2023年4月26日水曜日

腫瘍中の3次リンパ様組織形成促進における代謝的観点

癌の治療の選択肢はいくつかありますが、
免疫治療は第4の選択肢と言われており、
比較的新しい治療です。
管理のガイドラインが
子どもやAYA世代の患者さんにおいても
合意声明として2021年に示されています(3)。
現状では化学療法と組み合わせて行われるケースが多いです(2)。
進行性の癌を免疫治療だけで寛解させるという事が
臨床において現状では難しい事を示しているのかもしれません。
しかしながら、
癌における免疫機構を詳細につかみ、
その免疫機能における抗癌性を特異的に高める事ができれば、
化学療法の負担を減らしたり、
それなしでも治療が可能になる日が来るかもしれません。
あるいは寛解後の患者さんの長期的な生活の質を
改善する事にもつながるかもしれません。
--
その癌に対する免疫システムの理解のためには
多種多様な免疫細胞や
サイトカイン、ケモカインなどの分泌物だけではなく、
組織常在性の免疫細胞や循環型の免疫細胞の
分子細胞生物学的な理解も重要になります。
特に、組織常在性の免疫細胞は
臓器、組織特異的であり、
特徴的な表現型を持つ事から
細胞種特異的な薬物送達の標的として
定めることができる可能性があります。
さらに、組織常在型の免疫細胞は
循環型の免疫細胞よりも数として上回る事(4)、
さらに局所的に存在している事から
特に組織を形成する癌種の免疫治療を
ナノテクノロジーを使った特異的な薬物送達学を
利用して行う場合、鍵を握る免疫細胞であると想定されます。
さらに、
癌組織に存在すると考えられる
組織常在型の免疫細胞は全て散在しているのではなく
3次リンパ様組織として凝集しているものもあり、
その凝集物の免疫機能への寄与が大きいと考えられます。
なぜなら、すでに
組織を形成する癌種における
3次リンパ様組織の量、極性(炎症性、抗炎症性)などは
癌治療における奏功、予後に関わると
臨床である程度示されているからです(5,6)。
従って、
3次リンパ様組織の
凝集などを含めた核形成をモデル化し(7)、
さらに成長(1)、成熟の機序を理解する事は極めて重要です。
--
その3次リンパ様組織は
B細胞の濾胞化、胚中心の形成が少なくとも重要ですが、
その組織化、形成において、
Yavuz F. Yazicioglu(敬称略)らによれば、
ミトコンドリアの機能がカギを握るとされています(1)。
特に 
Transcription factor A,mitochondrial (TFAM).
この活性が重要です(1)。
ミトコンドリアのDNAと修復に関わる転写因子です。
なぜ、ミトコンドリアなのでしょうか?
それを考える上で重要なのが、
それを形成する(微小、周辺)環境の条件に依ります。
一般的な2次リンパ組織の胚中心や
癌組織は細胞の増殖率が高く、凝集しているため
栄養や酸素需要が高い状態になります。
血液による供給が行われているにしても
周辺環境は低酸素状態になると考えられます(8,9)。
このような低酸素の状態で
細胞が活発に増殖するためには
細胞の代謝機能の効率を高める必要が出てきます。
従って、それを担うミトコンドリアの転写因子が重要になる
と考える事ができます。
免疫細胞は酸素を必要とする好気性の代謝が基本であり、
ミトコンドリア転写因子であるTFAMは
ミトコンドリアの生成に関わるため(1,10)、
低酸素の状態で必要な代謝機能を保つ上で
重要な機能かもしれません。
特に、2次リンパ節ではなく
3次リンパ様組織では、腫瘍内に形成されますから
腫瘍がすでに低酸素状態にあるのならば、
その中に形成される3次リンパ様組織は
高いレベルで低酸素であることが想定されるため、
B細胞のみならず、T細胞、自然免疫系細胞に至るまで
濾胞として組織化するために
低酸素でも増殖、生存できる
効率的な代謝機能を獲得する必要がある可能性があります。
従って、細胞内のミトコンドリアの機能や数を
制御する様々な遺伝子が少なくとも重要になります。
しかし、上述した
ミトコンドリア転写因子TFAMは
リンパ腫とも関係があるとされています(1)。
一方、
TFAMは腎臓がん、卵巣がんにおいて
まだ、臨床のエビデンスは不十分ですが
レベルが下がると予後が悪くなる傾向にあります(11)。
従って、
TFAMに関しては
癌種によっては逆の傾向を示すということです。
この事はTFAMを高めるような医療介入をすることで
癌化を促してしまう危険性もある事を
示すものかもしれませんが、
一方で、すでにTFAMが高いレベルにあると
臨床によって予後がよくなる傾向が示されているのであれば、
それは、TFAMの発現によって
臨床結果と関連があると報告されている
間接的に3次リンパ様組織の形成に影響を与えている事を
示すものかもしれません。

//まとめ//
腫瘍内の3次リンパ様組織の組織化を促し
高い体積比率を実現し、
抗癌性の免疫機能を高めるためには
3次リンパ様組織の構成単位である免疫細胞が
癌細胞などに囲まれた領域で
細胞同士が凝集する必要がある事から
エネルギー競合性が高く、
効率的な代謝機能を手に入れる必要があります。
従って、
組織特異的な薬物送達によって
3次リンパ様組織の形成を促す介入をするのであれば、
その大切な一つの要因として
免疫細胞の代謝効率を高めるような薬物を
組織特異的に届ける必要があります。
免疫細胞の中のミトコンドリアは1つではありません。
そのミトコンドリアの数が
一つの要因として重要であるとするならば
上で示されたミトコンドリアの生合成に関わる
遺伝子は介入する上でカギとなると考えられます。

