2022年7月7日木曜日

子供の上衣腫瘍

今日は七夕です。
大人になると特別な日ではなくなりますが、
お子さん、学生さんにとっては願いを込める特別な日です。
新型コロナウィルスも
オミクロン株がBA.5に進化して
感染力がさらに高まっています(2,3)。
現在の所、BA.5と下気道の肺への感染性を高める
TMPRSS2との親和性が高まって
呼吸器への重症化のリスクが高まっているか?
これに対する報告は
私の調べる限りは出ていませんが、
今、調べられてるところだと思います。
世界情勢の極化、気候変動のリスク、
燃料費、食材の高騰、
新型コロナウィルスを含む感染症のリスク、、、
自分の悩みを脇においても
社会的な不安要素は枚挙にいとまがありません。
そういう中においても
七夕の日には希望的な言葉が空に託されます。
最終的に不安要素をどう捉えるかは
内的に変える事もできます。
それは海外では「マインドセット」と呼ばれます。
自分の成長、ストレスの良い作用に
着目する考え方、マインドセットは
学生さんを含めた若い人のストレスを
遠ざけるという報告もあります(4)。
例えば、
燃料費、食材の高騰も
豊かな国にとっては特に「やるべきこと」
「世界を変える事」の指針になるかもしれません。
それは「余暇」「退屈」を遠ざける
大切な課題というマインドセットになりうることです。
他の課題でも同様に当てはまります。
-
上述した世界的な課題に加えて、
自分自身、何らかの難しい病を抱えていれば、
それに対する「不安」は当然伴います。
そういった不安は
「それが忘れられた」時に遠ざけられると言われます。
言い換えれば、
その不安に執着することなく、
何か他の対象に「没頭する」事です。
入院して生活に制限が出る場合においても
その病室内で何か没頭することができれば、
そうした不安は
「少なくとも没頭している時間は」
忘れることができます。
そうした没頭は必ずしも
「好きな事」である必要はありません。
例えば、
自分の呼吸に「没頭」します。
いわゆる「瞑想」「マインドフルネス」です。
鼻から息を吸って、ゆっくり吐きます。
これを意識的に行います。
そうすると不安は遠ざかるばかりか、
脳幹の構造も変わると報告されてます(5)。
その中でストレスで萎縮しやすい海馬の回復もある
と考えられています。
-
現状ではお子さんの脳腫瘍において
マインドフルネスによる脳の変化が
治療におけるアドジュバント(補助的療法)として
どのように影響があるかはわかりませんが、
少なくとも(ある程度年長の)患児自身が
瞑想による呼吸の没頭、
深呼吸における脳への十分な酸素の供給によって
「気持ちがよい」「不安が和らぐ」
このようであれば、
心理的な事が作用して治療効果を高める可能性はあります。
-
若い頃から病気を抱えるということは
その後の人生を考えるととても大変なことです。
健康な人も、障がいを抱えている人も
同様に「毎日」があるからです。
「医療は必ず発展する」という希望、
「日々自分自身できる事がある」という具体性、
それらが明らかになれば、
患者さんの心の負担も少しは軽くなると思います。
今日の記事は、
世界の方への日々の感謝、
それに対する返報として若い人へ還元する
という想いを込めて、
自分の限りある知的資源を
大切な報告(1)を参照し、提供したいと思います。

