2023年4月26日水曜日 0 コメント

腫瘍中の3次リンパ様組織形成促進における代謝的観点

癌の治療の選択肢はいくつかありますが、
免疫治療は第4の選択肢と言われており、
比較的新しい治療です。
管理のガイドラインが
子どもやAYA世代の患者さんにおいても
合意声明として2021年に示されています(3)。
現状では化学療法と組み合わせて行われるケースが多いです(2)。
進行性の癌を免疫治療だけで寛解させるという事が
臨床において現状では難しい事を示しているのかもしれません。
しかしながら、
癌における免疫機構を詳細につかみ、
その免疫機能における抗癌性を特異的に高める事ができれば、
化学療法の負担を減らしたり、
それなしでも治療が可能になる日が来るかもしれません。
あるいは寛解後の患者さんの長期的な生活の質を
改善する事にもつながるかもしれません。
--
その癌に対する免疫システムの理解のためには
多種多様な免疫細胞や
サイトカイン、ケモカインなどの分泌物だけではなく、
組織常在性の免疫細胞や循環型の免疫細胞の
分子細胞生物学的な理解も重要になります。
特に、組織常在性の免疫細胞は
臓器、組織特異的であり、
特徴的な表現型を持つ事から
細胞種特異的な薬物送達の標的として
定めることができる可能性があります。
さらに、組織常在型の免疫細胞は
循環型の免疫細胞よりも数として上回る事(4)、
さらに局所的に存在している事から
特に組織を形成する癌種の免疫治療を
ナノテクノロジーを使った特異的な薬物送達学を
利用して行う場合、鍵を握る免疫細胞であると想定されます。
さらに、
癌組織に存在すると考えられる
組織常在型の免疫細胞は全て散在しているのではなく
3次リンパ様組織として凝集しているものもあり、
その凝集物の免疫機能への寄与が大きいと考えられます。
なぜなら、すでに
組織を形成する癌種における
3次リンパ様組織の量、極性(炎症性、抗炎症性)などは
癌治療における奏功、予後に関わると
臨床である程度示されているからです(5,6)。
従って、
3次リンパ様組織の
凝集などを含めた核形成をモデル化し(7)、
さらに成長(1)、成熟の機序を理解する事は極めて重要です。
--
その3次リンパ様組織は
B細胞の濾胞化、胚中心の形成が少なくとも重要ですが、
その組織化、形成において、
Yavuz F. Yazicioglu(敬称略)らによれば、
ミトコンドリアの機能がカギを握るとされています(1)。
特に 
Transcription factor A,mitochondrial (TFAM).
この活性が重要です(1)。
ミトコンドリアのDNAと修復に関わる転写因子です。
なぜ、ミトコンドリアなのでしょうか?
それを考える上で重要なのが、
それを形成する(微小、周辺)環境の条件に依ります。
一般的な2次リンパ組織の胚中心や
癌組織は細胞の増殖率が高く、凝集しているため
栄養や酸素需要が高い状態になります。
血液による供給が行われているにしても
周辺環境は低酸素状態になると考えられます(8,9)。
このような低酸素の状態で
細胞が活発に増殖するためには
細胞の代謝機能の効率を高める必要が出てきます。
従って、それを担うミトコンドリアの転写因子が重要になる
と考える事ができます。
免疫細胞は酸素を必要とする好気性の代謝が基本であり、
ミトコンドリア転写因子であるTFAMは
ミトコンドリアの生成に関わるため(1,10)、
低酸素の状態で必要な代謝機能を保つ上で
重要な機能かもしれません。
特に、2次リンパ節ではなく
3次リンパ様組織では、腫瘍内に形成されますから
腫瘍がすでに低酸素状態にあるのならば、
その中に形成される3次リンパ様組織は
高いレベルで低酸素であることが想定されるため、
B細胞のみならず、T細胞、自然免疫系細胞に至るまで
濾胞として組織化するために
低酸素でも増殖、生存できる
効率的な代謝機能を獲得する必要がある可能性があります。
従って、細胞内のミトコンドリアの機能や数を
制御する様々な遺伝子が少なくとも重要になります。
しかし、上述した
ミトコンドリア転写因子TFAMは
リンパ腫とも関係があるとされています(1)。
一方、
TFAMは腎臓がん、卵巣がんにおいて
まだ、臨床のエビデンスは不十分ですが
レベルが下がると予後が悪くなる傾向にあります(11)。
従って、
TFAMに関しては
癌種によっては逆の傾向を示すということです。
この事はTFAMを高めるような医療介入をすることで
癌化を促してしまう危険性もある事を
示すものかもしれませんが、
一方で、すでにTFAMが高いレベルにあると
臨床によって予後がよくなる傾向が示されているのであれば、
それは、TFAMの発現によって
臨床結果と関連があると報告されている
間接的に3次リンパ様組織の形成に影響を与えている事を
示すものかもしれません。

//まとめ//
腫瘍内の3次リンパ様組織の組織化を促し
高い体積比率を実現し、
抗癌性の免疫機能を高めるためには
3次リンパ様組織の構成単位である免疫細胞が
癌細胞などに囲まれた領域で
細胞同士が凝集する必要がある事から
エネルギー競合性が高く、
効率的な代謝機能を手に入れる必要があります。
従って、
組織特異的な薬物送達によって
3次リンパ様組織の形成を促す介入をするのであれば、
その大切な一つの要因として
免疫細胞の代謝効率を高めるような薬物を
組織特異的に届ける必要があります。
免疫細胞の中のミトコンドリアは1つではありません。
そのミトコンドリアの数が
一つの要因として重要であるとするならば
上で示されたミトコンドリアの生合成に関わる
遺伝子は介入する上でカギとなると考えられます。

(参考文献)
(1)
Yavuz F. Yazicioglu, Eros Marin, Ciaran Sandhu, Silvia Galiani, Iwan G. A. Raza, Mohammad Ali, Barbara Kronsteiner, Ewoud B. Compeer, Moustafa Attar, Susanna J. Dunachie, Michael L. Dustin & Alexander J. Clarke
Dynamic mitochondrial transcription and translation in B cells control germinal center entry and lymphomagenesis
Nature Immunology (2023)
(2)
Leena Gandhi, M.D., Ph.D., Delvys Rodríguez-Abreu, M.D., Shirish Gadgeel, M.B., B.S., Emilio Esteban, M.D., Enriqueta Felip, M.D., Ph.D., Flávia De Angelis, M.D., Manuel Domine, M.D., Ph.D., Philip Clingan, M.B., B.S., Maximilian J. Hochmair, Ph.D., Steven F. Powell, M.D., Susanna Y.-S. Cheng, M.D., Helge G. Bischoff, M.D., Nir Peled, M.D., Ph.D., Francesco Grossi, M.D., Ross R. Jennens, M.B., B.S., Martin Reck, M.D., Rina Hui, M.B., B.S., Ph.D., Edward B. Garon, M.D., Michael Boyer, M.B., B.S., Ph.D., Belén Rubio-Viqueira, M.D., Silvia Novello, M.D., Ph.D., Takayasu Kurata, M.D., Ph.D., Jhanelle E. Gray, M.D., John Vida, M.D., Ziwen Wei, Ph.D., Jing Yang, Ph.D., Harry Raftopoulos, M.D., M. Catherine Pietanza, M.D., and Marina C. Garassino, M.D. for the KEYNOTE-189 Investigators*
Pembrolizumab plus Chemotherapy in Metastatic Non–Small-Cell Lung Cancer
The New England Journal of Medicine  2018; 378:2078-2092
(3)
Dristhi Ragoonanan, Sajad J. Khazal, Hisham Abdel-Azim, David McCall, Branko Cuglievan, Francesco Paolo Tambaro, Ali Haider Ahmad, Courtney M. Rowan, Cristina Gutierrez, Keri Schadler, Shulin Li, Matteo Di Nardo, Linda Chi, Alison M. Gulbis, Basirat Shoberu, Maria E. Mireles, Jennifer McArthur, Neena Kapoor, Jeffrey Miller, Julie C. Fitzgerald, Priti Tewari, Demetrios Petropoulos, Jonathan B. Gill, Christine N. Duncan, Leslie E. Lehmann, Sangeeta Hingorani, Joseph R. Angelo, Rita D. Swinford, Marie E. Steiner, Fiorela N. Hernandez Tejada, Paul L. Martin, Jeffery Auletta, Sung Won Choi, Rajinder Bajwa, Natalie Dailey Garnes, Partow Kebriaei, Katayoun Rezvani, William G. Wierda, Sattva S. Neelapu, Elizabeth J. Shpall, Selim Corbacioglu & Kris M. Mahadeo 
Diagnosis, grading and management of toxicities from immunotherapies in children, adolescents and young adults with cancer
Nature Reviews Clinical Oncology volume 18, pages435–453 (2021)
(4)
Elizabeth Rotrosen & Thomas S. Kupper
Assessing the generation of tissue resident memory T cells by vaccines
Nature Reviews Immunology (2023)
(5)
Yuki Sato, Karina Silina, Maries van den Broek, Kiyoshi Hirahara & Motoko Yanagita
The roles of tertiary lymphoid structures in chronic diseases
Nature Reviews Nephrology (2023)
(6)
Wolf H. Fridman, Maxime Meylan, Florent Petitprez, Cheng-Ming Sun, Antoine Italiano & Catherine Sautès-Fridman 
B cells and tertiary lymphoid structures as determinants of tumour immune contexture and clinical outcome
Nature Reviews Clinical Oncology volume 19, pages441–457 (2022)
(7)
Yifan Dai, Lingchong You & Ashutosh Chilkoti
Engineering synthetic biomolecular condensates
Nature Reviews Bioengineering (2023)
(8)
Sung Hoon Cho, Ariel L. Raybuck, Kristy Stengel, Mei Wei, Thomas C. Beck, Emmanuel Volanakis, James W. Thomas, Scott Hiebert, Volker H. Haase & Mark R. Boothby
Germinal centre hypoxia and regulation of antibody qualities by a hypoxia response system
Nature volume 537, pages234–238 (2016)
(9)
Dean C. Singleton, Andrew Macann & William R. Wilson
Therapeutic targeting of the hypoxic tumour microenvironment
Nature Reviews Clinical Oncology volume 18, pages751–772 (2021)
(10)
Hauke S. Hillen, Dmitry Temiakov & Patrick Cramer
Structural basis of mitochondrial transcription
Nature Structural & Molecular Biology volume 25, pages754–765 (2018)
(11)
The human protein atlas
https://www.proteinatlas.org/ENSG00000108064-TFAM/pathology

