2023年12月26日火曜日

細胞接着分子仲介の薬物送達システム

希少疾患、現状で治療困難な疾患を含めて
何らかの疾患に罹患している患者さんの治療に当たるときに
集中的な治療によってその病変がなくなるかどうか?
あるいは管理可能になるかどうか?
といった臨床結果がありますが、
同時に治療には副作用が伴います。
その副作用が許容範囲内であると評価されても
患者さんにとっては一定の苦痛を伴います。
また、元々の疾患、治療による身体のストレスによって
患者さんの身体に損傷が残る事があります。
それが治療後の患者さんの生活の質を落とす
原因になる事もあると推定されます。
例えば、若くして罹患したがんでは
肥満(代謝疾患)、内分泌系異常、耳鳴り、髪の毛ロス(髪質の変化)
など多様な後遺症が挙げられます。
このような後遺症はその後の患者さんの
体、心の健康状態、生活の質に密接に関連します。
このような治療後の生活の質まで踏み込んだ
医療あるいは福祉を考えることを
サバイバーシップと呼び、
特にがんに関して先導的に考えられています。
それを「Cancer surviovorship(がんサバイバーシップ)」と呼びます。
このような患者の予後の負担をより軽くするためには
その後の医師、医療福祉スタッフによる管理だけではなく、
初めに医療介入する急性期の治療も重要です。
生命科学というのは非常に複雑であり、
心理、感情的な要素を除くと
少なくとも一部は自然科学に基づくと考えられます。
多くの事が複雑に絡みあう自然の摂理の中で
「One-size-fits-all(万能の)」の方式を探すことは
基本的にはできないと想定されます。
しかしながら、疾患を持つ患者に対して
医師を初め医療スタッフが治療に当たる際に、
如何に効率よく、選択的に病変を取り除くか?
これは上述した「万能」とはいえないまでも
それが実際に実現できるかどうかの問題は当然ありますが、
概念としては現状よりも理想に近いと考えられます。
従って、外科による手術でも
侵襲性、介入時間を減らして、病変部位をできるだけ
選択的に取り除くという事はすでに考えられています。
放射線治療でも同様です。
そのような考えは薬物を使った化学療法でも同様です。
それを「標的治療(Targeted therapies)」と呼び、
すでにそれは特に医療工学の世界では常識であり
活発に研究されています(3)。
その標的性とは薬物を使った化学療法の場合は
投入した薬剤のどれだけの割合が
病変部位、標的部位に送達、結合されるか?
という送達効率が一つの指標であり、
その効率は正確な定量化は難しいですが
少なくとも1%を顕著に下回る事が想定されることから
理論的に改善する余地は大きいです。
そのような背景の中、薬物送達学は
薬剤を病変部位に効率的に送達する事を
1つの主な目的としています。
この目的において
細胞種まで選択性を上げて薬剤を送達するシステムを
細胞種特異的薬物送達システムとしています。
(Cell-type specific drug delivery system)
これを実現するための骨子としては
多数の細胞種それぞれの表面タンパク質を包括的に調べ、
そのデータベースを作る事です。
これをSurfaceomeと呼び、
すでに癌(1)、心臓(2)のケースで実現してます。
このデータベースを元に
特定の細胞種特異的に発現しているタンパク質を調べ、
そのたんぱく質と結合性の高い
対となる物質をナノ粒子、ウィルスなどに装飾、
あるいはモノクローナル抗体を設計することで
細胞種特異的薬物送達システムを実現します。
このような指針が一つとしてあります。

一方で、
体の中にある自然のシステムを利用するという考え方も
薬物送達学の中に存在します。
例えば、
癌が転移する際には原発腫瘍に対して
転移しやすい臓器がある程度決まっています。
乳がんの場合は、骨、脳、肺、肝臓が挙げられます(5)。
このような転移のメカニズムは複雑で
並列的な経路が多く存在すると考えられますが、
重要な機能として「選択的な接着」があります。
癌の場合は細胞間コミュニケーションの機能を持つ
エクソソームの表面に発現する
α鎖、β鎖ユニットを独立に持つ
インテグリンのサブタイプが
それぞれの臓器向性の決定因子の一つになっている
ということです(6)。
例えば、
肺の場合はα6β4とα6β1
肝臓の場合はαvβ5
このようになっています。
つまり、転移先によってそれに関与するエクソソームの
表面に発現されているインテグリンの型が異なるということです。
これは裏を返せば、
接着に関わるインテグリンの型を選択的に設計する事で
その型によって送達臓器を選択できる可能性を示唆します。

類似する吸着分子(インテグリン、カドヘリン)による選択性が
臓器よりも分類としては細かい組織単位でも確認されています。
妊娠初期の胎盤形成の際に活発な動性を持つ
絨毛外栄養膜細胞があります。
これは絨毛の外の栄養膜細胞で
胎盤の特に螺旋動脈の内皮、入り口の組織形成、機能において
重要な役割を持ちます(15)。
胎盤形成、母体から供給される血液の流路形成のためには
脱落膜とその内側、深部にある平滑筋層を改変する必要があります。
その胎盤の入り口となる血管は螺旋動脈と呼ばれます。
Evdokia Dimitriadis(敬称略)らが
Fig.2aに図示するように(15)
脱落膜/平滑筋領域が層となり
それを貫通するように螺旋動脈が形成されます。
Laura Lunghi(敬称略)らがFigure 2に図示するように(16)
絨毛外栄養膜細胞は
脱落膜/平滑筋領域の2層共に存在します。
平滑筋領域ではGiant cellに融合して変化します(17)。
螺旋動脈を形成する過程で絨毛外栄養膜細胞は
元々は最表層側に形成される絨毛の栄養膜芽細胞の殻(シェル)から
分化されて移動してきます。
従って、螺旋動脈の血管生成をし、
胎盤と母体の血液をつなぐためにはより深部に移動する必要があります。
その時には周辺には間質細胞などが
網目状の構造として恐らく存在し
細胞外のタンパク質(ECM)を含めて
それらを足場として固定されていることが考えられ、
その足場との接着状態を変える事が
層化した組織内の移動のためには必要です。
そのために絨毛外栄養膜細胞は接着分子である
◎インテグリン
◎カドヘリン
これらのタイプを変更して、
それぞれの層の間質にある足場との接着状態を変えて
深部への浸潤性を高める事ができます
◎α5β1 integrin
◎α1β1 integrin
◎VE-cadherin
これらの発現を高め、
◎α6β4 integrin
◎E-cadherin
これらの発現を抑制します。
α6β4 integrinは子宮内膜に発現されているインテグリンです(18)。
α5β1 integrinを含めβ1は妊娠時の平滑筋細胞に多く発現
されているインテグリンです(19)。
同じインテグリン同士を持つ細胞が
間質に存在する足場の一つであるフェブロネクチンを介して
固定されると想定すると
α6β4 integrinの抑制によって子宮内膜と
絨毛外栄養膜細胞の接着性が低下し、
β1 integrinの亢進によって平滑筋と
絨毛外栄養膜細胞の接着性が高まることで
統計的に絨毛外栄養膜細胞は多く深部の平滑筋領域に
移動すると考えられます。
一方、
VE-Cadherinは血管内皮に多く発現されています(20)。
E-cadherinは絨毛や脱落膜にある栄養膜細胞に多く発現されています(21)。
平滑筋の血管生成においてVE-cadherinは重要な機能があるかもしれません。
従って、インテグリン、カドヘリンの型によって
組織的に層状となっている比較的狭い領域においても
細胞向性の機能を持たせることができ、
それは生体内に備わった機能として存在しています。
これは適切なインテグリンの型を装飾することによって
その薬物送達媒体の走化性を制御できる可能性を示唆するものです。
Ayuko Hoshino(敬称略)らの
エクソソームのインテグリンの型による
臓器向性の違いの報告と合わせて考える(6)と
妊娠初期のインテグリンの改変を介した
組織間の選択的移動の事実は、
特異的薬物送達の可能性をより強固なものとします。
また、インテグリンの他に重要な接着物質としてカドヘリンがあります。
カドヘリン仲介の薬物送達については
インテグリンほど活発に考えられていませんが、
限られた報告が存在します(22)。
Priscilla Lo(敬称略)らがFigure 3で示すように
カドヘリンは同じ型のカドヘリンを選んで
カテニンと複合体化してカドヘリン同士が結合します。
従って、下述するインテグリンと同様に
カドヘリンを薬物送達の標的、足場とする場合
送達媒体も同じカドヘリン装飾できるということです。
カドヘリンはクラシカルのものは数種類ですが
Protocadherin(プロトカドヘリン)は
確認されている限り70種類のサブタイプが存在します。
従って、このProtocadherinの細胞種の特異性を見出すことで
より細かい標的性を得る事ができ
細胞種特異的薬物送達システムの一部が
より具現化する可能性もあります。
カドヘリンはN-カドヘリンのように
癌の成長、転移を促すものもありますが、
E-カドヘリンのように癌抑制機能があるものもあります(23)。
従って、もし接着分子を利用した薬物送達において
インテグリンの積極利用が
癌化を促進してしまう可能性があった時に
インテグリンの代替として
カドヘリンを標的化のための
送達キャリアの装飾因子として利用できる可能性があります。
従って、この記事ではインテグリンとカドヘリンを仲介した
薬物送達についてそれぞれ詳しく考えていきます。

//受容体とリガンドの結合について//
◎インテグリン
◎カドヘリン
◎免疫グロブリンスーパーファミリー
◎セレクチン
◎エフリン(Ephrins)
◎キスペプチン(Kisspeptins)
これらは細胞接着分子(Cell adhesion molecule(CAMs))(73)であり、
文字通り接着に関わる分子ですから
生体内の細胞、細胞外小胞、分泌分子などの
選択的移動性に密接に関わっていると考えられます。
例えば、免疫細胞が癌細胞に対して高い攻撃性を持つときには
周りにある癌微小環境の様々な組織に対する接着性を下げた状態で
癌組織の中に浸潤していく必要があります(39)。
そうした場合、接着分子には様々なサブタイプが必要になります。
もし、その種類が少なく共通性が高ければ、
選択的な移動ができないからです。
従って、上述した細胞接着分子は
選択的移動が可能な様に細胞種、組織依存的な
表現型、サブタイプを持っていることが自然です。
このように移動性の選択性が高いサブタイプがあれば、
言い換えれば、多数のサブタイプがあれば、
それを利用する事で
臓器、組織、病変部位、性別、遺伝子形質
発達期(胎児、新生児、乳児、早期青年期、後期青年期)、
細胞種特異的な標的が可能になる潜在性を有します。
その時にはそれぞれのサブタイプ特異的に
結合親和性を持つ装飾因子を
ナノ粒子、ウィルス表面に形成します。
あるいは薬剤に複合体化させます。
しかし、それら受容体-リガンド軸が接触した際に
「1回の」接触で細胞内に薬剤が取り込まれるかどうかはわかりません。
あるいは長時間足場として機能してくれるかわかりません。
むしろ、その可能性は低いかもしれません。
Yasuhiro Kanda(敬称略)らの総括の中で記述されている
2次リンパ節内の樹状細胞とT細胞の結合において
その相互作用の時間は長くて数時間にも及びます(39)。
近接する環境内でそれくらいの長い時間存在することになります。
また、初めは間欠的に結合したり、脱離したりしますが、
フェーズが変わると結合時間が長くなるとあります。
インテグリンなどでは結合リガンドRGDドメインを含む
細胞外マトリックスと相互作用する事で
より活性状態であるインテグリンクラスタリング(多量体化、束化)が
外的因子として誘発されることが報告されています(40)。
この事は結合回数が増える事で
その受容体-リガンド軸の結合親和性が高くなるケースがある
ことを示唆するものです。
従って、細胞種特異的薬物送達システムを成功させるための
部分条件として、何度も結合機会を与えるために
その中で結合活性を上げる機会を得るために
標的環境内に長く存在できるようなシステムが必要かもしれません。
その為の誘導機構や閉じ込め機構を考えることです。
2次リンパ節では傍皮質内に閉じ込められることで
数時間以上の相互作用が可能になると考えられます。
例えば、癌治療に利用する場合であれば、
腫瘍組織、癌微小環境に誘導される、あるいは入り込むシステム
癌を含めた炎症性病変部位に対する治療であって、
3次リンパ様組織が確認されれば、
病変部位に近接する免疫細胞の集合体である
3次リンパ様組織に誘導される、あるいは入り込むシステム。
総合的には標的細胞だけではなく
周辺の血管、リンパ管、間質などを含めた
周辺環境に誘導される、あるいは入り込むシステム。
これらを考える事は微視的な結合による標的システムに
並列した形で必要になる可能性があります。
但し、病変部位、病変細胞特異的薬物送達システムにおいて
過剰に発現されている受容体は
その病変の特質を維持するため、増幅させるための
重要な信号になっていることもあります。
例えば、転移性の癌では
E-カドヘリンよりもN-カドヘリンが多くなります。
このN-カドヘリンは癌細胞が集団で
循環する上で重要な役割を持っています。
(参考文献(41) Fig.7)
例えば、この発現が高まっているNカドヘリンを標的として
複数回アクセスすることによって
そのカドヘリンの活性を高めてしまうと
薬剤としての標的性が上がる可能性はありますが、
その副作用として病理を促進させてしまう可能性もあります。
インテグリンでもこのような事は推測されるので
このデメリットを事前に想定しておく必要はあります。


//標的細胞-薬剤キャリア間の物質移動//
もし、薬剤キャリアの表面のタンパク質を
標的細胞に送達されたときに受け渡すことができたら、
そこからいくつかの可能性が見いだせます。
例えば、
(1)標的細胞の形質を変える事
(2)標的性を段階的に上げる事
これらの事が実現可能になるかもしれません。
このように細胞の表面のタンパク質が
他の細胞の表面のタンパク質として移動することを
「Trogocytosis(齧作用)」と呼びます。
Yasuhiro Kanda(敬称略)らは総括の中で(47)、
樹状細胞と制御型T細胞の間で
エフェクター性の負の制御因子のCTLA-4-CD80/CD86結合において
このタンパク質の受け渡しが生じたとされています。
このトロゴサイトーシスに関して
Kensuke Miyake(敬称略)らが総括しています(48)。
Daniel M. Davis(敬称略)も細胞間の表面タンパク質の
移動について総括しています(49)。
これらはすべて免疫細胞に関してです。
それ以外の細胞でも生じる可能性がありますが、
免疫細胞で生じやすい理由はなぜか?
他の細胞よりも細胞同士の表面タンパク質を通した
相互作用の強さ、頻度が大きいからではないか?
このように推測しています。
また、樹状細胞とリンパ球といったように
細胞の機械的性質が大きく異なる細胞同士も結合します。
その力の非対称性から
一方の物質が相方の細胞に移動するという事が
起こるのかもしれません。
もし、そうであるとすると
その移動のベクトルがある程度定まっているかもしれません。
例えば、
上述したように樹状細胞から制御型T細胞への
表面タンパク質移動は生じやすいけど、
その逆の制御型T細胞から樹状細胞への移動は起こりにくい
という単方向性の可能性です。
そうであるとすると
同じ細胞種、例えば、リンパ球同士では
このようなトロゴサイトーシスは起こりにくいかもしれません。
また、このトロゴサイトーシスが生じるタイミングは
免疫学的シナプスのように
多数の受容体が一斉に結合し、
細胞同士の多くの表面積が密着している状態で
生じやすいかもしれません(50)。
そのことは物理的に合理性があります。
このような細胞間で表面タンパク質を移動させるためには
元々の表面タンパク質の細胞への結合力(定着力)よりも
顕著に強い力で引っ張る必要があります。
もし、そうであるとするとナノ粒子において
一定の想起、可能性が生まれます。
なぜなら、ナノ粒子表面に装飾させるリガンドは
複合体を作るにあたり、架橋物質によって
その結合力をある程度制御できるからです。
その結合力を循環器で外れない程度に弱くとれば、
それよりも先端に結合させているリガントにおいて
標的細胞が表面に取り込む性質があれば、
免疫細胞のように強い相互作用がなくても
その表面物質を標的細胞に移すことができるかもしれません。
もし、標的細胞に移すことができれば、
表面タンパク質は細胞の形質を決める重要な因子なので
それを動かすこともできるかもしれません。
あるいは、ナノ粒子などの送達媒体が
そこに送達されればされるほど、
より強い標的性を得らえるようなシステムを組めるかもしれません。
細胞が取り込む機序が必要なので
ある程度、そこで絞られる可能性がありますが、
この記事で取り上げているインテグリンやカドヘリンであれば、
それを標的細胞表面に移すことができれば、
細胞表面の数を送達すればするほど
増やすことができる可能性もあります。
このような事はすでに
必ずしもトロゴサイトーシスのような齧る、引きちぎるような
強い力が必要かもしれないプロセスではなくても
表面の膜融合のようなプロセスで
生じている可能性があります。
そのプロセスでは、もっと円滑に細胞表面のタンパク質は
その相互作用の中でダイナミクスを持っているかもしれません(51)。
そのような細胞表面タンパク質の
周辺物質との相互作用の中での動的機序を理解する事は
細胞種特異的薬物送達システムに生かせる可能性があります。


