2022年12月22日木曜日

感染症由来の心臓血管疾患に対するナノ医療技術

冬になると心筋梗塞や脳卒中のリスクは
一般的には高まるとされていますが、
それに加えて、今であれば、
新型コロナウィルス(2.3)やインフルエンザ(4)などの
感染症によっても
その後遺症、合併症として
肺塞栓、虚血性脳卒中、心筋梗塞などの
リスクが高まるとされています。
従って、よりリスクの高い人は注意が必要です。
特に集中治療が必要で、
感染症が重症であると
上述した心臓血管系の疾患の原因となる
血栓症のリスクが高まるとされています(2-4)。
新型コロナウィルスでは
入院が必要でなくても
罹患後、12カ月間のコホート研究によると
1.5~2倍程度、
血栓症に関わる心臓血管系の罹患のリスクが
高まるとされています(3)。
インフルエンザも上述したように
同様にリスクがあるので、
それを想定した効果的な治療、管理は
医療、社会的に求められると考えられます。
--
新型コロナウィルス、インフルエンザなど
ウィルス性の感染症の場合は
ウィルスそのものが血管壁に損傷を与えるだけではなく
Neutrophil extracellular traps
(好中球細胞外トラップ)の働きを亢進させ
血管壁に同様に損傷を与えます(5,6)。
さらに血小板も活性化させることから
赤血球との相互作用が高まり、
血栓の形成を促します。
--
この治療の為には
血液の凝固を防ぐ低分子量のヘパリンや
血栓溶解剤として
〇ストレプトキナーゼ
〇ウロキナーゼ
〇アルテプラーゼ
これらが使われますが、
血液がさらさらになるため
(血管壁もダメージを受けている事が考えられる事から?)
出血のリスクが高まります。
従って、
これらの投与は病院内のみで行われ、
注意深い長期間の管理が必要な事から
医療資源の負荷やコストの増加を招きます。
この出血のリスクを下げるためには
1つとしては
血管壁のダメージを回復させる事が
(おそらく)考えられますが、
もう1つの視点としては
Peije Russell(敬称略)らが総括されているように
病変部位特異的な効率的な薬剤輸送が挙げられます(1)。
そのために
エンジニアリングしたナノ粒子を使った
「Nanomedicine(ナノ医療)」が利用できます。
--
Peije Russell(敬称略)らは
〇ナノ粒子の種類と特徴(長所と短所)
〇ナノ粒子の病変部位標的化
〇ナノ粒子からの薬剤放出制御の技術
〇ナノ粒子自身を機能化
これらについて総括されています(1)。
その内容の概略、追記、考察について
読者の方と情報共有したいと思います。

//ナノ粒子の種類と特徴//
--
(リポソーム)
〇合成が用意
〇大量生産性が高い
〇薬剤搭載用量が大きい
〇商用化が進み、実績がある
△生体内で劣化する
⇒非特異的な薬剤放出(標的化が難しい)
△循環時間が短い(生体内寿命が短い)
これらが挙げられます。
リポソームに含まれる脂質ナノ粒子は
mRNAワクチンの輸送媒体として利用されています。
すでに、ワクチン接種において
重度の副反応がない患者さんに対しては
同じように脂質ナノ粒子を輸送媒体として利用できる
可能性があります。
しかし、
・下述する標的化のための機能化
・エンベロープ膜が異なる事
・ナノ粒子投入量が多くなる事
・薬剤を投入する事
これらによって状況が変わってくる可能性は高いです。
従って、
投入する事による免疫原性を含めて
慎重に臨床試験につなげていく必要があると考えられます。
--
(ポリマーナノ粒子)
〇合成が用意
〇大量生産性が高い
〇安定性が高い
〇材料の任意性、選択性が高い
⇒従って、特性を細かく制御できる可能性がある。
〇薬剤放出を制御しやすい
△潜在的に懸念される毒性
△表面に薬剤を複合体化させる必要がある
(Solid coreの種類のみ)
⇒薬剤が表面に出る事によって
病変部位までの生体内経路(主に血管内)に存在する
酵素による劣化が生じやすい。
--
(無機ナノ粒子)
〇合成が用意
〇大量生産性が高い
〇安定性が高い
〇多機能性を持たせる事が出来る
⇒例えば、生体外からの磁気刺激によって
蓄積場所を制御する事ができる。
血栓が生じている所に磁気でガイダンスすれば
そのサイトに蓄積できる可能性がある(7)。
△潜在的に懸念される毒性
△表面に薬剤を複合体化させる必要がある
(Solid coreの種類のみ)
--
(細胞由来のナノ粒子)
〇生体互換性が高い。
⇒(適正に選定すれば)低い免疫原性。
〇長い循環時間、生体内寿命。
⇒局所投与の必要性を下げる事ができる可能性。
〇(適正に選定すれば)自然に持つ標的性。
〇高い積載容量。
△低い量産性。
⇒価格が高くなる可能性もある。
しかし、赤血球などを輸送媒体として利用すれば
ナノ粒子が蓄積しやすい肝臓や脾臓への
特異的輸送を小さくすることができます。
この赤血球の製造価格は
iPS細胞技術を使えば安くなる可能性があります。
現在では輸血などの目的で
iPS人工血液が作られています(8)。
その量産化プロセスに(一部)重複させる形で
(機能化)赤血球を配分してもらえれば、
量産性の問題が緩和し、価格もそれに応じて
抑えられる可能性があります。
このように細胞由来のナノ粒子を輸送媒体として
利用する場合には、
iPS細胞技術を含めた幹細胞初期化技術を
利用できる可能性があります。
△複雑な合成性
⇒細胞外小胞も含めて、細胞由来のナノ粒子を利用する場合は
自然なプロセスを利用する事によって、
細胞内、細胞膜、細胞外の機能、構造が複雑になります。
その中で、一定の機能を得るための合成性は
高い生産管理が必要になる可能性があります。
製品の正確な評価や再現性など
実際に製品レベルで作製する事の壁は高いと考えられます。
-
<追記>
細胞はミトコンドリアがあり、代謝機能があります。
従って、薬剤輸送媒体機能として冗長である可能性もあります。
その場合には、細胞から放出される細胞外小胞を検討する事ができます。
例えば、血小板や赤血球由来の細胞外小胞を利用する事で
同じような生体互換性、標的性を引き継いでいる可能性もあります。
特に活性化した血小板から生み出される細胞外小胞の
表面リガンドの構成を分析する事は
標的性を評価する上で参考になるかもしれません。
--
ナノ粒子を利用する場合において
感染症などで生じた血栓症に対して、
ある程度共通的に存在するリスクは
好中球細胞外トラップの形成を促してしまう可能性がある事です。
特に
〇無機ナノ粒子
〇脂質ナノ粒子
〇ポリマーナノ粒子
これらなどを利用する場合には注意が必要です。
一方、細胞由来のナノ粒子の場合は
生体互換性が高いためにややリスクは低いかもしれません。
従って、
上述したナノ粒子でも生体互換性の高い機能化物質を
表面に装飾させる事によって
好中球細胞外トラップ過形成のリスクを下げる事が
できるかもしれないとされています(10)。