2023年4月24日月曜日 0 コメント

自然模倣の観点による薬物送達学の設計

近年の産業の発達は
便利で、豊かな生活を人にもたらし、
公衆衛生が劇的に改善したことによって
若くして命を落とす人が少なくなったことから
世界の人口も爆発的に増えました。
しかし、その副産物として環境に負荷がかかり、
その人為的な影響は地球規模の気候変動、
テレコネクションに影響を与えている
可能性が極めて高いとされています(1)。
もちろん
地球の多種多様な生物、資源の適正管理のため
というのが基軸の中に含まれますが、
それぞれの方にとって大切なお子さんの未来のために
持続可能な社会を実現するためには
単純に考えれば、
科学技術による産業発展と
人の行動の累積によって生じたとするならば、
科学技術、産業と人の行動の両方によって
解決するしかないという事になります。
人為的な二酸化炭素排出において、
度々、輸送機器に焦点があてられることがありますが、
実は、最も世界で影響力が強いのは
冷媒の使用であるという見積もりもあります。
冷媒とは
エアコン、冷蔵庫、冷凍庫などです。
これから温暖化していくとすると
その需要はさらに高まります。
上述したように科学技術だけではなく
人の行動も重要になり、
関係があると考えられる事は出来る限り
対策をしていくことが求められますが、
冷静に何が大きく影響を与えているか?
それについて整理する必要があります。
近代の生活において冷媒は
健康や持続的な食(2)において欠かせないものです。
これに対して科学技術で答えを出していくとするならば、
如何に効率的な冷媒を世界に供給するか?
それについて考える必要があります。
例えば、エアコンでは
羽根の送風効率を上げるために
空を飛ぶことができる生物が進化的に獲得してきた
羽根の構造を模倣する事が考えられてきています。
この場合、微細構造を分析して
それをエアコンの羽根に反映させるわけですが
このような構想は
「Bioinspired nanotopographical design」(3)。
このように呼ぶことができます。 
例えば、
冷媒の使用を抑えるためには
衣類、住居(オフィス、ホールも含む)も重要です。
そのデザインにおいて効率的な放熱のために
あるいは効率的な保温のために
熱帯、砂漠、寒冷地域で生息する動物、植物、
あるいは微生物の表層の(微細)構造を
模倣する事もできるかもしれません。
このような保温、放熱効果は
冷蔵庫、冷凍庫の設計にも生かす事ができる可能性があります。
--
生態系、その中の生物、あるいは人が
何億年もかけて進化的に獲得してきたフィットネスを
薬物送達学を含めた医療、医学、薬学、
上述したようなあらゆる産業に生かす事は
1つの重要項目であると考えてもいいすぎではありません。
例えば、
アデノウィルスは様々な型があり、
その型によって肺、心臓、脳、眼の疾患に影響を与えます。
このアデノウィルスは無害化して
薬物送達キャリアとして利用する事ができます。
Crispr技術を用いた遺伝子編集では、
遺伝子変異特異性の強い疾患に対する
新手の精密治療として大きな期待があります。
その際には
影響のない細胞種、組織に届けるわけにはいかないので
例えば、脳の細胞であれば、
少なくとも脳に効率よく、薬物を送達させたい
という需要があります。
上述したようにアデノウィルスは
もともと進化的に脳に影響を与える特質を持っていますから
そうした脳の遺伝子性の疾患に対して
臨床試験へ進んでいる実績があります(4)。
今述べた様に脳に加え、眼に対する
臨床応用実績の件数がアデノウィルスでは多く(4)、
その科学的事実は
元々、アデノウィルスが進化的に獲得してきた
人に対する部位別の適合度の違いが
色濃く反映されている事を示すものかもしれません。
つまり、アデノウィルスは
それぞれの型によって構造が異なり、
肺、心臓、脳、眼などに高いフィットネスがある
可能性があります。
そうであるとするならば、
冒頭で述べた様にエアコンの羽根において
飛翔生物の羽根の微細構造を分析して
デザインに反映させたように、
アデノウィルスの構造を分析して
何がその走化性を決めているのか?
それについてヒントを得る事に意義が生じます。
そうすれば、
Joel A. Finbloom(敬称略)らが総括されているように(3)、
その構造の特徴をウィルスを用いなくても
一般的なナノ粒子にデザインすることができるようになります。
では、
ウィルスを用いないでナノ粒子に
ネイチャーベースの構造を設計する事に
どのような医療的な意義があるでしょうか?
当然、そのような疑問が生まれます。
なぜなら、
ウィルスをそのまま用いたほうが楽ではないか?
という意見も生じるからです。
植物のウィルスを治療に生かす構想(5)が
その価値を考える一つのヒントになります。
植物のウィルスの少なくとも一部は
胞内にRNAなどの遺伝情報を有していません。
従って、
表面のタンパク質が植物(宿主)の遺伝子に働きかけ
それでウィルスの構成材料を生み出し、
植物細胞内で自己組織化する事によって
ウィルスの構造が出来上がり、
その数を維持していました。
このような自己組織化のシステムが
人や動物の細胞にないとするならば、
このウィルスは当然、人や動物の生体内では
数を維持する事が出来ず、消滅します。
それは薬物送達キャリアとしては利点を有します。
人は野菜など植物を食しますから、
そうした自然の物質を取り込み、
それが増殖しないということになると、
安全性は高いかもしれないということにもなります。
もちろんそれには慎重な確認は必要です。
--
先ほどの記述に戻って、
アデノウィルスは人や動物の身体の中で
進化してきましたから、増殖能があると考えられます。
それを生かすことができるかもしれないですが、
病理にも関わったことから弊害もあります。
もし、内包物を制御できる
合成ナノ粒子で人為的に設計できれば(3)、
アデノウィルスの特徴を有しながら、
必要な物質だけ特定の細胞種に送達できる可能性があります。
その様な構造は
元々、体内でフィットネスがあったと考えられる
微生物、ウィルスの構造だけではなく、
付着して生息域を広げる特徴のある
花粉などの微細構造を参考にするという方略もあります(3)。
細胞種特異的な薬物送達においては
標的細胞に密着させる必要がある事から
元々、密着する機能を高く有している
自然ベースの物質を幅広く探索し、
分子スケールで細かく分析していく事が大切です。
生体内で密着性がある物質は
〇インテグリン(6,7)
〇カドヘリン(8)
〇免疫グロブリンスーパーファミリー(e.g.TMIGD1)(12)
これらが挙げられます。
また、もっと大きなスケールでは
細胞外マトリックスは粘着性があり間質に定在します(6)。
これと対となる構造や
インテグリン。カドヘリン、TMIGD1、
あるいは細胞外マトリックスの構造を分析する事で
構造におけるどの残基、動的機構が
その密着性に寄与しているのか?
それについて知見を得る事ができます。
疎水効果(凝集する力)や結合力そのものの関わりの他に
付随的な機能としての配座の変化、
同時に結合する数、
受容体の多量体化、
接触面積(トポロジーの一致)などが
関わっている可能性もあります。
--
このような視点は細胞種まで薬物が送達されるまでの
プロセスを考えるものですが、
遺伝子治療なども含めて薬物を作用させるためには
細胞内に、もっといえば細胞内の核に
薬物を送達させる必要があります。
その為には特定の細胞まで薬物を送達させた後、
細胞内にそれを取り込ませる必要があります。
ウィルスが持つ針状の構造(3)や
微生物が持つ
ハチのように針を伸ばすシステム(9)は
如何に効率的に薬物を細胞内に送達させるか?
トラフィッキングさせるか?
その人為的な設計に貢献するものです。
エンドサイトーシスさせず、
直接的に細胞内に送達できれば(9)、
エンドソームを介さずに細胞質に送達でき、
細胞内での薬物の分解効率を
下げることができるかもしれません。
--
上述したように細胞外マトリックスは
身体の間質の多くの部分に存在し、
その間質には液体が含まれていることから
一部は固体と液体の間のゲル状になっていると考えられます。
この生体内のゲルを模倣することも
薬剤送達のキャリアの選択肢となります(10,11)。
この時、細胞外マトリックスと
薬物送達キャリアとして人為的に設計した
ヒドロゲルの場所特異的な相互作用をよく考え、
それによってリリース過程を場所特異的に制御する
ということも一つの創案(草案)としてあります。
細胞外マトリックスは
大きな集合的な構造体として
インテグリンやカドヘリンと同様に
密着性があり、定在性を有した物理的特性を持っていますから、
インテグリンやカドヘリンと同様に
薬物の標的として定める事ができると考えられます。
その時に類似する材料である
ヒドロゲルベースの薬物送達キャリアは
親和性が高い可能性があります。

//まとめ//
薬物送達学、
それを取り巻く広範な薬学、医学、医療を含め
上述した地球の持続可能性に至る
非常に大きな問題において
自然模倣を基軸とした課題解決策を探り、
今まで蓄積してきた科学技術を利用して
実際にデザインしていくことは、
おそらく最も重要な指針の一つに挙げられるはずです。
それを利用する上で鍵を握るワードは
「適合度(Fitness)」です。
小さなスケールでみれば、
微生物やウィルスは進化的に獲得してきた
フィットネスを生かして存在を繋いできました。
巨大なスケールでは
地球は様々な環境変化がありますが、
何億年もかけてその存在を維持してきました。
そこには自然(Nature)があります。
そして、人新世において繁栄する事に成功した
人類(ホモサピエンス)がいます。
さらに、
その人の脳で生み出された科学(Science)があります。
その科学は自然の摂理に、
より漸近させるように理想像を描いて進化していて、
今もなお多くの科学者、技術者の方々が
鋭意仕事に取り組まれています。
その科学はアインシュタインの相対性理論のように
実際の観測技術が不足するなかにおいて
数学から発展し、基礎古典物理学を通じて
生みだされた最も美しい法則がありますが、
近代では観測、分析技術が非常に発展している事から
「自然から学ぶ」という事が
(少なくとも私は)非常に重要であると考えています。
ひょっとするとニュートンも
りんごが落ちるという自然現象がなければ、
発明はなかったのかもしれません。
自然は常に地球に寄り添って存在するわけですが、
その一つの考え方は
如何にその環境に順応できるかを示す
適合度という事になると思います。
もちろん進化、技術開発、産業発展を考える上で
人の叡智によって生み出された産物も多くあり、
その一つの概念に収斂させる事はできませんが、
近代の文化的かつ便利な生活を維持しながら
持続可能な社会を築いていくためには
自然の中に有するフィットネスをどのように
科学技術に取り込んでいくかが
1つの核となる方略であると想定します。

(参考文献)
(1)
Rei Chemke & Janni Yuval 
Human-induced weakening of the Northern Hemisphere tropical circulation
Nature (2023)
(2)
Alicia E. Graham & Rodrigo Ledesma-Amaro
The microbial food revolution
Nature Communications volume 14, Article number: 2231 (2023) 
(3)
Joel A. Finbloom, Cindy Huynh, Xiao Huang & Tejal A. Desai
Bioinspired nanotopographical design of drug delivery systems
Nature Reviews Bioengineering volume 1, pages139–152 (2023)
(4)
Dan Wang, Phillip W. L. Tai & Guangping Gao
Adeno-associated virus vector as a platform for gene therapy delivery
Nature Reviews Drug Discovery volume 18, pages358–378 (2019)
(5)
Lukas Eidenberger, Benjamin Kogelmann & Herta Steinkellner
Plant-based biopharmaceutical engineering
Nature Reviews Bioengineering (2023)
(6)
Matthew J. Dalby, Nikolaj Gadegaard & Richard O. C. Oreffo 
Harnessing nanotopography and integrin–matrix interactions to influence stem cell fate
Nature Materials volume 13, pages558–569 (2014)
(7)
Lukas Kaltenbach, Paloma Martzloff, Sarah K. Bambach, Nadim Aizarani, Michael Mihlan, Alina Gavrilov, Katharina M. Glaser, Manuel Stecher, Roland Thünauer, Aude Thiriot, Klaus Heger, Katrin Kierdorf, Stephan Wienert, Ulrich H. von Andrian, Marc Schmidt-Supprian, Claus Nerlov, Frederick Klauschen, Axel Roers, Marc Bajénoff, Dominic Grün & Tim Lämmermann
Slow integrin-dependent migration organizes networks of tissue-resident mast cells
Nature Immunology (2023)
(8)
Krzysztof Marek Mrozik, Orest William Blaschuk, Chee Man Cheong, Andrew Christopher William Zannettino & Kate Vandyke
N-cadherin in cancer metastasis, its emerging role in haematological malignancies and potential as a therapeutic target in cancer
BMC Cancer volume 18, Article number: 939 (2018)
(9)
Joseph Kreitz, Mirco J. Friedrich, Akash Guru, Blake Lash, Makoto Saito, Rhiannon K. Macrae & Feng Zhang
Programmable protein delivery with a bacterial contractile injection system
Nature (2023)
(10)
Ruibo Zhong, Sepehr Talebian, Bárbara B. Mendes, Gordon Wallace, Robert Langer, João Conde & Jinjun Shi
Hydrogels for RNA delivery
Nature Materials (2023)
(11)
Jianyu Li & David J. Mooney
Designing hydrogels for controlled drug delivery
Nature Reviews Materials volume 1, Article number: 16071 (2016)
(12)
Eva-Maria Thüring, Christian Hartmann, Ysabel A. Schwietzer & Klaus Ebnet
TMIGD1: Emerging functions of a tumor supressor and adhesion receptor
Oncogene (2023)