//インテグリン仲介薬物送達システム//
<<インテグリンをプライムさせる技術>>
インテグリンは上述したように
薬物の選択的送達において一つの重要な選択肢となります。
すでにインテグリンを介した薬物送達システムは
総括論文が存在し(7)、活発に研究されています。
このインテグリンは物質の接着機能を持つ
普遍的なたんぱく質なので
分泌物質や細胞などの移動、固定を決める
重要な機能があります。
例えば、ある任意の物質を組織に
特定のタイミングで引き付けたいときには
インテグリンの活性を高めるような機序が働くことがあります。
細胞表面に発現されるインテグリンは
結合部位が折れ曲がって隠れている
休止状態「Resting state」があります。
また活発に物質を引き付ける
「Primed state」があります。
(参考文献(8) Fig.1参照)
このような休止、活性状態を制御する事によって
体の中ではインテグリンが発現している組織への
物質や細胞の接着性、固定を任意に調整することができます。
①G protein-coupled receptors(GPCR)
②Toll-like receptor(TLR,exTLR4)
これらが活性化する事でインテグリンが活性状態になります。
(参考文献(8) Fig.2参照)
①はケモカインによって活性化され
そのケモカインはCCR4, CCR5と報告されています(9)。
②はグラム陰性の細菌の表面にあるリポ多糖などによって
活性化され、インテグリンに作用します(10)。
実際に
妊娠の初期の胚盤胞の着床の時に
脱落膜化が生じている子宮内膜に存在する
インテグリンが①のケモカイン、GPCR依存的に活性化する事で
胚盤胞が子宮内膜への接着が促されるということです。
さらにここからが重要です。
Charmaine J. Green(敬称略)らが
胚盤胞が子宮内膜上皮細胞に結合するモデルを
Figure 1に示しています(12)。
それによると胚盤胞、子宮内膜上皮細胞それぞれに
インテグリンが発現されていて、
その間にその局所に存在する
細胞外マトリックス内に存在するフェブロネクチンが
「挟まれる形で」結合しています。
(Fibronectin in ECM:参考文献(13) Figure.2)
つまり、薬物送達においてインテグリンを標的とする場合、
送達媒体自身に装飾するタンパク質も
同じインテグリンでも送達可能であるということです。
対となるフェブロネクチンを装飾する必要はないということです。
ここでAyuko Hoshino(敬称略)らの報告に戻ります(6)。
なぜ、異なるインテグリンが臓器向性を決めるのか?
それは細胞外マトリックス、
その中にあるフェブロネクチンのタイプが臓器ごとに異なり、
それに対して最適なインテグリンの型がそれぞれ存在する
ということで整合するかどうかということです。
ここがインテグリンを利用した
薬物送達を選択的に行う上でカギとなります。
さらに上述した内容を踏まえて
インテグリンを使った送達をより効果的にするには
送達部位でインテグリンを活性化、Primeさせる
ケモカインやリポ多糖を送達媒体に内包、機能化させる
ということです。
それによって薬物送達媒体が届いたタイミングで
送達部位の組織、細胞の接着率が向上するという事が期待できます。
--
<<既存の薬物送達システム>>
上述したように細胞外マトリックス内のフェブロネクチンを介して
インテグリン同士でも特定の組織に対して薬剤向性を持たせる事が
できる可能性がありますが、
既存のアプローチではインテグリンに直接結合する
フェブロネクチンの中のRGDドメインを含むペプチドを
薬剤と複合体化(30)
あるいはナノ粒子(31)に装飾する事で
標的性を高める試みが行われています。
Eric A Murphy(敬称略)らがFigure 1に示すように
ナノ粒子への装飾因子はRGDドメインを持つペプチドです(31)。
これらの標的は癌の血管生成など
活性化した内皮細胞で過剰発現がみられる
αvβ3のインテグリンです。
従って、腫瘍組織を囲む血管に通常の血管よりも
過剰に発現していることが確認されています(33)。
上述したRGDドメインを含むペプチドが
αvβ3に選択的に結合する特異的親和性を有していれば、
標的性が向上する事が期待されます。
RGDペプチドのシーケンスをCDCRGDCFCにすることで
αvβ3もしくはαvβ5の受容体に選択的に結合できます(32)。
実際にこのような特定のインテグリンと
結合親和性の高いリガンドを同定するために
ファージを利用するという方法も提案されています(34)。
このようなRGDペプチドは
インスリン様成長因子結合タンパク質1(IGFBP-1)などの
フェブロネクチン以外の分泌物質が有していることもあります(35)。
また、インテグリンのRGD結合サイトは
細胞表面やエクソソーム(37)などにも発現されている
テトラスパニン(CD9,CD81,CD151)のECドメインが結合することができます(36)。
また、インテグリンは今知られているものでは
少なくとも24種類存在し、
Beatrice S. Ludwig(敬称略)らがFigure 1に示すように(38)
そのサブタイプによって受容体のタイプが
大きく分けて3種類に分かれます
①(上述した)RGD受容体
②コラーゲン受容体
③ラミニン受容体
これらです。
少なくとも①のRGD受容体においては
その受容体と結合性を示す物質はRGDドメインだけではなく
ECドメインもあり、複数存在する事があります。
その他には例えば、
フェブロネクチン類似ペプチドであるPR_bもあります。
これは癌細胞で過剰発現されたα5β1インテグリンに
高い結合親和性を持ちます。
また、RGDドメインを持つ物質もフェブロネクチンに限らず
他にも複数存在する可能性があります。
従って、インテグリン標的の薬物送達システムを考える場合には
ナノ粒子やウィルスに装飾する
あるいは薬物に複合体化させる
インテグリン受容体に結合性のある物質の選定においては
RGDドメイン一つに限らないと考えられます。
また、インテグリンそのものを装飾した場合には
RGDドメイン以外の物質による結合干渉を受ける
可能性も想定しておく必要があります。
薬物送達システムを組み込んだ癌治療において、
薬剤を送達させるにあたり障害となるが、
腫瘍組織の柔組織、実質の中に薬剤を浸透させる事と、
高い間質の圧力があります。
αvβ3インテグリンと高い結合親和性を持つRGDドメインを
装飾した場合では腫瘍組織近くの
血管内皮の標的化に留まるケースがあります。
Kazuki N Sugahara(敬称略)らは
Tomour homing peptideとしてiRGD(CRGDK/RGPD/EC)を利用しています(42)。
まず、従来通りインテグリンに結合し、
その後、このiRGDに組み込まれたタンパク質分解による切断は
neuropilin-1に対する結合部位を露出させます。
腫瘍組織の中にある癌細胞にはその成長に関わる
neuropilin-1が多く発現されているので(43)
それに対する結合部位を持つ装飾ペプチドが
インテグリン依存的に腫瘍近くまで送達された後、
neuropilin-1に誘導される形で腫瘍組織に浸潤していきます(42)。
このような段階的なプロセスが可能になっているのは
インテグリンが結合し、分解する事で初めて
癌細胞に多く発現しているneuropilin-1に対する
結合部位が露出したからです。
このような細胞浸透ペプチドは他にもTatがあります。
これは被膜融合を促します。
しかしながら、
インテグリンを標的とした臨床試験は
少なくとも2018年の時点では2例しかありません。
(ClinicalTrials.gov identifier NCT02106598)
その理由としては
薬剤送達キャリアのデザインが定まらない事と
効果的な臨床前モデルが立てられない事が挙げられています(7)。
薬剤の送達キャリアとしてナノ粒子やウィルスを使う場合には
薬剤そのものの安全性の評価だけではなく、
送達キャリアの安全性も同様に評価する必要があります。
その中で送達キャリアの品質として
高い再現性が求められます(44-46)。
薬剤キャリアが生体内で受ける影響は
単に材料構成だけではなく、
表面電荷、大きさ、形、装飾因子、膜構成など
多様な因子に依ります。
従って、これらをすべて一致させた形で
大量生産するのは容易ではありません。
また、インテグリンなどを標的とする場合、
RBD結合面を少なくとも標的位置で露出させる必要がありますが、
そのような露出面の一部は循環器の中でコロナによって
閉塞されてしまう可能性もあります。
循環器の状態は患者さんの血液の特性によっても異なります。
また、インテグリン受容体の発現活性も患者さんごと異なり、
その異種性は高い場合もあります。
標的化の精度が高ければ、
コントロール群を除いた中での
結果のバラつきも大きくなることが想定されます。
そうした中で臨床試験の評価をどのような基準で行うか?
そのような課題もあります。
従って、基礎医学から臨床までをつなぐ
トランスレーショナル医療もインテグリンに限らず、
標的化した薬物送達システムの臨床応用の為には
発展が求められます。
--
<<一般的なインテグリンと癌との関連>>
インテグリンを使った選択的薬物送達を
異所性、局所性が高い癌治療に生かす事は
多くのデメリットを伴うかもしれません。
がん治療での応用を考えたいという需要があるので、
Donatella Valdembri(敬称略)らが総括する
癌におけるインテグリンの役割について
それを利用した薬物送達に焦点を当てながら
参照し、説明していきます(14)。
人の身体は金属のように硬い物質ではなく、
ある程度、弾力性があります。
ほとんどが水分であり、細胞の集まりでもあります。
しかし、それだけでは身体を動かす事も支えることもできません。
体を支える骨格、関節、筋肉が必要です。
細胞内には関節はないとされていますが、
これらの骨格、筋収縮のような機能は
人の身体の基本的な構成要素である細胞にもあります。
これを「細胞骨格」と呼び、
アクチンやタリンなどがあります。
インテグリンは細胞膜貫通タンパク質で
細胞表面にも発現されていますが、
細胞質側にも突起が存在します。
インテグリンの細胞質側は上述したアクチンやタリンなどを
引き寄せる性質があります。
(参考文献(52) Figure 2)
また、同様に細胞外マトリックスも
細胞の間の間質に存在します。
細胞同士が集まって組織を形成します。
その時にはその形状を維持するための骨格が必要で
細胞外マトリックスがその役割の一翼を担います。
インテグリンはこの細胞外マトリックスの
フェブロネクチンと結合面を持つ事が知られています。
従って、インテグリンは
細胞内の骨格と細胞外の骨格を繋ぐ重要な役目があります。
従って、インテグリンは組織の形態形成において
非常に重要な役割を果たします(53)。
この形態形成(morphogenesis)とは
組織、器官(臓器)、生物全体の形が
幹細胞から任意の細胞種に分化、
その細胞を増殖させる事によって
決定されるまでの過程を扱うものです。
例えば、
受精卵から胚形成、胎児、新生児、乳児と
子どもが順々に成長するにしたがって、
様々な組織や器官が形成されますが、
その過程が形態形成です。
一方で、
癌細胞も腫瘍組織を形成しますが、
それも(異常な)形態形成の一つです。
このような形態形成のためには
上述したように
人が形を保って、動くことができるように
骨格や収縮できる筋形成が必要です。
その骨格は細胞内、細胞間、組織間、臓器間など
様々なスケールで存在します。
上述したように膜貫通タンパク質によって
特に細胞内と細胞間の骨格をつなぐ役目があるのが
インテグリンです。
従って、
この節で扱う癌におけるインテグリンの役割において
その腫瘍組織の形、大きさ、運動などを決める
形態形成においてもインテグリンは
1つの主要な役割を担っていると想定されます。
-
インテグリンの機能は癌では改変されているとされています。
その改変の中で細胞の接着、移動能力を獲得し、
癌の組織形成や転移などと関わります。
そのような細胞を粒子として見立てた時の能力だけではなく、
細胞内の機能であるエンドサイトーシスや
リサイクリング機能などにも関わり、
その機能も癌細胞ではインテグリン依存的に改変されています。
これらは最終的に発がん性や浸潤能力と関わります(54,55)。
しかしながら、インテグリンを標的とした
癌治療に関する臨床試験は成功を収めていません(54,55)。
その理由は
◎冗長性(redundancy)多く作用しすぎる事
◎混乱性(promiscuity) 薬効の複雑性
◎補償機序
これらが挙げられています(56,57)    。
-
上述したようにインテグリンは
稲穂が垂れ下がるような不活性な状態があります。
そのインテグリンが活性状態になる機序は複数がありますが、
活性化状態にする代表的な機序が
タリン、キンドリンによる細胞内からの機序です。
このタリン、キンドリンは
インテグリンのβ鎖の細胞質側の
NPXYモチーフに結合して
不活性なインテグリンを活性な状態にする役目があります(58)。
この時、タリン、キンドリンは細胞質側で協働的に働き、
インテグリンのα鎖とβ鎖の間に挟まるように結合し、
α鎖とβ鎖と距離を開けさせる事で、
中間部位での接触面積を減少させ、
細胞外に突出しているインテグリンを伸ばす働きがある
と想定しました。
このうちキンドリンはいくつかのサブタイプがありますが、
多くの癌の場合、キンドリンは多く発現されています。
その時には癌の移動や浸潤に関わります。
癌細胞の移動や浸潤はフェブロネクチンを介して(59)、
それをおそらく「伝うように」移動すると考えられます。
乳がんや膀胱がんのように
キンドリン1,2ともに発現が高まることで
癌の進行や浸潤を促す癌種もありますが(60,61)、
薄い上皮の卵巣がんにおいては
キンドリン2は癌抑制性の機能があります(62,63)。
インテグリン依存性の機序と非依存性の機序があり、
その中でキンドリンがインテグリン依存的に
様々な癌種においてどのように影響を与えるかは
ケースバイケースで複雑です。
一方で、インテグリン非依存的な機序では
キンドリン2が癌抑制遺伝子p53と結合して、
アポトーシス活性などを下げて
癌形質を獲得する事が乳がんのケースで
報告されています(64)。
これらの事から総合的に考えると
インテグリン依存的な
細胞種特異的薬物送達システムを構築する際に
その治療相手が乳がんの場合は
標的化し、結合した際に
インテグリンを活性化する事によって
逆に癌形成を促してしまう可能性がある事は
少なくとも考慮しておく必要があります。
逆の観点で考えると
インテグリンの標的の際には
インテグリンの機能を抑制する機能で標的化して
それを足場にすることで
乳がんに対してインテグリン依存的に治療できる事と
その標的化、薬剤放出によって
別の機序でさらに治療できる可能性があります。
-
インテグリン受容体は細胞外マトリックスなど
回りの物質と結合、相互作用する事で
細胞内の信号を誘導させる機序があります。
それを「機械的シグナル伝達」(Mechanotransduction)。
このように呼びます。
これが癌の進行に間に制御不全の状態となっています。
これは異常な細胞外マトリックスによって
組織の機械的特性が変化する事によって起こります。
この機械的特性の変化とは
具体的に硬くなるということです(75)。
このような異常な周辺タンパク質網によって
インテグリン依存的に生じた
細胞内の機械的シグナル伝達は
腫瘍生成シグナルであるYAP, TAZを活性化させます(76)。
この腫瘍組織周りに存在する
異常な細胞外マトリックスは
◎Agrin(77)
◎Periosin(78)
これらを豊富に含みます。
これらは上述したYAP, TAZ信号と
インテグリン依存的に関係があります。
これらの事から
癌細胞のインテグリンとAgrin, Periosinが存在する環境下で
薬物送達の標的としてインテグリンを指定して
送達キャリアの装飾設計をした場合、
そのインテグリン活性を高める介入をすると(※)
同時に周辺の異常な細胞外マトリックスとの相互作用が
より高まる可能性があり、
その結合活性の亢進によって
腫瘍生成シグナルを誘導してしまう可能性が想定されます。
(※)
「例えば、インテグリン活性を高める機能化として
上述した
①G protein-coupled receptors(GPCR)
②Toll-like receptor(TLR,exTLR4)
これらの受容体アゴニストが考えられます。
具体的にはケモカインやリポ多糖などが挙げられます。」


