身体を構成するタンパク質は、おおよそ10万種類あるといわれています。
身体の60-70%は水分ですが、残りの30-40%のうち
半分以上、あるいは半分近くがタンパク質となります。
人の組織は、主に細胞で出来ており、
水分や間質にあるタンパク質などで埋められています。
体の中で特定のタンパク質を生み出すのが細胞で
その細胞内のDNA遺伝子情報をmRNAに転写し、
それが翻訳されタンパク質が合成されます。
その後半の翻訳において、リボソームと呼ばれる
細胞内小器官がそれを担っています(2)。
このリボソームは
いくつかのリボソームRNA分子と
多くのリボソームタンパク質から作られています。
これは巨大な複合体分子であり、
無数の結合ドメインがあって
その複合体が形成されていると考えられますが、
その数あるリボソームRNA分子やリボソームタンパク質の
一部を別の生物の物と取り換えると
(おそらく)上述した結合ドメインが合わなくなり
全体として働かなくなることがあります。
もしくは、そうではなく、
リボソームは窪みを含めた立体構造を生かして
タンパク質生成するため、
構造が少しでも変わると(配座の変化)、
タンパク質生成能力に影響が出る可能性があります。
言い換えれば、
リボソームのトポロジーが維持される必要がある
ということです。
従って、
リボソームに関連した遺伝子セットは
細胞が分裂するときなども含めて、
非常に強固なシステムで守られているはずである(3)
という風に想定する事ができます。
なぜなら、それが不安定だと
人の場合で言うと、身体の20%を占める
タンパク質が上手く制御できなくなるからです。
これは、生命維持において重大な問題となります。
近年の研究では
このリボソームDNA、転写制御の完全性を
後天的機序、特異的な結合を含めて明らかにしています。
また、
高いrRNA遺伝子コピー数を安定的に維持するための
制御システムについても同様です。
--
Yutaro Hori, Christoph Engel & Takehiko Kobayashi(敬称略)らは
どのようにrRNA遺伝子コピー数が維持されるかについて
総括しています(1)。
--
全ての知られている動物、植物、細菌、原生生物などの有機体は
タンパク質生成のためにリボソームを利用します。
無数のドット上の構造物として存在するリボソームの
産生、維持ののため
細胞は献身的な努力をします。
リボソームは上述したように
rRNAとタンパク質の複合体からなります。
細胞のタンパク質需要に応えるために
核小体で作られるリボソームは大量であり、
そのためにはそれに応じたrRNAの複製が必要です。
この複製のためには
RNAを重合化させるポリメラーゼである
PolⅠが必要になります。
従って、
rRNAを合成するPolⅠによる転写速度は速く、
それによる機能不全を未然に防ぐいくつかのシステムがあります。
例えば、DNA複製とRNA転写の正面衝突を防ぐため
その方向が制御されていたりします(5)。
速い速度で構造的なミスマッチが起こった際には
へき開することでそのミスマッチが校正されます(6)。
このへき開機能は、真核生物の高いタンパク質需要に応えた
PolⅠの速い転写能力を支える一つの要素です。
また、PolⅠの重合効率を決める要因として
rDNAの剛性と可溶性が挙げられます。
これらはDNAが結合相手の凹凸構造に親和的に入り込めるか
どうかを決める物理特性であると考えられます(7,8)。
また、PolⅠは構造的に安定であると言われています(9)。
それが上述したrDNAのプロモーターへの結合親和性にも
(おそらく)関連するし、
リボソームのトンネルの出口のrRNA構造が安定な事により(10)、
そこで作られるたんぱく質合成の安定性に
影響を与えているかもしれません(11)。
また、rRNAの構造安定性は、
こうしたrDNAの取り込み、タンパク質合成の安定性を含めて
その高い転写能力に貢献している可能性があります(9)。
このように真核生物の細胞のタンパク質産生を担う
リボソームの機能を支えるリボソーム核酸(rDNA, rRNA)において
その遺伝子の活性を決める装飾の状態は重要です。
例えば、人のケースで
rDNAのメチル化の度合いが高い人と低い人で
10年間の生存確率の追跡調査を行った結果、
メチル化が低い人は生存確率が有意に高いことが示されています(12)。
このようなリボソームの機能は
クロマチンの形成過程、構造の改変にも同様に
影響を受けるかもしれません(13)。
人における疫学的な結果の一方で、
細胞レベルの観点でもrDNAは細胞の老化、寿命に影響を与える
と考えられています(14)。
また、より生物学的な特徴が人よりもシンプルな
酵母でもrDNAの安定性は
その寿命の主要な決定要因の一つである
と報告されています(14,15)。
この機能は病理にも密接に関わります。
例えば、細胞が癌化とrDNAの不安定性の上昇が
関わっている言われています(16)。
癌以外にも細胞のタンパク質生成に関わる機能ですから
rDNAの異常は様々な疾患と関連します。
〇四肢顔面骨形成不全症(18,19)
〇トリーチャー・コリンズ症候群(20,21)
〇先天性の神経学的疾患(17)
例えば、これらが報告されています。
--
PolⅠは同種のRNAポリメラーゼであるPolⅡ、PolⅢと
特にpre-rRNA合成の中でその機能を特化しています。
なぜ、PolⅠシステムは
多くの類似性を互いに示すPolⅡ、PolⅢと
構造的、機能的に異なり、独特の機能を持つのでしょうか?