//ナノ粒子の病変部位標的化//
新型コロナウィルス感染症(1)やインフルエンザなどの
呼吸器感染症で併発した血栓症に対する
ナノ粒子の標的化が考えられています(1)。
--
ナノ粒子は肝臓や脾臓でクリアランスされる傾向にあります。
血漿内のアポリポタンパク質Eは
肝臓組織、その中の細胞種と結合親和性が高く
肝臓への蓄積を高めてしまいます。
従って、血流の中に存在するApoEの
ナノ粒子の取り込み、複合体化を防ぐ必要があります。
一方で、
サイズや形も関係します。
サイズでは1μm~10μm程度の大きさの粒子の場合は
肺の微小血管に蓄積される傾向にあります。
肺は心臓などと近く、
血流における重要部位であるので
この大きさのナノ粒子を選択する事は好ましい可能性があります。
但し、大きすぎると肺の微小血管を閉塞させてしまいます。
一方で
形状は、赤血球のような円盤状の形が好ましいとされています。
循環器内での寿命や毛細血管などを含めたアクセス性が
高まる可能性があります
--
ナノ粒子の病変部位標的化の一つの方略は
病変部位に特異的に存在する組織、細胞、物質に
親和性の高い装飾物質をナノ粒子に豊富に装飾する事です。
そのリストが
Peije Russell(敬称略)らによって示されています。
(参考文献(1) Table.1)
上述したように病変部位に特異的な標的である
必要があります。
リストに示されている
血小板や赤血球を標的とする場合には
場所非特異的に存在するそれらを考慮する必要があります。
血小板は確かに病変部位で活性化しますが、
全身の血液内で存在するため、
特異的輸送において非効率性の要因となります。
凝血塊と関連のある線維状のタンパク質である
フェブリンは病変部位特異性が高い可能性があるため
標的としてはより適しているかもしれません。
その他には
活性化されている好中球のみで発現されている
エラスターゼは
Short peptide sequence (CGEAIPMSIPPEVK)
これと高い親和性をもちます(1)。
それを装飾する戦略もあります。
活性化した血小板と好中球に高い親和性で結合する
platelet-targeting peptide (DAEWVDVS)は
その他の装飾因子として考えられています(11)。

//ナノ粒子からの薬剤放出制御の技術//
上述した無機ナノ粒子に対する磁気や
超音波などの外的因子によってナノ粒子を誘導、
ガイダンスする事は高い専門性、熟練度が必要なため
生体内因子でナノ粒子から薬剤を放出させる
刺激を与える事が賢明であると考えられています(1)。
--
感染症由来の血栓症で亢進されている酵素
sPLA2やトロンビン。
これらによって刺激を受ける機能をナノ粒子に搭載する
事を考えます。
例えば、
ストレプトキナーゼ搭載のリポソームです(13)。
よりオフターゲットが少ないのは
トロンビンであると考えられています。
例えば
Conjugated recombinant tissue plasminogen activator (rtPA) 
to the surface of their platelet membrane nanovesicles。
これはトロンビンによって薬剤放出が
促されることが示されています(12)。