//カドヘリン仲介薬物送達システム//
この記事ではカドヘリン仲介の薬物送達システムは
プロトカドヘリンを含めてカドヘリンについて広範に
内容に含めます。
上述したようにプロトカドヘリンは
70種類の多くの遺伝子バリアントを持ち、
構造的な多様性があります。
これは脳神経の連結で機能しているという事が
一般的に知られていますが、
神経系以外の疾患を含む細胞でも見られると
報告されています(24-29)。
◎肝臓(24)
◎腎臓(24)
◎大腸(24)
◎心臓(27)
◎大腸がん(25)
◎乳がん(28)
◎がん抑制(大腸(26)、膵臓(29))
上述したプロトカドヘリンを含めて、
癌に関連するカドヘリンスーパーファミリーについては
Geert Berx(敬称略)らが総括、整理されています(79)。
一つ一つのカドヘリンについて
薬物送達システムの標的としての可能性を考慮しながら
調査、記述していきます。
--
<<Protocadherin-1:PCDH1>>
PCDH1は膵管腺腫(pancreatic ductal adenocarcinoma(PDAC))
これに多く発現されていると報告されています(80)。
このPCDH1は膵管腺腫において
◎癌細胞の成長
◎癌細胞の転移
これらの鍵となる細胞内経路は
◎p65タンパク質の細胞核局在化(KPNB1との連携)
◎NF-κB信号経路活性化
Christian Kaltschmidt(敬称略)らがFigure 1に示すように
p65が細胞核内に局在化すると、
癌細胞の移動や血管生成など
多くの場合腫瘍組織の成長につながります(81)。
実際に膵臓癌の場合には
PCDH1遺伝子の発現は予後が悪化します。
肝臓癌の場合も同様です。
しかし、腎臓癌の場合は良化します。
この理由については後述するように
肝臓は修復性が高く、膵臓の癌は悪性度が高く、
腎臓は組織成熟年齢が早い事にある
と想定しています。
-
このPCDH1の一般的な機能は
上皮のバリア組織の形成やその修復にあります(82)。
またプロトカドヘリンの分類では
Nonclusterd/Delta/Delta 1の中に入ります。
(参考文献(82) Figure 1)
このDelta 1は細胞外に7つのカドヘリン繰り返し構造を持ちます。
一方
「Clusterd protocadherinsは神経系のみに発現します。
神経細胞にはアクソンと樹状突起からなるニューライトがありますが、
樹状突起は1神経細胞あたり数十本になることがあります。
同じ神経細胞の突起同士が結合しないような
回避(Avoidance)機序がありますが、
プロトカドヘリンが束になりより多様性を発揮することで
精緻な神経細胞の連結を可能にしていると考えられています(83)。」
-
PCDH1のmRNAは脳、皮膚、肺、鼻を含め
胚のマウスの成長の間に全ての上皮、内皮に発現しています。
組織の成長や修復に関わる細胞接着分子ですから
当然、血管生成にも関わると考えられます(84)。
上述したように肺、皮膚にも発現されていますから
喘息、アレルギー性皮膚炎など組織が損傷をうけた時に
修復する機能がありますが、これらの病理があると
このPCDH1の機能が低下し、組織の連結が悪化します。
これは喫煙によっても生じます。
-
おそらく癌の形成において悪化する機序があるのは
組織の発達において、
このPCDH1が基本的に関わっていることです。
子どもの成長期だけではなく、
妊娠時の胎児の成長にも関わっています(86)。
これは癌細胞でも同様で
腫瘍組織の成長に関わるという事です。
-
標的性についてはPCDH1は
非常に基本的な機能に関わっているので
PCDH1を癌細胞特異的な標的として利用することは難しいかもしれません。
また、膵臓癌のようにPCDH1が多く発現されており、
その結合によって癌細胞の増殖、転移に関わる
細胞内信号経路を駆動するとなると
このPCDH1の機能を抑制するような結合様式にする必要があります。
静脈投与のように全身に薬剤が回る場合において
その抑制形式がPCDH1全体に当てはまるとすると
元々のPCDH1の組織修復、血管生成のなどの機能も
低下してしまう可能性があります。
但し、上述したように
インテグリンαvβ3など血管生成因子を
薬物送達の為の標的とすることがあります。
特に、高齢になると組織の成長や修復機能が低下するため
活発な腫瘍組織との相対的な形質差異が大きくなります。
上述した機能から考えると、
膵臓癌など悪性度が高く
肝臓など修復機能の高い臓器にある癌細胞は
PCDH1が腫瘍組織を悪化させる可能性が高いです。
一方、腎臓の癌はおそらくPCDH1が良化に向かうのは
腎臓の組織構成単位であるネフロン数が
分娩前の妊娠後期で決定され、
組織の完成が早いことが関係しているかもしれません。
いずれにしても
特に年齢が高い人における膵臓や肝臓の癌においては特に
PCDH1を抑制するタンパク質をナノ粒子に装飾し、
その機能を抑制しながら、
抗がん剤など別の機能を組み込むことで
標的性がある程度確保された状態で
多元的な治療ができる可能性があります。
--
<<Protocadherin-7:PCDH7>>
(膜性腎症治療を含めた腎臓特異的DDSの可能性)
膜性腎症(membranous nephropathy:MN)は、
腎臓のフィルターの役割をする糸球体のポドサイト下の
糸球体基底膜を厚膜化し、そのフィルター機能を低下させる
免疫性の疾患です(181)。
膜性腎症は、非糖尿病の成人におけるネフローゼ症候群を
引き起こす最も一般的な原因の一つです。
ネフローゼ症候群は上述したように糸球体のフィルター機能が低下し、
尿にタンパク質が滲出し、肺、腹、心臓など
身体の多くの部分に浮腫が生じます。
腎臓は水分量を調整する機能もあるからです。
この原因はポドサイトに存在する
抗原(PLA2R、THSD7A, NELL1 and SEMA3B:全体の80-90%)に対する
自己抗原が生じる事で補体系を含めた
免疫活性が局所的に生じ、
それによって基底膜が厚膜化してしまいます(181,182)。
(参考文献(181) Fig.2)
しかし、それ以外のケースで膜性腎症が生じることがあります。
つまり、上述した抗原が全て陰性の場合です。
Sanjeev Sethiらの臨床報告では
カドヘリンの一種であるPCDH7が過剰発現しているケースが
膜性腎症で診られました。
全体のおおよそ6%にあたります(182)。
その病理ははっきりわかっていませんが、
元々、カドヘリンはアクチンなど細胞骨格を誘導する働きがある事と
そのアクチンの大きくする(polymerization)する働きがあります。
さらに細胞接着にも大きくかかわります。
細胞内のシグナル伝達にも関わります。
そうしたことが、基底膜の特性を変えた原因になっているかもしれません。
いずれにしても、PCDH7は特異的なマーカーの一つとして
膜性腎症で確認され、過剰発現しているケースがあります。
上述した抗原以外でPCDH7過剰発現が確認された患者さんに対して、
その働きを抑える抗PCDH7抗体によって
治療できる可能性があります。
また、今回PCDH7は「過剰発現」なので、
糸球体、ポドサイトに通常でも発現している可能性があります。
膜性腎症以外でも、
IgA腎症、糸球体腎炎などの疾患があります。
より一般的には慢性腎臓病があります。
このプロトカドヘリンは種類が多く特異性が高い可能性があるので
腎臓のポドサイトの平均的なPCDH7発現量と
他の組織の発現量を比較することは
このPCDH7を標的として
細胞種、組織特異的に薬物送達させるための
一つの重要な情報になる可能性があります。
--
(破骨細胞への作用)
身体の恒常性を保つためには、
古くなった組織を分解排出し、新たに組織を再構成する必要があります。
それは物質としては硬い骨でも同様です。
これは骨の代謝回転と呼ばれ、
破骨細胞による骨の吸収と骨芽細胞による骨の形成の
サイクルはおおおそ3年の周期で回っていると考えられています。
プロトカドヘリンの一種であるPCDH7は破骨細胞の
機能に関わっている可能性が高いことが報告されています。
中村 春彦先生による論文によれば、
PCDH7は破骨細胞の融合に関わる遺伝子を制御し、
破骨細胞の分化、発達を誘導しているものと考えられています(184)。
この融合は骨髄の前駆状態か段階的に進められていきます。
中村氏が指摘するいくつかの遺伝子
(Mitf、Dcstamp、Ocstamp および Atp6v0d2(184))
あるいは(RhoA and Rac1, SET(186))の作用により
細胞は融合し、破骨細胞へと発展します。
(参考文献(185) 図)
従って、PCDH7を欠損させると
破骨細胞は成熟機会を失う事になります(186)。
--
<<Protocadherin-8:PCDH8>>
PCDH8のメチル化は様々ながんの予後不良と関連があり、
そのがん種の中には胃がんも含まれます(88-92)。
その予後不良はリンパ系や離れた組織、臓器への転移が主な原因です。
それが治療を難しくするからです(93)。
転移するためには間葉形質を手に入れること以外には
細胞外マトリックスを伝った(or 回避した)移動、
血管内腔への滲出(血管組織への浸潤)、
血液を通した(長距離の)移動、
血管内腔からの組織実質への滲出、
間質、細胞外マトリックスを伝った(or 回避した)移動、
転移先臓器への定着機序が少なくとも必要です。
Ying Lin(敬称略)らによれば、
その一つにLAMC2が関わっているとされています(93)。
ラミニンのファミリーであるLAMC2は
細胞外マトリックスのファミリーで
基底膜の一部として扱われます。
これが癌の転移に関わっている事は一般的に知られています(94)。
腫瘍がある状態では細胞外マトリックスが密になり
このLAMC2の発現が高まっている事が考えられます。
こうした状況にあると胃がんの予後を悪くするということです(93)。
Ying Lin(敬称略)らの報告(93)でより重要なのは
細胞外マトリックスと胃がんの細胞が
どのように胃がんの移動や転移を促進するのか?
その具体的な動きを理解することです。
一般的なラミニンとカドヘリンの関わりは
Jacopo Di Russo(敬称略)らがSynopsisに示しています(95)。
ラミニンを構成要素としてもつ細胞外マトリックスが
基底膜のカドヘリン結合の安定性、接着強度を向上させます。
--
癌細胞の転移の全容を掴むためには
栄養膜細胞が絨毛外栄養膜細胞に分化し、
間葉形質を経て、子宮内膜まで移動し、脱落膜に浸潤し
その一部は血管生成の為、血管生成因子の誘導を受けながら
血管内皮に誘導される機序を
多様な細胞接着分子(その変化)を含めて理解するように
癌細胞の原発腫瘍からの動線を
一つ一つ丁寧に追いかけていく必要があります。
おそらく一つの細胞接着分子だけではなく、
PCDH8を含めた多種多様な細胞接着分子、
そしてそれが段階的に変わることが
複合的に全体のプロセスとして関与していると考えられます。
--
このように考えると
ナノキャリアによって特定の細胞種、病変部位に
特異的に送達させる場合には、
1つの特定の細胞接着分子、その結合相手の装飾だけでは
力不足であると想定されます。
ナノキャリアにおいても
想定されるそのナノキャリアの軌跡を
身体の正確な組織をイメージしながら掴み、
その中で必要な細胞接着因子の組み合わせを考える必要があります。
体は常に変化し、異種性があるので
完全な標的性の実現はおそらく難しいですが、
複数の最適な細胞接着分子標的を定めて
適切に装飾する事は高い確率での標的性向上につながる可能性があります。
その漸近的なエビデンス取得を含めて
その為の前段階として実施すべきことは多く存在します。
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<<Protocadherin-9:PCDH9>>
大うつ病性障害(MDD)は、
(1)抑うつ気分 / (2)興味の減退、
(3)認知機能の障害 / (4)睡眠障害 / (5)食欲障害
これらなどの自律神経症状を特徴とする消耗性疾患です。
女性のMDDの発症率は男性の約2倍であり、
生涯に6人に1人が罹患すると言われています。
その遺伝率は約35%と推定されています(188)。
中国で行われた
大規模な(89 610 cases and 246 603 controls)
全ゲノム関連解析によると
プロトカドヘリン9の遺伝子変異(SNP)の関連が強いことが
強く示されています(p = 1.69×10^-8)(187)。
一方で、
日本で行われたマウスの基礎研究(189)においても
新しい目的物へのアプローチが低い事が示されています。
これは上述した(2)興味の減退に一部重複します。
また、不安、恐怖からの回復の遅延が見られました。
これは(1)抑うつ気分に当たる可能性があります。
また異常な視運動性刺激は
脳の耳の蝸牛の内側に形成される神経系である
前庭(vestibular system)に異常がある可能性があります(190)。
このプロトカドヘリン9は今述べた内耳の前庭系と辺縁系に
特異的に発現しているとされています(189,192)。
この辺縁系は嗅索、扁桃体、海馬、海馬傍回、帯状回、扁桃核など脳の奥深くにある大脳基底核の外側を取り巻くように存在する
複数の構造物の総称です。
(参考文献(191) 図 The Limbic System 参照)
Masato Uemura(敬称略)らはマウスのケースで少なくとも
扁桃体と海馬にPCDH9の発現が見られたことを確認しています(189)。
これらは感情と関わる部分なので、
感情障害を初め、他の精神疾患とも関わりがある可能性があります。
プロトカドヘリン9に異常がある場合、
遺伝子的治療も含めてどのような治療があるか?
プロトカドヘリン9が周辺のどのような機能と連携しているか?
その分子細胞生物学的機序が未知なので、
具体的に提案できる状況ではありません。
一般的には
プロトカドヘリンはシナプスの形成や発達に
関わるとされています(197)。
Qiang Wu(敬称略)らのFig.4を参照すると(198)
同じ神経細胞、異なる神経細胞の軸索、シナプスの
位置調整に関わっていそうであると推定することもできます。
また、複数のプロトカドヘリンがシス(同種)、トランス(異種)で
束(クラスタリング)化して結合しています。
上皮細胞では接着接合、密着結合が連携して結合して
組織の健全性を保っていますが、
神経細胞の場合は多様なプロトカドヘリンが
並列して、束化して結合する事で
シナプスの位置健全性を維持している可能性があります。
このように複合体であるならば、
神経細胞はどのように独立性、特異性を発揮しているか?
連結すると異常が出る神経細胞とつながらないようにしているか?
それをもう少し詳細に考える必要はあるかもしれません。
一方で、
プロトカドヘリン9が
もし、辺縁系(195)や前庭系(196)の異常と関連があり
PCDH9との関連が全ゲノム関連解析で示された
大うつ病性障害に関わっていて、
かつ、PCDH9が領域特異的な発現であれば、
それに対して結合親和性のある薬剤を
特異的に送達できる可能性があります。
これは単にそこに異常がある場合だけではなく、
その領域にタンパク質病理(193)や腫瘍(194)がある場合でも当てはまります。
プロトカドヘリン9は同種結合(シス、ホモ結合)である可能性もあるため
プロトカドヘリン9そのものを作ることできて、
それを薬剤キャリアに装飾することができたら、
前庭、辺縁系への特異的送達の機会が生じる可能性があります。
--
<<Protocadherin-10:PCDH10>>
(要約)(99)
プロトカドヘリン(PCDH)はカドヘリンの3つのタイプの内の一つで
非常に多様なサブタイプを持ちます。
このPCDHは脳(219)に多く発現しています。
PCDH18関しては大人のマウスにおいて
肺と腎臓に多く発現しています(220)。
従って、PCDH18は肺や腎臓への特異的標的のための
ナノ粒子製剤の装飾因子として利用できる可能性があります。
S-Y Kim(敬称略)らはこの記事の目的である
細胞接着分子依存的な薬物送達システムの
一つのコアの情報となる
プロトカドヘリンの脳内の時空間の発現パターンについて
明らかにしています(219)。
プロトカドヘリンの内
PCDH1, PCDH7, PCDH9, PCDH10, PCDH11, PCDH17, PCDH20
これらに関しては大脳皮質の中の
領域依存的な発現パターンが見られるということです。
PCDH7、PCDH9、PCDH20は体性感覚、視覚に関わる領域。
PCDH9、PCDH11、PCDH17 は運動に関わる領域。
これらのPCDHは視床核にも特異的発現が見られます。
従って、これらのプロトカドヘリンを標的とすることで
少なくとも体性感覚、視覚、運動に関わる脳の領域に
薬剤を特異的に送達させる事ができる可能性があります。
但し、これは発達段階だけに当てはまるのか?
(During early postnatal stage (P3)(219))
脳が発達しても同様の事がいえるのかは確認が必要です。
-
PCDH10は他の一般的なカドヘリンと同様に結合において
Caイオンが必要です。
また、同じPCDH10が結合するシス結合(同種結合、ホモ結合)です。
この節で最も重要な情報の一つは
このPCDH10は主に
①嗅覚系の脳核(the nuclei in the main olfactory system)
梨状皮質(piriform cortex)嗅覚の機能に関わる。
②辺縁系(the limbic system)
③オリーブ皮質(olivocortical)
④大脳基底核(線条体)(222)
これらに特異的に発現が見られます。
但し、辺縁系の主要な部位の一つである海馬には
多くの発現が見られなかったとされています。
これらはマウスの脳の結果です(200)。
このような中枢神経系での発現が主要ですが、
心臓、腎臓、肺、気管でも発現が検出されています(221)。
①の嗅覚系の脳核に発現が見られるので、
PCDH10を使った薬物送達は鼻腔から
PCDH10を装飾したナノ粒子製剤を入れて、
①の嗅覚系の脳核に発現されるPCDH10を起点として
脳の深部に当たる辺縁系などにアクセスできるか?
そういった観点もあります。
(参考文献(201) Figure 1)
但し、PCDH10は結合力は一般的に弱いと言われています(200)。
PCDH10は
(1)細胞接着 
・接着能力は一般的に低い(200)
-
(2)神経回路、シナプスの形成、維持
・シナプス除去(PSD-95依存的)
例えば、海馬、皮質シナプスの除去(202)
Pcdh10の変異は自閉症、うつ病と関連があります。
扁桃体の興奮性シナプスの発達に異常がでます(203)。
これはシナプスの除去機能の改変が
関わっている可能性があります(202) 。
シナプス除去は不要なシナプスを除去する事で
正常な神経回路を形成するためには必須のプロセスで
神経系のほとんどの部位で観察されます。
この扁桃体の異常は精神疾患と関わりがある
可能性があります(223)。
PCDH10は扁桃体の神経細胞の
正常なシナプス形成に関わっている可能性があるので、
その(構造的)機能に遺伝子的は変異を含めて異常がでると
双極性障害や統合失調症とも関連する
と言われています。
PCDH7とともに感受性の高い遺伝子であるとされています(224)。
また、PCDH10は早発性の大鬱病とも関わっている事が
示されています(225)。
PCDH10は扁桃体の
dorsal basolateral nucleus(背側外套状核)の
興奮性シナプスの発達に影響を与えます。
この扁桃体基底外側(Basolateral Amygdala)は
脳の情動と恐怖の処理に関連しています。
感情を評価する機能にも関連します。
不安障害とも関連があるかもしれません(226)。
-
(3)アクチン形成の制御
WAVEなどいくつかのアクチン制御性を持つたんぱく質を
細胞質側ドメインで引き付ける事で
シナプス形成に関わるF-actinの組織化を制御します(218)。
-
(4)認知機能
-
(5)癌抑制
抑制:高メチル化、遺伝子欠失の下方制御
亢進:増殖、浸潤、転移など移動性を上げる
これらにおいて需要な役割を果たします(204-207)。
-
PCDH10はいくつかの癌において
(6)非侵襲の診断、予後予測因子です(208-211)。
大腸がん(抑制)、前立腺がん(抑制)、
子宮頸がん(亢進)、乳がん(抑制)
-
PCDH10は細胞質側で
(A)Nap1
神経の細胞骨格の動的機序において重要な役割を果たします。
また、Nap1機能欠失は神経細胞の分化を乱します。
アクチン依存的に細胞骨格に影響を与えます(212)。
-
(B)CYFIP2
アクチン依存的に細胞骨格の動的機序に影響を与えます(213)。
-
(C)Abi-1
シナプスと細胞核のメッセンジャーとして働き
神経の樹状形状やシナプスの形成に関わります(214)。
-
(D)HSPC300
神経細胞の発達や結合性において重要な役割を果たします(215)。
-
(E)WAVE1
アクチン依存的に細胞骨格の動的機序に影響を与え、
シナプスの機能を制御します(216)。
-
(F)F-actin
神経伝達の状態によってCaイオンやNMDA受容体依存的に
構造を変化させ、神経細胞膜のリモデリングや
上述した(A)-(E)のタンパク質を引き付け、
神経細胞の可塑性に関わります(217)。
-
これらの物質を引き付けます。
その他、機能として
(G)Nカドヘリンの配置制御
これにより膠芽細胞種では細胞の移動が増加します。
この機能があります。
(参考文献(99) Fig.1)
PCDH10は樹状組織の形成やシナプスの形成、刈取りなどにおいて
細胞質側の複数のタンパク質と結合を通した相互作用によって
重要な役割を果たしていると考えられます。
--
(癌との関連)(99)
大腸がんではPCDH10は癌抑制の働きがあります。
大腸がん組織の43-85%にPCDH10 promoterのメチル化が見られました。
PCDH10の再発現はアポトーシスに影響を与えることなく
G1細胞周期停止を起こします。
それによって細胞の有糸分裂を防ぎ、
細胞の増殖を抑える働きがあります。
これは癌抑制遺伝子であるp53とも関わりがあります(227)。
PCDH10は一部の脳腫瘍では癌細胞の移動性を亢進させますが、
大腸がんでは上皮間葉転換を防止するとされています。
また癌の幹細胞化を抑制するかもしれません。
これらはEGF-EGFRの細胞膜側でのリン酸化を
PCDH10が細胞膜側で抑えることによってAKTを抑える
ことが関係している可能性があります(228)。
子宮内膜がんにおいてもPCDH10は癌抑制性があります。
癌に罹患している場合、下方制御されています。
PCDH10はWnt/β-catenin-MALAT1制御軸によって
子宮内膜がん細胞種(EEC)の成長を遅らせるか、
細胞死を誘導します。
Wnt/β-catenin信号は癌と関連があります(229,230)。
DEPDC1-caspase signalingを通したアポトーシスを誘導します。
胃がんにおいても大腸がん、子宮内膜がんと同様に
癌抑制性があります。
胃がん罹患時にはPCDH10遺伝子が欠失、抑制されています。
PCDH10の再発現は
癌の成長、増殖、浸潤を抑制し、アポトーシスを誘導します。
Dingding Shi(敬称略)らの報告によると(231)
一般的にPCDH10とp53は密接な関係があります。
p53の共通的な結合部位が
PCDH10のプロモーター領域に位置します。
p53の発現が正常であればPCDH10のレベルは正常化します。
p53は普遍的な遺伝子なので、
PCDH10の発現は多くの細胞種で見られるかもしれません。
ただ、脳に対する治療においても
PCDH10に介入するときには
PCDH10の遺伝子、転写因子、翻訳だけではなく
p53ルートの介入も可能かもしれない事を示唆するものです。
例えば、p53のmRNAを入れたナノ粒子に
特定の神経細胞に発現されたPCDH10とシス結合する
PCDH10を装飾して脳に送達するという事も考えられます。
癌の場合にはp53に介入することが
並列的にPCDH10の発現を高める事に繋がります。
PCDH10は細胞外に見られ、
シェディングして血漿中に遊離する可能性もあるので
バイオマーカーの一つとして利用できる可能性があります。
膵臓がんは発見が遅れやすく、治療が難しい癌の一つです。
PCDH10の抑制と予後不良は正の相関があるとされています。
PCDH10は細胞増殖の回数と相関のである
テロメアを伸長させるテロメアーゼの活性を抑える
ことが知られています(232)。
Yilan Zhen(敬称略)らはTable 1に(99)
様々ながん種とpcdh10の機能の関わりについてまとめています。
それによると、膵臓がんでは
PARP, caspase-3,9 Bcl-2 Akt signaling pathway hTERT
これらの信号が増殖に関わっています。
これらは pcdh10が抑制されることによって活性化されます。
従って、膵臓がんの治療にあたっては、
pcdh10やその発現に関わるp53による治療を
pcdh10の発現量を確認しながら行う事は
一定の奏功に貢献する可能性があります。


