2024年1月2日火曜日 0 コメント

早産児健康促進の為の包括的情報 (14)横隔膜ヘルニア

//横隔膜ヘルニア//
横隔膜ヘルニアは先天性欠損症の中では比較的共通的です。
アメリカ合衆国で1114人のお子さんが毎年影響を受けています(888)。
平均で一命をとりとめるお子さんは60%であり、
早産のお子さんに限れば、在胎期間が短くなればなるほど
命を落とすリスクがより高くなります(889)。
横隔膜ヘルニアは横隔膜の異形成によって
横隔膜の筋組織に穴が生じ、
腹腔にある肝臓、胃、大腸、小腸が胸腔に滲出する事で
臓器の配置の異常やそれによる肺組織の成長阻害が生じます。
横隔膜は肺呼吸に関わる筋肉の一つで
横隔膜を上下させながら肺を動かすことで肺呼吸が可能になっています。
従って、横隔膜は肺と隣接しており、
横隔膜の位置が変わる事はダイレクトに肺の組織に影響を与えます。
実際に胎児鏡下気管閉塞術(FETO)など治療を施したとしても
気管支異形成や肺高血圧など
肺に関わる呼吸器に後遺症が残るケースは
非常に高くなっています(890,891)。
肺高血圧症に関しては軽度であっても、
治療を施しても70%を超える値となっています。
横隔膜ヘルニアで重要なのは
筋組織に穴が開いたところを通じて
腹腔にある肝臓、胃、小腸、大腸が胸腔に浸入することです。
これが実際に胎児の時点で生じるのか?
それとも分娩後、新生児、乳児、小児で生じやすいのか?
そこを整理する事です。
私はまず、子宮内にいる胎児と
外界に出た新生児移行の横隔膜の動きの違いに着目します。
胎児では横隔膜は比較的高い位置にあり、
胸腔内に空気はほとんど入ってこないとあります。
胎児の時点では横隔膜は呼吸にはほとんど関与しないということです。
おそらく、重力に逆らって、
腹腔内の肝臓、胃、大腸、小腸が上側に存在する胸腔内に
穴から滲出するためにはそれを可能にする力学的なエネルギーが必要です。
そのエネルギー源の一つは圧力変化にあると推定しています。
胸腔の空間は呼吸によって体積が変わります。
腹腔と胸腔の分圧差、
その差において胸腔が腹腔に対して陰圧であれば、
当然、腹腔から胸腔へ動く力が生まれます。
それによって肝臓、小腸、胃、大腸が胸腔へ引っ張られる原因となりえます。
上述したように胎児と分娩後の新生児以降の
横隔膜の動きに着目したのは
その動きがこのような力のバランスに影響を与えうると考えたからです。
観点を少し変えて説明すると
もし、胎児の時点で横隔膜の動きが
分娩後に比べて小さいのであれば、
その時点で先天的に横隔膜を形成する筋組織に欠損、穴があったとしても
肝臓や小腸が肺の成長を妨げる
胸腔への進出が分娩後に比べて起こりにくいかもしれない
と考える事もできます。
もし、そうであるとするならば、
横隔膜ヘルニアの治療においては
将来的な有効な薬剤による投薬も含めて、
分娩前の子宮内にいる胎児に対して行いたいという需要が生まれます。
おそらく、横隔膜ヘルニアの有効な治療を考える際には
外科的な治療ももちろん大切ですが、
それを補完する内科的な観点では、
胎児に対してどうやって有効に投薬するか?
そのメソッド、プロトコルを考える必要があります。
その際にはできれば、標的性を上げるため、
薬物送達学の観点も方法、手続きに含めたいというのがあります。
その為には母体から薬物を注入する際においては
螺旋動脈や絨毛組織の浸透性など
臍帯を通じて薬物が胎児に送達されやすいシステムを考えることも
一つとして重要になります。
下述する事も含めてここで
現在まで取得した情報に基づいた細胞生物学的な観点で申し上げると
横隔膜の異形成、穴は
筋細胞の不連続性にあると言い換えることができるので
通常の細胞における密着接合について考える事が重要になると
推定されます。
しかしながら、筋細胞は多核性で特殊な細胞であり、
骨格筋においては細胞同士の密着接合は持たないとされています(904)。
従って、カドヘリンなどの密着接合が
筋組織の完全性においては影響を与えていないという事が
ここから読み取る事が出来ます。
そうであっても、やはり
横隔膜の穴、不連続性を細胞生物学的に考えるには
横隔膜の筋組織の接合性を理解する必要性がありますが、
それがまだ未知であれば、
横隔膜は骨格筋に属するので
骨格筋の一般的な分子的な構造、機能について
包括的に理解する事(905)病理の一つの重要なピースになります。
この章ではその総括論文について
精査する事を予定しています(905)。
なぜなら、下述するように
横隔膜の筋形成の遺伝子的な事を含めた発達経路は
同じ骨格筋である胴体や四肢の筋肉の発展と類似するからです。
その一つ一つを細かく見ていくことで
それを制御するPleuroperitoneal foldsにおいて
どのような分子的機序に不全が出ていそうか?
それによって多核性の筋細胞の
どのようなたんぱく質を含めた物質に不全が出ているか?
その不全は薬剤によって治療する事が可能か?
その様な事を探っていける可能性があります。
また、そのタイミングは子宮内にいる胎児の時の方がいいか?
それは横隔膜の子宮内と外界での機能の違いを
もう少し詳しく調べていく事で明らかになる可能性があります。
様々な基礎的な知識が
横隔膜ヘルニアの治療、緩和、予防、管理のために必要ですが、
その重要な要素の一つとして、
Allyson J. Merrell(敬称略)らが
横隔膜の発達について総括されているので(892)、
その内容について精査し、
独自の調査、考察を加えて情報共有します。
--
<<横隔膜の発達>>
哺乳類の横隔膜筋は呼吸において重要であり、
人の身体において最も重要な骨格筋の一つです。
横隔膜の発達の異常は先天性横隔膜ヘルニアにつながります。
この先天性の異常は子どもの中で4000人に1人と
決して少ない数ではないため、
その組織学的な形成の機序について理解する事は非常に重要です。
横隔膜は胸腔と腹腔を隔てる
ドーム型の筋肉を持ちます。
横隔膜は上述したように筋組織であり、
胸腔をリズミカルに圧迫するこで肺を動かすことに貢献します。
肋骨の左右両方にドーム状の筋組織を形成します(893)。
これらの筋組織は放射状に並んだ筋線維を持ちます。
この放射状とは下側、上側から見た時に
背骨から体の外側に向かって
筋線維が延びていることを示します。
(参考文献(892) Fig.1)
横隔膜はドームを形成し、
中心の組織がより胸腔に近い形になっています。
その中心部の頂点にあたる部分に
腱(central tendon)が存在します。
腱は接合性の組織シートで
細胞外マトリックスと腱細胞からなります。
横隔膜の運動制御は横隔神経によって生じます(894)。
横隔膜は呼吸機能だけではなく
胸腔と腹腔を分ける障壁機能として働きます。
人の臓器は重力によって力を受けます。
従って、それぞれの臓器の位置安定性を
「区画」によって確保する必要があります。
肺と心臓は胸腔に位置し、
胃、腸、肝臓、腎臓は腹腔に位置します。
それぞれの臓器の位置を確保する事は
特に発達期にある子どもの健全な臓器発達において
重要であると想定されます。
この横隔膜の機能が弱かったり、不完全であると
胸腔、腹腔にある臓器の発達に影響を与える可能性があります。
特にその動きの密接に関わりのある肺は顕著です。
では、その横隔膜の組織学的な不全はなぜ生じるのでしょうか?
そのためにはその形態学について知る必要があります。
横隔膜のドーム状の筋組織、それを支える腱は
◎Septum transversum(横中隔)
◎Pleuroperitoneal folds
◎Somites(中胚葉節)
これらから発達します(892)。
横中隔はAllyson J. Merrell(敬称略)らがFig.2に示すように
胸腔と腹腔を隔てるために最初に大きく発達する組織です。
中胚葉は筋肉の原型となる前駆細胞群ですが、
それがリンパ節のように「節」を形成し(Somite)、
筋原性の前駆細胞PAX3+前駆細胞を放出します(895)。
この時には横隔神経も関与します。
横隔膜の筋形成には
Pax3とc-Metの遺伝子が密接に関わっており、
これらの遺伝子が不活性になると
横隔膜の筋組織が形成しないことが
マウスのケースで確認されています(896-898)。
通常これらの遺伝子は中胚葉節で強く発現されています。
このc-Metは組織形成において普遍性の高い遺伝子で
胚発生、器官形成、創傷治癒に必須であり、
また、癌などの組織形成にも関わります。
もし、c-Metに先天的に異常があって
横隔膜異形成が生じているとするならば、
他の臓器も異形成が生じて自然なので、
その点に着目しながら、
この遺伝子との関わりについて一定の注意を払います。
-
横隔膜は頂点から外下側の腰の部分、
尾部に向かって成長していきます。
その成長には細胞だけではなく
神経系も追随して伸長されていきます。
Pleuroperitoneal foldsは間葉のプレートですが、
神経系や筋原性の細胞の成長のシグナルの
重要な供給源となっています。
この信号に応じて、
おそらく多様な細胞接着分子が組織の健全な成長に関わっている
と想定されますが、その信号の分子的な特徴はわかっていません。
少なくとも多様な神経系の細胞接着分子の
離脱可能な低い親和性を持つ成長因子受容体が
神経管からPleuroperitoneal foldsに延びていて
横隔神経の成長を誘導するかもしれません。
組織の成長に関わる
肝細胞増殖因子やMet受容体は
筋肉の前駆細胞や神経系両方の移動経路に沿って発現されています(899)。
Pleuroperitoneal foldsは信号を送る事によって
横隔膜の筋組織の前駆細胞の
筋生成や形態形成に必要な遺伝子的な活性を調整しているかもしれません。
筋組織の形成機序は胴体や四肢の筋肉形成と類似します。
Pax3、Pax7を最初に発現し、
Myf5、MyoDの発現を経由して
Myogenin +単球に分化し、多核の筋線維を形成します(900,901)。
ここで一つ考えられるのは
横隔膜ヘルニアを呈した子どもが
胴体や四肢の筋肉形成でも同じように欠損が生じているか?
ということです。
もし、そうではなく横隔膜に限定されるなら、
その信号の源泉となっている
Pleuroperitoneal foldsに異常がある可能性があります。
例えば、Pleuroperitoneal foldsの形成初期には
GATA4, COUP-TF2, and FOG2
これらが発現されているとあります(902)。
実際にPleuroperitoneal foldsの異常は
先天性横隔膜ヘルニアに関わると報告されています(903)。
病因はそれだけではない可能性がありますが、
現時点の情報において
Pleuroperitoneal foldsはおそらく横隔膜の形成不全に
深くかかわっているので、そうであれば、
遺伝子的な影響を調べるとともに、
実際にどのような信号異常があるか?
それによって筋原性の細胞、神経細胞の
どのような機能に異常が出ているか?
その上流から下流までの機序を推定していくためには
現時点で世界で用意されている情報では
おそらく十分ではない可能性が高いので
上述した類似する骨格筋の発達の情報を参考にしながら、
今後の研究の為の「当たり」を付けていく必要があります。
つまり、
「このような機序が重要で、不全が出ているのではないか?」
ということがある程度、頭にある中で
研究を進めていくということです。
上流から下流までの機序が明らかになれば、
現在用意されているFETOなどの外科的な医療介入に加えて、
組織の発達を薬物によって促す内科的な治療の道筋も見えるはずです。
-
pleuroperitoneal foldsより信号を受けた
筋肉の前駆細胞は筋芽細胞に分化します。
筋芽細胞は通常は一つの細胞核を持ちますが、
それが筋線維に融合することで取り込まれます。
従って、筋線維は筋芽細胞の細胞核も取り込むため
筋線維は長い繊維状の区画の中に
多数の細胞核が存在する多核性の組織となります(906)。
(参考文献(906) FIGURE 1)
これら筋線維がワイヤー上に束となり、
その束の周り、それを縛るようなタンパク質が存在しますが、
それについての詳細は後述します。
横隔膜の筋肉の結合組織や上部に存在する腱の形態生成
その形態生成における横中隔とpleuroperitoneal foldsの関連性については
まだ、未知の領域が多く存在します(892)。
横隔膜の形成の健全性や異常(穴)が生じる物理を考えるときには
その筋肉の元となる細胞種、その融合体である筋線維がある事と
その筋線維を高い秩序で結びつける結合組織が必要です。
また、その成長、形状を管理する神経系、免疫系を含めたシステムが必要です。
例えば、形態生成において重要なMetを欠損させると
結合組織が残ったまま、筋線維の形成が欠如しました(907)。
この事はそれぞれの要因が、
別の遺伝子によって制御されていることを示唆するものです。
また、横隔膜の異形成は左側が多く
おおよそ85%であるとされています(890,908,909)
この疫学的情報は病理、病因を理解する上で非常に重要です。
Allyson J. Merrell(敬称略)らがFi.2示すように(892)
横隔膜形成初期の細胞の分泌、信号因子などの器官の左右対称性は
比較的高いと想定されます。
人の身体の構成において左側には心臓があるため
横隔膜の位置が左側と右側で対象ではありません。
心臓がない右側の横隔膜は高い位置に形成されます。
(参考文献(910)より)
これが異形成と関係している可能性があります。
例えば、心臓の拍動、質量によって
常に左側は右側よりも強い機械的ストレスにさらされるため、
それによってより強固な形態形成の機序が
正常な組織発達の為に必要であるという事はあるかもしれません。
なぜなら、そのストレスによって
筋線維がちぎれたり、結合組織が破壊され
穴が開くことが考えられるからです。
もし、そうであるとするならば、
本質的な組織形成の欠陥ではなく、
筋組織の形成が少し脆弱であるという可能性が浮かび上がってきます。
なぜなら、右側には穴が形成されないからです。
そうであれば、子どもが成長しても共に変わっていける
体の中にある自然な結合組織によって
筋線維を補強するようなことが薬剤でできれば、
何割かの横隔膜ヘルニアを防ぐことができるかもしれません。
他方ですでに筋肉の再生については
スポーツ科学を中心に考えられています(911)。
そのような再生を促す処置ができれば、
横隔膜の筋組織の恒常性の中で
よりリスクが少ない状態にできる可能性もあります。
筋肉の再生についても
横隔膜ヘルニアにおいて重要な可能性があるので
後に内容を精査することになります(911)。
今述べた様に
筋組織は再生する事も考えられるため
小さな穴で止める事ができたら、
その穴は自然な再生機序によって閉塞し、
その後、組織は正常化する可能性もあります。
外科的にはiPS細胞で作った心筋シートを
心臓に貼って回復させたように
お子さんの横隔膜に
横隔膜筋シートを貼るような事も考えられます。
内科的には組織をお子さんの自然な機序を利用しながら
薬物によって補完し、強化する事ができるか?
それをまだ横隔膜の運動性が低いと考えられる
胎児の時点でできるか?
そのような展望が現時点であります。
これは現時点での仮説による論述であります。
一方で、そうではなく
神経系や免疫系の信号の非対称性などの
可能性も現時点では否定はできません。
---
ここからはPraveen Kumar Chandrasekharan(敬称略)らが示す
先天性横隔膜ヘルニアに特化した総括(918)を参照し
上述したことも含めて付加的な考察を含めながら詳述します。
-
<<要約、背景>>
横隔膜ヘルニアは横隔膜の筋肉の発達において不全が生じ、
特に左側において多く穴が生じます。
Praveen Kumar Chandrasekharan(敬称略)らがFig.2に示すように(918)
その穴は小さなものから全体が欠損するような大きなものもあります。
(Fig.2 A,B,C,D参照)
この先天性横隔膜ヘルニアによって
上述したように肺(肺高血圧)、心臓の不全につながります。
肺高血圧症は肺水腫に伴い生じることがありますが、
全てではないにしろ高血圧の一つの考えられる原因は
特に左心房に繋がる肺静脈管壁の中膜にある平滑筋の機能が
低下する事です。
横隔膜ヘルニアで肺高血圧とリンクする原因は
単に肺と横隔膜の圧力的な関係を考える
「Lung diaphragm model」だけで説明はできない可能性もあります。
なぜなら、胸腔への腹腔組織、臓器の滲出も
関係している可能性があるからです。
しかしながら、横隔膜ヘルニアを呈する子供が
先天的に横隔膜筋の機能が弱いとすると、
それによって生きるために必要な空気量を
肺の収縮、伸張で獲得するためには
それに関する筋肉の過負荷(Overload)が生じる可能性があります(944)。
それによって呼吸に関わる筋組織の中の
並列に、棒状に繋がっている
「Sarcomeric cytosleleton」(参考文献(945) Fig.5)。
これに多くに負荷がかかります。
ここで整理して考える必要があるのが、
少なくとも
〇横隔膜筋
〇呼吸筋(Expiratory muscles)(参考文献(946) Fig.1)
〇肺静脈の平滑筋
〇心筋
これらの連携です。
これらは人が呼吸する際に正常に働く必要がある筋組織です。
例えば、横隔膜ヘルニアで先天的に横隔膜筋に異常がある
その機能が弱いとします。
それはCaイオンの取り込み、感受性が悪いかもしれないし、
筋組織の中の細胞骨格の形成、構造に異常があるかもしれません。
いずれにしても横隔膜筋に異常があると
それ以外の呼吸筋、肺静脈の平滑筋、心筋に過剰な負荷がかかります。
それを補うために過剰に活動する必要があるからです。
そうして、肺高血圧症になると
今度は肺静脈の平滑筋が肥大、硬化して
肺静脈の平滑筋の機能も低下してしまう可能性があります。
そうすると横隔膜筋、肺静脈の平滑筋、両方が低下し、
さらに呼吸筋、心筋に負荷がかかります。
そうすると特に心臓の肥大につながる可能性があります。
実際に共に「先天性」とされていますが、
横隔膜ヘルニアと心疾患が併存するお子さんは
全体のおおよそ15%になると言われています(947)。
さらに先天性横隔膜ヘルニアを呈する子供のおおよそ
0.3%は心臓疾患に対する手術が必要であると推計されています(948)。
また、横隔膜ヘルニアの子どもにおいては
「Barrel-shaped chest(※)」と呼ばれる
胸が相対的に大きくなる臨床症状を呈することがあります(950)。
(参考文献(950) 図参照)
これは、横隔膜筋、肺高血圧症など
呼吸機能全体に関わる力が弱い状態にあることによって
生じる補償的な身体の反応と言えます。
つまり、胸の筋肉を肥大させないと
通常の酸素を中心とした体の空気需要を満たせないということです。
下にリハビリテーションについて述べます。
これは主に横隔膜や肺の呼吸筋の機能向上を目的として行う事が
患者さんにとってメリットがあるかどうかを考察するものですが、
すでに「Barrel-shaped chest」
つまり胸の筋肉の肥大が生じている事は、
リハビリテーションの効果がある程度制限的になる
ということを示すものかもしれません。
横隔膜ヘルニアに追随して生じる呼吸機能の低下に対する
医療的介入を考える場合には
下述するようなリハビリだけではなく、
心臓、肺(平滑筋を含む)、呼吸筋(横隔膜筋を含む)、
加えては循環器の液性の機能(免疫機能を含む)を
総合的に掌握し、全体的に分散した治療を行う事が
一つの終着点として考えられるかもしれません。
従って、横隔膜ヘルニアの子どもに対しての治療を考える際には
〇(一般的な)肺高血圧症
〇(一般的な心肥大を含む)心疾患
〇動脈硬化
これらなどの治療が役に立つ可能性があります。

--
治療としては上述した筋肉を効率よく使う
リハビリテーションが考えられます。
例えば、呼吸筋をリハビリテーションによって鍛える事で
横隔膜筋、肺静脈の平滑筋、心筋にかかる
負担を減らす事ができるかもしれません。
どの筋肉を鍛えるのがいいかというのは
その筋肉の肥大しても問題のない筋肉である必要があります。
上述したように心臓の筋肉が肥大すると問題になります。
しかし、例えば、四肢の筋肉が肥大しても
健康上、問題になる事はあまりありません。
もし、肺の周りにある呼吸筋の肥大が
呼吸に関わる他の筋肉の肥大に比べて問題が少なければ、
そこの能力を呼吸に問題のある子どもの無理がない範囲で
理学療法士の指導の下、行う事は重要かもしれません。
その筋肉が元々問題のあった横隔膜筋にも
正の影響を与える可能性もあるからです。
但し、先天性横隔膜ヘルニアに罹患している子どもに対して
強度を最適化した形で一般的な肺のリハビリを行う事が
患者さんにとってメリットがあるかどうかに関しては
現時点でエビデンスはありません。
ただ、先天性横隔膜ヘルニアを呈した患者さんに併発する
肺高血圧症と肺のトレーニングにおける総括は存在します(949)。
その内容についてここで時間をとって精査します。
気を付ける必要があるのが、
肺動脈高血圧症(肺静脈高血圧ではない)の患者さんに対して
運動による介入を行うことは
患者さんに対して弊害をもたらす可能性があるということです(949)。
それをまずは前提として、
肺動脈、肺静脈の高血圧症、
それを多くの場合併存する横隔膜ヘルニアにおいて
リハビリについて考えます。
但し、運動には
種類(動かす場所)、強度、頻度など
かなり異種性があり、専門性が必要であります。
ここで思考実験、分野横断的な調査の出発点として
焦点を当てて考えたい事は
上述したように肺の周りにある呼吸筋の機能を
どうやって選択的に上げることができるか?です。
それによって他の呼吸に関わる筋肉の負担が減るか?
そうするとおそらく横隔膜ヘルニアの
お子さんで生じていると現時点で推定している
横隔膜筋の低下⇒肺静脈、肺動脈平滑筋肥大、硬化
⇒心筋細胞の肥大、硬化。
それに伴う横隔膜、肺、心臓の機能の低下。
この負のスパイラルを肺の呼吸筋の機能向上によって
正のスパイラルに転換することができるか?
現時点では肥大した時にリスクが少ないと想定されるおが
呼吸筋であると考えられるからです。
筋肉も種類が多く大きいという事も挙げられます。
実際には横隔膜筋も呼吸筋の一つとして挙げられるので
全体的に呼吸筋の機能に介入する事は
元々の病因であった先天性の横隔膜筋形成不全にも影響を与えます。
但し、この事はもともとそこに不全があるわけですから、
人為的に介入する事が悪影響を及ぼす可能性もあります。
そうした可能性にも配慮しながら考えていきます。
--
リハビリテーションが個別化された形で安全に行われるかどうかは
私が推定するに、運動を行った際の患者さんの反応にあります。
理学療法士間で偏差のない運動的介入を行う際において、
リハビリテーションを中断する評価基準は必要です、
例えば、横隔膜ヘルニアの子どもの臨床症状を調べると
〇呼吸(呼吸が早くなる)
〇胸の形の異常(Barrel-shaped chest)
〇皮膚(※1)
(※)チアノーゼ:青紫色に変色(酸素不足による変色)
〇呼吸機能の異常(うまく息ができない)
〇高血圧
〇腹部が凹む(Scaphoid abdomen)(※2)
(参考文献(951) 1 Abdominal Contour参照)
(※2)これは胸腔の臓器や組織が胸腔に滲出している事を示す
ものかもしれません。
〇心音の異常
従って、身体の全体的な形の異常の観察や
呼吸機能、皮膚、血圧、酸素飽和度などを管理しながら
リハビリテーションを行う必要があります。
先天性横隔膜ヘルニアに罹患する患者さんは子どもですから
救命を実現した子どもは、その後、長く日常生活を送ることになります。
どのような管理の元、日常生活を送るかを含めて
いずれにしても今後考えていく必要があるので、
リハビリテーションは一つ重要な医療介入であると言えます。
まだ、先天性横隔膜ヘルニアの予後における
リハビリテーションのガイドラインを示されていませんが、
上述した典型的に患者さんが呈す臨床症状は
ガイドラインにおそらく含められることです。
例えば、1分間の呼吸の回数や血圧などは
数字で管理されるようになると思います。
--
一方で意外な観点としては心の状態との関連を考える必要があります。
肺の高血圧症による運動機能の低下は
うつや不安と関連があるという報告もあります(952)。
呼吸はずっと生活の中に共存するものなので、
先天性横隔膜ヘルニアに限らず、呼吸機能にハンディキャップがある
患者さんに対して、医療福祉機関が
継続的に心のケアの機会を用意する事は大切です。
まずは、その環境づくりが一つの基礎となります。
もう一つ、見逃せない観点としては
睡眠、食事などの日常生活習慣です。
患者さんに対する診察で、睡眠や食事に焦点を当てた時に
どういったときに不安を感じやすいか診察で掌握するという手段もあります。
例えば、昼過ぎの13時、14時くらいに不安を感じやすいとします。
それは太陽の条件、ホルモンバランスなど時間的なものもありますが、
その前の食事の条件もあるかもしれません。
不安に感じやすい前後の食事のタイミングを考える事で
日常生活の中の患者さんの心の問題にアプローチできる可能性があります。
そういった食事のタイミングは
この一連の段落で詳述している
リハビリテーションのタイミングとも関連があります。
生きていくためにはカロリーを取る必要がありますが、
できるだけ運動の前に必要なカロリーを取って、
それで人(理学療法士など)との関わりの中でリハビリをする。
そういったタイミングを意識した生活習慣を
個別化された形で最適化することで
呼吸機能に不全がある人の一定の割合の人に伴う
うつや不安などの心の問題の軽減に貢献するかもしれません。
リハビリテーションはストレスや疲れを伴ないます。
一定の運動に対して患者さんが感じるそれらは
その時のコンディションによってある程度は変動します。
これらのストレスや疲れは
精神状態や睡眠、食事(タイミング、メニュー、量)によっても
一定の傾向を示して変わる可能性もあります。
患者がより楽にリハビリテーションを行うために
患者さんの自由を奪わない形でとなると
限界はあるものの、改善の余地は多元的に存在すると想定されます。
ただ、注意する必要があります。
これは早産児の健康の為の記事なので省略する事が出来ない事です。
成長期の子供には食事の提案するにあたって
少なくとも過度なカロリー制限は適さない可能性があります。
食事と精神のバランスを取っていくにあたって、
カロリー制限は行わずにタイミングを考えるという事も
頭に入れておく必要があります。
Sonu Sahni(敬称略)らの総括の中で(949)、
Table 2にそのリハビリのメニューが挙げられています。
ペダルによる運動、ストレッチ、マシンによる歩行運動など
様々な運動がそれぞれの頻度、時間で示されています。
他の医療従事者(とりわけ医師、理学療法士)と
議論する必要はあるかもしれないですが、
私の現時点の考えは、リハビリに関しては
「中断の条件を正確に押さえる」ということです。
まず、前提として安全にリハビリを行う事があります。
横隔膜ヘルニアに罹患した子どもに対してリハビリを行う際には
子どもは自分の状態を正確に話すことができないケースもあります。
そうした場合、多元的な評価基準を持って、
リハビリに対する安全性を確保する必要があります。
その評価基準に含める必要があるのが、
その疾患に典型的に見られる臨床症状です。
但し、それだけでは不十分である可能性があります。
それを定めた時、そのような基準を超えて
安全性に問題が出る運動のレベルはおそらく個人差があるので、
どういったメニューが共通的にいいかというのを
なかなかガイドラインで示すのは難しいのではないか?
このように推定しています。
一方で、横隔膜ヘルニアの場合には呼吸機能に影響がでますから
主に呼吸機能に関わる主要な筋肉を優先して鍛えるという観点もあります。
その観点に立てば、適した運動メニューが存在しうる
という考えも生まれてきます。
--
その横隔膜ヘルニアの病態の評価するため、
肺と頭の大きさの比、肝臓の位置を超音波によって調べます。
この肺の大きさが頭に対して25%を下回る場合には
重篤な肺の形成不全と評価されます(890)。
Jan A. Deprest(敬称略)らによって行われた
胎児鏡下気管閉塞術(FETO)において重篤なケースでは
その平均値は21%でした。
(参考文献(890) Table 1)
胎児の時点で横隔膜ヘルニアが明らかになっても
分娩は満期の近くで行われることが推奨されます(918)。
生まれてからすぐの新生児に対する医療的なマネイジメントとして
腹部の減圧を行います。
これは穴から組織が横隔膜の上側に滲出している可能性があるため
力を下側に向ける為、横隔膜の下の領域を相対的に陰圧にさせること。
これを目的としていると考えられます。
マスクによる換気は避け、
必要に応じて気管内チューブを挿入します。
マスク換気を避ける理由は
横隔膜ヘルニアに罹患している子どもは
肺の発達が遅れていることがあるため
過剰な負荷がかかることを避けるためであるとされています。
正確な換気圧力の制御が必要という事です。
また、胃の膨満のリスクがあるため、
横隔膜の下側が陽圧になる可能性もあります。
それは横隔膜上部への穴を通じた
組織の滲出を促す結果にもつながるため
避ける必要があるということです。
吸入式一酸化窒素供給は先天性横隔膜ヘルニアにおって生じた
新生児の継続する肺高血圧の治療のために利用する事は
FDAによって承認されていませんが、一般的に使用されます。
一酸化窒素は血管の周りにある平滑筋を弛緩させるため
血管径が広がります。
通常は平滑筋は収縮していますが、
弛緩によって平滑筋の表面積が大きくなるため
それと連結している血管の径が自動的に大きくなるということです。
それによって血圧が下がるというメカニズムです。
しかし、FDAによって承認されていない一つの理由は、
この一酸化窒素が誤って高濃度になった時に
気道刺激、低酸素血症などいくつかのリスクがあるからです。
従って、利用される場合には医師、看護師など
医療スタッフによる特別な管理が必要です。
人工肺とポンプを用いた体外循環による治療であるECMOは
従来の医療マネイジメントでも病態が改善しなかった場合に
典型的に検討される医療介入です。
但し、対象は
〇34週以上の在胎期間を持つ子供、
〇体重が2kg以上かつ関連する命に関わる異常がない事
これらのいずれかを満たすとなっています(918)。
◎早産
◎関連する異常
◎肺高血圧症の重篤度
◎回復のタイプ
◎ECMOの必要性
これらは先天性横隔膜ヘルニアを持つ子どもの生存に関わります。
先天性横隔膜ヘルニアの維持管理の改善によって
お子さんの生存率は上昇しています。
エクモが必要でない場合70-90%の間であり、
エクモを経験した子どもでは50%程度となっています。
--
ここで考察が必要なのが横隔膜ヘルニアが
胎児のときに超音波検査で確認されたときに
特に母子に他の問題がなければ、
満期まで子宮内に胎児を待機させ
満期近くで分娩を行うということです。
これは上述したように在胎期間が短く、
かつ出生体重が小さい早産の子どもは
この早産児健康促進の為の包括的情報の記事で詳述したように
身体全体の様々なリスクがあるだけではなく、
横隔膜ヘルニアの呼吸不全時の最後の砦として利用される
ECMOが対象外になるからであると考えられます。
さらに、子宮内では
母親の体と連携して酸素と栄養を供給してもらうため、
酸素吸入に伴う呼吸の負荷が一般的には低いと考えられます。
従って、横隔膜筋への機械的負荷が小さい中で
横隔膜筋の成長を促す事にもつながるし、
横隔膜の振動数、振幅が小さいのであれば、
胸腔への組織進出のリスクが小さい状態で
それ以外の臓器、呼吸に関わる肺の成長を促すこともできます。
また、出生前に子宮内で適切なケアと監視が行われる場合、
医療チームは患児の容態に合わせて、
分娩後、どのような処置を行うか?
ということを決定するための時間的猶予が生まれます。
ただし、胎児の呼吸(Intrauterine respiration)については
上述したように負担が少ないと明記しましたが、
実際には未知の領域が多く存在します(919)。
子宮内にある羊水を吸ったり、はき出したりする際に
横隔膜筋や呼吸器の血管の平滑筋が動くことが想定されます(919)。
しかしながら、胎児の呼吸の動きは連続的ではなく、
頻繁に動くときと、止まる時のサイクルがあるとされています(919)。
ここについて詳述している理由は以下です。
横隔膜筋の動性が高い状態だと胸腔と腹腔の圧力が
同様にダイナミックに変わるため、
その圧力差によって穴がある場合に
腹腔の臓器、組織が胸腔に進出してしまうリスクがあがります。
胎児の状態では組織の成長が逐次生じていますから、
できるだけ負担のない状態で
横隔膜筋を含めた組織の成長を促したいというのがあります。
その負担が子宮内で特に呼吸器において少ないかどうか?
また、実際に横隔膜の動きが
胎内と胎外でどのように異なるか?
それについて考える重要性が浮かび上がってきます。
上の生存率に関する疫学では
お子さんがECMOを必要とするかどうかで大きく変化します。
これは呼吸機能の不全の重篤度を反映するものです。
ECMOは呼吸機能を外部の装置に委ねる処置であり、
その負担が少ない中で呼吸器の回復を試みるものです。
横隔膜ヘルニアでは
横隔膜は呼吸に関わる筋肉で
酸素の取り込みはその横隔膜の動きに応じて
肺、その中の肺胞、サーファクタントなどの貢献によって生じます。
従って、横隔膜筋に穴があったり、
肺の成長が遅れている、不全がある事は、
呼吸機能において重複する障害であると考えられます。
従って、できれば、子宮内で
①肺の健全な成長
②横隔膜筋の健全な成長
これらの2つを完璧には難しいかもしれないですが、
両方をできるだけ健康な状態に漸近させたいというのがあります。
その為の重要なポイントは
妊娠女性、胎児の健康管理をしっかり行い
満期分娩を実現させるということです。
また、胎児の時点で医療介入する
胎児鏡下気管閉塞術(FETO)も非常に重要です(890,891)。
--
<病因>
先天性横隔膜ヘルニアの病因は不明です。
現在の認識では病因は複数の要因が絡み合っているとされています。
先天性横隔膜ヘルニアは
肺の形成不全だけではなく、
心臓、胃腸、尿生殖器の異常、
またはトリソミーなど染色体に異常があることがあります(918)。
遺伝子、環境、栄養など複数の要因が
先天性横隔膜ヘルニアの想定される病因です(920-922)。
栄養の観点では
ビタミンAの運搬に関わるタンパク質
レチノールタンパク質、レチノール結合タンパク質のレベルが
臍帯血で少ないことが関連している可能性があります(920,923)。
このビタミンAは組織の成長に欠かせないものです。
レチノール結合タンパク質は脂溶性のビタミンAを運ぶ役割があるので(924)、
妊娠女性の血液検査において
このタンパク質の量が明らかに不足している場合には
このタンパク質量を適正に戻すという事は重要かもしれません。
ビタミンAは成長に不可欠な栄養素だからです。
このビタミンAは目の健康と関連が深いですが、
先天性横隔膜ヘルニアと妊娠女性の盲目について
関連性を指摘する報告は見当たりませんでした。
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<病理>(918)
横隔膜の成長は在胎期間4週から始まり、12週で
おおよそ完全な形となります(970)。
横隔膜筋の形成不全は部分的に小さな穴が生じる軽度なものから
横隔膜筋が完全に欠損する重度なものまで存在します。
横隔膜ヘルニアの胚形成の時点の病理は
完全には理解されておらず議論の余地があります。
上述したAllyson J. Merrell(敬称略)らがFig.2に示す(892)
横隔膜筋形成に関わるpleuroperitoneal foldの異常が
一つの病因であると考えられています(971)。
また、肺の低形成は先天性横隔膜ヘルニアの
原因となる要素かもしれないと報告されています(972)。
肺芽の形成と
横隔膜の形成過程の一時的構造で健全な形成に重要な役割を担う
The posthepatic mesenchymal plate (PHMP)の形成が関連しています。
従って、肺の低形成による原基の肺芽の形成不全が生じると
同じように横隔膜筋の原基であるPHMPにも同様に
形成不全が生じると考えられます(972)。
このPHMPの発達が遅れると横隔膜筋に不全が生じます。
肺芽と横隔膜の形成の元になるpleuroperitoneal foldが
関わっている事は指摘されています。
I Iritani(敬称略)は要約の中で
「The PHMP appears dorsal to the liver or on the ventral aspect 
of the pleuroperitoneal canal when the lung bud enters 
the pleuroperitoneal canal. Later, the PHMP grows to join 
the costal mesenchymal tissue via the pleuroperitoneal fold, 
thereby forming the primitive diaphragm.」
これらの文章を上梓されています(972)。
この文章について詳細に考えていきます。
PHMPはThe posthepatic mesenchymal plateであり
間葉系細胞の組織です。
間葉系細胞は組織系における重要な細胞なので
横隔膜の成長に欠かせない様々な組織を形成する元になるものである
と考えられます。
それが、肝臓への背部(背中側に)現れるとあります。
ここで肝臓と横隔膜の位置関係について学習します。
横隔膜は肝臓のすぐ上の位置にあります。
(参考文献(973) FIGURE 54-1)
この文章では胚形成(embryogenesis)。
つまり組織の発生時期、形成初期について問題にしています。
形成初期の肝臓と横隔膜の位置関係はFIGURE54-2に示されます。
背面側にはすぐしたに未成熟の胃が存在します。
pleuroperitoneal canalは参考文献(974)で
成長した横隔膜筋の横方向の断面図でみると
水色が背骨だとするとほぼ身体の中央に位置すると考えられます。
その腹部側面とありますので、
pleuroperitoneal canalの身体の前側という風に捉えられます。
つまり、PHMPと命名される組織発達に関わる間葉系組織が
横隔膜の元となる組織形成の段階で
前側、後ろ側両方に現れるということです。
これは、肺芽がpleuroperitoneal canalに入った時に生じる
とされています。
肺芽と横隔膜の原基の関係の情報は限定的ですが、
参考文献(975)の24ページのFigure(5)に示されています。
この時に偶然タイミングとしてそうなっているのか
そうではなくて肺芽(Lung bud)が何か
横隔膜形成に作用しているのか?
それについてははっきりとはわかりませんが、
上述したように肺芽の形成不全は横隔膜の形成不全と関連します。
文章からするとPHMPの成長を促すとも解釈できるので
肺芽の間葉系細胞自身が横隔膜筋の構成細胞に分化する
という可能性よりも、PHMPの成長を促す
なにか傍分泌様の物質を出すという方が可能性として高いか?
いずれにしても現時点では仮説の域を出ません。
--
横隔膜ヘルニアによって生じる横隔膜内臓脱出症は
ケースとしては左側よりも確率が低い
右側に生じた時がより共通的です。
しかし、この場合、重度の肺の形成不全(低形成)を
伴なわないことが多いとされています(918)。
横隔膜内臓脱出症はどれくらいの範囲の
横隔膜に異常が出るかにもよると考えられますが、
腹腔から胸腔に脱出した臓器が
途切れることなく呼吸で生じる肺の動きに影響を与えると
そのお子さんの肺の成長、成熟を阻害する可能性があります。
肺は、一般的にそうした伸張、収縮といった
動きの中で成長、成熟することが知られています。
(stretch-induced lung matuation)
〇免疫反応による肺の成熟(992)
〇血管内皮成長因子による血管生成(993)
〇サーファクタントの成熟(994)
〇セロトニンの放出(995)
これら、呼吸運動に誘導された
肺の成長、成熟が確認されています。
従って、特に成長期における肺高血圧症の治療、
あるいは肺のより健全な成長を促すためには
お子さんの横隔膜、胸筋を使って、
自立的に肺を運動させ、呼吸する事が大切です。
無理はできませんが、肺を運動させること自体が
肺の健全性に貢献するということです。
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横隔膜ヘルニアの病態で主なものは
肺の成熟不全と形成不全の組み合わせです。
新生児遷延性肺高血圧症
(persistent pulmonary hypertension of newborn: PPHN)。
これを引き起こす原因となります。
上述した肺の成長、成熟不全の中には
肺に存在する血管や肺と心臓を繋ぐ、
肺動脈、肺静脈という主要な血管があります。
上述したように肺のストレッチは
血管内皮成長因子による血管生成を促します。
胸腔が狭窄している、かつ/あるいは、
横隔膜、胸筋、平滑筋、心筋などの機能も低く、
肺の動きが悪いと
肺のVEGF依存的な血管生成が不十分になり、
結果として持続的な肺高血圧症(PPHN)に繋がる可能性があります。
実際に横隔膜ヘルニアでPPHNの罹患する原因は
肺の血管生成の不全、未成熟にあると指摘されています(996)。
肺から血管を送る能力が低下すると
左心室が低形成となり、右心室が肥大する
とされています(997-1000)。
--
一般的に肺の形成不全は横隔膜ヘルニアが生じた
身体の同側に生じるとされています。
但し、Praveen Kumar Chandrasekharan(敬称略)らが
Fig.3に示すように(918)
異なる側の肺組織や血管径に影響を与えるかもしれません。
具体的には異なる側の肺機能に依存するようになるので
負担が増加しているサイドの肺に繋がる
肺動脈、肺静脈が通常よりも太くなる可能性です。
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横隔膜ヘルニアはFETOによる治療を行ったとしても
高い割合で肺高血圧症が残存するので(890.891)、
血管形成の異常について考える事は重要です。
ただ、基本的には臓器侵出によって
肺成長の空間が制限されることは
ほぼ絶対的なリスク因子なので、
横隔膜の異形成、腹腔内の臓器の胸腔への侵出を
外科的な処置を含めて早い段階で解消して、
その後、できるだけ早くリカバリーステージに
誘導する事が重要であると考えられます。
先天性横隔膜ヘルニアではどのように血管の組織に影響を与えるか?
というのがまだはっきりとはわかっていません(1001)。
しかし、Nitrofenモデルという内皮細胞の機能不全のモデルが
提唱されています(参考文献(1001) Fig.3)。
このモデルでは
VEGF、BMP、Endoglin、FGF機能が抑制され、
PDGF、ICAM、VCAM機能が亢進しています。

VEGF(血管内皮増殖因子)
BMP(骨の形成に関わる機能)
Endoglin(血管生成に関わる機能)

PDGF(血管平滑筋細胞、繊維芽細胞増殖因子)
ICAM(細胞間接着分子)
VCAM(血管細胞接着分子)

従って、血管の中膜にある平滑筋や線維芽細胞、
細胞間の接着分子が過剰に働いていると考えられます。
これは血管の中膜が過形成される事を意味します。
一方で、内皮増殖因子や血管生成が弱くなっています。
PDGF、ICAMは一般的に動脈硬化を促進する働きがあります(1002)。
従って、肺動脈や肺静脈など中枢となる
重要な血管の柔軟性が損なわれる可能性があります。

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(肺高血圧症の治療)
肺の機能を維持、回復させるための戦略は以下です。
但し、人への治療において確立されてないものも含まれます。
一方で、(将来的に検討されるものも含めて)
治療は最も重要なところです。
以前の記事では説明が不十分なので
一つ一つ詳しく調べて、情報提供したいと思います。
内容を精査していただき、活用していただければ幸いです。
-
①気道圧解放換気
(Airway pressure release ventilation:APRV)
間欠的、周期的に比較的低い陽圧状態で
持続的に通気を圧力を精密に制御して行う手法です(1003)。
以下、追記です。
Ehab G. Daoud(敬称略)がAPRVについて詳しく報告しています(1012)。
この報告を参照しますが、
一点、申し上げる必要があります。
それは、これは一般的なAPRVの情報であるという事です。
つまり、横隔膜ヘルニアを呈する新生児、小児に対して
特化したAPRVの情報ではないということです。
それを踏まえた上で詳述していきます。
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少し背景的なところから考えていきます。
横隔膜ヘルニアでは片方の肺の大きさが著しく小さくなる
(低形成する)事が示されています。
肺胞の大きさ、能力はある程度決まっているので
肺全体の大きさが小さいという事は
肺胞の数が少ないという事です。
一つの肺胞で一回の呼吸で通気出来る量が
ある程度の範囲で決まっているとします。
また、横隔膜ヘルニアに罹患しているお子さん、
同じ年齢の健康なお子さんの
身体全体の酸素需要があまり変わらないとします。
そうすると1回の呼吸で取り込める量は
肺胞が少ないほうが明らかに少ないわけですから、
横隔膜ヘルニアに罹患している患児は
浅い呼吸を何度も繰り返しする必要があります。
そうすると呼吸をするたびに肺胞の上皮組織など
バリア組織は伸張、圧縮の機械的ストレスを受けることになります。
こうしたストレスが組織の健全性を悪化させます。
すでに肺の成長に異常が出ており、
さらに血管の筋肉などが硬くなっている可能性もあることから
こうした高頻度、高い周波数の運動は
患者さんにとってリスクが高いと考えられます。
この機械的ストレスに関しては
動物モデルで1回換気量が多い場合には
上述した組織の破壊のリスクは高いことが報告されています(1062)。
健康な人でも運動した時には
酸素需要が高くなり、自然と呼吸が速くなります。
これは神経系が関わっている可能性もあります(1071)。
その酸素需要に従って、異形成が生じている肺で
吸気をしたときには、気管支がどのように伸びているかに依りますが、
その分圧が均一になるかどうかはわかりません。
例えば、腹腔の臓器の胸腔への侵出で
左の肺が著しく小さくなっている場合、
好ましくは右の肺に多くの酸素が届いてほしいというのがあります。
なぜなら、同じ分圧で左と右に分かれると
左の肺の肺胞が少ないことから
1つの肺胞当たりの分圧が高まってしまいます。
それがHIPを上まわっていれば、
動物モデルで確認されたように肺の損傷に繋がる可能性があります。
いずれにしてもすでにある肺胞を有効活用したいという点で考えれば、
Continuous positive airway pressure(CPAP)も
選択の候補の一つになるかもしれません。
なぜなら、陽圧にすることで末梢の気道が開き、
それによって末梢の気道の閉栓が少なくなり、
結果として多くの肺胞に空気を届けられるようになるからで。
では、APRVのメリットは何なのか?
小谷透先生のレターを参照しながら考えます。
APRVの一つの違いは陽圧にする換気において
圧を開放するP lowを設けることにあります。
圧力を下げるときには物理的には空気が抜けるので
組織が圧縮されるようなイメージでとらえてます。
その範囲をできるだけ組織がそれに応じてストレッチする範囲
つまり、肺胞のボリュームが線形に変わる領域で
圧力を変化させる事にしています。
これがどのような意義があるのか?
ということです。
空気を入れ替えるという目的はあるかもしれません。
特に圧力を下げなくても
炭素、二酸化炭素の量はモニターすることで
調整することができるはずなので、
二酸化炭素を出すというよりも
閉じた系の中で空気に体内から様々な物質が漂う可能性があるので
それを一旦リフレッシュするという効果はあるかもしれません。
しかし、その場合、P lowにしたときに
外にそれが出なければいけません。
他には肺胞がストレッチすることで肺が収縮、伸張するので
その動きが肺にとってメリットがあるかもしれません。
肺が動くことで
セロトニン、血管生成因子を放出し、
健全な成長を促すとされているからです。
もう1つは自発呼吸がどのように医療的な意義を生むか?
これについてです。
APRVは呼吸をサポートするような圧力調整は行わないので
陽圧の状態で自発呼吸をすることになります。
その自発呼吸は横隔膜筋、胸筋などの運動に同期した形で
当然、実現されます。
横隔膜ヘルニアのお子さんにおいて
これがどのようなメリット生むか?です。
あるいは一般の肺に疾患を持つ患者さんに対してはどうか?
筋力と神経連携を維持するという意義はあるかもしれません。
また、肺が動くことで
セロトニン、血管生成因子を放出し、
健全な成長を促すとされています。
筋肉、神経系と自然な連携のもとに生じれば、
子どもの肺の成長にとって重要かもしれません。
基本的に自発呼吸が前提となっているので
浅い鎮静の状態で行う必要があります。
他方で
通常の人工呼吸器に比べて、
酸素供給量が目標の血中酸素飽和度と整合するかを示す
ventilation/ perfusion (V/ Q) matchingが高く、
またデッドスペースも小さくて済むと考えられています(1013-1017)。
デッドスペースが小さいことは
呼吸器系の流れが層流であり、
流体抵抗が少なく、
肺胞の酸素、二酸化炭素濃度を
機械によって調整しやすいことも示すと考えられるので
このV/Q整合度とデッドスペースは因子としては
絡んでいる、交絡していると推定します。
酸素に関する要因には従来の方法と差がなかった
という報告もありますが、
それでも従来の人工呼吸に比べて、
人工呼吸器に伴う有害事象は顕著に少なかったとされています(1018-1021)。
-
(血行動態への効果)(1012)
自発呼吸の間、胸腔内圧が減少しました。
結果、右心房内圧が減少しました。
静脈灌流が上昇し、
心臓の充満量を示すプリロード(preload)が改善しました。
結果、心拍出量が向上しました(1048)。
-
APRVとPCV(従圧式強制換気)を比較しました(1049)。
〇心係数(Cardiac index)(CI l/min/m 2 )
〇酸素運搬(Oxygen delivery)(DO2ml/min)
〇静脈酸素飽和度(Mixed venous oxygen saturation)(SVO2%)
〇尿排出量(Urine output)(ml/kg/h) 
APRVはPCVに比べて、これらが顕著に高いことが示されました。
〇昇圧剤、循環作動薬の使用
〇乳酸濃度(mmol/L) 
〇中心静脈圧(CVP)(mmHg) 
APRVはPCVに比べて、これらが顕著に低い事が示されました。
-
(領域毎の血流と臓器灌流)(1012)
急性肺障害(ALI)を持つ動物に対して
APRVは呼吸筋血液量はAPRVで改善しました(1050)。
人のケースでもAPRVはPCVに対して
尿排出量を増加させ、GFRを改善しました(1049)。
従って、腎機能にも影響があります。
-
(鎮静剤、神経筋遮断薬使用)(1012)
CMV(Continuous Mandatory Ventilation)に対して
APRVはより浅い鎮静で処置を行う事が出来きます。
(APRV:Ramsay score 2~3 for CMV:Ramsay score 4~5)
従来の人工呼吸方式に比べて、
APRVは70%神経筋遮断薬使用を減らす事ができ、
鎮静剤を40%減らす事ができます(1049,1051-1054)。
これらの結果は人工呼吸の期間や
ICUで治療を受ける期間を減らす事に繋がるかもしれません(1051,1055)。
-
(望ましいケース)(1012)
臨床、実験データに基づけば、
APRVは外科手術を受けた後のALI、ARDS、血管拡張不全。
これらを持つ患者さん対して望ましいとされています
(1049,1050,1056-1059)。
-
(禁忌)(1012)
APRVは自発呼吸を可能にするため低い鎮静レベルを必要とするため
患者さんが罹患している疾患の維持管理、治療、マネイジメントのために
「深い鎮静が必要な場合」には使用すべきではないとされています。
例えば、その疾患とは
頭蓋内圧の高まりを伴なう脳浮腫や
てんかん重積症(status epilepticus)などです。

閉塞性肺疾患(気管支喘息の悪化や慢性閉塞性肺疾患)の
患者におけるAPRVの使用に関するデータは現時点ではありません。
原理的に、短い開放時間は
(血管抵抗が高く)長い呼吸時間を必要とする
患者さんに対しては有益ではないとされています。
同じように
神経筋疾患の患者に対しても調べられていません、
-
(APRVの圧力、換気量の調整)(1012)
終末呼気圧を大気圧に対して陽圧にする
人工呼吸方法と一回換気量を6 ml/kg (※)と低く設定することは
肺に対しての呼吸時の単位時間当たりの
圧力変動を小さくすることができるため、
患者さんの一つ一つの肺胞を守ることにつながります。
実際に動物モデルでは一回換気量が高い場合では
(A)上皮、内皮組織の損傷、
(B)肺の炎症、
(C)肺拡張不全、
(D)低酸素血症
(E)炎症性物質の放出
これらを導いたことが報告されています(1062,1065-1070)。
一回換気量を従来の半分程度に下げる方式は、
ARDSを持つ患者さんの生存率、退院率を向上させる
ことにつながりました(1061,1062)。
(年齢の中央値は50歳程度です(1062)。)
(※)成人の安静時の一回換気量は6mL/kgが目安です。
正常値は7〜9mL/kg(約500mL)です(1060)。
それに対して、従来の人工呼吸では
一回換気量は10-15mL/kgでした(1062)。
-
圧力の設定値はEhab G. Daoud(敬称略)らが
Figure 2に示すように(1012)、
P highをHIP以下にP lowをLIP以上にします。
HIP:high inflection point (HIP) 
LIP:low inflection point (LIP)
このグラフを見るとわかるように
肺胞の容量(volume)と圧力の変化の割合が
HIP、LIPでおおよそ変曲点を迎えます。
つまりHIP以上の圧力では
それ以上に圧力を上げても肺胞は大きくなりません。
これは肺胞にある細胞がそれ以上弾性を持たない事を示し、
細胞への損傷のリスクが高まる事を示します。
同様にLIPでもそれ以下であれば、
肺胞はそれ以上に小さくなりません。
従って、肺胞が圧力に対してより無理なく敏感に容量を
変えられる範囲で、P high、P lowを設定し、
換気を行うということです。
--
(A)患者さん酸素飽和度が改善しないとき
(A-1)P high T high もしくは両方を上昇します。
但し、組織の破壊のリスクがあるため慎重な調整が必要である
と考えられます。
(A-2)
患者のポジションを腹臥位(うつ伏せに変える)(1048)
-
(B)換気が不十分な時
(B-1)P high(圧力)を上げ、T high(時間)を下げます。
分時換気量を上昇させます。
平均の気道圧を安定させます。
(B-2)T lowを0.05-0.1秒増加させます。
(B-3)鎮静を下げ、患者さんの自発呼吸による
分時換気量への貢献を上昇させます(1048)。
--
(結論)(1012)
APRVは単純、安全、効果的な通気方法です。
しかしながら、他の通気方法に対して
優れているという信頼できる証拠はまだありません。
従って、その信頼性を上げるために
APRVと他の通気方法と比較するための
大規模な臨床試験が必要であるとされています。
現在ではALI、ARDSを持つ全ての患者さんに対して
APRVは推奨されていません。
APRVを選択する場合は、
注意深く患者さんの状態を見極め、
専門家、呼吸療法士と相談することが必要かもしれません。
また、ここからが重要です。
APRVは新生児や小児のARDSの治療に有効な戦略ですが、
APRVを小児のARDSの第一選択の換気戦略として使用すると
死亡率が高くなるという報告があります(1063)。
但し、マルチセンターで大規模で行わないと
本当にAPRVが新生児や小児のARDSに呼吸サポートを行う場合
不適であるか、適しているかの正確な判断は
できないと論説されています(1064)。
-
②神経調節補助換気(Neurally adjusted ventilatory assist)
(要約、背景)(1087,1092)
神経調節補助換気(NAVA)は、横隔膜電気的活動を利用し、
呼吸補助のタイミングや呼吸圧、換気量を調整する人工呼吸器モードです。
Monika Gupta(敬称略)らがFig.1に示すように
子どもを含めた人の横隔膜は神経支配(Innervation)を受けています(1088)。
横隔膜筋に限らず、骨格筋は神経支配を受けています。
神経細胞が持久力が高い赤筋線維と瞬発力が高い白筋線維に
それぞれ別の神経細胞が繋がっています。
若い時にはその神経のつながりが密であり、
持久力と瞬発力を生む筋肉同士の神経連携もあります。
こうした神経連携、神経連結は高齢になると失われます。
年齢に応じて逆らう事のできない機能喪失がありますが、
若い人でもその筋肉を使わない事によって運動機能が低下します。
逆にいえば、定期的に適度に筋肉を使う、運動する事は
筋力だけではなく、それを制御して動かす神経系の強化
にもつながると考えられます。
(参考文献(1089) Figure 1参照)
例えば、ECMOなどを装着して長期入院していると
回復直後は食事すら自分でできなくなることもあります。
この事は、その筋肉を定期的に使う事の重要性を示しています。
一方で、使い過ぎは神経を過剰に活性化させ、
けいれんなどにつながる可能性もあるかもしれません。
子どもにおいて横隔膜ヘルニアが生じ、
人工呼吸を行う場合、横隔膜筋を使わない事による
筋力低下だけではなく、神経連携の低下も懸念されます。
子どもの横隔膜ヘルニアや肺高血圧症の治療においては
呼吸能力が衰えている場合には、挿管が必要になると考えられますが、
できるだけその期間は短くし、
お子さんの自律的な呼吸を支援し、自発的に出来るように促したい
という確固たる需要があります。
呼吸は必須の運動である事は自明ですが、
それに関わる筋肉と神経の連携を適切に発達させる、
維持させる事は特に発達期においては非常に重要である
という理解をしています。
このNAVAは横隔膜筋に電極を装着し、電気信号を計測する事で
そのお子さんが自然に呼吸するリズムを把握します。
人工呼吸器はそのリズムに合わせて呼吸補助をします。
つまり、患児の身体、脳の自然な呼吸のリズムと
機械である人工呼吸器の同期を改善するということです。
上で説明した入院に伴い筋力が低下する事は
「廃用性」という定義の一部になります。
この廃用性症候群は筋肉だけではなく、骨の密度も低下し
運動機能が著しく低下することです(1090)。
このような廃用性症候群は横隔膜筋に対しても生じます。
NAVAはその低下を予防することも目的としています。
人工呼吸器管理に関連する肺損傷を軽減し、
人工呼吸管理期間が短縮できる可能性があるとされています。
このNAVAのコンセプトは1999年に
Christer Sinderby(敬称略)らによって発表されています(1091)
この背景には自然の呼吸サイクルが機械と同期していないと
不快感だけではなく、肺胞でのガス交換効率が低下すること。
あるいは心臓血管の機能不全にもつながるとされているからです(1091,1093)。
FDAはNAVAの使用は500gの低体重の赤ちゃんを含めて
全ての患者さんに対する使用を承認しています(1092)。
日本においても2012年11月7日の時点で
小児・新生児から成人まで幅広く使用できる
人工呼吸器モードとして承認されています。
--
(内容抜粋、追記)(1087)
人工呼吸は集中治療を必要とする患者の約1/3に対して
施工されています。
速やかにガス交換を改善し、呼吸筋の疲労を軽減する事ができる
救命処置であるとされています。
人工呼吸器を必要とする患者は呼吸機能が当然低下しています。
CTで見た時に肺の多くの部分が白色化している状態で
その治療として利用されることがあります。
白色化とは組織の硬化ですから、
肺の構造単位である葉、葉の中に複数存在する肺胞の多くが
その組織の柔軟性を失っているということです。
これにより1回換気でのガス交換量が低下すると考えられます。
一方で、身体の方は必要な酸素飽和度を維持するため、
補助的な対策を自然にとろうとします。
その結果、呼吸が浅くなり、回数が増え、
それによって呼吸筋を動かす機会が増えます。
それが結果として呼吸筋の疲労につながると考えられます。
人工呼吸を行う場合、自発呼吸との同期と呼吸努力について
考慮する必要があるとされています。
上述したように非同期の状態であると
不快感から患者さんの心の状態(不安など)に関わる可能性があります。
非同期は実際に
(1)離脱遅延(1125)
(2)人工呼吸中の睡眠障害(1126)
(3)気管切開率の増加(1127) 
これらとの関連が報告されています。
さらに、
呼吸の基本的な目的である換気と心臓血管の機能にも
影響を与える可能性があります(1091,1093)。
また、呼吸努力を除外すると
廃用性呼吸筋症候群にかかるリスクも増える為
適度に患者の呼吸努力を残す必要もあると考えられます。
これらを考慮するにあたり、ポイントがあります。
(1)自発吸気と強制換気のタイミング
(2)人工呼吸器の1回換気量(供給量)と患者の呼吸努力の関係
(3)呼気相での肺虚脱を防止するための圧、つまり終末呼気陽圧の必要性。
肺虚脱とは肺胞の圧変化の機能が失われることであります。
終末呼気陽圧にすることで抹消気道を含めて
呼吸器を開放することができることと
弱った組織の急激な圧変化による損傷を減らす事ができると考えられます。
ここで①気道圧解放換気の節で述べたことを再度記載します。
圧力の設定値はEhab G. Daoud(敬称略)らが
Figure 2に示すように(1012)、
P highをHIP以下にP lowをLIP以上にします。
HIP:high inflection point (HIP) 
LIP:low inflection point (LIP)
このグラフを見るとわかるように
肺胞の容量(volume)と圧力の変化の割合が
HIP、LIPでおおよそ変曲点を迎えます。
つまり、適切な圧力範囲にして、
有効に肺胞容量を変化させる必要があります。
一方で、
人工呼吸器による肺胞の機能障害の一つである無気肺に加えて
術後には低酸素血症や肺炎(1095)など合併症が起こることもあります(1094)。
従って、できるだけ補助する割合を小さくして、
気管挿管の時間をできるだけ短くしたいというのが
集中治療の医療スタッフにはあると拝察します。
--
この神経信号と同期させる神経調節補助換気は
カナダのChrister Sinderby(敬称略)らによって
1999年に発表されています(1091)。
前述したようにその背景にあったのが「不快感」です。
実際に人工呼吸が行われている約25%の患者が
呼気トリガーや呼気終了の非同期発生、
過剰な補助圧や不適切な呼気時間に苦痛を感じている
といわれています(1096)。
このような非同期は不快感以外には不安、疲労感にも
つながるといわれています
--
圧変化の感知(圧トリガー)を用いて患者自身の
呼吸を感知するシステムを利用した人工呼吸器では
呼吸動力を正しく把握し定量化する事は出来ないとされています。
これが
(1)高すぎる呼吸器設定
(2)過度の鎮静
これらを導き、廃用性(呼吸筋)症候群のリスクが上がります。
(1)高すぎる呼吸器の設定、呼気末期陽圧は
胸腔内圧が上昇するため、全身から心臓に戻る
静脈還流が圧力に押されて駆動されにくいため減少します。
それにより右心室の血液量が減少するので
血圧低下のリスクも高まります。
(2)過度な鎮静は自発的な呼吸を妨げる可能性があります。
上述したように正常な肺胞の数が少なく、
浅い呼吸を繰り返さないといけない場合は
呼吸筋の疲労、肥大の懸念がありますが、
過度に人工呼吸器に依存すると今度は萎縮の懸念が生じます。
Sanford Levine(敬称略)らの組織学的な事も含めた臨床研究では
最小で18時間の横隔膜の不活性(complete diaphragm inactivity)は
横隔膜の筋線維の萎縮が生じた事が示されています。
(参考文献(1098) Figure 1)
人工呼吸中に横隔膜活動性があって、自発呼吸が生じている場合
人工呼吸器管理短縮(4.5日 vs 6日)と関連があります(1121)。
人工呼吸器患者に合併する廃用性横隔膜機能低下
(ventilator-induced diaphragm dysfunction:VIDD)。
これを予防する観点でも、期間短縮は大きな意義があります(1122)。
疾患の特異性や重症度によって
実際に気道を通過する換気量と本来神経学的に
横隔膜の運動を通じて調整された換気量が一致しない場合があります。
このような事が存在するので
その差分をNAVAによって埋める余地があるとも考えられます。
このNAVAのメリットの一つは電気信号を計測するので、
横隔膜電気的活動の有無を確認できます。
それによって鎮静を深度、換気量を調整することができます。
一般的に鎮静は脳に作用するので
鎮静と横隔膜電気的活動は連動すると考えられます(1123)。
従って、横隔膜電気的活動が弱ければ、
鎮静の深度を少し下げて調整するなどが行われるとされています。
実際にそうした変更が適切であるかを
変更後の電気信号から判断する事も可能です(1124)。
人工呼吸を受けている重症患者に対しての
適正なNAVAレベルの設定方法として
タイトレーション(Titration)の有用性が報告されています(1128)。
これは適切な設定まで急激に空気圧と1回換気量を上げるのではなく、
徐々にそれらの設定値を上げていく方法です。
同様にNAVAレベルを横隔膜の電気的活動(の60%)に合わせて、
漸減させると、呼吸機能や血液ガスの変化することなく
抜管することができたと報告されています(1129)。
-
上述したようにNAVAは小児、新生児にも適用可能です。
1500g未満の早産児において
NAVAによる換気は一般的な人工呼吸器モードと比較して
必要な酸素濃度や供給圧が有意に低値でした。
また、血液のガス調整も改善されました(1130)。
しかしながら、2023年に発表された
子どもに対するNAVA適用の総括によると(1131)、
横隔膜の電気信号が弱く、読み取りの正確性に問題が出る事と
(insufficient triggering of electrical 
activity of the diaphragm(EAdi))
無呼吸が頻繁に生じると言われています。
これを防ぐためには電気信号の読み取りの正確性や
頻繁に読み取り、それを含めて呼吸を確認し、
適切にNAVAレベルを調整する必要があるとされています(1131)。
実際にNAVA使用上の注意点(1087)でも
横隔膜の電気的活動を得る事が必須であると明記されています。
その背景には電気信号を正確に検出する重要性があります。
--
(①と②の比較、考察)監修要
ここまで①気道圧解放換気と②神経調節補助換気について
学習、調査、考察してきました。
横隔膜ヘルニアを呈する新生児を含む子どもに対して
どちらの換気方法を選択するか?
これらの換気方法を列挙するだけではなくて
それぞれの特徴を掴み、総合的に考え、
どういう状況においてどちらが好ましいか?
という事を考える必要があります。
ここの考えを示さないとこの記事の価値は上がっていかない
という側面もあります。
①気道圧解放換気は上述したように
浅い鎮静(Ramsay score 2~3)で行う必要があります。
なぜなら、自発呼吸が必須となっているからです。
その自発呼吸は神経系と連動した自然な呼吸と言えます。
また陽圧にすることで肺を有効に利用することもできるし、
圧を定期的に開放する事で組織を制御しながら
動性に富んだ様式で動かし、細胞を刺激することもできます。
それは肺の成長を促す可能性もあります。
それに対して
②神経調節補助換気は人工呼吸器でパルスで
1回換気量を定めて神経のリズムに合わせて
呼吸器の通気周期を調整する必要があります。
おそらく鎮静レベルは従来の通気と同じで
①気道圧解放換気よりも低いレベルで行われます。
従って、判断する基準としては
お子さんに対してどのような鎮静レベルで
通気を行うのがいいか?というのが一つあると考えました。
脳に障害がある場合には鎮静レベルを下げる必要もあり
その場合は①は適さないと考えられます。
但し、過剰な鎮静を避けるという点では
①気道圧解放換気と②神経調節補助換気の
コンセプトは一致します。
一方で、②は消化器にもチューブを通すため
(参考文献(1087) Fig.2)
呼吸器、消化器共に管が入っている状態なので
患者さんへの負担は大きい状況です。
子どもの場合はどれくらいの圧力レンジにするのがいいか?
組織が小さいために許容範囲が狭く難しい可能性があります。
基本的に肺を最大限生かすという意味では
陽圧で多くの肺胞を開いて自発呼吸を促す換気が好ましい
というような視点があります。
ただ、肺胞はAzza Sajid Alkinany(敬称略)が
P.192-Figure(9.7)に示すように(1099)
肺胞の容積変化があるときにガス交換が行われます。
従って、陽圧で一定にしていると
肺胞自体は開きますが、容積が一定なので
ガスを交換するための駆動力は生じません。
従って、お子さん自身が自発的に呼吸を駆動する必要があります。
この時、肺の状態が著しく悪ければ、
陽圧にして開くときに線維化していて弾性が低く、
組織が壊れる可能性もあります。
また、呼吸の能力も低下しているため
①気道圧解放換気は患者さんへの負担が大きい可能性もあります。
そうした場合は、
ある程度、容積変化を促す従来の換気で
かつ、神経信号と同期している②神経調節補助換気が
好ましいかもしれません。
--
③肺動脈血管拡張剤
血管拡張剤は肺高血圧症の患者さんに広く使われます。
6分間歩行テストにおいても改善が見られ、
身体活動に対する心肺機能の改善など
周辺的な効果も期待できるかもしれません(1139)。
-
(1)Cinaciguat
Nitric oxide-independent soluble guanylate cyclase (sGC) activator
糸球体ろ過量を維持しながら血管拡張を行います(1132)。
組織の異常肥大や線維化を防ぎます(1132)。
-
(2)Intravenous bosentan, 
Dual endothelin receptor antagonist。
肺高血圧症の治療に使われます(class III to IV)(1133)。
抗線維化の特性があります(1133)。
上述したエンドセリン受容体は血管収縮、拡張に関与しています(1134)。
また、平滑筋細胞の増殖を刺激します。
-
(3)Rho-kinase inhibitors, 
Rho-kinaseは血管の平滑筋細胞の過剰な収縮、
血管のリモデリングを引き起こします。
ミオシンの脱リン酸化を抑制することで生じます。
また、細胞骨格の形成、細胞の接着、移動、細胞質分裂。
これらに関わり、慢性的な酸欠状態になります(1135)。
この酵素を抑制する事で肺高血圧症を治療します。
-
(4)Peroxisome proliferator-activated receptor-γ (PPAR)agonists
PPAR-γの活性化はインスリン感受性を上げ、
グルコース代謝を強化します(1136)。
この亢進薬は抗炎症性、アポトーシス活性を高め、
肺高血圧症の進行を抑える可能性があります(1137)。
-
(5)プロスタサイクリン経路
プロスタサイクリンの受容体であるDP1、EP2、EP4、IPは
血管収縮や細胞外マトリックス、血管のリモデリングなどを通じて
肺高血圧症の症状を改善させる可能性があります。
(参考文献(1138) Fig.3)
--
④血行力学的補助(hemodynamic support)
(1)アルギニン(Arginine) 
アルギニンは多数の生物学的プロセスに関与するアミノ酸です。
その機能は
タンパク質の合成・宿主免疫反応誘導
尿素サイクル・NO産生
これらです(1140)。
NO産生の機序は血圧の調整と関わり、
肺高血圧症の治療と関連する部分であると考えられます(1141)。
実際に肺高血圧症の患者さんでは
アルギナーゼ活性が上昇した後の
アルギニン利用効率が低いことが示されています。
それが上述する血管拡張作用のある一酸化窒素(NO)の
産生を欠乏させます(1141)。
但し、アルギニンを肺高血圧症の人に投与する効果は
人では少なくとも十分には確認されていません(1142-1144)。
また、必ずしも良好な結果は得られてません(1143)。
-
(2)バソプレッシン(vasopressin)
バソプレッシンは血液の細胞の水分量の指標である
tonicityを調整する働きがあるため(1149)、
血液の基本的な特性を正常化させる働きがあると考えられます。
血圧が高い状態では血液の水分に対する
細胞、タンパク質、脂質などの溶質が高まっていて、
腎臓から溶質フリーの水が多く血中に戻るように
バソプレッシンで調整されるため、
血液の溶質と溶媒(水)のバランスが正常化されます。
このバソプレッシンは肺動脈圧よりも収縮期血圧を上昇させ
冠動脈の灌流を維持する働きがあります(1145-1147)。
肺高血圧のマウスでバソプレッシンは
血行力学的補助剤として良い結果が得られ、
血管の回復が促されました(1148)。臨床報告は見当たりません。
-
⑤一酸化窒素形成不足を補う
特に肺に異常があり低酸素状態になるとNO(一酸化窒素)
の生成が抑制されます(1004)。
この一酸化窒素は血管を柔らかくするのに必要な物質です。
従って、これが不足する事によって血管組織が硬化して
高血圧を助長してしまう可能性があります。
従って、これを形成するための上流の機序として
必要な物質であるL-citrullineを投与します。
また吸入式の直接呼吸器に一酸化窒素を届ける方式において
数十人の新生児に対して医療介入を行ったところ
血中の酸素濃度が顕著に増加したことが示されています
(参考文献(1005) Figure.1)
-
⑥エンドセリン受容体上昇を抑えるaAA
この受容体上昇は
先天性横隔膜ヘルニアで高まる事が知られています(1006)。
このエンドセリン受容体は
血管の組織の一部で血液を送り出すために必要な
伸張作用を担う平滑筋の成長を阻害する働きがあります。
従って、この受容体を抑制するための遮断薬が
治療の候補の一つとなります。
-
⑦Rho-kinase(ROCK)を抑える
筋肉の緊張状態や反応性に関わる生理機序です。
これが高血圧の原因となることがあります(1007-1011)。
従って、この機序を抑える働きのある薬を投与します。
例えば、②で示したPPARγアゴニストはこの働きを弱めることが
知られています(1004)。
-
⑧cGMP生成を促す
血管の平滑筋の伸張の為にはcGMP信号が必要です。
上述した②の血管拡張剤ままであるCinaciguatは
このcGMP生成を促すことが知られています。

