2023年9月6日水曜日

早産児健康促進の為の包括的情報: (8)腎臓

早産低出生体重児は、
慢性腎臓病に罹患しやすいことが知られています。
小児期に中等症以上の慢性腎臓病を発症した人は、
出生時体重が十分にあった子どもに対して
低出生体重児が約4倍多いとされています(145)。
腎臓はネフロンという構造単位の集まりであり、
そのお子さんが生涯もつネフロン数は
在胎期間と非常に高い相関があるとされています。
これは下述するように腎臓のネフロン数の決定が
妊娠期間中の後期で生じるからであると想定されます。
しかしながら、どのような人が
慢性腎臓病に罹患するかはまだ理解の途上にあり、
腎臓に関する健康診断の手順もまだ定まっていないのが
現状であるとされています(797)。
上述したように医療レベルの向上で
命が助かるお子さんが増える中で
一定割合、早産、低体重で生まれる人がいるのが現状です。
下述するようにネフロン数が決定する前の
超早産で生まれた子供において
通常は分娩後にはネフロン形成は生じませんが、
その不足を補償する一定のシステムが
分娩後に超早産の子どもには生じる可能性が示唆されています。
その様な中で分娩直後の
新生児集中治療室(NICU)において
授乳のタイミングや睡眠の管理など
様々な重要な因子があると想定されますが、
将来、慢性腎疾患のリスクを減らすために
具体的にどのような管理が好ましいかは判明していません。
その様な事がエビデンスに基づいて
明らかになるのには多くの時間を要すると判断されています(797)。
胎児を含めた子どもの疾患を理解するにあたっては
組織の成長に関する分子細胞生物学を基礎として
より詳細に理解する事が大切です。
例えば、肝臓の再生を初め
組織の成長に関わる代表的な成長因子として
肝細胞増殖因子(HGF)があります。
これが新生児の成熟の一つの指標、因子となっています(798,799)。
細胞、その集まりである組織、臓器の形成は
このような増殖因子だけではなく
免疫細胞を引き付けるケモカインや
サイトカインの一種であるインターロイキンなども関わっています。
このような組織形態発生の機序の理解は
まだ発達途上にあると理解しています。
なぜなら、生体外のオルガノイドでは
完全に生体内のシステムを再現できないからです。
早産児健康促進の為の包括的情報における腎臓の章にあたっては、
細胞の動き、接着などを含めた
腎臓の組織学的な形成機序にも踏み込んで説明いたします。
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腎臓には血中の老廃物をろ過して、その排出の為、尿を生成する
ネフロンと呼ばれる組織があり、
肺の肺胞のようにそれが構造単位となって
左右の腎臓それぞれの100万個以上存在します。
腎臓病罹患率は成人全体で8人に1人といわれており、
80歳代では2人に1人と言われています。
腎臓病の程度はGFRや血漿クレアチニン濃度などによって
決まっているのですが、
上述した左右の腎臓にあるろ過のための
構造単位であるネフロンを基準に考えると
John A. Kellum(敬称略)らがFig.2で示すように(71)、
正常に機能しているネフロンの割合が
おおよそGFRや血漿クレアチニン濃度と関連して
減少していきます。
腎臓というのは構造的に複雑な臓器なので
幹細胞を使って人工臓器を作って移植する事は難しく
透析などで治療が難しければ、
最終的には腎臓移植になると考えられます。
しかし、ネフロンが機能不全になるかならないか
その閾値、境界は臓器形成に関わる組織学的観点で考えると、
生体内への幹細胞への供給、
あるいは幹細胞由来の細胞外小胞のそれによって
機能不全になる閾値、境界の位置は変えられるかもしれません。
細胞自身は入れ替わるとされており、
肝臓や皮膚などのように再生機能の高い臓器、組織もありますが、
腎臓でもその入れ替わりがあり、
肝臓のような再生性は期待できませんが、
医療的な介入によって
その再生、維持能力を幾分か向上させる事ができるかもしれません。
機能的なネフロンの割合が関係するならば、
腎臓病であるかどうかは
簡単には2分化できず、漸次的変化の特徴がある
と想定できます。
そのグレーゾーンを動かし、
今まで腎臓病と診断されていた人の一部は
予備軍にシフトするようなことができないか?
