2021年12月22日水曜日

Author correction: 細胞種特異的輸送系統の実現と価値ある副産物

//背景//ー
Cell-type-specific delivery systemを
去年の9月に考案した時、コロナ禍の中でデキサメタゾンの薬理に
関する論文を読んでいました。
デキサメタゾンは免疫を調整する薬ですが、
用量が適切ではないケースにおいて副作用が強く出る
ということもあるので、処方される医師は
「デキサメタゾンの癖」というのを感覚として持っている
と言われています。
もし、その時に新型コロナウィルス感染症において
肺を含む呼吸器だけに作用するようなシステムを組み込むことができたら
より副作用の少ない形で免疫調整できるだろう
という事がアイデアとして浮かびました。
その中で肺であれば、
肺組織の表面にある特異的なタンパク質だけに結合するナノ粒子があれば、
それが達成できるだろう
と考えました。
その時にはACE2受容体が大きな科学的な注目を浴びていたので
細胞の表面タンパク質の意識がかなり強かったからです。
また、固体物理に関わってきたことから
構造的な観点が多く頭の中に含まれるというのがあります。
それが着想、出発点となっています。

初めに表面タンパク質の中で注目したのが「インテグリン」です。
これはフェブロネクチンと呼ばれる細胞接着分子で
巨大な糖たんぱく質です。
このフェブロネクチン・レセプターの細胞接着活性に
関わる複数の構造的部位に関して
アメリカのエルキ・ルースラーティ氏によって
1984年に報告されています(2)。
実際に後述することと関係する
この細胞表面タンパク質に結合するためのモノクローナル抗体技術に関して
ドイツのジョルジュ・J・F・ケーラー氏と
アルゼンチン生まれのセーサル・ミルスタイン氏は
同じく1984年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

今述べた様にインテグリンは
上皮組織との細胞接着に関わる表面タンパク質ですが、
転移性の癌にも多く発現している事が確認されています(3)。
上皮組織に微小環境を作り、癌を成長させるときに
その接着の役割を果たす機能がありますから
癌細胞や信号伝達の小胞に発現されているとされています。
(参考文献(4) Fig.2より)
そのインテグリンは構造が完全に決まっているわけではなく
いくつかのタイプがある事が知られています。
インテグリンの構造は大きくはα鎖とβ鎖があります。
現在24種類が見つかっています。
しかしながら、細胞などの基本的な機能にかかわるたんぱく質であるため
それぞれの型のインテグリンに絞っても
その分布は広範なものが多いです。
例えば、転移癌に関わるα3β1のタイプは広範に分布しており、
腎臓や肺の形態形成にも関わっているとされています。
従って、Cell-type-specific delivery system(細胞種特異的輸送系統)。
これにおける標的タンパク質としては好ましくない可能性があります。
なぜなら、転移癌に薬剤をナノ粒子で届けるために
このインテグリンをアンカーとして定めて設計しても
そのインテグリンの分布は体内で広範であるため、
「オフターゲット」
つまり、意図しないところでナノ粒子が固定され、
薬剤が固定された箇所、癌細胞以外の通常細胞で
抗がん剤などの薬剤が放出、取り込まれてしまう可能性があるからです。
そうすると大きな副作用を生んでしまう可能性があります。
従って、癌治療で有れば、癌細胞特異的に
あるいはある特定の組織の治療であれば、
その組織特異的に発現する表面タンパク質の発見が
この技術を完成させ、患者さんに届けるための
1つの大きな要因となっています。