2023年4月19日水曜日 0 コメント

植物を利用したナノ粒子形成

薬物送達の一つの方法は
ウィルスを使ったものですが、
最も注意しなければならないのが、
その副産物としての公衆衛生への影響です。
基本的にウィルス学者の中では難しい
という見解が一般的ですが
それについては気を付ける必要があります。
しかしながら、
薬物送達学において重要な分野である
ウィルスを主要な送達キャリアとして位置付けている大学もあるので
注意しながらもその分野に焦点を当てるのであれば、
書かないわけにはいかない
ということがあります。
--
薬物送達に期待される役割は
1つはまだなかなか人のケースで広範に実現しない
遺伝子治療に有ります。
遺伝子改変技術はあり、成功を収めていますが、
遺伝子を改変したい細胞種があるわけですから
そこに特異的に遺伝子編集構成物質を送達させたい
というほぼ揺るぎない需要があります。
その遺伝子改変物質の送達媒体として、
アデノウィルスが挙げられてます(2)。
アデノウィルス自身は型によって
肺炎、脳炎、結膜炎などが起こります。
従って、
肺、脳、眼に影響を与える性質があり
それに対する走化性などのフィットネスがある
と考えられることから
眼、脳に対する臨床応用が多くなっています(2)。
その他は筋肉、肝臓であり、
肝臓はもともとナノ粒子が送達されやすい臓器です。
この事は
ウィルスを薬物送達に利用する際に
そのウィルスが元々どの器官に影響を与えるのか?
その適合度が重要という事を示しています。
例えば
前立腺ではHPV、HCMV、HIV、BKウィルスが挙げられています。
心臓でも心筋に影響を与えるウィルスとして
アデノウィルス、インフルエンザウィルス、
サイトメガロウィルス、エプステインバールウィルス
これらなどが挙げられています。
いずれにしても
人の過去からの歴史を見ながら
それぞれのウィルスがどこに影響を与え、
それは免疫機能による間接的影響なのか?
それともウィルスの
直接的な送達によってそれが起こったかどうか?
それについて調べる事は
それをウィルスを無毒化して送達キャリアとして利用する際の
重要な科学的情報、選択項目となります。
--
Lukas Eidenberger(敬称略)らは
植物ベースのナノ粒子について報告されています(1)。
植物ベースのナノ粒子は
植物を育てる環境コストが非常に低いという事から
コストや資源の視点で優れていると言えますが、
機能的に着目すべき点があります。
植物ベースのナノ粒子の選択として
その植物に生息するウィルスを使うというのがあります。
その(少なくとも一部の)ウィルスは興味深いことに
増殖するための遺伝子を持っていません。
従って、増殖能が
それを人や動物で使ったときにはないということになります。
従って、増殖して数が制御できなくなる、
あるいはウィルスが人に定在するというリスクは
ほぼ皆無に近いと言えると思います。
では、植物ベースのウィルスは
どのように植物に寄生して数を維持できるのでしょうか?
その疑問が当然浮かび上がります。
その理由は、植物の細胞内に含まれる
遺伝子に結合するタンパク質を有していて
その遺伝子の活性を制御し、
それによってウィルスの膜の元となるたんぱく質が
植物の細胞内で作られ、
それが自己形成することによって
ウィルスの膜、それがつながり胞となります。
それでウィルスは数を増やすことができます(3)。
--
合成ナノ粒子において、
ナノ粒子のエンベロープ膜がどのような
材料構成がいいか?というのは精緻に考えられます。
1つの材料ではなくて、
非常に複雑な材料構成となっています。
植物ベースのウィルスは
植物の細胞内で自己形成されますから
その外膜の材料は
どのように細胞内から自己形成過程において
物質を取り込むかに
少なくとも一部(大部分)依存します。
ここをうまく制御して、生かす事が求められる
のではないか?と考えられます。
また、表面タンパク質などの機能化をどのように行うか?
ex vivoで精製した後に行うか?
あるいはin vivoで行うか?
このような選択肢があると思われます。
例えば、
ウィルスやナノ粒子の機能化として
抗体を使うという事が考えられます。
その抗体は植物の場合は獲得免疫系がないので
遺伝子導入によって細胞内で生成させる必要があります。
しかし、人や動物などのように
元々、植物は抗体を作る能力がないことから
それによって困難な点もあるだろうし、
逆に、余計なノイズが入りにくいという事は
あるかもしれません。
抗体を作る一つの自然にある工場として
植物を利用するという事は選択の一つです。
「Molecular farming」の一環です。
複雑な有機物質、生体物質を一からくみ上げる事は
できませんから、そうした自然の力を借りるときに
利用しやすい植物をその工場として使うという視点です。
このような
「任意の分子、構造体を生み出す自然の工場」の
利用価値を高めるためには、
植物が遺伝子、タンパク質などを取り込んで
どのようにウィルスを含む粒子、抗体、
タンパク質などの構造体を自己形成するか?
その生物学的、物理化学的プロセスの
詳細を掴む必要があります。

(参考文献)
(1)
Lukas Eidenberger, Benjamin Kogelmann & Herta Steinkellner
Plant-based biopharmaceutical engineering
Nature Reviews Bioengineering (2023)
(2)
Dan Wang, Phillip W. L. Tai & Guangping Gao
Adeno-associated virus vector as a platform for gene therapy delivery
Nature Reviews Drug Discovery volume 18, pages358–378 (2019)
(3)
Raquel Tenorio,Isabel Fernández de Castro,Jonathan J. Knowlton,Paula F. Zamora,Danica M. Sutherland,Cristina Risco, and Terence S. Dermod
Function, Architecture, and Biogenesis of Reovirus Replication Neoorganelles
Viruses 2019, 11(3), 288


