腸には虫垂と呼ばれる部位がありますが、
この虫垂は扁桃腺のように免疫細胞が集まっていると同時に、
虫垂は腸内細菌のバランスを保つ上で重要です。
元々昔は衛生状態があまりよくなかったわけですから
その適応の為、進化の過程で、
この虫垂は腸内細菌の保護作用を獲得し、
免疫系や、腸内細菌叢の
バランスがとられていたという解釈もあります(186)。
近年の衛生環境の改善は乳幼時期に命を落とす人を
劇的に減少させたという観点では最大級の偉業だと考えられますが、
一方で、虫垂という今まで衛生環境に対して
適応してきた消化器の部位のバランスを崩しやすくなった
という事はあるようです。
実際に虫垂炎(盲腸)になると外科的に切除する事が行われます。
この虫垂炎を放置すると、現代の発達した医療をもっても
命に関わる事態になるので、外科的に切除する必要があります。
その理由は消化器内で炎症や感染が広がることで
細菌が循環器の中に入る敗血症のリスクが非常に高まるからです。
このように消化器、その中で腸の組織を守る事は
人の命を支える上で非常に重要な事です。
一方で、
分娩前後でお子さんが経験する事は
酸素飽和度の変化や血圧の変化など循環器に関わる事、
もう1つは消化器に関わる事です。
胎内では臍帯血を通して生命を繋いでいましたが、
分娩後は自立的に命を繋いでいく必要があるため、
口腔からの栄養摂取が必要になります。
主に授乳に依ります。
その時には消化器を使う必要がありますが、
早産の子どもは腸の組織が十分に発達していない場合もあり、
David J. Hackam(敬称略)らがFig.1に示すように(187)、
細菌などを含めて様々な物質が免疫細胞が豊富にある領域や
循環器の中に入るリスクが高まるため
非常に危険な状態になります。
これを壊死性腸炎と呼び、
早産を初め、未成熟な子どもが命を落とす
一番の原因になっていると言われています(187)。
世界の乳幼児死亡率は
国や地域によって違いはありますが、
おおよそ3%~3.2%と言われています。
壊死性腸炎の発症率が7%であり(188,189)、
発症の時期などを勘案すると(190)、
そのうちの25%よりも高い割合で命を落とすので
おおよそ壊死性腸炎で亡くなる子どもは2%前後だと想定されます。
全体で3%ですから
壊死性腸炎で亡くなる子どもは2/3(67%)という事になります。
従って、
乳幼児の死亡率を下げるためには
壊死性腸炎の病理を理解し、
予防、治療、管理のレベルを上げていく事が非常に重要になります。
壊死性腸炎に対して、薬物など特定の作用を持つ治療は
まだ、存在していないと言われています(191)。
基本的には壊死性腸炎になっている時には
炎症や組織の壊死によって局所虚血になっている場合もあります。
腸は体全体で考えても大きな組織なので、
その腸の血液循環が炎症による血栓や血管収縮などによって滞ると、
全身の血液循環にも悪影響を及ぼすおそれがあります。
血液は酸素供給や代謝においても重要であり、
脳を初め様々な臓器、組織への影響を考えると、
局所虚血を速やかに解消する必要があります。
そのためには腸を休ませることが重要です。
経口による摂食を停止して、
鼻腔栄養チューブによって胃に直接栄養を届け、
胃の圧力を低下させます。
静脈内輸液や循環作動薬などを用いて
虚血を解消するために血流を促します。
また、腸内の組織が壊死しているという事は
通常は粘膜に存在する細菌が免疫細胞が集まる
腸のパイエル板や血管内へ侵入しやすくなっており、
炎症の原因や敗血症につながるおそれもあることから
腸内微生物に広範囲に作用する
抗生物質が投与されるケースもあります(192)。
それでも症状が進行する場合には
◎壊死している腸を切除
◎腸管の修復
◎腸管の一時的なバイパス手術
◎腹腔の排膿
これらなどの外科的なアプローチが取られます(193)。
そもそも
早産の子どもでなぜ壊死性腸炎が起こりやすいのか?
