2023年4月24日月曜日

自然模倣の観点による薬物送達学の設計

近年の産業の発達は
便利で、豊かな生活を人にもたらし、
公衆衛生が劇的に改善したことによって
若くして命を落とす人が少なくなったことから
世界の人口も爆発的に増えました。
しかし、その副産物として環境に負荷がかかり、
その人為的な影響は地球規模の気候変動、
テレコネクションに影響を与えている
可能性が極めて高いとされています(1)。
もちろん
地球の多種多様な生物、資源の適正管理のため
というのが基軸の中に含まれますが、
それぞれの方にとって大切なお子さんの未来のために
持続可能な社会を実現するためには
単純に考えれば、
科学技術による産業発展と
人の行動の累積によって生じたとするならば、
科学技術、産業と人の行動の両方によって
解決するしかないという事になります。
人為的な二酸化炭素排出において、
度々、輸送機器に焦点があてられることがありますが、
実は、最も世界で影響力が強いのは
冷媒の使用であるという見積もりもあります。
冷媒とは
エアコン、冷蔵庫、冷凍庫などです。
これから温暖化していくとすると
その需要はさらに高まります。
上述したように科学技術だけではなく
人の行動も重要になり、
関係があると考えられる事は出来る限り
対策をしていくことが求められますが、
冷静に何が大きく影響を与えているか?
それについて整理する必要があります。
近代の生活において冷媒は
健康や持続的な食(2)において欠かせないものです。
これに対して科学技術で答えを出していくとするならば、
如何に効率的な冷媒を世界に供給するか?
それについて考える必要があります。
例えば、エアコンでは
羽根の送風効率を上げるために
空を飛ぶことができる生物が進化的に獲得してきた
羽根の構造を模倣する事が考えられてきています。
この場合、微細構造を分析して
それをエアコンの羽根に反映させるわけですが
このような構想は
「Bioinspired nanotopographical design」(3)。
このように呼ぶことができます。 
例えば、
冷媒の使用を抑えるためには
衣類、住居(オフィス、ホールも含む)も重要です。
そのデザインにおいて効率的な放熱のために
あるいは効率的な保温のために
熱帯、砂漠、寒冷地域で生息する動物、植物、
あるいは微生物の表層の(微細)構造を
模倣する事もできるかもしれません。
このような保温、放熱効果は
冷蔵庫、冷凍庫の設計にも生かす事ができる可能性があります。
--
生態系、その中の生物、あるいは人が
何億年もかけて進化的に獲得してきたフィットネスを
薬物送達学を含めた医療、医学、薬学、
上述したようなあらゆる産業に生かす事は
1つの重要項目であると考えてもいいすぎではありません。
例えば、
アデノウィルスは様々な型があり、
その型によって肺、心臓、脳、眼の疾患に影響を与えます。
このアデノウィルスは無害化して
薬物送達キャリアとして利用する事ができます。
Crispr技術を用いた遺伝子編集では、
遺伝子変異特異性の強い疾患に対する
新手の精密治療として大きな期待があります。
その際には
影響のない細胞種、組織に届けるわけにはいかないので
例えば、脳の細胞であれば、
少なくとも脳に効率よく、薬物を送達させたい
という需要があります。
上述したようにアデノウィルスは
もともと進化的に脳に影響を与える特質を持っていますから
そうした脳の遺伝子性の疾患に対して
臨床試験へ進んでいる実績があります(4)。
今述べた様に脳に加え、眼に対する
臨床応用実績の件数がアデノウィルスでは多く(4)、
その科学的事実は
元々、アデノウィルスが進化的に獲得してきた
人に対する部位別の適合度の違いが
色濃く反映されている事を示すものかもしれません。
つまり、アデノウィルスは
それぞれの型によって構造が異なり、
肺、心臓、脳、眼などに高いフィットネスがある
可能性があります。
そうであるとするならば、
冒頭で述べた様にエアコンの羽根において
飛翔生物の羽根の微細構造を分析して
デザインに反映させたように、
アデノウィルスの構造を分析して
何がその走化性を決めているのか?
それについてヒントを得る事に意義が生じます。
そうすれば、
Joel A. Finbloom(敬称略)らが総括されているように(3)、
その構造の特徴をウィルスを用いなくても
一般的なナノ粒子にデザインすることができるようになります。
では、
ウィルスを用いないでナノ粒子に
ネイチャーベースの構造を設計する事に
どのような医療的な意義があるでしょうか?
当然、そのような疑問が生まれます。
なぜなら、
ウィルスをそのまま用いたほうが楽ではないか?
という意見も生じるからです。
植物のウィルスを治療に生かす構想(5)が
その価値を考える一つのヒントになります。
植物のウィルスの少なくとも一部は
胞内にRNAなどの遺伝情報を有していません。
従って、
表面のタンパク質が植物(宿主)の遺伝子に働きかけ
それでウィルスの構成材料を生み出し、
植物細胞内で自己組織化する事によって
ウィルスの構造が出来上がり、
その数を維持していました。
このような自己組織化のシステムが
人や動物の細胞にないとするならば、
このウィルスは当然、人や動物の生体内では
数を維持する事が出来ず、消滅します。
それは薬物送達キャリアとしては利点を有します。
人は野菜など植物を食しますから、
そうした自然の物質を取り込み、
それが増殖しないということになると、
安全性は高いかもしれないということにもなります。
もちろんそれには慎重な確認は必要です。
--
先ほどの記述に戻って、
アデノウィルスは人や動物の身体の中で
進化してきましたから、増殖能があると考えられます。
それを生かすことができるかもしれないですが、
病理にも関わったことから弊害もあります。
もし、内包物を制御できる
合成ナノ粒子で人為的に設計できれば(3)、
アデノウィルスの特徴を有しながら、
必要な物質だけ特定の細胞種に送達できる可能性があります。
その様な構造は
元々、体内でフィットネスがあったと考えられる
微生物、ウィルスの構造だけではなく、
付着して生息域を広げる特徴のある
花粉などの微細構造を参考にするという方略もあります(3)。
細胞種特異的な薬物送達においては
標的細胞に密着させる必要がある事から
元々、密着する機能を高く有している
自然ベースの物質を幅広く探索し、
分子スケールで細かく分析していく事が大切です。
生体内で密着性がある物質は
〇インテグリン(6,7)
〇カドヘリン(8)
〇免疫グロブリンスーパーファミリー(e.g.TMIGD1)(12)
これらが挙げられます。
また、もっと大きなスケールでは
細胞外マトリックスは粘着性があり間質に定在します(6)。
これと対となる構造や
インテグリン。カドヘリン、TMIGD1、
あるいは細胞外マトリックスの構造を分析する事で
構造におけるどの残基、動的機構が
その密着性に寄与しているのか?
それについて知見を得る事ができます。
疎水効果(凝集する力)や結合力そのものの関わりの他に
付随的な機能としての配座の変化、
同時に結合する数、
受容体の多量体化、
接触面積(トポロジーの一致)などが
関わっている可能性もあります。
--
このような視点は細胞種まで薬物が送達されるまでの
プロセスを考えるものですが、
遺伝子治療なども含めて薬物を作用させるためには
細胞内に、もっといえば細胞内の核に
薬物を送達させる必要があります。
その為には特定の細胞まで薬物を送達させた後、
細胞内にそれを取り込ませる必要があります。
ウィルスが持つ針状の構造(3)や
微生物が持つ
ハチのように針を伸ばすシステム(9)は
如何に効率的に薬物を細胞内に送達させるか?
トラフィッキングさせるか?
その人為的な設計に貢献するものです。
エンドサイトーシスさせず、
直接的に細胞内に送達できれば(9)、
エンドソームを介さずに細胞質に送達でき、
細胞内での薬物の分解効率を
下げることができるかもしれません。
--
上述したように細胞外マトリックスは
身体の間質の多くの部分に存在し、
その間質には液体が含まれていることから
一部は固体と液体の間のゲル状になっていると考えられます。
この生体内のゲルを模倣することも
薬剤送達のキャリアの選択肢となります(10,11)。
この時、細胞外マトリックスと
薬物送達キャリアとして人為的に設計した
ヒドロゲルの場所特異的な相互作用をよく考え、
それによってリリース過程を場所特異的に制御する
ということも一つの創案(草案)としてあります。
細胞外マトリックスは
大きな集合的な構造体として
インテグリンやカドヘリンと同様に
密着性があり、定在性を有した物理的特性を持っていますから、
インテグリンやカドヘリンと同様に
薬物の標的として定める事ができると考えられます。
その時に類似する材料である
ヒドロゲルベースの薬物送達キャリアは
親和性が高い可能性があります。