2023年4月16日日曜日 0 コメント

組織常在型免疫細胞の機能と薬物送達学

自己免疫疾患などの免疫系の直接的な疾患以外で
癌や循環器、各臓器の組織的な劣化による疾患においても
免疫機能を巧みに利用した治療が考えられます。
免疫機能は神経系と同様に
絶妙なバランスによって
身体の健康維持、ホメオスタシスに関わっているため
免疫機能を治療に生かす場合には
そうしたバランスを考慮する事は欠かせません。
1つの軸としては
エフェクター免疫細胞による攻撃性と
制御型免疫細胞による抑制があります。
これらがアクセルとブレーキとしてそれぞれ働き
免疫機能の均衡状態が得られてます。
神経系などと同様に
身体は外界、体内様々な環境の変化があり
それにより擾乱を受けていますから、
こうしたバランスは常に波の足し合わせの中で
揺らいでいると考えられます。
それは健康な人でもおそらくそうです。
これは動的平衡状態とも言い換えることもできます。
しかし、
癌などにおいて急速に組織が発達したり、
長い時間かけて大きくなったりすると、
そうしたバランスの中で対応しきれなくなり、
治療が必要になるという事も考えられます。
そうした場合、
手術による除去、抗がん剤による化学療法、
あるいは放射線療法が必要になります。
その間ももちろん免疫系は働いていますが、
治療が奏功をしめし、
癌細胞が極めて小さくなった状態で、
免疫系がうまく特異的に、多面的働くようになれば、
小さな癌細胞を消滅させたり、
再発の予防にもつながると考えられます。
一般的に治療を施すと、
免疫細胞にも影響を与える為、
その一部の資源となる
胸腺が損傷を受けると言われています(3)。
胸腺は感染症、敗血症、拒絶反応、腫瘍縮小治療などにおいて
非常に損傷を受けやすく、感受性が高いと言われています(3)。
従って、
治療の後、身体が損傷を受けたり、
あるいは回復の後、長期的な見守りが必要な場合には
獲得免疫系のリソースである胸腺の機能を
どの様に守るか、回復させるかが一つの鍵となります。
下述するCAR-T細胞治療には
胸腺と深く関わりがあるT細胞の機能が重要になりますが、
白血病などの血液性癌細胞と競合し、闘った後、
その患者さんの予後を決める要因として、
まだあまり着目されていませんが、
胸腺の機能も重要かもしれません。
また、樹状細胞、単球、NK細胞のような自然免疫系と比べ、
T細胞のような獲得免疫系はダメージを受けた後の
回復が遅いとされています(3)。
その回復に関わる胸腺機能をどのように維持、回復させるかは
付随的にT細胞の回復、維持にも関わると想定されます。
別の観点では
胸腺は視床下部-下垂体-副腎軸と同じように
神経系と密接に相互作用するため
ストレスなどによって影響を受けるとされています。
ストレスと関わる様々な神経伝達物質が
胸腺の機能に影響を与えると考えられており(31)、
機能維持のためには、日常生活が大切ですが、
病気の治療後に不安を抱えないように
周りのサポートも大切ということです。
それが胸腺などを通じた免疫機能にも影響を与えます。
--
そのような急性期を超えた患者さんの予後に関して、
がんサバイバーシップという考え方があります。
急性期の治療を終えた後の患者さんの人生について考え
生活の質やウェルビーイングをどのように向上させる
ことができるか?を考えます。
その時に医療、福祉などによる管理維持もありますが、
体内の大事な機能として
上述したことを含めた
免疫機能による長期的な見守りがあります。
但し、注意が必要です。
このような事はおそらく想定されますが(18)、
がんサバイバーシップが適用範囲となる
癌の治療などにおける免疫療法は
臨床で広く適用されるようになってまだ日が浅いので
このような5年、10年に及ぶ大規模な調査は
様々な癌種においてまだ行われていません。
現状までわかっている事は
Kathryn M. Cappell(敬称略)らによって
CAR-T細胞治療に絞って総括されています(9)。
小規模ではありますが、
細胞の機能まで深く追求した研究があります(19)。
それによれば、
白血病のCAR-T免疫療法の10年にわたる追跡調査で
CD4+CAR-T細胞が細胞傷害性を示し
機能的な活性と増殖を続けて
白血病に対する長期的な回復、監視に貢献した
とされています(19)。
一方、
対象患者が100人を超えるフェーズⅡの臨床研究でも
3年以上の追跡調査で、B細胞リンパ腫に対する
CAR-T細胞治療において、
39%の患者さんにおいて完全寛解が維持された
とされています(20)。
子どもを対象とした臨床研究では
微小残存病変によって再発のリスクが変化する
といわれています(21)。
従って、急性期の治療の段階で
完全に癌細胞を消滅させる事は
長期的なお子さんの健康のために重要です。
この微小残存病変のレベルと白血病の再発の関係は
一般的に示されていることです(22)。
しかし、癌の再発のリスクは様々な要因が関わり、
単純(一義的)に示す事はできません(9)。
悪性腫瘍のタイプ、癌の種類、場所、
他の治療との組み合わせ(化学療法など)、
CAR-T細胞のレベル(濃度、総数)などによっても
当然変わります(9)。
また、CAR-T細胞によってB細胞を標的化した場合は
副作用として当然、B細胞の減少が
長期的に起こる事があります(9)。
下述するように
B細胞は液性免疫で重要な働きをするだけではなく、
リンパ節や3次リンパ様組織で濾胞として形成され、
それらの組織形成に欠かせないものです。
もし、そのB細胞が減少している状態で
組織常在型の癌組織が発展したら、
その寛解に関わると考えられる
3次リンパ様組織の形成に影響を与える可能性もあります。
--
免疫細胞を標的として特異的な薬物送達を実現する場合、
循環型の免疫細胞と組織常在型の免疫細胞。
これらどちらか、両方を巧みに利用する
方略が考えられます(4)。
循環型の場合には循環器を移動する能力を獲得していますから
その走化性を利用して、標的部位まで
遊離薬物やそれを内包するナノ粒子を輸送してもらう
という事が考えられます。
一方、
組織常在型の場合にはすでに標的部位に
免疫細胞が存在しているので、
その免疫細胞の表現型を利用して、
そこに直接、ナノ粒子や遊離薬物を送達させる事を考えます。
組織常在型の免疫細胞は
その組織特異的な遺伝子発現を持っているため(1)
薬物がアクセスできる結合部位が特異的に存在している
可能性があります。
皮膚のケースでは
多層化した組織ごとに常在する免疫細胞に変化があるので(1)
その特徴を細かくつかめば、
より細かい標的化が可能になるかもしれません。
--
このように免疫機能を薬物送達の為
利用する場合には少なくとも免疫機能に影響を与える事から
それが正にも、負にも働く可能性があります。
従って、免疫機能に与える影響を
治療する疾患を視野に入れながらよく考える必要があります。
また、冒頭で述べた様に
免疫機能は治療した後も長く記憶され、
その後の患者さんの生活の質に関わる
可能性があると考えられることから
そうした長期間の軌跡についても考慮する必要があります。
一方で、免疫細胞を標的とした薬物送達では
任意の時空間での薬物放出を実現できる可能性がある
だけではなく、
免疫細胞そのものに働きかける事ができます。
例えば、組織常在、記憶型のCD8+T細胞は
見守り機能、警告機能があり(28)、
その環境下においてサイトカインなどを放出する事によって
自然免疫系である樹状細胞やNK細胞の活性化、
あるいは液性免疫であるB細胞に影響を与えます(28)。
下述するように
腫瘍組織や感染症の影響を受けている局所では
免疫機能の中枢であると考えられる
3次リンパ様組織や免疫細胞の凝集領域などが
重要であると考えられます。
その部分の組織常在型のT細胞に
人為的に薬物によって働きかける事は
T細胞やB細胞だけではなく
樹状細胞、NK細胞などの多様な免疫系に影響を
与える事になる可能性も十分に想定されます。
強いエフェクター機能が必要である腫瘍組織の場合は、
T細胞だけではなく、B細胞、NK細胞、樹状細胞
あるいはマクロファージなど
様々な免疫細胞によって多面的に
その機能が発現される事が想定されるため
効果的な治療につながる可能性があります。
子どもなども含めて、
人、動物、植物などの生物は
常に微生物やウィルスなどに暴露されています。
呼吸器、皮膚、消化器などは
そういった病原体への暴露の程度が高い部位です。
そうした部位には粘膜があるケースもありますが、
表層に多種多様な免疫細胞が常在しているとされています。
例えば、
皮膚に一度、組織常在、記憶型のT細胞が定着すると
そのT細胞の病原体に対する交差性は非常に高く、
異なる病原体でも脅威にさらされたときには
アラーム機能を発現することができます(29)。
それによって、臓器レベルのより広範な
免疫反応を誘発する事が出来き、
そうした脅威に対する防御システムが確立されます。
特に重篤な疾患のない健康な人でも
上述した消化器、呼吸器、皮膚などの
暴露が高い器官では
組織常在型の免疫細胞の形成のバランスが
非常に重要であると想定されます。
皮膚の組織常在型免疫細胞はクリームなどによって
直接的にアプローチできるので、
特異的薬剤送達においては非常に利点があります。
免疫細胞は体全体で精緻に連結しているという事を考えると
皮膚の常在型免疫細胞を起点として
身体全体の免疫システムを強固なものにしていく
という観点もあるかもしれません。
但し、安易に人、(実験用ではない)動物に行う事には
警鐘を鳴らす必要性も一方ではあります。
--
例えば、癌などにおいては
浸潤している免疫細胞の数や質によって
奏功の可能性や予後の質に影響すると考えられます。
その癌組織に浸潤している組織常在型の免疫細胞があり、
それらはこれらの要因に関わるとされています(5)。
その時に当然免疫チェックポイントの活性有無での
免疫細胞の質も関係しますが、同様に量も関係します。
そうした場合、その組織内での
組織常在型の免疫細胞の軌跡や増殖(26)について
考える事が重要になります。
そこに定着する前にはリンパ節で抗原認識し
組織特異的な常在性を手に入れるとあります(1)。
また、同様に抗原によって
常在型免疫細胞は増殖すると言われています(6)。
従って、抗原が一つ重要なカギを握っています。
その抗原特異的な免疫反応を駆動するのがリンパ節で、
癌組織や炎症部位などの本来リンパ節を含まない組織に
自己組織化される3次リンパ様組織を理解する事は
組織常在型の免疫細胞の形質を掴むうえで重要です(8)。
--
組織常在型の免疫細胞を詳しく調べる事は
これを利用した特異的薬物送達においても重要ですが、
循環器からの情報が制限的であり、
組織を都度サンプリングする必要があるため
その点で難しさがあるとされています(1)。
違うアプローチとして、
多能性幹細胞技術を使って
組織常在型の免疫細胞を作り出すことができるかもしれませんが、
細かい表現型において
実態の再現性を実現するかどうかは不明です。
--
免疫系は自然免疫系と獲得免疫系の2種類に分類され
それぞれ特異的な性質を持っていますが、
それぞれの細胞種に対して、
上述したような組織常在性と循環型があると考えられます。
上述したT細胞は獲得免疫系であり、
主に異常な細胞やウィルスなどの外敵から
身を守るために機能するものですが、
自然免疫系であるマクロファージは
そういった機能がある一方で、
組織の健全な成長や修復などに関わっているとされています(2)。
細胞は入れ替わるので、
身体の全ての組織で安定性を得るシステムが必要です。
その一つの大切な機能として、
マクロファージがそれぞれの組織に寄り添って
組織学的な恒常性に貢献しています。
上述したようにこのような場所特異性は
特異的薬物送達に利用する事ができますが、
それと同時に組織学的な治療を兼ね備える機会がある
ということです。
例えば、癌組織では血管生成を抑える必要があり、
それを標的化することは考えられてきました(7)。
その血管生成は組織常在型のマクロファージとも関わっており(2)、
そのマクロファージを標的化する事によって
血管生成を制御することができるかもしれません。
あるいは、
小児がんに罹ったお子さんのアフターケアでは
成長ホルモンなどの内分泌系の継続的な管理が必要になります。
成長が阻害されるとその後の生活の質に影響があるからです。
このような成長ホルモンの他に
組織常在型のマクロファージも組織の成長に関わる事から(2)、
そのマクロファージの機能を調べ、
もし、異常があるのであれば
それに介入する機会があるということです。
これは内分泌系ホルモンと異なるアプローチになるので
より多元的な管理につながる可能性があります。
その時にその組織常在型のマクロファージへの
薬物の特異的送達の技術があれば、
より効果的に医療介入できるかもしれません。
--
このような組織常在型の免疫細胞は
数としては循環型を上まわるとも言われています(1)。
従って、自己抗原を認識するようになると
自己免疫疾患に関わり、
それが組織に常在している事によって
その組織の炎症などにより直接的に関わる可能性もあります。
従って、薬物によって特異的に
組織常在型の免疫細胞に送達させることができる
医療工学技術を確立する事が
自己免疫疾患の効果的な治療につながる可能性は
十分に考えられます。
--
上述した3次リンパ様組織は
B細胞-T細胞の相互作用(8)や
(おそらく)病変部位のストレスによって
免疫機能が亢進され、
そうではない部位に比べて高密度で
自己組織化されると想定されます(8)。
3次リンパ様組織は2次リンパ節とは異なり、
組織としての区画を持たない不完全な組織で、
有害な抗原や炎症性物質などに暴露しやすい環境にあり、
また、免疫細胞の塊でもあります。
従って、
組織常在型の免疫細胞は散在しているものと
3次リンパ様構造のように塊として局在化しているものがある
と想定されます。
癌の場合は必ずしもそうではないですが、
3次リンパ様組織があることで
よい奏功を得やすいということがあります(8,10)。