それを考える事は病理を考える一つの視点となります。
David W. Rittenhouseが参考文献(194)のFig.3に示す
胃腸の発達ステージがあります。
これを見ると明らかに
少なくとも形状としての成熟の速さでいうと
胃が一番速く、次に大腸で、その次が小腸になります。
実際に壊死性腸炎は小腸で生じ(187)、
そこから大腸の一部である結腸や直腸に拡大する事があるようです。
小腸の発達で気になるのが、
参考文献(194)のFig.3で示されるように
大腸の場合はおおよそ大人になって成熟する形が出来上がっています。
しかし、小腸に関しては長さも当然足りないのですが、
それに応じてまっすぐな部分も多く
位置もまだ定まっていません。
身体の大きさに合わせて、
その組織が比例して大きくなっていくとした場合に比べて
小腸のように複雑に入り組んだ形で
収納しながら成長していく場合では
細胞の増加曲線は大きく異なることが推測されます。
また、腸はひだがあって、表面積を多くとる性質があります。
つまり、
腸管そのものを長くし
ひだ構造の底にあたる腺窩(Crypt)なども含めた
腸管の表面積を大きくとり、
消化効率を上げる必要もあります。
その発育の速度は少なくとも小腸に関しては
空間的かつ組織学的な事も含めると
大腸や胃に比べて急速であると推定されます。
また、David J. Hackam(敬称略)らが参考文献(187)Fig.1で示すように
壊死性腸炎が生じる場所はひだ構造の底にあたる腺窩(Crypt)の部分です。
一方、Lauren C. Frazer(敬称略)らが
参考文献(195)Fig.1に示すように
腺窩(Crypt)の底の部分にはPaneth細胞と呼ばれる
特殊な免疫細胞が多く存在します。
この細胞の機能は
◎抗菌ペプチドや抗微生物物質を分泌し、病原体や細菌の増殖を抑える
◎消化酵素を病原体から保護し、消化機能を維持する
◎幹細胞の活性化を促進する(196)
◎腸の修復を助ける(196)
◎免疫機能を調整する(197)
このような腸の健康において非常にPaneth細胞は重要ですが、
Fardou H. Heida(敬称略)らの研究によると
このような機能としての適格性を持つPaneth細胞は
在胎期間29週以降に増えるとされています(198)。
もともと、早産の子どもにおいて
壊死性腸炎に対するPaneth細胞の重要性は
仮説が立てられていました(199-200)。
それを一部、立証する形となっています(198)。
壊死性腸炎が在胎期間29-33週の早産の子どもにおいて
疫学的にピークであるという事も関連しています(201)。
このPaneth細胞の成熟は
◎IL-22受容体信号(202)
◎Mist1発現(203)
これらなどが関連するとされています。
実際にはPaneth細胞の成熟は新生児から離乳期でも
エピジェネティックな改変によって続くと言われています(204)。
また、幹細胞からPaneth細胞への分化も必要です。
小腸の腸管はどんどん長くなっていきますから、
それに伴い腺窩(Crypt)を含むひだ構造も出来上がります。
その時にPaneth細胞も含めてバランスの取れた
組織として完全性の高い形成が必要なわけですが、
早産で生まれて、Paneth細胞が未成熟な状態が多く、
現状存在する小腸の腸管において、
壊死性腸炎が生じているのであれば、
上述したPaneth細胞の成熟を促す信号や遺伝子に働きかける事は
薬物治療としてのアプローチになるかもしれません。
すなわち、上述した
◎IL-22受容体信号(202)
◎Mist1発現(203)
これらに働きかけることです。
腎臓の場合は、胎内でネフロン数が決定するという事があって
体外での環境に組織成長が合わない部分もありますが、
腸に関しては最終的には小腸に関しては7mになり(205)、
ひだをまっすぐに伸ばすとその6倍とも言われます。
このような大きな組織がすぐにできあがるわけではないですから
腸管、その中の腸の細胞は生後もどんどん成長するので
壊死性腸炎などが生じたときには
腸を休ませながら、Paneth細胞など特に重要な細胞の
成熟を促して、腸の完全性を上げながら、
急性期を過ぎたら、その後の継続的な健全な
主に小腸の成長をどのように実現させるか?
これについて考える事になると思います。
ここからが一つ重要な考察になります。
Lauren C. Frazer(敬称略)がFig.1に示すように(195)、
妊娠初期では腸管全体とその微細構造であるひだが
同時に形成されると考えられますが、
その時に絨毛(villi)と腺窩(Crypt)ができずに
短い未熟な絨毛のみとなります。
それがやがて妊娠中期、後期、新生児、離乳期、、、
このように成長していくと
おおよそ妊娠後期の時にはひだ構造として
成熟した形で腸管が形成されると考えられますが(195)、
在胎期間29週当たりでPaneth細胞に対して
具体的に何が起こっているのか?
それについて考える事が非常に重要です。
言い換えれば、
Fardou H. Heida(敬称略)らの報告によると
この時期を境にPaneth細胞の機能が
過渡的に高まっていくわけですから(198)、
この29週以降の胎内において
母親の臍帯血の成分の中での何らかの物質が
Paneth細胞の機能に働きかけているはずです。
そこからPaneth細胞は(継続的に)成熟した形になるわけですから、
おそらく「遺伝子的な制御」が生じていると仮説を立てました。
これが起こっているか?そうではないか?