//まとめ//
薬物送達学、
それを取り巻く広範な薬学、医学、医療を含め
上述した地球の持続可能性に至る
非常に大きな問題において
自然模倣を基軸とした課題解決策を探り、
今まで蓄積してきた科学技術を利用して
実際にデザインしていくことは、
おそらく最も重要な指針の一つに挙げられるはずです。
それを利用する上で鍵を握るワードは
「適合度(Fitness)」です。
小さなスケールでみれば、
微生物やウィルスは進化的に獲得してきた
フィットネスを生かして存在を繋いできました。
巨大なスケールでは
地球は様々な環境変化がありますが、
何億年もかけてその存在を維持してきました。
そこには自然(Nature)があります。
そして、人新世において繁栄する事に成功した
人類(ホモサピエンス)がいます。
さらに、
その人の脳で生み出された科学(Science)があります。
その科学は自然の摂理に、
より漸近させるように理想像を描いて進化していて、
今もなお多くの科学者、技術者の方々が
鋭意仕事に取り組まれています。
その科学はアインシュタインの相対性理論のように
実際の観測技術が不足するなかにおいて
数学から発展し、基礎古典物理学を通じて
生みだされた最も美しい法則がありますが、
近代では観測、分析技術が非常に発展している事から
「自然から学ぶ」という事が
(少なくとも私は)非常に重要であると考えています。
ひょっとするとニュートンも
りんごが落ちるという自然現象がなければ、
発明はなかったのかもしれません。
自然は常に地球に寄り添って存在するわけですが、
その一つの考え方は
如何にその環境に順応できるかを示す
適合度という事になると思います。
もちろん進化、技術開発、産業発展を考える上で
人の叡智によって生み出された産物も多くあり、
その一つの概念に収斂させる事はできませんが、
近代の文化的かつ便利な生活を維持しながら
持続可能な社会を築いていくためには
自然の中に有するフィットネスをどのように
科学技術に取り込んでいくかが
1つの核となる方略であると想定します。