//癌細胞特異的表面タンパク質(1)//ーー
Zhongyi Hu氏らはSurfaceomeと称される、
表面タンパク質の包括的な検出を癌細胞に対して行いました。
数千種類データベースの中にある細胞表面タンパク質のうち
409種類の癌細胞特異的表面タンパク質がみつかり
1癌種類単位では平均16種類見つかっています。
例えば、CDHと呼ばれる表面タンパク質(HGNC symbol)は
癌特異的であることが多く、
そのうちCDH1, CDH3などは数種類の癌で
特異的な表面タンパク質として検出されています。
(Supplementary Table 9より)。
また遺伝子でコード化されていないタンパク質も見つかっています。
このような研究が「Analysis, Resource」として報告され
様々な組織、疾患特異的な表面タンパク質のデータベースができれば
Cell-type-specific delivery systemをより広範に適用できる
大きな助けとなります。
このような表面タンパク質に作用させることで
そのまま癌細胞を死滅させることもできるものもあるので
特異的であるならば、結合できるタンパク質をナノ粒子に詰め込まず
そのまま投与すればいいという考え方もできます。
しかし、すべての癌特異的なたんぱく質が
十分な癌細胞に対する薬効を果たすかどうかはわかりません。
ナノ粒子に表面タンパク質を装飾させるメリットは
「必ずしも標的タンパク質が薬効を示さなくてもいい。」
ということにあります。
癌細胞近傍で固定されれば、
他の細胞内生理経路などに働く従来の薬剤を
今までよりも顕著に効率的に運ぶことができます。
それは治療効果、予後、生活の質を劇的に変えるものかもしれません。
あるいは副作用がかなり抑えられる可能性もあります。
従って、細胞種特異的に発現するタンパク質を調べ
それをナノ粒子に装飾する技術を開発する事は
大きく差別化できる意義があると考えられます。

表面タンパク質の検出をどのように行うか?においては
人工知能による画像解析も役に立つ可能性があります。
すでにパターン解析は医療において取り入れられており
一定の成果が得られています(9)。
様々なアプローチで癌特異的な表面タンパク質を検出する事は
"Cell-type-specific delivery system"を協力的に推し進める
大きな一翼となると考えます(1-9)。

//持続性ある癌治療の実現//ー
Cell-type-specific delivery systemで重要になるのは
癌細胞の元々、あるいは後天的に獲得した異種性を考慮することです。
この考慮を怠ると薬剤抵抗性の獲得につながるからです。
例えば、
癌細胞は融合するという事も確認されています(5)。
融合した細胞は巨大になり、そこから生まれた娘細胞は
その融合で得た機能を獲得した状態で生まれます。
癌細胞の進化、後天的な機能獲得は
私たちが想像している以上に複雑かもしれません。
従って、上述した特異的な表面タンパク質のうち
できるだけ普遍的に多く発現されているタンパク質を見つけ、
それを選び出し、標的とすることが大切です。
あるいは複数の特異的タンパク質に結合するように
初めから設計する事です。
同じ系統の技術であるCAR免疫細胞技術では
Bi-specific、つまり複数の標的を持つ免疫細胞を使うことで
効果を発揮しています(6)。

//細胞表面に任意のタンパク質を形成する技術//ーー
上述したように1984年にノーベル生理学・医学賞を受賞した
モノクローナル抗体の作成によって、
特定のタンパク質に結合する物質を作ることが可能になりました。
CAR-T細胞では目的のタンパク質に結合するように
遺伝子ベクトルによって生体外で人為的に形成する事に成功しています。
従って、技術的障壁は「ある程度は」現時点で超えている
と考える事ができます。
さらに、この技術の普遍性を上げるためには
狙いのタンパク質をもっと広範に作ることができる技術を
確立する事が重要です。
そうすれば、コード化されていないたんぱく質を含めて
今までよりも多くのタンパク質を標的として、アンカーとして
利用できるようになることと、
その結合部位を制御する事にもつながります。
結合部位は結合の強さに関わる親和性の制御にもつながります。
また、変異が起きにくい部位に結合させる事も可能になるかもしれません。

