2023年7月19日水曜日 0 コメント

生体内水和反応促進による薬物動態安定化

ドラックデリバリーシステム、薬物送達学の
1つの大きなメリットは
送達効率を劇的に高める事によって
薬効を高め、一方で副作用を下げることです。
現時点で「劇的な送達効率改善」ということは
難しいかもしれないという認識に留まっていますが、
いくつかのイノベーションによってそれは覆るかもしれません。
また、それらの情報を元にして
いくつかの草案(創案)がこの部屋から生まれるかもしれません。
しかし、
薬物送達を有効に行うためには
薬剤自体を機能化する必要があるため、
その機能化の為の装飾、あるいは胞によって
余分な物質を形成させる必要があります。
それによって、
薬物が循環器内全体を長く回るのであれば、
循環器に存在する免疫細胞やその他の血液成分、
あるいは様々な抗原、抗体との相互作用を機能化物質を含めて考える必要があります。
その相互作用の少なくとも一部は
身体にとって副作用となるものですから
その相互作用をできるだけ減らす必要があります。
これを実現しない事には
冒頭で述べたDDSの目的から外れる事にもなります。
そのような視点において
複合体としての薬物のデザインがどのようであればいいか?
その一つの理想像はどのようなものであるか?
それについて考えます。
DDSで使われる薬物デザインのうち
受動的な送達媒体としてナノ粒子が使われ、
近年、mRNAワクチンにも使われます。
そのナノ粒子の構成材料は
細胞膜などに多く含まれる脂質です。
従って、生体内の物質を一部模倣する形となります。
生体内にあるもの、類似するものですから、
身体の拒絶性は低いだろうという視点があります。
このような視点を参考にすると
より体内に普遍的に存在する物質は何か?
そのようなアイデアが生まれます。
その一つの物質は水素と酸素から成る水です。
薬物が巡る循環器内において
水の割合は80%程度と言われます。
従って、ほとんどが水なので
その水を使った材料にすると
血液内の余計な相互作用を減らせるかもしれないという事になります。
しかし、水は常温で液体なので、
薬物として固定的な構造を取るためには
ゲルのような骨格のある物質に
水分子を組み込む必要があります。
それを「ヒドロゲル」と呼びます。
すでにヒドロゲルを使った薬物送達については
いくつかの総括論文が存在するくらい活発に研究されています(1,2)。
しかし、ヒドロゲルは免疫細胞が侵入することがあり
それで免疫反応が起こることもあるので、
おそらく不活性である水で保護したとしても
その微細構造を含めてマテリアル開発の精度を高めないと
当初の狙いの物性は得られにくい可能性があります。
その物性の為には
◎穴、空壁がない、小さい
◎最表面の多くが水である
ということが少なくとも重要であると推定しました。
最表面が水であれば、内側に薬物動性を持つ物質があったとしても
それを有効に保護する事ができるため、
設計の一つの理想形ではないか?と仮説を立てました。
当然の帰結ではありますが、
それを実現するためには
水自身が単体では液体であることから
それに相互的に作用する様々な力をうまく利用する必要があり
技術的なハードルは高いかもしれないという認識でいます。

そうした背景もあり別の可能性を探りました。
そもそも血液内には8割もの水が存在するわけですから
その水とも薬物複合体は相互作用する機会があります。
実際に
血中のタンパク質などの様々な物質は水で覆われると言われます(3)。
これは、薬物動態を考える上で重要な事実ですが
このような水和現象を逆に活発に利用するということです。
その水和現象を活発にするために
◎親水処理(ハイドロフィリック表面処理)
◎触媒
これらなどがありますが、
一方で、水だけを引き付ける必要がありますから、
このような処理によって表面状態が活性となり、
血中に入れた時に様々な相互作用を引き起こしてしまうと逆効果です。
まずは、すでに
タンパク質等が水に覆われる現象が確認されているわけですから
それが薬物の安定化、不活性化のためにメリットをもたらすかもしれない
という観点を持って様々な条件で分析していくことで
なんらかのソリューションが生まれる可能性があります。

但し、薬物の代謝は一般的に
水素基が水酸基に変わることが想定されます。
(参考文献(4) Fig.1cより)
水酸基に変わると親水性が増し、
腎臓において尿として排出される確率が高まります。
また、有毒な代謝生成物や物質としての不安定性を高めることもあります(4)。
つまり、親水性が高まると
少なくとも溶解性、排泄性が高まる可能性があり、
ナノ粒子などより物質として大きな薬物送達媒体であっても
その親水性を高めようとする場合には
反応性や排泄について考える必要はあるかもしれません。

(参考文献)
(1)
Ruibo Zhong, Sepehr Talebian, Bárbara B. Mendes, Gordon Wallace, Robert Langer, João Conde & Jinjun Shi
Hydrogels for RNA delivery
Nature Materials (2023)
(2)
Jianyu Li & David J. Mooney
Designing hydrogels for controlled drug delivery
Nature Reviews Materials volume 1, Article number: 16071 (2016)
(3)
(1)Song-Ho Chong, Sihyun Ham
Dynamics of Hydration Water Plays a Key Role in Determining the Binding Thermodynamics of Protein Complexes
Scientific Reports volume 7, Article number: 8744 (2017)
(4)
Rita Maria Concetta Di Martino, Brad D. Maxwell, Tracey Pirali
Deuterium in drug discovery: progress, opportunities and challenges
Nature Reviews Drug Discovery volume 22, pages562–584 (2023)
2023年7月18日火曜日 0 コメント

意見:生成系AIについて

生成系AIについては世界中で議論されていると思いますが、
現時点での私の意見は、
むしろ人の能力、創造性、生産性を上げるものである
ということです。
例えば、実務的な面では
創造性の高い人が一番集まるのは
ベンチャー企業以外には大学です。
大学は事務的な作業が多いため、
それによって多くの知的資源が失われています。
また、論文掲載の際の訂正にも大きな労力があります。
もし、今の私のように
多くの時間を勉強に費やすことができたら
あるいは私は無理ですが、
実験や研究に費やすことができたら
おそらく多くのイノベーションが生まれるはずです。
これらの助けになるのは生成系AIだと思います。
生成系AIによって
子どもの教育はどうなるか?
この議論もあります。
私はSTEAM教育は今まで同様重要で
その礎には言語リテラシーがあります。
生成系AIは少なくとも使い方を間違えなければ
言語リテラシーを上げるものです。
例えば、
大学の英語の試験で
「上述した一部の文章を生成系AIで英語にした。
それに対してあなたならどのようにその英語を書き換えるか?」
そうした問題も意義があります。
このような問題に将来的になるかもしれません。
文章の一部としたのは、
生成系AIは対象となる文章のみで翻訳するわけですが、
受験する学生さんは文章全体の大意を理解する必要があります。
その大意を含めると生成系AIの翻訳がおかしいところに気付きます。
実は、私は2か月前就職活動していました。
その時に私の出願した特許の内容を職務経歴書の中で
英語で提出する機会がありました。
その時に生成系AIを使って翻訳しましたが、
かなりそのクオリティーの高さに驚きましたが、
それでも訂正する箇所は多くありました。
それは私がその特許の内容を本質的に理解しているからです。
つまり、出題として文章の一部にする価値は、
その文書の本質が分かった状態で、
一部しか情報が与えられていない人工知能の翻訳に対して
どのようにその大意を英文に反映させるか?
このことを入試で問う事ができます。
これはおそらく
東京大学医学部、京都大学医学部くらいのレベルの問題です。
しかし、将来的には
このレベルの学生にはこれくらいはできてほしい
というのが私にはあります。