一定の議論の余地があると考えています。
壊死性腸炎で命を落とすお子さんが25%だとすると
75%の子どもは一命をとりとめて成長していくわけですし、
壊死性腸炎とは診断されないものの
腸に炎症を抱えて成長するお子さんもいるかもしれません。
成長期の子どもの疾患を考えるうえで
その後の長い人生、全体を配慮する事は非常に重要です。
それは小児がんに限らずサバイバーシップと言えます。
人の疾患は腸から始まると言われる医師もいるくらい
腸は非常に重要な器官であります。
その腸に異常が出るとするならば、
多くの免疫細胞が集まるところであるので、
免疫系の成長、成熟にも影響を与える可能性があります。
また、免疫系の作用を含めた循環器の炎症による
全身の血流に影響を与えるのであれば、
血液は酸素の供給において重要なので、
その酸素に敏感な脳への影響も懸念されます。
実際に外科的な手術が必要なほど重症の壊死性腸炎にかかった
早産児は脳の灰白質、白質への悪影響が大きくなるとされています(206)。
より具体的には白質の障害の方が灰白質よりも5倍程度大きくなっています(206)。
これはなぜなのか?
酸素の消費量自体は神経細胞が集まる灰白質の方が3-4倍高い
という報告もあります(207,208)。
この観点で考えると酸素不足に対する脆弱性は
神経細胞が集まる灰白質の方が高いので
もっと多様で決定的に脳の連結性に影響を与える要因が
あるということです。
白質の障害とは
fMRIで観測される液体の異方性が小さくなり、
軸索などの神経線維に対するいずれの方向の流速が早くなることなので
基本的に神経のつながりが疎になっている事だと考えられます(209)。
これに関してTerrie E. Inder(敬称略)らは
早産児の脳障害の臨床的結果の総括の中で
白質に存在する髄鞘の生成を促す
乏突起膠細胞の未成熟な状態の細胞が酸化などのストレスに
非常に脆弱なため、影響を強く受けるとされています(240)。
これが白質の傷害の一つの原因であると考えられます。
壊死性腸炎になった時には循環器の酸素濃度の他に
免疫系の炎症もあります。
腸の他に免疫細胞が集まっているのは
肺と皮膚です。
特に肺は腸で炎症が起きた際に生じた炎症性サイトカインが
循環器を通じて腸から肺に到達して、
肺の炎症に繋がる事が考えられます(210)。
上述したように壊死性腸炎で一命をとりとめたお子さんの
その後のウェルビーイングの実現のためには
そのサバイバーシップについて考える必要があります。
重要な一つの要素は後遺症、合併症を如何になくすかです。
しかしながら、現実問題として
壊死性腸炎に罹患して命を繋ぎ止めた子供の
最も大きく、かつ長期的な合併症は上述した重篤な脳障害であり、
具体的には神経細胞の基本的な活動である
神経細胞同士の電子信号のネットワークの効率性を決める
軸索の外側の絶縁膜である髄鞘(ミエリン)の喪失、
それによって認知障害が生じます。
これは同じ早産でも壊死性腸炎に罹患した人の方が
このような認知機能低下を含めた脳障害の程度が重篤である
ということが示されています(211-214)。
実際に白質の方が脳障害が大きくなっており、
髄鞘は神経線維の周りの絶縁膜であり
この神経線維は白質に多く存在する事から、
白質の脳障害に伴って、髄鞘が喪失していると考えられます。
この髄鞘は乏突起膠細胞によって産生されますが、
この乏突起膠細胞は炎症時には動物において早産児の白質損傷に
類似させた条件では自身の分化を抑止すると
いわれています(215)。
壊死性腸炎に罹った後、主に白質を含む脳に損傷が生じる場合、
免疫細胞であるTリンパ球を介した損傷である
という報告もあります(211)。
Qinjie Zhou(敬称略)らの壊死性腸炎に誘発された脳障害の報告では、
CD4+T細胞がインターフェロン-γを放出する事によって
脳障害を引き起こすことを
マウスのケースと人のiPS細胞のオルガノイドで示しています(211)。
このインターフェロン-γは炎症性サイトカインなので(216)、
白質に作用した場合、髄鞘を産生する乏突起膠細胞の
分化抑制に寄与している可能性があります。
それによって髄鞘の欠乏という結果を招いているかもしれません。
従って、
壊死性腸炎に対する白質を中心とした脳障害を軽減するためには
CD4+T細胞の活性を抑えるか、インターフェロン-γを抑制するか
ということが提案されています(211)。
David J. Hackam(敬称略)らによれば、
壊死性腸炎に発達するためには腸の上皮組織のひだの底、
腺窩の部分のTLR4の活性化が必要であるとされています(187)。
このTLR4は病原体に特徴的な分子を認識するToll様受容体の1つで
グラム陰性の細菌やグラム陽性の細菌の表面にある
ウィルス性タンパク質、多糖に結合性を持つとされています(217)。
卵が先か、鶏が先かという議論ですが、
この壊死性腸炎の一つの病理とされるTLR4の過剰発現が
細菌の暴露によって生じるのか?
