2025年3月31日月曜日

経頭蓋集束超音波装置開発を考慮した光を用いた温度測定

<背景>
 磁気共鳴/経頭蓋集束超音波装置を2035年までに日本の信頼できる病院に装置として一定完成した形で導入し、数年かけて、病院の中の実環境で使用して調整し、臨床応用を目指すという約束を果たすためには、まずは重水素共鳴に適したMRI装置開発と経頭蓋集束超音波装置の基本性能の確保が装置単体として求められます。それと同時並行して、(子どもの)人の頭部の模型(マネキン)の設計/制作が求められます。頭蓋骨をどうやってバルク(一定の大きさを持つ塊)として製造し、3次元的に正確に加工するか?という技術的課題が存在します。頭蓋骨以外に重要な技術開発項目は区画化されたヒドロゲルを形成し、頭蓋内の音響特性を人の組織の特性と類似させることです。もう一つの目的として従来の試験官で行われたex vivo(生体外)の実験の一部をヒドロゲル環境内で人の細胞で行う事への移行を促すという重要な項目もあります。ヒドロゲルは実際に人の細胞の間、土台を構築する間質に存在すると考えられるので、細胞の3次元構造、すなわち人工組織を形成する上で必須の基盤、材料です。ヒドロゲルで生体外で実施する場合、その延長線上には臓器を形成することがありますから、初期の段階においても組織化された状態での細胞実験が可能になります。ヒドロゲルで閉空間を確保することで生体内の同様の酸素濃度、無菌状態を作ることができる可能性があります。従って、ヒドロゲル内で細胞実験をすることは人の身体の中の環境に近づくことを意味するので、一部でマウスなど動物を犠牲にする必要がなくなります。倫理問題とも関係性を持つ重要な取り組みです。磁気共鳴/経頭蓋集束超音波装置では実際に人(子ども)の頭の大きさ、音響特性と整合する模型を作り、緩衝材などの周辺環境の設計から、細胞を入れたときの特性確認まで行います。これはマウス、サルなど代替の動物では実現不可能なことです。初めから最終設計に近い形で装置開発することでコストの削減、開発期間の短縮を図ります。そのために乗り越えないといけない壁は、上述した様に模型を作ることです。簡単ではないですが、生体外の生命科学の実験そのものを進化させる明確な潜在性があるので、ここは逃げずに取り組むべき課題です。ヒドロゲルを頭蓋骨内で一定の体積ごとにメッシュ状に区画化し、取り外せる状態にしておき、特定の位置に培養条件にある細胞群を入れられるようにします。例えば、脳幹の脳腫瘍に対しての経頭蓋集束超音波の特性を確認したい場合には、脳幹の位置の区画化されたヒドロゲルを取りはずし、培養した癌細胞、神経系細胞などと入れかえ、それに対する超音波照射における特性確認を行う事を想定します。頭蓋内のあらゆる位置でヒドロゲルを入れ替えることができるように一定の体積でメッシュ状に区画化する事を試みます。
 経頭蓋集束超音波装置開発のための頭部模型設計のヒドロゲル環境開発に限らず、ヒドロゲル全般でいえることです。生体外の実験では人の身体ではできない細胞の特性を調べることができます。例えば、人の身体はほとんど可視領域、それに近い波長の電磁波(光)を透過しないため、生体内の細胞に対して光を照射(光で励起)することも難しく、さらにそこから放射される光を検出する事も難しいです。しかしながら、光はエネルギーに応じた物質固有の情報をとることができる為、分子レベルの評価に適合するという大きなメリットがあります。例えば、炭素の三重結合を少なくとも一つ持つアルキン基はこの結合が強いため、その伸縮振動の振動数(波数)が特異的に高くなります。また、こうした三重結合を持つ物質が生体内にほとんどないことからその伸縮振動数伸2,100–2,300/cmはサイレント領域と呼ばれ、この振動数に応じた波長の光を放出するラマン散乱光を検出することができます。物質にアルキル基を薬物などに装飾すれば、この特異的な光の検出を通してアルキル基がタグとして機能し、細胞内外の薬物の挙動を追跡する事が可能になります(1)。