新型コロナウィルスのエントリー受容体である
ACE2はオープン配座とクローズ配座を持ちます。
このように細胞膜表面に発現されているタンパク質の
構造は安定的ではなく、大胆な構造変化を起こすことがあります。
テトラスパニンも、
オープン配座を持つことが知られています(14)。
このような構造分析と動性の理解は
細胞取得的輸送系統(Cell-type-specific delivery system)で
重要ですが、それに加えて
時空間の直感的な理解を助けると考えています。
近年、クライオ電子顕微鏡で
詳しい立体構造解析ができるようになっているので
その手法で様々な受容体、表面リガンドの解析をすることは
特に細胞生物学、薬理学の理解においては重要である
と考えています。
--
Rie Umeda, Yuhkoh Satouh(敬称略)ら医療研究グループは
エクソソームの代表的な分子マーカーである
テトラスパニンCD9の構造解析を行っています(1)。
その概要、背景、結果の一部と調査、考察を追記しました。
その内容を読者の方と共有したいと思います。
//概要、考察//ーー
テトラスパニンは様々な生理プロセスにおいて
重要な役割を果たします。
細胞接着からウィルス感染など広範囲です。
テトラスパニンファミリーのメンバーは
4つの被膜貫通ドメインを持ちます。
また、細胞外ループを構造として持ちます。
それにより
広範な他の機能性タンパク質と結合し、
細胞機能を発揮します。
Rie Umeda、Yuhkoh Satouh(敬称略)らは
テトラスパニンCD9の結晶構造を
低温(クライオ)電子顕微鏡で調べました(1)。
その中で被膜貫通パートナータンパク質である
EWI-2。
これとの複合体構造を調べました。
CD9はコーン様の分子形状を持ち、
その事に寄って、脂質層に曲性を与えます。
↓
テトラスパニンは細胞外小胞のファミリーのエクソソーム
の広く知られている分子マーカーです。
エクソソームはエンドソームの陥入プロセスによって
生じると考えられていますが、
その時にエンドソームの膜を曲げる必要があります。
その曲性を経て、小胞ができると考えられるからです。
従って、テトラスパニンは
エクソソームの形成過程に関わっている可能性があります。
--
CD9が被膜に曲性を与えることは
高い被膜曲率を持つところで
テトラスパニンCD9が集まって、局在化している事に
合理性を与えます。
また被膜のリモデリングにも関係します。
CD9とEWI-2の間の分子的な相互作用は
膜貫通領域やタンパク質/脂質相互作用において
小さな残基を通して仲介されます。
一方で
受精アッセイにより精液と卵子の融合において
テトラスパニンのLEL構造領域が
重要な役割を果たしている事を示されました。
//背景//ーー
テトラスパニンタンパク質ファミリーメンバーは
高等生物では普遍的に発現しています。
下記の広範な生理プロセスに関わっています。
〇細胞の運動性
〇細胞の接着
〇腫瘍組織の浸潤
〇受精
〇ウィルス感染
これらなどです(2-5)。
生理プロセスにおける広範な関与にもかかわらず
テトラスパニン遺伝子をノックアウトする事は
中程度の表現型しか示しません。
この事はテトラスパニンの機能の冗長性を示します。
但し、
網膜のペリフェリン
膀胱のウロプラキン
など特定の組織特異的なサブタイプは除きます(6,7)。
テトラスパニンの重要性は
CD9-KOの雌のマウスの不妊表現型の提示によって
強調されます(8-10)。
しかしながら、
どのようにCD9が精子-卵子結合、融合に関与しているか?