//タンパク質設計の別の意義//ー
狙いのタンパク質を作ることは
薬剤における「設計図のない薬剤開発」という
今まで抱えてきた課題に対して大きく前進させるものです。
作用させたい細胞内外の受容体はわかっていても
その受容体の機能を弱めるための物質の作成するための
具体的な作製プロトコルの開発が自明ではないということです。
従って、材料の合成における構成材料やその比率、
または形成条件などブラックボックスの中での
様々な開発、資源投資が必要になります。
ゆえに、タンパク質の設計が人工知能を使って
コンピューター上で計算でできるようになることは
細胞種特異的輸送系統(Cell-type-specific delivery system)。
これだけに貢献するものではなく
もっと大きな問題となります。
従って、従来からタンパク質の構造予測というのは
鋭意、研究開発が行われてきました。
これらのことから
Cell-type-specific delivery systemをより発展的にしていくための
技術開発要素の一部はそれ単体で
意図的な物質をある程度作製できるようになるという
画期的な薬剤開発の発展が副産物(by-product)としてあるという事です。

//タンパク質の構造予測//ーー
イギリスのディープマインド社が
人工知能の深層学習を使ったタンパク質予測について
今年、2つの報告をNature誌で報告しています(7,8)。
今年の大きなブレークスルーとされています。
これについて報告とはある程度独立した形で記述したいと思います。
タンパク質の構造予測とは
アミノ酸配列を元に3次元構造を推定するものです。
この計算プロトコル、工程においては
次元を拡張していく必要があります。
まずは棒状のアミノ酸配列があり、
そこからヘリックスと呼ばれる面の構造があります。
それらが最終的に立体的に組み合わされます。
その中には主鎖や側鎖があります。
タンパク質の構造予測とは
構造の決定要因となる次元を如何に正確に拡張できるか?
これが一つ重要だと思っています。
3次元空間内に4次元を頭の中で想像することはやや抵抗があります。
時間を考慮せずにです。
次元とはある基準となる軸がある
という風に言い換えることができます。
その軸とは一つは回転軸です。
例えば、タンパク質の構造の規則性において
xy平面に対して斜め62°の軸に回転対称性が認められれば
その回転軸は次元の拡張として扱うことができます。
そのような構造のパターンを多く見出していく事が
いわば、次元の拡張となります。
3次元空間の中にそのような回転軸や基準となる軸が多くあると
構造の位置自由度(可動範囲)が下がっていき、収束していきます。
つまり、構造が確定していきます。
従って、次元の拡張となるような「基準」が必要です。
その「大切な基準」がタンパク質構造予測の中では
「残基の位置」となっています。
残基とは結合の手が余った状態で存在する部位です。
この構造内に多く特異的に存在する残基の位置を基準に
教師データを作製して、それで深層学習させる事に寄って
構造の決定精度が上がっていくと理解しています。
残基の相対的な空間的位置関係で空間内のタンパク質の構造が決まる感じです。
さらに残基でほとんど構造的に決まった後に
今度は別の要因、例えば、
〇ヘリックス、主査、側鎖同士の相互作用
〇原子、分子レベル相互作用、
〇場のポテンシャル
これらでの物理化学的な要因を計算に「近似的に」組み込むことができれば
またさらに構造の精度が上がる可能性があります。
構造が残基に基づいた予測で近づいた後の「微調整として」
行う事に意義があるかもしれません。
計算コストを下げる必要があるからです。
これがわかれば、
ある程度、材料となる物質を決めて
それでコンピューターで繰り返し合成することで
実際に実験を行うことがなくても構造を予測することができます。
最終的に絞られた状態で実際に実験していきます。
これができれば画期的なことです。
一方、
逆に出来上がっている完成形のタンパク質から
構成要件に初期化する予測も存在します。

//まとめ//ー
細胞種特異的輸送系統は構造を主体としてモデル化されているため
構造分子生物学、合成生物学、遺伝子工学など
様々な分野横断的な研究開発が必要です。
また薬剤の輸送において体内の経路を想定することから
循環器、代謝なども含めた組織学、解剖学も重要になります。
これらの総合的な理解は
Cell-type-specific delivery systemを超えた
大きな医学、薬学、医療の発展に貢献するものであると考えます。
いろんな想定外も含めた「副産物」に目を光らせながら
思い切って資源を投資する事の価値があると考えています。