ラマン散乱光は通常は微弱なため、生体内にある物質に対して体のバリアを乗り越えて、励起し、散乱光を検出することには適さず、人の身体の中で実施する事は(in vivo)基本的には非常に困難ですが、ヒドロゲルの環境であれば、より人の体内の環境に模した形で、こうした光を使った物質のトラッキングができる可能性があります。また、この記事のテーマである温度測定は、経頭蓋集束超音波装置の開発において最も基本的な性能評価の一つです。最終的には磁気共鳴や超音波の信号によって温度検出する必要性がありますが、実験段階では最終的な温度測定の正確性の評価、その参照データとして細胞内の正確な温度情報が必要となります。カーボン量子ドット(蛍光粒子)(2,5)、蛍光分子(3,4)両方とも検出の為には光信号が必要であり、in vivoでの実環境での評価は基本的には困難ですが、頭部の模型も含めてヒドロゲル環境内では実験(評価)系を構築する事が可能です。任意に励起発光装置、受光器を模型実験系内に設置できることは、子どもの頭部模型による経頭蓋集束超音波装置の開発構想の非常に大きな重要性(メリット)の一つです。今、現時点の市販品、研究で使われている類似する装置は、こうした開発ルートを通っていない可能性が高く、抜本的に装置性能を改善させるうえで欠かすことができない構想ではあります。こうした研究は(2-5)、私が提案した装置開発構想と非常にアラインする(ベクトルが揃う)ので、ここでその詳細について掘り下げることを決断しました。


<技術的背景/私の経歴/内容>
 2014年から2019年まで日本人は連続してノーベル賞が続いた時代でした。2014年のノーベル物理学賞は日本人だけで占められました。赤﨑勇先生(名古屋大学)/天野浩先生(現:名古屋大学)/中村修二先生(現:サンタバーバラ大学)です。授賞理由は「高輝度・低消費電力白色光源を可能とした高効率青色LEDの発明」です。この受賞は明らかに現在の気候変動・カーボンニュートラルが背景にあったと思われます。なぜなら、授賞理由に明記されているようにLEDは消費電力が低く、照明によるエネルギー問題の解決に少なくとも一定貢献しているからです。それ以前の物理学賞はどちらかというと基礎物理に依っていましたが、この時には応用物理に脚光が当たりました。なぜなら、今の電力消費を抑えられるLED照明における発光ダイオードの原理の発明に対してではなく、それの実用化、社会実装に貢献した先生方が独立して受賞されたからです。実は私は1997年に静岡大学に入学して、2000年に静岡大学工学部の藤安洋教授の研究室に属したときに、この青色LEDの材料である窒化物半導体の結晶成長の研究で出会うことになります。その後、大学院前期課程の2年間、トータル3年間、同じ研究を続けて、幸いな事に2003年にシャープ株式会社に入社した後も同じテーマで仕事をすることができました。従って、赤崎先生/天野先生/中村先生が具体的にどういった技術で貢献されたかというのは一般的に報道されているものを超えたより詳しいことを知っています。今日の温度計測の記事と関係があるので、良い機会なのでそれについて背景的なことと絡めながら少し詳しく説明します。
 1990年代よりも前の世代の人は良く知っていると思います。当時、発光ダイオードは赤/橙色くらいの色しか世の中に存在しませんでした。緑、青は技術的に困難でした。なぜなら、発光ダイオードの仕様に耐えうる材料がなかったからです。赤、橙色は同じⅢ-Ⅴ属半導体ですが、Ⅴ属の部分が窒素とは異なり、リン(P)/ヒ素(As)などで構成されます。これらの材料には発光材料として十分特性の良い規則正しい結晶層構造を得るための格子整合する(ホモ:同種)基板がありました。すなわち、何が技術的障壁を律速していたか?それは発光ダイオードの母体(デバイス:PN接合構造)となる層上の材料を結晶成長させる優良な基板があるかどうか?ということです。窒化物半導体にはその基板(基盤)がありませんでした。結晶というのは身近な氷などでもそうですが、特定の(立方晶/六方晶などの)結晶構造を持ちますが、多くの場合、(経験則に依らない)第一原理計算などで定義される理論的な結晶構造(その基底の特性)ではなく、一定の格子欠陥を持ちます。