<<背景、序論>>
出産時に子どもの命を救う事は
多くの場合最重要視されますが、
その子ども、父親の幸せ、健康のためには
出産後の母親の心の問題も含めた健康を考える事が大切です。
出産後の母親の心の問題に関しては
妊娠中や産後の女性が子育て中に生じる不安や疑問を、
自身のスマートフォンを用いて
産婦人科医・小児科医・助産師に相談できる、
オンライン健康医療相談サービスなどが
実際に効果があると報告されています(264)。
子供が命を落とす最大の原因は早産によるとされていますが(240)、
そのような早産を含め、子どもが命を落とす原因は
妊娠時から生じていることがあり、
その妊娠時に最も問題となる疾患が
妊娠高血圧腎症(Pre-eclampsia)です。
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<<疫学>>
母親、新生児の何らかの疾患の罹患、死亡の最大の原因であり(265)
人に特有であるとされています
世界全体では、毎年おおよそ400万人の妊娠女性が
妊娠高血圧腎症と診断され
7万人以上の妊娠女性、50万人の子どもが命を失っています(265,266)。
2002-2010年までの妊娠高血圧腎症の発症率は
世界で4.6%であり、
地域ごとでは1%から5.6%まで差があります(289)。
但し、早発性の妊娠高血圧腎症は1%未満となっています(290-293)。
高血圧腎症の発症率は低中所得国では
高所得国よりも低いことが示されています(294,295)。
但し、民族間の違いを見ると
必ずしもこれが当てはまらない可能性もあります(302)。
その理由は現時点で証拠に基づいて示すことはできませんし、
複数の要因が絡んでいる可能性がありますが、
その一つは出生率が高く、相対的に初産の割合が低い事と
初産の年齢が平均的に低いことが挙げられるかもしれません。
また、詳しくは下述しますが、
早発性は予防手段がある程度確立されており、
アスピリン投与によるリスク低減が
臨床試験でもエビデンスがある事から(270)、
発症率が遅発性よりも下がっていると考えられます。
一方、
ここで重要なのが、妊娠高血圧腎症に罹患した場合
子どものリスクは母親よりも7倍以上高いということです。
動物モデルの基礎的な実験が難しく
かつ臨床試験もより慎重を期す必要がある中で
妊娠高血圧腎症に罹る人が4.6%と決して低くない状況です。
このような状況においては疫学的なアプローチが一つ有効です。
すなわちどのような人が妊娠高血圧腎症に罹りやすいか?
それによって出産を考えるパートナーの
生活習慣改善を含めてある程度の予防が可能になるからです。
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<<リスク因子>>
(高いリスク因子)
◎高血圧腎症の罹患経験がある(513-516)
◎慢性腎疾患(311)
◎慢性高血圧(306)
◎糖尿病(309,310)
◎全身性エリテマトーデス(313-321)
◎抗リン脂質症候群(313-321)
◎BMI30以上(307,308)
◎生殖補助医療
(中程度のリスク因子)
◎初産(323)
◎40歳以上の出産(35歳以上からリスク上昇(303-305))
◎多胎妊娠(510)
◎胎盤早期剥離の経験
◎死産の経験
◎胎児成長阻害の経験
これらです(296)。
(遺伝的リスク)
◎家族に既往歴(297-301)。
(その他)
◎甲状腺機能異常(312)
◎妊娠間の期間(10年以上)(511,512)
◎受胎時の黄体の欠如(517-519)
◎高地(2700m以上)の住環境(520-522)
◎大気汚染(PM2.5, NO)(523-525)
他方で、
妊娠高血圧腎症で母親が一命をとりとめたとしても
その後の寿命は短くなり、
出産後の脳卒中、心臓血管疾患、糖尿病などのリスクが高まります(267,268)。
上述したように妊娠時に高血圧腎症が生じた母親は
早産のリスクが高まります。
妊娠高血圧腎症だけに関わらず
一般的に高齢の出産はリスクが高まります。
Hiroaki Tanaka(敬称略)らの研究では母親が命を落とすリスクは
年齢と共に上がり、20代の出産に比べて35歳以上では2倍以上、
40歳以上では3.5倍以上になると報告されています(402)。
40歳以上に命を落とした母親の最も多い原因は
出血性脳卒中で、
その主原因はここで問題にしている妊娠高血圧腎症です(402)。
子ども、お父さんの事を考えると
救急医療の現場で働く医師も
「出産でお母さん亡くなったらいけんのよ。」
と言われていました。
高齢出産は特に初産の場合は
父親の抗原による炎症の問題など
生物学的に胎盤に不全が出やすくなります。
他にも様々なリスクがあり、
それらが複雑に絡みあう(交絡する)事で
命を落とすリスクが上がる事を一般的に広める事は重要です。
そのことを知らずに適齢期を逃してしまう人が
一定割合いることを考慮すると、
学校の教育の一つとして
カリキュラムに入れる事も考慮に値するかもしれません。
一方で、どの年齢でも母親が命を落とすリスクはあり、
胎盤の形成についてより理解する事は
世界的な妊娠時の母親の生存率、健康を高める可能性があるので
妊娠高血圧腎症の病理の理解を含めて価値がある事です。
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<<合併症、後遺症>>
母親の妊娠高血圧腎症の子どもへの影響においては、
早産で一般的に言われる死亡、神経発達不全など
リスクが高まるだけではなく、
母親の出産後に生じる主に循環器に関わる合併症と同様の
心臓血管疾患、代謝疾患などのリスクも同様に高まります(265,267)。
世界全体では毎年300万人以上の母親、子どもが
妊娠時に高血圧腎症を経験することによって
分娩後の慢性的な健康の問題に対する
リスクを抱えて生活する事になります(269)。
妊娠高血圧腎症は複雑、多系統の疾患、
つまり単一の原因ではない、
複数の因果が複雑に絡み合っている疾患です。
妊娠期間20週以降に突然生じる高血圧によって診断されます。
少なくとももう1つの合併症が存在します。
◎タンパク尿
◎臓器不全
◎子宮の胎盤の不全
これらです。
胎盤から分泌される様々なホルモンなど受け取って
健全な成長をする胎児にとっては
胎盤の不全は成長を阻害する要因となります。
(Fetal growth restriction(FGR))
また、胎盤を介して臍帯で母親と胎児は
循環器の連結があり、臍帯へつながる胎盤の血管生成は重要ですが
その血管生成がアンバランスになります(263)。
妊娠高血圧腎症の病理は多系統であり、
その後遺症、合併症も多岐にわたります。
その合併症は
◎子癇
◎出血性脳卒中
◎血球破壊
◎肝臓酵素の上昇、
◎血小板減少症候群
◎胎盤の破壊
◎腎不全
◎肺水腫
これらなど多様です(287,288)。
Evdokia Dimitriadis(敬称略)らがFig.1に示すように
上述した合併症だけではなく
脳、血管、肺、肝臓、腎臓、胎盤、脱落膜、胎児などにおいて
それぞれ複数の合併症が存在しうるとされています。
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<<分類、治療>>
前述したように妊娠高血圧腎症は20週以降に臨床症状を呈しますが、
その分類は
◎早産(妊娠期間37週より前)
◎満期(妊娠期間37週より後で分娩より前)
◎分娩後
このようになっています(263)。
妊娠高血圧腎症の母親の一連の症状は
機能的に不全となった胎盤によって引き起こされます。
その胎盤から母親の血中へ
全身の炎症につながるような物質が輸送されます。
全身の循環器はその炎症物質によって損傷を受け、
広範な母親の血管内皮の機能不全につながります。
現在、利用可能な治療法は
母親の高血圧と発作を標的としています。
しかしながら、
その治療法では分娩をより安全なものにするのにとどまります。
数十年の研究にも関わらず、
妊娠高血圧腎症の病因はまだはっきりわかっていません。
特に不明な点が多いのが、
上述した妊娠高血圧腎症の発症時期の分類のうち
より遅く発症する
◎満期(妊娠期間37週より後で分娩より前)
◎分娩後
これらの妊娠高血圧腎症です。
病因ははっきりしませんが、
近年の顕著な医療技術、管理の発展により
37週より前に発症する早期の妊娠高血圧腎症に関しては
その発症の予測と予防が可能になってきています。
妊娠初期により複数のスクリーニングテスト、評価基準により
妊娠高血圧腎症の発症確率を予測し、
そのリスクが高い妊娠女性に対しては
予め毎日低用量のアスピリンを投与します。
それによって発症を予防します。
これは妊娠期間16週より前から始められます。
それとは対照的に
37週以降の分娩前、分娩後に発症する遅発性の妊娠高血圧腎症に関しては
このような予測手法を適用する事は難しく、
効果的な予防方法が存在しないということになっています。
特に37週以降に発症する遅発性の妊娠高血圧腎症に関して
その病理についてこれから詳しく調べていくことが求められます(263)。
そうした中で臨床試験が待たれます。
その臨床試験の中で予後テストや治療についての評価は
医療現場から強く求められている事項になります(263)。
この中で特に分娩後に生じる妊娠高血圧腎症は
一般的な分娩後の高血圧(≧140/90mmHg)
Postpartum hypertension (PPHTN)。
これと明確な区別はないとされています(756)。
Asako Mito(敬称略)のコメントによれば(757)、
日本では妊娠高血圧腎症を含めて妊娠時の高血圧の37%は
分娩後に生じているとされています(758)。
アメリカではPPHTNによって命を落とした母親の内、
70%は産後であったとされています(759)。
現時点では産後に高血圧が生じた時の
明確な管理プロトコルはないとされています(760)。
特に分娩後に高血圧が生じやすいリスク因子は
緊急の帝王切開です(761)。
その一つの想定される原因は子宮内の低酸素状態です(757)。
この低酸素状態は高血圧腎症とも関連があります(764,765)
他のリスク因子としては
◎分娩時の過剰な液体補充(*)(762)
(*)分娩中には適切な液体補充が必要です。脱水や合併症を防ぐためです。
◎血管収縮を引き押す痛みや治療(763)
これらが挙げられています。
PPHTNと妊娠高血圧腎症との区別も必要です。
この分娩後に生じる高血圧を含めて
妊娠高血圧腎症の発症時期は
潜在的な病因の違いを反映していると考えられています(263)。
この事が毎日のアスピリン投与によって
妊娠時期37週以降に発症する遅発性の高血圧腎症の予防に対しての
効果が制限的であるという事と関係しています(270)。
下述するように遅発性の妊娠高血圧腎症に関しては
絨毛の内皮に存在する栄養膜合胞体層の細胞の老化によって
胎盤自体の老化を速めている可能性が想定されています。
このような早期の細胞の老化は
胎盤の形成が分娩後、解消され、
そのライフサイクルが他の臓器、組織と比べて
顕著に短い事が一因として挙げられるかもしれません。
一方で、
妊娠時高血圧腎症を完全に3つに分類する事はできない可能性もあります。
血圧の上昇の他に
腎機能、肝機能の低下、血液異常、胎児の成長遅延などがあり、
これらに対して診断の為の評価基準があります。
血圧などは急上昇する事が述べられていますが、
しかし、その原因となる病理、病状の進行においては
閾値的なものではなく、段階的かもしれません。
その様に考えると完全に分けて考える事で
病因に対する理解を妨げる事が懸念されます(271)。
また、診断が完全にタイムリーに行われているか
どうかも不明瞭です。
実際に早発性の高血圧腎症は
最大で20%程度、疫学において過小評価されている
可能性が指摘されています(272)。
つまり、37週以降に妊娠高血圧腎症と診断されても、
そのうち一部の女性は
それよりもずっと早い段階に
病因が存在し、病状がある程度進行していた可能性がある
ということです。
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<<バイオマーカー>>
実際に循環器に存在するRNAのバイオマーカーによって
臨床症状を呈する3か月以上前に
そのバイオマーカーによって陽性反応を示すことができる
可能性が示唆されています(273)。
例えば、RNAにより割り出される遺伝子は
CLDN7, PAPPA2, SNORD14A,
PLEKHH1, MAGEA10, TLE6, FABP1であり、
(Ref.(273) Fig. 3b)
このうち4つは以前から妊娠高血圧腎症もしくは胎盤発育
に関連する遺伝子であると指摘されていました(274-277)。
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<<胎盤の組織形成>>
胎盤の組織形成について詳しく理解する事は
妊娠高血圧腎症の病理の理解、治療、管理、予防だけに関わらず、
妊娠そのものの理解や妊娠中の母子の健康
出産を経験した母親、そのお子さんの生涯の健康を
実現する上で極めて重要です。
ここで、Evdokia Dimitriadis(敬称略)らが教科書として
総括されている胎盤形成の節を詳細に参照し(263)、
付加的な情報と共に読者の方と情報共有したいと思います。
例えば、肺の機能、腎臓の機能は
1つ1つの肺胞やネフロンの機能、その数によって決まります。
言い換えれば、肺や腎臓は
肺胞やネフロンなどの構造ユニットの集まりである
と定義する事もできます。
胎盤も肺や腎臓などと同様に下述するように
構造ユニットを持ち、その集まりであると定義する事もできます。
特に腎臓は血液から尿として老廃物を排出するための
ろ過機能を持ち、胎盤と構造的、機能的な類似性を
一定割合見出すことができます。
今述べた様に胎盤はろ過機能を持ちます。
例えば、
◎薬物
◎一部のホルモン、免疫グロブリン
◎一部のウィルスや細菌
◎赤血球など一部の血漿成分
これらにおいて特に大きな分子を中心に
胎盤のろ過機能を果たす絨毛組織を通過することができません。
従って、母親の子宮にいる胎児を守るためには
腎臓のネフロンの中にある糸球体と同様に
胎盤の中のろ過機能を持つ絨毛組織の
健全な形成が重要になると考えられます。
Wang Y(敬称略)らが参考文献(544)Figure 3.1に示すように
この絨毛は木のような構造を持ちます。
その木の幹となる部分が
◎子葉(cotyledons)
このように命名されています。
成熟した胎盤全体では重さは500-600gであり、
その中にこの子葉が15-28個含むとされています(544)。
この子葉は
◎絨毛幹(stem villus)
このように命名され、構造的ユニットとされています。
この絨毛幹が初めに形成されてから
そこから木の枝のように枝分かれする葉の部分に
形成される上述した絨毛が形成されるまでには
3-5の中間の絨毛の状態、ステージが存在するといわれています。
(参考文献(544) Figure 3.1B)
成熟した状態では1つの絨毛幹、子葉からなる
構造的ユニットあたり10-12の絨毛が存在すると言われています。
従って、胎盤全体で
最小で150個、最大で336個((15-28)×(10-12))。
この数の絨毛が存在する事になります(544)。
この数百個の絨毛一つ一つが
胎児に臍帯を通して栄養を届け、
有害な物質から守るための重要な機能を果たします。
このように健康な胎盤の機能はこの絨毛一つ一つの機能と
絨毛の中、絨毛の外の血管生成に依存すると考えられています(263)。
妊娠の最初の三半期、つまり妊娠12週目に
おおよそ成熟した胎盤が形成されるといわれています(545)。
受精卵が着床するために最も適した状態の
子宮内膜である受容性子宮内膜に
成熟した受精卵である適格な胚盤胞が着床し、
その後、妊娠が成立します(546)。
胚盤胞の中の胚外系統から胎盤が形成されます。
栄養外胚葉細胞(trophectoderm cells)は
絨毛の前駆細胞である細胞栄養芽層(cytotrophoblasts)に分化し
合胞体栄養膜細胞(syncytiotrophoblast)と
絨毛外栄養膜細胞(extravillous trophoblasts)に
さらに分化します(547)。
組織の形成において重要な役割を果たす間葉系細胞である
胚外間葉(Extra-embryonic mesoderm)は
絨毛の核となる間質組織や血管に分化し
その組織の一部となります(547)。
胎盤の絨毛は2層からなる栄養膜によって覆われています。
この多核化合胞体栄養膜細胞
(multinucleated syncytiotrophoblast)。
これは胎盤全体を覆っています。
母親の血液、細胞栄養芽層と直接的に接触します。
この細胞栄養芽層は絨毛外栄養膜細胞を形成し、
胎盤の絨毛を母体の脱落膜に細胞柱を介して固定させます(547)。
(参考文献(263) Fig.2a)
この細胞柱は絨毛から脱落膜領域への
栄養膜細胞の移動を可能にします。
それによって一部の栄養膜細胞が螺旋動脈域に進入し、
絨毛外栄養膜細胞に分化して、螺旋動脈の内皮組織として機能します。
これは着床から2週間程度で生じ、18週間後まで続きます(547)。
この時期になると胎盤形成はおおよそ完了しています(548)。
妊娠の維持や胎児の成長に関連する女性ホルモンである
プロゲステロンが絨毛外栄養膜細胞から放出されることで
脱落膜化を促進します(549,550)。
これにより妊娠中にずっと維持される脱落膜組織が形成されます。
この脱落膜組織は
◎胎児と母体の境界の形成
◎栄養供給と酸素の交換
◎免疫制御
◎ホルモン分泌
◎胎盤形成の支持
これらの主な機能があり
Shu-Wing Ng(敬称略)らがFigure 1に示すように
胎児をと胎盤を取り囲む基盤となる組織です(551)。
胎盤の絨毛は胎盤の入り口である螺旋動脈を通じて
母体から供給された血液の中に浸かり、
妊娠中、胎児の健康をサポートするために必要な
全ての栄養素、ガスの交換を促進します。
この絨毛の間質のコアの部分には毛細血管があり、
上述した数百個ある絨毛が束となり臍帯となります。
この毛細血管、臍帯は胎児と母親の血液の交換の際の流路となります。
妊娠の最初の三半期、つまり妊娠12週目までに
前述した螺旋動脈はリモデリングされ、
Evdokia Dimitriadis(敬称略)らがFig.2aに示すような
胎盤への入り口付近の流路の広がりが形成されます。
この部分では通常の血管にあるような平滑筋はなく
流速は速く、抵抗の低い流路となっています(552)。
このように多くの血液を入れられることは
特に妊娠後期の胎盤、胎児の血液需要の多さに適応するためのものです。
このような螺旋動脈の組織リモデリングは
脱落膜中に存在する常在型のNK細胞、制御型T細胞によって生じます。
上述したように螺旋形を作る事から
形状整合性をとるために平滑筋は喪失され、
血管新生因子、サイトカインの分泌を通して
脱落膜に存在する絨毛外栄養膜細胞が
螺旋動脈の内皮組織を形成するために陥入されます(553)。
絨毛外栄養膜細胞は一時的に血液を止め
低酸素状態での胚形成を促します。
この動脈のせき止めは妊娠10-12週には外されます(554,555)。
その後、上述したように螺旋動脈を通じた
血液供給量は段階的に増え、絨毛、臍帯を通して
胎児に供給され、それに応じて酸素供給量も上昇します。
上述したように胎盤内でろ過機能を持つ絨毛は
その幹の部分、発達段階を含めると下述するような
いくつかの形態があります(544)。
(1)Stem villi(絨毛幹)
絨毛幹は絨毛膜板に接合し、
様々太さの血管が繊維状に束となった間質です
この血管は外周部に平滑筋を伴います。
絨毛幹の栄養膜層は妊娠期間が進むにつれ
部分的に繊維素に入れ替わります。
絨毛幹の機能はそこから平均して10-12個程度枝分かれする
絨毛を幹として支えるものです。
(2)Immature intermediate villi(未成熟の中間絨毛)
未成熟の中間の絨毛は
Sunil Jaiman(敬称略)らがFigure 1に示すように(564)
絨毛組織の成長途上にある球根上の枝の部分です。
このタイプの絨毛は
◎網状基質
◎ホフバウア細胞(Hofbauer cells)
ホフバウア細胞は胎盤内に存在する特別なタイプの細胞であり、
マクロファージの一種で、免疫機能を思います。
胎盤内の組織を修復し、成長因子や栄養素を産生する機能があります。
◎豊富な血管
◎不連続な細胞栄養芽層
これらを持ちます。
外側の合胞体栄養膜細胞は発達の間、連続的につながっています。
この未成熟の中間の絨毛は妊娠1期、妊娠2期の間において
ガスや血液を交換する主要な絨毛で、
まだ、末端部に形成される絨毛(terminal villi)は分化されていません。
(Terminal villi:参考文献(564) Figure 1参照)
(3)Mature intermediate villi(成熟した中間絨毛)
成熟した中間絨毛は絨毛組織全体で見た時の構成部位は
未成熟の中間絨毛と同様ですが、
より絨毛が成熟した段階で出来る中間絨毛で、
形としては未成熟な状態よりも長く、細くなります。
(参考文献(564) Figure 1参照)
この成熟した中間絨毛から
下述する末端絨毛(terminal villi)が産生されます。
(4)Terminal villi(末端絨毛)
末端絨毛は絨毛組織の末端に位置し、ブドウのような構造を持ちます。
大部分に毛細血管が形成されています。
組織としては小さいため間質部が少なく、
不連続な細胞栄養芽層を持ちます。
1つの末端絨毛当たり4-6の毛細血管を持ちます。
この毛細血管は末端絨毛の皮質に当たる合胞体栄養膜細胞とは
