2023年9月4日月曜日

早産児健康促進の為の包括的情報: (7)授乳

私が注力する薬物動態学に10年以上前から取り組まれてきた
京都大学の樋口ゆり子准教授は
前述した臍帯血に多く含まれる幹細胞のうち
間葉系幹細胞に着目されていますが、
この幹細胞は早産児の健康ギャップを埋める上で
非常に鍵となる生命科学因子と考えられます。
樋口氏は2050年において未病社会を実現する事を目指されていますが、
山中伸弥教授は生物における少なくとも多くの病気は
細胞の老化にあると定義されています。
従って、生命サイクルの初期に当たる幹細胞を
より深く理解する事は多くの疾患の原因や
未病社会を実現する上で非常に重要なつながりを持つかもしれません。
しかし、生命科学は複雑であり、
そのような老化が必ずしも病気とつながるわけではありません。
例えば、p53という重要な遺伝子があります。
通常細胞は協力しながら通常は恒常性を保っていますが、
異常な細胞が生じると細胞死させるようなプログラムがあります。
それにp53は関わっていますが、
その時にp53はその細胞死させるべき細胞の老化を
制御させるともいわれます(64)。
実際にドイツのマックス・デルブリュック・センター
Clemens A. Schmitt(敬称略)は
細胞の老化は癌生成の自然な障害、防止因子になっていると
総括しています(65)。
しかしながら、
この記事に議題にしている新生児、小児医療や
感染症予防、治療など公衆衛生の改善によって
長く生きる人が増えたことから
癌によって亡くなる人が増えています。
それは、山中教授が言われるように
通常細胞の老化が根本的に関係しているかもしれません。
しかし、それは分泌物、神経系などを考慮した
システム的な事を含めた老化であり、
細胞単体としてみたときには必ずしもそうではなく、
適切な老化のプロセスが失われる事によって
癌化が進んでしまう事もあるということです。
実際に癌幹細胞というのも存在します(66)。
私たち人の身体の基本単位の一つは細胞であり、
その細胞の隙間は細胞外マトリックスや液体によって埋められていますが、
私たちが生命活動をするにあたって
絶え間ない連携を駆動するものは
細胞間の信号の伝達や共生する微生物やウィルスによるものです。
従って、その重要な一つの因子である
内部に多くの小器官を含む細胞を考える事が重要であり、
その細胞の若さ、質を考える事は同様です。
しかし、地球の今までの歴史の中で
単細胞生物から多細胞生物に進化した時点で
細胞は分化、増殖能を獲得し、
それにより組織や臓器を手に入れる能力を得ましたが、
その副産物として癌化があると考えられています(10)。
山中氏が発明されたiPS細胞による再生医療や
樋口氏が提案される薬物送達学による組織内臓器形成は
人為的な細胞分化、増殖を促すものですから、
アシーナ・アクティピス氏の記述を参考にすると、
それは常に「癌化」と隣り合わせです。
組織形成は例えば、
骨髄系の好中球や単球、マクロファージなどの影響も受けます。
例えば、癌組織は細胞外小胞などを含め
多くの分泌物を循環器に放出します。
その信号を受け、骨髄では
癌関連の骨髄系免疫細胞が形成されます(67)。
それが癌組織の形成を促進します。
この事は通常組織においても当てはまるはずです。
つまり、組織化、臓器形成は
周りの分泌物や免疫細胞の影響を受け
バランスを取りながら生じると考えられます。
それをアシーナ・アクティピス氏は
「綱渡り形成」と呼びます(10)。
大人になれば、身体の大きさは安定し、
細胞の入れ替えはありますが、
大きさにおいては恒常性が保たれ、過渡的ではありません。
しかし、特に年少期のお子さんは
身体のあらゆる部位が過渡的に成長する時期ですから
恒常性と共に組織形成、臓器形成について付加的に考える必要があります。
その中核を担うのは幹細胞であり、
早産児が部分的に獲得機会を失った臍帯血由来の幹細胞と
それを補う事が期待される母親の授乳から得られる幹細胞の
違いを理解する事は非常に重要です。
このような幹細胞は
今述べた臍帯血や母乳の他に
胎盤組織、骨髄、脂肪組織、歯肉などからも得られるとされています(25)。
例えば、幹細胞の一つである間葉系幹細胞は
臓器移植の後などに必要となる
移植片対宿主病の治療にも使われる事があります。
このように抵抗原性である事と
増殖能が高いことから細胞医療で注目されています(68)。
このような幹細胞の抽出源は
その選択肢が多ければ多くの可能性が生まれます。
iPS細胞などからの抽出も挙げられますが(69)、
Shailaja Mane(敬称略)らは上述した母乳からの抽出が可能である
とされています(25)。
一方で、
Julian Kaps(敬称略)らは人の初乳が
神経生成において重要な役割を果たすとされています(70)。
Shailaja Mane(敬称略)らの報告によると(25)、
母乳の幹細胞は時間の経過につれて
顕著に減少していくといわれています。
これらの事実を組み合わせると、
初乳には幹細胞が多く含まれ、その幹細胞が
神経生成を含めたその後のお子さんの組織、臓器の健全な
形成に大きく影響を与えるかもしれません。
その観点で考えると
特に子宮内での臍帯血を通じた幹細胞の供給機会の一部を失った
早産児においては、特にその授乳においては
授乳期間の特に初期において適切に授乳が行われることが
重要であるという事が示唆されます。
当然、初乳に近い時期に乳児が母親から幹細胞を受け取るとすれば
臍帯血のように直接、血液連結ではなく、
消化器を通じてとなります。
ここで科学的に考えないといけないのは
授乳によって得られた幹細胞が
腸内細菌が存在する粘膜、うねっているバリア組織、免疫細胞領域を超えて
臍帯血で得られる幹細胞と同じように血中に運こばれて、
脳神経を含む体全体に輸送されるプロセスです。
当然、直接的な血液連結に比べて効率は落ちるはずです。
これについての詳細な研究結果は今のところ見つけられていません。
乳児における幹細胞研究は進化しており、
将来的にそれが明らかになる可能性があるということです。

(参考文献リンク)  

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