2021年12月18日土曜日

周産期/新生児/小児医療を含む肺高血圧症

//背景//-----
Nature Publishing Groupは
2022年にNature Cardiovascular Research
という姉妹誌を創刊します。
日本語にすると心臓血管研究ということになります。
なぜ、心臓と循環器である血管が共存するか?
その理由は当たり前ですが、
心臓が全身に血液を送るポンプ役だからです。
従って、心臓⇔血管(血液)循環
というのは切り離せない存在となるからです。
つまり、心臓に問題が出れば、循環器に
逆に循環器に問題がでれば、心臓に問題が出ます。
血流が不足すれば、真っ先に影響を受けるのが脳です。
しかし、これでは不十分で
心臓は肺とも密接に関わっています。
身体から静脈を通じて右心房に入った血流は
右心室を流れ、肺に到達します。
肺胞で呼吸によって二酸化炭素、酸素濃度を調整し
今度は呼吸で得た酸素の多い血流を動脈として
心臓の左心房に運びます。
その血液が左心室に運ばれ、大動脈から全身にいきわたります。

肺は循環器、心臓の機能において肝となる存在です。
その肺胞のまわりにある血管が
稀にお子さんに生じる遺伝的な疾患や
新型コロナウィルスなどの呼吸器の感染症などで
損傷を受けると、そこの血流が滞りますから
右心室⇒肺(肺胞)への血圧が高まります。
そうすると肺の損傷を受けて
右心室の充満圧が上がり、肥大するようになります(1)。

//子供に対する疫学//-----
肺高血圧症を論文検索すれば、
対象分野が周産期医学(journal of perinatology)
幼児研究(Pediatric research)の分野に
集中している事が明らかになります。
つまり、肺高血圧症は先天的に生じる事が
少なくとも比較的多いと考えられます。
例えば、早産の一つのリスクとして
気管支肺異形成症があります(3)。
肺の組織学的な異常が見られるため結果として
肺血管抵抗が高まり、右心室肥大のリスクが高まります(3)。

世界で4000人に1人の胎児に生じるとされる
先天性横隔膜ヘルニアがあります。
横隔膜が異形成し肺のスペースを狭めてしまうこと
によって肺の成長阻害が起こる先天性疾患です。
軽度なものから重度なものがあります。
気道にバルーンを入れて肺の成長を促す
Fetoscopic endoluminal tracheal occlusion(FETO) 
を行ったとしても肺の高血圧罹患率は
軽度なもので74%(4)、重度で94%(5)となっています。

これらの事から先天性に肺の組織学上の異常が出る事によって
肺の血管抵抗が高まり、肺高血圧症となり、
肺の手前の経路である右心室や
後の経路である左心室/左心房など
心臓にも影響が出てしまうことが考えられます。

実際には下記分類の①PAHの疫学調査では
大人が100万人あたり15-50人
子供が100万人あたり2-16人となっています(6)。
肺高血圧、全体ではおおよそ1%
65歳以上ではおおよそ10%となっています(11)。
そのうちの80%は発展途上国の人です(12)。
理由は
〇治療費用の問題
〇承認薬の欠如
〇アクセスできる医療機関の欠如
これらとなっています(1)。

新型コロナウィルスの後遺症として肺高血圧症の増加は
冒頭で述べた様に懸念されますが、
少なくとも正常血圧者においては
肺高血圧症と診断された例は稀であるとされています(7)。

//肺高血圧の基準//-----
肺高血圧の基準は休息状態で
「平均20mmHg以上」
となります。
(※血圧は変動する事が考慮されて平均となっている
と考えました。)
測定方法は心臓の右側にカテーテルを挿入して
計測します(1,2)。

肺の血管疾患による
肺の毛細血管前の肺高血圧症
(Precapillary pulmonary hypertension)
つまり右心室から肺胞周辺の間の血管の高血圧症は
以下のように定義されます。
〇3WU以上 WU: Wood units(肺血管抵抗)
-
肺の毛細血管後の肺高血圧症
〇3WU以下
この場合、左心房/左心室の充満圧が上がることになります。

//肺高血圧症の臨床分類//-----
(参考文献(1) Figure.1より)

