癌細胞の増幅と退行は
癌細胞増幅機能と免疫機能とのせめぎあいで決まっているとも言えます。
抗がん剤、放射線治療などを行えば、
その天秤は変わりますが、その際中であっても
免疫機能は常に癌組織に働きかけています。
正常に働けば、免疫機能は癌組織を退行させます。
ーー
このような自然に持つ免疫機能の働きを使って
癌組織を退行させようとするのが
癌免疫療法です。
従って、退行させるには医療介入を行わない状態に比べて
免疫機能を相対的に高める事が必要になります。
ーー
Edward Seung, Zhen Xing(敬称略)ら
医療研究グループはヒトの遺伝子を入れた
マウスに乳癌を成長させ、
その乳癌に対して巧みな方法で
この乳癌組織を退行させる事に成功しています(1)。
ーー
その巧みな方法とは
〇複数の免疫細胞の機能を高める。
CD4+T細胞、CD8+T細胞、NK細胞、B細胞など。
〇癌細胞傷害を直接的に与える。
これらの両立を1つの抗体で実現しています。
その抗体とはRef.(1).Fig.1aに示されているように
①Anti-HERS、②Anti-CD3、③Anti-CD28
これらの3つの機能(tri-specific functions)を持っています。
①は直接的に乳癌細胞を攻撃します(ref.(3) Fig.1)。
②、③はCD4+T細胞、CD8+T細胞、NK細胞(2)の機能を高めます。
②、③が両立しているときに
CD4+T細胞、CD8+T細胞は特異的に機能が高まっています。
(Ref.(1) Fig.1cより)
またB細胞やNK細胞なども増えています。
(Ref.(1) Fig.5aより)
ーー
今回、CD4+T細胞の細胞数、機能が高まったことで
癌細胞増殖に関わる細胞サイクルを止める事ができています。
また、CD4+T細胞の機能として
〇CD8+T細胞を機能を補償する。
〇癌細胞をサイトカイン依存的に攻撃する。
〇B細胞などの機能を高める。
これらがあります(Ref.(4) Fig.2)。
従って、CD4+T細胞はCD8+T細胞、B細胞の機能を
高まっている事に対して、関係している可能性があります。
ーー
このように抗体に免疫細胞の機能を高める機能を
組み込むことを
〇T細胞受容体様抗体(5)
〇T cell engager
このように呼びます。
ーー
上述したように複数の機能を持つことで
乳癌のタイプであるHER2の発現量が少なくても
(HER2 densities as low as 25,000 copies per cell)
効果があるとされています(1)。
従って、HER2標的療法に抵抗性がある
乳癌の患者さんにおいても適用できる可能性があります。
ーー
実際に従来の抗体治療Trastuzumabでは
1年以内に9割の患者さんが治療抵抗性を持つ
といわれています(6,7)。
これは抗HER2抗体だけの単一機能です。
この条件では抵抗性が生まれやすいということです。
一方、
上述した3つの機能を持つ抗体は
この乳癌に発現しているHER2受容体に加えて
2つの経路(CD3,CD28)で
複数の免疫細胞(T細胞、NK細胞、B細胞)
の細胞数、機能を高める効果を併せ持っています。
特にCD4+T細胞は
精製状態で乳癌細胞を消滅させることができた
という結果もあります(Ref.(1) Fig.2b)。
従って、「複数の経路」での治療系統となっているので
抵抗性が生まれにくい抗体療法となることが期待されます。
ーー
副作用は動物による調査では許容できる
とされています。
すでに3つの機能を持つ抗体の臨床試験が
HIVや癌で行われています(1)。
//考察//--
このような複数の機能を持つ有能な抗体に対して
薬剤を複合体化させる抗体薬物複合体を形成することで
上の機能に加えてさらに
化学療法で治療する事はできないか?
それによってまた癌治療の経路を増やすことが期待できます。
(参考文献)
(1)
Edward Seung, Zhen Xing, Lan Wu, Ercole Rao, Virna Cortez-Retamozo, Beatriz Ospina, Liqing Chen, Christian Beil, Zhili Song, Bailin Zhang, Mikhail Levit, Gejing Deng, Andrew Hebert, Patrick Kirby, Aiqun Li, Emma-Jane Poulton, Rita Vicente, Audrey Garrigou, Peter Piepenhagen, Greg Ulinski, Michele Sanicola-Nadel, Dinesh S. Bangari, Huawei Qiu, Lily Pao, Dmitri Wiederschain, Ronnie Wei, Zhi-yong Yang & Gary J. Nabel
A trispecific antibody targeting HER2 and T cells inhibits breast cancer growth via CD4 cells
Nature (2022)
(2)
CD antigens expression in NK cells
https://jp.sinobiological.com/research/cd-antigens/nk-cell
(3)
Ricardo L. B. Costa & Brian J. Czerniecki
Clinical development of immunotherapies for HER2+ breast cancer: a review of HER2-directed monoclonal antibodies and beyond
(4)
Rong En Tay, Emma K. Richardson & Han Chong Toh
Revisiting the role of CD4+ T cells in cancer immunotherapy—new insights into old paradigms
Cancer Gene Therapy volume 28, pages5–17 (2021)
(5)
細胞内がん抗原を標的とするT細胞受容体様抗体の効率的取得法の開発
研究開発代表者:磯部 正治
富山大学 大学院理工学研究部
https://www.amed.go.jp/program/list/06/01/i-biomed/subject/2015/09/index.html
(6)
Pohlmann, P. R., Mayer, I. A. & Mernaugh, R.
Resistance to trastuzumab in breast cancer.
Clin. Cancer Res. 15, 7479–7491 (2009).
(7)
Vu, T. & Claret, F. X.
Trastuzumab: updated mechanisms of action and resistance in breast cancer.
Front. Oncol. 2, 62 (2012).
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