この欠陥があると一般的にはその物質の物性がそれに(その不規則性)よって摂動される為、変化します。発光ダイオードの場合は、電子(電流)を光に変換しますがその変換(発光)効率はその欠陥によって変換時に熱に変わる為、低下します。従って、私などの技術者の目標は、どうやってこの格子欠陥(線欠陥は転位という)を減らすかを考える事にあります。多くの学問に義務教育で習う基礎学力があり、それがないと応用は成り立たないように結晶にもそういった基本的な要素があり、結晶を層状に成長させる土台となる基板の結晶、選択性が悪いとどのように上の結晶成長条件を最適化しても格子欠陥が多くなってしまいます。従って、半導体を成長させる良い基板があるかどうかはその上のデバイス特性のほぼ全てを決定するくらい重要な事です。(実は、シャープ株式会社が後に青色レーザーで事業化することに成功したのは、基板として高価であってもホモ基板であるGaN基板を早期に導入する事を決断したことにあります。)その重要な基板が緑/青はなかったから開発が遅れました。緑/青はⅢ-Ⅴ属窒化物半導体((Al,Ga,In(Ⅲ)/N(Ⅴ))で理論的に発光ダイオード/半導体レーザーを作製できることはすでにわかっていましたが、主要なGaNは非常に高温でしか結晶化せず(融点が非常に高く)、基板形成には適しませんでした。基板の場合は層状に成長させる薄い(十μm程度)結晶成長とは異なり、眼で見えるくらいの大きな体積の結晶の塊(バルク)が必要である事と、結晶欠陥を減らす必要がある事から液体から固めて作るような液相成長が好ましいとされます。骨の形成のところでいいましたが、気体から固体を得る場合には、気体の無秩序に動き回る性質によって、固相への変換の際に分子的な秩序を形成する事が一般的に難しいということもあります。それによってどうしても結晶欠陥が多くなりがちであり、大面積の結晶化にも不適です。また一定の体積を得るうえでも液体として固まった状態から固体(結晶)を得るほうが好ましいです。しかし、GaNの場合は物性上、液体にするには約2,500℃まで上げる必要があり、そのような高温環境を用意できないということがあります。GaN基板はないわけではありませんが、現在のLEDの市場販売価格に耐えうるような低価格では製造する事が現在でも難しいです。基板は当然、上に成長させる材料と同一の材料が好ましいです(ホモ基板と呼ぶ)。なぜなら、エピタキシャルな結晶構造は通常固体として一定引き継ごうとする性質があり、材料が変わると必ず格子欠陥を伴います。これは結晶成長の定説ですが、窒化ガリウムの場合はGaN基板の(特に低価格の)製造が原理的に難しいため、必然的に異種材料から適切な基板を探す必要性がありました。それがサファイヤ基板(Al2O3)です。サファイヤ基板は十数パーセント程度の格子不整合率で窒化ガリウム(GaN)を成長させることができます。しかし、それでも転位密度は10^9/cm2程度に高く、赤/橙色のGaAs/GaPに比べて5-7桁程度高く、十分な特性を得るための結晶性という意味では大きな乖離がありました。非常に説明が長く、専門的になっていますが、これを説明しないと赤崎先生/天野先生の功績を理解してもらうことは不可能です。この転位密度というのは実はすでに赤崎先生/天野先生の功績の後の数字です。従って、如何に異種基板から結晶を得ることが難しいかを示しています。格子不整合がある基板は理想的な核形成が成立せず、層状の2次元的な結晶を得ることが難しいです。おそらく特に何も工夫(エンジニアリング)しなければ、粒々の不連続な膜しか基板上に成長させることができません。従って、まともな結晶成長すらできない状況です。赤崎先生/天野先生は窒化ガリウムと同列の材料である窒化アルミニウム(AlN)を数百度程度の低温でサファイヤ基板上に成長させる方法を考案しました。これは低温緩衝層と呼ばれます。窒化アルミニウムは窒化ガリウムよりもさらに高温で成長させる必要がありますが、結晶としての規則性は非常に悪いけど、有機金属で気相から成長させた場合には理想的な成長温度よりも顕著に低い温度でも柔らかい結晶として成長することを発見しました。