ナノ粒子を使って狙いの病変部位に対する
特異性を発揮した薬剤送達を実現するためには
様々な方式が考えられています。
それぞれの方式で薬剤を投入するとき
特異性を持つように事前に精緻に設計しますが、
その設計が目的地まで維持される保証はありません。
生体内のタンパク質、核酸を含め
様々な物質と相互作用し、
ナノ粒子の表面に付着する事で
巨視的にも、微視的にも物理化学的特性の
変化があると想定しておく必要があります。
--
このような付着物全般はコロナと呼ばれます。
そのコロナ形成を逆に積極的に利用する
という考え方もあります。
例えば
脂質ナノ粒子にSORTと呼ばれる物質を付加させ
その電気的特性と酸性度を制御する事によって
脂質ナノ粒子に付着する
コロナの種類を変更させる報告もあります(2,3)。
それによって
肝臓、脾臓、肺への特異的送達を可能にする
条件を見つける事が可能になっています(2,3)。
但し、肝臓、脾臓はもともと
ナノ粒子が蓄積しやすい臓器であるため、
様々な病変部位に対して
細胞レベルで標的性を上げていくためには
コロナ形成をどのように防ぎ
事前に設計した特性が標的まで維持されるか?
それについて詳しく考えていく必要があります。
--
Morteza Mahmoudi(敬称略)らが総括しているように
コロナ形成は
ナノ粒子自身の設計因子
(サイズ、形、表面化学)、
環境因子
(分子濃度、イオン強度、温度、培養時間)
これらに少なくとも影響を受けます(1)。
さらに、
形や表面化学とも関連しますが、
ナノ粒子の表面の凹凸が多く、
表面積が大きい状態であると
コロナを引き付けやすい可能性があります(4)。
これらの因子によって
コロナを引き付けやすい状態にあると
ナノ粒子の標的性や生物反応にも影響を与えます。
例えば、
ナノ粒子に免疫監視を逃れるように
巧みに設計していたとしても、
血中のコロナを引き付ける事によって特性が変わり、
免疫細胞による除去が起こり、
体内の寿命が下がる可能性もあります。
--
ナノ粒子とコロナとの相互作用を
上述した要因に対して、
より微視的に見ていく事が重要です。
それらに関わる物理化学的因子は
〇静電気力
〇疎水、親水性
〇水素結合
〇π-π相互作用
これらです(1,5)。
多くのタンパク質は
αらせん構造(α-helices)、βシート(β-sheets)を含み
水素結合と疎水性によって安定化します。
また、静電気力とも関わるし、
結合する部位によっては親水性によって
結合することがあります(9)。
表面の構造によってどのような物理的特性が
ナノ粒子に対するコロナ形成に関わるか?
それが上述した因子を中心に変化します。
--
一方で、生体から学ぶ、
それを模倣するという観点では、
血中には細胞を含め、様々な物質がありますが、
その血中で寿命が長い物質の
表面特性を良く分析して、
何が表面を守るうえで重要なのか?
この事からヒントを得るという事です。
例えば、
赤血球の平均的な寿命は120日といわれています。
その後、マクロファージに食されるといわれています(6)。
その赤血球の形や
特に表面の生化学的、物理化学的な特性が
寿命の長さにおいて重要な意味を持つかもしれません(7)。
赤血球は形を変えられる、柔軟である、
堅牢である性質を持っていますが、
それには複雑な膜タンパク質構造が関わっています。
構造的には膜骨格があり、
コレステロールとリン脂質からなる脂質2重層からなります。
それらの複雑な材料構成と構造が
どのように循環器内での寿命と関わるか?
これについて紐解いていく事は
容易ではないかもしれません。
--
ナノ粒子による特異的薬剤送達を成功させるためには
コロナを利用する、排除する、いずれにしても
コロナとナノ粒子の相互作用をよく理解して、
自在に制御できるようにしておく必要があります。
特に、Morteza Mahmoudi(敬称略)らが
いくつかの戦略を示しています(1)が、
コロナからナノ粒子の特性をどのように守るか?