//CDHの肺高血圧症圧//
肺の異型性はその領域における血管数が減少しやすいことが
原因です。障害を受けたないひ細胞依存、また血管亜拡張、
血管収縮、この機能は横隔膜ヘルニアの重篤を決める原因です。
肺の血管が一部欠失している場合、重篤かしやすいとされています。a


(参考文献リンク)  

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早産児健康促進の為の包括的情報

未だ、世界では新生児死亡率が高い国も残りますが、
先進国を筆頭に世界的に新生児死亡率は顕著に減少しています。
日本の場合で言えば、
新生児死亡率は1955年の39.8%から30年間で5.5%まで減少し、
さらにそこから約40年後(2021年)には1.7%まで減少しています。
一方で、
新生児死亡率の変化ほど劇的ではないものの
ここ30年間で早産児率の割合は4.4%から5.6%まで上昇しています。
近年は横ばいとなっています。
新生児死亡率の減少が早産児救出の医療レベルの向上である
ということを考慮すると、
早産児率の割合が増加する事は合理的であります。
しかし、30年間の減少幅ほど劇的な変化ではありません。
その理由としては
以前なら早産となっていた胎児が
医療技術、管理の進歩によって満期を迎えられるようになったからです。
例えば、
◎胎児の健康状態をモニタリングする方法
◎早産リスクを評価する手法の向上、
◎早産を予防するための治療方法の開発など、
さまざまな側面で進歩しています。
具体的な例としては
妊娠初期の胎児の健康状態を評価するための
非侵襲的な検査法が進化しました。
超音波技術やMRIなどを用いて
胎児の成長、発育、器官などをより詳細に観察できるようになりました。
それにより早期に問題を発見して、
適切な治療や管理を行う事が可能です。
早産リスクの高い妊婦に対しては、
予防的な治療やケアが進歩しています。
◎早産を予防するためのホルモン療法
◎子宮頸管の強化のための手術的な処置
これらなどがあります。
これにより早産リスクが高い妊娠女性でも
満期出産を実現することが可能になりました。
実際に早産のリスクの診断と早産の発生率の
大規模なデータも取得されています(345)。
しかしながら、
早産児率が5.6%とおおよそ20人に1人がいるのが現状です。
早産の原因としては
◎子宮内感染
◎多胎妊娠
◎高齢出産
◎子宮頸管無力症
◎子宮筋腫
などの子宮の異常を含む病気や、
ライフスタイルの乱れなどがあります。
早産児の出産後のリスクは
◎肺、気管などの呼吸器
◎免疫機能を含む感染症のリスク
◎消化器、代謝機能などの栄養取得の問題
◎眼の成長不全
◎認知機能、運動機能を含む脳、身体の発達障害
これらなど全身に及ぶため、
早産児の出産、成長後の健康レベルをどう向上させるか?
それについて包括的に考える事は極めて重要です。

通常の満期の妊娠期間は
◎37~40週
早産は
◎28週から36週
超早産(極低出生体重児)
◎28週未満
このようになっています。
従って、
12週間、つまり3か月程度早く出産するケースもあるということです。
胎児は、当然、母親の子宮内で
母親からの臍帯血の供給を通して栄養を受け取って
子宮内でその時期に則した成長軌跡を描いています。
しかしながら、
それが半月、一カ月、あるいはそれ以上失われるとなれば、
当然、子宮内での成長の機会が奪われるわけですから
出産後に成長異常が起きやすいのは当然の道理です。
早産児であっても、
分娩が終了し、外界での生活が始まれば、
その成長の為の栄養供給の主要な手段は「授乳」です。
そうすると満期産児と早産児の違いは
例えば、1か月の妊娠期間の差があれば、
満期産児にとっての最後の1か月の
栄養供給は当然、子宮内の臍帯血に依りますが、
早産児では、授乳になります。
そうすると臍帯血による栄養供給と
授乳による栄養供給の違い、
より具体的にはそれらの成分の違いを明かにすることが
重要です。
他方で、子宮内と外界では環境が異なり、
胎児の呼吸、血圧などの身体のシステムも分娩後変化する
ことから、胎内と同じように栄養供給する場合では
不全が出る事も当然、生じます。
例えば、
子宮内では子宮内膜細菌叢
と呼ばれる特有の微生物集団が存在し、
免疫系の発育や代謝の調整などを行っています。
但し、子宮内膜細菌叢の妊娠時の胎児への影響については
まだ、最先端の題目として扱われている段階です(14)。
早産児においてはNICUなど菌の少ない
(但し、どれくらいのレベルの減少量か未知)
環境で健康管理されることもありますが、
外界に出る事で新生児にとって
初めての微生物集団と巡り合います。
その様な違いがあります。
また、
臍帯血による栄養摂取では必要なかった
授乳に伴う消化器の発達も欠かせないことから
その消化器を健全に発育させる
健康管理システムが欠かせません。
消化器に異常があると壊死性腸炎や
それによる敗血症などの疾患に繋がる恐れがあります。
しかしながら、
前述したように早産児は
ほぼ全身の発育障害のリスクが高まります。
このリスクを下げるためには
本来なら子宮内で臍帯血から栄養を受け取って
身体の成長を促した失われた期間を
何らかの形で補助的に取り戻すことが大切です。
外界で授乳と並行して、臍帯血を
供給し続けることはおそらくできませんが、
臍帯血に排他的に含まれる
「何らかの重要成分」を明らかにし、
理想的には母親から抽出した臍帯血から
成長に重要な成分を取り出し、
それを補助的に子どもに供給することは
1つのアプローチとして考えられるかもしれません。

子どもの脳を初め、発達曲線を描いたとき
その体積変化割合の曲線は、
子宮内を含めた初期であればあるほど
その変化の割合は大きくなります(9)。
組織が発達するときには
当然、それを遺伝子的、細胞生物学的、内分泌的
神経的なことを含めて統制するシステムと共に
それを支える栄養供給が欠かせません。
このような視点に立つと
生まれる前の胎児に対する栄養供給を
健全に行う事は
その後のあらゆる成長プロセスに影響を与えうるほど
重要なものであるのではないか?
このように推定されます。
従って、
母親の臍帯血の中の重要成分を割り出し、
それを補助的に早産児に適正期間供給する事は
その後の健全な成長プロセスにとって
メリットがある可能性もあります。
少なくとも調べる価値はあることです。
しかしながら、臍帯血は平均80mLしかなく
不足した時間、長期的に
その中の栄養分を供給することが量を含む手続きとして
おそらく不可能であるということです。
また、早産児に侵襲的に栄養を送り続ける懸念もあります。
一方で、
臍帯血には幹細胞が多く含まれている事が知られており、
臍帯血由来の幹細胞を早産児に移植する手法は
合併症が存在する早産児において
すでに考えられています(8)。
しかしながら、人の生命の継承はよくできています。
人の母乳には妊娠によって幹細胞が多く作られるように
プログラムされているといわれています(25)。
従って、早産によって子宮内環境の時間が短くなったとしても
母乳の幹細胞が臍帯血の幹細胞の代わりとなって
その時期に必要な成長を支えてくれる可能性があります。
早産児は髄鞘などの連結性に関わる白質の容量は大きい傾向にありますが、
脳の体積は8歳の時点で満期産児よりも小さい傾向にあります。
その差は平均で5%程度です(29)。
臍帯血の幹細胞供給が何らかの形で保障されているとすれば
それは上述したように母乳の中に含まれる幹細胞かもしれません。
もし、そうであるとするならば、
特に運悪く早産による分娩が生じたならば、
その後のケアにおいて授乳を確実に行う事は
極めて重要かもしれません。
人の幹細胞の摂取は当然、自然食品では取れませんから
母親から受け取るそれは極めて重要な成分であると考えられます。
実際に授乳が及ぼす影響が
満期産児よりも早産児のほうが大きいという報告は
複数あります(30-36)。
但し、一方で神経精神疾患を含め、
様々な疾患のリスクが早産児では満期産児に比べて
疫学的に高いことが示されているので
その差をどのように小さくしていくのか?
それについて考える事は
少なくとも一定の医療、社会的意義があります。


//母子臍帯血輸血//
分娩直後に赤ちゃんが急激な変化を経験する要因は
◎血液などを通じた循環器の変化
◎呼吸
◎飲食を通じた消化器
これらです。
臍帯遅延結紮(臍帯血の締め付けを遅らせる事)で
分娩時の胎児から新生児への赤ちゃんの移行の際
◎時間を延ばす事(751)、
◎より多くの血液を母親から受け取る事(752)
これらは特に早産児において有益かもしれないとされています(40)。
一方、臍帯血ミルキングは母親の臍帯を絞りだすことで
臍帯遅延結紮同様により多くの血液を赤ちゃんに
届けることを目的としています。
しかしながら、赤ちゃんのコンディションは
早産であるか、低体重であるか、満期産児であるか、
過体重であるか、呼吸はしているかなど
様々な条件があるため、
画一的にどのような手法がいいか?
そのプロトコルの決定にはまだ議論の余地があると理解しています。
--
早産児において、臍帯遅延結紮に対して
臍帯血ミルキングは輸血戦略としては適さない可能性があります。
臍帯血ミルキングのほうが
有意に脳室内出血のケースが多かったことと、
赤血球輸血の頻度は少なかったものの、
臨床結果にとって優位性がなかったことが
メタ分析によって明らかになったためです(1)。
臍帯遅延結紮はへその尾の締め付けを
30-180秒遅らせる処置で、
臍帯血ミルキングは
臍帯を優しくつかんで胎盤の末端部から
それを絞ることで臍帯血を胎児に送り込みます。
そのタイミングは
結紮前後、切断後に行われる場合があります(2)。
臍帯遅延結紮は、
即時の結紮よりも
命を落とす、脳室内出血、壊死性腸炎、輸血の必要性が
少なかったことが示されていますが(3-6)。
少なくともこの中で脳の損傷、壊死性腸炎においては
有意性が見いだせなかったという
統計的に信頼性のある比較データもあります(40)。
但し、臍帯遅延結紮は蘇生処置を必要とする場合、
即時対応が必要な事から結紮処置を遅らせる事が
優先順位としてできないという事がある事は懸念材料です(7)。
従って、臍帯ミルキングは
20秒以内の手続きで血液を送ることができるので
蘇生処置を必要とする場合には
遅延結紮に対して手続きとして利点を生じる場合があると考えられます。
このように輸血が考えられる背景には
分娩前後で酸素飽和度がそれぞれ
50-60%から通常の85-95%まで上昇させる必要があり
適性な酸素濃度を実現させる必要があるからです。
特に脳は短時間でも酸欠になると細胞が壊死する可能性があり
分娩前後の過渡期に
酸素濃度に関わる呼吸、動脈の拡張をどのように円滑に進めるか?
それは短期かつ長期的なお子さんの健康に関わるとされています(37,38)。
しかしながら、その過渡期における移行が
必ずしも円滑に実現せず、
それに対して輸血による補助が必要な場合があるということです。
その母親から子供への輸血を
どのような手段で行うのが理想的か?
それについての議論が上述したように
現在進行形で行われているということです。
議論の余地があるのは、血液の輸送だけではなく
適性な酸素濃度の実現のためには呼吸も重要なため
呼吸不全が生じている場合には
極めて迅速な蘇生処置も必要だからです。
その場合、臍帯の結紮を遅らせる処置を取ると
蘇生処置が遅れる為、上述したようにリスクが生じます。
臍帯のミルキングでは輸血時間が短いため
同時に蘇生が必要な場合、蘇生を臍帯遅延結紮のケースに
比べて早めることが可能ですが、
臍帯のミルキングでは脳室の出血が
遅延結紮よりも疫学的にリスクが高いことが示されています。
これはひょっとすると
輸血時間が短いために急速な血圧上昇が生じ
バリア機能が十分発達していない新生児にとって
出血を生じさせるバリア損傷のリスクが高まる事を
示しているからかもしれません。
赤ちゃんが自発的に呼吸できなければ
環境からの継続的な酸素摂取が難しくなるため
分娩後の持続的な適正血中酸素濃度の実現は難しくなりますが、
臍帯切断による過渡的な貧血状態は
少なくとも一時的なお子さんの酸素飽和度の低下を招いてしまいます。
一方で、血圧の急激な変化は
一般的な出血のリスクを高める事は
脳症などのケースで知られていますが(39)、
輸血の速度を速めて、蘇生が必要な場合、
それと両立させようとすると出血のリスクが
おそらくそれによって高まってしまいます。
但し、即時結紮に対しての遅延結紮の臨床的有意性が
研究ごと一致しないのは、どういうことかを考える必要があります。


//早産児の胎内発育の損失補償の実現//
通常の満期の妊娠期間は
◎37~40週
早産は
◎28週から36週
超早産(極低出生体重児)
◎28週未満
このようになっています。
従って、
12週間、つまり3か月程度早く出産するケースもあるということです。
このように早産児は満期産児に比べて
子宮内に在胎する時間が顕著に短いわけですから
その期間に胎盤、脱落膜、母親の血液から
羊水、臍帯血を通じて供給される
栄養、ホルモン、(幹)細胞など成長に必要な物質を
適性に受け取る機会が奪われることを意味します。
特に成長初期には
自己増殖能と多能性を持つ幹細胞を十分に生着させる必要があり、
成長初期に当たる胎児において、
臍帯血の幹細胞は非常に重要であると推測されます。
その供給期間が短くなることは
潜在的に組織の成長の基礎が損なわれる可能性があります。
脳だけではなく、
心臓、腎臓、肝臓、肺、筋肉、目、骨など
身体のあらゆる組織において当てはまります。
特に超早産ではない後期早産児においては
特に問題なく成長するケースも多くありますが、
超早産児を含む一部の子どもにおいて
成長後に上述した様々な組織の成長不全の
リスク上昇に潜在的につながっている可能性はあります。
例えば、早産児の疾患の対象として
度々扱われる脳では
神経細胞が密に存在する
皮質にあたる脳の灰白質の厚み、表面積は
胎児から生後1年間で過渡的な成長期を迎えます。
その後、成長はなだらかになります(ref.(9) Fig.2より)
子どもの頭の比率が大人に対して
非常に大きいのはこのためです。
子ども多くの場合は除外されますが。
一般的に成長が急峻であるということは
細胞の増殖頻度が高いことを微視的に意味します。
細胞の増殖頻度が高いと遺伝子的な変異の確率が
一般的には高まりますから、
癌化するリスクも高まります(10)。
通常は、多彩な協力システムによって制御されていますが、
一方で、それは綱渡り状態でもあると言われています(10)。
それが速いとなると異常が生じやすいと考えるのは
自然の道理であると考えられます。
従って、
子どもの脳腫瘍が脳幹など大人がほとんど罹患しない
部位も含めて脳全体に様々な種類の脳腫瘍が生じうるのも
(ref.(11) Fig.2)
おそらく成長速度が速いことも起因していると想定しています。
上述したように少なくとも
幹細胞は組織の成長に関わっており、
実際に神経系の血管形成にも関与しているという報告も
子羊のケースですがあります(12)。
実際に臍帯血の由来の細胞治療が
新生児に対して行われた実績がすでにあります(8)。
少なくとも2021年の時点で世界全体で
206人の子どもに対して治療が施されています(8)。
上述したように臍帯血は
おおよそ1回あたりの出産で80mLしか採取できませんが、
それでも早産児に対して
臍帯血由来の細胞治療を行うにあたって
そこから採取可能な細胞量は必要量に達しているとされています(99)。
臍帯血の中には様々な細胞が含まれています。
◎造血幹細胞
◎間葉細胞
◎内皮前駆細胞
◎T細胞
◎NK細胞
◎樹状細胞
◎制御型T細胞
◎単球由来抑制細胞
◎体性幹細胞
これらの細胞は傍分泌によっても
組織形成において様々な利点があります(100-102)。
例えば、培養された臍帯血の単核細胞は
サイトカイン、成長因子を放出します(103)。
これらの分泌物は
発達、神経保護、再生を
脳の炎症や血管生成を促すことによって改善しています(100,106)。
一方、造血幹細胞も
血管生成の促進を通じて
虚血性障害を緩和させ、神経生成を促しました(104,105)。
上述した内皮前駆細胞や体性幹細胞も同様の効果があります。
従って、臍帯血内の多様な細胞が協働して
新生児の身体の成長を促進させる事ができるということです。
実際に細胞治療が行われたケースでは
気管支肺異形成症や低酸素虚血性脳障害のいずれかに
罹患しているケースが半数以上を占め、
投与された細胞種は
単核細胞が54.2%で
同種異系の臍帯血か臍帯の間葉系幹細胞が33.3%
となっています。
現時点では動物による臨床前研究では
肺、心臓、脳において抗炎症、再生効果が確認され、
人においては少なくとも重篤な有害事象はなく
安全性が許容範囲にあるということです(8)。
それぞれの研究において
細胞種、用量、タイミングなど違いがあり
統一的な条件での大規模な臨床試験は行われていません。
人における効果確認のためには
さらなる協同的な臨床試験が必要であるということです(8)。
早産児において妊娠後期に受け取る大切な物質の内、
上述した幹細胞は含まれるかもしれません。
すでに気管支肺異形成症や低酸素虚血性脳障害など
重篤な疾患がみられるお子さんにおいては
幹細胞による治療が試みられています。
Shailaja Mane(敬称略)らの報告によると(25)、
母乳の幹細胞は時間の経過につれて
顕著に減少していくといわれています。
逆説的に考えると初乳には多くの幹細胞が含まれているという事です。
従って、分娩直後のクリティカルな時期に
授乳を円滑に行えるかどうかというのは
その後の赤ちゃんの組織形成を支える重要な要素の一つである
幹細胞供給という事においても大切な可能性があります。
また、上述したように
臍帯血から得られた幹細胞を補充するサポートが
特に超早産児において意義があるかどうか?
今後の研究の一つの視点になると考えられます。



//脳神経の発達//
(超)早産の一部の子どもでは脳神経の発育の遅れ、
それに伴う心の健康の低下が一つの重要な問題です。
特に脳神経の組織的な成長が大きく見られる
胎児、生後2年までの間に
超早産など環境的な課題があったとしても
健全な成長を支えるための物質的、心的な支援が必要です。
この章ではそのような支援をより具体化するために
一般的な脳神経の発達について
基礎科学的な見地(9)に基づいて記述いたします。
また、明らかになったことから内容を敷衍して
青年期を含めた心の問題についても一般的な事も含めて扱います。
--
子供の組織の発達曲線の中で
特に脳は生まれる前後、生後2年の間に急速に成長します。
(参考文献(9) Fig.2より)
この過渡期においての成長は
認知機能障害、自閉症、統合失調症など
様々な病理に関わるとされています。
画像による解析は非侵襲であり、
組織を傷つけず実施する事が可能なため
実際に人の子どもの状態を安全に調べる事が可能です。
そうした中で脳の構造の成長の軌跡を調べ
それに対しての認知機能や精神疾患のリスクとの
関係性を明かにできつつあります。
灰白質の成長、構造機能的なネットワーク、
それらに対する環境、遺伝子的な影響を
特に年少の子どもに対して総括します(9)。
画像診断をベースとしたバイオマーカーが
認知機能の予測や神経精神疾患のリスクの予測において
どのように有用であるかを議論します。
前述したように
生後2年の年少の時期は満期産児であっても
生涯にわたる認知能力や行動において重要であり
思春期の頃に発症する事が多い統合失調症や
自閉症のような神経性精神疾患のリスクと
深いかかわりがあります(15,16)。
この頃の画像診断を含めた人の子どものケースでの
分析は難しいとされていますが、
近年の鋭意ある分析により
構造的、機能的な脳の急速な発育が
この生後2年までの間に生じている事が示されています(17-20)。
不運にも命を落とした子供の死後の
組織学的、遺伝子学的な分析から
おそらく生後2年、あるいはそれよりも速く
脳の基本的な構造や機能的な枠組みの
準備は整うとされています(26,27)。
脳の実質のうち、神経細胞が存在する部位を灰白質と呼びますが、
これらの神経細胞の塊は子宮内に在胎する
出生前に生じるとされています(21)。
神経細胞の増加、つまり神経新生は生後にも生じ
側脳室から前頭葉などへ移動することが
生後18カ月の時点で知られています(22)。
介在性抑制神経細胞も前頭葉で生じる事も知られており(23)、
運動、注意、思考、意欲、感情など
様々な機能において重要な役割を担うこの前頭葉において
神経細胞を占有する灰白質の拡大が
生後2年の時期に生じるとされています(9)。
今述べた前頭葉などを含む大脳新皮質を示す表層の神経細胞の
少なくとも構造的な複雑性は生後1年間に急速に高度化し、
皮質の厚みや表面積の増加は画像診断で見分けがつくほどになります。
この複雑性は生後すぐに増加し、
生後2年から4年で最大となるという調査もあります(24)。
生後2年というと世界保健機関が授乳を進める時期と重複します。
母乳はタンパク質、オリゴ糖、ビタミン、ミネラルなど
脳の成長にとって重要な栄養素を全て含み
顕著な特徴としてはそれらの物質としての
構造が非常に多様、多彩であるということです。
これはサプリメントはもちろん、
自然の食物ですら実現できない多様性かもしれません。
上述したように人の各組織の成長曲線は
ある程度の偏差があってもおおよそ決まっていて
脳においては生後2年までが非常に重要であるということですが、
その成長においては、その期間の授乳を含めた
ライフスタイルが非常に重要であるということです。
神経細胞の連結性を決める接合部であるシナプスの数は
生後すぐに急速に増加し、青年期に減少します。
シナプスのスパインも同様に生後2-5年でピークを迎え
青年期に減少します(17)。
特に音声、視覚の感覚に関わるエリアで
早い段階でピークを迎えます(28)。
例えば、子どもの言語習得のプロセスは
大人になって日本人が英語を学ぶような
第二言語習得プロセスとは異なると言われています。
一般的に特殊なケースを除いては
日本で育った子供が日本語でコミュニケーションをとれない
ケースはありません。
それはその言語を使用する頻度ももちろん関係しますが、
神経細胞の連結性の生物学的な事を含む増加率が
1つの主要な要因かもしれません。
このいわばスポンジのように様々な事を効率的に吸収する時期に
一気に能力を高めたいという需要はあるかもしれませんが、
それよりもその後の健全な成長の土台となる
組織、機能的な健全性をしっかり確保する
ということが重要かもしれません。
John H. GilmoreらがBox.1aに示す年齢依存的な
神経細胞とその連結性の軌跡では
生後24か月にはほぼ成熟するように観察されます。
しかし、運動や認知機能で明らかなように
2歳児と大人では明らかに出力できる質が異なります。
もし、上述するように連結性が減少するのであれば、
具体的に何が変わって、
一方で少なくとも部分的に機能が成熟するのか?
それに対する一定の疑問が生まれます。
一方、
白質の人の脳の組織分析によれば、
髄鞘形成は胎児の時期から始まり
生まれた時点で多くの領域に存在します。
特に感覚、運動経路に関わる領域に多く存在します(41,42)。
人の記憶や空間学習能力に関わる海馬では
髄鞘形成は在胎期間20週から始まり
おおよそ出生後2年まで続きます。
学習や記憶の機能に関わる歯状回のような領域では
髄鞘形成は子どもから大人にかけて続きますが、
多くの領域では2歳の時点で
髄鞘形成は大人のレベルに到達します(43-45)。
新皮質では成熟した髄鞘のパターンは大人のみで得られ、
人以外の類人猿と比べて、長期間かけて成熟するといわれています(46)。
700gを超える容量を持つ脳は
人以外ではゾウとイルカしかおらず、
人の身体の大きさを考慮すると如何に人の脳が発達しているか
ということを示すものです。
特に今述べた人の脳の外側に位置する大脳新皮質は
最も近い近縁種であるチンパンジーの約3倍もの大きさがあり、
その機能が特に発達しています。
このように他の生物と差異がある新皮質の成熟速度が遅い事と
人が20年程度の長い時間をかけて
知覚、記憶、言語、思考などの機能を発達させていく事は
進化の過程を含めて関係しているかもしれません。
乏突起膠細胞は髄鞘を産生する機能を担っています。
大脳白質の乏突起膠細胞の数は出生後、急速に線形に増加します。
その速さは1か月あたり6億とも言われています(47)。
John H. Gilmoreらが示すBox.1aを参照して
なぜ、2年間で連結性も含めてほぼ成熟するのに
実際の人としての機能としての変化が
その後、大人になるまで劇的に続くのか?
という疑問に関しては、
1つは高次の機能を司る大脳新皮質の成熟が
遅い速度で続いていく事と、
もう1つは、
「fine-tuning」(9)、
つまり、脳の可塑性により
主要な神経回路とネットワークが再構成される
ということが関係していると考えられます。
子どもの脳の発達を調べる上では
生存している状態でその変化を
画像診断を含めて分析する必要がありますが、
特に年少のお子さんにおいては
不動の条件を維持することが難しいことから
画像診断の分析が困難であるということがあります。
分析時間をその動きの影響を受けにくいように
短くすると当然、情報量が減りますから
詳細な分析に必要な像としてのコントラストが
でにくいということが生じます。
従って、交絡因子として
血液の脂質レベルやコルチゾールレベルなど
液体生検によるバイオマーカーを組み合わせる事によって
その精度を多角的に高めていくことが大切になります。
上述したように
年少時の脳の発達は急速で、
生後2年までに大人の80%の容量に達すると言われています。
神経細胞の多い灰白質は上述したように
青年時期には減少しますが、
髄鞘、軸索など神経連結に関わる白質に関しては
30歳まで緩やかに容量が増加し、
その年齢でピークを迎えるとされています(48,49)。
皮質の厚さは1-2歳で最大を迎え、
皮質のしわに関連する表面積は
年長の子どから早年の青年期まで拡大する
と言われています(50-52)。
皮質には灰白質が分布している事から
そこには主に神経細胞が存在します。
この皮質厚と一般的な知性は正の相関があるとされています(53)
この関係性は皮質表面積でも当てはまります。
従って、神経細胞の絶対数は
人の知性において当然ですが重要ということになります。
2歳には運動能力や言語能力が飛躍的に発達するといわれていますが、
0歳から2歳までにその飛躍的な発達の土台が出来上がる
ということです。
その中でも脳の厚み方向の神経細胞の増加が
知性の発達に重要であり、
遺伝子、環境がどのように神経細胞形成に関わるか?
それについて考える事は
お子さんの生涯にわたる知性に関わることです。
例えば、探求の為の豊富な経験は
神経細胞の発達に好影響を与えるかもしれないと考えられています(54)。
但し、早産児でリスクが高まる自閉症の子供の脳では
左半球の皮質厚が6歳の時点で厚く、
その成熟が遅れることが報告されています(55)。
従って、皮質厚のバランス、成熟期間なども
健康な脳の成長のためには重要であり、
単にその大きさだけでは計測できないことが示されます。
一方、
神経細胞の連結に関わる白質では
白質内に存在する水分子、流体の流れの異方性が高まり
それは、繊維質が発達し、白質の成熟に関連するとされています。
この事はMRIの画像診断によって測定可能です。
この白質の連結では
ネットワーク理論のスモールワールドモデルで記述できるような
比較的近い領域の連結が密になるような連結様式が当てはまります(56)。
この束になっている領域に多くの軸索が存在する
いわば、中枢、ハブとなっている部分が存在します。
白質は灰白質に比べて緩やかな成長曲線を描くとされていますが、
大人で形成されるような上述したスモールワールドの局所の中に
存在するハブに類似するような連結様式は
出生時点ですでに存在する事が
Connectomeで確認されています(57,58)。
このようなハブは出生前の在胎期間30週の胎児にも
同様に確認されています。
一方
連合野同士の巨視的なつながりを示す
灰白質の皮質同士の連結、連携は
灰白質の容積や皮質の厚さの関連する際に
密接に関連します(59,60)。
脳の表層の近くに主に分布する神経細胞を多く含む
灰白質がどのように連合野ごとに厚みを変えているか?
それを示すStructural covariance networksは
遺伝性を示します(61)。
これが通常の人との偏差が大きい場合には
精神疾患のリスクが高くなります(62)。
前述したように左半球の灰白質の厚みが相対的に厚くなり
その成熟が遅い場合には自閉症のリスクが高くなる
ということが示されていました。
このように灰白質の厚みの分布の違いは
脳の健康状態に影響を与えるという事です。
これは当然、知性にも影響を与えます(63)。
おそらく上述したように早産児が髄鞘など連結に関わる白質が
厚くなる傾向があるのは、
神経細胞の減少を連結によって補おうとする
脳神経の順応が関わっている可能性があります。
しかし、その副産物として、
異常なつながりによって自閉症や統合失調症などの
リスクを高めてしまう可能性もあるかもしれません。
脳神経のネットワークは
それぞれの連合野の中の局所的な領域内でのつながりを示す
スモールワールドネットワークを考えるほかに
連合野ごとのより巨視的なネットワークや
そのコンポーネントとなる灰白質や白質の厚さや表面積が
共変性をもつという
構造共変性ネットワーク(structural covariance networks)。
これについて考える必要があります。
領域間のつながりがどのように脳の機能に影響を及ぼすか?
この領域間が協働することで情報の統合が行われます。
それによって高度な認知機能が発揮されます。
Brandon A. Zielinski(敬称略)らによれば、
脳の組織的な発達は2歳までが主要ですが、
構造共変性ネットワークについては
5歳から18歳まで比較的年長の子供まで発達し、
その領域間ネットワークの領域は
年長になるにつれて拡大するといわれています(89)。
神経細胞がある灰白質と髄鞘など連結に関わる白質の
厚み、表面積が領域間の相互作用によって共変性を持つという
構造共変性ネットワークは
年齢経時的な変化の中での組織間の協調的な成熟の結果である
とされています。それは9歳から22歳で示されています(90)。
このような構造共変性ネットワークを含めて
脳の領域間のつながりを示す、
大きなスケールでのネットワークは
出生前の胎児の段階から生じます(91,92)。
脳の神経のつながりは電気信号によって起こるわけですが、
脳波記録(EEG)によると早産児において
ネットワークが機能化するための微調整(Fine-tuning)に必要な
間欠的な発火や領域間での同調的電流振動が確認さてています(93-95)。
人の発達において
嗅覚、視覚、知覚、聴覚、平衡覚、味覚といった
外界からの情報を認識するための基本的機能である感覚器では
上述した脳の野(特定の領域)間に及ぶ
広範なネットワークにおいて
その機能化のために必要な
特徴的な電気信号パターンとそれによるチューニング(微調整)が
自発的な活動として生じるとされています。
例えば、眼の網膜、耳の蝸牛、筋肉の運動などが挙げられています(9)。
チューニング、微調整とは組織学的にどのような事が起こるか?
という事はなかなか良い情報が引き出せませんが、
神経系に電気信号が入る事によって
組織的にも何らかの変化があるということかもしれません。
例えば、細胞同士の吸着には
細胞吸着分子(Cell adhesion molecules(CAMs))が関わります。
◎インテグリン
◎カドヘリン
◎免疫グロブリンスーパーファミリー
◎セレクチン
これらが細胞吸着分子です。
しかし、それらの連結性は1回で確立するわけではありません。
Yasuhiro Kanda(敬称略)らの総括の中で記述されているように
2次リンパ節内での抗原提示からエフェクター形質獲得まで過程において
樹状細胞とT細胞は最大で数時間相互作用する事があります。
何度も間欠的に結合し、脱離し、その結合時間を長くしていきます(753)。
このことは結合の回数によって
その結合時間、相互作用が強化されていくことを示唆するものです。
同じような機序が上述した細胞吸着分子である
インテグリンでも確認されています(754)。
上述した細胞吸着分子のうちカドヘリンのサブタイプとして
プロトカドヘリンがあります。
このプロトカドヘリンは70種類あり、
主に神経系を中心に多様に発現しています。
このプロトカドヘリンの遺伝子バリアント、
それと紐づく構造的な多様性は
神経系の連結における特異性を保証するものであると認識されています。
このプロトカドヘリンでもインテグリンと同じように(754)、
活性状態であるクラスタリングが生じます(755)。
神経連結に関わるプロトカドヘリンのこのような構造的な活性化は
神経回路の強化と関連しているかもしれません。
一方、
機能としては、1度経験した事を学習して
その機能を再現できるように神経機能が微調整されるということです。
その機能に関わる神経機能が強化、効率化されるということかもしれません。
年少の子どもの頃は、日々、成長し、学習して
それを当たり前にできるように再現できるようにしますから
このような感覚器を含めた神経機能の微調整は
恒常的に生じていると推定されます。
このような神経機能の分析はfMRIなどが利用されますが、
それができる理由としては
神経細胞と脳の循環器が
一時的な神経伝導などの活動によって
おもに星状膠細胞などからの
一酸化窒素やカリウムイオンなど
血管拡張作用のある分泌物を通じて
相互作用し、局所的に血流が変わるからです。
その血中のヘモグロビンに結合した酸素濃度をfMRIで分析する事で
間接的に脳の神経機能を分析するというものです。
このように神経活動の活性化を画像診断で
任意の分解能で分析する事で
ネットワークの発達を分析する事が可能です。
私たちがメディアなどを通じてよく耳にする
視床下部という脳の部位があります。
体温調整、ストレス応答、食欲、睡眠覚醒などを
調整する私たちのライフスタイルに密接にかかわる部位ですが、
この視床下部の隣接する上部には視床と呼ばれる部位があります。
この部位は感覚情報の処理と伝達に関与します。
その伝達はどこに向かって行われるか?
それぞれの感覚に関連する外側の大脳皮質に向かってです。
これを「Thalamus-based relay」と呼びますが(9)、
この連携により、
感覚入力の解釈、知覚、認知、記憶、意思決定などの
高次の認知機能が可能になります。
これのリレーが妨害されると
感覚過敏や注意力の欠如などが生じるという事なので、
高次の機能とは
ある種、動物的な感覚を視床で得て
それをより客観的、制御的に処理するのが
人においてチンパンジーの3倍も大きい
最外周部に存在する大脳皮質です。
このような脳の中心部から最外周への
信号リレーである視床-皮質ネットワークは
新生児の頃から発達すると言われています(96,97)。
それらの回路が精製、強化、微調整され
より広範に広がっていくと考えられています(97)。
このような
脳の中心部からの最外周部への
視床-皮質ネットワークは人でより発達的であり、
前述したように客観性、制御性を含む
高次の認知機能と関わりますから
年少の時期から、これに関する適切な神経発達が実現することは
成長後におけるこの感覚に関する高次の認知機能の高さに関連します(98)。
さらに、その高次とは同時に処理する能力も含まれます。
具体的には外部からの情報を心の中で短時間で処理し、
それに基づき他の人と会話したり、
文章として出力したり、計算する事です(97,98)。
読書における文章の理解も同様です。
これを一般に「ワーキングメモリ」と言います。
勉強する上において「本質的な理解」という事は非常に重要です。
大学など高等教育も含めて
学校で主に学習する科目の内容の一部は
過去から構築されてきた「概念」です。
この概念化とはいわば、基本的なルールであり、
その理解のためには高次の認知機能、客観視が必要になります。
客観とは共通に当てはまるということを考えることですから
それは科学に関していれば、
任意の理論の本質を理解する事に他なりません。
このような学習の機能を高めていくためには
視床から大脳新皮質のあらゆる領域に向けて放射状に広がる
神経ネットワークをバランスよく構築し、
その微調整、洗練が実現されるか?
それが一つ重要かもしれません。
但し、理解のためには
過去から積み上げてきた学習経験によって得られた
記憶を利用する必要があります(124)。
外部からの入力を統合するのが視床で
海馬はその情報を一定期間保持したり、
記憶に従った情報の関連付けを支援すると言われています。
大脳新皮質はこれら視床、海馬と連携することで
高次の機能を発揮し、概念化や抽象化などが行われ
理解につながると考えられます。
機能的なネットワークの中で
安静時や外界からの刺激がない状態での
内省的な思考状態の時に活性化される
デフォルトモードネットワーク
外界からの視覚的な刺激に対して注意を向ける際に活動が高まる
ドーサルアテンションネットワーク
外界の刺激に対する適切な注意の切り替えを調節する
サリエンスネットワークなどは
2歳までに形成され
複雑な認知タスクや問題解決、課題遂行などの際に活動が増加する
エグゼクティブコントロールネットワークは
認知的柔軟性に関わる高次の実効機能ですが
この能力は典型的な大人にみられるように
2歳以降に成熟すると言われています(154)。
上述した2歳までにネットワークの基礎が構築される
3つの機能は内的なイベントと外的なイベントで分けられます。
人は子どもも含めて外的な刺激を受けるケースも
生活の中で多くありますが、
そうした自分の中で閉じた思考状態と
外界からの刺激に対する反応のいわば競合を
1歳の時にすでに経験すると言われています(155)。
ここからは少し話は脱線しますが、
子供だけに限らず、大人の心の問題に影響を与える事なので
少し詳しく突っ込んで考えられる事を書きたいと思います。
社会に出ると人間関係で悩む人がおおよそ9割とも言われますが、
人との関係だけに限らず、社会が複雑化している中で、
学生さんを含めて何らかの悩みを持っている人はいると思います。
家族、友達の前では出さない場合もあると推察しますが、
心底で何らかの悩みを抱えている人はいると思います。
その「悩み」とは、「特定の気になること」ですから
それについて何度も繰り返し
「自分の中で閉じて」考える事になります。
言い方を変えれば、
外界の光、音、風、会話などに対する注意の中で
それについて考えるわけでは当然ありません。
あるいは学生さんであれば、
部活動で特定の運動をしていたり、
あるいは集中して勉強している時には
「注意」がそちらにいっているわけですから、
その悩みの事は当然忘れています。
こういう時には
ドーサルアテンションネットワークが活性化している
と考えられます。
しかし、家に帰って、自分だけの時間になった時
ある特定の環境で起きやすいかもしれないですが、
その悩みについて思い出します。
そしてそれを繰り返し自分の中で閉じて考えます。
このような反芻的な思考を「ループ思考」といいます。
このように内省的に自分の中で閉じて考える事は
上述したデフォルトモードネットワークに含まれ、
このデフォルトモードネットワークが活性化されると
そのネットワークがどのような領域同士つながるか?
これにはもちろん依存しますが、
様々な精神疾患と関わりがあると報告されています。
例えば、典型的なものとして、
◎うつ症状(166,168)
◎統合失調症(167)
◎不安障害(168)
これらです。
また、悩んでいる時には外的な刺激があっても
「心は上の空」という事もあります。
これは注意散漫で心の中の事象に捕らわれるということで
マインドワンダリング(心の迷走)と言われますが、
これもデフォルトモードネットワークと関連があります(169)。
総じて、自分の中で考え込む傾向のある人は
心の問題や心の病に一定の注意を向ける必要があるかもしれません。
特に、若い時期に発症しやすい精神疾患もあるので
そのような思春期に負のストレスがかかるような
自分の中での閉じた思考を繰り返す事は
少なくとも一定のリスクがあります。
そうした場合、注意を外に向けるとか、
家族、友人、パートナー、先生、医療福祉スタッフなど
他の人の力を借りる事も大切な解決策の内の一つです。
但し、自分の中で考えるというのは
必ずしも悪い事ではなく、
自分の知識、知恵、記憶を総動員して、
難しい問題解決や創造性を発揮する上でも必要です。
この時もデフォルトモードネットワークが必要です。
従って、例えば統合失調症の場合は
このネットワークが弱まっている領域も存在します(167)。
つまり、デフォルトモードネットワークそのものが
人の心の健康において必ずしもデメリットをもたらすものではなく、
人らしく創造的に生きていく上で必要なものでもあるということです。
上述したように生産的ではない悩みを
自分の中で抱え込んで、それについて繰り返し考え込むと
様々な心の問題につながる可能性が考えられます。
繰り返しになりますが、一つのソリューションとしては、
注意を外に向けることを意識的にすることも大切かもしれません。
様々な外の刺激を入れる事もそうです。
あるいは自分の悩みを人に話して
それについて会話することも意味があるかもしれません。
注意を切り替えるサリエンスネットワークというのがありますが
このネットワーク能力を高めると
自分の中で考え込む事と外的な刺激に注意を向ける事の
切替が上手くなることも考えられますから、
悩みを抱えやすい人は
日常生活の中で意識的に外の刺激に対して注意を向けられる時間を
設ける事が大切になります。
「これをしている時には集中できる」といった
自分の好きな事があれば、それは大きな味方になると思います。
あるいはストレスがかかることだけど
それについて何度も考え込んでしまうという
反芻的な思考に陥りやすい状況のときには、
その「考え方を変える」「見方を変える」という事は有効です。
これを認知的柔軟性とも言います。
例えば、大学生であれば友人関係の構築が
高校の頃のようにクラスが固定的ではないから
上手くできないという事もあるかもしれません。
1人でいるときには周りの目が気になるし、
自分の友人形成能力も含めて、
それが大きな悩みであるとします。
周りの目が気になるけど
では逆に自分は周りを注意深く見ているか考えます。
例えば、自分と同じように1人でいる人をくまなく
注意深くみているかどうか?
そうするとあまり関心はないかもしれません。
そうしたら少し見方が変わります。
あるいは友人がいないことで逆に1人でできやすいことも
考えてみるというのも異なる視点になります。
また、集団を想定している事が固定観念かもしれません。
1人の友人でいいなら、友人形成は楽かもしれません。
そのように複数の視点を持つと
案外、自分の悩みは分散され、弱まる可能性もあります。
しかし、自分ではどうしても解決できない難しい悩みもあります。
一度は聞いたことがあると思いますが、
「(一時的に)悩みを忘れる事ができてよかった。」
というものです。
何か難しい悩みがあって、
それを一瞬でも忘れる事が出来たことに対しての喜びですが、
正直なところ、それで悩みが解決するわけではありません。
それに対して絶望感を得る人もいるかもしれません。
でも、デフォルトモードネットワークの事を知ると
それに対する考え方は少し変わります。
なぜなら神経回路は繰り返されることで強化される事もあるからです。
つまり、忘れる時間、回数を増やすことができたら、
その悩みを直接的に解決しなくても、
状況は変わらないけど、あまり気にならなくなった
ということが将来的に起こり得るということです。
デフォルトモードネットワークが
弱まる、変わる可能性があるからです。
ここに気付くことは、
難しい悩みを抱えている人にとっては大きな事です。
さて、ここから内容を戻します。
例えば、
教育のカリキュラム、過程を見ると
小学校、中学校、高等学校、大学、大学院と
段階を経て、内容は高度化し、
より抽象的な判断が必要で有ったり、
答えの示されていない課題解決が必要になる
ケースが多く出てきます。
このような階層的、段階的に高次になっていく
学習などにおいても必要な
初期の基本的な機能から、中程度、
高次の脳神経ネットワークの機能化は
「階層的特徴」と呼ばれます(156,157)。
この階層化においては一般的な大人が有する
高次の機能は人で特に発達している脳の外側ににあたる
大脳新皮質の役割が低次の機能に対して
相対的に大きくなると言われています。
但し、それぞれの段階的な機能においては
階層的だけではなく、野ごとの連携を示す
分散的なネットワークも重要であるとされています。
このような低次から高次の段階的、階層的な
ネットワーク形成は1歳の時点で始まっています(158)。
また、脳全体としてみた時のネットワークの効率は
発達に従って、高くなり続けると考えられています(159,160)。
基本的に大人になった時の身体の大きさは
男性のほうが女性よりも大きく、
それに伴って頭、脳の大きさも大きいです。
脳は体と異なり成熟も早く、子どものころから差が出ます。
実際に生まれた時点においても
6%程度、男性の方が女性よりも脳は大きいとされています。
最終的にはおおよそ10%くらいの差になります(161)。
このように生まれた時と成熟段階で差が開くわけですから
男性の脳の発達は女性に比べて、
変化率が高いと言われています(162)。
このような性差について組織学的な観点と
その成長を支えるホルモンや染色体の作用などの
生物学的な観点、生活環境などの観点で事実を得ると、
精神疾患にはその種別において
疫学的に性差が存在することもありますから
性差特異的な治療や病理の理解に貢献する可能性もあります(9)。
実際に人の脳の機能が父親、母親からの
遺伝的な要因が大きいか?
これについて気になるところではありますが、
その遺伝性においては
機能によって差があるものの
おおよそ半分程度は大きさ、連結性において
遺伝性があるとされています(9)。
しかしながら、
胎児の時期には
脳の領域ごとの遺伝子発現の相違が確認され、
その発現の相違は生後、しばらく経つと均一化される
と言われています(163)。
もし、この差が領域ごとのバランスに影響を与えるとするならば、
自閉症や統合失調症などにおいては
脳の領域ごとのバランスの不全が確認されるという事ですから
実はその原因の一つは生まれてからの環境だけではなく、
領域間の遺伝子的な観点では
すでに胎児の時からリスク因子として存在している可能性も疑われます。
実際に自閉症が「いつ」「何で」「どのように」生じるか?
といった疑問があります(164)。
近年のコンピューターモデル、細胞モデル、動物モデル
臨床モデル、遺伝子モデル、組織解析から総合的に考えると、
自閉症は遺伝性が高く、多段的で、多様な経路で成長し
それは胎児の時期から年少の時期まで関連し、
脳全体の疾患であるとされています(165)。
もし、胎児の時期に組織的発達、遺伝子的発現が重要で
脳全体のバランスが関与するのであれば、
妊娠女性の早産のリスクである
高血圧腎症、生活習慣、羊膜炎などいずれかがあり
かつ、早産が生じてしまったときには
これらの要因に影響を与え、
自閉症の発症リスクを高めてしまう
という事は考えられるかもしれません。
なぜなら、Mihovil Pletikos(敬称略)らの報告に
示されるように(163)、
上述した因子のうち重要な遺伝子発現のレベルが
胎児の時期には脳の領域ごとの差異が大きいからです。
全体に均一的に発現されるわけではないので
遺伝子的な脳の領域間のバランスが
この胎児の時期にある程度決定される可能性もあるからです。
従って、胎児の時期の環境的な因子によって
それらの遺伝子的なバランスに影響を与えてしまう
それが自閉症と関連するという事は可能性として考えられます。
つまり、早産により自閉症が高まるという疫学結果(170)を
一部、合理的に説明しうることかもしれないという事です。
一方で、
そのような遺伝子の発現に関わる要素だけではなく
当然、元々の遺伝子変異も
脳神経の発育やそれに伴ういくつかの疾患に影響を与えます。
子供や青年期で発症する
直接的な脳神経の疾患である精神疾患だけではなく、
老年期で診られるようなアルツハイマー病に関わる
遺伝子変異はすでに新生児の時から確認されています(9)。
また、DNA情報がmRNAに転写される際には
mRNAがDNAにアクセスする必要がありますが、
DNAは通常ヒストンによって周辺の巻き付いた構造があり
それがアクセス性の高さを少なくとも一部決めています。
それが緩むとアクセス性が高まり、遺伝子発現が高まり、
きつく締め付けられるとアクセス性が弱くなり、
遺伝子発現が弱くなります。
このヒストンの締め付けはメチル化などの装飾によって
制御されており、メチル化は遺伝子発現の程度に影響を
与えると考えられていますが、
このようなメチル化は
遺伝子変異と共に胎児に影響を与える、母親の不安など
心の状態にも影響を受けて変わります(171)。
脳の急速な発達時期である胎児の時期に
こうしたメチル化が
感情に関わる扁桃体や学習、記憶に関わる海馬の大きさに
影響を与えている可能性があります(172)。
このような母親の健康状態だけではなく、
間接的な事も含めて考えると
親の経済状況や社会的状況が
子どもの脳の発育に影響を与えていると報告されています(173,174)。
特に、子どもが小さい時の
経済状況、周辺環境、教育状況が重要である
という報告もあります(175)。
これは当然、John H. Gilmore(敬称略)らが示す
Fig.2の発達曲線からわかるように(9)、
受精してからの時期が早いほど
その発達が急速に生じます。
2歳までに脳の組織の大部分が決まるとすると
遺伝子的な事も含めて
その組織の成長を支える様々な環境が重要である
という事は合理性があります。
遺伝子的な事だけではなく、
妊娠時期のストレス、抑うつ、不安なども重要であり、
パートナーも含めて、
妊娠女性をどのようにケアしていくか?
このことは子どもの健康に影響を与えると考えられます。
健康管理のために抗うつ薬も含めて投薬されることもありますが、
そのような妊娠時期に母親が薬を服用すると
子どもの休息時に関わるデフォルトモードネットワークに
影響を与えるという報告もあります(176,177)。
デフォルトモードネットワークについては
上でも取り扱いましたが、
非常に重要な項目なので、詳細に記述していきます。
タスクポジティブな活動とタスクネガティブな活動、
それの切替の活動といったことは
人が生きていく上で当然、基本的な分類になります。
例えば、仕事をしている時には
タスクポジティブな状態ですが、
人の生活には休息も必要なので、
通常は仕事中にも休憩があったり、
週末などの休みが設けられているケースが多いです。
「オンとオフ」このように言います。
従って、オンとオフを切り替える事も重要です。
タスクという観点で考えると
オンの状態がドーサルアテンションネットワークで
オフの状態がデフォルトモードネットワーク(178)、
その切替がサリエンスネットワークです。
より高度なオンの状態が
エグゼクティブコントロールネットワークです。
但し、考えながら作業をするということもあるので、
その場合はオンとオフが混在しているか、
あるいは非常に短時間の間に高頻度で
切り替わっているかもしれません。
アルツハイマー病の患者さんでは、
デフォルトモードネットワークの部分のエネルギー使用が
低下しているとされています(179)。
もし、その機能が低下しているのであれば、
特に進行した状態において患者さん本人が
外向きに観察される症状と合わせて考えると
どの様な状態であるかを推測する一つの糸口になります。
一方で、
うつでは反芻思考(Rumination)が一つの主な症状ですが
デフォルトモードネットワークが高まっているとされています(180,181)。
投薬によってこのネットワークが変わる事もあると
報告されています(185)。
一方で、デフォルトモードネットワークに着目すれば
健全なそれを形成するためにはどうしたらいいか?
反芻思考などの特徴などを踏まえて、
具体的な生活習慣や認知療法に役立つ可能性もあります。
また、自閉症では
自己と他人について考える部分であるmPFCと
デフォルトモードネットワークの中枢であるPCCの間の
つながりに異常があるとされています(182,183)。
これは、コミュニケーションが苦手な事と関連があるかもしれません。
ディフォルトモードネットワークは
自分の状態を抽象的に理解するメタ認知においても重要であり、
一方で、人の気持ちを理解したり、評価したり、
過去事について記憶を頼りにして考えたり、
未来の事について想像力を発揮して予測したりもします。
つまり、自己、他人、時間についての
抽象的な事も含めた深い思考において重要です。
あるいは睡眠の質に関わるとも言われています。
デフォルトモードネットワークが弱いと
睡眠の質が落ちるとも言われています(184)。
従って、
何かに集中できるとか、切り替えができるとか
高度なタスクができるといったこと以外に
健全な社会生活を送るうえで
このデフォルトモードネットワークというのは
非常に重要な役割を担っています。
全て完全とはいきませんが、
バランスの取れた良いデフォルトモードネットワークというのは
脳神経の様々な疾患の健全な維持において
非常に重要かもしれないし、
そうではない一般的な人も含めて、
ウェルビーイングの一翼を担うものかもしれません。
デフォルトモードネットワークは
上述した自分の中で閉じた積極的な思考状態だけではなく、
特に何も考えていない休息の状態にも生じます。
起きている時間、ずっと何かのタスクをしている、
あるいは何かを考えている、
そうしてないといられないというのは
ある種でしんどい、苦痛ですが、
そうした中でホッと一息つくような何も考えない時間を
うまく設けることができたら、
生活の中に少なくとも一つの多様性、アクセントが生まれます。
スマートフォンが普及して、
いつでも、どこでもインターネットにアクセスできる事で
暇な時間があれば、それを見てしまうということがありますが、
それが現代の人をひょっとしたら
気付かないところで苦しめているかもしれません。
特に何のタスクもしないで、
何か想像したり、考えるのを辞めてぼーっとしたり
そのサイクルを自由気ままに回すことが
心の一つの安らぎに繋がる可能性もあります。
このような機能は
デフォルトモードネットワークが関わるかもしれません。
このようなネットワーク構築は
いつでも変えることができるものだと推測されますが、
このネットワークが
上述したようにその人が自発的に制御できない
小さい頃に構築される事は見逃せない事実です。
今述べた様に心の安らぎにも関わり得ることですし、
一方で、人らしい創造性や深い分析能力にも関わります。
自分の今の感情を客観的に理解するメタ認知や
他人の気持ちを理解する事にもつながります。
日本で行われた数千人規模の比較研究で
統合失調症、双極性障害、大うつ病傷害、自閉スペクトラム症と
健常者の脳の体積の違いを部位別に統計的に比較した結果があります(369)。
それによると
海馬、扁桃体、視床、側坐核は
いずれの精神疾患でも健常者に比べて小さい傾向にあり、
統合失調症においては海馬の差が大きくなっています。
一方、脳室はいずれの精神疾患でも大きくなっています。
脳室は脳脊髄液が存在する液体が満たされた領域で
脳脊髄液は神経細胞への栄養供給や老廃物の排出に関与しており
その循環に関わっています。
特に脳室の拡大が統計的に見られた統合失調症では
確かに過去の分析でも脳室の拡大がみられるという研究があります(370,371)
その脳室の拡大がNaohiro Okada(敬称略)らの結果で示される(369)
視床の統計的な減少と一致して、視床の減少と関連している
可能性があるという結果もあります(371)。
脳室の拡大によって視床だけではなく
側坐核、海馬あるいは大脳新皮質(372)など
実質に圧力をかけ萎縮させている可能性もあります。
なぜ、こうした疾患が脳室を拡大させるかは未知ですが、
物理的に考えると脳室の拡大は
脳の循環が円滑でない事によっても生じている可能性を疑わせます。
下述するように脳室を血管として見立てた時に
血管の内皮組織に当たる部分は上衣細胞と呼ばれます。
Ángela Fontán-Lozano(敬称略)らがFIGURE 1に示すように(359)
上衣細胞には繊毛があり、それがなびくことによって
脳室内の脳脊髄液の循環性を一つ決めていると考えられます。
実際にこの上衣細胞の繊毛が脳室拡大に影響を与えている
という報告もあります(373)。
また、上衣細胞に関連して脳脊髄液の流れの滞りは
高齢になると大きくなると言われており、
不安症や鬱でも脳脊髄液の循環に影響が出るとされています(374)。
上衣細胞の下には
Ángela Fontán-Lozano(敬称略)らがFIGURE 1に示すように(359)
顆粒細胞の塊からなる組織があり、
現時点ではエビデンスが示せる段階にはありませんが、
血管には平滑筋と呼ばれる弾力性のある組織がありますが、
ひょっとすると顆粒状の組織が脳室の側壁の機械的特性(弾力性)の
1つの要因となっている可能性もあります。
循環器では高血圧が問題となりますが、
脳の高脊髄液圧も問題になる可能性があり、
その拡大は内壁に存在する組織学的な異常も関連しているかもしれません。
その拡大によって脳の実質が圧縮応力を受け
長期的に見た時に萎縮していくという事は考えられます。
Naohiro Okada(敬称略)らの結果は
実質、実質の中の灰白質、白質、脳室、脳膜などの大きさを
人のケースで大規模に健康な人と精神疾患を持つ人で比較したものであり、
この知見を子供の発達期にある脳の発達と精神疾患の関係に
適用することができると考えられます(369)。
統合失調症、双極性障害、大うつ病傷害、自閉スペクトラム症
全てにおいて両側の脳室ともに健常者に対して拡大がみられています。
上述したように脳室は脳脊髄液の循環に関わります。
従って、子どもの発達期も含めて
脳神経系を循環器的な視点で考える事で
病因のより深い理解、(早期)診断、治療に役立てられる可能性があります。
脳を循環器としてみるという考え方は
発達期の子どもの脳神経を健全にするだけではなく、
あらゆる年齢の脳神経の健康に関わることかもしれません。
循環器では度々、高血圧が問題になります。
高血圧になる理由は血管の柔軟性もありますが、
流れる血液の粘性も関わります。
脳脊髄液も同じ液体ですから
当然、その物性として粘性が存在します。
その粘性が高まれば、そのせん断応力により
Shigeki Yamada(敬称略)らによれば、
脳脊髄液の内壁に存在する上衣細胞上にある繊毛が
上衣細胞から脱離する(shedding)と言われています(373)。
この繊毛がなびくことによって
脳脊髄液の流速、循環に貢献していますから
その密度が減ることで、流速が低下し、
また脳脊髄液の粘性も高いことで
より脳室は高い圧力を受け拡大する事になります。
その脳脊髄液の粘性は
◎アルコールの過剰摂取(Alcohol abuse)(373)
◎高い血糖値(373)
◎高い塩分濃度
◎脱水
◎タンパク質量増加
これらが関わっています。
また、注目すべきは睡眠中は脳の間質液が60%増加するため
脳の循環が促進されることが考えられます(404)。
睡眠は脳のメンテナンスで重要ですが、
循環器としてみた時に
循環が亢進され、様々な物質の排出能力が高まっている
事が挙げられるかもしれません。
そうした時に、もし、脳の循環において重要な役割を担う
脳室の繊毛の濃度が低ければ、
よい睡眠に繋がらないという事はあるかもしれません(405)。
高齢になると睡眠の質が落ちる事は一般的に言われますが、
これはタンパク質の蓄積によって
脳脊髄液の粘性が高まる事と、
上述した上衣細胞の繊毛が少なくなっている事が
挙げられるかもしれません。
Naohiro Okada(敬称略)らの大規模な調査では
人のケースで統合失調症の人が他の精神疾患と比べても
明らかに脳室が大きい傾向にありました(369)。
統合失調症では完全に明らかではありませんが、
ドーパミンが高まる傾向にあります(406)。
そうすると睡眠の質が顕著に低下します。
一般的に
楽しみな事、興奮状態にあると眠りにくいです。
これは一部、ドーパミンが関係しています。
このようにドーパミンの調整が不全になると
睡眠に影響が出てます。
ドーパミンが過剰になると眠りにくくなると言われています。
その睡眠時には脳の循環系が高まるため
タンパク質など脳脊髄液の粘性を高める物質を排出する能力が
同様に高まると考えられますが、
睡眠の質が落ちる事で循環が弱まり、
それによってたんぱく質など粘性を高める物質が蓄積し
結果として脳脊髄液の粘性が高まり、
上衣細胞の繊毛が脱離して、さらに循環が弱まり
その結果、脳室が拡大するということです。
但し、これは現時点では仮説です。
睡眠の質というのはレム睡眠やノンレム睡眠の
タイミングと回数で定義されますが、
それと脳脊髄液の循環量差(起床時 vs 睡眠時)を個人ごと比較して、
それで相関があるか調べる事になります。
また、一方で統合失調症やアルツハイマー病などの疾患がある人の
脳脊髄液の粘性が健康な人に比べて高いか?
これについても調査の余地があります。
睡眠が大切なのはいうまでもないですが、
もし、このようなエビデンスである程度の合理性が得られれば、
なおさら、子どもも含めて、
脳神経にリスクを抱えた人は
薬などの力も借りて良い睡眠をとる事がとても大切です。
それが生活の基本となる可能性があります。
その為には薬だけではなく
規則正しい生活や
朝光を浴びて、運動するなど生活習慣も大切になります。
また上衣細胞の繊毛は遺伝子的な影響もあります。
Ccdc39,  Celsr2,  Celsr3,  Cetn2,  Dvls,  FoxJ1,  Hydin, 
Mdnah5,  Pkd1,  Tg737,  Daple,  Dnah14,  Cfap43  Cwh43 
これらが関わっているとされています(407-424)。
従って、遺伝子的なアプローチも存在します。