(参考文献)
(1)
Zhongyi Hu, Jiao Yuan, Meixiao Long, Junjie Jiang, Youyou Zhang, Tianli Zhang, Mu Xu, Yi Fan, Janos L. Tanyi, Kathleen T. Montone, Omid Tavana, Ho Man Chan, Xiaowen Hu, Robert H. Vonderheide & Lin Zhang 
The Cancer Surfaceome Atlas integrates genomic, functional and drug response data to identify actionable targets
Nature Cancer volume 2, pages1406–1422 (2021)
(2)
Michael D. Pierschbacher & Erkki Ruoslahti 
Cell attachment activity of fibronectin can be duplicated by small synthetic fragments of the molecule
Nature volume 309, pages30–33 (1984)
(3)
Masaki Kobayashi, Kenjiro Sawada,* and Tadashi Kimura
Potential of Integrin Inhibitors for Treating Ovarian Cancer: A Literature Review
Cancers (Basel). 2017 Jul; 9(7): 83.
(4)
Hellyeh Hamidi & Johanna Ivaska
Every step of the way: integrins in cancer progression and metastasis
Nature Reviews Cancer volume 18, pages533–548 (2018)
(5)
キャット・アーニー著/矢野真千子訳
ヒトはなぜ「がん」になるのか 進化が生んだ怪物
河出書房新社
(6)
Nirav N. Shah, Bryon D. Johnson, Dina Schneider, Fenlu Zhu, Aniko Szabo, Carolyn A. Keever-Taylor, Winfried Krueger, Andrew A. Worden, Michael J. Kadan, Sharon Yim, Ashley Cunningham, Mehdi Hamadani, Timothy S. Fenske, Boro Dropulić, Rimas Orentas & Parameswaran Hari 
Bispecific anti-CD20, anti-CD19 CAR T cells for relapsed B cell malignancies: a phase 1 dose escalation and expansion trial
Nature Medicine volume 26, pages1569–1575 (2020)
(7)
John Jumper, Richard Evans, Alexander Pritzel, Tim Green, Michael Figurnov, Olaf Ronneberger, Kathryn Tunyasuvunakool, Russ Bates, Augustin Žídek, Anna Potapenko, Alex Bridgland, Clemens Meyer, Simon A. A. Kohl, Andrew J. Ballard, Andrew Cowie, Bernardino Romera-Paredes, Stanislav Nikolov, Rishub Jain, Jonas Adler, Trevor Back, Stig Petersen, David Reiman, Ellen Clancy, Michal Zielinski, Martin Steinegger, Michalina Pacholska, Tamas Berghammer, Sebastian Bodenstein, David Silver, Oriol Vinyals, Andrew W. Senior, Koray Kavukcuoglu, Pushmeet Kohli & Demis Hassabis
Highly accurate protein structure prediction with AlphaFold
Nature volume 596, pages583–589 (2021)
(8)
Kathryn Tunyasuvunakool, Jonas Adler, Zachary Wu, Tim Green, Michal Zielinski, Augustin Žídek, Alex Bridgland, Andrew Cowie, Clemens Meyer, Agata Laydon, Sameer Velankar, Gerard J. Kleywegt, Alex Bateman, Richard Evans, Alexander Pritzel, Michael Figurnov, Olaf Ronneberger, Russ Bates, Simon A. A. Kohl, Anna Potapenko, Andrew J. Ballard, Bernardino Romera-Paredes, Stanislav Nikolov, Rishub Jain, Ellen Clancy, David Reiman, Stig Petersen, Andrew W. Senior, Koray Kavukcuoglu, Ewan Birney, Pushmeet Kohli, John Jumper & Demis Hassabis 
Highly accurate protein structure prediction for the human proteome
Nature volume 596, pages590–596 (2021)
(9)
Constance D. Lehman & Shandong Wu
Stargazing through the lens of AI in clinical oncology
Nature Cancer volume 2, pages1265–1267 (2021)


 

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