一方、自己免疫疾患や組織の炎症の場合は
この組織は悪化させる傾向にあります(8)。
この科学的事実は、
免疫細胞のバランスの最適点にあるのかもしれません。
腫瘍組織ではより高い免疫エフェクター機能の需要が強く、
自己免疫疾患や組織の炎症では
制御型免疫機能の需要が強いと想定されます。
事実として腫瘍組織において、
3次リンパ様組織のB細胞が制御型の形質が
強い傾向にあると予後が悪い傾向にあります(10)。
今述べた様に、
3次リンパ様組織にも制御型免疫細胞はありますが(14)、
上述したように病変部位に高密度で存在し、
組織的に区画が存在せず、
その環境に暴露されやすいことから
制御型、抗炎症性の表現型よりも
エフェクター、炎症性のサイトカインなどの
影響を色濃く反映した組織になっている可能性があります。
そうすると癌では奏功を示しますが、
自己免疫疾患や炎症組織では悪化するという事の
臨床的事実を(一部)合理的に説明できることになります。
--
この3次リンパ様構造は免疫細胞の塊であり
かつ露出しているため、
それを薬物送達の為の標的として巧みに利用することができます。
その3次リンパ節は癌組織と同様に
栄養、免疫細胞、サイトカインなどを
供給し続ける必要があるため、
リンパ管を含む循環器の周りや表層に形成しやすいと
考えられます(8,10)。
このように、
血管やリンパ管などの循環器と接触して
形成されているのであれば(8)、
循環器からの標的化も可能になります。
組織常在型の免疫細胞と3次リンパ様構造の免疫細胞が
類似する表現型を有しているのであれば、
それを標的化した時には
自然と3次リンパ様組織に高く
薬物が誘導されるような薬物動態になるかもしれません。
また、
3次リンパ様構造には
通常の腫瘍組織にはあまり存在していない
B細胞が塊になって存在しています(10)。
濾胞性B細胞、胚中心が
B細胞によって形成されています。
今述べた様にB細胞は腫瘍組織にはあまりないわけですから
循環器やリンパ組織のB細胞と表現型の違う
3次リンパ様組織特異的なB細胞の表現型を見つければ
高い確率で腫瘍組織に偏在している
免疫細胞の塊である3次リンパ様組織に
作用させたい薬物を送達させる事ができる可能性があります。
--
3次リンパ様組織は腫瘍組織の中では
いわば、免疫組織の中枢、巣です。
3次リンパ様組織がどのような細胞種の構成になっていて
また、どのような極性を持っているかは
その環境によって異なる可能性があります(8)。
腫瘍組織において
免疫チェックポイントなどによる治療効果や
腫瘍組織と免疫機能の競合の中で
腫瘍をより小さい形で安定化、平衡化させるためには
制御型よりもエフェクター機能が高い
3次リンパ様組織が好ましいかもしれません。
そうしたコントロールを
3次リンパ様組織に特異的に薬物を送達させる事によって
できる可能性があります。
Elizabeth Rotrosen(敬称略)らが述べているように
組織常在型の免疫細胞は循環型を上まわるとされています。
その組織常在型の多くが3次リンパ様組織にあるのであれば、
そこに対して特異的に薬効を与える事は
免疫的に大きな影響があると考えて自然です。
従って、
3次リンパ様組織に対する特異的薬物送達を実現する事。
また、その中でB細胞を標的の選択肢として
着目する事は大きな意義があります。
--
3次リンパ様組織は上述したように密度があり、
例えば、変異の数(Mutation budern)が多いと
一般的にその密度が上がるとも言われています(8)。
癌細胞にどれだけ免疫細胞が浸潤しているか?
これについて度々議論されます。
それに対する免疫療法の効果も評価されます。
もし、腫瘍細胞に対して
どれくらい3次リンパ様組織が占めるか?
この体積比率が重要である(10)のならば、
3次リンパ様組織がどのように核形成され、
ある一定の大きさまで成長し、成熟するのか?
そのプロセスを考える意義が生じます。
なぜなら、核形成、成長、成熟のプロセスが明らかになれば
それに適した条件になるように
薬物を含め介入する機会が生まれるからです。
それを紐解くことは非常に複雑ですが
結晶成長の一般的概念から
少し違った観点で情報提示したいと思います。
--
結晶成長では基本的に核形成して
ある閾値となる大きさまで結晶として成長するまでにおいて、
成長を駆動するため高エネルギーが必要で、
そこから安定的な成長に入るとそれが小さくなり、
やがて大きくなると競合する条件があれば、
またエネルギー需要が大きくなり、
成長がストップするというサイクルが考えられます。
例えば、
上空で雲が形成されるときには
氷の結晶はある大きさまでにしかなりません。
それは核形成と成長がストップする間に
(動的)安定状態、エネルギーポケットが
存在する事を意味します。
核形成して特定の大きさまで成長するためには
平衡状態でその物質が系の中で
最大密度で存在できる飽和状態を超えた
過飽和の状態を作り出す必要があります(11,12)。
気相、液相から固体となる結晶を生み出すためには
連続的に分子を供給する必要があり、
その分子が高密度、圧縮されて供給されれば
過飽和になる確率が上がります。
しかし、合成の為の温度、圧力などの条件があるため
どれくらいの過飽和度で核形成が成立するかは
材料物性や環境(合成条件)によって異なります。
また、結晶成長基板があり、
ダングリングボンド(有機化学では残基)や
ステップ(微傾斜)などが存在すると、
分子がそこで固定されるため、
分子密度が上がりやすくなり、
核形成のための臨界的な過飽和度が得られやすくなります。
一方で、
核形成が至るところで起きる事は島状成長をして
結果として層厚のバラつきが大きい
凹凸のある膜形成が生じる事につながります。
薄膜も含めて、層厚のバラつきが少ない
2次元成長を実現するためには、
微傾斜基板などで典型的に示されるように
表面に規則的にステップ(段差)を作って、
そこで連続的に層状に成長させ(ステップフロー成長)、
それ以外のテラスの部分は
パッシベーション(不動態化、表面安定化処理)する事が好ましいです。
いずれにしても分子による核形成の場合には
過飽和度を高くとれば、その確率が高まるという事です。
また、気体から固体に成長する場合には
化学ポテンシャルの変化が大きいため、
エントロピーの低い、規則的な結晶は得られにくいですが、
液体から固体の場合にはその変化が小さいため
エントロピーの低い、規則的な結晶が得られやすいとされています。
規則的な結晶は分子の並びの不規則性を示す
貫通転移や点欠陥などが少ない
非常に質のよい結晶を示します。
また、その変化が時間的にゆっくりであればなお好ましいです。
従って、一般的には結晶の成長速度を小さくすることが
質の良い結晶を合成する上で好ましいとされています。
--
このような結晶成長の概念(の少なくとも一部)は
下述するように様々な条件が異なりますが、
オルガノイドを含めた組織の成長、
あるいは腫瘍組織の成長、
その中の3次リンパ様組織の成長にあてはめる事が
できるのではないか?と考えています。
今述べた様に
分子から結晶成長させる場合と
細胞が成長する場合で明確に異なる点は
細胞は分解され、死滅する事と、
細胞は分化、増殖、融合する事ができる
栄養を送り続けなければならない
ということです。
もし、組織の成長が主に
細胞の増殖によって起こるのであれば、
当てはめられるモデルは少なくはなります。
従来から明らかな様に
〇増殖速度
〇細胞成熟(10)
〇組織、細胞間の密着性(16,30)
〇免疫細胞同士の相互作用(8,10)
〇細胞の寿命
〇補体システム(17)
〇高内皮細静脈(high endothelial venules)(8,15)
〇ケモカイン、サイトカイン(30)
〇抗原認識性(10,30)
少なくともこれらの要因が
直接的かつ/もしくは間接的に
T細胞を含めた組織常在型免疫細胞の組織化に
関わると想定されます。
ここで問題にしている
3次リンパ様組織ではB細胞が重要な働きをしています。
それが塊、核となって組織が形成されています。
従って、その初期の核形成の時点で
B細胞がどのように濾胞として集まり核形成するか?
あるいは分裂して濾胞として核形成するか?
それについて考える事は重要かもしれません。
前述したように
腫瘍組織において3次リンパ様組織の体積比率が大きくなれば、
おそらく癌細胞と免疫細胞の競合の中で
腫瘍組織はより小さいところで安定化すると考えられるし、
あるいは腫瘍組織が化学療法などの治療を施さなくても
消滅する可能性すらあります。
3次リンパ様組織の形成、構成、極性をどのように
局所的に制御するか?
これについて考える事は
少なくとも癌の治療において極めて重要になると考えられます。
このように体内で自己組織化させて、
その特性を制御するという考え方以外にも、
すでに3次リンパ様組織を体外で作製し、
それを体内に投与するアイデアは示されています(10)。
--
上述したように分子細胞生物学的観点で
組織常在型免疫細胞の形成過程を追跡する事は重要です。
興味深いことに
組織常在型免疫細胞は組織の吸着性、放出性の
表現型のバランスの中で吸着しやすいそれが
残ると当然されていますが(30)、
それを駆動するシグナルは
場所特異的かもしれないとされています(30)。
この事は組織常在型免疫細胞を
病変部位や組織特異的に形成する事を制御する上で
1つの重要なヒントになる可能性があります。
--
さらに組織常在型の免疫細胞が
どのような軌跡で定在性を手に入れるのか?
その前駆状態を段階的に理解する事は非常に重要です。
モデルは複数ありますが、
その分岐点となる重要な部分は
組織常在性表現型を手に入れる段階が
循環型形質を手に入れる前か後か?
そこにあります(30)。
例えば、循環型の後であった場合には
それとの相互作用性が高くなると考えられるため
定在するといっても移動性の形質は
比較的高く残っている可能性もあります。
このような細胞の分化過程を理解する事によって
3次リンパ様組織の形成にとって
好ましい(あるいは好ましくない)条件とは何か?
これをより深く理解する事にもつながります。
--
腫瘍組織も3次リンパ様組織も
あるいは臓器などにおいても、
ある特定の大きさまでしか大きくなりません。
それは単純には
成長を駆動する因子と抑制する因子のバランスによって
決まると考える事ができます。
抑制する因子としては周辺環境との競合もありますが、
Notch信号などの生理機能も働いている可能性もあります(13)。
3次リンパ様組織の核形成をしやすくすることは
その密度に関わると考えられますが、
大きさも重要な因子です。
それを考える際において、
組織における成長を駆動する因子と抑制する因子を
整理して考える事は、
より大きな3次リンパ様組織を制御して生成できるように
医療介入できる事に繋がるかもしれません。
--
上述したように胸腺は様々な生体内のシグナルに対して
感受性が高く、ストレスが罹った時に
損傷を受けやすい器官であると考えられます。
従って、その機能をどう回復させるか?
これを考える事が特にT細胞などの
獲得免疫系の機能を保つ上で重要になります。
とりわけ、感染症、炎症、癌などに罹患した
患者さんの回復後の予後に関わると想定されます。
胸腺にも組織常在型の免疫細胞があり、
自然免疫系のNK細胞やマクロファージがあります(23,24)。
これらの自然免疫系は
組織の恒常性、回復、維持に関わっているため(23,24)、
この細胞が存在しやすい環境を薬物によって補助する事で
胸腺の機能維持につながる可能性があります。
3次リンパ様組織の成長、
今述べた組織常在型の免疫細胞も含めて
その増殖機序を掴み、制御できる技術を開発する事は
いずれにしても重要です(26)。
一方、薬物送達学の観点では、
組織常在型の免疫細胞は
特異的な表面受容体を有している事から(23)、
それを標的として薬物を送達させる事によって
その薬物に胸腺の回復機能を持たせるだけではなく、
元々回復機能を有している自然免疫系の細胞の
機能を高めるようにする事で
胸腺の回復につながる可能性があります。
こういった考え方は
肝臓、肺、心臓、脳(25)、腸、腎臓など
あらゆる臓器で適用できる可能性があります。
今挙げた脳の場合は
血液脳関門に中枢神経系に独自に存在する
マイクログリア、星状膠細胞などの
免疫様の機能を持つ細胞以外の
体内に存在する免疫細胞に対して
一定のブロック機能があります。
従って、多様な免疫細胞がどこで
神経系に影響を与え、その中枢となる器官は
どこにあるか証拠を得る事は重要です。
免疫系の一つのハブはリンパ節ですが、
脳神経と関わりの深いリンパ節は頸部にあるとされています(25)。
また流入領域リンパ節は髄膜にもあるとされています(25,27)。
そのようなブロック機能がありながらも、
マイクログリアや星状膠細胞は
中枢神経系以外に存在する多様な免疫細胞と
相互作用し、その機能に影響を与えています(25)。
髄膜、脈略叢など境界となる組織がありますから、
そこでの相互作用を精緻に理解する事が重要になります。
また、これらの境界部分は
循環器から中枢神経系に入る門ですから、
そこに存在する組織常在型の免疫細胞は
その門番役として働くと考えられます。
例えば、脳に走化性をもつ悪性のウィルス、細菌は
多くありますし、新型コロナウィルス感染症でも
倦怠感など神経様の後遺症が出るケースも多くあります。
また、免疫系と神経系の相互作用を理解する事は
免疫治療によって生じた神経系の副作用を理解する
事にもつながるかもしれません。
従って、境界部分の免疫系についての
研究、分析、考察、創案を様々な視点で行う事は
極めて重要になるかもしれません。
その一つとして、
薬物送達学の観点で概要的に考えると、
これらのように位置を特定する事は重要であり、
(例えば)リンパ節、及び構成される免疫細胞などを含めて
特有の表現型を調べることで、
その位置に有効に薬剤を送達させるための
いくつかの創造的なアイデアにつながるはずです。