薄い基底膜によって隔てられています(3.7μm程度)。
この末端絨毛は胎盤が成熟すると絨毛組織全体の40%を占めるようになります。
ブドウの形状をしていることから表面積の割合は50-60%となります。
(5)Mesenchymal villi(間葉絨毛)
間葉絨毛は妊娠の初期の間の最も原始的な絨毛です。
間葉絨毛には基質はなく、血管生成も少なく、
コアの周りには細胞栄養芽層を持ちます。
血管、基質を持たない事から「絨毛の芽」と参照されます。
絨毛が増殖する場所に付着し、内分泌活性を持ち、
絨毛組織の初期の成長に寄与すると考えられます。
最終的に胎盤が成熟していくと
間質絨毛の重量割合は1%未満と小さくなります。
以上が絨毛組織のサブタイプとなります。
まとめると絨毛組織は全体で植物の木と類似するような形状であり
類似する成長過程を経験します。
芽吹く段階では間質絨毛が主に作用し、
そこから絨毛幹が成長し、未成熟の中間絨毛が幹、枝を伸ばし、
成熟した段階で末端部に末端絨毛を形成します。
次に
脱落膜について説明します(551)。
人は数少ない哺乳類の受胎生物で月経周期の後半に
受胎産物の有無を問わず脱落膜化します(565-567)。
妊娠の健康状態は受精卵が分裂した胚盤胞が子宮内膜に着床する前に
決まっている場合さえあるとされています(551)。
この胚盤胞の着床は3つのステップがあります。
①不安定な吸着
②安定な吸着
③浸入
これらで着床から10日経過すれば胚盤胞は子宮内膜の中に
完全に埋め込まれます。
そこから段階的に胎盤、脱落膜が形成されます。
細胞栄養膜芽層が分化して
絨毛組織、脱落化膜、螺旋動脈の皮質を形成します。
上述したように子宮に常在するNK細胞やマクロファージが
上述した皮質を形成する栄養膜細胞を引き付けることによって
任意の形の組織化に貢献します。
脱落膜は胎児と胎盤のユニットにおいて親密に関連する母体の組織です。
内分泌、免疫機能を持つ組織として重要な役割を果たします。
着床、胎盤形成の過程は3つの脱落膜領域を形成します。
◎Decidua capsularis(胎児、羊水を覆う膜)
◎Decidua basalis(胎盤の基底に存在)
◎Decidua parietalis(上述した以外の脱落膜領域)
(参考文献(551) Figure 1参照, 参考文献(568)参照)
子宮内膜と脱落膜は複雑、動的、異種的な組織です。
それらは複数の細胞種で形成されます。
妊娠第一期では10-30%の細胞が間質線維芽細胞で
妊娠後期になるとこの割合が60-70%に上昇します。
妊娠が進行するにつれ、子宮が胎児の成長に伴って大きくなりますから
脱落膜もそれに応じて長く、大きくなる必要があります。
この事実から脱落膜の間質繊維芽細胞は
妊娠後期になると割合が増えますから、
子宮、脱落膜を大きくするうえで重要な役割を持つ細胞種である
と想定する事ができます。
細胞の構成は全体的、局所的なホルモンの変化に従い
妊娠期間中に変化します(569-575)。
子宮内膜と脱落膜は常在型のNK細胞、マクロファージを中心に
多くの免疫細胞を含みます。
これらの免疫細胞は骨髄由来で
子宮内膜へ届けられる血流を通して供給されます。
これらの免疫細胞は上述したように胎盤の組織形成に関与しますが、
胎盤を感染症から守る働きを持っています(576,577)。
妊娠に際して生じる脱落膜化は
子宮内膜部の機能的、形状的変化として参照されます。
その形状の変化は胚盤胞の着床が起点となります。
これらの変化に応じて白血球が引き付けられます。
特に重要なのが子宮内膜間質線維芽細胞が
脱落膜間質線維芽細胞に分化する事です。
このような形質の変化は後に赤ちゃんを収納できるように
十分な大きさ、長さを持つ脱落膜組織を動的に形成する上で
重要なプロセスとなります。
従って、遺伝子的な変化も伴います。
◎細胞増殖の促進
◎免疫寛容性の亢進
◎組織浸潤性の促進
これらの形質を持つようになります(551)。
これらは胎盤形成を伴う進化の過程で獲得されたものである
とされています(578,579)。
人の妊娠における脱落膜化の機能的な重要性は
完全には理解されていません。
しかしながら、いくつかの機能が想定されています。
◎胎児の収納(580)
◎成長できない胚の陰性選択(581)
◎着床の許容範囲の決定(582,583)
◎子宮の恒常性(584,585)
適切な脱落膜化は着床、妊娠発展を制御し、
人における妊娠の成功の重要な決定因子となっています(586)。
健康な妊娠時期を過ごすためには
妊娠以前の子宮内膜の健康状態は重要です(551)。
月経周期の黄体期では子宮内膜の崩壊の準備をしますが
①ホルモン
②生化学
③免疫学
これらにおいて最適な発生が必要になります(551)。
①ホルモン因子
月経周期の卵胞期の間、卵巣の顆粒膜細胞による
女性ホルモンであるエストロゲンが子宮内膜を増殖させ、
その膜厚を大きくさせます。
子宮内膜の脱落膜化の主な駆動因子は
女性ホルモンであるプロゲステロンで排卵期に引き続き
卵巣の黄体によって産生されます。
受胎の無い状態では黄体は14日で退行するようにプログラムされています。
結果として全体的なプロゲステロン減少と月経となります。
妊娠の存在下では栄養膜細胞による
人性腺刺激ホルモンである絨毛ゴナドトロピン(hCG)の産生によって
黄体の退行を阻止します。
それによって妊娠5-7週で胎盤がこの機能を引き継ぐまで
プロゲステロンの産生を維持させます(587)。
上述した性腺刺激ホルモンhCGに反応して
レラキシン、副腎皮質刺激ホルモン(CRH)のような局所的ホルモンが
自己分泌、傍分泌様に作用し、
ES細胞の細胞内のcAMPレベルを向上させます。
それが子宮内膜の脱落膜化を促し、
着床をサポートし、妊娠初期も同様に支援します(588-590)。
従って、様々な種類のホルモンが連携し、
胎盤の形成や胎児を収容するために必要な子宮の組織形成の
ダイナミクスの一つの重要な機序である
脱落膜形成が生じるとまとめる事ができます。
②生化学因子
生化学的、代謝因子が脱落膜化において重要であるという
科学的な証拠は増えてきています。
例えば、脂質仲介物質である
リゾホスファチジン酸(LPA)は子宮上皮によって産生されます(591)。
これは以下の経路を制御します。
◎Heparin-binding epidermal growth factor(HB-EGF)(592)
◎Epidermal growth factor receptor (EGFR)(593)
◎Cyclooxygenase 2 (COX2)(593)
これによって
プロスタグランジンE2の産生を促し、
インターフェロンγによる制御の元で
子宮内膜、脱落膜中に存在するES細胞の
脱落膜化の空間的制御が促されます(594,595)。
Shu-Wing Ng(敬称略)らがFigure 2に示すように(551)
ES細胞は胚盤胞が子宮内膜に着床後、
脱落膜化が生じるときには
脱落膜間質線維芽細胞(DSCs)に混在しています。
このES細胞の一部が脱落膜間質線維芽細胞に分化する事で
脱落膜の組織成長が生じると考えられます。
他の自己分泌、傍分泌様に働く分泌物として
◎IL-1β, IL-11(596-600)
◎Leukemia inhibitory factor(LIF)(596-600)
◎Activin(601-604)
◎TGF-β1(601-604)
◎Bone morphogenesis protein 2(BMP2)(601-604)
◎Left–right determination factor 2(LEFTY2)(601-604)
これらが脱落膜化プロセス、
つまり脱落膜が胎盤形成や胎児の成長に合わせて
持続的に成長していく上で重要になります。
その際には脱落膜の細胞に栄養を送るための血管生成や
脱落膜組織の骨組みとなる細胞外マトリックスの生成が促進されます。
グルコースは脱落膜化の代謝シグナルです。
癌細胞や免疫細胞では細胞活動が活発になると糖代謝になります。
それを「Warburg effect」と呼びます(605,606)。
この効果がマウスの妊娠初期の脱落膜にも生じている
ことが報告されています(607)。
脱落膜の成長は臓器形成のように活発に
細胞数を細胞分裂、増殖によって増やしていく必要がありますから
上述した脱落膜化における糖代謝は
活性度の高い癌細胞やエフェクター性の高い免疫細胞、
あるいは臓器形成と一定の代謝的な共通性を示すものかもしれません。
例えば、臓器形成においても報告は限られているものの
ラットでグルコース代謝になることが示されています(608)。
しかしながら、
同時に血糖値の制御能力の高さを必要とします(551)。
これはそれぞれの細胞内の酸化ストレス制御と関連があります。
血液中の糖の濃度を関連のある
インスリン感受性と臓器形成についてははっきりわかっていませんが、
妊娠女性が糖尿病に罹患していると
一般的に子どもが過剰に大きくなる(巨大児の)傾向があるようです(609,610)。
従って、糖と組織の成長は密接に関わり、
成長期における糖供給、糖代謝の健全性は
同様に健全な成長において重要である可能性があります。
例えば、子どもの脳が劇的に成長するのは
乳児期である2歳までですが、
この時にはグルコース源としては
母乳に含まれる乳糖(ラクトース)が挙げられます。
このラクトースは小児の小腸の絨毛で分泌されるラクターゼによって
グルコースとガラクトースに分解吸収されます。
このグルコースが成長の一つの重要な栄養素となっていると想定されます。
子どもの頃は消化能力が未熟なため、
大人のように炭水化物を消化して、糖の源とすることには
適していないとされています。
③免疫学因子
子宮内膜の免疫生成の重要性はより明らかになってきています。
②の生化学因子で記述した脱落膜成長における成長因子、サイトカインも
免疫学的因子の一環であると定義できます。
父親の抗原への暴露は子宮内膜の免疫機能を誘導します(611)。
精液には可溶性、エクソソームによる信号仲介物質が存在し、
白血球を誘導したり、炎症を抑えるための制御型T細胞を精製させます。
それにより血管生成を促進し、前述した父親の抗原に対する
寛容性が高まります(612)。
子宮が胎盤を形成し、脱落膜を拡張させる際には
血管生成と組織の健全な成長は欠かせません。
その時には免疫細胞やその免疫細胞を監視するシステムが必要です。
NK細胞や制御型T細胞は上述したように
胎盤や脱落膜形成において重要ですが、
その際に父親の異種の抗原が炎症要因となります。
この炎症はダイナミックな組織形成に悪影響を与える事が
高い確率で想定されます。
上述したようにその抗原への耐性を高めるためには
抗炎症性物質の生成を促す精液への定期的な暴露が必要です。
体外受精は妊娠高血圧腎症や早産のリスク因子ですが(551)、
体外受精の治療を受けている時に
その精子を持つ同じパートナーと性的関係を築くことは
着床の成功と妊娠時の健康を改善すると言われています(551,613-615)。
父親の抗原は母親にとってはある種、異物ですから
そのたんぱく質をコードする核酸を含めて
炎症性免疫惹起の原因となる可能性があります。
実際に父親の抗原とそのDNAは
妊娠高血圧腎症と重要な関連があるとされています(616,617)。
子どもの実の父親からの精液の繰り返される暴露、
つまり、同じパートナーとの性的関係の中で
母親の子宮、子宮内膜へ繰り返し精液が進入すると
妊娠高血圧腎症のリスクが下がることが示されました(618,621,622)。
但し、この関係性を見いだせないという
大規模なプロスペクテブ研究もあります(619)。
従って、生物学上の父親と高血圧腎症のリスクにおいて
性的関係の期間が影響を及ぼすかどうかについては
一定の懐疑を持つ必要があります。
しかし、Ee Min Kho(敬称略)らのコホート研究では
バリア避妊を行わず性的関係性を
実の父親と持った期間において
3か月以内に健康な出産を実現した人は
11,2%であるのに対して、
妊娠高血圧腎症に罹患した人は
18.3%であったとされています。
統計的に有意差があるほど高いデータになっています(620)。
一方で、バリア避妊を行う事が
妊娠高血圧腎症のリスクを下げると言われています(622)。
しかし、その場合、避妊具の使用によって
父親の抗原の(少なくとも一部の)浸入も防ぐことになります。
どのような性的関係を築くのが、
母子の健康において重要かというのはまとまらない状況ですが、
例えば、比較的高齢で結婚したパートナーで
交際期間が短く、できるだけすぐに子を授かりたいと
思っている人において、体外受精を考える際には
それ以前の一定期間、自然妊娠の為に
パートナーとの積極的な性的関係を築くことが重要であり、
Shu-Wing Ng(敬称略)らが述べるように
治療中もその関係性を維持する事が肝要であると想定されます。
次に脱落膜化の分子的な制御因子について説明します。
脱落膜化の過程ではその拡張に関連する脱落膜間質線維芽細胞に
分化するES細胞は固定的な組織化のために
間葉上皮転換(MET)が必要です。
その形質転換の中で以下のような遺伝子が導入されます。
◎HOXA10, HOXA11, FOXO1, WNT4, IGFBP1, and prolactin (PRL)
これらです(623-626)。
その信号変換経路は下記のようないくつかに分類されます。
①プロゲステロン受容体仲介のゲノム性プロゲステロン信号経路
②プロゲステロン受容体非依存の非ゲノム性プロゲステロン機能
③代謝制御因子
※プロゲステロン受容体仲介をnPGRと表記する
それぞれ1つずつ説明していきます。
①nPGR仲介のゲノム性プロゲステロン信号経路
nPGRは3-ketosteroid核受容体ファミリーの主要なメンバーです。
脱落膜化の間、
プロゲステロンとcAMP/PKA信号に反応します(627,628)。
このPGR信号ネットワークは
複数の異なる古典的信号経路によって構成されています。
下述するような多数の下流の制御因子に関与します(629)。
◎Indian hedgehog (IHH) (630)
◎Heart and neural crest derivatives-expressed (HAND2)(631)
◎Transcription factors Forkhead Box O1 (FOXO1)(632)
◎SPR-related HMG-box gene 17 (SOX17)(633)
◎STAT1, STAT3, STAT5(634)
※Signal transducers and activators of transcription (STAT)
◎Notch signaling(635)
◎Insulin receptor substrate 2 (IRS2)(636)
◎BMP2 and WNT signaling(637)
◎HOXA10(638)
◎CCAAT/enhancer-binding protein β (CEBPB)(639)
◎EGFR(640)
◎Mammalian target of rapamycin complex 1 (MTORC1)(641)
◎TNFα /NFκβ pathway(642)
※the tumor necrosis factor alpha-nuclear factor kappa-light-chain-enhancer of activated B cells’
これらの経路は胚-子宮、上皮-間質、間質-免疫細胞の
クロストーク、相互作用において重要な役割を果たします。
この精緻な相互性は着床前から生じます。
下述する様々な機能と関連します。
◎上皮間葉転換
◎インスリン抵抗性
◎Focal adhesion
※細胞とその周囲の基質との間に形成される、
特定の部位における細胞接着点
◎栄養膜芽細胞の浸潤
◎補体の制御
◎凝固カスケード
◎サイトカイン受容体同士の相互作用
◎生体異物の代謝
◎炎症反応
◎ECM受容体の相互作用
◎血管生成
◎アポトーシス
◎細胞骨格リモデリング
◎グリコーゲンの分泌
◎脱落膜マーカーの分泌(PRL, IGFBP1, PECAM-1, MPIF-1)
②nPGR非依存の非ゲノム性プロゲステロン機能
子宮内膜や妊娠に関連する組織の中で
(1)PGR被膜のPGRMC1, PGRMC2(642)
(2)Progestin and adiponectin受容体(PAQRs)(643)
これらは女性ホルモンであるプロゲステロンの
非遺伝子的機能を仲介するための変換経路を活性化します。
その時に以下の受容体などの物質と相互作用します
◎PGR(644)
◎Other steroid receptors (645)
◎Regulating endometrial receptivity(646)
◎Triggering and promoting parturition(647,648)
脱落膜化における被膜に関連するタンパク質の
機能的重要性についてはよくわかっていません。
しかしながら、nPGRに加えて
◎Glucocorticoid receptor (GR)
◎Mineralocorticoid receptor (MR)
◎Androgen receptor (AR)
これらの受容体は脱落膜化において重要な役割を果たします。
上述したAndrogen受容体は
◎細胞サイクルの制御に関連する抑制遺伝子
◎細胞骨格、細胞移動に関連する優性遺伝子の亢進
これらを伴う脱落膜化の特徴的な遺伝子の発現を制御します(649)。
さらに
ES細胞でのProgesterone/cAMPの誘導は
◎11β-hydroxysteroid dehydrogenase type 1 (11β-HSD1)
この酵素の発現を亢進させ、
それによってコルチゾールを活性化させます。
これにより脱落膜化に関与するES細胞の代謝制御に貢献します(650)。
ES細胞の脱落膜化はプロゲステロン刺激反応の
多経路の非冗長的な信号ネットワークの統合に関与します。
③代謝制御因子
上述した酵素である11β-HSD1の発現の亢進、
ES細胞の脱落膜化に関わる活性は
◎Glucocorticoid receptor (GR)の減少
◎Mineralocorticoid receptor (MR)の上昇
このようなバランス関係を実現します(650)。
MR依存的な遺伝子の亢進は脂質ドロップレットの生合成、
レチノイド代謝に影響を与えます。
例えば、 11β-HSD1酵素は
Dehydrogenase/reductase 3 (DHRS3) 発現を亢進させます。
それにより脂質ドロップレットのレチノール貯蔵を促進させます(650)。
レチノイン酸(RA)は妊娠の維持で重要で
その代謝は母体と胎児の境界において厳格に制御されています(651)。
ES細胞の脱落膜化は
このレチノールが結合する
タンパク質(RBP4, CYP26A1)の発現を上昇させます(652)。
妊娠の維持において重要なレチノイン酸代謝に関連します。
脂質仲介物質であるLysophosphatidic acid (LPA)は
ES細胞の脱落膜化における時空間の制御のために重要な
◎EGFR信号
◎COX2発現
◎Prostaglandin信号
これらを制御します。
COX2はその後、
◎Uterine peroxisome proliferator-activated receptor-delta (PPAR-δ)
◎Retinoid X receptor (RXR)
これらを活性化します。
これは脱落膜化、着床の制御の為に重要です(653)。
Omega-3 polyunsaturated fatty acidsは
多くの動物、人による臨床研究で妊娠において利益がある
ということが示されています(654)117。
受容体GPR120は強力な抗炎症性、インシュリン感受性効果を持ちます(655)。
このGPR受容体はES細胞の中で
下記を亢進する事で脱落膜化を促進します(656)。
◎FOXO1
◎Glucose transporter-1 (GLUT1)発現
◎Glucose uptake
◎Pentose-phosphate pathway activation
以上が③代謝制御因子です。
脱落膜化は活性酸素の生成、そのストレスの揺らぎがある中での
血管のリモデリングを伴います。
脱落膜線維芽細胞はこのような酸化ストレスを初め
細胞へかかるストレスに対抗できるようにプログラムされています。
胎児と母親の境界の組織、機能完全性の維持や
胎児の生存を維持するために
脱落膜線維芽細胞は様々なストレスに耐えられる
機能を有しています。
その耐ストレス機能ための抑制する分子メカニズムは以下です。
◎c-Jun N-terminal kinase(658)
◎Attenuated inositol trisphosphate signaling(659)
◎Resistance to microRNA-mediated gene silencing(660)
一方、亢進する分子メカニズムは
◎Free radical scavengers(661)
さらに、細胞ストレス耐性のためのグルコース感知のため
◎O-GlcNAcylation
これが関与します。
また、脱落膜化をストレスがある中で推し進め
組織として成長していくためには代謝機序が重要であり、
その中でも特にグルコースと脂肪酸の代謝機序が鍵となります。
それにおいてN-acetyl-glucosamineの改変が伴います。
ES細胞の脱落膜化の間、
◎Glycosyltransferase enzyme
◎EGF domain-specific O-linked N-acetylglucosamine transferase(EOGT)
これらの亢進が重要になります(662)。
以下に、microRNAとエピジェネティック制御因子について述べます(551).
