2023年3月23日木曜日

FcRn受容体の生物学と応用

抗体、免疫グロブリンは
骨髄免疫系、ヘルパーT細胞、B細胞、形質細胞などを通じて
リンパ節、胚中心で生じる液性免疫の機序で生成され
脊柱動物固有の生理機能であるとされています。
免疫グロブリンはIgG抗体で言えばY字型の構造を取り、
枝分かれした2つがFabドメインで
茎側がFcドメインです。
新型コロナウィルス感染症などウィルス感染した場合には
この液性免疫が働き、ウィルス特異的なIgG抗体が発現され、
上述したFabドメインがウィルスのタンパク質に結合するようになり
ウィルスの細胞内感染を防ぐ役割を持ちます。
任意の結合部位、エピトープを認識し
抗原に応じた特異的な抗体として機能するのがFabドメインです。
一方、
Fcドメインは一定の(constant)な結晶構造を持ち、
Fc受容体として様々な分子と相互作用します。
Fc受容体はNK細胞、T細胞、マクロファージ、樹状細胞など
様々な免疫細胞と結合し、
細胞性免疫に関与します(2)。
免疫グロブリンには様々なクラスがあり、
それぞれ特異的な構造を持っています。
IgG抗体は最も普遍的な抗体のタイプであり、
上述した茎側のFcドメインに対して
胎児性Fc受容体(FcRn)が結合する事が知られています(1)。
このFcRn受容体は
例えば細胞内のエンドソームに発現し、
IgG抗体と結合する事によって
可溶性を持つIgG抗体の構造安定性を高める性質があり
細胞内の通過(トランスサイトーシス)を含めて
IgG抗体の生体内可動性、寿命を高めます。
例えば、IgG抗体は
母乳を通じて新生児、小児に母親から伝搬されます。
子どもは口腔、消化器からIgG抗体を受け取るわけですから
それが血中を含めて、体内で機能するためには
腸の粘膜、血管壁などを含めて
様々なバリア機能を持つ細胞を通過する必要があります。
実際にFcRn受容体は
上皮細胞、内皮細胞などの
バリア機能を持つ細胞に発現されている事が知られています(6-11)。
母乳を通じて赤ちゃんの未熟な
免疫機能を強化するためには
IgG抗体を母親から受け取る必要があり、
それを十分機能させるためには
IgG抗体がFc受容体依存的にFcRnと結合し、
結晶安定性を高めて、
子どもの体内に十分に循環する必要があります。
従って、
FcRnの機能は生後間もない赤ちゃんの
免疫機能を母乳依存的に強化する上で
非常に重要な役割を担っていると想定されます。
実際に
母乳と赤ちゃんの体内にあるFcRnは
度々、子どもで問題となる
アレルギー寛容性にも関連すると言われています(3)。
複合体化したIgG抗体との結合を通じて
上述したアレルギー寛容性も含めて
自然、獲得免疫系と関連があるとされています(1)。
--
FcRnがどの細胞種のどこに分布しているか知ることは
FcRn受容体と結合する事によって
寿命を高めるIgG抗体の振る舞い、
それによる免疫制御を考える上で重要になります。
上述したバリア機能を持つ細胞以外に
主に骨髄系免疫細胞に発現されている事が知られています(10-13)。
--
FcRnは赤ちゃんが子宮にいる時から
(腸などに)あることが確認されています。
このFcRnは胎盤を通じてIgG抗体を
母親から子供に送達させる事に貢献し、
胎児、新生児の受動的な液性免疫に貢献すると言われています。
IgG抗体は胎盤を通じて赤ちゃんに移行する
特性を持った唯一の免疫グロブリンであり、
子宮にいる胎児の時から
上述したように母親から受け取ることができます。
出産後、授乳を開始し、
分娩からの日数を経るごとに
IgG抗体の母乳中の含量が増える為、
授乳を実現している母子においては
授乳期間が経過するにつれて
授乳を通じて子どもに送られるIgG抗体が多くなる
と考えられます。
実際に、授乳が難しいケースもあるわけですが、
その場合、お子さんのIgG抗体の量が
授乳がある場合に比べて、どのように変わるか?
