2023年2月4日土曜日

細胞種特異的輸送系統実現のためのリソースと発展的視点、そのデータ

細胞種特異的輸送系統の最も重要な部分は
〇特定の細胞種、
〇特定の組織内の細胞種、
〇特定の発達状態(任意の年齢の子どもなど)の細胞種
〇特定の病変状態の細胞種
これらにおいて
体全体において、
理想的にはその細胞種「のみ」に発現している
表面タンパク質を見つけ、
それを薬剤送達の標的として定めることです。
そして、その標的に対して
結合親和性の高い装飾因子を
ナノ粒子、細胞外小胞表面に作製することです。
あるいは、遊離薬剤に結合性を持つ
タンパク質を結合させる事です。
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Linda Berg Luecke(敬称略)ら医療グループの
献身的な調査によって、
数百もの従来のリソースにない
表面タンパク質が心筋細胞で見つかっていますが、
この方式
CellSurfer includes a microscale Cell Surface Capture (μCSC))
これで心臓の細胞を超えて、
全身のあらゆる細胞で表面タンパク質を調べたときには
同様に今まで見つかっていなかった
表面タンパク質が多数見つかる可能性があります。
従って、
この報告で、特異的であると認められた
表面タンパク質も全身で同じ方式で調べた時においては
同じ表面タンパク質がが
違う細胞種、組織の細胞種で見つかる可能性があります。
従って、
労力はかかるかもしれないですが
Linda Berg Luecke(敬称略)らには
表面タンパク質のリソースを心臓やB細胞だけではなく
全身のあらゆる細胞で行ってほしいと期待しています。

CellSurferによって今まで見つかっていない
表面タンパク質が数百見つかったことが一つの大きな価値ですが、
細胞種特異的輸送系統
(Cell-type-specific delivery system)の観点で言うと
心臓以外の身体全体の組織で見た時の
特定組織、細胞種の表面タンパク質の特異性はどうか?
という視点が重要になります。
単純な血液循環の組織図を参照すると
薬剤を静脈注射で投与した場合、
その毛細血管から心臓の右心房に輸送されます。
従って、その経路を考えると
血液の中にある成分や免疫細胞などの細胞種
血管の内壁の(表面)タンパク質と
どのように相互作用するか?
それをナノ粒子による標的化を考える際に
少なくとも重要になります。
言い換えれば、
CellSurferによって見つかった
心筋細胞特異的な表面タンパク質が、
同じ方式で血管内皮にも同種のものがあれば、
それに特異的に結合するタンパク質を
表面に装飾したとしても
静脈注射によって血中に循環させる中で
途中で捕獲されてしまいます。

