2022年9月19日月曜日

iPS細胞から間葉系幹細胞への安全誘導とエクソソーム治療を含めた展望

//要約(1)//ーー
間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cells:MSCs)、
間葉系間質細胞(Mesenchymal stromal cells)は
大人でも存在する多能性幹細胞です。
Daisuke Kamiya(敬称略)らは
神経堤細胞を通して
人iPS細胞から
動物由来成分を含まない条件(XF: Xeno-Free)で
間葉系幹細胞に誘導させる事に成功しています。
その機能を生体内で評価しています。
動物由来成分を含まない条件で働かせるため
間葉系幹細胞の従来の誘導方法を修正しています。
ウシ血清アルブミンによる神経堤細胞誘導や
ウシ胎仔血清を含む間葉系幹細胞への誘導は
動物由来成分を含まない条件に置き換えられました。
最適化された方法を通じて、
iPS細胞は間葉系幹細胞に高い効率で分化しました。
生体内でその活性を評価するために
動物成分を含まない条件で誘導した
間葉系幹細胞を骨や骨格筋の再生のために
マウスモデルにおいて移植しました。
その結果、再生機能を確認しました。
動物由来成分を含まない条件で
iPS細胞から誘導された間葉系幹細胞(iMSC)は
周辺の宿主細胞の再生機能を促進しました。
そのことは組織成長因子を含む可溶性因子が分泌されたことを
意味します。
動物由来成分を含まない条件で
iPS細胞から誘導された間葉系幹細胞(iMSC)
によって分泌された
ペルオキシダシン、IGF2は
筋管への分化に貢献しています。
この結果はXF-iMSC細胞が再生医療における
未来への応用において重要であることを示しました。

//エクソソームの観点から//ーー
間葉系幹細胞は、骨髄、脂肪組織、滑膜、歯髄、臍帯血などに
存在して、骨細胞、軟骨細胞、脂肪細胞に分化する事ができます。
骨髄由来のMSCは、骨髄移植に古くから使用されており、
医療用としては安全であると言われています。

