私は以前にこんな文章をここに上梓したことがあります。
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The important aim of cancer treatment is that we can increase five year survival rate of cancer patient in which cancer relapse rate is significantly reduced. My roadmap is not only increasing this five year survivals rate, but also improving quality of life up to healthy person level after cancer treatment. Furthermore, it is that any pain and suffering during cancer treatment are removed.
When I decide to cope with the cancer treatment, I set up my ultimate target, which is “the cancer treatment without any pain and suffering”.
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医療の分野に初めに関わろうとしたときの目標は
「痛みのない癌治療」です。
そういったことは当然、
治療に当たる医療スタッフも考えていて、
モルヒネや神経系を遮断することによる
痛みの軽減(緩和ケア)などを
治療の初期から段階的に導入していこうという
試みもあります。
あるいは癌特有の悪液質の
治療薬を併用するという方法もあります。
そういった痛みの理解、その除去も大切ですが、
もう一方の視点として、
「よりよい状態で寛解させる。」
という考えがあります。
癌治療では5年生存率をどうやって高めるか?
その生存率が治療の効果を評価するときに
指標となることが多くあります。
しかし、仮に生存率がほぼ100%になったとしても
そこで治療の開発は終わりではないと考えています。
癌を治療すると少なくとも身体にはダメージが入りますから、
そのダメージを最低限にする余地が残されています。
特に小児がんの場合、
脳腫瘍の特定の型などを除いて
比較的生存率は高いとされており、
血液性の癌では抗がん剤が一般的によく効くと
いわれています(3)。
しかし、懸命の治療があって生存出来た後、
そのお子さんには残された人生が長くあります。
その残された人生をより良くするためには
ベースとして治療した時の身体のダメージを
最小限にすることが求められます。
ここに焦点を当てると、
小児癌のための薬剤開発にゴールはない。
改善の余地がなくなることはないと想定できます。
このような癌治療の予後について考える事を
がんサバイバーシップと呼ばれます。
しかし、このような予後について考える事は
がんに限らず、極めて軽度なものを除き
あらゆる疾患に当てはまることです。
例えば、
今流行している新型コロナウィルス感染症においても
数か月を超えて、味覚嗅覚障害、倦怠感などを始め
様々な後遺症があることが報告されています(4)。
急性期の治療だけで十分ではないことが
示されています。
また、予後においては
パートナー(配偶者)がいれば、
その人に対するケアも含まれます。
若い人であれば、親御さんなど家族の方も含まれます。
このような包括的な視点が
個々の罹患に対して必要になります。
そして、
治療に成功し、その残りの人生の中で
より多くの時間、病気の事を忘れて
生活を楽しむことができる、
あるいは意義ある事に取り組むことができる
といったことが指針の一つになるのではないか?
と考えられます。
小児がんに罹ったことのあるお子さんに
「あなたの夢、目標は何ですか?」
と社会が問いかける事には
少なくとも一定の意義があります。
しかし、
1人の患者さんに対して、
医療、社会がするケアが長く、多くなれば、
当然、労働力の負担も増えることになります。
そうした背景の中で
近年、目覚ましい進展を遂げている
機会学習を含む人工知能の導入が検討されます。
James J. Ashton, Aneurin Young, Mark J. Johnson & R. Mark Beattie
(敬称略)からなる医療研究グループは
子供の長期間の臨床的なケアにおいての
機械学習の利用可能性について総括されてます(1)。
〇Logistic regression
〇Random forest
〇Support vector machine
〇Neural networks
〇Hierarchial clustering
〇Principal component analysis
(参考文献(1) Fig.2参照)
これらのようなアルゴリズムの中で
個別に症状や体質が異なり複雑に絡み合う中で
どのようにグループ分けするか?
その集団ごとに適切な治療を行うか?
