2023年3月19日日曜日

免疫細胞への標的化とそれの薬剤送達媒体利用

感染症、癌、自己免疫疾患などに加えて
局所的に言えば、組織の炎症などによっても
免疫系は乱されます。
免疫系の偏りを正したり、
免疫系が正常に働くように修正したり、
免疫機能を高めたりするように
免疫系に作用させる場合においては、
「具体的に何を変えるか」という事を明確にする必要があります。
また、免疫系は主に血液系、リンパ系の抹消部を含めて
全身に分布しているため、
「どの領域に作用させるか?」という
場所特異性を考える事も非常に重要になります。
例えば、
癌の場合は、血液性の癌の場合と
組織常在型の固形癌の場合において
免疫治療を行う際に
どの領域のどの細胞を標的にするか?
という事が異なります。
Parisa Yousefpour, Kaiyuan Ni & Darrell J. Irvine(敬称略)らが
総括の中で述べているように(1)、
もし、場所と(組織、細胞種)において特異性を持たせ
さらにタイミングまで考慮すれば、
免疫治療で懸念される副作用、毒性を少なくしつつ
任意の疾患に対する免疫治療効果を十分に得る事ができる
可能性があります。
例えば、
ワクチンの例を考えます。
新型コロナウィルスのmRNAワクチンは
樹状細胞に取り込まれ、タンパク質を生成し
そこからB細胞などを通じて液性免疫の機序で
抗体がつくられます。
リンパ節の中の胚中心で
ヘルパーT細胞、B細胞、形質細胞などを得て抗体がつくられますが、
mRNAが入った脂質ナノ粒子が
リンパ節近くに局在化するように標的化された状態で
かつ、サイトカイン、ケモカインを同封し
それによって免疫細胞を引き付ければ、
抗体の産生やそれによる細胞性免疫の活性化を
効率的に行うことができるかもしれません。
そうすると、
少ない注入量で必要な抗体価、中和能、
あるいはウィルス特異的T細胞活性が得られ、
ワクチンによる副反応を減らす事ができる可能性があります。
あるいは、免疫的に機能が低下している患者さんに対して
今までよりも有効に抗体を生み出すことができるかもしれません。
場所を制御する事ができれば、
免疫不全のある患者さんにおいても、
仮にその免疫不全が全身でなければ、
免疫不全の程度が少ない部位にあるリンパ節を
特異的に利用する事で、
より有効にワクチンの効果が得られる可能性もあります。
あるいは、
鼻腔にある咽頭扁桃は
新型コロナウィルスにおいて
交差性の高い抗体が生み出された事が証明されています(2)が、
生ワクチンでないといけない(2,3)など
条件はあるかもしれないですが、
鼻腔への噴霧の際に、
より有効に咽頭扁桃のリンパ節にワクチンの成分が
届くようにエンジニアリングする余地が生まれます。
今述べた様に
標的のサイトとしては
〇免疫細胞が集まるリンパ節
〇循環しているリンパ球、
〇骨髄系免疫細胞、
〇組織常在型免疫細胞、
〇病変部位に浸潤、その近くに存在する免疫細胞
これらが考えられます(1)。
つまり、免疫系を標的治療として考える際には
循環器を移動するT細胞、NK細胞のようなリンパ球と
好中球、樹状細胞、マクロファージのような骨髄系免疫細胞、
これらを有効に使う事を考えます。
また、それぞれの組織には
固定的に常在している免疫細胞もあります。
それを周辺組織と同様に標的対象として選択することもできます。
免疫機能を発達させるリンパ節も
抹消部も含めた全身に存在します。
それぞれのリンパ節も標的対象となります。
上述した病変部位とは炎症部や腫瘍組織などが挙げられます。
--
リンパ節に特異的にワクチンや薬剤を送達させるためには
リンパ節の組織学を理解する必要があります。
身体の様々な末梢部位に存在する
流入領域リンパ節(draining lymph nodes)、
外周部を取り囲む辺縁洞
柔組織の中にある皮質や副皮質などです。
流入領域リンパ節は流入径がありますから
例えば、ナノ粒子によって
そこから有効に進入させるためには
それに合わせた最適な径が存在します。
上述したように
ワクチンなどにおいて特定のリンパ節に抗原を送達させ
そこで免疫機能を発揮させたいという需要があります。
あるいは、作用させるリンパ節を
より全身に分散させたいという需要もあるかもしれません。
その際にはワクチン成分を送達させる媒体に
特定のリガンドを装飾させ
特異的に輸送させる能力を持たせる事が可能かもしれません。
また、ワクチンにより免疫機能を有効に引き出すためには
従来から知られているように
アドジュバントを使って
どの様な機序で免疫機能を高めるか?