それとももともと組織不全の乳幼児に多く発現されているのか?
それについては現時点では不明のままです。
TLR4についての病理についてはまた詳しく調査しますが、
この章で一つ問題にしているのは壊死性腸炎の合併症としての脳障害です。
腸で特異的に獲得した炎症性を持つT細胞が
循環器を通して脳に到達し、傷害させているので
腸の組織障害、細菌の組織内侵入によって
どのように免疫系が発達したのか?
新生児の免疫系の特徴を踏まえた上で(218)、
具体的に考えていくことが重要です。
ここではB細胞ではなく、CD4+T細胞に焦点を当てます。
壊死性腸炎では細菌の組織内侵入によりリボ多糖などのアクセスが
生じると想定されます。
その時に
そのリボ多糖を抗原として認識した樹状細胞と結合して
CD4+T細胞が活性化される場合と、
直接、TLR4受容体を介してCD4+T細胞がリボ多糖を認識する
場合があります(参考文献(219) Fig.1)。
このようなリポ多糖に対しては
Hong-Gyun Lee(敬称略)らがFig.2で示すように(219)、
エフェクター分子としてはIFN-γを放出する事が知られています。
子どものケースで多いナイーブ形質(218)については
リボ多糖のケースは示されていませんが、
基本的にIFN-γに対応する自己免疫疾患様の
炎症性を持つ形質を発現するとされています(219)。
従って、
壊死性腸炎によって腸の組織内に侵入した
細菌の表面にある物質であるリボ多糖
が新生児の免疫細胞に接触した時に
そのうちのCD4+T細胞が炎症性の形質を持ち、
脳神経に到達し、IFN-γを出して、脳障害の原因になる
という事は一連のつながりを持ちます。
また、Miles P. Davenport(敬称略)らがFig.1で示すように(218)、
子どもの頃の免疫系の発達は
基本的には抗原やメモリ機能ではなく、
免疫チャレンジがあった時には
基本的には炎症性、エフェクター機能が高まりやすいとされています。
これは仮説の域はでませんが、
SARS-CoV-2に感染した時に
子どもの抗体が交差性が高かったことと、
参考文献(220)Fig.4で示されるように
感染した時のT細胞の反応性が大人に比べて高かったことは
免疫的なチャレンジがあった時に
広範に炎症性、エフェクター性が生じる
特徴が現れている証拠ではないか?と考えました。
Miles P. Davenport(敬称略)らがFig.1に示す
免疫的な特徴を参照すると(218)、
このような炎症性、エフェクター性の特徴は
在胎期間を含めて若い方が顕著に出る傾向にあります。
従って、壊死性腸炎の子どもが
細菌による強い免疫的なチャレンジがあった時に
T細胞も含めて、炎症性、エフェクター性が生じやすい
という事はあるかもしれません。
これはリボ多糖がインターフェロンγの産生とつながりやすい
という事と並行して炎症性形質という観点で考えられる事です。
また、子どもの頃に多いナイーブT細胞は
感染のような免疫的な刺激があると
その後、短期間、長期間と時間経過に関わらず、
非対称の細胞分裂、細胞分化を生じると言われています(221-225)。
実際に、ナイーブCD4+T細胞が
どのような細菌、ウィルスに対して刺激を受けた時に
どの形質を獲得する傾向にあるかという事が示されています。
(参考文献(226) Fig.2)
従って、自己免疫疾患様の炎症性形質を持つCD4+T細胞は
そのお子さんの循環器に長い間存在する可能性があります。
少なくともある特定の細菌のリボ多糖が
免疫細胞が集まるパイエル板を含めた濾胞領域に到達し
T細胞に限らず、樹状細胞、B細胞などに強く働きかけた場合、
その抗原に対する自己免疫疾患様の症状は
継続的に続く可能性があります。
これについては現在、エビデンスはなく仮説になります。
上述したように壊死性腸炎の病理の一つに
トール様受容体4(TLR4)の活性化があります。
これは腸に侵入した細菌の表面にあるリポ多糖を認識する
上で重要な役割を果たす受容体です(491,492)。
このTLR4が活性化する事で
◎アポトーシス(細胞死)(493-495)
◎オートファジー(496,497)
◎ネクロプトーシス(細胞死)(498)
◎回復の不全(499,500)
◎細胞増幅の減少(501)
これらが生じる事で腸細胞が壊死します。
また、血管の健全な形成において重要な1酸化窒素を生み出す
合成酵素(nitric oxide synthase)も減少します(502)。
炎症性サイトカインも引き寄せます(503)。
このTLR4がなぜ活性化するか?