当然、低い温度で成長しますから、結晶を構成する分子は任意の温度に対して真性な窒化アルミニウムよりはよく動きます。従って、イメージとしては液晶様の水のようです。その柔らかい物質が緩衝し、その上の窒化ガリウムの成長を可能にします。おそらく低温で形成した後、GaNを成長するときにその温度よりも高い状態において分子が一定液体様に動き、GaNの適切な分子配置を補助する働きがあると推定されます。すなわちサファイヤ基板/AlN低温緩衝層/GaN層という層構造において、低温緩衝層は格子不整合による結晶の不連続性を埋めるクッションのような機能を持ちます。それによりGaNという膜を成長させることが可能になりました。この時点でも上述した様に転位密度は10^9/cm2程度あり、従来のヒ素/リン系よりも顕著に高いです。ただ、この技術が後のノーベル賞につながった応用物理技術です。
 他方で、触媒の分野でも基本的なことですが、化学反応を活発に起こすためには対象となる分子を如何に長い時間近づけるか(近接場に置くか)が重要になります。それは窒化ガリウムを有機金属の気相から結晶となる固体を得る場合でも同じです。サファイヤ基板上で高い温度で化学反応を起こして結晶として成長させるわけですが、流したガスを基板上に如何に近づけて、長く滞在させるかが基本的な構想としてあります。これは触媒の基本的構想と同じです。もう一人の功績者である中村先生は流したガスを上からガスで押さえつけることによってこうした化学反応を有効に促進する方法を発明しました。2フローMOCVDと呼ばれます。当時、中村先生は徳島県阿南市の日亜化学工業に勤められていました。これにより上に成長したGaNや発光層として機能するInGaN、PN接合を形成する層などLEDとして必要なあらゆる層の結晶性(性能)が実用化レベルまで向上しました。従って、中村先生の功績は青色LEDの実用化に当時不可欠だった装置開発に端を発します。日亜化学工業が今でも窒化物半導体のLED/レーザーにおいて日本でトップであるのは、こうした歴史があるからです。
 このような専門的な事も含めて全体的かつ詳細な話ができるのは日本で限られた業界の人だけです。そういう意味では貴重です。なぜなら、この窒化物半導体のLED(あるいはレーザー)の技術はノーベル賞に発展した日本発の技術だからです。この分野の研究者/技術者の人はヒ素/リン系のⅢ-Ⅴ属半導体から世界を一定引っ張ってきた技術であるので高齢の方を含めて知識レベルが非常に高いです。その環境の中で私のキャリアは構築されたということです。
 しかし、それでも転位密度はまだ、ヒ素/リン系の半導体と比べて顕著に高いです。では、なぜ、窒化物半導体は赤/橙色のリン、ヒ素系のⅢ-Ⅴ属半導体よりも転位密度が数桁以上大きいのに発光するのでしょうか?その詳細は未だはっきり証明されていません。ただ、その輪郭はある程度明確に示されています。それは発光層、エネルギーの低いポケット(量子井戸構造)として必要なInGaN層が特異な特性を持つからです。Ⅲ-Ⅴ属窒化物半導体は非常に特異な性質があります。周期表のⅢ属はB(ボロン)/Al(アルミニウム)/Ga(ガリウム)/In(インジウム)、、となっていきます。原子番号が大きくなれば、それで半導体を形成したときの(最外殻)電子の束縛エネルギーが小さくなり、励起から緩和したときに生じる発光エネルギーは小さくなります。この順々の特性を利用して、これらを混晶として混ぜると色んなエネルギー(色)のLEDを作ることができます。LEDに青と緑があるのはこの理由に依ります。GaとInと窒素を混合させたとき、GaN、InNの特性の差が格子的にもエネルギー的にも非常に大きくて、混ざり合わない性質があります。これをミシビリティーギャップが大きいと言います。スピノーダルラインというがあります。同じ結晶成長条件(温度)で混合状態として化学的に最も安定化する組成が2つに理論的に分かれるというものです。