そういったことを機械学習で見積もります。
この正確性、導入実績が高まってくると
〇医療機関を有効に利用できる。
(専門病院以外でも対応可能になる。)
〇適正な検査につながる。
(検査数、項目の最適化)
〇医師診察時間の有効化。
(多くの患者さんを診れるようになる。)
〇他の医療スタッフを有効に使える。
〇データの管理の次元が上がる。
これらなど、考えられるメリットがあります。
長期的ケアを充実させるにあたって
増える負担をどのように軽減させるかは
James J. Ashton(敬称略)らが述べている様に
機械学習の導入は有効です。
また、医療的な観点だけではなく、
社会的な観点も重要になると考えられます。
自治体や民間団体(NGO/NPOなど)の理解、協力も必要になります。
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上述した広義でのサバイバーシップにおいて
特に先進的であるがんのサバイバーシップ(5,6)について
独自の意見、考察、調査を加えながら、
本日は読者の方々と情報共有したいと思います。
その中で
「治療により命を救う。」という所を超えて
その後の患者さんの幸せをどう構築すればいいか?
について考えるきっかけになればと思います。
//がんサバイバーシップの指針//ー
がんの診断を受けた人々がその後の生活で抱える
身体的、心理的、社会的な課題を
「社会全体が協力して」乗り越えていく
という概念です。
言い換えれば、課題が
身体的、心理的、社会的な側面があるため
様々な方面からサポートしていく必要がある
ということです。
//がんサバイバーシップの歴史//ー
はじめて「がん」と「サバイバーシップ」を関連付けたのは
1985年にFitzhugh Mullan(敬称略)です(6)。
彼は男性医師でありましたが、
32歳の時に縦隔胚細胞腫と診断されました。
その中で
「がんを治癒したか/否かどうかの二分法よりも
本人が診断後をどう生きるかプロセスを捉えるほうが
(ケア、治療として)適切である。」
と述べられています。
但し、とりわけ薬学の観点から
医療を改善させると考えてる私の観点は
治癒したか否かを決して軽くみるのではなく、
より良く治癒した状態で「かつ」
患者さんやその大切な周囲の人たちの
その後の人生のウェルビーイングについて
協同的に考えるということです。
-
2006年に米国医学研究所(IOM)が発表した、
がんサバイバー支援の方針を示したレポートでは
〇がんやその治療が、医学的・機能的・心理社会的に
患者さんにもたらす結果について、より意識を向けるようにすること
〇がんサバイバーへの有効な健康管理方法を決定し、
それを実現するための計画を立てること
〇心理社会面のサポートや公平な就労制度、健康保険制度に
関する政策を通して、がんサバイバーのQOLを高めること
これらが目的として示されています。
この時にすでに上述したように
本人だけではなく、周辺の人々や社会全体に向けられて
いました。
//日本の現状//ー
2012年6月から始まった第2期がん対策推進基本計画では、重点的に取り組むべき課題として、
〇放射線療法、化学療法、手術療法の更なる充実とこれらを専門的に行う医療従事者の育成
〇がんと診断されたときからの緩和ケアの推進
〇がん登録の推進
〇働く世代や小児へのがん対策の充実
特に4番目においては
若い時期にがんに罹患した人を対象にしており
就労、就学、それに伴う経済的な問題
家族、学校、職場での人間関係の問題
に焦点が当てられています。
〇がんによる死亡者の減少(75歳未満の年齢調整死亡率の20%減少)
〇全てのがん患者及び家族の苦痛の軽減並びに療養生活の質の向上
〇がんになっても安心して暮らせる社会の構築
これらの背景、その目的において
社会全体で解決するように努力するべきであるという
がんサバイバーシップの考え方が盛り込まれています。
//がんサバイバーシップの研究//ー
がんの患者さんは
治療中は家族や医療スタッフなど周囲の人の支えを強く実感しますが、
ひとたび治療が終了すると、その支えは少なくなります。
その中で生活に順応していく事に苦労することが
多いとされています。
治療期間よりもその後の人生、生活の方が
圧倒的に長いわけですから、
その後の人生に焦点を当てる事は
治療と同様に必要なことです。
地域で社会生活を送る本人やとりまく人々が直面する困難を
明らかにしてその改善・解決に努めるのが、
がんサバイバーシップ研究です。
