何らかの疾患や障害を持つお子さんを
最先端の薬学、医学、医療で命を救う、
その後の長い生活を見据えた予後を改善する
という事は今後、それらの発達によって
適用範囲が広がる可能性はありますが、
それらの発展は時間がかかる事です。
特に、子どもの臨床試験は大人に比べて
様々な困難性があるため、進みにくいという事もあります。
従って、ここに記述していく事の一部が
もし、今後の研究にいかされたとしても
そのベネフィットがお子さんに届くまでには
10年、あるいはそれ以上の時間が少なくともかかります。
でも、健康上問題を抱えた子供は当然いるわけですし、
気候変動、汚染物質によって
それに対してより脆弱な子供の健康が脅かされる
という事は考えられます(438)。
そうした中で、生活環境の中で安全な形でできる
ちょっとした工夫によって
子どもの健康状態が改善する事があるのであれば、
その情報を届ける事は優先される事です。
なぜなら、
世界の様々な専門家、
医師を含めた現場の医療スタッフの監修を経て
その正当性が担保されれば、
すぐにそれを子供に適用することができるからです。
前述したように早産が生じた子供のうち
最も懸念される健康上の障害は脳です。
壊死性腸炎、アレルギーなどもそうですが、
壊死性腸炎に罹患した子どもは成長後、
消化器よりも脳の異常のほうが問題となる
と考えられています(251)。
従って、過渡的に発達する脳の異常を
組織が出来上がる前の時点で、適切に介入し、
その異常を緩和する事ができれば、
そのお子さんの予後を改善する事ができる可能性があります。
その脳の異常に少なくとも一部関連するのが
上述したように「毎日の睡眠」です(563)。
この毎日の睡眠に関しては、
医療スタッフだけではなく
お父さん、お母さん、あるいは
両親を支援する祖父母、兄弟姉妹などが
超早産など脳の発達が懸念されるお子さんに対して
日々、何らかの知恵によって改善できる余地があるかもしれません。
少なくとも毎日の睡眠が科学的な見地に基づいて
どのように子どもの脳の発達において重要か?
それについて読者の方と情報共有することは
その包括的な理解につながるだけではなく、
その重要性に基づいた行動を促すことができる可能性があります。
それにより、より安全な形の知恵に結びつくかもしれません。
その知恵の中には10年後といった遠い未来ではなく、
すぐに適用可能な事もあるかもしれません。
それは経済的なコストメリットにもなります。
このような観点を総合的に考えると
早産の健康ギャップを埋める包括的情報の中で
この睡眠の章の重要性は極めて高いと判断しています。
もちろん、上述したように
早産児が良い睡眠が得られにくいという報告がある中で(431)、
そのコンテクスト、脈略は複雑かもしれません。
例えば、呼吸機能が発達していないことが原因かもしれません(562)。
呼吸の制御、脳波に関わる脳神経も関係しているかもしれません。
従って、睡眠の改善は簡単ではないかもしれないですが、
少なくともそれについて包括的に調査、考察し
情報共有することは価値があると考えています。
Julie Uchitel(敬称略)らが
満期産児と早産児の睡眠と脳の機能的なつながりを
早期の発達の観点で総括されています(439)。
早産児において何が問題になるか?
