)
Lenka V Hurton 1 2, Harjeet Singh 1, Amer M Najjar 3, Kirsten C Switzer 1, Tiejuan Mi 1, Sourindra Maiti 1, Simon Olivares 1, Brian Rabinovich 1, Helen Huls 1 4, Marie-Andrée Forget 1 5, Vrushali Datar 3, Partow Kebriaei 6, Dean A Lee 1, Richard E Champlin 6, Laurence J N Cooper 7 8
Tethered IL-15 augments antitumor activity and promotes a stem-cell memory subset in tumor-specific T cells
Proc Natl Acad Sci U S A. 2016 Nov 29;113(48):E7788-E7797.
(7)
Sofia Castelli, Regina M. Young & Carl H. June
Off-the-shelf CAR T cells to treat cancer
Cell Research volume 32, pages1036–1037 (2022)
(8)
Diogo Gomes-Silva, Madhuwanti Srinivasan, Sandhya Sharma, Ciaran M. Lee, Dimitrios L. Wagner, Timothy H. Davis, Rayne H. Rouce, Gang Bao, Malcolm K. Brenner, Maksim Mamonkin
CD7-edited T cells expressing a CD7-specific CAR for the therapy of T-cell malignancies
Blood 130, 285–296 (2017).
(9)
Lawrence K.L. Jung.Amit K.Roy  Hrishekesh R.Chakkalath
CD7 augments T cell proliferation via the interleukin-2 autocrine pathway
Cellular immunology Volume 141, Issue 1, 15 April 1992, Pages 189-199
(10)
Theodoros Giavridis, Sjoukje J. C. van der Stegen, Justin Eyquem, Mohamad Hamieh, Alessandra Piersigilli & Michel Sadelain
CAR T cell–induced cytokine release syndrome is mediated by macrophages and abated by IL-1 blockade
Nature Medicine volume 24, pages731–738 (2018)


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