試験管による脱落膜化前後のES細胞のmiRNAのプロファイリングによれば
26種のmiRNAが亢進されていました。
一方、以下のmiRNAが抑制されていました(663)。
◎miR-96, miR-135b, miR-181 and miR-183
このうち、miR-96とmiR-135bは
◎FOXO1, HOXA10, IGFBP-1
これらの分泌の抑制に関わります(663)。
従って、このmiRNAが抑制されるので
これらの物質の分泌が高められるということです。
FOXO1は制御型T細胞の活性において重要です。
上述した26種の亢進されたmiRNAの中にmiR-200ファミリーが含まれます。
◎IHH signaling
◎ZEB1(EMT制御因子)
これらの抑制と関連します(664)。
上皮間葉転換が抑えらえるのでES細胞が子宮内膜に入り込んで
安定的に脱落膜線維芽細胞に分化する過程において必要な機能である
と考えられます。
子宮内膜細胞はゲノムワイドクロマチンリモデリングを
脱落膜化の過程で経験します(665,666)。
◎The histone methyltransferase Enhancer of Zeste Homolog 2 (EZH2)
これがES細胞の脱落膜化の中で減少します(667)。
このEZH2の減少は
◎Trimethylated lysine 27 of histone 3 (H3K27me3)
これの減少依存的に妊娠初期において
炎症反応や収縮機能を抑制するとされています。
上述したことをまとめて説明すると
胚盤胞などに含まれるES細胞は間葉形質を持っていて
子宮内腔内、間質を活発に動く動性を有していますが、
着床し、妊娠に成功すると胎児の健全な成長のために
胎盤形成し、子宮内膜の脱落膜化によって
子宮を大きくさせる必要があります。
その際には脱落膜線維芽細胞と細胞外マトリックスなどが
組織の実質、骨格を形成し、
その割合が子宮が大きくなるにつれ増えていきます。
その脱落膜線維芽細胞に分化するのがES細胞で
この時、ES細胞は子宮内膜、脱落膜の組織の中に陥入する必要があります。
そのためには間葉形質から上皮形質に転換する必要があります。
ES細胞が脱落膜化のために上皮細胞としての機能を獲得すると
間葉型細胞の転換しないための分子メカニズムが働きます。
それによって、ES細胞は子宮内膜から脱落膜化する過程において
安定的に脱落膜線維芽細胞に分化することが可能になります。
脱落膜化の間、多数の遺伝子が働きます。
その遺伝子と紐づいた形で女性ホルモンや代謝経路が関わります。
組織を成長させていくときには
免疫細胞を精緻に調整し、バランスを取っていく必要があります。
従って、ブレーキ役の制御型T細胞が重要になり、
その細胞を誘導する一般的、普遍的な遺伝子
FOXO1などが活性化されます(657)。
Shu-Wing Ng(敬称略)らがFigure 2に示すように(551)、
ES細胞、分化後の脱落膜線維芽細胞も
炎症性免疫反応を抑える抗炎症性の機能は重要な要素の一つです。
それは父親の異種抗原に対する寛容性を高める働きもあります。
この免疫的な炎症によるストレスだけではなく、
活性酸素などによるストレスにも暴露されます。
従って、ES細胞や脱落膜線維芽細胞は
様々な種類のストレスに耐えられる機能を有しています。
また、組織を成長させていくためには
上述したように細胞が多くの糖を必要とするため
グルコースの取り込みを上げる必要があります。
しかし、それに付随して血糖値の制御も厳格に行う必要があるため
インシュリン感受性を上げるための経路、遺伝子も同時に働きます。
上述したような多様な機能が
遺伝子、ホルモン、代謝、栄養物質などが精緻に相互作用する事で
バランスがとられた形で実現すると解釈できます。
今挙げた遺伝子の作用の中には
遺伝子の転写効率に影響を与える多様なmiRNAも
協同的に作用し、健全な組織形成、機能形成の為、貢献します。
次に、Laura Lunghi(敬称略)らが総括する
人の栄養膜の機能の制御について
特に妊娠時の栄養膜の機能に焦点を当てて説明します(668)。
栄養膜は着床、胎盤形成において重要な役割を果たします。
着床時、胎盤形成時には子宮内膜など子宮の壁の組織は
顕著な変化を経験します。
ステロイド、ペプチド、プロスタノイドなどのホルモンによる
異なる制御分子によって生じます。
着床の間に合胞体栄養膜細胞(ST)が形成され、
母体組織に陥入されます。
その後、栄養膜の血管生成が生じます。
栄養膜細胞の制御は自己分泌、傍分泌の機序両方で駆動されます(668)。
上述したように妊娠中に生じる脱落膜化は
引き続き生じる栄養膜細胞の浸潤と胎盤の形成を制御します。
(A)Metalloproteinases
(B)Cytokine
(C)Surface integrins
(D)Major histocompatibility complex molecules
これらの制御因子が関わります。
従って、
◎タンパク質の分解(A)、
◎免疫機能(B,D)
◎細胞同士、組織との吸着機能(C)
これらが栄養膜の制御を通じた胎盤の形成において重要です。
栄養膜細胞は傍分泌の形式で
脱落膜間質細胞の遺伝子発現を修正します(669)。
さらに栄養膜細胞は
◎Prolactin(黄体ホルモン:妊娠維持)
◎Relaxin(黄体ホルモン:血管生成)
◎Renin(ホルモン:タンパク質分解酵素)
◎Insulin-like growth factor binding protein-1(IGFBP-1)(670,671)
(代謝、血管の恒常性機能)
◎Extracellular matrix(ECM)(※)(672)
(※)Laminin(着床と胎盤形成制御(673)),fibronectin(組織の接着(674))
これらの分子を分泌します。
ここで、妊娠時の細胞間ネットワークを整理するため、
傍分泌機序について付加的な調査を含めて、詳細に記述します。
上述したような傍分泌の様式は
分子そのものが露出された状態で他の細胞への
特異的な機能化を促す事も考えられますが、
エクソソームなど胞に包まれた状態で
細胞間を輸送するケースもあると想定されます(675)。
これらの傍分泌の様式は
◎栄養膜細胞⇒脱落膜細胞のベクトルだけではなく
◎脱落膜⇒栄養膜細胞という方向にも働き(676)
双方向性を持った状態で健全な妊娠を実現していると想定されます。
また、細胞外小胞(エクソソーム)は
microRNAを送達する機能を一般的に有しています(677)。
Shu-Wing Ng(敬称略)らの脱落膜化の総括の中でも説明されていたように(551)、
胚盤胞の着床から子宮内膜が脱落膜化していく過程において
多くのmiRNAが改変(亢進 or 抑制)されます。
従って、細胞外小胞は妊娠時においてmiRNAの改変における
細胞間コミュニケーションに関与している事が推測されます。
実際に細胞外小胞が細胞間コミュニケーションの
送達媒体の一つとして機能していると報告されています(678,680)。
一方で、このような細胞外小胞を介した傍分泌様の様式は
胎児に炎症物質を送達し、細胞種依存的な炎症反応の結果になります(679)。
Maria Ariadna Ochoa-Bernal(敬称略)らが
Figure 1に胚盤胞が子宮内膜に着床する物理的機序を
順に図示、記述しています(681)。
ES細胞、栄養膜細胞、免疫細胞(マクロファージ、NK細胞など)、
子宮内膜間質細胞、脱落膜線維芽細胞など、
その後に胎児に栄養を届ける、収容する
胎盤組織や脱落膜を子宮内に形成する際のコンポーネントとなる
細胞群は、自己分泌、傍分泌様に精緻に相互作用して、
発達段階に合わせて、機能を改変していくと想定されます。
その傍分泌様のメカニズムは
細胞から放出された分子が露出した状態で
他の細胞に届けられる形式も考えられますが、
上述したように細胞外小胞も傍分泌機序を支える
送達媒体として重要な役割を果たすと考えられます。
一方で、組織形成の炎症反応などが高まり、
妊娠の進行において何らかの病理、不全が存在する際にも
細胞外小胞はそれに関与している可能性が想定されます(679)。
以上が傍分泌に関する付加的な調査、考察になります。
母体から胎盤へ血液を輸送する螺旋動脈が拡張される際には
子宮内膜特異的な血管生成が生じます。
内皮細胞、平滑筋細胞の増殖が関与します。
上述したように胎盤組織の形成には免疫細胞が関わります。
その中でNK細胞の働きは重要で脱落膜化のプロセスで
その機能は亢進されます。
この子宮内に存在するNK細胞は
一般的に循環器に存在するNK細胞とは顕著に異なる性質を持ちます。
従って、子宮に特化した形で
◎Uterine NK cells(uNK)
このように定義されます。
一般的な細胞溶解活性は持たず(682)、
インテグリンを発現する事で
脱落膜化組織に移動、浸潤し、組織化に貢献します(672)。
このuNK細胞の数は妊娠後半には減少し、
分娩を迎えるときにはほとんど消滅します。
妊娠初期の脱落膜間質細胞と栄養膜細胞の間の
着床や胎盤形成における相互作用において
uNK細胞は重要な役割を担っていると推測されています(683)。
uNK細胞の引き寄せはホルモンによって制御され
着床時の胚には非依存的であるとされています(684)。
NK細胞やT細胞など他の免疫細胞の細胞毒性は
環境内に豊富に存在するTh2型の免疫細胞、
サイトカインによって抑えられています。
それによって胎児、栄養膜組織が守られています(685-687)。
胚盤胞が着床する際には
栄養膜細胞と子宮内膜組織が相互作用します。
胚盤胞の子宮壁組織への接着は
Selectins,Integrins,Trophininsなどの
接着分子の相互作用に依存します(688)。
これらの接着分子は栄養膜細胞と子宮上皮組織の
表面に発現しています。
その後、接着斑密度の減少と基底膜の消化によって
胚盤胞は脱落膜化が生じている子宮内膜へと浸潤し、
脱落膜間質細胞に着床します(688)。
このような組織の動的な変化は
ケモカインやサイトカインに誘導された
uNK細胞や骨髄系免疫細胞によってサポートされます(668)。
また、TGF-βやProstaglandinsも
上述したサイトカインを誘発し、
胚盤胞を子宮内膜へ引き付け、吸着させる機能があります(686)。
また、環境中に存在するケモカインは
免疫細胞を引き付けるだけではなく
G protein-coupled receptors仲介の信号を誘導させる事で
脱落膜化している子宮内膜上皮組織の
インテグリンの状態を改変し、活性化させ、
同じくインテグリンが発現されている胚盤胞が
フェブロネクチンを介して子宮内膜上皮組織に着床する事を促進します。
また、一般的に血管拡張作用があるNO(一酸化窒素)は
胚盤胞の着床の中で以下の複数の機能を有します(689)。
◎Prostaglandins release
◎Ovarian steroidogenesis
◎Uterine cell proliferation
◎Glandular secretion
◎blood flow
これらを改変し
◎Sex steroid
◎Growth factor
これらの活動を仲介します。
胚盤胞が着床するとすぐに
浮遊状態、固定状態(anchoring)の絨毛が形成されます。
絨毛の固定状態は
Evdokia Dimitriadis(敬称略)らがFig.2に示すような
脱落膜の組織に結合した状態を指すと理解しています(263)。
Wang Y(敬称略)らが説明するように(544)、
絨毛には下記の分類があります。
(1)Stem villi(絨毛幹)
(2)Immature intermediate villi(未成熟の中間絨毛)
(3)Mature intermediate villi(成熟した中間絨毛)
(4)Terminal villi(末端絨毛)
(5)Mesenchymal villi(間葉絨毛)
Laura Lunghi(敬称略)らは絨毛の発達段階は
これらの5つの要素を含む中で3段階あるとしています(668)。
3段階目に成熟すると絨毛の中の毛細血管も成熟し
胎児と母親の臍帯血を通じた物質の交換が行われます。
絨毛組織の拡大は多くの妊娠期間で生じるとされています(690)。
栄養膜細胞のサブタイプである
合胞体栄養膜細胞(ST)は内分泌活性を持っています。
◎Chorionic gonadotrophin(CG)
◎Placental lactogen (PL)
これらの妊娠の恒常性に関与するホルモンを放出します。
上述したように絨毛の側に層状に形成される
合胞体栄養膜細胞の他に
栄養膜芽幹細胞から分化される
絨毛外栄養膜細胞(EVT)があります。
幹細胞から合胞体栄養膜細胞、絨毛外栄養膜細胞の分化は
複数の仲介物質によって厳密に制御されています。
◎転写因子
◎特定の遺伝子
◎ホルモン
◎成長因子
◎サイトカイン
◎適正な酸素レベル
これらです。
胚盤胞の着床、胎盤形成、初期の胚形成が生じる
妊娠10週目までは周辺環境は低酸素状態であるとされています(691)。
上述したように酸素レベルは栄養膜細胞の分化に関わり、
低酸素状態では栄養膜芽幹細胞が
そのまま分化せず増殖しやすくなります。
従って、妊娠初期には栄養膜芽細胞が多く存在する事を意味します。
栄養膜細胞の分化は通常、厳格に制御されていますが、
低酸素状態が異常に長く続くと
妊娠高血圧腎症の病因の一つとなります。
HIF-1、TNF-αなども関わります(692)。
これにより絨毛のフィルター部に形成される
合胞体栄養膜細胞への分化が抑制されることで
妊娠が進んで絨毛の機能が重要になってきた段階で
フィルター部に異常が出る事で、
妊娠高血圧腎症につながる可能性があります。
栄養膜芽幹細胞からの分化を妨げる要因は
①低酸素
②HIF-1の亢進
③Hash-2の亢進
④Id-2の亢進
これらとなっています。
(参考文献(668) Figure 1)
従って、妊娠初期に生じる妊娠高血圧腎症では
上述した①~④の要素が複合的に病理として関連している
可能性があります。
ここからは
絨毛外栄養膜細胞(Extravillous trophoblast)の
機能について説明します(668)。
絨毛外栄養膜細胞は栄養膜芽幹細胞のシェルから分化して生じます。
初めに脱落膜に浸潤し、その後、
子宮壁を形成する平滑筋の間質組織に入ります(693)。
間質の栄養膜細胞として機能します。
Laura Lunghi(敬称略)らがFigure 2の赤色の領域に示すように(668)
平滑筋を血管生成の資源として
螺旋動脈を形成する必要があるので
この絨毛外栄養膜細胞は
平滑筋組織を改変する必要があります。
平滑筋領域の間質に浸潤した絨毛外栄養膜細胞は
この平滑筋を取り囲み、組織を破壊します。
そして、アモルファスの繊維素材料に変換します。
アモルファスとは構造として乱雑性の高いものである
と解釈できます。
従って、その後の組織形成の自由度を上げる構造となる
と理解しています。
次に、血管内皮の表現型を発現した絨毛外栄養膜細胞は
動脈の内腔に侵入し、血管の内皮を形成します(694)。
血管内皮に存在する絨毛外栄養膜細胞による
子宮内膜血管の浸潤は妊娠8週目には始まっています。
一方で、子宮壁の平滑筋領域への浸潤は
妊娠14週目あたりから始まります。
母体から胎盤へつなぐ血管生成のためには
血管生成因子が必要です。
その血管生成因子はAngiopoietinsとその受容体(Tie-2)です。
このTie-2は栄養膜細胞自身にも発現されています。
このAingopoietinは血管生成だけではなく
栄養膜芽細胞や絨毛外栄養膜細胞の増殖、移動を促進します(695)。
また、血管拡張作用のある一酸化窒素(NO)は
間質の栄養膜細胞によって合成、分泌されます(696)。
血管拡張だけではなく、血管の組織リモデリングにも
関与している可能性が想定されています。
しかし、これは豚のケースで
人の栄養膜細胞からはNOを合成する酵素は発現されていません(697)。
その代替の物質として一酸化炭素が
Hemoxygenase(酵素)を触媒として生成され、
全ての絨毛外栄養膜細胞に発現されています(698)。
これも一酸化窒素同様に血管拡張作用があります。
絨毛外栄養膜細胞はNK細胞の
◎サイトカイン
◎吸着分子
これらを改変します。
その改変はMHC-I(HLA-C,E,G)によって
NK細胞の
◎The killer immunoglobulin receptor (KIR) family
これに結合することによって生じます(699)。
上述したように間質の絨毛外栄養膜細胞は
脱落膜よりも深部にある平滑筋領域に侵入し、
そこでGiant cellsを形成するために融合します(700)。
絨毛外栄養膜細胞は主に吸着機能を高め、
子宮内の平滑筋領域に浸潤しやすくするための
以下のタンパク質の発現を亢進させます。
◎Matrix metalloproteinase (MMP)
◎α5β1 integrin
◎α1β1 integrin
◎VE-cadherin
◎Trophoblast specific HLA class 1 molecule (HLA-G)
これらです。
これらは吸着、浸潤機能を上げるだけではなく
胎児の拒絶反応を防ぐための役割を担うかもしれない
とされています(668)。
一方で、絨毛外栄養膜細胞が子宮内膜深部へ浸潤するときには
表層に近い脱落膜との結合性を下げる必要があります。
◎α6β4 integrin
◎E-cadherin
これらの発現は抑制されます(701)。
α6β4インテグリンは表層の子宮内膜に発現されている
インテグリンであるということが確認されています(702)。
ここから
インテグリン、カドヘリンの機能と
絨毛外栄養膜細胞の機能について総合的に考察します。
妊娠初期の胎盤形成の際に活発な動性を持つ
絨毛外栄養膜細胞があります。
これは絨毛の外の栄養膜細胞で
胎盤の特に螺旋動脈の内皮、入り口の組織形成、機能において
重要な役割を持ちます(263)。
胎盤形成、母体から供給される血液の流路形成のためには
脱落膜とその内側、深部にある平滑筋層を改変する必要があります。
その胎盤の入り口となる血管は螺旋動脈と呼ばれます。
Evdokia Dimitriadis(敬称略)らが
Fig.2aに図示するように(263)
脱落膜/平滑筋領域が層となり
それを貫通するように螺旋動脈が形成されます。
Laura Lunghi(敬称略)らがFigure 2に図示するように(668)
絨毛外栄養膜細胞は
脱落膜/平滑筋領域の2層共に存在します。
平滑筋領域ではGiant cellに融合して変化します(700)。
螺旋動脈を形成する過程で絨毛外栄養膜細胞は
元々は最表層側に形成される絨毛の栄養膜芽細胞の殻(シェル)から
分化されて移動してきます。
従って、螺旋動脈の血管生成をし、
胎盤と母体の血液をつなぐためにはより
組織の深部に移動する必要があります。
その時には周辺には間質細胞などが
足場として存在することが考えられ、
その足場との吸着状態を変える事が
層化した組織内の移動のためには必要です。
そのために絨毛外栄養膜細胞は吸着分子である
◎インテグリン
◎カドヘリン
これらのタイプを変更して、吸着状態を変えて
深部への浸潤性を高める事ができます。
具体的には上述したように
◎α5β1 integrin
◎α1β1 integrin
◎VE-cadherin
これらの発現を高め、
◎α6β4 integrin
◎E-cadherin
これらの発現を抑制します。
α6β4 integrinは子宮内膜に発現されているインテグリンです(703)。
α5β1 integrinを含めβ1は妊娠時の平滑筋細胞に多く発現
されているインテグリンです(703)。
同じインテグリン同士を持つ細胞が
間質に存在するフェブロネクチンを介して
固定されると想定すると
α6β4 integrinの抑制によって脱落膜化した子宮内膜と
絨毛外栄養膜細胞の接着性が低下し、
β1 integrinの亢進によって平滑筋と
絨毛外栄養膜細胞の接着性が高まることで
統計的に絨毛外栄養膜細胞は多く深部の平滑筋領域に
移動すると考えられます。
一方、
VE-Cadherinは血管内皮に多く発現されています(704)。
E-cadherinは絨毛や脱落膜にある栄養膜細胞に多く発現されています(705)。
平滑筋の血管生成においてVE-cadherinは
一般的に血管内皮に多く発現しているので
その領域に絨毛外栄養膜細胞を固定する上で
重要な機能があるかもしれません。
従って、インテグリン、カドヘリンの型によって
組織的に層状となっている比較的狭い領域において
細胞向性の機能を持たせることができ、
それは妊娠時の生体内に備わった機能として存在しています。
ここで
Laura Lunghi(敬称略)らの総括(668)に戻ります。
上述した絨毛外栄養膜細胞の機能は環境内の酸素濃度の影響を受けます。
酸素濃度が下がり、低酸素状態になると
絨毛外栄養膜細胞の浸潤性は抑制されます(706-708)。
その理由はインテグリン発現パターンが
修正されるからです(708)。
一方、絨毛外栄養膜細胞の浸潤性を高める因子は
◎Urokinase-type plasminogen activator(uPAR)
◎Plasmin
◎Latent MMP
これらの活性化です(709)。
胚盤胞の着床、胎盤形成、初期の胚形成が生じる
妊娠10週目までは周辺環境は低酸素状態であるとされています(691)。
従って、この時期に重要な栄養芽細胞の分化と浸潤は
低酸素状態の影響を受けないとされています(706)。
上述した絨毛外栄養膜細胞の改変は
複数の因子による複雑な現象によって支えられています。
これは妊娠初期の現象なので、
人はもちろん動物などのin vivo(生体内)のデータは不足しています。
多くはin vitro(試験管内)ですが、
Laura Lunghi(敬称略)らは総括(668)のTable 1にまとめているので
それを引用させていただきます。
※()内は分泌元、up:亢進 down:抑制
<①絨毛外栄養膜細胞の増殖>
(3)Colony Stimulating Factor-1(←胎盤、脱落膜)(up↑)(713)
(4)Decorin(←脱落膜)(down↓)(714)
(5)Epidermal Growth Factor(←栄養膜、脱落膜)(up↑)(715)
(12)Nodal(←胎盤)(down↓)(722)
(15)Prostaglandin E2(←栄養膜、脱落膜)(down↓)(712)
(17)Placental Growth Factor(←栄養膜)(up↑)(725)
(18)TGF-β(←栄養膜、脱落膜、uNK細胞)(down↓)(715,718)
(20)VEGF(←栄養膜、脱落膜)(up↑)(727)
<②絨毛外栄養膜細胞の移動>
(1)Adhesion molecules(←栄養膜)(up↑/down↓)(710)
(2)Angiopoietins(←栄養膜、脱落膜)(up↑)(709)
(4)Decorin(←脱落膜)(down↓)(714)
(6)Endothelin(←胎盤血管、3種栄養膜細胞)(up↑)(716)
(7)Hepatocyte Growth Factor(←栄養膜、脱落膜)(up↑)(717)
(8)Insulin-like Growth Factor II(←栄養膜)(up↑)(718,719)
(9)Insulin-like Growth Factor Binding Protein-Ⅰ(←脱落膜)(up↑)(718,719)
(10)Melanoma Cell Adhesion Molecule(←平滑筋)(down↓)(720)
(14)Urokinase-type Plasminogen Activator(←栄養膜)(up↑)(723)
(15)Prostaglandin E2(←栄養膜、脱落膜)(up↑)(711)
(15)Prostaglandin E2(←栄養膜、脱落膜)(down↓)(712)
(18)TGF-β(←栄養膜、脱落膜、uNK細胞)(down↓)(715,718)
(19)TNF-α(←脱落膜、uNK細胞、マクロファージ)(726)
<③絨毛外栄養膜細胞の浸潤>