(参考文献)
(1)
Yavuz F. Yazicioglu, Eros Marin, Ciaran Sandhu, Silvia Galiani, Iwan G. A. Raza, Mohammad Ali, Barbara Kronsteiner, Ewoud B. Compeer, Moustafa Attar, Susanna J. Dunachie, Michael L. Dustin & Alexander J. Clarke
Dynamic mitochondrial transcription and translation in B cells control germinal center entry and lymphomagenesis
Nature Immunology (2023)
(2)
Leena Gandhi, M.D., Ph.D., Delvys Rodríguez-Abreu, M.D., Shirish Gadgeel, M.B., B.S., Emilio Esteban, M.D., Enriqueta Felip, M.D., Ph.D., Flávia De Angelis, M.D., Manuel Domine, M.D., Ph.D., Philip Clingan, M.B., B.S., Maximilian J. Hochmair, Ph.D., Steven F. Powell, M.D., Susanna Y.-S. Cheng, M.D., Helge G. Bischoff, M.D., Nir Peled, M.D., Ph.D., Francesco Grossi, M.D., Ross R. Jennens, M.B., B.S., Martin Reck, M.D., Rina Hui, M.B., B.S., Ph.D., Edward B. Garon, M.D., Michael Boyer, M.B., B.S., Ph.D., Belén Rubio-Viqueira, M.D., Silvia Novello, M.D., Ph.D., Takayasu Kurata, M.D., Ph.D., Jhanelle E. Gray, M.D., John Vida, M.D., Ziwen Wei, Ph.D., Jing Yang, Ph.D., Harry Raftopoulos, M.D., M. Catherine Pietanza, M.D., and Marina C. Garassino, M.D. for the KEYNOTE-189 Investigators*
Pembrolizumab plus Chemotherapy in Metastatic Non–Small-Cell Lung Cancer
The New England Journal of Medicine  2018; 378:2078-2092
(3)
Dristhi Ragoonanan, Sajad J. Khazal, Hisham Abdel-Azim, David McCall, Branko Cuglievan, Francesco Paolo Tambaro, Ali Haider Ahmad, Courtney M. Rowan, Cristina Gutierrez, Keri Schadler, Shulin Li, Matteo Di Nardo, Linda Chi, Alison M. Gulbis, Basirat Shoberu, Maria E. Mireles, Jennifer McArthur, Neena Kapoor, Jeffrey Miller, Julie C. Fitzgerald, Priti Tewari, Demetrios Petropoulos, Jonathan B. Gill, Christine N. Duncan, Leslie E. Lehmann, Sangeeta Hingorani, Joseph R. Angelo, Rita D. Swinford, Marie E. Steiner, Fiorela N. Hernandez Tejada, Paul L. Martin, Jeffery Auletta, Sung Won Choi, Rajinder Bajwa, Natalie Dailey Garnes, Partow Kebriaei, Katayoun Rezvani, William G. Wierda, Sattva S. Neelapu, Elizabeth J. Shpall, Selim Corbacioglu & Kris M. Mahadeo 
Diagnosis, grading and management of toxicities from immunotherapies in children, adolescents and young adults with cancer
Nature Reviews Clinical Oncology volume 18, pages435–453 (2021)
(4)
Elizabeth Rotrosen & Thomas S. Kupper
Assessing the generation of tissue resident memory T cells by vaccines
Nature Reviews Immunology (2023)
(5)
Yuki Sato, Karina Silina, Maries van den Broek, Kiyoshi Hirahara & Motoko Yanagita
The roles of tertiary lymphoid structures in chronic diseases
Nature Reviews Nephrology (2023)
(6)
Wolf H. Fridman, Maxime Meylan, Florent Petitprez, Cheng-Ming Sun, Antoine Italiano & Catherine Sautès-Fridman 
B cells and tertiary lymphoid structures as determinants of tumour immune contexture and clinical outcome
Nature Reviews Clinical Oncology volume 19, pages441–457 (2022)
(7)
Yifan Dai, Lingchong You & Ashutosh Chilkoti
Engineering synthetic biomolecular condensates
Nature Reviews Bioengineering (2023)
(8)
Sung Hoon Cho, Ariel L. Raybuck, Kristy Stengel, Mei Wei, Thomas C. Beck, Emmanuel Volanakis, James W. Thomas, Scott Hiebert, Volker H. Haase & Mark R. Boothby
Germinal centre hypoxia and regulation of antibody qualities by a hypoxia response system
Nature volume 537, pages234–238 (2016)
(9)
Dean C. Singleton, Andrew Macann & William R. Wilson
Therapeutic targeting of the hypoxic tumour microenvironment
Nature Reviews Clinical Oncology volume 18, pages751–772 (2021)
(10)
Hauke S. Hillen, Dmitry Temiakov & Patrick Cramer
Structural basis of mitochondrial transcription
Nature Structural & Molecular Biology volume 25, pages754–765 (2018)
(11)
The human protein atlas
https://www.proteinatlas.org/ENSG00000108064-TFAM/pathology

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