そうした研究の意義も生まれます。
--
Michal Pyzik, Lisa K. Kozicky, Amit K. Gandhi & Richard S. Blumberg(敬称略)らは
FcRn-IgG免疫生物学の現在の知識のうち
機能的、病理的観点を中心に総括されています(1)。
まず、機能的な観点について説明します。
FcRnは細胞内のエンドソームに発現され、
そのエンドソームが形成過程でpHを変えることによって
FcRn受容体のIgG抗体への結合活性度が変わります。
pHが下がり、酸性になることで
FcRn受容体とIgG抗体の結合性が高まります。
FcRn受容体はIgG抗体に対して
一般的に2:1の割合で結合し、
IgG抗体を両側から挟みこむような形で固定します。
この時にはIgG抗体は逆Y字型になっていて、
Fabドメインは細胞膜とFcRn受容体の細胞外ドメインの間に位置します。
そのように強固に固定されることによって
様々なストレスに対して強くなり
結果としてIgG抗体の寿命延長に関わっていると想定されます。
--
このような生理的な機能は薬理的にも応用できる可能性があります。
例えば、
FcRnを細胞内に豊富に含む骨髄性の免疫細胞が
病変特異的な形質を獲得していたり、
あるいはエンジニアリングによって
人為的に特定の送達機能、生理機能を有している場合には
それに付随して送達されると考えられるIgG抗体も
同じように特異的な送達機能を有する事になります。
インフルエンザや新型コロナウィルスなどの
呼吸器感染症において
気道、肺などの細胞にウィルスが感染することが考えられる場合、
IgG抗体の分布において
それらの細胞の近くにウィルス特異的なIgG抗体を多く
分布させたいという需要があります。
そうした場合、
IgG抗体を輸送する性質を持つ
可動性に富んだ骨髄系免疫細胞を
気道や肺に集まるようにエンジニアリングする事は
骨髄系免疫細胞自身のそれらの組織に対する免疫機能を
得るだけではなく、付随して輸送された
IgG抗体の細胞内感染防止効果も
効率的に得られる可能性があります。
免疫細胞とIgG抗体を同時に標的化できる可能性です。
これは、IgG抗体を使う
抗体薬物複合体でも応用可能かもしれません。
免疫細胞とIgG抗体と抗体と結合した薬物を
同時に特定に組織に送達させる事です。
しかし、この場合、
免疫細胞内のエンドソームに存在する
FcRn受容体と結合したIgG抗体と薬剤の複合体が
IgG抗体単体と同様に安定的に存在できる必要があります。
このIgG抗体と複合体化させるアイデアは、
IgG抗体と複合化できるナノ粒子にも応用可能です。
合成ナノ粒子の場合は、
循環器内の寿命が問題となるケースもあり、
延命できる事は少なくとも一定の価値がありますが、
IgG抗体が延命されるようにはいかない可能性が高いです。
従って、抗体薬物複合体を含めて
その実現は難しいかもしれません。
エンドソームがリサイクリングされるときに
形成される細管への仕分けは
結合していないFcRn受容体、もしくは単量体のIgG抗体「のみ」である
という報告があります(15)。
IgGがオプソニン化抗原で複合体化されている場合は
リソソームに送達され、分解されるということです。
従って、
IgG抗体にナノ粒子を複合体化させ、
それをリサイクリングエンドソームを使って、
細胞外に放出させるというモデルは、
オートファジーによる分解の選択圧が高いという事が
生理的にある可能性がかなり高いです。
上述したように
リサイクリングエンドソームが細管を通じて生じ
エクソサイトーシスの経路となり、
そこから外れたエンドソーム内の材料は
リソソームによって分解されるということが
複数のエビデンスによって示されています(16-20)。
ナノ粒子はそもそも粒子径の問題で
その細管を通過できない可能性もあります。
但し、可能性はゼロではありません。
細胞外へ放出されるメカニズムは
細胞外へ放出される形質(細胞膜との融合形質)を持つ
(exocytic vesicle)と融合する事、
FcRn受容体が細胞膜へ拡散性を持つ事が
関連していると言われています。
この機序は、ナノ粒子を免疫細胞に隠し、
再び放出させる困難なシステムを実現させるうえで
鍵となる生理機序の一つかもしれません。
加えて、別の観点を説明します。
例えば、エンドソームの中には
ナノ粒子と同程度の大きさのエクソソームがあります。
そのエクソソームは確かにエンドソームから放出されます。
従って、それを(あるいはその機序を)巧みに利用する形で
ナノ粒子の免疫細胞からの放出が可能かもしれません。
エクソソームは多小胞体(Multivesicular body)で生成されます。
この多小胞体は特異的なエンドソーム呼ばれ、
コレステロールを多く含んでいるため、
細胞膜と融合しやすいかもしれないとされています(24,25)。
細胞膜の融合は
lipid stalk形成をする必要があります(21)。
コレステロールは負の内部曲率を持つため
融合プロセスに必要なlipid stalkの形成のための
エネルギーが小さくて済むと考えられています(22,23)。
それによってFcRn受容体のように細管などを形成しなくても
比較的大きなエクソサイトーシス通路径を生む
エンドソームと細胞膜の低い曲率同士での膜融合が可能になるか?