生成系AIで人のクリエイティビティーが奪われて
もう人のやることはないのような意見があるかもしれませんが、
おそらくそうはならないという展望を持っています。
例えば、この記事にしても
全く同じ内容の、同じ書き方の文章を
事前に生成系AIが作成することは不可能です。
その組み合わせは無限だからです。
どういった文章が人中心の社会で価値があるか?
これは、内容だけではなく書き方もあります。
「なんか興味のひく書き方だよね。」
同じ内容でも興味の引く、読んでもらえる文章は
人中心の社会で価値があります。
そこのクリエイティビティーは人には少なくとも残されているし、
生成系AIで埋めるのもおそらく無理です。
検索エンジンも世の中に出て20年以上になりますが、
未だ、使いこなせていない部分もあるでしょう。
また、検索エンジンの性能もシンギュラリティー性があるわけではなく
どちらかといえば、時間経過に対してLog曲線です。
おそらく生成系AIもそうなるのではないか?と私は予想しています。
その理由は
生成系AIはおそらく人工知能のアルゴリズムからして
インターネット上にある膨大な文章データを文節解析して
それらを何億次元の関数で瞬時的に出力していると思います。
これは人には到底できないことです。
しかし、ここで選ばれる情報は、
どちらかというと統計的にマジョリティーで
マイノリティーの内容は含まれません。
しかし、例えば最先端の科学論文でいえば、
必ずしも総括されるような共通的な情報が
革新性につながるか?というと必ずしもそうではありません。
むしろ、それを一部裏切ることで
今までにない革新性が生まれます。
それは、おそらくアルゴリズムを変えない限り
生成系AIにはできないことです。

検索エンジンと生成系AIを巧みに利用して
議論できる環境にある人は周りの優秀な人と議論して
それを公開することで
おそらくイノベーションは次々に生まれます。
その革新の源泉はやはり「人」です。
そういったことを未来の子どもに託す人も多いかもしれないですが、
これからは実は中年、シニアが熱い時代になるかもしれません。
今まではおおよそ人のキャリアは決められていました。
40代以上になれば、管理職になって
現場から離れる人が多くなります。
それは人の能力が生理的にそうなるからだけではないはずです。
40代になれば、当然40年以上生きているわけですから
もし、仮に10代から多くの時間、
科学全般の勉強、研究、議論、執筆に携わっていたら
30年以上のキャリアになり、
そこからまたさらに上乗せすると
おそらく生み出される事の質があがります。
これからはむしろ、若い時代に成功するよりも
より長い時間、最も価値のある事に費やすためには
どのような社会設計にするべきか考える必要があります。
生成系AIを初め、
これから人工知能によって生み出される製品は
そういった長い時間人が最前線でいるための
助けになるようなものであるべきです。
このような話を聞いて、若い人はワクワクしませんか?
ハーバード大学の人はどうですか?
東京大学、京都大学の人はどうですか?
灘高校、桜蔭高校の人はどうですか?

生成系AIもおそらくデータが蓄積すると
それだけノイズも多くなることも一方ではあると思います。
また、検索エンジンと違って
出力される結果は今のところ1種類です。
それを増やすことは原理的に可能だと思いますが、
エネルギー消費の問題はあるかもしれません。
生成系AIについて否定的な意見もありますが、
おそらく人のクリエイティビティーを奪うものにはなりません。
現時点で頻繁に使っている感じからすると
私の意見(Opinion)としては
検索エンジンと並ぶくらい有効なものである
という認識です。
ツールの一つであり、
どのような質問をするかを含めて
創造性の核、その成長を自発的に生み出すものではありません。
人工知能が統計的な処理を行っている限り
おそらく人の創造性の空間は必ず残ります。

どれくらい人が地球で生活できるかわかりませんが、
アメリカ、中国、ドイツ、イギリス、日本、韓国といったような
科学の世界でインデックスの高いの国にいる人たちは
少なくとも、
様々なイノベーションを生きている間に見たい
と考えていると思います。
不老不死を実現したいと本気で考えている人もいるかもしれません。
私はそのイノベーションの一つの源泉は
「新しい空間を見つける」という事だと思っています。
◎実空間
◎ダークマター
◎量子もつれなど不可解な空間
◎脳神経が生み出す創造、思考の空間
◎仮想空間
◎人工知能の空間
◎情報空間
◎サイバー空間
◎言語空間
それらに合わせて
◎連続的な空間
◎離散的な空間
◎波数空間
など数学的物理的な空間の定義もあります。
インターネットと人工知能は
間違いなく社会に与えた影響は大きいです。
仮想空間も立ち上がりは今一つですが、
その可能性を持っていると思います。
インターネットはサイバー空間という
今までにない空間を生み出したことが
1つのイノベーションの源泉です。
さらに古くはテレビやラジオも
広義に見れば、情報空間の一つではあります。
空間を起点にすると
何か新しい発見があるかもしれないと思っています。
空間に限りませんが
新しいフレームワークを生み出すのは
私は人工知能ではなく人だと思います。
今述べたことを生成系AIは出力できるでしょうか?
いくつかの間違いがあるとするならば、なおさらそうです。
失敗、間違いを共有して、正して、軌道修正して
イノベーションを生み出すのも
やはり人の集団となります。
人生長いわけですから
子どもの頃の教育をあまり劇的に変える必要はありません。

生成系AIの進化は非常に大きな速度で進んでおり、
それは時間単位であるとも言われます。
生成系AIは単語、文節を次々に並べて、
そのプロセスの中で関連性、意味を
評価しながら進めていくと現時点では理解しています。
そのバックグラウンドには
SNSを含め、クラウド空間上にある
人が生成した膨大な文章として意味のある
文字情報があります。
これは文章に限らず
文字としてコード化された
あらゆる情報に対して有効であるとされています。

将棋、囲碁なども含めて、基本的にAIは
評価による数字化が必要です。
その数字が最大化されるように成長していきます。
従って、評価関数をどのように定めるか?
それが重要になります。
但し、生成系AIによって出力される情報は
そこにはスポーツ、囲碁などのように
明確なルールはありませんから
その評価においては意見が分かれると思います。

細胞種特異的な薬剤送達では
細胞レベルでのそれを実現するため
表面タンパク質のデータベースを使って、
特異的なたんぱく質を見出し、
そのたんぱく質に高い結合性を持つ
対となる物質を生み出す必要があります。
その為の必要な要素としては
①物質の結合性の評価(1)
②任意の物質の合成手法の生成(2,3)
③任意の物質と遺伝情報の関連
これらが必要になります。
特に難しいのが②です。
②ができるという事は
作用させたい結合部位に対して有効な
薬剤を自在に作れるようになるという事につながるので
おそらく薬剤メーカーは
そのための研究をしていると思います。
技術開発をしているとわかりますが、
理想となるデザインがあっても、
それをどのように作製するか?
ここが非常に難しいです。
自然現象は非常に複雑ですが、
②のコストは非常に大きいので、
その合成手法を人工知能である程度効率化できれば、
それによってもたらされる付加価値は
利用方法をよく考えれば大きいと想定されます。