例えば、同じ成長温度で最も安定なのはGa:20/In:80とGa:80/In:20二つが存在するというようにです。実際にLEDの発光色を青色なら青色になる組成でGaとInを混ぜたときには、ここまで理論的に極端に分離しませんが、その分離の特性を一部反映し、空間的に相分離します。すなわちIn組成が高いところと低いところが生じます。それが量子ドット状になり(今日の記事と関連)、光に変換されるまえの電子がエネルギーの低いところに集まり、空間的な揺らぎを持って発光することになります。こうしたエネルギーの低いところは結晶欠陥が入っているところから離れているケースが多いためか、空間的に閉じ込められているためか、その両方か、なぜか発光効率が非常に高いです。ノーベル賞につながる、今では当たり前にあるLED照明の実用化の裏にはこうしたガリウムとインジウムが織りなす相分離という奇跡(軌跡)があったわけです。これがないと今でも青色LEDを窒化物半導体から実用化に耐えうる価格と性能で得ることは難しいと考えられます。
 もう一つは深い不純物準位を形成し、実現が難しいp型GaNの水素結合離脱の為の窒素雰囲気アニールという発明もありますが、それについては割愛します。私がシャープに入社した2003年にはこの辺の基本的な課題はすでに乗り越えられていて、p型GaN結晶化の壁のため大学で難しかった窒化物半導体デデバイスの青色発光を入社してすぐ見れたときには感動したのを覚えています。
 LEDはデバイスとして電子を光に変える機能がありますが、その発光デバイス自体は光から蛍光発光する特性も持っています。GaNとInGaNは電子を励起するためのエネルギーが異なり、InGaNほうが低いので、GaNは励起しないけど、InGaNだけを励起できるエネルギーレーザー光を選択的に照射したときにはInGaN層だけの蛍光発光を観る事ができます。蛍光発光の為には一旦励起された電子が空間的に閉じ込められ、一定の高い密度にならないと検出できるレベルの光にならないため、InGaN層からの光を観る事ができるのは、InGaN層が非常に薄くエネルギー的にも空間的にも非常に狭く制限されているからです。有機材料にしても基本的に蛍光を示すとはこうしたエネルギー的/空間的な制限条件が必要であるといえます。
 (3,4)で示される有機分子のπ電子系は狭いエネルギー的・空間的な領域に電子を閉じ込めるため、効率的に蛍光を発します。π電子は分子の骨格上に局在し、自由に飛び出すことが難しく、エネルギー的に孤立した「有限のポテンシャル井戸」のような状態を形成するからです。(2,5)のカーボン量子ドットもナノメートルオーダーに粒子化し、特異的なエネルギーを持ち、電子を空間的に閉じ込めることで発光する事が可能になります。窒化物半導体でも温度が変われば、光のエネルギー/半値幅/発光効率全てが変わります。例えば、絶対零度に近い温度では格子欠陥が完全に不活性化し、発光効率は理論的には100%になります。格子振動幅が小さくなるため、エネルギーの揺らぎも小さくなり、発光スペクトルは急峻(低半値幅)になります。特に波長は小刻みに検出する事が可能なため、波長の温度特性のリファレンスデータがあれば、細胞内にこれらの物質を装飾、入れることができれば、特定の励起波長に対して蛍光発光の波長を検出することで温度を評価できるということです。また、それを視覚化すれば、温度分布をみることもできます。これにより集束超音波によって温度上昇させたときに細胞レベルでの可視化が可能な測定系を構築すれば、サブ細胞レベルで温度分布評価ができることになります。基本的には精度の問題があるので、波長だけではなく、半値幅、強度などのデータも統合すれば、より正確な評価ができる可能性があります。
 (2,5)のカーボン量子ドットは合成が容易である/細胞への毒性が低い/膜透過性が高く細胞導入が容易である/蛍光波長の調整が可能/異なる測定モードで相互検証できるということがあります。従って、細胞内の温度を細胞の機能を損ねることなく評価するのに非常に適しているという事です。他にもpHセンシング/酸化ストレス検出や表面装飾により転写因子などを含めた遺伝子発現の動態評価やたんぱく質の動態評価できる可能性があります。