(1)Adhesion molecules(←栄養膜)(up↑/down↓)(710)
(4)Decorin(←脱落膜)(down↓)(714)
(5)Epidermal Growth Factor(←栄養膜、脱落膜)(up↑)(715)
(7)Hepatocyte Growth Factor(←栄養膜、脱落膜)(up↑)(717)
(8)Insulin-like Growth Factor II(←栄養膜)(up↑)(718,719)
(9)Insulin-like Growth Factor Binding Protein-Ⅰ(←脱落膜)(up↑)(718,719)
(11)Metalloproteinases(←栄養膜)(up↑)(721)
(13)Hypoxia(環境全体)(up↑/down↓)(708,709)
(14)Urokinase-type Plasminogen Activator(←栄養膜)(up↑)(723)
(16)8-iso-PGF2α(←脱落膜)(down↓)(724)
(18)TGF-β(←栄養膜、脱落膜、uNK細胞)(down↓)(715,718)
<※1:それぞれ分子の機能>
(1)Adhesion molecules(吸着分子)
((一般的機能))
他の細胞や細胞外マトリックスの結合する表面タンパク質。
一般的には「Cell adhesion molecules(CAMs)」と呼ばれます。
例えば
(A):IgSF CAMs(Immunoglobulin superfamily)
(B):Integrins(インテグリン)
(C):Cadherins(カドヘリン)
(D):Selectins(セレクチン)
これらがあります。
((絨毛外栄養膜細胞における機能))(728)
(A)IgSF CAMs
Platelet-endothelial cell adhesion molecule-1(PECAM-1,CD31)が
螺旋動脈内皮細胞に排他的に発現されています。
従って、絨毛や絨毛外栄養膜細胞に発現がみられません(729,730)。
Melanoma cell adhesion molecule(Mel-CAM,CD164)は
絨毛外栄養膜細胞に発現され、
他の栄養膜細胞には発現されていません(731,732)。
Vascular cell adhesion molecule-1(VCAM-1)は
着床過程でその発現状態を変化させます。
これは子宮の環境内では
脱落膜基底組織内の血管内皮細胞で見られます(733)。
間質、内皮に存在する絨毛外栄養膜細胞両方で
このVCAM-1の発現がみられます(734)。
Intercellular adhesion molecule-1(ICAM-1)を含めて、
PECAM-1, VCAM-1, ICAM-1は
主に螺旋動脈の内皮組織に発現がみられ
絨毛外栄養膜細胞を螺旋動脈の内皮組織に
引き付けるための重要な役割を果たします(728)。
(B)Integrin(インテグリン)
絨毛外栄養膜細胞のインテグリン発現の低酸素状態は
妊娠高血圧腎症の絨毛外栄養膜細胞の浸潤の深さの改変に
影響を与えうるとして注目されてきました。
絨毛外栄養膜細胞の分化は
細胞が細胞外マトリックスに結合するにつれて進みます。
インテグリンα1の亢進は
低酸素状態である酸素2%では生じません。
これは絨毛外栄養膜細胞の移動度を下げる事と関連します(735,736)。
これはHIF1αによって制御されていると考えられています(737)。
上述したようにα1インテグリンは
絨毛外栄養膜細胞が螺旋動脈形成の為に
子宮壁の深部である平滑筋領域に移動するために
亢進させる必要のあるインテグリンです。
このα1へのインテグリンのスイッチが
低酸素状態で抑制されると
絨毛外栄養膜細胞の螺旋動脈形成の為の
適切な移動を抑制します。
低酸素状態が異常に長く続くと
妊娠高血圧腎症の病因の一つとなると考えられていますが、
その病理の一つはこの事に基づくかもしれません。
低酸素状態に活性化するHIF1α以外にも
このα1インテグリンのスイッチに影響を与える要因は
◎Vascular endothelial growth factor (VEGF)
◎Signaling through VEGF receptor-1 (VEGF-R1)
◎VEGFR-3
これらがあり、これらの血管生成因子が抑制されると
α1インテグリンの発現は減少します(738)。
◎インスリン様成長因子(Insulin-like growth factors)
◎インスリン様成長因子結合タンパク質1
(The insulin-like growth factor binding protein-1(IGFBP-1))
栄養膜細胞の移動を促進します(739)。
IGFBP-1はα5β1インテグリンに結合するRGDドメインを持ち
フェブロネクチンと結合している
絨毛外栄養膜細胞との結合を切り、
その移動性を高めたことが
試験管のケースで示されました(740)。
一方、胎盤に発現されているテトラスパニンCD9は
α3, α5インテグリンと関連があり
栄養膜の吸着を制御します。
上述したように
α5β1 integrinを含めβ1は妊娠時の平滑筋細胞に多く発現
されているインテグリンです(703)。
従って、α5のインテグリンは平滑筋領域への移動は重要ですが、
元々の起点に吸着している絨毛外栄養膜細胞を
固定から開放し(結合を切断し)、
移動させる付加的な機序が必要です。
上述したIGFBP-1はもともと脱落膜の間質の組織に固定されていた
絨毛外細胞を固定から開放し、移動するための起点において
重要な役割を果たすものかもしれません。
絨毛外栄養膜細胞は試験管内で
細胞膜表面に発現されているインテグリンと結合性を示す
フェブロネクチンを分泌する事が試験管のケースで知られています(741-743)。
浸潤性の有無によって絨毛外栄養膜細胞から放出される
フェブロネクチンの量は異なります。
浸潤性が高いα6インテグリンを発現している
絨毛外栄養膜細胞はほとんどフェブロネクチンを分泌しません。
一方、浸潤性の低いα5インテグリンを発現している
絨毛外栄養膜細胞は多くフェブロネクチンを分泌します(744)。
従って、絨毛外栄養膜細胞自身が
移動性を決める一つの重要因子である
トラップされる足場、細胞外マトリックスの状態を改変している
ということです。
αvβ3インテグリンは活発な血管生成において
重要なインテグリンのサブタイプであることは
広く知られています(745)。
従って、血管からより多くの糖などの栄養を必要とする
増殖度の高い腫瘍組織で血管生成される際に
αvβ3インテグリンは高まり、
それをインテグリン仲介の薬物送達システムに
応用する研究も活発に行われています(746)。
それを含めてβ5, β1インテグリンは
絨毛にある合胞体栄養膜細胞を血管生成のための
子宮螺旋動脈内皮組織に移動させるための重要な吸着因子です(747)。
妊娠高血圧腎症では螺旋動脈の出口付近の狭窄が
見られることがあります。
(参考文献(263) Fig.2b)
この原因は上述したようにα1インテグリンのスイッチが
絨毛外栄養膜細胞で抑制される事と
今述べた合胞体栄養膜細胞でαvβ3, α1β1へのスイッチが
抑制されることが一つであると考えられます。
その状況ではα6β4の発現が続くとされています(748-750)。
しかし、β1インテグリンの発現活性は
必ずしも妊娠高血圧腎症の病理とはつながらない
という報告もあります(751)37。
(C):Cadherins(カドヘリン)
VEカドヘリンは血管内皮細胞のマーカーであり、
絨毛外栄養膜細胞が螺旋動脈内皮に引き付けられる機序において
VEカドヘリンの細胞表面発現は重要になります。
実際に間質に存在する絨毛外栄養膜細胞や
螺旋動脈内皮細胞に発現している事が確認されています(766-768)。
浸潤性の栄養膜芽組織において
このVEカドヘリンの発現が不足していると
妊娠高血圧腎症に繋がる事が報告されています(766,767,769)。
逆にEカドヘリンの発現が維持されているとされています(770)。
カドヘリン-11は細胞柱の先端に位置する
絨毛外栄養膜細胞に発現されています(771)。
カドヘリン-11の機能ははっきりとわかっていませんが、
栄養膜細胞が子宮内膜層など母体の間質細胞に吸着する上で
重要な役割を持っているかもしれないとされています。
従って、子宮内膜の脱落膜化において重要で
この過程でカドヘリン-11は発現が亢進されます(772)。
一方、Dysadherinは細胞の表面糖たんぱく質で
細胞同士の吸着力をさげ、移動性を上げるのに貢献します。
栄養膜芽細胞が細胞柱へ移動するときに
このDysadherinの発現が亢進されます(773,774)。
(D):Selectins(セレクチン)
E-セレクチンとP-セレクチンは
・基底脱落膜(Decidua basalis)の血管内皮に発現
・側壁脱落膜(Decidua parietalis)の血管内皮に発現なし
このように脱落膜の場所によって異なります(775)。
Shu-Wing NgらがFigure 1に示すように(551)
基底脱落膜は胎盤の下部の基盤となる部分、
側壁脱落膜は子宮腔(Uterine cavity)の外側の部分になります。
これらE-セレクチンとP-セレクチンは
栄養膜細胞の血管内皮への移動、浸潤に関与します。
このように基底脱落膜の血管内皮発現されている理由は
基底脱落膜には太い螺旋動脈があり、
胎児の成長が伴う中で、その機能を維持するためには
血管内皮の栄養膜細胞が多く必要であるからであるかもしれません。
従って、E-セレクチンやP-セレクチンに限らず、
カドヘリン、インテグリンに関しても
絨毛外栄養膜細胞に対して血管内皮向性を持たせる
サブタイプのタンパク質は
基底脱落膜に多く、側壁脱落膜に少ないかもしれません。
側壁脱落膜は臍帯から遠く、
多くの血管が存在しないと考えられるからです。
(参考文献(551) Figure 1より)
一方、
L-セレクチンは絨毛外栄養膜細胞に強く発現されています。
細胞柱の構造を維持するために重要な役割を担っている
可能性があります(776)。
(2)Angiopoietins(アンジオポエチン)
((一般的機能))
脈管形成あるいは血管新生を促進する糖たんぱく質です。
脈管形成は胚形成期に血管がないところに新たに血管が作られる事。
血管新生は既存の血管から新たな血管が分岐し伸長する事。
これらです。
((絨毛外栄養膜細胞における機能))
Angiopoietin-2 (Ang-2)は
栄養膜細胞に発現されている受容体Tie2とIntegrin。
これら両方の発現の活性化を通して
絨毛外栄養膜細胞の浸潤を促します。
Ang-2発現の改変は、絨毛外栄養膜細胞の浸潤のバランスを崩し、
螺旋動脈の組織リモデリングの異常につながるとされています(777)。
(3)Colony Stimulating Factor-1(コロニー刺激因子,CSF-1)
((一般的機能))
単球、マクロファージ、および骨髄前駆細胞の増殖、
分化、生存に関与する造血成長因子です(778)。
((絨毛外栄養膜細胞における機能))
外因的にCSF-1を加えると絨毛外栄養膜細胞の増殖は促進されます。
この細胞成長刺激効果はc-fmsと相互作用する事によって起こります。
この細胞成長刺激効果は浸潤性を有する栄養膜細胞において生じ、
その様式は傍分泌、自己分泌に依る可能性があります(779)。
(4)Decorin(デコリン)
((一般的機能))
ロイシンリッチのプロテオグリカン(Small leucine-rich proteoglycan)。
このファミリーに属します。
デコリンは原線維の形成に影響を及ぼします。
◎Fibronectin,
◎Thrombospondin
◎The complement component C1q
◎Epidermal growth factor receptor(EGFR)
◎Transforming growth factor-beta(TGF-beta)
これらと相互作用します。
デコリンの主な機能は細胞サイクルの制御です。
オートファジー、内皮細胞を制御します。
その中で血管生成を抑制します。
この血管生成抑制の際には
血管成長因子であるVEGFR2と高い親和性で相互作用します。
◎Epidermal growth factor-receptor (EGF-R)
◎IGF receptor-1(IGFR1)
これらとも相互作用します(780)。
((絨毛外栄養膜細胞における機能))
デコリンはTGF-βと結合する事で
絨毛外栄養膜細胞の増殖、移動、浸潤の
負の制御因子となっています(780)。
また移動に関してはVEGF-Eとも相互作用します。
従って、Laura Lunghi(敬称略)らがTable 1で示すように(668)
デコリンは通常は絨毛外栄養膜細胞に対しては
その分泌、相互作用は抑制されています。
このデコリンは
◎妊娠高血圧腎症
◎栄養膜細胞低浸潤性疾患(a trophoblast hypoinvasive disorder)
◎血管形成不全
これらの病理と関わっています(780)。
(5)Epidermal Growth Factor(上皮成長因子,EGF)
((一般的機能))
上皮成長因子は上皮成長因子受容体(EGFR)と結合し、
細胞の増殖、分化、生存に関わります(781)。
((絨毛外栄養膜細胞における機能))
上皮成長因子の補充によって絨毛外栄養膜細胞の増殖は
刺激されませんでした(782)。
一方、妊娠期間8-10週において
hCGの産生は補充容量依存的に亢進されました(782)。
一方、5-6週ではこの効果はありませんでした。
このhCG(Human chorionic gonadotropin)によって
黄体からプロゲステロンが放出されるようになります。
これにより子宮内によって組織として厚い血管形成、
胎児の成長をサポートします(783)。
従って、上皮成長因子によるhCGの産生量増加により
子宮の血管組織の完全性や胎児の成長を促すと考えられます。
(6)Endothelin(エンドセリン)
((一般的機能))
血管を収縮させ、血圧を上げる作用があります。
従って、過剰発現すると高血圧や心臓病などにつながります(784,785)。
((絨毛外栄養膜細胞における機能))
Endothelin-1は胎児と母体の境界、つまり胎盤などで産生され、
その受容体であるET(A), ET(B)は
絨毛外栄養膜細胞の機能に影響を与えます。
外因的にEndothelin-1を与えると、
絨毛外栄養膜細胞の増殖には影響を与えませんでしたが、
移動能力を高める効果があります(786)。
(7)Hepatocyte Growth Factor(肝細胞増殖因子,HGF)
((一般的機能))
傍分泌様の細胞成長、移動、形態発生因子(Morphogenic factor)。
これらに関与します。
間葉系幹細胞によって分泌され、
上皮細胞や内皮細胞に働きかけ、
◎未発達の臓器形成
◎筋形成
◎臓器の再生
◎創傷治癒
これらにおいて重要な役割を果たします(787)。
間葉系幹細胞は皮膚などの創傷治癒に関与します(794,795)
また、造血幹細胞やT細胞にも働きかけます。
このようなHGFを介した創傷治癒の機序は
エクソソームなど傍分泌様にも働くことが確認されています(796)。
このHGFはc-Met受容体に結合後、
チロシンキナーゼ信号カスケードを活性化させる事によって
臓器形成、再生、治癒に関わる
細胞の成長、移動、形態発生を制御します(788,789)。
((絨毛外栄養膜細胞における機能))
肝細胞増殖因子(HGF)は栄養膜細胞の移動性、浸潤能力を
上昇させる因子であり、一酸化窒素合成酵素と共同的に働きます。
従って、この一酸化窒素の産生が抑制されると
HGF依存的な栄養膜細胞の移動性、浸潤性は失われます。
また、MAPK, PI3キナーゼ信号経路は
HGFによって促進された栄養膜細胞の移動性において
重要な役割を果たします(790)。
(8)Insulin-like Growth Factor II(インスリン様成長因子2,IGF-2)
((一般的機能))
IGF-1は大人の主な成長因子であるのに対して
IGF-2は主に胎児の成長因子であると考えられています(791)。
従って、妊娠の間に促進される成長ホルモンの一つです。
IGF-2はIGF-1とIGF-2の受容体両方に結合することができます。
IGF-2は月経周期の卵胞期の間、卵母細胞を包む
顆粒膜細胞(granulosa cell)の増殖を促進します(792)。
黄体期ではプロゲステロンの分泌を促進します。
((絨毛外栄養膜細胞における機能))
IGF-2 mannose 6-phosphate receptor (IGF-2/M6PR)軸の活性化によって
栄養膜細胞の浸潤性を上げる事ができます。
ヒト絨毛性ゴナドトロピン(Human Chorionic Gonadotropin,HCG)。
これと協同的に働き、
HCGの亢進は絨毛外栄養膜細胞とIGF-2の結合性を上げます。
これは結合サイトの増加によります。
IGF-2自身は絨毛外栄養膜細胞の移動性の向上は寄与しませんでしたが、
上述したHCGと合わせて働くことにより
絨毛外栄養膜細胞の移動性を向上させました(793)。
(9)Insulin-like Growth Factor Binding Protein-Ⅰ(IGFBP1)
(インスリン様成長因子結合タンパク質1)
((一般的機能))
このタンパク質はインスリン様成長因子1,2両方と結合します。
生殖機能、代謝機能、インスリン感受性などに影響を与えます。
生殖機能では卵母細胞の成熟、胎児の成長に関わります。
このタンパク質が不足はグルコース寛容性の異常、
高血圧などの血管、血液疾患に関連します。
((絨毛外栄養膜細胞における機能))
IGFBP1は
◎Mitogen-activated protein Kinase pathway(MAPK)(*1)
(*1)MAPKは
Mitogens, osmotic stress, heat shock, proinflammatory cytokines
これらの刺激を受けて以下の細胞の反応に関与します。
Proliferation, gene expression, differentiation, mitosis, survival, apoptosis。
これらです(801)。
◎α5β1 integrin(*2)
(*2)α5β1 integrinを含めβ1は妊娠時の平滑筋細胞に多く発現
されているインテグリンです(703)。
これらを通じて絨毛外栄養膜細胞の移動を促進させます(800)。
(10)Melanoma Cell Adhesion Molecule(MCAM)
((一般的機能))
内皮細胞のマーカーとして利用される
免疫グロブリンスーパーファミリーに属する細胞吸着分子です。
MCAMはラミニンα4の受容体として機能します(802)。
血管内皮、平滑筋、周皮細胞に多く発現されています。
((絨毛外栄養膜細胞における機能))
MCAMは絨毛外栄養膜細胞の移動と浸潤を抑制する働きがあります(803)。
(11)Metalloproteinases(金属プロテアーゼ)
((一般的機能))
金属が関与するタンパク質分解酵素です。
例えば、この金属プロテアーゼの一種であるADAM12は
胚成長の間の筋肉細胞の融合において重要な役割を果たします。
((絨毛外栄養膜細胞における機能))
この金属プロテアーゼは
Endocrine gland derived-vascular endothelial growth factor
(EG-VEGF)。
これと協同的に働き、絨毛外栄養膜細胞の浸潤能力を強化させます(804)。
(12)Nodal
((一般的機能))
Nodal signalingは中胚葉、内胚葉の形成、
その後の「Left-right axial structures(左右軸構造)」
など初期の発達において重要な役割を果たします(805-807)。
この胚発生段階において、上述した左右軸構造は
その後の臓器の位置、方向、形成される組織の配置に重要な影響を与えます。
((絨毛外栄養膜細胞における機能))
Activin/nodal signalingの抑制によって絨毛外栄養膜細胞が形成されます。
一方で、この信号が維持されると
合胞体栄養膜細胞の形成が促進されます(808)。
(13)Hypoxia(低酸素状態)
((一般的機能))
低酸素状態は病理状態として度々扱われますが、
動脈の酸素濃度の変化は一般的な生理学の一部です。
例えば、高強度の運動の時にはこのような状態になります。
((絨毛外栄養膜細胞における機能))
低酸素状態は絨毛外栄養膜細胞の浸潤を促進します。
それはuPA-uPAR経路の誘導に依ります(809)。
(14)Urokinase-type Plasminogen Activator(uPA)
(ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子)
((一般的機能))
これはタンパク質内のぺプチド結合を分解する酵素である
セリンタンパク質分解酵素です。
血栓融解や細胞外マトリックスの分解に関与します。
((絨毛外栄養膜細胞における機能))
上述したように低酸素状態によって
この活性化因子と受容体軸(uPA-uPAR経路)が誘導され
絨毛外栄養膜細胞の浸潤が強化されます(809)。
(15)Prostaglandin E2(プロスタグランジンE2)
((一般的機能))
生理活性物質であるプロスタグランジンの一種であり、
PGE受容体を介して発熱や破骨細胞による骨吸収、
分娩などに関与しています。
((絨毛外栄養膜細胞における機能))
プロスタグランジンE2が脱落膜内に豊富にあると
妊娠初期3か月において絨毛外栄養膜細胞の移動能力が向上します。
この時絨毛外栄養膜細胞内のカルシウム濃度が向上
カルパインが活性化されます。
RHO GTPasesであるRAC1、CDC42が
絨毛外栄養膜細胞の移動性を向上させる事に寄与します(810)。
(16)8-iso-PGF2α(PGF2αのアイソフォーム)
((一般的機能))
PGF2αは宮内のオキシトシン濃度の上昇に応じて放出され、
黄体融解とオキシトシンの放出の両方を刺激します。
黄体の分解を促進するという証拠があります(811)。
PGF2αのアイソフォームである8-iso-PGF2α
子宮内膜症患者で有意に増加している事が確認されており、
子宮内膜症に関連する酸化ストレスの原因となる
可能性が指摘されています(812)。
((絨毛外栄養膜細胞における機能))
PGF2αによって絨毛外栄養膜細胞の移動と浸潤能力は
高まります(813)。ただし、8-iso型のアイソフォームは
栄養膜細胞の浸潤を下げると報告されています(814)。
(17)Placental Growth Factor(PlGF)
((一般的機能))
PGFは血管内皮成長因子(VEGF)のメンバーです。
従って、血管生成、脈管生成において重要な因子で
特に胚形成の時期に働きます。
妊娠中のPGFの主な資源は胎盤栄養膜細胞であり、
絨毛の栄養膜細胞において発現されてます(815)。
((絨毛外栄養膜細胞における機能))
外因的にPlGFを加えると絨毛外栄養膜細胞の
増殖は投入量依存的に強化されますが、
そのためには
◎Heparan sulphate proteoglycans(HSPGs)
これが必要であるとされています。
しかしながら、移動と浸潤には影響がありませんでした(816)。
((妊娠高血圧腎症との関連))
一方で、このPlGFは
妊娠高血圧腎症の予知、診断、治療において
重要な分子であるという認識が高まってきています(817)。
循環器における(血清や尿)PlGFの量が少ないことは
◎妊娠高血圧腎症
◎子宮内胎児発育遅延(Intrauterine growth restriction)
これらの前触れとなります。
PlGFの低下は異常な胎盤形成のマーカーとなります。
しかし、その因果。
つまり少量PlGFが原因で上述した妊娠時の疾患の原因となるか
それとも妊娠時の疾患(初期の胎盤異常形成など)が原因で
PlGFが少なくなるか?