//早産の神経学的結果の臨床的定義(240)//
前章では脳神経の発達について基礎医学的な観点で記述しました。
また、そこから考えられる一般的な心の問題にも触れました。
しかしながら、早産の子どもの一部が
一般的にどのような脳の傷害を持つのか?
特に臨床的な内容については欠落していました。
Terrie E. Inder(敬称略)らは
早産の神経学的臨床結果の最新の総括を提供されています(240)。
その内容を詳しく引用、参照させていただき、
いくつかの付加的調査、考察を加え
読者の方と情報共有いたします。
--
世界全体で毎年、在胎期間37週以下で生まれる
早産の子どもは1500万人いると見積もられています(244)。
早産は新生児が命を落とす最大の原因であるとされています。
世界保健機関に統計によれば、おおよそ100万人の命が失われているので
おおよそ6.7%の早産の子どもが亡くなっている事になります。
世界全体の乳幼児に亡くなる子どもの割合は3%程度なので
早産で命を落とすリスクは2倍以上になるということです。
しかし、逆にいえば93.3%の子どもが生存しているという事になります。
世界全体で早産で亡くなる子どもを何とか助けることも
もちろん必要ですが、
生存した93%以上の子どもの生涯を考えて、
最もクリティカルな時期に最善のヘルスケアを提供する事は
それ以前に信頼性ある情報(240)を届けることは
非常に重要な意義があると考えられます。
その93%を超える早産の子どものサバイバーの
長期的にリスクがある疾患は
脳神経学的、かつ発達的な障害が主であり
近年のヘルスケアの発展にも関わらず
そのリスクは高いままであるとされています(245)。
過去20年間を超えて
脳性まひ、特に高度の麻痺状態の発生は減少してきています(246,247)。
例えば、脳性まひで言うと
1997年時点では12%でしたが、
2016-2017年では半分の6%に減少しています(247)。
例えば、新生児集中治療室の設備と医療スタッフの能力、
予防策と早期介入、母子の健康改善、教育と啓発などが
関係していることが示唆され、
産後のヘルスケアだけではなく、
妊娠時からのそれが継続的に関連している可能性が考えられます。
脳性まひは運動の問題、知的発達、嚥下機能など
生活の基本的な事に関わる障がいであり、
この疾患に対しては減少傾向はみられますが、
認知機能の低下、社会的、感情的な困難性に関しては
早産の後、成長した子ども、大人において
減少がみられないとされています(247,248)。
知的機能に関して、統計的には
在胎期間32週以下の超早産の子どもたちの
IQは満期産児の子どもよりも11-12ポイント低く(249)、
26週以下になればそれが15-20ポイント低くなります(250)。
しかしながら、
早産でも神経発達において問題のない子どももいるので
IQに関しては非常に個人差が大きいとされています。
同じ在胎期間でも神経発達において
問題のある子どもとそうではない子どもがいるというのは
注目に値するところです。
なぜなら、超早産であっても神経発達に問題のない
様々な軌跡を集団的に分析する事で
子どもの脳の健康において
重要な要因が浮き彫りになる可能性があるからです。
例えば、Alicia K. Yee(敬称略)らの数十人規模の研究では
上述した在胎期間32週以下の超早産児において
分娩後の呼吸状態について生まれて
数週間、3か月、6か月とフォローアップ研究をしています。
3秒以上呼吸が止まる無呼吸状態は
ほとんどの子どもで上述したあらゆる期間で経験し、
その頻度が高い子供は言語や運動機能が低い傾向にありました(403)。
現場の経験がなく、リスクも伴うので
抽象的な表現に留めますが、
適切な監視の下で体の位置、環境などを整える事で
自然と赤ちゃんが呼吸をしやすいような環境、
あるいは安全な範囲での呼吸機能の訓練も
介入として考えられるかもしれません。
もちろん、受精、胚の時点での遺伝子的な影響、
妊娠初期の着床の条件、母親の子宮内膜の状態、
在胎期間中の環境なども関わっている可能性がありますが、
分娩直後も含めたヘルスケアにも関連があるかもしれません。
このような神経発達の結果の異種性、個人差は
分娩後の比較的短い期間での
脳の損傷、未成熟の重症度を反映してそうである
という現場の感覚があるようです(240)。
在胎期間が短ければ、短いほどリスクが高まるので、
この記事の冒頭で述べた様に
在胎期間を長く取れるように妊娠時の管理が一方で大切になる
と考えられます。
未成熟の脳は損傷に対して特徴的な脆弱性を持っています。
◎白質の損傷
◎脳室内の出血(germinal matrix–intraventricular hemorrhage)
◎小脳の出血
これらなどです。
これは仮説ですが、早産の子どもが脳出血を起こしやすいのは
分娩時に過渡的に血圧が上がりますが、
その時にまだ脳の血管が十分発達しておらず、
また血管径もほそく、
血管壁に強い力がかかりやすい状態で
その血管壁が薄く、もろい状態であるため
出血が起こりやすいと考えられます。
仮に観測できるほどの出血はなくても
血管壁の細胞同士の連結がとれ、損傷が残っている可能性もあります。
実際に、分娩時に臍帯血ミルキングなど
短時間で母親の血液を送り込んだ場合に
脳出血のリスクが高まるという事は知られています。
このような出血は脳脊髄液が通る
上衣細胞直下で生じる事が多く、
血液は脳脊髄液よりも粘性が高いので、
それによる脳脊髄液の流体としての循環機能低下が懸念されます。
発達した神経イメージング技術や
それを補完する発達神経科学の進展による新しい見識は
一時的な損傷の特徴の理解、
二次的な未成熟効果の理解の両方を深めてきました。
脳障害の主な形式は神経発達の不全によるものですが、
早産の幼児の改変された脳の発達の近年の認識は
生まれてすぐに新生児集中治療室(NICU)で過ごした期間における
非常に重要な因子の新しい理解を導きました。
その生まれてすぐの集中治療を受けた期間は
そのお子さんの神経発達の重大な結果を決めるものかもしれません。
なぜなら、急速に脳が発達する時期だからです。
脳の発達曲線から言うと
横軸を時間、縦軸を体積増加率で関連性を取ると
胎児の頃が一番時間に対する体積増加率が高いわけですが、
おそらくTerrie E. Inder(敬称略)らが
現場の感覚も含めて新生児集中治療室の間の重要因子を
特に取り上げているのは
子宮内から外界に出る環境変化への急速な順応時期と重なっている
ことも関係しているかもしれません。但し、これは仮説です。
脳の障害だけではなく、
損傷とは直接関連のない発達の不全も
早産の幼児の神経発達の不全に関連していると考えられています(240)。
Terrie E. Inder(敬称略)らは、
◎超早産の少し成長した幼児の脳損傷の3つの主要な形式
◎脳発達の改変の特徴
◎脳損傷、脳発達改変を仲介する因子
◎これらによってどのような結果になるか?
これらについて総括されています(240)。
これらの要因の理解は未来の神経保護的な戦略を使う中での
新生児医療の臨床医、その他医療スタッフを
アシストするものになるでしょう(240)。
これらの要因を理解する事は早産の子どもの
長期的な神経学的結果を改善するものになると考えられます(240)。
<<脳損傷>>
早産児の認識されている脳損傷の3つの主な形式は
その後の神経発達不全に関連しています。
その三つとは上述した
(1)白質傷害
(2)脳室上衣下胚層脳室出血(germinal matrix–intraventricular hemorrhage)
※胚発生行列とは脳室周辺に位置する
脳の発育初期において
神経細胞の分化や増殖が行われる領域であり、
早産児においては未熟な血管や脆弱な組織が存在するため、
出血が生じやすい箇所とされています。
(3)小脳出血
これらです。
((1)白質の損傷)
発達期にある早産の子どもの脳に影響する損傷の中で
白質の損傷は最も普遍的、疫学的に多いとされています。
白質は主に神経連結に関わる組織が多く存在し、
その神経連結には軸索がネットワークのノード(線)として機能します。
そのノードの機能を決める、電気伝導性を決めるのは
その軸索の周りにある絶縁膜である髄鞘(ミエリン鞘)であり、
この髄鞘を生み出すのが乏突起膠細胞です。
この乏突起膠細胞の前駆状態、未分化の状態
(early differentiating preoligodendrocytes)
が非常に脆弱性が高いため、白質の機能が低下するということです(240)。
早産児で共通的に生じる白質損傷には
脳室周囲白質軟化症があります(256)。
これにおいてTerrie E. Inder(敬称略)らが述べるように(240)
乏突起膠細胞の成熟に従って様々なストレスに対する脆弱性が変わる
ということです。
早産の子どもは腸などにも異常があるケースもあり、
炎症性の免疫機能が高まっている事と、
そのような免疫機能は酸化ストレスを高める事が知られています。
Xiao-Bo Liu(敬称略)らがFig.1A,Bに示すように
乏突起膠細胞は細胞成熟が多段階に及びますが、
初期状態であればあるほど、
炎症や酸化ストレスに対して脆弱になります(257,Fig.1B)。
Terrie E. Inder(敬称略)らが冒頭で述べるように(240)、
早産の分娩直後の集中治療室に入っている時に
脳の障害の程度に大きく影響を与えている可能性があるとされています。
ここからは重要であり、かつ仮説ですが、
分娩直後には循環器、消化器の環境が大きく変わります。
そうした中で共通的に影響を受けるのは免疫系です。
なぜなら血中にも腸にも多くの免疫細胞、サイトカインが存在するからです。
そうするとその環境変化に対する順応が円滑でない場合、
免疫細胞の炎症性が高まる可能性が考えられます。
循環器は脳にも当然到達していますから
このような炎症反応は脳へも影響を与えます。
それにより酸化ストレスも高まります。
一方、
新生児で在胎期間から加算して年少であればあるほど
乏突起膠細胞の分化において前駆状態の割合が多い可能性があります。
その状態で過剰な炎症や酸化ストレスを受けると
通常ならそこから成熟して適切な髄鞘を形成するはずのプロセスが
大きく阻害されることになります。
Xiao-Bo Liu(敬称略)らがFig.1A,Bが図に示すように(257)
乏突起膠細胞は成熟するにしたがって、
樹状突起を樹木のように枝分かれした状態で成長させていきます。
これも仮説ですが、未成熟の状態では
その機能の核となる乏突起膠細胞の細胞核の部分が
大きく露出しているため
炎症性シグナルに影響を受けやすいかもしれません。
言い方を変えれば、
乏突起膠細胞から伸びる枝の部分が
少なくとも一定割合ストレスに対するバリア機能がある
可能性を想定しました。
なぜ、小児において白質が影響を受けるのか?
その理由は未知のままだったので、
それが一部明らかになったことは大きなことです。
ボストン小児病院の記述によれば、
脳室周囲白質軟化症の効果的な治療は存在しません(256)。
そもそも大人を含めたケースでも
脳の組織学的な事も含めた様々な疾患を治すことは
他の組織に比べても難易度が高いです。
既に生じてしまっているお子さん(患児)もいるので
乏突起膠細胞や髄鞘に異常があるのであれば、
それに対して医療、医学、薬学ととして
何らかの医療介入、アプローチを考える事は大切ですが、
それよりもまずは予防的処置が重要です。
脳組織に対する
免疫細胞や炎症性サイトカインの影響を減らすためには
◎炎症性を上げない
◎血液脳関門を含めて脳血管の組織を守る
これらのアプローチが少なくとも重要になります。
前者は腸に密接に関連しています。
下述するように壊死性腸炎の一つのリスクは
リスクの高い摂食によるとされています(187,251)。
とにかく壊死性腸炎、あるいは腸の炎症を防ぐことが大切です。
血液脳関門、血管組織は
分娩時における循環器の移行によります。
臍帯遅延結紮、臍帯血ミルキングによるメリットと
脳血管系に対するデメリット、
赤ちゃんが呼吸していないときの蘇生処置
これらのバランスに加えて
これらの条件が成長後も含めた
脳血管の損傷にどのように影響を与えるか?
それも考える必要があります。
記述を引用論文(240)に戻します。
白質の障害の原因となる鍵となるリスク因子は
低酸素虚血と炎症です。
これは多くの場合、出産前後、新生児の感染に関わります(323)。
壊死性腸炎になると摂食を含めて
感染のリスクが高まるので
交絡因子として壊死性腸炎は関連している可能性があります。
また、循環器の損傷も低酸素虚血と関連があると想定されます。
23-32週の在胎期間は胎児の白質損傷において
高いリスクを伴う時期です。
そのピークは28週の早産にあるとされています(324)。
白質の損傷は3つの主な病理的形質があります。
①Focal cystic necrosis
限られた範囲の病変部において液体で満たされた嚢胞内で
細胞が壊死する状態
②focal microscopic necrosis
限られた範囲の病変部において微細なレベルで
細胞が壊死する状態
③Diffuse non-necrotic lesions(拡散性非壊死病変)
病変が広範にわたっているが細胞の壊死がみられない状態
③はDiffuse gliosis(拡散性グリオーシス)に分類され、
アストロサイトの反応性変化やグリア細胞が活性化が生じている状態です。
①の白質嚢胞の形成、つまり液体が溜まる事は
細胞の壊死による細胞内の液体や血液によって生じると想定されます。
これが生じる場合、症状としては重篤で
在胎期間32週よりも前に生まれた
早産児の5%未満に影響を与えます(324,325)。
②の微細なレベルで細胞が壊死するケースでは
白質に点状の病変としてMRIで観測する事ができます。
28週未満の在胎期間の超早産児の15-25%に診られます(240)。
③の病変が広範囲にわたる拡散性の細胞の壊死を伴わない病変では
MRIで病変を可視化するのは難しいですが、
その後、白質が萎縮し、
脳脊髄液で満たされた脳室が拡大します(ventriculomegaly)。
これは超早産児のおおよそ半分で診られます(326-330)。
白質のグリア細胞の活性化を示す、拡散性のグリオーシスは
超早産児のおおよそ半分で診られるとされていますが、
この拡散性グリオーシスは早産の羊のケースにおいて
リポ多糖体が血中に点滴された際に生じやすい事が
示されています(331)
このリポ多糖体はグラム陰性の細菌の細胞膜に発現されており(332)、
それが血中に入る事を想定して実験された背景がある
と考えられます(331)。
これらのグラム陰性のバクテリアは
出生後、壊死性腸炎などバリア組織に異常がある場合
腸から循環器に入ることが想定されます。
従って、白質の拡散性グリオーシスは
超早産児において高い割合で診られますが、
これは腸の炎症と密接に関わっている事が想定されます。
①の嚢胞性白質傷害の発症率はもともと低く、
それは減少してきています(326,336)。
これは早期分娩のリスクがある母親に対して
予防的に出産前にグルココルチコイドを処方する事が
一般的になったことがおそらく関係していると考えられています(333,337)。
嚢胞性白質傷害は臨床的に顕著な発達不全と関連しています。
脳性まひは嚢胞性白質傷害を持つ小児の75%で発達します。
影響を受けた小児の半分は一般的な認知機能、視覚に悪影響ができます。
25%は発作性疾患を持ちます(338,339)。
Terrie E. Inder(敬称略)らがTable.1で示すように(240)
白質に液体の塊ができる嚢胞は
他のタイプと比べて様々な脳の障害とより強くかかわっています。
おそらく、嚢胞によって血管や液体の流れが圧迫されることで
神経系への栄養供給が一部遮断され、栄養不足とあり
それが障害と関わっている可能性があります。
一方、
②の微細な点状の白質病変や③の拡散性のグリオーシスは
学力、運動機能、注意、情報処理、言語、
記憶、実行機能の不全を高めるとされています(328,334,335)。
((2)脳室上衣下胚層脳室出血)
((2)Germinal matrix–intraventricular hemorrhage)
脳室上衣下胚層は
Walufu Ivan Egesa(敬称略)らがFIGURE.1に示すように
側脳室の下側の
側頭から断面を観た時の下向きの三日月上の形状を持つ組織です(346)。
ここは神経細胞の分化や増殖が行われる領域で
未熟な血管が多く存在します。
従って、早産児において損傷を受けやすい脳血管となります。
ここから脳脊髄液が満たされている脳室へ出血が生じ、
それを脳室上衣下胚層脳室出血。
(Germinal matrix–intraventricular hemorrhage)
このように定義されます。
脳室上衣下胚層脳室出血は新生児の頭蓋内の出血の
最も共通的な形式であり、
早産児の中枢神経系の出血と特徴づけられます。
この形式の脳損傷に
1500g以下の超低出生体重児の早産の子どもの約25%が
影響を受けているとされています(340)。
周産期医療の発達に関わらず、
脳室上衣下胚層脳室出血の発生率は最近20年で変化していません(341,342)。
おおよそ超低出生体重児の早産児の1/4の子どもが
影響を受けているという高い発生率と共に
脳室の出血としては重篤な形式となっています。
また結果として伴う合併症も存在します。
脳室の出血の重篤度はグレート1~4まで4段階あります。
Papile(敬称略)らによって1978年に報告され、
その後、改定されています(343,344)。
そのグレードは側脳室、脳実質内への血液の量に基づきます。
頭蓋内のスイープする超音波イメージでは
脳室上衣下胚層脳室出血は
分娩から平均して24-48時間に起こるとされています。
12時間以内ではおおおそ10%となります(347)。
Inmaculada Lara-Cantón(敬称略)らが示すように
一般的に酸素飽和度は85-95%までの到達は
満期産児を含めてのデータでは10分程度です。
(参考文献(368) Fig.1より)
心拍数も10分程度で安定します。
(参考文献(368) Fig.2より)
従って、診断可能になるまでの時間は
分娩前後の循環器の変化の過渡期よりも顕著に長いです。
この過渡期に最も血管に負荷がかかると考えて自然です。
しかしながら、Terrie E. Inder(敬称略)らは
臨床的なサインは出血が生じたときには影を潜めている事が多く
臨床症状によって診断する事は主ではないとされています(240)。
従って、出血があると診断されるのがMRIによるとすると
多くの場合、診断がつくよりもかなり前から出血が生じている
可能性は否定はできません。
脳室上衣下胚層脳室出血の病理は
それぞれの幼児によって異なり、
複数の因子が複雑に交絡しています。
脳への血流の安定性に関連する脳血管因子は特に関連があります。
超早産児では
心肺機能の不安定性に起因する未熟な脳の自己調整能力が
虚血や再灌流の結果となり得るとされています。
これは組織として脆い脳室上衣下胚層の血管を
損傷させる原因となります。
その損傷が進むとやがて破裂し、出血が生じます。
脳室上衣下胚層脳室出血の発症率を減らすための
エビデンスベースの医療介入は制限的です。
なぜなら
◎病因の複雑性
◎正確かつ継続的に脳の血流を測定する方法の制限
これらがあるからです。
例えば、病因としては
心肺機能が安定しない事、あるいは蘇生処置が行われることで
脳へ送られる血圧が安定しない事も考えられます。
あるいは分娩時の血圧上昇の移行が円滑ではなかった
可能性もあります。
血管生成の未熟性は血管壁が同様に未熟になり
血管自体もより細くなるかもしれません。
さらに脳室上衣下胚層にある血管は脆いとされていますから
少ない血流でもより強い圧力がかかり、
脆い血管が損傷、破裂しやすいかもしれません。
摂食が消化器に移行する事で
感染症のリスクが高まります。
それによる循環器を通した炎症反応が
脳室上衣下胚層の血管に影響を与えるかもしれません。
このような血流を出血が生じやすい部分において
「局所的に」測定する事は難しいです。
しかも、それを継続的にモニターする事はさらに困難です。
唾液や尿などの液体生検によるバイオマーカーなど
他のアプローチが必要かもしれません。
但し、バルク結晶成長可能な
常圧室温超電導材料が開発されれば、
MRIの性能向上、コスト低減、フットプリント低減などの
効果が期待され、それによりポータブル性が上がれば、
血流の連続的なモニタリングも可能になるかもしれません(349)。
MRIは何回受けても人体に影響がないとされています。
従って、連続的なモニタリングは
安全面を配慮した上でも装置制約がなくなれば可能です。
仮に子どもの頭にヘルメットのようにかぶって
固定できるような形式のものができれば、
子供が無作為に動くという問題が
大幅に緩和される可能性もあります。
それに加えて
常圧室温超電導材料が開発されれば
磁気医療も変わる可能性があります。
磁気によってフォーカスした状態で
病変部位に照射することで
血流を促すことができるかもしれません(348)。
例えば、振動した磁場を30分間、内皮細胞に当てると
血管の組織修復など恒常性に関わる(350)一酸化窒素の産生が
増加したという報告もあります(351)。
実際に磁気による刺激は
脳神経変性疾患、精神疾患などで検討されており、
血管を保護したり、血管新生を促した
という報告もあります(357)。
鬱に関する研究では顕著な効果はまだ立証されていません(358)。
但し、照射する場所、磁力の強さ、パルス幅、振動数など
多くの重要な要素があると考えられます。
したがって、それらの条件が最適化されれば、
より幅広い臨床応用が可能になるかもしれません。
新生児の脳室上衣下胚層脳室出血において
侵襲する事が難しいと考えると
磁気治療がより高性能、小型化、低コスト化など便利になれば、
動物実験などを経て、将来的には早産児に適用できる
可能性はあるかもしれません。
脳室上衣下胚層脳室出血の発生は
複数の様式でその予後において脳の発達に影響を与えます。
脳室上衣下胚層から脳出血が生じると
未成熟な胚芽大脳領域の破壊が生じるかもしれません。
それによって神経の前駆細胞を欠失したり、
末端の静脈を圧迫する事につながります。
その結果、
◎高グレードの実質の静脈出血性梗塞
◎酸化ストレスによる白質損傷の加速
◎水頭症
これらを導きます。
脳室への出血は軸索や他の損傷を導く恐れがあります。
脳室上衣下胚層脳室出血は前述したように
4段階のグレードにわかれますが、
◎低グレード:グレード1,2
◎高グレード:グレード3,4
このように2つに分類されることがあります。
低グレードの脳室上衣下胚層脳室出血は
組織学的には長期的な神経発達の影響は
極めて小さいとされています(352,353)。
しかしながら、
超早産児を含む国際的(Large geographic)のコホート研究では
低グレードの脳室上衣下胚層脳室出血は
脳性まひのリスクをわずかに上昇させ、
早期の認知遅延、視覚障害のリスクは顕著に上昇する
という事が示されています(340,354)。
低グレードの脳室上衣下胚層脳室出血罹患後
長期的にどのように影響があるかというエビデンスは限られています。
1つの研究では8歳、18歳の時点で影響はないとされています(355)。
一方で
高グレードの脳室上衣下胚層脳室出血は
神経発達的な不全のリスクを高めます。
(参考文献(240) Table 1より)
出生後、脳室上衣下胚層脳室出血に罹患して
成長した年少の子どもにおいて
脳性まひになるリスクは6倍高く、
視覚障害になるリスクは11倍高く、
毛髪のロスになるリスクは4倍高いとされています(340)。
高グレードの脳室上衣下胚層脳室出血に罹患後、
成長して、年長の子どもになった時の
IQ、学力は低い傾向にあり、
言語能力、注意、ワーキングメモリ、処理速度、
視覚空間的な推理、視覚運動統合、実行機能。
これらにおいて同様に能力が低い傾向にあります(353,356)。
((3)小脳出血)
脳室出血と同様に、
早産児の小脳出血の感受性は
いくつかの形成成熟依存的な血管領域に関連しています。
これらの領域は
◎顆粒細胞層中の脳室上衣下胚層
◎小脳のサブ上衣領域
※脳室と実質を分ける組織の脳室側の上皮細胞
◎内部顆粒細胞層の接合部の急速に成長する領域、
※顆粒細胞は(おそらく)上衣細胞の下にある粒上の
細胞が集まった領域(参考文献(359) FIGURE 1参照)
◎小脳白質
これらを含みます。
脳の血管はÁngela Fontán-Lozano(敬称略)らが
FIGURE 1に"BV(blood vessel)"として示すように
これら脳室から実質(小脳)までの
境界となる上衣、顆粒組織の中を貫通しています(359)。
細胞が密集している領域なので
虚血になると影響を受けやすく、
また血管が通っている場所なので
血管の破裂の影響も受けやすいとされています(360)。
小脳出血の発症率は評価手法に依存します。
小脳出血は最初は
大泉門を通して頭蓋超音波検査の手法によって出血を評価した時
30週以下の在胎期間で生まれた早産児の
おおよそ3%程度の少ない割合であったとされています。
しかし、後側頭泉門を通した超音波検査に基づく評価では
それが9%まで上昇しました(361)。
MRIを使ったときにはそれが19%になりました(362)。
小脳出血の病理因子は
脳室上衣下胚層脳室出血のそれと強く類似します。
最も顕著な因子は未成熟と心肺機能の不安定性です。
小脳出血におる傷害は
脳の片側だけにみられる点状の出血から
広範囲にわたる両側病変まであります(363)。
小脳の出血が広範囲にわたると
その子どもの症状や予後は悪くなります(364)。
しかし、小脳出血の影響を独立に評価する事は難しいとされています。
なぜなら、小脳と大脳を隔てる
小脳テントよりも上の病変も度々共存するからです(365)。
分離した小脳出血の総括では
◎認知機能(38%)
◎運動機能(39%)
◎言語機能(41%)
◎行動発達(38%)
これらの機能、割合で遅れがみられたとされています(366)。
病変部位の場所と大きさは機能的な結果に影響します(367)。
しかしながら、
小さな病変を持つ小児の長期的な結果は明らかではありません。
(まとめ)
出血の量が問題で、少量に抑えれば、
その出血による機能障害の影響を小さくする、
あるいはほぼなくすことが可能であることが
疫学的な結果から推測されます。
従って、非侵襲の治療も含めて、
出血のリスクが高いお子さんをスクリーニングして
適切な治療ができれば、予後の改善が図れるかもしれません。
<<脳成熟不全(Brain dysmaturation)>>
早産の子どもの神経発達不全の結果は
上述したように生まれてすぐに集中治療室にいるような
生後直後から生じる出血を含めた脳の傷害と
この時に生じた傷害が白質、灰白質の発達に
悪影響を与えることによって生じているという事は
徐々に明らかになってきました(240)。
これは「成熟の障害(Dysmaturation)」として参照されます。
早産の脳のこの特徴的な脆弱性は
妊娠期間20週~40週の未成熟な大脳で生じる
多様で、急速で、かつ複雑な細胞発達的なイベントによるものです。
この脳成熟不全の章では
(1)MRIの結果を基にした早産の子どもでの脳の成熟不全の定義
(2)白質の障害による脳の成熟不全のメカニズム
(3)NICU内で生じる主な成熟不全効果のエビデンス
(4)脳の成熟不全の発達への影響の要約
これらについて扱います(240)。
これらの成熟不全に関わる細胞機序は
比較的長い期間にわたり生じます。
従って、新生児集中治療室(NICU)にいるときだけではありません。
ゆえにこの成熟不全を持つお子さんの
予後を改善するためには
NICUにいるときだけではなく、
退室後にも合わせて医療的介入をデザインする必要があります。
赤ちゃんが子宮にいるときに受け取る
神経ホルモンが早産によって失われることが
脳の成熟不全においてどのように影響を与えるか?
それについては現在ではわかっていません。
上述したようにAlicia K. Yee(敬称略)らの
在胎期間32週以下の超早産児における
数十人規模の研究では
3秒以上呼吸が止まる無呼吸状態は
ほとんどの子どもで経験すると言われています。
それは生まれてすぐの数週間だけではなく
半年後も続き、その無呼吸状態が多いほうが
脳の機能が低下する事が知られています(403)。
一方、Yoko Asaka(敬称略)らの研究では
生後1.5年の子どもにおいて
早産と満期産児の夜間の睡眠の質を100人程度の規模で調査すると
早産の子どものほうが睡眠の質が低いことが示されています(431)。
睡眠時には間質液も含めて、脳の循環器の機能が向上する事が
知られており、それによって脳の成長を阻害する
有害な物質も排出すると考えられます(405)。
(グリンパティック系)
それは実質と脳室のバランスにも関わると考えられます。
脳の成長著しい2歳までの過渡期において
睡眠の質が低下する事は
特に白質や灰白質などを含む脳の実質に悪影響を与える事は
十分に考えられます。
おそらく睡眠の質が低下している事は
Alicia K. Yee(敬称略)らが示した(403)
無呼吸状態の時間と頻度も関わっているはずです。
その背景には一つは呼吸機能もあると想定されます。
特に早産児の脳の発達を考える上で
その生活習慣の中で、如何によい睡眠をお子さんが取れるか?
赤ちゃんにとって心地よい生活環境も含めて
それについて考える事は
ここでTerrie E. Inder(敬称略)らが問題にしている
脳の成熟不全(240)にも密接に関わると想定されます。
(1)脳の成熟不全の定義
早産の脳において成熟不全に対して
いくつかのMRI技術を使用して
お子さん自身の脳を解析することで定義づけします。
容積測定のMRIは
大脳皮質、白質、視床、脳幹神経節で異常を示しました。
Terrie E. Inder(敬称略)らがFig.3の左右の比較では
脳脊髄液が流れる脳室が大きくなり、
灰白質、視床、脳幹神経節、ミエリン鞘、海馬、小脳など
実質に関わる多くの部分の容積が減少する事が示されています(240)。
この事はNaohiro Okada(敬称略)らが行った
数千人規模の比較研究で
統合失調症、双極性障害、大うつ病傷害、自閉スペクトラム症と
健常者の脳の体積の違いを部位別に統計的に比較した結果と一致します(369)。
つまり脳に障害があるケースでは
脳室が大きくなる傾向にあり、
それに伴い実質が小さくなるということです。
この特徴を決めている重要な生活環境の要因は
上述したように毎日の睡眠である可能性があります。
睡眠については別途、章を設けて詳しく考えていく事になります。
上述したようにMRIで健康な子どもと比較する事で
同じ年齢の早産の子どもの脳の発達の異常を
それぞれの部位の容積から明らかにできます。
それは年長、青年、大人と成長後も続き、成長すると
その差がより顕著になると言われています(432-437)。
(2)白質の障害による脳の成熟不全のメカニズム
未成熟な白質の乏突起膠細胞の前駆細胞の
傷害の神経病理的な結果は
髄鞘(ミエリン鞘)を生成する乏突起膠細胞への成熟の不全です。
その結果、神経の軸索を通した伝導性を決め髄鞘が不足します。
脳の成熟不全の2つ目の形式が
白質の傷害に引き続き生じる可能性があります。
それは妊娠後期の時期に活発に成長する
白質や灰白質の一連の構造的な事に関与します。
これらの発達不全は
乏突起膠細胞が前駆状態から成熟状態へ分化する事の
不全に始まります。
今述べたような白質、灰白質の一連の傷害、構造擾乱は
早熟の脳症「Encephalopathy of prematurity」と呼ばれます(452)。
(3)NICU内で生じる主な成熟不全効果
神経の成熟の改変は早熟の脳の主なイベントである事が
臨床研究、実験で明らかになっています。
これは白質の障害による成熟不全とは異なります。
この概念は集中治療室を含めた入院中の間の
2つの時期での早産児の
拡散ベースMRI(diffusion-based MRI)を使った
研究によって構築されてきました(453)。
原理的に明らかになったことは
白質の傷害がみられない状況で皮質内で
成熟の遅れに関する不全であり、
これは皮質の灰白質の微小構造的な発達の遅れと定義できます。
これは拡散ベースMRIの水分子の異方性測定で明らかになりましたが、
このような異方性測定では
発達期の皮質では水分子の拡散が減少する事が知られています。
これは樹状組織が精緻に形成されている事を示します(454,455)。
(Dendritic elaboration)
このように水分子の拡散をMRIで計測する画像分析によって
新生児の皮質の灰白質の樹状組織の発達の主な不全を
明示する事ができると考えられています。
主な神経的な成熟不全の決定的な神経病理的なエビデンスは
臨床的な研究ではまだ明らかにはされていません。
しかしながら、
未成熟の羊のモデルにおける研究では
皮質の神経発達の主な不全について観測されています。
この研究では
局所的な低酸素状態が海馬での
神経細胞の枝状分岐を改変させる事が示されています。
それにより神経連結に不全が生じ、
結果としてワーキングメモリが改変されます(456)。
このような結果は
おそらく人にも当てはまることです。
なぜなら、ワーキングメモリの状態に異常が出る事は
超早産児のサバイバーで一般的に報告されているからです(457)。
この羊によるモデルの追加実験では
低酸素状態に加えて、虚血の状態が
神経発達の異常を導くことが示されています(458)。
低酸素状態以外の他の因子が
新生児集中治療室に早産児が入院している間の
灰白質や白質の発達異常に関与していそうです。
例えば
◎栄養状態
◎成長状態
◎不快な経験(痛み、光、音)
◎快体験(子育て、人の声を聴く事、肌のふれあい)の喪失
これらです(459)。
特に超早産児に生じる事がある
脳神経の成熟不全の病理に関して
神経細胞に対する低酸素、虚血状態や
子どもの生育環境がどのように影響を与えるか?
それを白質の障害と切り離して、独立で評価する事は
難しいと考えられています。
(4)脳の成熟不全の発達への影響
脳の成熟不全と神経発達の結果の関連において
主に白質の傷害を含む脳の傷害が交絡因子となります。
新生児集中治療室から退院した時点での
早産児の脳の皮質の体積の実証された現象は
その子どもの臨床結果と様々な関連を持っている事が報告されています。
これらの脳の体積の比較の試みによって
そのお子さんのその後の状態の予測の精度を向上させます(460)。
満期産児に比べて、早産の子どもたちの
領域ごとの脳の体積の差異は
社会感情的な発達のような特定の成長後の結果に関連します(461)。
皮質の表面積に関して、
前頭、側頭、頭頂領域の面積が満期産児に比べて
早産児で小さい傾向にある事は
認知や言語の発達と負に関連しています(459)。
早産で生まれた後、成長した
年長の子どもたちや大人の皮質の変化や機能的な結果の
実験的な研究によって
前頭と側頭の領域が特に早産の子どもで
影響を受けやすいことが示されました(462-466)。
(参考文献(240) Figure 4)
早産で生まれた子供たちの中の
皮質の表面積に関わる前頭、側頭の領域の
表面状態の(モフォロジーの)改変は
IQ、言語能力、実行能力に関わります(467,468)。
海馬は小さく、まっすぐな形をしている
ことが示されています(463,469)。
これはばらつきがありますが、
記憶の能力に関連しているとされています(463,470)。
皮質下の構造に関して
超早産児は成長後、脳幹神経節、視床の体積が
同じ年齢の満期産児のそれよりも6-10%減少している
ことが示されています。
これらの体積は
IQ、記憶、学習能力、行動、運動の機能に関連します(471)。
脳の体積が小さいことは
◎新生児の期間(472,473)
◎小児期(474)
◎成人期(475)
これらのいずれの期間でも観られることが
経時的な分析によって明らかになっています。
(異なる観点による考察)
ここからは仮説を含む考察について述べます。
特に超早産児の健康ギャップにおいて脳の発達が重要であり、
その脳の発達は下述するように生後2年までの間に
体積に関しては大部分が決まってしまうからです。
従って、考え得る何らかの考察をここで示すことは
研究で十分に立証されておらず仮説を含むにしても
一定の意義を生むと考えています。
John H. Gilmore(敬称略)らがFig.2に示す
脳の発達曲線を見ると(9)
脳の容積、表面積は2歳まででおおよそ決まります。
唯一、脳の連結に関わる白質は青年になるまで
少しずつ変化していきます。
一番、時間に対する変化率が大きいのは
在胎期間20週から35週の15週間
つまりおおよそ3か月半程度の期間です。
従って、この期間、子どもの脳にとって良い環境を
整える事の重要性はいうまでもないですが、
出生後の特に1年の間においても
脳の体積は急速に大きくなります。
従って、超早産であって、
一般的に脳の体積が小さい傾向にあるという結果から
超早産児において生まれてから
1年間の医療介入、子育ての条件によって
成長後の脳の体積が変わる事も考えられます。
例えば、
同じ在胎期間の早産児の脳の体積を比べた時に
満期産児と差がない子供とその差が大きな子供がいた時に
それらの子どもにおいて
どのように成育環境が異なっていたか?
それについて分析する事で
より脳の成長にとって好ましい条件が見つかるかもしれません。
この章での記述では
脳の領域ごとの体積の減少について
中心的に記述されていました。
これが一般的な傾向であるとすると
Terrie E. Inder(敬称略)らがFigure 3に示す(240)
逆に早産児で生じている傾向にある
脳室の拡大についてはあまり考えられてこなかった
という事はあるかもしれません。
一方で、Terrie E. Inder(敬称略)らは
新生児集中治療室に入っている期間が
脳の発達においてクリティカルでありそうだ
ということを述べられています(240)。
脳の発達に差がでるような
超早産児の場合、その期間が数か月になることもありますが、
その時期に実質を縮小させる要因だけではなく
脳室を拡大させる要因についても考える事で、
実質の縮小幅をより小さくすることに貢献するかもしれません。
大人も含めて多くの場合
実質の縮小と脳室の拡大が関係性を持っているからです(369)。
実質の縮小は上述したように
低酸素や虚血により
神経細胞、グリア細胞、乏突起膠細胞など
脳神経系を構築する細胞の増殖に影響が出る事で
生じると考えられますが、
脳室の拡大がなぜ生じるのか?
この記事で循環器的な性質に基づいて
仮説的な事を述べていますが、
それについてはよくわかっていません。
但し、Terrie E. Inder(敬称略)らが述べるように
単に虚血や低酸素状態だけが関わっているのではなく、
不快感や赤ちゃんにとって安心材料となるような
母親との肌と肌とのふれあいを含む心地よい感覚も
関わっていそうだということです。
例えば、子どもは不思議と
お父さんやお母さんに抱かれた状態では眠りますが、
ベッドに置いた途端、泣き出して起きることがあります。
心地よい感覚の中でお子さんが安心して眠る事は、
特に脳が急速に発達する時期において重要な可能性があります。
実際にお母さんが抱っこして育てる事は
カンガルーケアと呼ばれますが、
カンガルーケアによって新生児の睡眠時間が顕著に上昇し、
無呼吸、興奮状態、徐脈が抑えられ、
酸素飽和度の安定したという報告があります(476)。
超未熟児においては厳格な健康管理が必要なので
それとのバランスだとは思いますが、
母親との触れ合いは脳の発達においても
非常に重要な意味を持つかもしれないので、
それについて検討する事は
その後の成長の事も含めて考えると
お子さん、家族にとってメリットがあるかもしれません。
<<脳の成熟不全への対策>>
脳の傷害に直接的、あるいは間接的に関連する
白質、灰白質の構造の成熟不全に対して
何らかの対策をするために
様々な臨床研究、疫学研究、実験的研究が行われてきました。
その成熟不全の対策としては
低酸素状態、虚血、炎症を防ぐだけではなく、
◎出産前のグルココルチコイド処方
◎硫酸マグネシウム処方
◎臍帯結紮遅延
◎NICUによる血圧、糖、CO2濃度の安定化管理
◎脳への安定な血液供給の為の心臓血管モニタリング
◎神経系のリハビリテーション
◎授乳を含めた栄養管理(477-481)
◎ストレス、痛みの低減(482-485)
◎スキンスキンケア(488-490)
◎両親による子育て(488-490)
◎家族の声を聴く、見る事(486,487)
◎在宅ベースの発育プログラム
これらが挙げられています(参考文献(240)Table 1)。
<<結論(240)>>
近年の医療の発達により
超早産で生まれた子供の命が救われるケースが増えていますが、
一方で、その後の長期的な神経学的な不全が度々生じます。
多くの超早産の子どもの健康状態は改善しますが、
一部のお子さんで生じた脳を含めた健康上の問題のメカニズムを
より深く理解する事はより多くの超早産の子どもの
健康状態を改善する上で非常に重要です。
脳の健康状態の不全は
特徴的な損傷と発達不全の組み合わせから生じると考えられます。
脳の損傷の最も共通的な形式は
心臓を中心とした循環器、呼吸システムの不安定性に関連します。
局所貧血-再灌流による脳の損傷の緩和する事は
脳への血液の安定的な灌流のための監視システムを
構築する技術的な発展を必要とします。
脳の損傷を初期の段階で診断することと共に
新生児集中治療室滞在の間、退室後、両方の期間において
脳機能を回復させるためのリハビリテーションの導入は
神経を回復させる事に貢献するかもしれません。
脳の発達に関して、系統的な調査が優先される必要があります。
早産の子どもが入院している間に
痛み、ストレス、子育て、睡眠などが
どのように神経生物学的な影響を及ぼすかの理解はまだ不十分です。
上述した栄養的な支援のほかに、
NICU、退室後において両親が
子育てのエンゲージメント、関与を高める事は
神経の発達の結果を改善するかもしれません(240)。


//成長期の睡眠//
何らかの疾患や障害を持つお子さんを
最先端の薬学、医学、医療で命を救う、
その後の長い生活を見据えた予後を改善する
という事は今後、それらの発達によって
適用範囲が広がる可能性はありますが、
それらの発展は時間がかかる事です。
特に、子どもの臨床試験は大人に比べて
様々な困難性があるため、進みにくいという事もあります。
従って、ここに記述していく事の一部が
もし、今後の研究にいかされたとしても
そのベネフィットがお子さんに届くまでには
10年、あるいはそれ以上の時間が少なくともかかります。
でも、健康上問題を抱えた子供は当然いるわけですし、
気候変動、汚染物質によって
それに対してより脆弱な子供の健康が脅かされる
という事は考えられます(438)。
そうした中で、生活環境の中で安全な形でできる
ちょっとした工夫によって
子どもの健康状態が改善する事があるのであれば、
その情報を届ける事は優先される事です。
なぜなら、
世界の様々な専門家、
医師を含めた現場の医療スタッフの監修を経て
その正当性が担保されれば、
すぐにそれを子供に適用することができるからです。
前述したように早産が生じた子供のうち
最も懸念される健康上の障害は脳です。
壊死性腸炎、アレルギーなどもそうですが、
壊死性腸炎に罹患した子どもは成長後、
消化器よりも脳の異常のほうが問題となる
と考えられています(251)。
従って、過渡的に発達する脳の異常を
組織が出来上がる前の時点で、適切に介入し、
その異常を緩和する事ができれば、
そのお子さんの予後を改善する事ができる可能性があります。
その脳の異常に少なくとも一部関連するのが
上述したように「毎日の睡眠」です(563)。
この毎日の睡眠に関しては、
医療スタッフだけではなく
お父さん、お母さん、あるいは
両親を支援する祖父母、兄弟姉妹などが
超早産など脳の発達が懸念されるお子さんに対して
日々、何らかの知恵によって改善できる余地があるかもしれません。
少なくとも毎日の睡眠が科学的な見地に基づいて
どのように子どもの脳の発達において重要か?
それについて読者の方と情報共有することは
その包括的な理解につながるだけではなく、
その重要性に基づいた行動を促すことができる可能性があります。
それにより、より安全な形の知恵に結びつくかもしれません。
その知恵の中には10年後といった遠い未来ではなく、
すぐに適用可能な事もあるかもしれません。
それは経済的なコストメリットにもなります。
このような観点を総合的に考えると
早産の健康ギャップを埋める包括的情報の中で
この睡眠の章の重要性は極めて高いと判断しています。
もちろん、上述したように
早産児が良い睡眠が得られにくいという報告がある中で(431)、
そのコンテクスト、脈略は複雑かもしれません。
例えば、呼吸機能が発達していないことが原因かもしれません(562)。
呼吸の制御、脳波に関わる脳神経も関係しているかもしれません。
従って、睡眠の改善は簡単ではないかもしれないですが、
少なくともそれについて包括的に調査、考察し
情報共有することは価値があると考えています。
Julie Uchitel(敬称略)らが
満期産児と早産児の睡眠と脳の機能的なつながりを
早期の発達の観点で総括されています(439)。
早産児において何が問題になるか?
それについて抽出し、情報を付加いたします。
生まれてすぐの赤ちゃんの生活の中で
睡眠と睡眠-覚醒のリズムの適切な発達は
一生続く神経系の持続的幸福(ウェルビーイング)において
極めて重要です。
近年のデータは睡眠の質が低い子供は
神経認知的な不全のリスクが高まることを示しています。
睡眠自体の発生論は複雑なプロセスを示します。
基本的な脳の状態
◎睡眠 vs 覚醒
◎活性な睡眠(レム睡眠) vs 静かな睡眠(ノンレム睡眠)
これらが挙げられ、
これらの状態は在胎期間後期の間に成熟すると言われています。
もし、お子さんが早産で生まれたら、
この妊娠後期で生じる脳の状態の成熟が
子宮内ではなく、新生児集中治療室内(NICU)で生じる事になります。
子宮内と体外では様々な点で条件が異なります。
その環境条件が赤ちゃんの睡眠に干渉するかもしれません(440-446)。
例えば、
◎光や音のレベルが変わる事
◎(健康管理の為の)検査(A-D)
(A)静脈へのカテーテルの挿入
(B)血液サンプリング
(C)臨床試験
(D)放射線(X線)検査
これらが睡眠に影響を与えると考えられています(440,443)。
赤ちゃんの世話
◎抱っこ
◎おむつ交換
◎授乳
◎入浴
これらは出生後避けられない事ですが、
覚醒や呼吸を乱す事につながります。
特にREM睡眠に当たるActive sleepの時に生じます(441)。
◎周りに多くの赤ちゃんがいる事(Clustered care)(447,448)
◎センサーとの物理的接触(440)
◎気管支異形成症(449,450)
◎脳室内出血(449,450)
これらも睡眠に影響を与えうるとされています。
できる事と出来ない事があるかもしれないですが、
温度、湿度、光、音などの調整は
ある程度、子宮内の環境に近づける事は可能だと考えられます。
例えば、音に関しては、
◎機械、機器の適切な配置
◎騒音を吸収する素材の使用
◎会話を控える事
◎サウンドプルーフォン装置を利用した治療場所の仕切り
これらが使用されていると言われています。
Julie Uchitel(敬称略)らがFig.2に示すように
子宮内のそれぞれの時期に
レム睡眠、ノンレム睡眠といった浅い、深い睡眠が
特徴的な性質を持って段階的に発達します。
どの様な因果、関連性を持っているか未知ですが、
脳の構造的、機能的なネットワークと関わっている
可能性があります(439)。
特に脳の発達において重要な2歳ごろまでの
典型的な睡眠のパターン(T1-T3)は
(T1)新生児(0-3か月)
1回あたりの睡眠時間:2〜4時間
1日当たりの睡眠時間:14〜17時間
(T2)乳児期(3〜12ヶ月)
1回あたりの睡眠時間:徐々に夜間の睡眠が延長され、3〜6時間
1日当たりの睡眠時間:12〜15時間の睡眠
(T3)幼児期(1〜2歳)
1回あたりの睡眠時間:夜間の連続睡眠が増え、6〜12時間
1日当たりの睡眠時間:11〜14時間の睡眠
このようになっています。
Yoko Asaka(敬称略)らがTable 2で示すように
1.5歳の時点で満期産児と早産児で
昼寝の時間(2時間程度)には差がありませんでしたが、
夜の長い時間の眠りになると
夜間に起きる頻度が統計的に有意差があるほど大きくなります(431)。
上述したそれぞれの期間で変わるのは
トータルの睡眠時間と睡眠の回数ですが、
それを決める重要な因子として
夜間の連続睡眠時間の延長にあります。
その夜間睡眠の発達に異常が出ている可能性があるという事です。
上述したように子宮内の後期においての
睡眠機能の発達がどのように夜間睡眠に影響を与えるか?
1つの視点として夜間睡眠は
サーカディアンリズム(概日リズム)と関連がありますから
それとどのように関わりがあるか考える事が大切です。
この概日リズムは視床下部と関わりがあり、
この視床下部は在胎期間9-10週くらいから発達する
といわれています(451)。
この視床下部は思春期まで発達し続けるといわれています。
従って、思春期特有の概日リズムがあるといわれており、
この時期には早寝早起きが適さないかもしれない
とも言われています。
早産児において成長後において
夜の睡眠に影響が出るという事は
1つの重要な因子として概日リズムが関わっている可能性があり、
妊娠後期の時点で概日リズムの発達に関わる
重要な機能的、組織的形成があるかもしれません。
あるいは交絡因子として
睡眠時の無呼吸の頻度が関わっているかもしれません(403)。
子どもの睡眠に関しては
睡眠自体にも変化があり、その発達と脳の機能、異常、
それらにおいて早産がどのように関わるか?
これについてはまだ理解されていないと考えています。
しかしながら、
Terrie E. Inder(敬称略)らが
Fig.3に示す早産児に典型的に現れる脳の特徴、
つまり脳室が大きく、実質が小さいという特徴は
因果のベクトルはどちらか、双方かわかりませんが、
結果として睡眠の質に関わっていると考えています。
例えば、早産児では
脳室の側壁(内皮)の細胞である上衣細胞のすぐ下の
顆粒組織から出血がみられる
脳室上衣下胚層脳室出血が典型的な脳出血の症状の一つである
とされています(240)。
これはこの血管の組織が脆弱であるからです。
そうすると脳室には脳脊髄液が満たされていますから、
そこから出血が診られる場合には
脳脊髄液に血液が混ざることになります。
血液は脳脊髄液よりも粘性が高いので
結果、脳脊髄液の粘性は上がる事になります。
そうすると脳脊髄液に流れは悪くなると
物理的には考えられます。
血液が漏れる事で容積が増すという可能性もありますし、
同時に粘性が増すという事も考えられます。
P. L. H. Chong(敬称略)らは
睡眠をグリンパティック系の関連について報告しています(405)。
睡眠に問題を抱えている人は
脳脊髄液の循環量が少ないとされています。
これは睡眠が脳脊髄液の循環を促しているから
という因果である可能性があり、
脳脊髄液が循環しにくい状態が
睡眠の質低下をもたらすという逆方向の因果を示すかどうか
については明らかではありませんが、
もしそうであるとするならば、
それが早産児の脳の構造と睡眠の質低下の関連を示唆します。
また、少し違う観点では
上述したように脳脊髄液の粘性が上がると
これは上衣細胞の繊毛が減少し、
循環能力が低下させる可能性があります(373)。
これらのつながりは多くの仮説が含まれますが、
少なくとも脳脊髄液中への出血は脳室拡大において
リスクがあるという事は合理性がありそうです。
出血を避けるための医療は当然求められますが、
仮に出血した場合において、
その後の脳の発達障害の程度を下げる際に
1つの重要な要因として
脳脊髄液の循環を促す睡眠があるかもしれません。
従って、新生児集中治療室において
色んな管理が必要な中で
如何に赤ちゃんにとって心地よい睡眠の環境を整えるか?
それは重要な因子になるかもしれません。
その時期だけではなく、集中治療室退室後も、
特に早産の子どもにおいて、
夜間の睡眠の質をどのように上げられるか?
温度、湿度、照明、音、安心感、姿勢、寝具、授乳など
いくつかの重要な因子があると考えられます。
また、呼吸機能をサポートする(医療)介入も
挙げられるかもしれません。
上述したように
◎脳脊髄液と脳室拡大、実質縮小の関連
◎夜間睡眠の質の低下の原因
◎脳脊髄液と睡眠の関係
◎脳脊髄液への出血と粘性の増大による脳室拡大
◎脳室拡大による実質縮小の影響
これらのつながりはすべて仮説であり、
現時点での私の調査の限りでは
具体的な研究報告を未だ示せていない部分です。
特に発達期の人のケースにおける子供、
あるいはその中の早産児において
上述した項目がどのように関連性を持っているかは
明らかではありません。
一方で、
高齢の時期に特に問題となるアミロイドβなどのタンパク質は
脳脊髄液の流れを決める上衣細胞の絨毛の動きを悪くします。
特に眠っている時に絨毛は活発に動き、
その速度は起床時に比べ50%程度速いですが、
その活発な時に老廃物となるタンパク質量が多いと
より敏感に絨毛の動きを弱める傾向があります。
従って、起床時と睡眠時の脳脊髄液の流れの差が
タンパク質量が多くなると小さくなります(556)。
この研究はマウスのケースですが、
人のケースにおいてアルツハイマー病の患者さんでは
起床時に脳脊髄液の流れが速くなります(557)。
これはRyota Makibatake(敬称略)らがマウスのケースで
脳の間質、脳室にタンパク質が多く存在する場合の
Figure 1C,Dで示すように(556)、
起床時と睡眠時の脳脊髄液の流速の差が小さくなることを
示唆するものかもしれません。
これは覚醒と睡眠のリズム、意識レベルの差に
影響を与えるものかもしれません。
特に睡眠の質を決めるノンレム睡眠(Slow wave sleep)は(558-560)
体の修復や再生のプロセスに影響を与えます(561)。
従って、1日の周期に合わせてリズミカルに
意識レベルをしっかり下げた深い睡眠をとる事は
恒常的な健康に影響を及ぼすと考えられます。
高齢期になると睡眠の質が低下する一つの要因は
Ryota Makibatake(敬称略)らの研究で示されたように(556)
脳の実質でのタンパク質の蓄積によって
脳の間質液や脳脊髄液などに混入し、
循環、排出に影響を与える上衣細胞上の絨毛の動きを悪くし、
その結果、老廃物の排出や睡眠に
悪影響を与えている事である可能性があります。
上述したように脳波がゆっくりになると
神経細胞間を伝達する電流信号の波がゆっくりとなり
発火のペースもそれに応じて遅くなります。
その脳波の周波数によって睡眠のステージが区分され
そのステージが入眠から起床までの間
どのような軌跡を描いているかというのが
「Hypnogram」と呼ばれます。
このヒプノグラムで睡眠の質を判断するときには
周期の遅いデルタ波に当たるノンレム睡眠の一番深いステージの
睡眠がしっかりとれているかが一つの指標となります。
覚醒時からこの深い睡眠までの脳波の周波数の差は大きいので
一定の時間が必要だと想定されます。
但し、少なくとも子供の場合は
Gonzalo C. Gutiérrez-Tobal(敬称略)らの研究から示唆されるように
中途覚醒後、急峻に非常に深い睡眠に入るケースは
あるかもしれません(562)。
この章では健康上問題が生じやすい早産の子どもの
睡眠、睡眠の発達について考えます。
Yoko Asaka(敬称略)らは満期産児に比べて
早産児では夜間に起きる頻度が統計的に
有意差があるほど大きくなります(431)。
これは早産児が深い睡眠が
「多くあるいは安定して」とれていないことを
示唆するものかもしれません。
Alicia K. Yee(敬称略)らが示すように
早産の子どもの中でも無呼吸の頻度が高い子供は
脳の機能に問題がある事が示されています(403)。
これらの報告から
睡眠時の無呼吸は多くの睡眠の中断を伴い、
それにより主に夜間に経験するノンレム睡眠が失われ、
そのノンレム睡眠は体の恒常性だけではなく、
成長時の脳、身体の発育にも関わり、
子どもの健康に悪影響を与えている重要な要因の一つである
と想定する事もできます。
Gonzalo C. Gutiérrez-Tobal(敬称略)らは
子どもの閉塞性睡眠時無呼吸
(Pediatric obstructive sleep apnea(POSA))。
これについて報告しています(562)。
以下に、少し掘り下げて内容について記述したします。
小児閉塞性睡眠時無呼吸は睡眠中、気道が閉塞し、
呼吸が停止してしまう疾患です。
寝返りを打てない赤ちゃんの場合は当然、
次の処置は危険性を伴いますが、
少なくとも大人においてはあおむけで寝ると
枕で首を曲げた状態で寝ると気道がふさがりやすくなるため
横向きで寝る事が推奨されます。
これは睡眠障害の中では共通的に見らえる疾患であり、
子どもにおいては
神経認知、行動、発育に影響を与えます。
この小児閉塞性睡眠時無呼吸と睡眠の深さを図るために用いられる
脳波計における脳波測定との関係性については
今まであまり調べられてきませんでした。
5-9歳の294人の子どもに対して一晩中脳波測定を行っています(562)。
閉塞性睡眠時無呼吸の程度が重篤になると
様々な脳波での睡眠に影響を与える事がわかっています。
この研究から睡眠時に数秒無呼吸になることで
呼吸機能を回復させるために覚醒状態に入り、
それによって睡眠時の脳波が乱されると想定されています(562)。
ここでは特に深い睡眠に焦点を当てています。
閉塞性睡眠時無呼吸が重篤な子どもは
デルタ波において0.5Hz以下の異常に低い周波数成分が
相対的に大きくなっています。
この事は睡眠時に無呼吸になる傾向にある子どもは
ノンレム睡眠がとれないのではなく、
健康な子どもではあまり見られないような
異常に深い睡眠が多くなり、
様々なステージの睡眠が健康な人と比べて
全体的に逸脱している事を示します。
(参考文献(562) FIGURE 1より)
この結果は上述した呼吸の問題による中途覚醒が
深いノンレム睡眠を失わせるかもしれないという仮説を覆すものです。
従って、子どもの夜間の覚醒と睡眠の質の問題は
それほど単純なものではない可能性があります。


//早産児と授乳の関係//
私が注力する薬物動態学に10年以上前から取り組まれてきた
京都大学の樋口ゆり子准教授は
前述した臍帯血に多く含まれる幹細胞のうち
間葉系幹細胞に着目されていますが、
この幹細胞は早産児の健康ギャップを埋める上で
非常に鍵となる生命科学因子と考えられます。
樋口氏は2050年において未病社会を実現する事を目指されていますが、
山中伸弥教授は生物における少なくとも多くの病気は
細胞の老化にあると定義されています。
従って、生命サイクルの初期に当たる幹細胞を
より深く理解する事は多くの疾患の原因や
未病社会を実現する上で非常に重要なつながりを持つかもしれません。
しかし、生命科学は複雑であり、
そのような老化が必ずしも病気とつながるわけではありません。
例えば、p53という重要な遺伝子があります。
通常細胞は協力しながら通常は恒常性を保っていますが、
異常な細胞が生じると細胞死させるようなプログラムがあります。
それにp53は関わっていますが、
その時にp53はその細胞死させるべき細胞の老化を
制御させるともいわれます(64)。
実際にドイツのマックス・デルブリュック・センター
Clemens A. Schmitt(敬称略)は
細胞の老化は癌生成の自然な障害、防止因子になっていると
総括しています(65)。
しかしながら、
この記事に議題にしている新生児、小児医療や
感染症予防、治療など公衆衛生の改善によって
長く生きる人が増えたことから
癌によって亡くなる人が増えています。
それは、山中教授が言われるように
通常細胞の老化が根本的に関係しているかもしれません。
しかし、それは分泌物、神経系などを考慮した
システム的な事を含めた老化であり、
細胞単体としてみたときには必ずしもそうではなく、
適切な老化のプロセスが失われる事によって
癌化が進んでしまう事もあるということです。
実際に癌幹細胞というのも存在します(66)。
私たち人の身体の基本単位の一つは細胞であり、
その細胞の隙間は細胞外マトリックスや液体によって埋められていますが、
私たちが生命活動をするにあたって
絶え間ない連携を駆動するものは
細胞間の信号の伝達や共生する微生物やウィルスによるものです。
従って、その重要な一つの因子である
内部に多くの小器官を含む細胞を考える事が重要であり、
その細胞の若さ、質を考える事は同様です。
しかし、地球の今までの歴史の中で
単細胞生物から多細胞生物に進化した時点で
細胞は分化、増殖能を獲得し、
それにより組織や臓器を手に入れる能力を得ましたが、
その副産物として癌化があると考えられています(10)。
山中氏が発明されたiPS細胞による再生医療や
樋口氏が提案される薬物送達学による組織内臓器形成は
人為的な細胞分化、増殖を促すものですから、
アシーナ・アクティピス氏の記述を参考にすると、
それは常に「癌化」と隣り合わせです。
組織形成は例えば、
骨髄系の好中球や単球、マクロファージなどの影響も受けます。
例えば、癌組織は細胞外小胞などを含め
多くの分泌物を循環器に放出します。
その信号を受け、骨髄では
癌関連の骨髄系免疫細胞が形成されます(67)。
それが癌組織の形成を促進します。
この事は通常組織においても当てはまるはずです。
つまり、組織化、臓器形成は
周りの分泌物や免疫細胞の影響を受け
バランスを取りながら生じると考えられます。
それをアシーナ・アクティピス氏は
「綱渡り形成」と呼びます(10)。
大人になれば、身体の大きさは安定し、
細胞の入れ替えはありますが、
大きさにおいては恒常性が保たれ、過渡的ではありません。
しかし、特に年少期のお子さんは
身体のあらゆる部位が過渡的に成長する時期ですから
恒常性と共に組織形成、臓器形成について付加的に考える必要があります。
その中核を担うのは幹細胞であり、
早産児が部分的に獲得機会を失った臍帯血由来の幹細胞と
それを補う事が期待される母親の授乳から得られる幹細胞の
違いを理解する事は非常に重要です。
このような幹細胞は
今述べた臍帯血や母乳の他に
胎盤組織、骨髄、脂肪組織、歯肉などからも得られるとされています(25)。
例えば、幹細胞の一つである間葉系幹細胞は
臓器移植の後などに必要となる
移植片対宿主病の治療にも使われる事があります。
このように抵抗原性である事と
増殖能が高いことから細胞医療で注目されています(68)。
このような幹細胞の抽出源は
その選択肢が多ければ多くの可能性が生まれます。
iPS細胞などからの抽出も挙げられますが(69)、
Shailaja Mane(敬称略)らは上述した母乳からの抽出が可能である
とされています(25)。
一方で、
Julian Kaps(敬称略)らは人の初乳が
神経生成において重要な役割を果たすとされています(70)。
Shailaja Mane(敬称略)らの報告によると(25)、
母乳の幹細胞は時間の経過につれて
顕著に減少していくといわれています。
これらの事実を組み合わせると、
初乳には幹細胞が多く含まれ、その幹細胞が
神経生成を含めたその後のお子さんの組織、臓器の健全な
形成に大きく影響を与えるかもしれません。
その観点で考えると
特に子宮内での臍帯血を通じた幹細胞の供給機会の一部を失った
早産児においては、特にその授乳においては
授乳期間の特に初期において適切に授乳が行われることが
重要であるという事が示唆されます。
当然、初乳に近い時期に乳児が母親から幹細胞を受け取るとすれば
臍帯血のように直接、血液連結ではなく、
消化器を通じてとなります。
ここで科学的に考えないといけないのは
授乳によって得られた幹細胞が
腸内細菌が存在する粘膜、うねっているバリア組織、免疫細胞領域を超えて
臍帯血で得られる幹細胞と同じように血中に運こばれて、
脳神経を含む体全体に輸送されるプロセスです。
当然、直接的な血液連結に比べて効率は落ちるはずです。
これについての詳細な研究結果は今のところ見つけられていません。
乳児における幹細胞研究は進化しており、
将来的にそれが明らかになる可能性があるということです。