間葉系幹細胞の医療的価値は、免疫抑制能があり、
移植片対宿主病(GVHD)の治療にも使われるということです。
また
Tokiko Nagamura-Inoue, Takeo Mukai(敬称略)の
総括によれば、
①ドナーへの身体的負担なく採取できること
②国内ドナー由来臍帯としてトレーサビリティが高いこと
③低抗原性であること
④製造工程に牛胎仔血清が含まれておらず感染のリスクが低いこと
⑤増殖能が高いこと
これらが挙げられています(2)。
拒絶反応の治療に用いられるくらいですから、
間葉系幹細胞そのものが免疫原性を引き起こす事は
上の特徴からも少なくとも稀であると考えられます。
従って、
細胞医療で用いられる場合以外で
間葉系幹細胞から放出される細胞外小胞による治療においても
Allogeneic(他家移植)によって
行うことができる可能性があります。
(ClinicalTrials.gov Identifier: NCT03384433)
他の人からの間葉系幹細胞を使うことができますから、
事前に貯蔵する事が可能です。
それによってコストや(製造、治療の為の)時間が
抑えられるというメリットがあります。
まだ、わかりませんが、
細胞外小胞よりも
細胞の方が(冗長性を含めた)機能は多いので
細胞外小胞による治療は
より制御性が高く、安全である
という結果になる可能性もあります。
--
Takeshi Katsuda, Takahiro Ochiya(敬称略)らによる
治療薬としての間葉系幹細胞由来の
エクソソームの応用可能性の総括(3)では、
エクソソームにも間葉系幹細胞が示す同様の
治療効果があることが示されつつあります(4)。
さらに、
MSCの傍分泌効果が組織修復において重要である
と言われている中で、
その効果の一部はエクソソームに由来する
ということが明らかになっています。
その中で、ある種の疾患では
この傍分泌の効果のほとんどはエクソソームが
担っているという報告もあります。
何がそのような機能を発揮しているかにおいては
エクソソーム内のmRNAやmiRNAがカギを握っているといわれます。
これらは遺伝子から細胞内のタンパク質の生成機序に
密接に関わる核酸です。
例えば、
〇腎疾患(5-9)
〇心筋障害(10-12)
〇脳疾患(13-15)
〇肺疾患(16-18)
などにおいて治療の為の
動物による基礎研究が行われています。
また、癌においても有望な選択肢であると
総括されています(19)。
最終的にエクソソームにおいて重要になるのが
薬剤送達システム(DDS)の確立です。
Takeshi Katsuda, Takahiro Ochiya(敬称略)も
その事について触れられています(3)。
標的細胞以外のエクソソーム送達が
間葉系幹細胞が持つ修復機能によって
成長因子が過剰になり癌化する可能性も否定できないことから
細胞種特異的なエクソソーム送達が望まれます。
標的組織特異的に発現するタンパク質に対する
受容体を、遺伝子組み換え技術を用いて
エクソソームに発現させることで
標的組織特異的にエクソソームを送達させる
ことはすでにマウスのケースで
Lydia Alvarez-Erviti(敬称略)らによって
実施されています(20)。
これは
細胞種特異的輸送系統
(Cell-type specific delivery system)の
主要骨格となる技術です。
この研究では樹状細胞がドナー細胞で
siRNAによりBACE1をノックダウンさせる事を目的として
一定の成果を上げています(20)。
内容を精査する余地はありますが、
細胞種特異的輸送系統を人のケースで
患者さんに優しい副作用の極めて少ない治療を行うためには
本当に特異的送達が実現しているかの解析、
経路でのコロナ形成、反応なども含めて
精緻な様式で詰めていく必要があります。
まだまだ課題は山積しています。
--
間葉系幹細胞は免疫原性が低いので
それ由来のエクソソームでは
ナノ粒子医療で大きな課題となっている
血中での拒絶反応をかなり抑えられる可能性があります。
同種異系のエクソソームを使える可能性があるので
上述したように生産性やコストの面でも
優れている可能性があります。
従って、私の中での現時点の想定において
エクソソーム(細胞外小胞)を薬剤送達媒体として
利用した治療におけるドナー細胞の
主要な選択肢の一つは間葉系幹細胞であると考えています。
本日、
Daisuke Kamiya(敬称略)らによる
iPS細胞から誘導させた間葉系幹細胞の報告を
参照させていただいたのは
骨髄、脂肪組織、滑膜、歯髄、臍帯血などに加えて
iPS細胞技術が間葉系幹細胞の資源として
加わったことを示すものであると考えたからです。
動物由来の成分培地を使わない
ウィルス、細菌感染などのリスクのない安全な方法で
iPS細胞から間葉系幹細胞を誘導できたことは
細胞外小胞の観点からも大きな意義があります。
高品質のMSCを安定的に供給する方法において
iPS細胞技術が適しているケースもあるかもしれません。
実際に骨髄や臍帯血由来の間葉系幹細胞に比べて
大量の細胞を入手しやすいという利点があります。
これは
エクソソームが潜在的に抱える
コストや生産性に関わる重大な事です。
Daisuke Kamiya(敬称略)らの報告では
主に間葉系幹細胞「そのもの」を使う細胞治療に
焦点を当てていますが、
この研究の意義はそれだけにはとどまりません。
その間葉系幹細胞由来のエクソソーム治療に
大きく貢献するものです。
--
私が提案し、日々発展させている細胞種特異的輸送系統と
山中伸弥教授が発明されたiPS細胞技術は
共に日本発であります。
厳密に言えば、細胞種特異的輸送系統は
すでにアイデアとしてはありました(20)が、
ここまで集中的に取り組み、発展させてきたのは
私が初めてではないかと自負しています。
その点において「日本発」と言えると考えています。
細胞種特異的輸送系統を
どのようにiPS細胞技術につなげるかは
2020年10月に提案した時からずっと考え続けてきました。
海外も含めて、様々な研究者から情報を頂いて
細胞外小胞がその架け橋になるということを学びました。
そのような思いもあって、
細胞外小胞に集中的に取り組んでいる
ということは日本の皆様に
(特に企業経営者)アピールしたいところです。
「すでにある資源を有効に利用する」
というのが私のモットーです。
技術者のときからその精神がずっとありました。
iPS細胞技術は日本の「宝」です。
澤芳樹教授が取り組まれている(心臓の)再生医療や
金子新教授が取り組まれている(CAR免疫細胞)細胞医療だけではなく、
私が取り組んでいるエクソソーム(細胞外小胞)においても
iPS細胞の技術を大切な融合研究、開発として
組み込んでいきたいと強く考えています。
それが日本で10年で政府が1100億円投資してきた資源を
有効活用することにつながると考えています。
Daisuke Kamiya(敬称略)らの研究は
重要な研究内容だけではなく、
私が長年お世話になってきた広島大学からの報告でもあります。
従って、特別な想いを持って
本報告を参照させていただきました。
これらの融合技術がトリクルダウンのように
日本の様々な企業の利益に将来的につながることを強く望みます。
もちろん最も大切な事は
「患者さんが一番メリットがあるようにする。」
ということです。
それは忘れないようにしなければいけません。
そのために私ができる事は
これからも多くあると自負しています。


(参考文献)
(1)
Daisuke Kamiya, Nana Takenaka-Ninagawa, Souta Motoike, Mikihito Kajiya, Teppei Akaboshi, Chengzhu Zhao, Mitsuaki Shibata, Sho Senda, Yayoi Toyooka, Hidetoshi Sakurai, Hidemi Kurihara & Makoto Ikeya
Induction of functional xeno-free MSCs from human iPSCs via a neural crest cell lineage
npj Regenerative Medicine volume 7, Article number: 47 (2022)
(2)
Tokiko Nagamura-Inoue, Takeo Mukai
Umbilical Cord is a Rich Source of Mesenchymal Stromal Cells for Cell Therapy
Curr Stem Cell Res Ther. 2016;11(8):634-642.
(3)
勝田 毅・落谷孝広
新規治療薬開発への間葉系幹細胞由来エクソソームの応用可能性
Drug Delivery System 29―2, 2014
(4)
Dominici M, Le Blanc K, Mueller I, Slaper-Cortenbach
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