①毛細血管を含む肺の血管の損傷、異常
主に血管の異常
(サブカテゴリ)
・突発性
・遺伝性
・薬物、毒物誘発
・結合組織疾患
・HIV感染
・門脈圧亢進症
・先天性心臓病
・住血吸虫症
・カルシウムチャンネル遮断薬への長期的反応
・顕著な静脈、毛細血管の異常
・新生児の持続的な肺高血圧
(臨床的特徴)
・労作時呼吸困難
・頸部静脈圧上昇
・足の浮腫
・結合組織疾患
・HIV感染
・肝臓疾患
・薬物乱用の履歴
・薬物暴露(fenfluramine, dexfenfluramine, dasatinib)
・家族歴
(血流のプロファイル)
mPAP >20 mmHg 
PAWP ≤15 mmHg, 
PVR ≥3 WU

②左心室/左心房を含む左側心臓病
(サブカテゴリ)
・Preserved 左室駆出率による心不全
・Reduced 左室駆出率による心不全
・心臓弁膜症
・先天性・後天性の心臓血管の疾患
⇒肺毛細血管後血管経路の肺高血圧症
(臨床的特徴)
・左、もしくは弁膜の心臓病の症状
・心エコーによる異常
(血流プロファイル)
•排他的肺血管と左心臓の間の血管特性 
(mPAP >20 mm Hg, PAWP >15 mm Hg, PVR <3 WU)
・肺血管を挟んだ両側の血管特性
(mPAP >20 mm Hg, PAWP >15 mm Hg, PVR ≥3 WU)

③肺疾患、低酸素状態
主に肺胞の異常
(サブカテゴリ)
・閉塞性肺疾患
・拘束性肺疾患
・これら2つの特徴を持つ疾患
・肺疾患を伴わない低酸素症
・発達性肺疾患(子供)
(臨床的特徴)
・休息時の慢性的な低酸素症
・肺画像の異常
・肺機能の異常
・睡眠ポリグラフの異常
(血流プロファイル)
・右心室と肺血管の間の高血圧症

④肺動脈の閉塞
(サブカテゴリ)
・慢性的な血栓による閉塞
・肺動脈の閉栓
(臨床的特徴)
・肺高血圧症の典型的な症状
・肺換気血流スキャンでの異常
・コンピューター断層撮影血管造影法の異常
・癌、腫瘍形成
(血流のプロファイル)
・右心室と肺血管の間の高血圧症

⑤多要因、未知の機序
(サブカテゴリ)
・血液疾患
・全身性、代謝疾患
・腎臓疾患
・線維性縦隔炎
・複雑性先天性心臓病(子供)
(臨床的特徴)
・上述したそれぞれの典型的な症状
(血流プロファイル)
・右心室と肺血管の間の高血圧症
・肺血管と左心房の間の高血圧症
・これらの両方の高血圧症

まとめると
①血管の組織の異常
②心臓の異常
③肺の異常
④血管の閉塞(血栓など)
⑤血液、免疫、内分泌(代謝)、腎臓などの異常
このようになります。

//病理の特徴//-----
〇血管壁を形成する内皮細胞、平滑筋細胞の異常形成(13)
〇組織の線維化(13)
〇炎症細胞の組織内侵入(14)
これらによって
〇内腔の狭窄、
〇内腔に網状物質形成
これらが生じます。
従って、血管壁が厚く、硬くなり、
血流がある内腔が狭く、塞がれることで
結果として肺高血圧が生じると考えられます。
これらの因果は
〇血管のせん断応力(機械的ストレス)
〇低酸素状態
〇自己免疫異常
〇ウィルス感染
〇薬物、毒物への暴露
〇遺伝子的な改変
これらが想定されています(15)。

//右心室への影響//-----
静脈を肺組織へ送る右心室の機能は
肺高血圧症の臨床結果、生存の主要な
決定要因となります(16)。
肺の血管抵抗が5~10WUに上昇すると
〇肺心室肥大
〇室内拡張
〇脂質の堆積
〇組織の線維化
〇代謝機能の改変
これらが生じる可能性が指摘されています(16)。
この事により
〇酸素供給需要の不均衡状態
〇心筋の線維化
これらに繋がる可能性があります(16)。
しかしながら、
これらの病状の転換がどのようなきっかけで起こるのか?
その境界条件は何であるのか?
これらについては明確にはわかっていません(1)。
ただ、
〇血管生成の異常、改変
〇代謝機能が糖酸化⇒解糖、脂肪酸酸化に変化
〇ミトコンドリアのエネルギー状態の変化
これらが原因として挙げられています(17)。

