2022年3月12日土曜日

老化様癌細胞を中間状態とした2段階癌治療

癌を内科的に治療するときには
一般的には化学療法、放射線療法、免疫療法などが
選択されます。
その時の目的は、大きく成長した癌細胞、
あるいは外科で取り除く周りの癌細胞などを
「細胞死」させる事によって排除することです。
元々、増殖能力のある活発な癌細胞、その組織を
死滅、退行させるためには、
それ相応のストレスを与える必要があります。
例えば、抗がん剤による治療で有れば、
投与量、頻度を増やす必要があるかもしれません。
癌治療の場合は一概にはいえないのですが(2)、
抗菌剤などは使用量が増えると抗菌耐性を持つ菌が
現れやすいともいわれます。
実際に癌の治療でも薬剤抵抗性が
投与依存的に変わり、薬剤が多いほうが
抵抗性が生まれやすいという場合もあるかもしれません。
そういった遺伝的な変異、好ましくない進化だけではなく、
一般的に投与量が増えると、
身体への負担が大きくなります。
化学療法は一般的には特異的標的性を有しない状態での
投与となっているので、
癌細胞以外の通常細胞にダメージを与える事もあるかもしれません。
あるいは食欲などが下がる悪液質が
抗がん剤の量が増えると生じやすいという事も
あるかもしれません。
そうした観点から薬剤の量をできるだけ減らした状態で
癌細胞、組織を退行させたいという需要はあると考えられます。
しかし、投与量を減らし中途半端に生き残る事が
上の推察と逆行しますが、参考文献(2)で示されているように
抗がん剤抵抗性を示す事も考えられます。
ーー
Liqin Wang, Lina Lankhorst & René Bernards
(敬称略)からなる医療研究グループは、
治療の段階を2つにわけて連続的に行う
「ワンツーパンチ戦略(One-two punch approach)」。
その順序の中で
癌細胞老化⇒老化細胞除去薬。
この2段階に分ける事を想定して、総括されています(1)。
ーー
この治療戦略の中で最も重要な記述だと(筆者が)考えた部分は
いくつかの抗がん剤(*)による化学療法では
〇低用量⇒癌細胞老化
〇高用量⇒癌細胞細胞死
この事が当てはまるとされているところです(3-5)。
-
(*)
Topoisomerase I and II inhibitors
Platinum­ based compounds
Alkylating agents,
Microtubule inhibitor
など。
-
つまりボクシングで例えられるワンツーパンチのうち
一回目のパンチとして
比較的低用量で癌細胞を老化させます。
そして、間髪を入れず、二回目のパンチで
老化した癌細胞と老化細胞除去薬で取り除くという
2段階のプロセスを踏みます。
ーー
おそらくこのような2段階のプロセスを踏むことは
下述する課題ももちろんありますが、
メリットがあると考えられます。
例えば、
物理の世界では電子がエネルギー障壁を乗り越えるときに
その障壁の間となるエネルギー準位があって、
2段階にわけて飛び越えようとした場合、
1回で飛び越えるよりも「低エネルギー」で
超えられるというのがあります。
イメージとして
2mの壁を人がよじ登ろうとするときに
そのまま登ろうとするよりも
階段があって位置エネルギーが分けられている方が
楽に登れるという事は容易に想定できます。

従って、癌細胞を消滅させるまでのエネルギーを
考えた時に1つのプロセスで行うよりも
異なる機序の連続したプロセスで行う方が
結果として「低エネルギー」で出来る可能性を
物理的に考えて想定しました。
低エネルギーでできるということは
原理的に体への負担が少ない形で
癌細胞を消滅まで持っていく事ができる可能性がある
ということです。
但し、エネルギーのベクトルが大きくずれていて
2つのプロセスの連結性が低い場合には
一方でエネルギー損失も大きくなるかもしれません。
ーー
この癌細胞老化を経た2段階治療の課題としては
癌細胞が確かに老化しているという証拠となる
バイオマーカーが確立していないという事と、
もっと厄介な問題としては
そのバイオマーカーが異種性があるということです(1)。
例えば、
Senescence­associated secretory phenotype(SASP)。
これは老化細胞の分泌物なので
これがバイオマーカーになるだろう
という提案もあります(1)。
しかし、このSASPは細胞種によって
異なることが示唆されています(6)。
他にもバイオマーカーとして
Oxylipin
Cleaved uPAR
これらが提案されています(1)。
またSASPは短期では免疫細胞の引き付けや
周辺癌細胞を老化させるなど良い効果がありますが、
長期的には癌細胞増殖に関わるなど
悪影響が強くなるとされています(1)。
従って、2段階目の老化様癌細胞除去を
できるだけ早いタイミングで確実に行うことが
求められると考えられます。

いずれにしてもワンツーパンチの2段階の治療を行う
治療においてはその中間状態である
癌細胞老化状態を分析できるようにする事は
必須であると考えられます。
癌の場合は、休眠状態などもあり、
細胞周期が止まったり、細胞死信号が弱まっている
状態というのは他にもあるので
それとの差をどうやって定義するか?
という点も考える必要があります。
ーー
もう一つの観点として、
2段階目において老化細胞除去薬を使う代わりに
それと似た特質を持つ免疫機能を利用するという
方式も考えられます。
元々、身体には老化細胞を免疫によって
除去するという機能があるからです。
例えば、
NK細胞が老化様癌細胞を認識して
細胞死させる機序も存在します。
(参考文献(1) Fig.4より)
従って、老化細胞を取り除く機序が強い
免疫細胞の標的性や活性を上げるような
治療を2段階目に設定する事も選択肢として考えられます。

//考察//--
このような老化細胞を除去する方式は
癌細胞以外の老化細胞も除去できるというメリットがあります。
一方で
Liqin Wang, Lina Lankhorst & René Bernards(敬称略)は
対象となる患者さんの老化細胞が多く存在する場合には
その多くを除去することで
組織の連結性が失われて、副作用が強くなるかもしれない
という警鐘が鳴らされています(1)。
例えば、血管組織の健全性は人の健康において
非常に重要です。
その血管組織が老化細胞を(一気に?)取り除く事によって
リーキー、穴が開いてしまうと
身体のいずれかの部分において大きな不具合が出てしまう
可能性も考えられます。
特に脳については注意が必要です。
これは老化細胞除去薬を使用する場合において
癌に対して行う時だけではなく
一般的に言える事であるとされています(1)。

(参考文献)
(1)
Liqin Wang, Lina Lankhorst & René Bernards 
Exploiting senescence for the treatment of cancer
Nature Reviews Cancer (2022)
(2)
Li-Juan Wang et al.
Dose-dependent effect of tamoxifen in tamoxifen-resistant breast cancer cells via stimulation by the ERK1/2 and AKT signaling pathways
Oncol Rep. 2013 Apr;29(4):1563-9. 
(3)
Roninson, I. B. 
Tumor cell senescence in cancer treatment. 
Cancer Res. 63, 2705–2715 (2003).
(4)
Lee, M. & Lee, J. S.
Exploiting tumor cell senescence in anticancer therapy. 
BMB Rep. 47, 51–59 (2014).
(5)
Petrova, N. V., Velichko, A. K., Razin, S. V. &  Kantidze, O. L. 
Small molecule compounds that  induce cellular senescence. 
Aging Cell 15, 999–1017 (2016).
(6)
Jochems, F. et al. 
The Cancer SENESCopedia:  a delineation of cancer cell senescence. 
Cell Rep. 3, 109441 (2021).


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