//腎臓//
早産低出生体重児は、
慢性腎臓病に罹患しやすいことが知られています。
小児期に中等症以上の慢性腎臓病を発症した人は、
出生時体重が十分にあった子どもに対して
低出生体重児が約4倍多いとされています(145)。
腎臓はネフロンという構造単位の集まりであり、
そのお子さんが生涯もつネフロン数は
在胎期間と非常に高い相関があるとされています。
これは下述するように腎臓のネフロン数の決定が
妊娠期間中の後期で生じるからであると想定されます。
しかしながら、どのような人が
慢性腎臓病に罹患するかはまだ理解の途上にあり、
腎臓に関する健康診断の手順もまだ定まっていないのが
現状であるとされています(797)。
上述したように医療レベルの向上で
命が助かるお子さんが増える中で
一定割合、早産、低体重で生まれる人がいるのが現状です。
下述するようにネフロン数が決定する前の
超早産で生まれた子供において
通常は分娩後にはネフロン形成は生じませんが、
その不足を補償する一定のシステムが
分娩後に超早産の子どもには生じる可能性が示唆されています。
その様な中で分娩直後の
新生児集中治療室(NICU)において
授乳のタイミングや睡眠の管理など
様々な重要な因子があると想定されますが、
将来、慢性腎疾患のリスクを減らすために
具体的にどのような管理が好ましいかは判明していません。
その様な事がエビデンスに基づいて
明らかになるのには多くの時間を要すると判断されています(797)。
胎児を含めた子どもの疾患を理解するにあたっては
組織の成長に関する分子細胞生物学を基礎として
より詳細に理解する事が大切です。
例えば、肝臓の再生を初め
組織の成長に関わる代表的な成長因子として
肝細胞増殖因子(HGF)があります。
これが新生児の成熟の一つの指標、因子となっています(798,799)。
細胞、その集まりである組織、臓器の形成は
このような増殖因子だけではなく
免疫細胞を引き付けるケモカインや
サイトカインの一種であるインターロイキンなども関わっています。
このような組織形態発生の機序の理解は
まだ発達途上にあると理解しています。
なぜなら、生体外のオルガノイドでは
完全に生体内のシステムを再現できないからです。
早産児健康促進の為の包括的情報における腎臓の章にあたっては、
細胞の動き、接着などを含めた
腎臓の組織学的な形成機序にも踏み込んで説明いたします。
--
腎臓には血中の老廃物をろ過して、その排出の為、尿を生成する
ネフロンと呼ばれる組織があり、
肺の肺胞のようにそれが構造単位となって
左右の腎臓それぞれの100万個以上存在します。
腎臓病罹患率は成人全体で8人に1人といわれており、
80歳代では2人に1人と言われています。
腎臓病の程度はGFRや血漿クレアチニン濃度などによって
決まっているのですが、
上述した左右の腎臓にあるろ過のための
構造単位であるネフロンを基準に考えると
John A. Kellum(敬称略)らがFig.2で示すように(71)、
正常に機能しているネフロンの割合が
おおよそGFRや血漿クレアチニン濃度と関連して
減少していきます。
腎臓というのは構造的に複雑な臓器なので
幹細胞を使って人工臓器を作って移植する事は難しく
透析などで治療が難しければ、
最終的には腎臓移植になると考えられます。
しかし、ネフロンが機能不全になるかならないか
その閾値、境界は臓器形成に関わる組織学的観点で考えると、
生体内への幹細胞への供給、
あるいは幹細胞由来の細胞外小胞のそれによって
機能不全になる閾値、境界の位置は変えられるかもしれません。
細胞自身は入れ替わるとされており、
肝臓や皮膚などのように再生機能の高い臓器、組織もありますが、
腎臓でもその入れ替わりがあり、
肝臓のような再生性は期待できませんが、
医療的な介入によって
その再生、維持能力を幾分か向上させる事ができるかもしれません。
機能的なネフロンの割合が関係するならば、
腎臓病であるかどうかは
簡単には2分化できず、漸次的変化の特徴がある
と想定できます。
そのグレーゾーンを動かし、
今まで腎臓病と診断されていた人の一部は
予備軍にシフトするようなことができないか?
現時点ではそのような観点を持っています。
一方、
胎児においては満期産児の場合は
在胎期間37週から40週の間に分娩を迎える事が基準となります。
Megan R. Sutherland(敬称略)らによれば
その直前である在胎期間約36週に
最大のネフロン数となり、
ネフロン形成は完了すると言われています(72)。
つまり、参考文献(72)のFig.2で示されるように
ネフロンは出生後には増殖しないと考えられています。
その理由としては
腎臓が正常な機能を果たすためには
構造が複雑な腎臓において数や配置が重要です。
それが出生後も続くとなるとそのシステムが乱れる事になるため
腎臓の不全につながることがあるからです。
ネフロンの増殖はホルモンの影響を受けるとされていますが、
出生後は、そのホルモンによるシグナルが減少し
新しいネフロンの形成が制約されます。
しかしながら、早産児に限っては
糸球体生成は出生後40日まで続いたという報告があります(75)。
特に妊娠後期に多くのネフロンが形成される
と言われていますので
上述した早産の場合、ネフロン数が減少する
可能性もあります(72)。
この記事で問題にしている様に
早産では胎内での臍帯血を受ける機会の一部が
失われますから、脳神経などと同様に
36週までに腎臓形成が生じ、
それ以前に分娩されれば、
腎臓形成が未熟な状態で外界へ出生されることになります。
早産では腎臓の成長が阻害され、
母親の臍帯血の幹細胞によって生成すると
考えられているネフロンの数が
減少する結果となります(72,73)。
このような腎臓の組織形成のタイミングにずれがあると
成長初期などを含めた微生物などを含めた
有害な物質に対する暴露に対する耐性が低くなる
懸念があります。
それによって腎臓の健康が脅かされ、
ライフスパンの中で慢性腎疾患のリスクが高まってしまう
という懸念があります(72)。
ネフロンが少ないという事になれば、
先天的に老廃物をろ過するための糸球体の表面積が減少し、
その機能が低下する事が考えられます(72)。
従って、早産や低体重児においては
全ての子どもではないものの、
少なくとも一部の子どもに対しては
将来的にエビデンスや安全性が揃う条件下において
特に生後すぐの段階で腎臓の組織形成の補助ができるか?
それを現段階で検討する余地があります。
人の初乳には多くの幹細胞が含まれることが
すでに示されており(25)、
少なくとも脳神経においては
初乳の授与により、その成長が促される
ことが示されています(70)。
腎臓のケースでは特に初乳に限っては
人に関する報告は見つけられませんでしたが、
豚においての腎臓では脳や心臓のように
初乳特異的な高さを持つ組織の元となるタンパク質合成は
確認できなかったものの
授乳する事で、それがないよりも
腎臓形成の為のタンパク質合成が多かったことが
確かめられています(79)。
実際に臍帯血には多くの幹細胞があり、
母乳の特に初期には多くの幹細胞が同様にあり(25)、
このような幹細胞は組織形成、臓器形成に関わる
再生医療においては鍵となる物質です(80)。
従って、臍帯血、初乳に多く含まれる幹細胞が
それぞれ臍帯や消化器を通して
お子さんに供給されるわけですが、
その時の腎臓を含めた臓器形成にどのように影響を与えるか?
それについて調べることは
少なくとも一定の意義があると考えられます。
一方で、
幹細胞がそれに与える影響と
それを含めた腎臓形成が細胞レベルで
どのように段階的に進んでいくか?
それについて理解する事は重要です(76)。
腎臓の臓器形成について詳しく掘り下げていきます。
それは、腎臓に限らず子どもの臓器形成の基礎となり、
腎臓形成不全を持つお子さんの
将来的な医療介入の為の研究につながる可能性があるからです
哺乳類の腎臓の発達は
一般的なコンセプトとして
◎上皮間葉相互作用
◎誘導的な信号伝達
◎上皮細胞極性
◎分岐形態形成
これらがあります(76)。
上皮間葉相互作用では
上皮の尿細管が腎臓の主要な動脈ルートである
背部大動脈方向に分岐形態形成しならが伸びていきます。
従って、組織成長する必要がありますから
その為の細胞供給、増殖、分化が必要です。
この尿細管の分岐形態形成のためには
近くの間葉系細胞が関連します(76)。
従って、臍帯血や母乳の中に含まれる
間葉系幹細胞はネフロンの尿細管の形成において
重要な役割を果たしている可能性があります。
このような間葉系細胞は
新しく分岐形成された細管の先端に凝集します。
(参考文献(76) Figure 2より)
(参考文献(77) Fig.4より)
これがどのような受容体によって
先端に固定されるか?
その一つはNotchタンパク質、リガンドです。
間葉系細胞が凝集するときの間葉系細胞間の接着は
一般的に細胞間接着因子である
カドヘリン6が関係しているかもしれません(77)。
このような組織内での細胞の移動、接着においては
◎インテグリン
◎カドヘリン
◎免疫グロブリンスーパーファミリー
◎セレクチン
これらなど細胞接着因子(CAMs)が表現型を
周辺環境の影響を受けて変えながら
系統的に機能している可能性があります。
このような接着因子の作用により、
先端に凝集した後、
間葉系から上皮系の細胞に転換し、
それが尿細管の組織になって
背部大動脈の方向へ誘導されて延びていくと考えられます。
このような組織形成には
どのような方向に、どれだけの長さで
尿細管が間葉系細胞からの転換を受けて
行われるか?という事が重要であり、
それに関わる信号伝達があります。
RET、Gdnf、GFRα1などが関わり
EPKが活性化する事によって分岐や増殖が生じます。
これらを含む信号伝達の中で
間葉系幹細胞を含む幹細胞の局所貯蔵(プール)は
その細胞の分化、生死、再生において
精緻なバランスを必要とします。
もし、細胞の分化が非常に速い状態であると
自己再生が過剰になり、
結果として、小さく、未熟な腎臓になってしまいます(76)。
従って、ネフロンの成長不全が生じる場合には
臍帯血や母乳由来の幹細胞の供給だけではなく、
それが生着した後の周辺の遺伝子的な信号伝達のバランスが
健全な組織形成のためには大切であるということです。
前述したように腎臓は多能性幹細胞を通じて
人工的に作られる臓器の最後になるかもしれない
といわれるほど組織的に複雑です。
特に糸球体の構造は組織が複数の層で離れて重なり合い
複雑に湾曲した構造となっています。
その組織形成は4つのステージに分けられるとされています(78)。
非常に簡略的な解釈になりますが、
以下にその概略を説明します。
基本的に血液は糸球体係蹄壁などを通じてろ過され
その後の経路となる内腔の管組織の一部である
糸球体の上皮細胞は上述した尿細管につながりますが、
この糸球体の上皮組織の形成、形状が複雑で
1つの目的としてろ過機能を上げるために
小さい空間内で体積を大きくとるため
入り組んだ形で管上組織として曲げる必要があります。
(参考文献(76) Figure 2より)
その曲げるために必要なきっかけとなる物質が
円状の「Renal vesicle」です。
これも細管と同じように間葉系細胞から生じるとされています。
上述したように細胞極性は
細胞の動的機序の中でそのベクトルが非対称で
任意の方向性を持つ事を意味します。
これは特定の信号に従って、
任意の細胞の連結を示す組織の形を決めるものである
という風に捉える事ができます。
上述したように細胞接着に関わるカドヘリンや
間葉系から上皮系の形質に細胞が変化するJNK経路は
細胞の極性、組織の形を決める上で重要です(76)。
また、組織の抹消部にはNotchとリガンドが形成され
これも組織の形や大きさにおいて重要です。
大人になれば、あるいは成長中の子どもでも
脳や臓器の大きさは制御されています。
大人であれば脂肪の付着などを除いては
その大きさが劇的に変わる事はありません。
そのような形、大きさの成長速度、維持は
上述した
尿細管の伸長に関わるEPK、
末端部に存在するNotch受容体、
間葉系細胞から上皮細胞に変換するJNK経路、
あるいは間葉系細胞の凝集に関わるカドヘリンなどの
発現量が絶妙に調整されることによって
その機能の一部を担っている可能性が考えられます。
従って、身体の小さい低体重児や早産児においては
その体に合わせた形で
脳、心臓、肺、肝臓などの他に
ここで議題にしている腎臓においても
その形、大きさ、成熟度が過渡的に決まっていると考えられます。
今述べた様に腎臓のネフロンの成長のためには
その構造的な材料となる間葉系幹細胞の供給は
恐らく不可欠ですが、
それと同時にその成長や形を決める
上述した細管分岐形成、細胞接着、形質転換、末端部固定などに関わる
信号のバランスや
組織にプールされた幹細胞の分化、生死、再生の
バランスを決める信号、
アルギニン・バソプレシン、副甲状腺ホルモン、カルシトニン、
βアドレナリンカテコールアミンなどのホルモン(74)など
重要な因子は多岐に及びます。
例えば、子宮内の妊娠後期に腎臓が発達すると言われています。
その時期に早産によって体外に出たとすると
同じ大きさの赤ちゃんが子宮内にいる場合と
体外に出ている場合が存在します。
もし、身体の大きさにある程度比例する形で
腎臓などの臓器の大きさが決まっているとするならば、
それに付随した上述した
幹細胞の分化、生死、再生、組織の形、大きさを
決める様々な信号のバランス
成長を駆動するホルモン量などが類似しているか?
それについて問いかける事は意義があります。
言い方を変えれば、
早産によって早く体外に出た場合、
それらの信号のバランスが胎内にいるときに比べて崩れる事はないか?
ホルモンの量は成熟の為、十分分泌されているか?
そうしたことを臓器形成を補助する上で考える必要性が出てきます。
このような多面的な機序が存在する腎臓形成について考える事は
他方において、
幹細胞を使った人工の腎臓の形成を成功させる上において
必要になる事だと考えられます。
また、臓器は成熟した時には
成長因子や化学物質を放出したり、
細胞間でコミュニケーションを取る、
神経的なシグナルによる関与を受け
組織の成長をストップさせるような機序がある可能性があります。
もし、予め胚の状態から腎臓の大きさ
それに伴うネフロンの数の到達予定数があって
多少の外的要因による後天的な擾乱を受けながらも
一定の揺らぎの元、成熟のセットポイントがあるならば、
何らかの要因で早産というイベントが生じた時に
そのセットポイントに従って、
通常は起こりにくい出生後も
ある一定期間、ネフロンの生成が続く
ということかもしれません。
そうした場合、初乳には幹細胞が多く含まれていますから
特に早産で生まれた赤ちゃんに対しては
その予備的な成長機会を失わないために
初乳を含めた授乳を特に初期に関しては
適性に行う事が腎臓の発達において
非常に重要な意味を持つ可能性があります。
上述したように28週以降の妊娠後期に
腎臓の基本的単位であるネフロンの数が
急速に増えるとされていますが、
実際には妊娠中期の15週目あたりから
少しずつネフロンが形成され始めます。
その準備段階としての分岐形態形成は
妊娠初期の5週目あたりから生じます。
(参考文献(72) Fig.2より)
ネフロンの数によって腎臓全体の糸球体のろ過表面積が変わりますから、
それによってその後の人生における
様々な組織の炎症因子に対する強靭性は変わります。
機能しているネフロンが多ければ、
当然、それが高くなると考えられます。
しかし、ネフロンの数には個人差があり、
生後3か月の時点では
24万個から110万個の約4.5倍程度の開きがあります(79)。
上述したような腎臓の組織形成に関わる信号伝達を決める
遺伝子の多形や変異によって
人のケースでもネフロンの形成の基礎となる
分岐形態形成やそこからのネフロンの形成に
影響を及ぼすとされています(79,80)。
このような信号は子どもが子宮内にいるときには
その子宮、それを支える母体の影響によって
後天的に変わる事もあります。
◎栄養摂取(主要栄養素、微量栄養素)
◎喫煙
◎アルコール摂取
◎免疫調整剤投与(グルココルチコイド)
◎薬物暴露
◎母親の健康状態
◎子宮の機能
これら多彩な因子がネフロンの形成に影響を与える
可能性があるとされています(81-87)。
このような生活習慣、薬物治療、母親の健康状態などによって
子宮内にいる子供の腎臓形成に影響を与えると
考えられていますが(72)、
早産児を含めて、出生後においても
急性腎疾患にも注意を払う必要があります(88)。
早産児はあらゆる臓器が未発達の場合が想定され、
それらの臓器は出生後も発達する可能性はありますが、
外界へ出た瞬間に、母親から切り離され、
NICUなどによって調整しやすい環境ながらも
呼吸、血圧調整、消化などを自立的に行う必要があります。
腎臓においてもそれは同じです(72)。
従って、上述したように
急性腎疾患などのリスクを想定する必要があります。
例えば、疫学的には
在胎期間29週以下では45%、29-36週では14%と言われています(88)。
急性腎疾患の診断は
発生のタイミングは生後4週間くらいまでが
最も起こりやすいとされていますが、
この期間は診断因子の一つである血漿クレアチニンレベルが
参考文献(88)のFig.1のように安定しないという問題があります。
従って、診断のためには
◎尿量の減少、色、血圧、浮腫
◎尿のタンパク質、炎症マーカーの分析
◎クレアチニン、尿素窒素
◎超音波による腎臓の異常分析
◎尿路造影や核医学検査
これらなどを小児腎臓専門医のチームによって
総合的に判断されるとされています。
ここで詳しく述べた背景としては
前述したように早産児においては半月から長くて3か月くらい
在胎期間が短いことになりますが、
出生後、本来なら胎内で腎臓が37週時点で成熟していた期間内に
外部環境で急性腎疾患が多いという情報があるからです。
その期間、NICUに入って、授乳が行われると思いますが、
初乳にはおそらく腎臓の成熟までの成長における
幹細胞などの重要な成分が多く入っているため(25)、
その授与が円滑に行っているかどうかが
臨界的な時期にはありますが、
急性腎疾患のリスクに影響を与えるかもしれないと考えたからです。
しかし、調べた結果、明確なエビデンスは得られませんでした。
前述したように早産児においては
ネフロン生成は分娩後も生じますが、
それは2-68日程度であり、
そのいわゆる「補償効果」は
年齢が一致する子宮内にいる胎児に比べて短く、
完全ではありません(107)。
この事は臍帯血の供給や子宮内の環境による
ネフロン生成に関わる多くの要素が
仮に授乳によって補償されたとしても
欠けているものがあることを示すものかもしれません。
これからの早産の母親に過剰なストレスを与えるつもりではないし、
むしろ、今後、より良い初期の授乳を現場の医療スタッフを含めて
私にはないその経験をもとにして考えてほしいという観点から
今からそこについて詳細に切り込んでいきます。
初乳の出るタイミングと量には個人差があります。
通常産後、1~3日目と言われ、
出産状況により1週間ほどかかると言われています。
また、分泌量も人それぞれです。
先ほど、早産児の分娩後のネフロンの生成に開きがあるという
報告を提示しました。2~68日です。
在胎期間にもちろんよりますが、
それが顕著に短い早産児においては
多くの場合、ネフロン数は少なくなることが想定されるため
出産後のネフロン生成を如何に長くとれるか?
という事は重要な問題になると思います。
そのネフロン生成は分娩後のすぐの過渡期の
赤ちゃんに対する授乳をどのように行うか?
これが一つの重要なコンポーネントである可能性があります。
ただ、これにはまだエビデンスがありません。
しかし、上述したことを総合的に考えると
私と同様の仮説を立てる人はいるはずです。
実際にKatsumi Mizuno(敬称略)は
早産では乳汁来潮が遅れる事がありますが、
産後1時間以内にさく乳したお母さま方は、
予定通りの時期に乳汁来潮が起きたとされており(108)、
できるだけ早くさく乳を始めることが大切であると述べています(109)。
また、早産があった時には
お子さんだけではなく、母親の心のケアも考える必要があります。
その際、低中所得の研究では
カンガルーケアによって産後うつのケースが低くなるかもしれない
ということが統計的な信頼性を上げる余地が残されているものの
示されています(110)。
また、ここで腎臓の形成において問題にしている
乳量の多さ(111)、授乳の長さ(112)にも関係します(109)。
これらの報告は早産児における分娩直後が
腎臓のネフロン生成の過渡期として
如何に重要であるかという事を直接的に示すものではありませんし、
それを特異的に調べるためには
長い期間を掛けたフォローアップ研究も含めて
綿密に条件を考えて、臨床研究を行う必要があります。
しかし、その結果が出るまで待てないはずですから
すでに、早産児において
現場の感覚として、授乳が大切である
というものが医療スタッフにあるのであれば、
それを母親、子どもの心身の安全性に配慮しながら、
より詳細につめていくことは大切かもしれません。
なぜなら、大切なのは腎臓の形成だけではなく、
脳神経を含めた全身であり、
特に臨床報告で新生児の健康の指標として
世界保健機関(WHO)が行った、
低中所得国のカンガルーケアの効果において挙げられているのが
乳幼児の死亡、低体温症、敗血症です(110)。
従って、その後の広範な健康状態や、命に関わることです。
敗血症は壊死性腸炎とも関連があります。
この壊死性腸炎は早産児に起こりやすい疾患です。
当然、腸炎になるということは
腸の組織が十分に発達していない事も関連しているでしょうから
腸のバリア機能に不全があると想定されます。
そうした場合、
細菌がバリアを超えて内側に存在する免疫機能を惹起させ
炎症反応の原因となったり、
直接的に血液内に侵入する事で敗血症に繋がると考えられます。
しかしながら、
腎臓も含めて、腸や脳の発達に
早産児では問題になるケースがあるわけですが、
そのように組織の異常が「想定される」という事に留まります。
その明確なエビデンスを得るためには
できれば生存した状態での人の
単一細胞種レベルでの解析手法が欠かせません(114-117)。
このような解析手法が非侵襲で
早産児に連続的に適用することができれば、
実際に肺の気管支異形成症や虚血性脳炎などを発症している
即時の治療が必要な早産の新生児は特に
有望と考えられる臍帯血の単核細胞、幹細胞治療において
臨床前の動物実験で確かにこれらの症状は緩和したけど
人のケースでは顕著な結果が
それらの機能を示す「即時的な数値」としては
コントロール群に対して統計的に有意差がないとなった時に(8)、
「では、組織レベルでの解析ではどうか?」
という別のアプローチで臨床結果として評価することができます(114-117)。
この組織的な事を含めたエビデンスを得る事は非常に重要です。
新たな発見があるかもしれないし、
どのような細胞を用量、タイミングを含めて投与するのが
一番、広範に健全な成長を補助できるか?
ということを示すための一つの足掛かりになる可能性もあります。
前述したように
いずれにしてもこのような研究を臨床に適用していくためには
10年規模の時間がかかる可能性があります。
今できることとして重要なのは
早産の新生児に対して、
できるだけすぐに授乳をすることが重要かどうか?
その判断であり、もしそうであるとするならば、
お母さんの心の負担にならない形で
どのようにそれを実現するか?
それを医療スタッフが考える事だと思います。
もちろんその責任を現場のスタッフに丸投げするのではなく
例えば、私のケースで言えば、
この記事をより充実させる事で
様々な職種の医療スタッフに不足しているかもしれない
基礎総合医学的な信頼性のある情報を提供していく事です。
すでにその一部は実現していると信じています。
また、「Human BioMolecular Atlas Program」は
アメリカ合衆国を中心に進められていますが、
この知見は、人の延命など夢のあるテーマだけではなく、
早産児の健康ギャップを埋めるものに
少なくとも私はつながると想定しています。
新生児医療に携わる医療スタッフの方々は大変かもしれないですが、
様々なところでつながっています。
前述したように、
腎臓の機能はネフロン数だけで決まるわけではありません。
ネフロンの中の比較的大きな視点でいれば
糸球体のろ過後の液体を受け取るC字型の腎小体が
通常よりも大きかったり、小さかったりすることで
ろ過機能に異常が出ます。
また、糸球体の毛細血管が上手く形成されない事によって
ろ過量が低下する事も考えられます。
このような異常が、ネフロン単体で見た時に
早産児で生じる可能性があります(118)。
また、より微小な視点では毛細血管から尿細管に通じるまでの
ろ過する複数の層があって、それをポドサイトと呼びますが、
例えば、早産の新生児は上述したように
壊死性腸炎のリスクが高く、
腸には多くの免疫機能が集まっていますから
免疫機能に異常が出やすい状態です。
それによるサイトカインやショックによって
p38-MAPKが高まり、炎症反応を促進させる事がある一方で、
このp38-MAPKがなくなると
免疫応答が弱まり、組織修復が遅れ、
オートファジーの低下なども考えられます。
つまり、p38-MAPKは細胞の基本的な機能に関わっています。
一酸化窒素を含めた血管拡張作用のあるGC-Aが共に欠損していると
腎臓のポドサイトのろ過機能が低下することが確認されています(119)。
一般的にGC-Aは一酸化窒素を介した血管拡張作用に関与し
腎臓のろ過機能に影響を与えていると考えられています。
実際に、高血圧は慢性腎臓病のリスク因子の一つです(120)。
なぜ、そうなるか?
その少なくとも一つの要因は
高血圧になると毛細血管壁に対する機械的ストレスが高くなるからです。
腎臓は毛細血管壁にポドサイトがあり
このような機械的ストレスに対する感受性が高いと考えられます。
従って、ポドサイトは損傷しやすい状態になると考えられます。
それによって腎臓のろ過機能が低下する事が想定されます。
一般的に血管拡張作用のある一酸化窒素は
血圧を適正に調整する機能がありますから
それに関与するGC-Aは重要なはずです。
このGC-Aが欠損し、かつ細胞の再生機能などに関与するp38-MAPKも欠損すると
おそらく免疫系の過剰な反応による炎症よりも
ポドサイトの基本的な細胞の機能、
血管拡張作用低下による機械的ストレスの方が
負の影響が大きくなり、
腎臓の機能に影響を大きく与えてしまうものであると考えました。
これはネフロン単体で見た時のろ過部の微視的な視点に焦点を当てた
循環器学、細胞生物学による腎臓の機能の低下について考えるものです。
少し研究報告の参照に当たって、
内容は腎臓の基礎医学に関する一般的な内容になりましたが、
早産児の腎臓の機能を考えるにあたっては、
ネフロン数も重要ですが、
前述したモデルに基づく
1つ1つのネフロンの構造的な完全性や
それを取り巻く循環器などの条件も重要という事です。
ネフロン形成に関わっているホルモンのうち
胎盤由来のものがあります。
エリスロポエチンやインスリン様成長因子です。
子宮外に出れば、授乳があったとしても
胎盤由来のこのようなホルモンの一部を
十分に体に取り込むことができない可能性があります。
また、早産児は基本的に組織不完全性から
免疫的な作用を含めた炎症性が高まっている状態にあります(121)。
現時点で消化器や皮膚などと共生する微生物が
腎臓の形成に直接的に悪影響を与えているかどうかについての
特定の結果はありませんが、
Alexander Humberg(敬称略)らの総括(121)から
総合的に考えると一つとして敗血症様の症状を含めて
免疫炎症的な作用によって腎臓の組織形成に不全が出る可能性が考えられます。
例えば、染色体21番がトリソミーになるダウン症候群があります。
これはインターフェロン受容体に関わる部分で、
インターフェロンは免疫系と大きく関与する部分であり、
ダウン症候群の人は炎症反応が起きやすいとされています(122)。
従って、広範な免疫抑制作用を持つJAK抑制剤が
下流経路の対策として候補となる事から
ダウン症候群の人に対する臨床試験が行われているところです。
このダウン症候群の人はやはり
遺伝的な病気で、胎児、新生児の時からそうであることから、
腎臓に組織異常、機能障害が出るケースが多いです(123)。
ダウン症候群の人が経験する組織障害は
1つとしてインターフェロンの異常が原因として考えられますから
それと密接に関わる免疫系が影響を与えている可能性があります。
もし、そうであるとするならば、
早産児においても免疫機能と密接に関わる
腸の組織の不全によって生じる壊死性腸炎などによって
早期に、炎症性の免疫形質がインプリントされると
その後の組織形成に影響を及ぼす可能性があります。
上述したように早産児の腎臓形成の一部が
出生後に生じるとするならば、
そのような免疫系の炎症によって一部、
腎臓の組織形成異常が生じている可能性が考えられます。
それはネフロン数だけではなく、
1つ1つのネフロンの構造的完全性に関わるものです。
このような異形成は
ネフロン中の糸球体内部構造や周辺構造だけではなく
尿細管にも及び、異形成が生じます(125,126)。
上述したようにポドサイトの損傷も早産児において想定されますが、
その数を示すバイオマーカーであるmRNAの分析により
在胎期間とポドサイトの数は負の相関があることが示されました(127)。
結果として早産が生じるという事は
早く胎内から外界へ出るという事だけではなく、
胎内にいた時にも様々な子宮内、母体の異常が生じていたという事です。
例えば、妊娠高血圧腎症、羊膜炎、胎盤の不全などが挙げられます。
これによって、胎児に対して酸化ストレスが高まる、
炎症によって腎臓を初め、様々な組織の成長に悪影響がある、
胎盤からの適切なホルモン、内分泌物の異常があるなど
腎臓の成長を妨げるいくつかの要因が生じると想定されます(128-132)。
早産のリスクがある妊娠女性には、
典型的にはグルココルチコイドが処方されます。
その理由は、胎児の肺の成熟を早め、
早産が生じた時に未成熟状態により呼吸困難に陥らないように
呼吸機能を組織形成促進により胎内で高めるためです。
それにより実際に生存が高まったという報告もあります(133)。
しかしながら、一方で、このような免疫抑制剤は
同様に腎臓の成熟も早め(134,135)、
特に妊娠中期から後期にかけて過渡的に増えていく
到達ネフロン数が減少する事が報告されています(136)。
腎臓のろ過機能は毛細血管の外側にいくつかの組織層を作って
それによってろ過し、尿細管へ排出する事ですが、
もともと、腎臓は胎内でおおよそネフロン数が最大値に達する事が
報告されています(参考文献(72) Fig,2 Nephron endowment)。
従って、低い酸素濃度と低い血圧の状態で成長する事が通常であり、
早産によって腎臓が未成熟の状態で外界に出ると
酸素飽和度と血圧が上昇し、
それによって糸球体にかかる機械的なストレスや
酸素ストレス、その他、栄養供給、免疫の状態なども
変わると想定されることから
その後も一定期間、腎臓の成熟があるとすると
その環境は少なくとも最適ではないと考えられます(72)。
実際に新生状態のマウスでは
酸素を補充すると生後のネフロン生成において
悪影響があったことが示されています(137)。
また、Megan R. Sutherland(敬称略)らがFig.3に示すように(72)、
早産の新生児は細菌感染のリスクが高いですから
ゲンタマイシンなどの抗生物質が投与される事もあります。
これが副作用として腎臓に有害であることが示されています(138-140)。
また、早産児で診られる場合がある動脈管開存症に対して
その閉塞を促すためにイブプロフェンが投与されますが、
これも腎臓毒性があります(138-140)。
このような薬剤による腎臓毒性にはSLC22ファミリーである
OAT1が関わっていて、これを抑制することよって
血中の薬剤濃度を上げ、腎臓による代謝を減らし、
薬剤の腎臓毒性を下げる働きがある事が示されています(153)。
腎臓において代謝や体液の調整に欠かせないα-ケトグルタル酸に
有機アニオン輸送体OAT1が結合することによって
腎臓での薬剤排出が促進されますが、
OAT1を抑制する事によって薬剤の腎臓毒性を下げられる可能性があります(153)。
このような薬剤に対して腎臓毒性を如何に減らし
薬効を高められるかというのは一方で非常に重要です。
上述したように早産児の腎臓形成の不全によって
急性症状としてタンパク尿が生じる事が
少なくとも生後1カ月ほど続くことがあります(72)。
また、上述したように急性腎障害を発症する確率も
疫学的に決して低くはないですが、
それだけではなく、その後の長い人生の中で
慢性腎疾患に罹患する確率も高くなります。
腎臓における糸球体の機能と腎臓疾患の発症に関連する
重要な仮説としてブレナー仮説があります。
イギリスの腎臓学者であるバリー・ブレナーによって提唱されました。
その仮説によると
腎臓のネフロン数が少なくなった状態でも
血液から尿へ老廃物を排出するストレスが
人それぞれであまり変わらないとすると
その一定のろ過需要に対して
ネフロン数の不足を補おうとするシステムが働くというものです。
存在する糸球体や尿細管が肥大する事もあるということです(141)。
しかしながら、それで補えない部分においては
腎臓のフィルタリング率が高まるため
糸球体内のポドサイトに長期的に強い負荷がかかり
慢性的な炎症や線維化などの病態に進行する可能性がある
とされています。
また、低体重児は大人に成長した時の
肥満、糖尿病、高血圧症のリスクを上げるという
疫学結果があります(142,143)。
これらは腎臓の機能を低下させるリスク因子で
少ないネフロン数の負担をより増加させてしまいます(144)。
また、逆に糸球体に負荷がかかる事によって
組織の炎症や線維化などによって
糸球体のフィルタリング効率の低下から生じる
高血圧症も考えられるので(145)、
特に、ネフロン数が少ない、
あるいはネフロンに異形成がある低体重児においては
その後の腎臓機能の定期的な管理と
生活習慣にも関わる肥満、糖尿病、高血圧の管理も重要になります。
これらが併存すると負の循環につながる恐れがあるからです。
実際に疫学的に低体重児が慢性腎疾患のリスクが高まるか?
それについて全国的な研究が様々な国で行われています。
例えば、
ノルウェー、フィンランド、日本、
アメリカ、オーストラリア、スウェーデン
これらなどです(145-152)。
1.7倍から最大で4倍リスクが高まると言われています。
世界保健機関は慢性腎疾患に対して
生涯にわたる予防的な処置の重要性を謳っていますが、
早産児においては、
冒頭で述べた様に妊娠満期を迎えられるような
妊娠管理手法がいくつか存在します。
それは根本的な対策になります。
また、早産児に対する出生後
できるだけ早期の授乳の効果がどのように影響を与えるか?
それについての臨床研究も必要です。
将来的には幹細胞による医療介入も考えられます。
また、腎臓の疾患に対する効果的薬剤開発なども挙げられます。
WHOの提唱の通り、予防的な処置として
肥満、高血圧、糖尿病などにならないような
健康的な日常生活も重要になると考えられます。


//壊死性腸炎//
腸には虫垂と呼ばれる部位がありますが、
この虫垂は扁桃腺のように免疫細胞が集まっていると同時に、
虫垂は腸内細菌のバランスを保つ上で重要です。
元々昔は衛生状態があまりよくなかったわけですから
その適応の為、進化の過程で、
この虫垂は腸内細菌の保護作用を獲得し、
免疫系や、腸内細菌叢の
バランスがとられていたという解釈もあります(186)。
近年の衛生環境の改善は乳幼時期に命を落とす人を
劇的に減少させたという観点では最大級の偉業だと考えられますが、
一方で、虫垂という今まで衛生環境に対して
適応してきた消化器の部位のバランスを崩しやすくなった
という事はあるようです。
実際に虫垂炎(盲腸)になると外科的に切除する事が行われます。
この虫垂炎を放置すると、現代の発達した医療をもっても
命に関わる事態になるので、外科的に切除する必要があります。
その理由は消化器内で炎症や感染が広がることで
細菌が循環器の中に入る敗血症のリスクが非常に高まるからです。
このように消化器、その中で腸の組織を守る事は
人の命を支える上で非常に重要な事です。
一方で、
分娩前後でお子さんが経験する事は
酸素飽和度の変化や血圧の変化など循環器に関わる事、
もう1つは消化器に関わる事です。
胎内では臍帯血を通して生命を繋いでいましたが、
分娩後は自立的に命を繋いでいく必要があるため、
口腔からの栄養摂取が必要になります。
主に授乳に依ります。
その時には消化器を使う必要がありますが、
早産の子どもは腸の組織が十分に発達していない場合もあり、
David J. Hackam(敬称略)らがFig.1に示すように(187)、
細菌などを含めて様々な物質が免疫細胞が豊富にある領域や
循環器の中に入るリスクが高まるため
非常に危険な状態になります。
これを壊死性腸炎と呼び、
早産を初め、未成熟な子どもが命を落とす
一番の原因になっていると言われています(187)。
世界の乳幼児死亡率は
国や地域によって違いはありますが、
おおよそ3%~3.2%と言われています。
壊死性腸炎の発症率が7%であり(188,189)、
発症の時期などを勘案すると(190)、
そのうちの25%よりも高い割合で命を落とすので
おおよそ壊死性腸炎で亡くなる子どもは2%前後だと想定されます。
全体で3%ですから
壊死性腸炎で亡くなる子どもは2/3(67%)という事になります。
従って、
乳幼児の死亡率を下げるためには
壊死性腸炎の病理を理解し、
予防、治療、管理のレベルを上げていく事が非常に重要になります。
壊死性腸炎に対して、薬物など特定の作用を持つ治療は
まだ、存在していないと言われています(191)。
基本的には壊死性腸炎になっている時には
炎症や組織の壊死によって局所虚血になっている場合もあります。
腸は体全体で考えても大きな組織なので、
その腸の血液循環が炎症による血栓や血管収縮などによって滞ると、
全身の血液循環にも悪影響を及ぼすおそれがあります。
血液は酸素供給や代謝においても重要であり、
脳を初め様々な臓器、組織への影響を考えると、
局所虚血を速やかに解消する必要があります。
そのためには腸を休ませることが重要です。
経口による摂食を停止して、
鼻腔栄養チューブによって胃に直接栄養を届け、
胃の圧力を低下させます。
静脈内輸液や循環作動薬などを用いて
虚血を解消するために血流を促します。
また、腸内の組織が壊死しているという事は
通常は粘膜に存在する細菌が免疫細胞が集まる
腸のパイエル板や血管内へ侵入しやすくなっており、
炎症の原因や敗血症につながるおそれもあることから
腸内微生物に広範囲に作用する
抗生物質が投与されるケースもあります(192)。
それでも症状が進行する場合には
◎壊死している腸を切除
◎腸管の修復
◎腸管の一時的なバイパス手術
◎腹腔の排膿
これらなどの外科的なアプローチが取られます(193)。
そもそも
早産の子どもでなぜ壊死性腸炎が起こりやすいのか?
それを考える事は病理を考える一つの視点となります。
David W. Rittenhouseが参考文献(194)のFig.3に示す
胃腸の発達ステージがあります。
これを見ると明らかに
少なくとも形状としての成熟の速さでいうと
胃が一番速く、次に大腸で、その次が小腸になります。
実際に壊死性腸炎は小腸で生じ(187)、
そこから大腸の一部である結腸や直腸に拡大する事があるようです。
小腸の発達で気になるのが、
参考文献(194)のFig.3で示されるように
大腸の場合はおおよそ大人になって成熟する形が出来上がっています。
しかし、小腸に関しては長さも当然足りないのですが、
それに応じてまっすぐな部分も多く
位置もまだ定まっていません。
身体の大きさに合わせて、
その組織が比例して大きくなっていくとした場合に比べて
小腸のように複雑に入り組んだ形で
収納しながら成長していく場合では
細胞の増加曲線は大きく異なることが推測されます。
また、腸はひだがあって、表面積を多くとる性質があります。
つまり、
腸管そのものを長くし
ひだ構造の底にあたる腺窩(Crypt)なども含めた
腸管の表面積を大きくとり、
消化効率を上げる必要もあります。
その発育の速度は少なくとも小腸に関しては
空間的かつ組織学的な事も含めると
大腸や胃に比べて急速であると推定されます。
また、David J. Hackam(敬称略)らが参考文献(187)Fig.1で示すように
壊死性腸炎が生じる場所はひだ構造の底にあたる腺窩(Crypt)の部分です。
一方、Lauren C. Frazer(敬称略)らが
参考文献(195)Fig.1に示すように
腺窩(Crypt)の底の部分にはPaneth細胞と呼ばれる
特殊な免疫細胞が多く存在します。
この細胞の機能は
◎抗菌ペプチドや抗微生物物質を分泌し、病原体や細菌の増殖を抑える
◎消化酵素を病原体から保護し、消化機能を維持する
◎幹細胞の活性化を促進する(196)
◎腸の修復を助ける(196)
◎免疫機能を調整する(197)
このような腸の健康において非常にPaneth細胞は重要ですが、
Fardou H. Heida(敬称略)らの研究によると
このような機能としての適格性を持つPaneth細胞は
在胎期間29週以降に増えるとされています(198)。
もともと、早産の子どもにおいて
壊死性腸炎に対するPaneth細胞の重要性は
仮説が立てられていました(199-200)。
それを一部、立証する形となっています(198)。
壊死性腸炎が在胎期間29-33週の早産の子どもにおいて
疫学的にピークであるという事も関連しています(201)。
このPaneth細胞の成熟は
◎IL-22受容体信号(202)
◎Mist1発現(203)
これらなどが関連するとされています。
実際にはPaneth細胞の成熟は新生児から離乳期でも
エピジェネティックな改変によって続くと言われています(204)。
また、幹細胞からPaneth細胞への分化も必要です。
小腸の腸管はどんどん長くなっていきますから、
それに伴い腺窩(Crypt)を含むひだ構造も出来上がります。
その時にPaneth細胞も含めてバランスの取れた
組織として完全性の高い形成が必要なわけですが、
早産で生まれて、Paneth細胞が未成熟な状態が多く、
現状存在する小腸の腸管において、
壊死性腸炎が生じているのであれば、
上述したPaneth細胞の成熟を促す信号や遺伝子に働きかける事は
薬物治療としてのアプローチになるかもしれません。
すなわち、上述した
◎IL-22受容体信号(202)
◎Mist1発現(203)
これらに働きかけることです。
腎臓の場合は、胎内でネフロン数が決定するという事があって
体外での環境に組織成長が合わない部分もありますが、
腸に関しては最終的には小腸に関しては7mになり(205)、
ひだをまっすぐに伸ばすとその6倍とも言われます。
このような大きな組織がすぐにできあがるわけではないですから
腸管、その中の腸の細胞は生後もどんどん成長するので
壊死性腸炎などが生じたときには
腸を休ませながら、Paneth細胞など特に重要な細胞の
成熟を促して、腸の完全性を上げながら、
急性期を過ぎたら、その後の継続的な健全な
主に小腸の成長をどのように実現させるか?
これについて考える事になると思います。
ここからが一つ重要な考察になります。
Lauren C. Frazer(敬称略)がFig.1に示すように(195)、
妊娠初期では腸管全体とその微細構造であるひだが
同時に形成されると考えられますが、
その時に絨毛(villi)と腺窩(Crypt)ができずに
短い未熟な絨毛のみとなります。
それがやがて妊娠中期、後期、新生児、離乳期、、、
このように成長していくと
おおよそ妊娠後期の時にはひだ構造として
成熟した形で腸管が形成されると考えられますが(195)、
在胎期間29週当たりでPaneth細胞に対して
具体的に何が起こっているのか?
それについて考える事が非常に重要です。
言い換えれば、
Fardou H. Heida(敬称略)らの報告によると
この時期を境にPaneth細胞の機能が
過渡的に高まっていくわけですから(198)、
この29週以降の胎内において
母親の臍帯血の成分の中での何らかの物質が
Paneth細胞の機能に働きかけているはずです。
そこからPaneth細胞は(継続的に)成熟した形になるわけですから、
おそらく「遺伝子的な制御」が生じていると仮説を立てました。
これが起こっているか?そうではないか?
一定の議論の余地があると考えています。
壊死性腸炎で命を落とすお子さんが25%だとすると
75%の子どもは一命をとりとめて成長していくわけですし、
壊死性腸炎とは診断されないものの
腸に炎症を抱えて成長するお子さんもいるかもしれません。
成長期の子どもの疾患を考えるうえで
その後の長い人生、全体を配慮する事は非常に重要です。
それは小児がんに限らずサバイバーシップと言えます。
人の疾患は腸から始まると言われる医師もいるくらい
腸は非常に重要な器官であります。
その腸に異常が出るとするならば、
多くの免疫細胞が集まるところであるので、
免疫系の成長、成熟にも影響を与える可能性があります。
また、免疫系の作用を含めた循環器の炎症による
全身の血流に影響を与えるのであれば、
血液は酸素の供給において重要なので、
その酸素に敏感な脳への影響も懸念されます。
実際に外科的な手術が必要なほど重症の壊死性腸炎にかかった
早産児は脳の灰白質、白質への悪影響が大きくなるとされています(206)。
より具体的には白質の障害の方が灰白質よりも5倍程度大きくなっています(206)。
これはなぜなのか?
酸素の消費量自体は神経細胞が集まる灰白質の方が3-4倍高い
という報告もあります(207,208)。
この観点で考えると酸素不足に対する脆弱性は
神経細胞が集まる灰白質の方が高いので
もっと多様で決定的に脳の連結性に影響を与える要因が
あるということです。
白質の障害とは
fMRIで観測される液体の異方性が小さくなり、
軸索などの神経線維に対するいずれの方向の流速が早くなることなので
基本的に神経のつながりが疎になっている事だと考えられます(209)。
これに関してTerrie E. Inder(敬称略)らは
早産児の脳障害の臨床的結果の総括の中で
白質に存在する髄鞘の生成を促す
乏突起膠細胞の未成熟な状態の細胞が酸化などのストレスに
非常に脆弱なため、影響を強く受けるとされています(240)。
これが白質の傷害の一つの原因であると考えられます。
壊死性腸炎になった時には循環器の酸素濃度の他に
免疫系の炎症もあります。
腸の他に免疫細胞が集まっているのは
肺と皮膚です。
特に肺は腸で炎症が起きた際に生じた炎症性サイトカインが
循環器を通じて腸から肺に到達して、
肺の炎症に繋がる事が考えられます(210)。
上述したように壊死性腸炎で一命をとりとめたお子さんの
その後のウェルビーイングの実現のためには
そのサバイバーシップについて考える必要があります。
重要な一つの要素は後遺症、合併症を如何になくすかです。
しかしながら、現実問題として
壊死性腸炎に罹患して命を繋ぎ止めた子供の
最も大きく、かつ長期的な合併症は上述した重篤な脳障害であり、
具体的には神経細胞の基本的な活動である
神経細胞同士の電子信号のネットワークの効率性を決める
軸索の外側の絶縁膜である髄鞘(ミエリン)の喪失、
それによって認知障害が生じます。
これは同じ早産でも壊死性腸炎に罹患した人の方が
このような認知機能低下を含めた脳障害の程度が重篤である
ということが示されています(211-214)。
実際に白質の方が脳障害が大きくなっており、
髄鞘は神経線維の周りの絶縁膜であり
この神経線維は白質に多く存在する事から、
白質の脳障害に伴って、髄鞘が喪失していると考えられます。
この髄鞘は乏突起膠細胞によって産生されますが、
この乏突起膠細胞は炎症時には動物において早産児の白質損傷に
類似させた条件では自身の分化を抑止すると
いわれています(215)。
壊死性腸炎に罹った後、主に白質を含む脳に損傷が生じる場合、
免疫細胞であるTリンパ球を介した損傷である
という報告もあります(211)。
Qinjie Zhou(敬称略)らの壊死性腸炎に誘発された脳障害の報告では、
CD4+T細胞がインターフェロン-γを放出する事によって
脳障害を引き起こすことを
マウスのケースと人のiPS細胞のオルガノイドで示しています(211)。
このインターフェロン-γは炎症性サイトカインなので(216)、
白質に作用した場合、髄鞘を産生する乏突起膠細胞の
分化抑制に寄与している可能性があります。
それによって髄鞘の欠乏という結果を招いているかもしれません。
従って、
壊死性腸炎に対する白質を中心とした脳障害を軽減するためには
CD4+T細胞の活性を抑えるか、インターフェロン-γを抑制するか
ということが提案されています(211)。
David J. Hackam(敬称略)らによれば、
壊死性腸炎に発達するためには腸の上皮組織のひだの底、
腺窩の部分のTLR4の活性化が必要であるとされています(187)。
このTLR4は病原体に特徴的な分子を認識するToll様受容体の1つで
グラム陰性の細菌やグラム陽性の細菌の表面にある
ウィルス性タンパク質、多糖に結合性を持つとされています(217)。
卵が先か、鶏が先かという議論ですが、
この壊死性腸炎の一つの病理とされるTLR4の過剰発現が
細菌の暴露によって生じるのか?
それとももともと組織不全の乳幼児に多く発現されているのか?
それについては現時点では不明のままです。
TLR4についての病理についてはまた詳しく調査しますが、
この章で一つ問題にしているのは壊死性腸炎の合併症としての脳障害です。
腸で特異的に獲得した炎症性を持つT細胞が
循環器を通して脳に到達し、傷害させているので
腸の組織障害、細菌の組織内侵入によって
どのように免疫系が発達したのか?
新生児の免疫系の特徴を踏まえた上で(218)、
具体的に考えていくことが重要です。
ここではB細胞ではなく、CD4+T細胞に焦点を当てます。
壊死性腸炎では細菌の組織内侵入によりリボ多糖などのアクセスが
生じると想定されます。
その時に
そのリボ多糖を抗原として認識した樹状細胞と結合して
CD4+T細胞が活性化される場合と、
直接、TLR4受容体を介してCD4+T細胞がリボ多糖を認識する
場合があります(参考文献(219) Fig.1)。
このようなリポ多糖に対しては
Hong-Gyun Lee(敬称略)らがFig.2で示すように(219)、
エフェクター分子としてはIFN-γを放出する事が知られています。
子どものケースで多いナイーブ形質(218)については
リボ多糖のケースは示されていませんが、
基本的にIFN-γに対応する自己免疫疾患様の
炎症性を持つ形質を発現するとされています(219)。
従って、
壊死性腸炎によって腸の組織内に侵入した
細菌の表面にある物質であるリボ多糖
が新生児の免疫細胞に接触した時に
そのうちのCD4+T細胞が炎症性の形質を持ち、
脳神経に到達し、IFN-γを出して、脳障害の原因になる
という事は一連のつながりを持ちます。
また、Miles P. Davenport(敬称略)らがFig.1で示すように(218)、
子どもの頃の免疫系の発達は
基本的には抗原やメモリ機能ではなく、
免疫チャレンジがあった時には
基本的には炎症性、エフェクター機能が高まりやすいとされています。
これは仮説の域はでませんが、
SARS-CoV-2に感染した時に
子どもの抗体が交差性が高かったことと、
参考文献(220)Fig.4で示されるように
感染した時のT細胞の反応性が大人に比べて高かったことは
免疫的なチャレンジがあった時に
広範に炎症性、エフェクター性が生じる
特徴が現れている証拠ではないか?と考えました。
Miles P. Davenport(敬称略)らがFig.1に示す
免疫的な特徴を参照すると(218)、
このような炎症性、エフェクター性の特徴は
在胎期間を含めて若い方が顕著に出る傾向にあります。
従って、壊死性腸炎の子どもが
細菌による強い免疫的なチャレンジがあった時に
T細胞も含めて、炎症性、エフェクター性が生じやすい
という事はあるかもしれません。
これはリボ多糖がインターフェロンγの産生とつながりやすい
という事と並行して炎症性形質という観点で考えられる事です。
また、子どもの頃に多いナイーブT細胞は
感染のような免疫的な刺激があると
その後、短期間、長期間と時間経過に関わらず、
非対称の細胞分裂、細胞分化を生じると言われています(221-225)。
実際に、ナイーブCD4+T細胞が
どのような細菌、ウィルスに対して刺激を受けた時に
どの形質を獲得する傾向にあるかという事が示されています。
(参考文献(226) Fig.2)
従って、自己免疫疾患様の炎症性形質を持つCD4+T細胞は
そのお子さんの循環器に長い間存在する可能性があります。
少なくともある特定の細菌のリボ多糖が
免疫細胞が集まるパイエル板を含めた濾胞領域に到達し
T細胞に限らず、樹状細胞、B細胞などに強く働きかけた場合、
その抗原に対する自己免疫疾患様の症状は
継続的に続く可能性があります。
これについては現在、エビデンスはなく仮説になります。
上述したように壊死性腸炎の病理の一つに
トール様受容体4(TLR4)の活性化があります。
これは腸に侵入した細菌の表面にあるリポ多糖を認識する
上で重要な役割を果たす受容体です(491,492)。
このTLR4が活性化する事で
◎アポトーシス(細胞死)(493-495)
◎オートファジー(496,497)
◎ネクロプトーシス(細胞死)(498)
◎回復の不全(499,500)
◎細胞増幅の減少(501)
これらが生じる事で腸細胞が壊死します。
また、血管の健全な形成において重要な1酸化窒素を生み出す
合成酵素(nitric oxide synthase)も減少します(502)。
炎症性サイトカインも引き寄せます(503)。
このTLR4がなぜ活性化するか?
仮に細菌のリポ多糖との結合機会の上昇によって生じていて
かつ、ひだの底の部分である腺窩の部分のPeneth細胞を含む
細胞群のTLR4との結合によって腺窩の細胞が壊死する
という事が主要な病理であるとします。
(参考文献(187) Fig.1より)
その病理に基づいて、
凸部である絨毛では少なく、
主に凹部の腺窩から細菌が内部に侵入する事で
免疫系と細菌の相互作用の増加、
血液中への浸入する事で炎症を起こし、
さらに、
TLR4の信号が亢進されることで
上皮の組織が壊死するとします。
そうした場合、壊死性腸炎に進行する段階で
細菌群がひだの底の部分である腺窩に多く侵入し、
粘膜層を超えて腸の上皮細胞に多くアクセスする必要があります。
従って、
◎腸組織の(全体の)形状
◎粘膜層の構成、厚さ
これらを考える事が重要になります。
例えば、組織でいうと
Lauren C. Frazer(敬称略)らがFig.1で示すように
絨毛と腺窩の組織形成が胎児と満期の新生児では
大きく異なる事が示されています(195)。
胎児の腸では、
繊毛の長さが短く、太く、腺窩の形成が不十分で
ひだの底、腺窩に細菌がアクセスしやすい構造になっています。
従って、
早産児が胎児と満期産児の間の
腸の組織の形状、特徴を持つとすると
同様に細菌がひだの底の部分にアクセスしやすいような
腸の組織構造になっている事が推定されます。
この事が主に細菌の侵入経路として
体に害を及ぼしやすいかもしれない腺窩のTLR4信号の活性化
言い換えれば、
細菌のリポ多糖と腺窩の腸細胞のTLR4の結合数の増加の
潜在的な理由である可能性があります。
また、粘膜の層厚も関係している可能性があります。
つまり、粘膜の層厚が薄ければ、
細菌は腸の上皮細胞にアクセスしやすくなります。
一方で、
このTLR4はもともと腸に害を及ぼす存在ではなく
腸の上皮組織の健全な組織形成の上で
重要な役割を担っています(504-506)。
未成熟の腸では小腸の粘膜内に発現されている
TLR4のレベルは満期の新生児の腸よりも
高いとされています(507,508)。
従って、TLR4の発現自体が問題ではなく、
それが多くの細菌と結合し、継続的に、過剰に働くことで
元々の機能である組織形成に異常が生じ
逆に周りの細胞の細胞死につながるということです(509)。
早産の子どもに観られるような未成熟の腸では
TLR4の発現レベルが組織の成長のために
あるいはもともと子宮内に存在する時期なので
その子宮内の環境に合わせて
高まっている中で多くの細菌のアクセスがあると
よりTLR4の信号が亢進されやすいという事は考えられます。
従って、
◎腸の組織の形状
◎粘膜の状態
◎TLR4の発現量
これらが並列して影響を与えている可能性があります。

//壊死性腸炎の臨床的情報//
この節では、Josef Neu(敬称略)らの
壊死性腸炎の臨床に関する総括(251)を詳細に参照、引用し
付加的な調査、考察を加えて
読者の方と情報共有いたします。
--
臨床現場の方は壊死性腸炎は撲滅することが
最も難しい疾患の一つであると考えられています(251,252)。
十分な経験、情報がない中での仮説です。
例えば、
新型コロナウィルス感染症で重症になった方は
重度の呼吸器障害がでます。
より具体的には肺の機能が著しく低下します。
CT画像で肺が白く映るのは組織が硬化している証拠です。
それによって酸素をうまく取り込めなくなるので、
酸素飽和度が減少します。
酸素濃度が減少すると真っ先に影響を受けるのは脳です。
従って、脳を守るため、あるいは全身の組織を守るために
酸素飽和度を許容範囲まで上昇させる必要があります。
その時に装着されるのが
体外式膜型人工肺(ECMO:エクモ)です。
体外に血液循環回路を作ることで
人工的に肺の機能を体外に設け、
それによって患者さんの血液中の酸素濃度を確保するとともに
肺の機能を休ませる効果があります。
上述したように壊死性腸炎でも腸の機能を休ませるために
消化の負担を直接的に胃に特別な栄養素を届ける事で
著しく減らし、小腸、大腸の機能を休ませます。
このように肺や腸に著しく損傷がある場合
その機能を人工的に休ませる処置を取るのが一般的です。
なぜなら、呼吸器や消化器は
日常、生活する中で継続的に頻繁に使用するものだからです。
そこの機能が不全であり、著しく機能低下していると
人工的にその機能を置換、補う必要が出てきます。
それで自己回復するのを待つ対策を取ります。
壊死性腸炎の治療は肺のECMOの治療に
基本的なコンセプトとしては一定の類似性を見出せます。
この章の冒頭で述べた様に根絶が難しいのは
早産の子どもは腸の組織が未発達で出てくるわけですから
それで消化器を使うと当然、負担、不具合が生じるからである
と仮説を立てています。
David J. Hackam(敬称略)らが(187)
Josef Neu(敬称略)の総括(251)を引用する中で述べているように
母乳ではない乳児用調製粉乳などを投与した後に
壊死性腸炎が生じることが多いとされています。
その時には腸が膨張し、摂食が難しくなることがあります。
Wontae Kim(敬称略)らが図で示すように(252)、
子どもの腸は黄緑色に変色し、膨張しています。
壊死性腸炎では腸管の組織不全が生じている状況なので
消化器系から入る空気や水の流れ、バリア機能に影響が出ている
事が考えられ、それにより水腫や気腫が
腸管内、腸管外にできる事で
腹部が著しく膨満する症状を呈すると考えられます。
黄緑色になるのは胆道の閉塞、流れの悪さが関わっている可能性があります。
なぜなら組織が黄緑色に変色する根本的な原因は
通常は胆汁の色素に関連しているからです。
おそらく早産なども含めて
腸の組織が十分に発達していない子供が
分娩後に確実にスクリーニングされていないという現状はあると思います。
そうした中で、腸の組織が未発達な子どもに
授乳だけではなく乳児用調製粉乳を与えて、
結果として壊死性腸炎が生じるという事があると推定しています。
早産で腸の組織が不全で出てくるお子さんがいる以上、
そのスクリーニングをしない限りにおいては
壊死性腸炎の撲滅は難しいだろうということです。
逆に言えば、
スクリーニングをすれば、
少なくとも消化器に不全がある早産児にとって
リスクの高い乳児用調製粉乳などの摂食をしないように
事前に予防することが可能です。
現時点ではそのように仮説を立てています。
超早産を含めて低出生体重の子どもの生存率は高まっていますが、
壊死性腸炎の罹患率、それによって命を落とす子供の割合は
変わっていないとされています(251)。
上述したように壊死性腸炎は腸と離れた脳に影響を与えます。
壊死性腸炎から回復したとしても
そのうち25%の子どもが小頭症、神経発達遅延が生じます。
これは胃腸に対する問題よりも深刻です(252)。
前述したように壊死性腸炎においては
消化器の負担を減らす目的で
胃にチューブで栄養を送ったり、静脈に栄養を送る処置をします。
そうすると感染症のリスクが高まり、
入院期間が長期化するリスクが上がります(253)。
実際に腸に影響のない早産児に対して
外科的な処置が必要な場合
平均して2か月程度長く入院しており、
そうではなくても20日延びます(251)。
壊死性腸炎で免疫機能が乱れている中で
感染症のリスクが高まる事への付加的な免疫的な影響も注意に値します。
壊死性腸炎の医療、社会的な負担も見逃せません。
アメリカでは最大で1年あたり10億ドル(1400億円)のコストが
生じていると言われています(254)。
但し、これで十分に医療が行き届いているかどうかはわかりません。
アメリカの年間の医療費は4兆ドルと言われており、
それからすると決して大きな比率ではないですが、
脳を初め、お子さんの生涯に影響を与えうることなので、
その比率が小さいと言っても決して軽視できる問題ではありません。
<<診断の区分>>
壊死性腸炎は異種性がありますが、
もっとも典型的な臨床的サインは
◎摂取不寛容性
◎腹部膨張(参考文献(251) Fig.1A)
◎出生後8-10日の血便
これらです。
腹部のX線写真の症状の特徴(A,B)は
(A)腸管嚢胞状気腫
※腸管壁の粘膜下あるいは漿膜下に多数の含気性小嚢胞を生じ
腸管内腔にポリポーシス様の多発性隆起性病変をきたす。
Namrata Todurkar(敬称略)が図示するように
多くのガスバブルが腸管にでき、
腸管が膨張し、絨毛が隆起し、内腔が著しく狭まっている状態です(375)。
従って、上述したように腸の膨満は
腸内細菌の発酵によるものだけではなく、
むしろ気水胞ができることによる腸管壁の厚膜化によると考えられます。
(B)門脈内ガス
門脈とは胃・小腸・大腸・膵臓・脾臓などのおなかの臓器から
肝臓に入って行く静脈(376)。
この静脈にガスがたまる事。
腸管に穴が開いて静脈にガスが入ったと考えられます。
壊死性腸炎の発症を疑わせる初期の画像サイン(1,2,3)は
(1)腸の横に広がったループ(Dilated loops of bowel)
(2)ガスの不足(A paucity of gas)(どこの?)
(3)腸のガスで満たされたループ
これらです。
腸の内腔外の空気(Free air)は進行した壊死性腸炎のサインです。
症状は急速に進行するかもしれません。
それは多くの場合、1時間以内です。
症状を呈する前兆から
腹部の変色、穿孔(穴が開く事)、腹膜炎に進行します。
全身低血圧になり、
集中治療、外科によるケアが必要になります。
相当に力をいれた研究にも関わらず
ここ数十年間で予防的な戦略はまだはっきりしていません。
その理由は壊死性腸炎の診断の構成の
明瞭な輪郭がまだ描けていないからです。
新生児の腸の傷害は3つの形式(α、β、γ)があります
(α)満期産児で主にみられる症状
(β)自発的な腸の穿孔(穴)
(γ)典型的な壊死性腸炎
壊死性腸炎は多くの場合、早産児に診られますが、
「壊死性腸炎様の症状」は
満期産児や後期早産児でも診られます。
これらのより子宮内で成熟した新生児は
腸の疾患は生まれてから一週間以内に起こる事が通常です。
しかし、早産のお子さんで診られる場合においては
度々、他の問題(①-④)を抱えている事が多いです(380,381)。
①母親の不法な薬物使用
②腸の異常(A,B)
(A):神経節細胞欠損(Aganglionosis)
結腸の腸筋神経叢の神経細胞が欠損することで
神経堤細胞の運動、分化に不全が出ます(377)。
この神経堤細胞は多能性細胞で
末梢神経系の形成に関与します。
腸は蠕動運動などの動き、分泌物、血流の調整を行います。
その指令には腸管神経系が関わっており、
神経堤細胞が前駆状態の多能性細胞です。
胎児のときに消化器系の食道から順に
胃、小腸、大腸、肛門に移動する事が知られており、
小腸と大腸では「ショートカット(近道移動)」
する事が知られています(378)。
従って、この神経系に異常が出ると
上述した腸の動き、分泌物、血流の調整に異常がでます。
例えば、便秘や下痢などの排便異常が生じる事もあります。
(B):閉鎖(Atresias)
様々なタイプの閉鎖があり、
例えば、小腸と大腸の接合部で閉塞、脱離されている
場合があります(379)。
③先天性心臓病
④腸間膜の血流に影響を与えうる周産期のストレス
上述した①~④の併存状態が考えられます。
早産児のうち、
上述した(β)の自発的な腸の穿孔は時々
壊死性腸炎として分類されることもありましたが、
おそらく異なる病理を持つ異なる疾患であるかもしれません(382,383)。
自発的な腸の穿孔は出生後、数日以内に発症し、
経腸栄養法を伴いません。
この疾患の小腸の炎症、壊死は極めて低く、
それは血漿中の炎症性サイトカインが低レベルであることで
エビデンスとして立証されています。
インドメタシンやグルココルチコイドなどの投与と
関連があるとされています(384,385)。
上述したように
壊死性腸炎の病理や症状の輪郭を明確に描けていない事から
統一的に信頼できる診断評価基準が存在せず、
それによって現場で診断することが難しくなっています。
壊死性腸炎の全体的な記述については
Bell MJ(敬称略)らによって1978年に報告され、
その後、内容が改変、精製されました(386,387)。
この評価システムでは3つのステージがあります。
(Stage 1)
◎ほとんど非特異的な所見はない。
◎摂食不寛容性はあるかもしれない。
◎軽度の腹部膨張がある。
(Stage 2)
◎腸管嚢胞状気腫のような(放射線等)画像評価所見がある。
しかし、X線写真では検出する事が難しいかもしれない。
(Stage 3)
◎内臓に穿孔がある。
しかし、自発的な腸の穿孔との区別が難しい。
他の区別システムが
The Vermont Oxford Network Manual of Operations. 
これにより公表されています(388)。
以下の臨床症状(C1-3)、画像評価(Im1-Im3)において1つ以上の所見。
(C1)胆汁、胃の吸引物
(C2)腸の膨張
(C3)血便(肉眼では確認できないケースもある)
※但し、裂肛によるものではない。
(Im1)腸管嚢胞状気腫
(Im2)肝臓、胆のうのガス(hepatobiliary gas)
(Im3)気腹
しかしながら、これらの診断評価基準は不備がある
と指摘されています(251)。
なぜなら、手術が必要になるような
重篤な壊死性腸炎において
腸管嚢胞状気腫や門脈のガスが画像診断で
検出できない場合があるからです。
これらの患児は腸管内のガスなしにして
腹部の膨張を呈しているかもしれません(389)。
壊死性腸炎は1時間程度で症状が進行することもあると
前述しましたが、早期の診断、医療介入に失敗すると
病状の進行を見逃してしまうことがあります(251)。
壊死性腸炎をステージごとに診断するためには
血液、便、唾液などの生検による効果的な
バイオマーカーを見つける必要があります。
特に炎症を伴わない自発的な腸の穿孔と区別する必要があるので
壊死性腸炎特有の炎症性バイオマーカーを見つける事は
重要になると考えられます(390,391)。
Marie-Pier Thibault(敬称略)らは
壊死性腸炎を予測する便のバイオマーカーとして
◎Lipocalin-2
(炎症状態で小腸で抗菌分子として亢進される物質(392))
◎Calprotectin
(大人のケースで小腸の炎症性指標となる物質)
これらを挙げています(391)。
従って、上述したように壊死性腸炎を他の同時期に発症する
腸の異常症状と差別化する重要要因は
免疫機能などと関連する炎症性です。
<<治療戦略>>
ほとんどすべての超低出生体重児の子どもは
間欠的な胃腸の症状を持っています。
◎腹部膨張
◎ヘム陽性便(血便)
◎摂食不寛容性
これらで心配の種にはなりますが、
ほとんどの場合、壊死性腸炎は持っていません。
決定的な壊死性腸炎の場合、
臨床症状に基づいて内科的、外科的な管理を必要とします。
内科的な医療介入(A-D)では典型的には
(A)膨張した腹部の減圧
(B)腸の休息⇒(D)で栄養補給
(C)広範に作用する抗菌薬投与(静脈)
(D)静脈経由の栄養供給(intravenous hyperalimentation)
これらが含まれます。
外科的処置、手術は
(a)腸の穿孔
(b)ショック状態
(c)血小板の減少
(d)好中球の減少
(e)(c)と(d)の両方
(c-eについての考察)
実際に血中に細菌が入るなどして感染症にかかり、
生命を脅かすような臓器障害が生じている場合、
敗血症と呼ばれますが、その状態で血小板減少を
引き起こすことがあります(393)。
あるいは妊娠女性において自己免疫によって
免疫機能が高まっている時に血小板が減少する
ことがあります(394)。
従って、炎症反応が高まっている事によって
血小板が減少することがあります。
これは炎症性サイトカインが
血小板の元となる造血幹細胞などの
成熟を妨げる可能性があるからです。
従って、骨髄系免疫細胞である好中球も減少します。
実際に癌免疫治療であるCAR-TもしくはCAR-NK細胞免疫療法では
グレード4の好中球減少症が診られることがわかっています。
グレードは1,2に下がりますが血小板減少症も同様です。
それぞれ約90%,70%の患者さんで診られています(395)。
血小板は組織の修復に作用するため
組織が破壊されているとその修復プロセスで使用され
血小板が減少する事も考えられます。
従って、血小板や好中球の減少は
炎症性が強く出ている事と、
組織修復のプロセスが強く働いていことが疑われます。
(考察、以上。)
これらの条件(a-e)で必要となります。
外科的な方法(1-3)は以下を含みます。
(1)排出経路の設置(drain placement)
(2)腸病変部位の切除を伴う開腹
(3)人工肛門設置の為の腸瘻造設術
小腸の穿孔を伴う進行した壊死性腸炎の治療の
2つの共通的な方法は上述したうち
(1)排出経路の設置(drain placement)
(2)腸病変部位の切除を伴う開腹
これらです。
これらの方法の相対的なベネフィットは議論の余地があります。
2つの大規模、複数のセンターによる研究が
この論議に向き合うために行われました(396,397)。
(1つ目の臨床研究)(396)
これらの術式は生存や重要な臨床症状改善に影響を与えない。
より具体的には
(1)排出経路の設置(死亡率:34.5%)
(2)腸病変部位の切除を伴う開腹(死亡率:35.5%)
腸に穿孔が診られる赤ちゃんが命を落とす確率は
30~50%程度である(401)。
術式同士の比較において差はなく、
手術をすることに価値があるか?についても
さらなる調査が必要です。
(2つ目の臨床研究)(397)
これらの術式は結果に顕著な影響を与えないが、
腹膜に排出経路を設けた幼児は後日、
多くのケースで開腹が必要であった。
(2つ目の臨床研究についての追加の分析)(398)
腹膜に排出経路を設けた幼児は
臨床症状において改善は見られなかった。
(メタ分析)(399)
(1)排出経路の設置(drain placement)は
(2)腸病変部位の切除を伴う開腹
これらにおいて死亡率は(1)>(2)で50%高かった。
新生児の時期に壊死性腸炎に罹患して手術を受けた
(フォローアップ調査)(400)
お子さんの18-22カ月のフォローアップ調査では
死亡率の関係上述したメタ分析(399)と傾向は一致し、
加えて神経発達の不全のリスクも
腸病変部位の切除を伴う開腹のほうが
排出経路設置よりも低いことが示されました。
これらの研究により、
一旦手術をすると、予後は悪く、
効果的な予防の重要性が顕在化しました。