それについて考える必要があります(4)。
また、ワクチンにおいて特定の感染症に対する
免疫機能を高める事を実現しても、
その裏側にある副反応の懸念もあります。
癌免疫治療や自己免疫疾患治療などでも同様ですが、
過剰に免疫機能が高まって、
副作用が強く出ている場合には
一般的にはコルチコステロイドなどによって
免疫機能が調整されることがありますが、
ナノ粒子によって有効に制御型免疫機能が高められれば(5)
免疫治療の際の調整がよりきめ細やかにできる可能性があります。
ナノ粒子はその特性から循環器に放出されたときには
肝臓や脾臓に蓄積されやすい性質を持っています。
これらの臓器は制御型免疫機能を発現に関わるので、
制御型の免疫機能を有効に引き出すために
ナノ粒子を使う事は少なくとも一定の合理性があります。
--
循環性のT細胞やNK細胞などのリンパ球
あるいは好中球、樹状細胞、マクロファージなどの
骨髄系免疫細胞を標的治療として利用する場合には
作用させたい薬剤を
それぞれの細胞内か、表面に結合させるが考えられます。
一般的には表面にある受容体を利用して
その受容体と薬剤を結合させて
それぞれの免疫細胞が持つ標的性、循環性を活用します。
その免疫細胞がどれだけ病変に対して
標的性を持っているかが
その免疫細胞と複合体化させた薬剤の標的性に影響を与えます。
従って、癌などに対して
ウィルスベクターなどを通じて、
一般的に体外で標的化のためエンジニアリングする
CAR-T細胞に薬剤を一緒に運んでもらう戦略が考えられます(6)。
可動性の高いリンパ球や骨髄系免疫細胞に対して
生体外で薬剤を複合体化、
あるいは生体内で薬剤を標的化する場合、
元来、免疫細胞が持つ走化性のモデルを再確認する事が大切です。
化学誘引物質であるケモカインの濃度分布が
免疫細胞の走化性、極性を決める一つの要因である
と言われています(7)。
従って、ケモカインの振る舞いについて考える事は
免疫細胞を薬剤の運び屋として利用する場合には重要です。
しかしながら、
当然、循環性の免疫細胞を薬剤の運び屋として利用する場合
結合させる際、あるいは標的迄の経路の間において
細胞内に取り込まれる事がないようにする必要があります。
特に生体内で薬剤を免疫細胞表面に結合させる事を
試みる場合には
エンドサイトーシス、マクロピノサイトーシス
ファーゴサイトーシス。
これらの機序(8)について注意を払う必要があります。
--
組織常在型の免疫細胞は
それぞれの組織に対して
特異的な形質を持っている可能性があります(9-11)。
従って、その特異的な形質をうまく標的として利用できれば、
薬剤の特異的送達が実現する可能性があります。
しかし、組織常在型免疫細胞の標的化には
上皮、内皮、粘膜(1)など
身体の区画、障壁を形成する細胞、組織を
トランスサイトーシスさせる事が必要な場合があります。
エンドソームを介した細胞内の
トランスサイトーシス経路や細胞間の隙間など
細胞生物学、組織学的な観点で
薬剤の送達経路を想定する必要があります。
--
腫瘍組織などに対して免疫治療、
腫瘍組織浸潤、常在型免疫細胞を標的化した薬剤治療、
循環型免疫細胞を標的化した薬剤治療。
これらを行う際には、
基本的な骨子としては
継続的な抗がん作用が見込める活性な免疫細胞を
腫瘍組織に置く、届けるという事があります。
この観点で考えると、
薬剤によって疲弊化した免疫細胞を再活性化させる
といった治療戦略も生まれます。
その活性化は薬剤であっても
アドジュバントなどを含むワクチンでも可能です。
また、免疫細胞によって有効に届けられた薬剤自体も
抗癌作用を持ち、免疫療法と化学療法の両立が
実現できるようにも考えます。
現状では癌に対する化学療法と免疫療法の組み合わせが
臨床で適用される際には、
それぞれの薬剤の送達効率については
まだ十分に最適化はされていない状況です。
その標的化のためには
ナノ粒子に薬剤、癌抗原、アドジュバントを入れて
化学療法と免疫療法を両立する方法も考えられますが、
免疫細胞自体を腫瘍組織に対して標的化し
それに薬剤を複合体化させる形でも実現できるかもしれません。
抗癌性が高く、一方で毒性の強い化学療法と
記憶性があり、周辺を含めた小さな癌組織の監視(13)や
長期間の再発予防にも効果があるかもしれない(12)
免疫療法の両方を組み合わせ、
かつ、局所性、極性、標的性を持たせる事ができたら
癌治療の臨床効果は一段変わる可能性があります。