このような視点があります。
エクソサイトーシスに関わるリサイクリングエンドソームは
細胞膜と非常に近接していると言われています(28)。
つまり、少なくとも膜融合の際に、
長い細管を形成しないということです。
エクソソームはコレステロールが多いとされています(26)。
多小胞体でエクソソームが生成されるときに
膜が内側に陥入されることで形成されます(27)。
これは物理的には負の内部曲率を持つということですが、
この特性を持つのがコレステロールです。
従って、エクソソームは形成過程から考えると
コレステロールがそのエンベロープ膜に多いことは
生理的に合理性があります。
なぜなら、多小胞体でエクソソームは一つではなく
複数量、活発に生成される必要があるからです。
頻繁に負の内部曲性を得る必要があります。
そのため、
エクソソームの元になる特異的なエンドソームは
コレステロールが多い膜を持つものが選択されているか?
このような仮の想定もあります。
もしくは、
少なくとも多胞体になるときには
多胞体の膜はコレステロールを多く取り込んでいる
可能性があります。
従って、エクソソームはナノ粒子ほどの径でも
細胞外に放出されることになります。
ナノ粒子-IgG抗体複合体でFcRn受容体依存的に細胞内に隠し、
細管ではなく、エクソソームにより
低曲率の直接的な膜融合を通したエクソサイトーシス機序による
リソソーム分解から逃れる形で放出を実現するための
1つの重要因子として、今述べてきた流れが繋がってきます。
すなわち、ナノ粒子-IgG抗体複合体を細胞内に収める時の
エンドソームの膜質において、
多胞体の様にコレステロールが多くなるような条件を満たすように
エンドサイトーシスの条件を考えるという事です。
あるいは、エンドソームが多胞体になるまで
リソソーム輸送をできるだけ防ぐような
エンドソーム内寿命の高い条件を見つけるという事です。
免疫細胞を生かす形で治療を考える際には
免疫機能を明らかに改変する形で実現する事は好ましくありません。
例えば、特定の遺伝子をノックアウトして
機能を劇的に変えて、免疫細胞内への収納、細胞外への放出を
実現するようなシステムです。
その様な事はできるだけ避けたいという事があります。
身体が持つ自然なシステムを精緻な様式で利用する形で
免疫細胞内のナノ粒子の収納、放出を実現する事を考えます。
ナノ粒子そのものを免疫的に大きな影響のない形で
免疫細胞に侵入、放出させる事が
実験をした段階で生理的に不可能であるという
エビデンスが仮に生まれても、
合成ナノ粒子のエンベロープ膜の材料構成を
送達モデルに合うように最適化するという事も考えられます。
さらに、
輸送媒体を生体模倣ナノ粒子や細胞外小胞に変えて
同じような構想で出来るか考えるという道ももちろんあります
ナノ粒子が入るエンドソームの膜質を
コレステロールリッチに変える方法はいくつか考えられます。
例えば、
循環器にすでにあるエクソソームはすでに
そのエンベロープ膜はコレステロールリッチです。
そのエクソソームは細胞間コミュニケーション媒体として
一定数、免疫細胞に入ります。
免疫細胞内のエンドソームにエクソソームが多ければ、
エクソソームはコレステロールリッチのため、
その一部、エンドソームと膜融合するのではないか?