自然言語の生成系AIでは
単語、日本語などでは助詞も含まれますが、
それらのつながりを与えられた質問に対して
1つ1つ評価しているはずです。
その評価はSNSなどの普及によって可能になった
膨大な文字情報のつながりから、
統計的な手法で行っているのかもしれません。
そのプロセスには
クラウド空間に蓄積された情報に対する
アクセスがあり、選択が当然あります。
物質の合成の人工知能のアルゴリズムを構築する際に
果たして文章のような膨大なデータを
クラウド空間から取得できるか?
このような問題がまずあります。
物質の合成は因果関係が明確で
元となる物質の組み合わせから
合成条件を定めて、結果として生み出された物質を予測します。
このプロセスを人工知能が果たして
自然の摂理に沿った形でうまく評価できるか?
当然、
合成方法が情報として不十分で明らかでなかったり、
再現性がなかったり、
その為のデータが少なかったりすると
それは不可能という事になります。
そうすると、生成系AIのようにはいかず、
物理化学的な法則をアルゴリズムの中に組み込む必要があります。
しかし、複雑系の中の
物理化学的な法則は計算コストが大きく
それも現実的ではないのかもしれません。
また、生成系AIで明らかなように
まだ存在していないものの未来予測はできません。
例えば、
室温超電導をどのように実現できますか?
このように質問してみます。
しかし、それに対して従来にはない視点で
何か創案してくれるわけではありません。
これらの創案は当然多くの場合、失敗に終わり、
そのような答えは人工知能は示してくれません。
今ある情報から可能な範囲で示してくれるだけです。
そのような観点から
今までにない物質の合成方法を人工知能が示すことは
強力なデータベースがあったとしても
困難な事かもしれません。

ただ、いずれにしても
生成系AIと同様に問題はあると思いますが、
将来的にデザインされたものに対して
それをどのように作製するかという
合成方法が「ある程度」わかる人工知能ができれば、
薬学に関わらず、機械分野、
エレクトロニクス、メカトロニクスなども含めて
ある種、革命的であり
うまく利用すればSDGsに貢献すると考えられます。

(参考文献)
(1)
Ayan Chatterjee, Robin Walters, Zohair Shafi, Omair Shafi Ahmed, Michael Sebek, Deisy Gysi, Rose Yu, Tina Eliassi-Rad, Albert-László Barabási & Giulia Menichetti
Improving the generalizability of protein-ligand binding predictions with AI-Bind
Nature Communications volume 14, Article number: 1989 (2023) 
(2)
Norihiko Sasaki, Jun Kikkawa, Yoshiki Ishii, Takayuki Uchihashi, Hitomi Imamura, Masayuki Takeuchi, Kazunori Sugiyasu
Multistep, site-selective noncovalent synthesis of two-dimensional block supramolecular polymers
Nature Chemistry volume 15, pages922–929 (2023)
(3)
Noriyuki Uchida
Design of supramolecular nanosheets for drug delivery applications
Polymer Journal (2023)