 ミトコンドリアは細胞内の工場であり、クエン酸回路など化学反応が活発な細胞内小器官ですから、それに際して多くの熱が発生します。このミトコンドリアでの温度評価を行うことは細胞の活動を今までない精度で評価する上で不可欠な事の一つといえます。高い空間分解能/分析対象物への非侵襲性/発光機能の調整の観点から、分子量の小さな単一の発色団の有機分子を用いた温度測定が適切と考えられています。LEDでも発光層の格子欠陥が多い場合、適切な光で励起してもその光が熱に変わり、光に変換されないということがあります。こうした発光効率は有機物質でも生じます。また、励起光に対して発光する光の差であるストークスシフトが大きくないと、差別的に蛍光発光した光を検出できないです。こうした点においてトリフルオロアセチル基を用いた色素 FπFは優れていたとされます(3,4)。また、温度測定の為には参照となる温度変化しない蛍光発光と温度変化する蛍光発光の2色発光がより適しています。これを満たす材料でもあります(3,4)。
 いずれにしても細胞の分析として光を用いることができれば、(1)のアルキン基の装飾も含めて、細胞レベルで温度も含めて様々な機能的な評価ができるということです。この試験管、シャーレ上で行うような実験系をできるだけそのまま構築できるように頭部の模型を含めたヒドロゲル環境の構築を大学、企業の専門家、技術者の方々と一緒に考えていく必要があります。


(参考文献)
(1)
Kosuke Dodo, William J. Tipping, Hiroyuki Yamakoshi, Syusuke Egoshi, Toshiki Kubo, Yasuaki Kumamoto, Karen Faulds, Duncan Graham, Katsumasa Fujita & Mikiko Sodeoka
Alkyne-tag Raman imaging and sensing of bioactive compounds
Nature Reviews Methods Primers volume 5, Article number: 20 (2025) 
(2)
加藤祐基 嶋崎幸穂 中馬俊祐 白矢昂汰 中根有梨奈 杉拓磨 岡部弘基 原田慶恵 外間進悟
カーボン量子ドットが切り拓く「細胞温度計測」:細胞内の微小な温度変化を検出
大阪大学/京都工芸繊維大学/広島大学/東京大学 プレスリリース
(3)
堀有琉斗 小西玄一 松本惇志 池ノ内順一
生命現象における「熱」を視る小さな蛍光分子温度計の開発 ~温度変化による微小な極性変化を蛍光色素で可視化~
東京科学大学 プレスリリース
(4)
Alto Hori, Atsushi Matsumoto, Junichi Ikenouchi,  Gen-ichi Konishi
D–π–A Fluorophores with Strong Solvatochromism for Single- molecule Ratiometric Thermometers
Journal of the American Chemical Society DOI: 10.1021/jacs.5c01173
(5)
Yuki S. Kato, Yukiho Shimazaki, Shunsuke Chuma, Kota Shiraya, Yurina Nakane, Takuma Sugi, Kohki Okabe, Yoshie Harada*, Shingo Sotoma
Fluorescent Thermometers Based on Carbon Quantum Dots with Various Detection Modes for Intracellular Temperature Measurement
Nano Letters 10.1021/acs.nanolett.4c06642
 

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