現時点ではそのような観点を持っています。
一方、
胎児においては満期産児の場合は
在胎期間37週から40週の間に分娩を迎える事が基準となります。
Megan R. Sutherland(敬称略)らによれば
その直前である在胎期間約36週に
最大のネフロン数となり、
ネフロン形成は完了すると言われています(72)。
つまり、参考文献(72)のFig.2で示されるように
ネフロンは出生後には増殖しないと考えられています。
その理由としては
腎臓が正常な機能を果たすためには
構造が複雑な腎臓において数や配置が重要です。
それが出生後も続くとなるとそのシステムが乱れる事になるため
腎臓の不全につながることがあるからです。
ネフロンの増殖はホルモンの影響を受けるとされていますが、
出生後は、そのホルモンによるシグナルが減少し
新しいネフロンの形成が制約されます。
しかしながら、早産児に限っては
糸球体生成は出生後40日まで続いたという報告があります(75)。
特に妊娠後期に多くのネフロンが形成される
と言われていますので
上述した早産の場合、ネフロン数が減少する
可能性もあります(72)。
この記事で問題にしている様に
早産では胎内での臍帯血を受ける機会の一部が
失われますから、脳神経などと同様に
36週までに腎臓形成が生じ、
それ以前に分娩されれば、
腎臓形成が未熟な状態で外界へ出生されることになります。
早産では腎臓の成長が阻害され、
母親の臍帯血の幹細胞によって生成すると
考えられているネフロンの数が
減少する結果となります(72,73)。
このような腎臓の組織形成のタイミングにずれがあると
成長初期などを含めた微生物などを含めた
有害な物質に対する暴露に対する耐性が低くなる
懸念があります。
それによって腎臓の健康が脅かされ、
ライフスパンの中で慢性腎疾患のリスクが高まってしまう
という懸念があります(72)。
ネフロンが少ないという事になれば、
先天的に老廃物をろ過するための糸球体の表面積が減少し、
その機能が低下する事が考えられます(72)。
従って、早産や低体重児においては
全ての子どもではないものの、
少なくとも一部の子どもに対しては
将来的にエビデンスや安全性が揃う条件下において
特に生後すぐの段階で腎臓の組織形成の補助ができるか?
それを現段階で検討する余地があります。
人の初乳には多くの幹細胞が含まれることが
すでに示されており(25)、
少なくとも脳神経においては
初乳の授与により、その成長が促される
ことが示されています(70)。
腎臓のケースでは特に初乳に限っては
人に関する報告は見つけられませんでしたが、
豚においての腎臓では脳や心臓のように
初乳特異的な高さを持つ組織の元となるタンパク質合成は
確認できなかったものの
授乳する事で、それがないよりも
腎臓形成の為のタンパク質合成が多かったことが
確かめられています(79)。
実際に臍帯血には多くの幹細胞があり、
母乳の特に初期には多くの幹細胞が同様にあり(25)、
このような幹細胞は組織形成、臓器形成に関わる
再生医療においては鍵となる物質です(80)。
従って、臍帯血、初乳に多く含まれる幹細胞が
それぞれ臍帯や消化器を通して
お子さんに供給されるわけですが、
その時の腎臓を含めた臓器形成にどのように影響を与えるか?
それについて調べることは
少なくとも一定の意義があると考えられます。
一方で、
幹細胞がそれに与える影響と
それを含めた腎臓形成が細胞レベルで
どのように段階的に進んでいくか?
それについて理解する事は重要です(76)。
腎臓の臓器形成について詳しく掘り下げていきます。
それは、腎臓に限らず子どもの臓器形成の基礎となり、
腎臓形成不全を持つお子さんの
将来的な医療介入の為の研究につながる可能性があるからです
哺乳類の腎臓の発達は
一般的なコンセプトとして
◎上皮間葉相互作用
◎誘導的な信号伝達
◎上皮細胞極性
◎分岐形態形成
これらがあります(76)。
上皮間葉相互作用では
上皮の尿細管が腎臓の主要な動脈ルートである
背部大動脈方向に分岐形態形成しならが伸びていきます。
従って、組織成長する必要がありますから
その為の細胞供給、増殖、分化が必要です。
この尿細管の分岐形態形成のためには
近くの間葉系細胞が関連します(76)。
従って、臍帯血や母乳の中に含まれる
間葉系幹細胞はネフロンの尿細管の形成において
重要な役割を果たしている可能性があります。
このような間葉系細胞は
新しく分岐形成された細管の先端に凝集します。
(参考文献(76) Figure 2より)
(参考文献(77) Fig.4より)
これがどのような受容体によって
先端に固定されるか?