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2023年4月12日水曜日 0 コメント

薬物送達キャリアとしての細菌

人工、自然という概念がありますが、
ナノ粒子薬物を作る事を含めて
何らかの製品を作る際には、
どれだけ人の手によって介入するかという程度があります。
例えば、身の回りにある製品は
物質の合成によって人工的に作られたものもあるし、
自然にあるものをそのまま加工したものもあります。
人の身体は細かくは水、タンパク質、
それらを含んだ細胞などからなります。
それらは人工的な環境の影響を近代では受けているとはいえ
おおよそ自然の産物です。
例えば、
どこか特定の細胞を
全く別の経路で、あるいはゼロベースで
類似したものを作れるか?というと
現在のテクノロジーでは少なくとも
細胞内小器官などを含め非常に複雑なので
不可能という事になります。
少なくとも人、動物、植物などに対して
薬物によってより良くなるように介入する場合には
そういった自然の産物を相手にする必要があります。
自然の産物は非常に複雑ですから、
なかなか統一的にうまく制御できない
という事も出てくると想定されます。
--
一方、
薬物の作用をより細かく制御するために
近年ではナノ粒子によって薬物を包んで、
生体内での時空間での作用特異性を得ようとする試みがあります。
薬物送達学の目的の一つはそれです。
それによってより少ない薬物で効果が得られるようになる
と想定され、それが期待されるからです。
もちろん背反する部分もありますが、
うまくいけば、
コストが低く、材料資源を節約でき、
身体に優しい治療が可能になります。
--
前述したように
自然の産物は複雑ですから、
薬物治療の標的性を上げるために用意するナノ粒子を
どれだけ自然に委ねるか、人工的に作製するか?
ここの程度が選択肢として存在します。
自然に大きく委ねると、
構造が非常に複雑になりますが、
今まで何億年もかけて進化してきた適合性を利用して
治療する事ができるようになります。
一方、
人工的に作製する場合には
構造が比較的シンプルになるため特性が揃いやすく
再現性、制御性などが容易に得られるようになります。
医療も含めた技術開発の際には
これらの要因は非常に重要なので、
人工的に作る事のメリットが出てきます。
--
薬物送達における胞(ナノ粒子を含む)の選択は
非常に多岐にわたります。
例えば、ウィルスは
自然に進化してきた産物ではありますが、
ウィルスは独自の代謝機能、増殖能を持たないので
薬物を中に入れる時の安定性は
細胞や細菌の中に入れるよりも高いと考えるのが自然です。
しかしながら、
ウィルスは進化の過程で
細胞内に感染して、細胞内の機序を利用して
増殖する機能を獲得していますから、
巧みに細胞内に送達する機序を有しています。
それを薬物送達に利用する事はできます。
--
同じように細菌も薬物送達のためのキャリアとして
利用する事ができます(1)。
少なくとも細菌の一部は細胞内から栄養を得て、
その栄養をエネルギー源として細胞分裂させ増殖しますが、
そのエネルギー取得の手法は様々で
光(2)や化学物質(3)をそのまま利用することもできるので
細胞外においての栄養取得の術もあると考えられます。
例えば、
腸内細菌は人が摂食によって得た食物繊維を
エサにするとも一般的に言われます。
エネルギーを得て、細胞分裂する際には
様々な化学反応が起き、物質の分解もあるでしょうから
それを薬物送達のキャリアとして利用した時には
細菌内に含まれる薬物の分解、安定性についても
考える必要性が出てきます。
しかし、
人、動物の身体を構成する細胞よりは
細胞内の機序や構成の複雑性は低いかもしれません。
--
Joseph Kreitz(敬称略)らは
細菌が細胞内に
蚊が血液取得のために針を刺すような機序で
タンパク質を細胞内に輸送するメカニズムを
薬物送達に利用する事を検討しています(1)。
通常、ウィルスなどが細胞内に侵入するときには
関連する受容体などの認識、構造改変等を経て
細胞膜を曲げる事が必要になります。
しかしながら、
細菌の場合は上述したように
細菌が持つ複雑な機構を利用して、
細胞内に針のようなものを刺すことができます。
それを通じてタンパク質を細胞内にいれることができるため
1つの重要な事は、
そのたんぱく質が細胞内に入った時に
そのまま細胞質に暴露された形で入るかどうか?
という視点です(4)。
これには少なくとも2つ重要な付随する観点があります。
細胞質に暴露された形で入るのであれば、
薬物を細胞内小器官や核に作用させたい場合において
エンドソームなどの胞に包まれることがないわけですから
送達効率が上昇する可能性があることです。
もう1つは
エンドソームからも同様に針を刺して
タンパク質を入れられることです(4)。
--
細菌をドラックデリバリーに利用する際に
考える上での重要な視点は
その細菌がどのような生物と共生して
それが人であればどこに存在するか?というものです。
例えば、
血液内は本来無菌であると言われてます。
しかし、敗血症が起こると血液に病原細菌が侵入している
状態になります。
このことから細菌を薬物送達に使う場合には
血液中に侵入させた場合のデメリットが大きく出る
可能性がある事は考える必要があります。
細菌が主に外界との接触が多い
呼吸器や消化器の粘膜などに存在していると考えると
それらに関わる疾患を精密に治療するときに
細菌を薬物送達キャリアとして利用した場合、
元来、進化で獲得している様々なフィットネスを
生かす事ができるかもしれません。
しかし、細菌が多く生息している
腸には多くのリンパ節、免疫細胞があり
免疫システムとの相互作用は大きいです(5)。
また、腸は脳との相互作用も大きいです(6)。
下述するように細菌を薬剤送達システムに利用して
細胞特異性を獲得させることができれば、
2次的にはなりますが、
免疫性の疾患や脳神経の疾患に生かす事ができる
可能性も十分にあります。
--
今の述べた様に、
その細菌をドラックデリバリーシステムに利用する際に
医療工学によってその特異性を細胞種レベルで
向上させるためには、
細菌がタンパク質を注入する構造を改変して
細胞種特異的な走化性を得るために
リプログラミングする事が挙げられています(1)。
--
細菌が消化器にあるという事は
消化器から薬剤を投与できるという事を意味します。
消化器は食べ物を入れるところですから
当然、投与の際の侵襲性のリスクは低いです。
また、子どもなども含めて
注射に嫌悪感を持つ患者さんも多くいます。
経口投与できる可能性は、
その医療技術を普及させるいくつかのバリアを
払拭できる可能性があります。
胃酸や粘膜において耐性がある
細菌を使うことで経口投与に対する適合性が
得やすいという事はあるかもしれません。
--
もう一つの視点は
このようなバクテリアが持つ
鞘と収縮(押し出す)機能によって
細胞膜に機械的ストレスを与え、貫通させて
タンパク質を挿入するメカニズムを
人工的にナノ粒子に組み込めるか?というのがあります。
ナノ粒子と自然な細胞膜と間の
生体模倣という選択肢もありますが、
そのような生体模倣において
局所機能ではありますが、バクテリアが
タンパク質を注入する機構を人工的に再現できるか?
この事は、薬物を細胞種まで送達させた後、
細胞内へ侵入させるときに
どのように有効化するか?
それにおいて一つ考える軸となりそうです。

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2023年4月9日日曜日 0 コメント

心臓のためのナノ医療

心臓というのは英語では
「Heart」という単語が主に選択されます。
心臓以外の意味を見てみると
〇胸、
〇(感情的な)心、気持ち
〇思いやりの心、愛情
〇興味、関心、勇気
〇中心
これらなどが含まれます。
なぜ、心臓が愛情などとリンクするかは
古代のギリシャの
叙情詩(自己の純粋な感動や情緒を主観的に述べた詩)。
これで示されています。
しかし、一方で、
不安、怒り、痛みなどの
負の感情ともリンクすると言われています(2)。
これは胸がこのような感情において
重要な役割を果たすと考えられてきたからです。
例えば、感情の高ぶりによって胸がバクバクします。
これは脳が指令を与えている事には変わりないですが、
脳と心臓の相互作用(Brain-heart-axis)において
脳から心臓への単方向性であるという事の
証拠があるかどうかはわかりません。
仮に心臓から脳への影響もあるのであれば、
心臓も心の一部であるとも言えます。
少なくとも辞書の上では
負の感情も含めて、Heartの中に
心、胸などの意味も含まれます。
一方で
中心という意味もあります。
心臓は体の中でも中核を担う臓器で
心停止すると死亡までの時間は極めて短いです。
心臓が止まると15秒以内に意識が失われ、
1分以内に呼吸も停止します。
そういう意味においても
心臓は体において脳に並ぶくらい
中心的な役割を果たす臓器です。
しかしながら、
Bryan Ronain Smith(敬称略)らも
心臓疾患に対するナノ医療の総括の中で
少し触れているように、
心臓は「再生能力が極めて低い」臓器です(1)。
生まれてすぐの子どもは
心臓の再生機能を持ちますが、
その機能は一週間で失われます(3)。
その理由の一つは
心臓を構成する心筋の機能が回復しないからです(4)。
従って、
この再生能力の低い心筋に対しての
再生医療(心筋細胞シートなど)は
極めて医学、臨床的意義の高い取り組みになります(5-7)。
Bryan Ronain Smith(敬称略)らが
総括しているナノ医療は
生体内での再生医療もその範疇です(1)。
今までは開胸して、心筋シートを貼りましたが、
再生医療と(特異的)薬物送達学を合わせて
開胸しなくても局所的な再生医療ができる可能性があります。
開胸する場合は、アクセスできるサイトが限られますが、
外科的にアクセスしにくい場所や
機能不全になっている場所が多く散在している場合において
ナノ医療によって生体内で
心筋細胞の再生を行う事は
特異的な医療価値をもたらす可能性があります。
--
薬剤送達において、
循環器の中での薬剤動態を考える事は
1つの中核をなすものであると考えられます。
薬剤の注入方式はいくつかありますが、
静脈注射、動脈注射いずれにしても
末梢の毛細血管の静脈に入り、
心臓に戻った後、全身へと運ばれると考えられています。
心臓への薬剤送達を考える上で、
ここが非常に重要なところです。
脳を含めた他の臓器は
局所注射された後、心臓を通り、
その後、各臓器に運ばれます。
従って、心臓への薬剤送達は
おおよそ薬剤が循環器に投入されてから
初めに通る、送達される臓器であると考えられるため、
そこで特異性の高い標的化ができれば、
他の臓器への影響を少なくできる可能性があります。
薬剤における循環器の上述した仮説が
本当に真であるかどうか?
それについてはエビデンスを得る必要があります。
--
一方、心臓における
各細胞の表面タンパク質の特異性を含めた
SurfaceomeがLinda Berg Luecke(敬称略)らによって
詳しく調べられています(8)。
この内容では
心臓の領域や心筋病変有無による
タンパク質の違いが細胞種レベルで分析され、
その特異性が明らかになっています(8)。
上述したように、もし
心臓が薬剤循環における主な最初の関門であるとするならば
Linda Berg Luecke(敬称略)らが行った
心臓の表面タンパク質の多次元の詳しい分析(8)は
すでに大きな意義を持つかもしれません。
通常、
細胞種特異的な薬剤送達を実現するため
表面タンパク質分析をするときには
薬剤が全身にいきわたることを考慮して、
全身の臓器、組織、細胞の
表面タンパク質を包括的に調べる必要がある
と想定されます。
しかし、心臓に関しては
上述したように仮に最初の共通的な関門であれば、
他の場所の表面タンパク質を分析しなくても
心臓内の表面タンパク質がわかれば、
それによって他の臓器に
大きな影響を与えることなく
特異的な送達が可能になるかもしれません。
ただ、それでも必要なのが、
血液成分、血管組織などの表面タンパク質です。
心臓までの導線に含まれるからです。
--
心臓は癌化しにくいとは言われていますが、
神経系と同じように
それ以上の劣化をどのように防ぐか?
その根底にあるものとして
その状態をどのように分析、診断するか?
それが重要になります。
ナノ粒子の医療では
劣化を防ぐために心筋細胞の線維化を防ぐ薬剤を
免疫細胞のエンジニアリングを含めて
検討します(1)。
診断においては、ナノ粒子の少なくとも
位置を特定するために
放射線や光に反応する物質を装飾させます(1)。
--
上述したように心臓が癌化しにくい理由としては
温度が高いことが一つの仮説としてあります。
しかしながら、
臓器、組織の温度は
骨、脳、膀胱、腎臓、肝臓、小腸、脾臓で
39.2-39.5℃であまり変わらないかもしれない
という報告もあります(9)。
しかし、これは予測値(Predicted)です。
これを考えるためには
そもそも体の熱の原因は何なのか?
それを考える必要があります。
身体の温度調節は視床下部で行われている
と言われますが、
基本的に熱について物理的に考えると
その分子の振動(フォノン)に起源があります。
例えば、
血流が熱の起源であるのならば、
血流が集まる心臓が温度が高い理由は
血液によるものなのかもしれないし、
さらにいえば、血液内の成分によるものかもしれません。
あるいは、心臓は
つねに拍動しているので、
それくらいエネルギーが必要で、
そのため温度が高いかもしれないという事も考えられます。
なぜ、薬剤送達において
このことを考慮する必要があるか?
ということですが、
仮に心臓の温度が少し周りに比べて高い
ということになれば、
温度依存的にナノ粒子を機能化することで
特異的送達や放出を実現できる可能性があるからです。
--
心臓に対する治療は
もちろん内科的に薬剤が使われる事が多いと
思われますが、
外科的な治療も多いです。
例えば、
頻脈性不整脈が出た場合には
アブレーション(焼灼)によって
異常に興奮した神経を焼き切り、
それによって安全に治療ができ
成功率も上がっているといわれています。
その場合、
カテーテルで位置を特定して
選択的に神経切断を行っていると考えられます。
もし、ナノ粒子によって
選択的に神経切断ができるという事になれば、
カテーテルを入れられない患者さんや
外科的にアクセスできない位置に
神経興奮がある場合、
あるいは神経興奮がある神経が
非常に広範に及んでいる場合において
適用が可能になる事も考えられるため
この可能性を視野に入れておく臨床的価値が生じます。
この観点から
従来は外科的に心臓手術を行っていたケースにおいて
それに類似する機能をナノ粒子に持たせる事が
敷衍して考えられます。
ナノ粒子の究極的な目的は
生体内における時空間での特異性です。
外科手術のすでに到達している一つの利点は
時間と位置の特異性を獲得している事です。
しかし、外科手術では
アクセスできない場所もあります。
また、病変部位が多くある場合においては
適用できないケースもあります。
それを補うために
ナノ粒子のおける内科的なアプローチがあります。
心臓の場合は再生を含めた
組織学的な機能をどのように
ナノ粒子に組み込むか考える事になります。
すでに一部の大学では
再生医療を細胞種、病変部位特異的に行うための
研究が始められています。