//上衣腫瘍(*1)//ー
(*1)Ependymal Tumors
上衣細胞腫は子供の脳腫瘍の3番目に共通的なものです。
子供の中枢神経系の腫瘍の5-10%に当たり、
90%は頭蓋内に生じます。
最も生じやすい脳の部位は
〇後方窩(posterior fossa)
〇脊椎
これらです(6,7)。
上衣腫瘍は異種性に富み
〇組織学的特徴
〇分子学的特徴
〇発生部位
これらにおいて
少なくとも9種類の分子サブタイプがある
といわれています(8,9)。
従来のWHOの組織学的な分類では
予後をクリアに予測することは難しく
改変されてきました。
上衣腫瘍は
グレード1, 2, 3
これらの分類されます。
グレードは退形成の程度によります。
退形成とは胎生期の状態に戻ったような変化を示した状態で
これが強いほど胎生期状態を反映し、
未熟で悪性度が高いと考えられます。
まれな上衣下腫はグレード1です。
粘液乳頭状上衣腫は今、グレード2とされています。
再発の可能性は脊柱の上衣腫と
近いとされています(8)。
-
グレード2,3の上衣腫は
小脳テント上、もしくはテント下の場所に生じます。
-----
Alan R. CohenがTable.3に示しているように
小脳テント上の上衣腫は
①ZFTA Fusion–Positive YAP1関与
②YAP1 Fusion–Positive
これらがあります。
-
①の頻度は70%で年齢中央値が8歳です。
女性に多く、大脳半球に生じやすいです。
分子的な改変では
ZFTA Fusionで染色体粉砕であります。
予後は一般的に不良であるとされています。
-
②の頻度は30%で年齢中央値は1歳です。
男性に多く、大脳半球に生じやすいです。
分子的な改変では
YAP1–MAMLD1 Fusionであります。
予後は一般的に良好であるとされています。
-
脳幹を含む小脳テント下の上衣腫は
③Posterior Fossa A(後方窩 A)
④Posterior Fossa B(後方窩 B)
これらに分類されます。
-
③の頻度は90%で年齢中央値は3歳です。
女性に多く、側部に生じやすいとされています。
分子的改変では
H3K27 trimethylationは低く、
予後は一般的に不良であるとされています。
-
④の頻度は90%で年齢中央値は20歳です。
女性に多く、脳幹を含む正中線に生じやすい
とされています。
H3K27 trimethylationは高く、
予後は一般的に良好であるとされています。
-----
転移性のない上衣腫を持つお子さんに対しては
最大限、安全な外科的な切除を行い、
その後、放射線治療が行われます。
しかし、幼児は対象外となります(6,13)
化学療法の役割は現在調べられているところです。
外科手術や放射線療法の発展に関わらず
子供の上衣腫の長期的な治療効果は
以前として低いままです。
10年全生存率は50%、
10年無進行生存は30%です(6)。

//上衣腫の概略(10)//ー
上皮細胞は脳の野を区分する脳室系の壁を
構成する上皮細胞の一種です。
その上皮細胞が腫瘍化したものと考えられています。
大脳半球、および小脳、脳幹部、脊髄に
発生する腫瘍です。
脊髄を除くと
小脳や脳幹部付近の発生が60%、
大脳に30%、脊髄に10%程度発生します。

//上衣腫の症状(10)//ー
テント上の上衣腫の場合、
腫瘍のできた場所に応じた症状
(身体の運動麻痺やしびれなど)がみられることがあります。
腫瘍が大きい場合には脳脊髄液の循環に影響を与え
その液圧が局所的に高まり、
頭痛、嘔吐、意識障害がみられることがあります。
テント下で生じる事が多いとされています。
頭囲が大きくなる原因となることがあります。
てんかん発作の原因となる事もあります。

//上衣腫の検査と診断(10)//ー
CT検査やMRI検査といった画像検査を行い、
どのような腫瘍であるかを推測します。
一般的に画像診断だけで
上衣腫を含めた脳腫瘍の種類を断定する事は
難しいとされています。
手術により摘出した後
病理組織診断を行う必要があるとされています。