Linda Berg Luecke(敬称略)らは
LSMEM2というたんぱく質に着目しています(1)。
これに対して、
Ruby10.1というモノクローナル抗体を作製して、
そのモノクローナル抗体が
本当にこの表面タンパク質を特異的に持つ
細胞だけに結合するかを調べています。
これは心筋細胞に見られますが、
少なくとも
〇線維芽細胞、
〇内皮細胞、
〇HeLa細胞
〇Jurkat T細胞(ヒト白血病T細胞由来)
〇U-2 OS(ヒト骨肉腫細胞株)
これらでは結合は確認されませんでした。
しかし、
多様な免疫細胞、血小板、赤血球、
血中のデブリ、細胞外小胞などを初め
最終的に薬剤送達ルートとして想定される
循環器に存在する(表面)たんぱく質に対して
結合性を持たないかどうかはわかりません。
より発展的な研究として
これらを調べる価値はあると想定されます。
一方、
Linda Berg Luecke(敬称略)らの報告(1)の
付加的価値はいくつかあります。
1つは、
組織特異的な観点を示したことです。
つまり、
心筋細胞は右心室、右心房、左心室、左心房などにありますが、
もし、右心室の心筋細胞に病変がある場合には
治療の需要としては右心室の心筋細胞に
薬剤を特異的に送達したいというのがあります。
細胞種特異的であっても、
その細胞種が複数の組織にあれば、
真の意味での標的治療は実現しません。
Linda Berg Luecke(敬称略)らは
それぞれの部位の細胞種に対して、
同じ細胞種でありながら、
組織特異的タンパク質がある事を示しています。
例えば、
左心室特異的な心筋細胞の表面タンパク質は
37種類あります。
左心房は少なく1種類となっています。
従って、これらの表面タンパク質を標的化すれば
それぞれの組織の心筋細胞に特異的に
薬剤が送達される可能性があります。
--
次に、
人由来多能性幹細胞の違いを示したことです。
病気のモデルとして考えられるわけですが、
未成熟になる事を含め、
人由来多能性幹細胞由来の心筋細胞には
体内に自然にある心筋細胞を再現するのに
いくつかの課題があります。
その中で、
人由来多能性幹細胞由来の心筋細胞にしかない
特異的な表面タンパク質が399種類あります。
従って、
人由来多能性幹細胞の心筋細胞を使って
病変モデルや薬剤送達の実験を行う場合、
表面タンパク質の相違依存的に
実情とは異なる結果が出る可能性があります。
これは、iPS細胞由来の心筋細胞でも
同じかもしれません。
分化する過程の条件が異なると
表面に実装されるたんぱく質の種類が変わる
という可能性はあるかもしれません。
この辺は、非常に複雑で難しい問題です。
例えば、応用において
iPS細胞由来の神経幹細胞の細胞外小胞を使って
実際の神経系へ細胞外小胞を特異的に送達させる事を考えた場合
体内に自然にある神経幹細胞と
多能性幹細胞を人工的に分化させた神経幹細胞の
表面タンパク質が異なる事に寄って
iPS細胞由来の神経幹細胞から精製した
細胞外小胞の表面タンパク質も影響を受け
神経系にうまく送達されないという事が起こるかもしれません。
ただ、
Linda Berg Luecke(敬称略)らの結果を見る限り
共通する表面タンパク質も多くあります。
従って、標的として想定する表面タンパク質は
体内に自然にある細胞と人工的に分化させた細胞の
表面タンパク質は全ては一致しない事を前提に考え、
両者を比較して、
共通に存在する表面タンパク質を選ぶ必要性があります。
選ぶというよりも、
一致しているものが標的性に関わる可能性があるという事です。
一方で、異なる部分の予想外の挙動についても
想定しておく必要があります。
--
3つ目は
病状による違いを示したことです。
心臓に不全がある場合とない場合で
心筋細胞の表面タンパク質の発現量が異なる
タンパク質種があります。
発現量が3桁~5桁ほど違うものがあります。
BST2のように病変で多く発現しているものは
それを標的にすることで
自然に病変部位に薬剤が特異的に送達させる事ができます。
薬剤送達だけではなく
蛍光物質などで機能化すれば、
病変部位に集まるのであれば、
それによって病変部位の生体内イメージングも可能になります。
逆に
病変部位の方が顕著に少ないSEMA4Dのような
タンパク質もあります。
これをどう使うか?
私が想起した観点は
それを使うというよりも、
このタンパク質に結合する面、表面タンパク質が
抗体やナノ粒子の表面たんぱく質にそれぞれあれば、
あるいはコロナとして結合した物質が結合性を持てば
病変部位に届けたい標的を施していたとしても
健康な通常の細胞に送達されてしまうという事です。
特にナノ粒子や細胞外小胞の場合は
コロナなどを含めて
結合エピトープは多数あるので
その数あるエピトープのうち
病変部位に少なく、健康な部位に多い表面タンパク質に
特異的に結合するエピトープがあると
期待される結果が相殺される可能性があります。
確かにこういった複雑性を考慮すると
Parisa Yousefpour(敬称略)らが指摘するように
関与する表面構造がより複雑な
細胞外小胞の臨床応用を考える際には
考慮しなければいけない要因が多く出てくる
可能性が高いです(2)。
複雑すぎて追いきれない場合には
ある程度、ヒューリスティック性を受け入れる、
つまり、細かい相互作用を無視して
結果から判断するという事が必要かもしれません。
もし、今の最先端の実験現場で
細胞外小胞を使った薬剤送達が思うような結果が得られない
という事であれば、
Linda Berg Luecke(敬称略)らが証明したような
非常に可変性に富む表面タンパク質の影響を受けている
可能性があります。
--
これらの結果から
特異的送達の為の標的を定める事は
想像よりもはるかに多元的に考える必要性があります。
例えば、
上述したこと以外でも
〇民族、性別、年齢、個人差
これらによって違うかもしれません。
年齢でいれば
子どもにおいて各組織が発達時期にあり過渡期ですから
年齢依存的な表面タンパク質の違いがあるかもしれません。
従って、
大人でエビデンスのある標的性を持ったナノ粒子薬剤で
子供に標的治療を行う場合、
顕著に違う結果が生じてしまう可能性もあります。
また、アメリカで結果が得られても、
日本では得られない
民族特異的な差異を持つ可能性もあります。
それを避けるためには
様々な可変因子を調査範囲に含めて
その中である程度、共通性のあり、かつ特異的である
標的を探す必要性があります。
どの表面タンパク質を選択するか?は
そのたんぱく質がどのような生理作用を持つか?
これも考慮の範囲になり、
非常に慎重な選択が必要になると考えられます。
--
一方、その事を踏まえて違った視点では
臨床前の実験段階で、
あるいは臨床試験で
特に細胞外小胞、
あるいはもっと精製がしやすいナノ粒子において
想定した結果が得られない状況に陥った時に
表面たんぱく質が
様々な可変因子を持っている事を認識していれば、
そこで思考停止に陥る事は少なくともありません。
ナノ粒子による薬剤送達が
なかなか実現しなかった理由の一つは
循環器で付着するコロナの影響があると言われていますが、
それ以外に上述した事も挙げられます。
そのようないくつかの想定される原因がわかっていれば、
何らかの合理的な対策が考えられます。
ナノ粒子による標的治療を
今までの不十分な実績で諦めるのはあまりにも惜しいです。
薬剤を病変部位に特異的に送達させる事は
治療のフレームワークとしては有望だと考えられます。
様々な困難がありますが、
Linda Berg Luecke(敬称略)らは
それを乗り越えるためのヒント、第一歩(The first steps)を示してくれました(1)。

