2023年5月9日火曜日

薬物送達距離を小さくする一つの方向性

薬物送達学では、
薬物を各臓器、組織、あるいは細胞種特異的に送達させる
という一つの目標があります。
その背景にあるのは、
そのように生体内の薬物動態、経路、目的地、時間を
制御する事が出来たら、
より少ない量で薬効を発揮させる事が出来たり、
今まで難しかった遺伝子治療ができたり(1)、
組織特異的に作用させる事により
薬物による生体への影響をより細かく分析できるようになります。
最後の要因に関して、例えば、
人の脳についてわかっていないことが多いです。
脳は様々な野によって機能が分かれており、
連携性が強いことから
その機能を紐解くのは容易ではありません。
しかし、それぞれの野への送達効率が高まる事によって
相互作用を含めて、どのような機能と関連しているか?
画像診断とも合わせて行うことで
より細かくわかるようになる可能性があります。
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このような背景があり、
薬物送達学を発展させる事が意義がある事ですが、
特に人の身体においては
身体が大きく、様々な相互作用がある事から
高い標的性を持った送達システムを構築する事は容易ではありません。
実際にマウスのケースでもそれは難しく、
脳への送達であれば、
第一の投与選択肢としては
頭蓋内へ直接注入することです。
それによって送達の距離を小さくする事ができるからです。
しかし、人のケースで頭蓋内へ侵襲させる事は
明白ですが、様々な副作用がある事から、
鼻腔からなど、より侵襲性の低いルートで
薬物を送達させたいという需要があります。
ただ、そうすると鼻腔から頭蓋内を含め
体の中には様々な障害となるバリア組織がありますから、
その一つ一つの壁は大きく送達効率を落とすことになります。
それらの点から、
より低侵襲で、送達距離を如何に下げられるか?
あるいは送達ルートでの組織的な障壁を減らせるか?
これらの事が考慮する因子となります。
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その送達距離という点では、
実は少し異なる視点で
知恵を働かせる余地があります。
Jessie R. Davis(敬称略)らが採用している
intein-split AAV(インテインスピリットアデノウィルス)
というものがあります(1)。
インテインはタンパク質断片を架橋して
タンパク質としての機能の完全性を決める
スイッチのような働きをする物質ですが、
タンパク質とインテイン発現遺伝子を持つ
アデノウィルスを別々に作製し、
それらが合わさった時に初めて完成形になるような
送達モデルがあります。
これは論理回路のANDゲートのようなもので
両方が存在する事によってはじめて機能します。
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このような考え方は薬物送達学を考える上で
1つのヒントになると思われます。
先ほど、送達距離の話をしました。
その距離を下げるためには
例えば、膝の関節の治療で有れば、
その関節に注射して薬物を送達する事が
誰もが考える選択肢になります。
それとは異なる視点で
intein-split AAVの構想を参考にします。
すなわち、
薬剤としていくつものパーツに分類して
そのパーツが揃ったときにのみ薬効を働かせるような
システムにします。
そのパーツの一つ一つはできれば
体内に入っても不活性な物質にします。
加えて、そのパーツそれぞれは
ある程度、目的となる組織に走化性を有しています。
そうして、それらが膝の関節に集まった時、
それらが合体し、あるいは相互作用し、
初めて薬として完成します。
そうすると、送達距離は
全身投与であっても顕著に下がる事になります。
なぜなら、合体した時、相互作用した時が
スタートラインになるからです。
例えば、
それぞれのパーツを侵襲性の少ない
異なるルートで入れて、
互いが途中で出会いにくいようにして、
最終的に目的地で収束するようにさせます。

(参考文献)
(1)
Jessie R. Davis, Samagya Banskota, Jonathan M. Levy, Gregory A. Newby, Xiao Wang, Andrew V. Anzalone, Andrew T. Nelson, Peter J. Chen, Andrew D. Hennes, Meirui An, Heejin Roh, Peyton B. Randolph, Kiran Musunuru & David R. Liu
Efficient prime editing in mouse brain, liver and heart with dual AAVs
Nature Biotechnology (2023)

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