2022年9月25日日曜日

薬剤送達動態を光で解析するための考察

細胞外小胞や合成ナノ粒子を使った
ナノ医療の主要な目的は
標的部位に特異的に薬剤を送達することです。
その中でナノオーダーの技術も必要になります。
それを臨床で応用させていく際には
「本当に標的治療が実現されているか?」
それを解析によって確かめる事は
(何らかの方法で)必須です。
そこが明らかでないまま開発が進んでいくと
どこかで行き詰まる事が考えられます。
予期しない重要な発見も見落としてしまいます。
細胞外小胞や合成ナノ粒子の
物質としての設計はもちろん重要ですが、
それをどのように解析するか?
というのは同じくらい大切です。
その中で
薬剤が本当に標的部位まで特異的に届いているか?
これを、本日紹介する光や
遺伝子などによるラベリング技術などを含めて
何らかの方法で解析する必要があります。
--
その中で、
細胞外小胞や合成ナノ粒子が
体内でどのような薬物動態を示しているか?
体内でどのように広がり、
本当に標的部位に特異的に到達しているか
調べる一つの方法は
それらの送達媒体を自発的に発光させる
ということだと考えます。
特に
細胞外小胞は複雑性を有しますが、
様々な受容体があるので、
その受容体に蛍光発光する物質を結合させて
その蛍光発光を見るという事が考えられます。
実際に細胞外小胞で追跡する研究が
Abir Mondal(敬称略)らによって示されています(6)。
一方で
Daisuke Ino(敬称略)らは
オキシトシンに対して
マウスのケースで脳にカニューレを差し込んで
サイト特異的にオキシトシンの蛍光発光を
確認しています(1)。
この時に重要なのは
安定的な結合親和性と、
リガンド特異性、
結合による下流経路の最小化、
蛍光発光の寿命の長さ、
これらです。
生体内での蛍光発光を安定的に評価するためには
これらの特性基準があります。
特に細胞外小胞の場合は選定できる表面受容体が
体内にある自然の受容体と一致、類似するので
そこから適切な結合因子を見つける事において
自由度が高く、有利かもしれません。
このように侵襲すれば、
生体内でのその場解析が可能になるかもしれない
ということです。
--
一方、
細胞内の信号の伝達物、セカンドメッセンジャーである
Caイオンを発光させて、細胞内の挙動を
可視化する研究もあります。
Wenchao Zhu(敬称略)らは
その蛍光発光効率を高めています(2)。
実際に細胞外小胞、合成ナノ粒子内に
Caイオンに反応する蛍光物質を入れておいて、
それを透明なゼブラフィッシュに注入する事で
細胞外小胞内のCaイオンによって
小胞が光った状態を維持し、
送達経路を時空間で可視化することができるか?
しかし、
実際にエクソソームの数と
蛍光発光させる物質の量を考慮に入れた時に
手順として現実的なものになるのか?
という視点も私にはあります。
結果では細胞一個の発光を見ているので
それくらい多くの数の小胞に入れる事が
多くの労力を有することになってしまい
非現実的なのか?
そこは私は未知ですが、
「細胞を光らせる事ができるならば、
細胞外小胞を光らせる事もできるのか?」
と考えました。
例えば、細胞内に蛍光物質を入れたら
ある程度、カルシウムイオン依存的に
エクソソーム内にそれらの蛍光物質が
含まれるということがあるかどうか?
それができれば、少し労力は軽くなるかもしれません。
一方で、
労力の問題は脇に置けば、
細胞外小胞や合成ナノ粒子内に
蛍光物質とカルシウムイオンを
同時に封入させることもできます。
重要なのは、カルシウムイオンや
蛍光物質が細胞外小胞や合成ナノ粒子に
守られて、外に流出せず
小胞外で偽発光しないような
システムを組めるか?ということです。
血中にもカルシウムイオンがあるため
特に蛍光発光の物質の小胞内の
閉じ込めが可能か?ということが重要です。
そういった視点もあります。
--
一方で、
Naoki Watanabe(敬称略)らによって開発された
多重高密度標識超解像顕微鏡IRIS
という解析方法があります。
解離速度の速い抗体を使い、
結合・乖離を繰り返す中で
多重解析することによって
分解能を数十nmまで下げる事を可能にしています(3-5)。
こうした方法はより細かい領域で
高解像度の分析をすることで
サブ細胞レベルの解析が可能になると考えられますが、
それよりも大きい組織や臓器全体を解析しようと思った時
現実的な時間で解析できる視野の問題で
適していない可能性があります。
しかしながら、
同じ方式で分解能を下げて荒く分析する事で
この測定法のメリットを生かしながら、
より広い視野での解析が可能になるかもしれません。
--
これらを総合的に考えると
細胞外小胞や合成ナノ粒子を
生体内で追跡していくか?を考える場合において
細胞外小胞やナノ粒子を
どのように発光させ、可視化するか?
この時には必ずしも「人の眼の」可視光である
必要はありません。
そしてそれをどのように検出するか?
これらの事に収斂します。
一般的に顕微鏡で高精度に観察してく時には
対象物に対してレンズを近づけていく必要があるので
生体内で観察していく際には
対象物との間に存在する組織による
隔たり、距離によって
ある程度制約をうけてしまいます。
多重に解析したり、
その中でコンピューター解析を組み合わせることで
そうした制約の一部は解消されるかもしれません。
また、
検出器を組織内に侵襲させる事で
組織深部の解析をすることが可能です。
しかしながら
エクソソームの大きさは100nmくらいで
人の身体の大きさは1mを超えます。
人の循環器の中での
エクソソームなどの薬剤の振る舞いを
観察しようと思ったときには
理想的には、
7桁のダイナミックレンジが必要となります。
従って、
エクソソーム、合成ナノ粒子一つ一つを
高精細に取りながら、
身体全体での薬剤の動態を可視化して
観察していく事は現実的ではありません。
また、生きたまま、そのまま、
その場観察する事にもいくつか制限があります。
人の場合は光が透過しにくいため
その点での限界もあります。
上述したこと以外に
対象物が動くことも制限になるかもしれません。
従って、いくつかの妥協や組み合わせが
必要になると考えられます。
例えば、
マウスなどのケースにおいて
まずは病変部位を特定し、
大きな臓器や組織ごとに
薬剤がどのように輸送されているかを見ます。
情報元は失念しましたが
そういう臓器別の薬剤送達の分析は
すでに可能だと認識しています。
臓器にも様々な細胞種がありますから
そこから臓器、組織をサンプリングして、
そこからスケールを下げていって
より細かい分析をしていきます。
しかし、そうした処理の間に
細胞外小胞や合成ナノ粒子が届いた痕跡が
消えてしまわないかという事も懸念されます。