仮に細菌のリポ多糖との結合機会の上昇によって生じていて
かつ、ひだの底の部分である腺窩の部分のPeneth細胞を含む
細胞群のTLR4との結合によって腺窩の細胞が壊死する
という事が主要な病理であるとします。
(参考文献(187) Fig.1より)
その病理に基づいて、
凸部である絨毛では少なく、
主に凹部の腺窩から細菌が内部に侵入する事で
免疫系と細菌の相互作用の増加、
血液中への浸入する事で炎症を起こし、
さらに、
TLR4の信号が亢進されることで
上皮の組織が壊死するとします。
そうした場合、壊死性腸炎に進行する段階で
細菌群がひだの底の部分である腺窩に多く侵入し、
粘膜層を超えて腸の上皮細胞に多くアクセスする必要があります。
従って、
◎腸組織の(全体の)形状
◎粘膜層の構成、厚さ
これらを考える事が重要になります。
例えば、組織でいうと
Lauren C. Frazer(敬称略)らがFig.1で示すように
絨毛と腺窩の組織形成が胎児と満期の新生児では
大きく異なる事が示されています(195)。
胎児の腸では、
繊毛の長さが短く、太く、腺窩の形成が不十分で
ひだの底、腺窩に細菌がアクセスしやすい構造になっています。
従って、
早産児が胎児と満期産児の間の
腸の組織の形状、特徴を持つとすると
同様に細菌がひだの底の部分にアクセスしやすいような
腸の組織構造になっている事が推定されます。
この事が主に細菌の侵入経路として
体に害を及ぼしやすいかもしれない腺窩のTLR4信号の活性化
言い換えれば、
細菌のリポ多糖と腺窩の腸細胞のTLR4の結合数の増加の
潜在的な理由である可能性があります。
また、粘膜の層厚も関係している可能性があります。
つまり、粘膜の層厚が薄ければ、
細菌は腸の上皮細胞にアクセスしやすくなります。
一方で、
このTLR4はもともと腸に害を及ぼす存在ではなく
腸の上皮組織の健全な組織形成の上で
重要な役割を担っています(504-506)。
未成熟の腸では小腸の粘膜内に発現されている
TLR4のレベルは満期の新生児の腸よりも
高いとされています(507,508)。
従って、TLR4の発現自体が問題ではなく、
それが多くの細菌と結合し、継続的に、過剰に働くことで
元々の機能である組織形成に異常が生じ
逆に周りの細胞の細胞死につながるということです(509)。
早産の子どもに観られるような未成熟の腸では
TLR4の発現レベルが組織の成長のために
あるいはもともと子宮内に存在する時期なので
その子宮内の環境に合わせて
高まっている中で多くの細菌のアクセスがあると
よりTLR4の信号が亢進されやすいという事は考えられます。
従って、
◎腸の組織の形状
◎粘膜の状態
◎TLR4の発現量
これらが並列して影響を与えている可能性があります。
//壊死性腸炎の臨床的情報//
この節では、Josef Neu(敬称略)らの
壊死性腸炎の臨床に関する総括(251)を詳細に参照、引用し
付加的な調査、考察を加えて
読者の方と情報共有いたします。
--
臨床現場の方は壊死性腸炎は撲滅することが
最も難しい疾患の一つであると考えられています(251,252)。
十分な経験、情報がない中での仮説です。
例えば、
新型コロナウィルス感染症で重症になった方は
重度の呼吸器障害がでます。
より具体的には肺の機能が著しく低下します。
CT画像で肺が白く映るのは組織が硬化している証拠です。
それによって酸素をうまく取り込めなくなるので、
酸素飽和度が減少します。
酸素濃度が減少すると真っ先に影響を受けるのは脳です。
従って、脳を守るため、あるいは全身の組織を守るために
酸素飽和度を許容範囲まで上昇させる必要があります。
その時に装着されるのが
体外式膜型人工肺(ECMO:エクモ)です。
体外に血液循環回路を作ることで
人工的に肺の機能を体外に設け、
それによって患者さんの血液中の酸素濃度を確保するとともに
肺の機能を休ませる効果があります。
上述したように壊死性腸炎でも腸の機能を休ませるために
消化の負担を直接的に胃に特別な栄養素を届ける事で
著しく減らし、小腸、大腸の機能を休ませます。
このように肺や腸に著しく損傷がある場合
その機能を人工的に休ませる処置を取るのが一般的です。
なぜなら、呼吸器や消化器は
日常、生活する中で継続的に頻繁に使用するものだからです。
そこの機能が不全であり、著しく機能低下していると
人工的にその機能を置換、補う必要が出てきます。
それで自己回復するのを待つ対策を取ります。
壊死性腸炎の治療は肺のECMOの治療に
基本的なコンセプトとしては一定の類似性を見出せます。