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2023年4月6日木曜日 0 コメント

ナノ粒子薬剤送達におけるコロナ形成

ナノ粒子を使って狙いの病変部位に対する
特異性を発揮した薬剤送達を実現するためには
様々な方式が考えられています。
それぞれの方式で薬剤を投入するとき
特異性を持つように事前に精緻に設計しますが、
その設計が目的地まで維持される保証はありません。
生体内のタンパク質、核酸を含め
様々な物質と相互作用し、
ナノ粒子の表面に付着する事で
巨視的にも、微視的にも物理化学的特性の
変化があると想定しておく必要があります。
--
このような付着物全般はコロナと呼ばれます。
そのコロナ形成を逆に積極的に利用する
という考え方もあります。
例えば
脂質ナノ粒子にSORTと呼ばれる物質を付加させ
その電気的特性と酸性度を制御する事によって
脂質ナノ粒子に付着する
コロナの種類を変更させる報告もあります(2,3)。
それによって
肝臓、脾臓、肺への特異的送達を可能にする
条件を見つける事が可能になっています(2,3)。
但し、肝臓、脾臓はもともと
ナノ粒子が蓄積しやすい臓器であるため、
様々な病変部位に対して
細胞レベルで標的性を上げていくためには
コロナ形成をどのように防ぎ
事前に設計した特性が標的まで維持されるか?
それについて詳しく考えていく必要があります。
--
Morteza Mahmoudi(敬称略)らが総括しているように
コロナ形成は
ナノ粒子自身の設計因子
(サイズ、形、表面化学)、
環境因子
(分子濃度、イオン強度、温度、培養時間)
これらに少なくとも影響を受けます(1)。
さらに、
形や表面化学とも関連しますが、
ナノ粒子の表面の凹凸が多く、
表面積が大きい状態であると
コロナを引き付けやすい可能性があります(4)。
これらの因子によって
コロナを引き付けやすい状態にあると
ナノ粒子の標的性や生物反応にも影響を与えます。
例えば、
ナノ粒子に免疫監視を逃れるように
巧みに設計していたとしても、
血中のコロナを引き付ける事によって特性が変わり、
免疫細胞による除去が起こり、
体内の寿命が下がる可能性もあります。
--
ナノ粒子とコロナとの相互作用を
上述した要因に対して、
より微視的に見ていく事が重要です。
それらに関わる物理化学的因子は
〇静電気力
〇疎水、親水性
〇水素結合
〇π-π相互作用
これらです(1,5)。
多くのタンパク質は
αらせん構造(α-helices)、βシート(β-sheets)を含み
水素結合と疎水性によって安定化します。
また、静電気力とも関わるし、
結合する部位によっては親水性によって
結合することがあります(9)。
表面の構造によってどのような物理的特性が
ナノ粒子に対するコロナ形成に関わるか?
それが上述した因子を中心に変化します。
--
一方で、生体から学ぶ、
それを模倣するという観点では、
血中には細胞を含め、様々な物質がありますが、
その血中で寿命が長い物質の
表面特性を良く分析して、
何が表面を守るうえで重要なのか?
この事からヒントを得るという事です。
例えば、
赤血球の平均的な寿命は120日といわれています。
その後、マクロファージに食されるといわれています(6)。
その赤血球の形や
特に表面の生化学的、物理化学的な特性が
寿命の長さにおいて重要な意味を持つかもしれません(7)。
赤血球は形を変えられる、柔軟である、
堅牢である性質を持っていますが、
それには複雑な膜タンパク質構造が関わっています。
構造的には膜骨格があり、
コレステロールとリン脂質からなる脂質2重層からなります。
それらの複雑な材料構成と構造が
どのように循環器内での寿命と関わるか?
これについて紐解いていく事は
容易ではないかもしれません。
--
ナノ粒子による特異的薬剤送達を成功させるためには
コロナを利用する、排除する、いずれにしても
コロナとナノ粒子の相互作用をよく理解して、
自在に制御できるようにしておく必要があります。
特に、Morteza Mahmoudi(敬称略)らが
いくつかの戦略を示しています(1)が、
コロナからナノ粒子の特性をどのように守るか?
それについて様々な観点でアイデアを出し、
結果を示していく必要があります。
先ほどの観点と重複しますが、
そのためには、まずは動物、人の血液
あるいはリンパ液、間質など
様々な領域において、
ナノ粒子と相互作用しやすい物質の選定を行う
必要があります。
膨大な物質がある事から
人工知能を使うという事は1つの選択肢です。
一方で、
循環器では簡単に特性を変えたら困る
重要な物質もあります。
例えば、一般的な抗体である
IgG抗体の特性が不安定であると
生物が外敵から身を守る術の一つが
非常に脆弱になることが想定されます。
従って、
IgG抗体の構造は血液の中で
比較的安定かもしれません(10)。
実際に
実際に抗体でコートしたナノ粒子は
高い標的性を有していたと言われています(1)。
さらに、
体内にいる、あるいは体外から影響を受ける
ウィルス種は多種多様です。
ウィルスの中にはナノ粒子と類似した構造を持つ
ものもたくさんあるので、
そのウィルスが進化的に獲得している特性を
よく分析して、コロナとの相互作用や
ナノ粒子の設計に生かすという視点もあります。
例えば、
インフルエンザウィルスでは
ヘマグルチニンの細胞外ドメインが多量体である場合と
単量体である場合で
温度、pH、タンパク質分解酵素に対する感受性が変わり、
単量体になると結合、分解に関連する
内部の残基が外部にさらされるようになり、
安定性が低下すると考えられています(11)。
このことから、
ナノ粒子の標的性を決める結合に関連する
残基を如何に残し、
それ以外の残基を如何に露出させない構造にするか?
その表面条件を考える事が重要になるかもしれません。
その操作方法の一つとして、
上述したような多量体化が挙げられます。
多量体化は光で誘発させることができる可能性があります(12)。
--
ナノ粒子の特異的薬剤送達を実現する上で
臨床応用を考えた時に困難だと考えられる因子があります。
すでに遊離薬剤でも起こっていると考えられますが、
血液の状態は人それぞれ違います。
健常者と疾患を持つ人では
その特性は大きく異なります。
従って、ナノ粒子が送達ルートで受ける
物質の影響は人それぞれ大きく異なる可能性があります。
その異種性を克服するためには
コロナ形成を防ぎ、
生体外で精緻に設計した特性を守る事を想定した場合、
コロナ形成に対するナノ粒子の
許容範囲がかなり大きくなるように
設計する必要があります。
柔らかい言い方をすれば、
少々の違いがあっても、コロナの影響を受けない
安定性の高いナノ粒子設計を実現するということです。
--
ナノ粒子を使った医療応用の分類の一つは
医療工学に当たります。
工学分野において、産業応用を実現し、
世の中に価値を提供するに至るためには、
多くの死の谷があり、
それを乗り越えるのは容易ではありません。
実際に薬学の分野でも
承認まで至るものは非常に少ないです。
そうした現実を冷静に見る必要があります。
それを克服するためには
近年はコンピューターを使って
材料解析をするなどの方略もあります(13)。
しかし、20世紀から続けられてきた方略を
参考にすることも
コンピューターの使用と同様に重要です。
その方略は、
モノを作って、モノをみるということです。
特に後者が重要で、
如何にできた物質を解析するか?
それが重要になります。
従って、ナノ粒子による薬剤送達を
本当に医療分野において価値あるものとして
臨床で普及させるためには
ナノ粒子の薬剤としての動態、特性を
どのように正確に分析するか?
これについて考える事は不可欠です。
解析についてはいくつかの視点がありますが、
3次元解析と4次元解析という分類があります。
3次元解析とは時間を含まないので
その瞬間にどのような配座の構造ができているか?
それをミクロ、マクロに分析する事です。
例えば、ミクロの観点で言えば、
近年、解析技術の向上が著しい、
低温電子顕微鏡による解析が挙げられます。
しかし、低温で固定するため
生体内で作用する状態を再現している保証はありません。
従って、実際のダイナミクスの中で
どのようにミクロ、マクロに構造解析をするか?
それが課題になります。
動的なので時間軸が含まれ、4次元という事になります。
現実的に生体内で無理であれば、
その環境を他の解析技術を参考にしながら
コンピューターで再現するという事に
なるのかもしれません。
例えば、
コロナの付着に関しても
マクロとミクロの解析によって、
明らかになることも多くあると思います。
どの様になるかというのは予測できない部分があり、
一定のセレンディピティー
ヒューリスティックスもあるので、
偶発的に出来たものを如何に解析するか?
という事は重要です。
上述した見方は構造解析に寄っていますが、
ナノ粒子を集団としてみて
その統計解析をすることも含まれます。
--
上述したようにコンピューターを使う視点では
仮想空間の応用を考える視点もあるかもしれません。
仮想空間の実装プロトコルは
ニューラルネットワークと
グラフィクスプロセッサーユニット(GPU)
からなります。
この仮想空間は一般的には
アミューズメントなど非常に広い空間を
前提として開発されます。
しかし、グラフィックスとは、
3次元、4次元の構造を作り出す事と重複するので、
この方式を非常に狭い空間である
材料の構造的なシミュレーションに生かす事は
できるかもしれません(8)。
--
ナノ粒子の医療応用を考える上で
もう1つ大切なのは結果、製造の再現性です。
〇コロナから相互作用を受ける事、
〇同じ人(個体)でも生体内は常に変化している事、
〇動物と人で異なる事、
〇人同士でも異なる事、
これらから再現性を得る事は非常に困難です。
この再現性が揺らぐと、
開発を進めていく土台が同様に揺らぐことになるので
どのように信頼性あるデータを構築していくか?
それについて精緻に考えていく必要があります。