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ヒドロゲルの薬剤への応用技術の考察

特異的薬物送達を実現するために
乗り越えないといけない壁は多く存在しますが、
そもそも細胞腫特異的な薬物送達の理念は何かというと
できるだけ副作用の少ない形で
患者さんの疾患を治癒させたいというものです。
現在の遊離薬物の送達効率は決して高くはなく、
余計な代謝や損傷がないとは言えない状況ですから、
その送達効率を(理想的には)劇的に高めて、
薬剤の本来の機能を引き出すということです。
そうすれば、
今まで毒性が強すぎて使えなかった効果的な薬剤も
リパーポスとして利用できる可能性もあります。
--
しかし、体の中には免疫系や神経系などを含め
様々な監視機能があるため、
その監視を逃れて、意図した機能を引き出すためには
できるだけ送達キャリアの成分において
体の中の成分と類似させる必要があります。
体の中で最も多く存在する物質は水です。
従って、薬物送達キャリアの
最も影響を受けるだろうと考えられる
最表面を体内の水(イオン濃度など)に類似した水で
覆われた形にしたいという需要があります。
当然、水は液体ですから
形状を維持することができません。
従って、
形状を保つためにはある程度結合力のある
固体の成分を混在させる必要があります。
液体と固体の複合体は一般的にはゲルと呼ばれます。
水を含むものはヒドロゲルと呼ばれます。
それを利用した薬剤送達キャリアはすでに提案されています(1,6)。
--
今述べたように表面を水にしたいわけですが
液体は結合力が弱いために
形状を保つのが難しい、容易に蒸発して気体に変わる
という性質があります。
表面を水にしようとしたときに考えないといけないのは
今述べたように形状を維持した状態で蒸発を防ぐことです。
厚い水の層で覆えば、
蒸発しても水は長い時間残りますが、
形状を保つことができません。
一方、
薄い層にすれば、下の層の条件によっては
形状を保つことができるかもしれませんが、
容易に蒸発してなくなってしまいます。
他方で
油層などによってカバーすれば蒸発は防げますが、
最表層を水にするという目的から外れます。
一方、
イオン水は蒸発係数が低い事と
体内の水には一定のイオンが含まれていることから
できるだけイオンを入れたいという需要があります。
従って、
体内に含まれるナトリウムイオン、塩化物イオンを
水の中に含ませることは
ヒドロゲルを使った薬物送達キャリアの
技術開発する上で重要な選択肢の一つです。
--
蒸発は分子的にみれば、
結合力が強ければ起きにくいし、
分子の経路をふさげば起きにくいとされています。
また、Laplace's theoryから
温度が一定の状態で
(分子の表面エネルギーの総量)/(分子の内部蓄熱)=(一定)
という法則があります(14)。
蓄熱は水が液体から気体に変わるときに
必要とされる熱エネルギーなので
この熱エネルギーが大きくなれば、
液体から気体への相転換が起きにくいと考えられます。
従って、
水分子の表面エネルギーの量を大きくすれば、
蒸発しにくいということになります。
水はイオンの種類やイオン濃度などによって
物理化学的な特性が変わります。
そのような不純物を含むと表面張力が上がるといわれており、
この表面張力は単位面積当たりの表面エネルギーなので
水のイオン濃度が上がると
蒸発しにくいという事が示されます。
従って、
結晶の不規則性という観点でみれば、
イオン以外にナノ液胞を入れることも選択肢としてあります。
その液胞が経路を阻害するからです。
結合力で見れば、表面の水分子に対して
下の層の活性な結合の手が
多く余っている状態にすることです。
結合の手が多くあれば、表面エネルギーが高く
下の層が露出する事がエネルギー的に難しくなります。
一方、水素などでパッシベーションして、
表面の結合の手がなくなれば、
表面エネルギーは限りなくゼロに近づきます(7)。
この点から、下の層の結合の手が多くある状態に
しておきたいということがあります。
下述するように水分子が他の物質と結合する場合
水素結合となり、その力は非常に弱いことから
単位表面積当たりの結合の手を多く用意しておきたい
という需要があります。
細胞外マトリックスに模倣させたヒドロゲルは
タンパク質と水の複合体ですが、
タンパク質と水の界面は非常に複雑です。
その界面は反応して水和物になっていると言われています(8)。
弱い水素結合だけはなく、強い静電ポテンシャルによって
界面が引き付けられていると言われています(8)。
従って、
このタンパク質と水の界面の反応を
より低エネルギーで実現できるように
触媒を利用する事は一つの方略となります
エネルギー的に異方性があるほうが
選択的な結合が起こりやすいため
そのような性質を持つ
d電子を有する遷移金属が触媒として利用されます。
その触媒が遷移金属を含む有機分子である場合
その遷移金属の働きにより、
触媒同士が2量体化する事によって
触媒の機能が高まることがあります(3)。
実際に水から水素イオンを生成する反応において
ルテニウム複合体による触媒作用において
このような2量体化が重要である事が示されています(3)。
従って、
Song-Ho Chong(敬称略)らが示すように(8)
タンパク質と水の界面でより活性に相互作用し
界面のミシビリティーギャップを下げる、
つまり、界面物質の漸次的変化の実現のためには、
上述した触媒の作用を利用する事が有効かもしれません。
この遷移金属を含む有機物質を
触媒として利用する場合には、
遷移金属は生体内に含まれ、
触媒様の働きをする酵素にも含まれている事から
生命活動において必要は物質ですが、
その量を適正に制御する必要はあるかもしれません。
--
例えば、
青色発光ダイオードの活性層(発光層)の
代表的な構造はGaN層とInGaN層からなる多重量子井戸構造であり
その断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で分析すると
発光効率が良い素子は界面が非常に急峻で
それぞれの層のコントラストが明確に出ます。
それに対し、
おそらくタンパク質と水の界面は
そのような急峻なものではなく
上述したように漸次的な変化で、
グラデーションになっていると想定されます。
界面の電子像による明暗がぼやけるということです。
Mmazen Ahmad(敬称略)らのモデルによれば
タンパク質は3次元的な構造を取るので
隙間が存在しますが、
その0.5nm程度の隙間の中に
60-80の水分子が存在すると言われています(15)。
水分子は異方性のある双極子がありますが、
そのような特性が(おそらく)
タンパク質と静電気的な相互作用をした時に
全体として遮蔽されず、より強化されるように
水分子の並びが(液晶のように?)規則性を持つ
と理解しています(15)。
こうした隙間に入り込み、
疎水性よりも、むしろよくなじむ
親水性を持つ傾向がタンパク質の残基にはあるかもしれない
とされています(15)。
Mmazen Ahmad(敬称略)らの計算モデルによれば、
タンパク質に水をなじませたとき
両者は相互作用しながら少しずつ距離を近づけていき
最終的に近いものでは0.2nm(2Å)程度まで近づきます(15)。
タンパク質を外側から凝集させるというよりも
外側にあるたんぱく質に挟まれた水分子が
タンパク質を引き付けるという物理モデルです(8,15)。
表面物理化学の原理として
タンパク質を下層、水の層を上層とした場合
タンパク質層の表面エネルギーが高いほうが
水の層で覆われる確率がエネルギー的には高くなります。
それは単位アミノ酸に対して
多くの水分子が引き付けられている事に変わりありません。
それは、巨視的にみれば、
ヒドロゲルが収納できる水の量に反映されます。
水の割合が増えれば、
最表層により厚い水の層で多くの割合を覆える
確率も上昇します。
そのための設計自由度も上がります。
そうするとタンパク質の表面エネルギーを上げる事が
重要ですが、表面エネルギーは
単位表面積当たりの活性な結合数と正の相関がある
と考えられるので(結合の強度も関わる)、
タンパク質の残基濃度(residue density)が重要になります。
また、静電気力がそれに加わるので
タンパク質に形成される双極子も重要です。
さらに表面凹凸など形状も関連します。
そうすると網目状に張り巡らされたタンパク質の間に
多くの水分子が配置され、タンパク質を引き付け(15)、
全体的な形が整ってくると想定されます。
このような表面エネルギー、表面電荷、形だけではなく
材料の硬さ、特定の物質装飾によっても
表面の水の物理化学的性質は異なると考えられます(22)。
--
上で述べたように
水分子と異種材料の結合様式は水素結合ですが
共有結合に比べて20倍以上結合エネルギーが小さく(4)、
その寿命はフェムト秒からピコ秒であり
非常に不安定で動的です(4)。
従って、強い結合力を実現するためには
少なくとも水素結合そのものの力のみで実現する
ことは難しいと考えられます。
今述べた水とタンパク質の反応の他に
水素結合よりも強い疎水効果(4)を利用するということがあります。
これは物質が凝集する力を利用して
異種物質の結合状態をより強くするものです。
従って、タンパク質を含む場合には
立体構造が変化する事が想定されます(5)。
このような疎水効果は微視的な視点と
巨視的な視点があります。
巨視的な視点としては
Yuting Zeng(敬称略)らが示すように(2)、
水からなるドロップレットを
疎水効果によって内側に圧縮するイメージです。
これは基板に超親水性を示す物質を用意して
それを超疎水性物質で挟むことで
内側への強力な力を誘発させ、
物質を巨視的に縮める事ができるというものです(2)。
植物の葉に水滴が浮かび上がるように
ドロップレットはその多くは液体からなります。
従って、
オープンドロップレットは
ゲルの液体成分の割合を大きく増やすヒントにはなりますが、
支持体がないオープンな空間で
どのようにオープンドロップレットの物理を
適用する事ができるか?ということがあります。
しかし、
循環器は液体、細胞で満たされており、
大部分は水ではあり、
混和性は高いと想定されますが、
例えば、
免疫細胞、血小板、赤血球など細胞を基板として
オープンドロップレットとして機能させる事が
できないという証拠はまだありません。
赤血球は平たい構造をしているので
そこにオープンドロップレットを載せられる
可能性はあります。
--
上述した構想では
ヒドロゲル薬物送達キャリア(1,6)において
体内の特に循環器での親和性を上げて、
免疫惹起を防いで、副作用が出ないように
標的まで薬物を包んで体に優しい形で届けるためには
人を含む生物にとって最も共通的である
水を最表層にしたいというものです。
その一つの設計イメージは
コアとなる薬物を含む任意性の高い物質空間があって
それはタンパク質を主に含み、
その物質を包むように水の薄い層がありますが、
その水の層とコア物質の界面は
グラデーションのように物質が漸近的に変わり、
再表層だけ理想的な(身体に近い)水の
分子状態になっています。
そして、全体としては地球が重力によって
あらゆる物質を引き付けるように
再表層にある水の層は中心に向かって力を受けて
引き付けられます。
その力は疎水効果などが利用されます。
そのためには水の層においては均質な膜形成が必要ですが、
一方で、その層全体に対して
中心に向かう凝集力が必要になります。
このような層構造の設計は
物理化学的に可能かどうかということです。
表層では横に広がる表面張力が勝っていて
それに対して垂直にコア、内側に向かって
凝集力が働いているということです。
--
また、タンパク質は分子的に見れば、
無機材料の結晶のように密度高く詰まっているわけではなく
鎖状につながっていて、
時には折り畳み構造が形成されます。
そうした中で隙間なく形成される事は難しいです。
隙間は免疫細胞などの浸入経路となるため
できるだけ水などの柔らかい物質で充満させたい
という需要があります。
--
B. L. Dargaville(敬称略)らが示すように
タンパク質の周りにまとわりつくように
層状に水分子が結合する事が想定され(4)、
それはSong-Ho Chong(敬称略)らの
界面相互作用モデル(8)と合理性があります。
上述した仮の完成形モデルは
理想的な層構造を想定しましたが、
実際にはそうはならず、
網目状の構造となる事も考えられるため、
その骨格の中で如何に抜け目なく
水分子で空間を充満させ、
かつ最表面を水分子にできるか?
考える必要があります。
その場合、その単位体積当たり、
水分子をどれだけ安定的に収容できるか?
その物理的特性が大切になります。
水分子は正と負の電荷を異方的に有しています。
従って、
タンパク質の周りの電荷分布において
その極性が高いほうが水分子の収容力が高まります。
また、
オープンドロップレット(2)のモデルでは
表面張力によって周囲に区画があれば
外側に力が加わり、
それが壁に力を与える事によって
結果として水分子の安定性を高める事になります。
ヒドロゲルではタンパク質の網目構造がありますから
それが壁となって
その壁の内部にある水分子の表面張力を受けて
水分子の位置安定性を高められる可能性があります。
この壁の役割をするのは必ずしも固体ではなく
混ざらない液体によって実現する事も
可能かもしれません(2,9)。
--
上述したように、
水分子は基本的にイオン液体のほうが
蒸発係数は低いと言われています。
それはイオンが水分子の蒸発の為の移動を阻害するからです。
従って、体液に含まれるイオンを入れる事は
体液に似せるという観点の他に
蒸発を防ぐという意味でも好ましいです。
他方で、
不安定な水分子に対して障害を設けるという点では
イオンの他に、液胞や気泡があります。
ナノバブル液体という技術がすでにあります。
そのナノバブルは中が気体ですが、
それを他の液体にするというアイデアもあります。
「oil-in-water」という技術もあります(2)。
そのナノバブルの大きさも重要ですが、
それが最表層に移動して揮発してしまわないように
安定的に存在できる事が
このアイデアを成功させるうえで大切である
と想定されます。
しかし、気泡は細胞に対して
損傷を与えるリスクがあるとされています(2)。
--
タンパク質の構造としては
ヒドロゲルの単位体積当たりの表面積が大きいほうが
水分子との結合数が大きくなるため
水分子を安定的に収容できるうえで好ましいです。
従って、
タンパク質の折り畳みも含めて
3次元構造の最適化が重要です。
その際、上述したように疎水効果による凝集力
あるいは内側から引き付ける力を
うまく利用することが考えられます。