このように考えます。
膜融合すれば、エクソソームのコレステロールは
エンドソームの膜の一部となりますから、
膜融合するたびに、段階的に
エンドソームのエンベロープ膜の
コレステロール含有量が増える可能性があります。
その様に考えると、エクソソームが多いエンドソームを
選択する事で、そのエンドソームはコレステロールリッチになり
結果として、エクソサイトーシスされやすい
ということになるかもしれません。
(但し、エンドソームとエクソソームの直径の差から
エクソソームの融合による膜への影響は大きくない
可能性もあります。)
そうするとナノ粒子を免疫細胞に入れる事を考える際には
エクソソームが免疫細胞に入る条件と同じ条件を持たせる事が
結果として多くのエクソソームと混在する形で
ナノ粒子が免疫細胞のエンドソームに入る事になります。
このような生理的機序を持たせるために
免疫細胞特異的なエクソソームが持つ表面タンパク質に
結合性を持つ、表面リガンドを装飾させる事が考えられます。
これは結果として、
ナノ粒子がエクソソームと複合体化することで
エクソソームのエクソサイトーシスを
力学的に利用する機能を持ち合わせる事にもなります。
但し、この記事のメインのテーマである
FcRn受容体とIgG抗体の機序を生かして
ナノ粒子の延命を図る場合においては、
エンドソームのコレステロール量が増えた時に
その発現が確保されるか?という視点もあります。
例えば、エクソソームが入るようなエンドソームに
FcRn受容体が発現されているか?という視点が生まれます。
また、FcRnとナノ粒子と複合体化させたIgG抗体との結合性を利用しつつ、
どのようにエクソソームを有効に利用するか?
このような複合的な要因があります。
形成後、細胞質に長くとどまった
後期のエンドソーム(Late endosome)では
少なくともリソソームに引き付けられるために必要な
Rab7受容体、v-SNARE受容体を発現しています。
HOPSを介してエンドソームとリソソームはテザリングされ、
その後、v-SNARE/i-SNAREsによって
さらにエンドソームとリソソームの距離は近くなります。
その後、膜融合が起こり、
エンドソームはリソソームに取り込まれます。
そうして、エンドソーム内のタンパク質は
リソソームを経由して、オートファゴソームに取り込まれ
分解されるという過程をたどります(29)。
一方、
エンドソームの初期の仕分け過程では
狭い径の細管が形成されます(15)。
この細管を通ることができれば、
エンドソーム内の物質は細胞の外に出る事ができる
と考えられますが、
その経路を通ることができない場合、
エンドソーム内にその後も留まる事になります。
そうすると上述した後期のエンドソームの
リソソーム融合の選択圧によって分解される確率が高まる
という事が考えられるのではないか?と推定しています。
他方で
エンドソームは必ずしもリソソームと融合されず
リサイクリングエンドソームを通じて
内容物をエクソサイトーシスによって細胞外へ放出させる
経路選択もあります。
この仕分け機序を理解する事は非常に重要です。
この仕分け機序を理解する事によって
IgG抗体を薬剤やナノ粒子と複合体化した時にも
有効にエクソサイトーシスされるような条件を見つける事に
つながるかもしれないからです。
--
FcRn受容体を利用したナノ粒子輸送では
免疫細胞内に隠すことで、延命と免疫細胞が持つ走化性を
ナノ粒子が利用できるかもしれません。
IgG抗体では循環器内での長寿命化は可能です。
それは複数のエビデンスが示しており、
その科学的根拠に基づいて総括されています(1)。
しかし、それと複合体化したナノ粒子の場合は
同じように延命できるかは難しいかもしれません。
上述したように一つ一つ丁寧に紐解いていくと
結局、ナノ粒子は細胞外の循環器でも、細胞内でも
一定の分解圧があるということです。
細胞内に隠す事はより複雑な機能化が必要であり、
研究、応用を考える上での評価においても難しい事もあります。
その様な視点では
今まで通りシンプルに循環器で
免疫細胞から逃れるような装飾を考えるほうが
筋が良い可能性もあります。
免疫細胞から得られるかもしれない走化性も
必ずしも免疫細胞内である必要はなく
免疫細胞の表面のリガンドに結合させる事によっても可能です。
細胞内に隠すという構想が、
臨床応用までを考えた時に
その実現可能性を含めてメリットをもたらすか?