//遺伝子(227)//
p53遺伝子は下述するような様々な細胞内の機能において
重要な役割を果たします。
このp53遺伝子にコード化されたタンパク質が
細胞の核内に移動し、様々な遺伝子に働きかけるからです。
このp53遺伝子が妊娠課程、胎児にどのように影響を与えているか?
これについてはまだ十分に明らかになっていませんが、
この章では一般的な機能と病理を参考にし、
部分的に早産児のケースに適用して考察いたします。
--
p53遺伝子は癌抑制遺伝子として知られますが、
子宮内においてイオン化放射などのダメージを受けた時に
p53は胎児の成長異常のリスクを減らす役割がある
可能性があるとマウスの結果から推測されています(228,229)。
ゼブラフィッシュの研究ではp53は
◎リボソームRNA合成(230)
◎DNA合成(231)
◎腸の発達(232)
◎神経の発達(233)
これらにおいて機能喪失と比較する事によって
p53の機能がこれらにおいて重要な役割を果たしていることが
示されています。
p53の細胞内での機能は多彩です
◎損傷時の細胞サイクル停止によるDNAの修復(230)
◎細胞周期の調節、老化による異常増殖の防止(233)
◎修復不可能で異常な時のプログラム細胞死
◎血管新生の調整(234)
◎多くの遺伝子の転写の制御によるメンテナンス
◎抗酸化物質の調整(231)
◎免疫応答の制御
◎タンパク質の調整、オートファジー(239)
◎代謝機能の調整(解糖)、リモデリング(237,238)
◎細胞の移動性の制御(232)
◎細胞の分化(235)
◎骨のリモデリング(236)
少なくともこれらが挙げられています。
当然、p53が正常である事は必要条件なのですが、
例えば、上述する壊死性腸炎や
早産によって脳の損傷がみられる場合(240)、
それらの不全である組織の中の細胞のp53の機能がどうなっているか?
それについて調べる事は付加的に意味があります。
なぜなら、もしp53に異常があれば、
正常なp53をコード化したmRNA, DNA
あるいはp53タンパク質そのものを
ナノ粒子などによって送達させる事によって
組織の健全な成長を促すことができる可能性があるからです。
p53は機能が多彩なので、そこに不全がある時には
ある程度、広範に作用する可能性があります。
但し、p53は脳の損傷(240)関しては特に注意が必要です(227)。
また、強く損傷している場合も同様です(227)。
逆にp53の機能を「一時的に」抑える事で
損傷の予防や管理に繋がる事もあるとされています(241-243)。
長期的に健全な細胞の機能としてはp53は必要ですが、
短期的にみれば、どのように機能不全になっているかによって
p53を亢進させるか、抑制させるかの判断が
変わってくるということです。


//教育//
上述したように
早産の子どもで脳の発達機能の遅れ、知能の遅れが
生じることがあります。
おそらく生成系AIや
囲碁、将棋などから派生し
より特定機能に特化した多様な人工知能が今後発展すると
それを使いこなす優秀な子どもは
ますます能力が上がっていく可能性もあるため、
教育格差を小さくするという事は
基本的に難しい可能性があります。
一方で、
Hanna Dumont(敬称略)らは教育的な平等性のための
個別学習の重要性について総括されています(258)。
この総括論文で定義される「平等性」とは
社会参加においての基本的な能力と
それぞれの人にとって意味のある人生を送る事
とされています(258)。
例えば、人の走る能力が
ロケットには最大速度では到底かなわないように
ある特定の領域では人の能力を人工知能がはるかに凌駕します。
すでにそのような能力超越は産業革命以降、
計算機、それを拡張したコンピューターを初め
段階的に、発展的に継続的に起こっています。
人工知能によってまたその範囲が広がることになります。
そうした中で「意味のある事」とは
人工知能ではなく、人、それぞれ個人が決める価値です。
様々なテクノロジーと共存する中で
人にとって、あるいはそれぞれの
お子さん、学生さんにとって価値のある事は何なのか?
そういったことを成人後も含めて
模索し続けるための基礎としての教育もある
という風に捉えることもできます。
教育は医療の情報とは少し遠い学域になりますが、
子どもの継続的な脳の発達において
教育は密接に関連しています。
この記事のビジョンとしては
その子どもの一生を見据えた時のより良い医療の為の
包括的な情報を提供するということにあるので
高校までの12年間、あるいは高等教育までの
継続的な教育の在り方を考える事は
アウトライン(骨子)に並行したものになります。
教育に関しては2015年から5年間
医療と同じようにブログ記事を書いてきた経歴があります。
その中で想像以上に教育の難しさを感じています。
Hanna Dumont(敬称略)らは総括の中で
生徒が学ぶ内容に対して
◎過去の知識
◎自分の心の状態
これらと共鳴(コヒーレント)な状態を築くことによって
内容を理解すると記されています(258,259)。
つまり、教育者として自分が生徒に教える際には
その生徒の知識と心の状態を理解する必要があります。
心の状態というのは
その現場でのエンゲージメント(没頭、集中)とも言えます。
「理解できる事の喜び」
「成長できている事の喜び」
「先生が信頼できる安心感」
「希望の進路に沿っている一貫性」
、、、
様々な要因があると思います。
自分の目標、家族、先生に対する
コミットメント(約束、献身)という事も重要な因子です。
教育学では自己調整学習という概念があります。
「生徒が自ら進んで勉強する」ということが
如何に重要かということが主要な内容の一つです。
生徒の心、知識、経験、学習内容、勉強法
先生(学校、塾)、家族との関係性など
様々な要因が共鳴(コヒーレンシー)することで
仮に知能の遅れなど一定の困難があったとしても
効果的な学力の向上が見込まれると想定されます。
私は過去、ブログで主に勉強法の記事を書いていましたが、
言葉だけでは伝わらない部分があったという事です。
上述した生徒との共鳴の因子を多く持つためには
現場で一人一人と向き合う必要性がありました。
教育のマンツーマン性をより精緻に高めていくためには
多くの場合、教える側のリソース(資源)が不足します。
それを補うためには一部の優秀な学校で行われているように
「生徒同士の教えあい」が大切です。
それによって教える側の資源が顕著に増えるだけではなく、
生徒同士の一体感や教える側のより深い理解につながります。
そういった面では教えあいの文化は正のスパイラルといえます。
Hanna Dumont(敬称略)らは総括の中で(258)、
生徒の学力に応じたクラス分けに一定の反論を展開しています。
様々な学力の学生さんが混在する場合には、
先生1人ですべての学生をカバーするのではなく、
生徒同士教えあいも含めて、能力を補い合うという事で
高いレベルで平均化される可能性があります。
今までの経験からすると勉強には
「共通に当てはまる方法」があると考えています。
例えば、
現時点の私の知的能力、実務的な能力があります。
今まで「方法論」を非常に重視してきたので、
その方法、手順は言葉にして伝える事ができます。
それによってある程度、
私の知的能力を他の人が吸収することができると考えています。
知的能力に遅れがある学生さんに対して
どのような方法論がありうるか?
Hanna Dumont(敬称略)らの総括で示されたように(258)
既存の知識レベルというのがあって
それと統合して理解するプロセスがあります。
従って、
当然、その知的能力に応じた内容にする必要があります。
クラスの生徒の能力に差がある場合には
先生がどのような授業方式にするか知恵を絞る必要があります。
前述した勉強の方法論について
Hanna Dumont(敬称略)らは
さらに重要な事を挙げられています(258)。
学習は非常に活性なプロセスで行われるという事です。
また、人通しのコミュニケーションも重要である。
このように言われています(258,260-262)。
これは言い換えると
「出力重視の勉強」ともいえます。
勉強は文字、絵、図、数字をベースとして行われる事も多いですが、
◎書く
◎描く
◎まとめる
◎要約する
◎想像(創造)する
◎話す
◎問題を解く
◎考える
◎関連付ける
◎体系化する
◎抽象化する
◎具体化する
◎スケールを変える(微視、巨視)
これらに代表されるような
アウトプットベースが学習において重要であるという事です。
仮に1000ページある教材の内容から
入学試験の問題が出題されるとします。
そうした場合、教材だけを1000ページひたすら読むのは
効率的な勉強とはいえません。
途中でやる気が下がり、苦痛になるかもしれません。
その場合は、その教材の内容から出題された
具体的な問題を解くことが大切です。
問題を解くことによって試験の感覚を掴むことができます。
高等教育の一般的な勉強でも
勉強した内容や理解した内容を
具体的に文章、絵、図にし、
それを知り合いに発表する事はいいかもしれません。
それによって頭の中だけで考えるよりも、
ただ、文章を精読するよりも、
より多く、精緻な知的情報を生み出すことができます。
これは学習へのエンゲージメントを高める効果もあります。
実際に教育現場では
先生や他の生徒との勉強内容に対する議論があることで
学習が促進され、勉強へのやる気も高まっていきます。
知的能力に遅れがある人は
「わからなくても気を使ってわかるふりをする」
ということもあるかもしれません。
従って、その生徒が能動的に正直に
ちゃんと質問できる環境、信頼関係を構築する事が重要になります。
そのためには前述したように
教える側の十分なリソースをどう確保するか?
それを考える必要があります。
しかしながら、
何度も同じ質問をすることは遠慮が伴います。
ただ、何度も言葉を変えてそれをしないと
真の理解にたどり着かないことがあります。
そうした時にはツールとして
検索エンジンや生成系AIを使う事がよいかもしれません。
生成系AIなら何度質問しても嫌悪感を持たれる事はありません。
このような観点から
教育における教える側のリソースとして
検索エンジンや人工知能も含まれると想定されます。
勉強というのは「正のスパイラル」なので
どうしても格差が広がる傾向にあります。
理解できると、学力があがると、成功体験があると
勉強そのものに積極的になるからです。
Hanna Dumont(敬称略)らの「平等性」の定義において
「基本的な能力」というのがあります。
その水準までとの乖離は個人差が大きくあると思います。
その差異が大きな知能に遅れがある子どもにおいても
その基本的な能力に到達するまでの
正のパスを仮に遅くてもしっかり通れるように
支援、サポートすることが大切になります。