-
サバイバーシップ研究の扱う課題は以下です。
〇長期的合併症
〇再発への恐怖
〇周囲との人間関係
〇ライフスタイル
〇恋愛・結婚
〇性生活
〇子どもを持つこと・育児、介護、就学・就労の問題
〇経済的問題
〇がんへの偏見
〇がんリハビリテーション
〇生きる意味を含めた実存的問題
これらなど多岐にわたります。
//最新研究の概要(2)//ー
Sarah E. Piombo, Kimberly A. Miller, David R. Freyer, Joel E. Milam, Anamara Ritt-Olson, Gino K. In & Thomas W. Valente
(敬称略)ら医療研究グループは
サバイバーシップを扱う診療所への紹介、利用を
向上させるための重要な要因について
社会ネットワーク分析を用いて示しています(2)。
サバイバーシップの背景、従来知見と
この報告による結果概要について紹介いたします。
-
アメリカでは近年の診断、治療の発展により
〇84.6% (19-39歳)
〇72.7% (40-64歳)
この5年以上生存となっています(7)。
多くの命が助かった方は
がんの治療の結果として
臨床的に重大な健康問題を抱えます。
例えば、
〇機能障害
〇早くに亡くなる
〇生活の質の低下
〇心の問題(ストレス)
〇学校、仕事の障害
〇経済的な問題
これらです(8)。
これらの問題に立ち向かうため
特定のサバイバーシップ診療所を設ける
ことが推奨されています。
そこでは
〇モニタリング
〇慢性的な副作用の管理
〇心理的サポート
〇生殖能力維持の支援
〇ケアプランの作成
〇健康向上のためのアドバイス
これらなどが行われます(9-13)。
しかしながら、新しい分野であり、
これらのサバイバーシップに特化した
診療所の利用はまだ十分に普及していません。
一方で、
アメリカでは小児がんにおける
サバイバーシップ診療所による
包括的な支援は大人に比べて普遍的です(14-18)。
小児だけではなく、青年や大人において
治療後の包括的な支援を得るために
サバイバーシップ診療所への紹介の
効果的な戦略が非常に大切になります(12)。
そのためには
どの様な経路で紹介に至っているか?
その社会ネットワーク分析が重要になります。
社会的なつながりにおいて
「Homophily effects」というものがあります。
社会ネットワークの中で
同じ職業種を持つ人たちとコミュニケーションを
とる傾向にあるということです
そうした傾向の中で、ややもすれば
がんの予後の治療の定期的なチェックにおいて
例えば、医師だけといった
限られた職種の人たちだけとの
コミュニケーションに限られているケースも
散見されるかもしれません。
実際にSarah E. Piombo(敬称略)らが行った調査では
サバイバーシップ診療所の存在は78%が
知っていたけど、
実際に紹介された人は30.4%に留まる
とされています。
従って、あるとわかっていても
少なくとも利用できている人は半分にも満たない
ということが明らかになっています(2)。
利用できているかどうかは
患者さんが社会的にどのようにつながっているか?
それによるとされています。
行われたランダムグラフモデルでは
特に医療スタッフの中で重要な役割を果たすのは
「ソーシャルワーカー」です。
(参考文献(2) Fig.1参照)
このソーシャルワーカーは
〇社会の中で生活する上で困っている人
〇生活に不安を抱えている人
〇社会的に疎外されている人
これらの人々と関係を構築して
様々な課題にともに取り組み援助を支援します。
その背景にある家族、友人、その他の関係機関や
環境にも働きかけるとされています。
従って、
がんサバイバーシップの中で
医療と地域社会との懸け橋として
1つ重要なポジションであると考えられます。
//まとめ//ー
医療技術が進歩して、がんを含め
様々な疾患の治療による生存率が高まると
より患者さんのその後の人生を包括的に考える
サバイバーシップの視点が重要になります。
国際連合が掲げる持続可能な開発目標の指針の中で
「誰一人取り残すことのない社会。」
というのがあります。
それを実現するためには
新型コロナウィルス感染症の後遺症のケアで
顕在化したように、
病気に罹患した予後をどのように改善させるか
というベクトルも大切になります。
一方で、
冒頭で述べた様に初期の治療においても
生存率が最終目標ではなく、
如何に身体や心へのダメージが少ない中での
治療を行えるか?
