2022年6月16日木曜日

小児脳腫瘍、その分類と低悪性度神経膠腫

お子さんのがん(小児癌)の日本の統計によれば
白血病などの血液性の癌が26%と最も多く
脳腫瘍はその次の21%となっています。
それに続き、悪性リンパ腫11%
神経芽腫が9%となっています。
--
Alan R. Cohen(敬称略)は
子供の脳腫瘍について総括されています。
本日はその内容の一部について
読者の方と情報共有したいと思います。

//概要//ーー
脳腫瘍は上述したように固形癌の中では
最も共通的な小児癌で
治療にも関わらず命を落としてしまう事が
最も多い小児がんとされています(3-5)。
中枢神経系の腫瘍は小児がんは
小児癌のおおよそ20%とされています(6)。
従って、日本のデータとほぼ一致します。
アメリカでは
脳腫瘍に罹るお子さんは
10万人に5.65人
懸命の治療に関わらず命を落とすお子さんは
10万人あたり0.72人とされています。
これは0歳から14歳までの統計です(5)。
一方で、
近年の診断、治療の発展によって
中枢神経系の小児癌の子供の生存率と
予後(生活の質)は改善してきています。
しかし、今述べた予後においては
改善がみられるものの改善の余地は大きい
とされています。
長期にわたる後遺症も生じます(4,7)。
--
Alan R. Cohen(敬称略)は
子供の脳腫瘍の分類とマネイジメント(管理、治療)
における近年の変化について総括されています(1)。
しかし、その新しい分類には名称も含めて複雑性があります。

//子供の脳腫瘍の分類//ーー
2021年に中枢神経系の癌に対する分類
WHOのCNS5。
これでは脳腫瘍の分類の変化
それに応じた分子的診断の特徴を示しています(8)。
これでは、
〇組織学的
〇超微形態的
〇免疫組織化学的
これらに基づいた従来の分類と共に
分子バイオマーカーの混成用語体系を示しています。
これらの変化は広範で
専門家ではない方にとっては
単純な名称変更のように思えるかもしれないですが、
それらは遺伝的な特徴に基づいた診断カテゴリを
割り当てています。
多くのケースでは予後に関わり
治療の為の潜在的な標的を提供します。
従って、遺伝子的な特徴を元により細分化され、
精密医療の為の下地が整ってきていると解釈する
こともできます。
新しいシステムでは22の特異な癌種が示されています。
その多くは特異的な分子改変を含みます。
いくつかの名前は扱いにくいです。
例えば、
diffuse pediatric-type high-grade glioma, H3 wild type and IDH wild type
desmoplastic myxoid tumor of the pineal region, SMARCB1 mutant
これらなどです。
名称が非常に長く、詳細になっています。
分子的に分析する事は発展途上国ではおおよそ
利用できなくなっています。
アメリカでさえもエキソーム、ゲノムシーケンスは
数週間かかり、
現在の分類に合う分子的な診断を行う前に
治療を開始する必要があるかもしれません(9)。
〇遺伝子的な分析、診断、理解
〇お子さんの脳腫瘍の病態
〇新しい知見の臨床応用
これらにはギャップ、差異があります。