それについて抽出し、情報を付加いたします。
生まれてすぐの赤ちゃんの生活の中で
睡眠と睡眠-覚醒のリズムの適切な発達は
一生続く神経系の持続的幸福(ウェルビーイング)において
極めて重要です。
近年のデータは睡眠の質が低い子供は
神経認知的な不全のリスクが高まることを示しています。
睡眠自体の発生論は複雑なプロセスを示します。
基本的な脳の状態
◎睡眠 vs 覚醒
◎活性な睡眠(レム睡眠) vs 静かな睡眠(ノンレム睡眠)
これらが挙げられ、
これらの状態は在胎期間後期の間に成熟すると言われています。
もし、お子さんが早産で生まれたら、
この妊娠後期で生じる脳の状態の成熟が
子宮内ではなく、新生児集中治療室内(NICU)で生じる事になります。
子宮内と体外では様々な点で条件が異なります。
その環境条件が赤ちゃんの睡眠に干渉するかもしれません(440-446)。
例えば、
◎光や音のレベルが変わる事
◎(健康管理の為の)検査(A-D)
(A)静脈へのカテーテルの挿入
(B)血液サンプリング
(C)臨床試験
(D)放射線(X線)検査
これらが睡眠に影響を与えると考えられています(440,443)。
赤ちゃんの世話
◎抱っこ
◎おむつ交換
◎授乳
◎入浴
これらは出生後避けられない事ですが、
覚醒や呼吸を乱す事につながります。
特にREM睡眠に当たるActive sleepの時に生じます(441)。
◎周りに多くの赤ちゃんがいる事(Clustered care)(447,448)
◎センサーとの物理的接触(440)
◎気管支異形成症(449,450)
◎脳室内出血(449,450)
これらも睡眠に影響を与えうるとされています。
できる事と出来ない事があるかもしれないですが、
温度、湿度、光、音などの調整は
ある程度、子宮内の環境に近づける事は可能だと考えられます。
例えば、音に関しては、
◎機械、機器の適切な配置
◎騒音を吸収する素材の使用
◎会話を控える事
◎サウンドプルーフォン装置を利用した治療場所の仕切り
これらが使用されていると言われています。
Julie Uchitel(敬称略)らがFig.2に示すように
子宮内のそれぞれの時期に
レム睡眠、ノンレム睡眠といった浅い、深い睡眠が
特徴的な性質を持って段階的に発達します。
どの様な因果、関連性を持っているか未知ですが、
脳の構造的、機能的なネットワークと関わっている
可能性があります(439)。
特に脳の発達において重要な2歳ごろまでの
典型的な睡眠のパターン(T1-T3)は
(T1)新生児(0-3か月)
1回あたりの睡眠時間:2〜4時間
1日当たりの睡眠時間:14〜17時間
(T2)乳児期(3〜12ヶ月)
1回あたりの睡眠時間:徐々に夜間の睡眠が延長され、3〜6時間
1日当たりの睡眠時間:12〜15時間の睡眠
(T3)幼児期(1〜2歳)
1回あたりの睡眠時間:夜間の連続睡眠が増え、6〜12時間
1日当たりの睡眠時間:11〜14時間の睡眠
このようになっています。
Yoko Asaka(敬称略)らがTable 2で示すように
1.5歳の時点で満期産児と早産児で
昼寝の時間(2時間程度)には差がありませんでしたが、
夜の長い時間の眠りになると
夜間に起きる頻度が統計的に有意差があるほど大きくなります(431)。
上述したそれぞれの期間で変わるのは
トータルの睡眠時間と睡眠の回数ですが、
それを決める重要な因子として
夜間の連続睡眠時間の延長にあります。
その夜間睡眠の発達に異常が出ている可能性があるという事です。
上述したように子宮内の後期においての
睡眠機能の発達がどのように夜間睡眠に影響を与えるか?
1つの視点として夜間睡眠は
サーカディアンリズム(概日リズム)と関連がありますから
それとどのように関わりがあるか考える事が大切です。
この概日リズムは視床下部と関わりがあり、
この視床下部は在胎期間9-10週くらいから発達する
といわれています(451)。
この視床下部は思春期まで発達し続けるといわれています。
従って、思春期特有の概日リズムがあるといわれており、
この時期には早寝早起きが適さないかもしれない
とも言われています。
早産児において成長後において
夜の睡眠に影響が出るという事は
1つの重要な因子として概日リズムが関わっている可能性があり、
妊娠後期の時点で概日リズムの発達に関わる
重要な機能的、組織的形成があるかもしれません。
あるいは交絡因子として
睡眠時の無呼吸の頻度が関わっているかもしれません(403)。
子どもの睡眠に関しては
睡眠自体にも変化があり、その発達と脳の機能、異常、
それらにおいて早産がどのように関わるか?