という分子的な機能においての理解は未熟です。
生物化学研究に基づいて
テトラスパニンは生物学被膜の中の
複雑なたんぱく質ネットワークを形成します。
それは他のパートナータンパク質を
Tetraspanin-enrichedドメインに引き寄せることによって生じます。
それゆえに
テトラスパニンは細胞の機能を発揮するために
パートナータンパク質と結合し、
分子的形成体として働くと考えられます。
しかしながら、
テトラスパニンネットワークを観察する事は困難でした。
それぞれのテトラスパニンクラスターは
少数の分子のみからなり、
部分的に結合パートナー(例えば、B細胞中のMHC-Ⅱ)
の局在性と重なるからです(11)。
それゆえに
テトラスパニンの生理学的機能を明らかにするため
付加的な研究が必要とされてきました。
--
テトラスパニンタンパク質は
4つの膜貫通ドメインと
第一、第二の細胞外ループ
それぞれ
short extracellular loop (SEL)
large extracellular loop (LEL)。
これらを形成しています。
テトラスパニンタンパク質CD81の
近年に報告された結晶構造は
4つの逆の小屋様の膜貫通らせん構造を持ち、
膜内の領域にポケットを形成するとされています(12)。
分子ダイナミックスの計算では
中央の空洞領域でのコレステロールとの結合は
パートナータンパク質CD19と結合した
テトラスパニンCD81を改変するという結果を示しています(12)。
しかしながら、
テトラスパニンが細胞膜内で
複雑なたんぱく質ネットワークを形成する手段は
今までよくわかっていませんでした。
LELはパートナータンパク質と結合すると考えられていますが
詳細な相互作用については不明瞭です。
テトラスパニンは
〇インテグリン
〇免疫グロブリンスーパーファミリータンパク質
〇TGF-β受容体
これらを含む広範なメンバーと結合、
さらに
どの様にそれらの結合の中で機能を制御しているか
これについてはよく理解されていません。
--
ここで
Rie Umeda, Yuhkoh Satouh(敬称略)らは
CD9の結晶構造を低温電子顕微鏡で解析しています。
パートナータンパク質として
EWI2との結合状態も評価しています(1)。
マウス卵子受精において
CD9の変異分析と合わせて、
TM3とLELの広範な相互作用は
テトラスパニンの分子的結合において重要であり、
その機能において重要な役割を担っている事を示しています。
//結果抜粋(1)、考察//ーー
(結晶構造)
CD9は逆コーン様の構造をしていて
4つの膜貫通らせん構造からなります。
細胞質側の終端領域は束になって
これらの4つのドメインが集まっています。
一方、細胞外側ではそれぞれ
ゆるくつながっています(Loosely packed)。
(Fig.1a-c参照)
--
CD9はCD81と高いシーケンス類似性(約60%)を持ちます。
--
細胞外のループ構造の違いは大きいですが
膜貫通領域では構造が安定的で保たれています。
-----
(MDシミュレーション)
分子ダイナミクス計算では
SEL, LEL構造が可変的で、
〇クローズ
〇セミオープン
〇オープン
これらの配座を持ちます。
(Fig.3a参照)
↓
エクソソーム形成を本報告から考える際において
この結果が最も重要であると私は考えています。
膜に曲性を与えることをイメージした際に
テトラスパニンのコーンの角度が可変でなければ
膜を直感的に曲げられないと考えたからです。
初めはクローズ配座で集まって、
そこからオープン配座で広がる事によって
膜の外側が引っ張られるので
そこで曲げが生じます。
従って、テトラスパニンが膜に曲性を与える過程では
4つの膜貫通らせん構造の細胞外側のつながりの状態が
クローズからオープンに変わるはずである
と現時点では考えています。
Fig.4aではEWI-2がオープン配座で出来た
中央のポケットにはまるように結合されています。
オープン配座では構造的に不安的になる事も考えられるので
膜に曲性が生まれた状態で
EWI-2など他のパートナータンパク質が結合することで
オープン配座が安定的に保たれ、
膜の曲率が維持されるというこはあるかもしれません。
--
受精におけるCD9は重要です。
IZUMO1が精子の細胞膜に発現しており、
それが卵子の細胞膜のテトラスパニンCD9を認識して
融合します(ref.(14) Fig.31.2)。
このCD9はノックアウトされると
マウスのケースで不妊になることが示されていますが、
部分的に構造が不完全になることで受精能力が落ちる
事も示されています。
その中でCD9のLEL構造が重要であるとされています(1)。
LEL構造の構造上の先端欠けは生殖能力に影響を及ぼしませんでしたが、
他のテトラスパニンCD53の構造に置き換えても
生殖能力を失いました。
しかし、ベースとしてCD53であっても
LELの構造がCD9と一致していれば、
生殖能力の一部を取り戻しました。
従って、CD9のLELは一つ生殖能力の維持において
重要であることが示されています(1)。
//考察//ーー
細胞からエクソソームを分泌させる際においては
細胞膜からのエンドソームの形成、
エンドソームからの腔内膜小胞(エクソソームの前駆体)の形成
これらが少なくとも重要です。
これらの過程において、脂質2重層を曲げる必要があります。
その細胞膜に曲性を与える事において
テトラスパニンが重要であるという事です。
上で考えた、配座チェンジが曲性を与えるきっかけになる
という仮説に関しては現時点で
具体的な証拠を用意できる段階にはありませんが、
物理的にある程度の合理性があります。
もし、これが正しいとしたら
オープン配座へ変わるきっかけの生理や
オープン配座を安定化させるためのパートナータンパク質などを
明らかにする事によって
培養環境にある細胞からエクソソームを産生させる際の
産生効率に影響を与える可能性があります。
言い換えれば、
効率的にエクソソームを生み出すことにおいて
テトラスパニンの構造変化やパートナータンパク質の
存在が重要であるかもしれないということです。
--
一方で、受精に関しては
CD9とIZUMO1が精子と卵子の融合において重要である
ということが