//低悪性度神経膠腫(*1)//ーー
(*1)Pediatric-Type Diffuse, Low-Grade Gliomas
低悪性度神経膠腫は子供において
最も頻繁に生じる脳腫瘍です。
グリア-ニューロン混在(glioneuronal)
ニューロン腫瘍を含めれば、
全ての脳腫瘍の1/3を占めます(10)。
この脳腫瘍は異種性が強いとされており、
大人のケースとは異なります。
稀に高悪性度神経膠腫に発展する事もあります(11)。
大人のケースでは
IDH1とIDH2変異が低悪性度神経膠腫では
共通的な遺伝子特徴でありますが、
子供では異なりこの変異は共通的ではありません(12)。
--
初期の治療は手術で組織の診断を行います。
その上で最大の安全切除を達成します。
5年無進行生存率は69%で
全生存は95%です(13)。
進行におけるリスク因子は
〇発症年齢が若い
〇不完全な切除
〇線維的な組織
〇視床下部、交叉領域に癌が存在
これらが挙げられています。
しかし、
低悪性度神経膠腫の完全切除は
多くのケースで困難であるとされています。
特に脳の中央、深部に存在する場合は
なお困難であるとされています。
低悪性度なので
これらの腫瘍は多くの場合、不活性です。
監視のための脳画像の取得は
従って、任意であるとされています。
放射線治療は
再発性、残存する低悪性度神経膠腫に対して
効果的であるとされています。
5年無進行生存率は71%で
全生存は93%です(14)。
上述したように年齢や存在箇所において
リスク因子があるお子さんに対しては
術前、術後のアドジュバント療法を含めた
化学療法が多くの場合選択されます。
前述した放射線治療の場合は
成長期の脳に対して神経毒性があるため
懸念材料があります。
それに対して化学療法が選択されることがあります。
成長期のお子さんの脳に対しては
領域を集中して照射すると
周辺を含めた近領域の脳の成長が妨げられてしまう
と言われています。
一方で、強度変調放射線治療によって
高線量領域に含まれる正常組織の体積を大幅に
軽減することが可能になり、
それにより脱毛防止なども含めて
患児の生活の質を向上させる事にも成功しています(25)。
--
化学療法では
〇vincristine
〇carboplatin
〇vinblastine
〇6-thioguanine
〇procarbazine
〇lomustine
〇cisplatin
〇etoposide
〇irinotecan
これらを単剤、もしくは複合して
使用されることが有効であるとされています(10,15,16)。
これらの抗がん剤の複合使用では
イベントフリー生存率が
放射線療法よりも同じが優れている事が
臨床試験で示されています(17)。
アルキル化化学物質である
抗がん剤temozolomideの役割は
大人の神経膠腫では有効でしたが、
子供では不明瞭でした(18)。
これは共通的に使われる抗がん剤です(10)。
分子改変は従来の化学療法よりも
毒性は低く、より効果的であるかもしれない
とされています(19)。
その標的として
mitogen-activated protein kinase (MAPK) pathway 
これが着目されています。
ほとんどの低悪性度神経膠腫では
1つ以上の分子改変がこの経路で生じています。
例えば、
〇BRAF V600E mutation(locus:7q34)
〇KIAA1549–BRAF fusion(locus:7q34)
〇NF1 mutation
〇fibroblast growth factor receptor 1 mutation
〇NTRK family fusions
これらが挙げられています(20,21)。
これらの変異に対して
〇BRAF inhibitors (dabrafenib)
〇downstream MEK inhibitors 
 (trametinib and selumetinib)
これらが調べられています(4,9)。
特に癌抑制遺伝子CDKN2Aのホモ接合性欠失に関連した
BRAF変異を持つお子さんは
従来の化学療法では反応性が低いとされています(22,23)。
上述した分子標的薬剤は
再発性、進行性、難治性の
NF1変異を持つ低悪性度神経膠腫では
効果的である事がフェーズⅡの治験で示されています(24)。

//考察//--
テモゾロミド(temozolomide)は
悪性度の高い脳腫瘍に用いられるとされています。
血液脳関門の浸透性が高く
DNAをアルキル化、メチル化する事によって
腫瘍細胞死を誘導するとされています。
この治療が低悪性度神経膠腫を持つ子供では
大人ほど有効ではなかったとされています。
お子さんの場合、
変異が明らかな場合には
その変異に対応する分子標的薬剤の方が
治療反応性が高いということです。
従って、遺伝子検査で変異を確かめる事は
手術にプラスして化学療法を行う場合には
必要であると考えました。

//細胞種特異的輸送系統(*)//ーー
(*)Cell-type-specific delivery system
子供の癌の場合は、化学療法においては
より標的化した治療が有効である可能性があります。
変異した遺伝子をピンポイントで無効にする
遺伝子治療を行うことができれば
術後の再発率の低下や
軽い後遺症などの予後、生活の質に
貢献する事ができる可能性があります。
上述した
〇BRAF inhibitors (dabrafenib)
〇downstream MEK inhibitors 
 (trametinib and selumetinib)
これらなどの分子標的薬剤も
この薬剤を小児癌の病変部位に特異的に届けるような
ナノ粒子、細胞外小胞があれば、
より副作用の小さい効果的な治療を
行うことができる可能性があります。
そのためには
小児がんを発症しているお子さんの組織から
iPS細胞技術などを用いて
脳腫瘍の受容体、表面リガンドなどの
特徴をより深く分析、理解する事が大切になります。

(参考文献)
(1)
Alan R. Cohen, M.D.
Brain Tumors in Children
The New England Journal of Medicine 2022; 386:1922-1931
(2)
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