従って、今はまだ基礎研究の段階でも報告例は少ないですが、
CAR-T細胞と抗がん剤を複合体化させて
癌組織まで輸送する事ができるか?
このような視点が一つとしてあります。
このような治療戦略は炎症性の疾患でも基本的には同じです。
炎症性の場合には、
癌治療と同じように免疫機能を高めて、
それによる組織の修復機能を手助けしたり、
薬剤自身が創傷治癒の効果があるものを選択します。
炎症組織の周りには
好中球、単球などが接近する傾向のあるため
これらの細胞を運び屋として利用する事が挙げられます。

(参考文献)
(1)
Parisa Yousefpour, Kaiyuan Ni & Darrell J. Irvine
Targeted modulation of immune cells and tissues using engineered biomaterials
Nature Reviews Bioengineering (2023)
(2)
Qin Xu, Pedro Milanez-Almeida, Andrew J. Martins, Andrea J. Radtke, Kenneth B. Hoehn, Cihan Oguz, Jinguo Chen, Can Liu, Juanjie Tang, Gabrielle Grubbs, Sydney Stein, Sabrina Ramelli, Juraj Kabat, Hengameh Behzadpour, Maria Karkanitsa, Jacquelyn Spathies, Heather Kalish, Lela Kardava, Martha Kirby, Foo Cheung, Silvia Preite, Patrick C. Duncker, Moses M. Kitakule, Nahir Romero, Diego Preciado, Lyuba Gitman, Galina Koroleva, Grace Smith, Arthur Shaffer, Ian T. McBain, Peter J. McGuire, Stefania Pittaluga, Ronald N. Germain, Richard Apps, Daniella M. Schwartz, Kaitlyn Sadtler, Susan Moir, Daniel S. Chertow, Steven H. Kleinstein, Surender Khurana, John S. Tsang, Pamela Mudd, Pamela L. Schwartzberg & Kalpana Manthiram
Adaptive immune responses to SARS-CoV-2 persist in the pharyngeal lymphoid tissue of children
Nature Immunology (2022)
(3)
多様なウイルスを防御、弱毒生ワクチンの経鼻感染の有効性を確認
(4)
Qian Yin, Wei Luo, Vamsee Mallajosyula, Yang Bo, Jing Guo, Jinghang Xie, Meng Sun, Rohit Verma, Chunfeng Li, Christian M. Constantz, Lisa E. Wagar, Jing Li, Elsa Sola, Neha Gupta, Chunlin Wang, Oliver Kask, Xin Chen, Xue Yuan, Nicholas C. Wu, Jianghong Rao, Yueh-hsiu Chien, Jianjun Cheng, Bali Pulendran & Mark M. Davis
A TLR7-nanoparticle adjuvant promotes a broad immune response against heterologous strains of influenza and SARS-CoV-2
Nature Materials volume 22, pages380–390 (2023)
(5)
Kishimoto, T. K. et al. Improving the efficacy and safety of biologic drugs with tolerogenic 
nanoparticles. Nat. Nanotechnol. 11, 890–899 (2016).