この章の冒頭で述べた様に根絶が難しいのは
早産の子どもは腸の組織が未発達で出てくるわけですから
それで消化器を使うと当然、負担、不具合が生じるからである
と仮説を立てています。
David J. Hackam(敬称略)らが(187)
Josef Neu(敬称略)の総括(251)を引用する中で述べているように
母乳ではない乳児用調製粉乳などを投与した後に
壊死性腸炎が生じることが多いとされています。
その時には腸が膨張し、摂食が難しくなることがあります。
Wontae Kim(敬称略)らが図で示すように(252)、
子どもの腸は黄緑色に変色し、膨張しています。
壊死性腸炎では腸管の組織不全が生じている状況なので
消化器系から入る空気や水の流れ、バリア機能に影響が出ている
事が考えられ、それにより水腫や気腫が
腸管内、腸管外にできる事で
腹部が著しく膨満する症状を呈すると考えられます。
黄緑色になるのは胆道の閉塞、流れの悪さが関わっている可能性があります。
なぜなら組織が黄緑色に変色する根本的な原因は
通常は胆汁の色素に関連しているからです。
おそらく早産なども含めて
腸の組織が十分に発達していない子供が
分娩後に確実にスクリーニングされていないという現状はあると思います。
そうした中で、腸の組織が未発達な子どもに
授乳だけではなく乳児用調製粉乳を与えて、
結果として壊死性腸炎が生じるという事があると推定しています。
早産で腸の組織が不全で出てくるお子さんがいる以上、
そのスクリーニングをしない限りにおいては
壊死性腸炎の撲滅は難しいだろうということです。
逆に言えば、
スクリーニングをすれば、
少なくとも消化器に不全がある早産児にとって
リスクの高い乳児用調製粉乳などの摂食をしないように
事前に予防することが可能です。
現時点ではそのように仮説を立てています。
超早産を含めて低出生体重の子どもの生存率は高まっていますが、
壊死性腸炎の罹患率、それによって命を落とす子供の割合は
変わっていないとされています(251)。
上述したように壊死性腸炎は腸と離れた脳に影響を与えます。
壊死性腸炎から回復したとしても
そのうち25%の子どもが小頭症、神経発達遅延が生じます。
これは胃腸に対する問題よりも深刻です(252)。
前述したように壊死性腸炎においては
消化器の負担を減らす目的で
胃にチューブで栄養を送ったり、静脈に栄養を送る処置をします。
そうすると感染症のリスクが高まり、
入院期間が長期化するリスクが上がります(253)。
実際に腸に影響のない早産児に対して
外科的な処置が必要な場合
平均して2か月程度長く入院しており、
そうではなくても20日延びます(251)。
壊死性腸炎で免疫機能が乱れている中で
感染症のリスクが高まる事への付加的な免疫的な影響も注意に値します。
壊死性腸炎の医療、社会的な負担も見逃せません。
アメリカでは最大で1年あたり10億ドル(1400億円)のコストが
生じていると言われています(254)。
但し、これで十分に医療が行き届いているかどうかはわかりません。
アメリカの年間の医療費は4兆ドルと言われており、
それからすると決して大きな比率ではないですが、
脳を初め、お子さんの生涯に影響を与えうることなので、
その比率が小さいと言っても決して軽視できる問題ではありません。
<<診断の区分>>
壊死性腸炎は異種性がありますが、
もっとも典型的な臨床的サインは
◎摂取不寛容性
◎腹部膨張(参考文献(251) Fig.1A)
◎出生後8-10日の血便
これらです。
腹部のX線写真の症状の特徴(A,B)は
(A)腸管嚢胞状気腫
※腸管壁の粘膜下あるいは漿膜下に多数の含気性小嚢胞を生じ
腸管内腔にポリポーシス様の多発性隆起性病変をきたす。
Namrata Todurkar(敬称略)が図示するように
多くのガスバブルが腸管にでき、
腸管が膨張し、絨毛が隆起し、内腔が著しく狭まっている状態です(375)。
従って、上述したように腸の膨満は
腸内細菌の発酵によるものだけではなく、
むしろ気水胞ができることによる腸管壁の厚膜化によると考えられます。
(B)門脈内ガス
門脈とは胃・小腸・大腸・膵臓・脾臓などのおなかの臓器から
肝臓に入って行く静脈(376)。
この静脈にガスがたまる事。
腸管に穴が開いて静脈にガスが入ったと考えられます。
壊死性腸炎の発症を疑わせる初期の画像サイン(1,2,3)は
(1)腸の横に広がったループ(Dilated loops of bowel)
(2)ガスの不足(A paucity of gas)(どこの?)