これについてはまだ理解されていないと考えています。
しかしながら、
Terrie E. Inder(敬称略)らが
Fig.3に示す早産児に典型的に現れる脳の特徴、
つまり脳室が大きく、実質が小さいという特徴は
因果のベクトルはどちらか、双方かわかりませんが、
結果として睡眠の質に関わっていると考えています。
例えば、早産児では
脳室の側壁(内皮)の細胞である上衣細胞のすぐ下の
顆粒組織から出血がみられる
脳室上衣下胚層脳室出血が典型的な脳出血の症状の一つである
とされています(240)。
これはこの血管の組織が脆弱であるからです。
そうすると脳室には脳脊髄液が満たされていますから、
そこから出血が診られる場合には
脳脊髄液に血液が混ざることになります。
血液は脳脊髄液よりも粘性が高いので
結果、脳脊髄液の粘性は上がる事になります。
そうすると脳脊髄液に流れは悪くなると
物理的には考えられます。
血液が漏れる事で容積が増すという可能性もありますし、
同時に粘性が増すという事も考えられます。
P. L. H. Chong(敬称略)らは
睡眠をグリンパティック系の関連について報告しています(405)。
睡眠に問題を抱えている人は
脳脊髄液の循環量が少ないとされています。
これは睡眠が脳脊髄液の循環を促しているから
という因果である可能性があり、
脳脊髄液が循環しにくい状態が
睡眠の質低下をもたらすという逆方向の因果を示すかどうか
については明らかではありませんが、
もしそうであるとするならば、
それが早産児の脳の構造と睡眠の質低下の関連を示唆します。
また、少し違う観点では
上述したように脳脊髄液の粘性が上がると
これは上衣細胞の繊毛が減少し、
循環能力が低下させる可能性があります(373)。
これらのつながりは多くの仮説が含まれますが、
少なくとも脳脊髄液中への出血は脳室拡大において
リスクがあるという事は合理性がありそうです。
出血を避けるための医療は当然求められますが、
仮に出血した場合において、
その後の脳の発達障害の程度を下げる際に
1つの重要な要因として
脳脊髄液の循環を促す睡眠があるかもしれません。
従って、新生児集中治療室において
色んな管理が必要な中で
如何に赤ちゃんにとって心地よい睡眠の環境を整えるか?
それは重要な因子になるかもしれません。
その時期だけではなく、集中治療室退室後も、
特に早産の子どもにおいて、
夜間の睡眠の質をどのように上げられるか?
温度、湿度、照明、音、安心感、姿勢、寝具、授乳など
いくつかの重要な因子があると考えられます。
また、呼吸機能をサポートする(医療)介入も
挙げられるかもしれません。
上述したように
◎脳脊髄液と脳室拡大、実質縮小の関連
◎夜間睡眠の質の低下の原因
◎脳脊髄液と睡眠の関係
◎脳脊髄液への出血と粘性の増大による脳室拡大
◎脳室拡大による実質縮小の影響
これらのつながりはすべて仮説であり、
現時点での私の調査の限りでは
具体的な研究報告を未だ示せていない部分です。
特に発達期の人のケースにおける子供、
あるいはその中の早産児において
上述した項目がどのように関連性を持っているかは
明らかではありません。
一方で、
高齢の時期に特に問題となるアミロイドβなどのタンパク質は
脳脊髄液の流れを決める上衣細胞の絨毛の動きを悪くします。
特に眠っている時に絨毛は活発に動き、
その速度は起床時に比べ50%程度速いですが、
その活発な時に老廃物となるタンパク質量が多いと
より敏感に絨毛の動きを弱める傾向があります。
従って、起床時と睡眠時の脳脊髄液の流れの差が
タンパク質量が多くなると小さくなります(556)。
この研究はマウスのケースですが、
人のケースにおいてアルツハイマー病の患者さんでは
起床時に脳脊髄液の流れが速くなります(557)。
これはRyota Makibatake(敬称略)らがマウスのケースで
脳の間質、脳室にタンパク質が多く存在する場合の
Figure 1C,Dで示すように(556)、
起床時と睡眠時の脳脊髄液の流速の差が小さくなることを
示唆するものかもしれません。
これは覚醒と睡眠のリズム、意識レベルの差に
影響を与えるものかもしれません。
特に睡眠の質を決めるノンレム睡眠(Slow wave sleep)は(558-560)
体の修復や再生のプロセスに影響を与えます(561)。
従って、1日の周期に合わせてリズミカルに
意識レベルをしっかり下げた深い睡眠をとる事は