それについては明らかではありません(817)。
上述したように事前にPlGFをマーカーとすることで
それが少ないと前触れの現象であるので
妊娠高血圧腎症を予測することができます。
但し、人のケースにおいて血管生成因子単独の
妊娠高血圧腎症の予測精度は決して高くありません。
その感度(Sensitivity)は32%です(823)。
従って、
◎sFLT-1:PlGF比
◎超音波検査
◎平均、動脈血圧
◎Uterine artery pulsatility index
◎PAPP-A
これらの組み合わせの検討余地が残されています(824,825)。
しかし、これらの診断は現時点では一般的ではありません。
一方、
動物のモデルではPlGFが不足している場合、
そのPlGFを補充すれば、
妊娠高血圧腎症の治療として利用できたことが示されています(817)。
但し、用量をよく考えて補充する事を検討しないと
PlGFは血管生成、脈管形成因子であるので
癌、動脈硬化、リウマチ性関節炎など
副作用が出る可能性があることを考慮する必要があります(818)。
K Chau(敬称略)らが総括の中で記載されているように(817)、
PlGFは胎盤以外の心臓、肺、甲状腺、肝臓、筋肉、骨では
あまり多くは見られません。
これは妊娠していないケースでも同様ですが、
癌組織は巧みに多様な様式で血管生成する機序があり、
通常の血管生成因子(VEGF)だけではなく
このPlGFも特異的に発現がみられるとされています(818,819)。
従って、将来的に妊娠高血圧腎症を予防的に治療するために
PlGFが少ない人に対して、これを補充するときには
裏の側面として癌を誘発する可能性がある事を
少なくとも考慮する必要があります。
加えて、sFLT-1のレベルも同時に検査対象となります(817)。
胎盤の血管生成に必要な物質なので、
どこからPlGFを補充するかも検討項目になるかもしれません。
現時点ではPlGFが人の生殖において
どのように機能しているかは
病理との因果も含めて理解の途上にあります(817)。
また、K Chau(敬称略)らがFigure.2で示すように(817)
妊娠期間においてずっとPlGFは発現されており、
その量は、満期まで経時的に変化し
おおよそ妊娠期間30週でピークを迎えます。
そうするとPlGFが妊娠初期で不足しているから
それを補充するといっても、
どれくらいの期間、補充しないといけないのか?
そのような問題も出てきます。
なぜなら、遺伝子的にPlGFが分泌されにくい人もいる
可能性があるからです(820)。
このような視点では
どのような機序でPlGFが発現制御されているか?
それを理解することが重要になります。
それは現時点では理解の途上にあるとされています(817)。
その中で候補となる関連メカニズムは
①Endoplasmic reticulum stress
②Hypoxia-inducible factor-1α(HIF1-α)のエピジェネティック変化
しかしながら、②の低酸素状態で生じるHIF-αは
栄養膜細胞の成長の中でPlGFに与える影響は
議論の余地があるとされています(821,822)。
(18)TGF-β(トランスフォーミング増殖因子-β)
((一般的機能))
こえは全ての白血球によって産生されるタンパク質であり、
免疫機能と深い関わりがあると考えられます。
特に腸で炎症プロセスの制御を行っています(826)。
T細胞の制御、分化と同様に幹細胞の分化においても
重要な役割を担っています(827,828)。
((絨毛外栄養膜細胞における機能))
TGF-βは絨毛外栄養膜細胞の分化において
重要な役割を果たします(829)。
(19)TNF-α(腫瘍壊死因子)
((一般的機能))
アディポカイン、サイトカインとして定義されます。
アディポカインとしてはTNFはインスリン抵抗性を促進します。
これは肥満誘発の2型糖尿病と関連します(861)。
サイトカインとしては免疫機能における細胞信号を示します。
例えば、マクロファージが感染源を検出したら、
他の免疫細胞にTNFが炎症反応の一部として放出されます(861)。
((絨毛外栄養膜細胞における機能))
TNF-αはIFN-γと協働的に機能します。
◎絨毛外栄養膜細胞の細胞死の増加
◎絨毛外栄養膜細胞増殖の減少
◎pro-MMP-2分泌の減少(*)
(*)matrix metalloproteinase (MMP)-2
◎uPA分泌の上昇(**)
(**)urokinase plasminogen activator (uPA)
これらを通して絨毛外栄養膜細胞の浸潤性を低下させます(862)。
(20)VEGF(血管内皮細胞増殖因子)
((一般的機能))
血管透過性因子として知られ、血管形成を刺激するために
多くの細胞から産生される信号タンパク質です。
血管を胚の循環器形成など新たに構築する脈管形成と
すでにある血管網から任意の延長させる血管形成
どちらにおいても重要な役割を果たします。
((絨毛外栄養膜細胞における機能))
内分泌腺由来のVEGF(EG-VEGF)は妊娠初期で
分泌量が増加します。
このEG-VEGFは絨毛外栄養膜細胞の移動と浸潤性を低下させます(863)、
しかしながら、VEGFは
Payaningal R. Somanath(敬称略)らがFig,1に示すように(864)、
VEGF受容体と血管内皮に多く存在するインテグリンαvβ3を
互いに活性化させる相乗効果があります。
福嶋 恒太郎(敬称略)らが図2に示すように(865)
絨毛外栄養膜細胞は絨毛の絨毛性栄養膜合胞体(SVT)から分化し
移動性、間葉性を獲得して、
インテグリンのα鎖の型を段階的に変えながら(α6⇒α1⇒αv)
最終的に血管の内皮に浸潤していきます。
実際に絨毛外栄養膜細胞にαvβ3インテグリンが
発現されている事は確認されています(866)。
また、癌の血管形成に代表されるように
血管形成の際に活性化される代表的なインテグリンが
このαvβ3インテグリンです(867)。
従って、活発な血管形成をする腫瘍組織に対して
インテグリン依存的に標的化する場合には
このαvβ3インテグリンが標的化されます(868)。
妊娠初期の胎盤形成において
脈管形成、血管形成は活発で重要なプロセスなので
その際にはαvβ3インテグリンが発現されることになります。
従って、
VEGFの分泌はαvβ3インテグリン依存的に
絨毛外栄養膜細胞の螺旋動脈への誘導を促すと考えられます。
その誘導の為の分化や
インテグリンなどの形質変化に異常が出ると
妊娠高血圧腎症に繋がる恐れがあります。
(参考文献(865) 図1より)
-
上述した(1)-(20)の因子の機能は
絨毛外栄養膜細胞の増殖、移動、浸潤に関わります。
絨毛組織から離脱し、脱落膜、一部は螺旋動脈へ移動する
過程において複合的に関連する因子であり、
それぞれの因子が増殖、移動、浸潤へ与える正負の影響が
3つの機能に対して複数影響を与える場合には
機能ごと比較した時にその影響が正負逆転する事はありません。
つまり、増殖に対して亢進する機能があるのであれば、
同時に移動の特性に影響を与える場合には
同じように移動に対しても亢進することになります。
--
胚盤胞の着床、胎盤形成、初期の胚形成が生じる
妊娠10週目までは周辺環境は低酸素状態であるとされています(691)。
上述したように酸素レベルは栄養膜細胞の分化に関わり、
低酸素状態では栄養膜芽幹細胞が
そのまま分化せず増殖しやすくなります。
従って、妊娠初期には栄養膜芽細胞が多く存在する事を意味します。
この胚形成や胎盤などの組織形成においては
活性酸素の影響を防ぐためです。
しかしながら、胚形成においては
この活性酸素は適量は必要です。
例えば、植物の根の形成では
この活性酸素とカルシウムイオンが重要な働きをする
という報告もあります(870)。
実際に栄養膜細胞の脱落膜への浸入のためには
一酸化窒素や活性酸素細胞種が必要であると報告されています(876)。
Laura Lunghi(敬称略)らが示すTable 1でも(668)
低酸素状態は絨毛外栄養膜細胞の浸潤性の為には
亢進と抑制の両方の報告が挙げられており、
適量であれば必要であることが示唆されています。
一方で、その活性酸素が高いレベルになると
DNAの損傷や遺伝子発現の改変に繋がるため(869)
活性酸素のリソースとなる酸素レベルを
上述した妊娠初期の時期には
比較的、低レベルで制御しているということです。
一方で、Laura Lunghi(敬称略)らが
Figure.3に示されるように(668)
胚細胞内外の複数の機序によって
活性酸素から細胞を守る抗酸化メカニズムがあります。
これらの事から胚形成時には
非常に厳格なシステムで活性酸素を制御している事になります。
一方で、
特に人の身体を形成する初期には
1つの受精卵から指数関数的に細胞数を増やし
組織、身体を形成していく必要があります。
その際に遺伝子的な疾患、
例えば、癌化を防ぐ必要があります。
細胞数が活発に増えるときには
有糸分裂の際に遺伝子のコピーミスが生じることがあります。
従って、
遺伝子的な完全性(Genome Integrity)を
どのように築くかが非常に重要になります(871)。
それがその後のお子さんの運命を決める
まだ細胞数が少ない胚形成の時(872)には
より重要になると推測されます。
着床に成功した後から妊娠10週目くらいまでの間の
低酸素状態と健全な組織形成がどのような意味を持つか?
また、遺伝子の完全性はおそらく
細胞増殖、組織形成の上で非常に重要であると考えられます。
加えて、
高レベルの活性酸素がDNAの損傷を導くことがわかっていますが、
低酸素の状態が遺伝子完全性と関係性を持っているか?
それについては調査する限りにおいては明らかではありません。
少なくとも癌がある状態での
低酸素状態は遺伝子不完全性になるという事は一般的です(873)。
従って、その状況とは異なる可能性があります。
他方で、
多能性幹細胞(pluripotent stem cell)も
すべての組織に分化する事ができる大元の細胞であり、
この細胞の遺伝子安定性(stability)、完全性(integrity)は
胚形成と同様に重要であると考えられます(874)
すでにiPS細胞などで人工的に人の臓器を形成させる上で
この遺伝子完全性を考える事は重要な問題として
認識されています(875)。
その際に人の胚形成で生じるような低酸素状態が
1つの幹細胞から任意の組織、臓器形成初期までの
コアを作り出す上で同様に重要かどうか?
それが一つの観点となると考えられます。
組織に血管が形成されるようになると
その環境の酸素レベルは血液によって上昇してくるので
その前の段階においてどうか?
それについての問いです。
--
上述したように絨毛外栄養膜細胞の機能は
妊娠高血圧腎症にも関連があり、
ほとんどの人が経験する健康な赤ちゃんを産むことに
貢献していると想定されていますが、
その詳細における理解の余地は大きく残されています(668)。
例えば、妊娠時のお子さんの健全な成長や発育には
このような細胞だけではなく、
その細胞を外側から支える、あるいは移動に貢献する
細胞外マトリックスも重要な役割を果たします。
そのたんぱく質のうち、
特に妊娠時に必要とされるものは
胎児性フェブロネクチン(Fetal fibronectin)です。
胎児の包む外側の膜である絨毛膜(Chorion)と脱落膜の界面で
この胎児性フェブロネクチンが見つかっています。
この胎児性フェブロネクチンは
胎嚢と子宮内膜を接着させる機能を有していると考えられています(877)。
この胎児性フェブロネクチンは早産の予知因子としての
利用できる可能性が示されています。
羊膜嚢と子宮内膜を結合させる細胞外マトリックスなので
この細胞外マトリックスが血中に漏れ出す事は
分娩のタイミングと関連のある破水(Rupture of membranes)と
密接に関連があると考えられます。
実際に妊娠22週の時点で
この胎児性フェブロネクチンの量が50ng/mLを超えていると
自然早産のリスクが高まるとされています(878)。
この22週の時点のフェブロネクチンで早産の因子がある場合、
事前にそれに応じたマネイジメントをすることで
37週より前の早産をおおよそ30%程度
低減させる事ができたという報告もあります(878)。
しかしながら、
どのような機序で胎児性フェブロネクチンによる
羊膜と子宮内膜の結合性を失わせるかについての報告は
調べる限りにおいては見つかりません。
上流でどのような機序が働いているかはわかりませんが、
「結合性」が重要で有れば、
細胞接着分子が一つ重要な機序である可能性があります。
Ameneh Jafari(敬称略)らがFig.1に示すように
赤ちゃんを取り囲む羊膜(Amniotic membrane)があります。
この外側の組織に上皮組織、基底膜があります。
羊膜に存在するこれらの組織の
細胞同士の結合性、胎児性フェブロネクチンとの結合性は
おそらく妊娠中期の結合性や早産に関わると
物理的には考えられます。
例えば、羊膜のインテグリンは
◎β4鎖は基底に局在
◎β1鎖は側面に局在
これらが確認されています。
フェブロネクチンと結合性を持つ代表的な
細胞接着分子はインテグリンですから
より根源的にはこれらのインテグリンの発現不全が
早期の破水に関連している可能性があります。
また上皮組織の完全性も重要ですから
Joël Brunner(敬称略)らがFig.1に示すように(881)
カドヘリンや
クローディン、オクルディン、ゾヌリンなどの
細胞間の密着結合(Tight junctions)に関わる
細胞接着分子も重要な役割を果たすと想定されます。
1つの細胞接着因子が排他的に不全になっているのではなく、
複数の細胞接着分子が細胞内外の物質や生理経路などとリンクして
早産と関連している可能性があります。
細胞接着因子の正常な状態からの異常、逸脱を
全体的に把握し、該当する異常な細胞接着因子において
それぞれの一般的な機能と照らし合わせながら
より根本的な病理を探っていく事が求められます。
--
上述したように受精卵が胚形成する過程では
ある程度、低酸素状態が好ましいとされています。
この一つの理由は酸素濃度の高まりによる
活性酸素による遺伝子的な損傷リスクを下げる事にあります。
もう一つ、
細胞の増殖、移動、浸潤などの特性において
胚形成の時点でなぜ低酸素状態が重要なのか?
それについて細胞接着分子の観点で
一定の示唆的な報告のつながりがあります。
胚形成では胎盤に最終的に定借させるまでに
卵管を通って、比較的長い距離を移動する必要があります(882)。
その為には組織の定在性を決める細胞接着分子の発現を
弱めておく必要があります。
癌などでは低酸素状態になると上皮間葉転換を推し進め、
同様に骨髄の間葉系幹細胞においても
低酸素状態によって誘導されるHIF-1αによって
インテグリンα4の発現を弱め、移動性を高めるとあります(883)。
このインテグリンα4は子宮内膜が胚盤胞を受容する能力に
関連しているとあります(884-887)。
しかし、胚形成の時点では具体的な報告は示す事はできませんが、
インテグリンα4の発現が、低酸素状態に駆動されて
弱まっている可能性もあります。
--
絨毛外栄養膜細胞は低抵抗な血流を必要とする
螺旋動脈に送達されます。
血管壁が高い構造的な秩序を持って形成されずに
Laura Lunghi(敬称略)らがFigure 4で示すように
螺旋動脈の内皮の形成に異常があり、湾曲していると
流体の抵抗は上がると考えられます。
視覚的なイメージとしては
参考文献(912)の図がわかりやすいです。
血管壁が互いに平行にまっすぐに形成されていると
血液の流れは
壁側では境界層が形成されるため流速は低下しますが、
全体としてまっすぐに流れます。
これを「層流」といいます。
一方で、血管壁が曲がったり、局所的に膨らんだりしていると
そこで血流のベクトルが乱れるため、
ミクロな渦が生じます。
渦が生じるということはそこに血液が集まり、
それによって全体的な血液の抵抗が上昇してしまいます。
川崎病では動脈瘤が生じ、それが血栓の原因となりますが、
その物理はこの流体力学的な観点が関連していると考えられます(912)。
特に妊娠女性においては、
母体から胎児に血液を供給し続ける事は非常に重要であり、
多くの血液が必要です。
従って、螺旋動脈はその主要な経路であって
血流にとって低抵抗な物理的特性が必要になります。
血管の径が大きいという事ももちろん必要ですが、
血管内で内皮の構造不全によって
血流のベクトルがバラバラになって渦を作らないような
秩序性の高い血管構造が重要になります。
これはLaura Lunghi(敬称略)らが指摘している様に
妊娠高血圧腎症にも関わるかもしれません(917)。
実際に胎盤の虚血は胎児に影響を与えるだけではなく
虚血によって生じたサイトカインや活性酸素を通じて
螺旋動脈の血管内皮そのものにも影響を受けます。
つまり、螺旋動脈の血管内皮構造の不全は
胎盤の虚血をもたらし、その虚血が炎症性信号を分泌させ
それがさらに血管内皮に悪影響を与えるという
負の連鎖が生じうるということです。
-
上述した絨毛外栄養膜細胞は血管内皮の一部になります。
この絨毛外栄養膜細胞が未成熟の状態は
妊娠に伴う病理に関連すると考えられています(913)。
細胞生存、細胞死などのプログラム制御など
細胞の基本的な機能や
マイクログロブリンを通した
組織形成に関わる免疫細胞との相互作用も重要です(913)。
一方で組織学的な観点では
一般的な血管内皮では密着結合が形成されますから
それらに関わる細胞接着分子の発現が健全に生じる事が
秩序性の高い血管内皮の構造形成の為に重要になります。
その中で、
血管内皮成長因子(914,915)、サイトカイン(916)。
これらの少なくとも一部の機能が、今述べた
血管内皮の健全な組織形成で重要な密着結合(Tight junction)に
関わると考えられます。
--
Xin-Xiu Lin(敬称略)らがFigure 2に示すように
母親と胎児をつなぐ胎盤では
上で繰り返し詳しく述べたような栄養膜細胞がありますが、
この栄養膜細胞は
◎HLA-C
◎HLA-E
◎HLA-F
◎HLA-G
これらなどのヒト白血球抗原を持ち、
いわば白血球に対する血液型ともいえますが、
この分子的な構造は母親の遺伝子だけではなく
父親の遺伝子の影響を受けます。
NK細胞、T細胞、肥満細胞、樹状細胞、マクロファージなどの
免疫細胞はこれらの構造と相互作用すると考えられ
これらは胎盤などの組織形成と関連しているため、
それに異常が出る疫学的に2-3%の母親で呈する
妊娠高血圧腎症は母親のみの身体の特性で決まるわけではなく
父親の遺伝子的な作用も病理に影響を与えると考えられています。
また、これらのヒト白血球抗原のうち
◎HLA-Gの発現はインテグリンα1β1の亢進を経て
発現が高まるとされています。
--
螺旋動脈は出産の上で胎児に血液を送る生命線であり
径が太く、血液量も非常に多いです。
そのような欠かすことができない血管という観点では
大動脈や冠動脈と重なります。
この螺旋動脈の不全につながると妊娠高血圧腎症などの
妊娠時に生じる疾患とつながります。
大動脈、冠動脈では
ギャップ接合、ヘミチャンネルによって
細胞間、細胞内外の自己分泌、傍分泌にそれぞれ関わる
中膜に形成されているコネキシンが関わっていますが、
これは同様に螺旋動脈の平滑筋でも作用しています。
これらは収縮、弛緩に関わるイオンを透過させるだけではなく、
一酸化窒素や活性酸素は
栄養膜細胞の脱落膜への浸入のために必要であり(876)、
胎盤形成において重要な役割を果たしますが、
この一酸化窒素や活性酸素によって
コネキシンのギャップ接合やヘミチャンネルの活性は改変されます(926)。
コネキシンは冠動脈や大動脈とギャップ接合、ヘミチャンネルを通して
その中膜の大部分を形成する平滑筋の基本的な機能である
収縮や弛緩に作用することはすでに示されていますが、
同様に、螺旋動脈でも示されていました。
従って、循環器に関わる心臓血管疾患、それに付随する神経系の疾患、
あるいはここで示されるような妊娠高血圧腎症では
それに関わる動脈の機能が非常に重要な役割を担っているため、
コネキシンは一つの病理に関わる因子として無視はできないと想定できます。
--
<<病理>>
妊娠高血圧腎症では
組織学的な病理が生じるのが一般的です(532,533)。
Çağdaş Özgökçe(敬称略)らがFigure.1に示すように
絨毛外の栄養膜細胞に挟まれた
子宮膜から到達した胎盤の入り口にあたる
動脈の開口部が狭くなります(278)。
同様の事が
Evdokia Dimitriadis(敬称略)らのFig.2bにも
1つの妊娠高血圧腎症で示されています(263)。
Indira U. Mysorekar(敬称略)が
子宮膜から胎盤への循環器の連結の状態が
より実際の組織を再現した形で示されています(279)。
子宮膜の間にある動脈から胎盤への入り口が狭くなることで
胎児に血液を通じて栄養を送る際に
より高い血圧をかける必要があるので、
それが高血圧に繋がっている可能性があります。
螺旋動脈の出口が狭まり、血圧が上昇する事は
下述する絨毛の内皮組織に存在する
栄養膜合胞体層の細胞のストレスにつながります。
従って、妊娠時高血圧腎症が生じた時に
もし、ここの子宮膜から胎盤への入り口を広げる事ができれば
今までとは異なる治療法になる可能性があります。
また、絨毛にある栄養膜合胞体層にも異常が生じます。
◎ミトコンドリア不全(527,528)
◎酸化ストレス(527,528)
◎アポトーシス(527,528)
◎小胞体ストレス(527,528)
これらなどです(参考文献(263) Fig.2b)。
これらのストレスにより栄養膜合胞体層から
母体の循環器に
◎活性酸素
◎炎症性サイトカイン
◎抗-血管生成因子
これらを放出する事とされています(263)。
これらにより
◎血管拡張の減少
◎全身性の炎症
◎血栓形成
これらなどが生じます(529-531)。
これらの作用により
◎高血圧症
◎肝臓、腎臓の不全
◎血小板減少症
◎凝血障害
これらにつながる可能性があります(263)。
また、組織学的な不全のほかに
組織形成にも関わる免疫機能も妊娠高血圧腎症と関わります。
一旦、胎盤が形成されると、父親の遺伝子が入る事から
父親由来の抗原が放出されます(536)。
この抗原に対する免疫寛容性は
胎盤に常在しているNK細胞や制御性T細胞の
正常な機能によって上昇します。
制御性T細胞に異常が出ると、
妊娠高血圧腎症の発症に関わるとされています(537)。
上述した胎盤への母親の血液の流路入り口となる
螺旋動脈の形成において
母親の代謝、心臓血管機能は重要です。
上述した妊娠高血圧腎症のリスクに含まれる
高血圧、糖尿病では代謝、心臓血管の機能に影響が出ます。
このようなリスク因子となる疾患を含めて
代謝、心臓血管に異常があると
螺旋動脈の組織としての可塑性(リモデリング)が低下し
上述した螺旋動脈出口の狭窄など
妊娠高血圧腎症に関わります(539-543)。
上述したように初産がリスクが高く、
二回目以降リスクが下がる要因の一つは
このような父親由来の抗原に一度、
母体がさらされている事が挙げられています(538)。
但し、制御性T細胞の記憶性は
元々、あまり高くないのが一般的であることから
出産の間隔が空くとその効果も限定的になると考えられます。
ここで、基本的な事から考えます。
母親と胎児は血液の連結があると言っても
直接的に抵抗なくつながっているわけではありません。
例えば、腎臓にも糸球体によるろ過機能がありますが、
そのようなろ過する機能が
胎盤の中に存在します。
胎盤には絨毛葉とよばれる部位があり
その中に無数の毛細血管が存在します。
この毛細血管が集まって、最終的に臍帯となり、
胎児に繋がって、血液が供給されます。
一方、
母親側では子宮膜内の動脈が螺旋動脈を通じて
胎盤内に供給されます。
絨毛間空と呼ばれる絨毛葉の外側の空間があって
そこに母親側から螺旋動脈を通じて供給された血液が
充満するような形になっています。
これら母親側、胎児側の血液の境界は複雑ですが
繊毛葉の輪郭部、毛細血管の輪郭が層状になって存在します。
フィルタリングする物理モデルは複雑で
◎ボロウモデル
組織を多孔質な濾過体とみなすモデル
◎拡散モデル
濃度勾配によって流れるモデル
◎能動輸送モデル
特定の能動的なメカニズムによって流れるモデル
これらが挙げられてます。
これらの血流の流路のいずれかの不全が
高血圧腎症の主な症状である血圧上昇と
非常に密接に関わると想定されます。
例えば、
この栄養膜の分化の不全が高血圧腎症に関わっている
という報告があります(280)。
子供を受精した時に胚が形成されますが、
その胚の周りに栄養外胚葉細胞がシェル構造として形成され
これが胎盤の基本的な組織の一つである
栄養膜の幹細胞として機能します(281,282)。
実際の組織形成では腎臓のネフロンの形成において上述したように
◎上皮間葉相互作用
◎誘導的な信号伝達
◎上皮細胞極性
◎分岐形態形成
これらが重要であると考えられます。
先端部に間葉系栄養膜幹細胞が連結して
胎盤が形作られていくと想定しました。
その際には形状を制御する信号もありますが、
連結に関わるのは上で詳しく記述した
カドヘリンやインテグリンです(280)。
この時に栄養膜の幹細胞がいくつかのサブタイプに分化するときの
機能に異常が出ると妊娠高血圧腎症に繋がるという事です(280)。
Kaela M. Varberg(敬称略)らは
栄養膜の幹細胞から絨毛外の栄養膜に分化して
螺旋動脈の内皮を形成する過程で
どのような転写因子が重要であるか?