//接着分子仲介DDSによるTLS形成//
DDS:薬物送達システム/TLS:3次リンパ様組織
--
<背景>
腫瘍組織の中に2次リンパ節に類似した
組織化した多種多様な免疫細胞群である
3次リンパ様組織の形成を
薬剤によって促すことは容易ではないと考えられます。
現時点の癌免疫療法において
臨床結果、その総括報告から
3次リンパ様組織の成熟がみられた患者さんは
一般的に生存が長く、予後が良いと報告されています(65-69)。
しかしながら、現時点では人為的に薬剤によって
腫瘍組織中の3次リンパ様組織を促すことに成功した
報告はまだないか、少なくとも多くはありません(70)。
なぜなら、組織の成長は機序として共通する部分が多いからです。
血管やリンパ管を引き込む機序は
その成長因子に着目するのと同一の物質もあります。
従って、3次リンパ様組織の成長機序から
それを促進するものを無条件で選び出すと、
それが同時に癌の成長を促す結果になる事も想定されます。
従って、3次リンパ様組織だけ、
つまり免疫細胞の組織化だけを
腫瘍組織から近い位置で実現させる必要があります。
その組織化においては
細胞同士の接着や細胞内外骨格との相互作用が重要です。
それを担うのが
◎インテグリン
◎カドヘリン
◎免疫グロブリンスーパーファミリー
◎セレクチン
◎エフリン(Ephrins)
◎キスペプチン(Kisspeptins)
これら上述した細胞接着分子(CAMs)です(73)。
この接着分子は細胞の機能の中で重要な
移動特性を決定する重要な細胞表面分子で異種性があり、
少なくとも一部は細胞種特異的な性質を持ちます。
まだ見つかってない構造もあるかもしれません。
例えば、E-カドヘリンは通常細胞を繋ぐ接着分子ですが
癌では少ないと言われています(71)。
また、3次リンパ様組織の成熟の為に必須である
胚中心の形成において
胚中心の特異的な接着分子は
少なくともVLA-4(インテグリンα4β1)、INCAM-110である
と報告されています(72)。
このような接着分子の違いを含めて
より包括的に免疫細胞の接着分子と癌のそれとの違いを把握し、
その接着分子の活性化機序を
上述する一般的な事も含めて同時に理解することで
免疫細胞だけの接着、組織骨格化を促せる可能性があります。
それを実現するための一つの手段として
現時点で接着分子依存的な薬物送達システムの可能性を想定しています。
この章では、その可能性について追究していきます。
--
<細胞接着分子データベース>
腫瘍組織中において
3次リンパ様組織の形成を排他的に促すためには
それを形成する免疫細胞群の移動特性を制御する事が
1つの重要な項目です。
その為には
①癌微小環境にブロックされにくい形質
②免疫細胞同士、結合しやすい形質
③腫瘍組織中の癌細胞と結合しやすい形質
これらを併せ持つ必要があるかもしれません。
但し、現時点ではエビデンスがない状態での仮説なので
逆の結果になるかもしれません。
ただ、上述した
①癌微小環境
②3次リンパ様組織を形成する免疫細胞群
③腫瘍組織中の癌細胞
これらの少なくとも典型的な
細胞接着因子を整理して把握しておくことは大切です。
これについて具体的に調査、下述します。
(後日記載予定)

--
<細胞の移動性、細胞接着分子の制御>
3次リンパ様組織の形成を排他的に促すためには
Yasuhiro Kanda(敬称略)らが総括している様に(39)、
CTLA-4のような免疫細胞表面に発現されている
免疫細胞の移動性を決める重要な表面タンパク質が重要です。
このCTLA-4を抑制するとT細胞の移動性が上がります。
この時、癌微小環境である
血管、リンパ管、癌関連繊維芽細胞、
密に形成された細胞外マトリックスとの
細胞接着因子依存的な接着係数が下がる傾向があるかもしれません。
物理的にそうでないと腫瘍組織の浸潤性が下がるからです。
従って、CTLA-4を阻害する事によって
免疫細胞が周辺組織にトラップされにくいようにする事が
3次リンパ様組織を形成する上で一つの重要条件である
可能性があります。
このような
◎免疫細胞の癌環境中の移動性
◎表面タンパク質
◎細胞内経路
◎細胞接着分子
これらの関わりに関連する報告(74)を
具体的に参照して、
上述した表面接着分子のデータベースに関連する前節と
関連付けながら、情報共有いたします。
(後日掲載予定)

--
<膜融合による細胞接着分子発現亢進>
3次リンパ様組織の形成を
細胞種特異的薬物送達システムを利用して
腫瘍組織内で促す医療介入を実現するための
現時点で一つの想定される手段は
その移動性、組織化に関わる
細胞接着分子の発現制御があります。
その細胞接着分子の発現を上げる介入をする手段としては
結合回数、時間によって親和性成熟が起こるかどうか?
という観点もありますが、
送達キャリアとの膜融合によって
送達キャリア上にある任意の細胞接着分子を
標的細胞に移植、移動させるという視点もあります。
そのための想定される送達キャリアは
細胞、細胞外小胞、生体模倣ナノキャリアなどが挙げられます。
但し、この場合、エンドサイトーシスして
エンドソーム内に取り込む機序を抑え込んで、
膜融合の機序を誘導させる必要があります。
(後日掲載予定)

--
<細胞接着分子-リガンド間の親和性成熟>
血糖値の制御は人の健康において非常に重要です。
Ⅱ型糖尿病で血糖値の制御が難しい人が
血糖値を下げすぎてもリスクになります。
また、血糖値が高い状態が長く続くと脳神経への影響も懸念されます。
高齢になって特徴的に生じる認知症との関連も指摘されます。
血糖値をうまく制御するためには
インスリンの働きが重要です。
インスリン感受性が高ければ、
血糖値を体の中でうまく調整することができます。
それにおいて重要な働きをするのが
インスリンと結合するインスリン受容体です。
このインスリン受容体はGLUT4を転座させることによって
組織内へのグルコースの取り込みを上昇させます(98)。
細胞内に糖が取り込まれることで
細胞内の糖代謝が働き、それによって糖の濃度低減が実現されます。
従って、この機序は
人が血糖値を制御する上で中心的な役割の一つである
と考える事ができます。
このインスリン受容体はインテグリンと同様に
不活性な状態と活性な状態が存在します(98)。
Na-Oh Yunn(敬称略)らは
その段階的な活性化機序について総括されてます(98)。
細胞接着分子に限らず、
様々な受容体の活性化機序を
構造分子生物学的な観点を含めて理解する事は
最終的な一つの出口戦略として
ナノキャリアなどの薬物送達媒体によって
どのように標的性を段階的に高め、
投与するたびに累乗的に標的性が高まるシステムに
繋がる可能性があります。
通常、癌、感染症などにおいては
薬物耐性を持つ事が一般的ですから、
同一の患者さんの投与回数に応じて
耐性とは逆の増強の効果を得られる可能性がある事は
少なくとも一定の追究の余地があります。
--
インスリンがインスリン受容体に結合する場合、
いくつかの結合ドメインがあります。
Site-1とSite-2がありますが、
Site-1の結合親和性はSite-2よりも100倍以上高いです(99,100)。
従って、インスリンとインスリン受容体の結合活性が高い、
言い換えれば、インスリン受容体が活性な状態にあるとは
このSite-1が細胞外でインスリンと結合するための
結合面を露出しているかどうかによります。
このSite-1はNa-Oh Yunn(敬称略)らがFig.2dに示すように
L1とαCT'のドメインからなります。
これがインスリンのA-chainとB-chainと結合します(101,102)。
この節の内容において最も重要なのは
アロステリック調整因子です。
結合部位と異なるところに結合することによって
その構造体の配座を変える事ができるというところです。
インスリンの場合ではNa-Oh Yunn(敬称略)らがFig.3eに示すように
アロステリック調整因子A43を介して、
インスリンの構造L1'がぶら下がっていたのが
幹の部分に結合することによって
「(おそらく)構造的に安定します」。
構造が安定すると物理的に考えれば
接触した際に引力が働いていれば、
その力を位置が安定しているために効率よく生かすことができます。
つまり、構造的に剛性が高いということです。
それだけではない可能性があります。
全体的に配座が変わることでエピトープの露出が変わる
という事も考えられます。
いずれにしてもインスリンが結合する事によって
あるいは他の機序によって
正のアロステリック調整因子(allosteric modulator)が
どのように誘導されるか?
それが非常に重要な部分です。
従って、細胞接着分子においても
結合性を高める正のアロステリック調整因子を
一つ一つ明らかにしていき
それらを薬物送達媒体によって
どのように段階的に誘導するかを考える事が重要になります。
例えば、正のアロステリック調整因子(物質)を
ナノ粒子内に含ませ、
標的サイトに送達されたときに放出されるようにすれば、
そのアロステリック調整因子によって
局所的に受容体の活性が高まる可能性があります。
インスリン受容体のケースでは
インスリンと結合しないと
A43のアロステリック機能は働かないとされています(103)。
従って、結合する事「そのもの」も
受容体を活性化する上で重要であるということです。
つまり、同じような機序が細胞接着分子にあるのであれば、
結合するたびに正のアロステリック調整因子と共に
受容体の活性が上がっていくという可能性が考えられます。