--
ゲルを技術開発する上で難しい問題は
有効な解析手段がまだ確立されていない事です。
しかし、
細胞にも水が多く含まれていて
細胞の構造解析技術を生かす事ができます。
例えば、
低温電子顕微鏡(透過型も含む)では
細胞を低温にしてスライスしますが、
その手法をゲルにも適用できる可能性があります(10)。
その像をみるとタンパク質に相当する部分が
コントラストして観測できます(10)。
このように低温にすれば
X線回折による結晶構造を調べることができます。
赤外線分光法でも構造を調べる事ができます(22)。
タンパク質やDNAの周りのヒドロゲルとしての
水分子は構造としての特徴が漸次的に変わっており、
水和物から、結晶様の水、通常の水まで存在します(22)。
従って、これらの構造の違いを
赤外線分光法によって切り分けて評価する事は
可能かもしれません。
例えば、
タンパク質やDNAの周りの水の層が厚い
ヒドロゲルを作る事を目的としたとき、
最も内側、中間層にある水のスペクトルが差別化できれば、
条件を変えて作製していき、
そのスペクトルの位置、強度によって層厚を
ある程度の精度で評価できるかもしれません。
--
水をゲルの中で安定的に存在させるためには
上述したように水素結合だけでは不十分で
水素とタンパク質の界面における静電気力(8)や
物質が凝集する力である疎水効果による力、
あるいは
水が広がって薄膜を形成するための親水効果による力
内側にある水分子がタンパク質を引き付ける力、
利用する事が重要です。
それらの力を水分子がより多く、安定に存在できるために
有効に引き出すためにはどうしたらいいか?
力の大きさとベクトルを含めて
設計に組み込んでいく必要があります。
サーファクタントとして利用される
フッ素化合物は水素化合物よりも
大きな疎水効果を生むことが示されています(12,13)。
サーファクタントとアンチサーファクタント
という概念があります(14)。
アンチサーファクタントは界面急峻性を下げて
固体の場合は3次元成長を促すものです。
ヒドロゲルの場合は表層に来る層が水の液体なので
表面の結合の他に
表面張力と表面圧縮力の液滴の角度、
それぞれのベクトルの足し合わせが
均衡するように安定化します。
それに対して疎水効果を持つようにする事は
固体で言うアンチサーファクタントであり、
表面圧縮力をより引き出そうとするものです。
そうするとタンパク質は柔らかいので
それぞれの系で小さな塊ができるようになります。
それをヒドロゲル全体で見たときには
疎水効果を強くした場合には
至る所にそういった球ができるようになります。
そうするといずれにしても
隙間のないヒドロゲルを作ろうと思ったら、
その球の間を埋める液体が必要になります。
あるいは全体として
地球が重力で内側にあらゆる物質を引き付けるように
系全体で内側に圧縮する力学系を構築する必要があります。
表面/界面の結合力、静電気力、表面張力、
表面圧縮力、疎水効果、親水効果など
ヒドロゲルの系の中にある力学系は複雑なので
それらの足し合わせの中で
目的となる機能を発揮するように
力の種類、量、ベクトルをよく考える必要があります。
--
(※1)
ヒドロゲルの薬剤送達を考えるにあたり、
すでに体内に存在するヒドロゲルの構造を参考にすることは重要です。
身体を構成する粘膜の内、
気道に存在する粘膜は層厚が最大で5μm程度の層を形成します(24)。
この気道の粘膜はムチンと呼ばれる
糖たんぱく質が同種でネットワーク上に形成します。
そのムチンは側面に無数の「糖鎖」を形成します。
この糖鎖が水との水和、混和、親水性を挙げている可能性があります(25)。
薬物送達媒体としてヒドロゲルの水の量を上げながら、
かつ、ジェルの特性の寿命を上げるためには、
溶解させる固体の物質の水の収容能力を上げる必要があります。
そのためには「フラクタル」な形が好ましいです。
つまり、タンパク質の側面に無数の糖鎖があって、
またその糖鎖の側面に物質がある。
その一番大きな単位である(糖)タンパク質は
互いに結合できるネットワーク構造を有している。
ということです。
ヒドロゲルによる薬物送達は
最表面を水にできる事から循環器内で副作用の少ない
薬物送達システムの実現に貢献する可能性があります。
構造としての安定性においては
自然界で植物なども含めて様々な構造体としてみられる
「フラクタル」構造を取ることが
隙間に水分子が入る容積が大きくなるため、
骨組みとなる物質の構造、組み合わせを最適化すれば、
より少ない物質量で多くの水分子を収容できるようになるかもしれません。
そのためにはすでに身体に存在する
ヒドロゲルを細かく分析することが一つの出発点となりそうです。
((※1) 2023年12月3日 11:15 アップロード)
--
どのタイミングで明言するかというのはあるのですが、
ある程度、詳細に
ヒドロゲルの物理化学的性質を参照し、考察してきたので、
医療分野に限らず、エネルギー分野について
触れるのが適切であると判断します。
エネルギーについて原理原則を含めて考える事は
これからの社会において極めて重要であるからです。
-
そもそもエネルギーがあるというのは
その物質が動いたり、反応したり、相を変えたり
様々な能力を獲得している事を意味します。
生命活動においても、
物質が循環したり、代謝したりするうえで
エネルギーが必要なので、
当然、そのエネルギーを摂食によって得る必要があります。
生物だけに限らず、
大洋は長期間かけて循環していますが、
その循環の為にもエネルギーが必要です。
人類の歴史を紐解く中で
何千年も大きく変わらずに続いた時代もあります。
しかし、産業革命以降の100年、200年で
地球環境は大きく変わる可能性が高いです。
様々な要因があると思いますが、
1つの重要な視点は
1人あたりの正味のエネルギー消費量の違いにある
と考えられます。
これは単に産業的なエネルギーだけではありません。
日常生活のあらゆることに関連します。
食事も食品ロス、肥満を考慮すると
1人当たりのエネルギー量は増えました。
現代ほどその消費量が高い時代はなかった
と考えて間違いないです。
それが急速に地球環境を変えている事に
根本でつながっていることにほば間違いないです。
人は世界中移動する事が容易になったし、
物質を合成する事によって
多くの人工物を生成しています。
食品の消費量も多くなっています。
持続可能性の問題を
実際に前に進めていくためには
もちろん人の行動を促していくことも大切ですが、
このエネルギー消費に対する
歴史的なエビデンスベースの現実を
少なくとも世界の中でより影響力のある方々が
理解する事が大切です。
原始時代のような生活をするように
多くの人を促すことはおそらく無理でしょう。
そうした場合、どういった代替の答えがあるか?
それを精緻な様式で考える必要があります。
--
省エネルギー、エネルギー循環などを
地球が元々持っているエネルギーを生かしながら
行っていくという事はすでに考えられている事です。
しかし、そのような人の行動や
再生可能なエネルギーの利用を促す様式だけではなく、
それをどのように有効に任意に送達させるか?
あるいは有効に利用するか?
このような軸が存在します。
エネルギーを配るという観点では
人工知能によって町全体でシステムを最適に組むという事が
今後考えられると思います。
その電気伝導効率でいえば、
劇的に変えられる技術としては
常圧室温超電導材料の探索にあると思います。
20世紀に劇的なイノベーションがありましたが、
その分野に精通した専門家は
常圧室温超電導が実現すれば社会は大きく変わる
とまで言われています。
この分野は衰退の時期があったと認識していますし、
本当に物理的に可能か?という疑問もありますが、
出来た時の社会的付加価値が非常に高いので
長期間かけて追究していく価値はあると思います。
場のエネルギーと電子を自在にエンジニアリングできれば
今までの景観は変わっている可能性もあります。
もし実現すれば、
電線の抵抗がなくなるので
電気をより有効に配分できるようになります。
-
もう一つの観点は
すでに再生可能エネルギーとセットで考えられていることです。
それが電気を如何に貯めて、
オンデマンドで利用するか?ということです。
いわゆる蓄電技術、そのシステムです。
蓄電技術が進めば、再生可能エネルギーの利用も
より有効になります。
また、輸送手段である自動車、飛行機などにおいても
蓄電技術はこれから必要になります。
それはすでに自明なことです。
なぜ、ヒドロゲルの記事の中で
このエネルギーの事を述べているか?という
つながりはこの蓄電技術にあります。
蓄電技術は2次電池を使うわけですが、
その重要な材料構成の中にイオンを通す電解質があります。
この電解質の開発は
電池の安全性、作動性管理システムと並ぶくらい
大切な科学技術分野となります。
蓄電池の電解質は液体と固体がありますが、
固体の場合は不燃性であり安全性が高い一方で、
電池の性能を決めるイオン電導度を高めにくい事や
電極との界面の高い濡れ性、接触性が難しい
という事があります。
特に電極と電解質の界面は物理化学的に非常に複雑で
繊細な管理が必要です。
SEI層、樹状層など
電解質と電極の反応によって形成される
薄膜、突起が存在するからです。
その物理を理解する事は電池開発を
するうえで極めて重要です(16,17)。
ヒドロゲルは液体と固体の間の材料であり、
その相としての特徴を液体に寄せることも、
固体に寄せる事もできるので
自由度に富む材料物性を持つと考えられます。
すでにヒドロゲルを電解質に使うというアイデアは
当然考えられています。
より固体のメリットを生かしたいのであれば、
電極の近くだけをゲル(ヒドロゲル)にして
それ以外は安全性の高い固体材料にして
界面の濡れ性を上げるという技術的な視点もあります。
おそらく上述した
ヒドロゲルを含めたゲルに関する科学技術の発展は
薬学、医学、医療の分野だけではなく、
このようなエネルギー分野にも影響を与えます。
それぞれ求められる特性が違うので
その適用を円滑にし、応用性を高めるためには
基礎的な物理化学の理解や
有効な解析技術を見出すことが求められます。
-
まずは基礎的な研究があり、
そこから技術が生まれ、産業化する
という世の中の流れがあります。
新型コロナウィルス世界的流行の中で考えられた
グリーントランスフォーメーションという概念がありますが、
こうした基礎研究から産業化までの
バリューチェーンを環境に配慮した形で
経済的なメリットをより多く生むように
仕向けて行こうというものです。
その産業化までの間にはデスバレーがあります。
過激な競争に負けて淘汰される技術があります。
経済的なメリットがある形で
科学技術が産業応用として日の目を見る割合は
決して高くはないですが、そうした中で
少なくとも技術開発者に求められる事は
その技術における効率を如何に高められるか?です。
太陽光発電で有れば、太陽光を如何に
効率的に電気に変えられるか?
このような効率であります。
太陽光発電の場合は理論限界があるわけですが、
結局、この効率が顕著に高ければ、
競争に勝つことができて、世に普及します。
コストの問題も効率の差が大きければ、
ある程度は埋める事ができます。
「エンジニアリング(Engineering)」の一つの本質は
人為的な操作によって様々な効率を如何に高められるか?
これにあると考えられます。
例えば、アンモニアは
持続可能かつ貯蔵、輸送可能なエネルギーです。
アンモニアを合成するためには
強大なエネルギーの山を乗り越える必要がありますが、
それを触媒の力によって山を小さく分割し、
より小さなエネルギーで生み出すことは
エンジニアリングであり、
そこには触媒による合成効率が存在します(3,18,19)。
これは「Chemical Engineering」と呼ぶこともできます。
科学技術がグリーントランスフォーメーションに
貢献できる事は多面的であると考えられますが、
その一つの核はエンジニアリングによる効率の向上です。
これを経済的なメリットと紐づけていくことで
難しい問題は前に進んでいくと考えられます。
--
ヒドロゲルの物理化学を追究していく事は
上述したようにエネルギー分野にも恐らく波及していきますが、
細胞種特異的な薬物送達学の
見落としがちな根本的な原理に一定の気づきを与えます。
Song-Ho Chong(敬称略)らが示すように(8)
タンパク質と水は相互作用しますから、
細胞表面にあるタンパク質の周りには
生体内にある水が層として存在する可能性があります。
実際にリガンドと受容体の認識性において
水とタンパク質の反応が影響を与えるとされています(8)。
従って、
細胞種特異的な薬物送達における
事前に設計されたリガンドと
標的となる受容体の結合親和性は
循環器などで取り込んだ水からなる表面層に
影響を受けている可能性があります。
この科学的事実と、
水を最表層に持ってくるという
ヒドロゲルのアイデアから重要な想起が生じます。
それは、
合成ナノ粒子や細胞などにおいて
免疫的な相互作用を減らすために
水との相互作用を高める表面処理ができないか?
という視点です。
生体内で多く含まれる水を排他的に表面に取り込んで
その層厚が大きくなれば、
ヒドロゲルに持たせようとするメリットを
少なくとも一部享受できる可能性があります。
あるいは、
新型コロナウィルスの表面タンパク質は
結合面以外の部分は糖となっていて、
糖の部分が不活性であることから
エピトープが守られやすい構造になっています。
これを水にあてはめて考えると
親水性、疎水性を制御しながら、
水に覆われやすい部分とそうではない部分を
うまく制御して、結果として
エピトープが循環器でコロナ付着から守られやすい
構造にできないか?
そのプロテクト層を水の層にするというアイデアです。
その際において、
タンパク質の疎水、親水の水和構造を
ニューラルネットワークによって計算する手法が
適用できる可能性があります(20)。
おそらく
水を排他的に取り込むということが難しいと思いますが、
細胞種特異的な薬物送達の実現を目指すうえで
生体内でのタンパク質と水との相互作用は
上述した創案(草案)も含めて、
決して無視できない現象であると少なくとも言えます。
--
上述したヒドロゲルの構成物質は
タンパク質としていましたが、
DNAでも共有結合、非共有結合を作り
ヒドロゲルを形成することができます(21,23)。
共有結合は強い結合なので
構造としての堅牢性は
タンパク質との組み合わせよりも強いかもしれません。
遺伝子シーケンス特異的な「糊(のり)」として
形を制御する事ができます(21)。
従って、タンパク質よりも
より機能的なヒドロゲルを作るうえで
シーケンスにより制御できる可能性がある事から
特に製造面において優れている可能性があります。