それについて様々な観点でアイデアを出し、
結果を示していく必要があります。
先ほどの観点と重複しますが、
そのためには、まずは動物、人の血液
あるいはリンパ液、間質など
様々な領域において、
ナノ粒子と相互作用しやすい物質の選定を行う
必要があります。
膨大な物質がある事から
人工知能を使うという事は1つの選択肢です。
一方で、
循環器では簡単に特性を変えたら困る
重要な物質もあります。
例えば、一般的な抗体である
IgG抗体の特性が不安定であると
生物が外敵から身を守る術の一つが
非常に脆弱になることが想定されます。
従って、
IgG抗体の構造は血液の中で
比較的安定かもしれません(10)。
実際に
実際に抗体でコートしたナノ粒子は
高い標的性を有していたと言われています(1)。
さらに、
体内にいる、あるいは体外から影響を受ける
ウィルス種は多種多様です。
ウィルスの中にはナノ粒子と類似した構造を持つ
ものもたくさんあるので、
そのウィルスが進化的に獲得している特性を
よく分析して、コロナとの相互作用や
ナノ粒子の設計に生かすという視点もあります。
例えば、
インフルエンザウィルスでは
ヘマグルチニンの細胞外ドメインが多量体である場合と
単量体である場合で
温度、pH、タンパク質分解酵素に対する感受性が変わり、
単量体になると結合、分解に関連する
内部の残基が外部にさらされるようになり、
安定性が低下すると考えられています(11)。
このことから、
ナノ粒子の標的性を決める結合に関連する
残基を如何に残し、
それ以外の残基を如何に露出させない構造にするか?
その表面条件を考える事が重要になるかもしれません。
その操作方法の一つとして、
上述したような多量体化が挙げられます。
多量体化は光で誘発させることができる可能性があります(12)。
--
ナノ粒子の特異的薬剤送達を実現する上で
臨床応用を考えた時に困難だと考えられる因子があります。
すでに遊離薬剤でも起こっていると考えられますが、
血液の状態は人それぞれ違います。
健常者と疾患を持つ人では
その特性は大きく異なります。
従って、ナノ粒子が送達ルートで受ける
物質の影響は人それぞれ大きく異なる可能性があります。
その異種性を克服するためには
コロナ形成を防ぎ、
生体外で精緻に設計した特性を守る事を想定した場合、
コロナ形成に対するナノ粒子の
許容範囲がかなり大きくなるように
設計する必要があります。
柔らかい言い方をすれば、
少々の違いがあっても、コロナの影響を受けない
安定性の高いナノ粒子設計を実現するということです。
--
ナノ粒子を使った医療応用の分類の一つは
医療工学に当たります。
工学分野において、産業応用を実現し、
世の中に価値を提供するに至るためには、
多くの死の谷があり、
それを乗り越えるのは容易ではありません。
実際に薬学の分野でも
承認まで至るものは非常に少ないです。
そうした現実を冷静に見る必要があります。
それを克服するためには
近年はコンピューターを使って
材料解析をするなどの方略もあります(13)。
しかし、20世紀から続けられてきた方略を
参考にすることも
コンピューターの使用と同様に重要です。
その方略は、
モノを作って、モノをみるということです。
特に後者が重要で、
如何にできた物質を解析するか?
それが重要になります。
従って、ナノ粒子による薬剤送達を
本当に医療分野において価値あるものとして
臨床で普及させるためには
ナノ粒子の薬剤としての動態、特性を
どのように正確に分析するか?
これについて考える事は不可欠です。
解析についてはいくつかの視点がありますが、
3次元解析と4次元解析という分類があります。
3次元解析とは時間を含まないので
その瞬間にどのような配座の構造ができているか?
それをミクロ、マクロに分析する事です。
例えば、ミクロの観点で言えば、
近年、解析技術の向上が著しい、
低温電子顕微鏡による解析が挙げられます。
しかし、低温で固定するため
生体内で作用する状態を再現している保証はありません。
従って、実際のダイナミクスの中で
どのようにミクロ、マクロに構造解析をするか?
それが課題になります。
動的なので時間軸が含まれ、4次元という事になります。
現実的に生体内で無理であれば、
その環境を他の解析技術を参考にしながら
コンピューターで再現するという事に
なるのかもしれません。
例えば、
コロナの付着に関しても
マクロとミクロの解析によって、
明らかになることも多くあると思います。
どの様になるかというのは予測できない部分があり、
一定のセレンディピティー
ヒューリスティックスもあるので、
偶発的に出来たものを如何に解析するか?