(参考文献)
(1)
Daisuke Ino, Yudai Tanaka, Hiroshi Hibino & Masaaki Nishiyama 
A fluorescent sensor for real-time measurement of extracellular oxytocin dynamics in the brain
Nature Methods (2022)
(2)
Wenchao Zhu, Shiori Takeuchi, Shosei Imai, Tohru Terada, Takumi Ueda, Yusuke Nasu, Takuya Terai & Robert E. Campbell 
Chemigenetic indicators based on synthetic chelators and green fluorescent protein
Nature Chemical Biology (2022)
(3)
Qianli Zhang, Akitoshi Miyamoto, Shin Watanabe, Takao Arimori, Masanori Sakai, Madoka Tomisaki, Tai Kiuchi, Junichi Takagi, and Naoki Watanabe
Engineered fast-dissociating antibody fragments for multiplexed super-resolution microscopy
Cell Reports Methods 2, 100301, October 24, 2022
(4)
Takushi Miyoshi, Qianli Zhang, Takafumi Miyake, Shin Watanabe, Hiroe Ohnishi, Jiji Chen, Harshad D. Vishwasrao, Oisorjo Chakraborty, Inna A. Belyantseva, Benjamin J. Perrin, Hari Shroff, Thomas B. Friedman, Koichi Omori, and Naoki Watanabe
Semi-automated single-molecule microscopy screening of fast-dissociating specific antibodies directly from hybridoma cultures
Cell Reports 34, 108708, February 2, 2021
(5)
Tai Kiuchi, Makio Higuchi, Akihiro Takamura, Masahiro Maruoka & Naoki Watanabe 
Multitarget super-resolution microscopy with high-density labeling by exchangeable probes
Nature Methods volume 12, pages743–746 (2015)
(6)
Abir Mondal, K. A. Ashiq, Prashant Phulpagar, Divya Kumari Singh & Anjali Shiras 
Effective Visualization and Easy Tracking of Extracellular Vesicles in Glioma Cells
Biological Procedures Online volume 21, Article number: 4 (2019) 


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