(参考文献)
(1)
Ruibo Zhong, Sepehr Talebian, Bárbara B. Mendes, Gordon Wallace, Robert Langer, João Conde & Jinjun Shi
Hydrogels for RNA delivery
Nature Materials (2023)
(2)
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Miniaturizing chemistry and biology using droplets in open systems
Nature Reviews Chemistry (2023)
(3)
Yuya Ashida, Takuro Mizushima, Kazuya Arashiba, Akihito Egi, Hiromasa Tanaka, Kazunari Yoshizawa & Yoshiaki Nishibayashi 
Catalytic production of ammonia from dinitrogen employing molybdenum complexes bearing N-heterocyclic carbene-based PCP-type pincer ligands
Nature Synthesis (2023)
(4)
B. L. Dargaville & D. W. Hutmacher
Water as the often neglected medium at the interface between materials and biology
Nature Communications volume 13, Article number: 4222 (2022)
(5)
Carlo Camilloni, Daniela Bonetti, Angela Morrone, Rajanish Giri, Christopher M. Dobson, Maurizio Brunori, Stefano Gianni & Michele Vendruscolo
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Scientific Reports volume 6, Article number: 28285 (2016)
(6)
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(8)
Song-Ho Chong & Sihyun Ham
Dynamics of Hydration Water Plays a Key Role in Determining the Binding Thermodynamics of Protein Complexes
Scientific Reports volume 7, Article number: 8744 (2017)
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Droplet-based microfluidics
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Clement Marmorat, Arkadii Arinstein, Naama Koifman, Yeshayahu Talmon, Eyal Zussman & Miriam Rafailovich 
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Scientific Reports volume 6, Article number: 25495 (2016)
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Yumi Katasho, Yunfeng Liang, Sumihiko Murata, Yasuhiro Fukunaka, Toshifumi Matsuoka & Satoru Takahashi 
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Motomu Tanaka, Marie Pierre Krafft & Andreea Pasc 
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物質を架橋する任意性を上げる超分子技術の薬学への波及効果