つまり遺伝子的に重要な因子を特定しています(425)。
その遺伝子(1,2,3)が
(1)TFAP2C
(2)SNAI1
(3)EPAS1
これらです(425)。
(1)TFAP2Cは栄養膜細胞の幹細胞状態と
絨毛外の栄養膜細胞(Extravillous trophoblast cell)の
初期状態の細胞機能維持に関与していると考えられています(425)。
(2)SNAI1(snail superfamily)は細胞接着に関わる
Eカドヘリンの転写を抑制する事で上皮間葉転換を誘発します(426)。
組織形成のためには細胞は中空領域を移動する必要がありますから、
このような上皮間葉転換を誘発する遺伝子は
組織のリモデリングにおいて一つの必要条件となります。
(3)のEPAS1も上皮間葉転換に関わり、
血管のネットワーク形成関わります(427)。
妊娠高血圧腎症ではEPAS1に異常が出ている
ことが示されています(428)。
この生物学は複雑であり、
絨毛の輪郭に形成される栄養膜細胞である
合胞体栄養細胞(Syncytiotrophoblast)にも発現していることが
確認されています(429,439)。
従って、EPAS1は螺旋動脈の内皮だけではなく、
絨毛の組織形成にも影響を与える為、胎盤組織形成における
役割は大きく、胎盤形成に不全が出ていると考えられる
妊娠高血圧腎症においてこの転写因子に異常が出ているケースがある
ということだと理解しています。
実際に(2)SNAI1(3)EPAS1は絨毛外栄養膜細胞の前駆状態の
幹細胞と比べて、分化後の絨毛外栄養膜細胞では
顕著に発現レベルが高まっている事が確認されています。
(参考文献(425) Fig.7C)
前述したように
高血圧腎症の時期が異なる際に病理が異なり
特に妊娠後期以降の遅発性の妊娠高血圧腎症の病理については
よくわかっていないということです。
他の臓器と同じように
胎盤にも妊娠から出産までの
限られた期間での短いライフサイクルがありますから、
その胎盤の形成時期に従って、病理が異なってくる部分がある
からではないかと考えられます。
遅発性の妊娠高血圧腎症の病理としては
絨毛が胎児が大きくなることで圧縮され、
栄養膜合胞体層が機械的ストレスを受ける事で
この栄養膜合胞体層の細胞が老化し、
胎盤自体の老化を早めてしまう事が挙げられています(534,535)。
元々、栄養膜合胞体層の代謝需要は高く、
多くの栄養を必要とし、それが胎盤の成長に従って多くなるため、
組織に異常がなくても供給が不十分であることが想定されています(534)。
従って、上述したように組織に異常がある
妊娠高血圧腎症ではこのミスマッチがさらに大きくなり、
絨毛にある栄養膜合胞体層の細胞が過剰に老化してしまう
という事が考えられます。
実際に高血圧腎症のリスクとしては
◎初めての妊娠
◎高血圧腎症の経験がある
これらがあります(283-286)。
従って、1度目の妊娠での異常が繰り返されるという事、
胎盤は分娩後、排出され、また受精すれば
また再度、形成される事を考えると
組織形成の段階で問題があると推定することもできます。
近年、高齢出産も増えていますから、
様々なリスクを因子を緩和しながら、
予防的処置を講じる事が母子の健康のため重要になります。
--
(代謝、心臓血管)
妊娠高血圧腎症は母親の代謝、心臓機能にも関与します。
妊娠の為には胎児を主に臍帯血を通じて育てる必要があり、
そのためには多くの栄養学的なデマンドがありますが、
上述したような胎盤組織に異常が出る事によって
胎盤周りだけではなく、
母体そのもの全体に関わる代謝、心臓血管機能に関連するため
そのような高い需要に応えきれないという事も生じます(263)。
高血圧腎症に生じた母親では
◎インスリン抵抗性
◎メタボリックシンドローム
◎酸化ストレス
◎脂質代謝不全
これらなどが生じていたとされています。
--
(身体全体への影響)
(1)血管(263)
母親の血管の内皮は高血圧腎症の治療の為には
重要な部位の一つで、治療の為の標的となる可能性があります。
循環器は密に連携しているため、
冠動脈、大動脈、螺旋動脈は
それぞれ母親の母体、胎児をつなぐ胎盤でそれぞれ
相互に作用しあっていると考えられます。
従って、螺旋動脈に組織学的な事を含めて異常が出ると
それに追随して母親の母体の重要な動脈にも影響が出る可能性があります。
その逆もしかりです。
従って、そのような負のスパイラルを緩和するためには
内皮の弾力性、それに関わる収縮、弛緩の機能を
異常が生じたときには手助けするような処置が考えられます。
弾力性はカルシウムイオン、一酸化窒素のような信号だけではなく、
平滑筋細胞の量、その細胞内にある細胞骨格、
細胞外の間質部にある細胞外マトリックス
それに作用する免疫細胞、サイトカインなど
様々な因子を総合的に分析して、
どのように医療介入するべきかを考える必要があります。
血管、血液はそれを多く必要とする心臓や腎臓にも影響を与えます。
妊娠高血圧腎症では
その名前の通り、高血圧が生じ、
間質液の浸透圧バランスがおそらく血管内外で崩れることによって
生じる浮腫などを生じる事があります。
また、代表的な病態としてタンパク尿があります。
これらは「高血圧」「腎症」と関連がある事ですから
妊娠高血圧腎症の名前の由来を検討するにあたり
重要な意味があったと考えられます。
妊娠女性の健康を維持するためには腎臓の機能も重要であり、
それは妊娠時に発症する妊娠高血圧腎症によって
悪影響を受けやすい臓器であることを示すものであると考えられます。
--
(2)肺の浮腫(肺水腫)
肺水腫というのは文字通り、
肺の組織内に液体(主に水)から成る腫れが生じることです。
この肺水腫は妊娠高血圧腎症にかかる女性の0.6~5%であり
割合としては希少な病態であるとされていますが、
肺の浮腫が生じた場合には
特に重度の妊娠高血圧腎症に罹患している女性の場合には
生命を脅かす状況となりえます(928,929)。
また、肺水腫は顕性妊娠高血圧腎症罹患に関わらず、
高血圧を呈する妊娠女性の死因の第二位ととされています(930)。
この章の中心的な引用先である
Evdokia Dimitriadis(敬称略)らによる
妊娠高血圧腎症の総括論文では(263)、
肺水腫の内容はわずかしか触れられていませんが、
この肺の浮腫について世界で最も詳しく知る方々から
科学的エビデンスに基づいた情報を得ることは
非常に重要な意義があります。
高齢で余命が少ない人だけではなく、
潜在的に余命を多く残した世界の人たちの救命に関わる
優先順位の高い事項になります。
これは大げさな解釈ではないことは
上述した内容と合わせて、
これから段階的に理解を深めていく肺水腫の内容を
詳しく精査すれば、明白になります。
肺という組織は、呼吸する組織なので、
それが停止すれば、生命活動は遮断されます。
他方で、食事(水以外)に関しては、
1日、2日何も食べなくてもとりあえず命を繋ぐことができますが、
肺の機能はそういうわけにはいきません。
心臓と肺というのは密接に関わっていて、
その活動において中断は許されません。
上述したように妊娠女性において、
肺水腫にかかる人の割合が少ないにも関わらず、
死因の2位になっているということです。
その肺の機能のリスクを抱えているのは
この記事での中心的な内容に関するところでいえば、
妊娠女性になりますが、
それ以外には高齢者や肺が成熟する前の年少の子どもです。
特に0歳児のリスクは非常に高いです。
でも、そこでもし、それぞれの状況で
最も適した医療を提供すれば、
その子どもはあと100年生きられるかもしれません。
依然として説明は不十分ですが、
重要なことは理解していただけたでしょうか?
--
肺はデッドスペースと呼ばれる空気の交換を行わない領域があります。
呼吸機能に障害がある子どもは
健康な子供に比べてデットスペースが大きくなっていると
報告されています(931)。
Maria Barile(敬称略)が総括する
イメージ、組織学を主体とした肺の浮腫の総括論文によれば(932)、
「With diffuse alveolar damage (DAD)」
つまり、肺胞の損傷が主な病因の一つとして関連があります。
この「Diffuse」というのは直訳すれば「拡散性」という意味です。
Diffuse alveolar hemorrhage(DAH)など
肺胞腔に血液が溜まる病気などでも使われます。
ここでは仮に「拡散性」なので、
液体を含めた物質な「流れ」に対して
問題が生じるような損傷であると定義しておきます。
こうした肺の組織の損傷は
当然、組織が「引っ張られる」事でも生じうることです。
物理的に考えれば、物質が圧縮されて密度が高くなるよりも
伸張されて密度が小さくなる方が
物質の閉じ込め効率、区画としての完全性は下がります。
但し、水分子の細胞内のトランスサイトーシス機序に関しては
この物理的観点に従わない可能性があります。
つまり、そこに物質の流れがあるならば、
その流れに対して問題が生じやすいのは「伸張」のほうです。
ここで内容を戻して、
新生児で呼吸機能に問題が出ている人は
デットスペースが大きくなっているといいました。
ここから推定されることは、
組織が全体的に「引っ張られている」可能性です。
そうすると必然的に液体に流れに不全が生じ、
後に詳述するような「浮腫」が生じやすくなると考えられます。
子どもの肺は特に小さいので、
局所的に水がたまると、そのコブがスペースを占有するため、
少なくとも多くの部分において機械的ストレス(937)を受けると考えられます。
その力が強ければ、大規模にわたる組織的な破壊につながります。
ここで少し観点を変えます。
世界で最大に重要視される事の一つが公衆衛生です。
新型コロナウィルスの世界的流行が生じた時、
従来では考えられないスピードでmRNAワクチンが承認され、
数十億人の人が接種することになりました。
しかし、それが最初に供給されたのは欧州とアメリカでした。
この技術はもともとはハンガリー出身の
カタリン・カリコ氏の古くからの研究があり、
その価値に最初に気付いたのはドイツです。
結果的に欧州とアメリカが最も優先されました。
国際連合、世界保健機関を中心として
発展途上国の平等性が謳われますが、
公衆衛生に問題が生じた時、本当に綺麗ごとではなくなります。
これがもし、子供に脅威だったらどうなるでしょうか?
その状況の一部を想像することは容易です。
この情報は少なくとも日本語で出ているわけですから、
日本においてどれだけ重要なことを詳述しているかということは
認識してほしいいう差し出がましい気持ちはありませんが、
説明するまでもなく理解できる人はいるでしょう
というところです。
子どもの感染症で最も脅威となるのは
呼吸器に関する感染症です。
なぜなら、上述したように呼吸機能は中断が許されないからです。
その呼吸器の感染症において
病態として重要なのが肺などの呼吸器は当然の事として、
循環器内への病原体の侵入ですから、
そこで生じうる問題は脳髄膜炎と敗血症です。
ウィルスは往々にして脳への向性を示します。
少なくとも
〇West Nile virus (WNV)
〇Zika virus (ZIKV)
〇Japanese encephalitis virus (JEV)
〇tick-borne encephalitis virus (TBEV)
これらが挙げられています(940)。
循環器に入るという事は病原体が全身に回る
機会を与えるということです。
従って、肺炎、脳髄膜炎、敗血症。
これらについて最高の情報にアクセスして
個別、連携的に掘り下げて考える必要があります。
これらの3つの病態、病理については
別の記事で優先度を上げて、時間をとって詳述していきますが、
ここで敗血症に触れた理由は、
この敗血症はこの節の焦点である「肺の浮腫」と
密接な関連性があるからです(933)。
なぜ、そうなるか?明白な理由があります。
それは、敗血症は少なくとも
循環器の組織学的な問題を広範に伴う可能性があるからです。
いずれにしても肺の浮腫を理解するにあたり、
この組織学的な観点は中心的な内容の一つです(932)。
リンパ管も含めて循環器に問題が出ると
液体のバランスが崩れ、浮腫の原因になります。
それが呼吸機能の中枢である肺で生じると大問題になります。
肺は横隔膜の上下運動(呼吸)や心臓の鼓動の影響が大きく、
周期的な体積変化が大きな組織です。
体積変化が生じるというという事は
細胞などの物質が伸び縮みするということですから、
必然的に機械的ストレスがかかります。
それによって組織の健全性が乱れやすいという特徴と
圧力変化による水圧の変化も生じやすいという特徴があります。
従って、肺は浮腫が生じやすい臓器です(927)。
特に肺の機能に問題が生じやすい
高齢者と年少の子どもにおいてはそれが顕著です。
ここまでがこの節で
肺水腫について考えていく背景の一部になります。
必然的に組織学的な総括の重要度が高いということであり、
それに対して高度な情報に(932)アクセスする必要があるという事です。
--
肺の組織は腎臓と同じように肺胞という構造単位がありますが、
肺全体を形成する構造の単位は多段的になっています。
つまり、肺胞という構造単位が集まる
もう一段階大きな構造単位が存在するということです。
それが「小葉(Pulmonary lobule)」です。
(参考文献(932) Fig.2より)
この図に示されるように肺動脈が気管支に沿って形成され、
肺胞につながっています。
肺静脈は別の所からアクセスします。
肺胞に対して動脈、静脈がどのようい繋がっているかの
局所的なイメージはメイヨークリニックから出されている
参考文献(942)の図がより局所的には明瞭です。
酸素プアーと酸素リッチの血管が
それぞれ肺胞を囲むように網目状に繋がっていて
空気の取り込みにより
酸素濃度の変化点が漸次的に変わっていくと解釈できます。
この小葉の区画を形成する周りにはリンパ管が存在します。
浮腫と関連する液体の流路である
参考文献(932) Fig.1に示されるような
「Hydrostatic」「Oncotic」の血管内外を通した
血管からの液体の流出、流入の液量に比べて
このリンパ管は3-10倍の流量であるため(934)、
このリンパ管の相対的に多い液体の流れによって、
肺の小葉の液量は適正に調整されています。
しかしながら、肺に浮腫が生じている場合は、
このようなリンパ管の制御が効かない状況になっている
と想定されます。
具体的には一つの原因としては
上述した血管内外の液体の流出、流入のいずれかが
非常に大きな流量となっていると推定されます。
肺水腫の画像的な所見としてKerley B lineというのが出ます。
これは、しばしば水性の浮腫が肺に生じた(肺水腫)時に
「肥厚化」した小葉間隔壁を示すとあります(935)。
なぜ、浮腫が生じた時に区画組織の層厚が大きくなるのか?
それについて詳述した情報にアクセスできていない状況ですが、
ある程度、ゼロベースで考えると、
〇細胞が肥大している可能性
〇細胞数が増加している可能性
〇細胞外の物質(細胞外マトリックス)が増加している可能性
これらを思考実験の出発点として挙げます。
例えば、歯周の軟組織の再生についての情報があります(936)。
これによれば、細胞外マトリックスは
細胞の成長のための「足場」としての役割があるため
組織をある程度人工的に厚膜化していく上では
重要なコンポーネント(要素)であるとされています。
エビデンスを取る必要があり、
それを前提条件として思考、記述を進めると、
細胞外マトリックスの分泌量が増え、
細胞数が増え厚膜化している可能性と、
引っ張り応力によって細胞が肥大している可能性
両方が考えられます。
ここで重要になってくるのが
「Cellular mechaontransduction」というメカニズムです。
それについてXingpeng Di(敬称略)らが総括しています(937)。
これは邦訳すると
「細胞の機械的シグナル伝達」という意味です。
細胞はこの浮腫と密接に関わる
静水圧(Hydrostatic pressure)を初め、
細胞外の物質との相互作用を含めて
様々な要因による力を受けます。
そうした力に呼応して、信号を伝達する機序があります。
この機械的な合図(Cues)は
細胞と細胞外マトリックス、細胞の血行動態など
周辺物質や動きと相関があります(938)。
これらの機械的な力は
細胞の形を決める細胞骨格の構造を変える
引き金(トリガー)となります(939)。
従って、浮腫によって細胞が機械的なストレスを受けたときには
細胞外マトリックスの分泌や
細胞の形を決めるアクチンなどの細胞骨格の再形成などを促し、
結果として組織が厚膜化する可能性が推定されます。
特に高齢の方に関しては
組織が一旦損傷を受けると回復が難しいので、
機械的ストレスを受ける前に病態を確実に掌握して
その原因を取り去る必要があります。
例えば、血管からの液体の流出量が顕著に多い場合には、
液体の粘性を少なくとも一時的に変える事は一つの選択肢としてあります。
また、水を抜く手段があるならば、それも検討の余地があります。
リンパ液の流れを促す方法があるならばそれも選択肢の一つです。
また、日本を含め東アジアで多い川崎病では
何らかの病原体の血管内に対する作用によって
抹消だけではなく、冠動脈など
主要な動脈血管の広がり(動脈瘤)が生じます。
循環器に流れる液体の90%は水ですから
循環器の形状に問題が出ると、
必然的に液体のバランスが崩れやすい状況になります。
従って、実際の病態として
重度の川崎病の患者は浮腫が生じる事があると報告されています(941)。
ただし、ここで注釈として省略できない事として
川崎病に罹患した子どもにおいて
浮腫が生じる場所が肺であるというエビデンスは
少なくとも多くはありません。
--
肺水腫に伴って考える必要があるのが、
肺の機能の低下による特に左心房、左心室への影響です。
肺の呼吸機能によって吸われた空気が
肺静脈を通って、まず左心房に届くからです。
肺水腫が生じた場合に肺の組織として起こりやすいことは
上述したように肺の大きな構造単位である
「葉」の輪郭部の組織の厚膜化、
それによるストレッチ機能の低下です。
そうすると必然的に血圧が高くなることが想定されます。
実際に肺水腫と肺高血圧は相関があるとされています(942)。
この時に考えないといけないのは
肺静脈がそれぞれの葉(上葉、下葉)から
どのように血管が繋がって、左心房に送達されるかです。
より具体的にはそれらの上下の位置関係です。
物理的に考えると重力があるので、
血液を上に送るほうがより高い圧力が必要になります。
肺水腫が肺の「どこに」できるかの
位置依存性は一般的にはないと考えられています。
例えば、免疫機能惹起による炎症によって生じた場合、
その原因となる抗原を呼吸によって吸い込んだとき
肺(葉、肺胞)のどこに入る傾向にあるか
というのはなく、ランダムであると想定されるからです。
しかしながら、肺静脈の血圧が上昇した時、
より多くの力を必要とする下葉から延びた静脈は
血液を送る能力が低下しやすいかもしれません。
そうするとそれを補うように
神経節が上葉に集まって形成されるようになります。
これを「Cephalization」と呼びます。
元々、この「頭化」という現象は、
上側に神経節が頭に集まっていることから名づけられています。
従って、神経節が肺の上葉に集まる事を意味します。
結果としては同時に血管の茎も拡大します。
それに伴い、血液の分配が変わり、上葉に集まるようになります。
神経節の頭化、上側集中が
血管新生と関連があるかという報告は見当たりませんが、
可能性として神経が集まる事によって
血管成長因子が亢進される事はあるかもしれません。
そうすると肺全体の機能に偏差が生じるかもしれません。
つまり、下葉側、下側の肺の機能が段階的に低下し、
上側の機能に依存するようになるという事です。
但し、肺高血圧症が肺水腫のように組織の硬化などが原因として
生じている場合において、
重力によって血管抵抗がより高まりやすい下葉の
静脈の機能が相対的に低下しやすい、
さらにそれが機能的に漸減しやすいかどうかの
科学的な根拠は見つかっていません。
いずれにしても機能的に働く容積が減少していくと
呼吸機能はそれに応じて低下していくと考えられます。
これは腎臓のネフロンと基本的な考え方は類似します。
--
肺水腫に対する体の耐性を考える上では
身体の体液を調整する機能があるのがリンパ管ですから、
特に肺の小葉の輪郭に形成されるリンパ管が
子どものどの段階の成長時期に生じるか?