直列に繰り返し構造を持つ
PolⅠによって産生されるリボソームRNA(rRNA)は
遺伝子配列の全てのユニットで
その配列が均一であると言われています(4)。
その遺伝子配列、それによるRNA構造は
種ごとに異なり、人であれば、
人特有の遺伝子配列、RNA構造を持つと言われています。
PolⅠによって合成されるrRNAは
体内のRNAのうち7割から8割を占め、
リボソームがタンパク質合成を行うための触媒として働きます。
一方、PolⅡはmRNAの前駆体、snRNA、miRNA、
PolⅢはrRNA、tRNA、その他の低分子RNAに関与すると言われています。
進化の過程で、これらの多様なRNA合成の機構において
PolⅡ、PolⅢを明確に区別するような特異的な機能を
持たせる必要ななかったけど、
PolⅠだけはそれらと区別して特異的な機能を持たせる必要があった
ということです。
そうでなければ淘汰されたと捉えることもできます。
細胞内で作られるたんぱく質は
その細胞の生物学的特徴(形質)を決める大きな要因です。
多細胞生物である種(植物、動物など)は
細胞内のタンパク質で特徴づけられた細胞の集まりです。
それらが連携する事によってその種の形質がまた決まると考えられます。
つまり、細胞はその種の形質を映す小さな鏡である
という風にも捉えることができます。
従って、細胞内のリボソームによって合成されたタンパク質は
種ごとに異なる必要があり、そのたんぱく質を合成する際に
機能的な働きをするrRNAの遺伝子配列、構造も
種ごとに異なる必要があったということです。
また、その機能維持のため他の多様な少量のRNA合成の機序とも
差別化を図る必要があったということかもしれません。
さらに、それぞれの種には様々な細胞種があります。
それぞれの細胞種は特異的な生理機能を有しています。
そのため、その中で産生されるたんぱく質も異なります。
そうした中でrRNAを細胞種ごとに調べる事は
少なくとも一定の意義があるかもしれません。
(参考文献)
(1)
Yutaro Hori, Christoph Engel & Takehiko Kobayashi
Regulation of ribosomal RNA gene copy number, transcription and nucleolus organization in eukaryotes
Nature Reviews Molecular Cell Biology (2023)
(2)
ヤクルト中央研究所
健康用語の基礎知識
リボソームRNA(rRNA)
(3)
長谷川政美
進化の歴史
ー時間と空間が織りなす生き物のタペストリー
(4)
Thomas H. Eickbush and Danna G. Eickbush
Finely Orchestrated Movements: Evolution of the Ribosomal RNA Genes
Genetics. 2007 Feb; 175(2): 477–485.
(5)
Richard T Pomerantz, Mike O'Donnell
What happens when replication and transcription complexes collide?
Cell Cycle. 2010 Jul 1;9(13):2537-43
(6)
Stephanie Pitts and Marikki Laiho
Regulation of RNA Polymerase I Stability and Function
Cancers 2022, 14, 5776
(7)
Michael Pilsl & Christoph Engel
Structural basis of RNA polymerase I pre-initiation complex formation and promoter melting
Nature Communications volume 11, Article number: 1206 (2020)
(8)
Xin Liu, David A. Bushnell, and Roger D. Kornberg
Lock and Key to Transcription:s-DNA Interaction
Cell. 2011 Dec 9;147(6):1218-9
(9)
Agata D. Misiaszek, Mathias Girbig, Helga Grötsch, Florence Baudin, Brice Murciano, Aleix Lafita & Christoph W. Müller
Cryo-EM structures of human RNA polymerase I
Nature Structural & Molecular Biology volume 28, pages997–1008 (2021)
(10)
Mathias Girbig, Agata D. Misiaszek, Matthias K. Vorländer, Aleix Lafita, Helga Grötsch, Florence Baudin, Alex Bateman & Christoph W. Müller
Cryo-EM structures of human RNA polymerase III in its unbound and transcribing states
Nature Structural & Molecular Biology volume 28, pages210–219 (2021)
(11)
Yuhei Chadani, Nobuyuki Sugata, Tatsuya Niwa, Yosuke Ito, Shintaro Iwasaki, Hideki Taguchi
Nascent polypeptide within the exit tunnel stabilizes the ribosome to counteract risky translation
The EMBO Journal (2021)40:e108299
(12)
Patrizia D'Aquila, Alberto Montesanto, Maurizio Mandalà, Sabrina Garasto, Vincenzo Mari, Andrea Corsonello, Dina Bellizzi, and Giuseppe Passarino
Methylation of the ribosomal RNA gene promoter is associated with aging and age‐related decline
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(13)
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Takehiko Kobayashi
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Kimiko Saka, Satoru Ide, Austen R.D. Ganley,and Takehiko Kobayashi
Cellular Senescence in Yeast Is Regulated by rDNA Noncoding Transcription
Current Biology Vol 23 No 18 1794-1798 (2013)
(16)
Evgeny Smirnov, Nikola Chmúrˇciaková, Dušan Cmarko
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Cells 2021, 10, 3452
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Bülent Kara, Çiğdem Köroğlu, Karita Peltonen, Ruchama C Steinberg, Hülya Maraş Genç, Maarit Hölttä-Vuori, Ayşe Güven, Kristiina Kanerva, Tuğba Kotil, Seyhun Solakoğlu, You Zhou, Vesa M Olkkonen, Elina Ikonen, Marikki Laiho & Aslıhan Tolun
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