それについてはより慎重な判断が必要です。

IgG抗体の量は特に子どもにおいて
自己免疫疾患、小児がん、慢性の感染症、炎症などで
異常に高まることが一般的に知られています。
その際にはIgG抗体の量を減らす治療も考えられます。
そのような治療のため、
IgG抗体のFcドメイン領域の構造を遺伝子的に変え、
FcRn-IgG相互作用を抑える事でIgG抗体の寿命を下げ、
全体としてのIgG抗体の量を抑える治療方法(Abdeg)が
マウスのケースで提案されています(12)。
IgG抗体の量はFcRn受容体との結合性に強く依存している
事が考えられることから、FcRn受容体ブロッカーを使用したり、
FcRn受容体の発現量を下げたり、
IgG抗体のFcドメインの構造を変えたりすることで
その結合性を弱め、IgG抗体の量を下げる事が可能になる
かもしれないということです。
それにより、異常に増えたIgG抗体を減らすということです。
例えば、小児がんの場合、
腫瘍部付近のIgG抗体量が高まっている
ということがあるかもしれません。
そうした場合、結合性を改変させる物質の
特異的送達を考える余地が生まれてきます。
一方、
FcRn受容体は能動免疫、受容免疫性を持つ事から
抗体と結合させたタンパク質、抗原を使うことで
〇ぜんそく(30,31)
〇Ⅰ型糖尿病(32)
〇血友病(33)
〇食物アレルギー(34)。
これらの疾患の対して免疫寛容性、免疫的保護機能を誘発しました。
これは、FcRn依存的な制御性T細胞の誘発に依るとされています(1)。
この事は、抗体とタンパク質、抗原の複合体が
確かに間接的に制御型T細胞を誘発する(かもしれない)
骨髄系免疫細胞に取り込まれ、
FcRn受容体を介して抗原特異的な形質を獲得した
ということかもしれません。
なぜなら、T細胞自身はFcRn受容体は発現されていない
というデータがあるからです。
FcRn受容体の発現が確認されている骨髄系免疫細胞が
制御型免疫機能の獲得に貢献している可能性があります。

FcRn受容体がどのように体に影響を及ぼすか?
あるいはそれを制御、利用した治療を考える場合においては
FcRn受容体そのものが免疫機能に自発的に影響を与えるかどうか?
あるいは、それと結合性を持つ
IgG抗体、IgG抗体を含む複合体が同じようにどうか?
それについて明らかにする必要があります。
例えば、サイトカインや血液の凝固に関わる組織因子に
自発的に影響を与えるのであれば、
その異常における疾患の病理についての理解にもつながりますし、
それを制御する事で治療にもつながるからです。
あるいは、
上述したようにFcRn受容体を使った薬剤送達を考える場合
そのように免疫機能に影響を与えるのであれば、
それが薬理作用にも利用できうるし、
逆に副作用にもなります。
従って、上述したFcRn受容体、IgG抗体に関わる
自発的な免疫活性について理解する事は重要です。
--
FcRn受容体とIgG抗体を考える場合、
1つの主役となるのはIgG抗体です。
この抗体は体内で様々な抗原と相互作用をすることが知られています。
新型コロナウィルスなどでは
ウィルスのエンベロープ膜のスパイクタンパク質に
IgG抗体が結合し、
それでACE2受容体との結合親和性を下げ、
細胞内感染を防ぐ役割があります。
つまり、抗体は進化の過程で得た
特定の抗原と結合するために作られるものです。
ゆえに
抗体が抗原と強く相互作用するのは当たり前です。
しかし、
この抗体が複数の抗原と結合することもあるし、
一種類の抗原に絞ってみても、
抗体と抗原が必ずしも1:1で結合するわけではありません。
抗体のFabドメイン同士を抗原が架橋して、
複合体を作る事も考えられます(1)。
これをIgG-ICs(immune complexs)と呼びます。
--
このようにIgGが遊離した状態で抗原と複合体化する事は
IgG抗体を介したFcR受容体や他の受容体との
生理作用をより複雑にすると考えられます。
例えば、
IgG抗体はFcRn受容体の関与によって
サイトカインを発出することが知られています(35)。
これは、IgG抗体が単体で、かつ
FcRn受容体に1:2の割合で挟まれた状態でも起こるのか?
あるいは、
IgG抗体が複合体化した状態で起こるのか?
それを考える重要性が浮かび上がります。
--
ワクチンは基本的には抹消部を含めたリンパ節で
樹状細胞、塊として存在する濾胞性B細胞、
CD4+T細胞、形質細胞などを通じて胚中心で連携し、
最終的には抗原特異的な抗体が作られる事を利用して、
感染症予防や癌の治療に生かすものです。
従って、ワクチンをより有効に働かせるためには
前提としてリンパ節をどのように有効に使うか?