ということを特定することが重要になります。
肺自体は18歳まで成長が続くと言われています(943)。
(参考文献(943) Table 1より)
リンパ管は免疫学で明らかなように
ダイナミック(動的)な組織なので
その成長は続き、変化していくと考えられますが、
基本的な組織としていつ成長するか?
これについて知る必要があります。
直接的な報告は見つけられていませんが、
Sailesh Kotecha(敬称略)がまとめた肺の成長の報告(943)を参照すると、
肺のリンパ組織の先天的異常(lymphangectasia)が生じる時期は
pseudo-glandular stageであると特定されています。
これがTable 1を参照すると
在胎期間16週から26週になると言われています。
この時期に異常がないリンパ組織の元が形成されるとすると
新生児が分娩後、呼吸を開始するときより前という事になります。
小葉のリンパ組織の少なくとも大元になるものは
満期が37週であるとすると
その差は最小で11週となることから
生まれる2か月以上前には少なくとも形成されているという事になります。
この段落の冒頭で述べた、
肺水腫に対する新生児のリンパ管依存的な耐性を考えるにあたり、
このリンパ管形成のタイミングを
一つの情報として持っておくことは
後々により追究して調べる際に重要になるかもしれません。
--
肺浮腫は水の循環の流路が乱れる事によって生じる
ともいうことができます。
その流路を健全にするためには組織の区画を守る必要があります。
逆に言えば、組織の区画が守られていない場合、
いずれかの場所に水が異常に蓄積し、浮腫を呈する事が考えられます。
肺組織は免疫系の異常な高まりによって破壊されることがあります。
例えば、IL-1, IL-6, IL-8の炎症性サイトカインの過分泌は
肺組織を破壊する場合があります(953,954)。
--
肺浮腫を防ぐためには循環器の健全な流れが必要です。
心臓の左心房と左心室を隔てて、流れのベクトルを安定化させる
僧帽弁の機能に異常がでると血液内に多く含まれる
水が逆流し、その流れに異常が生じます。
それが結果として肺浮腫を引き起こすこともあります(955)。
心臓だけではなく肺動脈、肺静脈閉栓でも
肺の浮腫を引き起こすことがあります。
閉栓ではなくても肺動脈、肺静脈の高血圧でも
肺浮腫のリスクが高まる可能性があります(956)。
特に主要部の血管の流れを円滑にすることが
肺浮腫のリスクを下げると考えられます。
妊娠高血圧腎症と肺高血圧症の関連も報告されています(957)。
いずれにしても循環器に異常が出ているので
循環器の負担をどのように減らすか?
これが患者さんの呼吸器を守る事にもつながります。
--
(3)腎障害(263)
妊娠高血圧腎症によって
循環器の血管壁を構成する
内皮細胞の少なくとも一部が損傷します。
腎臓は最も大きく悪影響を受ける臓器の一つです(958)。
腎臓は血液をろ過して老廃物や余分な塩分をろ過し
尿として排出する機能があり、血液の4分の1が流れます。
血圧が上がると血液量が増え、腎臓の負担が増すことも考えられます。
それによって腎臓のネフロン一つ一つの機能が
徐々に失われていく事も懸念されます。
腎臓の糸球体はフィルターの役割をし、
血液と尿の界面を形成する重要な器官です。
その糸球体の構造はIlse S. Daehn(敬称略)らがFig.1に示します(959)。
高血圧になるとPodocyte slit diaphragmと呼ばれる
糸球体の尿路側、血管の外壁に形成される
ポドサイトのフィルタリングの為の結合状態に異常が生じます(959)。
(参考文献(959) Fig.3)
妊娠高血圧腎症の一つの診断評価基準(診断クライテリア)の中に
タンパク尿があります。
タンパク尿になる主要な機序の一つは
それぞれのネフロンにおける糸球体機能の低下ですが、
より細胞レベルで詳細につめると、
今述べた、ポドサイトの結合状態が低下する事が挙げられます。
これはこの結合状態を決めるタンパク質の発現を低下させる
sFLTの増加に関連するとされています(960)。
--
(4)肝臓(263)
妊娠高血圧腎症による腎臓の損傷は
門脈周辺の炎症と、肝細胞のダメージによって特徴づけられます。
ここで肝臓の基本的な事を学習します。
門脈周辺の炎症、肝細胞のダメージについて
より詳しく考えるために必要です。
--
肝臓の構成の約80%は肝細胞によって形成されます(961)。
この肝臓は小葉(lobules)と呼ばれる組織単位から集まります(964)。
この小葉の数は50万個であるとされており、
その中に構成される肝細胞は2500臆個です。
(参考文献(964) Fig.1a)
この小葉の組織構造は放射状の迷路のような構造になっていて
外側にある動脈(肝動脈)と静脈(小葉間静脈)が
その迷路を中心の中心動脈に向かって流れて合流し、
最終的には中心に血液が集まるシステムになっています(962)。
(参考文献(962) Microscopic anatomy)
その流路の間(実質)には無数の肝細胞が配置されてます。
この肝細胞が肝臓の大部分を占めるということです。
一つ一つの簡略化した流れは
Antson Kiat Yee Tan(敬称略)らがFig.1に示しています(963)。
これを見ると肝細胞には胆管もアクセスしています。
肝細胞で作られた胆汁が食事による脂肪分分解など
代謝機能に関わるという事です。
胆管は肝細胞で作られた胆汁を送達させる流路です。
より機能的な組織構造は
Joon-Sup Yoon(敬称略)らがFig.1bに示します(964)。
さらに局所的な構造は
Alex L, Wilkinson(敬称略)らがFIGURE,1に示します(965)。
肝臓が再生機能が優れているのは
この血管内皮と肝細胞の間に
HSC(Hepatic Stellate Cell)と呼ばれる線維芽細胞があり、
これが肝臓の再生に責任を負う多能性幹細胞があるからです(966)。
総計2500臆個ある肝細胞は糖、脂質などのエネルギー代謝
糖、コレステロール、脂肪酸などの物質合成、
それらの量の調整、蓄積、解毒作用など多様な機能を担います(967)。
--
妊娠高血圧腎症で炎症が生じる門脈は
胃や小腸、大腸などの消化管と肝臓を結ぶ大きな静脈です(968)。
肝臓の機能に関わる物質を送るための静脈(968)で
上述した小葉の中では外側から中心静脈に流れる静脈成分である
と定義できます。
門脈の免疫系などを含めた炎症物質は
その多くが肝臓、肝臓を主に構成する肝細胞に影響を与える事になります。
実際に門脈で炎症が生じた時に
肝細胞にどのように影響を与えるか?については
具体的な報告は見つけられていませんが、
素直に考えると
血液中には多くの免疫細胞、サイトカインがあり
それらが炎症性を示すと、その炎症性物質が
肝臓の50万個ある小葉に流れ込み、
その炎症物質が腎臓の多様な機能を発揮する
2500臆個ある肝細胞に影響を与えると考えられます。
また、高血圧で循環器に負担がかかっている事は
小葉の中にある一つ一つの細い動脈、静脈の流路にも
ストレスを与える事になります。
それが組織学的な破壊を導く可能性もあります。
血管の弾力性を決める一酸化窒素などの減少(969)が
腎臓の細かい血管一つ一つの血管壁へのストレスを高める
可能性があります。
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(5)脳神経(263)
妊娠高血圧腎症の死亡例の直接的な原因は
脳神経系の疾患の合併症であり、特に低中所得国で顕著です。
〇てんかん発作
〇視覚暗点(visual scotoma)(※1)
(※1)視野の特定の領域に見え方の異常、盲点を呈します。
〇皮質盲(cortical blindness)(※2)
(※2)皮質盲とは眼科的な原因がなく視覚を失う事です。
後頭葉(occipital lobes)の有線皮質の病変によります。
この時、瞳孔の光に対する反応は正常です(982)。
妊娠高血圧腎症との関連の中で疑われる病因は
循環器の異常による周産期の虚血です。
〇動脈虚血性脳卒中
〇脳静脈洞血栓症(cerebral venous sinus thrombosis)(※3)
(※3)静脈銅とは、脳に送られた血液が心臓に戻る
ために最後に通る静脈でいくつかの分類があります(983)。
〇くも膜下出血(subarachnoid haemorrhage)
〇大脳内出血(intracerebral haemorrhage)
〇可逆性脳血管攣縮(れんしゅく)症候群(※4)
(reversible cerebral vasoconstriction syndrome)
(※4)一か所ではなく、複数の箇所(Multifocal:多焦点)の
脳血管の動脈が狭窄、拡張している状態です(984)。
狭窄による血圧の上昇、拡張による動脈瘤によって
脳内出血のリスクが高まることが懸念されます。
〇後部可逆性脳症候群(仮名称)(※5)(985)
(posterior reversible encephalopathy syndrome)
「(※5)急性、やや鋭い性質の大脳症候群です。
主な臨床症状は、頭痛、脳症、てんかん、視野不良です。
この脳症候群は、重度の高血圧で生じます。
中程度の高血圧でも急速に血圧が変化する事によって生じます。
合併症として白質に浮腫を呈することがあります。
妊娠中(子癇、妊娠高血圧腎症)によって生じる
後部可逆性脳症候群の診断は
上述した臨床症状とMRIなどの脳神経の画像によって行われます(986)。
胎児や母親(妊娠女性)の健康を配慮した形で治療が行われます。
高血圧やてんかんの治療では
硫酸マグネシウムの静注が一般的に選択されます。
高血圧が重度である場合には追加的治療として
血管拡張剤であるHydralazine、Labetalolを選択します。
Labetalolは心拍数を抑えて心臓を休ませる作用があります。」
これらの脳神経系疾患を含みます(976,977)。
〇脳静脈洞血栓症、
〇可逆性脳血管攣縮症候群、
〇後部可逆性脳症候群
これらに関しては分娩後に前兆が少ない形で度々生じます(978)。
脳神経性の合併症を生じる機序は明らかにされていません。
妊娠女性の脳血管は妊娠高血圧腎症の影響を受けやすい
と報告されています(978)。
神経血管系の不全は妊娠高血圧腎症で生じます。
・自律神経系の交感神経活動増加(976,979)(※6)
(※6)血管の硬さ、血管内皮不全は一部、
交感神経によって制御されます(979)。
基本的に妊娠高血圧腎症では高血圧を示すので
脳血管に異常が生じる事で
上述した様々な疾患と結びついていると
総合的に一部として解釈しています。
言い換えれば、上述した脳神経の疾患の病理、病因の
少なくとも一部は脳内の循環器の異常と関連があります。
従って、治療としては全てで当てはまるか
どうかはわかりませんが
血管拡張剤などによって血圧を下げる(985)ことが
少なくとも対症療法として存在しうると想定されます。
ただ、妊娠女性で生じる妊娠高血圧腎症の
合併症の病理においては、
単に高血圧だけで説明できない部分もあると考えます。
妊娠時には中年や高齢で生じる生活習慣病による
高血圧と決定的に異なることがあります。
それが「胎盤、胎児を成長させる必要がある事」です。
組織や子供を身体の中で育てていく必要がある事は
肥満などで生じる高血圧と大きく異なる事です。
その点も踏まえて、
この脳神経の節でその点で追究する余地があるのが
自律神経系における交感神経の影響です。
交感神経の高まりがより高血圧の悪影響を助長していないか?
そうした仮説、観点があります。
-
一般的には交感神経は
血管の平滑筋の分化を促すとされています(988)。
交感神経は妊娠時には高い状態で制御されているとされています。
それは前述したように胎盤には
螺旋動脈、臍帯内血管などがあり、
それを新たに形成する必要があります。
これは妊娠女性なら誰しも生じる事で
このような劇的な血管の変化がある事、
つまり、血管を成長させる必要があるために
交感神経を高めにコントロールしておく必要があります(989)。
妊娠時に交感神経が高くなることは
異常ではなくて、健康状態でそうなるとされています(989)。
しかし、それによる弊害もあるかもしれません。
特に経過に問題がある妊娠高血圧腎症に罹患している女性において、
交感神経の高まりがどのように体に影響を与えるかを考える必要があります。
妊娠時に大きく影響を受ける神経が、
血管内皮の平滑筋に関する交感神経です。
Muscle sympathetic nerve activity (MSNA)(989)。
従って、妊娠の時に生じる一般的な身体の反応と
脳と血管系のつながりについて詳しく考える必要があります。
妊娠に生じる一般的な身体の反応は以下です。
(1)心臓からの一回拍出量(Stroke volume)が13%上がる
(2)心拍出量(Cardiac output)が31%上がる
(3)全身の血管抵抗が30%低下する
(4)全身血液の量が50%上がる
(5)平均動脈圧が9%低下する
(6)筋肉交感神経が50-150%上がる
(7)血管作動性(弛緩、収縮因子)物資が増える
これらを総括すると胎児がいるので
明らかに体の血液需要は高まっていますが、
血液に問題が生じないように
血管の循環機能も高まっている状態です。
ここで一つ気になるのが、血液を胎盤、子宮内の胎児に
ある程度、集める必要があることです。
つまり、血液の分配についてです。
血液の循環経路では左心室から
大動脈を通って、全身に送られます。
それらの分配はある程度、
局所的な血管の弛緩や収縮の違いによって
制御されると思いますが、
妊娠高血圧腎症のように
循環器に異常が出ている時には
それらの分配が上手くいかず、
例えば、脳の血圧が上がって、出血などのリスクが
通常の人の高血圧よりも高い可能性があるかどうか?です。
循環器の状況が妊娠時には劇的に変わっていて、
その状態で異常が出た時に
血液を多く、持続的に必要とする脳への影響が懸念されます。
例えば、妊娠時に限らず、一般的には
交感神経と動脈硬化は関連があるとされています(990)。
それを抑える補償的な機能が働いている可能性がありますが、
そのリスクが強く出て、動脈が硬化すれば、
弛緩、収縮の機能が低下するので
妊娠時には特にリスクになるかもしれません。
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・脳自動調節の不全(※6)
(※)血流供給が遮断されて虚血に陥った組織に
再度血流が灌流されることによって生じる組織の損傷
(ハイパーパーフュージョン損傷(hyperperfusion injury))を
通常は脳自動調節能力によって防ぐことができます(976,980)。
・血液脳関門の浸透率の増加(987)
・血管原性浮腫(※)
(※)妊娠高血圧腎症によって脳脊髄液、血漿成分などの
循環の制御能力が低下して、部分的に液体が蓄積します(981)。
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Jamie Kitt(敬称略)らは
高血圧を経験した妊娠女性の
特に脳の予後についてコメントされています(1023)。
妊娠高血圧は循環器に異常が出る事ですから、
それによる脳の損傷、異常も懸念されます。
しかしながら、その長期的な視野に立った研究はまだ多くはありません。
-
妊娠女性は元々、血管系の健康状態を維持する事が
非妊娠時に比べて難しく、
女性ホルモンの分泌を上げ、血管抵抗を下げるなど
身体もそれに合わせて適応している状態です。
そのような元々、血管系において状態を崩しやすいのに加えて
高血圧が生じると、前触れなく重篤な症状を示す事があります。
そうなると出産後の健康にも影響を与える可能性があります。
実際に、妊娠時に高血圧を呈した女性は
分娩後数年の間に高血圧を示す確率が高くなるかもしれません(1024)。
また、数十年間の間に腎臓、心臓疾患のリスクも
そうしたことに伴い上昇する可能性も示唆されています(1025)。
また、妊娠後40年に間に脳卒中になるリスクは
高血圧を持つ妊娠女性は4倍高くなると報告されています(1026)。
但し、これはFramingham Heart Study(FHS)コホートと呼ばれる
1948年にアメリカのボストンで始まった心臓疾患の研究データを
元にして出された疫学的データです(1026)。
従って、肥満(BMI)、生活習慣(食生活、運動)、
衛生状態(当時と今の相違)など
年代、国も異なる現在の状況において
この疫学データと現在の実情が異なる可能性はあります。
妊娠時にそうしたリスクがあったとしても
その後の生活習慣によって、心臓、腎臓、脳血管などの疾患の
リスクが変わってくるという事は十分に考えられる事です。
しかしながら、
妊娠時に高血圧があった場合において
脳卒中のリスクは特に気を付ける必要があります(1023)。
これは定期的な医療機関のサポートも
必要な事項である可能性もあります。
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一般的な高血圧でも当てはまることですが、
循環器は全身のネットワークを持っています。
見積もりによって偏差はありますが、
心臓から出た血液が全身を巡って、心臓に戻ってくるまでの
時間は約30秒であるといわれています(1027)。
そうすると病変が局所的であったとしても
少なくとも液体成分に異常があれば、全身に影響を与えるし、
炎症性の物質があれば、すぐに全身に回ることになります。
心臓から駆出される血液の配分は
脳:15%、冠動脈:5%、腎臓:20%、腹部臓器全体:35%、
全身の筋肉:15%、皮膚、骨:10%と見積もられています(1028)。
従って、
妊娠時に高血圧など循環器の異常が出たときには
その配分が多い、脳、腎臓に影響が出やすいと考えられます。
また、血液を送り出すための運動を続ける心臓も同様です。
実際に浮腫(1023)などの病変が
影響を受けやすい脳血管などの部位に残っている可能性もあります。
一般的な高血圧において
高血圧を制御していない高血圧の人は
高血圧ではない人、高血圧で血圧を制御している人に比べて、
脳の白質病変の確率が高くなるかもしれないといわれています(1029,1030)。
なぜ、高血圧になった時に、灰白質ではなくて、
軸索など神経細胞の連携を担う白質に病変が生じやすいか?
その理由は定かではありません。
一般的に灰白質の方が血液の需要が高いため
灰白質の血管の密度は白質よりも高いと言われています。
また、Matthew MacGregor Sharp(敬称略)らがFig.8に示すように(1031)、
白質に供給される血管網は
メインの動脈から灰白質を通過した後に構築されます。
このような血管網になるという事は
脳の解剖図をみればある程度想定されることです。
すなわち表面のしわの外側の部分に灰白質が存在し、
その内部に白質があるので、必然的にそのしわに沿って
循環器系が形成されているとすれば、
白質に供給される血管網の構築はより後ろ側、内側になります。
上述したFig.8のように一部の血管は灰白質領域で
内側への進行を停止します。
それは、白質が血管密度が低い事と関連します。
従って、血管に異常が出て、供給に負荷がかかるときに、
灰白質ではバイパスするルートは多くありますが、
白質は代わりのルートが少ないため、
循環器系に異常が出た時に血液供給が顕著に滞る可能性がある
ということです。
現時点では白質病変が高血圧で生じやすい理由について
このように推定しています。
一般的な高血圧で診られる傾向は
年齢が若くても妊娠女性で高血圧を呈した人にも
見られる可能性があります(1032)。
一方で、
Jamie Kitt(敬称略)らも同様の事を述べています(1023)。
仮に妊娠時に高血圧を呈したとしても
その後の数十年のその女性の脳神経を含めた様々な疾患のリスクは
その人がどのようなライフスタイルであり、
その人にどのような既往歴が生じるかに少なくとも一部依ります。
言い換えると、伝統的な日本食や地中海食などの
健康によいと考えられる食生活、運動、睡眠
パートナーと共に子育てを楽しむことを含めた
ストレスケアなどによって
そうしたリスクは当然変わる可能性もあります。
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(Fetal growth restriction: FGR)
(FGRの定義)(1033)
想定よりも子供が小さいか、
妊娠中に成長が想定よりも遅くなる、
あるいは成長が止まる事をいいます。
その成長不全とは具体的に
臓器、それを構成する組織、細胞のサイズ、数が小さい、
少ないことが原因として考えられます。
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(妊娠高血圧腎症との関連)(263)
FGRは胎児の成長を支える多くの血管を形成し、
フィルター機能がある胎盤の機能不全によって生じます。
妊娠高血圧腎症では胎盤に異常が見られることが多く、
FGRは妊娠高血圧腎症と深くかかわっています(1034-1037)。
栄養膜芽細胞の脱落膜の浸潤に異常があると
それによって螺旋動脈の内皮組織の形成にも異常が生じます。
螺旋動脈に形成不全があると、
母親から胎盤を通して胎児に血液を届ける事に制限が生じる為
胎児に低酸素状態や栄養不全が生じます。
酸素、栄養などの血液成分は
子どもの身体を大きくするための必須の物質であるため
その供給が滞る事はFGR、胎児の成長不全につながります(1035)。
同じ遅発性の妊娠高血圧腎症でも
胎児に成長不全(FGR)が生じている場合は
遅発性妊娠高血圧腎症があり、
FGRが見られない場合と比べて
胎盤の血管組織、絨毛に
より重度の異常が見られることが報告されています(1038)。
FGRが疑われる場合には
〇胎児の成長速度
〇羊水の量
〇臍帯動脈ドップラー
これらを2週間おきに超音波検査によって評価する必要があると
ISSHP(International Society for the Study of Hypertension in Pregnancy)。
この国際的な妊娠高血圧症に関する学会は推奨しています。
しかしながら、
臍帯動脈ドップラーは満期に近づくと使用は制限されるかもしれません(1039)。
設備が整っていない場合には
〇胎児の心拍、陣痛の監視
これを6時間おきに行うことがISSHPによって推奨されています。
〇母親のタンパク尿(腎機能)の検査
これは在胎期間32週以降の周産期のリスクを見積もるために
利用できます。
20週より前に母親にタンパク尿が見られる場合には
生まれる子供の体重がより小さい傾向にあります。
(参考文献(1040) Table 5)
従って、タンパク尿が妊娠の早い段階で生じている場合には
より重篤なFGRを導く可能性があります。
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タンパク尿が指標になるという事は
腎臓のフィルター機能が
一つ信頼できるマーカーであるという事です。
妊娠高血圧腎症と脳神経の節で説明したように
心臓から駆出される血液の配分は
脳:15%、冠動脈:5%、腎臓:20%、腹部臓器全体:35%、
全身の筋肉:15%、皮膚、骨:10%と見積もられています(1028)。
つまり、腎臓へ駆出される血液は一番多いです。
また、腎臓は血液を浄化させる機能もあることから
高血圧が生じた時に影響を受けやすい臓器であり(1041)、
また影響が出たときには血液の質にも影響を与えます。
具体的に腎臓の機能が低下した時に生じる毒素は
〇尿素窒素 クレアチニン リン カリウム
これら尿毒症性物質の血中濃度上昇が挙げられます(1042)。
これらが上がった時には
当然、胎盤にこれらの尿毒症性物質が
通常よりも多く送達されることになります。
従って、具体的にどのような悪影響があるか?