薬剤を自在につなげる技術というのは大きな可能性を生みます。
抗体と毒性の強い薬物を架橋した
抗体薬物複合体の最も顕著な功績は
それらをつなげるアイデアもそうですが、
それを技術的に可能にしたことです。
もし、物質を任意につなげることができたら
現時点で想定していないような可能性ももちろんありますが、
今考えられる範囲でいえば、
細胞種特異的輸送系統において
ナノ粒子、生体模倣粒子、細胞外小胞など
多くのナノ粒子媒体に対して
より幅広い装飾が行えるということです。
細胞外小胞は遺伝子的な作用によって
エレガントな手法で装飾が可能になることが示されました(1)。
しかし、超分子技術、あるいはその発展形は
結合状態の任意性をあげるものなので
遺伝子的な作用を借りなくても
より広範な装飾を行えるということです。
これは上述した人工的なナノ粒子においても同様で
多様な装飾を原理的に行う事ができることを示したものです。
従って、
超分子技術は薬学以外のマテリアル開発において
広範に利用できるものですが(2,3)、
私が提案する細胞種特異的輸送系統を実現する上で
1つの鍵となる技術であるという認識でいます。

(参考文献)
(1)
Lydia Alvarez-Erviti, Yiqi Seow, HaiFang Yin, Corinne Betts, Samira Lakhal & Matthew J A Wood
Delivery of siRNA to the mouse brain by systemic injection of targeted exosomes
Nature Biotechnology volume 29, pages341–345 (2011)
(2)
Norihiko Sasaki, Jun Kikkawa, Yoshiki Ishii, Takayuki Uchihashi, Hitomi Imamura, Masayuki Takeuchi, Kazunori Sugiyasu
Multistep, site-selective noncovalent synthesis of two-dimensional block supramolecular polymers
Nature Chemistry volume 15, pages922–929 (2023)
(3)
Noriyuki Uchida
Design of supramolecular nanosheets for drug delivery applications
Polymer Journal (2023)
2023年7月16日日曜日 0 コメント

固形癌の内分泌学的治療

The New England journal of medicineの
癌治療の報告を拝読すると、
固形癌の治療は進行性の物は特に
外科手術があって、
それで取り除いた後の小さな腫瘍において
免疫治療や化学療法を補助的に有効に行う事によって
予後を向上させるということが実績としてあります。
この事実には特に現場にいないものとしては当然従うべきです。
私は細胞種特異的輸送系統で
全身に転移した治療が不可能な癌患者さんを
治す方法を考えたいと本気で思っていますが、
実際の臨床報告を見ると
それは極めて難しいことだという現在の認識でいます。
しかしながら、
臨床報告として論文に上梓されているケース以外で
その何百倍もの治療ケースが
世界中の病院で存在すると思いますが、
その治療の当たられた医師の中で
全身に転移した癌の患者さんが
実際に回復されたケースもあったと思います。
その治療がどの様であったか知りたいというのがあります。
一方、
血液系の癌は当然、手術はできませんが、
内科的な治療によって寛解するケースも多くあります。
それは、一つは薬剤動態において
その薬剤が血中を回るものだからと考えています。
つまり、循環器外の特定の位置に組織として
存在する癌よりも
細胞として独立性が高く、循環器内に存在する癌の方が
薬剤として送達効率が高いためではないか?
このように推察しています。
もう1つは遺伝的多様性もあると思います。
腺腫は膜で複数の細胞が覆われていますし(1)、
組織を形成してれば、
当然、全部の癌細胞が露出していません。
さらに循環器外に滲出させる必要もあるので
薬剤送達が難しい事もあると思います。
そうした中で
どのような組織常在型の固形癌の内科的な治療の
効率を高めていくか考える事になります。
これは決して外科的な治療を否定するものではありません。
内科的な治療のレベルが上がれば、
当然、外科的な適用範囲や侵襲性も下がる可能性もあります。
また、治療の難しい癌においても
治せる道筋が見いだせるかもしれません。
その中で
1つ私が十分条件ではないですが
考えている方向性としては
癌の分泌物に着目するということです。
すでに日本医科大学の落谷孝広教授は
癌が放出する細胞外小胞が多いことに着目し
それを抑える薬を提案されていますが、
そのような胞としての分泌物だけではなく、
露出した核酸やタンパク質なども多く出ていると思います。
それらが、骨髄などに作用し
腫瘍組織の形成を促進する
好中球、単球、マクロファージの形質を
変えている可能性があるので
そうしたことも含めて
循環器に存在する癌放出物を分解する事で
癌の組織化を抑制する事ができないか?
という観点です。
腫瘍組織を固定的な組織としてみるだけではなく
そのネットワークを絶つという観点です。
ネットワークは循環器に作用させることになるので
薬剤送達効率が高まるかもしれないという想定もあります。

(参考文献)
(1)
Robert Noble, Dominik Burri, Cécile Le Sueur, Jeanne Lemant, Yannick Viossat, Jakob Nikolas Kather and Niko Beerenwinkel
Spatial structure governs the mode of tumour evolution
Nature Ecology and Evolution (2021)
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粘膜通過型ワクチンの設計戦略