右心室内の圧力や体積を測定するためには
カテーテルを挿入する必要がありますが、
これらの処置を適切に行うためには
高い熟練度が必要であるとされています(16)。
一方、
心エコーやMRIは標準的な検査としては
まだ適切であるとは立証されていません(18,19)。

//遺伝子的な特徴//-----
形質転換成長因子である
(Transforming growth factor β(TGF-β))
BMPR2の変異が
遺伝性の肺高血圧症の80%の患者さんで見られています(1)。
その他、追加的な変異として
SMAD1, SMAD4, SMAD9(20)
(これらは細胞の成長に関わる遺伝子)
CAV1(21)
(足場タンパク質に関わる遺伝子)
KCNK3(22)
(カリウムチャンネル、電気的な細胞応答関連遺伝子)
これらが挙げられています。
一方、子供のケースでは
TBX4
(Small patella syndrome関連遺伝子)
これが障害のある場合に見られています(23)。
リスク因子として
ATP13A3、
SOX17(24)、
(胚形成、成長に関わる遺伝子)
AQP1、
(細胞膜水チャンネルに関わる遺伝子)
⇒細胞への水の取り込みを調整
GDF2(25)
(骨の形質情報(モフォゲン)に関わる遺伝子)
これらが挙げられています。

//診断//-----
(既往歴、身体検査)
肺高血圧症の症状が以下のように特異的ではない時。
〇労作時呼吸困難/〇倦怠感
〇胸部痛み/〇体液鬱滞/〇失神
これらの時、診断が遅れる事がしばしばあります。
上述した分類のサブカテゴリであるように
〇HIV感染/〇接続組織疾患
〇薬剤や毒物の服用、暴露歴
これらの時は肺高血圧症を疑う必要があります(1)。

〇第2音肺動脈成分の上昇
〇A murmur of tricuspid regurgitation
〇右心室の体液過多の証拠(浮腫など)
これらが身体的な検査から見つかることがあります(1)。

(検査項目(1))
〇経胸壁心エコー検査
これがスクリーニングに適しています。
〇血球数
〇代謝機能
〇抗核の抗体価
〇HIV血清テスト
これらが付加的な検査候補です。
〇胸部X線写真
これは心臓に肥大が起こっている時
あるいは肺動脈が拡張している時に検査候補となります。
〇CT検査
これは組織の実質に異常がある場合に
定期的に行うことが考えられます。
〇肺機能チェック
これは肺の閉塞など肺に異常がある場合に
行うことができます。
〇心臓MRI
これは体積、流動性など
心臓組織、機能に異常がある場合に適しています。

//治療(1)//-----
〇利尿剤
⇒正常な体液量の維持
〇酸素の補充※休息、睡眠、運動時
⇒血中酸素飽和度の適正維持
〇抗凝固剤の処方
⇒血流の維持。適切性を判断する必要がある
〇吸入式Reprostinil
⇒間質性肺疾患がみられる時
〇肺の動脈内膜切除
〇肺のバルーンによる血管形成
〇カルシウムチェンネル遮断薬
⇒肺血管vasoreactivityを持つ患者さん

(評価)
〇6分間の歩行距離

//治験中の薬剤//-----
〇Calcineurin inhibitor FK506(26) 
⇒形質転換因子(TGF-β)を調節する薬剤

〇Sotatercept (27)
肺高血圧症で80%の患者さんに見らえる
BMPR2変異(TGF-βファミリー)
これに関与する薬剤です。
細胞の分化成長に関わるActivinとGDFに結合し
変異したSMAD遺伝子の機能を弱める働きがあります。
(参考文献(27) Figure.1) 
このSotaterceptを服用することによって
服用量依存的(0.3mg/kg, 0.7mg/kg)に
肺の血管抵抗の低下が見られています。
(参考文献(27) Figure.2) 
副作用は血小板減少症やヘモグロビン量増加など
血液に関するものがやや偽薬に比べて多く出ています。