(3)腸のガスで満たされたループ
これらです。
腸の内腔外の空気(Free air)は進行した壊死性腸炎のサインです。
症状は急速に進行するかもしれません。
それは多くの場合、1時間以内です。
症状を呈する前兆から
腹部の変色、穿孔(穴が開く事)、腹膜炎に進行します。
全身低血圧になり、
集中治療、外科によるケアが必要になります。
相当に力をいれた研究にも関わらず
ここ数十年間で予防的な戦略はまだはっきりしていません。
その理由は壊死性腸炎の診断の構成の
明瞭な輪郭がまだ描けていないからです。
新生児の腸の傷害は3つの形式(α、β、γ)があります
(α)満期産児で主にみられる症状
(β)自発的な腸の穿孔(穴)
(γ)典型的な壊死性腸炎
壊死性腸炎は多くの場合、早産児に診られますが、
「壊死性腸炎様の症状」は
満期産児や後期早産児でも診られます。
これらのより子宮内で成熟した新生児は
腸の疾患は生まれてから一週間以内に起こる事が通常です。
しかし、早産のお子さんで診られる場合においては
度々、他の問題(①-④)を抱えている事が多いです(380,381)。
①母親の不法な薬物使用
②腸の異常(A,B)
(A):神経節細胞欠損(Aganglionosis)
結腸の腸筋神経叢の神経細胞が欠損することで
神経堤細胞の運動、分化に不全が出ます(377)。
この神経堤細胞は多能性細胞で
末梢神経系の形成に関与します。
腸は蠕動運動などの動き、分泌物、血流の調整を行います。
その指令には腸管神経系が関わっており、
神経堤細胞が前駆状態の多能性細胞です。
胎児のときに消化器系の食道から順に
胃、小腸、大腸、肛門に移動する事が知られており、
小腸と大腸では「ショートカット(近道移動)」
する事が知られています(378)。
従って、この神経系に異常が出ると
上述した腸の動き、分泌物、血流の調整に異常がでます。
例えば、便秘や下痢などの排便異常が生じる事もあります。
(B):閉鎖(Atresias)
様々なタイプの閉鎖があり、
例えば、小腸と大腸の接合部で閉塞、脱離されている
場合があります(379)。
③先天性心臓病
④腸間膜の血流に影響を与えうる周産期のストレス
上述した①~④の併存状態が考えられます。
早産児のうち、
上述した(β)の自発的な腸の穿孔は時々
壊死性腸炎として分類されることもありましたが、
おそらく異なる病理を持つ異なる疾患であるかもしれません(382,383)。
自発的な腸の穿孔は出生後、数日以内に発症し、
経腸栄養法を伴いません。
この疾患の小腸の炎症、壊死は極めて低く、
それは血漿中の炎症性サイトカインが低レベルであることで
エビデンスとして立証されています。
インドメタシンやグルココルチコイドなどの投与と
関連があるとされています(384,385)。
上述したように
壊死性腸炎の病理や症状の輪郭を明確に描けていない事から
統一的に信頼できる診断評価基準が存在せず、
それによって現場で診断することが難しくなっています。
壊死性腸炎の全体的な記述については
Bell MJ(敬称略)らによって1978年に報告され、
その後、内容が改変、精製されました(386,387)。
この評価システムでは3つのステージがあります。
(Stage 1)
◎ほとんど非特異的な所見はない。
◎摂食不寛容性はあるかもしれない。
◎軽度の腹部膨張がある。
(Stage 2)
◎腸管嚢胞状気腫のような(放射線等)画像評価所見がある。
しかし、X線写真では検出する事が難しいかもしれない。
(Stage 3)
◎内臓に穿孔がある。
しかし、自発的な腸の穿孔との区別が難しい。
他の区別システムが
The Vermont Oxford Network Manual of Operations.