これが指針になると考えられます。
その中でこれまで以上の
高度な科学技術の理解、発展が求められます。
細胞腫特異的輸送系統
(Cell-type-specific delivery system)は
1つこの考えに基づきます。
(参考文献)
(1)
James J. Ashton, Aneurin Young, Mark J. Johnson & R. Mark Beattie
Using machine learning to impact on long-term clinical care: principles, challenges, and practicalities
Pediatric Research (2022)
(2)
Sarah E. Piombo, Kimberly A. Miller, David R. Freyer, Joel E. Milam, Anamara Ritt-Olson, Gino K. In & Thomas W. Valente
Social networks of oncology clinicians as a means for increasing survivorship clinic referral
Communications Medicine volume 2, Article number: 89 (2022)
(3)
キャット・アーニー (著), 矢野真千子 (翻訳)
ヒトはなぜ「がん」になるのか 進化が生んだ怪物
河出書房新社
(4)
Anuradhaa Subramanian, Krishnarajah Nirantharakumar, Sarah Hughes, Puja Myles, Tim Williams, Krishna M. Gokhale, Tom Taverner, Joht Singh Chandan, Kirsty Brown, Nikita Simms-Williams, Anoop D. Shah, Megha Singh, Farah Kidy, Kelvin Okoth, Richard Hotham, Nasir Bashir, Neil Cockburn, Siang Ing Lee, Grace M. Turner, Georgios V. Gkoutos, Olalekan Lee Aiyegbusi, Christel McMullan, Alastair K. Denniston, Elizabeth Sapey, Janet M. Lord, David C. Wraith, Edward Leggett, Clare Iles, Tom Marshall, Malcolm J. Price, Steven Marwaha, Elin Haf Davies, Louise J. Jackson, Karen L. Matthews, Jenny Camaradou, Melanie Calvert & Shamil Haroon
Symptoms and risk factors for long COVID in non-hospitalized adults
Nature Medicine (2022)
(5)
がんサバイバーシップ
Wikipedia
(6)
Fitzhugh Mullan, M.D.
Seasons of Survival: Reflections of a Physician with Cancer
The New England Journal of Medicine 1985; 313:270-273
(7)
Surveillance Epidemiology and End Results (SEER) Program. Cancer Stat
Facts: Cancer Among Adolescents and Young Adults (AYAs) (Ages 15–39)
(National Cancer Institute, DCCPS, Surveillance Research Program, 2020).
(8)
Jacobs, L. A. & Shulman, L. N. Follow-up care of cancer survivors: challenges
and solutions. Lancet Oncol. 18, e19–e29 (2017).
(9)
Hewitt M. E., Ganz P. A., Institute of Medicine (U.S.), American Society of
Clinical Oncology (U.S.). From cancer patient to cancer survivor: lost in
transition. vi, 189 (National Academies Press, 2006).
(10)
Health and Medicine Division, National Academies of Sciences Engineering
and Medicine, National Cancer Policy Forum, Board on Health Care Services.
Long-Term Survivorship Care After Cancer Treatment: Proceedings of a
Workshop (National Academies Press, 2018).
(11)
Nekhlyudov, L. et al. Developing a quality of cancer survivorship care
framework: implications for clinical care, research, and policy. J. Natl Cancer
Inst. 111, 1120–1130 (2019).
(12)
Shapiro, C. L. Cancer survivorship. N. Engl. J. Med. 379, 2438–2450 (2018).
(13)
Blaes, A. H., Adamson, P. C., Foxhall, L. & Bhatia, S. Survivorship care plans
and the commission on cancer standards: the increasing need for better
strategies to improve the outcome for survivors of cancer. JCO Oncol Pract. 16,
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(14)
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(15)
Eshelman-Kent, D. et al. Cancer survivorship practices, services, and delivery:
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(16)
Oeffinger, K. C. et al. Chronic health conditions in adult survivors of
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(17)
Robison, L. L. et al. The childhood cancer survivor study: a National Cancer
Institute–supported resource for outcome and intervention research. J. Clin.
Oncol. 27, 2308–2318 (2009).
(18)
Landier, W., Armenian, S. & Bhatia, S. Late effects of childhood cancer and its
treatment. Pediatr. Clin. North Am. 62, 275–300 (2015).
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