//細胞種特異的輸送系統実現のための
病変部位細胞標的表面タンパク質の
対となるタンパク質の精製にについて//
--
モノクローナル抗体を作る過程は
B細胞の抗体産生の機序を巧みに利用しています。
無限に増殖する液性免疫を生じる抗原認識する細胞を利用して
細胞表面の任意のタンパク質を認識させて
それに結合性を持つ抗体を産生させます。
それがモノクローナル抗体となります。
従って、
抗体薬物複合体は抗体とのリンカーが普遍的であれば、
基本的にはどのような標的に対しても
薬剤としてデザインすることができます。
では、
細胞種特異的輸送系統で必要なバイオテクノロジーである
標的細胞表面の任意の表面タンパク質に結合する
対となるタンパク質、その遺伝情報を
どのように特定する事ができるでしょうか?
力技でスマートな方法ではないかもしれないですが、
その方法を考察しました。
例えば、
小児の脳腫瘍の癌細胞は100種類の表面タンパク質を持っていました。
それを1万か所の個別の隔離スペースに収納します。
ある程度、条件を絞ったうえで
1万種類のの遺伝情報が事前にわかっているタンパク質を
その隔離スペースにいれます。
その中で、100個のうち小児の脳腫瘍特異的な
表面タンパク質に高い親和性で結合する
タンパク質を見つけます。
結合性が維持されるのであれば、
すぐに冷凍保存し、低温電子顕微鏡で構造解析します。
そうして、遺伝情報との紐づけを完了し、
細胞外小胞などの細胞表面に
その遺伝子を形質導入する事で
小胞表面に装飾できないか検討します。
その遺伝情報が事前にわかっているタンパク質を
スクリーニングする際には
人工知能、機械学習によってある程度、
有望な候補を絞り込むという事はできるかもしれません。

//考えられるもう一つの意義//
Linda Berg Luecke(敬称略)らは、
心筋細胞を含めて、心臓の細胞の表面タンパク質を
包括的に調べられました。
今までにない特異的な表面タンパク質も見つかっています。
それがリソースとして提供されています。
この心臓の表面タンパク質は
循環器を通して、薬剤を脳や各臓器に送達させる上で
非常に重要な意味をもつかもしれません。
血液循環の図を見ると
静脈(毛細血管)⇒心臓⇒大動脈(頸動脈)⇒各臓器(脳)
このようなルートとなっています。
ナノ製剤を静脈注射で注入した場合、
このような血液循環のルートで
それぞれの組織に特異的に送達されると仮定すると
そのルートには必ず心臓が含まれます。
従って、
「心臓に送達させたくない場合」
心臓の細胞種の表面タンパク質と結合する
表面たんぱく質をナノ製剤の表面から除く必要があります。
従って、
心臓の表面タンパク質が包括的に調べられたことによって
避けるべき結合対の表面タンパク質が明らかになる事から、
仮に上述した血液循環の中で
薬剤が送達されるとするならば意義がある事です。

(参考文献)
(1)
Linda Berg Luecke, Matthew Waas, Jack Littrell, Melinda Wojtkiewicz, Chase Castro, Maria Burkovetskaya, Erin N. Schuette, Amanda Rae Buchberger, Jared M. Churko, Upendra Chalise, Michelle Waknitz, Shelby Konfrst, Roald Teuben, Justin Morrissette-McAlmon, Claudius Mahr, Daniel R. Anderson, Kenneth R. Boheler & Rebekah L. Gundry
Surfaceome mapping of primary human heart cells with CellSurfer uncovers cardiomyocyte surface protein LSMEM2 and proteome dynamics in failing hearts
Nature Cardiovascular Research volume 2, pages76–95 (2023)
(2)
Parisa Yousefpour, Kaiyuan Ni & Darrell J. Irvine
Targeted modulation of immune cells and tissues using engineered biomaterials
Nature Reviews Bioengineering (2023)

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