//妊娠高血圧腎症(263)//
<<背景、序論>>
出産時に子どもの命を救う事は
多くの場合最重要視されますが、
その子ども、父親の幸せ、健康のためには
出産後の母親の心の問題も含めた健康を考える事が大切です。
出産後の母親の心の問題に関しては
妊娠中や産後の女性が子育て中に生じる不安や疑問を、
自身のスマートフォンを用いて
産婦人科医・小児科医・助産師に相談できる、
オンライン健康医療相談サービスなどが
実際に効果があると報告されています(264)。
子供が命を落とす最大の原因は早産によるとされていますが(240)、
そのような早産を含め、子どもが命を落とす原因は
妊娠時から生じていることがあり、
その妊娠時に最も問題となる疾患が
妊娠高血圧腎症(Pre-eclampsia)です。
--
<<疫学>>
母親、新生児の何らかの疾患の罹患、死亡の最大の原因であり(265)
人に特有であるとされています
世界全体では、毎年おおよそ400万人の妊娠女性が
妊娠高血圧腎症と診断され
7万人以上の妊娠女性、50万人の子どもが命を失っています(265,266)。
2002-2010年までの妊娠高血圧腎症の発症率は
世界で4.6%であり、
地域ごとでは1%から5.6%まで差があります(289)。
但し、早発性の妊娠高血圧腎症は1%未満となっています(290-293)。
高血圧腎症の発症率は低中所得国では
高所得国よりも低いことが示されています(294,295)。
但し、民族間の違いを見ると
必ずしもこれが当てはまらない可能性もあります(302)。
その理由は現時点で証拠に基づいて示すことはできませんし、
複数の要因が絡んでいる可能性がありますが、
その一つは出生率が高く、相対的に初産の割合が低い事と
初産の年齢が平均的に低いことが挙げられるかもしれません。
また、詳しくは下述しますが、
早発性は予防手段がある程度確立されており、
アスピリン投与によるリスク低減が
臨床試験でもエビデンスがある事から(270)、
発症率が遅発性よりも下がっていると考えられます。
一方、
ここで重要なのが、妊娠高血圧腎症に罹患した場合
子どものリスクは母親よりも7倍以上高いということです。
動物モデルの基礎的な実験が難しく
かつ臨床試験もより慎重を期す必要がある中で
妊娠高血圧腎症に罹る人が4.6%と決して低くない状況です。
このような状況においては疫学的なアプローチが一つ有効です。
すなわちどのような人が妊娠高血圧腎症に罹りやすいか?
それによって出産を考えるパートナーの
生活習慣改善を含めてある程度の予防が可能になるからです。
--
<<リスク因子>>
(高いリスク因子)
◎高血圧腎症の罹患経験がある(513-516)
◎慢性腎疾患(311)
◎慢性高血圧(306)
◎糖尿病(309,310)
◎全身性エリテマトーデス(313-321)
◎抗リン脂質症候群(313-321)
◎BMI30以上(307,308)
◎生殖補助医療
(中程度のリスク因子)
◎初産(323)
◎40歳以上の出産(35歳以上からリスク上昇(303-305))
◎多胎妊娠(510)
◎胎盤早期剥離の経験
◎死産の経験
◎胎児成長阻害の経験
これらです(296)。
(遺伝的リスク)
◎家族に既往歴(297-301)。
(その他)
◎甲状腺機能異常(312)
◎妊娠間の期間(10年以上)(511,512)
◎受胎時の黄体の欠如(517-519)
◎高地(2700m以上)の住環境(520-522)
◎大気汚染(PM2.5, NO)(523-525)
他方で、
妊娠高血圧腎症で母親が一命をとりとめたとしても
その後の寿命は短くなり、
出産後の脳卒中、心臓血管疾患、糖尿病などのリスクが高まります(267,268)。
上述したように妊娠時に高血圧腎症が生じた母親は
早産のリスクが高まります。
妊娠高血圧腎症だけに関わらず
一般的に高齢の出産はリスクが高まります。
Hiroaki Tanaka(敬称略)らの研究では母親が命を落とすリスクは
年齢と共に上がり、20代の出産に比べて35歳以上では2倍以上、
40歳以上では3.5倍以上になると報告されています(402)。
40歳以上に命を落とした母親の最も多い原因は
出血性脳卒中で、
その主原因はここで問題にしている妊娠高血圧腎症です(402)。
子ども、お父さんの事を考えると
救急医療の現場で働く医師も
「出産でお母さん亡くなったらいけんのよ。」
と言われていました。
高齢出産は特に初産の場合は
父親の抗原による炎症の問題など
生物学的に胎盤に不全が出やすくなります。
他にも様々なリスクがあり、
それらが複雑に絡みあう(交絡する)事で
命を落とすリスクが上がる事を一般的に広める事は重要です。
そのことを知らずに適齢期を逃してしまう人が
一定割合いることを考慮すると、
学校の教育の一つとして
カリキュラムに入れる事も考慮に値するかもしれません。
一方で、どの年齢でも母親が命を落とすリスクはあり、
胎盤の形成についてより理解する事は
世界的な妊娠時の母親の生存率、健康を高める可能性があるので
妊娠高血圧腎症の病理の理解を含めて価値がある事です。
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<<合併症、後遺症>>
母親の妊娠高血圧腎症の子どもへの影響においては、
早産で一般的に言われる死亡、神経発達不全など
リスクが高まるだけではなく、
母親の出産後に生じる主に循環器に関わる合併症と同様の
心臓血管疾患、代謝疾患などのリスクも同様に高まります(265,267)。
世界全体では毎年300万人以上の母親、子どもが
妊娠時に高血圧腎症を経験することによって
分娩後の慢性的な健康の問題に対する
リスクを抱えて生活する事になります(269)。
妊娠高血圧腎症は複雑、多系統の疾患、
つまり単一の原因ではない、
複数の因果が複雑に絡み合っている疾患です。
妊娠期間20週以降に突然生じる高血圧によって診断されます。
少なくとももう1つの合併症が存在します。
◎タンパク尿
◎臓器不全
◎子宮の胎盤の不全
これらです。
胎盤から分泌される様々なホルモンなど受け取って
健全な成長をする胎児にとっては
胎盤の不全は成長を阻害する要因となります。
(Fetal growth restriction(FGR))
また、胎盤を介して臍帯で母親と胎児は
循環器の連結があり、臍帯へつながる胎盤の血管生成は重要ですが
その血管生成がアンバランスになります(263)。
妊娠高血圧腎症の病理は多系統であり、
その後遺症、合併症も多岐にわたります。
その合併症は
◎子癇
◎出血性脳卒中
◎血球破壊
◎肝臓酵素の上昇、
◎血小板減少症候群
◎胎盤の破壊
◎腎不全
◎肺水腫
これらなど多様です(287,288)。
Evdokia Dimitriadis(敬称略)らがFig.1に示すように
上述した合併症だけではなく
脳、血管、肺、肝臓、腎臓、胎盤、脱落膜、胎児などにおいて
それぞれ複数の合併症が存在しうるとされています。
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<<分類、治療>>
前述したように妊娠高血圧腎症は20週以降に臨床症状を呈しますが、
その分類は
◎早産(妊娠期間37週より前)
◎満期(妊娠期間37週より後で分娩より前)
◎分娩後
このようになっています(263)。
妊娠高血圧腎症の母親の一連の症状は
機能的に不全となった胎盤によって引き起こされます。
その胎盤から母親の血中へ
全身の炎症につながるような物質が輸送されます。
全身の循環器はその炎症物質によって損傷を受け、
広範な母親の血管内皮の機能不全につながります。
現在、利用可能な治療法は
母親の高血圧と発作を標的としています。
しかしながら、
その治療法では分娩をより安全なものにするのにとどまります。
数十年の研究にも関わらず、
妊娠高血圧腎症の病因はまだはっきりわかっていません。
特に不明な点が多いのが、
上述した妊娠高血圧腎症の発症時期の分類のうち
より遅く発症する
◎満期(妊娠期間37週より後で分娩より前)
◎分娩後
これらの妊娠高血圧腎症です。
病因ははっきりしませんが、
近年の顕著な医療技術、管理の発展により
37週より前に発症する早期の妊娠高血圧腎症に関しては
その発症の予測と予防が可能になってきています。
妊娠初期により複数のスクリーニングテスト、評価基準により
妊娠高血圧腎症の発症確率を予測し、
そのリスクが高い妊娠女性に対しては
予め毎日低用量のアスピリンを投与します。
それによって発症を予防します。
これは妊娠期間16週より前から始められます。
それとは対照的に
37週以降の分娩前、分娩後に発症する遅発性の妊娠高血圧腎症に関しては
このような予測手法を適用する事は難しく、
効果的な予防方法が存在しないということになっています。
特に37週以降に発症する遅発性の妊娠高血圧腎症に関して
その病理についてこれから詳しく調べていくことが求められます(263)。
そうした中で臨床試験が待たれます。
その臨床試験の中で予後テストや治療についての評価は
医療現場から強く求められている事項になります(263)。
この中で特に分娩後に生じる妊娠高血圧腎症は
一般的な分娩後の高血圧(≧140/90mmHg)
Postpartum hypertension (PPHTN)。
これと明確な区別はないとされています(756)。
Asako Mito(敬称略)のコメントによれば(757)、
日本では妊娠高血圧腎症を含めて妊娠時の高血圧の37%は
分娩後に生じているとされています(758)。
アメリカではPPHTNによって命を落とした母親の内、
70%は産後であったとされています(759)。
現時点では産後に高血圧が生じた時の
明確な管理プロトコルはないとされています(760)。
特に分娩後に高血圧が生じやすいリスク因子は
緊急の帝王切開です(761)。
その一つの想定される原因は子宮内の低酸素状態です(757)。
この低酸素状態は高血圧腎症とも関連があります(764,765)
他のリスク因子としては
◎分娩時の過剰な液体補充(*)(762)
(*)分娩中には適切な液体補充が必要です。脱水や合併症を防ぐためです。
◎血管収縮を引き押す痛みや治療(763)
これらが挙げられています。
PPHTNと妊娠高血圧腎症との区別も必要です。
この分娩後に生じる高血圧を含めて
妊娠高血圧腎症の発症時期は
潜在的な病因の違いを反映していると考えられています(263)。
この事が毎日のアスピリン投与によって
妊娠時期37週以降に発症する遅発性の高血圧腎症の予防に対しての
効果が制限的であるという事と関係しています(270)。
下述するように遅発性の妊娠高血圧腎症に関しては
絨毛の内皮に存在する栄養膜合胞体層の細胞の老化によって
胎盤自体の老化を速めている可能性が想定されています。
このような早期の細胞の老化は
胎盤の形成が分娩後、解消され、
そのライフサイクルが他の臓器、組織と比べて
顕著に短い事が一因として挙げられるかもしれません。
一方で、
妊娠時高血圧腎症を完全に3つに分類する事はできない可能性もあります。
血圧の上昇の他に
腎機能、肝機能の低下、血液異常、胎児の成長遅延などがあり、
これらに対して診断の為の評価基準があります。
血圧などは急上昇する事が述べられていますが、
しかし、その原因となる病理、病状の進行においては
閾値的なものではなく、段階的かもしれません。
その様に考えると完全に分けて考える事で
病因に対する理解を妨げる事が懸念されます(271)。
また、診断が完全にタイムリーに行われているか
どうかも不明瞭です。
実際に早発性の高血圧腎症は
最大で20%程度、疫学において過小評価されている
可能性が指摘されています(272)。
つまり、37週以降に妊娠高血圧腎症と診断されても、
そのうち一部の女性は
それよりもずっと早い段階に
病因が存在し、病状がある程度進行していた可能性がある
ということです。
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<<バイオマーカー>>
実際に循環器に存在するRNAのバイオマーカーによって
臨床症状を呈する3か月以上前に
そのバイオマーカーによって陽性反応を示すことができる
可能性が示唆されています(273)。
例えば、RNAにより割り出される遺伝子は
CLDN7, PAPPA2, SNORD14A, 
PLEKHH1, MAGEA10, TLE6, FABP1であり、
(Ref.(273) Fig. 3b)
このうち4つは以前から妊娠高血圧腎症もしくは胎盤発育
に関連する遺伝子であると指摘されていました(274-277)。
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<<胎盤の組織形成>>
胎盤の組織形成について詳しく理解する事は
妊娠高血圧腎症の病理の理解、治療、管理、予防だけに関わらず、
妊娠そのものの理解や妊娠中の母子の健康
出産を経験した母親、そのお子さんの生涯の健康を
実現する上で極めて重要です。
ここで、Evdokia Dimitriadis(敬称略)らが教科書として
総括されている胎盤形成の節を詳細に参照し(263)、
付加的な情報と共に読者の方と情報共有したいと思います。
例えば、肺の機能、腎臓の機能は
1つ1つの肺胞やネフロンの機能、その数によって決まります。
言い換えれば、肺や腎臓は
肺胞やネフロンなどの構造ユニットの集まりである
と定義する事もできます。
胎盤も肺や腎臓などと同様に下述するように
構造ユニットを持ち、その集まりであると定義する事もできます。
特に腎臓は血液から尿として老廃物を排出するための
ろ過機能を持ち、胎盤と構造的、機能的な類似性を
一定割合見出すことができます。
今述べた様に胎盤はろ過機能を持ちます。
例えば、
◎薬物
◎一部のホルモン、免疫グロブリン
◎一部のウィルスや細菌
◎赤血球など一部の血漿成分
これらにおいて特に大きな分子を中心に
胎盤のろ過機能を果たす絨毛組織を通過することができません。
従って、母親の子宮にいる胎児を守るためには
腎臓のネフロンの中にある糸球体と同様に
胎盤の中のろ過機能を持つ絨毛組織の
健全な形成が重要になると考えられます。
Wang Y(敬称略)らが参考文献(544)Figure 3.1に示すように
この絨毛は木のような構造を持ちます。
その木の幹となる部分が
◎子葉(cotyledons)
このように命名されています。
成熟した胎盤全体では重さは500-600gであり、
その中にこの子葉が15-28個含むとされています(544)。
この子葉は
◎絨毛幹(stem villus)
このように命名され、構造的ユニットとされています。
この絨毛幹が初めに形成されてから
そこから木の枝のように枝分かれする葉の部分に
形成される上述した絨毛が形成されるまでには
3-5の中間の絨毛の状態、ステージが存在するといわれています。
(参考文献(544) Figure 3.1B)
成熟した状態では1つの絨毛幹、子葉からなる
構造的ユニットあたり10-12の絨毛が存在すると言われています。
従って、胎盤全体で
最小で150個、最大で336個((15-28)×(10-12))。
この数の絨毛が存在する事になります(544)。
この数百個の絨毛一つ一つが
胎児に臍帯を通して栄養を届け、
有害な物質から守るための重要な機能を果たします。
このように健康な胎盤の機能はこの絨毛一つ一つの機能と
絨毛の中、絨毛の外の血管生成に依存すると考えられています(263)。
妊娠の最初の三半期、つまり妊娠12週目に
おおよそ成熟した胎盤が形成されるといわれています(545)。
受精卵が着床するために最も適した状態の
子宮内膜である受容性子宮内膜に
成熟した受精卵である適格な胚盤胞が着床し、
その後、妊娠が成立します(546)。
胚盤胞の中の胚外系統から胎盤が形成されます。
栄養外胚葉細胞(trophectoderm cells)は
絨毛の前駆細胞である細胞栄養芽層(cytotrophoblasts)に分化し
合胞体栄養膜細胞(syncytiotrophoblast)と
絨毛外栄養膜細胞(extravillous trophoblasts)に
さらに分化します(547)。
組織の形成において重要な役割を果たす間葉系細胞である
胚外間葉(Extra-embryonic mesoderm)は
絨毛の核となる間質組織や血管に分化し
その組織の一部となります(547)。
胎盤の絨毛は2層からなる栄養膜によって覆われています。
この多核化合胞体栄養膜細胞
(multinucleated syncytiotrophoblast)。
これは胎盤全体を覆っています。
母親の血液、細胞栄養芽層と直接的に接触します。
この細胞栄養芽層は絨毛外栄養膜細胞を形成し、
胎盤の絨毛を母体の脱落膜に細胞柱を介して固定させます(547)。
(参考文献(263) Fig.2a)
この細胞柱は絨毛から脱落膜領域への
栄養膜細胞の移動を可能にします。
それによって一部の栄養膜細胞が螺旋動脈域に進入し、
絨毛外栄養膜細胞に分化して、螺旋動脈の内皮組織として機能します。
これは着床から2週間程度で生じ、18週間後まで続きます(547)。
この時期になると胎盤形成はおおよそ完了しています(548)。
妊娠の維持や胎児の成長に関連する女性ホルモンである
プロゲステロンが絨毛外栄養膜細胞から放出されることで
脱落膜化を促進します(549,550)。
これにより妊娠中にずっと維持される脱落膜組織が形成されます。
この脱落膜組織は
◎胎児と母体の境界の形成
◎栄養供給と酸素の交換
◎免疫制御
◎ホルモン分泌
◎胎盤形成の支持
これらの主な機能があり
Shu-Wing Ng(敬称略)らがFigure 1に示すように
胎児をと胎盤を取り囲む基盤となる組織です(551)。
胎盤の絨毛は胎盤の入り口である螺旋動脈を通じて
母体から供給された血液の中に浸かり、
妊娠中、胎児の健康をサポートするために必要な
全ての栄養素、ガスの交換を促進します。
この絨毛の間質のコアの部分には毛細血管があり、
上述した数百個ある絨毛が束となり臍帯となります。
この毛細血管、臍帯は胎児と母親の血液の交換の際の流路となります。
妊娠の最初の三半期、つまり妊娠12週目までに
前述した螺旋動脈はリモデリングされ、
Evdokia Dimitriadis(敬称略)らがFig.2aに示すような
胎盤への入り口付近の流路の広がりが形成されます。
この部分では通常の血管にあるような平滑筋はなく
流速は速く、抵抗の低い流路となっています(552)。
このように多くの血液を入れられることは
特に妊娠後期の胎盤、胎児の血液需要の多さに適応するためのものです。
このような螺旋動脈の組織リモデリングは
脱落膜中に存在する常在型のNK細胞、制御型T細胞によって生じます。
上述したように螺旋形を作る事から
形状整合性をとるために平滑筋は喪失され、
血管新生因子、サイトカインの分泌を通して
脱落膜に存在する絨毛外栄養膜細胞が
螺旋動脈の内皮組織を形成するために陥入されます(553)。
絨毛外栄養膜細胞は一時的に血液を止め
低酸素状態での胚形成を促します。
この動脈のせき止めは妊娠10-12週には外されます(554,555)。
その後、上述したように螺旋動脈を通じた
血液供給量は段階的に増え、絨毛、臍帯を通して
胎児に供給され、それに応じて酸素供給量も上昇します。
上述したように胎盤内でろ過機能を持つ絨毛は
その幹の部分、発達段階を含めると下述するような
いくつかの形態があります(544)。
(1)Stem villi(絨毛幹)
絨毛幹は絨毛膜板に接合し、
様々太さの血管が繊維状に束となった間質です
この血管は外周部に平滑筋を伴います。
絨毛幹の栄養膜層は妊娠期間が進むにつれ
部分的に繊維素に入れ替わります。
絨毛幹の機能はそこから平均して10-12個程度枝分かれする
絨毛を幹として支えるものです。
(2)Immature intermediate villi(未成熟の中間絨毛)
未成熟の中間の絨毛は
Sunil Jaiman(敬称略)らがFigure 1に示すように(564)
絨毛組織の成長途上にある球根上の枝の部分です。
このタイプの絨毛は
◎網状基質
◎ホフバウア細胞(Hofbauer cells)
ホフバウア細胞は胎盤内に存在する特別なタイプの細胞であり、
マクロファージの一種で、免疫機能を思います。
胎盤内の組織を修復し、成長因子や栄養素を産生する機能があります。
◎豊富な血管
◎不連続な細胞栄養芽層
これらを持ちます。
外側の合胞体栄養膜細胞は発達の間、連続的につながっています。
この未成熟の中間の絨毛は妊娠1期、妊娠2期の間において
ガスや血液を交換する主要な絨毛で、
まだ、末端部に形成される絨毛(terminal villi)は分化されていません。
(Terminal villi:参考文献(564) Figure 1参照)
(3)Mature intermediate villi(成熟した中間絨毛)
成熟した中間絨毛は絨毛組織全体で見た時の構成部位は
未成熟の中間絨毛と同様ですが、
より絨毛が成熟した段階で出来る中間絨毛で、
形としては未成熟な状態よりも長く、細くなります。
(参考文献(564) Figure 1参照)
この成熟した中間絨毛から
下述する末端絨毛(terminal villi)が産生されます。
(4)Terminal villi(末端絨毛)
末端絨毛は絨毛組織の末端に位置し、ブドウのような構造を持ちます。
大部分に毛細血管が形成されています。
組織としては小さいため間質部が少なく、
不連続な細胞栄養芽層を持ちます。
1つの末端絨毛当たり4-6の毛細血管を持ちます。
この毛細血管は末端絨毛の皮質に当たる合胞体栄養膜細胞とは
薄い基底膜によって隔てられています(3.7μm程度)。
この末端絨毛は胎盤が成熟すると絨毛組織全体の40%を占めるようになります。
ブドウの形状をしていることから表面積の割合は50-60%となります。
(5)Mesenchymal villi(間葉絨毛)
間葉絨毛は妊娠の初期の間の最も原始的な絨毛です。
間葉絨毛には基質はなく、血管生成も少なく、
コアの周りには細胞栄養芽層を持ちます。
血管、基質を持たない事から「絨毛の芽」と参照されます。
絨毛が増殖する場所に付着し、内分泌活性を持ち、
絨毛組織の初期の成長に寄与すると考えられます。
最終的に胎盤が成熟していくと
間質絨毛の重量割合は1%未満と小さくなります。
以上が絨毛組織のサブタイプとなります。
まとめると絨毛組織は全体で植物の木と類似するような形状であり
類似する成長過程を経験します。
芽吹く段階では間質絨毛が主に作用し、
そこから絨毛幹が成長し、未成熟の中間絨毛が幹、枝を伸ばし、
成熟した段階で末端部に末端絨毛を形成します。
次に
脱落膜について説明します(551)。
人は数少ない哺乳類の受胎生物で月経周期の後半に
受胎産物の有無を問わず脱落膜化します(565-567)。
妊娠の健康状態は受精卵が分裂した胚盤胞が子宮内膜に着床する前に
決まっている場合さえあるとされています(551)。
この胚盤胞の着床は3つのステップがあります。
①不安定な吸着
②安定な吸着
③浸入
これらで着床から10日経過すれば胚盤胞は子宮内膜の中に
完全に埋め込まれます。
そこから段階的に胎盤、脱落膜が形成されます。
細胞栄養膜芽層が分化して
絨毛組織、脱落化膜、螺旋動脈の皮質を形成します。
上述したように子宮に常在するNK細胞やマクロファージが
上述した皮質を形成する栄養膜細胞を引き付けることによって
任意の形の組織化に貢献します。
脱落膜は胎児と胎盤のユニットにおいて親密に関連する母体の組織です。
内分泌、免疫機能を持つ組織として重要な役割を果たします。
着床、胎盤形成の過程は3つの脱落膜領域を形成します。
◎Decidua capsularis(胎児、羊水を覆う膜)
◎Decidua basalis(胎盤の基底に存在)
◎Decidua parietalis(上述した以外の脱落膜領域)
(参考文献(551) Figure 1参照, 参考文献(568)参照)
子宮内膜と脱落膜は複雑、動的、異種的な組織です。
それらは複数の細胞種で形成されます。
妊娠第一期では10-30%の細胞が間質線維芽細胞で
妊娠後期になるとこの割合が60-70%に上昇します。
妊娠が進行するにつれ、子宮が胎児の成長に伴って大きくなりますから
脱落膜もそれに応じて長く、大きくなる必要があります。
この事実から脱落膜の間質繊維芽細胞は
妊娠後期になると割合が増えますから、
子宮、脱落膜を大きくするうえで重要な役割を持つ細胞種である
と想定する事ができます。
細胞の構成は全体的、局所的なホルモンの変化に従い
妊娠期間中に変化します(569-575)。
子宮内膜と脱落膜は常在型のNK細胞、マクロファージを中心に
多くの免疫細胞を含みます。
これらの免疫細胞は骨髄由来で
子宮内膜へ届けられる血流を通して供給されます。
これらの免疫細胞は上述したように胎盤の組織形成に関与しますが、
胎盤を感染症から守る働きを持っています(576,577)。
妊娠に際して生じる脱落膜化は
子宮内膜部の機能的、形状的変化として参照されます。
その形状の変化は胚盤胞の着床が起点となります。
これらの変化に応じて白血球が引き付けられます。
特に重要なのが子宮内膜間質線維芽細胞が
脱落膜間質線維芽細胞に分化する事です。
このような形質の変化は後に赤ちゃんを収納できるように
十分な大きさ、長さを持つ脱落膜組織を動的に形成する上で
重要なプロセスとなります。
従って、遺伝子的な変化も伴います。
◎細胞増殖の促進
◎免疫寛容性の亢進
◎組織浸潤性の促進
これらの形質を持つようになります(551)。
これらは胎盤形成を伴う進化の過程で獲得されたものである
とされています(578,579)。
人の妊娠における脱落膜化の機能的な重要性は
完全には理解されていません。
しかしながら、いくつかの機能が想定されています。
◎胎児の収納(580)
◎成長できない胚の陰性選択(581)
◎着床の許容範囲の決定(582,583)
◎子宮の恒常性(584,585)
適切な脱落膜化は着床、妊娠発展を制御し、
人における妊娠の成功の重要な決定因子となっています(586)。
健康な妊娠時期を過ごすためには
妊娠以前の子宮内膜の健康状態は重要です(551)。
月経周期の黄体期では子宮内膜の崩壊の準備をしますが
①ホルモン
②生化学
③免疫学
これらにおいて最適な発生が必要になります(551)。
①ホルモン因子
月経周期の卵胞期の間、卵巣の顆粒膜細胞による
女性ホルモンであるエストロゲンが子宮内膜を増殖させ、
その膜厚を大きくさせます。
子宮内膜の脱落膜化の主な駆動因子は
女性ホルモンであるプロゲステロンで排卵期に引き続き
卵巣の黄体によって産生されます。
受胎の無い状態では黄体は14日で退行するようにプログラムされています。
結果として全体的なプロゲステロン減少と月経となります。
妊娠の存在下では栄養膜細胞による
人性腺刺激ホルモンである絨毛ゴナドトロピン(hCG)の産生によって
黄体の退行を阻止します。
それによって妊娠5-7週で胎盤がこの機能を引き継ぐまで
プロゲステロンの産生を維持させます(587)。
上述した性腺刺激ホルモンhCGに反応して
レラキシン、副腎皮質刺激ホルモン(CRH)のような局所的ホルモンが
自己分泌、傍分泌様に作用し、
ES細胞の細胞内のcAMPレベルを向上させます。
それが子宮内膜の脱落膜化を促し、
着床をサポートし、妊娠初期も同様に支援します(588-590)。
従って、様々な種類のホルモンが連携し、
胎盤の形成や胎児を収容するために必要な子宮の組織形成の
ダイナミクスの一つの重要な機序である
脱落膜形成が生じるとまとめる事ができます。
②生化学因子
生化学的、代謝因子が脱落膜化において重要であるという
科学的な証拠は増えてきています。
例えば、脂質仲介物質である
リゾホスファチジン酸(LPA)は子宮上皮によって産生されます(591)。
これは以下の経路を制御します。
◎Heparin-binding epidermal growth factor(HB-EGF)(592)
◎Epidermal growth factor receptor (EGFR)(593)
◎Cyclooxygenase 2 (COX2)(593)
これによって
プロスタグランジンE2の産生を促し、
インターフェロンγによる制御の元で
子宮内膜、脱落膜中に存在するES細胞の
脱落膜化の空間的制御が促されます(594,595)。
Shu-Wing Ng(敬称略)らがFigure 2に示すように(551)
ES細胞は胚盤胞が子宮内膜に着床後、
脱落膜化が生じるときには
脱落膜間質線維芽細胞(DSCs)に混在しています。
このES細胞の一部が脱落膜間質線維芽細胞に分化する事で
脱落膜の組織成長が生じると考えられます。
他の自己分泌、傍分泌様に働く分泌物として
◎IL-1β, IL-11(596-600)
◎Leukemia inhibitory factor(LIF)(596-600)
◎Activin(601-604)
◎TGF-β1(601-604)
◎Bone morphogenesis protein 2(BMP2)(601-604)
◎Left–right determination factor 2(LEFTY2)(601-604)
これらが脱落膜化プロセス、
つまり脱落膜が胎盤形成や胎児の成長に合わせて
持続的に成長していく上で重要になります。
その際には脱落膜の細胞に栄養を送るための血管生成や
脱落膜組織の骨組みとなる細胞外マトリックスの生成が促進されます。
グルコースは脱落膜化の代謝シグナルです。
癌細胞や免疫細胞では細胞活動が活発になると糖代謝になります。
それを「Warburg effect」と呼びます(605,606)。
この効果がマウスの妊娠初期の脱落膜にも生じている
ことが報告されています(607)。
脱落膜の成長は臓器形成のように活発に
細胞数を細胞分裂、増殖によって増やしていく必要がありますから
上述した脱落膜化における糖代謝は
活性度の高い癌細胞やエフェクター性の高い免疫細胞、
あるいは臓器形成と一定の代謝的な共通性を示すものかもしれません。
例えば、臓器形成においても報告は限られているものの
ラットでグルコース代謝になることが示されています(608)。
しかしながら、
同時に血糖値の制御能力の高さを必要とします(551)。
これはそれぞれの細胞内の酸化ストレス制御と関連があります。
血液中の糖の濃度を関連のある
インスリン感受性と臓器形成についてははっきりわかっていませんが、
妊娠女性が糖尿病に罹患していると
一般的に子どもが過剰に大きくなる(巨大児の)傾向があるようです(609,610)。
従って、糖と組織の成長は密接に関わり、
成長期における糖供給、糖代謝の健全性は
同様に健全な成長において重要である可能性があります。
例えば、子どもの脳が劇的に成長するのは
乳児期である2歳までですが、
この時にはグルコース源としては
母乳に含まれる乳糖(ラクトース)が挙げられます。
このラクトースは小児の小腸の絨毛で分泌されるラクターゼによって
グルコースとガラクトースに分解吸収されます。
このグルコースが成長の一つの重要な栄養素となっていると想定されます。
子どもの頃は消化能力が未熟なため、
大人のように炭水化物を消化して、糖の源とすることには
適していないとされています。
③免疫学因子
子宮内膜の免疫生成の重要性はより明らかになってきています。
②の生化学因子で記述した脱落膜成長における成長因子、サイトカインも
免疫学的因子の一環であると定義できます。
父親の抗原への暴露は子宮内膜の免疫機能を誘導します(611)。
精液には可溶性、エクソソームによる信号仲介物質が存在し、
白血球を誘導したり、炎症を抑えるための制御型T細胞を精製させます。
それにより血管生成を促進し、前述した父親の抗原に対する
寛容性が高まります(612)。
子宮が胎盤を形成し、脱落膜を拡張させる際には
血管生成と組織の健全な成長は欠かせません。
その時には免疫細胞やその免疫細胞を監視するシステムが必要です。
NK細胞や制御型T細胞は上述したように
胎盤や脱落膜形成において重要ですが、
その際に父親の異種の抗原が炎症要因となります。
この炎症はダイナミックな組織形成に悪影響を与える事が
高い確率で想定されます。
上述したようにその抗原への耐性を高めるためには
抗炎症性物質の生成を促す精液への定期的な暴露が必要です。
体外受精は妊娠高血圧腎症や早産のリスク因子ですが(551)、
体外受精の治療を受けている時に
その精子を持つ同じパートナーと性的関係を築くことは
着床の成功と妊娠時の健康を改善すると言われています(551,613-615)。
父親の抗原は母親にとってはある種、異物ですから
そのたんぱく質をコードする核酸を含めて
炎症性免疫惹起の原因となる可能性があります。
実際に父親の抗原とそのDNAは
妊娠高血圧腎症と重要な関連があるとされています(616,617)。
子どもの実の父親からの精液の繰り返される暴露、
つまり、同じパートナーとの性的関係の中で
母親の子宮、子宮内膜へ繰り返し精液が進入すると
妊娠高血圧腎症のリスクが下がることが示されました(618,621,622)。
但し、この関係性を見いだせないという
大規模なプロスペクテブ研究もあります(619)。
従って、生物学上の父親と高血圧腎症のリスクにおいて
性的関係の期間が影響を及ぼすかどうかについては
一定の懐疑を持つ必要があります。
しかし、Ee Min Kho(敬称略)らのコホート研究では
バリア避妊を行わず性的関係性を
実の父親と持った期間において
3か月以内に健康な出産を実現した人は
11,2%であるのに対して、
妊娠高血圧腎症に罹患した人は
18.3%であったとされています。
統計的に有意差があるほど高いデータになっています(620)。
一方で、バリア避妊を行う事が
妊娠高血圧腎症のリスクを下げると言われています(622)。
しかし、その場合、避妊具の使用によって
父親の抗原の(少なくとも一部の)浸入も防ぐことになります。
どのような性的関係を築くのが、
母子の健康において重要かというのはまとまらない状況ですが、
例えば、比較的高齢で結婚したパートナーで
交際期間が短く、できるだけすぐに子を授かりたいと
思っている人において、体外受精を考える際には
それ以前の一定期間、自然妊娠の為に
パートナーとの積極的な性的関係を築くことが重要であり、
Shu-Wing Ng(敬称略)らが述べるように
治療中もその関係性を維持する事が肝要であると想定されます。
次に脱落膜化の分子的な制御因子について説明します。
脱落膜化の過程ではその拡張に関連する脱落膜間質線維芽細胞に
分化するES細胞は固定的な組織化のために
間葉上皮転換(MET)が必要です。
その形質転換の中で以下のような遺伝子が導入されます。
◎HOXA10, HOXA11, FOXO1, WNT4, IGFBP1, and prolactin (PRL)
これらです(623-626)。
その信号変換経路は下記のようないくつかに分類されます。
①プロゲステロン受容体仲介のゲノム性プロゲステロン信号経路
②プロゲステロン受容体非依存の非ゲノム性プロゲステロン機能
③代謝制御因子
※プロゲステロン受容体仲介をnPGRと表記する
それぞれ1つずつ説明していきます。
①nPGR仲介のゲノム性プロゲステロン信号経路
nPGRは3-ketosteroid核受容体ファミリーの主要なメンバーです。
脱落膜化の間、
プロゲステロンとcAMP/PKA信号に反応します(627,628)。
このPGR信号ネットワークは
複数の異なる古典的信号経路によって構成されています。
下述するような多数の下流の制御因子に関与します(629)。
◎Indian hedgehog (IHH) (630)
◎Heart and neural crest derivatives-expressed (HAND2)(631)
◎Transcription factors Forkhead Box O1 (FOXO1)(632)
◎SPR-related HMG-box gene 17 (SOX17)(633)
◎STAT1, STAT3, STAT5(634)
※Signal transducers and activators of transcription (STAT)
◎Notch signaling(635)
◎Insulin receptor substrate 2 (IRS2)(636)
◎BMP2 and WNT signaling(637)
◎HOXA10(638)
◎CCAAT/enhancer-binding protein β (CEBPB)(639)
◎EGFR(640)
◎Mammalian target of rapamycin complex 1 (MTORC1)(641)
◎TNFα /NFκβ pathway(642)
※the tumor necrosis factor alpha-nuclear factor kappa-light-chain-enhancer of activated B cells’
これらの経路は胚-子宮、上皮-間質、間質-免疫細胞の
クロストーク、相互作用において重要な役割を果たします。
この精緻な相互性は着床前から生じます。
下述する様々な機能と関連します。
◎上皮間葉転換
◎インスリン抵抗性
◎Focal adhesion
※細胞とその周囲の基質との間に形成される、
特定の部位における細胞接着点
◎栄養膜芽細胞の浸潤
◎補体の制御
◎凝固カスケード
◎サイトカイン受容体同士の相互作用
◎生体異物の代謝
◎炎症反応
◎ECM受容体の相互作用
◎血管生成
◎アポトーシス
◎細胞骨格リモデリング
◎グリコーゲンの分泌
◎脱落膜マーカーの分泌(PRL, IGFBP1, PECAM-1, MPIF-1)
②nPGR非依存の非ゲノム性プロゲステロン機能
子宮内膜や妊娠に関連する組織の中で
(1)PGR被膜のPGRMC1, PGRMC2(642)
(2)Progestin and adiponectin受容体(PAQRs)(643)
これらは女性ホルモンであるプロゲステロンの
非遺伝子的機能を仲介するための変換経路を活性化します。
その時に以下の受容体などの物質と相互作用します
◎PGR(644)
◎Other steroid receptors (645)
◎Regulating endometrial receptivity(646)
◎Triggering and promoting parturition(647,648)
脱落膜化における被膜に関連するタンパク質の
機能的重要性についてはよくわかっていません。
しかしながら、nPGRに加えて
◎Glucocorticoid receptor (GR)
◎Mineralocorticoid receptor (MR)
◎Androgen receptor (AR)
これらの受容体は脱落膜化において重要な役割を果たします。
上述したAndrogen受容体は
◎細胞サイクルの制御に関連する抑制遺伝子
◎細胞骨格、細胞移動に関連する優性遺伝子の亢進
これらを伴う脱落膜化の特徴的な遺伝子の発現を制御します(649)。
さらに
ES細胞でのProgesterone/cAMPの誘導は
◎11β-hydroxysteroid dehydrogenase type 1 (11β-HSD1) 
この酵素の発現を亢進させ、
それによってコルチゾールを活性化させます。
これにより脱落膜化に関与するES細胞の代謝制御に貢献します(650)。
ES細胞の脱落膜化はプロゲステロン刺激反応の
多経路の非冗長的な信号ネットワークの統合に関与します。
③代謝制御因子
上述した酵素である11β-HSD1の発現の亢進、
ES細胞の脱落膜化に関わる活性は
◎Glucocorticoid receptor (GR)の減少
◎Mineralocorticoid receptor (MR)の上昇
このようなバランス関係を実現します(650)。
MR依存的な遺伝子の亢進は脂質ドロップレットの生合成、
レチノイド代謝に影響を与えます。
例えば、 11β-HSD1酵素は
Dehydrogenase/reductase 3 (DHRS3) 発現を亢進させます。
それにより脂質ドロップレットのレチノール貯蔵を促進させます(650)。
レチノイン酸(RA)は妊娠の維持で重要で
その代謝は母体と胎児の境界において厳格に制御されています(651)。
ES細胞の脱落膜化は
このレチノールが結合する
タンパク質(RBP4, CYP26A1)の発現を上昇させます(652)。
妊娠の維持において重要なレチノイン酸代謝に関連します。
脂質仲介物質であるLysophosphatidic acid (LPA)は
ES細胞の脱落膜化における時空間の制御のために重要な
◎EGFR信号
◎COX2発現
◎Prostaglandin信号
これらを制御します。
COX2はその後、
◎Uterine peroxisome proliferator-activated receptor-delta (PPAR-δ)
◎Retinoid X receptor (RXR)
これらを活性化します。
これは脱落膜化、着床の制御の為に重要です(653)。
Omega-3 polyunsaturated fatty acidsは
多くの動物、人による臨床研究で妊娠において利益がある
ということが示されています(654)117。
受容体GPR120は強力な抗炎症性、インシュリン感受性効果を持ちます(655)。
このGPR受容体はES細胞の中で
下記を亢進する事で脱落膜化を促進します(656)。
◎FOXO1
◎Glucose transporter-1 (GLUT1)発現
◎Glucose uptake
◎Pentose-phosphate pathway activation
以上が③代謝制御因子です。
脱落膜化は活性酸素の生成、そのストレスの揺らぎがある中での
血管のリモデリングを伴います。
脱落膜線維芽細胞はこのような酸化ストレスを初め
細胞へかかるストレスに対抗できるようにプログラムされています。
胎児と母親の境界の組織、機能完全性の維持や
胎児の生存を維持するために
脱落膜線維芽細胞は様々なストレスに耐えられる
機能を有しています。
その耐ストレス機能ための抑制する分子メカニズムは以下です。
◎c-Jun N-terminal kinase(658)
◎Attenuated inositol trisphosphate signaling(659)
◎Resistance to microRNA-mediated gene silencing(660)
一方、亢進する分子メカニズムは
◎Free radical scavengers(661)
さらに、細胞ストレス耐性のためのグルコース感知のため
◎O-GlcNAcylation
これが関与します。
また、脱落膜化をストレスがある中で推し進め
組織として成長していくためには代謝機序が重要であり、
その中でも特にグルコースと脂肪酸の代謝機序が鍵となります。
それにおいてN-acetyl-glucosamineの改変が伴います。
ES細胞の脱落膜化の間、
◎Glycosyltransferase enzyme
◎EGF domain-specific O-linked N-acetylglucosamine transferase(EOGT)
これらの亢進が重要になります(662)。
以下に、microRNAとエピジェネティック制御因子について述べます(551).
試験管による脱落膜化前後のES細胞のmiRNAのプロファイリングによれば
26種のmiRNAが亢進されていました。
一方、以下のmiRNAが抑制されていました(663)。
◎miR-96, miR-135b, miR-181 and miR-183
このうち、miR-96とmiR-135bは
◎FOXO1, HOXA10,  IGFBP-1
これらの分泌の抑制に関わります(663)。
従って、このmiRNAが抑制されるので
これらの物質の分泌が高められるということです。
FOXO1は制御型T細胞の活性において重要です。
上述した26種の亢進されたmiRNAの中にmiR-200ファミリーが含まれます。
◎IHH signaling
◎ZEB1(EMT制御因子)
これらの抑制と関連します(664)。
上皮間葉転換が抑えらえるのでES細胞が子宮内膜に入り込んで
安定的に脱落膜線維芽細胞に分化する過程において必要な機能である
と考えられます。
子宮内膜細胞はゲノムワイドクロマチンリモデリングを
脱落膜化の過程で経験します(665,666)。
◎The histone methyltransferase Enhancer of Zeste Homolog 2 (EZH2)
これがES細胞の脱落膜化の中で減少します(667)。
このEZH2の減少は
◎Trimethylated lysine 27 of histone 3 (H3K27me3)
これの減少依存的に妊娠初期において
炎症反応や収縮機能を抑制するとされています。
上述したことをまとめて説明すると
胚盤胞などに含まれるES細胞は間葉形質を持っていて
子宮内腔内、間質を活発に動く動性を有していますが、
着床し、妊娠に成功すると胎児の健全な成長のために
胎盤形成し、子宮内膜の脱落膜化によって
子宮を大きくさせる必要があります。
その際には脱落膜線維芽細胞と細胞外マトリックスなどが
組織の実質、骨格を形成し、
その割合が子宮が大きくなるにつれ増えていきます。
その脱落膜線維芽細胞に分化するのがES細胞で
この時、ES細胞は子宮内膜、脱落膜の組織の中に陥入する必要があります。
そのためには間葉形質から上皮形質に転換する必要があります。
ES細胞が脱落膜化のために上皮細胞としての機能を獲得すると
間葉型細胞の転換しないための分子メカニズムが働きます。
それによって、ES細胞は子宮内膜から脱落膜化する過程において
安定的に脱落膜線維芽細胞に分化することが可能になります。
脱落膜化の間、多数の遺伝子が働きます。
その遺伝子と紐づいた形で女性ホルモンや代謝経路が関わります。
組織を成長させていくときには
免疫細胞を精緻に調整し、バランスを取っていく必要があります。
従って、ブレーキ役の制御型T細胞が重要になり、
その細胞を誘導する一般的、普遍的な遺伝子
FOXO1などが活性化されます(657)。
Shu-Wing Ng(敬称略)らがFigure 2に示すように(551)、
ES細胞、分化後の脱落膜線維芽細胞も
炎症性免疫反応を抑える抗炎症性の機能は重要な要素の一つです。
それは父親の異種抗原に対する寛容性を高める働きもあります。
この免疫的な炎症によるストレスだけではなく、
活性酸素などによるストレスにも暴露されます。
従って、ES細胞や脱落膜線維芽細胞は
様々な種類のストレスに耐えられる機能を有しています。
また、組織を成長させていくためには
上述したように細胞が多くの糖を必要とするため
グルコースの取り込みを上げる必要があります。
しかし、それに付随して血糖値の制御も厳格に行う必要があるため
インシュリン感受性を上げるための経路、遺伝子も同時に働きます。
上述したような多様な機能が
遺伝子、ホルモン、代謝、栄養物質などが精緻に相互作用する事で
バランスがとられた形で実現すると解釈できます。
今挙げた遺伝子の作用の中には
遺伝子の転写効率に影響を与える多様なmiRNAも
協同的に作用し、健全な組織形成、機能形成の為、貢献します。
次に、Laura Lunghi(敬称略)らが総括する
人の栄養膜の機能の制御について
特に妊娠時の栄養膜の機能に焦点を当てて説明します(668)。
栄養膜は着床、胎盤形成において重要な役割を果たします。
着床時、胎盤形成時には子宮内膜など子宮の壁の組織は
顕著な変化を経験します。
ステロイド、ペプチド、プロスタノイドなどのホルモンによる
異なる制御分子によって生じます。
着床の間に合胞体栄養膜細胞(ST)が形成され、
母体組織に陥入されます。
その後、栄養膜の血管生成が生じます。
栄養膜細胞の制御は自己分泌、傍分泌の機序両方で駆動されます(668)。
上述したように妊娠中に生じる脱落膜化は
引き続き生じる栄養膜細胞の浸潤と胎盤の形成を制御します。
(A)Metalloproteinases
(B)Cytokine
(C)Surface integrins
(D)Major histocompatibility complex molecules
これらの制御因子が関わります。
従って、
◎タンパク質の分解(A)、
◎免疫機能(B,D)
◎細胞同士、組織との吸着機能(C)
これらが栄養膜の制御を通じた胎盤の形成において重要です。
栄養膜細胞は傍分泌の形式で
脱落膜間質細胞の遺伝子発現を修正します(669)。
さらに栄養膜細胞は
◎Prolactin(黄体ホルモン:妊娠維持)
◎Relaxin(黄体ホルモン:血管生成)
◎Renin(ホルモン:タンパク質分解酵素)
◎Insulin-like growth factor binding protein-1(IGFBP-1)(670,671)
(代謝、血管の恒常性機能)
◎Extracellular matrix(ECM)(※)(672)
(※)Laminin(着床と胎盤形成制御(673)),fibronectin(組織の接着(674))
これらの分子を分泌します。
ここで、妊娠時の細胞間ネットワークを整理するため、
傍分泌機序について付加的な調査を含めて、詳細に記述します。
上述したような傍分泌の様式は
分子そのものが露出された状態で他の細胞への
特異的な機能化を促す事も考えられますが、
エクソソームなど胞に包まれた状態で
細胞間を輸送するケースもあると想定されます(675)。
これらの傍分泌の様式は
◎栄養膜細胞⇒脱落膜細胞のベクトルだけではなく
◎脱落膜⇒栄養膜細胞という方向にも働き(676)
双方向性を持った状態で健全な妊娠を実現していると想定されます。
また、細胞外小胞(エクソソーム)は
microRNAを送達する機能を一般的に有しています(677)。
Shu-Wing Ng(敬称略)らの脱落膜化の総括の中でも説明されていたように(551)、
胚盤胞の着床から子宮内膜が脱落膜化していく過程において
多くのmiRNAが改変(亢進 or 抑制)されます。
従って、細胞外小胞は妊娠時においてmiRNAの改変における
細胞間コミュニケーションに関与している事が推測されます。
実際に細胞外小胞が細胞間コミュニケーションの
送達媒体の一つとして機能していると報告されています(678,680)。
一方で、このような細胞外小胞を介した傍分泌様の様式は
胎児に炎症物質を送達し、細胞種依存的な炎症反応の結果になります(679)。
Maria Ariadna Ochoa-Bernal(敬称略)らが
Figure 1に胚盤胞が子宮内膜に着床する物理的機序を
順に図示、記述しています(681)。
ES細胞、栄養膜細胞、免疫細胞(マクロファージ、NK細胞など)、
子宮内膜間質細胞、脱落膜線維芽細胞など、
その後に胎児に栄養を届ける、収容する
胎盤組織や脱落膜を子宮内に形成する際のコンポーネントとなる
細胞群は、自己分泌、傍分泌様に精緻に相互作用して、
発達段階に合わせて、機能を改変していくと想定されます。
その傍分泌様のメカニズムは
細胞から放出された分子が露出した状態で
他の細胞に届けられる形式も考えられますが、
上述したように細胞外小胞も傍分泌機序を支える
送達媒体として重要な役割を果たすと考えられます。
一方で、組織形成の炎症反応などが高まり、
妊娠の進行において何らかの病理、不全が存在する際にも
細胞外小胞はそれに関与している可能性が想定されます(679)。
以上が傍分泌に関する付加的な調査、考察になります。
母体から胎盤へ血液を輸送する螺旋動脈が拡張される際には
子宮内膜特異的な血管生成が生じます。
内皮細胞、平滑筋細胞の増殖が関与します。
上述したように胎盤組織の形成には免疫細胞が関わります。
その中でNK細胞の働きは重要で脱落膜化のプロセスで
その機能は亢進されます。
この子宮内に存在するNK細胞は
一般的に循環器に存在するNK細胞とは顕著に異なる性質を持ちます。
従って、子宮に特化した形で
◎Uterine NK cells(uNK)
このように定義されます。
一般的な細胞溶解活性は持たず(682)、
インテグリンを発現する事で
脱落膜化組織に移動、浸潤し、組織化に貢献します(672)。
このuNK細胞の数は妊娠後半には減少し、
分娩を迎えるときにはほとんど消滅します。
妊娠初期の脱落膜間質細胞と栄養膜細胞の間の
着床や胎盤形成における相互作用において
uNK細胞は重要な役割を担っていると推測されています(683)。
uNK細胞の引き寄せはホルモンによって制御され
着床時の胚には非依存的であるとされています(684)。
NK細胞やT細胞など他の免疫細胞の細胞毒性は
環境内に豊富に存在するTh2型の免疫細胞、
サイトカインによって抑えられています。
それによって胎児、栄養膜組織が守られています(685-687)。
胚盤胞が着床する際には
栄養膜細胞と子宮内膜組織が相互作用します。
胚盤胞の子宮壁組織への接着は
Selectins,Integrins,Trophininsなどの
接着分子の相互作用に依存します(688)。
これらの接着分子は栄養膜細胞と子宮上皮組織の
表面に発現しています。
その後、接着斑密度の減少と基底膜の消化によって
胚盤胞は脱落膜化が生じている子宮内膜へと浸潤し、
脱落膜間質細胞に着床します(688)。
このような組織の動的な変化は
ケモカインやサイトカインに誘導された
uNK細胞や骨髄系免疫細胞によってサポートされます(668)。
また、TGF-βやProstaglandinsも
上述したサイトカインを誘発し、
胚盤胞を子宮内膜へ引き付け、吸着させる機能があります(686)。
また、環境中に存在するケモカインは
免疫細胞を引き付けるだけではなく
G protein-coupled receptors仲介の信号を誘導させる事で
脱落膜化している子宮内膜上皮組織の
インテグリンの状態を改変し、活性化させ、
同じくインテグリンが発現されている胚盤胞が
フェブロネクチンを介して子宮内膜上皮組織に着床する事を促進します。
また、一般的に血管拡張作用があるNO(一酸化窒素)は
胚盤胞の着床の中で以下の複数の機能を有します(689)。
◎Prostaglandins release
◎Ovarian steroidogenesis
◎Uterine cell proliferation
◎Glandular secretion
◎blood flow
これらを改変し
◎Sex steroid
◎Growth factor
これらの活動を仲介します。
胚盤胞が着床するとすぐに
浮遊状態、固定状態(anchoring)の絨毛が形成されます。
絨毛の固定状態は
Evdokia Dimitriadis(敬称略)らがFig.2に示すような
脱落膜の組織に結合した状態を指すと理解しています(263)。
Wang Y(敬称略)らが説明するように(544)、
絨毛には下記の分類があります。
(1)Stem villi(絨毛幹)
(2)Immature intermediate villi(未成熟の中間絨毛)
(3)Mature intermediate villi(成熟した中間絨毛)
(4)Terminal villi(末端絨毛)
(5)Mesenchymal villi(間葉絨毛)
Laura Lunghi(敬称略)らは絨毛の発達段階は
これらの5つの要素を含む中で3段階あるとしています(668)。
3段階目に成熟すると絨毛の中の毛細血管も成熟し
胎児と母親の臍帯血を通じた物質の交換が行われます。
絨毛組織の拡大は多くの妊娠期間で生じるとされています(690)。
栄養膜細胞のサブタイプである
合胞体栄養膜細胞(ST)は内分泌活性を持っています。
◎Chorionic gonadotrophin(CG)
◎Placental lactogen (PL)
これらの妊娠の恒常性に関与するホルモンを放出します。
上述したように絨毛の側に層状に形成される
合胞体栄養膜細胞の他に
栄養膜芽幹細胞から分化される
絨毛外栄養膜細胞(EVT)があります。
幹細胞から合胞体栄養膜細胞、絨毛外栄養膜細胞の分化は
複数の仲介物質によって厳密に制御されています。
◎転写因子
◎特定の遺伝子
◎ホルモン
◎成長因子
◎サイトカイン
◎適正な酸素レベル
これらです。
胚盤胞の着床、胎盤形成、初期の胚形成が生じる
妊娠10週目までは周辺環境は低酸素状態であるとされています(691)。
上述したように酸素レベルは栄養膜細胞の分化に関わり、
低酸素状態では栄養膜芽幹細胞が
そのまま分化せず増殖しやすくなります。
従って、妊娠初期には栄養膜芽細胞が多く存在する事を意味します。
栄養膜細胞の分化は通常、厳格に制御されていますが、
低酸素状態が異常に長く続くと
妊娠高血圧腎症の病因の一つとなります。
HIF-1、TNF-αなども関わります(692)。
これにより絨毛のフィルター部に形成される
合胞体栄養膜細胞への分化が抑制されることで
妊娠が進んで絨毛の機能が重要になってきた段階で
フィルター部に異常が出る事で、
妊娠高血圧腎症につながる可能性があります。
栄養膜芽幹細胞からの分化を妨げる要因は
①低酸素
②HIF-1の亢進
③Hash-2の亢進
④Id-2の亢進
これらとなっています。
(参考文献(668) Figure 1)
従って、妊娠初期に生じる妊娠高血圧腎症では
上述した①~④の要素が複合的に病理として関連している
可能性があります。
ここからは
絨毛外栄養膜細胞(Extravillous trophoblast)の
機能について説明します(668)。
絨毛外栄養膜細胞は栄養膜芽幹細胞のシェルから分化して生じます。
初めに脱落膜に浸潤し、その後、
子宮壁を形成する平滑筋の間質組織に入ります(693)。
間質の栄養膜細胞として機能します。
Laura Lunghi(敬称略)らがFigure 2の赤色の領域に示すように(668)
平滑筋を血管生成の資源として
螺旋動脈を形成する必要があるので
この絨毛外栄養膜細胞は
平滑筋組織を改変する必要があります。
平滑筋領域の間質に浸潤した絨毛外栄養膜細胞は
この平滑筋を取り囲み、組織を破壊します。
そして、アモルファスの繊維素材料に変換します。
アモルファスとは構造として乱雑性の高いものである
と解釈できます。
従って、その後の組織形成の自由度を上げる構造となる
と理解しています。
次に、血管内皮の表現型を発現した絨毛外栄養膜細胞は
動脈の内腔に侵入し、血管の内皮を形成します(694)。
血管内皮に存在する絨毛外栄養膜細胞による
子宮内膜血管の浸潤は妊娠8週目には始まっています。
一方で、子宮壁の平滑筋領域への浸潤は
妊娠14週目あたりから始まります。
母体から胎盤へつなぐ血管生成のためには
血管生成因子が必要です。
その血管生成因子はAngiopoietinsとその受容体(Tie-2)です。
このTie-2は栄養膜細胞自身にも発現されています。
このAingopoietinは血管生成だけではなく
栄養膜芽細胞や絨毛外栄養膜細胞の増殖、移動を促進します(695)。
また、血管拡張作用のある一酸化窒素(NO)は
間質の栄養膜細胞によって合成、分泌されます(696)。
血管拡張だけではなく、血管の組織リモデリングにも
関与している可能性が想定されています。
しかし、これは豚のケースで
人の栄養膜細胞からはNOを合成する酵素は発現されていません(697)。
その代替の物質として一酸化炭素が
Hemoxygenase(酵素)を触媒として生成され、
全ての絨毛外栄養膜細胞に発現されています(698)。
これも一酸化窒素同様に血管拡張作用があります。
絨毛外栄養膜細胞はNK細胞の
◎サイトカイン
◎吸着分子
これらを改変します。
その改変はMHC-I(HLA-C,E,G)によって
NK細胞の
◎The killer immunoglobulin receptor (KIR) family
これに結合することによって生じます(699)。
上述したように間質の絨毛外栄養膜細胞は
脱落膜よりも深部にある平滑筋領域に侵入し、
そこでGiant cellsを形成するために融合します(700)。
絨毛外栄養膜細胞は主に吸着機能を高め、
子宮内の平滑筋領域に浸潤しやすくするための
以下のタンパク質の発現を亢進させます。
◎Matrix metalloproteinase (MMP)
◎α5β1 integrin
◎α1β1 integrin
◎VE-cadherin
◎Trophoblast specific HLA class 1 molecule (HLA-G)
これらです。
これらは吸着、浸潤機能を上げるだけではなく
胎児の拒絶反応を防ぐための役割を担うかもしれない
とされています(668)。
一方で、絨毛外栄養膜細胞が子宮内膜深部へ浸潤するときには
表層に近い脱落膜との結合性を下げる必要があります。
◎α6β4 integrin
◎E-cadherin
これらの発現は抑制されます(701)。
α6β4インテグリンは表層の子宮内膜に発現されている
インテグリンであるということが確認されています(702)。
ここから
インテグリン、カドヘリンの機能と
絨毛外栄養膜細胞の機能について総合的に考察します。
妊娠初期の胎盤形成の際に活発な動性を持つ
絨毛外栄養膜細胞があります。
これは絨毛の外の栄養膜細胞で
胎盤の特に螺旋動脈の内皮、入り口の組織形成、機能において
重要な役割を持ちます(263)。
胎盤形成、母体から供給される血液の流路形成のためには
脱落膜とその内側、深部にある平滑筋層を改変する必要があります。
その胎盤の入り口となる血管は螺旋動脈と呼ばれます。
Evdokia Dimitriadis(敬称略)らが
Fig.2aに図示するように(263)
脱落膜/平滑筋領域が層となり
それを貫通するように螺旋動脈が形成されます。
Laura Lunghi(敬称略)らがFigure 2に図示するように(668)
絨毛外栄養膜細胞は
脱落膜/平滑筋領域の2層共に存在します。
平滑筋領域ではGiant cellに融合して変化します(700)。
螺旋動脈を形成する過程で絨毛外栄養膜細胞は
元々は最表層側に形成される絨毛の栄養膜芽細胞の殻(シェル)から
分化されて移動してきます。
従って、螺旋動脈の血管生成をし、
胎盤と母体の血液をつなぐためにはより
組織の深部に移動する必要があります。
その時には周辺には間質細胞などが
足場として存在することが考えられ、
その足場との吸着状態を変える事が
層化した組織内の移動のためには必要です。
そのために絨毛外栄養膜細胞は吸着分子である
◎インテグリン
◎カドヘリン
これらのタイプを変更して、吸着状態を変えて
深部への浸潤性を高める事ができます。
具体的には上述したように
◎α5β1 integrin
◎α1β1 integrin
◎VE-cadherin
これらの発現を高め、
◎α6β4 integrin
◎E-cadherin
これらの発現を抑制します。
α6β4 integrinは子宮内膜に発現されているインテグリンです(703)。
α5β1 integrinを含めβ1は妊娠時の平滑筋細胞に多く発現
されているインテグリンです(703)。
同じインテグリン同士を持つ細胞が
間質に存在するフェブロネクチンを介して
固定されると想定すると
α6β4 integrinの抑制によって脱落膜化した子宮内膜と
絨毛外栄養膜細胞の接着性が低下し、
β1 integrinの亢進によって平滑筋と
絨毛外栄養膜細胞の接着性が高まることで
統計的に絨毛外栄養膜細胞は多く深部の平滑筋領域に
移動すると考えられます。
一方、
VE-Cadherinは血管内皮に多く発現されています(704)。
E-cadherinは絨毛や脱落膜にある栄養膜細胞に多く発現されています(705)。
平滑筋の血管生成においてVE-cadherinは
一般的に血管内皮に多く発現しているので
その領域に絨毛外栄養膜細胞を固定する上で
重要な機能があるかもしれません。
従って、インテグリン、カドヘリンの型によって
組織的に層状となっている比較的狭い領域において
細胞向性の機能を持たせることができ、
それは妊娠時の生体内に備わった機能として存在しています。
ここで
Laura Lunghi(敬称略)らの総括(668)に戻ります。
上述した絨毛外栄養膜細胞の機能は環境内の酸素濃度の影響を受けます。
酸素濃度が下がり、低酸素状態になると
絨毛外栄養膜細胞の浸潤性は抑制されます(706-708)。
その理由はインテグリン発現パターンが
修正されるからです(708)。
一方、絨毛外栄養膜細胞の浸潤性を高める因子は
◎Urokinase-type plasminogen activator(uPAR)
◎Plasmin
◎Latent MMP
これらの活性化です(709)。
胚盤胞の着床、胎盤形成、初期の胚形成が生じる
妊娠10週目までは周辺環境は低酸素状態であるとされています(691)。
従って、この時期に重要な栄養芽細胞の分化と浸潤は
低酸素状態の影響を受けないとされています(706)。
上述した絨毛外栄養膜細胞の改変は
複数の因子による複雑な現象によって支えられています。
これは妊娠初期の現象なので、
人はもちろん動物などのin vivo(生体内)のデータは不足しています。
多くはin vitro(試験管内)ですが、
Laura Lunghi(敬称略)らは総括(668)のTable 1にまとめているので
それを引用させていただきます。
※()内は分泌元、up:亢進 down:抑制
<①絨毛外栄養膜細胞の増殖>
(3)Colony Stimulating Factor-1(←胎盤、脱落膜)(up↑)(713)
(4)Decorin(←脱落膜)(down↓)(714)
(5)Epidermal Growth Factor(←栄養膜、脱落膜)(up↑)(715)
(12)Nodal(←胎盤)(down↓)(722)
(15)Prostaglandin E2(←栄養膜、脱落膜)(down↓)(712)
(17)Placental Growth Factor(←栄養膜)(up↑)(725)
(18)TGF-β(←栄養膜、脱落膜、uNK細胞)(down↓)(715,718)
(20)VEGF(←栄養膜、脱落膜)(up↑)(727)
<②絨毛外栄養膜細胞の移動>
(1)Adhesion molecules(←栄養膜)(up↑/down↓)(710)
(2)Angiopoietins(←栄養膜、脱落膜)(up↑)(709)
(4)Decorin(←脱落膜)(down↓)(714)
(6)Endothelin(←胎盤血管、3種栄養膜細胞)(up↑)(716)
(7)Hepatocyte Growth Factor(←栄養膜、脱落膜)(up↑)(717)
(8)Insulin-like Growth Factor II(←栄養膜)(up↑)(718,719)
(9)Insulin-like Growth Factor Binding Protein-Ⅰ(←脱落膜)(up↑)(718,719)
(10)Melanoma Cell Adhesion Molecule(←平滑筋)(down↓)(720)
(14)Urokinase-type Plasminogen Activator(←栄養膜)(up↑)(723)
(15)Prostaglandin E2(←栄養膜、脱落膜)(up↑)(711)
(15)Prostaglandin E2(←栄養膜、脱落膜)(down↓)(712)
(18)TGF-β(←栄養膜、脱落膜、uNK細胞)(down↓)(715,718)
(19)TNF-α(←脱落膜、uNK細胞、マクロファージ)(726)
<③絨毛外栄養膜細胞の浸潤>
(1)Adhesion molecules(←栄養膜)(up↑/down↓)(710)
(4)Decorin(←脱落膜)(down↓)(714)
(5)Epidermal Growth Factor(←栄養膜、脱落膜)(up↑)(715)
(7)Hepatocyte Growth Factor(←栄養膜、脱落膜)(up↑)(717)
(8)Insulin-like Growth Factor II(←栄養膜)(up↑)(718,719)
(9)Insulin-like Growth Factor Binding Protein-Ⅰ(←脱落膜)(up↑)(718,719)
(11)Metalloproteinases(←栄養膜)(up↑)(721)
(13)Hypoxia(環境全体)(up↑/down↓)(708,709)
(14)Urokinase-type Plasminogen Activator(←栄養膜)(up↑)(723)
(16)8-iso-PGF2α(←脱落膜)(down↓)(724)
(18)TGF-β(←栄養膜、脱落膜、uNK細胞)(down↓)(715,718)
<※1:それぞれ分子の機能>
(1)Adhesion molecules(吸着分子)
((一般的機能))
他の細胞や細胞外マトリックスの結合する表面タンパク質。
一般的には「Cell adhesion molecules(CAMs)」と呼ばれます。
例えば
(A):IgSF CAMs(Immunoglobulin superfamily)
(B):Integrins(インテグリン)
(C):Cadherins(カドヘリン)
(D):Selectins(セレクチン)
これらがあります。
((絨毛外栄養膜細胞における機能))(728)
(A)IgSF CAMs
Platelet-endothelial cell adhesion molecule-1(PECAM-1,CD31)が
螺旋動脈内皮細胞に排他的に発現されています。
従って、絨毛や絨毛外栄養膜細胞に発現がみられません(729,730)。
Melanoma cell adhesion molecule(Mel-CAM,CD164)は
絨毛外栄養膜細胞に発現され、
他の栄養膜細胞には発現されていません(731,732)。
Vascular cell adhesion molecule-1(VCAM-1)は
着床過程でその発現状態を変化させます。
これは子宮の環境内では
脱落膜基底組織内の血管内皮細胞で見られます(733)。
間質、内皮に存在する絨毛外栄養膜細胞両方で
このVCAM-1の発現がみられます(734)。
Intercellular adhesion molecule-1(ICAM-1)を含めて、
PECAM-1, VCAM-1, ICAM-1は
主に螺旋動脈の内皮組織に発現がみられ
絨毛外栄養膜細胞を螺旋動脈の内皮組織に
引き付けるための重要な役割を果たします(728)。
(B)Integrin(インテグリン)
絨毛外栄養膜細胞のインテグリン発現の低酸素状態は
妊娠高血圧腎症の絨毛外栄養膜細胞の浸潤の深さの改変に
影響を与えうるとして注目されてきました。
絨毛外栄養膜細胞の分化は
細胞が細胞外マトリックスに結合するにつれて進みます。
インテグリンα1の亢進は
低酸素状態である酸素2%では生じません。
これは絨毛外栄養膜細胞の移動度を下げる事と関連します(735,736)。
これはHIF1αによって制御されていると考えられています(737)。
上述したようにα1インテグリンは
絨毛外栄養膜細胞が螺旋動脈形成の為に
子宮壁の深部である平滑筋領域に移動するために
亢進させる必要のあるインテグリンです。
このα1へのインテグリンのスイッチが
低酸素状態で抑制されると
絨毛外栄養膜細胞の螺旋動脈形成の為の
適切な移動を抑制します。
低酸素状態が異常に長く続くと
妊娠高血圧腎症の病因の一つとなると考えられていますが、
その病理の一つはこの事に基づくかもしれません。
低酸素状態に活性化するHIF1α以外にも
このα1インテグリンのスイッチに影響を与える要因は
◎Vascular endothelial growth factor (VEGF)
◎Signaling through VEGF receptor-1 (VEGF-R1)
◎VEGFR-3
これらがあり、これらの血管生成因子が抑制されると
α1インテグリンの発現は減少します(738)。
◎インスリン様成長因子(Insulin-like growth factors)
◎インスリン様成長因子結合タンパク質1
(The insulin-like growth factor binding protein-1(IGFBP-1))
栄養膜細胞の移動を促進します(739)。
IGFBP-1はα5β1インテグリンに結合するRGDドメインを持ち
フェブロネクチンと結合している
絨毛外栄養膜細胞との結合を切り、
その移動性を高めたことが
試験管のケースで示されました(740)。
一方、胎盤に発現されているテトラスパニンCD9は
α3, α5インテグリンと関連があり
栄養膜の吸着を制御します。
上述したように
α5β1 integrinを含めβ1は妊娠時の平滑筋細胞に多く発現
されているインテグリンです(703)。
従って、α5のインテグリンは平滑筋領域への移動は重要ですが、
元々の起点に吸着している絨毛外栄養膜細胞を
固定から開放し(結合を切断し)、
移動させる付加的な機序が必要です。
上述したIGFBP-1はもともと脱落膜の間質の組織に固定されていた
絨毛外細胞を固定から開放し、移動するための起点において
重要な役割を果たすものかもしれません。
絨毛外栄養膜細胞は試験管内で
細胞膜表面に発現されているインテグリンと結合性を示す
フェブロネクチンを分泌する事が試験管のケースで知られています(741-743)。
浸潤性の有無によって絨毛外栄養膜細胞から放出される
フェブロネクチンの量は異なります。
浸潤性が高いα6インテグリンを発現している
絨毛外栄養膜細胞はほとんどフェブロネクチンを分泌しません。
一方、浸潤性の低いα5インテグリンを発現している
絨毛外栄養膜細胞は多くフェブロネクチンを分泌します(744)。
従って、絨毛外栄養膜細胞自身が
移動性を決める一つの重要因子である
トラップされる足場、細胞外マトリックスの状態を改変している
ということです。
αvβ3インテグリンは活発な血管生成において
重要なインテグリンのサブタイプであることは
広く知られています(745)。
従って、血管からより多くの糖などの栄養を必要とする
増殖度の高い腫瘍組織で血管生成される際に
αvβ3インテグリンは高まり、
それをインテグリン仲介の薬物送達システムに
応用する研究も活発に行われています(746)。
それを含めてβ5, β1インテグリンは
絨毛にある合胞体栄養膜細胞を血管生成のための
子宮螺旋動脈内皮組織に移動させるための重要な吸着因子です(747)。
妊娠高血圧腎症では螺旋動脈の出口付近の狭窄が
見られることがあります。
(参考文献(263) Fig.2b)
この原因は上述したようにα1インテグリンのスイッチが
絨毛外栄養膜細胞で抑制される事と
今述べた合胞体栄養膜細胞でαvβ3, α1β1へのスイッチが
抑制されることが一つであると考えられます。
その状況ではα6β4の発現が続くとされています(748-750)。
しかし、β1インテグリンの発現活性は
必ずしも妊娠高血圧腎症の病理とはつながらない
という報告もあります(751)37。
(C):Cadherins(カドヘリン)
VEカドヘリンは血管内皮細胞のマーカーであり、
絨毛外栄養膜細胞が螺旋動脈内皮に引き付けられる機序において
VEカドヘリンの細胞表面発現は重要になります。
実際に間質に存在する絨毛外栄養膜細胞や
螺旋動脈内皮細胞に発現している事が確認されています(766-768)。
浸潤性の栄養膜芽組織において
このVEカドヘリンの発現が不足していると
妊娠高血圧腎症に繋がる事が報告されています(766,767,769)。
逆にEカドヘリンの発現が維持されているとされています(770)。
カドヘリン-11は細胞柱の先端に位置する
絨毛外栄養膜細胞に発現されています(771)。
カドヘリン-11の機能ははっきりとわかっていませんが、
栄養膜細胞が子宮内膜層など母体の間質細胞に吸着する上で
重要な役割を持っているかもしれないとされています。
従って、子宮内膜の脱落膜化において重要で
この過程でカドヘリン-11は発現が亢進されます(772)。
一方、Dysadherinは細胞の表面糖たんぱく質で
細胞同士の吸着力をさげ、移動性を上げるのに貢献します。
栄養膜芽細胞が細胞柱へ移動するときに
このDysadherinの発現が亢進されます(773,774)。
(D):Selectins(セレクチン)
E-セレクチンとP-セレクチンは
・基底脱落膜(Decidua basalis)の血管内皮に発現
・側壁脱落膜(Decidua parietalis)の血管内皮に発現なし
このように脱落膜の場所によって異なります(775)。
Shu-Wing NgらがFigure 1に示すように(551)
基底脱落膜は胎盤の下部の基盤となる部分、
側壁脱落膜は子宮腔(Uterine cavity)の外側の部分になります。
これらE-セレクチンとP-セレクチンは
栄養膜細胞の血管内皮への移動、浸潤に関与します。
このように基底脱落膜の血管内皮発現されている理由は
基底脱落膜には太い螺旋動脈があり、
胎児の成長が伴う中で、その機能を維持するためには
血管内皮の栄養膜細胞が多く必要であるからであるかもしれません。
従って、E-セレクチンやP-セレクチンに限らず、
カドヘリン、インテグリンに関しても
絨毛外栄養膜細胞に対して血管内皮向性を持たせる
サブタイプのタンパク質は
基底脱落膜に多く、側壁脱落膜に少ないかもしれません。
側壁脱落膜は臍帯から遠く、
多くの血管が存在しないと考えられるからです。
(参考文献(551) Figure 1より)
一方、
L-セレクチンは絨毛外栄養膜細胞に強く発現されています。
細胞柱の構造を維持するために重要な役割を担っている
可能性があります(776)。
(2)Angiopoietins(アンジオポエチン)
((一般的機能))
脈管形成あるいは血管新生を促進する糖たんぱく質です。
脈管形成は胚形成期に血管がないところに新たに血管が作られる事。
血管新生は既存の血管から新たな血管が分岐し伸長する事。
これらです。
((絨毛外栄養膜細胞における機能))
Angiopoietin-2 (Ang-2)は
栄養膜細胞に発現されている受容体Tie2とIntegrin。
これら両方の発現の活性化を通して
絨毛外栄養膜細胞の浸潤を促します。
Ang-2発現の改変は、絨毛外栄養膜細胞の浸潤のバランスを崩し、
螺旋動脈の組織リモデリングの異常につながるとされています(777)。
(3)Colony Stimulating Factor-1(コロニー刺激因子,CSF-1)
((一般的機能))
単球、マクロファージ、および骨髄前駆細胞の増殖、
分化、生存に関与する造血成長因子です(778)。
((絨毛外栄養膜細胞における機能))
外因的にCSF-1を加えると絨毛外栄養膜細胞の増殖は促進されます。
この細胞成長刺激効果はc-fmsと相互作用する事によって起こります。
この細胞成長刺激効果は浸潤性を有する栄養膜細胞において生じ、
その様式は傍分泌、自己分泌に依る可能性があります(779)。
(4)Decorin(デコリン)
((一般的機能))
ロイシンリッチのプロテオグリカン(Small leucine-rich proteoglycan)。
このファミリーに属します。
デコリンは原線維の形成に影響を及ぼします。
◎Fibronectin,
◎Thrombospondin
◎The complement component C1q
◎Epidermal growth factor receptor(EGFR)
◎Transforming growth factor-beta(TGF-beta)
これらと相互作用します。
デコリンの主な機能は細胞サイクルの制御です。
オートファジー、内皮細胞を制御します。
その中で血管生成を抑制します。
この血管生成抑制の際には
血管成長因子であるVEGFR2と高い親和性で相互作用します。
◎Epidermal growth factor-receptor (EGF-R)
◎IGF receptor-1(IGFR1)
これらとも相互作用します(780)。
((絨毛外栄養膜細胞における機能))
デコリンはTGF-βと結合する事で
絨毛外栄養膜細胞の増殖、移動、浸潤の
負の制御因子となっています(780)。
また移動に関してはVEGF-Eとも相互作用します。
従って、Laura Lunghi(敬称略)らがTable 1で示すように(668)
デコリンは通常は絨毛外栄養膜細胞に対しては
その分泌、相互作用は抑制されています。
このデコリンは
◎妊娠高血圧腎症
◎栄養膜細胞低浸潤性疾患(a trophoblast hypoinvasive disorder)
◎血管形成不全
これらの病理と関わっています(780)。
(5)Epidermal Growth Factor(上皮成長因子,EGF)
((一般的機能))
上皮成長因子は上皮成長因子受容体(EGFR)と結合し、
細胞の増殖、分化、生存に関わります(781)。
((絨毛外栄養膜細胞における機能))
上皮成長因子の補充によって絨毛外栄養膜細胞の増殖は
刺激されませんでした(782)。
一方、妊娠期間8-10週において
hCGの産生は補充容量依存的に亢進されました(782)。
一方、5-6週ではこの効果はありませんでした。
このhCG(Human chorionic gonadotropin)によって
黄体からプロゲステロンが放出されるようになります。
これにより子宮内によって組織として厚い血管形成、
胎児の成長をサポートします(783)。
従って、上皮成長因子によるhCGの産生量増加により
子宮の血管組織の完全性や胎児の成長を促すと考えられます。
(6)Endothelin(エンドセリン)
((一般的機能))
血管を収縮させ、血圧を上げる作用があります。
従って、過剰発現すると高血圧や心臓病などにつながります(784,785)。
((絨毛外栄養膜細胞における機能))
Endothelin-1は胎児と母体の境界、つまり胎盤などで産生され、
その受容体であるET(A), ET(B)は
絨毛外栄養膜細胞の機能に影響を与えます。
外因的にEndothelin-1を与えると、
絨毛外栄養膜細胞の増殖には影響を与えませんでしたが、
移動能力を高める効果があります(786)。
(7)Hepatocyte Growth Factor(肝細胞増殖因子,HGF)
((一般的機能))
傍分泌様の細胞成長、移動、形態発生因子(Morphogenic factor)。
これらに関与します。
間葉系幹細胞によって分泌され、
上皮細胞や内皮細胞に働きかけ、
◎未発達の臓器形成
◎筋形成
◎臓器の再生
◎創傷治癒
これらにおいて重要な役割を果たします(787)。
間葉系幹細胞は皮膚などの創傷治癒に関与します(794,795)
また、造血幹細胞やT細胞にも働きかけます。
このようなHGFを介した創傷治癒の機序は
エクソソームなど傍分泌様にも働くことが確認されています(796)。
このHGFはc-Met受容体に結合後、
チロシンキナーゼ信号カスケードを活性化させる事によって
臓器形成、再生、治癒に関わる
細胞の成長、移動、形態発生を制御します(788,789)。
((絨毛外栄養膜細胞における機能))
肝細胞増殖因子(HGF)は栄養膜細胞の移動性、浸潤能力を
上昇させる因子であり、一酸化窒素合成酵素と共同的に働きます。
従って、この一酸化窒素の産生が抑制されると
HGF依存的な栄養膜細胞の移動性、浸潤性は失われます。
また、MAPK, PI3キナーゼ信号経路は
HGFによって促進された栄養膜細胞の移動性において
重要な役割を果たします(790)。
(8)Insulin-like Growth Factor II(インスリン様成長因子2,IGF-2)
((一般的機能))
IGF-1は大人の主な成長因子であるのに対して
IGF-2は主に胎児の成長因子であると考えられています(791)。
従って、妊娠の間に促進される成長ホルモンの一つです。
IGF-2はIGF-1とIGF-2の受容体両方に結合することができます。
IGF-2は月経周期の卵胞期の間、卵母細胞を包む
顆粒膜細胞(granulosa cell)の増殖を促進します(792)。
黄体期ではプロゲステロンの分泌を促進します。
((絨毛外栄養膜細胞における機能))
IGF-2 mannose 6-phosphate receptor (IGF-2/M6PR)軸の活性化によって
栄養膜細胞の浸潤性を上げる事ができます。
ヒト絨毛性ゴナドトロピン(Human Chorionic Gonadotropin,HCG)。
これと協同的に働き、
HCGの亢進は絨毛外栄養膜細胞とIGF-2の結合性を上げます。
これは結合サイトの増加によります。
IGF-2自身は絨毛外栄養膜細胞の移動性の向上は寄与しませんでしたが、
上述したHCGと合わせて働くことにより
絨毛外栄養膜細胞の移動性を向上させました(793)。
(9)Insulin-like Growth Factor Binding Protein-Ⅰ(IGFBP1)
(インスリン様成長因子結合タンパク質1)
((一般的機能))
このタンパク質はインスリン様成長因子1,2両方と結合します。
生殖機能、代謝機能、インスリン感受性などに影響を与えます。
生殖機能では卵母細胞の成熟、胎児の成長に関わります。
このタンパク質が不足はグルコース寛容性の異常、
高血圧などの血管、血液疾患に関連します。
((絨毛外栄養膜細胞における機能))
IGFBP1は
◎Mitogen-activated protein Kinase pathway(MAPK)(*1)
(*1)MAPKは
Mitogens, osmotic stress, heat shock, proinflammatory cytokines
これらの刺激を受けて以下の細胞の反応に関与します。
Proliferation, gene expression, differentiation, mitosis, survival, apoptosis。
これらです(801)。
◎α5β1 integrin(*2)
(*2)α5β1 integrinを含めβ1は妊娠時の平滑筋細胞に多く発現
されているインテグリンです(703)。
これらを通じて絨毛外栄養膜細胞の移動を促進させます(800)。
(10)Melanoma Cell Adhesion Molecule(MCAM)
((一般的機能))
内皮細胞のマーカーとして利用される
免疫グロブリンスーパーファミリーに属する細胞吸着分子です。
MCAMはラミニンα4の受容体として機能します(802)。
血管内皮、平滑筋、周皮細胞に多く発現されています。
((絨毛外栄養膜細胞における機能))
MCAMは絨毛外栄養膜細胞の移動と浸潤を抑制する働きがあります(803)。
(11)Metalloproteinases(金属プロテアーゼ)
((一般的機能))
金属が関与するタンパク質分解酵素です。
例えば、この金属プロテアーゼの一種であるADAM12は
胚成長の間の筋肉細胞の融合において重要な役割を果たします。
((絨毛外栄養膜細胞における機能))
この金属プロテアーゼは
Endocrine gland derived-vascular endothelial growth factor
(EG-VEGF)。
これと協同的に働き、絨毛外栄養膜細胞の浸潤能力を強化させます(804)。
(12)Nodal
((一般的機能))
Nodal signalingは中胚葉、内胚葉の形成、
その後の「Left-right axial structures(左右軸構造)」
など初期の発達において重要な役割を果たします(805-807)。
この胚発生段階において、上述した左右軸構造は
その後の臓器の位置、方向、形成される組織の配置に重要な影響を与えます。
((絨毛外栄養膜細胞における機能))
Activin/nodal signalingの抑制によって絨毛外栄養膜細胞が形成されます。
一方で、この信号が維持されると
合胞体栄養膜細胞の形成が促進されます(808)。
(13)Hypoxia(低酸素状態)
((一般的機能))
低酸素状態は病理状態として度々扱われますが、
動脈の酸素濃度の変化は一般的な生理学の一部です。
例えば、高強度の運動の時にはこのような状態になります。
((絨毛外栄養膜細胞における機能))
低酸素状態は絨毛外栄養膜細胞の浸潤を促進します。
それはuPA-uPAR経路の誘導に依ります(809)。
(14)Urokinase-type Plasminogen Activator(uPA)
(ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子)
((一般的機能))
これはタンパク質内のぺプチド結合を分解する酵素である
セリンタンパク質分解酵素です。
血栓融解や細胞外マトリックスの分解に関与します。
((絨毛外栄養膜細胞における機能))
上述したように低酸素状態によって
この活性化因子と受容体軸(uPA-uPAR経路)が誘導され
絨毛外栄養膜細胞の浸潤が強化されます(809)。
(15)Prostaglandin E2(プロスタグランジンE2)
((一般的機能))
生理活性物質であるプロスタグランジンの一種であり、
PGE受容体を介して発熱や破骨細胞による骨吸収、
分娩などに関与しています。
((絨毛外栄養膜細胞における機能))
プロスタグランジンE2が脱落膜内に豊富にあると
妊娠初期3か月において絨毛外栄養膜細胞の移動能力が向上します。
この時絨毛外栄養膜細胞内のカルシウム濃度が向上
カルパインが活性化されます。
RHO GTPasesであるRAC1、CDC42が
絨毛外栄養膜細胞の移動性を向上させる事に寄与します(810)。
(16)8-iso-PGF2α(PGF2αのアイソフォーム)
((一般的機能))
PGF2αは宮内のオキシトシン濃度の上昇に応じて放出され、
黄体融解とオキシトシンの放出の両方を刺激します。
黄体の分解を促進するという証拠があります(811)。
PGF2αのアイソフォームである8-iso-PGF2α
子宮内膜症患者で有意に増加している事が確認されており、
子宮内膜症に関連する酸化ストレスの原因となる
可能性が指摘されています(812)。
((絨毛外栄養膜細胞における機能))
PGF2αによって絨毛外栄養膜細胞の移動と浸潤能力は
高まります(813)。ただし、8-iso型のアイソフォームは
栄養膜細胞の浸潤を下げると報告されています(814)。
(17)Placental Growth Factor(PlGF)
((一般的機能))
PGFは血管内皮成長因子(VEGF)のメンバーです。
従って、血管生成、脈管生成において重要な因子で
特に胚形成の時期に働きます。
妊娠中のPGFの主な資源は胎盤栄養膜細胞であり、
絨毛の栄養膜細胞において発現されてます(815)。
((絨毛外栄養膜細胞における機能))
外因的にPlGFを加えると絨毛外栄養膜細胞の
増殖は投入量依存的に強化されますが、
そのためには
◎Heparan sulphate proteoglycans(HSPGs)
これが必要であるとされています。
しかしながら、移動と浸潤には影響がありませんでした(816)。
((妊娠高血圧腎症との関連))
一方で、このPlGFは
妊娠高血圧腎症の予知、診断、治療において
重要な分子であるという認識が高まってきています(817)。
循環器における(血清や尿)PlGFの量が少ないことは
◎妊娠高血圧腎症
◎子宮内胎児発育遅延(Intrauterine growth restriction)
これらの前触れとなります。
PlGFの低下は異常な胎盤形成のマーカーとなります。
しかし、その因果。
つまり少量PlGFが原因で上述した妊娠時の疾患の原因となるか
それとも妊娠時の疾患(初期の胎盤異常形成など)が原因で
PlGFが少なくなるか?
それについては明らかではありません(817)。
上述したように事前にPlGFをマーカーとすることで
それが少ないと前触れの現象であるので
妊娠高血圧腎症を予測することができます。
但し、人のケースにおいて血管生成因子単独の
妊娠高血圧腎症の予測精度は決して高くありません。
その感度(Sensitivity)は32%です(823)。
従って、
◎sFLT-1:PlGF比
◎超音波検査
◎平均、動脈血圧
◎Uterine artery pulsatility index
◎PAPP-A
これらの組み合わせの検討余地が残されています(824,825)。
しかし、これらの診断は現時点では一般的ではありません。
一方、
動物のモデルではPlGFが不足している場合、
そのPlGFを補充すれば、
妊娠高血圧腎症の治療として利用できたことが示されています(817)。
但し、用量をよく考えて補充する事を検討しないと
PlGFは血管生成、脈管形成因子であるので
癌、動脈硬化、リウマチ性関節炎など
副作用が出る可能性があることを考慮する必要があります(818)。
K Chau(敬称略)らが総括の中で記載されているように(817)、
PlGFは胎盤以外の心臓、肺、甲状腺、肝臓、筋肉、骨では
あまり多くは見られません。
これは妊娠していないケースでも同様ですが、
癌組織は巧みに多様な様式で血管生成する機序があり、
通常の血管生成因子(VEGF)だけではなく
このPlGFも特異的に発現がみられるとされています(818,819)。
従って、将来的に妊娠高血圧腎症を予防的に治療するために
PlGFが少ない人に対して、これを補充するときには
裏の側面として癌を誘発する可能性がある事を
少なくとも考慮する必要があります。
加えて、sFLT-1のレベルも同時に検査対象となります(817)。
胎盤の血管生成に必要な物質なので、
どこからPlGFを補充するかも検討項目になるかもしれません。
現時点ではPlGFが人の生殖において
どのように機能しているかは
病理との因果も含めて理解の途上にあります(817)。
また、K Chau(敬称略)らがFigure.2で示すように(817)
妊娠期間においてずっとPlGFは発現されており、
その量は、満期まで経時的に変化し
おおよそ妊娠期間30週でピークを迎えます。
そうするとPlGFが妊娠初期で不足しているから
それを補充するといっても、
どれくらいの期間、補充しないといけないのか?
そのような問題も出てきます。
なぜなら、遺伝子的にPlGFが分泌されにくい人もいる
可能性があるからです(820)。
このような視点では
どのような機序でPlGFが発現制御されているか?
それを理解することが重要になります。
それは現時点では理解の途上にあるとされています(817)。
その中で候補となる関連メカニズムは
①Endoplasmic reticulum stress 
②Hypoxia-inducible factor-1α(HIF1-α)のエピジェネティック変化
しかしながら、②の低酸素状態で生じるHIF-αは
栄養膜細胞の成長の中でPlGFに与える影響は
議論の余地があるとされています(821,822)。
(18)TGF-β(トランスフォーミング増殖因子-β)
((一般的機能))
こえは全ての白血球によって産生されるタンパク質であり、
免疫機能と深い関わりがあると考えられます。
特に腸で炎症プロセスの制御を行っています(826)。
T細胞の制御、分化と同様に幹細胞の分化においても
重要な役割を担っています(827,828)。
((絨毛外栄養膜細胞における機能))
TGF-βは絨毛外栄養膜細胞の分化において
重要な役割を果たします(829)。
(19)TNF-α(腫瘍壊死因子)
((一般的機能))
アディポカイン、サイトカインとして定義されます。
アディポカインとしてはTNFはインスリン抵抗性を促進します。
これは肥満誘発の2型糖尿病と関連します(861)。
サイトカインとしては免疫機能における細胞信号を示します。
例えば、マクロファージが感染源を検出したら、
他の免疫細胞にTNFが炎症反応の一部として放出されます(861)。
((絨毛外栄養膜細胞における機能))
TNF-αはIFN-γと協働的に機能します。
◎絨毛外栄養膜細胞の細胞死の増加
◎絨毛外栄養膜細胞増殖の減少
◎pro-MMP-2分泌の減少(*)
(*)matrix metalloproteinase (MMP)-2
◎uPA分泌の上昇(**)
(**)urokinase plasminogen activator (uPA)
これらを通して絨毛外栄養膜細胞の浸潤性を低下させます(862)。
(20)VEGF(血管内皮細胞増殖因子)
((一般的機能))
血管透過性因子として知られ、血管形成を刺激するために
多くの細胞から産生される信号タンパク質です。
血管を胚の循環器形成など新たに構築する脈管形成と
すでにある血管網から任意の延長させる血管形成
どちらにおいても重要な役割を果たします。
((絨毛外栄養膜細胞における機能))
内分泌腺由来のVEGF(EG-VEGF)は妊娠初期で
分泌量が増加します。
このEG-VEGFは絨毛外栄養膜細胞の移動と浸潤性を低下させます(863)、
しかしながら、VEGFは
Payaningal R. Somanath(敬称略)らがFig,1に示すように(864)、
VEGF受容体と血管内皮に多く存在するインテグリンαvβ3を
互いに活性化させる相乗効果があります。
福嶋 恒太郎(敬称略)らが図2に示すように(865)
絨毛外栄養膜細胞は絨毛の絨毛性栄養膜合胞体(SVT)から分化し
移動性、間葉性を獲得して、
インテグリンのα鎖の型を段階的に変えながら(α6⇒α1⇒αv)
最終的に血管の内皮に浸潤していきます。
実際に絨毛外栄養膜細胞にαvβ3インテグリンが
発現されている事は確認されています(866)。
また、癌の血管形成に代表されるように
血管形成の際に活性化される代表的なインテグリンが
このαvβ3インテグリンです(867)。
従って、活発な血管形成をする腫瘍組織に対して
インテグリン依存的に標的化する場合には
このαvβ3インテグリンが標的化されます(868)。
妊娠初期の胎盤形成において
脈管形成、血管形成は活発で重要なプロセスなので
その際にはαvβ3インテグリンが発現されることになります。
従って、
VEGFの分泌はαvβ3インテグリン依存的に
絨毛外栄養膜細胞の螺旋動脈への誘導を促すと考えられます。
その誘導の為の分化や
インテグリンなどの形質変化に異常が出ると
妊娠高血圧腎症に繋がる恐れがあります。
(参考文献(865) 図1より)
-
上述した(1)-(20)の因子の機能は
絨毛外栄養膜細胞の増殖、移動、浸潤に関わります。
絨毛組織から離脱し、脱落膜、一部は螺旋動脈へ移動する
過程において複合的に関連する因子であり、
それぞれの因子が増殖、移動、浸潤へ与える正負の影響が
3つの機能に対して複数影響を与える場合には
機能ごと比較した時にその影響が正負逆転する事はありません。
つまり、増殖に対して亢進する機能があるのであれば、
同時に移動の特性に影響を与える場合には
同じように移動に対しても亢進することになります。
--
胚盤胞の着床、胎盤形成、初期の胚形成が生じる
妊娠10週目までは周辺環境は低酸素状態であるとされています(691)。
上述したように酸素レベルは栄養膜細胞の分化に関わり、
低酸素状態では栄養膜芽幹細胞が
そのまま分化せず増殖しやすくなります。
従って、妊娠初期には栄養膜芽細胞が多く存在する事を意味します。
この胚形成や胎盤などの組織形成においては
活性酸素の影響を防ぐためです。
しかしながら、胚形成においては
この活性酸素は適量は必要です。
例えば、植物の根の形成では
この活性酸素とカルシウムイオンが重要な働きをする
という報告もあります(870)。
実際に栄養膜細胞の脱落膜への浸入のためには
一酸化窒素や活性酸素細胞種が必要であると報告されています(876)。
Laura Lunghi(敬称略)らが示すTable 1でも(668)
低酸素状態は絨毛外栄養膜細胞の浸潤性の為には
亢進と抑制の両方の報告が挙げられており、
適量であれば必要であることが示唆されています。
一方で、その活性酸素が高いレベルになると
DNAの損傷や遺伝子発現の改変に繋がるため(869)
活性酸素のリソースとなる酸素レベルを
上述した妊娠初期の時期には
比較的、低レベルで制御しているということです。
一方で、Laura Lunghi(敬称略)らが
Figure.3に示されるように(668)
胚細胞内外の複数の機序によって
活性酸素から細胞を守る抗酸化メカニズムがあります。
これらの事から胚形成時には
非常に厳格なシステムで活性酸素を制御している事になります。
一方で、
特に人の身体を形成する初期には
1つの受精卵から指数関数的に細胞数を増やし
組織、身体を形成していく必要があります。
その際に遺伝子的な疾患、
例えば、癌化を防ぐ必要があります。
細胞数が活発に増えるときには
有糸分裂の際に遺伝子のコピーミスが生じることがあります。
従って、
遺伝子的な完全性(Genome Integrity)を
どのように築くかが非常に重要になります(871)。
それがその後のお子さんの運命を決める
まだ細胞数が少ない胚形成の時(872)には
より重要になると推測されます。
着床に成功した後から妊娠10週目くらいまでの間の
低酸素状態と健全な組織形成がどのような意味を持つか?
また、遺伝子の完全性はおそらく
細胞増殖、組織形成の上で非常に重要であると考えられます。
加えて、
高レベルの活性酸素がDNAの損傷を導くことがわかっていますが、
低酸素の状態が遺伝子完全性と関係性を持っているか?
それについては調査する限りにおいては明らかではありません。
少なくとも癌がある状態での
低酸素状態は遺伝子不完全性になるという事は一般的です(873)。
従って、その状況とは異なる可能性があります。
他方で、
多能性幹細胞(pluripotent stem cell)も
すべての組織に分化する事ができる大元の細胞であり、
この細胞の遺伝子安定性(stability)、完全性(integrity)は
胚形成と同様に重要であると考えられます(874)
すでにiPS細胞などで人工的に人の臓器を形成させる上で
この遺伝子完全性を考える事は重要な問題として
認識されています(875)。
その際に人の胚形成で生じるような低酸素状態が
1つの幹細胞から任意の組織、臓器形成初期までの
コアを作り出す上で同様に重要かどうか?
それが一つの観点となると考えられます。
組織に血管が形成されるようになると
その環境の酸素レベルは血液によって上昇してくるので
その前の段階においてどうか?
それについての問いです。
--
上述したように絨毛外栄養膜細胞の機能は
妊娠高血圧腎症にも関連があり、
ほとんどの人が経験する健康な赤ちゃんを産むことに
貢献していると想定されていますが、
その詳細における理解の余地は大きく残されています(668)。
例えば、妊娠時のお子さんの健全な成長や発育には
このような細胞だけではなく、
その細胞を外側から支える、あるいは移動に貢献する
細胞外マトリックスも重要な役割を果たします。
そのたんぱく質のうち、
特に妊娠時に必要とされるものは
胎児性フェブロネクチン(Fetal fibronectin)です。
胎児の包む外側の膜である絨毛膜(Chorion)と脱落膜の界面で
この胎児性フェブロネクチンが見つかっています。
この胎児性フェブロネクチンは
胎嚢と子宮内膜を接着させる機能を有していると考えられています(877)。
この胎児性フェブロネクチンは早産の予知因子としての
利用できる可能性が示されています。
羊膜嚢と子宮内膜を結合させる細胞外マトリックスなので
この細胞外マトリックスが血中に漏れ出す事は
分娩のタイミングと関連のある破水(Rupture of membranes)と
密接に関連があると考えられます。
実際に妊娠22週の時点で
この胎児性フェブロネクチンの量が50ng/mLを超えていると
自然早産のリスクが高まるとされています(878)。
この22週の時点のフェブロネクチンで早産の因子がある場合、
事前にそれに応じたマネイジメントをすることで
37週より前の早産をおおよそ30%程度
低減させる事ができたという報告もあります(878)。
しかしながら、
どのような機序で胎児性フェブロネクチンによる
羊膜と子宮内膜の結合性を失わせるかについての報告は
調べる限りにおいては見つかりません。
上流でどのような機序が働いているかはわかりませんが、
「結合性」が重要で有れば、
細胞接着分子が一つ重要な機序である可能性があります。
Ameneh Jafari(敬称略)らがFig.1に示すように
赤ちゃんを取り囲む羊膜(Amniotic membrane)があります。
この外側の組織に上皮組織、基底膜があります。
羊膜に存在するこれらの組織の
細胞同士の結合性、胎児性フェブロネクチンとの結合性は
おそらく妊娠中期の結合性や早産に関わると
物理的には考えられます。
例えば、羊膜のインテグリンは
◎β4鎖は基底に局在
◎β1鎖は側面に局在
これらが確認されています。
フェブロネクチンと結合性を持つ代表的な
細胞接着分子はインテグリンですから
より根源的にはこれらのインテグリンの発現不全が
早期の破水に関連している可能性があります。
また上皮組織の完全性も重要ですから
Joël Brunner(敬称略)らがFig.1に示すように(881)
カドヘリンや
クローディン、オクルディン、ゾヌリンなどの
細胞間の密着結合(Tight junctions)に関わる
細胞接着分子も重要な役割を果たすと想定されます。
1つの細胞接着因子が排他的に不全になっているのではなく、
複数の細胞接着分子が細胞内外の物質や生理経路などとリンクして
早産と関連している可能性があります。
細胞接着因子の正常な状態からの異常、逸脱を
全体的に把握し、該当する異常な細胞接着因子において
それぞれの一般的な機能と照らし合わせながら
より根本的な病理を探っていく事が求められます。
--
上述したように受精卵が胚形成する過程では
ある程度、低酸素状態が好ましいとされています。
この一つの理由は酸素濃度の高まりによる
活性酸素による遺伝子的な損傷リスクを下げる事にあります。
もう一つ、
細胞の増殖、移動、浸潤などの特性において
胚形成の時点でなぜ低酸素状態が重要なのか?
それについて細胞接着分子の観点で
一定の示唆的な報告のつながりがあります。
胚形成では胎盤に最終的に定借させるまでに
卵管を通って、比較的長い距離を移動する必要があります(882)。
その為には組織の定在性を決める細胞接着分子の発現を
弱めておく必要があります。
癌などでは低酸素状態になると上皮間葉転換を推し進め、
同様に骨髄の間葉系幹細胞においても
低酸素状態によって誘導されるHIF-1αによって
インテグリンα4の発現を弱め、移動性を高めるとあります(883)。
このインテグリンα4は子宮内膜が胚盤胞を受容する能力に
関連しているとあります(884-887)。
しかし、胚形成の時点では具体的な報告は示す事はできませんが、
インテグリンα4の発現が、低酸素状態に駆動されて
弱まっている可能性もあります。
--
絨毛外栄養膜細胞は低抵抗な血流を必要とする
螺旋動脈に送達されます。
血管壁が高い構造的な秩序を持って形成されずに
Laura Lunghi(敬称略)らがFigure 4で示すように
螺旋動脈の内皮の形成に異常があり、湾曲していると
流体の抵抗は上がると考えられます。
視覚的なイメージとしては
参考文献(912)の図がわかりやすいです。
血管壁が互いに平行にまっすぐに形成されていると
血液の流れは
壁側では境界層が形成されるため流速は低下しますが、
全体としてまっすぐに流れます。
これを「層流」といいます。
一方で、血管壁が曲がったり、局所的に膨らんだりしていると
そこで血流のベクトルが乱れるため、
ミクロな渦が生じます。
渦が生じるということはそこに血液が集まり、
それによって全体的な血液の抵抗が上昇してしまいます。
川崎病では動脈瘤が生じ、それが血栓の原因となりますが、
その物理はこの流体力学的な観点が関連していると考えられます(912)。
特に妊娠女性においては、
母体から胎児に血液を供給し続ける事は非常に重要であり、
多くの血液が必要です。
従って、螺旋動脈はその主要な経路であって
血流にとって低抵抗な物理的特性が必要になります。
血管の径が大きいという事ももちろん必要ですが、
血管内で内皮の構造不全によって
血流のベクトルがバラバラになって渦を作らないような
秩序性の高い血管構造が重要になります。
これはLaura Lunghi(敬称略)らが指摘している様に
妊娠高血圧腎症にも関わるかもしれません(917)。
実際に胎盤の虚血は胎児に影響を与えるだけではなく
虚血によって生じたサイトカインや活性酸素を通じて
螺旋動脈の血管内皮そのものにも影響を受けます。
つまり、螺旋動脈の血管内皮構造の不全は
胎盤の虚血をもたらし、その虚血が炎症性信号を分泌させ
それがさらに血管内皮に悪影響を与えるという
負の連鎖が生じうるということです。
-
上述した絨毛外栄養膜細胞は血管内皮の一部になります。
この絨毛外栄養膜細胞が未成熟の状態は
妊娠に伴う病理に関連すると考えられています(913)。
細胞生存、細胞死などのプログラム制御など
細胞の基本的な機能や
マイクログロブリンを通した
組織形成に関わる免疫細胞との相互作用も重要です(913)。
一方で組織学的な観点では
一般的な血管内皮では密着結合が形成されますから
それらに関わる細胞接着分子の発現が健全に生じる事が
秩序性の高い血管内皮の構造形成の為に重要になります。
その中で、
血管内皮成長因子(914,915)、サイトカイン(916)。
これらの少なくとも一部の機能が、今述べた
血管内皮の健全な組織形成で重要な密着結合(Tight junction)に
関わると考えられます。
--
Xin-Xiu Lin(敬称略)らがFigure 2に示すように
母親と胎児をつなぐ胎盤では
上で繰り返し詳しく述べたような栄養膜細胞がありますが、
この栄養膜細胞は
◎HLA-C
◎HLA-E
◎HLA-F
◎HLA-G
これらなどのヒト白血球抗原を持ち、
いわば白血球に対する血液型ともいえますが、
この分子的な構造は母親の遺伝子だけではなく
父親の遺伝子の影響を受けます。
NK細胞、T細胞、肥満細胞、樹状細胞、マクロファージなどの
免疫細胞はこれらの構造と相互作用すると考えられ
これらは胎盤などの組織形成と関連しているため、
それに異常が出る疫学的に2-3%の母親で呈する
妊娠高血圧腎症は母親のみの身体の特性で決まるわけではなく
父親の遺伝子的な作用も病理に影響を与えると考えられています。
また、これらのヒト白血球抗原のうち
◎HLA-Gの発現はインテグリンα1β1の亢進を経て
発現が高まるとされています。
--
螺旋動脈は出産の上で胎児に血液を送る生命線であり
径が太く、血液量も非常に多いです。
そのような欠かすことができない血管という観点では
大動脈や冠動脈と重なります。
この螺旋動脈の不全につながると妊娠高血圧腎症などの
妊娠時に生じる疾患とつながります。
大動脈、冠動脈では
ギャップ接合、ヘミチャンネルによって
細胞間、細胞内外の自己分泌、傍分泌にそれぞれ関わる
中膜に形成されているコネキシンが関わっていますが、
これは同様に螺旋動脈の平滑筋でも作用しています。
これらは収縮、弛緩に関わるイオンを透過させるだけではなく、
一酸化窒素や活性酸素は
栄養膜細胞の脱落膜への浸入のために必要であり(876)、
胎盤形成において重要な役割を果たしますが、
この一酸化窒素や活性酸素によって
コネキシンのギャップ接合やヘミチャンネルの活性は改変されます(926)。
コネキシンは冠動脈や大動脈とギャップ接合、ヘミチャンネルを通して
その中膜の大部分を形成する平滑筋の基本的な機能である
収縮や弛緩に作用することはすでに示されていますが、
同様に、螺旋動脈でも示されていました。
従って、循環器に関わる心臓血管疾患、それに付随する神経系の疾患、
あるいはここで示されるような妊娠高血圧腎症では
それに関わる動脈の機能が非常に重要な役割を担っているため、
コネキシンは一つの病理に関わる因子として無視はできないと想定できます。
--
<<病理>>
妊娠高血圧腎症では
組織学的な病理が生じるのが一般的です(532,533)。
Çağdaş Özgökçe(敬称略)らがFigure.1に示すように
絨毛外の栄養膜細胞に挟まれた
子宮膜から到達した胎盤の入り口にあたる
動脈の開口部が狭くなります(278)。
同様の事が
Evdokia Dimitriadis(敬称略)らのFig.2bにも
1つの妊娠高血圧腎症で示されています(263)。
Indira U. Mysorekar(敬称略)が
子宮膜から胎盤への循環器の連結の状態が
より実際の組織を再現した形で示されています(279)。
子宮膜の間にある動脈から胎盤への入り口が狭くなることで
胎児に血液を通じて栄養を送る際に
より高い血圧をかける必要があるので、
それが高血圧に繋がっている可能性があります。
螺旋動脈の出口が狭まり、血圧が上昇する事は
下述する絨毛の内皮組織に存在する
栄養膜合胞体層の細胞のストレスにつながります。
従って、妊娠時高血圧腎症が生じた時に
もし、ここの子宮膜から胎盤への入り口を広げる事ができれば
今までとは異なる治療法になる可能性があります。
また、絨毛にある栄養膜合胞体層にも異常が生じます。
◎ミトコンドリア不全(527,528)
◎酸化ストレス(527,528)
◎アポトーシス(527,528)
◎小胞体ストレス(527,528)
これらなどです(参考文献(263) Fig.2b)。
これらのストレスにより栄養膜合胞体層から
母体の循環器に
◎活性酸素
◎炎症性サイトカイン
◎抗-血管生成因子
これらを放出する事とされています(263)。
これらにより
◎血管拡張の減少
◎全身性の炎症
◎血栓形成
これらなどが生じます(529-531)。
これらの作用により
◎高血圧症
◎肝臓、腎臓の不全
◎血小板減少症
◎凝血障害
これらにつながる可能性があります(263)。
また、組織学的な不全のほかに
組織形成にも関わる免疫機能も妊娠高血圧腎症と関わります。
一旦、胎盤が形成されると、父親の遺伝子が入る事から
父親由来の抗原が放出されます(536)。
この抗原に対する免疫寛容性は
胎盤に常在しているNK細胞や制御性T細胞の
正常な機能によって上昇します。
制御性T細胞に異常が出ると、
妊娠高血圧腎症の発症に関わるとされています(537)。
上述した胎盤への母親の血液の流路入り口となる
螺旋動脈の形成において
母親の代謝、心臓血管機能は重要です。
上述した妊娠高血圧腎症のリスクに含まれる
高血圧、糖尿病では代謝、心臓血管の機能に影響が出ます。
このようなリスク因子となる疾患を含めて
代謝、心臓血管に異常があると
螺旋動脈の組織としての可塑性(リモデリング)が低下し
上述した螺旋動脈出口の狭窄など
妊娠高血圧腎症に関わります(539-543)。
上述したように初産がリスクが高く、
二回目以降リスクが下がる要因の一つは
このような父親由来の抗原に一度、
母体がさらされている事が挙げられています(538)。
但し、制御性T細胞の記憶性は
元々、あまり高くないのが一般的であることから
出産の間隔が空くとその効果も限定的になると考えられます。
ここで、基本的な事から考えます。
母親と胎児は血液の連結があると言っても
直接的に抵抗なくつながっているわけではありません。
例えば、腎臓にも糸球体によるろ過機能がありますが、
そのようなろ過する機能が
胎盤の中に存在します。
胎盤には絨毛葉とよばれる部位があり
その中に無数の毛細血管が存在します。
この毛細血管が集まって、最終的に臍帯となり、
胎児に繋がって、血液が供給されます。
一方、
母親側では子宮膜内の動脈が螺旋動脈を通じて
胎盤内に供給されます。
絨毛間空と呼ばれる絨毛葉の外側の空間があって
そこに母親側から螺旋動脈を通じて供給された血液が
充満するような形になっています。
これら母親側、胎児側の血液の境界は複雑ですが
繊毛葉の輪郭部、毛細血管の輪郭が層状になって存在します。
フィルタリングする物理モデルは複雑で
◎ボロウモデル
組織を多孔質な濾過体とみなすモデル
◎拡散モデル
濃度勾配によって流れるモデル
◎能動輸送モデル
特定の能動的なメカニズムによって流れるモデル
これらが挙げられてます。
これらの血流の流路のいずれかの不全が
高血圧腎症の主な症状である血圧上昇と
非常に密接に関わると想定されます。
例えば、
この栄養膜の分化の不全が高血圧腎症に関わっている
という報告があります(280)。
子供を受精した時に胚が形成されますが、
その胚の周りに栄養外胚葉細胞がシェル構造として形成され
これが胎盤の基本的な組織の一つである
栄養膜の幹細胞として機能します(281,282)。
実際の組織形成では腎臓のネフロンの形成において上述したように
◎上皮間葉相互作用
◎誘導的な信号伝達
◎上皮細胞極性
◎分岐形態形成
これらが重要であると考えられます。
先端部に間葉系栄養膜幹細胞が連結して
胎盤が形作られていくと想定しました。
その際には形状を制御する信号もありますが、
連結に関わるのは上で詳しく記述した
カドヘリンやインテグリンです(280)。
この時に栄養膜の幹細胞がいくつかのサブタイプに分化するときの
機能に異常が出ると妊娠高血圧腎症に繋がるという事です(280)。
Kaela M. Varberg(敬称略)らは
栄養膜の幹細胞から絨毛外の栄養膜に分化して
螺旋動脈の内皮を形成する過程で
どのような転写因子が重要であるか?
つまり遺伝子的に重要な因子を特定しています(425)。
その遺伝子(1,2,3)が
(1)TFAP2C
(2)SNAI1
(3)EPAS1
これらです(425)。
(1)TFAP2Cは栄養膜細胞の幹細胞状態と
絨毛外の栄養膜細胞(Extravillous trophoblast cell)の
初期状態の細胞機能維持に関与していると考えられています(425)。
(2)SNAI1(snail superfamily)は細胞接着に関わる
Eカドヘリンの転写を抑制する事で上皮間葉転換を誘発します(426)。
組織形成のためには細胞は中空領域を移動する必要がありますから、
このような上皮間葉転換を誘発する遺伝子は
組織のリモデリングにおいて一つの必要条件となります。
(3)のEPAS1も上皮間葉転換に関わり、
血管のネットワーク形成関わります(427)。
妊娠高血圧腎症ではEPAS1に異常が出ている
ことが示されています(428)。
この生物学は複雑であり、
絨毛の輪郭に形成される栄養膜細胞である
合胞体栄養細胞(Syncytiotrophoblast)にも発現していることが
確認されています(429,439)。
従って、EPAS1は螺旋動脈の内皮だけではなく、
絨毛の組織形成にも影響を与える為、胎盤組織形成における
役割は大きく、胎盤形成に不全が出ていると考えられる
妊娠高血圧腎症においてこの転写因子に異常が出ているケースがある
ということだと理解しています。
実際に(2)SNAI1(3)EPAS1は絨毛外栄養膜細胞の前駆状態の
幹細胞と比べて、分化後の絨毛外栄養膜細胞では
顕著に発現レベルが高まっている事が確認されています。
(参考文献(425) Fig.7C)
前述したように
高血圧腎症の時期が異なる際に病理が異なり
特に妊娠後期以降の遅発性の妊娠高血圧腎症の病理については
よくわかっていないということです。
他の臓器と同じように
胎盤にも妊娠から出産までの
限られた期間での短いライフサイクルがありますから、
その胎盤の形成時期に従って、病理が異なってくる部分がある
からではないかと考えられます。
遅発性の妊娠高血圧腎症の病理としては
絨毛が胎児が大きくなることで圧縮され、
栄養膜合胞体層が機械的ストレスを受ける事で
この栄養膜合胞体層の細胞が老化し、
胎盤自体の老化を早めてしまう事が挙げられています(534,535)。
元々、栄養膜合胞体層の代謝需要は高く、
多くの栄養を必要とし、それが胎盤の成長に従って多くなるため、
組織に異常がなくても供給が不十分であることが想定されています(534)。
従って、上述したように組織に異常がある
妊娠高血圧腎症ではこのミスマッチがさらに大きくなり、
絨毛にある栄養膜合胞体層の細胞が過剰に老化してしまう
という事が考えられます。
実際に高血圧腎症のリスクとしては
◎初めての妊娠
◎高血圧腎症の経験がある
これらがあります(283-286)。
従って、1度目の妊娠での異常が繰り返されるという事、
胎盤は分娩後、排出され、また受精すれば
また再度、形成される事を考えると
組織形成の段階で問題があると推定することもできます。
近年、高齢出産も増えていますから、
様々なリスクを因子を緩和しながら、
予防的処置を講じる事が母子の健康のため重要になります。
--
(代謝、心臓血管)
妊娠高血圧腎症は母親の代謝、心臓機能にも関与します。
妊娠の為には胎児を主に臍帯血を通じて育てる必要があり、
そのためには多くの栄養学的なデマンドがありますが、
上述したような胎盤組織に異常が出る事によって
胎盤周りだけではなく、
母体そのもの全体に関わる代謝、心臓血管機能に関連するため
そのような高い需要に応えきれないという事も生じます(263)。
高血圧腎症に生じた母親では
◎インスリン抵抗性
◎メタボリックシンドローム
◎酸化ストレス
◎脂質代謝不全
これらなどが生じていたとされています。
--
(身体全体への影響)
(1)血管(263)
母親の血管の内皮は高血圧腎症の治療の為には
重要な部位の一つで、治療の為の標的となる可能性があります。
循環器は密に連携しているため、
冠動脈、大動脈、螺旋動脈は
それぞれ母親の母体、胎児をつなぐ胎盤でそれぞれ
相互に作用しあっていると考えられます。
従って、螺旋動脈に組織学的な事を含めて異常が出ると
それに追随して母親の母体の重要な動脈にも影響が出る可能性があります。
その逆もしかりです。
従って、そのような負のスパイラルを緩和するためには
内皮の弾力性、それに関わる収縮、弛緩の機能を
異常が生じたときには手助けするような処置が考えられます。
弾力性はカルシウムイオン、一酸化窒素のような信号だけではなく、
平滑筋細胞の量、その細胞内にある細胞骨格、
細胞外の間質部にある細胞外マトリックス
それに作用する免疫細胞、サイトカインなど
様々な因子を総合的に分析して、
どのように医療介入するべきかを考える必要があります。
血管、血液はそれを多く必要とする心臓や腎臓にも影響を与えます。
妊娠高血圧腎症では
その名前の通り、高血圧が生じ、
間質液の浸透圧バランスがおそらく血管内外で崩れることによって
生じる浮腫などを生じる事があります。
また、代表的な病態としてタンパク尿があります。
これらは「高血圧」「腎症」と関連がある事ですから
妊娠高血圧腎症の名前の由来を検討するにあたり
重要な意味があったと考えられます。
妊娠女性の健康を維持するためには腎臓の機能も重要であり、
それは妊娠時に発症する妊娠高血圧腎症によって
悪影響を受けやすい臓器であることを示すものであると考えられます。
--
(2)肺の浮腫(肺水腫)
肺水腫というのは文字通り、
肺の組織内に液体(主に水)から成る腫れが生じることです。
この肺水腫は妊娠高血圧腎症にかかる女性の0.6~5%であり
割合としては希少な病態であるとされていますが、
肺の浮腫が生じた場合には
特に重度の妊娠高血圧腎症に罹患している女性の場合には
生命を脅かす状況となりえます(928,929)。
また、肺水腫は顕性妊娠高血圧腎症罹患に関わらず、
高血圧を呈する妊娠女性の死因の第二位ととされています(930)。
この章の中心的な引用先である
Evdokia Dimitriadis(敬称略)らによる
妊娠高血圧腎症の総括論文では(263)、
肺水腫の内容はわずかしか触れられていませんが、
この肺の浮腫について世界で最も詳しく知る方々から
科学的エビデンスに基づいた情報を得ることは
非常に重要な意義があります。
高齢で余命が少ない人だけではなく、
潜在的に余命を多く残した世界の人たちの救命に関わる
優先順位の高い事項になります。
これは大げさな解釈ではないことは
上述した内容と合わせて、
これから段階的に理解を深めていく肺水腫の内容を
詳しく精査すれば、明白になります。
肺という組織は、呼吸する組織なので、
それが停止すれば、生命活動は遮断されます。
他方で、食事(水以外)に関しては、
1日、2日何も食べなくてもとりあえず命を繋ぐことができますが、
肺の機能はそういうわけにはいきません。
心臓と肺というのは密接に関わっていて、
その活動において中断は許されません。
上述したように妊娠女性において、
肺水腫にかかる人の割合が少ないにも関わらず、
死因の2位になっているということです。
その肺の機能のリスクを抱えているのは
この記事での中心的な内容に関するところでいえば、
妊娠女性になりますが、
それ以外には高齢者や肺が成熟する前の年少の子どもです。
特に0歳児のリスクは非常に高いです。
でも、そこでもし、それぞれの状況で
最も適した医療を提供すれば、
その子どもはあと100年生きられるかもしれません。
依然として説明は不十分ですが、
重要なことは理解していただけたでしょうか?
--
肺はデッドスペースと呼ばれる空気の交換を行わない領域があります。
呼吸機能に障害がある子どもは
健康な子供に比べてデットスペースが大きくなっていると
報告されています(931)。
Maria Barile(敬称略)が総括する
イメージ、組織学を主体とした肺の浮腫の総括論文によれば(932)、
「With diffuse alveolar damage (DAD)」
つまり、肺胞の損傷が主な病因の一つとして関連があります。
この「Diffuse」というのは直訳すれば「拡散性」という意味です。
Diffuse alveolar hemorrhage(DAH)など
肺胞腔に血液が溜まる病気などでも使われます。
ここでは仮に「拡散性」なので、
液体を含めた物質な「流れ」に対して
問題が生じるような損傷であると定義しておきます。
こうした肺の組織の損傷は
当然、組織が「引っ張られる」事でも生じうることです。
物理的に考えれば、物質が圧縮されて密度が高くなるよりも
伸張されて密度が小さくなる方が
物質の閉じ込め効率、区画としての完全性は下がります。
但し、水分子の細胞内のトランスサイトーシス機序に関しては
この物理的観点に従わない可能性があります。
つまり、そこに物質の流れがあるならば、
その流れに対して問題が生じやすいのは「伸張」のほうです。
ここで内容を戻して、
新生児で呼吸機能に問題が出ている人は
デットスペースが大きくなっているといいました。
ここから推定されることは、
組織が全体的に「引っ張られている」可能性です。
そうすると必然的に液体に流れに不全が生じ、
後に詳述するような「浮腫」が生じやすくなると考えられます。
子どもの肺は特に小さいので、
局所的に水がたまると、そのコブがスペースを占有するため、
少なくとも多くの部分において機械的ストレス(937)を受けると考えられます。
その力が強ければ、大規模にわたる組織的な破壊につながります。
ここで少し観点を変えます。
世界で最大に重要視される事の一つが公衆衛生です。
新型コロナウィルスの世界的流行が生じた時、
従来では考えられないスピードでmRNAワクチンが承認され、
数十億人の人が接種することになりました。
しかし、それが最初に供給されたのは欧州とアメリカでした。
この技術はもともとはハンガリー出身の
カタリン・カリコ氏の古くからの研究があり、
その価値に最初に気付いたのはドイツです。
結果的に欧州とアメリカが最も優先されました。
国際連合、世界保健機関を中心として
発展途上国の平等性が謳われますが、
公衆衛生に問題が生じた時、本当に綺麗ごとではなくなります。
これがもし、子供に脅威だったらどうなるでしょうか?
その状況の一部を想像することは容易です。
この情報は少なくとも日本語で出ているわけですから、
日本においてどれだけ重要なことを詳述しているかということは
認識してほしいいう差し出がましい気持ちはありませんが、
説明するまでもなく理解できる人はいるでしょう
というところです。
子どもの感染症で最も脅威となるのは
呼吸器に関する感染症です。
なぜなら、上述したように呼吸機能は中断が許されないからです。
その呼吸器の感染症において
病態として重要なのが肺などの呼吸器は当然の事として、
循環器内への病原体の侵入ですから、
そこで生じうる問題は脳髄膜炎と敗血症です。
ウィルスは往々にして脳への向性を示します。
少なくとも
〇West Nile virus (WNV)
〇Zika virus (ZIKV)
〇Japanese encephalitis virus (JEV)
〇tick-borne encephalitis virus (TBEV)
これらが挙げられています(940)。
循環器に入るという事は病原体が全身に回る
機会を与えるということです。
従って、肺炎、脳髄膜炎、敗血症。
これらについて最高の情報にアクセスして
個別、連携的に掘り下げて考える必要があります。
これらの3つの病態、病理については
別の記事で優先度を上げて、時間をとって詳述していきますが、
ここで敗血症に触れた理由は、
この敗血症はこの節の焦点である「肺の浮腫」と
密接な関連性があるからです(933)。
なぜ、そうなるか?明白な理由があります。
それは、敗血症は少なくとも
循環器の組織学的な問題を広範に伴う可能性があるからです。
いずれにしても肺の浮腫を理解するにあたり、
この組織学的な観点は中心的な内容の一つです(932)。
リンパ管も含めて循環器に問題が出ると
液体のバランスが崩れ、浮腫の原因になります。
それが呼吸機能の中枢である肺で生じると大問題になります。
肺は横隔膜の上下運動(呼吸)や心臓の鼓動の影響が大きく、
周期的な体積変化が大きな組織です。
体積変化が生じるというという事は
細胞などの物質が伸び縮みするということですから、
必然的に機械的ストレスがかかります。
それによって組織の健全性が乱れやすいという特徴と
圧力変化による水圧の変化も生じやすいという特徴があります。
従って、肺は浮腫が生じやすい臓器です(927)。
特に肺の機能に問題が生じやすい
高齢者と年少の子どもにおいてはそれが顕著です。
ここまでがこの節で
肺水腫について考えていく背景の一部になります。
必然的に組織学的な総括の重要度が高いということであり、
それに対して高度な情報に(932)アクセスする必要があるという事です。
--
肺の組織は腎臓と同じように肺胞という構造単位がありますが、
肺全体を形成する構造の単位は多段的になっています。
つまり、肺胞という構造単位が集まる
もう一段階大きな構造単位が存在するということです。
それが「小葉(Pulmonary lobule)」です。
(参考文献(932) Fig.2より)
この図に示されるように肺動脈が気管支に沿って形成され、
肺胞につながっています。
肺静脈は別の所からアクセスします。
肺胞に対して動脈、静脈がどのようい繋がっているかの
局所的なイメージはメイヨークリニックから出されている
参考文献(942)の図がより局所的には明瞭です。
酸素プアーと酸素リッチの血管が
それぞれ肺胞を囲むように網目状に繋がっていて
空気の取り込みにより
酸素濃度の変化点が漸次的に変わっていくと解釈できます。
この小葉の区画を形成する周りにはリンパ管が存在します。
浮腫と関連する液体の流路である
参考文献(932) Fig.1に示されるような
「Hydrostatic」「Oncotic」の血管内外を通した
血管からの液体の流出、流入の液量に比べて
このリンパ管は3-10倍の流量であるため(934)、
このリンパ管の相対的に多い液体の流れによって、
肺の小葉の液量は適正に調整されています。
しかしながら、肺に浮腫が生じている場合は、
このようなリンパ管の制御が効かない状況になっている
と想定されます。
具体的には一つの原因としては
上述した血管内外の液体の流出、流入のいずれかが
非常に大きな流量となっていると推定されます。
肺水腫の画像的な所見としてKerley B lineというのが出ます。
これは、しばしば水性の浮腫が肺に生じた(肺水腫)時に
「肥厚化」した小葉間隔壁を示すとあります(935)。
なぜ、浮腫が生じた時に区画組織の層厚が大きくなるのか?
それについて詳述した情報にアクセスできていない状況ですが、
ある程度、ゼロベースで考えると、
〇細胞が肥大している可能性
〇細胞数が増加している可能性
〇細胞外の物質(細胞外マトリックス)が増加している可能性
これらを思考実験の出発点として挙げます。
例えば、歯周の軟組織の再生についての情報があります(936)。
これによれば、細胞外マトリックスは
細胞の成長のための「足場」としての役割があるため
組織をある程度人工的に厚膜化していく上では
重要なコンポーネント(要素)であるとされています。
エビデンスを取る必要があり、
それを前提条件として思考、記述を進めると、
細胞外マトリックスの分泌量が増え、
細胞数が増え厚膜化している可能性と、
引っ張り応力によって細胞が肥大している可能性
両方が考えられます。
ここで重要になってくるのが
「Cellular mechaontransduction」というメカニズムです。
それについてXingpeng Di(敬称略)らが総括しています(937)。
これは邦訳すると
「細胞の機械的シグナル伝達」という意味です。
細胞はこの浮腫と密接に関わる
静水圧(Hydrostatic pressure)を初め、
細胞外の物質との相互作用を含めて
様々な要因による力を受けます。
そうした力に呼応して、信号を伝達する機序があります。
この機械的な合図(Cues)は
細胞と細胞外マトリックス、細胞の血行動態など
周辺物質や動きと相関があります(938)。
これらの機械的な力は
細胞の形を決める細胞骨格の構造を変える
引き金(トリガー)となります(939)。
従って、浮腫によって細胞が機械的なストレスを受けたときには
細胞外マトリックスの分泌や
細胞の形を決めるアクチンなどの細胞骨格の再形成などを促し、
結果として組織が厚膜化する可能性が推定されます。
特に高齢の方に関しては
組織が一旦損傷を受けると回復が難しいので、
機械的ストレスを受ける前に病態を確実に掌握して
その原因を取り去る必要があります。
例えば、血管からの液体の流出量が顕著に多い場合には、
液体の粘性を少なくとも一時的に変える事は一つの選択肢としてあります。
また、水を抜く手段があるならば、それも検討の余地があります。
リンパ液の流れを促す方法があるならばそれも選択肢の一つです。
また、日本を含め東アジアで多い川崎病では
何らかの病原体の血管内に対する作用によって
抹消だけではなく、冠動脈など
主要な動脈血管の広がり(動脈瘤)が生じます。
循環器に流れる液体の90%は水ですから
循環器の形状に問題が出ると、
必然的に液体のバランスが崩れやすい状況になります。
従って、実際の病態として
重度の川崎病の患者は浮腫が生じる事があると報告されています(941)。
ただし、ここで注釈として省略できない事として
川崎病に罹患した子どもにおいて
浮腫が生じる場所が肺であるというエビデンスは
少なくとも多くはありません。
--
肺水腫に伴って考える必要があるのが、
肺の機能の低下による特に左心房、左心室への影響です。
肺の呼吸機能によって吸われた空気が
肺静脈を通って、まず左心房に届くからです。
肺水腫が生じた場合に肺の組織として起こりやすいことは
上述したように肺の大きな構造単位である
「葉」の輪郭部の組織の厚膜化、
それによるストレッチ機能の低下です。
そうすると必然的に血圧が高くなることが想定されます。
実際に肺水腫と肺高血圧は相関があるとされています(942)。
この時に考えないといけないのは
肺静脈がそれぞれの葉(上葉、下葉)から
どのように血管が繋がって、左心房に送達されるかです。
より具体的にはそれらの上下の位置関係です。
物理的に考えると重力があるので、
血液を上に送るほうがより高い圧力が必要になります。
肺水腫が肺の「どこに」できるかの
位置依存性は一般的にはないと考えられています。
例えば、免疫機能惹起による炎症によって生じた場合、
その原因となる抗原を呼吸によって吸い込んだとき
肺(葉、肺胞)のどこに入る傾向にあるか
というのはなく、ランダムであると想定されるからです。
しかしながら、肺静脈の血圧が上昇した時、
より多くの力を必要とする下葉から延びた静脈は
血液を送る能力が低下しやすいかもしれません。
そうするとそれを補うように
神経節が上葉に集まって形成されるようになります。
これを「Cephalization」と呼びます。
元々、この「頭化」という現象は、
上側に神経節が頭に集まっていることから名づけられています。
従って、神経節が肺の上葉に集まる事を意味します。
結果としては同時に血管の茎も拡大します。
それに伴い、血液の分配が変わり、上葉に集まるようになります。
神経節の頭化、上側集中が
血管新生と関連があるかという報告は見当たりませんが、
可能性として神経が集まる事によって
血管成長因子が亢進される事はあるかもしれません。
そうすると肺全体の機能に偏差が生じるかもしれません。
つまり、下葉側、下側の肺の機能が段階的に低下し、
上側の機能に依存するようになるという事です。
但し、肺高血圧症が肺水腫のように組織の硬化などが原因として
生じている場合において、
重力によって血管抵抗がより高まりやすい下葉の
静脈の機能が相対的に低下しやすい、
さらにそれが機能的に漸減しやすいかどうかの
科学的な根拠は見つかっていません。
いずれにしても機能的に働く容積が減少していくと
呼吸機能はそれに応じて低下していくと考えられます。
これは腎臓のネフロンと基本的な考え方は類似します。
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肺水腫に対する体の耐性を考える上では
身体の体液を調整する機能があるのがリンパ管ですから、
特に肺の小葉の輪郭に形成されるリンパ管が
子どものどの段階の成長時期に生じるか?
ということを特定することが重要になります。
肺自体は18歳まで成長が続くと言われています(943)。
(参考文献(943) Table 1より)
リンパ管は免疫学で明らかなように
ダイナミック(動的)な組織なので
その成長は続き、変化していくと考えられますが、
基本的な組織としていつ成長するか?
これについて知る必要があります。
直接的な報告は見つけられていませんが、
Sailesh Kotecha(敬称略)がまとめた肺の成長の報告(943)を参照すると、
肺のリンパ組織の先天的異常(lymphangectasia)が生じる時期は
pseudo-glandular stageであると特定されています。
これがTable 1を参照すると
在胎期間16週から26週になると言われています。
この時期に異常がないリンパ組織の元が形成されるとすると
新生児が分娩後、呼吸を開始するときより前という事になります。
小葉のリンパ組織の少なくとも大元になるものは
満期が37週であるとすると
その差は最小で11週となることから
生まれる2か月以上前には少なくとも形成されているという事になります。
この段落の冒頭で述べた、
肺水腫に対する新生児のリンパ管依存的な耐性を考えるにあたり、
このリンパ管形成のタイミングを
一つの情報として持っておくことは
後々により追究して調べる際に重要になるかもしれません。
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肺浮腫は水の循環の流路が乱れる事によって生じる
ともいうことができます。
その流路を健全にするためには組織の区画を守る必要があります。
逆に言えば、組織の区画が守られていない場合、
いずれかの場所に水が異常に蓄積し、浮腫を呈する事が考えられます。
肺組織は免疫系の異常な高まりによって破壊されることがあります。
例えば、IL-1, IL-6, IL-8の炎症性サイトカインの過分泌は
肺組織を破壊する場合があります(953,954)。
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肺浮腫を防ぐためには循環器の健全な流れが必要です。
心臓の左心房と左心室を隔てて、流れのベクトルを安定化させる
僧帽弁の機能に異常がでると血液内に多く含まれる
水が逆流し、その流れに異常が生じます。
それが結果として肺浮腫を引き起こすこともあります(955)。
心臓だけではなく肺動脈、肺静脈閉栓でも
肺の浮腫を引き起こすことがあります。
閉栓ではなくても肺動脈、肺静脈の高血圧でも
肺浮腫のリスクが高まる可能性があります(956)。
特に主要部の血管の流れを円滑にすることが
肺浮腫のリスクを下げると考えられます。
妊娠高血圧腎症と肺高血圧症の関連も報告されています(957)。
いずれにしても循環器に異常が出ているので
循環器の負担をどのように減らすか?
これが患者さんの呼吸器を守る事にもつながります。
--
(3)腎障害(263)
妊娠高血圧腎症によって
循環器の血管壁を構成する
内皮細胞の少なくとも一部が損傷します。
腎臓は最も大きく悪影響を受ける臓器の一つです(958)。
腎臓は血液をろ過して老廃物や余分な塩分をろ過し
尿として排出する機能があり、血液の4分の1が流れます。
血圧が上がると血液量が増え、腎臓の負担が増すことも考えられます。
それによって腎臓のネフロン一つ一つの機能が
徐々に失われていく事も懸念されます。
腎臓の糸球体はフィルターの役割をし、
血液と尿の界面を形成する重要な器官です。
その糸球体の構造はIlse S. Daehn(敬称略)らがFig.1に示します(959)。
高血圧になるとPodocyte slit diaphragmと呼ばれる
糸球体の尿路側、血管の外壁に形成される
ポドサイトのフィルタリングの為の結合状態に異常が生じます(959)。
(参考文献(959) Fig.3)
妊娠高血圧腎症の一つの診断評価基準(診断クライテリア)の中に
タンパク尿があります。
タンパク尿になる主要な機序の一つは
それぞれのネフロンにおける糸球体機能の低下ですが、
より細胞レベルで詳細につめると、
今述べた、ポドサイトの結合状態が低下する事が挙げられます。
これはこの結合状態を決めるタンパク質の発現を低下させる
sFLTの増加に関連するとされています(960)。
--
(4)肝臓(263)
妊娠高血圧腎症による腎臓の損傷は
門脈周辺の炎症と、肝細胞のダメージによって特徴づけられます。
ここで肝臓の基本的な事を学習します。
門脈周辺の炎症、肝細胞のダメージについて
より詳しく考えるために必要です。
--
肝臓の構成の約80%は肝細胞によって形成されます(961)。
この肝臓は小葉(lobules)と呼ばれる組織単位から集まります(964)。
この小葉の数は50万個であるとされており、
その中に構成される肝細胞は2500臆個です。
(参考文献(964) Fig.1a)
この小葉の組織構造は放射状の迷路のような構造になっていて
外側にある動脈(肝動脈)と静脈(小葉間静脈)が
その迷路を中心の中心動脈に向かって流れて合流し、
最終的には中心に血液が集まるシステムになっています(962)。
(参考文献(962) Microscopic anatomy)
その流路の間(実質)には無数の肝細胞が配置されてます。
この肝細胞が肝臓の大部分を占めるということです。
一つ一つの簡略化した流れは
Antson Kiat Yee Tan(敬称略)らがFig.1に示しています(963)。
これを見ると肝細胞には胆管もアクセスしています。
肝細胞で作られた胆汁が食事による脂肪分分解など
代謝機能に関わるという事です。
胆管は肝細胞で作られた胆汁を送達させる流路です。
より機能的な組織構造は
Joon-Sup Yoon(敬称略)らがFig.1bに示します(964)。
さらに局所的な構造は
Alex L, Wilkinson(敬称略)らがFIGURE,1に示します(965)。
肝臓が再生機能が優れているのは
この血管内皮と肝細胞の間に
HSC(Hepatic Stellate Cell)と呼ばれる線維芽細胞があり、
これが肝臓の再生に責任を負う多能性幹細胞があるからです(966)。
総計2500臆個ある肝細胞は糖、脂質などのエネルギー代謝
糖、コレステロール、脂肪酸などの物質合成、
それらの量の調整、蓄積、解毒作用など多様な機能を担います(967)。
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妊娠高血圧腎症で炎症が生じる門脈は
胃や小腸、大腸などの消化管と肝臓を結ぶ大きな静脈です(968)。
肝臓の機能に関わる物質を送るための静脈(968)で
上述した小葉の中では外側から中心静脈に流れる静脈成分である
と定義できます。
門脈の免疫系などを含めた炎症物質は
その多くが肝臓、肝臓を主に構成する肝細胞に影響を与える事になります。
実際に門脈で炎症が生じた時に
肝細胞にどのように影響を与えるか?については
具体的な報告は見つけられていませんが、
素直に考えると
血液中には多くの免疫細胞、サイトカインがあり
それらが炎症性を示すと、その炎症性物質が
肝臓の50万個ある小葉に流れ込み、
その炎症物質が腎臓の多様な機能を発揮する
2500臆個ある肝細胞に影響を与えると考えられます。
また、高血圧で循環器に負担がかかっている事は
小葉の中にある一つ一つの細い動脈、静脈の流路にも
ストレスを与える事になります。
それが組織学的な破壊を導く可能性もあります。
血管の弾力性を決める一酸化窒素などの減少(969)が
腎臓の細かい血管一つ一つの血管壁へのストレスを高める
可能性があります。
--
(5)脳神経(263)
妊娠高血圧腎症の死亡例の直接的な原因は
脳神経系の疾患の合併症であり、特に低中所得国で顕著です。
〇てんかん発作
〇視覚暗点(visual scotoma)(※1)
(※1)視野の特定の領域に見え方の異常、盲点を呈します。
〇皮質盲(cortical blindness)(※2)
(※2)皮質盲とは眼科的な原因がなく視覚を失う事です。
後頭葉(occipital lobes)の有線皮質の病変によります。
この時、瞳孔の光に対する反応は正常です(982)。
妊娠高血圧腎症との関連の中で疑われる病因は
循環器の異常による周産期の虚血です。
〇動脈虚血性脳卒中
〇脳静脈洞血栓症(cerebral venous sinus thrombosis)(※3)
(※3)静脈銅とは、脳に送られた血液が心臓に戻る
ために最後に通る静脈でいくつかの分類があります(983)。
〇くも膜下出血(subarachnoid haemorrhage)
〇大脳内出血(intracerebral haemorrhage)
〇可逆性脳血管攣縮(れんしゅく)症候群(※4)
(reversible cerebral vasoconstriction syndrome)
(※4)一か所ではなく、複数の箇所(Multifocal:多焦点)の
脳血管の動脈が狭窄、拡張している状態です(984)。
狭窄による血圧の上昇、拡張による動脈瘤によって
脳内出血のリスクが高まることが懸念されます。
〇後部可逆性脳症候群(仮名称)(※5)(985)
(posterior reversible encephalopathy syndrome)
「(※5)急性、やや鋭い性質の大脳症候群です。
主な臨床症状は、頭痛、脳症、てんかん、視野不良です。
この脳症候群は、重度の高血圧で生じます。
中程度の高血圧でも急速に血圧が変化する事によって生じます。
合併症として白質に浮腫を呈することがあります。
妊娠中(子癇、妊娠高血圧腎症)によって生じる
後部可逆性脳症候群の診断は
上述した臨床症状とMRIなどの脳神経の画像によって行われます(986)。
胎児や母親(妊娠女性)の健康を配慮した形で治療が行われます。
高血圧やてんかんの治療では
硫酸マグネシウムの静注が一般的に選択されます。
高血圧が重度である場合には追加的治療として
血管拡張剤であるHydralazine、Labetalolを選択します。
Labetalolは心拍数を抑えて心臓を休ませる作用があります。」
これらの脳神経系疾患を含みます(976,977)。
〇脳静脈洞血栓症、
〇可逆性脳血管攣縮症候群、
〇後部可逆性脳症候群
これらに関しては分娩後に前兆が少ない形で度々生じます(978)。
脳神経性の合併症を生じる機序は明らかにされていません。
妊娠女性の脳血管は妊娠高血圧腎症の影響を受けやすい
と報告されています(978)。
神経血管系の不全は妊娠高血圧腎症で生じます。
・自律神経系の交感神経活動増加(976,979)(※6)
(※6)血管の硬さ、血管内皮不全は一部、
交感神経によって制御されます(979)。
基本的に妊娠高血圧腎症では高血圧を示すので
脳血管に異常が生じる事で
上述した様々な疾患と結びついていると
総合的に一部として解釈しています。
言い換えれば、上述した脳神経の疾患の病理、病因の
少なくとも一部は脳内の循環器の異常と関連があります。
従って、治療としては全てで当てはまるか
どうかはわかりませんが
血管拡張剤などによって血圧を下げる(985)ことが
少なくとも対症療法として存在しうると想定されます。
ただ、妊娠女性で生じる妊娠高血圧腎症の
合併症の病理においては、
単に高血圧だけで説明できない部分もあると考えます。
妊娠時には中年や高齢で生じる生活習慣病による
高血圧と決定的に異なることがあります。
それが「胎盤、胎児を成長させる必要がある事」です。
組織や子供を身体の中で育てていく必要がある事は
肥満などで生じる高血圧と大きく異なる事です。
その点も踏まえて、
この脳神経の節でその点で追究する余地があるのが
自律神経系における交感神経の影響です。
交感神経の高まりがより高血圧の悪影響を助長していないか?
そうした仮説、観点があります。
-
一般的には交感神経は
血管の平滑筋の分化を促すとされています(988)。
交感神経は妊娠時には高い状態で制御されているとされています。
それは前述したように胎盤には
螺旋動脈、臍帯内血管などがあり、
それを新たに形成する必要があります。
これは妊娠女性なら誰しも生じる事で
このような劇的な血管の変化がある事、
つまり、血管を成長させる必要があるために
交感神経を高めにコントロールしておく必要があります(989)。
妊娠時に交感神経が高くなることは
異常ではなくて、健康状態でそうなるとされています(989)。
しかし、それによる弊害もあるかもしれません。
特に経過に問題がある妊娠高血圧腎症に罹患している女性において、
交感神経の高まりがどのように体に影響を与えるかを考える必要があります。
妊娠時に大きく影響を受ける神経が、
血管内皮の平滑筋に関する交感神経です。
Muscle sympathetic nerve activity (MSNA)(989)。
従って、妊娠の時に生じる一般的な身体の反応と
脳と血管系のつながりについて詳しく考える必要があります。
妊娠に生じる一般的な身体の反応は以下です。
(1)心臓からの一回拍出量(Stroke volume)が13%上がる
(2)心拍出量(Cardiac output)が31%上がる
(3)全身の血管抵抗が30%低下する
(4)全身血液の量が50%上がる
(5)平均動脈圧が9%低下する
(6)筋肉交感神経が50-150%上がる
(7)血管作動性(弛緩、収縮因子)物資が増える
これらを総括すると胎児がいるので
明らかに体の血液需要は高まっていますが、
血液に問題が生じないように
血管の循環機能も高まっている状態です。
ここで一つ気になるのが、血液を胎盤、子宮内の胎児に
ある程度、集める必要があることです。
つまり、血液の分配についてです。
血液の循環経路では左心室から
大動脈を通って、全身に送られます。
それらの分配はある程度、
局所的な血管の弛緩や収縮の違いによって
制御されると思いますが、
妊娠高血圧腎症のように
循環器に異常が出ている時には
それらの分配が上手くいかず、
例えば、脳の血圧が上がって、出血などのリスクが
通常の人の高血圧よりも高い可能性があるかどうか?です。
循環器の状況が妊娠時には劇的に変わっていて、
その状態で異常が出た時に
血液を多く、持続的に必要とする脳への影響が懸念されます。
例えば、妊娠時に限らず、一般的には
交感神経と動脈硬化は関連があるとされています(990)。
それを抑える補償的な機能が働いている可能性がありますが、
そのリスクが強く出て、動脈が硬化すれば、
弛緩、収縮の機能が低下するので
妊娠時には特にリスクになるかもしれません。
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・脳自動調節の不全(※6)
(※)血流供給が遮断されて虚血に陥った組織に
再度血流が灌流されることによって生じる組織の損傷
(ハイパーパーフュージョン損傷(hyperperfusion injury))を
通常は脳自動調節能力によって防ぐことができます(976,980)。
・血液脳関門の浸透率の増加(987)
・血管原性浮腫(※)
(※)妊娠高血圧腎症によって脳脊髄液、血漿成分などの
循環の制御能力が低下して、部分的に液体が蓄積します(981)。
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Jamie Kitt(敬称略)らは
高血圧を経験した妊娠女性の
特に脳の予後についてコメントされています(1023)。
妊娠高血圧は循環器に異常が出る事ですから、
それによる脳の損傷、異常も懸念されます。
しかしながら、その長期的な視野に立った研究はまだ多くはありません。
-
妊娠女性は元々、血管系の健康状態を維持する事が
非妊娠時に比べて難しく、
女性ホルモンの分泌を上げ、血管抵抗を下げるなど
身体もそれに合わせて適応している状態です。
そのような元々、血管系において状態を崩しやすいのに加えて
高血圧が生じると、前触れなく重篤な症状を示す事があります。
そうなると出産後の健康にも影響を与える可能性があります。
実際に、妊娠時に高血圧を呈した女性は
分娩後数年の間に高血圧を示す確率が高くなるかもしれません(1024)。
また、数十年間の間に腎臓、心臓疾患のリスクも
そうしたことに伴い上昇する可能性も示唆されています(1025)。
また、妊娠後40年に間に脳卒中になるリスクは
高血圧を持つ妊娠女性は4倍高くなると報告されています(1026)。
但し、これはFramingham Heart Study(FHS)コホートと呼ばれる
1948年にアメリカのボストンで始まった心臓疾患の研究データを
元にして出された疫学的データです(1026)。
従って、肥満(BMI)、生活習慣(食生活、運動)、
衛生状態(当時と今の相違)など
年代、国も異なる現在の状況において
この疫学データと現在の実情が異なる可能性はあります。
妊娠時にそうしたリスクがあったとしても
その後の生活習慣によって、心臓、腎臓、脳血管などの疾患の
リスクが変わってくるという事は十分に考えられる事です。
しかしながら、
妊娠時に高血圧があった場合において
脳卒中のリスクは特に気を付ける必要があります(1023)。
これは定期的な医療機関のサポートも
必要な事項である可能性もあります。
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一般的な高血圧でも当てはまることですが、
循環器は全身のネットワークを持っています。
見積もりによって偏差はありますが、
心臓から出た血液が全身を巡って、心臓に戻ってくるまでの
時間は約30秒であるといわれています(1027)。
そうすると病変が局所的であったとしても
少なくとも液体成分に異常があれば、全身に影響を与えるし、
炎症性の物質があれば、すぐに全身に回ることになります。
心臓から駆出される血液の配分は
脳:15%、冠動脈:5%、腎臓:20%、腹部臓器全体:35%、
全身の筋肉:15%、皮膚、骨:10%と見積もられています(1028)。
従って、
妊娠時に高血圧など循環器の異常が出たときには
その配分が多い、脳、腎臓に影響が出やすいと考えられます。
また、血液を送り出すための運動を続ける心臓も同様です。
実際に浮腫(1023)などの病変が
影響を受けやすい脳血管などの部位に残っている可能性もあります。
一般的な高血圧において
高血圧を制御していない高血圧の人は
高血圧ではない人、高血圧で血圧を制御している人に比べて、
脳の白質病変の確率が高くなるかもしれないといわれています(1029,1030)。
なぜ、高血圧になった時に、灰白質ではなくて、
軸索など神経細胞の連携を担う白質に病変が生じやすいか?
その理由は定かではありません。
一般的に灰白質の方が血液の需要が高いため
灰白質の血管の密度は白質よりも高いと言われています。
また、Matthew MacGregor Sharp(敬称略)らがFig.8に示すように(1031)、
白質に供給される血管網は
メインの動脈から灰白質を通過した後に構築されます。
このような血管網になるという事は
脳の解剖図をみればある程度想定されることです。
すなわち表面のしわの外側の部分に灰白質が存在し、
その内部に白質があるので、必然的にそのしわに沿って
循環器系が形成されているとすれば、
白質に供給される血管網の構築はより後ろ側、内側になります。
上述したFig.8のように一部の血管は灰白質領域で
内側への進行を停止します。
それは、白質が血管密度が低い事と関連します。
従って、血管に異常が出て、供給に負荷がかかるときに、
灰白質ではバイパスするルートは多くありますが、
白質は代わりのルートが少ないため、
循環器系に異常が出た時に血液供給が顕著に滞る可能性がある
ということです。
現時点では白質病変が高血圧で生じやすい理由について
このように推定しています。
一般的な高血圧で診られる傾向は
年齢が若くても妊娠女性で高血圧を呈した人にも
見られる可能性があります(1032)。
一方で、
Jamie Kitt(敬称略)らも同様の事を述べています(1023)。
仮に妊娠時に高血圧を呈したとしても
その後の数十年のその女性の脳神経を含めた様々な疾患のリスクは
その人がどのようなライフスタイルであり、
その人にどのような既往歴が生じるかに少なくとも一部依ります。
言い換えると、伝統的な日本食や地中海食などの
健康によいと考えられる食生活、運動、睡眠
パートナーと共に子育てを楽しむことを含めた
ストレスケアなどによって
そうしたリスクは当然変わる可能性もあります。
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(Fetal growth restriction: FGR)
(FGRの定義)(1033)
想定よりも子供が小さいか、
妊娠中に成長が想定よりも遅くなる、
あるいは成長が止まる事をいいます。
その成長不全とは具体的に
臓器、それを構成する組織、細胞のサイズ、数が小さい、
少ないことが原因として考えられます。
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(妊娠高血圧腎症との関連)(263)
FGRは胎児の成長を支える多くの血管を形成し、
フィルター機能がある胎盤の機能不全によって生じます。
妊娠高血圧腎症では胎盤に異常が見られることが多く、
FGRは妊娠高血圧腎症と深くかかわっています(1034-1037)。
栄養膜芽細胞の脱落膜の浸潤に異常があると
それによって螺旋動脈の内皮組織の形成にも異常が生じます。
螺旋動脈に形成不全があると、
母親から胎盤を通して胎児に血液を届ける事に制限が生じる為
胎児に低酸素状態や栄養不全が生じます。
酸素、栄養などの血液成分は
子どもの身体を大きくするための必須の物質であるため
その供給が滞る事はFGR、胎児の成長不全につながります(1035)。
同じ遅発性の妊娠高血圧腎症でも
胎児に成長不全(FGR)が生じている場合は
遅発性妊娠高血圧腎症があり、
FGRが見られない場合と比べて
胎盤の血管組織、絨毛に
より重度の異常が見られることが報告されています(1038)。
FGRが疑われる場合には
〇胎児の成長速度
〇羊水の量
〇臍帯動脈ドップラー
これらを2週間おきに超音波検査によって評価する必要があると
ISSHP(International Society for the Study of Hypertension in Pregnancy)。
この国際的な妊娠高血圧症に関する学会は推奨しています。
しかしながら、
臍帯動脈ドップラーは満期に近づくと使用は制限されるかもしれません(1039)。
設備が整っていない場合には
〇胎児の心拍、陣痛の監視
これを6時間おきに行うことがISSHPによって推奨されています。
〇母親のタンパク尿(腎機能)の検査
これは在胎期間32週以降の周産期のリスクを見積もるために
利用できます。
20週より前に母親にタンパク尿が見られる場合には
生まれる子供の体重がより小さい傾向にあります。
(参考文献(1040) Table 5)
従って、タンパク尿が妊娠の早い段階で生じている場合には
より重篤なFGRを導く可能性があります。
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タンパク尿が指標になるという事は
腎臓のフィルター機能が
一つ信頼できるマーカーであるという事です。
妊娠高血圧腎症と脳神経の節で説明したように
心臓から駆出される血液の配分は
脳:15%、冠動脈:5%、腎臓:20%、腹部臓器全体:35%、
全身の筋肉:15%、皮膚、骨:10%と見積もられています(1028)。
つまり、腎臓へ駆出される血液は一番多いです。
また、腎臓は血液を浄化させる機能もあることから
高血圧が生じた時に影響を受けやすい臓器であり(1041)、
また影響が出たときには血液の質にも影響を与えます。
具体的に腎臓の機能が低下した時に生じる毒素は
〇尿素窒素 クレアチニン リン カリウム
これら尿毒症性物質の血中濃度上昇が挙げられます(1042)。
これらが上がった時には
当然、胎盤にこれらの尿毒症性物質が
通常よりも多く送達されることになります。
従って、具体的にどのような悪影響があるか?
それについて考察、調査します。
尿素窒素は胎盤の炎症、不全につながります(1043)。
具体的には
(1)p38 MAPK, NF–κB, and AP-1の活性化
(2)COX-2 and MCP-1の発現の上昇
これらが挙げられています(1044)。
クレアチニンに関しては上昇する事が
妊娠高血圧腎症を伴なうGFRで確認されたという報告はありますが、
クレアチニン上昇自体がその物質依存的に
妊娠女性の胎盤組織、胎児に
どのような悪影響があるかははっきりとはわかりません。
しかし、クレアチニンは免疫機能に影響を与える可能性があります(1045)。
それが過剰になることで胎盤の組織形成や
胎児の免疫機能に関わるかもしれません。
但し、腎臓の機能低下と免疫機能の関連の報告はありますが、
クレアチニン過剰依存的な免疫機能の不全の報告は見つかりません。
血中のリン濃度があがる、高リン血症(hyperphosphatemia)は
胎盤の形成において非常に重要な血管内皮の組織的な健全性
中膜の柔軟性に影響を与える可能性があります。
動脈硬化と一般的には関連があるからです。
従って、腎臓機能の低下に伴う高リン血症は
螺旋動脈など胎盤の血管系の
組織の完全性を低下させる可能性があります(1045)。
今述べたリンやカリウムは電解質の一つであり、
それぞれ適正な値があります。
そこから逸脱すると細胞内のイオンバランスが崩れます。
細胞にとってイオンのバランスを健全に保つことは
栄養、代謝生成物のバランスを保ち、
エネルギーを得る事と同じくらい大切な事です(1046)。
つまり、正常値から逸脱することは
身体のあらゆる細胞に異常が生じる可能性があります。
カリウムも多くなると不整脈など命に関わるケースもあります。
腎臓の機能が低下する事で
水分量の調整なども難しくなります。
それもイオン濃度のベースを崩す原因となります。
リン、カリウムだけではなく
ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、塩化物イオンなど
多くの重要な電解質、イオンの適正濃度を維持する必要があります。
腎臓の機能の低下はこれらの電解質のバランスを
崩す原因ともなりえます(1047)。
高血圧は腎臓と関わりが深いので、
妊娠時における腎臓の機能のモニタリングは重要であり、
妊娠高血圧腎症においてはさらに
腎臓の機能低下をどのように維持管理によって緩和するかは
脳神経、胎児の成長管理と共に重要であると考えます。
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(診断)(263)
ISSHPのガイドラインでは
妊娠高血圧腎症は初発の高血圧によって
在胎期間20週以降に診断可能であるとされています。
収縮期血圧(最大血圧)140mmHg以上、
かつ/もしくは拡張期血圧(最低血圧)90mmhHg以上
これが基準です。
その条件は以前は正常血圧で(そういう意味で初発)、
他の一つの妊娠高血圧腎症に関連した症状、サインがあることです。
妊娠高血圧腎症に関連した症状、サインは以下です。
(1)タンパク尿
(Protein/creatinine ≥30 mg/mmol in a spot urine sample or ≥300 mg/mmol in >0.3 g/day)
(2)急性腎障害
(Creatinine ≥90 µmol/l), 
(3)肝臓障害
(Elevated transaminases, for example, ALT or AST >40 IU/l),
(4)神経症状
(子癇、精神状態の変化、失明、脳卒中、
間代性けいれん、重篤な頭痛、持続性視覚スコトマ(※))
(※)スコトマ(Scotoma)とは視野の一部が変化すること。
視覚が部分的、完全に退化している状態です。
(5)血液学的異常
・血小板減少症 (platelet count below 150,000/µl
・散発性血管内凝固
・溶血、血球破壊
(6)心肺合併症
・肺水腫・心筋虚血・心筋梗塞
・酸素飽和度<90%
・一時間以上の50%以上の濃度の酸素吸入(inspired oxygen)(※)
(※)通常は酸素濃度は21%程度ですが、
酸素飽和度を適正に保つために、
患者の酸素の取り込み能力が下がっているために
大気よりも高濃度の酸素補充をすることです(1073)。
・帝王切開時以外の挿管
(7)子宮(胎盤)の機能不全(uteroplacental dysfunction)
・Fetal growth restriction(FGR)
・血管生成の低下(angiogenic imbalance)
・胎盤の分離
この新しい一連の診断評価基準(診断クライテリア)は
2014年に出版され、2018年と2021年に改変されました。
その改変では
以前は正常血圧だった女性が
タンパク尿と初発の高血圧を呈している必要があります。
ISSHPのガイドラインを利用すると
妊娠高血圧腎症の診断数は増加します。
以前なら診断されない程度の基準で診断された妊娠女性の多くは
症状は軽く、有害事象のリスクは低いとされています(1074)。
このMaya Reddy(敬称略)らの報告(1074)で調べられた評価基準は
ISSHPに加えて、
The American College of Obstetricians and Gynecologists 2018 criteria。
これも含まれます。
このACOGガイドライン以外に
National Institute for Health and Care Excellence (NICE)にも
「妊娠中の高血圧の診断と管理」としてガイドラインが存在します。
これらは2019年に更新され、ISSHPと広範に類似します。
Rachel G. Sinkey(敬称略)らは10種類の世界のガイドラインを比較してます(1075)。
妊娠高血圧腎症において初発の高血圧が
共通的な診断基準になります。
この比較では医療介入が必要な高血圧としての比較になります。
つまり、妊娠高血圧腎症に特化したものではないと理解しています。
その比較テーブルが示されています(参考文献(175) Table 2)。
ACOG ≧160 ≧110 / ISSHP ≧140 ≧90
Queesland ≧140 ≧90 / Canada ≧140 ≧90
SOMANZ ≧160 ≧110 / Brazil >150 >100
Germany ≧150 ≧100 / Ireland ≧150 ≧100
NICE ≧140 ≧90 / ESC/ESH ≧150 ≧95
つまり最高血圧の臨界点は140~160の間で違いがあります。
日本では妊婦における高血圧の診断は
日本妊娠高血圧学会による
妊娠高血圧症候群の診療指針 2021で示されています。
それによると、
収縮期血圧 ≧140 拡張期血圧 ≧90とされています。
(参考文献(1076) 62ページ)
従って、海外と比較すると最も厳しい基準です。
ISSHP、Queesland、Canada、NICEと一致します。
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妊娠高血圧腎症が疑われる妊娠女性に対して
ISSHPは子宮胎盤の機能不全のマーカーとして
(1)Soluble fms-like tyrosine kinase 1(sFLT1)
(2)PlGF(Placental Growth Factor)
これらの異常な上昇がないか?(1077)
これを評価する事を推奨しています。
これらの比(sFlt-1/PlGF)はEvdokia Dimitriadis(敬称略)らの総括では(263)、
「Angiogenic imbalance」と定義されています。
この比は血管新生の程度を示しています。
sFLT1は抗血管新生のチロシンキナーゼタンパク質なので(1078)、
この比が高いと胎盤の血管の成長が阻害されている事を示す
と考えられます。
Swati Agrawal(敬称略)らによる
メタ分析(15 studies with 534 cases)によれば(1077)、
Sensitivity: 80%
Specificity: 92%
Positive likelihoood (sFlt-1/PlGF) ratio: 10.5
Negative likelihoood (sFlt-1/PlGF) ratio: 0.22
これらであり、リスクの程度に関わらず当てはまります。
他方で、
遅発性の妊娠高血圧腎症の診断、治療が課題であるとされています。
その遅発性の妊娠高血圧腎症の可能性のあるマーカーとして
抗酸化分子であるチオール(thiols)の血清濃度が挙げられています(1079)。
妊娠高血圧腎症の重篤度に関わらず、
健康な妊娠女性に対して遅発性妊娠高血圧腎症の女性は
チオール(native and total)がそれぞれ低い事が示されています。
カットオフ値としては
naive 175.86 μmol/L and total 296.73 μmol/Lでした(1079)。
早発性、遅発性に関わらず妊娠高血圧腎症のマーカーとして
(1)serum ADT-ProteoStat protein(1080)
(2)Podocalyxin(1081)
「ポドカリキシン(Podocalyxin)は、糸球体にある
ポドサイトのグリコカリックスの主要成分です。
従って、血中に遊離しているこの糖たんぱく質が上昇すると
腎臓のフィルター機能の低下が示唆されます。
これは妊娠高血圧腎症の主要なクライテリアの一つである
タンパク尿と密接に関わります。」
これらの上昇が挙げられています。
チオールを含めて、これらはバイオマーカーとしてのエビデンスレベルは
高い状態になく、大規模なコホート研究が必要です。
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(病気の進行)(263)
妊娠高血圧腎症を呈する全ての女性は
早発性、遅発性に関わらず、
急速な病状の進行、重篤化のリスクを負っています。
HELLP症候群は妊娠高血圧症候群の一種です。
妊娠の後半から出産後に発症しやすい疾患です(1082)。
(1)赤血球の破壊(溶血:英語ではHemolysis)「H」
(2)肝臓の機能の悪化
(肝逸脱酵素の上昇:英語ではElevated Liver enzymes)「EL」
(3)血小板の減少(英語ではLow Platelet)「LP」
これらを起こす病態でHELLP症候群と呼ばれます(1082)。
妊娠高血圧腎症の経過をたどって、HELLP症候群に進行する人は
他の病因を含めたHELLP全体の18%を占めると言われています(1083)。
また、子癇の55%を占めます(1084)。
・慢性高血圧・最高血圧上昇・血清クレアチニン上昇
これらは妊娠高血圧腎症の主要な評価基準であり、
循環器、腎臓の機能低下を示します。
これらが妊娠後期、出産後(34週以降~分娩後~)に
より重篤な高血圧症状を引き起こす可能性があります。
血圧に関しては1mmHg上がるごとに5%程度リスクが上がります。
慢性高血圧では2.4倍程度リスクが上昇します(1085)。
血圧が上がると他の症状として
・重篤な頭痛・腰痛・めまい・呼吸困難・嘔吐
・視覚障害・不安
これらなどを伴なう事もあります。
子癇、制御不能な高血圧、全身の炎症によって
命の危険にさらされることもあります(1086)。
妊娠高血圧腎症から致命的な症状に至るまで急速に病状が進行するので
妊娠女性が入院してから、検査データをもとに
重篤な症状へ発展する確率がどの程度か?
それを予測するモデルを開発する事は非常に重要です。
Peter von Dadelszen(敬称略)らはfullPIERS modelと呼ばれる
予測モデルを構築しました(1086)。
その予測因子は
・在胎期間・腰痛・呼吸困難・酸素飽和度・血小板数
・クレアチニン濃度・アスパラギン酸トランスアミナーゼ濃度
これらを指標にしました。
その結果、適格率 AUC ROCは0.88でした。
但し、これに妊娠高血圧腎症で主な評価基準である
慢性高血圧と最高血圧の上昇については含められていませんでした。
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血管新生の不活性の程度を示すsFLT1/PGF(比)は
妊娠時に生じる有害事象の予測因子として調べられてきました。
アジアの研究では
sFLT1/PGF(比)が38以下の場合、陰性適合率が98.9%、
38よりも大きい場合、陽性適合率が53.5%でした。
対照となった有害事象は
死亡、肺浮腫、急性腎不全、脳出血、脳血栓症、
播種性血管内凝固症候群。これらです(1100)。
sFLT1/PGF(比)は周産期の子ども(胎児)の健康状態の結果
(adverse perinatal outcomes)に関しては
正確な予測結果を示しましたが、
母体の健康状態の結果(adverse maternal outcomes)には
正確な予測結果を示しませんでした(1101)。
妊娠高血圧腎症で入院してきた女性の有害事象を
48時間以内で予測するfullPIERSモデルは
正確な予測結果を示しました(1102)。
--
(スクリーニング)(263)(※
(※)妊娠高血圧腎症罹患のリスク評価のための選別
Evdokia Dimitriadis(敬称略)らがTable 1に示すように(263)
ISSHP、ACOG、NICEは妊娠高血圧腎症に発展、罹患する
リスクの程度(high, moderate)に対して
それぞれ妊娠女性が併存する疾患を定義しています。
The Fetal Medicine Foundation (FMF)の競合リスクモデルでは
妊娠女性の年齢・民族・体重・身長・既往歴・平均血圧
The uterine artery pulsatility index (UtA-PI)(超音波検査)
母親の血液中のPGFレベル(在胎11-13週)。
これらの因子を妊娠高血圧腎症の
リスクの見積もりの為に組み込みました(1103,1104)。
スクリーニングのためのこれらの2つアプローチは
The UK NHS Screening Programme for Pre-eclampsia (SPREE) study。
これによって評価されました。16747人が参加しました(1105)。
上述した母親の因子をスクリーニングに組み込んで
妊娠高血圧腎症のリスクを見積もったほうが
NICEよりも検出レートが顕著に高いことが示されています(1106)。
「(1)NICE:28.2%
(2)平均血圧, PIGF組み込み:69.0%
(3)それにUtA-PIをくわえる:82.4%」
上述したFMFスクリーニングは
妊娠高血圧腎症の発症予測のため効果的です。
在胎11-13週時点で行われるこのスクリーングによって
34,37週以前に妊娠高血圧腎症に発展する
女性の90%,80%をそれぞれ予知することができます(1107)。
しかしながら、37週以降の遅発性妊娠高血圧腎症は
スクリーニングからの時間経過も関係しているのか?
病因が異なる事を反映しているのか?
その検出レートは44%まで低下します(1106)。
ISSHP 
International Federation of Gynecology and Obstetrics(FIGO)。
これらの団体は可能であれば、FMFの手続き(アルゴリズム)を利用した
スクリーニングを行う事を推奨していますが、
子宮動脈の超音波検査やPGFアッセイは
世界的にルーチンとして実施されていません。
Evdokia Dimitriadis(敬称略)らがTable 2に示すように(263)
37週以前の早発性の妊娠高血圧腎症の早期検出は
世界的に日常的に行われていない
UtA-PI、PGF、この組み合わせを他の母体因子と組み合わせることで
顕著に向上する事が示されています。
しかし、それが難しい場合は、
妊娠女性の年齢・民族・体重・身長・既往歴・平均血圧など
知ることが容易な項目のみでまずは判断し、
その状態でリスクが見込まれれば、
より精密にリスク予期ができるUtA-PI、PGFを行うといった
段階的プロトコルが提案されています(1107)。
この妊娠第一期(11-13週)に
妊娠女性の妊娠高血圧腎症罹患リスクに応じた選別(スクリーニング)。
これを行うFMFのプロトコルは
これが開発されたイギリス以外の国にも普及しています。
Fig.3に示されるように(263)、
早い段階でリスクがある人を特定できれば、
アスピリンなどの投与を事前に行うことができます。
また、慎重な経過観察も行われます。
そのような事も関係している可能性がありますが、
イギリス、オーストラリアでは
早発性高血圧腎症の発症レートを減少させ、
母親、胎児の健康状態の改善に貢献したとされています(1106,1108)。
FMFアルゴリズムはコスト効率が良いとされています。
これに関して、
ベルギーで行われた51,309人の妊娠女性の比較調査があります。
スタンダードケア群に対して337ケースの
妊娠高血圧腎症の発症を抑えた可能性があります。
これはリスクがある人に対して
低用量のアスピリンによる早期医療介入が含まれます。
そのコスト削減は患者1人あたり28.67ユーロと見積もられています(1109)。
--
上述したFMF競合リスクモデルは
在胎期間11-13週の時点でのスクリーニングだけではなく
妊娠第二期、妊娠第三期にも発展的に適用することができます。
そのアルゴリズムがFig.3に示されています(263)。
それによれば、妊娠第二期にあたる
在胎期間19-24週でもスクリーニングを行います。
この時点で高いリスクになれば、
在胎期間32週まで注意深くモニタリングします。
妊娠が維持されれば、32週でもスクリーニングが行われます。
ベースとしては1期(11-13w)、2期(19-24w)、3期(35-37w)。
これらの3回、スクリーニングを行います。
一方で、
まだ遅発性妊娠高血圧腎症のリスク予期に関しては課題があるので
新しい方法が緊急に必要であるとされています。
例えば、在胎期間8-22週でMMP-7レベルの上昇と
在胎期間22週で低いPlGFが相関があるとされています(1110)。
このMMP-7(and MMP-2)は血管の組織でEGFR依存的に
活性酸素を増加させる働きがあります(1112)。
(参考文献(1111) Figure 1)
また、機械学習による小規模の研究では
遅発性妊娠高血圧腎症の77.1%を検出しました。
影響を与えた因子は
最高血圧・血清尿素・窒素・カリウム・カルシウム
クレアチニン・血小板・白血球数・尿タンパク質
これらでした(1113)。
しかし、他のコホート研究で妥当性は示されていません。
遅発性妊娠高血圧腎症のリスク予期に関して他には
以下が示されています。
(1)HtrA3(第二期)(1113)
遅発性妊娠高血圧腎症に発展した妊娠女性は
在胎期間15週の時点でHtrA3が顕著に低い傾向にありました(1113)。
このHtrA3はTGF-βを分解する働きがあり、
これが減るとTGF-βが増えます。
この増加したTGF-βによって線維化細胞が
多くの細胞外マトリックスを作って心臓を硬くします。
また酸化ストレスにも関わります(1118)。
これらは心臓のケースですが、
同じように胎盤の血管の内皮や中膜でも当てはまるかもしれません。
つまり、HtrA3が低下する事で
胎盤の血管の柔軟性が下がり、硬化することです。
(2)cell-free RNA(第二期)(1114,1115)
感受性のある遺伝子として
CAMK2G DERA FAM46A KIAA1109 LRRC58 MYLIP NDUFV3 NMRK1 PI4KA
PRTFDC1 PYGO2 RNF149 TFIP11 TRIM21 USB1 YWHAQP5 Y_RNA
これらが挙げられており(1115)、血中に遊離している
細胞から独立したRNAで分析可能です(1114,1115)。
但し、遅発性の妊娠高血圧腎症の予測程度がどれくらいか?
これに関しては少なくとも現時点で読み取れていません。
(3)血中ELABELA(第三期)(1116)
血中ELABELA濃度は遅発性の妊娠高血圧腎症の女性は
早発性の妊娠高血圧腎症の女性に比べて高い傾向にありました(1116)。
(median: 7.99 ng/mL vs 6.09 ng/mL )
このELABELAは
個体発生異常・ES細胞の自己複製・内胚葉分化
心臓の形態形成・心臓機能不全・血圧制御・血管生成
飲食物取り込み制御
これらに関わっているとされています(1119)。
胎盤の血管形成の異常とELABELA濃度は関連があるかもしれません。
(4)Progranulin(第三期)(1117)
Progranulinは遅発性妊娠高血圧腎症のグループでは
早発性妊娠高血圧腎症、コントロール群に対して
顕著に血清レベルが高いことが示されています(1117)。
progranulin(PRGN)成長因子の一種で
抗炎症、細胞増殖、創傷治癒、腫瘍形成、発達など
多くのプロセスに関与することが知られています(1120)。
組織がダメージを受けていることで
このPRGNの発現レベルが高まっているかもしれません。
--
(予防)(263)
非ステロイド性抗炎症薬であるアスピリンの使用は
長く提案されてきました。
Yixiao Wan(敬称略)らによるメタ分析では
アスピリンの使用によって
妊娠高血圧腎症の発展は28%抑えられたとされています(1150)。
他の報告でも同様の効果が確認されています(1151)。
その他にも低体重児出産、帝王切開のケースを
減少させたという報告があります(1152)。
この低用量のアスピリンは
プロスタサイクリンとトロンボキサンのバランスを調整する
とされています(1153)。
これらのバランスは血管の緊張を調整する上で
重要な役割を果たします(1154)。
また、カルシウムのサプリメントは用量に関わらず、
妊娠高血圧腎症の発症を半減させたと言われています(1155)。
また、総計273,182人、106の研究のメタ分析では
中程度の運動(600 MET-min/wee)
例えば、早歩き、水中エアロビクス、サイクリング
レジスタンストレーニングの140分間は
妊娠糖尿病(OR 0.62)、妊娠高血圧(OR 0.61)、妊娠高血圧腎症(OR 0.59)
これらを顕著に減少させたと言われています(1156)
--
プラバスタチンは経口投与されるスタチンで
LDLコレステロール、トリグリセリドを低下させ、
抗炎症性活性を持ちます。
Muhammad Ilham Aldika Akbar(敬称略)らの研究では
173人に対して、86人のコントロール群、
87人のプラバスタチンのグループに分けられました。
プラバスタチンのグループは
顕著に早発性妊娠高血圧腎症になるケースが少なかった
と報告されています(13.8 vs 26.7%)。
それに加えて早産のケースも少なかったとされています(1157)。
(16.1% vs 36%)
しかし、その他の小規模の臨床報告では
プラバスタチンの妊娠高血圧腎症の顕著な効果は
報告されていません(1158)