//アロステリック制御//
アロステリック制御というのは
正と負があり、その受容体の活性を改変することができるものです。
受容体は必ずしも活性になっている方がよいのではなく
不活性に意図的にすることが健康につながる事もあります。
少なくとも、現時点で特に重篤な疾患がない健康な人に対して
何らかの目的でアロステリック制御することは
非常に慎重な判断、議論が必要です。
例えば、筋委縮性側索硬化症という疾患があります。
運動神経が細胞死し、最終的には命を落とす難病であり、
少しずつ動かせる筋肉が減っていく病です。
これは細胞内のミトコンドリアやタンパク質蓄積なども
原因の一つして考えられていますが、
初期では運動神経の過剰な興奮が挙げられています。
この過剰な興奮は筋肉のけいれんをもたらします。
従って、筋委縮性側索硬化症の初期症状が見られる時に
その神経興奮に関わるカルシウムの取り込み、
細胞内生成に関わる受容体に対して
神経伝達の活性を抑えるような
負のアロステリック制御をおこなうことで
神経伝達に関しては、正常な方向に改変できる可能性があります。
この事は、例えば、運動能力向上の為に
健康な人に運動神経を活性化させるような介入をすると
副作用として筋委縮性側索硬化症を誘発したり
そこまでには至らなくても
筋肉のけいれんが止まらないといったことも生じる可能性があります。
従って、非常に慎重な判断が必要です。
まずは、重篤な病気を持った患者さんのために
このような先端技術を適用するというのが、
リスクとベネフィットのバランスを勘案した時に
合理的な道であると考えられます。
しかしながら、
高い強度で負担のかかる運動をしたとき、
特定の部位がけいれんしたり、
非常に過酷な歌手活動による声帯のけいれんを含む異常によって
声が出なくなるというのは
それに関わる過剰な運動神経の興奮が関連している可能性もあります。
休息しても収まらない場合、
その活動がその人にとって命の次に大切なものであるならば、
非常に慎重な段階、実績を踏んで、
リスクとベネフィットを考慮入れて、
その症状の緩和の為に運動神経を
アロステリック制御によって鎮めるという事は
将来的には想定内に入るかもしれません。
通常、受容体の活性を制御するには
活性化部位に直接薬剤を作用させる事がありますが、
アロステリック制御の概念を薬剤開発に取り入れると
受容体の活性を動かす選択肢が数倍増える事になります。
また、アロステリック制御では
構造が非常にダイナミックに変化するため、
低温電子顕微鏡で具体的に受容体の構造が
どのようなアロステリック制御因子によって動いたか?
それを調べる事ができます。
受容体は同種(ホモ)、異種(ヘテロ)
それぞれのケースがありますが、
度々、2量体、あるいは多量体の構造を作っている事があります。
Jean-Pierre Changeux(敬称略)らが
Monod-Wyman-Changeux (MWC) modelを参照して
Figure 1に示すように(104)
2量体の構造が緩和している状態と
それが緊張(つまり密着)している状態が存在し、
全てのケースに普遍性を持つかわかりませんが、
一般的には緩和しているケースのほうが受容体の活性は高まるといいます。
例えば、インテグリンの例で有れば、
Aki Manninen(敬称略)がFig.1に示すように(105)、
細胞骨格であるタリンが
インテグリンの異種2量体構造の緊張を緩和させることで、
つまり、構造的に引き離すことで
インテグリンの細胞外構造が立ち上がり、
活性な結合面が露出して、受容体としての活性が上がります。
このような事が同種、異種2量体、多量体で
ある程度共通的に当てはまるかどうかという事です。
逆に受容体としての活性を抑えたい場合には
つまり負のアロステリック制御を実現したい場合には
2量体を作っている受容体の結合相互作用を高めるような
アロステリック制御因子、その分子を見つける事になります。
例えば、
筋萎縮性側索硬化症の初期症状で見られる痙攣を抑えるためには
一つの考えられる道としては
視床下部-下垂体-副腎軸の神経細胞で
神経興奮に密接に関与するカルシウムの取り込み
細胞内生成に関わるキスペプチンがありますが、
運動神経に対して、このキスペプチンのような
カルシウムの取り込み、細胞内生成に関わる受容体を探し、
その結晶構造を低温電子顕微鏡で分析し、
活性状態と不活性状態があるのであれば、
その構造的な特徴を掌握する事です。
それらの特徴からどのようにアロステリック制御すればいいか?
それについてある程度の推測ができる可能性があります。
--
この記事で述べている細胞接着分子は
下の章で挙げているように非常に多様なたんぱく質を持ち、
それぞれが特異的な機能を発揮するので、
それらの機能を活性結合部位とは別の
複数の結合部位によって正にも負にも動かすことができるという事は
薬剤による医療介入の幅、選択肢に大きく貢献するものです。
上述したようにアロステリック制御因子は
構造的に非常にダイナミックに動くことから
精密に分析する事が可能です。
また、人が直感的に理解しやすい物理を持ちます。
例えば、インテグリンであれば
α鎖とβ鎖が先端部の架橋部を除いて離れれば、
インテグリン全体が細胞外で立った構造になりやすいことは
直感的に理解する事が可能です。
また、このような緩和構造が活性化しやすいことは
Monod-Wyman-Changeux (MWC) modelでも示されています。

//代謝回転(turnover)//
人の健康も含めて、動的な世の中で安定的に、恒常的に
存在することが成立しているモノ、コトの多くに循環系があります。
例えば、都市の開発において、
上水、下水を含めた水系の循環機能をどのように確保するか?
これは、基本的な事の一つです。
もし、これらの循環システムが脆弱であれば、
小さな子供も含めた衛生上の健康に悪影響があります。
違う例でよりスケールの大きなものでは
自然環境の中のカーボンサイクルがあります(111-113)。
大気中の2酸化炭素濃度を安定化させるためには
人為的な排出だけではなく、
土壌、植物、動物、海洋、火山活動など
様々な媒体の炭素収支を考える必要があり、
その上でネットゼロを実現する必要があります。
その為には炭素が地球環境の中で循環しているということを認識して
その複雑なネットワークの一つ一つを
コンピューターや人工知能の力を借りながら
できれば本質的な理解を促す描写的な事も含めて
分析者が理解して、介入していく必要があります。
上述した都市開発における水系の健全な循環においても
例えば、仮に尿や便がある特定のポイントで蓄積されて、
環境的に非常に深刻な問題が出ているという事が生じた際には、
配管の詰まりなど局所的に明らかにわかるような問題の場合もありますが、
その問題はもっと複雑な脈略がある場合があります。
例えば、観光客も含めて人が異常に増えて、
それによって下水環境に異常に負荷がかかかっている事と
下水処理場の老朽化、機械の連携がうまくいっていないとか
そのようなより大きなシステムも関係している場合もあります。
人のケースでも大雑把ではありますが、
大切な循環システムがあります。
呼吸して大気中から窒素、酸素、二酸化炭素を取り込んで
血中のそれらの濃度を適切に調整して、右心房に運ばれ
右心室、動脈を通じて全身に送達されます。
そこで酸素の一部が消費され、やや二酸化炭素が多くなった状態で
静脈を通じて左心房に運ばれ、左心室から最後に肺に運ばれ、
吐く呼吸として2酸化炭素が多い空気が放出されます。
摂食、飲食を通じて人は消化器から栄養を取り、
細胞で適切に代謝された後、老廃物が血液を通じて排出されます。
その時に腎臓でろ過されて、一部は尿として放出されます。
また、固形物としては大腸から肛門を通じて便として放出されます。
人が健康を維持するためには
このような循環の健全性を維持する必要があります。
その中で本日、この章の背景部分で例として挙げる
心臓の機能に関しては、
全身に血流を送り出すポンプとしての機能と
受け取った血液を肺へ届けるその機能があります。
心臓は1日に10万回、収縮、伸張を繰り返していると試算され、
一生の間にはその回数は40億回と試算されます。
心臓の筋組織は一生休むことはありません。
この心臓は人の循環を考える上で一つの中枢となる臓器です。
例えば、下述するように
心臓の疾患で心臓肥大という問題があります。
肥大するという事は心室、心房の外側の組織の壁が
正常な状態よりも厚くなり、それらの空間が狭くなっていることです。
また、それらに追随して、筋組織としての機能が
組織として硬くなることで低下している事も想定されます。
では、なぜ心臓が肥大するか?
それは細胞単位でより微視的に考えると、
心臓の細胞の一つである心筋細胞やその周りの
タンパク質量が増えている事が大きな要因の一つです。
このタンパク質量が増えるとは
生成と排出のバランスが崩れていると言い換えることもできます。
上のカーボンサイクルなどと類似させて考えると
すなわち、タンパク質の細胞単位での循環に異常が生じている
と言い換える事ができます。
タンパク質を消化、分解し、
その量の恒常性を維持するためには
大きくは二つのシステムがあるとされています。
◎オートファジー
◎プロテアソーム系
これらです。
それらについてここでは詳しくは述べませんが、
その簡略的な概要を説明すると、
オートファジーはエンドソーム、リソソームなど
多様な細胞内の小胞、区画内にタンパク質を収納し、
その一部を分解することにあります(114)。
プロテアソーム系とは
複雑なタンパク質分解酵素複合体の事で、
長鎖のタンパク質をハサミのように細かく分解する事を
重要な機能として含みます。
従って、
心臓に肥大が生じ、タンパク質が蓄積している状態は
大きくは上述した2つのタンパク質分解の系統が
正常な状態から崩れている事が想定されます。
しかし、
それらの原因を突き詰めていくためには
より細かなたんぱく質生成、分解における
ネットワーク構造の全容、詳細を掌握する必要があります。
単に細胞内だけではなく、
心肥大の場合には細胞と細胞の間の間質に存在する
線維化されたタンパク質の蓄積も考えられます。
そのたんぱく質を含めて考えるためには
間質でプロテアソームを働かせるシステム。または、かつ、
オートファジー、細胞内のプロテアソーム系にアクセスさせるために
間質に存在する細胞外マトリックスを含めた
線維化されたタンパク質の量を抑制的に調整するための
間質から細胞内へタンパク質の引き込み機序も必要になります。
この章で詳述する細胞接着分子のターンオーバー、代謝回転は
まだ十分に研究されている領域ではありませんが、
限られた情報から自らの考察を含めて解釈すると
上で詳述した背景が関係しています。
例えば、インテグリンは細胞内外のタンパク質の接点であります。
細胞内では細胞骨格であるアクチンなどを引き込み、
細胞外ではフェブロネクチンのような細胞外マトリックスと結合します。
このインテグリンを通じて、細胞内外で
タンパク質が機能的につながっていることが示唆されます。
このインテグリンは細胞表面で
そのたんぱく質が自然と寿命を迎えるまで
固定的に存在しているのではなく、
非常に動的な分解、リフレッシュシステムの中で存在しています(116)。
言い換えると
インテグリンはエンドサイトーシス機能の中で
貫通している膜が凹み、それが細胞内の小胞に変化します。
それによってインテグリンは細胞表面から一旦姿を消します。
その後、オートファジーなどの分解機能によって一部は消化され、
その機能の中に派生的に含まれるリフレッシュ機能で
再び、細胞内の胞がエクソサイトーシスして細胞膜と融合することで
細胞表面に再び姿を現します。
その時に、インテグリンは多くの場合、
細胞外のタンパク質と結合していますから
その細胞内へのエンドサイトーシスを使った引き込みによって
細胞外のタンパク質も同様にオートファジーの分解機構内へ誘導される
と考えられます。
つまり、インテグリンのターンオーバー、代謝回転、リフレッシュ機能は
同時に細胞外マトリックスのそれらを一部、兼ね備えていると言えます。
これは細胞内のアクチンなどの細胞骨格の
ターンオーバー、代謝回転、リフレッシュにも
影響を与えているかもしれません(117)。
最新の研究において
Joshua Abd Alla(敬称略)らが
心室中隔欠損、肺動脈狭窄、大動脈騎乗、右心室肥大の
四つの特徴を持つ先天性心疾患である
ファロー四徴症(Tetralogy of Fallot【略】TOF)。
これにおいてアクチンなどの中間フィラメントである
Bublin coiled-coil protein (BBLN) というたんぱく質の
過剰な蓄積がマウスのケースで見られたとされています(109)。
背景的には生成が過剰な可能性もありますが
このタンパク質の分解機構に異常が出ているとも
言い換える事もできます。
そうした場合、その一部の機能として
インテグリンやカドヘリンなど様々な細胞接着分子は
細胞質側のドメインのリン酸化によって
これらの細胞骨格となるたんぱく質を引き寄せますが、
それらがエンドサイトーシスによって代謝回転することで
自動的に結合している細胞骨格も巻き込まれ
同様に代謝回転する可能性があります。
それは、細胞骨格の細胞内の量を適正に制御するための
抑制的な機序の一つとして
非常に重要な細胞内生理である可能性があります。
もしそうであるとするならば、
子どもの先天的な心臓疾患の内の一つである
ファロー四徴症においては
心筋細胞で発現されるインテグリン、カドヘリンを含めた
細胞接着分子、それらの代謝回転は
無視できない機能である事が推定されます。
--
ここで、背景の部分で詳述した
循環器系のネットワークについて少し違った切り口で考えます。
循環器は様々な病理の神髄をマクロスコピックに考える
モデルの一つとして有効であると考えられます。
心臓の心筋細胞を動かすために重要な冠動脈は
大動脈から分岐して心臓全体に広がるように
ネットワークを形成します。
しかし、この冠動脈が血栓生成、硬化、狭窄、動脈瘤など
様々な原因によって詰まると
そのネットワークが切断されてしまいます。
そうすると心筋細胞にエネルギーが届かなくなり、
心臓のポンプ機能に異常が生じてしまいます。
心臓は上述したように休むことが許されていませんから、
非常に差し迫った状況になり、
心不全になる前に迅速な処置が必要になります。
その際には冠動脈バイパス手術が検討されます。
例えば、John H. Alexander(敬称略)らが図に示すように(118)、
大動脈から冠動脈に向けて「新たなルート」を設けます。
上述したように心臓にタンパク質が蓄積する
タンパク質病理がある場合、
タンパク質の生成や分解において何らかの異常があると考えられますが、
それを正確に捉え、正常化させるための介入を行う事は
精密医療として、王道となる事ですが、
ネットワークとしてのバイパスという概念を取り入れると
それらを代謝するための新たなルートを作る事も
医療介入の内の一つの選択肢になります。
そのためには細胞内外でタンパク質を分解するルートは
◎オートファジー
◎プロテアソーム系
これらを軸として多く存在します。
そのたんぱく質分解機構をできるだけ多く、
理想的には全て把握して
「代替となる」より有効な分解ルートを亢進するという事も
治療の選択肢の一つとなる可能性があります。
急を要する場合は正確に異常を正常に戻す治療よりも
「力技」で強制的に抑制的な機序を働かせるほうが
治療効果が高められるという事はあるかもしれません。
このような考え方は、
循環器の冠動脈バイパス手術の基本的な考え方を
内科的な一つ一つの代謝経路を循環器の血管と見立てて
適用した一つの例となります。
--
WHO(世界保健機関)の発表によれば、
世界の死因のうち最も頻度が高いの心臓血管疾患です。
日本では15%で癌に次ぐ2位になっています。
世界では毎年1790万人の人を
現在の医療で救命できなかったとされています(106)。
70代を超えると癌で亡くなるケースが増えますが、
70代よりも下の比較的若い世代で急になくなるケースがありますが、
それは心臓血管疾患が関わっているケースが多いということです。
また、
新型コロナウィルスなどの突然、世の中に生じる感染症も
心臓血管の健康に影響を及ぼします(129)。
これらはより若い世代に影響を与える可能性があります。
従って、非常に医療の中で重要な位置づけとなります。
主な心疾患の種類は
冠動脈心疾患、脳血管障害、リウマチ性心臓疾患
これらが挙げられています。
繰り返しになりますが、
心臓に問題が生じるときには
一つ考えなければいけないのが
大動脈、冠動脈といった血管の中枢の
血管壁、心筋細胞、間質の肥大(hypertrophy)、硬化です。
Bradford C. Berk(敬称略)らがFigure 3に示すように(107)
これらの疾患に関わる組織の肥大は
心筋細胞、平滑筋細胞、
その間質にある細胞外マトリックスが
大きくなること、量が多くなることです。
組織が肥大するわけですから、これは自明な事です。
細胞で肥大するとはどういうことかというと
筋組織では
細胞内にある線維上の物質である(Sacromeres)を含めて
細胞内のタンパク質が過剰な状態になることで
細胞の体積が上昇すると考えられます(108)。
例えば、上で述べたプロテアソーム系は
ミトコンドリアを通じても働きます。
このミトコンドリアは細胞内の工場とも言われます。
心臓の心筋細胞は非常に多くのエネルギーが必要ですから、
それに応じてミトコンドリアも多く存在します(119)。
このミトコンドリアはタンパク質を生成もしますが、
分解酵素産生を通じて分解にも貢献します。
従って、より多くの介入の選択肢を検討する際に
心筋細胞のエネルギーの90%を担うミトコンドリアの貢献について
考えることは重要です。
上述したように細胞外のタンパク質量を含めて考えると
もう一つ重要なのがインテグリンやカドヘリンなどの
エンドサイトーシス、エンドソーム、リソソームなどを介した
代謝回転(ターンオーバー)です。
(参考文献(128)内に示された図参照)
細胞接着分子は単に
細胞の移動、増殖、浸潤、固定、組織化などの機能だけではなく、
間質にあるタンパク質の量を調整する
細胞内の代謝機序において重要な役割を果たしていると理解しています。
またインテグリンなどの細胞接着分子も
細胞の代謝制御において影響を与えています(110)。
この章で以下に詳述する細胞接着分子のターンオーバーは
細胞内外のタンパク質分解機序を理解する上で
一つの重要な生理機序である可能性があります。
タンパク質病理は心臓肥大だけではなく、
神経変性疾患でも広く見られる現象です(120)。
また、大動脈や冠動脈に限らず、
四肢の虚血が見られる 
「Infrapopliteal Artery Disease」は
世界で2億3千万人の人を苦しめています(121)。
その為には動脈の血管壁がどうなっているか?
この事を知る必要があります。
高齢者に見られるようにタンパク質が凝集する(122)事で
肥大し、硬化が見られるのであれば、
心臓や脳神経に限らず、
タンパク質の循環ネットワークを精緻な様式で考え
外科的な事も含めて(121)、
様々なアプローチを見つけ、適切な選択する事は
想定よりも多くの人に影響を与えるものです。
そのような背景的な影響を鑑みると
細胞接着分子のターンオーバーに関して
詳しく記述するこの章は重要な内容となりえます。
--
上述したようにインテグリンは
その代謝回転の出発点においてエンドサイトーシス機序があります。
それを実現するためにはいくつかの仲介機序があります。
◎Dab2(123)
◎フェブロネクチン-シンデガン4結合⇒②、③(126)
②Dynamin依存的エンドサイトーシス
③Caveolin依存的エンドサイトーシス
これらが関わっています。
また、それらを細胞表面に戻す機序であるリサイクリングは
①Rab4,11
◎PI3K⇒①
◎Akt⇒①
◎Platelet-derived growth factor⇒①を亢進(124,125)
これらが関わっています。
実際にインテグリンエンドサイトーシスは
細胞外マトリックスの細胞内への引き込みにおいて必要です。
例えば、フェブロネクチン、ビトロネクチンです(116)。
これらを通して細胞外マトリックスの代謝回転に影響を与えている事も
示されています(127)。