//ナノ粒子自身を機能化//
もう一つの考える方向性としては
ナノ粒子を薬剤輸送媒体として考えるのではなく、
ナノ粒子そのものに治療効果のある機能を持たせる事です。
例えば、以下です。
--
①抗ウィルス性ナノ粒子
• Silver
• Polylysine
• Glycyrrhizic acid
--
②ウィルスをトラップするナノ粒子
新型コロナウィルスの場合はACE2受容体に結合するタンパク質
を装飾させます。
インフルエンザの場合にはヘマグルチニンなどが考えられます。
--
③免疫抑制性を持つナノ粒子
好中球細胞外トラップを抑制するrhDNaseをナノ粒子に輸送させます。
活性酸素は血小板の活性化や炎症性を高めます。
活性酸素を活性化させる過酸化水素を除去するMnO2粒子などを使い
炎症性を抑える機能を持たせます。

//考察//
血液の血管壁の損傷部やそれによる血栓生成などの病変部位は
主に循環器内、その近傍にあります。
従って、標的化したナノ粒子が比較的働きやすいと
考える事も出来ます。
別の見方をすれば、
特定の臓器内の組織に輸送する場合に比べて
血管からの安定的な浸出機序、間質すり抜けを考える
必要性が小さいということです。
Peije Russell(敬称略)らがコメントしている様に
感染症由来も含めた心臓血管系疾患のナノ医療の
臨床応用の障壁は高いですが(1)、
組織常在型の疾患に比べると
免疫惹起などを回避する事ができれば
比較的良好な結果が生まれやすい可能性もあります。

(参考文献)
(1)
Peije Russell, Lars Esser, Christoph E. Hagemeyer & Nicolas H. Voelcker
The potential impact of nanomedicine on COVID-19-induced thrombosis
Nature Nanotechnology (2022)
(2)
Wichmann, D. et al. Autopsy findings and venous 
thromboembolism in patients with COVID-19: a prospective 
cohort study. Ann. Intern. Med. 173, 268–277 (2020).
(3)
Yan Xie, Evan Xu, Benjamin Bowe & Ziyad Al-Aly 
Long-term cardiovascular outcomes of COVID-19
Nature Medicine volume 28, pages583–590 (2022)
(4)
Jessalyn K Holodinsky, Charlotte Zerna, Shaun Malo, Lawrence W Svenson, Michael D Hill
Association between influenza vaccination and risk of stroke in Alberta, Canada: a population-based study
Lancet Public Health 2022; 7: e914–22
(5)
Chen, A.-T., Wang, C.-Y., Zhu, W.-L. & Chen, W. Coagulation 
disorders and thrombosis in COVID-19 patients and a possible 
mechanism involving endothelial cells: a review. Aging Dis. 13, 
144–156 (2022).
(6)
Teluguakula Narasaraju 1, Edwin Yang, Ramar Perumal Samy, Huey Hian Ng, Wee Peng Poh, Audrey-Ann Liew, Meng Chee Phoon, Nico van Rooijen, Vincent T Chow
Excessive neutrophils and neutrophil extracellular traps contribute to acute lung injury of influenza pneumonitis
Am J Pathol. 2011 Jul;179(1):199-210
(7)
Wang, S. et al. Accelerating thrombolysis using a precision and 
clot-penetrating drug delivery strategy by nanoparticle-shelled 
microbubbles. Sci. Adv. 6, eaaz8204 (2020).
(8)
日本産婦人科医会
(6)iPS 人工血液(宮西正憲・江藤浩之)
(9)
Colasuonno, M. et al. Erythrocyte-inspired discoidal polymeric 
nanoconstructs carrying tissue plasminogen activator for the 
enhanced lysis of blood clots. ACS Nano 12, 12224–12237 (2018).
(10)
Bilyy, R. et al. Inert coats of magnetic nanoparticles prevent 
formation of occlusive intravascular co-aggregates with 
neutrophil extracellular traps. Front. Immunol. 9, 2266 (2018).
(11)
Cruz, M. A. et al. Nanomedicine platform for targeting activated 
neutrophils and neutrophil–platelet complexes using an 
α1-antitrypsin-derived peptide motif. Nat. Nanotechnol. 17, 
1004–1014 (2022).
(12)
Xu, J. et al. Sequentially site-specific delivery of thrombolytics 
and neuroprotectant for enhanced treatment of ischemic stroke. 
ACS Nano 13, 8577–8588 (2019).
(13)
Pawlowski, C. L. et al. Platelet microparticle-inspired 
clot-responsive nanomedicine for targeted fibrinolysis. 
Biomaterials 128, 94–108 (2017).


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