//成長//
世界では成長不良(Stunting)の5歳以下の子供は149万人いる
と言われています。(2018年時点。子どもの22%)
最も多い地域は南アジアとアフリカです(831,832)。
この成長不良とは
国際的な標準成長の2標準偏差(2σ,2SD)を下回る場合
と定義されています(831,832)。
日本でも日本小児内分泌学会の低身長の定義は
平均の成長曲線から2SDを下回る場合です(843)。
成長不良は「A form of linear growth faltering」
つまり、成長期に標準的に見られる線形な成長の抑制の形式
と定義できます。従って、
途中で揺らぐことも「faltering」の中に含まれます。
これは
①病気のリスクの増加(下痢、肺炎、麻疹)(835,836)
②認知能力、脳の発育の不全
③命を落とす事
これらに関わるとされています(830)。
この成長不良において
◎どのタイミングで生じたか?
◎どれくらい継続したか?
これは上述した①~③のリスクと密接に関わることです。
実際に少なくとも一部の子どもは成長と共に
栄養状態、健康、環境の改善によって
成長の遅れを取り戻す事(Catch-up growth)が可能です。
しかし、タイミングと重篤度はこの
成長遅滞からの回復に影響を与えます(837)。
また、発生時期と継続時間とお子さんへのリスクを
詳しく理解する事によって、
どのように予防的な介入を行ったらいいか?
その重要な許容範囲の定義に役立ちます。
もちろん、生まれてから大人になるまで
成長曲線の2SD内に入ることが理想ではありますが、
Jade Benjamin-Chung(敬称略)らが問題にしている(830)、
低中所得国の子どもだけではなく、
高所得の子どもにおいても
全ての子どもにおいての実現は非常に困難な事です。
Jade Benjamin-Chung(敬称略)らは
「Window」という言葉を選ばれています。
つまり「どれだけの範囲で」予防的に介入するか?
一部、成長曲線から外れても、
その範囲(Window)に入るように予防的介入を行うということです。
Jade Benjamin-Chung(敬称略)らは
◎32のコホート研究
◎52640人のお子さん
◎年齢 0-24カ月(2歳まで)
◎低中所得国
これらの条件において
(1)成長遅滞が起きた典型的な年齢
(2)成長遅滞の再発
これらを明らかにしました。
(1)成長遅滞が起きた典型的な年齢
最も高い発症年齢は「生後0から3か月まで」です。
※最も高い発症率の地域は南アジアです。
調査対象となった南アジアの国は(830)、
◎パキスタン
◎インド
◎バングラディッシュ
◎ネパール
これらです。
(2)成長不全の再発
0カ月から15カ月まで
「Stunting reversal(成長遅滞逆転)(※)」は稀です。
(※)通常、子供の成長遅滞が改善され、
子供が本来の成長の軌道に戻るプロセスを指します。
また、仮に成長遅滞が改善されても
一度、2SD以上の成長遅滞がみられた子どもは
頻繁にその後、再発すると言われています。
また、その再発は低出生体重児のように
生まれた時にすでに成長遅滞が見られる子ども
「Children born stunted」。
このケースでは再発率が高くなっています。
生まれた時に成長遅滞が見られる子どもは
再発率が高くなるので、
基本的には特に超早産を防ぐことが重要です(838)。
胎内での子どもの成長も含まれますから(838)
この問題において出産を想定している母親の健康状態を
切り離して考える事はできません。
上述した妊娠高血圧腎症も含めて、
妊娠時の母子の健康をどのように築いていくか?
また、医師主導の元、合意がとられた形式で
どのようにパートナーを含めた一般の人への
周知を実現するか?ということになります。
また、生まれた時点で成長遅滞が見られることは
仮に妊娠時の母子の状態が良くても生じることがあります。
それと並行して、生まれてから早期の段階で
◎授乳を含めた食習慣(*)(833,834)
(*)但し、すでに補助的な食事を与えてる家庭において
授乳や栄養介入は小さな効果しかないし、
実施が難しい場合もあるとされています(858,859)。
◎睡眠習慣
◎ストレスケア(852)
これらを中心に
どのように子どもの健康的な生活習慣を実現するか?
そのような観点での介入が必要になると考えられます。
現時点で挙げられている
妊娠前と妊娠中の介入としては
◎母親への栄養サプリメント(839,851)
(maternal micronutrient and macronutrient supplementation)
◎女性の自主性、女性への教育(840)
◎中低所得国において若年結婚を減らす事(841)
◎中低所得国において初回妊娠を遅らせる事(841)
つまり、適齢期での結婚と出産の実現。
◎計画的な家族形成(842)
◎妊娠中の感染症の予防(830)(**)
「(**)地球規模の気候変動、国際化(人の移動)、
大気汚染、ゴミ問題(***)、水質汚染(***)、
人-植物-動物接触の改変(森林伐採、都市開発など)など
世界的に感染症のリスクが少なくとも「変化する」と考えられます(853)。
例えば、今までアジアで典型的に見られていた
ウィルス性、感染性の病気が、
アフリカ、ヨーロッパ、北米、南米で
今までよりも頻繁に見られるようになるかもしれません。
もちろん、その逆もあります。
妊娠中の感染症のリスクは
上述した環境的要因を考慮すると
世界的に非常に重要な問題なので
この子供の健康促進の包括的情報の記事の中で
具体的な総括報告を参照の元(844)詳細に扱います。
その際には理解が深まってきた
妊娠高血圧腎症の章で扱っている
詳細な組織学の情報を参照し、
より踏み込んだ内容にする予定です。」
(***)但し、水質を含めた衛生状態の介入は「直接的には」
子どもの衰弱や成長遅滞には影響しないかもしれない
という複数の大規模無作為化試験の結果があります(855-857)。
これらがあります。
世界保健機関(WHO)は2歳までの完全母乳育児を推奨しているので(845)
生まれてから6か月迄の栄養介入は推奨していません。
この記事でも述べた様に早産で消化器に異常があると、
サプリメントする物質によっては
壊死性腸炎などに繋がる恐れもあります。
本当に「全ての子どもにおいて」完全母乳育児がいいかどうかは
まだ議論の余地があるのかもしれません(834,846-850)。
但し、その時には子ども健康の事を第一に考え
母乳以外で与える飲食料の品質、
子どもの条件、時期、量など
厳密に定義し、管理する必要が少なくともあります。
--
一方で、
Andrew Mertens(敬称略)らは(854)
◎南アジア、アフリカ、南米の中低所得国
◎33のコホート研究
◎83,671人のお子さん
これらにおいてどのような因子が
(1)生後0-6か月
(2)生後6-24カ月
これらの二つの期間において
子どもの成長遅滞に影響を与えるか?を調べています。
(参考文献(854) Fig.4c)
この結果を総合的に考えると、
母親の出産時の身体の健康に関わる事
例えば、
◎早産
◎母親の身長
これらにおいては
(1)生後0-6か月の期間に
「子どもの成長遅滞」に対して大きく影響を与えます。
一方で、
母親の子育て、家庭の環境に関わる事
例えば
◎食生活
◎出産の順序
◎母親の教育水準
これらにおいては
(2)生後6-24カ月の期間に対して大きく影響を与えます。
また、
上述したように(1)生後0-6か月の期間に
成長遅滞があった人は、度々繰り返しますが、
(2)生後6-24カ月(成長後)の発生率は
相対的に低下しているので
一部の子どもの成長状態は改善するということです。
しかしながら、
低身長に関しては成長後も発生率は
相対的に大きく低下しないので
遺伝子的な影響が大きいのかもしれません。
早期の期間で生じる成長遅滞がタイミングとして多く
その大きなリスク因子が早産なので、
この早産児健康促進の包括的情報で問題にしている
早産について、
出産前からの介入、
出産を考えている母親、父親への教育を含めて
どのようにその発生確率を低減できるか?
その問題について取り組んでいく事は重要です。
--
上述したように
成長遅滞の発生率は
少なくとも南アジア、アフリカ、南米のメタ分析において
生後から3か月迄が多いとされています。
実際に2歳の時点で2SDを下回る子どもの割合は5.6%ですが、
それまでの期間で一回でも成長遅滞の基準を満たした
子どもの割合は29.2%に顕著に増加し、
複数回経験した子どもも10%になります(860)。
回復したとしても生まれた直後の重要な時期に
成長遅滞を経験することは
その後の健康に影響がないとはいえないので(854)、
Andrew Mertens(敬称略)らが主張するように(860)
母子への介入を6か月までに行う事が重要です。
Andrew Mertens(敬称略)らのFig.3eのデータを見ると(860)
Weight-for-length z-score (WLZ)(通常範囲は±2以内)。
つまり身長に対する体重のスコアの平均値が
生まれた時に遅滞がある子どもは
(-2以下、つまり身長に対して低体重)
そうではない子供に対して
3か月迄の差異が非常に大きくなります。
これは子どもの成長が補償的に回復する事も意味します。
しかしながら、
繰り返しの記述になりますが、
生まれてから3か月間の遅滞の影響が
仮にある程度回復したとしても
どのようにその後の子どもの健康に影響を与えるか?
その影響がないとはいえません。
現在のプログラムでは
生後6か月から59カ月までの間に焦点が当てられているので
その開始期間をもう少し速める必要があるではないか?
さらには、出産を将来的に経験する
特に女性に対して、
女性の出産に対する基礎的な教育を
若いうちから行う事も必要かもしれません。
なぜなら、出生時の成長遅滞は
出産前、妊娠中の母親の健康状態、年齢、遺伝子的要因など
様々な要因が密接に関わるからです。
上述したような重要性が明らかになっています(830,854,860)。