Keiichi Yoshida, Natsuko Kawano, Yuichiroh Harada & Kenji Miyado
(敬称略)によって示されています(13)。
例えば、不妊に悩む人のエクソソームの
テトラスパニンCD9の変異、構造分析によって
生殖能力の評価を行うことができるかもしれません。
つまり、
不妊に悩んでいる人の一部は
エクソソームのテトラスパニンCD9の構造に変異が生じている
という可能性もあります。
この時に必ずしも卵子由来のエクソソームを調べなくても
血液中のエクソソームのテトラスパニンを
本人からの採取によって調べる事で
評価できる可能性もあります。
なぜなら、エクソソームのテトラスパニンの構造は
細胞の構造の特徴を引き継ぐことが考えられるからです。
(参考文献)
(1)
Rie Umeda, Yuhkoh Satouh, Mizuki Takemoto, Yoshiko Nakada-Nakura, Kehong Liu, Takeshi Yokoyama, Mikako Shirouzu, So Iwata, Norimichi Nomura, Ken Sato, Masahito Ikawa, Tomohiro Nishizawa & Osamu Nureki
Structural insights into tetraspanin CD9 function
Nature Communications volume 11, Article number: 1606 (2020)
(2)
Charrin, S., Jouannet, S., Boucheix, C. & Rubinstein, E. Tetraspanins at a
glance. J. Cell Sci. 127, 3641–3648 (2014).
(3)
Reimann, R., Kost, B. & Dettmer, J. Tetraspanins in plants. Front. Plant Sci. 8,
545 (2017).
(4)
Huang, S. et al. The phylogenetic analysis of tetraspanins projects the
evolution of cell–cell interactions from unicellular to multicellular organisms.
Genomics 86, 674–684 (2005).
(5)
Hemler, M. E. Tetraspanin proteins mediate cellular penetration, invasion,
and fusion events and define a novel type of membrane microdomain. Annu.
Rev. Cell Dev. Biol. 19, 397–422 (2003).
(6)
Stuck, M. W., Conley, S. M. & Naash, M. I. PRPH2/RDS and ROM-1:
historical context, current views and future considerations. Prog. Retinal Eye
Res. 52, 47–63 (2016).
(7)
Wu, X. R. et al. Uroplakins in urothelial biology, function, and disease. Kidney
Int. 75, 1153–1165 (2009).
(8)
Miyado, K. et al. Requirement of CD9 on the egg plasma membrane for
fertilization. Science 287, 321–324 (2000).
(9)
Le Naour, F., Rubinstein, E., Jasmin, C., Prenant, M. & Boucheix, C. Severely
reduced female fertility in CD9-deficient mice. Science 287, 319–321 (2000).
(10)
Kaji, K. et al. The gamete fusion process is defective in eggs of Cd9-deficient
mice. Nat. Genet. 24, 279–282 (2000).
(11)
Zuidscherwoude, M. et al. The tetraspanin web revisited by super-resolution
microscopy. Sci. Rep. 5, 12201 (2015).
(12)
Zimmerman, B. et al. Crystal structure of a full-length human tetraspanin
reveals a cholesterol-binding pocket. Cell 167, 1041–1051 (2016).
(13)
Keiichi Yoshida, Natsuko Kawano, Yuichiroh Harada & Kenji Miyado
Role of CD9 in Sperm–Egg Fusion and Virus-Induced Cell Fusion in Mammals
Sexual Reproduction in Animals and Plants pp 383–391
(14)
Yihu Yang, Xiaoran Roger Liu, Zev J Greenberg, Fengbo Zhou, Peng He, Lingling Fan, Shixuan Liu, Guomin Shen, Takeshi Egawa, Michael L Gross, Laura G Schuettpelz, Weikai Li
Open conformation of tetraspanins shapes interaction partner networks on cell membranes
The EMBO Journal (2020)39:e105246
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