(6)
Natnaree Siriwon et al.
CAR-T Cells Surface-Engineered with Drug-Encapsulated Nanoparticles Can Ameliorate Intratumoral T-cell Hypofunction
Cancer Immunol Res. 2018 Jul;6(7):812-824
(7)
Andrew D Luster
Chemotaxis: Role in Immune Response
eLS 12 December 2001
(8)
John C. Charpentier & Philip D. King
Mechanisms and functions of endocytosis in T cells
Cell Communication and Signaling volume 19, Article number: 92 (2021)
(9)
Domien Vanneste, Qiang Bai, Shakir Hasan, Wen Peng, Dimitri Pirottin, Joey Schyns, Pauline Maréchal, Cecilia Ruscitti, Margot Meunier, Zhaoyuan Liu, Céline Legrand, Laurence Fievez, Florent Ginhoux, Coraline Radermecker, Fabrice Bureau & Thomas Marichal
MafB-restricted local monocyte proliferation precedes lung interstitial macrophage differentiation
Nature Immunology (2023)
(10)
Chiara Rancan, Marcel Arias-Badia, Pranay Dogra, Brandon Chen, Dvir Aran, Hai Yang, Diamond Luong, Arielle Ilano, Jacky Li, Hewitt Chang, Serena S. Kwek, Li Zhang, Lewis L. Lanier, Maxwell V. Meng, Donna L. Farber & Lawrence Fong
Exhausted intratumoral Vδ2− γδ T cells in human kidney cancer retain effector function
Nature Immunology (2023)
(11)
David J. Topham and Emma C. Reilly
Tissue-Resident Memory CD8+ T Cells: From Phenotype to Function
Front Immunol. 2018; 9: 515.
(12)
J. Joseph Melenhorst, Gregory M. Chen, Meng Wang, David L. Porter, Changya Chen, McKensie A. Collins, Peng Gao, Shovik Bandyopadhyay, Hongxing Sun, Ziran Zhao, Stefan Lundh, Iulian Pruteanu-Malinici, Christopher L. Nobles, Sayantan Maji, Noelle V. Frey, Saar I. Gill, Alison W. Loren, Lifeng Tian, Irina Kulikovskaya, Minnal Gupta, David E. Ambrose, Megan M. Davis, Joseph A. Fraietta, Jennifer L. Brogdon, Regina M. Young, Anne Chew, Bruce L. Levine, Donald L. Siegel, Cécile Alanio, E. John Wherry, Frederic D. Bushman, Simon F. Lacey, Kai Tan & Carl H. June
Decade-long leukaemia remissions with persistence of CD4+ CAR T cells
Nature volume 602, pages503–509 (2022)
(13)
Tomoki Todo, Hirotaka Ito, Yasushi Ino, Hiroshi Ohtsu, Yasunori Ota, Junji Shibahara & Minoru Tanaka 
Intratumoral oncolytic herpes virus G47∆ for residual or recurrent glioblastoma: a phase 2 trial
Nature Medicine volume 28, pages1630–1639 (2022)

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