その一つはNotchタンパク質、リガンドです。
間葉系細胞が凝集するときの間葉系細胞間の接着は
一般的に細胞間接着因子である
カドヘリン6が関係しているかもしれません(77)。
このような組織内での細胞の移動、接着においては
◎インテグリン
◎カドヘリン
◎免疫グロブリンスーパーファミリー
◎セレクチン
これらなど細胞接着因子(CAMs)が表現型を
周辺環境の影響を受けて変えながら
系統的に機能している可能性があります。
このような接着因子の作用により、
先端に凝集した後、
間葉系から上皮系の細胞に転換し、
それが尿細管の組織になって
背部大動脈の方向へ誘導されて延びていくと考えられます。
このような組織形成には
どのような方向に、どれだけの長さで
尿細管が間葉系細胞からの転換を受けて
行われるか?という事が重要であり、
それに関わる信号伝達があります。
RET、Gdnf、GFRα1などが関わり
EPKが活性化する事によって分岐や増殖が生じます。
これらを含む信号伝達の中で
間葉系幹細胞を含む幹細胞の局所貯蔵(プール)は
その細胞の分化、生死、再生において
精緻なバランスを必要とします。
もし、細胞の分化が非常に速い状態であると
自己再生が過剰になり、
結果として、小さく、未熟な腎臓になってしまいます(76)。
従って、ネフロンの成長不全が生じる場合には
臍帯血や母乳由来の幹細胞の供給だけではなく、
それが生着した後の周辺の遺伝子的な信号伝達のバランスが
健全な組織形成のためには大切であるということです。
前述したように腎臓は多能性幹細胞を通じて
人工的に作られる臓器の最後になるかもしれない
といわれるほど組織的に複雑です。
特に糸球体の構造は組織が複数の層で離れて重なり合い
複雑に湾曲した構造となっています。
その組織形成は4つのステージに分けられるとされています(78)。
非常に簡略的な解釈になりますが、
以下にその概略を説明します。
基本的に血液は糸球体係蹄壁などを通じてろ過され
その後の経路となる内腔の管組織の一部である
糸球体の上皮細胞は上述した尿細管につながりますが、
この糸球体の上皮組織の形成、形状が複雑で
1つの目的としてろ過機能を上げるために
小さい空間内で体積を大きくとるため
入り組んだ形で管上組織として曲げる必要があります。
(参考文献(76) Figure 2より)
その曲げるために必要なきっかけとなる物質が
円状の「Renal vesicle」です。
これも細管と同じように間葉系細胞から生じるとされています。
上述したように細胞極性は
細胞の動的機序の中でそのベクトルが非対称で
任意の方向性を持つ事を意味します。
これは特定の信号に従って、
任意の細胞の連結を示す組織の形を決めるものである
という風に捉える事ができます。
上述したように細胞接着に関わるカドヘリンや
間葉系から上皮系の形質に細胞が変化するJNK経路は
細胞の極性、組織の形を決める上で重要です(76)。
また、組織の抹消部にはNotchとリガンドが形成され
これも組織の形や大きさにおいて重要です。
大人になれば、あるいは成長中の子どもでも
脳や臓器の大きさは制御されています。
大人であれば脂肪の付着などを除いては
その大きさが劇的に変わる事はありません。
そのような形、大きさの成長速度、維持は
上述した
尿細管の伸長に関わるEPK、
末端部に存在するNotch受容体、
間葉系細胞から上皮細胞に変換するJNK経路、
あるいは間葉系細胞の凝集に関わるカドヘリンなどの
発現量が絶妙に調整されることによって
その機能の一部を担っている可能性が考えられます。
従って、身体の小さい低体重児や早産児においては
その体に合わせた形で
脳、心臓、肺、肝臓などの他に
ここで議題にしている腎臓においても
その形、大きさ、成熟度が過渡的に決まっていると考えられます。
今述べた様に腎臓のネフロンの成長のためには
その構造的な材料となる間葉系幹細胞の供給は
恐らく不可欠ですが、
それと同時にその成長や形を決める
上述した細管分岐形成、細胞接着、形質転換、末端部固定などに関わる
信号のバランスや
組織にプールされた幹細胞の分化、生死、再生の
バランスを決める信号、
アルギニン・バソプレシン、副甲状腺ホルモン、カルシトニン、
βアドレナリンカテコールアミンなどのホルモン(74)など
重要な因子は多岐に及びます。
例えば、子宮内の妊娠後期に腎臓が発達すると言われています。
その時期に早産によって体外に出たとすると
同じ大きさの赤ちゃんが子宮内にいる場合と
体外に出ている場合が存在します。
もし、身体の大きさにある程度比例する形で
腎臓などの臓器の大きさが決まっているとするならば、
それに付随した上述した
幹細胞の分化、生死、再生、組織の形、大きさを
決める様々な信号のバランス
成長を駆動するホルモン量などが類似しているか?