それを考える必要性があります(36)。
しかし、
ワクチンはそのような液性免疫だけではなく
細胞性免疫にも効果があることが知られています(37)。
この一つの機序は、
IgG抗体が抗原と複合体化して
それぞれがリソソーム内での分解から逃れる事によって
細胞性免疫の抗原提示を促すということです(38)。
しかし、その機序は少し複雑で
ワクチンで高められるCD8+T細胞、CD4+T細胞の
抗原特異的な細胞性免疫(37)においては、
T細胞自身はFcRn受容体の発現がないため、
他のFcRn受容体の発現がある細胞の関与を受ける必要があります。
その仲介役となる細胞として樹状細胞が関わっている
ということです。

体内には特に人為的にワクチンを接種しなくても
外的な環境で生活している以上、
微生物、ウィルスなど様々な外敵に対峙し、
その中で免疫機能を通じて
多種多様な特異性を持つIgG抗体を血中に有しています。
そのようなIgG抗体は、
液性免疫が記憶性があることから、
柔軟に体の健康を守ってくれる機能もあります。
前述したように
FcRn受容体は母親の子宮内にいる胎児の時から
様々なバリア機能を持つ組織、細胞に発現していて、
母親からのIgG抗体の供給を受け取り、
それを身体全身に伝搬させる働きを持っています。
また、分娩後も母乳を通じて、
多種多様なIgG抗体を乳児は母親から受け取ります。
このとき母乳は当然、消化器から吸収されますから、
IgG抗体が体内に広がって、循環器で
免疫機能に貢献するのであれば、
腸の粘膜を横断して、循環器に滲出する必要があります。
このトランスサイトーシス機能において
FcRn受容体は貢献しているということです(1)。
この事は、病理にもつながります。
腸の粘膜には多種多様な細菌、ウィルスなど
微生物が生息しています。
それぞれ特異的な抗原となるタンパク質があるわけですが、
その抗原が腸のバリア機能を通過する事ができる
IgG抗体と複合体化するために、
腸の粘膜に留まらず、循環器で免疫作用を引き出すと考えられます。
これは、それぞれの微生物に対する
特異的な免疫を獲得する事に繋がります。
FcRn受容体によるIgG抗体の輸送は
悪性微生物のコロニー形成を抑制し、
それによって疾患に繋がる事を抑止するといわれています(39)。
従って、宿主が細菌に対する免疫的な制御性を高め
身体の健康を維持するためには
FcRn受容体は重要であるという事です(40)。
このようにIgG抗体がバリア機能を超えられる事は
様々な病原体に対して適性な免疫機能を獲得する上で
非常に重要です。
母親から胎児に感染すると言われるジカウィルス(41)や
HIV(42)、HSV(43)。
これらにおいてもFcRn受容体を通じた
ウィルス特異的なIgG抗体の生成、分布、作用において
重要な役割を果たしている可能性があるとされています(1)。
さらに、
抗体は必ずしも細胞外で働くわけではなく
細胞内で機能を発揮する場合があります。
インフルエンザなどで報告されています(44)。
インフルエンザなどのウィルスは
細胞内で複製するために膜の中にあるRNAを
細胞内で重合化させるために放出、作用させる必要があります。
細胞内に取り込まれたときに
膜融合させて、内容物であるRNAを
ポリメラーゼがある細胞質に放出する必要がありますが、
抗体が細胞内でそのような経路を防ぐ働きがある場合があります(44)。
その様な場合、抗体がエンドソーム内でFcRn受容体を通じて
安定的に存在できる事に
抗ウィルス性において生理的な意味が生じます。

FcRn受容体はIgG抗体とアルブミンを異なる結合サイトで
同時に結合させることができます。
従って、FcRn受容体はIgG抗体に影響を与えるだけではなく
アルブミンに対しても同様です。
このアルブミンは
〇浸透圧の保持
〇物質の保持・運搬
〇pH緩衝作用
〇各組織へのアミノ酸供給
〇抗酸化作用
これらの機能を持っています。
栄養素を運ぶ働きがあるためアルブミンの濃度が下がると
身体の栄養状態がよくない事を示します。
このアルブミンは血中をろ過する働きがある
腎臓の糸球体の働きが低下すると
尿中に滲出し、低下する傾向があります。
いずれにしても
アルブミンは細胞に栄養を運ぶ送達媒体となる