//多糖、糖たんぱく質、糖脂質との相互作用//
インテグリンの活性度は癌などの疾患に影響を与えます。
インテグリンが周辺物質とどの程度親和性を持って結合するか
という活性度はインテグリンと複合体を形成する
糖鎖形成が強く影響を与えます。
糖化物質(多糖、糖たんぱく質、糖脂質)は
体の至る所に存在する(ubiquitous)生体分子で
構造や機能的な複雑性、多様性を有しています。
-
例えば、細胞膜上に形成される糖化物質の分類中に
グリコカリックス(glococalyx)と呼ばれる集合体があります。
このグリコカリックスと呼ばれる集合体は
細胞膜や小胞の膜上に複雑に絡み合った状態で存在します。
例えば、細胞外小胞(Extracellular vesicles)は
生体内に自然にある膜構造を含み、
形成過程で細胞膜の物質的な影響を受けます。
この細胞外小胞は体の中の仕組みを理解するだけではなく、
薬物送達学を含めた薬剤応用にもつなげられる可能性があります。
しかし、特に薬学応用を難しくしている、阻む理由は
その構造的な複雑性にあります。
それを複雑にしているのは
細胞膜上に発現される多様なたんぱく質だけではなく、
この章で述べる糖化物質、その集合体(グリコカリックス)が存在し、
タンパク質と相互作用していることです。
製薬ではバッチばらつきがない製造が求められます。
細胞外小胞において、安定的、均一的な製造が難しい事は
細胞外小胞を送達キャリア、あるいはそのものを
薬剤として応用する際に突破する必要がある大きな壁です。
このことは、共通的に述べられていることです。
一方で、元々体の中に存在する小胞であり、
癌において細胞外小胞のインテグリンの型は
癌の転移がどの臓器に向性を示すか
(ogran tropsim, or organotropic)を
決定するという代表的な報告があります(148)。
おそらく、細胞外小胞のインテグリンだけではなく、
グリコカリックスの種類によっても
細胞外小胞がどこに送達されやすいかに影響を与えます(130)。
それが結果的に移動性を示すがんの転移、
その行き先に影響を与える可能性もあります。
他方で、糖化物質の集合体であるグリコカリックスは
敗血症や細菌性髄膜炎などに罹患し、
血液中に細菌が侵入した時の
免疫系による血管の修復、損傷も影響を与えます。
Richard S. Hotchkiss(敬称略)らがFigure 4に示すように(131)
グリコカリックスの血管内皮上の層厚が薄くなると
血管内皮細胞に発現されているセレクチンなどの細胞接着分子が
多く露出するようになり、
〇単球
〇多形核白血球(polymorphonuclear leukocyte)(※)
「(※)白血球の一種で、好中球、好酸球、好塩基球、マスト細胞などを含みます。
病原体の侵入に反応する自然免疫系です。」
これらとの相互作用が高まります。
これらの自然免疫系が活性化し、
組織に炎症を与える形質を有している場合、
相互作用を高める事は
血管にダメージを与える事につながります。
従って、
多糖の一種であるグリコカリックスは
血管内皮を守る機能があります。
これはグリコカリックスの一般的な機能に含められています。
グリコカリックスの機能は
特に上述した血管において重要になっています(132-134)。
グリコカリックスは細かな構造としてみると
多糖や糖たんぱく質の集合体で細胞表面に線毛のように形成されています(135)。
従って、上述したグリコカリックスの層(層厚)とは
その線毛のような構造の長さ、密度などが関連すると考えられます。
また、その層構成において
液体である水との相互作用も無視はできません。
特に血管内皮では血液中に90%程度の割合で水を含むからです。
この章で述べる、述べた事を総合的に考え
この記事の目的と照らし合わせると、
細胞の移動、浸潤、増殖、相互作用といった
身体の機能を決める上で重要な要因の理解するために、
あるいは
細胞種特異的送達システムなどを見据えた薬学応用として
最適な装飾物質を設計するために、
細胞接着分子の機能を考えるにあたり、
タンパク質以外の身体の至る所に存在する物質である
糖化物質の影響は決して無視できないという事になります。
-
私たちが想定している以上に細胞接着分子がある
と考えられる事と同時に
多糖、糖たんぱく質、糖脂質、
あるいはそれらの集合体であるグリコカリックスは
研究されている以上に
多様な細胞接着分子に影響を与える可能性があります。
ここではまず、活発に研究されている
細胞接着分子の一種であるインテグリンの糖化(136)について説明します。
それを説明する出発点としてあるのが
①インテグリンのどこに結合するか?(Where)
②結合する多糖はどのような種類があるか?(What kind of)
③具体的にどのような機能に影響を与えるか?(What's function)
④集合体(グリコカリックス)の影響について?
(The function as a complex structure)
これらであります。
①に関してはGrazia Marsico(敬称略)らがFigure 3に示すように(136)
インテグリンのα鎖、β鎖の側面に結合します。
結合するところが側面なので「側鎖(side chain)」とも定義できます。
その結合サイトは20か所以上あるとされています(137)14。
--
②の結合する種類に関しては
Grazia Marsico(敬称略)らがFigure 2にまとめています(136)。
(1)N-glycan 
High mannose Bi-antennary Tri-antennary Tetra-antennary
(2)O-glycans
Core 1 Core 2 Core 3 Core 4 O-mannose O-fucose O-glucose
(3)Glycosaminoglycans
Hyaluronan Chondroitin Dermatan Keratan Heparan
これらがあります。
これグリカンの種類は糖鎖の基本単位である
Sialic acid
Galactose
N-acetylglucosamine
N-acetylgalactosamine
Fucose
Mannose
Glucose
Xylose
Glucuronic acid
Iduronic acid
これらが直列、並列に連結する組み合わせの中で分類されます。
--
③の糖化が影響を与える機能としては
糖化物質の一種であるN-glycanに関しては
〇インテグリンの異種2量体化
〇構造の安定性
〇細胞表面での発現
〇リガンドとの相互作用
これらです(137-143)14-20。
インテグリンは構造が折れ曲がったりすることで
その結合活性を下げる事があります。
一方で、α鎖、β鎖が立って形成されたり、
クラスタリングが生じたりすると活性度が上がります。
これらはプライム状態(Primed state)とも定義されます。
上述した影響を与える機能は
こうした構造的な変化と関係しているので、
インテグリンの機能に密接に関わっていると想定することができます。
従って、インテグリンが基本的にもつ
細胞接着、移動、増殖、癌などそれらの異常性に
インテグリンが糖化するかどうかは関連します。
(参考文献(136) Table 1)
これらの機能は糖鎖の種類によって真逆の性質を持つ事があります。
例えば、②の分類の中で
(2)O-GlycosylationのCore 1とCore3は癌化に対して反対の
性質を持つ事があります。
Core 1は悪性化を促し、Core 3はそれを抑えます。
Core3は前立腺がんにおいて
α2β1インテグリンの異種2量体化、
分化マーカータンパク質の細胞表面発現を制御することによって
悪性化を抑制する可能性が示唆されています(144)。
具体的な内容にアクセスできない状況ですが、
α2β1インテグリンは転移や細胞外マトリックスと接着するのを促し、
乳がん、膵臓がん、非小細胞がんに関しては
癌化を促進すると言われています(145,146)。
前立腺がんでも骨格転移や幹細胞様細胞に高く発現されている
と報告されています(147)。
従って、Core3が癌抑制性を持つのであれば、
このα2β1のインテグリンの活性を落とすように働いている
と推測することができます。
実際に総括論文(136)ではそのように記述されています。
構造的、力学的に考えた時、
インテグリンの機能を活性化する場合と不活性化する場合で
どのように異なるかを考える事が重要です。
例えば、インテグリンが不活性な状態では
細胞外ドメインの中間が折れ曲がり、
RGDドメインが細胞膜側に閉じている状態になっています。
構造的な安定性を持つという一般的な機能において、
このような「不活性状態の安定性」に寄与した場合には
おそらく、インテグリンの機能を抑制することになります。
あるいはα鎖、β鎖の間に入って
そこに静電的な斥力を働かせることによって
インテグリンの機能を低下させるであるとか、
インテグリンが束(Clustering)になる細胞膜上での引力を
遮蔽するような装飾が実現されるなどです。
インテグリンが多量体になると
一般的には機能が高められるからです。
--
④の糖化物質の集合体としての機能は
Grazia Marsico(敬称略)らが描写したFigure 4(136)を
参照するとより明瞭な理解につながります。
糖化物質は上述したようにインテグリンの側鎖として
比較的低分子量でもその活性化に影響を与えると考えられますが、
糖化物質が細胞膜貫通ドメインを持ち、
より独立性が高い構造体であっても
インテグリンなどの細胞接着分子に対して影響を与えます。
側鎖として働く、糖化物質の一般的な機能と同様に
複合体、集合体であるグリコカリックスは
インテグリンの構造体としての安定性に寄与します。
(参考文献(136) Figure 4(D)より)
Figure 4(E)のインテグリンのクラスタリングの機序は
具体的には明示されていませんが、
示されている一つの特徴として
細胞膜が凸形状になっています。
細胞膜がこのように凹凸に変形する事は
インテグリンを取り囲む
〇グリコカリックス
〇細胞質側に存在するアクチン、タリンなどの細胞骨格
〇細胞外マトリックス
これらが関わっています(150)。
私たちが壁を押すときには、反発力が働きます。
その反力は壁がスポンジのように柔らかい時と
コンクリートの壁のように硬い時では力の大きさが異なり
硬い時のほうが高い反発力が働きます。
グリコカリックスがインテグリンよりも長い場合、
そのグリコカリックスを通じて、
細胞外にあるタンパク質(細胞外マトリックス)を
機械的に押す力が生じています。
そうするとそれに応じて反発力が働き、
その押した部分において、
細胞膜は内側への力を受ける事になります。
細胞は一般的には柔らかいので、
結果、その部分がへこむことになります。
そうすると今度は細胞質側に存在する
タリンなどが力を受ける事になります。
そのような力のバランスから
グリコカリックスの密度に揺らぎがあって、
低密度になっているところは逆に盛り上がる、
凸になる力のベクトルが働きます。
そうするとFigure 4(E)に示すように細胞膜が盛り上がります。
このインテグリンに対しては
凸の頭頂部で細胞外側へ引っ張る力がより強く働きます。
そうするとおそらくインテグリンが
そこに集まるような力のバランスになると考えられます。
また、引っ張られるので
インテグリンの構造が延びて活性化されることになります。
これがインテグリンがクラスタリングする機序の力学的な説明になります。
(参考文献(150) Figure 3参照)
例えば、がんの微小環境では
細胞外マトリックスが密に形成され、
かつその柔軟性(Stiffness)が変わっています(151)。
そうすると癌細胞、あるいは周辺に存在する通常細胞に
構造的に長いグリコカリックスが存在している場合、
より強い力が働くことになります。
硬くて、密度が高い場合には力が吸収されないからです。
それによって細胞は変形し、
凸になった部分においては
より顕著にインテグリンがクラスタリングし、
その活性度が高まる事になります。
インテグリンの活性が高まる事は
癌の悪性度に関連している場合があります。
従って、がんの治療において
タンパク質を分解するアプローチがありますが、
こうした細胞外マトリックスを標的として、
選択的に癌周辺に存在する細胞外マトリックスを分解する
あるいは柔らかくすること事は
一つの治療戦略となりうると想定されます(152)。
--
(カドヘリングリカン)(153)
人を含めた真核生物において、タンパク質は普遍的な物質であり、
この記事で述べる細胞接着分子も主にタンパク質から形成されます。
一方で、そのたんぱく質は常に環境からのストレスを受けています。
例えば、タンパク質は水分子と結合し、
水和していることもあります(154)。
また、この章で述べる糖とも積極的に結合します。
約50%以上のタンパク質が糖化していると推計されています(158)。
そのたんぱく質に装飾されるグリカンは
その種類によってカドヘリンの基本的な機能に影響を与えます。
例えば、ホモ接合による細胞同士の接着性や
細胞質内での細胞骨格の引付などです。
Sandra Carvalho(敬称略)らは
主に癌との関連について総括されています(153)。
一方で、細胞同士の接着性が変われば、
組織の連結性、堅牢性(丈夫さ)などが変わるため
臓器の発達、恒常性、
循環器、消化器、呼吸器などの重要なバリア機能などにも
影響を与えると考えられます。
これらは多くの疾患と関連があります。
また、細胞骨格の引付けが変われば、
カドヘリン以外の細胞接着分子との連携状態も変化します。
例えば、Qiaobing Huang(敬称略)らがFigure 3に示すように(159)、
細胞骨格であるアクチンの結合において
カドヘリンは密着結合に属する
JAM1、オクルーディン、クラウディンと連携的に働き、
強固な細胞接着を実現していると推定されます。
このアクチンとの結合状態が低下することは
これらの相互作用が弱まることが懸念されます。
Sandra Carvalho(敬称略)らがFigure 1に示すように(153)、
癌細胞で典型的に示される多彩な糖が結合する
N-結合型糖化が生じるとカドヘリンの接着機能が低下するだけではなく
細胞質側のドメインの機能にも影響を与えます。
アクチンなどの細胞骨格との相互作用が弱まります。
これが癌以外の状態でも生じた場合、
各臓器の発達、ホメオスタシス、
神経細胞の連結性、
循環器、呼吸器、消化器のバリア機能。
これらにも影響を与える可能性があります。
-
このような糖鎖に対して、
最終的に薬学、医学、医療で治療に応用するためには
基本的な事として、その上流の生成過程について
正確に把握する必要があります。
その初期過程においてHans Bakker(敬称略)らが
描写したFIGURE 1が概略的な理解に貢献します(155)。
この図を基にして簡略的に説明します。
小胞体-ゴルジ体で糖鎖が重合化し、タンパク質に装飾します(156)。
この糖鎖の材料になるのがUDPグルコース(UDP糖)です。
このUDP糖の原料は糖とウリジン三リン酸 (UTP)です。
糖鎖の構成(例えば、bisecting GlcNAcなど)を決めるのが
いくつかの酵素です。化学結合させる必要があるからです。
それがYanyang Zhao(敬称略)らの総括において
(1)N-acetylglucos-aminyltransferase III,
(2)N-acetylglucosaminyltransferase V
(3)a-1,6-fucosyltransferase,
これらであることが示されています(157)。
これらは糖の枝の合成に重要な酵素です。
ここで少し戻って、再度
Sandra Carvalho(敬称略)ら示すFigure 1を見ます(153)。
そうすると糖は枝状に形成されている事がわかります。
通常の細胞の正常なカドヘリンと、
癌などカドヘリンに異常が出ている場合では
装飾されている糖鎖の枝の状態と構成物質が異なることがわかります。
この枝の形成においては
場所としては細胞内の小胞体-ゴルジ体で生じ、
そこで(1)、(2)、(3)の酵素が働くことで
どのような組み合わせ、枝構造の糖鎖が形成されるかが決定されます。
但し、これらが糖鎖形成、組み合わせを決める
絶対条件であるかどうかは疑う余地はあります。
少なくとも現時点ではそのように整理しています。
-
タンパク質の構成要素である
アミノ酸(アスパラギン:asparagine)への
オリゴ糖(core-oligosaccharide)結合による糖鎖形成は
(1)熱力学的安定性(160)
(2)正常なタンパク質折り畳み構造誘導(161)
(3)構造形成とその安定性(162)
これらの特性に貢献します。
-
カドヘリンが小胞体、ゴルジ体で
細胞内小胞のエンベロープ膜上に形成後、
その小胞が細胞膜まで送達されます。
その結果、細胞膜貫通タンパク質として発現し、
細胞の接着機能などに貢献します。
(参考文献(163) Fig.7)
この時には
Type I g-phosphatidylinositol phosphate kinase(PIPKIg)
これが重要な役割を果たします。
Sandra Carvalho(敬称略)らのFigure 1を参照すると(153)、
O-GlcNAc glycosylation (O-GlcNAcylation)(GlcNAc)は
糖鎖の連結構造の一つの構成要素となっています。
これがカドヘリンが小胞体にいる保持時間に影響を与えます(163)。
言い換えると
O-GlcNAcylationはカドヘリンのPIPKIg依存的な
細胞膜発現を制限し、カドヘリン発現を調整(抑制)します。
このO-GlcNAcylationは一般的に
タンパク質に対して「油や糊(Grease and glue)」のような働きをし
タンパク質の構造安定性や他の物質との結合状態に影響を
与える可能性があります(164)。
前段落で述べた様に
タンパク質が糖鎖形成する(O-GlcNAcylation)事によって
Xiaoyong Yang(敬称略)らがFigure 2に示すように(164)
タンパク質が凝集して機能を喪失する事を防ぎ、
タンパク質の構造を安定化させます。
この事はナノ粒子による
細胞種特異的薬物送達システムを構築するにあたり、
ナノ粒子の周りに装飾するタンパク質に対して
構造が安定化するような糖鎖形成(糖鎖コーティング)をすることは
標的化の為の装飾タンパク質構造の
安定性に寄与する可能性を示唆するものです。
-
糖鎖(グリカン)は細胞膜内での
どのような密度、位置にカドヘリンを形成させるか?
それに影響を与えます。
カドヘリンは上皮組織など
同じ細胞の接着結合として機能するので
糖鎖形成はその同種の細胞の結合状態に影響を与えます。
カドヘリンは1μm^2あたり数万個(?)存在すると言われています(※)。
(※)但し、この密度だと10nm角に数個ある計算です。
カドヘリンの幅が4nmなので(166)、ほぼ埋まっている計算になるので
実際には数万個は考えにくく、この1/10程度かもしれません。
上皮細胞の半径が10μmとすると(165)
細胞の表面積は1.25×10^3μm^2となるので
1つの細胞当たり、カドヘリンの数は
数百万個くらいはあるかもしれません。
1つの接着面がその1/4だとすると
百万個近くのカドヘリンが結合状態を決定する事になります。
そのような総数を含めて統計的に考えると
糖鎖によるそれぞれのカドヘリンの位置の調整は
細胞同士の接着性を決める上で
一つの重要な機能になると考えられます。
-
上皮細胞を含めてEカドヘリンは健全な組織の形成の為の
主要な細胞接着分子となります。
この細胞接着機能は 
high-mannose  N-glycansの方が
hybrid and complex N-glycansよりも高いとされています(167-169)。
神経細胞ではグリカンは同じ細胞のカドヘリン間で生じる
相互作用を調整する働きがあり、
その調整によってシナプスなどの細胞間の接合の動きを
調整する働きがあります(170-172)。
カドヘリンはシナプスにおいては
同種2量体(Cis-dimer)、同種3量体(Cis-trimer)など
クラスタリングすることがります。
そういった動きに糖鎖は関わっている可能性があります。
この糖鎖形成のダイナミクスは
細胞種特異的(Cell-type-specific)
組織特異的(Tissue-specific)かもしれないとされています(153)。
カドヘリンはプロトカドヘリンを除けば、
それほど多くの種類があるわけではありません。
また、同種結合で連結します。
同じ細胞を見分けて、選択的に結合するためには
細胞種特異的な機序が必要である可能性もあります。
糖鎖はそれぞれの構造単位の枝構造の組み合わせを考えると
非常に多彩になるので、
この糖鎖の組み合わせが
細胞種特異的になっている可能性もあります。
これについてはまだ具体的な報告を見つけられていません。
事実と異なる可能性があります。
--
ただ、これが正しいかどうかを追究する価値はあります。
細胞種特異的送達システムが実現すれば、
薬学において色んな事が一気に前進するからです。
糖鎖がタンパク質の熱力学的、構造安定性に関わるだけではなく
それに細胞種特異的な組み合わせがあるのであれば、
細胞種特異的送達システム実現のための
一つの中核となる技術となる可能性があります。
例えば、カドヘリンはシス(ホモ)結合、同種結合なので
装飾物質を同じカドヘリンとし、
糖鎖の組み合わせを最適化する事で
特定の細胞種のカドヘリンにアクセスできる可能性があります。
糖鎖がタンパク質の安定性を高めるのであれば、
循環器内の装飾物質の寿命にも関わるかもしれません。
--
近年、タンパク質のO型マンノシル化は病理学的機序において
注目されています。
例えば、重篤な先天性筋ジストロフィーでは
鍵となる細胞接着分子のαジストログリカン上の
0型マンノースグリカンが欠乏している事が確認されています(173)。
このO型マンノースは
タンパク質のセリンまたはスレオニン残基の酸素分子に対する
マンノースなどの糖分子の付加であると定義されています。
このO型マンノシル化はカドヘリンでも重要な役割を果たします。
カドヘリンはO結合型マンノースグリカンを糖鎖の
主要なキャリアとして有します。
いくつかのカドヘリン(T-, E-, N-)における
O結合型マンノースグリカンは
カドヘリン仲介の細胞接着の制御に関わります。
ジストログリカン同様にO結合型マンノースが欠乏すると
カドヘリンの接着機能が失われてしまいます(173)。
少し観点を変えて考えます。
もし、O型マンノース化が
細胞接着分子の接着性に大きく影響を与えるのであれば、
それを標的とした薬剤送達を考える場合、
単に細胞接着分子、
あるいはそのペア分子を装飾するだけでは不十分であり、
その分子に対してO型マンノースを糖鎖として
装飾させる必要があるという事を示すものです。
--
上述した糖鎖の役割は結合型によって異なります。
N型の糖鎖形成はそれが結合に関わることで
カドヘリンの結合を不安定にさせ、
細胞質側のアクチンの形成を抑制させます。
(参考文献(174) FIGURE 6)
アクチン(細胞骨格)は
接着結合(Adherens junction)
密着結合(Tight junction)
これらの連携に関わり、組織の完全性、
細胞間の接着において重要な役割を果たします。
N型糖鎖形成が亢進され、カドヘリン結合に関わると
こうした接着機能が脆弱になる可能性が考えられます。
--
癌、特に固形癌では無秩序な組織形成が確認されます。
その為には細胞接着機序も重要である可能性があります。
しかし、少なくとも糖鎖に関しては
結合を不安定化させる改変が入った場合に
腫瘍形成のリスクが高まるとされています。
(1)Core Fucosylation(※)の抑制
(※)糖鎖の根元に部分にFucoseが付加されることです。
(参考文献(176) Figure 1)
このFucoseが付加されることで細胞接着が高まります(177)。
(2)Branched-N-glycanの亢進
Nグリカンが枝分かれし、高分子量の糖鎖となります。
このBranched-N-glycanは
カドヘリンの細胞接着能力を低下させます(178)。
これらが少なくとも関わっています(175)。
--
カドヘリンの細胞外のドメイン構造はECドメインの
繰り返し構造から成ります。
その繰り返し構造の中で糖鎖形成できるサイトは複数あります。
例えば、Asn-554, Asn-566, Asn-633などです。
(参考文献(179) 図参照)
癌の発達において、カドヘリンがどのように糖鎖形成するかは
ECドメインのリピート構造、それぞれに存在する
結合サイト特異的で、その環境にも依存すると考えられています。
(in a site-specific and context-specific manner)
また、どこに結合するかで
細胞増殖、細胞サイクル、タンパク質折り畳み構造の検査、
カドヘリンの発現、多量体の形成など
様々な機能に関連します(153)。
--
各細胞種に対して特定の細胞接着分子を標的に定めた時に
それぞれの細胞種特異的な
細胞接着分子と糖鎖群があるかどうかは明らかではありません。
しかし、単に特定の糖鎖の構造だけではなく、
どのサイト、ドメインに結合しているかも差別化の要因になります。
例えば、カドヘリンの糖鎖形成における
細胞種の地図帳(Atlas)を作成する事は
細胞接着分子仲介の細胞種特異的薬物送達システムにおいて
重要なリソースの一つになる可能性があります。