//先天性横隔膜ヘルニアとの関連//-----
上述したように横隔膜ヘルニアでは
身体の左側の横隔膜が通常よりも頭側に形成されるため
その上部にある肺の成長が阻害されてしまいます。
このような肺の形成不全により
肺胞の周りの存在する毛細血管を含む血管の壁を作る
内皮細胞を含む細胞の形成の恒常性が乱されることが
指摘されています(8)。
また、血管は血流を送り出すために収縮、伸長する必要があります。
そのため伸縮性のある筋細胞が必要で、
この筋細胞は骨格筋とは異なる平滑筋となっています。
この平滑筋が血管壁にある内皮細胞の恒常性が乱れることによって
過形成され、それによって血管収縮が起こり
結果として肺形成不全、肺高血圧症が生じるとされています(8)。
内皮細胞と平滑筋の位置関係は
内腔(血流)側から内皮細胞/平滑筋となっています
(参考文献(9) Fig.1参照)。
動脈硬化では免疫細胞が血管壁に影響を与えますが、
新生児の先天性の横隔膜ヘルニアによって生じた
肺形成不全による血管異常に由来して
免疫機能が乱される可能性も考えられます(10)。
ーー
先天性横隔膜ヘルニアではどのように血管の組織に影響を与えるか?
というのがまだはっきりとはわかっていません(8)。
しかし、Nitrofenモデルという内皮細胞の機能不全のモデルが
提唱されています(参考文献(8) Fig.3)。
このモデルでは
VEGF、BMP、Endoglin、FGF機能が抑制
PDGF、ICAM、VCAM機能が亢進しています。

VEGF(血管内皮増殖因子)
BMP(骨の形成に関わる機能)
Endoglin(血管生成に関わる機能)

PDGF(血管平滑筋細胞、繊維芽細胞増殖因子)
ICAM(細胞間接着分子)
VCAM(血管細胞接着分子)

これらから考えられることは
血管の生成や内皮細胞の形成が抑えられている一方で
平滑筋や組織の密着性が高まっているということです。
VCAMは血管内皮がサイトカインによって刺激された時のみに
発現するといわれれおり、免疫機能の惹起も関係している可能性があります。
このように筋細胞の発達が内皮細胞の発達よりも優位になって
血管組織の柔軟性が下がっていることは
横隔膜が上がっていることによって
肺組織全体が機械的なストレスを受けている事に起因している可能性も考えられます。
すなわち成長の抵抗となるような力が働いたときに
その力を補償するために筋組織の発達が促される可能性です(45,46)。
従って、Nitrofenモデルが当てはまるのであれば、
これらの抑制と亢進のバランスを適正に整える治療が
要素の一つとして必要になると考えられます。

//気管支肺異形成症との関連(47)//ーーー
この病気は多くの場合、早産の乳児に以下のケースで起こります。
〇重い肺疾患がある
〇長期間の人工呼吸器、酸素投与を必要とした乳児
〇肺の発達が不十分な乳児
〇出産前、もしくは出産後の損傷(47)
但し、適切な治療を行えば、新生児の大半の生存は確保されます(48)。
重度の気管支肺異形成症を生じている新生児の
おおよそ29-58%は肺高血圧症と診断されています(49-51)。
これらの原因は上述したものとつながる
〇低酸素状態による肺血管抵抗の上昇
〇出産前の子宮内でのストレス(52-55)
などが挙げられています
従って、肺高血圧症は気管支肺異形成症を悪化させる
事に繋がるので早期の解消が必要になります(56)。
気管支肺異形成症は肺の実質の線維化などの原因にもなります(57)。

治療としては短期的には
侵襲的な気管挿管、換気は新生児に対しては
避けるべきであるとされています(47)。
非侵襲的な呼吸の補助が好ましいとされています(58)。
また肺の空気の交換に関係するサーファクタントに
作用させる療法は空気の漏れを防ぎ、
生存率を高める上で好ましいとされています(59,60)。
その他
〇カフェインの投与(呼吸を促進)
〇コルチコステロイドの投与
〇吸入式一酸化窒素
検査として
〇酸素飽和度のチェック
などが挙げられています。
ステロイドは気管支肺異形成症を改善させるというよりも
呼吸窮迫症候群、壊死性腸炎、出血など
副次的に生じる症状をコントロールするために投与されます。
しかし、ステロイドであるデキサメタゾンの高用量では
脳性まひ、腸穿孔の副作用が出る場合があるとされています(61)。

