2022年12月27日火曜日

Comment: 予後を見据えた医療における細胞外小胞の可能性とiPS細胞技術との技術的親和性

今年も残すところ少なくなりました。
読者の皆様、良い年末年始を迎えてください。

今後、様々な疾患において、患者さんの命を救うという側面だけではなく
その後の生活の質(QOL)の向上を含めた、サバイバーシップを考える
医療が一つの潮流になるのではないか?と私は予測しています。
その中で、運動、食事、福祉、教育、就労など社会生活的な側面も
考えられるようになると思いますが、
一方で、急性期の治療において如何に患者さんの身体、心の負担を小さくできるか?
それについても改善させる余地があります。
その際に、内科的に薬剤によって治療するのであれば、
病変部位だけに薬剤を届けるといった標的治療が一つの観点となります。
例えば、脳腫瘍がある患児に対しては
血液脳関門を超えて、できるだけ脳腫瘍部だけに薬剤を届けて
その局所部位で有効な治療を行う事です。
もし、それによってその介入による余分な損傷を減らす事ができたら
そのお子さんのその後の成長を含め、予後の質が向上する可能性もあります。
従って、
標的治療は追究、追求する価値のある医療技術です。
その標的治療を可能にする技術の一つはナノ医療です。
ナノ医療に含まれる薬剤送達媒体は様々な種類があります。
現在、実績の上で最も先行している脂質ナノ粒子もあります。
ここでは、そのうちの一つである細胞外小胞について触れます。
まず初めに細胞外小胞の課題の一部を挙げます。
細胞外小胞は生体内にある自然な内分泌系の物質なので
材料構成、大きさ、形、表面状態(糖、タンパク質など)の
不均一性があります。
また、どの細胞種から放出されるかによって大きく形質が異なります。
その異種性から薬剤送達媒体や再生医療に利用する際においては
一定の特性を再現性良く生産する事の難しさがあります。
また、大量に精製する困難性もあります。
しかし、これらの課題の一部は解決されつつあります。
もう一つの問題は、それを医薬品として使う際の
スタンダードガイドラインがまだないということです。
従って、
モノができたとしてもすぐには臨床適用という事には
なりにくいという事が考えられます。
しかし、
細胞外小胞であるエクソソームの治験は
すでにいくつか進んでいるものもあります。
今後、どのように細胞外小胞の医療応用において舗装整備するか?というのは
国際的な議論が必要なところであると考えられます。
一方で、
上述した細胞外小胞の課題は、裏を返せば独自の魅力でもあります。
細胞外小胞は植物、人以外の動物(例えば牛など)からも抜き取ることができます。
人の中でも様々な細胞種から分泌させ取得することができます。
これは潜在的な研究の余地、すそ野の広さを意味します。
世の中に存在する様々な疾患に対して、
その疾患に合った細胞外小胞のドナー細胞種を選択できる可能性があります。
膨大な選択肢の中からそれを探すことも
研究者、開発者にとって興味深いところではないか?と想定します。
その選択肢を増やすためには
1つとしては下述する初期化技術を含めた幹細胞が重要になります。
先ほど、脳腫瘍のケースを例に挙げましたが
脳腫瘍の標的性のためには神経幹細胞由来の細胞外小胞が
薬剤送達媒体として適しているかもしれません。
細胞外小胞は細胞的な性質を持ちながらも、
独自の代謝機能、増殖能がなく、
元々、体内での細胞間のコミュニケーションに特化した形質を持っているので
薬物送達媒体としてそれを巧みに利用することができます。
再生医療にも利用できる可能性も示唆されています。
細胞外小胞は血液脳関門も超える事ができるので
脳への送達が可能です。
この特性から、脳の疾患に対しての標的治療の送達媒体として
数あるナノ粒子の種類から研究対象として細胞外小胞を選択している
研究機関、企業もあると思います。
また、細胞外小胞はES細胞、iPS細胞技術、ミューズ細胞技術など
多能性幹細胞、その初期化技術と高い技術的親和性を持ちます。
例えば、脳の幹細胞の(大量)取得は通常難しいですが、
iPS細胞によって、特定の人たちから得た細胞を初期化して
神経幹細胞に分化させ、それを増殖し、細胞外小胞を分泌させることで
通常得られにくいiPSC技術を使った神経幹細胞由来の細胞外小胞を得ることができます。
すでに近年、iPS細胞由来の細胞外小胞を利用した報告も上梓されています。
iPS細胞の生産技術を洗練させる事は、
iPS細胞そのものから得られる再生医療、創薬だけではなく、
iPS細胞由来の細胞外小胞を使った再生医療、創薬へもつなげることができます。
iPS細胞技術の場合は、
特定の疾患を持った患者さんから細胞を得て、
それを初期化して分化させたときには
その疾患特有の形質の少なくとも一部が残ると認識しています。
すでにそれを利用して創薬のためのスクリーニングが行われています。
その細胞を分析するだけではなく、細胞外小胞の小胞内外をくまなく分析する事で
病理の理解だけではなく、送達媒体としての可能性も見出す事もできます。
場合によれば、ドナー細胞の形質導入による分泌細胞外小胞の
エンジニアリングの必要がない状態で
細胞種特異的な標的性を得られる可能性もあります。
また、
CAR免疫療法などですでに一つの懸案事項となっている
免疫拒絶、移植片対宿主病、Fratricideのいずれかがありますが、
細胞外小胞の場合は機能が輸送機能にある程度限定されるため
細胞製剤に比べて、免疫的な感受性が低い可能性もあります。
細胞にできて、細胞外小胞に出来ない事ももちろん存在しますが、
細胞外小胞の選択肢を考慮に入れておくと
様々な問題に対しての医療工学の対応力の幅が高まります。
iPS細胞の技術があれば、その細胞から細胞外小胞が分泌されるわけですから
並列して研究を進めていくことができるのではないか?と考えられます。
細胞外小胞は、以前の記事でも上梓したように
製造技術が非常に重要になるという事は
その生産に関わる企業からもすでに公表されています。
研究の質、再現性にも関わるので、
質のよい細胞外小胞をどのように安定的に、精製し、量産するかというのは
量産までは考えが及ばなくても基礎研究する段階から考え
手に入れる必要があります。
その点で、国際性、産学連携、分野横断性いずれかが必要になる
と考えられます。


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