//上衣腫の治療(10)//ー
<外科療法>
肉眼的全摘出を得ることで生命予後を有意に改善される
ことが証明されています。
しかし、特に後頭蓋窩発生の上衣腫では、
発生母地や伸展部、脳実質への浸潤の程度によっては
全摘出が困難であることが少なくないと言われています。
全摘出できる割合は54%に留まり、
全摘出できない多くは周囲の脳組織に浸潤したり、
下位脳神経や主要血管を書き込んでいる場合であり
これらは若いお子さんに多いとされています
化学療法や放射線療法を含めて
再摘出も検討されます。
-
<放射線療法>
上述したように(1)
術後の放射線治療が予後の延長について有効であり、
局所照射が推奨されます。
54Gy~59.4Gy程度の線量が採用されています。
手術後の予防効果を期待する場合には50Gy、
治癒を目的とした治療では60~70Gyですから
その間の線量が選択されます。
その線量の最適値は議論の余地があるとされています。
しかし、放射線療法の適用年齢は3歳以上です。
3歳未満のお子さんの場合には
晩期障害を考慮して放射線開始を3歳まで待ち
それまでは化学療法で腫瘍組織量を制御することを
検証する臨床試験を行われています。
-
<化学療法>
〇シスプラチン
〇カルボプラチン
これらの単剤。
ともに白金製剤。
細胞増殖に必要なDNAに結合することで
DNA複製阻害やがん細胞の自滅を誘導し
抗腫瘍効果をあらわす薬。
〇ビンクリスチン
細胞の有糸分裂を阻害する。
〇エトポシド
DNAの複製阻害を引き起こす。
細胞周期をG2/M期で停止させる作用がある。
〇シクロホスファミド
DNA合成を阻害する。
これらの多剤併用療法が検討されています。
シスプラチンが加えられることもあります。

//考察//ー
現状では上衣腫の遺伝子的特徴を標的とした
分子標的薬剤による治療は実現していないと
考えられています(11)。
手術や放射線治療で完全な切除ができなかった場合には
50%以上の確率で再発するとも言われています(11)。
従って、より癌の特徴に則した
標的性の高い薬剤の開発が重要になります。
元々、上衣腫は動物モデルで再現することが
難しいとされていましたが、
Alan R. Cohen氏が示すように
組織学的、遺伝子的な特徴も明らかになってきています(1)。
従って、今後、分子標的薬剤が開発される可能性があります。
--
〇分子標的薬剤の開発
〇免疫的な治療の探索(12)
〇細胞種特異的輸送系統
(Cell-type-specific delivery system)による
病変部位への有効な薬剤輸送
〇従来の化学療法
これらの組み合わせの中で
より高い奏功を探る事ができる可能性があります。
こうした薬剤による治療効果の進展は
外科手術、放射線療法の効果を高めるものである
と考えられます。
--
上衣細胞は脳室の周りに形成され
その中は脳脊髄液に満たされているといわれます。
従って、直接脳脊髄液に投入する髄腔内投与によって
有効に上衣細胞に薬剤が輸送される可能性があります。
--
癌化した上衣細胞と通常の上衣細胞が
繊毛も含めてどのように細胞生物学的に異なるか?
それによって薬剤をどのように
効率的に輸送するかのヒントが得られる可能性があります。

(参考文献)
(1)
Alan R. Cohen, M.D.
Brain Tumors in Children
The New England Journal of Medicine 2022; 386:1922-1931
(2)
Houriiyah Tegally, Monika Moir, Josie Everatt, Marta Giovanetti, Cathrine Scheepers, Eduan Wilkinson, Kathleen Subramoney, Zinhle Makatini, Sikhulile Moyo, Daniel G. Amoako, Cheryl Baxter, Christian L. Althaus, Ugochukwu J. Anyaneji, Dikeledi Kekana, Raquel Viana, Jennifer Giandhari, Richard J. Lessells, Tongai Maponga, Dorcas Maruapula, Wonderful Choga, Mogomotsi Matshaba, Mpaphi B. Mbulawa, Nokukhanya Msomi, NGS-SA consortium, Yeshnee Naidoo, Sureshnee Pillay, Tomasz Janusz Sanko, James E. San, Lesley Scott, Lavanya Singh, Nonkululeko A. Magini, Pamela Smith-Lawrence, Wendy Stevens, Graeme Dor, Derek Tshiabuila, Nicole Wolter, Wolfgang Preiser, Florette K. Treurnicht, Marietjie Venter, Georginah Chiloane, Caitlyn McIntyre, Aine O’Toole, Christopher Ruis, Thomas P. Peacock, Cornelius Roemer, Sergei L. Kosakovsky Pond, Carolyn Williamson, Oliver G. Pybus, Jinal N. Bhiman, Allison Glass, Darren P. Martin, Ben Jackson, Andrew Rambaut, Oluwakemi Laguda-Akingba, Simani Gaseitsiwe, Anne von Gottberg & Tulio de Oliveira 
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