恒常的な健康に影響を及ぼすと考えられます。
高齢期になると睡眠の質が低下する一つの要因は
Ryota Makibatake(敬称略)らの研究で示されたように(556)
脳の実質でのタンパク質の蓄積によって
脳の間質液や脳脊髄液などに混入し、
循環、排出に影響を与える上衣細胞上の絨毛の動きを悪くし、
その結果、老廃物の排出や睡眠に
悪影響を与えている事である可能性があります。
上述したように脳波がゆっくりになると
神経細胞間を伝達する電流信号の波がゆっくりとなり
発火のペースもそれに応じて遅くなります。
その脳波の周波数によって睡眠のステージが区分され
そのステージが入眠から起床までの間
どのような軌跡を描いているかというのが
「Hypnogram」と呼ばれます。
このヒプノグラムで睡眠の質を判断するときには
周期の遅いデルタ波に当たるノンレム睡眠の一番深いステージの
睡眠がしっかりとれているかが一つの指標となります。
覚醒時からこの深い睡眠までの脳波の周波数の差は大きいので
一定の時間が必要だと想定されます。
但し、少なくとも子供の場合は
Gonzalo C. Gutiérrez-Tobal(敬称略)らの研究から示唆されるように
中途覚醒後、急峻に非常に深い睡眠に入るケースは
あるかもしれません(562)。
この章では健康上問題が生じやすい早産の子どもの
睡眠、睡眠の発達について考えます。
Yoko Asaka(敬称略)らは満期産児に比べて
早産児では夜間に起きる頻度が統計的に
有意差があるほど大きくなります(431)。
これは早産児が深い睡眠が
「多くあるいは安定して」とれていないことを
示唆するものかもしれません。
Alicia K. Yee(敬称略)らが示すように
早産の子どもの中でも無呼吸の頻度が高い子供は
脳の機能に問題がある事が示されています(403)。
これらの報告から
睡眠時の無呼吸は多くの睡眠の中断を伴い、
それにより主に夜間に経験するノンレム睡眠が失われ、
そのノンレム睡眠は体の恒常性だけではなく、
成長時の脳、身体の発育にも関わり、
子どもの健康に悪影響を与えている重要な要因の一つである
と想定する事もできます。
Gonzalo C. Gutiérrez-Tobal(敬称略)らは
子どもの閉塞性睡眠時無呼吸
(Pediatric obstructive sleep apnea(POSA))。
これについて報告しています(562)。
以下に、少し掘り下げて内容について記述したします。
小児閉塞性睡眠時無呼吸は睡眠中、気道が閉塞し、
呼吸が停止してしまう疾患です。
寝返りを打てない赤ちゃんの場合は当然、
次の処置は危険性を伴いますが、
少なくとも大人においてはあおむけで寝ると
枕で首を曲げた状態で寝ると気道がふさがりやすくなるため
横向きで寝る事が推奨されます。
これは睡眠障害の中では共通的に見らえる疾患であり、
子どもにおいては
神経認知、行動、発育に影響を与えます。
この小児閉塞性睡眠時無呼吸と睡眠の深さを図るために用いられる
脳波計における脳波測定との関係性については
今まであまり調べられてきませんでした。
5-9歳の294人の子どもに対して一晩中脳波測定を行っています(562)。
閉塞性睡眠時無呼吸の程度が重篤になると
様々な脳波での睡眠に影響を与える事がわかっています。
この研究から睡眠時に数秒無呼吸になることで
呼吸機能を回復させるために覚醒状態に入り、
それによって睡眠時の脳波が乱されると想定されています(562)。
ここでは特に深い睡眠に焦点を当てています。
閉塞性睡眠時無呼吸が重篤な子どもは
デルタ波において0.5Hz以下の異常に低い周波数成分が
相対的に大きくなっています。
この事は睡眠時に無呼吸になる傾向にある子どもは
ノンレム睡眠がとれないのではなく、
健康な子どもではあまり見られないような
異常に深い睡眠が多くなり、
様々なステージの睡眠が健康な人と比べて
全体的に逸脱している事を示します。
(参考文献(562) FIGURE 1より)
この結果は上述した呼吸の問題による中途覚醒が
深いノンレム睡眠を失わせるかもしれないという仮説を覆すものです。
従って、子どもの夜間の覚醒と睡眠の質の問題は
それほど単純なものではない可能性があります。
(参考文献リンク)
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