それについて問いかける事は意義があります。
言い方を変えれば、
早産によって早く体外に出た場合、
それらの信号のバランスが胎内にいるときに比べて崩れる事はないか?
ホルモンの量は成熟の為、十分分泌されているか?
そうしたことを臓器形成を補助する上で考える必要性が出てきます。
このような多面的な機序が存在する腎臓形成について考える事は
他方において、
幹細胞を使った人工の腎臓の形成を成功させる上において
必要になる事だと考えられます。
また、臓器は成熟した時には
成長因子や化学物質を放出したり、
細胞間でコミュニケーションを取る、
神経的なシグナルによる関与を受け
組織の成長をストップさせるような機序がある可能性があります。
もし、予め胚の状態から腎臓の大きさ
それに伴うネフロンの数の到達予定数があって
多少の外的要因による後天的な擾乱を受けながらも
一定の揺らぎの元、成熟のセットポイントがあるならば、
何らかの要因で早産というイベントが生じた時に
そのセットポイントに従って、
通常は起こりにくい出生後も
ある一定期間、ネフロンの生成が続く
ということかもしれません。
そうした場合、初乳には幹細胞が多く含まれていますから
特に早産で生まれた赤ちゃんに対しては
その予備的な成長機会を失わないために
初乳を含めた授乳を特に初期に関しては
適性に行う事が腎臓の発達において
非常に重要な意味を持つ可能性があります。
上述したように28週以降の妊娠後期に
腎臓の基本的単位であるネフロンの数が
急速に増えるとされていますが、
実際には妊娠中期の15週目あたりから
少しずつネフロンが形成され始めます。
その準備段階としての分岐形態形成は
妊娠初期の5週目あたりから生じます。
(参考文献(72) Fig.2より)
ネフロンの数によって腎臓全体の糸球体のろ過表面積が変わりますから、
それによってその後の人生における
様々な組織の炎症因子に対する強靭性は変わります。
機能しているネフロンが多ければ、
当然、それが高くなると考えられます。
しかし、ネフロンの数には個人差があり、
生後3か月の時点では
24万個から110万個の約4.5倍程度の開きがあります(79)。
上述したような腎臓の組織形成に関わる信号伝達を決める
遺伝子の多形や変異によって
人のケースでもネフロンの形成の基礎となる
分岐形態形成やそこからのネフロンの形成に
影響を及ぼすとされています(79,80)。
このような信号は子どもが子宮内にいるときには
その子宮、それを支える母体の影響によって
後天的に変わる事もあります。
◎栄養摂取(主要栄養素、微量栄養素)
◎喫煙
◎アルコール摂取
◎免疫調整剤投与(グルココルチコイド)
◎薬物暴露
◎母親の健康状態
◎子宮の機能
これら多彩な因子がネフロンの形成に影響を与える
可能性があるとされています(81-87)。
このような生活習慣、薬物治療、母親の健康状態などによって
子宮内にいる子供の腎臓形成に影響を与えると
考えられていますが(72)、
早産児を含めて、出生後においても
急性腎疾患にも注意を払う必要があります(88)。
早産児はあらゆる臓器が未発達の場合が想定され、
それらの臓器は出生後も発達する可能性はありますが、
外界へ出た瞬間に、母親から切り離され、
NICUなどによって調整しやすい環境ながらも
呼吸、血圧調整、消化などを自立的に行う必要があります。
腎臓においてもそれは同じです(72)。
従って、上述したように
急性腎疾患などのリスクを想定する必要があります。
例えば、疫学的には
在胎期間29週以下では45%、29-36週では14%と言われています(88)。
急性腎疾患の診断は
発生のタイミングは生後4週間くらいまでが
最も起こりやすいとされていますが、
この期間は診断因子の一つである血漿クレアチニンレベルが
参考文献(88)のFig.1のように安定しないという問題があります。
従って、診断のためには
◎尿量の減少、色、血圧、浮腫
◎尿のタンパク質、炎症マーカーの分析
◎クレアチニン、尿素窒素
◎超音波による腎臓の異常分析
◎尿路造影や核医学検査
これらなどを小児腎臓専門医のチームによって
総合的に判断されるとされています。
ここで詳しく述べた背景としては
前述したように早産児においては半月から長くて3か月くらい
在胎期間が短いことになりますが、
出生後、本来なら胎内で腎臓が37週時点で成熟していた期間内に
外部環境で急性腎疾患が多いという情報があるからです。
その期間、NICUに入って、授乳が行われると思いますが、
初乳にはおそらく腎臓の成熟までの成長における
幹細胞などの重要な成分が多く入っているため(25)、
その授与が円滑に行っているかどうかが
臨界的な時期にはありますが、
急性腎疾患のリスクに影響を与えるかもしれないと考えたからです。
しかし、調べた結果、明確なエビデンスは得られませんでした。