//細胞接着分子の分離(Shedding)//
インテグリンやシンデガンは
Yoshifumi Itoh(敬称略)がFIGURE 1に示すように(180)
細胞外マトリックスの一種であるフェブロネクチンと結合し
細胞の動きが制限されています。
上皮組織のように細胞の整列が必要な場合は
よりタイトに固定されています。
しかし、癌化などの病理にも関わることもありますが、
時に細胞は組織から離れ、遊走性を獲得することがあります。
その時の重要な機序の一つとして
タンパク質分解酵素を利用した分離「Shedding」を行います。
FIGURE 2Aに示されるように細胞接着分子が細胞から
切り離されることによって、それが実現されます(180)。
インテグリンでは
メタロプロテイナーゼ(MMP)と呼ばれる酵素が
インテグリンの細胞外ドメインの根元から分解する事に貢献します。
シンデガンではより多くの種類のMMPによって分解されます。
これらの切断の効果は
細胞上の細胞接着分子の数の負の制御因子として働きます。
また、シンデガンは結合を通じて
いくつかの成長因子を亢進させます。
〇Fibroblasts growth factor (FGF)
〇Vascular endothelial growth factor (VEGF)
〇Epidermal growth factor (EGF),
〇Hepatocyte growth factor (HGF)
〇Platelet-derived growth factor(PDGF)
〇Transforming growth factor β1 (TGFβ1)
これらなどです。
従って、シンデガンのSheddingによる細胞表面からの切り離しは
これらの成長因子の負の制御因子としての生物学的機序を持つと
考えられます。
例えば、シンデガンとインテグリンの過剰発現が
病理に関わっている場合、
そのシンデガンやインテグリンの結合部位を蓋したり、
負のアロステリック因子を駆動する選択肢もあります。
一方で、
この章と関連のあるMMPなどのタンパク質分解酵素を使って、
シンデガン、インテグリンを根元から切断する事は
過剰発現を是正するための治療の方略の一つとなると考えられます。

//リン酸化//
(インテグリン)(233)
リン酸化はインテグリンの細胞質側の端部に形成される
細胞内信号を誘導する複合体を決定します。
細胞外ドメインであるα鎖のリン酸化は
β鎖のリン酸化を誘導するのに必要です。
β鎖のリン酸化による
他の物質との相互作用などを通じた
インテグリンが持つ機能を活性化、不活性化においても
α鎖のリン酸化は重要な決定因子となります。
-
プロテインキナーゼやフォスファターゼは
特定の結合サイトのリン酸化、脱リン酸化をそれぞれ誘導します。
これらのリン酸化、脱リン酸化は
上述したような細胞質側で作用し、
細胞内信号の起点となるだけではなく、
細胞外ドメインのリガンドとの結合活性、親和性にも関わります。
歴史的に特定のインテグリンのサイトが
特定されてきました(234,235)。
現在ではリン酸基が結合するサイトを見つける際には
一般的に質量分析法が使われます(236)。
リン酸化はセリン、トレオニン、チロシン残基では可逆的で
インテグリンの活性状態、配座、結合相互作用の
時空間の制御を可能にします。
-
Carl G. Gahmberg(敬称略)らがFigure.3に示すように(223)
免疫細胞に発現されてる
LFA-1インテグリン(αLβ2)は
α鎖の細胞質ドメインにおいて
特定のサイトでリン酸化された場合、
特定のタンパク質キナーゼを介してβ鎖のリン酸化を誘導し、
α鎖とβ鎖の間隔が開きます。
このタンパク質キナーゼは
Ca2+/calmodulin依存性プロテインキナーゼⅡ(CaMKII) も
含まれます(237)。
そうすると細胞外ドメインにおいても距離が変わり、
α鎖とβ鎖の結合サイトが先端部に限定され、
結果として構造として立ち上がります。
これによりリガンドを受け入れる体勢になります。
これはインテグリンの活性化を示すものです。
言い換えると
α鎖のリン酸化がインテグリン活性化の起点、駆動力となります。
このβ鎖においてT758サイトがリン酸化する事が
活性化において起点となります。
単量体の状態ではα鎖とβ鎖のオープニングの距離が
インテグリンの活性と関わり、
α鎖とβ鎖の距離が大きくなれば高まります。
それは細胞質側でβ鎖がキンドリンを結合させる事が駆動力になります。
そして細胞骨格を引き付けた際には
インテグリンは多量体化し、結合の親和性が高まります。
(参考文献(223) Figure 4)
図には示されていませんが、β鎖の活性化のためには
T788/T789歳とのリン酸化も必要になります(238)。
従って、リン酸化そのものがインテグリンの活性を決めるのではなく
どの結合サイトがリン酸化しているかが
不活性、活性を決めると解釈する事ができます。
セリン、トレオニン、チロシン残基の
それぞれのサイトに対して、
構造的に特異的なキナーゼ、フォスファターゼがあって、
リン酸基は酸化を含めて
反応活性がおそらく基本的に高いために
その周辺の分子構造の影響を受けて
特異的なたんぱく質などの物質を結合させます。
そのたんぱく質の影響を受けて、
インテグリンは構造(配座)を全体的に変化させます。
その結果、活性、不活性状態が決定されます。