(参考文献)
(1)
Morteza Mahmoudi, Markita P. Landry, Anna Moore & Roxana Coreas
The protein corona from nanomedicine to environmental science
Nature Reviews Materials (2023)
(2)
Xu Wang, Shuai Liu, Yehui Sun, Xueliang Yu, Sang M. Lee, Qiang Cheng, Tuo Wei, Junyu Gong, Joshua Robinson, Di Zhang, Xizhen Lian, Pratima Basak & Daniel J. Siegwart
Preparation of selective organ-targeting (SORT) lipid nanoparticles (LNPs) using multiple technical methods for tissue-specific mRNA delivery
Nature Protocols volume 18, pages265–291 (2023)
(3)
Qiang Cheng, Tuo Wei, Lukas Farbiak, Lindsay T. Johnson, Sean A. Dilliard & Daniel J. Siegwart 
Selective organ targeting (SORT) nanoparticles for tissue-specific mRNA delivery and CRISPR–Cas gene editing
Nature Nanotechnology volume 15, pages313–320 (2020)
(4)
Linawati Sutrisno & Katsuhiko Ariga
Pore-engineered nanoarchitectonics for cancer therapy
NPG Asia Materials volume 15, Article number: 21 (2023) 
(5)
De, M., You, C. C., Srivastava, S. & Rotello, V. M. Biomimetic interactions of proteins 
with functionalized nanoparticles: a thermodynamic study. J. Am. Chem. Soc. 129, 
10747–10753 (2007).
(6)
Perumal Thiagarajan, Perumal Thiagarajanr, Josef T. Prchal
How Do Red Blood Cells Die?
Front. Physiol., 15 March 2021 Sec. Red Blood Cell Physiology
(7)
Monica Diez-Silva, Ming Dao, Jongyoon Han, Chwee-Teck Lim & Subra Suresh 
Shape and Biomechanical Characteristics of Human Red Blood Cells in Health and Disease
MRS Bulletin volume 35, pages382–388 (2010)
(8)
Kanae Oguchi, Yasushi Shibuta and Toshio Suzuki
Accelerating Molecular Dynamics Simulation Performed on GPU
J. Japan Inst. Metals, Vol. 76, No. 7 (2012), pp. 462467
(9)
Ghazal Bashiri, Marshall S. Padilla, Kelsey L. Swingle, Sarah J. Shepherd, Michael J. Mitchell,and Karin Wang
Nanoparticle protein corona: from structure and function to therapeutic targeting
Lab Chip, 2023, 23, 1432-1466
(10)
Ivan R Correia
Stability of IgG isotypes in serum
MAbs. 2010 May-Jun; 2(3): 221–232.
(11)
Hua Yang, Jessie C. Chang, Zhu Guo, Paul J. Carney, David A. Shore, Ruben O. Donis, Nancy J. Cox, Julie M. Villanueva, Alexander I. Klimov,† and James Stevens
Structural Stability of Influenza A(H1N1)pdm09 Virus Hemagglutinins
J Virol. 2014 May; 88(9): 4828–4838.
(12)
MAUREEN O'DONNELL 
Photo-dimerization of Solid Anthracene
Nature volume 218, pages460–461 (1968)
(13)
Alberto Ferrari, Fritz Körmann, Mark Asta & Jörg Neugebauer
Simulating short-range order in compositionally complex materials
Nature Computational Science volume 3, pages221–229 (2023)


2023年4月3日月曜日 0 コメント

メソ細孔粒子の薬剤送達

薬剤を標的細胞、病変部位、組織特異的に送達させるために
遊離薬剤を守るために
何らかの膜、胞で覆う事が考えられます。
その時には、
身体の感受性が低いと考えられる
水を含む複合物質で覆うこと(2)や、
構成物質全体の形をよく考えることなどが
現在まで考えられているアプローチの一部です(3)。
--
例えば、
薬剤や薬剤を封入したナノ粒子を
より大きな構造で覆う場合を考えます。
その時、
上述した水などを含むヒドロゲルや
あるいは、細胞そのものを使う事も考えられます。
それらの構想、目的の一部は、
薬剤やナノ粒子を分解から守る、
あるいは免疫監視から逃れるということです。
そうすると少なくとも
コアの外側にある物質は
物理化学的安定性が高く、
より体に対して感受性が低い物質である事が
1つのルールになります。
--
ヒドロゲルを薬剤を隠す構想では
放出過程を考える際には、
基本的にはその物質の分解過程を考える必要があります。
ヒドロゲルの場合には
光、pH、酵素などによって分解を考えます。
細胞の場合は
細胞死やエクソサイトーシスの機序を考えます。
--
Linawati Sutrisno(敬称略)らが挙げる
ナノアーキテクトニクスは
ナノサイズの構造単位を
意図した構成に配置できるようにする技術です。
その中で
細孔(穴)のサイズ、数を制御する事を考えます(1)。
その総括では、
穴のサイズによって分類される
ナノアーキテクトニクスの構造の中で
メソ細孔の分類の複合体について
詳しく記述されています(1)。
--
このメソ細孔の穴の大きさは
2-50nmであるとされています。
従って、人の細胞の平均的な大きさは
20μm程度なので
この穴を通過する事は基本的にはできません。
それは免疫監視する免疫細胞でも同様です。
一方、免疫系の信号を伝達する
サイトカインは約14~50nmくらいなので
通過する事が可能です。
--
上述したメソ細孔物質は
ヒドロゲルや細胞と何が違うか?
というと、
放出過程を考える際に、
事前に制御された形で薬剤の出口を用意している
ということです。
さらに、
分解させる必要が必ずしもないので
物質を残すことができます。
ヒドロゲルのように周りの物質を溶かす場合には
それそのものを標的化に使う事に
一定の難しさがあります。
しかし、
メソ細孔物質の場合には残すことができます。
その物質に特異的なリガンドを形成する事によって
標的機能を搭載することができます(8,9)。
それによって、
薬剤放出を制御しやすいというメリットは
あるかもしれません。
従って、
複合体内にさらにナノ粒子を形成させ、
保護させる場合には
そのナノ粒子の大きさを
細孔を通ることができる大きさに設定する
必要があります。
基本的には遊離薬剤が内容物として
想定されている事が一般的ですが、
ナノ粒子をさらに使う場合には、
典型的なメソ細孔の大きさでは
一般的なナノ粒子の大きさよりも
かなり小さくする必要があるかもしれません。
細孔を大きくすれば、
中の物質の流出容易性を上げますが、
一方で、浸入容易性も上げます。
それによって免疫細胞が浸入して、
薬剤を分解させるなどの弊害が生じるかもしれません。
このメソ細孔を形成する物質の形成過程は
サーファクタントによって制御することができます(4)。
--
基本的にサーファクタントというのは
固体材料の場合には界面の臨界的な条件の時に
表面エネルギーに作用して界面の状態に
影響を与える性質があります。
この一つの物理化学的な機序は、
表面エネルギーを改変することにあります。
物質同士は材料によってある程度
物理化学的特性は決まっていますが、
サーファクタントを触媒的に加える事によって
その関係性を変える事ができます。
系が平衡状態ではないことが通常ですが、
基本的には系のエネルギーが低い方への
選択圧がかかることが一般的な物理法則です。
表面の振る舞いというのは非常に複雑ですが、
一般的に表面エネルギーの低い層が下にあると
その層が露出される方が安定であるので
その上に薄膜を均一に形成する事が難しくなります。
Linawati Sutrisno(敬称略)らが
総括されている様に、細孔を含む複合体を
表面に形成する場合には
部分的に下の層を露出させる必要があるため
このような表面エネルギーを考慮する重要性が
出てくるということです。
それを自在に制御するためには
サーファクタントによる自由度が必要になる
ケースも出てきます。
例えば、均一に膜を形成する場合には
層厚を一定にする必要がありますから、
2次元の成長モードが好ましいということになります。
表面に物質が形成されるときには
その材料となる分子が当然ありますし、
運動エネルギーによって動いています。
その表面での振る舞いはマイグレーションと呼ばれますが、
それが大きい状態であると
より安定なところに規則正しく分子が集まるようになる
と考えられるため、適切な条件を整えてあげれば、
均一な膜が得られやすいということになります。
--
上述したように薬剤送達を考える場合には
その安定性と身体への感受性が低い事が求められます。
一般的なメソ細孔の材料としては
シリカ、アルミナなどの酸化物、
ニオブ、タンタル、チタン
ジルコニウム、セリウム、スズ
などの金属が挙げられます。
薬剤送達においては
少なくとも一部は循環器、特に血中での
薬剤動態について考える必要があります。
感受性の観点では
おそらく血液の成分に多く含まれる物質を
ベースにした材料が好ましいと考えられます。
その観点で言うと
血液には鉄が多く含まれますから、
鉄をベースにした材料が候補になります。
しかし、それが正しいかどうかの
明確なエビデンスは現状ありません。
また、安定性と兼ね備えるかもわかりません。
安定性が高い材料としてシリカが
挙げられています(1,9)。
一方、
このように構成する物質の選択肢が多いことは
いくつかのメリットがあると考えられます。
例えば、外因的に作用させたい場合の選択肢として
電磁波(光)があります。
生体に光を作用させる場合には
吸収率と浸透厚をよく考える必要があり、
そこの制限は拭い去る事はできませんが、
特定の波長の電磁波に特異的な吸収率を持つ
材料を選択することによって、
外因的な制御性を高める事ができると考えられます。
さらに
メソ細孔を構築する(酸化)材料そのものが
選択性(標的性)、抗酸化作用,
抗癌作用を持つ場合もあります(1,5-7)。
従って、
薬剤の作用と副作用のバランスの中で
より多層的、多面的で強い作用があるならば、
副作用による制限を緩くするという考え方もあります。
シリカについての薬剤輸送というのは
これまで多く考えられており、
臨床試験の実績もあります(1,8,9)。
但し、特に人において
長期的な事を含めた免疫的な影響を詳しく
調べた報告は少なくともまだ多くありません(1)。
従って、より高い安全性を構築していくためには
血中に多く含まれる鉄のナノ粒子(10)も
もう一度検討してみる価値はあるかもしれません。
--
Linawati Sutrisno(敬称略)らは
ナノアーキテクトニクスについての
製造方法についても様々な観点で総括しています(1)。
このような有機物を含めた
0次元、1次元、2次元、3次元、4次元の
アーキテクト二クスは
近年詳しく考えられているオルガノイドの
形成モデル(11)について応用できるかもしれません。
スケールを小さくすることのメリットは
コスト(少なくとも材料コスト)を下げられるといことです。
シミュレーションではある程度、限界があるので
それの確からしさを評価するために、
小さなスケールでしてみるというのは
一定の価値があるかもしれません。
スケールが異なり、物質群も異なりますが、
基本的に自然の摂理は共通の部分があるので
小さなスケールでの有機体の構成プロセスを
様々なアーキテクチャーに対して
詳しく観察していくことで
大きなスケールでのそれの一つの参考になるかもしれません。
オルガノイドの形成技術が上がれば、
薬剤送達学の進歩にも確実につながるので
そうした派生的な可能性がある事に
注意を向けておくことは
少なくとも一定の価値があります。

(参考文献)
(1)
Linawati Sutrisno & Katsuhiko Ariga
Pore-engineered nanoarchitectonics for cancer therapy
NPG Asia Materials volume 15, Article number: 21 (2023) 
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Development of membrane-permeable peptide vectors and their internalization mechanisms
Seikagaku. 2009 Nov;81(11):992-5.
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Mesoporous materials used in medicine and environmental applications
Curr Top Med Chem. 2015;15(15):1501-15.
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Mesoporous Silica Nanoparticles for Drug Delivery: Current Insights
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Tadele Assefa Aragaw, Fekadu Mazengiaw Bogale, Belete Asefa Aragaw
Iron-based nanoparticles in wastewater treatment: A review on synthesis methods, applications, and removal mechanisms
Journal of Saudi Chemical Society Volume 25, Issue 8, August 2021, 101280
(11)
Michael R. Blatchley & Kristi S. Anseth
Middle-out methods for spatiotemporal tissue engineering of organoids
Nature Reviews Bioengineering (2023)

 
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