(参考文献)
(1)
Rei Chemke & Janni Yuval 
Human-induced weakening of the Northern Hemisphere tropical circulation
Nature (2023)
(2)
Alicia E. Graham & Rodrigo Ledesma-Amaro
The microbial food revolution
Nature Communications volume 14, Article number: 2231 (2023) 
(3)
Joel A. Finbloom, Cindy Huynh, Xiao Huang & Tejal A. Desai
Bioinspired nanotopographical design of drug delivery systems
Nature Reviews Bioengineering volume 1, pages139–152 (2023)
(4)
Dan Wang, Phillip W. L. Tai & Guangping Gao
Adeno-associated virus vector as a platform for gene therapy delivery
Nature Reviews Drug Discovery volume 18, pages358–378 (2019)
(5)
Lukas Eidenberger, Benjamin Kogelmann & Herta Steinkellner
Plant-based biopharmaceutical engineering
Nature Reviews Bioengineering (2023)
(6)
Matthew J. Dalby, Nikolaj Gadegaard & Richard O. C. Oreffo 
Harnessing nanotopography and integrin–matrix interactions to influence stem cell fate
Nature Materials volume 13, pages558–569 (2014)
(7)
Lukas Kaltenbach, Paloma Martzloff, Sarah K. Bambach, Nadim Aizarani, Michael Mihlan, Alina Gavrilov, Katharina M. Glaser, Manuel Stecher, Roland Thünauer, Aude Thiriot, Klaus Heger, Katrin Kierdorf, Stephan Wienert, Ulrich H. von Andrian, Marc Schmidt-Supprian, Claus Nerlov, Frederick Klauschen, Axel Roers, Marc Bajénoff, Dominic Grün & Tim Lämmermann
Slow integrin-dependent migration organizes networks of tissue-resident mast cells
Nature Immunology (2023)
(8)
Krzysztof Marek Mrozik, Orest William Blaschuk, Chee Man Cheong, Andrew Christopher William Zannettino & Kate Vandyke
N-cadherin in cancer metastasis, its emerging role in haematological malignancies and potential as a therapeutic target in cancer
BMC Cancer volume 18, Article number: 939 (2018)
(9)
Joseph Kreitz, Mirco J. Friedrich, Akash Guru, Blake Lash, Makoto Saito, Rhiannon K. Macrae & Feng Zhang
Programmable protein delivery with a bacterial contractile injection system
Nature (2023)
(10)
Ruibo Zhong, Sepehr Talebian, Bárbara B. Mendes, Gordon Wallace, Robert Langer, João Conde & Jinjun Shi
Hydrogels for RNA delivery
Nature Materials (2023)
(11)
Jianyu Li & David J. Mooney
Designing hydrogels for controlled drug delivery
Nature Reviews Materials volume 1, Article number: 16071 (2016)
(12)
Eva-Maria Thüring, Christian Hartmann, Ysabel A. Schwietzer & Klaus Ebnet
TMIGD1: Emerging functions of a tumor supressor and adhesion receptor
Oncogene (2023)

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