長期的には気管支肺異形成症で生じうる病態生理を
意識しながら診断結果、診察と共に治療を続け、見守る必要があります。
その病態生理は以下です(参考文献(47) Box.3)。
〇気管、気管支軟化症
〇声門下、気管支狭窄
〇肉芽腫
〇唾液腺異形成
〇上皮組織損傷、浮腫
〇平滑筋の増殖、肥大
〇気管支収縮
〇気管過反応性
〇気管支、肺胞、血管生成の不足
〇血管組織の変化(内皮、平滑筋など)
〇リンパ組織の異常(免疫機能など)
(臨床症状)
〇呼吸制御異常
〇睡眠異常
〇胸壁安定性の異常
〇横隔膜機能異常

生活の質の改善のためには、
他の肺疾患の伴う肺高血圧症でも当てはまると考えられますが、
2年以内に再び入院を余儀なくされるケースもあり、
家族の方の継続的なサポートが必要です。
また医師、看護師、その他医療スタッフとの
持続可能かつ協力的な関係が必要だと考えられます。
肺の疾患はまだ明らかではありませんが
新型コロナウィルスのリスクが高まる可能性も考えられます。
すでに呼吸器に作用するウィルスである
インフルエンザのリスクが高まる事も指摘されています(47)。
また、呼吸器のハンディキャップを少なくとも
ある程度は背負う必要があるので
呼吸機能の不全である喘息、発作に対するケアも
通常以上に必要になります(62-65)。

//新生児に対する治療機会(28)//ーーー
新生児において心臓、肺、循環器など
先天的あるいは生後すぐ後天的に何らかの異常が生じ
低酸素血症性呼吸不全(HRF)や肺高血圧症が起こることがあります。
しかしながら、その為の治療を含む健康マネイジメント戦略は
十分であるとは言えない状態です(29-37)。
上述した臨床分類から
①血管の組織の異常
②心臓の異常
③肺の異常
④血管の閉塞(血栓など)
⑤血液、免疫、内分泌(代謝)、腎臓などの異常
これらが原因として考えられます。
従って、新生児に対して
その後の成長の事も考慮に入れ
できるだけ体に負担がかからないような
(※Patient friendly)
正確で適切な治療を継続的に提供するためには、
エビデンスベースの精密医療が必要になります。
そのためには上述したように
血管、心臓、肺、あるいは内分泌、腎臓など
何処に異常があるのか特定することが重要です。
新生児の場合は、上述した先天性横隔膜ヘルニアや
気管支肺異形成症など成長組織学的な異常がある場合もあります。
また、JL Aschner氏らが指摘しているように(28)、
血中のバイオマーカーなどから
明確な病理(エンドタイプ)を明らかにして
上述した原因を絞り込み、
患者さんごとに適切な治療を正確に提供する必要があります。
また、成長に合わせて治療方針を修正していく必要もあります。
薬剤用量や投与、治療期間なども含まれます。
さらに上述した代理マーカーは
予後を予測したり、継続的な治療の病状を把握する
指標になる可能性もあります(28)。
しかしながら、
エンドタイプを絞りこみ、細分化する事は
治験の統計的有意性の見積もりを難しくします。
従って、国際的な協力の元
多くの医療機関、大学、企業などが参画して、
効果的な治験を行う必要があります(28)。
例えば、分類を細かく分けながらも
プログラムとしては「新生児肺高血圧症」と統一化しておいて
結果から導き出される病理や薬効において
分類を超えて比較、共通化できるようにしておくことも考えられます。
多面的なデータから重要な要因を抽出する際には
コンピューター、人工知能などの活用も考えられます。
ーー
肺の機能を維持、回復させるための戦略は以下です。
(但し、人への治療において確立されてないものも含まれます。)
①気道圧解放換気(Airway pressure release ventilation)
間欠的、周期的に比較的低い陽圧状態で
持続的に通気を圧力を精密に制御して行う手法です(38)。
-
②通気を補助(Neurally adjusted ventilatory assist)
-
③肺動脈血管拡張剤
Cinaciguat, Intravenous bosentan, Rho-kinase inhibitors, 
Peroxisome proliferator-activated receptor-γ (PPAR)agonists
プロスタサイクリン経路
-
④血行力学的補助
Arginine vasopressin
-
⑤一酸化窒素形成不足を補う
特に肺に異常があり低酸素状態になるとNO(一酸化窒素)
の生成が抑制されます(28)。
この一酸化窒素は血管を柔らかくするのに必要な物質です。
従って、これが不足する事に寄って血管組織が硬化して
高血圧を助長してしまう可能性があります。
従って、これを形成するための上流の機序として
必要な物質であるL-citrullineを投与します。
また吸入式の直接呼吸器に一酸化窒素を届ける方式において
数十人の新生児に対して医療介入を行ったところ
血中の酸素濃度が顕著に増加したことが示されています
(参考文献(29) Figure.1)
-
⑥エンドセリン受容体上昇を抑える
この受容体上昇は
先天性横隔膜ヘルニアで高まる事が知られています(39)。
このエンドセリン受容体は
血管の組織の一部で血液を送り出すために必要な
伸張作用を担う平滑筋の成長を阻害する働きがあります。
従って、この受容体を抑制するための遮断薬が
治療の候補の一つとなります。
-
⑦Rho-kinase(ROCK)を抑える
筋肉の緊張状態や反応性に関わる生理機序です。
これが高血圧の原因となることがあります(40-44)。
従って、この機序を抑える働きのある薬を投与します。
例えば、②で示したPPARγアゴニストはこの働きを弱めることが
知られています(28)。
-
⑧cGMP生成を促す
血管の平滑筋の伸張の為にはcGMP信号が必要です。
上述した②の血管拡張剤であるCinaciguatは
このcGMP生成を促すことが知られています。