前述したように早産児においては
ネフロン生成は分娩後も生じますが、
それは2-68日程度であり、
そのいわゆる「補償効果」は
年齢が一致する子宮内にいる胎児に比べて短く、
完全ではありません(107)。
この事は臍帯血の供給や子宮内の環境による
ネフロン生成に関わる多くの要素が
仮に授乳によって補償されたとしても
欠けているものがあることを示すものかもしれません。
これからの早産の母親に過剰なストレスを与えるつもりではないし、
むしろ、今後、より良い初期の授乳を現場の医療スタッフを含めて
私にはないその経験をもとにして考えてほしいという観点から
今からそこについて詳細に切り込んでいきます。
初乳の出るタイミングと量には個人差があります。
通常産後、1~3日目と言われ、
出産状況により1週間ほどかかると言われています。
また、分泌量も人それぞれです。
先ほど、早産児の分娩後のネフロンの生成に開きがあるという
報告を提示しました。2~68日です。
在胎期間にもちろんよりますが、
それが顕著に短い早産児においては
多くの場合、ネフロン数は少なくなることが想定されるため
出産後のネフロン生成を如何に長くとれるか?
という事は重要な問題になると思います。
そのネフロン生成は分娩後のすぐの過渡期の
赤ちゃんに対する授乳をどのように行うか?
これが一つの重要なコンポーネントである可能性があります。
ただ、これにはまだエビデンスがありません。
しかし、上述したことを総合的に考えると
私と同様の仮説を立てる人はいるはずです。
実際にKatsumi Mizuno(敬称略)は
早産では乳汁来潮が遅れる事がありますが、
産後1時間以内にさく乳したお母さま方は、
予定通りの時期に乳汁来潮が起きたとされており(108)、
できるだけ早くさく乳を始めることが大切であると述べています(109)。
また、早産があった時には
お子さんだけではなく、母親の心のケアも考える必要があります。
その際、低中所得の研究では
カンガルーケアによって産後うつのケースが低くなるかもしれない
ということが統計的な信頼性を上げる余地が残されているものの
示されています(110)。
また、ここで腎臓の形成において問題にしている
乳量の多さ(111)、授乳の長さ(112)にも関係します(109)。
これらの報告は早産児における分娩直後が
腎臓のネフロン生成の過渡期として
如何に重要であるかという事を直接的に示すものではありませんし、
それを特異的に調べるためには
長い期間を掛けたフォローアップ研究も含めて
綿密に条件を考えて、臨床研究を行う必要があります。
しかし、その結果が出るまで待てないはずですから
すでに、早産児において
現場の感覚として、授乳が大切である
というものが医療スタッフにあるのであれば、
それを母親、子どもの心身の安全性に配慮しながら、
より詳細につめていくことは大切かもしれません。
なぜなら、大切なのは腎臓の形成だけではなく、
脳神経を含めた全身であり、
特に臨床報告で新生児の健康の指標として
世界保健機関(WHO)が行った、
低中所得国のカンガルーケアの効果において挙げられているのが
乳幼児の死亡、低体温症、敗血症です(110)。
従って、その後の広範な健康状態や、命に関わることです。
敗血症は壊死性腸炎とも関連があります。
この壊死性腸炎は早産児に起こりやすい疾患です。
当然、腸炎になるということは
腸の組織が十分に発達していない事も関連しているでしょうから
腸のバリア機能に不全があると想定されます。
そうした場合、
細菌がバリアを超えて内側に存在する免疫機能を惹起させ
炎症反応の原因となったり、
直接的に血液内に侵入する事で敗血症に繋がると考えられます。
しかしながら、
腎臓も含めて、腸や脳の発達に
早産児では問題になるケースがあるわけですが、
そのように組織の異常が「想定される」という事に留まります。
その明確なエビデンスを得るためには
できれば生存した状態での人の
単一細胞種レベルでの解析手法が欠かせません(114-117)。
このような解析手法が非侵襲で
早産児に連続的に適用することができれば、
実際に肺の気管支異形成症や虚血性脳炎などを発症している
即時の治療が必要な早産の新生児は特に
有望と考えられる臍帯血の単核細胞、幹細胞治療において
臨床前の動物実験で確かにこれらの症状は緩和したけど
人のケースでは顕著な結果が
それらの機能を示す「即時的な数値」としては
コントロール群に対して統計的に有意差がないとなった時に(8)、
「では、組織レベルでの解析ではどうか?」
という別のアプローチで臨床結果として評価することができます(114-117)。
この組織的な事を含めたエビデンスを得る事は非常に重要です。
新たな発見があるかもしれないし、
どのような細胞を用量、タイミングを含めて投与するのが
一番、広範に健全な成長を補助できるか?