それについて考察、調査します。
尿素窒素は胎盤の炎症、不全につながります(1043)。
具体的には
(1)p38 MAPK, NF–κB, and AP-1の活性化
(2)COX-2 and MCP-1の発現の上昇
これらが挙げられています(1044)。
クレアチニンに関しては上昇する事が
妊娠高血圧腎症を伴なうGFRで確認されたという報告はありますが、
クレアチニン上昇自体がその物質依存的に
妊娠女性の胎盤組織、胎児に
どのような悪影響があるかははっきりとはわかりません。
しかし、クレアチニンは免疫機能に影響を与える可能性があります(1045)。
それが過剰になることで胎盤の組織形成や
胎児の免疫機能に関わるかもしれません。
但し、腎臓の機能低下と免疫機能の関連の報告はありますが、
クレアチニン過剰依存的な免疫機能の不全の報告は見つかりません。
血中のリン濃度があがる、高リン血症(hyperphosphatemia)は
胎盤の形成において非常に重要な血管内皮の組織的な健全性
中膜の柔軟性に影響を与える可能性があります。
動脈硬化と一般的には関連があるからです。
従って、腎臓機能の低下に伴う高リン血症は
螺旋動脈など胎盤の血管系の
組織の完全性を低下させる可能性があります(1045)。
今述べたリンやカリウムは電解質の一つであり、
それぞれ適正な値があります。
そこから逸脱すると細胞内のイオンバランスが崩れます。
細胞にとってイオンのバランスを健全に保つことは
栄養、代謝生成物のバランスを保ち、
エネルギーを得る事と同じくらい大切な事です(1046)。
つまり、正常値から逸脱することは
身体のあらゆる細胞に異常が生じる可能性があります。
カリウムも多くなると不整脈など命に関わるケースもあります。
腎臓の機能が低下する事で
水分量の調整なども難しくなります。
それもイオン濃度のベースを崩す原因となります。
リン、カリウムだけではなく
ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、塩化物イオンなど
多くの重要な電解質、イオンの適正濃度を維持する必要があります。
腎臓の機能の低下はこれらの電解質のバランスを
崩す原因ともなりえます(1047)。
高血圧は腎臓と関わりが深いので、
妊娠時における腎臓の機能のモニタリングは重要であり、
妊娠高血圧腎症においてはさらに
腎臓の機能低下をどのように維持管理によって緩和するかは
脳神経、胎児の成長管理と共に重要であると考えます。
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(診断)(263)
ISSHPのガイドラインでは
妊娠高血圧腎症は初発の高血圧によって
在胎期間20週以降に診断可能であるとされています。
収縮期血圧(最大血圧)140mmHg以上、
かつ/もしくは拡張期血圧(最低血圧)90mmhHg以上
これが基準です。
その条件は以前は正常血圧で(そういう意味で初発)、
他の一つの妊娠高血圧腎症に関連した症状、サインがあることです。
妊娠高血圧腎症に関連した症状、サインは以下です。
(1)タンパク尿
(Protein/creatinine ≥30 mg/mmol in a spot urine sample or ≥300 mg/mmol in >0.3 g/day)
(2)急性腎障害
(Creatinine ≥90 µmol/l),
(3)肝臓障害
(Elevated transaminases, for example, ALT or AST >40 IU/l),
(4)神経症状
(子癇、精神状態の変化、失明、脳卒中、
間代性けいれん、重篤な頭痛、持続性視覚スコトマ(※))
(※)スコトマ(Scotoma)とは視野の一部が変化すること。
視覚が部分的、完全に退化している状態です。
(5)血液学的異常
・血小板減少症 (platelet count below 150,000/µl
・散発性血管内凝固
・溶血、血球破壊
(6)心肺合併症
・肺水腫・心筋虚血・心筋梗塞
・酸素飽和度<90%
・一時間以上の50%以上の濃度の酸素吸入(inspired oxygen)(※)
(※)通常は酸素濃度は21%程度ですが、
酸素飽和度を適正に保つために、
患者の酸素の取り込み能力が下がっているために
大気よりも高濃度の酸素補充をすることです(1073)。
・帝王切開時以外の挿管
(7)子宮(胎盤)の機能不全(uteroplacental dysfunction)
・Fetal growth restriction(FGR)
・血管生成の低下(angiogenic imbalance)
・胎盤の分離
この新しい一連の診断評価基準(診断クライテリア)は
2014年に出版され、2018年と2021年に改変されました。
その改変では
以前は正常血圧だった女性が
タンパク尿と初発の高血圧を呈している必要があります。
ISSHPのガイドラインを利用すると
妊娠高血圧腎症の診断数は増加します。
以前なら診断されない程度の基準で診断された妊娠女性の多くは
症状は軽く、有害事象のリスクは低いとされています(1074)。
このMaya Reddy(敬称略)らの報告(1074)で調べられた評価基準は
ISSHPに加えて、
The American College of Obstetricians and Gynecologists 2018 criteria。
これも含まれます。
このACOGガイドライン以外に
National Institute for Health and Care Excellence (NICE)にも
「妊娠中の高血圧の診断と管理」としてガイドラインが存在します。
これらは2019年に更新され、ISSHPと広範に類似します。
Rachel G. Sinkey(敬称略)らは10種類の世界のガイドラインを比較してます(1075)。
妊娠高血圧腎症において初発の高血圧が
共通的な診断基準になります。
この比較では医療介入が必要な高血圧としての比較になります。
つまり、妊娠高血圧腎症に特化したものではないと理解しています。
その比較テーブルが示されています(参考文献(175) Table 2)。
ACOG ≧160 ≧110 / ISSHP ≧140 ≧90
Queesland ≧140 ≧90 / Canada ≧140 ≧90
SOMANZ ≧160 ≧110 / Brazil >150 >100
Germany ≧150 ≧100 / Ireland ≧150 ≧100
NICE ≧140 ≧90 / ESC/ESH ≧150 ≧95
つまり最高血圧の臨界点は140~160の間で違いがあります。
日本では妊婦における高血圧の診断は
日本妊娠高血圧学会による
妊娠高血圧症候群の診療指針 2021で示されています。
それによると、
収縮期血圧 ≧140 拡張期血圧 ≧90とされています。
(参考文献(1076) 62ページ)
従って、海外と比較すると最も厳しい基準です。
ISSHP、Queesland、Canada、NICEと一致します。
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妊娠高血圧腎症が疑われる妊娠女性に対して
ISSHPは子宮胎盤の機能不全のマーカーとして
(1)Soluble fms-like tyrosine kinase 1(sFLT1)
(2)PlGF(Placental Growth Factor)
これらの異常な上昇がないか?(1077)
これを評価する事を推奨しています。
これらの比(sFlt-1/PlGF)はEvdokia Dimitriadis(敬称略)らの総括では(263)、
「Angiogenic imbalance」と定義されています。
この比は血管新生の程度を示しています。
sFLT1は抗血管新生のチロシンキナーゼタンパク質なので(1078)、
この比が高いと胎盤の血管の成長が阻害されている事を示す
と考えられます。
Swati Agrawal(敬称略)らによる
メタ分析(15 studies with 534 cases)によれば(1077)、
Sensitivity: 80%
Specificity: 92%
Positive likelihoood (sFlt-1/PlGF) ratio: 10.5
Negative likelihoood (sFlt-1/PlGF) ratio: 0.22
これらであり、リスクの程度に関わらず当てはまります。
他方で、
遅発性の妊娠高血圧腎症の診断、治療が課題であるとされています。
その遅発性の妊娠高血圧腎症の可能性のあるマーカーとして
抗酸化分子であるチオール(thiols)の血清濃度が挙げられています(1079)。
妊娠高血圧腎症の重篤度に関わらず、
健康な妊娠女性に対して遅発性妊娠高血圧腎症の女性は
チオール(native and total)がそれぞれ低い事が示されています。
カットオフ値としては
naive 175.86 μmol/L and total 296.73 μmol/Lでした(1079)。
早発性、遅発性に関わらず妊娠高血圧腎症のマーカーとして
(1)serum ADT-ProteoStat protein(1080)
(2)Podocalyxin(1081)
「ポドカリキシン(Podocalyxin)は、糸球体にある
ポドサイトのグリコカリックスの主要成分です。
従って、血中に遊離しているこの糖たんぱく質が上昇すると
腎臓のフィルター機能の低下が示唆されます。
これは妊娠高血圧腎症の主要なクライテリアの一つである
タンパク尿と密接に関わります。」
これらの上昇が挙げられています。
チオールを含めて、これらはバイオマーカーとしてのエビデンスレベルは
高い状態になく、大規模なコホート研究が必要です。
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(病気の進行)(263)
妊娠高血圧腎症を呈する全ての女性は
早発性、遅発性に関わらず、
急速な病状の進行、重篤化のリスクを負っています。
HELLP症候群は妊娠高血圧症候群の一種です。
妊娠の後半から出産後に発症しやすい疾患です(1082)。
(1)赤血球の破壊(溶血:英語ではHemolysis)「H」
(2)肝臓の機能の悪化
(肝逸脱酵素の上昇:英語ではElevated Liver enzymes)「EL」
(3)血小板の減少(英語ではLow Platelet)「LP」
これらを起こす病態でHELLP症候群と呼ばれます(1082)。
妊娠高血圧腎症の経過をたどって、HELLP症候群に進行する人は
他の病因を含めたHELLP全体の18%を占めると言われています(1083)。
また、子癇の55%を占めます(1084)。
・慢性高血圧・最高血圧上昇・血清クレアチニン上昇
これらは妊娠高血圧腎症の主要な評価基準であり、
循環器、腎臓の機能低下を示します。
これらが妊娠後期、出産後(34週以降~分娩後~)に
より重篤な高血圧症状を引き起こす可能性があります。
血圧に関しては1mmHg上がるごとに5%程度リスクが上がります。
慢性高血圧では2.4倍程度リスクが上昇します(1085)。
血圧が上がると他の症状として
・重篤な頭痛・腰痛・めまい・呼吸困難・嘔吐
・視覚障害・不安
これらなどを伴なう事もあります。
子癇、制御不能な高血圧、全身の炎症によって
命の危険にさらされることもあります(1086)。
妊娠高血圧腎症から致命的な症状に至るまで急速に病状が進行するので
妊娠女性が入院してから、検査データをもとに
重篤な症状へ発展する確率がどの程度か?
それを予測するモデルを開発する事は非常に重要です。
Peter von Dadelszen(敬称略)らはfullPIERS modelと呼ばれる
予測モデルを構築しました(1086)。
その予測因子は
・在胎期間・腰痛・呼吸困難・酸素飽和度・血小板数
・クレアチニン濃度・アスパラギン酸トランスアミナーゼ濃度
これらを指標にしました。
その結果、適格率 AUC ROCは0.88でした。
但し、これに妊娠高血圧腎症で主な評価基準である
慢性高血圧と最高血圧の上昇については含められていませんでした。
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血管新生の不活性の程度を示すsFLT1/PGF(比)は
妊娠時に生じる有害事象の予測因子として調べられてきました。
アジアの研究では
sFLT1/PGF(比)が38以下の場合、陰性適合率が98.9%、
38よりも大きい場合、陽性適合率が53.5%でした。
対照となった有害事象は
死亡、肺浮腫、急性腎不全、脳出血、脳血栓症、
播種性血管内凝固症候群。これらです(1100)。
sFLT1/PGF(比)は周産期の子ども(胎児)の健康状態の結果
(adverse perinatal outcomes)に関しては
正確な予測結果を示しましたが、
母体の健康状態の結果(adverse maternal outcomes)には
正確な予測結果を示しませんでした(1101)。
妊娠高血圧腎症で入院してきた女性の有害事象を
48時間以内で予測するfullPIERSモデルは
正確な予測結果を示しました(1102)。
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(スクリーニング)(263)(※
(※)妊娠高血圧腎症罹患のリスク評価のための選別
Evdokia Dimitriadis(敬称略)らがTable 1に示すように(263)
ISSHP、ACOG、NICEは妊娠高血圧腎症に発展、罹患する
リスクの程度(high, moderate)に対して
それぞれ妊娠女性が併存する疾患を定義しています。
The Fetal Medicine Foundation (FMF)の競合リスクモデルでは
妊娠女性の年齢・民族・体重・身長・既往歴・平均血圧
The uterine artery pulsatility index (UtA-PI)(超音波検査)
母親の血液中のPGFレベル(在胎11-13週)。
これらの因子を妊娠高血圧腎症の
リスクの見積もりの為に組み込みました(1103,1104)。
スクリーニングのためのこれらの2つアプローチは
The UK NHS Screening Programme for Pre-eclampsia (SPREE) study。
これによって評価されました。16747人が参加しました(1105)。
上述した母親の因子をスクリーニングに組み込んで
妊娠高血圧腎症のリスクを見積もったほうが
NICEよりも検出レートが顕著に高いことが示されています(1106)。
「(1)NICE:28.2%
(2)平均血圧, PIGF組み込み:69.0%
(3)それにUtA-PIをくわえる:82.4%」
上述したFMFスクリーニングは
妊娠高血圧腎症の発症予測のため効果的です。
在胎11-13週時点で行われるこのスクリーングによって
34,37週以前に妊娠高血圧腎症に発展する
女性の90%,80%をそれぞれ予知することができます(1107)。
しかしながら、37週以降の遅発性妊娠高血圧腎症は
スクリーニングからの時間経過も関係しているのか?
病因が異なる事を反映しているのか?
その検出レートは44%まで低下します(1106)。
ISSHP
International Federation of Gynecology and Obstetrics(FIGO)。
これらの団体は可能であれば、FMFの手続き(アルゴリズム)を利用した
スクリーニングを行う事を推奨していますが、
子宮動脈の超音波検査やPGFアッセイは
世界的にルーチンとして実施されていません。
Evdokia Dimitriadis(敬称略)らがTable 2に示すように(263)
37週以前の早発性の妊娠高血圧腎症の早期検出は
世界的に日常的に行われていない
UtA-PI、PGF、この組み合わせを他の母体因子と組み合わせることで
顕著に向上する事が示されています。
しかし、それが難しい場合は、
妊娠女性の年齢・民族・体重・身長・既往歴・平均血圧など
知ることが容易な項目のみでまずは判断し、
その状態でリスクが見込まれれば、
より精密にリスク予期ができるUtA-PI、PGFを行うといった
段階的プロトコルが提案されています(1107)。
この妊娠第一期(11-13週)に
妊娠女性の妊娠高血圧腎症罹患リスクに応じた選別(スクリーニング)。
これを行うFMFのプロトコルは
これが開発されたイギリス以外の国にも普及しています。
Fig.3に示されるように(263)、
早い段階でリスクがある人を特定できれば、
アスピリンなどの投与を事前に行うことができます。
また、慎重な経過観察も行われます。
そのような事も関係している可能性がありますが、
イギリス、オーストラリアでは
早発性高血圧腎症の発症レートを減少させ、
母親、胎児の健康状態の改善に貢献したとされています(1106,1108)。
FMFアルゴリズムはコスト効率が良いとされています。
これに関して、
ベルギーで行われた51,309人の妊娠女性の比較調査があります。
スタンダードケア群に対して337ケースの
妊娠高血圧腎症の発症を抑えた可能性があります。
これはリスクがある人に対して
低用量のアスピリンによる早期医療介入が含まれます。
そのコスト削減は患者1人あたり28.67ユーロと見積もられています(1109)。
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上述したFMF競合リスクモデルは
在胎期間11-13週の時点でのスクリーニングだけではなく
妊娠第二期、妊娠第三期にも発展的に適用することができます。
そのアルゴリズムがFig.3に示されています(263)。
それによれば、妊娠第二期にあたる
在胎期間19-24週でもスクリーニングを行います。
この時点で高いリスクになれば、
在胎期間32週まで注意深くモニタリングします。
妊娠が維持されれば、32週でもスクリーニングが行われます。
ベースとしては1期(11-13w)、2期(19-24w)、3期(35-37w)。
これらの3回、スクリーニングを行います。
一方で、
まだ遅発性妊娠高血圧腎症のリスク予期に関しては課題があるので
新しい方法が緊急に必要であるとされています。
例えば、在胎期間8-22週でMMP-7レベルの上昇と
在胎期間22週で低いPlGFが相関があるとされています(1110)。
このMMP-7(and MMP-2)は血管の組織でEGFR依存的に
活性酸素を増加させる働きがあります(1112)。
(参考文献(1111) Figure 1)
また、機械学習による小規模の研究では
遅発性妊娠高血圧腎症の77.1%を検出しました。
影響を与えた因子は
最高血圧・血清尿素・窒素・カリウム・カルシウム
クレアチニン・血小板・白血球数・尿タンパク質
これらでした(1113)。
しかし、他のコホート研究で妥当性は示されていません。
遅発性妊娠高血圧腎症のリスク予期に関して他には
以下が示されています。
(1)HtrA3(第二期)(1113)
遅発性妊娠高血圧腎症に発展した妊娠女性は
在胎期間15週の時点でHtrA3が顕著に低い傾向にありました(1113)。
このHtrA3はTGF-βを分解する働きがあり、
これが減るとTGF-βが増えます。
この増加したTGF-βによって線維化細胞が
多くの細胞外マトリックスを作って心臓を硬くします。
また酸化ストレスにも関わります(1118)。
これらは心臓のケースですが、
同じように胎盤の血管の内皮や中膜でも当てはまるかもしれません。
つまり、HtrA3が低下する事で
胎盤の血管の柔軟性が下がり、硬化することです。
(2)cell-free RNA(第二期)(1114,1115)
感受性のある遺伝子として
CAMK2G DERA FAM46A KIAA1109 LRRC58 MYLIP NDUFV3 NMRK1 PI4KA
PRTFDC1 PYGO2 RNF149 TFIP11 TRIM21 USB1 YWHAQP5 Y_RNA
これらが挙げられており(1115)、血中に遊離している
細胞から独立したRNAで分析可能です(1114,1115)。
但し、遅発性の妊娠高血圧腎症の予測程度がどれくらいか?
これに関しては少なくとも現時点で読み取れていません。
(3)血中ELABELA(第三期)(1116)
血中ELABELA濃度は遅発性の妊娠高血圧腎症の女性は
早発性の妊娠高血圧腎症の女性に比べて高い傾向にありました(1116)。
(median: 7.99 ng/mL vs 6.09 ng/mL )
このELABELAは
個体発生異常・ES細胞の自己複製・内胚葉分化
心臓の形態形成・心臓機能不全・血圧制御・血管生成
飲食物取り込み制御
これらに関わっているとされています(1119)。
胎盤の血管形成の異常とELABELA濃度は関連があるかもしれません。
(4)Progranulin(第三期)(1117)
Progranulinは遅発性妊娠高血圧腎症のグループでは
早発性妊娠高血圧腎症、コントロール群に対して
顕著に血清レベルが高いことが示されています(1117)。
progranulin(PRGN)成長因子の一種で
抗炎症、細胞増殖、創傷治癒、腫瘍形成、発達など
多くのプロセスに関与することが知られています(1120)。
組織がダメージを受けていることで
このPRGNの発現レベルが高まっているかもしれません。
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(予防)(263)
非ステロイド性抗炎症薬であるアスピリンの使用は
長く提案されてきました。
Yixiao Wan(敬称略)らによるメタ分析では
アスピリンの使用によって
妊娠高血圧腎症の発展は28%抑えられたとされています(1150)。
他の報告でも同様の効果が確認されています(1151)。
その他にも低体重児出産、帝王切開のケースを
減少させたという報告があります(1152)。
この低用量のアスピリンは
プロスタサイクリンとトロンボキサンのバランスを調整する
とされています(1153)。
これらのバランスは血管の緊張を調整する上で
重要な役割を果たします(1154)。
また、カルシウムのサプリメントは用量に関わらず、
妊娠高血圧腎症の発症を半減させたと言われています(1155)。
また、総計273,182人、106の研究のメタ分析では
中程度の運動(600 MET-min/wee)
例えば、早歩き、水中エアロビクス、サイクリング
レジスタンストレーニングの140分間は
妊娠糖尿病(OR 0.62)、妊娠高血圧(OR 0.61)、妊娠高血圧腎症(OR 0.59)
これらを顕著に減少させたと言われています(1156)
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プラバスタチンは経口投与されるスタチンで
LDLコレステロール、トリグリセリドを低下させ、
抗炎症性活性を持ちます。
Muhammad Ilham Aldika Akbar(敬称略)らの研究では
173人に対して、86人のコントロール群、
87人のプラバスタチンのグループに分けられました。
プラバスタチンのグループは
顕著に早発性妊娠高血圧腎症になるケースが少なかった
と報告されています(13.8 vs 26.7%)。
それに加えて早産のケースも少なかったとされています(1157)。
(16.1% vs 36%)
しかし、その他の小規模の臨床報告では
プラバスタチンの妊娠高血圧腎症の顕著な効果は
報告されていません(1158)
(参考文献リンク)

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