//細胞種特異的輸送系統//ーーー
(新生児に対する治療機会(28)について)---
例えば、肺に異常がある場合には
肺の健全な成長の為の基礎となる「環境づくり」が必要となります。
例えば、横隔膜ヘルニアの場合には
当たり前ですが、横隔膜の位置を適正に戻す必要があります。
また、肺の成長のためには適切な循環器の形成や
循環器の中の免疫細胞を含む血液成分の健全化も必要です。
成長において異常がある場合には
遺伝子的や機械的に(組織学的に)ストレスが
生じている状況も考えられます。
その中で成長の基礎となる実質の形成が
血管生成と正常な血液成分が保たれないことで
さらに成長を阻害している可能性も考えられます。
従って、
栄養物を届けたり、血液成分を管理したり、
免疫、サイトカインのバランスを整える事が大事になります。
JL Aschner氏らはそうした中でバイオマーカーの重要性について
言及されています(28)。
バイオマーカーやMRI、CT、X線検査など
視覚的、成分的な分析を総動員して現状を掴み、
その上で上述した「健全な成長の為の環境づくり」が必要になります。
それを実現させるためには
「高い標的性を持った」医療介入が必要です。
例えば、肺に三大栄養素(タンパク質、脂質、糖)を
バランスよく届けたいという基本的な事があるかもしれません。
それが異形成によって阻害されているとします。
そうした時に効率よくこれらの主要栄養素を届ける必要があります。
その時に肺組織に特異的に多く存在する表面タンパク質を掴み、
ナノ粒子の中に積載したこれらの栄養素を
細胞が適切に取り込める化学構成状態にして
人為的に届ける事も考えられます。
上述した治療では血管系に作用させる治療が主ですが、
成長阻害によって免疫系のバランスや
モフォゲンなど肺の形、成長を決める細胞の機序も乱されている
可能性があります。
〇血管の拡張性、柔軟性
〇免疫機能の正常化
〇組織形成、成長の健全化
これらを兼ね備えた総合的かつ特異的な治療が大切になると考えられます。
肺の成長は植物の成長のように一本の幹(気管)から枝分かれして(気管支)
最終的には数億個の肺胞が形成されます。
その成長の様子は参考文献(47) Fig.4に示されています。
その時には内腔の他に
〇AT1, AT2細胞
〇Surfactant 
〇肺胞マクロファージ
〇内皮細胞
〇平滑筋細胞
など肺胞を構成する細胞を成長させていく必要があります。
(参考文献(47) Fig.3a)
その時には細胞成長に関わる細胞内機序があると考えられますが、
適切な酸素濃度など呼吸の管理、
血管生成、血流を届けることが基礎となると考えられます。

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