2023年7月16日日曜日

粘膜通過型ワクチンの設計戦略

新型コロナウィルスのmRNAワクチンは
筋肉注射によって行われます。
血液中のリンパ節に効率的に送達させるためには
噴霧、錠剤のようなワクチンでは難しく
注射による投与が好ましいという事です。
しかし、
世界に80億人いる人に公平にワクチンを広めていくためには
衛生環境の整っていない接種環境も想定する必要があり、
できれば、衛生管理、教育が必要な注射ではなく、
口腔や鼻腔を通して、錠剤や液体でワクチンを投与できるような
粘膜系を通したワクチンの開発が望ましいです。
これは発展途上国の方々にメリットがあるだけではなく
今後のパンデミックを想定した際に
発展途上国から広がる事も考えられることから
先進国の公衆衛生にも関連する事です。
従って、
口腔、鼻腔投与できるワクチンの基本的機序について考える事は
非常に重要なイシューになります。

mRNAワクチンは消化器を通した投与では
抗体価があがりにくいという報告が情報元は失念しましたが
確かあったと思います。
日本の理化学研究所のマウスの報告(1)でも
弱毒化の生ワクチンでなければ
鼻腔投与における
インフルエンザワクチンの高い交差性は得られなかった
とされています。
これはなぜでしょうか?
それについて一定の示唆を与える報告があります(2)。
私はこのような事を深く考えていくときには
情報学的なアプローチよりも
描写的、空間的なアプローチをとる事が多いですが、
消化器を通した摂取の場合は
当然、粘膜、バリア組織、免疫領域、内皮、血管内腔となります。
細かくはもっと細分化されるかもしれません。
筋肉注射の場合は血管内腔までの経路が短絡されますから
当然、送達効率は高まります。
しかし、消化器の場合は当然それが低下します。
mRNAワクチンの抗体価が上がらないのも、
あるいは消化器系のワクチンの回数が多いのも
根本にはそれがあるということが私の理解です。
では、なぜ、生ワクチンの場合が抗体価が上がりやすいのか?
鼻からの投与でも
鼻腔内にも鼻毛や粘膜があります。
従って、消化器と基本的な構造は類似します。
私の推測は、
生ワクチンの抗原がmRNAワクチンのような
「精製された抗原」よりも多様だからではないか?
このように考えています。
アドジュバントともいえるかもしれません。

ワクチンによって抗体を発現させるためには
樹状細胞による抗原認識、ヘルパーT細胞、B細胞、形質細胞
といったような順々の細胞連携が必要で
濾胞性といった細胞の塊の中での連携も存在します。
その濾胞形成はリンパ節内の胚中心があります。
消化器ではPeyer's patches(ピエール拍子)と呼ばれます。
この樹状細胞は「樹状」ですから
バリア組織の内側から枝が伸びるように粘膜に到達し
それで抗原となるワクチン成分を捉えたりすると想像しますが、
その時に、抗原提示の為の効率性を高める必要があります。
その抗原提示に関連するのがTLRで
このTLRは短いものも含めて多様な核酸を認識すると言われています(2)。
従って、精製されたワクチンよりも
自然に存在するおそらく成分として複雑な
生ワクチンの方が効率よく樹状細胞を刺激する事ができる可能性があります。
あるいはタンパク質をmRNAを通じて生み出さないといけない
というプロセスが関係している可能性もあります。
そうであるとするならば、
抗原であるタンパク質ワクチンでは抗体価が出るという事になります。
ただ、いすれにしても
呼吸器や消化器はもともと血中に余計な物質が入らないような
システムが組まれていますから
当然、ワクチンの効果が得られにくということがあります。
そうした場合、
何らかの補助的なシステムによって
ワクチンの効果が得られやすい要素を組み込む必要があります。
その一つの案として考えられるのが
Prime CAR-T細胞のようなアイデアで
免疫細胞も引き付けるケモカイン、シグナル因子をワクチン成分の中に
入れる、組み込む事(その両方)が考えられるかもしれません(3,4)。
そうして、ワクチンに樹状細胞が引き付けられやすいようにして
それで消化器の抗原認識、アドジュバント効率を高めるということです。
あるいは鼻腔、口腔などの投与の場合には
鼻腔や口腔にも免疫細胞集まる扁桃腺や
同じく免疫細胞が集まる腸には盲腸の原因となる虫垂がありますから
そこでの特異的な送達も考える必要があります。
但し、虫垂炎になるとデメリットの方が多くなるので
その辺が難しいところです。

以上。

(参考文献)
(1)
多様なウイルスを防御、弱毒生ワクチンの経鼻感染の有効性を確認
(2)
Nicholas A. Lind, Victoria E. Rael, Kathleen Pestal, Bo Liu, Gregory M. Barton
Regulation of the nucleic acid-sensing Toll-like receptors
Nature Reviews Immunology volume 22, pages224–235 (2022)
(3)
Keishi Adachi, Yosuke Kano, Tomohiko Nagai, Namiko Okuyama, Yukimi Sakoda, Koji Tamada
IL-7 and CCL19 expression in CAR-T cells improves immune cell infiltration and CAR-T cell survival in the tumor
Nature Biotechnology volume 36, pages346–351 (2018)
(4)
Angela Q. Zhang, Alexander Hostetler, Laura E. Chen, Vainavi Mukkamala, Wuhbet Abraham, Lucia T. Padilla, Alexandra N. Wolff, Laura Maiorino, Coralie M. Backlund, Aereas Aung, Mariane Melo, Na Li, Shengwei Wu, Darrell J. Irvine
Universal redirection of CAR T cells against solid tumours via membrane-inserted ligands for the CAR
Nature Biomedical Engineering (2023)

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