という事は重要です。
上述した見方は構造解析に寄っていますが、
ナノ粒子を集団としてみて
その統計解析をすることも含まれます。
--
上述したようにコンピューターを使う視点では
仮想空間の応用を考える視点もあるかもしれません。
仮想空間の実装プロトコルは
ニューラルネットワークと
グラフィクスプロセッサーユニット(GPU)
からなります。
この仮想空間は一般的には
アミューズメントなど非常に広い空間を
前提として開発されます。
しかし、グラフィックスとは、
3次元、4次元の構造を作り出す事と重複するので、
この方式を非常に狭い空間である
材料の構造的なシミュレーションに生かす事は
できるかもしれません(8)。
--
ナノ粒子の医療応用を考える上で
もう1つ大切なのは結果、製造の再現性です。
〇コロナから相互作用を受ける事、
〇同じ人(個体)でも生体内は常に変化している事、
〇動物と人で異なる事、
〇人同士でも異なる事、
これらから再現性を得る事は非常に困難です。
この再現性が揺らぐと、
開発を進めていく土台が同様に揺らぐことになるので
どのように信頼性あるデータを構築していくか?
それについて精緻に考えていく必要があります。
(参考文献)
(1)
Morteza Mahmoudi, Markita P. Landry, Anna Moore & Roxana Coreas
The protein corona from nanomedicine to environmental science
Nature Reviews Materials (2023)
(2)
Xu Wang, Shuai Liu, Yehui Sun, Xueliang Yu, Sang M. Lee, Qiang Cheng, Tuo Wei, Junyu Gong, Joshua Robinson, Di Zhang, Xizhen Lian, Pratima Basak & Daniel J. Siegwart
Preparation of selective organ-targeting (SORT) lipid nanoparticles (LNPs) using multiple technical methods for tissue-specific mRNA delivery
Nature Protocols volume 18, pages265–291 (2023)
(3)
Qiang Cheng, Tuo Wei, Lukas Farbiak, Lindsay T. Johnson, Sean A. Dilliard & Daniel J. Siegwart
Selective organ targeting (SORT) nanoparticles for tissue-specific mRNA delivery and CRISPR–Cas gene editing
Nature Nanotechnology volume 15, pages313–320 (2020)
(4)
Linawati Sutrisno & Katsuhiko Ariga
Pore-engineered nanoarchitectonics for cancer therapy
NPG Asia Materials volume 15, Article number: 21 (2023)
(5)
De, M., You, C. C., Srivastava, S. & Rotello, V. M. Biomimetic interactions of proteins
with functionalized nanoparticles: a thermodynamic study. J. Am. Chem. Soc. 129,
10747–10753 (2007).
(6)
Perumal Thiagarajan, Perumal Thiagarajanr, Josef T. Prchal
How Do Red Blood Cells Die?
Front. Physiol., 15 March 2021 Sec. Red Blood Cell Physiology
(7)
Monica Diez-Silva, Ming Dao, Jongyoon Han, Chwee-Teck Lim & Subra Suresh
Shape and Biomechanical Characteristics of Human Red Blood Cells in Health and Disease
MRS Bulletin volume 35, pages382–388 (2010)
(8)
Kanae Oguchi, Yasushi Shibuta and Toshio Suzuki
Accelerating Molecular Dynamics Simulation Performed on GPU
J. Japan Inst. Metals, Vol. 76, No. 7 (2012), pp. 462467
(9)
Ghazal Bashiri, Marshall S. Padilla, Kelsey L. Swingle, Sarah J. Shepherd, Michael J. Mitchell,and Karin Wang
Nanoparticle protein corona: from structure and function to therapeutic targeting
Lab Chip, 2023, 23, 1432-1466
(10)
Ivan R Correia
Stability of IgG isotypes in serum
MAbs. 2010 May-Jun; 2(3): 221–232.
(11)
Hua Yang, Jessie C. Chang, Zhu Guo, Paul J. Carney, David A. Shore, Ruben O. Donis, Nancy J. Cox, Julie M. Villanueva, Alexander I. Klimov,† and James Stevens
Structural Stability of Influenza A(H1N1)pdm09 Virus Hemagglutinins
J Virol. 2014 May; 88(9): 4828–4838.
(12)
MAUREEN O'DONNELL
Photo-dimerization of Solid Anthracene
Nature volume 218, pages460–461 (1968)
(13)
Alberto Ferrari, Fritz Körmann, Mark Asta & Jörg Neugebauer
Simulating short-range order in compositionally complex materials
Nature Computational Science volume 3, pages221–229 (2023)
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