ということを示すための一つの足掛かりになる可能性もあります。
前述したように
いずれにしてもこのような研究を臨床に適用していくためには
10年規模の時間がかかる可能性があります。
今できることとして重要なのは
早産の新生児に対して、
できるだけすぐに授乳をすることが重要かどうか?
その判断であり、もしそうであるとするならば、
お母さんの心の負担にならない形で
どのようにそれを実現するか?
それを医療スタッフが考える事だと思います。
もちろんその責任を現場のスタッフに丸投げするのではなく
例えば、私のケースで言えば、
この記事をより充実させる事で
様々な職種の医療スタッフに不足しているかもしれない
基礎総合医学的な信頼性のある情報を提供していく事です。
すでにその一部は実現していると信じています。
また、「Human BioMolecular Atlas Program」は
アメリカ合衆国を中心に進められていますが、
この知見は、人の延命など夢のあるテーマだけではなく、
早産児の健康ギャップを埋めるものに
少なくとも私はつながると想定しています。
新生児医療に携わる医療スタッフの方々は大変かもしれないですが、
様々なところでつながっています。
前述したように、
腎臓の機能はネフロン数だけで決まるわけではありません。
ネフロンの中の比較的大きな視点でいれば
糸球体のろ過後の液体を受け取るC字型の腎小体が
通常よりも大きかったり、小さかったりすることで
ろ過機能に異常が出ます。
また、糸球体の毛細血管が上手く形成されない事によって
ろ過量が低下する事も考えられます。
このような異常が、ネフロン単体で見た時に
早産児で生じる可能性があります(118)。
また、より微小な視点では毛細血管から尿細管に通じるまでの
ろ過する複数の層があって、それをポドサイトと呼びますが、
例えば、早産の新生児は上述したように
壊死性腸炎のリスクが高く、
腸には多くの免疫機能が集まっていますから
免疫機能に異常が出やすい状態です。
それによるサイトカインやショックによって
p38-MAPKが高まり、炎症反応を促進させる事がある一方で、
このp38-MAPKがなくなると
免疫応答が弱まり、組織修復が遅れ、
オートファジーの低下なども考えられます。
つまり、p38-MAPKは細胞の基本的な機能に関わっています。
一酸化窒素を含めた血管拡張作用のあるGC-Aが共に欠損していると
腎臓のポドサイトのろ過機能が低下することが確認されています(119)。
一般的にGC-Aは一酸化窒素を介した血管拡張作用に関与し
腎臓のろ過機能に影響を与えていると考えられています。
実際に、高血圧は慢性腎臓病のリスク因子の一つです(120)。
なぜ、そうなるか?