新型コロナウィルスのmRNAワクチンは
筋肉注射によって行われます。
血液中のリンパ節に効率的に送達させるためには
噴霧、錠剤のようなワクチンでは難しく
注射による投与が好ましいという事です。
しかし、
世界に80億人いる人に公平にワクチンを広めていくためには
衛生環境の整っていない接種環境も想定する必要があり、
できれば、衛生管理、教育が必要な注射ではなく、
口腔や鼻腔を通して、錠剤や液体でワクチンを投与できるような
粘膜系を通したワクチンの開発が望ましいです。
これは発展途上国の方々にメリットがあるだけではなく
今後のパンデミックを想定した際に
発展途上国から広がる事も考えられることから
先進国の公衆衛生にも関連する事です。
従って、
口腔、鼻腔投与できるワクチンの基本的機序について考える事は
非常に重要なイシューになります。

mRNAワクチンは消化器を通した投与では
抗体価があがりにくいという報告が情報元は失念しましたが
確かあったと思います。
日本の理化学研究所のマウスの報告(1)でも
弱毒化の生ワクチンでなければ
鼻腔投与における
インフルエンザワクチンの高い交差性は得られなかった
とされています。
これはなぜでしょうか?
それについて一定の示唆を与える報告があります(2)。
私はこのような事を深く考えていくときには
情報学的なアプローチよりも
描写的、空間的なアプローチをとる事が多いですが、
消化器を通した摂取の場合は
当然、粘膜、バリア組織、免疫領域、内皮、血管内腔となります。
細かくはもっと細分化されるかもしれません。
筋肉注射の場合は血管内腔までの経路が短絡されますから
当然、送達効率は高まります。
しかし、消化器の場合は当然それが低下します。
mRNAワクチンの抗体価が上がらないのも、
あるいは消化器系のワクチンの回数が多いのも
根本にはそれがあるということが私の理解です。
では、なぜ、生ワクチンの場合が抗体価が上がりやすいのか?
鼻からの投与でも
鼻腔内にも鼻毛や粘膜があります。
従って、消化器と基本的な構造は類似します。
私の推測は、
生ワクチンの抗原がmRNAワクチンのような
「精製された抗原」よりも多様だからではないか?
このように考えています。
アドジュバントともいえるかもしれません。

ワクチンによって抗体を発現させるためには
樹状細胞による抗原認識、ヘルパーT細胞、B細胞、形質細胞
といったような順々の細胞連携が必要で
濾胞性といった細胞の塊の中での連携も存在します。
その濾胞形成はリンパ節内の胚中心があります。
消化器ではPeyer's patches(ピエール拍子)と呼ばれます。
この樹状細胞は「樹状」ですから
バリア組織の内側から枝が伸びるように粘膜に到達し
それで抗原となるワクチン成分を捉えたりすると想像しますが、
その時に、抗原提示の為の効率性を高める必要があります。
その抗原提示に関連するのがTLRで
このTLRは短いものも含めて多様な核酸を認識すると言われています(2)。
従って、精製されたワクチンよりも
自然に存在するおそらく成分として複雑な
生ワクチンの方が効率よく樹状細胞を刺激する事ができる可能性があります。
あるいはタンパク質をmRNAを通じて生み出さないといけない
というプロセスが関係している可能性もあります。
そうであるとするならば、
抗原であるタンパク質ワクチンでは抗体価が出るという事になります。
ただ、いすれにしても
呼吸器や消化器はもともと血中に余計な物質が入らないような
システムが組まれていますから
当然、ワクチンの効果が得られにくということがあります。
そうした場合、
何らかの補助的なシステムによって
ワクチンの効果が得られやすい要素を組み込む必要があります。
その一つの案として考えられるのが
Prime CAR-T細胞のようなアイデアで
免疫細胞も引き付けるケモカイン、シグナル因子をワクチン成分の中に
入れる、組み込む事(その両方)が考えられるかもしれません(3,4)。
そうして、ワクチンに樹状細胞が引き付けられやすいようにして
それで消化器の抗原認識、アドジュバント効率を高めるということです。
あるいは鼻腔、口腔などの投与の場合には
鼻腔や口腔にも免疫細胞集まる扁桃腺や
同じく免疫細胞が集まる腸には盲腸の原因となる虫垂がありますから
そこでの特異的な送達も考える必要があります。
但し、虫垂炎になるとデメリットの方が多くなるので
その辺が難しいところです。

以上。

(参考文献)
(1)
多様なウイルスを防御、弱毒生ワクチンの経鼻感染の有効性を確認
(2)
Nicholas A. Lind, Victoria E. Rael, Kathleen Pestal, Bo Liu, Gregory M. Barton
Regulation of the nucleic acid-sensing Toll-like receptors
Nature Reviews Immunology volume 22, pages224–235 (2022)
(3)
Keishi Adachi, Yosuke Kano, Tomohiko Nagai, Namiko Okuyama, Yukimi Sakoda, Koji Tamada
IL-7 and CCL19 expression in CAR-T cells improves immune cell infiltration and CAR-T cell survival in the tumor
Nature Biotechnology volume 36, pages346–351 (2018)
(4)
Angela Q. Zhang, Alexander Hostetler, Laura E. Chen, Vainavi Mukkamala, Wuhbet Abraham, Lucia T. Padilla, Alexandra N. Wolff, Laura Maiorino, Coralie M. Backlund, Aereas Aung, Mariane Melo, Na Li, Shengwei Wu, Darrell J. Irvine
Universal redirection of CAR T cells against solid tumours via membrane-inserted ligands for the CAR
Nature Biomedical Engineering (2023)
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自己免疫疾患の包括的考察

自己免疫疾患の治療というのは医療、医学、薬学において大きなテーマです。
その種類は100種類以上とも言われます。
外の抗体に反応するアレルギーも含めて
免疫惹起に関連する疾患の治療について考える事は
医療だけではなく社会的に意義がある事だという認識です。

新型コロナウィルスのワクチン接種でも明らかな様に
女性の方が、副反応の程度が大きいが
抗体量など予防効果も高い事が言われています。
これは他のワクチンでも同様です。
女性は自己免疫疾患様の症状がある人がかなりの割合いるという
報告も情報元を失念しましたがありました。
従って、性ホルモン、染色体などの影響を含めて
なぜ、免疫反応における性差が存在するかを考える事が重要です。

自己免疫疾患では、
体内に自発的に存在する抗体に対して
B細胞やT細胞が反応し、免疫惹起を起こす事ですから
それらの細胞について考えることになります。
抗体が関わるわけですから
胚中心があるリンパ節などのプロセスを考えることになりますが、
私はより上流の樹状細胞について考えることが
共通的に重要であると考えています。
樹状細胞は抗体の元である抗原提示に関連し、
その抗原提示に従って、B細胞、T細胞の形質の一部が決まるとすれば、
樹状細胞の抗原提示のプロセスを考える事が重要である
ということに帰結します。
ここからは実際にこれから具体的に論文を読んで
調べていく必要がある事なので、内容が変わる可能性がありますが、
現時点では特に樹状細胞のエンドソームに主に発現している
TLR7が重要であると考えています。
このTLR7は「閾値」があって、
自己免疫疾患の場合には
その閾値が下がっている可能性が示唆されています(1)。
何がその閾値を決めているでしょうか?
それは
①数
②2量体化
③シグナル伝達
これらなどです(1)。
当然、数が異常に多くなれば、
少ない抗原でTLR信号が惹起されるわけですから、
それによって抗原提示の感度が上がってしまいます。
そうするとそれによって
普通ならパスされていた抗原認識も反応してしまうわけです。
これはB細胞、T細胞共に上流側の信号として関係するはずです。
それが現時点での私の認識です。

自己免疫疾患についてはこの草案に基づいて
調べていく中でさらに詳しい考察ができると思いますが、
現時点での情報提供を世界の研究者の方にいたします。

(参考文献)
(1)
Nicholas A. Lind, Victoria E. Rael, Kathleen Pestal, Bo Liu, Gregory M. Barton
Regulation of the nucleic acid-sensing Toll-like receptors
Nature Reviews Immunology volume 22, pages224–235 (2022)
 
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