これにより公表されています(388)。
以下の臨床症状(C1-3)、画像評価(Im1-Im3)において1つ以上の所見。
(C1)胆汁、胃の吸引物
(C2)腸の膨張
(C3)血便(肉眼では確認できないケースもある)
※但し、裂肛によるものではない。
(Im1)腸管嚢胞状気腫
(Im2)肝臓、胆のうのガス(hepatobiliary gas)
(Im3)気腹
しかしながら、これらの診断評価基準は不備がある
と指摘されています(251)。
なぜなら、手術が必要になるような
重篤な壊死性腸炎において
腸管嚢胞状気腫や門脈のガスが画像診断で
検出できない場合があるからです。
これらの患児は腸管内のガスなしにして
腹部の膨張を呈しているかもしれません(389)。
壊死性腸炎は1時間程度で症状が進行することもあると
前述しましたが、早期の診断、医療介入に失敗すると
病状の進行を見逃してしまうことがあります(251)。
壊死性腸炎をステージごとに診断するためには
血液、便、唾液などの生検による効果的な
バイオマーカーを見つける必要があります。
特に炎症を伴わない自発的な腸の穿孔と区別する必要があるので
壊死性腸炎特有の炎症性バイオマーカーを見つける事は
重要になると考えられます(390,391)。
Marie-Pier Thibault(敬称略)らは
壊死性腸炎を予測する便のバイオマーカーとして
◎Lipocalin-2
(炎症状態で小腸で抗菌分子として亢進される物質(392))
◎Calprotectin
(大人のケースで小腸の炎症性指標となる物質)
これらを挙げています(391)。
従って、上述したように壊死性腸炎を他の同時期に発症する
腸の異常症状と差別化する重要要因は
免疫機能などと関連する炎症性です。
<<治療戦略>>
ほとんどすべての超低出生体重児の子どもは
間欠的な胃腸の症状を持っています。
◎腹部膨張
◎ヘム陽性便(血便)
◎摂食不寛容性
これらで心配の種にはなりますが、
ほとんどの場合、壊死性腸炎は持っていません。
決定的な壊死性腸炎の場合、
臨床症状に基づいて内科的、外科的な管理を必要とします。
内科的な医療介入(A-D)では典型的には
(A)膨張した腹部の減圧
(B)腸の休息⇒(D)で栄養補給
(C)広範に作用する抗菌薬投与(静脈)
(D)静脈経由の栄養供給(intravenous hyperalimentation)
これらが含まれます。
外科的処置、手術は
(a)腸の穿孔
(b)ショック状態
(c)血小板の減少
(d)好中球の減少
(e)(c)と(d)の両方
(c-eについての考察)
実際に血中に細菌が入るなどして感染症にかかり、
生命を脅かすような臓器障害が生じている場合、
敗血症と呼ばれますが、その状態で血小板減少を
引き起こすことがあります(393)。
あるいは妊娠女性において自己免疫によって
免疫機能が高まっている時に血小板が減少する
ことがあります(394)。
従って、炎症反応が高まっている事によって
血小板が減少することがあります。
これは炎症性サイトカインが
血小板の元となる造血幹細胞などの
成熟を妨げる可能性があるからです。
従って、骨髄系免疫細胞である好中球も減少します。
実際に癌免疫治療であるCAR-TもしくはCAR-NK細胞免疫療法では
グレード4の好中球減少症が診られることがわかっています。
グレードは1,2に下がりますが血小板減少症も同様です。
それぞれ約90%,70%の患者さんで診られています(395)。
血小板は組織の修復に作用するため
組織が破壊されているとその修復プロセスで使用され
血小板が減少する事も考えられます。
従って、血小板や好中球の減少は
炎症性が強く出ている事と、
組織修復のプロセスが強く働いていことが疑われます。
(考察、以上。)
これらの条件(a-e)で必要となります。
外科的な方法(1-3)は以下を含みます。
(1)排出経路の設置(drain placement)
(2)腸病変部位の切除を伴う開腹
(3)人工肛門設置の為の腸瘻造設術
小腸の穿孔を伴う進行した壊死性腸炎の治療の
2つの共通的な方法は上述したうち
(1)排出経路の設置(drain placement)
(2)腸病変部位の切除を伴う開腹
これらです。
これらの方法の相対的なベネフィットは議論の余地があります。
2つの大規模、複数のセンターによる研究が
この論議に向き合うために行われました(396,397)。
(1つ目の臨床研究)(396)
これらの術式は生存や重要な臨床症状改善に影響を与えない。
より具体的には
(1)排出経路の設置(死亡率:34.5%)
(2)腸病変部位の切除を伴う開腹(死亡率:35.5%)
腸に穿孔が診られる赤ちゃんが命を落とす確率は
30~50%程度である(401)。
術式同士の比較において差はなく、
手術をすることに価値があるか?についても
さらなる調査が必要です。
(2つ目の臨床研究)(397)
これらの術式は結果に顕著な影響を与えないが、
腹膜に排出経路を設けた幼児は後日、
多くのケースで開腹が必要であった。
(2つ目の臨床研究についての追加の分析)(398)
腹膜に排出経路を設けた幼児は
臨床症状において改善は見られなかった。
(メタ分析)(399)
(1)排出経路の設置(drain placement)は
(2)腸病変部位の切除を伴う開腹
これらにおいて死亡率は(1)>(2)で50%高かった。
新生児の時期に壊死性腸炎に罹患して手術を受けた
(フォローアップ調査)(400)
お子さんの18-22カ月のフォローアップ調査では
死亡率の関係上述したメタ分析(399)と傾向は一致し、
加えて神経発達の不全のリスクも
腸病変部位の切除を伴う開腹のほうが
排出経路設置よりも低いことが示されました。
これらの研究により、
一旦手術をすると、予後は悪く、
効果的な予防の重要性が顕在化しました。
(参考文献リンク)
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