その少なくとも一つの要因は
高血圧になると毛細血管壁に対する機械的ストレスが高くなるからです。
腎臓は毛細血管壁にポドサイトがあり
このような機械的ストレスに対する感受性が高いと考えられます。
従って、ポドサイトは損傷しやすい状態になると考えられます。
それによって腎臓のろ過機能が低下する事が想定されます。
一般的に血管拡張作用のある一酸化窒素は
血圧を適正に調整する機能がありますから
それに関与するGC-Aは重要なはずです。
このGC-Aが欠損し、かつ細胞の再生機能などに関与するp38-MAPKも欠損すると
おそらく免疫系の過剰な反応による炎症よりも
ポドサイトの基本的な細胞の機能、
血管拡張作用低下による機械的ストレスの方が
負の影響が大きくなり、
腎臓の機能に影響を大きく与えてしまうものであると考えました。
これはネフロン単体で見た時のろ過部の微視的な視点に焦点を当てた
循環器学、細胞生物学による腎臓の機能の低下について考えるものです。
少し研究報告の参照に当たって、
内容は腎臓の基礎医学に関する一般的な内容になりましたが、
早産児の腎臓の機能を考えるにあたっては、
ネフロン数も重要ですが、
前述したモデルに基づく
1つ1つのネフロンの構造的な完全性や
それを取り巻く循環器などの条件も重要という事です。
ネフロン形成に関わっているホルモンのうち
胎盤由来のものがあります。
エリスロポエチンやインスリン様成長因子です。
子宮外に出れば、授乳があったとしても
胎盤由来のこのようなホルモンの一部を
十分に体に取り込むことができない可能性があります。
また、早産児は基本的に組織不完全性から
免疫的な作用を含めた炎症性が高まっている状態にあります(121)。
現時点で消化器や皮膚などと共生する微生物が
腎臓の形成に直接的に悪影響を与えているかどうかについての
特定の結果はありませんが、
Alexander Humberg(敬称略)らの総括(121)から
総合的に考えると一つとして敗血症様の症状を含めて
免疫炎症的な作用によって腎臓の組織形成に不全が出る可能性が考えられます。
例えば、染色体21番がトリソミーになるダウン症候群があります。
これはインターフェロン受容体に関わる部分で、
インターフェロンは免疫系と大きく関与する部分であり、
ダウン症候群の人は炎症反応が起きやすいとされています(122)。
従って、広範な免疫抑制作用を持つJAK抑制剤が
下流経路の対策として候補となる事から
ダウン症候群の人に対する臨床試験が行われているところです。
このダウン症候群の人はやはり
遺伝的な病気で、胎児、新生児の時からそうであることから、
腎臓に組織異常、機能障害が出るケースが多いです(123)。
ダウン症候群の人が経験する組織障害は
1つとしてインターフェロンの異常が原因として考えられますから
それと密接に関わる免疫系が影響を与えている可能性があります。
もし、そうであるとするならば、
早産児においても免疫機能と密接に関わる
腸の組織の不全によって生じる壊死性腸炎などによって
早期に、炎症性の免疫形質がインプリントされると
その後の組織形成に影響を及ぼす可能性があります。
上述したように早産児の腎臓形成の一部が
出生後に生じるとするならば、
そのような免疫系の炎症によって一部、
腎臓の組織形成異常が生じている可能性が考えられます。
それはネフロン数だけではなく、
1つ1つのネフロンの構造的完全性に関わるものです。
このような異形成は
ネフロン中の糸球体内部構造や周辺構造だけではなく
尿細管にも及び、異形成が生じます(125,126)。
上述したようにポドサイトの損傷も早産児において想定されますが、
その数を示すバイオマーカーであるmRNAの分析により
在胎期間とポドサイトの数は負の相関があることが示されました(127)。
結果として早産が生じるという事は
早く胎内から外界へ出るという事だけではなく、
胎内にいた時にも様々な子宮内、母体の異常が生じていたという事です。
例えば、妊娠高血圧腎症、羊膜炎、胎盤の不全などが挙げられます。
これによって、胎児に対して酸化ストレスが高まる、
炎症によって腎臓を初め、様々な組織の成長に悪影響がある、
胎盤からの適切なホルモン、内分泌物の異常があるなど
腎臓の成長を妨げるいくつかの要因が生じると想定されます(128-132)。
早産のリスクがある妊娠女性には、
典型的にはグルココルチコイドが処方されます。
その理由は、胎児の肺の成熟を早め、
早産が生じた時に未成熟状態により呼吸困難に陥らないように
呼吸機能を組織形成促進により胎内で高めるためです。
それにより実際に生存が高まったという報告もあります(133)。
しかしながら、一方で、このような免疫抑制剤は
同様に腎臓の成熟も早め(134,135)、
特に妊娠中期から後期にかけて過渡的に増えていく
到達ネフロン数が減少する事が報告されています(136)。
腎臓のろ過機能は毛細血管の外側にいくつかの組織層を作って