//横隔膜ヘルニア//
横隔膜ヘルニアは先天性欠損症の中では比較的共通的です。
アメリカ合衆国で1114人のお子さんが毎年影響を受けています(888)。
平均で一命をとりとめるお子さんは60%であり、
早産のお子さんに限れば、在胎期間が短くなればなるほど
命を落とすリスクがより高くなります(889)。
横隔膜ヘルニアは横隔膜の異形成によって
横隔膜の筋組織に穴が生じ、
腹腔にある肝臓、胃、大腸、小腸が胸腔に滲出する事で
臓器の配置の異常やそれによる肺組織の成長阻害が生じます。
横隔膜は肺呼吸に関わる筋肉の一つで
横隔膜を上下させながら肺を動かすことで肺呼吸が可能になっています。
従って、横隔膜は肺と隣接しており、
横隔膜の位置が変わる事はダイレクトに肺の組織に影響を与えます。
実際に胎児鏡下気管閉塞術(FETO)など治療を施したとしても
気管支異形成や肺高血圧など
肺に関わる呼吸器に後遺症が残るケースは
非常に高くなっています(890,891)。
肺高血圧症に関しては軽度であっても、
治療を施しても70%を超える値となっています。
横隔膜ヘルニアで重要なのは
筋組織に穴が開いたところを通じて
腹腔にある肝臓、胃、小腸、大腸が胸腔に浸入することです。
これが実際に胎児の時点で生じるのか?
それとも分娩後、新生児、乳児、小児で生じやすいのか?
そこを整理する事です。
私はまず、子宮内にいる胎児と
外界に出た新生児移行の横隔膜の動きの違いに着目します。
胎児では横隔膜は比較的高い位置にあり、
胸腔内に空気はほとんど入ってこないとあります。
胎児の時点では横隔膜は呼吸にはほとんど関与しないということです。
おそらく、重力に逆らって、
腹腔内の肝臓、胃、大腸、小腸が上側に存在する胸腔内に
穴から滲出するためにはそれを可能にする力学的なエネルギーが必要です。
そのエネルギー源の一つは圧力変化にあると推定しています。
胸腔の空間は呼吸によって体積が変わります。
腹腔と胸腔の分圧差、
その差において胸腔が腹腔に対して陰圧であれば、
当然、腹腔から胸腔へ動く力が生まれます。
それによって肝臓、小腸、胃、大腸が胸腔へ引っ張られる原因となりえます。
上述したように胎児と分娩後の新生児以降の
横隔膜の動きに着目したのは
その動きがこのような力のバランスに影響を与えうると考えたからです。
観点を少し変えて説明すると
もし、胎児の時点で横隔膜の動きが
分娩後に比べて小さいのであれば、
その時点で先天的に横隔膜を形成する筋組織に欠損、穴があったとしても
肝臓や小腸が肺の成長を妨げる
胸腔への進出が分娩後に比べて起こりにくいかもしれない
と考える事もできます。
もし、そうであるとするならば、
横隔膜ヘルニアの治療においては
将来的な有効な薬剤による投薬も含めて、
分娩前の子宮内にいる胎児に対して行いたいという需要が生まれます。
おそらく、横隔膜ヘルニアの有効な治療を考える際には
外科的な治療ももちろん大切ですが、
それを補完する内科的な観点では、
胎児に対してどうやって有効に投薬するか?
そのメソッド、プロトコルを考える必要があります。
その際にはできれば、標的性を上げるため、
薬物送達学の観点も方法、手続きに含めたいというのがあります。
その為には母体から薬物を注入する際においては
螺旋動脈や絨毛組織の浸透性など
臍帯を通じて薬物が胎児に送達されやすいシステムを考えることも
一つとして重要になります。
下述する事も含めてここで
現在まで取得した情報に基づいた細胞生物学的な観点で申し上げると
横隔膜の異形成、穴は
筋細胞の不連続性にあると言い換えることができるので
通常の細胞における密着接合について考える事が重要になると
推定されます。
しかしながら、筋細胞は多核性で特殊な細胞であり、
骨格筋においては細胞同士の密着接合は持たないとされています(904)。
従って、カドヘリンなどの密着接合が
筋組織の完全性においては影響を与えていないという事が
ここから読み取る事が出来ます。
そうであっても、やはり
横隔膜の穴、不連続性を細胞生物学的に考えるには
横隔膜の筋組織の接合性を理解する必要性がありますが、
それがまだ未知であれば、
横隔膜は骨格筋に属するので
骨格筋の一般的な分子的な構造、機能について
包括的に理解する事(905)病理の一つの重要なピースになります。
この章ではその総括論文について
精査する事を予定しています(905)。
なぜなら、下述するように
横隔膜の筋形成の遺伝子的な事を含めた発達経路は
同じ骨格筋である胴体や四肢の筋肉の発展と類似するからです。
その一つ一つを細かく見ていくことで
それを制御するPleuroperitoneal foldsにおいて
どのような分子的機序に不全が出ていそうか?
それによって多核性の筋細胞の
どのようなたんぱく質を含めた物質に不全が出ているか?
その不全は薬剤によって治療する事が可能か?
その様な事を探っていける可能性があります。
また、そのタイミングは子宮内にいる胎児の時の方がいいか?
それは横隔膜の子宮内と外界での機能の違いを
もう少し詳しく調べていく事で明らかになる可能性があります。
様々な基礎的な知識が
横隔膜ヘルニアの治療、緩和、予防、管理のために必要ですが、
その重要な要素の一つとして、
Allyson J. Merrell(敬称略)らが
横隔膜の発達について総括されているので(892)、
その内容について精査し、
独自の調査、考察を加えて情報共有します。
--
<<横隔膜の発達>>
哺乳類の横隔膜筋は呼吸において重要であり、
人の身体において最も重要な骨格筋の一つです。
横隔膜の発達の異常は先天性横隔膜ヘルニアにつながります。
この先天性の異常は子どもの中で4000人に1人と
決して少ない数ではないため、
その組織学的な形成の機序について理解する事は非常に重要です。
横隔膜は胸腔と腹腔を隔てる
ドーム型の筋肉を持ちます。
横隔膜は上述したように筋組織であり、
胸腔をリズミカルに圧迫するこで肺を動かすことに貢献します。
肋骨の左右両方にドーム状の筋組織を形成します(893)。
これらの筋組織は放射状に並んだ筋線維を持ちます。
この放射状とは下側、上側から見た時に
背骨から体の外側に向かって
筋線維が延びていることを示します。
(参考文献(892) Fig.1)
横隔膜はドームを形成し、
中心の組織がより胸腔に近い形になっています。
その中心部の頂点にあたる部分に
腱(central tendon)が存在します。
腱は接合性の組織シートで
細胞外マトリックスと腱細胞からなります。
横隔膜の運動制御は横隔神経によって生じます(894)。
横隔膜は呼吸機能だけではなく
胸腔と腹腔を分ける障壁機能として働きます。
人の臓器は重力によって力を受けます。
従って、それぞれの臓器の位置安定性を
「区画」によって確保する必要があります。
肺と心臓は胸腔に位置し、
胃、腸、肝臓、腎臓は腹腔に位置します。
それぞれの臓器の位置を確保する事は
特に発達期にある子どもの健全な臓器発達において
重要であると想定されます。
この横隔膜の機能が弱かったり、不完全であると
胸腔、腹腔にある臓器の発達に影響を与える可能性があります。
特にその動きの密接に関わりのある肺は顕著です。
では、その横隔膜の組織学的な不全はなぜ生じるのでしょうか?
そのためにはその形態学について知る必要があります。
横隔膜のドーム状の筋組織、それを支える腱は
◎Septum transversum(横中隔)
◎Pleuroperitoneal folds
◎Somites(中胚葉節)
これらから発達します(892)。
横中隔はAllyson J. Merrell(敬称略)らがFig.2に示すように
胸腔と腹腔を隔てるために最初に大きく発達する組織です。
中胚葉は筋肉の原型となる前駆細胞群ですが、
それがリンパ節のように「節」を形成し(Somite)、
筋原性の前駆細胞PAX3+前駆細胞を放出します(895)。
この時には横隔神経も関与します。
横隔膜の筋形成には
Pax3とc-Metの遺伝子が密接に関わっており、
これらの遺伝子が不活性になると
横隔膜の筋組織が形成しないことが
マウスのケースで確認されています(896-898)。
通常これらの遺伝子は中胚葉節で強く発現されています。
このc-Metは組織形成において普遍性の高い遺伝子で
胚発生、器官形成、創傷治癒に必須であり、
また、癌などの組織形成にも関わります。
もし、c-Metに先天的に異常があって
横隔膜異形成が生じているとするならば、
他の臓器も異形成が生じて自然なので、
その点に着目しながら、
この遺伝子との関わりについて一定の注意を払います。
-
横隔膜は頂点から外下側の腰の部分、
尾部に向かって成長していきます。
その成長には細胞だけではなく
神経系も追随して伸長されていきます。
Pleuroperitoneal foldsは間葉のプレートですが、
神経系や筋原性の細胞の成長のシグナルの
重要な供給源となっています。
この信号に応じて、
おそらく多様な細胞接着分子が組織の健全な成長に関わっている
と想定されますが、その信号の分子的な特徴はわかっていません。
少なくとも多様な神経系の細胞接着分子の
離脱可能な低い親和性を持つ成長因子受容体が
神経管からPleuroperitoneal foldsに延びていて
横隔神経の成長を誘導するかもしれません。
組織の成長に関わる
肝細胞増殖因子やMet受容体は
筋肉の前駆細胞や神経系両方の移動経路に沿って発現されています(899)。
Pleuroperitoneal foldsは信号を送る事によって
横隔膜の筋組織の前駆細胞の
筋生成や形態形成に必要な遺伝子的な活性を調整しているかもしれません。
筋組織の形成機序は胴体や四肢の筋肉形成と類似します。
Pax3、Pax7を最初に発現し、
Myf5、MyoDの発現を経由して
Myogenin +単球に分化し、多核の筋線維を形成します(900,901)。
ここで一つ考えられるのは
横隔膜ヘルニアを呈した子どもが
胴体や四肢の筋肉形成でも同じように欠損が生じているか?
ということです。
もし、そうではなく横隔膜に限定されるなら、
その信号の源泉となっている
Pleuroperitoneal foldsに異常がある可能性があります。
例えば、Pleuroperitoneal foldsの形成初期には
GATA4, COUP-TF2, and FOG2
これらが発現されているとあります(902)。
実際にPleuroperitoneal foldsの異常は
先天性横隔膜ヘルニアに関わると報告されています(903)。
病因はそれだけではない可能性がありますが、
現時点の情報において
Pleuroperitoneal foldsはおそらく横隔膜の形成不全に
深くかかわっているので、そうであれば、
遺伝子的な影響を調べるとともに、
実際にどのような信号異常があるか?
それによって筋原性の細胞、神経細胞の
どのような機能に異常が出ているか?
その上流から下流までの機序を推定していくためには
現時点で世界で用意されている情報では
おそらく十分ではない可能性が高いので
上述した類似する骨格筋の発達の情報を参考にしながら、
今後の研究の為の「当たり」を付けていく必要があります。
つまり、
「このような機序が重要で、不全が出ているのではないか?」
ということがある程度、頭にある中で
研究を進めていくということです。
上流から下流までの機序が明らかになれば、
現在用意されているFETOなどの外科的な医療介入に加えて、
組織の発達を薬物によって促す内科的な治療の道筋も見えるはずです。
-
pleuroperitoneal foldsより信号を受けた
筋肉の前駆細胞は筋芽細胞に分化します。
筋芽細胞は通常は一つの細胞核を持ちますが、
それが筋線維に融合することで取り込まれます。
従って、筋線維は筋芽細胞の細胞核も取り込むため
筋線維は長い繊維状の区画の中に
多数の細胞核が存在する多核性の組織となります(906)。
(参考文献(906) FIGURE 1)
これら筋線維がワイヤー上に束となり、
その束の周り、それを縛るようなタンパク質が存在しますが、
それについての詳細は後述します。
横隔膜の筋肉の結合組織や上部に存在する腱の形態生成
その形態生成における横中隔とpleuroperitoneal foldsの関連性については
まだ、未知の領域が多く存在します(892)。
横隔膜の形成の健全性や異常(穴)が生じる物理を考えるときには
その筋肉の元となる細胞種、その融合体である筋線維がある事と
その筋線維を高い秩序で結びつける結合組織が必要です。
また、その成長、形状を管理する神経系、免疫系を含めたシステムが必要です。
例えば、形態生成において重要なMetを欠損させると
結合組織が残ったまま、筋線維の形成が欠如しました(907)。
この事はそれぞれの要因が、
別の遺伝子によって制御されていることを示唆するものです。
また、横隔膜の異形成は左側が多く
おおよそ85%であるとされています(890,908,909)
この疫学的情報は病理、病因を理解する上で非常に重要です。
Allyson J. Merrell(敬称略)らがFi.2示すように(892)
横隔膜形成初期の細胞の分泌、信号因子などの器官の左右対称性は
比較的高いと想定されます。
人の身体の構成において左側には心臓があるため
横隔膜の位置が左側と右側で対象ではありません。
心臓がない右側の横隔膜は高い位置に形成されます。
(参考文献(910)より)
これが異形成と関係している可能性があります。
例えば、心臓の拍動、質量によって
常に左側は右側よりも強い機械的ストレスにさらされるため、
それによってより強固な形態形成の機序が
正常な組織発達の為に必要であるという事はあるかもしれません。
なぜなら、そのストレスによって
筋線維がちぎれたり、結合組織が破壊され
穴が開くことが考えられるからです。
もし、そうであるとするならば、
本質的な組織形成の欠陥ではなく、
筋組織の形成が少し脆弱であるという可能性が浮かび上がってきます。
なぜなら、右側には穴が形成されないからです。
そうであれば、子どもが成長しても共に変わっていける
体の中にある自然な結合組織によって
筋線維を補強するようなことが薬剤でできれば、
何割かの横隔膜ヘルニアを防ぐことができるかもしれません。
他方ですでに筋肉の再生については
スポーツ科学を中心に考えられています(911)。
そのような再生を促す処置ができれば、
横隔膜の筋組織の恒常性の中で
よりリスクが少ない状態にできる可能性もあります。
筋肉の再生についても
横隔膜ヘルニアにおいて重要な可能性があるので
後に内容を精査することになります(911)。
今述べた様に
筋組織は再生する事も考えられるため
小さな穴で止める事ができたら、
その穴は自然な再生機序によって閉塞し、
その後、組織は正常化する可能性もあります。
外科的にはiPS細胞で作った心筋シートを
心臓に貼って回復させたように
お子さんの横隔膜に
横隔膜筋シートを貼るような事も考えられます。
内科的には組織をお子さんの自然な機序を利用しながら
薬物によって補完し、強化する事ができるか?
それをまだ横隔膜の運動性が低いと考えられる
胎児の時点でできるか?
そのような展望が現時点であります。
これは現時点での仮説による論述であります。
一方で、そうではなく
神経系や免疫系の信号の非対称性などの
可能性も現時点では否定はできません。
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ここからはPraveen Kumar Chandrasekharan(敬称略)らが示す
先天性横隔膜ヘルニアに特化した総括(918)を参照し
上述したことも含めて付加的な考察を含めながら詳述します。
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<<要約、背景>>
横隔膜ヘルニアは横隔膜の筋肉の発達において不全が生じ、
特に左側において多く穴が生じます。
Praveen Kumar Chandrasekharan(敬称略)らがFig.2に示すように(918)
その穴は小さなものから全体が欠損するような大きなものもあります。
(Fig.2 A,B,C,D参照)
この先天性横隔膜ヘルニアによって
上述したように肺(肺高血圧)、心臓の不全につながります。
肺高血圧症は肺水腫に伴い生じることがありますが、
全てではないにしろ高血圧の一つの考えられる原因は
特に左心房に繋がる肺静脈管壁の中膜にある平滑筋の機能が
低下する事です。
横隔膜ヘルニアで肺高血圧とリンクする原因は
単に肺と横隔膜の圧力的な関係を考える
「Lung diaphragm model」だけで説明はできない可能性もあります。
なぜなら、胸腔への腹腔組織、臓器の滲出も
関係している可能性があるからです。
しかしながら、横隔膜ヘルニアを呈する子供が
先天的に横隔膜筋の機能が弱いとすると、
それによって生きるために必要な空気量を
肺の収縮、伸張で獲得するためには
それに関する筋肉の過負荷(Overload)が生じる可能性があります(944)。
それによって呼吸に関わる筋組織の中の
並列に、棒状に繋がっている
「Sarcomeric cytosleleton」(参考文献(945) Fig.5)。
これに多くに負荷がかかります。
ここで整理して考える必要があるのが、
少なくとも
〇横隔膜筋
〇呼吸筋(Expiratory muscles)(参考文献(946) Fig.1)
〇肺静脈の平滑筋
〇心筋
これらの連携です。
これらは人が呼吸する際に正常に働く必要がある筋組織です。
例えば、横隔膜ヘルニアで先天的に横隔膜筋に異常がある
その機能が弱いとします。
それはCaイオンの取り込み、感受性が悪いかもしれないし、
筋組織の中の細胞骨格の形成、構造に異常があるかもしれません。
いずれにしても横隔膜筋に異常があると
それ以外の呼吸筋、肺静脈の平滑筋、心筋に過剰な負荷がかかります。
それを補うために過剰に活動する必要があるからです。
そうして、肺高血圧症になると
今度は肺静脈の平滑筋が肥大、硬化して
肺静脈の平滑筋の機能も低下してしまう可能性があります。
そうすると横隔膜筋、肺静脈の平滑筋、両方が低下し、
さらに呼吸筋、心筋に負荷がかかります。
そうすると特に心臓の肥大につながる可能性があります。
実際に共に「先天性」とされていますが、
横隔膜ヘルニアと心疾患が併存するお子さんは
全体のおおよそ15%になると言われています(947)。
さらに先天性横隔膜ヘルニアを呈する子供のおおよそ
0.3%は心臓疾患に対する手術が必要であると推計されています(948)。
また、横隔膜ヘルニアの子どもにおいては
「Barrel-shaped chest(※)」と呼ばれる
胸が相対的に大きくなる臨床症状を呈することがあります(950)。
(参考文献(950) 図参照)
これは、横隔膜筋、肺高血圧症など
呼吸機能全体に関わる力が弱い状態にあることによって
生じる補償的な身体の反応と言えます。
つまり、胸の筋肉を肥大させないと
通常の酸素を中心とした体の空気需要を満たせないということです。
下にリハビリテーションについて述べます。
これは主に横隔膜や肺の呼吸筋の機能向上を目的として行う事が
患者さんにとってメリットがあるかどうかを考察するものですが、
すでに「Barrel-shaped chest」
つまり胸の筋肉の肥大が生じている事は、
リハビリテーションの効果がある程度制限的になる
ということを示すものかもしれません。
横隔膜ヘルニアに追随して生じる呼吸機能の低下に対する
医療的介入を考える場合には
下述するようなリハビリだけではなく、
心臓、肺(平滑筋を含む)、呼吸筋(横隔膜筋を含む)、
加えては循環器の液性の機能(免疫機能を含む)を
総合的に掌握し、全体的に分散した治療を行う事が
一つの終着点として考えられるかもしれません。
従って、横隔膜ヘルニアの子どもに対しての治療を考える際には
〇(一般的な)肺高血圧症
〇(一般的な心肥大を含む)心疾患
〇動脈硬化
これらなどの治療が役に立つ可能性があります。

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治療としては上述した筋肉を効率よく使う
リハビリテーションが考えられます。
例えば、呼吸筋をリハビリテーションによって鍛える事で
横隔膜筋、肺静脈の平滑筋、心筋にかかる
負担を減らす事ができるかもしれません。
どの筋肉を鍛えるのがいいかというのは
その筋肉の肥大しても問題のない筋肉である必要があります。
上述したように心臓の筋肉が肥大すると問題になります。
しかし、例えば、四肢の筋肉が肥大しても
健康上、問題になる事はあまりありません。
もし、肺の周りにある呼吸筋の肥大が
呼吸に関わる他の筋肉の肥大に比べて問題が少なければ、
そこの能力を呼吸に問題のある子どもの無理がない範囲で
理学療法士の指導の下、行う事は重要かもしれません。
その筋肉が元々問題のあった横隔膜筋にも
正の影響を与える可能性もあるからです。
但し、先天性横隔膜ヘルニアに罹患している子どもに対して
強度を最適化した形で一般的な肺のリハビリを行う事が
患者さんにとってメリットがあるかどうかに関しては
現時点でエビデンスはありません。
ただ、先天性横隔膜ヘルニアを呈した患者さんに併発する
肺高血圧症と肺のトレーニングにおける総括は存在します(949)。
その内容についてここで時間をとって精査します。
気を付ける必要があるのが、
肺動脈高血圧症(肺静脈高血圧ではない)の患者さんに対して
運動による介入を行うことは
患者さんに対して弊害をもたらす可能性があるということです(949)。
それをまずは前提として、
肺動脈、肺静脈の高血圧症、
それを多くの場合併存する横隔膜ヘルニアにおいて
リハビリについて考えます。
但し、運動には
種類(動かす場所)、強度、頻度など
かなり異種性があり、専門性が必要であります。
ここで思考実験、分野横断的な調査の出発点として
焦点を当てて考えたい事は
上述したように肺の周りにある呼吸筋の機能を
どうやって選択的に上げることができるか?です。
それによって他の呼吸に関わる筋肉の負担が減るか?
そうするとおそらく横隔膜ヘルニアの
お子さんで生じていると現時点で推定している
横隔膜筋の低下⇒肺静脈、肺動脈平滑筋肥大、硬化
⇒心筋細胞の肥大、硬化。
それに伴う横隔膜、肺、心臓の機能の低下。
この負のスパイラルを肺の呼吸筋の機能向上によって
正のスパイラルに転換することができるか?
現時点では肥大した時にリスクが少ないと想定されるおが
呼吸筋であると考えられるからです。
筋肉も種類が多く大きいという事も挙げられます。
実際には横隔膜筋も呼吸筋の一つとして挙げられるので
全体的に呼吸筋の機能に介入する事は
元々の病因であった先天性の横隔膜筋形成不全にも影響を与えます。
但し、この事はもともとそこに不全があるわけですから、
人為的に介入する事が悪影響を及ぼす可能性もあります。
そうした可能性にも配慮しながら考えていきます。
--
リハビリテーションが個別化された形で安全に行われるかどうかは
私が推定するに、運動を行った際の患者さんの反応にあります。
理学療法士間で偏差のない運動的介入を行う際において、
リハビリテーションを中断する評価基準は必要です、
例えば、横隔膜ヘルニアの子どもの臨床症状を調べると
〇呼吸(呼吸が早くなる)
〇胸の形の異常(Barrel-shaped chest)
〇皮膚(※1)
(※)チアノーゼ:青紫色に変色(酸素不足による変色)
〇呼吸機能の異常(うまく息ができない)
〇高血圧
〇腹部が凹む(Scaphoid abdomen)(※2)
(参考文献(951) 1 Abdominal Contour参照)
(※2)これは胸腔の臓器や組織が胸腔に滲出している事を示す
ものかもしれません。
〇心音の異常
従って、身体の全体的な形の異常の観察や
呼吸機能、皮膚、血圧、酸素飽和度などを管理しながら
リハビリテーションを行う必要があります。
先天性横隔膜ヘルニアに罹患する患者さんは子どもですから
救命を実現した子どもは、その後、長く日常生活を送ることになります。
どのような管理の元、日常生活を送るかを含めて
いずれにしても今後考えていく必要があるので、
リハビリテーションは一つ重要な医療介入であると言えます。
まだ、先天性横隔膜ヘルニアの予後における
リハビリテーションのガイドラインを示されていませんが、
上述した典型的に患者さんが呈す臨床症状は
ガイドラインにおそらく含められることです。
例えば、1分間の呼吸の回数や血圧などは
数字で管理されるようになると思います。
--
一方で意外な観点としては心の状態との関連を考える必要があります。
肺の高血圧症による運動機能の低下は
うつや不安と関連があるという報告もあります(952)。
呼吸はずっと生活の中に共存するものなので、
先天性横隔膜ヘルニアに限らず、呼吸機能にハンディキャップがある
患者さんに対して、医療福祉機関が
継続的に心のケアの機会を用意する事は大切です。
まずは、その環境づくりが一つの基礎となります。
もう一つ、見逃せない観点としては
睡眠、食事などの日常生活習慣です。
患者さんに対する診察で、睡眠や食事に焦点を当てた時に
どういったときに不安を感じやすいか診察で掌握するという手段もあります。
例えば、昼過ぎの13時、14時くらいに不安を感じやすいとします。
それは太陽の条件、ホルモンバランスなど時間的なものもありますが、
その前の食事の条件もあるかもしれません。
不安に感じやすい前後の食事のタイミングを考える事で
日常生活の中の患者さんの心の問題にアプローチできる可能性があります。
そういった食事のタイミングは
この一連の段落で詳述している
リハビリテーションのタイミングとも関連があります。
生きていくためにはカロリーを取る必要がありますが、
できるだけ運動の前に必要なカロリーを取って、
それで人(理学療法士など)との関わりの中でリハビリをする。
そういったタイミングを意識した生活習慣を
個別化された形で最適化することで
呼吸機能に不全がある人の一定の割合の人に伴う
うつや不安などの心の問題の軽減に貢献するかもしれません。
リハビリテーションはストレスや疲れを伴ないます。
一定の運動に対して患者さんが感じるそれらは
その時のコンディションによってある程度は変動します。
これらのストレスや疲れは
精神状態や睡眠、食事(タイミング、メニュー、量)によっても
一定の傾向を示して変わる可能性もあります。
患者がより楽にリハビリテーションを行うために
患者さんの自由を奪わない形でとなると
限界はあるものの、改善の余地は多元的に存在すると想定されます。
ただ、注意する必要があります。
これは早産児の健康の為の記事なので省略する事が出来ない事です。
成長期の子供には食事の提案するにあたって
少なくとも過度なカロリー制限は適さない可能性があります。
食事と精神のバランスを取っていくにあたって、
カロリー制限は行わずにタイミングを考えるという事も
頭に入れておく必要があります。
Sonu Sahni(敬称略)らの総括の中で(949)、
Table 2にそのリハビリのメニューが挙げられています。
ペダルによる運動、ストレッチ、マシンによる歩行運動など
様々な運動がそれぞれの頻度、時間で示されています。
他の医療従事者(とりわけ医師、理学療法士)と
議論する必要はあるかもしれないですが、
私の現時点の考えは、リハビリに関しては
「中断の条件を正確に押さえる」ということです。
まず、前提として安全にリハビリを行う事があります。
横隔膜ヘルニアに罹患した子どもに対してリハビリを行う際には
子どもは自分の状態を正確に話すことができないケースもあります。
そうした場合、多元的な評価基準を持って、
リハビリに対する安全性を確保する必要があります。
その評価基準に含める必要があるのが、
その疾患に典型的に見られる臨床症状です。
但し、それだけでは不十分である可能性があります。
それを定めた時、そのような基準を超えて
安全性に問題が出る運動のレベルはおそらく個人差があるので、
どういったメニューが共通的にいいかというのを
なかなかガイドラインで示すのは難しいのではないか?
このように推定しています。
一方で、横隔膜ヘルニアの場合には呼吸機能に影響がでますから
主に呼吸機能に関わる主要な筋肉を優先して鍛えるという観点もあります。
その観点に立てば、適した運動メニューが存在しうる
という考えも生まれてきます。
--
その横隔膜ヘルニアの病態の評価するため、
肺と頭の大きさの比、肝臓の位置を超音波によって調べます。
この肺の大きさが頭に対して25%を下回る場合には
重篤な肺の形成不全と評価されます(890)。
Jan A. Deprest(敬称略)らによって行われた
胎児鏡下気管閉塞術(FETO)において重篤なケースでは
その平均値は21%でした。
(参考文献(890) Table 1)
胎児の時点で横隔膜ヘルニアが明らかになっても
分娩は満期の近くで行われることが推奨されます(918)。
生まれてからすぐの新生児に対する医療的なマネイジメントとして
腹部の減圧を行います。
これは穴から組織が横隔膜の上側に滲出している可能性があるため
力を下側に向ける為、横隔膜の下の領域を相対的に陰圧にさせること。
これを目的としていると考えられます。
マスクによる換気は避け、
必要に応じて気管内チューブを挿入します。
マスク換気を避ける理由は
横隔膜ヘルニアに罹患している子どもは
肺の発達が遅れていることがあるため
過剰な負荷がかかることを避けるためであるとされています。
正確な換気圧力の制御が必要という事です。
また、胃の膨満のリスクがあるため、
横隔膜の下側が陽圧になる可能性もあります。
それは横隔膜上部への穴を通じた
組織の滲出を促す結果にもつながるため
避ける必要があるということです。
吸入式一酸化窒素供給は先天性横隔膜ヘルニアにおって生じた
新生児の継続する肺高血圧の治療のために利用する事は
FDAによって承認されていませんが、一般的に使用されます。
一酸化窒素は血管の周りにある平滑筋を弛緩させるため
血管径が広がります。
通常は平滑筋は収縮していますが、
弛緩によって平滑筋の表面積が大きくなるため
それと連結している血管の径が自動的に大きくなるということです。
それによって血圧が下がるというメカニズムです。
しかし、FDAによって承認されていない一つの理由は、
この一酸化窒素が誤って高濃度になった時に
気道刺激、低酸素血症などいくつかのリスクがあるからです。
従って、利用される場合には医師、看護師など
医療スタッフによる特別な管理が必要です。
人工肺とポンプを用いた体外循環による治療であるECMOは
従来の医療マネイジメントでも病態が改善しなかった場合に
典型的に検討される医療介入です。
但し、対象は
〇34週以上の在胎期間を持つ子供、
〇体重が2kg以上かつ関連する命に関わる異常がない事
これらのいずれかを満たすとなっています(918)。
◎早産
◎関連する異常
◎肺高血圧症の重篤度
◎回復のタイプ
◎ECMOの必要性
これらは先天性横隔膜ヘルニアを持つ子どもの生存に関わります。
先天性横隔膜ヘルニアの維持管理の改善によって
お子さんの生存率は上昇しています。
エクモが必要でない場合70-90%の間であり、
エクモを経験した子どもでは50%程度となっています。
--
ここで考察が必要なのが横隔膜ヘルニアが
胎児のときに超音波検査で確認されたときに
特に母子に他の問題がなければ、
満期まで子宮内に胎児を待機させ
満期近くで分娩を行うということです。
これは上述したように在胎期間が短く、
かつ出生体重が小さい早産の子どもは
この早産児健康促進の為の包括的情報の記事で詳述したように
身体全体の様々なリスクがあるだけではなく、
横隔膜ヘルニアの呼吸不全時の最後の砦として利用される
ECMOが対象外になるからであると考えられます。
さらに、子宮内では
母親の体と連携して酸素と栄養を供給してもらうため、
酸素吸入に伴う呼吸の負荷が一般的には低いと考えられます。
従って、横隔膜筋への機械的負荷が小さい中で
横隔膜筋の成長を促す事にもつながるし、
横隔膜の振動数、振幅が小さいのであれば、
胸腔への組織進出のリスクが小さい状態で
それ以外の臓器、呼吸に関わる肺の成長を促すこともできます。
また、出生前に子宮内で適切なケアと監視が行われる場合、
医療チームは患児の容態に合わせて、
分娩後、どのような処置を行うか?
ということを決定するための時間的猶予が生まれます。
ただし、胎児の呼吸(Intrauterine respiration)については
上述したように負担が少ないと明記しましたが、
実際には未知の領域が多く存在します(919)。
子宮内にある羊水を吸ったり、はき出したりする際に
横隔膜筋や呼吸器の血管の平滑筋が動くことが想定されます(919)。
しかしながら、胎児の呼吸の動きは連続的ではなく、
頻繁に動くときと、止まる時のサイクルがあるとされています(919)。
ここについて詳述している理由は以下です。
横隔膜筋の動性が高い状態だと胸腔と腹腔の圧力が
同様にダイナミックに変わるため、
その圧力差によって穴がある場合に
腹腔の臓器、組織が胸腔に進出してしまうリスクがあがります。
胎児の状態では組織の成長が逐次生じていますから、
できるだけ負担のない状態で
横隔膜筋を含めた組織の成長を促したいというのがあります。
その負担が子宮内で特に呼吸器において少ないかどうか?
また、実際に横隔膜の動きが
胎内と胎外でどのように異なるか?
それについて考える重要性が浮かび上がってきます。
上の生存率に関する疫学では
お子さんがECMOを必要とするかどうかで大きく変化します。
これは呼吸機能の不全の重篤度を反映するものです。
ECMOは呼吸機能を外部の装置に委ねる処置であり、
その負担が少ない中で呼吸器の回復を試みるものです。
横隔膜ヘルニアでは
横隔膜は呼吸に関わる筋肉で
酸素の取り込みはその横隔膜の動きに応じて
肺、その中の肺胞、サーファクタントなどの貢献によって生じます。
従って、横隔膜筋に穴があったり、
肺の成長が遅れている、不全がある事は、
呼吸機能において重複する障害であると考えられます。
従って、できれば、子宮内で
①肺の健全な成長
②横隔膜筋の健全な成長
これらの2つを完璧には難しいかもしれないですが、
両方をできるだけ健康な状態に漸近させたいというのがあります。
その為の重要なポイントは
妊娠女性、胎児の健康管理をしっかり行い
満期分娩を実現させるということです。
また、胎児の時点で医療介入する
胎児鏡下気管閉塞術(FETO)も非常に重要です(890,891)。
--
<病因>
先天性横隔膜ヘルニアの病因は不明です。
現在の認識では病因は複数の要因が絡み合っているとされています。
先天性横隔膜ヘルニアは
肺の形成不全だけではなく、
心臓、胃腸、尿生殖器の異常、
またはトリソミーなど染色体に異常があることがあります(918)。
遺伝子、環境、栄養など複数の要因が
先天性横隔膜ヘルニアの想定される病因です(920-922)。
栄養の観点では
ビタミンAの運搬に関わるタンパク質
レチノールタンパク質、レチノール結合タンパク質のレベルが
臍帯血で少ないことが関連している可能性があります(920,923)。
このビタミンAは組織の成長に欠かせないものです。
レチノール結合タンパク質は脂溶性のビタミンAを運ぶ役割があるので(924)、
妊娠女性の血液検査において
このタンパク質の量が明らかに不足している場合には
このタンパク質量を適正に戻すという事は重要かもしれません。
ビタミンAは成長に不可欠な栄養素だからです。
このビタミンAは目の健康と関連が深いですが、
先天性横隔膜ヘルニアと妊娠女性の盲目について
関連性を指摘する報告は見当たりませんでした。
--
<病理>(918)
横隔膜の成長は在胎期間4週から始まり、12週で
おおよそ完全な形となります(970)。
横隔膜筋の形成不全は部分的に小さな穴が生じる軽度なものから
横隔膜筋が完全に欠損する重度なものまで存在します。
横隔膜ヘルニアの胚形成の時点の病理は
完全には理解されておらず議論の余地があります。
上述したAllyson J. Merrell(敬称略)らがFig.2に示す(892)
横隔膜筋形成に関わるpleuroperitoneal foldの異常が
一つの病因であると考えられています(971)。
また、肺の低形成は先天性横隔膜ヘルニアの
原因となる要素かもしれないと報告されています(972)。
肺芽の形成と
横隔膜の形成過程の一時的構造で健全な形成に重要な役割を担う
The posthepatic mesenchymal plate (PHMP)の形成が関連しています。
従って、肺の低形成による原基の肺芽の形成不全が生じると
同じように横隔膜筋の原基であるPHMPにも同様に
形成不全が生じると考えられます(972)。
このPHMPの発達が遅れると横隔膜筋に不全が生じます。
肺芽と横隔膜の形成の元になるpleuroperitoneal foldが
関わっている事は指摘されています。
I Iritani(敬称略)は要約の中で
「The PHMP appears dorsal to the liver or on the ventral aspect 
of the pleuroperitoneal canal when the lung bud enters 
the pleuroperitoneal canal. Later, the PHMP grows to join 
the costal mesenchymal tissue via the pleuroperitoneal fold, 
thereby forming the primitive diaphragm.」
これらの文章を上梓されています(972)。
この文章について詳細に考えていきます。
PHMPはThe posthepatic mesenchymal plateであり
間葉系細胞の組織です。
間葉系細胞は組織系における重要な細胞なので
横隔膜の成長に欠かせない様々な組織を形成する元になるものである
と考えられます。
それが、肝臓への背部(背中側に)現れるとあります。
ここで肝臓と横隔膜の位置関係について学習します。
横隔膜は肝臓のすぐ上の位置にあります。
(参考文献(973) FIGURE 54-1)
この文章では胚形成(embryogenesis)。
つまり組織の発生時期、形成初期について問題にしています。
形成初期の肝臓と横隔膜の位置関係はFIGURE54-2に示されます。
背面側にはすぐしたに未成熟の胃が存在します。
pleuroperitoneal canalは参考文献(974)で
成長した横隔膜筋の横方向の断面図でみると
水色が背骨だとするとほぼ身体の中央に位置すると考えられます。
その腹部側面とありますので、
pleuroperitoneal canalの身体の前側という風に捉えられます。
つまり、PHMPと命名される組織発達に関わる間葉系組織が
横隔膜の元となる組織形成の段階で
前側、後ろ側両方に現れるということです。
これは、肺芽がpleuroperitoneal canalに入った時に生じる
とされています。
肺芽と横隔膜の原基の関係の情報は限定的ですが、
参考文献(975)の24ページのFigure(5)に示されています。
この時に偶然タイミングとしてそうなっているのか
そうではなくて肺芽(Lung bud)が何か
横隔膜形成に作用しているのか?
それについてははっきりとはわかりませんが、
上述したように肺芽の形成不全は横隔膜の形成不全と関連します。
文章からするとPHMPの成長を促すとも解釈できるので
肺芽の間葉系細胞自身が横隔膜筋の構成細胞に分化する
という可能性よりも、PHMPの成長を促す
なにか傍分泌様の物質を出すという方が可能性として高いか?
いずれにしても現時点では仮説の域を出ません。
--
横隔膜ヘルニアによって生じる横隔膜内臓脱出症は
ケースとしては左側よりも確率が低い
右側に生じた時がより共通的です。
しかし、この場合、重度の肺の形成不全(低形成)を
伴なわないことが多いとされています(918)。
横隔膜内臓脱出症はどれくらいの範囲の
横隔膜に異常が出るかにもよると考えられますが、
腹腔から胸腔に脱出した臓器が
途切れることなく呼吸で生じる肺の動きに影響を与えると
そのお子さんの肺の成長、成熟を阻害する可能性があります。
肺は、一般的にそうした伸張、収縮といった
動きの中で成長、成熟することが知られています。
(stretch-induced lung matuation)
〇免疫反応による肺の成熟(992)
〇血管内皮成長因子による血管生成(993)
〇サーファクタントの成熟(994)
〇セロトニンの放出(995)
これら、呼吸運動に誘導された
肺の成長、成熟が確認されています。
従って、特に成長期における肺高血圧症の治療、
あるいは肺のより健全な成長を促すためには
お子さんの横隔膜、胸筋を使って、
自立的に肺を運動させ、呼吸する事が大切です。
無理はできませんが、肺を運動させること自体が
肺の健全性に貢献するということです。
--
横隔膜ヘルニアの病態で主なものは
肺の成熟不全と形成不全の組み合わせです。
新生児遷延性肺高血圧症
(persistent pulmonary hypertension of newborn: PPHN)。
これを引き起こす原因となります。
上述した肺の成長、成熟不全の中には
肺に存在する血管や肺と心臓を繋ぐ、
肺動脈、肺静脈という主要な血管があります。
上述したように肺のストレッチは
血管内皮成長因子による血管生成を促します。
胸腔が狭窄している、かつ/あるいは、
横隔膜、胸筋、平滑筋、心筋などの機能も低く、
肺の動きが悪いと
肺のVEGF依存的な血管生成が不十分になり、
結果として持続的な肺高血圧症(PPHN)に繋がる可能性があります。
実際に横隔膜ヘルニアでPPHNの罹患する原因は
肺の血管生成の不全、未成熟にあると指摘されています(996)。
肺から血管を送る能力が低下すると
左心室が低形成となり、右心室が肥大する
とされています(997-1000)。
--
一般的に肺の形成不全は横隔膜ヘルニアが生じた
身体の同側に生じるとされています。
但し、Praveen Kumar Chandrasekharan(敬称略)らが
Fig.3に示すように(918)
異なる側の肺組織や血管径に影響を与えるかもしれません。
具体的には異なる側の肺機能に依存するようになるので
負担が増加しているサイドの肺に繋がる
肺動脈、肺静脈が通常よりも太くなる可能性です。
--
横隔膜ヘルニアはFETOによる治療を行ったとしても
高い割合で肺高血圧症が残存するので(890.891)、
血管形成の異常について考える事は重要です。
ただ、基本的には臓器侵出によって
肺成長の空間が制限されることは
ほぼ絶対的なリスク因子なので、
横隔膜の異形成、腹腔内の臓器の胸腔への侵出を
外科的な処置を含めて早い段階で解消して、
その後、できるだけ早くリカバリーステージに
誘導する事が重要であると考えられます。
先天性横隔膜ヘルニアではどのように血管の組織に影響を与えるか?
というのがまだはっきりとはわかっていません(1001)。
しかし、Nitrofenモデルという内皮細胞の機能不全のモデルが
提唱されています(参考文献(1001) Fig.3)。
このモデルでは
VEGF、BMP、Endoglin、FGF機能が抑制され、
PDGF、ICAM、VCAM機能が亢進しています。

VEGF(血管内皮増殖因子)
BMP(骨の形成に関わる機能)
Endoglin(血管生成に関わる機能)

PDGF(血管平滑筋細胞、繊維芽細胞増殖因子)
ICAM(細胞間接着分子)
VCAM(血管細胞接着分子)

従って、血管の中膜にある平滑筋や線維芽細胞、
細胞間の接着分子が過剰に働いていると考えられます。
これは血管の中膜が過形成される事を意味します。
一方で、内皮増殖因子や血管生成が弱くなっています。
PDGF、ICAMは一般的に動脈硬化を促進する働きがあります(1002)。
従って、肺動脈や肺静脈など中枢となる
重要な血管の柔軟性が損なわれる可能性があります。

--
(肺高血圧症の治療)
肺の機能を維持、回復させるための戦略は以下です。
但し、人への治療において確立されてないものも含まれます。
一方で、(将来的に検討されるものも含めて)
治療は最も重要なところです。
以前の記事では説明が不十分なので
一つ一つ詳しく調べて、情報提供したいと思います。
内容を精査していただき、活用していただければ幸いです。
-
①気道圧解放換気
(Airway pressure release ventilation:APRV)
間欠的、周期的に比較的低い陽圧状態で
持続的に通気を圧力を精密に制御して行う手法です(1003)。
以下、追記です。
Ehab G. Daoud(敬称略)がAPRVについて詳しく報告しています(1012)。
この報告を参照しますが、
一点、申し上げる必要があります。
それは、これは一般的なAPRVの情報であるという事です。
つまり、横隔膜ヘルニアを呈する新生児、小児に対して
特化したAPRVの情報ではないということです。
それを踏まえた上で詳述していきます。
--
少し背景的なところから考えていきます。
横隔膜ヘルニアでは片方の肺の大きさが著しく小さくなる
(低形成する)事が示されています。
肺胞の大きさ、能力はある程度決まっているので
肺全体の大きさが小さいという事は
肺胞の数が少ないという事です。
一つの肺胞で一回の呼吸で通気出来る量が
ある程度の範囲で決まっているとします。
また、横隔膜ヘルニアに罹患しているお子さん、
同じ年齢の健康なお子さんの
身体全体の酸素需要があまり変わらないとします。
そうすると1回の呼吸で取り込める量は
肺胞が少ないほうが明らかに少ないわけですから、
横隔膜ヘルニアに罹患している患児は
浅い呼吸を何度も繰り返しする必要があります。
そうすると呼吸をするたびに肺胞の上皮組織など
バリア組織は伸張、圧縮の機械的ストレスを受けることになります。
こうしたストレスが組織の健全性を悪化させます。
すでに肺の成長に異常が出ており、
さらに血管の筋肉などが硬くなっている可能性もあることから
こうした高頻度、高い周波数の運動は
患者さんにとってリスクが高いと考えられます。
この機械的ストレスに関しては
動物モデルで1回換気量が多い場合には
上述した組織の破壊のリスクは高いことが報告されています(1062)。
健康な人でも運動した時には
酸素需要が高くなり、自然と呼吸が速くなります。
これは神経系が関わっている可能性もあります(1071)。
その酸素需要に従って、異形成が生じている肺で
吸気をしたときには、気管支がどのように伸びているかに依りますが、
その分圧が均一になるかどうかはわかりません。
例えば、腹腔の臓器の胸腔への侵出で
左の肺が著しく小さくなっている場合、
好ましくは右の肺に多くの酸素が届いてほしいというのがあります。
なぜなら、同じ分圧で左と右に分かれると
左の肺の肺胞が少ないことから
1つの肺胞当たりの分圧が高まってしまいます。
それがHIPを上まわっていれば、
動物モデルで確認されたように肺の損傷に繋がる可能性があります。
いずれにしてもすでにある肺胞を有効活用したいという点で考えれば、
Continuous positive airway pressure(CPAP)も
選択の候補の一つになるかもしれません。
なぜなら、陽圧にすることで末梢の気道が開き、
それによって末梢の気道の閉栓が少なくなり、
結果として多くの肺胞に空気を届けられるようになるからで。
では、APRVのメリットは何なのか?
小谷透先生のレターを参照しながら考えます。
APRVの一つの違いは陽圧にする換気において
圧を開放するP lowを設けることにあります。
圧力を下げるときには物理的には空気が抜けるので
組織が圧縮されるようなイメージでとらえてます。
その範囲をできるだけ組織がそれに応じてストレッチする範囲
つまり、肺胞のボリュームが線形に変わる領域で
圧力を変化させる事にしています。
これがどのような意義があるのか?
ということです。
空気を入れ替えるという目的はあるかもしれません。
特に圧力を下げなくても
炭素、二酸化炭素の量はモニターすることで
調整することができるはずなので、
二酸化炭素を出すというよりも
閉じた系の中で空気に体内から様々な物質が漂う可能性があるので
それを一旦リフレッシュするという効果はあるかもしれません。
しかし、その場合、P lowにしたときに
外にそれが出なければいけません。
他には肺胞がストレッチすることで肺が収縮、伸張するので
その動きが肺にとってメリットがあるかもしれません。
肺が動くことで
セロトニン、血管生成因子を放出し、
健全な成長を促すとされているからです。
もう1つは自発呼吸がどのように医療的な意義を生むか?
これについてです。
APRVは呼吸をサポートするような圧力調整は行わないので
陽圧の状態で自発呼吸をすることになります。
その自発呼吸は横隔膜筋、胸筋などの運動に同期した形で
当然、実現されます。
横隔膜ヘルニアのお子さんにおいて
これがどのようなメリット生むか?です。
あるいは一般の肺に疾患を持つ患者さんに対してはどうか?
筋力と神経連携を維持するという意義はあるかもしれません。
また、肺が動くことで
セロトニン、血管生成因子を放出し、
健全な成長を促すとされています。
筋肉、神経系と自然な連携のもとに生じれば、
子どもの肺の成長にとって重要かもしれません。
基本的に自発呼吸が前提となっているので
浅い鎮静の状態で行う必要があります。
他方で
通常の人工呼吸器に比べて、
酸素供給量が目標の血中酸素飽和度と整合するかを示す
ventilation/ perfusion (V/ Q) matchingが高く、
またデッドスペースも小さくて済むと考えられています(1013-1017)。
デッドスペースが小さいことは
呼吸器系の流れが層流であり、
流体抵抗が少なく、
肺胞の酸素、二酸化炭素濃度を
機械によって調整しやすいことも示すと考えられるので
このV/Q整合度とデッドスペースは因子としては
絡んでいる、交絡していると推定します。
酸素に関する要因には従来の方法と差がなかった
という報告もありますが、
それでも従来の人工呼吸に比べて、
人工呼吸器に伴う有害事象は顕著に少なかったとされています(1018-1021)。
-
(血行動態への効果)(1012)
自発呼吸の間、胸腔内圧が減少しました。
結果、右心房内圧が減少しました。
静脈灌流が上昇し、
心臓の充満量を示すプリロード(preload)が改善しました。
結果、心拍出量が向上しました(1048)。
-
APRVとPCV(従圧式強制換気)を比較しました(1049)。
〇心係数(Cardiac index)(CI l/min/m 2 )
〇酸素運搬(Oxygen delivery)(DO2ml/min)
〇静脈酸素飽和度(Mixed venous oxygen saturation)(SVO2%)
〇尿排出量(Urine output)(ml/kg/h) 
APRVはPCVに比べて、これらが顕著に高いことが示されました。
〇昇圧剤、循環作動薬の使用
〇乳酸濃度(mmol/L) 
〇中心静脈圧(CVP)(mmHg) 
APRVはPCVに比べて、これらが顕著に低い事が示されました。
-
(領域毎の血流と臓器灌流)(1012)
急性肺障害(ALI)を持つ動物に対して
APRVは呼吸筋血液量はAPRVで改善しました(1050)。
人のケースでもAPRVはPCVに対して
尿排出量を増加させ、GFRを改善しました(1049)。
従って、腎機能にも影響があります。
-
(鎮静剤、神経筋遮断薬使用)(1012)
CMV(Continuous Mandatory Ventilation)に対して
APRVはより浅い鎮静で処置を行う事が出来きます。
(APRV:Ramsay score 2~3 for CMV:Ramsay score 4~5)
従来の人工呼吸方式に比べて、
APRVは70%神経筋遮断薬使用を減らす事ができ、
鎮静剤を40%減らす事ができます(1049,1051-1054)。
これらの結果は人工呼吸の期間や
ICUで治療を受ける期間を減らす事に繋がるかもしれません(1051,1055)。
-
(望ましいケース)(1012)
臨床、実験データに基づけば、
APRVは外科手術を受けた後のALI、ARDS、血管拡張不全。
これらを持つ患者さん対して望ましいとされています
(1049,1050,1056-1059)。
-
(禁忌)(1012)
APRVは自発呼吸を可能にするため低い鎮静レベルを必要とするため
患者さんが罹患している疾患の維持管理、治療、マネイジメントのために
「深い鎮静が必要な場合」には使用すべきではないとされています。
例えば、その疾患とは
頭蓋内圧の高まりを伴なう脳浮腫や
てんかん重積症(status epilepticus)などです。

閉塞性肺疾患(気管支喘息の悪化や慢性閉塞性肺疾患)の
患者におけるAPRVの使用に関するデータは現時点ではありません。
原理的に、短い開放時間は
(血管抵抗が高く)長い呼吸時間を必要とする
患者さんに対しては有益ではないとされています。
同じように
神経筋疾患の患者に対しても調べられていません、
-
(APRVの圧力、換気量の調整)(1012)
終末呼気圧を大気圧に対して陽圧にする
人工呼吸方法と一回換気量を6 ml/kg (※)と低く設定することは
肺に対しての呼吸時の単位時間当たりの
圧力変動を小さくすることができるため、
患者さんの一つ一つの肺胞を守ることにつながります。
実際に動物モデルでは一回換気量が高い場合では
(A)上皮、内皮組織の損傷、
(B)肺の炎症、
(C)肺拡張不全、
(D)低酸素血症
(E)炎症性物質の放出
これらを導いたことが報告されています(1062,1065-1070)。
一回換気量を従来の半分程度に下げる方式は、
ARDSを持つ患者さんの生存率、退院率を向上させる
ことにつながりました(1061,1062)。
(年齢の中央値は50歳程度です(1062)。)
(※)成人の安静時の一回換気量は6mL/kgが目安です。
正常値は7〜9mL/kg(約500mL)です(1060)。
それに対して、従来の人工呼吸では
一回換気量は10-15mL/kgでした(1062)。
-
圧力の設定値はEhab G. Daoud(敬称略)らが
Figure 2に示すように(1012)、
P highをHIP以下にP lowをLIP以上にします。
HIP:high inflection point (HIP) 
LIP:low inflection point (LIP)
このグラフを見るとわかるように
肺胞の容量(volume)と圧力の変化の割合が
HIP、LIPでおおよそ変曲点を迎えます。
つまりHIP以上の圧力では
それ以上に圧力を上げても肺胞は大きくなりません。
これは肺胞にある細胞がそれ以上弾性を持たない事を示し、
細胞への損傷のリスクが高まる事を示します。
同様にLIPでもそれ以下であれば、
肺胞はそれ以上に小さくなりません。
従って、肺胞が圧力に対してより無理なく敏感に容量を
変えられる範囲で、P high、P lowを設定し、
換気を行うということです。
--
(A)患者さん酸素飽和度が改善しないとき
(A-1)P high T high もしくは両方を上昇します。
但し、組織の破壊のリスクがあるため慎重な調整が必要である
と考えられます。
(A-2)
患者のポジションを腹臥位(うつ伏せに変える)(1048)
-
(B)換気が不十分な時
(B-1)P high(圧力)を上げ、T high(時間)を下げます。
分時換気量を上昇させます。
平均の気道圧を安定させます。
(B-2)T lowを0.05-0.1秒増加させます。
(B-3)鎮静を下げ、患者さんの自発呼吸による
分時換気量への貢献を上昇させます(1048)。
--
(結論)(1012)
APRVは単純、安全、効果的な通気方法です。
しかしながら、他の通気方法に対して
優れているという信頼できる証拠はまだありません。
従って、その信頼性を上げるために
APRVと他の通気方法と比較するための
大規模な臨床試験が必要であるとされています。
現在ではALI、ARDSを持つ全ての患者さんに対して
APRVは推奨されていません。
APRVを選択する場合は、
注意深く患者さんの状態を見極め、
専門家、呼吸療法士と相談することが必要かもしれません。
また、ここからが重要です。
APRVは新生児や小児のARDSの治療に有効な戦略ですが、
APRVを小児のARDSの第一選択の換気戦略として使用すると
死亡率が高くなるという報告があります(1063)。
但し、マルチセンターで大規模で行わないと
本当にAPRVが新生児や小児のARDSに呼吸サポートを行う場合
不適であるか、適しているかの正確な判断は
できないと論説されています(1064)。
-
②神経調節補助換気(Neurally adjusted ventilatory assist)
(要約、背景)(1087,1092)
神経調節補助換気(NAVA)は、横隔膜電気的活動を利用し、
呼吸補助のタイミングや呼吸圧、換気量を調整する人工呼吸器モードです。
Monika Gupta(敬称略)らがFig.1に示すように
子どもを含めた人の横隔膜は神経支配(Innervation)を受けています(1088)。
横隔膜筋に限らず、骨格筋は神経支配を受けています。
神経細胞が持久力が高い赤筋線維と瞬発力が高い白筋線維に
それぞれ別の神経細胞が繋がっています。
若い時にはその神経のつながりが密であり、
持久力と瞬発力を生む筋肉同士の神経連携もあります。
こうした神経連携、神経連結は高齢になると失われます。
年齢に応じて逆らう事のできない機能喪失がありますが、
若い人でもその筋肉を使わない事によって運動機能が低下します。
逆にいえば、定期的に適度に筋肉を使う、運動する事は
筋力だけではなく、それを制御して動かす神経系の強化
にもつながると考えられます。
(参考文献(1089) Figure 1参照)
例えば、ECMOなどを装着して長期入院していると
回復直後は食事すら自分でできなくなることもあります。
この事は、その筋肉を定期的に使う事の重要性を示しています。
一方で、使い過ぎは神経を過剰に活性化させ、
けいれんなどにつながる可能性もあるかもしれません。
子どもにおいて横隔膜ヘルニアが生じ、
人工呼吸を行う場合、横隔膜筋を使わない事による
筋力低下だけではなく、神経連携の低下も懸念されます。
子どもの横隔膜ヘルニアや肺高血圧症の治療においては
呼吸能力が衰えている場合には、挿管が必要になると考えられますが、
できるだけその期間は短くし、
お子さんの自律的な呼吸を支援し、自発的に出来るように促したい
という確固たる需要があります。
呼吸は必須の運動である事は自明ですが、
それに関わる筋肉と神経の連携を適切に発達させる、
維持させる事は特に発達期においては非常に重要である
という理解をしています。
このNAVAは横隔膜筋に電極を装着し、電気信号を計測する事で
そのお子さんが自然に呼吸するリズムを把握します。
人工呼吸器はそのリズムに合わせて呼吸補助をします。
つまり、患児の身体、脳の自然な呼吸のリズムと
機械である人工呼吸器の同期を改善するということです。
上で説明した入院に伴い筋力が低下する事は
「廃用性」という定義の一部になります。
この廃用性症候群は筋肉だけではなく、骨の密度も低下し
運動機能が著しく低下することです(1090)。
このような廃用性症候群は横隔膜筋に対しても生じます。
NAVAはその低下を予防することも目的としています。
人工呼吸器管理に関連する肺損傷を軽減し、
人工呼吸管理期間が短縮できる可能性があるとされています。
このNAVAのコンセプトは1999年に
Christer Sinderby(敬称略)らによって発表されています(1091)
この背景には自然の呼吸サイクルが機械と同期していないと
不快感だけではなく、肺胞でのガス交換効率が低下すること。
あるいは心臓血管の機能不全にもつながるとされているからです(1091,1093)。
FDAはNAVAの使用は500gの低体重の赤ちゃんを含めて
全ての患者さんに対する使用を承認しています(1092)。
日本においても2012年11月7日の時点で
小児・新生児から成人まで幅広く使用できる
人工呼吸器モードとして承認されています。
--
(内容抜粋、追記)(1087)
人工呼吸は集中治療を必要とする患者の約1/3に対して
施工されています。
速やかにガス交換を改善し、呼吸筋の疲労を軽減する事ができる
救命処置であるとされています。
人工呼吸器を必要とする患者は呼吸機能が当然低下しています。
CTで見た時に肺の多くの部分が白色化している状態で
その治療として利用されることがあります。
白色化とは組織の硬化ですから、
肺の構造単位である葉、葉の中に複数存在する肺胞の多くが
その組織の柔軟性を失っているということです。
これにより1回換気でのガス交換量が低下すると考えられます。
一方で、身体の方は必要な酸素飽和度を維持するため、
補助的な対策を自然にとろうとします。
その結果、呼吸が浅くなり、回数が増え、
それによって呼吸筋を動かす機会が増えます。
それが結果として呼吸筋の疲労につながると考えられます。
人工呼吸を行う場合、自発呼吸との同期と呼吸努力について
考慮する必要があるとされています。
上述したように非同期の状態であると
不快感から患者さんの心の状態(不安など)に関わる可能性があります。
非同期は実際に
(1)離脱遅延(1125)
(2)人工呼吸中の睡眠障害(1126)
(3)気管切開率の増加(1127) 
これらとの関連が報告されています。
さらに、
呼吸の基本的な目的である換気と心臓血管の機能にも
影響を与える可能性があります(1091,1093)。
また、呼吸努力を除外すると
廃用性呼吸筋症候群にかかるリスクも増える為
適度に患者の呼吸努力を残す必要もあると考えられます。
これらを考慮するにあたり、ポイントがあります。
(1)自発吸気と強制換気のタイミング
(2)人工呼吸器の1回換気量(供給量)と患者の呼吸努力の関係
(3)呼気相での肺虚脱を防止するための圧、つまり終末呼気陽圧の必要性。
肺虚脱とは肺胞の圧変化の機能が失われることであります。
終末呼気陽圧にすることで抹消気道を含めて
呼吸器を開放することができることと
弱った組織の急激な圧変化による損傷を減らす事ができると考えられます。
ここで①気道圧解放換気の節で述べたことを再度記載します。
圧力の設定値はEhab G. Daoud(敬称略)らが
Figure 2に示すように(1012)、
P highをHIP以下にP lowをLIP以上にします。
HIP:high inflection point (HIP) 
LIP:low inflection point (LIP)
このグラフを見るとわかるように
肺胞の容量(volume)と圧力の変化の割合が
HIP、LIPでおおよそ変曲点を迎えます。
つまり、適切な圧力範囲にして、
有効に肺胞容量を変化させる必要があります。
一方で、
人工呼吸器による肺胞の機能障害の一つである無気肺に加えて
術後には低酸素血症や肺炎(1095)など合併症が起こることもあります(1094)。
従って、できるだけ補助する割合を小さくして、
気管挿管の時間をできるだけ短くしたいというのが
集中治療の医療スタッフにはあると拝察します。
--
この神経信号と同期させる神経調節補助換気は
カナダのChrister Sinderby(敬称略)らによって
1999年に発表されています(1091)。
前述したようにその背景にあったのが「不快感」です。
実際に人工呼吸が行われている約25%の患者が
呼気トリガーや呼気終了の非同期発生、
過剰な補助圧や不適切な呼気時間に苦痛を感じている
といわれています(1096)。
このような非同期は不快感以外には不安、疲労感にも
つながるといわれています
--
圧変化の感知(圧トリガー)を用いて患者自身の
呼吸を感知するシステムを利用した人工呼吸器では
呼吸動力を正しく把握し定量化する事は出来ないとされています。
これが
(1)高すぎる呼吸器設定
(2)過度の鎮静
これらを導き、廃用性(呼吸筋)症候群のリスクが上がります。
(1)高すぎる呼吸器の設定、呼気末期陽圧は
胸腔内圧が上昇するため、全身から心臓に戻る
静脈還流が圧力に押されて駆動されにくいため減少します。
それにより右心室の血液量が減少するので
血圧低下のリスクも高まります。
(2)過度な鎮静は自発的な呼吸を妨げる可能性があります。
上述したように正常な肺胞の数が少なく、
浅い呼吸を繰り返さないといけない場合は
呼吸筋の疲労、肥大の懸念がありますが、
過度に人工呼吸器に依存すると今度は萎縮の懸念が生じます。
Sanford Levine(敬称略)らの組織学的な事も含めた臨床研究では
最小で18時間の横隔膜の不活性(complete diaphragm inactivity)は
横隔膜の筋線維の萎縮が生じた事が示されています。
(参考文献(1098) Figure 1)
人工呼吸中に横隔膜活動性があって、自発呼吸が生じている場合
人工呼吸器管理短縮(4.5日 vs 6日)と関連があります(1121)。
人工呼吸器患者に合併する廃用性横隔膜機能低下
(ventilator-induced diaphragm dysfunction:VIDD)。
これを予防する観点でも、期間短縮は大きな意義があります(1122)。
疾患の特異性や重症度によって
実際に気道を通過する換気量と本来神経学的に
横隔膜の運動を通じて調整された換気量が一致しない場合があります。
このような事が存在するので
その差分をNAVAによって埋める余地があるとも考えられます。
このNAVAのメリットの一つは電気信号を計測するので、
横隔膜電気的活動の有無を確認できます。
それによって鎮静を深度、換気量を調整することができます。
一般的に鎮静は脳に作用するので
鎮静と横隔膜電気的活動は連動すると考えられます(1123)。
従って、横隔膜電気的活動が弱ければ、
鎮静の深度を少し下げて調整するなどが行われるとされています。
実際にそうした変更が適切であるかを
変更後の電気信号から判断する事も可能です(1124)。
人工呼吸を受けている重症患者に対しての
適正なNAVAレベルの設定方法として
タイトレーション(Titration)の有用性が報告されています(1128)。
これは適切な設定まで急激に空気圧と1回換気量を上げるのではなく、
徐々にそれらの設定値を上げていく方法です。
同様にNAVAレベルを横隔膜の電気的活動(の60%)に合わせて、
漸減させると、呼吸機能や血液ガスの変化することなく
抜管することができたと報告されています(1129)。
-
上述したようにNAVAは小児、新生児にも適用可能です。
1500g未満の早産児において
NAVAによる換気は一般的な人工呼吸器モードと比較して
必要な酸素濃度や供給圧が有意に低値でした。
また、血液のガス調整も改善されました(1130)。
しかしながら、2023年に発表された
子どもに対するNAVA適用の総括によると(1131)、
横隔膜の電気信号が弱く、読み取りの正確性に問題が出る事と
(insufficient triggering of electrical 
activity of the diaphragm(EAdi))
無呼吸が頻繁に生じると言われています。
これを防ぐためには電気信号の読み取りの正確性や
頻繁に読み取り、それを含めて呼吸を確認し、
適切にNAVAレベルを調整する必要があるとされています(1131)。
実際にNAVA使用上の注意点(1087)でも
横隔膜の電気的活動を得る事が必須であると明記されています。
その背景には電気信号を正確に検出する重要性があります。
--
(①と②の比較、考察)監修要
ここまで①気道圧解放換気と②神経調節補助換気について
学習、調査、考察してきました。
横隔膜ヘルニアを呈する新生児を含む子どもに対して
どちらの換気方法を選択するか?
これらの換気方法を列挙するだけではなくて
それぞれの特徴を掴み、総合的に考え、
どういう状況においてどちらが好ましいか?
という事を考える必要があります。
ここの考えを示さないとこの記事の価値は上がっていかない
という側面もあります。
①気道圧解放換気は上述したように
浅い鎮静(Ramsay score 2~3)で行う必要があります。
なぜなら、自発呼吸が必須となっているからです。
その自発呼吸は神経系と連動した自然な呼吸と言えます。
また陽圧にすることで肺を有効に利用することもできるし、
圧を定期的に開放する事で組織を制御しながら
動性に富んだ様式で動かし、細胞を刺激することもできます。
それは肺の成長を促す可能性もあります。
それに対して
②神経調節補助換気は人工呼吸器でパルスで
1回換気量を定めて神経のリズムに合わせて
呼吸器の通気周期を調整する必要があります。
おそらく鎮静レベルは従来の通気と同じで
①気道圧解放換気よりも低いレベルで行われます。
従って、判断する基準としては
お子さんに対してどのような鎮静レベルで
通気を行うのがいいか?というのが一つあると考えました。
脳に障害がある場合には鎮静レベルを下げる必要もあり
その場合は①は適さないと考えられます。
但し、過剰な鎮静を避けるという点では
①気道圧解放換気と②神経調節補助換気の
コンセプトは一致します。
一方で、②は消化器にもチューブを通すため
(参考文献(1087) Fig.2)
呼吸器、消化器共に管が入っている状態なので
患者さんへの負担は大きい状況です。
子どもの場合はどれくらいの圧力レンジにするのがいいか?
組織が小さいために許容範囲が狭く難しい可能性があります。
基本的に肺を最大限生かすという意味では
陽圧で多くの肺胞を開いて自発呼吸を促す換気が好ましい
というような視点があります。
ただ、肺胞はAzza Sajid Alkinany(敬称略)が
P.192-Figure(9.7)に示すように(1099)
肺胞の容積変化があるときにガス交換が行われます。
従って、陽圧で一定にしていると
肺胞自体は開きますが、容積が一定なので
ガスを交換するための駆動力は生じません。
従って、お子さん自身が自発的に呼吸を駆動する必要があります。
この時、肺の状態が著しく悪ければ、
陽圧にして開くときに線維化していて弾性が低く、
組織が壊れる可能性もあります。
また、呼吸の能力も低下しているため
①気道圧解放換気は患者さんへの負担が大きい可能性もあります。
そうした場合は、
ある程度、容積変化を促す従来の換気で
かつ、神経信号と同期している②神経調節補助換気が
好ましいかもしれません。
--
③肺動脈血管拡張剤
血管拡張剤は肺高血圧症の患者さんに広く使われます。
6分間歩行テストにおいても改善が見られ、
身体活動に対する心肺機能の改善など
周辺的な効果も期待できるかもしれません(1139)。
-
(1)Cinaciguat
Nitric oxide-independent soluble guanylate cyclase (sGC) activator
糸球体ろ過量を維持しながら血管拡張を行います(1132)。
組織の異常肥大や線維化を防ぎます(1132)。
-
(2)Intravenous bosentan, 
Dual endothelin receptor antagonist。
肺高血圧症の治療に使われます(class III to IV)(1133)。
抗線維化の特性があります(1133)。
上述したエンドセリン受容体は血管収縮、拡張に関与しています(1134)。
また、平滑筋細胞の増殖を刺激します。
-
(3)Rho-kinase inhibitors, 
Rho-kinaseは血管の平滑筋細胞の過剰な収縮、
血管のリモデリングを引き起こします。
ミオシンの脱リン酸化を抑制することで生じます。
また、細胞骨格の形成、細胞の接着、移動、細胞質分裂。
これらに関わり、慢性的な酸欠状態になります(1135)。
この酵素を抑制する事で肺高血圧症を治療します。
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(4)Peroxisome proliferator-activated receptor-γ (PPAR)agonists
PPAR-γの活性化はインスリン感受性を上げ、
グルコース代謝を強化します(1136)。
この亢進薬は抗炎症性、アポトーシス活性を高め、
肺高血圧症の進行を抑える可能性があります(1137)。
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(5)プロスタサイクリン経路
プロスタサイクリンの受容体であるDP1、EP2、EP4、IPは
血管収縮や細胞外マトリックス、血管のリモデリングなどを通じて
肺高血圧症の症状を改善させる可能性があります。
(参考文献(1138) Fig.3)
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④血行力学的補助(hemodynamic support)
(1)アルギニン(Arginine) 
アルギニンは多数の生物学的プロセスに関与するアミノ酸です。
その機能は
タンパク質の合成・宿主免疫反応誘導
尿素サイクル・NO産生
これらです(1140)。
NO産生の機序は血圧の調整と関わり、
肺高血圧症の治療と関連する部分であると考えられます(1141)。
実際に肺高血圧症の患者さんでは
アルギナーゼ活性が上昇した後の
アルギニン利用効率が低いことが示されています。
それが上述する血管拡張作用のある一酸化窒素(NO)の
産生を欠乏させます(1141)。
但し、アルギニンを肺高血圧症の人に投与する効果は
人では少なくとも十分には確認されていません(1142-1144)。
また、必ずしも良好な結果は得られてません(1143)。
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(2)バソプレッシン(vasopressin)
バソプレッシンは血液の細胞の水分量の指標である
tonicityを調整する働きがあるため(1149)、
血液の基本的な特性を正常化させる働きがあると考えられます。
血圧が高い状態では血液の水分に対する
細胞、タンパク質、脂質などの溶質が高まっていて、
腎臓から溶質フリーの水が多く血中に戻るように
バソプレッシンで調整されるため、
血液の溶質と溶媒(水)のバランスが正常化されます。
このバソプレッシンは肺動脈圧よりも収縮期血圧を上昇させ
冠動脈の灌流を維持する働きがあります(1145-1147)。
肺高血圧のマウスでバソプレッシンは
血行力学的補助剤として良い結果が得られ、
血管の回復が促されました(1148)。臨床報告は見当たりません。
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⑤一酸化窒素形成不足を補う
特に肺に異常があり低酸素状態になるとNO(一酸化窒素)
の生成が抑制されます(1004)。
この一酸化窒素は血管を柔らかくするのに必要な物質です。
従って、これが不足する事によって血管組織が硬化して
高血圧を助長してしまう可能性があります。
従って、これを形成するための上流の機序として
必要な物質であるL-citrullineを投与します。
また吸入式の直接呼吸器に一酸化窒素を届ける方式において
数十人の新生児に対して医療介入を行ったところ
血中の酸素濃度が顕著に増加したことが示されています
(参考文献(1005) Figure.1)
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⑥エンドセリン受容体上昇を抑えるaAA
この受容体上昇は
先天性横隔膜ヘルニアで高まる事が知られています(1006)。
このエンドセリン受容体は
血管の組織の一部で血液を送り出すために必要な
伸張作用を担う平滑筋の成長を阻害する働きがあります。
従って、この受容体を抑制するための遮断薬が
治療の候補の一つとなります。
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⑦Rho-kinase(ROCK)を抑える
筋肉の緊張状態や反応性に関わる生理機序です。
これが高血圧の原因となることがあります(1007-1011)。
従って、この機序を抑える働きのある薬を投与します。
例えば、②で示したPPARγアゴニストはこの働きを弱めることが
知られています(1004)。
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⑧cGMP生成を促す
血管の平滑筋の伸張の為にはcGMP信号が必要です。
上述した②の血管拡張剤ままであるCinaciguatは
このcGMP生成を促すことが知られています。

//CDHの肺高血圧症圧//
肺の異型性はその領域における血管数が減少しやすいことが
原因です。障害を受けたないひ細胞依存、また血管亜拡張、
血管収縮、この機能は横隔膜ヘルニアの重篤を決める原因です。
肺の血管が一部欠失している場合、重篤かしやすいとされています。


(参考文献リンク)  

 
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