//細胞接着分子の分類//
a:接着結合 / d:接着斑 / h:半接着斑 / 
g:ギャップ結合 /s:シナプス結合 /
t:密着結合 / sp: 隔壁結合
c:接触結合
--
<<細胞膜上に発現>>
(1)インテグリン(Integrin)
 α1β1、α2β1、α3β1、α4β1、α5β1
 α6β1、α7β1、α8β1、α9β1、α10β1
 α11β1、αvβ1、αDβ2、αLβ2、αMβ2
 αMβ2、αXβ2、αⅡbβ3、αvβ3、α6β4(1-1h)
 αvβ5、αvβ6、α4β7、αEβ7、αvβ8
 (1-1h)インテグリン(Integrin)α6β4
-
(2)カドヘリン(Cadherin)
 (2-1)Classical
  (2-1-1)Eカドヘリン(E-cadherin)(CDH1)
  (2-1-2)Nカドヘリン(N-cadherin)(CDH2)
  (2-1-3)Nカドヘリン2(Cadherin 12, type 2 (N-cadherin 2))(CDH12)
  (2-1-4)PカドヘリンP-cadherin(CDH3)
 (2-2d)Desmosomal
  (2-2-1d)デスモグレイン(desmoglein)
  (2-2-2d)デスモコリン(desmocollin)
 (2-3)プロトカドヘリン(Protocadherins)
   PCDH1 PCDH7 PCDH8 PCDH9 PCDH10 PCDH11X/11Y PCDH12
   PCDH15 PCDH17 PCDH18 PCDH19 PCDH20 PCDHA1 PCDHA2
   PCDHA3 PCDHA4 PCDHA5 PCDHA6 PCDHA7 PCDHA8 PCDHA9
   PCDHA10 PCDHA11 PCDHA12 PCDHA13 PCDHAC1 PCDHAC2
   PCDHB1 PCDHB2 PCDHB3 PCDHB4 PCDHB5 PCDHB6 PCDHB7
   PCDHB8 PCDHB9 PCDHB10 PCDHB11 PCDHB12 PCDHB13
   PCDHB14 PCDHB15 PCDHB16 PCDHB17 PCDHB18 PCDHGA1
   PCDHGA2 PCDHGA3 PCDHGA4 PCDHGA5 PCDHGA6 PCDHGA7
   PCDHGA8 PCDHGA9 PCDHGA10 PCDHGA11 PCDHGA12 PCDHGB1
   PCDHGB2 PCDHGB3 PCDHGB4 PCDHGB5 PCDHGB6 PCDHGB7
   PCDHGC3 PCDHGC4 PCDHGC5 FAT FAT2 FAT4
 (2-4)Unconventional/ungrouped
   Rカドヘリン(CDH4 R-cadherin )(retinal)
   VEカドヘリン(CDH5 VE-cadherin)(vascular endothelial)
   Kカドヘリン(CDH6 – K-cadherin)(kidney)
   CDH7 – cadherin 7, type 2
   CDH8 – cadherin 8, type 2
   T1カドヘリン(CDH9 – cadherin 9, type 2 (T1-cadherin))
   T2カドヘリン(CDH10 – cadherin 10, type 2 (T2-cadherin))
   OBカドヘリン(CDH11 – OB-cadherin) (osteoblast)
   Tカドヘリン、Hカドヘリン(CDH13 – T-cadherin – H-cadherin (heart))
   Mカドヘリン(CDH15 – M-cadherin (myotubule))
   KSPカドヘリン(CDH16 – KSP-cadherin)
   LIカドヘリン(CDH17 – LI cadherin (liver-intestine))
   CDH18 – cadherin 18, type 2
   CDH19 – cadherin 19, type 2
   CDH20 – cadherin 20, type 2
   CDH23 – cadherin 23 (neurosensory epithelium)
   CDH22, CDH24, CDH26, CDH28
   CELSR1, CELSR2, CELSR3
   CLSTN1, CLSTN2, CLSTN3
   DCHS1, DCHS2,
   LOC389118
   PCLKC
   RESDA1
   RET
 (2-**s)CELSR(Cadherin EGF LAG seven-pass G-type receptor)
-
(3)免疫グロブリンスーパーファミリー(Immunoglobulin superfamily:IgSF)
 (3-1)抗原受容体(Antigen receptor)
   ・抗体(Antibodies) or 免疫グロブリン
    IgA、IgD、IgE、IgM
   ・T細胞受容体(T-cell receptor)
 (3-2)抗原提示分子(Angigen presenting molecules
   ・Class I MHC
  ・Class Ⅱ MHC
   ・beta-2 microglobulin
 (3-3)コレセプター(Co-receptor)
   ・CD4
  ・CD8
   ・CD19
 (3-4)抗原受容体アクセサリー分子
  ・CD3-γ、-δ and -ε chain
  ・CD79a and CD79b
 (3-5)共刺激(Co-stimulatory) or 抑制分子(inhibitory molecules)
   ・CD28
   ・CD80 and CD86
 (3-6)NK細胞上受容体(Recetors on Natural killer cells)
   ・Killer-cell immunoglobulin-like receptor (KIR)
 (3-7)白血球上受容体(Recetors on Leukocytes)
   ・Leukocyte immunoglobulin-like receptors (LILR)
 (3-8)IgSF 
   (3-8-1s)神経細胞接着分子(N-CAM、neural cell adhesion molecule)
   (3-8-2a)ICAM(Intercellular adhesion molecule)(テレンセファリン telencephalin)
   ・CD2サブセット
   ・Type IIa and Type IIbs RPTPs,
     (RPTPs)Receptor type protein tyrosine phosphatase
 (3-9)サイトカイン受容体
   ・インターロイキン-1(Interleukin-1 receptor)
   ・コロニー刺激因子1受容体(Colony stimulating factor 1 receptor)
 (3-10)成長因子受容体(Growth factor receptors)
   ・血小板由来成長因子受容体
     (Platelet-derived growth factor receptor (PDGFR)
   ・肥満、幹細胞成長因子受容体前駆物質
     (Mast/stem cell growth factor receptor precursor(SCFR, c-kit, CD117 antigen)
 (3-11)チロシンキナーゼ(フォスファーゼ)受容体(Receptor tyrosine kinases/phosphatase)
   ・チロシンタンパク質キナーゼ受容体Tie-1前駆物質
   (Tyrosine-protein kinase receptor Tie-1 precursor)
  ・Type IIa and Type IIbs RPTPs,
     (RPTPs)Receptor type protein tyrosine phosphatase
    PTPRM, PTPRK, PTPRU, PTPRD, PTPRF
 (3-12)Ig結合受容体(Ig binding receptors)
   ・ポリマー免疫グロブリン受容体(Polymeric immunoglobulin receptor(PIGR))
   ・Some Fc receptors
 (3-13)細胞骨格(Cytoskeleton)
   ・マイヨチリン(Myotilin)、マイヨパラディン(Myopalladin)、パラディン(Palladin)
  ・チチン(Titin)、オブスクリン(Obscurin)
   ・MYOM1, MYOM2
 (3-14)TAG-1(transiently expressed axonal surface glycoprotein-1)
  ・Axionin-1
  ・TAX-1
 (3-15)Others
   ・CD147
   ・CD90
  ・CD96
  ・CD7
  ・ブティロフィリン(Butyrophilins (Btn))
  (3-14-1a)ネクチン(nectin)
   (3-14-2a)血小板内皮細胞接着分子(Platelet endothelial cell adhesion molecule(PECAM-1)(CD31))
   (3-14-3a)血管細胞接着分子1(vascular cell adhesion molecule 1)(VCAM1)(CD106)
   (3-14-4s)コンタクチン(contactin)(F3、F11)
   (3-14-5s)ファシクリン2(fasciclin 2)ショウジョウバエのNCAM
   (3-14-6s)L1
   (3-14-7s)SYG-1
   (3-14-8t)ジャム(Junctional adhesion molecule (JAM))
-
(4)セレクチン(Selectin)
 (4-1c)E-セレクチン (内皮細胞:endothelial)
 (4-2c)L-セレクチン (白血球:leukocyte)
 (4-3c)P-セレクチン (血小板:platelet)
 (4-4c)P-selectin glycoprotein ligand-1 (PSGL-1)
-
(5s)エフリン(Ephrins)
 (5-1)エフリンA(Ephrins A)
  (リガンド)Eprin-A1,2,3,4,5
  (受容体)EphAs-1,2,3,4,5,6,7,8,10
 (5-2)エフリンB(Ephrins B)
  (リガンド)Eprin-B1,2,3
  (受容体)EphBs-1,2,3,4,6
-
(6)キスペプチン(Kisspeptins)
  Kisspeptins-10,13,14,54*,145(human)
  Kisspeptins-54(Metastin)
  (受容体:KISS1R)
 GPR54,Kiss1(human)
  (参考文献(87) TABLE 1)
(7)サルコグリカン(Sarcoglycan)
  Sarcoglycan(α, β, γ, δ or ε)
(8a)β-ジストログリカン(β-Dystroglycan)
(9d)コルネオデスモシン(corneodesmosin)
(10h)XVII型コラーゲンα1(Collagen, type XVII, alpha 1)(BP180)
(11h)テトラスパニン(Tetraspanin)(CD151)
  TSP-1,2,3,4(NAG-2),5,6,7(CD231,TLLA-1,A15),8(CO-029)
  TSP-9(NET-5),10(OCULOSPANIN),11(CD151-like),12(NET-2)
  TSP-13(NET-6),14,15(NET-7),16(TM4-B),17,18,19
  TSP-19,20(UPK1B,UP1b,UPK1B),21(UP1a,UPK1A)
  TSP-21(UP1a,UPK1A),22(PRPH2,RDS),23(ROM1)
  TSP-24(CD151),25(CD53),26(CD37),27(CD82)
  TSP-28(CD81),29(CD9),30(CD63),31(SAS),32(TSSC6),33
(12g)コネキシン(connexin)
  Cx43,46,37,40,33,50,59,62,32,26,31,(30.3),(31.1),
  Cx30,25,45,47,(31.3),36,(31.9),39,(40.1),23
 (12-1g)パネキシン(pannexin)(コネキシンF)
   Panx1, Panx2, Panx3
(13g)イネキシン(innexin):無脊椎動物
(14s)ニューロリギン(neuroligin)
  NLGN1,2,3,4,4Y(human)
(15s)ニューレキシン(neurexin)
  α-neurexin1,2,3
  β-neurexin1,2,3
(16s)ネトリン(Netrins)
  Netrin-1,3,G1,G2
(17s)ニューロピリン(Neuropilin)
  Neuropilin-1,2
(18s)セマフォリン(Semaphorin)
  Class1,2(無脊柱動物のみ)
  Class3,4,5,6,7(脊柱動物)
  Class3:3A,3B,3C,3D,3E,3F,3G
   Class4:4B,4C,4D,4F,4G
   Class5:5A,5B
   Class6:6A,6B,6C,6D
   Class7:7A
 (受容体)プレキシン(Plexins)
   ClassA:1,2,3,4A
   ClassB:1,2,3
   ClassC:1
   ClassD:1
(19s)シンデカン(Syndecan)
   Syndecan-1.2.3.4
(20s)ラトロフィリン(Latrophilin)
   Latrophilin-1,2,3
(21s)脳特異的血管生成抑制(Brain-specific angiogenesis inhibitor BAI)
   BAI-1,2,3
(22t)クローディン(claudin)
  Claudin-1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15
  Claudin-16,17,18,19,20,21,22,23
(23t)オクルディン(occludin)
(24t)ゾヌリン(zonulin)
(25sp)CG3921
(26sp)Sec61
(27c)Glycosylation-dependent cell adhesion molecule-1 (GLYCAM1)
(28c)CD34(Cell surface sialomucin)
--
<<基質に発現>>
(Aa)フィブロネクチン(Fibronectin)
 (A-1)血漿フィブロネクチン(plasma fibronectin、pFN)
 (A-2)細胞性フィブロネクチン(cellular fibronectin、cFN)
 (A-3)胎児性フィブロネクチン(fetal fibronectin、fFN)
 (A-4)単鎖フィブロネクチン(single-chain fibronectin)
(Ba)ラミニン(Laminin)
  α鎖(1-5)、β鎖(1-4)、γ鎖(1-3)からなる
 Laminin-1(EHS laminin    α1β1γ1 Laminin-111)
  Laminin-2(Merosin α2β1γ1 Laminin-211)
  Laminin-3(S-laminin α1β2γ1    Laminin-121)
  Laminin-4(S-merosin α2β2γ1    Laminin-221)
  Laminin-5/Laminin-5A(Kalinin, epiligrin, nicein, ladsin α3Aβ3γ2    Laminin-332 / Laminin-3A32)
  Laminin-5B(α3Bβ3γ2    Laminin-3B32)
  Laminin-6/Laminin-6A(K-laminin α3Aβ1γ1 Laminin-311/Laminin-3A11)
  Laminin-7/Laminin-7A(KS-laminin α3Aβ2γ1 Laminin-321/Laminin-3A21)
  Laminin-8(α4β1γ1 Laminin-411)
  Laminin-9(α4β2γ1 Laminin-421)
  Laminin-10(Drosophila-like laminin α5β1γ1 Laminin-511)
  Laminin-11(α5β2γ1 Laminin-521)
  Laminin-12(α2β1γ3 Laminin-213)
  Laminin-14(α4β2γ3 Laminin-423)
  Laminin-?(α5β2γ2 Laminin-522)※番号の割り当て未
  Laminin-15(α5β2γ3 Laminin-523)
(Ca)ビトロネクチン(Vitronectin)
(Da)コラーゲン(Collagen)
 コーラゲンI,II,Ⅲ,Ⅳ,Ⅴ,Ⅵ,Ⅶ,Ⅷ,Ⅸ,Ⅹ,Ⅺ,Ⅻ,
  コラーゲンXIII,XIV,XV,XVI,XVII,XVIII,XIX,XX
  コラーゲンXXI,XXII,XXIII,XXIV,XXV,XXVI,XXVII,XXVIII,XXIX
  ※コラーゲン1-29,COL1A1-29A1
(Ea)テネイシン(Tenascin)
  Tenascin-C、Tenascin-R、Tenascin-X、Tenascin-W
(Fa)フィブリノゲン(Fibrinogen)
(Ga)オステオポンチン(osteopontin)
  OPN-R、OPN-L
(Ha)ネトリン(netrin)
  netrin-1, netrin-3, netrins-G
(Ia)トロンボスポンジン(thrombospondin)
  thrombospondins 1-5
(Ja)エンタクチン(entactin)
  (Ka)α-ジストログリカン(α-Dystroglycan)
(La)アグリン(agrin)
(Ma)アグレカン(aggrecan)
  cluster1-5(参考文献(96))
(Na)シンデカン(syndecan)
  syndecan1,2,3,4,310,201,346,198
(Oa)ニューロカン(neurocan)
(Pa)バーシカン(versican)
  Versican0,1,2,3,4
(Qa)ブレビカン(brevican)
  80-kDa, 125-kDa, 145-kDa(参考文献(97))
(Rh)ラミニン(laminin)332
(Sc)アドレッシン(addressin、mucosal vascular addressin cell adhesion molecule 1 (MAdCAM-1) )

(参考文献リンク)  

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