それによってろ過し、尿細管へ排出する事ですが、
もともと、腎臓は胎内でおおよそネフロン数が最大値に達する事が
報告されています(参考文献(72) Fig,2 Nephron endowment)。
従って、低い酸素濃度と低い血圧の状態で成長する事が通常であり、
早産によって腎臓が未成熟の状態で外界に出ると
酸素飽和度と血圧が上昇し、
それによって糸球体にかかる機械的なストレスや
酸素ストレス、その他、栄養供給、免疫の状態なども
変わると想定されることから
その後も一定期間、腎臓の成熟があるとすると
その環境は少なくとも最適ではないと考えられます(72)。
実際に新生状態のマウスでは
酸素を補充すると生後のネフロン生成において
悪影響があったことが示されています(137)。
また、Megan R. Sutherland(敬称略)らがFig.3に示すように(72)、
早産の新生児は細菌感染のリスクが高いですから
ゲンタマイシンなどの抗生物質が投与される事もあります。
これが副作用として腎臓に有害であることが示されています(138-140)。
また、早産児で診られる場合がある動脈管開存症に対して
その閉塞を促すためにイブプロフェンが投与されますが、
これも腎臓毒性があります(138-140)。
このような薬剤による腎臓毒性にはSLC22ファミリーである
OAT1が関わっていて、これを抑制することよって
血中の薬剤濃度を上げ、腎臓による代謝を減らし、
薬剤の腎臓毒性を下げる働きがある事が示されています(153)。
腎臓において代謝や体液の調整に欠かせないα-ケトグルタル酸に
有機アニオン輸送体OAT1が結合することによって
腎臓での薬剤排出が促進されますが、
OAT1を抑制する事によって薬剤の腎臓毒性を下げられる可能性があります(153)。
このような薬剤に対して腎臓毒性を如何に減らし
薬効を高められるかというのは一方で非常に重要です。
上述したように早産児の腎臓形成の不全によって
急性症状としてタンパク尿が生じる事が
少なくとも生後1カ月ほど続くことがあります(72)。
また、上述したように急性腎障害を発症する確率も
疫学的に決して低くはないですが、
それだけではなく、その後の長い人生の中で
慢性腎疾患に罹患する確率も高くなります。
腎臓における糸球体の機能と腎臓疾患の発症に関連する
重要な仮説としてブレナー仮説があります。
イギリスの腎臓学者であるバリー・ブレナーによって提唱されました。
その仮説によると
腎臓のネフロン数が少なくなった状態でも
血液から尿へ老廃物を排出するストレスが
人それぞれであまり変わらないとすると
その一定のろ過需要に対して
ネフロン数の不足を補おうとするシステムが働くというものです。
存在する糸球体や尿細管が肥大する事もあるということです(141)。
しかしながら、それで補えない部分においては
腎臓のフィルタリング率が高まるため
糸球体内のポドサイトに長期的に強い負荷がかかり
慢性的な炎症や線維化などの病態に進行する可能性がある
とされています。
また、低体重児は大人に成長した時の
肥満、糖尿病、高血圧症のリスクを上げるという
疫学結果があります(142,143)。
これらは腎臓の機能を低下させるリスク因子で
少ないネフロン数の負担をより増加させてしまいます(144)。
また、逆に糸球体に負荷がかかる事によって
組織の炎症や線維化などによって
糸球体のフィルタリング効率の低下から生じる
高血圧症も考えられるので(145)、
特に、ネフロン数が少ない、
あるいはネフロンに異形成がある低体重児においては
その後の腎臓機能の定期的な管理と
生活習慣にも関わる肥満、糖尿病、高血圧の管理も重要になります。
これらが併存すると負の循環につながる恐れがあるからです。
実際に疫学的に低体重児が慢性腎疾患のリスクが高まるか?
それについて全国的な研究が様々な国で行われています。
例えば、
ノルウェー、フィンランド、日本、
アメリカ、オーストラリア、スウェーデン
これらなどです(145-152)。
1.7倍から最大で4倍リスクが高まると言われています。
世界保健機関は慢性腎疾患に対して
生涯にわたる予防的な処置の重要性を謳っていますが、
早産児においては、
冒頭で述べた様に妊娠満期を迎えられるような
妊娠管理手法がいくつか存在します。
それは根本的な対策になります。
また、早産児に対する出生後
できるだけ早期の授乳の効果がどのように影響を与えるか?
それについての臨床研究も必要です。
将来的には幹細胞による医療介入も考えられます。
また、腎臓の疾患に対する効果的薬剤開発なども挙げられます。
WHOの提唱の通り、予防的な処置として
肥満、高血圧、糖尿病などにならないような
健康的な日常生活も重要になると考えられます。

(参考文献リンク)  

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