タンパク質です。
癌細胞は、少なくとも活性な場合には
多くの栄養を必要としますから、
アルブミンが蓄積される傾向にあります(45)。
このアルブミンの血中濃度と関わるFcRn受容体も同様に
癌細胞で通常細胞よりも活性に発現されている
事が確認されます(45)。
しかし、一方でFcRn受容体は
癌細胞ではほとんど検出されなかったという報告もあります(48)。
従って、癌細胞はアルブミンを細胞内に取り込む
別の機序が存在する可能性があります(1)。
このFcRn受容体は
癌の病態においては樹状細胞などで
その働きの活性度が高い時には
マウスのケースですが予後は生存期間は長くなると
報告されています(1)。
このFcRn受容体は樹状細胞など
骨髄系免疫細胞に発現されていますが、
NK細胞やT細胞などのリンパ球に対しても
腫瘍組織があるときにその抗癌性に影響を与えるとされています(46,47)。

自己免疫疾患は
自分の体内にある正常、かつ恒常的にある物質に対して
抗体を作り、過剰な免疫反応を引きおこし、
それによって異常をきたす疾患です。
その抗体の主要なクラスはIgMといわれていますが(49)
IgG抗体も関わっていると言われています(1)。
それがどのように自己免疫疾患に関わる病理と関わるかは
直接的な経路と間接的な経路があるとされています(49)。
直接的には自己抗体が
標的となるサイトに直接的に結合し、損傷させる
というモデルです。
一方、間接的には
細胞表面のタンパク質などと複合体化し
これらが上述したように
Fcγ受容体やトール様受容体などの活性を高め、
タイプⅠインターフェロンの亢進など
系統的な免疫機能を惹起させます(49)。
このような自己免疫疾患は
皮膚、関節、脳、腎臓など全身の組織、臓器に影響を与えます。
従って、
自己免疫疾患を呈している場合には
この異常に高まった病理性があるIgGを含む抗体を
どのように制御するかという事が考えられます。
このIgG抗体の量を決定する一つの因子が
上述したようにFcRn受容体なので
FcRn受容体の活性をどのようにコントロールするか?
そこが課題となります。
特に、自己免疫疾患に対する治療として
FcRn受容体をブロックする事でIgG抗体量を下げ、
その疾患を改善させようとする臨床研究、治験は
今まで活発に行われ、
IgG抗体の量の低下が狙いどおり認められる形で
寛容性があり、病状の改善がみられたと言われています(1)。
重症筋無力症に対して子ども、
あるいは妊娠女性や胎児に対しても
自己免疫性の疾患が診断されている場合には
FcRn受容体をブロックする事により
過剰に高まったIgG抗体を適正量に減らすための
治験が現在行われています。
--
免疫機能というのは天秤に例えられることがあります。
それが低下しても、過剰になっても異常をきたすということです。
従って、過剰になった場合には
コルチコステロイドが使われることもあります。
実際に重症の肺炎のケースで死亡のリスクを減らしたという
臨床報告もあります(50)。
コルチコステロイドの炎症抑制の作用は
免疫制御的な働きも関わっている可能性があります。
しかし、
免疫機能を調整するそのほかの手段としては
免疫グロブリンを投入したり、血漿交換を行うなど
ドナーが必要な治療方式で
コストや資源の不足が課題となっています(1)。
従って、
従来から広範に使われている
コルチコステロイドやトシリズマブの他の
アプローチの免疫制御的な治療が望まれています。
そこで注目されているのが、
この記事で取り上げたFcRn受容体の活性を利用した
IgG抗体、その複合体依存的な免疫制御システムです。
上述したようにIgG抗体は
抗体そのものの直接的な効果だけではなく
間接的な効果によって系統的な免疫機能に影響を及ぼすため
免疫機能全体へ与える影響は
決して少なくはないと考えられます。
但し、現時点で
臨床試験で適用され、結果が出ているものは
抗体依存性の強い免疫疾患です。
従って、免疫制御のために一般的に使用できるかどうか
というのは現時点では少なくとも
慎重な見方が必要であると考えられます。

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